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  • 特許-蛍光体粉末、複合体および発光装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】蛍光体粉末、複合体および発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20240214BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240214BHJP
【FI】
C09K11/64
H01L33/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020002550
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2020164788
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019069107
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】奥園 達也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真太郎
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/077240(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/018873(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/098932(WO,A1)
【文献】特開2006-257353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
H01L33/00;33/48-33/64
G02B5/20-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、
下記抽出イオン分析Aから求められる、当該蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下である、蛍光体粉末であり、
前記Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子は、一般式:(M1 ,M2 ,Eu )(Si 12-(m+n) Al m+n )(O 16-n )(ただし、M1は1価のLi元素であり、M2は2価のCa元素である)で示されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体で構成され、前記一般式において、x=0、0<y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0である、蛍光体粉末。
(抽出イオン分析A)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、60℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量で除することで、Cを求める。
【請求項2】
下記抽出イオン分析Bから求められる、当該蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが50ppm以上250ppm以下である、請求項1に記載の蛍光体粉末。
(抽出イオン分析B)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、80℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量で除することで、Cを求める。
【請求項3】
下記抽出イオン分析Cから求められる、当該蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが250ppm以上650ppm以下である、請求項1または2に記載の蛍光体粉末。
(抽出イオン分析C)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、100℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量で除することで、Cを求める。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の蛍光体粉末と、前記蛍光体粉末を封止する封止材と、
を備える複合体。
【請求項5】
励起光を発する発光素子と、
前記励起光の波長を変換する請求項4に記載の複合体と、
を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末、複合体および発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物、酸窒化物蛍光体として、特定の希土類元素が賦活されたα型サイアロン蛍光体は、有用な蛍光特性を有することが知られており、白色LED等に適用されている。α型サイアロン蛍光体は、α型窒化ケイ素結晶のSi-N結合が部分的にAl-N結合とAl-O結合で置換され、電気的中性を保つために、結晶格子間に特定の元素(Ca、並びにLi、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属)が格子内に侵入固溶した構造を有している。侵入固溶する元素の一部を発光中心となる希土類元素とすることにより蛍光特性が発現する。中でも、Caを固溶させ、その一部をEuで置換したα型サイアロン蛍光体は、紫外~青色領域の幅広い波長域で比較的効率よく励起され、黄~橙色発光を示す。このようなα型サイアロン蛍光体の蛍光特性をさらに向上させる試みとして、たとえば、分級処理によって、特定の平均粒径を有するα型サイアロン蛍光体を選別することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-96882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、白色LEDのさらなる高輝度化が要望されており、白色LEDに使用される蛍光体粉末の発光特性についてもより一層の向上が求められている。
本発明は上述のような課題を鑑みたものであり、発光特性が向上した蛍光体粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末であって、
下記抽出イオン分析Aから求められる、当該蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下である、蛍光体粉末
が提供される。
(抽出イオン分析A)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、60℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量で除することで、Cを求める。
【0006】
また、本発明によれば、上述した蛍光体粉末と、当該蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える複合体が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、励起光を発する発光素子と、前記励起光の波長を変換する上述の複合体と、を備える発光装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光特性が向上した蛍光体粉末に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る発光装置の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係る蛍光体粉末は、Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末である。当該蛍光体粉末は、下記抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下である。
(抽出イオン分析A)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、60℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量で除することで、Cを求める。すなわち、Cは、蛍光体粉末(固形)の単位質量当たりのアンモニウムイオンの量を表す指標である。
【0012】
補足しておくと、Mは、イオンクロマトグラフィ法により測定された水溶液のアンモニウムイオン濃度に、用いた水の質量(25g)を乗ずることで求めることができる。
また、Cは、Mを、分析に供された蛍光体粉末の質量(0.5g)で除することで求められる。
の単位が「グラム(g)」である場合、C[単位:ppm]は、M[単位:g]を蛍光体粉末の質量(0.5g)で除した値に10を乗ずることで求めることができる。
上記補足事項については、抽出条件が異なる以外は、以下の抽出イオン分析BおよびCにおいても同様である。
【0013】
本実施形態の蛍光体粉末によれば、従来のα型サイアロン蛍光体粒子が持つ励起波長域および蛍光波長域を保持しつつ、その蛍光特性を向上させることができるため、結果として、本実施形態の蛍光体粉末を用いた発光装置の発光特性を向上させることができる。
この理由として、詳細なメカニズムは定かでないが、上述した抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppmである蛍光体粉末では、α型サイアロン蛍光体粒子の表面の化学的安定性が高く、蛍光に寄与する蛍光体の母結晶が安定的に存在することでα型サイアロン蛍光体粒子の蛍光特性が向上することが考えられる。このように、抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cを上記範囲とし、α型サイアロン蛍光体粒子の表面の化学的安定性を高めることを実現するために、後述する酸処理工程の条件を適切に調節することが有効であるとの知見を得た。
【0014】
(α型サイアロン蛍光体粒子)
Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子は、以下に説明するα型サイアロン蛍光体で構成される。
α型サイアロン蛍光体は、一般式:(M1,M2,Eu)(Si12-(m+n)Alm+n)(O16-n)(ただし、M1は1価のLi元素であり、M2はMg、Ca及びランタニド元素(LaとCeを除く)からなる群から選ばれる1種以上の2価の元素)で示されるEu元素を含有するα型サイアロン蛍光体である。
【0015】
α型サイアロン蛍光体の固溶組成は、上記一般式におけるx、y、z及びそれに付随するSi/Al比やO/N比により決まるmとnで表され、0≦x<2.0、0≦y<2.0、0<z≦0.5、0<x+y、0.3≦x+y+z≦2.0、0<m≦4.0、0<n≦3.0である。特にM2として、Caを使用すると、幅広い組成範囲でα型サイアロン蛍光体が安定化し、その一部を発光中心となるEuで置換することにより、紫外から青色の幅広い波長域の光で励起され、黄から橙色の可視発光を示す蛍光体が得られる。
【0016】
一般に、α型サイアロン蛍光体は、当該α型サイアロン蛍光体とは異なる第二結晶相や不可避的に存在する非晶質相のため、組成分析等により固溶組成を厳密に規定することができない。α型サイアロン蛍光体の結晶相としては、α型サイアロン単相が好ましく、他の結晶相として窒化アルミニウム又はそのポリタイポイド等を含んでいてもよい。
【0017】
α型サイアロン蛍光体粒子では、複数の等軸状の一次粒子が焼結して塊状の二次粒子を形成する。本実施形態における一次粒子とは、電子顕微鏡等で観察可能な単独で存在することができる最小粒子をいう。α型サイアロン蛍光体粒子の形状は特に限定されず、球状体、立方体、柱状体、不定形などが挙げられる。
【0018】
α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径の下限は、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径の上限は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径は上記二次粒子における寸法である。α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径を5μm以上とすることにより、後述する複合体の透明性をより高めることができる。一方、α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径を30μm以下とすることにより、ダイサー等で複合体を切断加工する際に、チッピングが生じることを抑制することができる。
【0019】
ここで、α型サイアロン蛍光体粒子の平均粒径とは、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法による体積基準の積算分率におけるメジアン径(D50)を意味する。
【0020】
本実施形態の蛍光体粉末は、下記抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下である。
(抽出イオン分析A)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、60℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除することで、Cを求める。
【0021】
上述の抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm未満の場合、高い発光特性が安定的に得られないことがある。その理由は必ずしも明らかではないが、Cが15ppm未満の場合、α型サイアロン蛍光体粒子の表面に保護膜が厚く形成される結果、蛍光体からの発光を保護膜が吸収するため内部量子効率が低下することが原因と推定される。
上述の抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの上限は、80ppm以下がより好ましく、60ppm以下がさらに好ましい。Cの上限を上記範囲とすることにより、水分との反応性が抑制されたα型サイアロン蛍光体粒子とすることができる。
【0022】
本実施形態の蛍光体粉末は、抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが上記範囲であることに加え、下記抽出イオン分析Bから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの下限が、50ppm以上であることが好ましく、60ppm以上であることがより好ましく、70ppm以上であることがさらに好ましい。また、下記抽出イオン分析Bから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの上限が、250ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、150ppm以下であることがさらに好ましい。
(抽出イオン分析B)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、80℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除することで、Cを求める。
上記抽出イオン分析Bから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの下限を上記範囲とすることにより、高い発光特性をより安定的に得ることができる。
また、上記抽出イオン分析Bから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの上限を上記範囲とすることにより、水分との反応性がより一層抑制されたα型サイアロン蛍光体粒子とすることができる。
【0023】
さらに、本実施形態の蛍光体粉末は、下記抽出イオン分析Cから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの下限が250ppm以上であることが好ましく、300ppm以上であることがより好ましく、350ppm以上であることがさらに好ましい。また、下記抽出イオン分析Cから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの上限が、650ppm以下であることが好ましく、630ppm以下であることがより好ましく、600ppm以下であることがさらに好ましい。
(抽出イオン分析C)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製容器中の蒸留水25mlに加え、100℃、24時間保持した後、濾過により固形分が除かれた水溶液に含まれるアンモニウムイオンの総質量Mを、イオンクロマトグラフィ法を用いて求める。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除することで、Cを求める。
上記抽出イオン分析Cから求められる抽出イオン分析を実施したときの、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの下限を上記範囲とすることにより、高い外部量子効率をより安定的に得ることができる。
また、上記抽出イオン分析Cから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cの上限を上記範囲とすることにより、水分との反応性がより一層抑制されたα型サイアロン蛍光体粒子とすることができる。
【0024】
以上説明した蛍光体粉末によれば、上述した抽出イオン分析Aによって測定される、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下であることにより、蛍光特性の向上を図ることができる。
【0025】
(蛍光体粉末の製造方法)
本実施形態のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末の製造方法について説明する。α型サイアロン蛍光体粒子では、合成過程において、主として原料粉末の一部が反応して液相が形成され、その液相を介して各元素が移動することにより、固溶体形成と粒成長が進む。
まず、Euを含有するα型サイアロン蛍光体粒子を構成する元素を含む原料を混合する。カルシウム原料として、窒化カルシウムを使用して合成した酸素含有率の低いα型サイアロン蛍光体粒子では、カルシウムが高濃度に固溶される。特にCa固溶濃度が高い場合、酸化物原料を使用した従来組成よりも高波長側(590nm以上)に発光ピーク波長を有する蛍光体が得られる。具体的には前記一般式において、1.5<x+y+z≦2.0が好ましい。Caの一部をLi、Mg、Sr、Ba、Y及びランタニド元素(LaとCeを除く。)に置換し、発光スペクトルの微調整を行うこともできる。
【0026】
上記以外の原料粉末としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びEu化合物が挙げられる。Eu化合物としては、酸化ユーロピウム、加熱後に酸化ユーロピウムになる化合物、及び、窒化ユーロピウムがあり、好ましくは、系内の酸素量を減らすことができる窒化ユーロピウムが好ましい。
【0027】
予め合成したα型サイアロン蛍光体粒子を適量原料粉末に添加すると、これが粒成長の基点となり、比較的短軸径の大きなα型サイアロン蛍光体粒子を得ることができ、添加するα型サイアロン粒子の形態を変えることで粒形状を制御することができる。
【0028】
前記した各原料を混合する方法としては、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法がある。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミルがある。大気中で不安定な窒化カルシウムの混合については、その加水分解や酸化が合成品特性に影響するため、不活性雰囲気のグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0029】
混合して得た粉末(以下、単に原料粉末という)を、原料及び合成される蛍光体と反応性の低い材質の容器、たとえば窒化ホウ素製容器内に充填し、窒素雰囲気中で、所定時間加熱することによりα型サイアロン蛍光体を得る。加熱処理の温度は、1650℃以上1950℃以下とすることが好ましい。
【0030】
加熱処理の温度を1650℃以上とすることにより、未反応生成物の残存する量を抑制し、十分に一次粒子を成長させることができ、1950℃以下とすることにより、顕著な粒子間の焼結を抑制できる。
【0031】
原料粉末の容器内への充填は、加熱中に粒子間焼結を抑制する観点から、嵩高くすることが好ましい。具体的には、原料粉末の容器に充填する際に嵩密度を0.6g/cm以下とすることが好ましい。
【0032】
加熱処理における加熱時間は、未反応物が多く存在したり、一次粒子が成長不足であったり、粒子間の焼結が生じてしまったりという不都合が生じない時間範囲として、2時間以上24時間以下が好ましい。
【0033】
上述の工程によって外形がインゴット状のα型サイアロン蛍光体が生成される。このインゴット状のα型サイアロン蛍光体を、クラッシャー、乳鉢粉砕、ボールミル、振動ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕工程と、これらの粉砕処理後の篩分級工程とによって、二次粒子のD50粒径が調整されたα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を得ることができる。また、水溶液中に分散させて粒子径が小さく沈降しにくい二次粒子を除去する工程で行うことで、二次粒子のD50粒径を調整することができる。
【0034】
実施形態に係るα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末は、上述した工程を実施した後、酸処理工程を実施することにより作製することができる。
酸処理工程では、たとえば、酸性水溶液中にα型サイアロン蛍光体粒子が浸漬される。酸性水溶液としては、フッ酸、硝酸、塩酸などの酸から選ばれる1種の酸を含む酸性水溶液、または上記の酸から2種以上を混合して得られる混酸水溶液が挙げられる。この中でも、フッ酸を単独で含むフッ酸水溶液およびフッ酸と硝酸を混合して得られる混酸水溶液がより好ましい。酸性水溶液の原液濃度は、用いる酸の強さによって適宜設定されるが、たとえば、0.7%以上100%以下が好ましく、0.7%以上40%以下がより好ましい。また、酸処理を実施する際の温度は60℃以上90℃以下が好ましく、反応時間(浸漬時間)としては15分以上80分以下が好ましい。
酸処理工程の好ましい態様としては、酸性溶液中に蛍光体粉末を加えた後、一定時間攪拌する態様が挙げられる。このようにすれば、α型サイアロン蛍光体粒子の表面において酸との反応をより確実に進行させることができる。攪拌は高速で行うことで、粒子表面の酸処理が十二分になされやすい。ここでの「高速」とは、用いる攪拌装置にも依るが、実験室レベルのマグネチックスターラーを用いる場合には、攪拌速度は例えば400rpm以上、現実的には400rpm以上500rpm以下である。粒子表面に常に新たな酸を供給するという通常の攪拌の目的からすれば、攪拌速度は200rpm程度で十分であるが、400rpm以上の高速攪拌を行うことで、化学的な作用に加えて物理的な作用により、粒子表面の処理が十二分になされやすくなる。
上述したように、抽出イオン分析Aによって測定される、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cを15ppm以上100ppm以下とすることは、酸処理に用いる酸性水溶液の原液濃度、酸処理時の温度、反応時間、攪拌速度などを最適に調節することにより制御することができる。たとえば、後述する豊富な実施例を参考に、酸性水溶液の原液濃度、酸処理時の温度、反応時間、攪拌速度の組み合わせに近似する条件を採用し酸処理を実施することにより、抽出イオン分析Aによって測定されるアンモニウムイオンの濃度Cを所望の値とすることができる。
【0035】
(複合体)
実施形態に係る複合体は、上述した蛍光体粉末と、当該蛍光体粉末を封止する封止材と、を備える。本実施形態に係る複合体では、上述したα型サイアロン蛍光体粒子が封止材中に複数分散されている。封止材としては、周知の樹脂やガラスなどの材料を用いることができる。封止材に用いる樹脂としては、たとえば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの透明樹脂が挙げられる。
【0036】
複合体を作製する方法としては、液体状の樹脂またはガラスに実施形態に係る蛍光体粉末を加え、均一に混合した後、加熱処理により硬化させて作製する方法が挙げられる。
【0037】
(発光装置)
図1は、実施形態に係る発光装置の構造を示す概略断面図である。図1に示すように、発光装置100は、発光素子120、ヒートシンク130、ケース140、第1リードフレーム150、第2リードフレーム160、ボンディングワイヤ170、ボンディングワイヤ172および複合体40を備える。
【0038】
発光素子120はヒートシンク130上面の所定領域に実装されている。ヒートシンク130上に発光素子120を実装することにより、発光素子120の放熱性を高めることができる。なお、ヒートシンク130に代えて、パッケージ用基板を用いてもよい。
【0039】
発光素子120は、励起光を発する半導体素子である。発光素子120としては、たとえば、近紫外から青色光に相当する300nm以上500nm以下の波長の光を発生するLEDチップを使用することができる。発光素子120の上面側に配設された一方の電極(図示せず)が金線などのボンディングワイヤ170を介して第1リードフレーム150の表面と接続されている。また、発光素子120の上面に形成されている他方の電極(図示せず)は、金線などのボンディングワイヤ172を介して第2リードフレーム160の表面と接続されている。
【0040】
ケース140には、底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状の凹部が形成されている。発光素子120は、上記凹部の底面に設けられている。発光素子120を取り囲む凹部の壁面は反射板の役目を担う。
【0041】
複合体40は、ケース140によって壁面が形成される上記凹部に充填されている。複合体40は、発光素子120から発せられる励起光をより長波長の光に変換する波長変換部材である。複合体40として、本実施形態の複合体が用いられ、樹脂などの封止材30中に本実施形態のα型サイアロン蛍光体粒子1が分散されている。発光装置100は、発光素子120の光と、この発光素子120の光を吸収し励起されるα型サイアロン蛍光体粒子1から発生する光との混合色を発する。発光装置100は、発光素子120の光とα型サイアロン蛍光体粒子1から発生する光との混色により白色を発光することが好ましい。
【0042】
本実施形態の発光装置100では、上述したように、α型サイアロン蛍光体粒子1からなる蛍光体粉末が、上述した条件の抽出イオン分析Aから求められる、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下という条件を満たすことにより、α型サイアロン蛍光体粒子1および複合体40の蛍光特性が向上し、ひいては、発光装置100の発光強度の向上を図ることができる。
【0043】
なお、図1では、表面実装型の発光装置が例示されているが、発光装置は表面実装型に限定されず、砲弾型やCOB(チップオンボード)型、CSP(チップスケールパッケージ)型であってもよい。
【0044】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
グローブボックス内で、原料粉末の配合組成として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、E10グレード)を62.4質量部、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ株式会社製、Eグレード)を22.5質量部、酸化ユーロピウム粉末(信越化学工業社製RUグレード)を2.2質量部、窒化カルシウム粉末(高純度化学研究所社製)を12.9質量部とし、原料粉末をドライブレンド後、目開き250μmのナイロン製篩を通して原料混合粉末を得た。その原料混合粉末120gを、内部の容積が0.4リットルの蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(デンカ株式会社製、N-1グレード)に充填した。
【0047】
この原料混合粉末を容器ごとカーボンヒーターの電気炉で大気圧窒素雰囲気中、1800℃で16時間の加熱処理を行った。原料混合粉末に含まれる窒化カルシウムは、空気中で容易に加水分解しやすいので、原料混合粉末を充填した窒化ホウ素製容器はグローブボックスから取り出した後、速やかに電気炉にセットし、直ちに真空排気し、窒化カルシウムの反応を防いだ。
【0048】
合成物は乳鉢で軽く解砕し、目開き150μmの篩を全通させ、蛍光体粉末を得た。この蛍光体粉末に対して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定(X-ray Diffraction、以下、XRD測定という。)により、結晶相を調べたところ、存在する結晶相はEu元素を含有するCa-α型サイアロン(Caを含むα型サイアロン)であった。
【0049】
次に、50%フッ酸3.2mlと、70%硝酸0.8mlとを混合して混合原液とした。混合原液に蒸留水396mlを加え、混合原液の濃度を1.0%に希釈し、混酸水溶液400mlを調製した。この混酸水溶液に、上述のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末30gを添加し、500mlのビーカー中で、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度450rpmで攪拌しながら、30分浸漬する酸処理を実施した。酸処理後の粉末は、蒸留水にて十分に酸を洗い流して濾過し、乾燥させた後、目開き45μmの篩を通して実施例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0050】
(実施例2)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸2.0mlと、70%硝酸2.0mlとを混合した混合原液に蒸留水396mlを加え、原液濃度1.0%の混酸水溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例2のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0051】
(実施例3)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸1.2mlと、70%硝酸2.8mlとを混合した混合原液に蒸留水396mlを加え、原液濃度1.0%の混酸水溶液を調製したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例3のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0052】
(実施例4)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸50mlと、70%硝酸50mlとを混合した混合原液に蒸留水300mlを加え、原液濃度25%の混酸水溶液を調製したこと、および混酸水溶液の温度を80℃に保ちながら蛍光体粉末を60分浸漬したことを除いて、実施例1と同様な手順で実施例4のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0053】
(比較例1)
実施例1で用いた混酸水溶液に代えて、50%フッ酸1.0mlと、70%硝酸1.0mlとを混合した混合原液に蒸留水398mlを加え、原液濃度0.5%の混酸水溶液を用い、500mlのビーカー中で、混酸水溶液の温度を80℃に保ち、マグネチックスターラを用いて回転速度300rpmで攪拌しながら、30分浸漬する酸処理を実施したことを除き、実施例1と同様な手順で比較例1のα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
比較例1で採用している混酸水溶液の原液濃度および攪拌回転速度は従来慣用されている水準のものとした。
【0054】
(比較例2)
実施例3において、マグネチックスターラによる攪拌速度を、450rpmから、通常の水準である200rpmとした以外は実施例3と同様にして、α型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を作製した。
【0055】
(粒度測定)
粒度はMicrotrac MT3300EX II(マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、JIS R1629:1997に準拠したレーザー回折散乱法により測定した。イオン交換水100ccに蛍光体粉末0.5gを投入し、そこにUltrasonic Homogenizer US-150E(株式会社日本精機製作所、チップサイズφ20、Amplitude100%、発振周波数19.5KHz、振幅約31μm)で3分間、分散処理を行い、その後、MT3300EX IIで粒度測定を行った。得られた粒度分布からメディアン径(D50)を求めた。
【0056】
(抽出イオン分析A)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE製容器中の蒸留水25mlに加えた。蛍光体粉末および蒸留水が入れられた容器を60℃、24時間保持した後、濾過により固形分を除いた。固形分が除かれた水溶液におけるアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフィ装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定し、その濃度と水溶液の量から、溶出したアンモニウムイオンの総質量M(単位:g)を求めた。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除し、10を乗ずることで、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度C(単位:ppm)を求めた。
【0057】
(抽出イオン分析B)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE製容器中の蒸留水25mlに加えた。蛍光体粉末および蒸留水が入れられた容器を80℃、24時間保持した後、濾過により固形分を除いた。固形分が除かれた水溶液におけるアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフィ装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定し、その濃度と水溶液の量から、溶出したアンモニウムイオンの総質量M(単位:g)を求めた。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除し、10を乗ずることで、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度C(単位:ppm)を求めた。
【0058】
(抽出イオン分析C)
蛍光体粉末0.5gを蓋付きのPTFE製容器中の蒸留水25mlに加えた。蛍光体粉末および蒸留水が入れられた容器を100℃、24時間保持した後、濾過により固形分を除いた。固形分が除かれた水溶液におけるアンモニウムイオン濃度をイオンクロマトグラフィ装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により測定し、その濃度と水溶液の量から、溶出したアンモニウムイオンの総質量M(単位:g)を求めた。そして、Mを蛍光体粉末の質量(0.5g)で除し、10を乗ずることで、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度C(単位:ppm)を求めた。
【0059】
(発光特性)
得られた各蛍光体粉末に関して、室温における内部量子効率および外部量子効率を分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD-7000)により測定し、以下の手順で算出した。
蛍光体粉末を凹型セルの表面が平滑になるように充填し、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を励起源として、蛍光体粉末の試料に照射し、試料の蛍光スペクトル測定を行った。
試料部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。その際、450nm以上465nm以下の波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
試料部にα型サイアロン蛍光体粒子からなる蛍光体粉末を取り付けて、励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465nm以上800nm以下の範囲で算出した。
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
上記の測定方法を用い、株式会社サイアロンより販売している標準試料NSG1301を測定した場合、外部量子効率は55.6%、内部量子効率74.8%となった。この試料を標準として装置を校正した。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、60℃、24時間保持後の、蛍光体粉末のアンモニウムイオンの濃度Cが15ppm以上100ppm以下の範囲にある実施例1~4の蛍光体粉末は、この条件を満たさない比較例1および2に比べて、内部量子効率および外部量子効率がともに向上し、優れた発光特性を示すことが確認された。
ちなみに、例えば実施例3と比較例2の対比から、同じ原材料を用いても、酸処理の際の攪拌速度が小さいと、Cが15ppm以上100ppm以下の範囲にある蛍光体粉末を得ることが難しいことが理解される。
【符号の説明】
【0062】
1 α型サイアロン蛍光体粒子
30 封止材
40 複合体
100 発光装置
120 発光素子
130 ヒートシンク
140 ケース
150 第1リードフレーム
160 第2リードフレーム
170 ボンディングワイヤ
172 ボンディングワイヤ
図1