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特許7436182地中構造物の設計方法、地中構造物の施工方法および地中構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】地中構造物の設計方法、地中構造物の施工方法および地中構造物
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/38 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
E02D5/38
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019205917
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021080628
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】大高 範寛
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛男
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-266793(JP,A)
【文献】特開昭58-195692(JP,A)
【文献】実開昭58-134485(JP,U)
【文献】特開昭62-017295(JP,A)
【文献】特開2000-087348(JP,A)
【文献】特開平11-350867(JP,A)
【文献】特開2019-124090(JP,A)
【文献】実開平04-112987(JP,U)
【文献】実開昭59-056295(JP,U)
【文献】特開平10-183643(JP,A)
【文献】特開平10-299377(JP,A)
【文献】特開平02-153110(JP,A)
【文献】特開2020-105806(JP,A)
【文献】特開2004-270245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削して形成された立坑の壁面に沿って設置される土留部材と、前記土留部材の内側に充填される内側固化材料と、前記土留部材と前記立坑の壁面との間に充填される外側固化材料とを含む地中構造物の設計方法において、
前記内側固化材料および前記外側固化材料によって形成される構造体の補強部材として前記土留部材を考慮し、
前記土留部材は、開口部がない波形断面を有する本体面を含み、前記外側固化材料は前記本体面と前記立坑の壁面との間に充填され、
前記外側固化材料の強度は前記内側固化材料の強度と同等以上であり、
前記補強部材として少なくとも前記土留部材の前記本体面を考慮する、地中構造物の設計方法。
【請求項2】
前記土留部材は、前記本体面の端部に形成されるフランジと、前記本体面と前記フランジとの間で前記本体面の両側に形成される隅肉溶接部とをさらに含む、請求項1に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項3】
前記土留部材は、前記本体面の端部に形成されるフランジと、前記本体面と前記フランジとの間に形成され、板面が前記本体面および前記フランジに交差するリブとをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項4】
前記土留部材は、コルゲートパイプである、請求項1に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項5】
前記補強部材として、前記土留部材と、前記内側固化材料に埋設される鉄筋とを考慮し、前記補強部材として前記土留部材を考慮することによって前記鉄筋の配筋量を減らすか、または前記鉄筋を省略する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項6】
前記鉄筋は、前記立坑の深さ方向に延びる主筋と、前記立坑の周方向に延びるフープ筋からなり、前記補強部材として前記土留部材を考慮することによって前記フープ筋の配筋量を減らすか、または前記フープ筋を省略する、請求項5に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項7】
複数の前記土留部材が前記立坑の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成され、
前記複数の土留部材は、前記深さ方向または前記周方向のいずれかで千鳥配置される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の地中構造物の設計方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の地中構造物の設計方法を用いて設計された地中構造物。
【請求項9】
地盤を掘削して立坑を形成する掘削工程と、
前記立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、
前記土留部材と前記立坑の壁面との間に外側固化材料を充填する外側充填工程と、
前記土留部材の内側に内側固化材料を充填する内側充填工程と
を含み、
前記土留部材の内側に、前記内側固化材料に埋設される鉄筋を配置する配筋工程を含まず、
前記土留部材は、開口部がない波形断面を有する本体面を含み、前記外側固化材料は前記本体面と前記立坑の壁面との間に充填され、
前記外側固化材料の強度は前記内側固化材料の強度と同等以上であり、
前記内側固化材料および前記外側固化材料によって形成される構造体の補強部材として少なくとも前記土留部材の前記本体面を考慮する、地中構造物の施工方法。
【請求項10】
前記土留部材は、前記本体面の端部に形成されるフランジと、前記本体面と前記フランジとの間で前記本体面の両側に形成される隅肉溶接部とをさらに含む、請求項9に記載の地中構造物の施工方法。
【請求項11】
前記土留部材は、前記本体面の端部に形成されるフランジと、前記本体面と前記フランジとの間に形成され、板面が前記本体面および前記フランジに交差するリブとをさらに含む、請求項9または請求項10に記載の地中構造物の施工方法。
【請求項12】
前記土留部材は、コルゲートパイプである、請求項9に記載の地中構造物の施工方法。
【請求項13】
地盤を掘削して立坑を形成する掘削工程と、
前記立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、
前記土留部材と前記立坑の壁面との間に外側固化材料を充填する外側充填工程と、
前記土留部材の内側に内側固化材料を充填する内側充填工程と
を含み、
複数の前記土留部材が前記立坑の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成され、
前記土留部材設置工程は、前記複数の土留部材を前記深さ方向または前記周方向のいずれかで千鳥配置する工程を含み、
前記土留部材は、開口部がない波形断面を有する本体面を含み、前記外側固化材料は前記本体面と前記立坑の壁面との間に充填され、
前記外側固化材料の強度は前記内側固化材料の強度と同等以上であり、
前記内側固化材料および前記外側固化材料によって形成される構造体の補強部材として少なくとも前記土留部材の前記本体面を考慮する、地中構造物の施工方法。
【請求項14】
前記土留部材の内側に、前記内側固化材料に埋設される鉄筋を配置する配筋工程をさらに含み、
前記配筋工程は、前記深さ方向に延びる主筋を配置する工程含み、前記周方向に延びるフープ筋を配置する工程を含まない、請求項13に記載の地中構造物の施工方法。
【請求項15】
前記外側充填工程は、
前記立坑の壁面に第1の固化材料を吹き付ける吹付工程と、
前記土留部材と前記第1の固化材料との間に第2の固化材料を流し込む流し込み工程と
を含む、請求項9から請求項14のいずれか1項に記載の地中構造物の施工方法。
【請求項16】
請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の地中構造物の施工方法を用いて施工された地中構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物の設計方法、地中構造物の施工方法および地中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
深礎基礎は、一般に、地盤を掘削しながらライナープレートの左右ならびに上下の縁端を順次接続する手順を所定深度まで繰り返すことで、立坑の内側に土留壁を構築し、土留壁の内側に鉄筋を建て込み、さらにコンクリートを打設することによって施工される。このような深礎基礎に関する従来技術の例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された技術では、スペースホルダーをライナープレートに固定し、スペースホルダーにガイドバーを介して取り付けられるブラケットにフープ筋を載置し、ブラケットとフープ筋との交点を針金で緊縛し、さらにフープ筋の内側に主鉄筋を建て込み、主鉄筋とフープ筋との交点を針金で緊縛することによって、深礎基礎におけるコンクリート打設前の鉄筋の建て込み工程が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3158383号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、鉄筋を建て込むためにスペースホルダー、ガイドバー、およびブラケットなどの部材が必要であり、部材のコストが上昇するのに加えて、鉄筋の建て込み前に上記の部材を配置する工程によって工期が長くなってしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、土留部材を有する地中構造物において、鉄筋の配筋量を減らす、または鉄筋を省略することによって、配筋工程にかかるコストの節減および工期の短縮を可能にする地中構造物の設計方法、地中構造物の施工方法および地中構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]地盤を掘削して形成された立坑の壁面に沿って設置される土留部材と、土留部材の内側に充填される内側固化材料と、土留部材と立坑の壁面との間に充填される外側固化材料とを含む地中構造物の設計方法において、内側固化材料および外側固化材料によって形成される構造体の補強部材として土留部材を考慮する、地中構造物の設計方法。
[2]補強部材として、土留部材と、内側固化材料に埋設される鉄筋とを考慮し、補強部材として土留部材を考慮することによって鉄筋の配筋量を減らすか、または前記鉄筋を省略する、[1]に記載の地中構造物の設計方法。
[3]鉄筋は、立坑の深さ方向に延びる主筋と、立坑の周方向に延びるフープ筋からなり、補強部材として土留部材を考慮することによってフープ筋の配筋量を減らすか、または前記フープ筋を省略する、[2]に記載の地中構造物の設計方法。
[4]土留部材の本体面は、波形断面を有する、[1]から[3]のいずれか1項に記載の地中構造物の設計方法。
[5]複数の土留部材が立坑の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成され、複数の土留部材は、深さ方向または周方向のいずれかで千鳥配置される、[1]から[4]のいずれか1項に記載の地中構造物の設計方法。
[6]地盤を掘削して立坑を形成する掘削工程と、立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、土留部材と立坑の壁面との間に外側固化材料を充填する外側充填工程と、土留部材の内側に内側固化材料を充填する内側充填工程とを含み、土留部材の内側に、内側固化材料に埋設される鉄筋を配置する配筋工程を含まない、地中構造物の施工方法。
[7]地盤を掘削して立坑を形成する掘削工程と、立坑の壁面に沿って土留部材を設置する土留部材設置工程と、土留部材と立坑の壁面との間に外側固化材料を充填する外側充填工程と、土留部材の内側に内側固化材料を充填する内側充填工程とを含み、複数の土留部材が立坑の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成され、土留部材設置工程は、複数の土留部材を深さ方向または周方向のいずれかで千鳥配置する工程を含む、地中構造物の施工方法。
[8]土留部材の内側に、内側固化材料に埋設される鉄筋を配置する配筋工程をさらに含み、配筋工程は、深さ方向に延びる主筋を配置する工程含み、周方向に延びるフープ筋を配置する工程を含まない、[7]に記載の地中構造物の施工方法。
[9]外側充填工程は、立坑の壁面に第1の固化材料を吹き付ける吹付工程と、土留部材と第1の固化材料との間に第2の固化材料を流し込む流し込み工程とを含む、[6]から[8]のいずれか1項に記載の地中構造物の施工方法。
[10]地盤を掘削して形成された立坑の内部に設置された土留部材と、土留部材と立坑の壁面との間に充填される外側固化材料と、土留部材の内側に充填される内側固化材料とを含み、内側固化材料に埋設される鉄筋を含まない、地中構造物。
[11]地盤を掘削して形成された立坑の内部に設置された土留部材と、土留部材と立坑の壁面との間に充填される外側固化材料と、土留部材の内側に充填される内側固化材料と、を含み、複数の土留部材が立坑の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成され、複数の土留部材は、深さ方向または周方向のいずれかで千鳥配置される、地中構造物。
[12]内側固化材料に埋設される鉄筋をさらに含み、鉄筋は、深さ方向に延びる主筋を含み、周方向に延びるフープ筋を含まない、[11]に記載の地中構造物。
[13]土留部材は、波形断面を有する本体面と、本体面の端部に形成されるフランジとを有する、[10]から[12]のいずれか1項に記載の地中構造物。
[14]土留部材は、本体面とフランジとの間に形成される溶接部またはリブをさらに含む、[13]に記載の地中構造物。
[15]内側固化材料は、中心に形成される内部空間と土留部材との間に充填される、[10]から[14]のいずれか1項に記載の地中構造物。
[16]外側固化材料は、立坑の壁面に吹き付けられた第1の固化材料と、第1の固化材料と土留部材との間に流し込まれた第2の固化材料とを含む、[10]から[15]のいずれか1項に記載の地中構造物。
[17]土留部材は、降伏点が205N/mmを超える鋼材で形成される、[10]から[16]のいずれか1項に記載の地中構造物。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、土留部材を有する地中構造物において、鉄筋の配筋量を減らす、または鉄筋を省略することによって、配筋工程にかかるコストの節減および工期の短縮が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る深礎基礎の断面図である
図2】本発明の第2の実施形態に係る深礎基礎の断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る深礎基礎の断面図である。
図4】土留部材の周方向の千鳥配置の例を示す図である。
図5】土留部材の深さ方向の千鳥配置の例を示す図である。
図6】土留部材に隅肉溶接を追加する例を示す図である。
図7図6のVII-VII線断面図である。
図8】土留部材にリブを追加する例を示す図である。
図9図8のIX-IX線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る深礎基礎の断面図である。図示されているように、地中構造物1は、地盤2を掘削して形成された立坑3の壁面3Wに沿って設置される土留部材4と、土留部材4の内側に充填される内側固化材料5と、土留部材4と立坑3の壁面3Wとの間に充填される外側固化材料6と、内側固化材料5に埋設される鉄筋7とを含む。図示された例において、外側固化材料6は、立坑3の壁面3Wへの吹き付けによって施工される第1の固化材料6Aと、第1の固化材料6Aと土留部材4との間への流し込みによって施工される第2の固化材料6Bとを含む。内側固化材料5および外側固化材料6は、例えばコンクリートまたはモルタルである。鉄筋7は、立坑3の深さ方向に延びる主筋7Aと、立坑3の周方向に延びるフープ筋7Bとを含む。地中構造物1は、後述するような第2の固化材料6Bの流し込みの際に使用される型枠部材8をさらに含んでもよい。
【0012】
土留部材4は、本体面41と、本体面41の端部に形成されるフランジ42とを有する。複数の土留部材4が立坑3の深さ方向および立坑3の周方向に配列され、フランジ42でボルトなどを用いて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成される。図示された例では、深さ方向に4段の土留部材4が連結されている。土留部材4によって構成される土留壁の横断面形状は、例えば円形、長円形、矩形、馬蹄形などがありうる。土留部材4として、例えば本体面41が波型断面を有するライナープレートを用いることができるが、ライナープレートと呼ばれるものの他にも、同様の機能を有する各種の部材を土留部材4として使用することができる。
【0013】
本実施形態では、土留部材4の内側に充填される内側固化材料5が、土留部材4の本体面41の波形断面、および土留部材4の内側に突出するように配置されるフランジ42に定着する。土留部材4の外側に充填される外側固化材料6も、土留部材4の本体面41の波型断面に定着する。さらに、上記のように土留部材4は立坑3の深さ方向および周方向に互いに連結されることによって一体的な土留壁を構成する。従って、本実施形態では、深さ方向および周方向のそれぞれについて、土留部材4が内側固化材料5および外側固化材料6によって形成される構造体の補強部材として機能する。
【0014】
従って、本実施形態では、地中構造物1の設計にあたり、補強部材として土留部材4および鉄筋7の両方を考慮することによって鉄筋7の配筋量を減らすことができる。具体的には、土留部材4を主な補強部材として考慮し、鋼材量の不足分を鉄筋7で補う設計が考えられる。従って、鉄筋7に含まれる主筋7Aおよびフープ筋7Bのそれぞれの総断面積(配置数×断面積)は、土留部材4が補強部材として考慮されない場合に比べて小さくなる。この結果、フープ筋7Bがすべて省略されて主筋7Aだけが配置されてもよい。鉄筋7の配筋量が減ることによって、配筋工程にかかっていたコストの節減および工期の短縮が可能になる。
【0015】
土留部材4を上記のような補強部材として効果的に機能させるために、土留部材4を降伏点が205N/mmを超える鋼材、具体的には例えばSS400材(降伏点245N/mm)やSM490材(降伏点325N/mm)で形成してもよい。
【0016】
一方、上述のように、外側固化材料6は、吹き付けによって施工される第1の固化材料6Aと、流し込みによって施工される第2の固化材料6Bとを含む。第1の固化材料6Aは、吹き付け施工に適した速硬化性のコンクリートまたはモルタルであり、例えば急結剤を固化材料1mあたり30kg~60kg程度混入したコンクリートまたはモルタルである。一方、第2の固化材料6Bは、流し込み施工に適した高流動性のコンクリートまたはモルタルである。第2の固化材料6Bは土留部材4の裏側の狭い空間に流し込まれるため、バイブレータによる加振が困難な状況でも十分な充填性を発揮できる程度の流動性を有することが好ましい。例えば、第2の固化材料6Bは、スランプフロー値が30cm以上であり、高性能AE減水剤を固化材料1mあたり3kg以上混入したコンクリートまたはモルタルであってもよい。第1の固化材、第2の固化材ともに、硬化後は土留部材4の内側に打設される内側固化材料5と同等以上の強度、具体的には例えば材齢28日圧縮強度で24N/mm以上を発現することが好ましい。
【0017】
本実施形態では、このように外側固化材料6のうち第1の固化材料6Aを先行して立坑3の壁面3Wに吹き付けることによって、外側固化材料6の施工中に壁面3Wが崩れて土留部材4と壁面3Wとの距離が設計よりも近くなったり、土留部材4が壁面3Wに直に接したりすることを防止できる。土留部材4と壁面3Wとの間の距離は、第2の固化材料6Bを流し込む前に土留部材4の上端もしくは下端から、または土留部材4に形成された観察用の開口から目視確認することができる。これによって、外側固化材料6の充填によって土留部材4と壁面3Wとの間に適切なかぶり厚さを確保することができ、上述のように土留部材4を補強部材として考慮することができる。
【0018】
ここで、第1の固化材料6Aを吹き付ける工程の後、比較的短い時間のうちに、第2の固化材料6Bを流し込む工程が実施されたような場合、地中構造物1の完成後において第1の固化材料6Aと第2の固化材料6Bとの間に継目は残りにくい。しかしながら、上記のように第1の固化材料6Aと第2の固化材料6Bとの材料的な特性は異なるため、たとえ地中構造物1の完成後において第1の固化材料6Aと第2の固化材料6Bとの境界が明確でなかったとしても、外側固化材料6の壁面3W側と土留部材4側とでそれぞれサンプルを採取して分析すれば、吹き付けによって施工された第1の固化材料6Aと、流し込みによって形成された第2の固化材料6Bとが存在することは特定できうる。
【0019】
なお、上記のように外側固化材料6を吹き付けと流し込みとの併用によって施工しなくても、土留部材4と壁面3Wとの間に適切なかぶり厚さが確保されていれば土留部材4を補強部材として考慮することができる。従って、本発明の実施形態は、外側固化材料6を吹き付けと流し込みとの併用によって施工する例には限定されない。
【0020】
本実施形態に係る地中構造物1は、例えば以下のような工程によって施工される。まず、地盤2を掘削して立坑3を形成する掘削工程を実施し、その後に立坑3の壁面3Wに第1の固化材料を吹き付ける吹付工程を実施する。後の工程でさらに第2の固化材料6Bが流し込まれるため、第1の固化材料6Aの吹き付け厚さは第2の固化材料6Bが流し込まれるまでの間、壁面3Wを安定させるのに十分な最低限の厚さ以上であればよい。このような吹き付け厚さは従来の吹き付け工法よりも薄く、具体的には例えば1cm以上、10cm未満であってもよい。
【0021】
次に、立坑3の内部に土留部材4を設置する土留部材設置工程を実施する。この例では、吹付工程が土留部材設置工程の前に実施されるため、土留部材4は既に吹き付けられた第1の固化材料6Aの内側に設置される。この時点で構築されている土留壁の下端に位置する土留部材4の下端には、型枠部材8が設置される。型枠部材8には、次の工程で第2の固化材料6Bを流し込むための開口部が設けられていてもよい。
【0022】
土留部材4および型枠部材8の設置後、土留部材4と第1の固化材料6Aとの間に第2の固化材料6Bを流し込む流し込み工程を実施する。上記のような掘削工程、吹付工程、土留部材設置工程、および流し込み工程を所定の回数繰り返し(1回でもよい)、その後に土留部材4の内側に内側固化材料5を充填する内側充填工程を実施することによって、図1に示したような地中構造物1が構築される。
【0023】
なお、上記の例では外側固化材料6を充填するための外側充填工程が吹付工程および流し込み工程として土留部材設置工程の前後に分けて実施されたが、他の例では、土留部材設置工程の後に外側充填工程が一括して実施されてもよい。この場合、吹付工程では土留部材4の上方または下方と立坑3の壁面3Wとの間の隙間から吹付ノズルを差し込んで第1の固化材料6Aの吹付工程が実施される。
【0024】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る深礎基礎の断面図である。本実施形態では、上記の第1の実施形態と異なり、土留部材4を内側固化材料5および外側固化材料6によって形成される構造体の補強部材として考慮することによって、鉄筋がすべて省略されている。つまり、図示された例において、地中構造物1は内側固化材料5に埋設される鉄筋を含まない。土留部材4を補強部材として考慮した結果、土留部材4のみで必要とされる鋼材量が満たされる場合、補強部材として土留部材4のみで設計することが可能となる。この場合、地中構造物1の施工方法は土留部材4の内側に鉄筋を配置する配筋工程を含まない。
【0025】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る深礎基礎の断面図である。本実施形態では、地中構造物1の中心に内部空間SPが形成される。この場合、内側固化材料5は内部空間SPと土留部材4との間に充填される。施工時には、内部空間SPに対応する型枠部材が配置され、内側固化材料5は型枠部材と土留部材4との間に充填される。本発明の実施形態は、このように地中構造物1が中空構造である場合と中実構造である場合との両方を含む。中空構造の地中構造物1は、例えば深礎基礎、立坑または集水井として利用される。あるいは、地中構造物1の内部空間SPに地山掘削時の残土などの土砂を投入した上で、深礎基礎として利用してもよい。中実構造の地中構造物1は、例えば深礎基礎として利用される。なお、図3に示された例では上記の第2の実施形態と同様に鉄筋がすべて省略されているが、第1の実施形態と同様に配筋量が減らされた鉄筋7が配置されてもよい。
【0026】
図4は、土留部材の周方向の千鳥配置の例を示す図である。上述した第1から第3の実施形態では、複数の土留部材4が立坑3の深さ方向および周方向に配列されて互いに連結されることによって筒状の土留壁が構成される。図4に示された例では、複数の土留部材4Aが立坑3の周方向で千鳥配置される。つまり、高さ方向(立坑3の深さ方向)について複数の段で配置された土留部材4Aは、隣り合う段で周方向の継目が互い違いになるように配置される。
【0027】
上述のように土留部材4を内側固化材料5および外側固化材料6によって形成される構造体の補強部材として考慮する場合、土留部材4同士の継目が構造的な弱点になる。そこで、図4の例では、土留部材4Aを周方向で千鳥配置することによって、土留部材4Aの周方向の継目に作用する力を、高さ方向に隣接して配置された土留部材4A同士の間のせん断抵抗によって、別の土留部材4Aの本体に流すことができ、継目を補強することができる。これによって、周方向における土留部材4Aの補強部材としての機能が向上するため、例えば図示された例のように鉄筋7のうちフープ筋7Bを省略して主筋7Aのみを配置することや、図示していないが、フープ筋7Bの配筋量を減らすことも可能となる。
【0028】
図5は、土留部材の深さ方向の千鳥配置の例を示す図である。図5に示された例では、上記で図4に示した例とは異なり、複数の土留部材4Bが高さ方向(立坑3の深さ方向)で千鳥配置される。つまり、複数の列で配置された土留部材4Bは、隣り合う列で高さ方向の継目が互い違いになるように配置される。これによって、土留部材4Bの高さ方向の継目に作用する力を、周方向に隣接して配置された土留部材4B同士の間のせん断抵抗によって、別の土留部材4Bの本体に流すことができ、継目を補強することができる。これによって、高さ方向における土留部材4Bの補強部材としての機能が向上するため、例えば図示された例のように鉄筋7のうち主筋7Aの配筋量を効果的に減らすことができる。
【0029】
図6および図7は、土留部材に隅肉溶接を追加する例を示す図である。図示された例では、土留部材4が、本体面41の高さ方向の両端部に形成されるフランジ42に加えて、本体面41の周方向の両端部に形成されるフランジ43を有する。フランジ43は、本体面41の波形断面に交差する方向に配置される。図6および図7に示された例において、土留部材4は、本体面41とフランジ43との間に形成される両側の隅肉溶接部44をさらに含む。これによって、本体面41からフランジ43に効果的に応力が伝達され(好ましくは全応力が伝達され)、連結された複数の土留部材4を周方向について一体的な補強部材として機能させることができる。なお、両側の隅肉溶接部44に限らず、開先溶接部など、応力を伝達可能な他の種類の溶接部が形成されてもよい。
【0030】
図8および図9は、土留部材にリブを追加する例を示す図である。図示された例では、土留部材4が、本体面41およびフランジ42,43に加えて、本体面41とフランジ43との間に形成されるリブ45をさらに含む。これによって、上記で図6および図7を参照して説明した例と同様に、本体面41からフランジ43に効果的に応力が伝達され(好ましくは全応力が伝達され)、連結された複数の土留部材4を周方向について一体的な補強部材として機能させることができる。なお、図示された例のような三角形のリブ45に限らず、台形や扇形など他の形状のリブが形成されてもよい。
【0031】
なお、本体面41とフランジ43との間で十分に応力が伝達可能であれば、上記のような補強構造は設けられなくてもよい。また、上記では土留部材4が本体面41の端部にフランジ42,43を有する例について説明したが、例えば土留部材4として、フランジ42,43が存在しないコルゲートパイプを用いてもよい。この場合、土留部材4同士の継目にフランジが存在せず、本体面41同士を重ね合わせた部分をボルト等で固定することによって土留部材4同士を連結するため、上記のような本体面とフランジとの間の補強構造は必要なくなる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0033】
1…地中構造物、2…地盤、3…立坑、3W…壁面、4,4A,4B…土留部材、5…内側固化材料、6…外側固化材料、6A…第1の固化材料、6B…第2の固化材料、7…鉄筋、7A…主筋、7B…フープ筋、8…型枠部材、41…本体面、42,43…フランジ、44…隅肉溶接部、45…リブ、SP…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9