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特許7436215コンピュータプログラム、配電盤内情報処理方法、配電盤内情報処理装置及び配電盤内情報処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、配電盤内情報処理方法、配電盤内情報処理装置及び配電盤内情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20240214BHJP
   H02B 3/00 20060101ALI20240214BHJP
   G01R 31/56 20200101ALI20240214BHJP
【FI】
G01R31/12 A
H02B3/00 M
G01R31/56
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020006970
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021113761
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 7月 8日に、第320回電気材料技術懇談会『若手研究発表会』にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 7月31日に、東光高岳技報,第6巻,第1号,第4~7頁にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 8月23日に、令和元年電力・エネルギー部門大会論文集(CD‐ROM)、ポスターセッション番号P76にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 9月 4日に、令和元年電力・エネルギー部門大会にて公開
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514105011
【氏名又は名称】株式会社東光高岳
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】栗原 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】折戸 由貴
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146112(JP,A)
【文献】特開2001-201451(JP,A)
【文献】特開2007-149458(JP,A)
【文献】特開平11-127253(JP,A)
【文献】特開2010-165321(JP,A)
【文献】特開2000-235064(JP,A)
【文献】特開平09-251062(JP,A)
【文献】特開2012-194034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
H02B 3/00
G01R 31/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電盤の汚損状態を検出するACMセンサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤から、前記ACMセンサにより検出された腐食電流を含む第1検出値と、前記湿度センサにより検出された湿度を含む第2検出値とを受信し、
前記第1検出値及び第2検出値に関連付けて前記配電盤の識別情報を取得し、
受信した第1検出値及び第2検出値の組み合わせ値と、配電盤の内部における汚損状態を第1軸、湿度を第2軸とし、前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能の低下リスクに応じて複数領域に区分されているマップとに基づいて、前記組み合わせ値の属する絶縁性能の低下リスクの区分を特定し、
前記マップ上に前記組み合わせ値を示すマーカ及び各低下リスクの領域を重畳したマップ画像を含む前記配電盤内の絶縁物の絶縁性能に関する情報を、前記配電盤の識別情報に対応付けて記憶してある出力先情報にて識別される出力先に出力する
処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記マップ上の領域は、絶縁性能の低下リスクを示す複数領域に区分されており、
前記第1検出値及び第2検出値に基づいて前記絶縁性能の低下リスクの属する区分を出力する
処理をコンピュータに実行させるための請求項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記マップは、前記配電盤の使用における経過年数に応じて複数存在しており、
前記配電盤の使用における経過年数を取得し、
取得した経過年数に応じた前記マップ上に、前記絶縁性能に関する情報を出力する
処理をコンピュータに実行させるための請求項又は請求項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記第1検出値及び第2検出値が所定の閾値以上の場合に、通知を出力する
処理をコンピュータに実行させるための請求項1から請求項のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記絶縁性能に関する情報は、前記配電盤の交換に関する情報又は前記絶縁性能の低下リスクを含む
請求項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
配電盤の汚損状態を検出するACMセンサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤から、前記ACMセンサにより検出された腐食電流を含む第1検出値と、前記湿度センサにより検出された湿度を含む第2検出値とを受信し、
前記第1検出値及び第2検出値に関連付けて前記配電盤の識別情報を取得し、
受信した第1検出値及び第2検出値の組み合わせ値と、配電盤の内部における汚損状態を第1軸、湿度を第2軸とし、前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能の低下リスクに応じて複数領域に区分されているマップとに基づいて前記組み合わせ値の属する絶縁性能の低下リスクの区分を特定し、
前記マップ上に前記組み合わせ値を示すマーカ及び各低下リスクの領域を重畳したマップ画像を含む前記配電盤内の絶縁性能に関する情報を、前記配電盤の識別情報に対応付けて記憶してある出力先情報にて識別される出力先に出力する
配電盤内情報処理方法。
【請求項7】
配電盤の汚損状態を検出するACMセンサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤から、前記ACMセンサにより検出された腐食電流を含む第1検出値と、前記湿度センサにより検出された湿度を含む第2検出値とを取得する取得部と、
前記第1検出値及び第2検出値に関連付けて前記配電盤の識別情報を取得する識別情報取得部と、
前記取得部が取得した第1検出値及び第2検出値の組み合わせ値と、配電盤の内部における汚損状態を第1軸、湿度を第2軸とし、前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能の低下リスクに応じて複数領域に区分されているマップとに基づいて前記組み合わせ値の属する絶縁性能の低下リスクの区分を特定する特定部と、
前記マップ上に前記組み合わせ値を示すマーカ及び各低下リスクの領域を重畳したマップ画像を含む前記配電盤内の絶縁性能に関する情報を、前記識別情報取得部で取得した前記配電盤の識別情報に対応付けて記憶してある出力先情報にて識別される出力先に出力する出力部と
を備える配電盤内情報処理装置。
【請求項8】
配電盤の汚損状態を検出するACMセンサ及び湿度を検出する湿度センサと、配電盤内情報処理装置とを備える配電盤内情報処理システムであって、
前記配電盤内情報処理装置は、
前記配電盤から、前記ACMセンサにより検出された腐食電流を含む第1検出値と、前記湿度センサにより検出された湿度を含む第2検出値とを取得する取得部と、
前記第1検出値及び第2検出値に関連付けて前記配電盤の識別情報を取得する識別情報取得部と、
前記取得部が取得した第1検出値及び第2検出値の組み合わせ値と、配電盤の内部における汚損状態を第1軸、湿度を第2軸とし、前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能の低下リスクに応じて複数領域に区分されているマップとに基づいて前記組み合わせ値の属する絶縁性能の低下リスクの区分を特定する特定部と、
前記マップ上に前記組み合わせ値を示すマーカ及び各低下リスクの領域を重畳したマップ画像を含む前記配電盤内の絶縁性能に関する情報を、前記識別情報取得部で取得した前記配電盤の識別情報に対応付けて記憶してある出力先情報にて識別される出力先に出力する出力部とを備える
配電盤内情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、コンピュータプログラム、配電盤内情報処理方法、配電盤内情報処理装置及び配電盤内情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、送受配電設備は、高圧配電線から分岐して給電し、工場、ビルなどの需要家内の設備に電力を供給するようになっている。これらの送配電設備では、ケーブルや配電盤内に設ける電気機器等において、絶縁体や機器に劣化等による部分放電が発生することがある。そして、前記放電が発生すると、運転状態にある機器や、ケーブルの絶縁被覆の絶縁性能が低下あるいは消失し、重大な絶縁破壊事故につながるという問題がある。
【0003】
そこで、配電盤等の定期点検においては、配電盤内の電気機器の絶縁物における絶縁抵抗の測定、電気機器の動作確認、絶縁物の清掃等が実施され、配電盤の健全性の確認が行われている。通常、電気機器の絶縁物における絶縁抵抗は、電気機器への通電を停止して電気設備に含まれる絶縁物に試験電圧を印加し、絶縁物に流れる電流に基づいて測定対象体の抵抗値を測定するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-8401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電気機器の絶縁物における絶縁抵抗の測定は、電気機器への通電を停止して行っているので、停電による設備稼働率の低下を招くことになり需要家側の負担が大きい。
【0006】
本開示の目的は、配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力するコンピュータプログラム、配電盤内情報処理方法、配電盤内情報処理装置及び配電盤内情報処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様におけるコンピュータプログラムは、配電盤の汚損状態を検出する汚損センサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤の前記汚損センサから出力される第1検出値と、前記湿度センサから出力される第2検出値とを取得し、取得した第1検出値及び第2検出値に基づいて前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力する処理をコンピュータに実行させる。
【0008】
本開示の一態様における配電盤内情報処理方法は、配電盤の汚損状態を検出する汚損センサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤の前記汚損センサから出力される第1検出値と、前記湿度センサから出力される第2検出値とを取得し、取得した第1検出値及び第2検出値に基づいて前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力する。
【0009】
本開示の一態様における配電盤内情報処理装置は、配電盤の汚損状態を検出する汚損センサ及び湿度を検出する湿度センサを備える配電盤の前記汚損センサから出力される第1検出値と、前記湿度センサから出力される第2検出値とを取得する取得部と、前記取得部が取得した第1検出値及び第2検出値に基づいて前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力する出力部とを備える。
【0010】
本開示の一態様における配電盤内情報処理システムは、配電盤の汚損状態を検出する汚損センサ及び湿度を検出する湿度センサと、配電盤内情報処理装置とを備える配電盤内情報処理システムであって、前記配電盤内情報処理装置は、前記汚損センサから出力される第1検出値と、前記湿度センサから出力される第2検出値とを取得する取得部と、前記取得部が取得した第1検出値及び第2検出値に基づいて前記配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、配電盤の内部に設けられた絶縁物の絶縁性能に関する情報を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における配電盤内情報処理システムの概要図である。
図2】配電盤内情報処理システムの構成を示すブロック図である。
図3】配電盤情報DBに記憶される情報の内容例を示す図である。
図4】検出情報DBに記憶される情報の内容例を示す図である。
図5】情報処理装置にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】一次診断の方法の一例を示す概念図である。
図7】情報処理装置にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】第1例の診断結果画面を示す模式図である。
図9】第2例の診断結果画面を示す模式図である。
図10】第2実施形態における第1例の学習モデルの構成を説明する説明図である。
図11】第2実施形態における第2例の学習モデルの構成を説明する説明図である。
図12】情報処理装置にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明をその実施の形態を示す図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における配電盤内情報処理システム100の概要図である。配電盤内情報処理システム100は、情報処理装置1と、配電盤2内の計測装置3に接続される検出センサ4とを含む。情報処理装置1と計測装置3とは、ネットワークNを介してデータの送受信が可能である。情報処理装置1はさらに、ネットワークNを介して端末装置5と通信接続される。ネットワークNは、キャリアネットワークN2を含む公衆通信網であり、アクセスポイントAPと、キャリアネットワークN2における基地局BSとを含み、無線通信による通信を可能とする。
【0015】
情報処理装置1は、計測装置3を介して取得する検出センサ4の検出値に基づき、配電盤2の絶縁性能に関する情報を取得する。情報処理装置1は、取得した情報に基づき、顧客又は保全業者等の端末装置5を介して配電盤2の保全に関する情報を提供する。
【0016】
配電盤2は、電力送配電系統を筐体内に含む電力機器の一例である。配電盤2は、開閉部を備える金属製の筐体であり、略直方体形状を有する。複数の部屋に仕切られた筐体の内部には、電気機器である遮断器、変圧器、変流器等が収容されており、これら電気機器の絶縁材、母線支持材として絶縁物21が設けられている。配電盤2は、内部に収納される電気機器等を保護するため、接地されている。
【0017】
配電盤2の内部には、配電盤2の内部環境を検出する複数の検出センサ4が取り付けられている。検出センサ4は夫々、有線又は無線により計測装置3に接続されており、検出センサ4からの出力データを計測装置3へ出力する。計測装置3は、通信により、情報処理装置1へ出力データを送信する。
【0018】
検出センサ4は、第1実施形態では、湿度センサ41及び汚損センサ42を含む。湿度センサ41は、配電盤2の内部における湿度を検出するために用いられる。汚損センサ42は、配電盤2の内部における汚損状態を検出するために用いられる。第1実施形態では、汚損センサ42として、例えば、公知のACM(Atmospheric Corrosion Monitor )型腐食センサ(以下、ACMセンサ42と称する)を用いる例を説明する。なお、検出センサ4は、湿度センサ41及び汚損センサ42に限定されるものではなく、例えば部分放電センサ、振動センサ、ガスセンサ等を含んでもよい。検出センサ4は夫々、配電盤2の内部において複数個取り付けられていてもよい。検出センサ4は、配電盤2の内部に設けられる電気機器夫々に取り付けられていてもよい。
【0019】
ACMセンサ42は、鋼基板と、導電部材と、絶縁部材とを備え、鋼基板と導電部材との間には導線で電流計測器が接続される。ACMセンサ42は、2種類の異種の金属を互いに絶縁した状態で樹脂中に埋め込み、両者の端部を環境に露出して、両者の金属の間に水膜が連結したときに流れる腐食電流を測定して金属の腐食速度を測定する。ACMセンサ42の測定値により、大気環境の腐食性(汚損状態)を直接、かつ定量的に評価することが可能である。なお、電流計測器は、ACMセンサ42の側に備えられてもよく、計測装置3に備えられていてもよい。
【0020】
配電盤2の内部に収納された導体や機器充電部分と対地間の絶縁を保っている上述の絶縁物21には、樹脂材料が多く用いられており、高い絶縁特性が求められる。しかしながら、配電盤2は、通常屋外に設置され、塩分、粉塵、工場排気や自動車排気ガス由来の大気中のSOxやNOxなどの塵埃の多い環境で使用される。これらの塵埃は、汚損物として絶縁物21の表面に堆積する。また、配電盤2の設置環境は、内陸地域や沿岸部等多岐に渡り、様々な温度、湿度下に設置される。
【0021】
ところで、本発明者らは、鋭意努力の結果、絶縁物表面の汚損度及び汚損成分、並びに湿度と、絶縁物表面の絶縁特性とが相関関係を有することを見出した。絶縁物表面の汚損付着量と表面抵抗とは、特に高湿度条件において高い相関関係を有し、汚損付着量の増加に伴い表面抵抗が低下する傾向がある。本発明者らは、この知見より、配電盤内における湿度及び汚損付着量を沿面絶縁破壊リスクの推定に用いることを考えた。配電盤内情報処理システム100では、配電盤2の内部に取り付けた湿度センサ41及び汚損センサ42を用いて、配電盤2の内部環境を検出し汚損堆積状況を測定することで、配電盤2内の絶縁物21における絶縁性能を推定する。さらに、推定結果に応じた保全に関する情報を顧客等の端末装置5を介して提供する保全サービスを実現する。
【0022】
なお、本実施形態では、検出センサ4を配電盤2に取り付ける例を説明するが、検出センサ4の取り付け対象は配電盤2に限定されるものではない。検出センサ4は、例えば、絶縁物21を収容する筐体として個々に設置される遮断器、変圧器等の他の電力機器に取り付けられ、これら電力機器の状態を検出してもよい。
【0023】
このような配電盤内情報処理システム100の構成及び詳細な処理内容について以下に説明する。
【0024】
図2は、配電盤内情報処理システム100の構成を示すブロック図である。配電盤内情報処理システム100は、上述のように情報処理装置1と、計測装置3に接続される検出センサ4とを含む。情報処理装置1は、端末装置5と通信接続されている。
【0025】
情報処理装置1は、サーバコンピュータを用いる。情報処理装置1は、制御部10、記憶部11及び通信部12を備える。情報処理装置1は説明を容易にするために1台のサーバコンピュータとして説明するが、複数のサーバコンピュータで機能又は処理を分散させてもよいし、1台の大型コンピュータに仮想的に生成される複数のサーバコンピュータ(インスタンス)の内の1つであってもよい。
【0026】
制御部10は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit)等を用いたプロセッサであり、内蔵するROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリを用い、各構成部を制御して処理を実行する。
【0027】
記憶部11は、例えばハードディスク又はSSD(Solid State Drive )等の不揮発性メモリを含む。記憶部11には、プログラム1Pを含む制御部10が参照するプログラム及びデータが記憶されている。制御部10は、プログラム1Pを読み出して実行することによって、汎用的なサーバコンピュータを本開示特有の配電盤内情報処理装置として機能させる。記憶部11に記憶されるプログラム1Pは、記録媒体にコンピュータ読み取り可能に記録されている態様であってもよい。記憶部11は、図示しない読出装置によって記録媒体1Aから読み出されたプログラム1Pを記憶する。また、図示しない通信網に接続されている図示しない外部コンピュータからプログラム1Pをダウンロードし、記憶部11に記憶させたものであってもよい。なお記憶部11は、複数の記憶装置により構成されていてもよく、情報処理装置1に接続された外部記憶装置であってもよい。
【0028】
記憶部11には、配電盤2に関するデータを記録した配電盤情報DB(Data Base :データベース)111、及び検出センサ4による検出値を記録した検出情報DB112が記憶されている。また記憶部11には、学習モデル1Mが記憶されていてよい。学習モデル1Mについては、他の実施形態で詳述する。
【0029】
通信部12は、ネットワークNを介した通信を実現する通信インタフェースである。制御部10は通信部12により、ネットワークNを介した計測装置3及び端末装置5との間の情報の送受信が可能である。
【0030】
計測装置3は、制御部30、記憶部31、通信部32及び入出力部33を備える。
【0031】
制御部30は、一又は複数のCPU、GPU等を用いたプロセッサであり、内蔵するROM又はRAM等のメモリを用い、各構成部を制御して処理を実行する。記憶部31には、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含む。記憶部31には、制御部30が参照する情報が記憶される。通信部32は、ネットワークNを介した情報処理装置1との通信を実現する通信インタフェースである。
【0032】
入出力部33は、湿度センサ41及びACMセンサ42を含む検出センサ4を接続する入出力インタフェースである。入出力部33と検出センサ4との間の接続は有線であってもよく、無線であってもよい。制御部10は、入出力部33を通して検出センサ4から得られる信号を取得する。入出力部33は、A/D変換機能を含んで検出センサ4から得られる信号から測定値を読み取って制御部30へ出力してもよい。
【0033】
端末装置5は、パーソナルコンピュータを用いる。端末装置5は、スマートフォン、タブレット端末等の情報端末装置であってもよい。端末装置5は、制御部50、記憶部51、通信部52、表示部53及び操作部54を備える。
【0034】
制御部50は、CPU又はGPU等のプロセッサと、メモリ等を含む。制御部50は、プロセッサ、メモリ、記憶部51、及び通信部52を集積した1つのハードウェア(SoC:System On a Chip)として構成されていてもよい。制御部50は、記憶部51に記憶されているプログラムに基づき、各構成部を制御して処理を実行する。
【0035】
記憶部51は、例えばフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含む。記憶部51は、制御部50が参照するプログラム及びデータを記憶する。通信部52は、ネットワークNを介した情報処理装置1との通信を実現する通信インタフェースである。
【0036】
表示部53は、液晶パネル、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のディスプレイ装置を含む。表示部53は、制御部50からの指示に従って各種の情報を表示する。操作部54は、ユーザの操作を受け付けるインタフェースであり、物理ボタン、マウス、ディスプレイ内蔵のタッチパネルデバイス等を含む。操作部54は、ユーザからの操作入力を受け付け、操作内容に応じた制御信号を制御部50へ送出する。
【0037】
図3は、配電盤情報DB111に記憶される情報の内容例を示す図である。情報処理装置1は、配電盤内情報処理システム100におけるサービスの開始にあたり、保全対象である配電盤2に関する配電盤情報を取得し、配電盤情報DB111に記憶する。配電盤情報DB111には、配電盤2を識別する配電盤IDに対応付けて、設置日、設置場所、センサ情報、出力先情報及び初期情報等が記憶されている。設置日には、配電盤2が設置された日が含まれる。設置場所には、配電盤が設置されている場所を示す情報が含まれる。図3の例では、設置場所には住所が記憶されている。設置場所には緯度経度が記憶されていてもよい。設置場所には、例えば設置場所のエリア特性を示す情報として、内陸部、沿岸部等が含まれてもよい。センサ情報には、配電盤2に設置されている検出センサ4の識別情報が含まれ、例えばセンサの固有IDが記憶されている。出力先情報には、配電盤2に関する情報を出力する出力先の情報が含まれ、例えば出力先である端末装置5のMACアドレス、メールアドレス等が記憶されている。初期情報には、配電盤2のサービス開始時点における絶縁状態に関する情報が含まれ、例えば配電盤2内部の絶縁物21の表面抵抗及びイオン付着量の測定値が記憶されている。
【0038】
図4は、検出情報DB112に記憶される情報の内容例を示す図である。情報処理装置1は、計測装置3を介して取得した各検出センサ4の検出値を収集し、検出情報DB112に記憶する。検出情報DB112は、例えば湿度及び腐食電流等の検出項目毎のテーブルを含む。各検出項目テーブルには、配電盤ID、検出日時及び検出値が含まれる。更に、湿度センサ41による湿度テーブルには、湿度レベルが含まれ、ACMセンサ42による腐食電流テーブルには、汚損レベルが含まれる。湿度レベルとは、湿度の検出値に基づく配電盤2の湿度状態を示すスコアである。湿度レベルは、例えば0から1までの正規化された数値で示され、数値が高い程、配電盤2内部の湿度が高い状態である。汚損レベルとは、腐食電流の検出値に基づく配電盤2の汚損状態を示すスコアである。汚損レベルは、例えば0から1までの正規化された数値で示され、数値が高い程、配電盤2内部の汚損が高い状態である。なお、配電盤情報DB111及び検出情報DB112の記憶内容は図3及び図4に示す例に限定されない。
【0039】
上述のように構成される配電盤内情報処理システム100では、保全サービスの開始にあたり、まず初期情報に基づく一次診断が行われる。図5は、情報処理装置1にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。図5の処理手順は、例えば配電盤2に対して新たに保全サービスが開始される場合に実行される。
【0040】
保全担当者は、保全サービスの対象となる配電盤2の状態を測定し初期情報を取得する。初期情報は、配電盤2の内部に設けられた絶縁物21における表面抵抗及びイオン付着量の測定値を含んでよい。表面抵抗の測定方法は公知の手法を用いてよい。イオン付着量は、例えば濾紙等を用いて表面汚損成分を採取し、採取した表面汚損成分に含まれる各イオンの付着量をイオンクロマトグラフにより測定する。保全担当者は、表面抵抗及びイオン付着量の測定を実施し、例えば端末装置5等を用いて、測定結果と測定対象である配電盤2の配電盤IDとを対応付けて情報処理装置1へ送信する。なお、初期情報とともに、配電盤の経過年数、設置場所等の配電盤2に関する情報が送信されてもよい。
【0041】
情報処理装置1の制御部10は、通信部12により配電盤ID及び該配電盤2の初期情報を取得する(ステップS11)。制御部10は、取得した初期情報と配電盤IDとを関連付けて配電盤情報DB111に記憶する。制御部10は、取得した初期情報に基づく一次診断を実行し、一次診断情報を取得する(ステップS12)。
【0042】
一次診断とは、配電盤2の初期情報に基づき行われる診断であり、例えば、表面抵抗が適性であるか否か、イオン付着量が所定閾値内にあるか否か等が判定される。制御部10は、ルールベースの手法を用いて判定を行ってもよく、その他機械学習モデル等を用いてもよい。図6は、一次診断の方法の一例を示す概念図である。
【0043】
図6A及び図6Bは、表面抵抗の診断方法の例を示す図である。図6Aに示すグラフの縦軸は表面抵抗、横軸は経過年数である。表面抵抗の単位はΩである。図6Aにて示す例では、健全品の経過年数及び表面抵抗を示す曲線と、初期情報で取得された測定値との差異に基づき、表面抵抗の適性が判定される。例えば、表面抵抗の測定値及び経過年数が図6A中のマーカ61にて示されるように、差異が所定値よりも小さい場合には、配電盤2の初期状態は正常であると判定される。表面抵抗の測定値及び経過年数が図6A中のマーカ62にて示されるように、差異が所定値よりも大きい場合には、配電盤2の初期状態は要注意であると判定される。さらに差異が大きくなると、配電盤2の初期状態は危険であると判断される。
【0044】
図6Bに示すグラフの縦軸は表面抵抗、横軸は時間である。図6Bにて示す例では、計時変化に基づき表面抵抗の適性が判定される。表面抵抗の単位はΩであり、時間の単位は秒である。例えば、表面抵抗の時間特性が図6B中の曲線63にて示されるように、表面抵抗が時間と共に増大している場合には、配電盤2の初期状態は正常であると判定される。表面抵抗の時間特性が図6B中の曲線64にて示されるように、表面抵抗が時間と共に減少している場合には、配電盤2の初期状態は要注意であると判定される。
【0045】
図6Cは、イオン付着量の診断方法の例を示す図である。図6Cに示すグラフの縦軸は表面抵抗、横軸はイオン付着量である。表面抵抗の単位はΩであり、イオン付着量の単位はmg/cmである。図6Cにて示す例では、所定閾値に基づきイオン付着量の適性が判定される。例えば、表面抵抗の測定値及びイオン付着量が図6C中のマーカ65にて示されるように、イオン付着量が所定の閾値(図6の例では0.1mg/cm)未満である場合には、配電盤2の初期状態は正常であると判定される。表面抵抗の測定値及びイオン付着量が図6C中のマーカ66にて示されるように、イオン付着量が所定の閾値よりも高い場合には、配電盤2の初期状態は危険であると判定される。
【0046】
図5に戻り説明を続ける。制御部10は、取得した一次診断情報と配電盤IDとを関連付けて不図示のデータベースに記憶し(ステップS13)、一連の処理を終了する。なお、制御部10は、一次診断結果に基づき配電盤2の状態が正常でないと判断される場合には、所定の警告情報を顧客、保全担当者の端末装置5等へ出力してもよい。
【0047】
上述のように個々の配電盤2における初期情報が記憶される。配電盤2の設置環境は内陸地域や沿岸部等多岐に渡る。このため経年使用された配電盤2においては、設置環境に応じて汚損の化学組成が異なる。情報処理装置1は、予め取得した初期情報を用いて、より確度の高い絶縁性能に関する診断を実現する。なお、上記の処理は経年機器に対する現状の把握を目的とするものであり、新たに設置される配電盤2に対して保全サービスが開始される場合には省略が可能である。
【0048】
上述のように初期情報を取得した後、検出センサ4を用いた配電盤2のモニタリングが開始される。図7は、情報処理装置1にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。処理の実行タイミングは、例えば定期的なタイミングであってもよく、検出センサ4により信号が検知されるタイミングであってもよい。
【0049】
配電盤2に取り付けられた検出センサ4は、所定の時間間隔ごとに信号を取得する。計測装置3の制御部30は、それぞれの検出センサ4から検出値を取得する。この場合において制御部30は、検出値に対応付けて、検出センサ4の識別情報、検出時点に関する情報を取得する。制御部30は、取得した検出値に、配電盤IDを対応付けて情報処理装置1へ送信する。
【0050】
情報処理装置1の制御部10は、通信部12により配電盤ID及び検出値を取得する(ステップS21)。検出値は、例えば湿度センサ41から検出される湿度、ACMセンサ42から検出される腐食電流である。なお腐食電流は、検出電流を所定の増幅率で増幅して出力された増幅値であってよい。制御部10は、取得した検出値を検出情報DB112に記憶する。
【0051】
制御部10は、配電盤情報DB111を参照し、配電盤2に関する情報を出力する出力先情報を抽出する(ステップS22)。出力先情報にて識別される出力先は、例えば顧客、保全担当者等の端末装置5である。
【0052】
制御部10は、取得した湿度及び腐食電流と、予め設定されている閾値との大小関係を判定し、取得した湿度及び腐食電流が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。具体的には、制御部10は、湿度が所定の閾値以上であり、且つ腐食電流が所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0053】
配電盤2内部の絶縁物21の表面においては、表面に付着した汚損が配電盤2内部の湿度上昇に伴い生成される表面の水膜に溶解することによって、表面の水膜が導電性の溶液となる。これにより発生する絶縁物21の表面抵抗の低下及び部分放電により、絶縁物21の表面の一部が炭化する。これらの繰り返しにより、絶縁物21表面の導体間に導電路が形成され、絶縁物21における沿面絶縁破壊に至る。すなわち、絶縁物21における沿面絶縁破壊は、絶縁物21の表面における湿度及び汚損の両方が要因となる。このため制御部10は、湿度及び腐食電流の両方の検出値に基づき、絶縁物21の表面における湿度及び汚損の状態を判定する。
【0054】
湿度及び腐食電流が所定の閾値以上であると判定された場合(ステップS23:YES)、制御部10は、抽出された出力先情報に基づいて例えば端末装置5へ、通信部12によりアラート情報を出力する(ステップS24)。アラート情報を取得した場合には、配電盤2のメンテナンスが実施され、絶縁物21の表面の拭き取り等が行われることが好ましい。一方、湿度及び腐食電流が所定の閾値未満であると判定された場合(ステップS23:NO)、制御部10はステップS24のアラート情報の出力処理をスキップする。
【0055】
さらに制御部10は、取得した検出値に基づく二次診断を実行し、二次診断情報を取得する(ステップS25)。二次診断とは、検出値に基づき行われる診断であり、配電盤2の内部に収納された導体や機器充電部分と対地間の絶縁を保っている絶縁物21における絶縁性能が判定される。第1実施形態では、制御部10は、二次診断情報として、配電盤2の内部環境から推定される絶縁物21の絶縁性能の低下リスクを取得する。ここで低下リスクとは、配電盤2における絶縁物21の絶縁性能が低下している可能性を数値化した値であり、第1実施形態では、絶縁性能の低下リスクは1から4の4段階で示される。低下リスクの数値が高い程、絶縁性能の低下リスクが高いことを示す。
【0056】
絶縁性能の低下リスクは、予め設定されたルールベースのテーブルに基づいて推定される。制御部10は、腐食電流の検出値から汚損レベルを算出する。汚損レベルは、例えば、腐食電流から得られる汚損付着速度及び汚損付着量に基づき算出される。ACMセンサにおいては、鋼基板の腐食速度と、一日当たりの腐食電流値を積算した日平均電気量との間に直線関係を有する。したがって、腐食電流の検出値に基づく日平均電気量から、汚損付着速度(腐食速度)を求めることができる。さらに、腐食速度の累積から汚損付着量(腐食量)を求めることができる。制御部10は、汚損付着速度及び汚損付着量等と汚損レベルとの相関データに基づき汚損レベルを特定する。なお汚損レベルは、さらに初期情報等を含んたデータに基づき算出されてもよい。
制御部10は、湿度の測定値から、湿度レベルを算出する。湿度レベルは、例えば、所定期間において、所定値(例えば湿度80%)以上の湿度が検出された回数又は時間の合計値に基づき算出される。制御部10は、回数又は時間と湿度レベルとの相関データに基づき湿度レベルを特定する。制御部10は、算出した湿度レベル及び汚損レベルに基づき、絶縁性能の低下リスクを特定する。
【0057】
制御部10は、特定した二次診断情報と配電盤IDとを関連付けて不図示のデータベースに記憶する(ステップS26)。制御部10は、二次診断情報を含む診断結果画面情報を生成する。二次診断情報は例えばマップを用いて表示される。制御部10は、生成した二次診断情報を表示するマップを含む診断結果画面情報を、抽出された出力先情報に基づいて例えば端末装置5へ出力し(ステップS27)、一連の処理を終了する。
【0058】
上述の処理において、アラート情報及び二次診断情報の出力先情報はそれぞれ異なるものであってよい。この場合においては、制御部10は、ステップS22においてアラート情報及び二次診断情報夫々に対応する複数の出力先情報を取得し、取得した各出力先情報に基づき、アラート情報又は二次診断情報を送信するとよい。
【0059】
また、上述の処理において、配電盤2に複数の湿度センサ41及びACMセンサ42が設けられている場合には、複数の検出値に基づき異常判定、二次診断が行われるものであってよい。制御部10は、例えば複数の湿度センサ41及びACMセンサ42から取得した複数の検出値に基づき、湿度及び腐食電流の平均値を算出し、算出した平均値に基づき異常判定、二次診断を行うものであってよい。また、配電盤2の検出センサ4に湿度センサ41及びACMセンサ42以外のセンサが含まれている場合には、これら他のセンサによる検出値を含んだ異常判定、二次診断が行われるものであってよい。制御部10は、例えばステップS23において、湿度及び汚損に加え、部分放電センサによる検出信号に基づき部分放電の発生が適性レベルであるか否かを判定してもよい。制御部10は、その他振動センサ、ガスセンサ等による検出値が閾値未満の適性なものであるか否かを判定してもよい。
【0060】
さらにまた、上述の処理において、制御部10は二次診断情報に基づくアラート情報を送信してもよい。例えば、低下リスクが所定閾値(例えば低下リスク4)以上であった場合、制御部10は、通信部12により例えば端末装置5へ、低下リスクが高い旨を報知するアラート情報を出力するものであってよい。
【0061】
上記では、一連の処理を情報処理装置1の制御部10が実行する例を説明したが、本実施形態はこれに限定されない。上記の処理は、一部又は全部が計測装置3の制御部30で実行されるものであってもよい。
【0062】
図8は、第1例の診断結果画面530を示す模式図である。図8の診断結果画面530は、例えば端末装置5の表示部53に表示される。図8の例では、診断結果画面530には、配電盤ID、診断日等を示すテキストと、低下リスクが重畳表示された診断マップ531とが含まれる。また診断結果画面530には、低下リスクに応じたメンテナンス情報を通知するメッセージが含まれてよい。
【0063】
診断マップ531の縦軸は湿度レベル、横軸は汚損レベルである。診断マップ531上には、配電盤2の湿度レベル及び汚損レベルを示す丸印等のマーカ532が重畳表示されている。診断マップ531は、湿度レベルの高低及び汚損レベルの高低に対応し複数の領域に分かれる。本実施形態では、診断マップ531は、図8において異なるハッチングで示された4つの領域に分かれる。4つの領域は、湿度レベル低かつ汚損レベル低の領域A1、湿度レベル高かつ汚損レベル低の領域A2、湿度レベル低かつ汚損レベル高の領域A3、湿度レベル高かつ汚損レベル高の領域A4に区分される。各領域はそれぞれ、低下リスクを示し、低下リスク1から4の順に、それぞれ領域A1、領域A2、領域A3、領域A4に相当する。
【0064】
制御部10は、湿度レベルを縦軸とし、汚損レベルを横軸とする二次元のグラフを診断マップ531として診断結果画面530に表示する。この場合に、制御部10は、診断マップ531上において、各低下リスクに対応付けられる湿度レベルの範囲と汚損レベルの範囲との両者を満たす領域それぞれを、所定の表示態様を用いて表示する。例えば、各領域は異なる色で塗りつぶすことにより示されてよい。制御部10は、低下リスクに応じて湿度レベルの範囲及び汚損レベルの範囲、並びに表示態様を記憶したテーブルを参照し、各低下リスクを示す領域A1、A2、A3、A4を診断マップ531上に表示する。さらに、制御部10は、検出情報DB112に記録された湿度レベル及び汚損レベルを参照し、診断マップ531上において、湿度レベル及び汚損レベルの組み合わせに相当する位置に、マーカ532を重畳して表示する。マーカ532の位置を含む領域に相当する低下リスクが、二次診断対象である配電盤2の絶縁物21の低下リスクとなる。すなわち、診断マップ531上において、マーカ532は、二次診断情報となる低下リスクの属する領域上に表示される。図8の例では、配電盤ID30698の湿度レベル及び汚損レベルを示すマーカ532は領域A3の内部に位置し、配電盤ID30698の低下リスクは3であることが示されている。
【0065】
上述の診断マップ531における各領域は、配電盤2の経過年数に伴い変化する。図9は、第2例の診断結果画面530を示す模式図である。図9の診断結果画面530には、経過年数の長い場合の配電盤2に対する診断マップ541が含まれている。図示の如く、経年機器においては、湿度レベル高かつ汚損レベル低の領域B2、湿度レベル低かつ汚損レベル高の領域B3、及び湿度レベル高かつ汚損レベル高の領域B4の下限となる湿度レベル及び汚損レベルの値がそれそれ引き下げられ、各領域範囲が大きくなる。これに伴い、湿度レベル低かつ汚損レベル低の領域B1の範囲が小さくなる。このように、診断マップ531における湿度レベル及び汚損レベルの閾値は、経過年数に応じて複数設定されている。情報処理装置1は、経過年数と各領域の閾値とを関連付けたテーブルを参照して診断マップ531の領域を分割し、経過年数に応じた診断マップ531を生成する。
【0066】
本実施形態によれば、配電盤2内の内部環境を検出する検出センサ4の検出値に基づき、配電盤2内部の絶縁物21における絶縁性能の低下リスクが推定される。配電盤2における推定結果に応じて効率的にメンテナンスを行うことができるため、停電を伴う定期点検の実施を減少させ需要家側の負担を軽減することができる。また、検出センサ4を用いて定期的に配電盤2の状態をモニタリングすることにより、例えば台風や水害等の設置環境の急変による配電盤2の内部環境の変化を取得することができ、配電盤2の故障リスクを軽減させることが可能となる。
【0067】
本実施形態によれば、個々の配電盤2の状態を検出することにより、従来の時間基準保全(TBM:Time Based Maintenance)から、状態基準保全(CBM:Condition Based Maintenance )に移行することが可能となり、配電盤2の保全における需要家側の負担を軽減することができる。
【0068】
(第2実施形態)
第2実施形態では、ニューラルネットワークにより構成される学習モデルを用いて絶縁性能に関する情報を推定する構成について説明する。以下では、第2実施形態について、第1実施形態と異なる点を説明する。後述する構成を除く他の構成については第1実施形態の配電盤内情報処理システム100と同様であるので、共通する構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0069】
第2実施形態の情報処理装置1は、記憶部11に、図2に示す如く学習モデル1Mを記憶している。学習モデル1Mは、機械学習により生成された学習モデルであり、検出センサ4の検出値の入力に応じて絶縁性能に関する情報を示すデータを出力する。学習モデル1Mは、その定義情報によって定義される。学習モデル1Mの定義情報は、例えば、学習モデル1Mの構造情報や層の情報、各層が備えるチャネルの情報、学習済みのパラメータを含む。記憶部11には、学習モデル1Mに関する定義情報が記憶されている。
【0070】
図10は、第2実施形態における第1例の学習モデル1Mの構成を説明する説明図である。学習モデル1Mは予め、情報処理装置1又は外部装置において、ニューラルネットワークを用いた深層学習によって、生成され、学習される。学習アルゴリズムは、時系列データを取得した場合にはリカレントニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)でもよい。
【0071】
図10に示す例では、学習モデル1Mは、検出センサ4の検出値を入力する入力層と、絶縁性能の低下リスクを出力する出力層と、特徴量を抽出する中間層(隠れ層)とを備える。中間層は、入力データの特徴量を抽出する複数のチャネルを有し、各種パラメータを用いて抽出された特徴量を出力層に受け渡す。入力層に、検出値が入力された場合、学習済みパラメータによって中間層で演算が行なわれ、出力層から、絶縁性能の低下リスクに関する出力情報が出力される。
【0072】
学習モデル1Mの入力層へ入力される入力情報は、検出センサ4の検出値であり、第2実施形態では湿度センサ41及びACMセンサ42の検出値である。制御部10は、時系列で記憶されてあったデータをグラフ化して画像として入力してもよく、周波数分析したデータをマトリクスデータとして入力してもよい。
【0073】
学習モデル1Mの入力層へ入力される検出値は、湿度センサ41及びACMセンサ42の検出値に限定されるものではない。例えば部分放電センサ、振動センサ、ガスセンサ等の他のセンサが検出センサ4に含まれる場合には、これら他のセンサを含む検出センサ4の検出値が入力要素に含まれてよい。
【0074】
学習モデル1Mの出力層から出力される出力情報は、絶縁物21の絶縁性能に関する情報である。第2実施形態では、出力情報は、絶縁性能の低下リスクであり、1から4の4段階で示される。低下リスクの数値が高い程、絶縁物21の絶縁性能の低下リスクが高いことを示す。出力層は、設定されている低下リスクに各々対応するチャネルを含み、各低下リスクに対する確度をスコアとして出力する。情報処理装置1は、スコアが最も高い低下リスク、あるいはスコアが閾値以上である低下リスクを出力層の出力値とすることができる。なお出力層は、それぞれの低下リスクの確度を出力する複数の出力チャネルを有する代わりに、最も確度の高い低下リスクを出力する1個の出力チャネルを有してもよい。なお、低下リスクは4段階に分類される例に限定されない。低下リスクは、4段階以外の複数段階に分類されてもよい。
【0075】
なお、出力層から出力される絶縁性能に関する情報は、絶縁性能の低下リスクに限定されるものではない。学習モデル1Mは、例えば検出センサ4の検出値に応じた絶縁物21の表面抵抗値を示す情報を出力するものであってもよい。
【0076】
制御部10は、試験環境にて多様な配電盤2に湿度センサ41及びACMセンサ42を設置して得られるこれらの入力情報に、既知の低下リスクが付与された情報群を訓練データとして予め収集して学習モデル1Mを学習する。制御部10は、湿度センサ41及びACMセンサ42の検出値に応じた低下リスクを出力するよう、例えば誤差逆伝播法を用いて、学習モデル1Mを構成する各種パラメータ及び重み等を学習する。
【0077】
また学習モデル1Mは、図10に示したように検出値に応じて絶縁性能の低下リスクを出力してもよいが、配電盤2に関する情報をさらに入力要素に含み、絶縁性能に関する情報を出力するものであってもよい。図11は、第2実施形態における第2例の学習モデル1Mの構成を説明する説明図である。
【0078】
図11に示す例にて学習モデル1Mは、検出センサ4の検出値と、配電盤2の設置状態に関する情報及び初期情報を含む配電盤情報とを含む入力情報を入力する入力層と、絶縁性能の低下リスクに関する出力情報を出力する出力層とを備える。学習モデル1Mは、入力情報が入力された場合に、絶縁性能の低下リスクを出力するように訓練データによって学習済みのパラメータを有する中間層(隠れ層)を備える。入力層に、検出値及び配電盤情報が入力された場合、学習済みパラメータによって中間層で演算が行なわれ、出力層から、絶縁性能の低下リスクに関する出力情報が出力される。
【0079】
図11における学習モデル1Mは、検出値及び配電盤情報が入力された場合に、低下リスクを出力するよう学習される。検出値は、例えば湿度及び腐食電流等を含んでよい。配電盤情報は、例えば、配電盤2の設置状態を示す経過年数及び設置場所と、初期情報として取得した表面抵抗及びイオン付着量とを含んでよい。例えば学習モデル1Mは、経過年数が長い場合には、標準的な値よりも高い低下リスクを出力するように学習してあるとよい。また初期情報において劣化の進行がみられる場合にも、標準的な値よりも高い低下リスクを出力するように学習してあるとよい。
【0080】
上記では、学習モデル1Mの出力層から絶縁性能の低下リスクが出力される例を説明したが、出力層から出力される出力情報は、絶縁性能の低下リスクに限られない。学習モデル1Mは、絶縁性能に関する情報として、例えば絶縁物21の表面抵抗値を示す情報を出力するものであってもよい。
学習モデル1Mは、絶縁性能に関する情報として、例えば配電盤2の交換に関する情報を出力するものであってもよい。学習モデル1Mは、出力情報として、例えば配電盤2の交換の要否を示す正常、注意、危険、交換等の情報を出力してもよい。学習モデル1Mは、出力情報として、例えば配電盤2の交換時期を示す3か月、半年、1年等の時期情報を出力してもよい。学習モデル1Mは、複数の出力層を備え、例えば低下リスク及び交換時期等、複数の情報を出力する構成であってもよい。
【0081】
なお学習モデル1Mは、図10及び図11に示した例に限定されるものではない。学習モデル1Mは、ニューラルネットワークを用いないサポートベクタマシン、回帰木等、他のアルゴリズムによって学習されたモデルであってもよい。
【0082】
上述のように構成される学習モデル1Mは、保全サービスを行う運用フェーズの前段階である学習フェーズにおいて生成され、生成された学習モデル1Mが情報処理装置1の記憶部11に記憶されている。情報処理装置1は、学習モデル1Mを用いて、二次診断情報の推定処理を実行する。
【0083】
図12は、情報処理装置1にて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。第1実施形態の図7と共通する処理については同一のステップ番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0084】
情報処理装置1の制御部10は、通信部12により配電盤ID及び検出値を取得する(ステップS21)。検出値は、例えば湿度センサ41から検出される湿度及びACMセンサ42から検出される腐食電流である。制御部10は、取得した検出値を検出情報DB112に記憶する。制御部10は、配電盤情報DB111を参照し、配電盤2に関する情報を出力する出力先情報を抽出する(ステップS22)。
【0085】
制御部10は、取得した湿度及び腐食電流が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS23)。湿度及び腐食電流が所定の閾値以上であると判定された場合(ステップS23:YES)、制御部10は、抽出された出力先情報に基づいて例えば端末装置5へ、通信部12によりアラート情報を出力する(ステップS24)。一方、湿度及び腐食電流が所定の閾値未満であると判定された場合(ステップS23:NO)、制御部10はステップS24のアラート情報の出力処理をスキップする。
【0086】
さらに制御部10は、学習モデル1Mを用いた二次診断情報の推定を行う。制御部10は、検出値である湿度及び腐食電流を含む入力情報を学習モデル1Mに入力する(ステップS31)。制御部10は、学習モデル1Mから出力される二次診断情報を取得する(ステップS32)。第2実施形態では、制御部10は、二次診断情報として、絶縁物21の絶縁性能の低下リスクを取得する。制御部10は、取得した二次診断情報と配電盤IDとを関連付けて不図示のデータベースに記憶する(ステップS26)。制御部10は、学習モデル1Mから出力された二次診断情報を含む診断結果画面情報を生成する。制御部10は、生成した二次診断情報を含む診断結果画面情報を、抽出された出力先情報に基づいて例えば端末装置5へ出力し(ステップS33)、一連の処理を終了する。
【0087】
なお、学習モデル1Mは、点検時等に取得した新たな情報に基づく再学習を実行してもよい。例えば、アラート情報が出力され点検作業等が実施された場合、保全担当者は配電盤2の表面抵抗を測定し、測定値を端末装置5を介して情報処理装置1へ送信する。情報処理装置1は、受信した表面抵抗等に基づき配電盤2における絶縁性能の低下リスクを取得する。さらに情報処理装置1は、検出情報DB112を参照し、例えば異常値が検出された時点等、新たな低下リスクをラベル付けする時点における湿度及び腐食電流を含む検出値を取得する。情報処理装置1は、取得した検出値と、学習モデル1Mが出力した低下リスクに対する新たな低下リスク(修正データ)とを対応付けた訓練データを作成し、当該訓練データを用いて学習モデル1Mの再学習を行う。再学習を行うことにより、学習モデル1Mの推定の精度を更に向上させることができる。
【0088】
本実施形態によれば、学習モデル1Mを用いて、絶縁性能に関する情報を精度よく推定することができる。
【0089】
なお、上述のように開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。各実施例にて記載されている技術的特徴は互いに組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 情報処理装置
10 制御部
11 記憶部
12 通信部
1P プログラム
1M 学習モデル
2 配電盤
21 絶縁物
4 検出センサ
41 湿度センサ
42 汚損センサ(ACMセンサ)
5 端末装置
531,541 診断マップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12