(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】物品搬送システム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20240214BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20240214BHJP
B65G 51/03 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B25J13/00 A
B25J13/08 Z
B65G51/03 C
(21)【出願番号】P 2019226302
(22)【出願日】2019-12-16
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 好丈
(72)【発明者】
【氏名】須賀 啓介
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/115157(WO,A1)
【文献】特開2009-125879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/00
B25J 13/08
B65G 51/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面上に配置され、搬送しようとする物品を搭載するトレイと、
外力を検出する力センサを備えるロボットと、
前記床面または前記トレイの少なくとも一方に設けられ、前記床面と前記トレイとの間の摩擦力を調整する摩擦力低減装置と、
前記ロボットを制御して前記トレイに横荷重を加えることにより前記床面上を摺動させるとともに、横荷重を加えたときに前記力センサにより検出された前記横荷重方向の外力の大きさに基づいて前記摩擦力低減装置を制御する制御装置とを備える物品搬送システム。
【請求項2】
前記摩擦力低減装置が、前記床面と前記トレイとの間に加圧流体を供給する請求項1に記載の物品搬送システム。
【請求項3】
前記摩擦力低減装置が、前記床面と前記トレイとの間に磁気反発力を発生させる請求項1に記載の物品搬送システム。
【請求項4】
前記制御装置が、前記摩擦力低減装置を制御して、前記力センサにより検出される前記横荷重方向の外力の大きさを所定の範囲内の値とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の物品搬送システム。
【請求項5】
前記摩擦力低減装置が、前記床面に、前記物品の搬送経路に沿って分布して配置され、
前記制御装置が、前記トレイが配置されている領域内の前記摩擦力低減装置のみを作動させる請求項1から請求項4のいずれかに記載の物品搬送システム。
【請求項6】
前記制御装置が、前記物品が搭載された状態の前記トレイの水平方向の重心位置を算出し、算出された前記重心位置を通過する鉛直な平面上に配置される前記トレイを押圧するよう前記ロボットを制御する請求項1から請求項5のいずれかに記載の物品搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物品搬送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
協働ロボットによって可搬重量を超える物品を搬送するには、床面に置かれたトレイに物品を搭載し、協働ロボットによってトレイに横荷重をかけて床面上を滑らせることが行われる。
床面上でトレイを滑らせるには、床面とトレイとの間に発生する摩擦力よりも大きな横荷重を加える必要がある。床面とトレイとの間に発生する摩擦力は、床面あるいはトレイの裏面の状態、および、静摩擦か動摩擦かによって変動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
協働ロボットは、人や物体との接触を検出するための力センサを搭載しているので、搬送中に摩擦力が変動すると、人や物体との接触と誤検出してアラームを出して停止してしまうことが考えられる。したがって、床面とトレイとの間に発生する摩擦力が変動しても、アラーム停止を回避して、物品を安定して搬送することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様は、床面上に配置され、搬送しようとする物品を搭載するトレイと、外力を検出する力センサを備えるロボットと、前記床面または前記トレイの少なくとも一方に設けられ、前記床面と前記トレイとの間の摩擦力を調整する摩擦力低減装置と、前記ロボットを制御して前記トレイに横荷重を加えることにより前記床面上を摺動させるとともに、横荷重を加えたときに前記力センサにより検出された前記横荷重方向の外力の大きさに基づいて前記摩擦力低減装置を制御する制御装置とを備える物品搬送システムである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本開示の一実施形態に係る物品搬送システムであって、トレイが第1位置に配置されている状態を示す全体構成図である。
【
図2】
図1の物品搬送システムにおいて、トレイが第2位置に配置されている状態を示す全体構成図である。
【
図3】
図1の物品搬送システムに備えられる摩擦制御部を説明する図である。
【
図4】
図3の摩擦制御部の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図1の物品搬送システムの変形例であって、トレイ上の物品の重心とロボットによる押圧位置とを示す模式的な平面図である。
【
図6】
図1の物品搬送システムの他の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示の一実施形態に係る物品搬送システム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る物品搬送システム1は、
図1に示されるように、物品Wを載置するトレイ2と、ロボット3と、床面Fに設置された摩擦力低減装置4と、ロボット3および摩擦力低減装置4を制御する制御装置5とを備えている。
【0007】
トレイ2は、平坦な底面と、物品Wを載置可能な上面と、4つの側面とを有するパレット状に形成されている。
ロボット3は、例えば、垂直6軸多関節型ロボットであって、手首6の先端に物品Wを把持可能なハンド7を備えるとともに、外力を検出可能な力センサ8を備えている。力センサ8はロボット3の各部における人や物体との接触による検出値の変動により接触を検出することができる他、ハンド7によって持ち上げる物品Wの重量、手首6によって物品Wを押圧する際の押圧力を検出することができる。
【0008】
摩擦力低減装置4は、例えば、トレイ2による物品Wの搬送経路の全体にわたって、床面Fに開口する吐出口9と、各吐出口9に接続する配管10と、配管10に供給する加圧空気(加圧流体)を発生する空気圧源13とを備えている。搬送経路は、例えば、
図1に示されるように、ロボット3の設置位置に近接する第1位置と、
図2に示されるように、ロボット3の設置位置から離間した第2位置との間の直線経路である。
【0009】
制御装置5は、ロボット3を制御するロボット制御部11と、摩擦力低減装置4を制御する摩擦制御部12とを備えている。ロボット制御部11は、プロセッサおよびメモリを備えている。
【0010】
ロボット制御部11は、予め教示されたプログラムに従って、物品Wをトレイ2上に移載する作業をロボット3に行わせる。また、ロボット制御部11は、
図1に示されるように、物品Wが搭載されたトレイ2の側面を水平方向に押圧する横荷重を加えて、床面F上でトレイ2を摺動させるようロボット3を制御する。
【0011】
ロボット制御部11は、ロボット3の作動中に、力センサ8による外力の監視を常時行っており、第1の閾値を超える過大な外力が作用したときには、ロボット3を停止させる。
また、ロボット制御部11は、トレイ2を摺動させる搬送動作を行う際には、例えば、プログラム上においてその旨を示す信号を摩擦制御部12に出力する。
【0012】
摩擦制御部12は、
図3に示されるように、空気圧源13からの加圧空気を供給する配管10を切り替えるバルブ14と、各配管10に供給する加圧空気の圧力を調整可能なレギュレータ15と、これらを制御する演算部16とを備えている。演算部16はプロセッサおよびメモリにより構成されている。
【0013】
バルブ14およびレギュレータ15は、吐出口9毎に加圧空気の吐出または停止の切替、および、加圧空気の圧力を調整可能に、各配管10に設けられていてもよいし、複数の吐出口9を含むグループ毎に設けられていてもよい。摩擦制御部12は、ロボット制御部11からトレイ2の位置情報を受け取る。そして、トレイ2が移動すると、トレイ2の下に位置する吐出口9が変わるので、トレイ2の進行に従って、加圧空気を吐出する吐出口9を切り替える。すなわち、トレイ2が配置されている領域内の摩擦力低減装置4のみを作動させる。
【0014】
演算部16は、
図4に示されるように、ロボット制御部11から搬送動作を知らせる信号が入力されたときには(ステップS1)、ロボット3の力センサ8により検出された、トレイ2を押圧する方向の外力が、第1の閾値よりも小さい第2の閾値Th2を超えたか否かを判定する(ステップS2)。そして、演算部16は、トレイ2を押圧する方向の外力が第2の閾値Th2を超えた場合には、バルブ14を制御して、トレイ2の下に位置する吐出口9から加圧空気を吐出させる(ステップS3)。
【0015】
また、演算部16は、加圧空気を吐出しても外力が第2の閾値Th2を超えている状態が維持される場合には(ステップS4)、レギュレータ15を制御して、吐出口9から吐出される加圧空気の圧力を増大させる(ステップS5)。一方、演算部16は、バルブ14およびレギュレータ15の制御により、外力が第2の閾値Th2以下となった場合には、第2の閾値Th2よりも小さい第3の閾値Th3以下となったか否かを判定する(ステップS6)。
【0016】
演算部16は、外力が第3の閾値Th3を超え、第2の閾値Th2以下となるように、レギュレータ15を制御して吐出口9から吐出される加圧空気の圧力を増減させる(ステップS3からS7)。そして、演算部16は、トレイ2が第2位置において停止するなどして、外力が閾値Th3以下となった場合には、搬送終了か否かを判定し(ステップS8)、終了する場合には加圧空気の吐出を停止する(ステップS9)。終了しない場合には、ステップS2からの工程を繰り返す。
また、演算部16は、トレイ2を押圧する方向の外力が、第2の閾値Th2以下の場合には、ステップS8からの工程を繰り返す。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る物品搬送システム1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る物品搬送システム1により物品Wを搬送するには、第1位置の床面F上に配置されたトレイ2に、物品Wを搭載する。物品Wの搭載は、ロボット3によって行ってもよいし、他の移載装置によって行ってもよい。
【0018】
ロボット制御部11が、プログラムに従ってロボット3に搬送動作を行わせる際には、例えば、
図1に示されるように、ロボット3の手首6をトレイ2の一側面に接触させ、接触した側面を押圧する。このとき、ロボット3の力センサ8によって、ロボット3の手首6がトレイ2から受ける外力が検出される。
【0019】
検出された搬送方向の外力の値は、摩擦制御部12の演算部16に送られて、外力の値が第2の閾値Th2よりも大きいか否かが判定される。外力が第2の閾値Th2を超えない場合には、ロボット3による搬送作業が継続される。
【0020】
一方、搬送方向の外力の値が第2の閾値Th2を超えた場合には、演算部16は、バルブ14を制御して、トレイ2の下に配置されている吐出口9から、トレイ2と床面Fとの間に加圧空気を吐出させる。
加圧空気が吐出口9から吐出されることにより、トレイ2を浮上させる力が発生し、トレイ2と床面Fとの間の摩擦力が低減する。
【0021】
加圧空気を吐出しても摩擦力が十分に低下していない場合には、外力が第2の閾値Th2を超えた状態に維持されるので、演算部16は、レギュレータ15を制御して、吐出口9から吐出させる加圧空気の圧力を上昇させる。そして、摩擦力が十分に低下した場合には、外力が第2の閾値Th2以下となり、トレイ2が床面F上を摺動し始める。
【0022】
トレイ2が静止している状態では、静摩擦が発生しているため、加圧空気の圧力を大きくして、摩擦力を十分に低減しなければ、トレイ2を動かすことができない。一方、一旦動き出した後には、動摩擦となるので加圧空気の圧力を大きくしたままでは、ロボット3が付与する外力が急激に低下する。したがって、演算部16は、外力が第2の閾値Th2よりも小さい第3の閾値Th3以下であるか否かを判定し、第3の閾値Th3以下である場合には、レギュレータ15を制御して、加圧空気の圧力を低下させる。
【0023】
これにより、第3の閾値Th3と第2の閾値Th2との間の範囲内の押圧力によってトレイ2を押圧して物品Wを安定的に搬送することができるという利点がある。
また、本実施形態においては、摩擦制御部12が、ロボット制御部11から受け取ったトレイ2の位置情報に基づいて、バルブ14の切り替えによって加圧空気を吐出する吐出口9を切り替える。
【0024】
これにより、搬送中のトレイ2と床面Fとの間の摩擦力を低下させた状態に維持することができるとともに、必要な吐出口9からのみ加圧空気を吐出させることにより、動力を節約することができる。
【0025】
また、床面Fの状態が変動することにより、押圧力が変動したときにも、レギュレータ15の制御によって、吐出口9から吐出する加圧空気の圧力を調整して、トレイ2と床面Fとの間の摩擦力を所定範囲内に維持することができる。
【0026】
一方、搬送途中において、押圧力が急激に増大し、第1の閾値を超えた場合には、ロボット3が周囲の物体に接触したことが考えられ、ロボット制御部11がロボット3を停止させる。
押圧力を第3の閾値Th3より大きく第2の閾値Th2以下の値に維持しておくことにより、トレイ2と床面Fとの間の摩擦力が維持されるので、ロボット3の停止によってトレイ2も停止させることができる。
【0027】
なお、本実施形態においては、摩擦力低減装置4を床面Fに設けることにしたが、これに代えて、トレイ2側に設けることにしてもよい。トレイ2側に摩擦力低減装置4を設ける場合には、加圧空気を供給する配管10が可動配管となる不都合がある一方、加圧空気を吐出させる吐出口9を切り替えることが不要となり、制御を簡便にすることができる。また、トレイ2および床面Fの両方に摩擦力低減装置4を設けてもよい。
【0028】
また、本実施形態においては、摩擦力低減装置4として、加圧空気を吐出する場合を例示したが、吐出する流体は任意のものを採用してよい。また、流体の吐出によりトレイ2を浮上させる方向に押圧することに代えて、磁気反発力によってトレイ2を浮上させる方向に押圧してもよい。
【0029】
この場合には、例えば、トレイ2の裏面に、一方の磁極(例えばN極)を下向きにした永久磁石を配置し、床面Fに電磁石を配置してもよい。電磁石に通電して、床面Fにトレイ2の永久磁石と同じ磁極(例えばN極)を発生させることにより、両者間に磁気反発力を発生させることができる。トレイ2側の永久磁石に代えて電磁石を配置してもよい。
【0030】
また、本実施形態においては、ロボット3が、搭載しようとする物品Wの形状およびトレイ2上の空きスペースを検出するためのカメラを備えていてもよい。そして、ロボット制御部11が、ハンド7によって把持した物品Wを、トレイ2上の空きスペースに物品Wの向きを調整しながら配置することにしてもよい。
【0031】
この場合において、ロボット制御部11は、
図5に示されるように、トレイ2上に搭載された物品W群の水平方向の重心位置Gを算出し、重心位置Gを通過する鉛直平面上に配置される位置においてトレイ2を押圧するようロボット3を制御することが好ましい。
これにより、床面F上においてトレイ2を真っ直ぐに摺動させることができる。
【0032】
重心位置Gの算出は、例えば、以下の通りに行われる。
まず、ロボット3が物品Wを把持して持ち上げたときに力センサ8により検出される物品Wの重量と物品Wの形状とから、各物品Wの重心位置Gを算出するとともに、トレイ2上に物品Wを載置したときの重心位置Gの座標を重量と対応付けて記憶する。そして、ロボット制御部11は、全ての物品Wがトレイ2上に搭載された後に、記憶していた各物品Wの重量と重心位置Gの座標とから、物品W群の水平方向の重心位置Gを算出する。
【0033】
また、本実施形態においては、ロボット3の設置位置に近接する第1位置からロボット3の設置位置から離間した第2位置まで搬送する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図6に示されるように、ロボット3のベース31の下方に空間を設け、空間内においてトレイ2を(紙面に直交する方向に)移動させる搬送経路を採用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 物品搬送システム
2 トレイ
3 ロボット
4 摩擦力低減装置
5 制御装置
8 力センサ
F 床面
G 重心位置
W 物品