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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】容器詰めゼリー飲料、炭酸感の増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20240214BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240214BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240214BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20240214BHJP
   A23L 29/20 20160101ALI20240214BHJP
   A23L 29/244 20160101ALN20240214BHJP
   A23L 29/256 20160101ALN20240214BHJP
   A23L 29/269 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 T
A23L2/38 A
A23L2/54
A23L29/20
A23L29/244
A23L29/256
A23L29/269
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019234264
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021101649
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利也
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 文子
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-012016(JP,A)
【文献】特開2017-225404(JP,A)
【文献】「白鶴 ぷるぷる檸檬酒」新発売! ぷるぷるフルーツ酒シリーズに瀬戸内ブランド認定商品を追加,白鶴酒造株式会社 NEWS RELEASE,2015年01月21日,[令和5年10月27日検索],インターネット<URL:https://www.hakutsuru.co.jp/news_file/150121ぷるぷる檸檬酒NR.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料であって、
1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2.0ppmのシネオールを含む、容器詰めゼリー飲料(ただし、アルコール飲料を除く)
【請求項2】
炭酸ガスボリュームが1.5vol~2.5volである、請求項1に記載の容器詰めゼリー飲料。
【請求項3】
20℃にした前記ゼリー飲料の表面に対して直径15mmのプランジャーを垂直に押し当てて荷重を加えていったときに前記ゼリー飲料が破断するときの破断荷重が10~160gである、請求項1又は2に記載の容器詰めゼリー飲料。
【請求項4】
炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料(ただし、アルコール飲料を除く)において、1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2.0ppmのシネオールを含有させることを含む、炭酸感の増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰めゼリー飲料に関し、特に、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
容器詰めゼリー飲料は、容器を軽く数回振ってゼリーを破砕した後に容器から排出させたりして飲用する飲料である。近年は、このような容器詰めゼリー飲料として、炭酸ガスを含有させた容器詰めゼリー飲料も開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料は、飲用時に炭酸ガスが発泡し、飲用者に対して発泡による刺激を感じさせる。この発泡による刺激により、飲用者は、爽快さを得ることができる。なお、以下の説明では、炭酸ガスの発泡による刺激が感じられる感覚を炭酸感という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-068747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料において、炭酸感を増強できる新規な技術を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料であって、1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2.0ppmのシネオールを含む、容器詰めゼリー飲料。
[2]炭酸ガスボリュームが1.5vol~2.5volである、[1]に記載の容器詰めゼリー飲料。
[3]20℃にした前記ゼリー飲料の表面に対して直径15mmのプランジャーを垂直に押し当てて荷重を加えていったときに前記ゼリー飲料が破断するときの破断荷重が10~160gである、[1]又は[2]に記載の容器詰めゼリー飲料。
[4]炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料において、1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2.0ppmを含有させることを含む、炭酸感の増強方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料において、炭酸感を向上できる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明を完成するに至った経緯を説明する。
【0009】
炭酸ガスを含有させた容器詰めゼリー飲料(以下、「炭酸ゼリー飲料」ともいう)は、飲用時に炭酸ガスが発泡する。このため、炭酸ゼリー飲料の飲用者は、炭酸感(炭酸ガスの発泡による刺激が感じられる感覚)を感じ、爽快さを得ることができる。
【0010】
本発明者等は、炭酸ゼリー飲料の炭酸感に着目して、炭酸ゼリー飲料の開発を進めたところ、後述する実施例に示す通り、炭酸ゼリー飲料は、炭酸ガスの圧力を同一にした炭酸飲料(液体)ほどの炭酸感が感じられないことを知見した。炭酸感が感じられにくくなると、爽快さも得られにくくなる。
【0011】
本発明者等は、この知見に基づき、炭酸ゼリー飲料の炭酸感を増強することを着想した。そこで、本発明者等は、まず、炭酸ゼリー飲料における炭酸ガスの圧力を高め、炭酸ゼリー飲料の炭酸感を増強することを検討した。しかしながら、炭酸ガスを含有させたゼリー飲料の原料を、高温で容器に充填する場合には、炭酸ガスの溶解度が低くなるため、炭酸ガスがゼリー飲料の原料から抜け出てしまう。一方で、炭酸ガスを含有させたゼリー飲料の原料を、低温で容器に充填した場合には、容器充填後の高温殺菌の過程で容器の変形が生じてしまうことがある。つまり、容器詰め炭酸ゼリー飲料においては、炭酸ゼリー飲料における炭酸ガスの圧力を所定値以上にすることが困難であった。このため、炭酸ガスの圧力を高める方法とは異なる方法で、炭酸ゼリー飲料の炭酸感を増強する必要が生じた。
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、所定濃度のシトラール及び/又は所定濃度のシネオールを炭酸ゼリー飲料に含有することで、炭酸感が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態は、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料(以下、単に「炭酸ゼリー飲料」ともいう)に関する。
【0015】
本明細書において、容器詰めゼリー飲料とは、容器に詰められたゼリー飲料を指す。また、ゼリー飲料とは、破断荷重が10~180gの飲用されるゼリーを指す。例えば、容器詰めゼリー飲料は、容器を軽く数回振ってゼリーを破砕した後に容器から排出することで飲用することができる。
【0016】
なお、破断荷重は、主に硬さを反映するパラメーターであり、ゼリー飲料とするには、荷重を上述した範囲内(10~180gの範囲内)にすることが必要である。破断荷重が上述した範囲外(10~180gの範囲外)になると、飲料が柔らくなりすぎたり硬くなりすぎたりするため、ゼリー飲料として適したものとならない。
【0017】
ここで、ゼリー飲料の破断荷重は、20℃にしたゼリー飲料の表面に対して直径15mmのプランジャーを垂直に押し当てて荷重を加えていったときに、ゼリー飲料が破断するときの最大荷重F(g)である。ゼリー飲料の破断荷重は、例えば、レオメーターを用いて測定することができ、プランジャーの降下速度は、例えば、6cm/minとすることができる。破断荷重を測定する対象のゼリー飲料の大きさは、例えば、直径を60mm、とすることができ、厚み(プランジャーが降下する方向における長さ)を80mmとすることができる。また、ゼリー飲料が破断するとは、プランジャーがゼリー飲料に突き刺さる(プランジャーがゼリー飲料の表面から内部に進入する)ことを指し、必ずしも、ゼリー飲料が崩壊することを要するものではない。
【0018】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料には、1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2ppmのシネオールが含まれる。なお、本明細書において、シトラールやシネオールの濃度を表す単位(ppm)は、炭酸ゼリー飲料の体積(L)に対する、シトラールやシネオールの質量(mg)の割合を指すものである。
【0019】
シトラールは、分子式C1016Oで表される化合物であり、レモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツ等の柑橘類の果皮や、レモングラスやその同属種の植物の葉から得られる精油に含まれる芳香成分である。シトラールは、ゲラニアールとネラール(立体異性体)という化合物として存在しており、これらの割合は特に限定されない。
【0020】
本実施形態のゼリー飲料において、シトラールの濃度は、1ppm~30ppmであればよいが、炭酸感がさらに増強される観点からは、5ppm~30ppmであることが好ましく、炭酸感がさらに増強されることに加えておいしさがさらに向上する観点からは、5ppm~15ppmであることがより好ましい。
【0021】
シネオールは、分子式C1018Oで表される化合物であり、ユ-カリオイル、カヤプテオイル、ローズマリー油、ローレル油などに含まれるモノテルペノイドの1種である。シトラールには、1,4-シネオールと1,8-シネオールの2種類の異性体が存在しており、これらの割合は特に限定されない。
【0022】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、シネオールの濃度は、0.1ppm~2ppmであればよいが、炭酸感がさらに増強される観点から、0.5ppm~2ppmであることが好ましい。
【0023】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、シトラール及びシネオールの濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)を用いた固相マイクロ抽出法(SPME)法により定量することができる。具体的には、例えば、装置としてアジレント・テクノロジー社製、7890B GC/5977A MSDを用いることができ、以下に示すような条件で行うことができる。
【0024】
定量には絶対検量線法を用いることができる。例えば、測定サンプルについて3サンプルずつ準備し、その定量結果の平均値を測定結果とすることができる。準備した測定サンプルを含む20mLバイアル瓶を、70℃で10分間の加熱処理を施した後、当該バイアル瓶の気相部分にSUPELCO社製のSPMEファイバー(DVB/CAR/PDMS)を挿入し、5分間揮発成分を捕集する。このSPMEファイバーをGC/MSに設置し、300秒間焼成することにより、捕集した揮発成分を脱離することができる。
【0025】
GC/MSの分析条件は以下の通りである。
カラム:アジレント・テクノロジー社製、DB-WAX UI 0.25mm×30m×0.25μm
オーブン温度:40℃で5分、その後5℃/分で240℃まで昇温。
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:240℃
【0026】
なお、本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、シトラール及びシネオールの濃度は、上述したSPME法で定量してもよいが、ゼリー飲料に対するシトラールやシネオールの添加量(mg)が判明している場合には、その添加量とゼリー飲料の体積(L)から、計算により求めてもよい。
【0027】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料は、ゼリー飲料に炭酸ガスが含有されたものである。ここで、ゼリー飲料に炭酸ガスが含有されるとは、ゼリー飲料に炭酸ガスが溶解されている(炭酸ガスが吸収されている)ことを指す。なお、本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、炭酸ガスの一部は、気体の状態でゼリー飲料中に存在していてもよい。
【0028】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料における炭酸ガスボリュームは、特に限定されるものではなく、例えば、1vol~4volとすることができる。炭酸感がさらに増強される観点から、本実施形態の炭酸ゼリー飲料における炭酸ガスボリュームは、1.5vol~2.5volであることが好ましい。
【0029】
本明細書において、炭酸ガスボリューム[vol]とは、1気圧、20℃における、炭酸ゼリー飲料の体積に対する、炭酸ゼリー飲料中に溶解している炭酸ガスの体積の比を指す。炭酸ガスボリュームは、例えば、市販の測定器(株式会社長嶋製作所製 缶瓶兼用ガス圧計 KN-10)を用いて測定することができる。より具体的には、試料を20℃とした後、ガス内圧力計を取り付け、一度活栓を開いてガス抜き(スニフト)操作を行い、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、圧力が一定になった時の値から算出することで得ることができる。
【0030】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、炭酸ガスが含有されるゼリー飲料は、飲料液と、飲料液をゲル化するゲル化剤を含んでおり、ゲル化剤により飲料液をゲル化して破断荷重を10~180gにすることで形成されている。
【0031】
飲料液は、飲用に適した液体であり、少なくとも、液体成分と、上述した濃度となる量のシトラール及び/又はシネオールを含んでいる。飲料液に含まれる液体成分には、例えば、精製水、純水、イオン交換水などの飲料水(原料水)を用いることができる。
【0032】
飲料液は、液体成分(例えば、飲料水)と、上述した濃度となる量のシトラール及び/又はシネオールのみで構成されていてもよいが、これらの成分の他に、甘味料や酸味料や香料を含有していてもよい。
【0033】
甘味料としては、例えば、単糖(ブドウ糖、果糖、キシロース、ガラクトース等)、二糖(ショ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、イソマルツロース、パラチノース等)、オリゴ糖(ラフィノース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー等)、異性化糖(ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等)、はちみつ、糖アルコール(エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース、パラチニット、還元水飴等)などが使用できる。さらに、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン等の高甘味度甘味料を使用してもよい。
【0034】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料の甘味度は、甘味料の種類や含有量を変更することで調整することができる。本実施形態の炭酸ゼリー飲料の甘味度は、特に限定されるものではない。
【0035】
酸味料としては、例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマール酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、又はこれらのナトリウム塩、カルシウム塩もしくはカリウム塩等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料の酸度は、酸味料の種類や含有量を変更することで調整することができる。本実施形態の炭酸ゼリー飲料の酸度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~0.8[g/100g]とすることができる。なお、酸度とは、炭酸ゼリー飲料100g中に含まれる有機酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数[無水クエン酸g/100g]を指す。炭酸ゼリー飲料の酸度は、まず、ゼリー飲料を煮沸によって脱気した後、振盪等によって破砕する。その後、JAS規格の酸度測定法に定められた方法、具体的には、0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
【0037】
香料としては、例えば、リンゴ、オレンジ、ミカン、レモン、グレープフルーツ、メロン、ブドウ、バナナ、モモ、イチゴ、アサイー、ブルーベリー、マンゴーなどの果実を想起させる風味を付与する果実フレーバーを挙げることができる。
【0038】
飲料液に含有することができる成分は、飲用に適するものであれば、上述した成分に限定されず、その他の成分が含有されていてもよい。このような成分としては、例えば、果汁、果皮や果肉などの不溶性固形物、消泡剤、乳化剤、色素、ビタミン類、ミネラル類、pH調整剤、保存料、抗酸化剤、アミノ酸、機能性素材(難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維、乳酸菌など)などを挙げることができる。
【0039】
上述した飲料液をゲル化するゲル化剤は、飲料液をゲル化して破断荷重を10~180gにすることができるものであれば、特に限定されるものではない。ゲル化剤には、例えば、ゼラチン、ペクチン、寒天、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、グルコマンナン、ローカストビーンガムなどのゲル化成分が含有される。これらのゲル化成分のうち、後殺菌による容器変形を防止するという観点から、溶解温度の低いκ―カラギーナン、マンナンを用いることが好ましい。なお、ゲル化成分は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
ここで、飲料液のゲル化には、ゲル化成分の種類によっては、ゲル化を促進するゲル化促進成分が必要となる。このため、ゲル化剤には、ゲル化成分に加えて、ゲル化促進成分がさらに含有されていてもよい。ゲル化促進成分としては、例えば、カルシウムイオンやカリウムイオンやナトリウムイオンなどのカチオンを挙げることができる。なお、カチオンによりゲル化が促進されるゲル化成分は、カラギナンジェランガム(LAジェランガム)、LMペクチン、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0041】
ゲル化促進成分のカチオンは、塩の形態でゲル化剤に含有されていてもよい。塩の形態のカチオンとしては、例えば、リン酸水素二カリウム、乳酸カルシウム、マルトビオン酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳清カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、メタリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、パントテン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、クエン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸ナトリウム塩、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸第三カリウム、炭酸カリウム、酒石酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム及びポリリン酸カリウムなどが挙げられる。
【0042】
また、ゲル化剤には、ゲル化成分に加え、ゲル化を補助するゲル化補助成分を含有することができる。ゲル化補助成分としては、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、デキストリンなどの増粘成分を用いることができる。
【0043】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料において、ゲル化剤の濃度は、ゲル化後の飲料液の破断荷重を10~180gにできる濃度であればよい。ゲル化剤の濃度は、ゲル化剤に含有される各成分の種類や配合比率によっても異なるが、例えば、1g/L~5g/Lとすることができる。
【0044】
ここで、本実施形態の炭酸ゼリー飲料は、破断荷重が10~180gであればよいが、破断荷重が10~160gの範囲内であることが好ましく、破断荷重が30~80gであることがより好ましい。本実施形態の炭酸ゼリー飲料の破断荷重が10~160gである場合には、破断荷重が当該範囲外である場合と比較してさらに炭酸感が増強される。
【0045】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料が詰められる容器は、特に限定されるものではないが、炭酸ゼリー飲料を所定期間安定して保管できる観点から、密封容器を用いることが好ましい。また、容器の材質は、特に限定されるものではないが、炭酸ゼリー飲料を所定期間安定して保管できる観点から、ガラスや陶器により形成されるビンや、PETボトル等のプラスチック容器や、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶を用いることができる。
【0046】
次に、本実施形態の炭酸ゼリー飲料の製造方法の一例について説明する。
【0047】
本実施形態の炭酸ゼリー飲料は、以下に示すように、添加処理と溶存処理と容器詰め処理とゲル化処理を含む製造方法により製造することができる。
【0048】
添加処理は、飲料液に用いる液体成分(例えば、飲料水)に、上述した濃度となる量のシトラール及び/又はシネオールとゲル化剤を添加する処理である。なお、添加処理では、シトラール及び/又はシネオールとゲル化剤に加え、必要に応じて飲料液に含有される上述した成分を添加してもよい。液体成分に添加する成分の添加順序は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。なお、添加処理は、液体成分に添加される各成分が、液体成分中に偏在にしないよう、攪拌(混合)しながら行われることが好ましい。
【0049】
添加処理における液体成分の温度は、特に限定されるものではない。しかしながら、ゲル化剤に含まれるゲル化成分が溶解すると、液体成分の粘度が増加することがあるため、添加処理で添加する各成分が、液体成分に偏在することがある。このため、添加処理における液体成分の温度は、ゲル化成分が溶解しない温度であることが好ましい。
【0050】
溶存処理は、添加処理が行われた液体成分に、溶解した炭酸ガスを含ませる処理である。溶解した炭酸ガスを含ませる方法には、例えば、ポストミックス法やプレミックス法を用いることができる。プレミックス法を用いる場合には、飲料液に用いる液体成分の一部に予め炭酸ガスを溶解させておき、炭酸ガスを溶解させた当該液体成分を、添加処理が行われた液体成分に混合する。ポストミックス法を用いる場合には、添加処理が行われた液体成分に、炭酸ガスを噴き込んで溶解する。
【0051】
溶存処理における液体成分の温度は、特に限定されるものではないが、炭酸ガスを十分に溶存させる観点から、20℃以下であることが好ましい。
【0052】
上述した添加処理及び溶存処理が行われることで、炭酸ガスを含有する飲料液(炭酸ガスが溶解した飲料液)が得られる。得られる飲料液には、少なくとも、上述した濃度となる量のシトラール及び/又はシネオールとゲル化剤が含有されている。
【0053】
容器詰め処理は、添加処理及び溶存処理が行われた飲料液を容器に詰める処理である。飲料液を容器に詰める方法は、特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができる。
【0054】
ゲル化処理は、容器詰め処理が行われた飲料液をゲル化する処理である。飲料液をゲル化する具体的な方法は、ゲル化成分の種類によっても異なるが、一例としては、飲料液を加熱して飲料液中のゲル化成分を溶解させ、その後、ゲル化成分が溶解した飲料液を冷却することでゲル化する方法が挙げられる。
【0055】
飲料液を加熱及び冷却してゲル化する上述した方法を用いる場合、飲料液の加熱温度は、使用するゲル化成分の溶解温度以上であればよく、飲料液の冷却温度は、溶解したゲル化成分がゲル化を進行するゲル化温度以下であればよい。ゲル成分の溶解温度やゲル化温度は、例えば、公知の文献(例えば、食品多糖類 乳化・増粘・ゲル化の知識 著者國崎直道 佐野征男)に記載されている。
【0056】
上述した方法により、本実施形態の炭酸ゼリー飲料を製造することができる。
【0057】
なお、容器詰め処理は、ゲル化処理の過程で行われてもよい。具体的には、飲料液を加熱してゲル化成分を溶解させ、ゲル化成分が溶解した飲料液を容器に詰めた後、容器に詰められた飲料液を冷却してゲル化を行ってもよい。
【0058】
以上説明した本実施形態の炭酸ゼリー飲料によれば、炭酸感を増強することができる。また、本発明の一態様として、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料において、1ppm~30ppmのシトラール及び/又は0.1ppm~2.0ppmを含有させることを含む、炭酸感の増強方法を提供することができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
[第1の試験]
以下に示す方法で第1の試験(第1の官能試験)を行った。
【0061】
(比較例1の炭酸ゼリー飲料の取得)
飲料水に、果糖ブドウ糖液糖、リン酸水素二カリウム、無水クエン酸及びゲル化剤を添加して混合した。ゲル化剤は、ゲル化剤100質量%に対し、45質量%のカラギナン(ゲル化成分)、10質量%のキサンタンガム(ゲル化成分)、10質量%のマンナン(ゲル化成分)、10質量%の塩化カリウム(ゲル化促進成分)、10質量%の乳酸カルシウム(ゲル化促進成分)、及び15質量%のデキストリン(ゲル化補助成分)により構成されていた。なお、飲料水に含有させたリン酸水素二カリウムは、ゲル化を促進するゲル化促進成分の一つである。
【0062】
各成分が添加された飲料水に、炭酸ガスを予め溶解させておいた飲料水(炭酸水)を混合して、ポストミックス法により炭酸ガスを含有させた。そして、炭酸ガスを含有させた飲料液を、ペットボトルに充填した。なお、飲料液をペットボトルに充填するまでは、飲料水の温度をゲル化剤が溶解しない40℃以下にして各処理を行った。
【0063】
ペットボトルに充填された飲料液を、それぞれ、65℃に加熱した後20℃まで冷却してゲル化させ、下記表1に示す比較例1の炭酸ゼリー飲料を得た。
【0064】
(参考例1の炭酸飲料の取得)
ゲル化剤を添加しないこと以外は、比較例1と同様の方法で飲料液をペットボトルに充填し、下記表1に示す参考例1の炭酸飲料(液体)を得た。
【0065】
なお、下記表1、表3及び表5に示す破断荷重は、レオメーター(レオテック社 FUDOH レオメーター)を用いて、20℃にした炭酸ゼリー飲料の表面に対し、直径15mm円柱型のプランジャーを速度60mm/minで垂直に押し当てて荷重を加えていき、プランジャーを炭酸ゼリー飲料(直径60mm、厚み80mmの円柱状)に突き刺すことで測定した。また、下記表1、表3及び表5に示すガス圧は、炭酸ゼリー飲料のガスボリューム[vol]であり、20℃とした炭酸ゼリー飲料を用いて、市販の測定器(株式会社長嶋製作所製 缶瓶兼用ガス圧計 KN-10)により測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
比較例1及び参考例1の炭酸ゼリー飲料を、5人のパネリストが試飲し、「おいしさ」、「炭酸感」及び「香り」について評価した。本評価は、参考例1の炭酸飲料と比較することで行われ、以下の評価基準に従って行った。なお、以下に示す評価基準において、基準飲料は、参考例1の炭酸飲料を指す。
【0068】
<おいしさの評価基準>
「おいしさ」の評価では、1点から7点の7段階の評価基準を用いた。当該評価では、4点を基準飲料と同等のおいしさとした。また、4点から7点に近づくにつれて、基準飲料よりもおいしくなるとし、4点から1点に近づくにつれて、基準飲料よりもおいしくなくなるとした。
【0069】
<炭酸感の評価基準>
「炭酸感」の評価では、1点から7点の7段階の評価基準を用いた。当該評価では、4点を基準飲料と同等の炭酸感とした。また、4点から7点に近づくにつれて、基準飲料よりも炭酸感が強く感じられるものとし、4点から1点に近づくにつれて、基準飲料よりも炭酸感が弱く感じられるものとした。
【0070】
<香りの評価基準>
「香り」の評価では、1点から7点の7段階の評価基準を用いた。当該評価では、4点を基準飲料と同等の香りとした。また、4点から7点に近づくにつれて、基準飲料よりも香りが強く感じられるものとし、4点から1点に近づくにつれて、基準飲料よりも香りが弱く感じられるものとした。
【0071】
結果を表2に示す。なお、下記表2、表4及び表6において、評価結果の数値は、パネリストの採点結果を加算平均した値である。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、比較例1の炭酸ゼリー飲料は、参考例1の炭酸飲料(液体)と比較して、炭酸感が弱く感じられた。この結果から、炭酸ゼリー飲料は、炭酸ガスの圧力を同一にした炭酸飲料(液体)ほどの炭酸感が感じられないことが理解できた。本発明者等は、この第1の試験の結果から、炭酸ゼリー飲料における炭酸感を増強させることを着想した。
【0074】
[第2の試験]
以下に示す方法で第2の試験(第2の官能試験)を行った。
【0075】
(実施例1~4の炭酸ゼリー飲料の取得)
飲料水にシトラールを含有させたこと以外は、第1の試験の比較例1と同様の方法で、下記表3に示す実施例1~4の炭酸ゼリー飲料を得た。下記表3に示すように、実施例1~4の炭酸ゼリー飲料では、シトラールの濃度を互いに異ならせた。
【0076】
(実施例5~8の炭酸ゼリー飲料の取得)
飲料水にシネオールを含有させたこと以外は、第1の試験の比較例1と同様の方法で、下記表3に示す実施例5~8の炭酸ゼリー飲料を得た。下記表3に示すように、実施例5~8の炭酸ゼリー飲料では、シネオールの濃度を互いに異ならせた。
【0077】
(比較例1の炭酸ゼリー飲料の取得)
第1の試験に示した方法と同様の方法で、下記表3に示す比較例1の炭酸ゼリー飲料を得た。
【0078】
【表3】
【0079】
実施例1~8及び比較例1の炭酸ゼリー飲料を、5人のパネリストが試飲し、「おいしさ」、「炭酸感」及び「香り」について評価した。本評価は、第1の試験と同じ評価基準を用いて行い、評価基準における基準飲料には、比較例1の炭酸ゼリー飲料を用いた。
【0080】
結果を下記表4に示す。
【表4】
【0081】
表4に示すように、1ppm~30ppmの範囲内のシトラールを含む実施例1~4の炭酸ゼリー飲料と、0.1ppm~2.0ppmの範囲内のシネオールを含む実施例5~8の炭酸ゼリー飲料は、シトラールやシネオールを含有しない比較例1の炭酸ゼリー飲料と比較して、炭酸感が増強されていた。
【0082】
[第3の試験]
以下に示す方法で第3の試験(第3の官能試験)を行った。
【0083】
(実施例3の炭酸ゼリー飲料の取得)
第2の試験に示した方法と同様の方法で、下記表5に示す実施例3の炭酸ゼリー飲料を得た。
【0084】
(実施例9~12の炭酸ゼリー飲料の取得)
ゲル化剤の含有量を変更したこと以外は実施例3と同様の方法で、下記表5に示す実施例9~12の炭酸ゼリー飲料を得た。下記表5に示すように、実施例9~12の炭酸ゼリー飲料では、ゲル化剤の濃度を互いに異ならせることで、破断荷重を互いに異ならせた。
【0085】
(比較例1の炭酸ゼリー飲料の取得)
第1の試験に示した方法と同様の方法で、下記表5に示す比較例1の炭酸ゼリー飲料を得た。
【0086】
【表5】
【0087】
実施例3及び9~12の炭酸ゼリー飲料を、5人のパネリストが試飲し、「おいしさ」、「炭酸感」及び「香り」について評価した。本評価は、第1の試験と同じ評価基準を用いて行い、評価基準における基準飲料には、比較例1の炭酸ゼリー飲料を用いた。
【0088】
結果を下記表6に示す。
【表6】
【0089】
表6に示すように、実施例3及び9~12の炭酸ゼリー飲料は、比較例1の炭酸ゼリー飲料と比較して、炭酸感をより強く感じることができた。この結果から、実施例3及び9~12の炭酸ゼリー飲料は、炭酸感を増強できたことが理解できた。また、実施例3及び9~12の炭酸ゼリー飲料の中でも、実施例3及び9~11の炭酸ゼリー飲料が炭酸感をより強く感じることができ、実施例3及び10の炭酸ゼリー飲料が炭酸感を特に強く感じることができた。