(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ハードコート層、透明部材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20240214BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240214BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240214BHJP
C01B 33/12 20060101ALI20240214BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20240214BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/20 A
B32B27/30 A
B32B27/36 102
C01B33/12 A
C08J7/046 Z CEZ
(21)【出願番号】P 2020027581
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019135726
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊原 武
(72)【発明者】
【氏名】堀 健太
(72)【発明者】
【氏名】永野 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】桂山 はるか
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 喜隆
(72)【発明者】
【氏名】安部 賛
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229317(JP,A)
【文献】特開2009-042647(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073772(WO,A1)
【文献】特開2006-056738(JP,A)
【文献】特開2013-151133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C01B 33/00-33/193
C09C 1/00- 3/12
C09D 15/00-17/00
C08J 7/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層以上積層され、透明樹脂材料からなる複数の樹脂層を有し、透明樹脂部材の表面に設けられるハードコート層であって、
前記複数の樹脂層のうちの少なくとも一層はフィラーを含有しており、それぞれの樹脂層が含有する前記フィラー濃度は前記透明樹脂部材の表面に近い側から遠い側に向けて漸次増大し、
前記フィラーは、
外部に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.8nm以上80nm以下、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる一次粒子から構成され、
脱水縮合により粒子間が結合・融着した凝集体である粒子材料を主成分と
し、
前記一次粒子は、
前記内部がベーマイト、前記表面がシリカから構成されるか、又は、
前記内部がγアルミナ、前記表面がシリカから構成される、
ハードコート層。
【請求項2】
前記粒子材料は、
前記一次粒子の表面を被覆する有機物からなる被覆層を有し、
前記被覆層は、前記一次粒子の表面に対して、共有結合するか又は分子間力結合するかにより結合している請求項1に記載のハードコート層。
【請求項3】
前記有機物は、シラン化合物の縮合物である請求項2に記載のハードコート層。
【請求項4】
前記樹脂層の表面側に、樹脂材料を含有しないシリカをもつ第2コート層を有する請求項1~3の何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項5】
前記凝集体の体積平均粒径は0.1μm以上500μm以下である請求項1~4のうちの何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項6】
X線回折での2θが、
45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が0.5°以上であるか、
37°~39°と71°~73°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であるか、又は、
45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下である、
請求項1~
5のうちの何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項7】
前記凝集体は、原子番号38以上の元素の酸化物からなる第2粒子を含む請求項1~
6のうちの何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項8】
前記樹脂層は、顔料を含む請求項1~
7のうちの何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項9】
前記透明樹脂部材はポリカーボネートであり、
前記樹脂層を構成する樹脂材料はアクリル樹脂である請求項1~
8のうちの何れか1項に記載のハードコート層。
【請求項10】
請求項1~
9のうちの何れか1項に記載のハードコート層と、
前記ハードコート層を表面にもつ前記透明樹脂部材と、
を有する透明部材。
【請求項11】
請求項
10に記載の透明部材を製造する製造方法であって、
別々に形成した前記複数の樹脂層を前記フィラーの含有量に従い積層した積層樹脂層を形成する積層樹脂形成工程と、
インサートモールド射出成型又はプレス成型の型内に前記積層樹脂層を前記フィラーの含有量に従い配設した状態で前記透明樹脂材料を前記型内に導入して成型を行い透明部材を製造する成型工程と、
を有する透明部材の製造方法。
【請求項12】
前記複数の樹脂層の表面に別のコート層を形成する被覆工程を有する請求項
11に記載の透明部材の製造方法。
【請求項13】
前記複数の樹脂層の表面に電子線を照射する電子線照射工程を有する請求項
11又は
12に記載の透明部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードコート層、透明部材、及びその製造方法に関し、詳しくは、濃度勾配を形成した高硬度フィラーを含有するハードコート層、そのハードコート層が表面に形成された透明樹脂部材である透明部材、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂材料から構成される透明樹脂部材、例えば透明樹脂板は、そのままでは表面が柔らかいため傷つきやすい。この問題を解決するために、透明樹脂部材の表面に、ハードコート層を形成したり、あるいは薄いガラス質の薄膜を張り合わせたりした透明部材を製造することがある(特許文献1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、透明部材を構成する透明樹脂材料とハードコート層或いはガラス薄膜とは、熱膨張係数が大きく異なることが一般的であるため、両者を単純に接合することで温度変動による内部応力が発生し、ひび割れや剥がれが発生し易く、十分な耐久性を得ることが困難である。また、柔らかい透明樹脂材料を採用する場合は、ハードコート層を施しても十分な表面硬度が得られない場合があった。言わば布団の上にガラスの板を乗せたようなもので、踏めばガラスが割れる理由と同じである。
本発明は、ひび割れや剥がれが生じにくいハードコート層、透明部材、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討を行った結果、透明樹脂部材の表面に、本願発明者ら開発した粒子材料(PCT/JP2019/008389に記載)をフィラーとして含む透明な樹脂層を複数層設けたハードコート層を形成することで内部応力を低減できることを見出した。フィラーとして採用した粒子材料は、一次粒子が脱水縮合により結合・融着して凝集した凝集体であり、高い物理的特性を有すると共に、構成する一次粒子の粒径が小さいため光学的特性にも優れている。
【0006】
具体的には、ハードコート層を形成する対象物である透明樹脂部材の表面に二層以上の複数の樹脂層を積層し、且つ当該透明樹脂部材の表面に近い側の樹脂層よりも、遠い側の樹脂層にフィラーの含有量を漸次増大することで、透明樹脂部材の表面にハードコート層を形成したときに発生する内部応力を低減でき、ハードコート層のひび割れや剥がれが生じにくくなる。
【0007】
(1)上記知見に基づいて本発明者らは以下の発明を完成した。すなわち、上記課題を解決する本発明のハードコート層は、二層以上積層され、透明樹脂材料からなる複数の樹脂層を有し、透明樹脂部材の表面に設けられるハードコート層であって、
前記複数の樹脂層のうちの少なくとも一層はフィラーを含有しており、それぞれの樹脂層が含有する前記フィラー濃度は前記透明樹脂部材の表面に近い側から遠い側に向けて漸次増大し、
前記フィラーは、
外部に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.8nm以上80nm以下、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる一次粒子から構成され、
脱水縮合により粒子間が結合・融着した凝集体である粒子材料を主成分とする。
なお、複数の樹脂層におけるフィラーのうち透明樹脂部材の表面に接する位置に配設される樹脂層においては、フィラーを含有しないこともできるし、複数の樹脂層のうちで最も少なくすることもできる。
【0008】
各樹脂層のフィラーの含有量が、ハードコート層を配設する透明樹脂部材の表面から離れる方向に従って漸次増大するように構成(以下「傾斜構造」または「フィラー濃度勾配を有する」という)することによって、熱膨張係数は表面から離れる方向に従って減少し、硬度は表面から離れる方向に従って順次に増大し、結果、従来透明樹脂部材とハードコート層の熱膨張係数不整合により、ひび割れや剥離が生じる課題を解決することに成功した。硬度が表面から離れる方向に従って順次に増大するため、柔らかい透明樹脂部材でも十分な硬度を有する表面を形成することができる。ここでいう透明樹脂部材の代表的なものはポリカーボネート等透明樹脂で構成される透明樹脂板等であり、透明樹脂部材の表面に本願発明のハードコート層を配設することで表面の硬度が高い透明部材を提供できる。
【0009】
ここで、フィラーとして含有させる粒子材料は、一次粒子同士が強固に結合した凝集体であり、外力に対しては凝集体全体として作用して高い物理的特性を示すと共に、凝集体を構成する一次粒子の粒径が可視光などの光の波長よりも小さくしていることから透明性に大きな影響を与えない。
【0010】
(2)上記課題を解決する本発明の透明部材は、上述した(1)に記載のハードコート層と、前記ハードコート層を表面にもつ前記透明樹脂部材とを有する。
【0011】
(3)上記課題を解決する本発明の透明部材の製造方法は、上述した(2)に記載の透明部材を製造する製造方法であって、
別々に形成した前記複数の樹脂層を前記フィラーの含有量に従い積層した積層樹脂層を形成する積層樹脂形成工程と、
インサートモールド射出成型又はプレス成型の型内に前記積層樹脂層を前記フィラーの含有量に従い配設した状態で前記透明樹脂材料を前記型内に導入して成型を行い透明部材を製造する成型工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハードコート層は、上述したように傾斜構造を採用していることによってひび割れ、剥がれ等発生しにくい透明部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例における各試料のXRDスペクトルである。
【
図2】比較例における各試料のXRDスペクトルである。
【
図3】実施例における各試料のXRDスペクトルである。
【
図4】比較例における各試料のXRDスペクトルである。
【
図5】実施例及び比較例における各試料のXRDスペクトルを解析した結果である。
【
図6】実施例1-0及び比較例1-0における各試料のTG-DTA測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のハードコート層、透明部材、及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態のハードコート層は、透明樹脂部材の表面に配設して表面の硬度が透明樹脂部材よりも高い透明部材を提供することができる。透明部材としては特に限定しないが、透明フィルム、透明板、レンズなどが挙げられる。透明部材の大きさは特に限定しない。更に、本実施形態のハードコート層は、反射防止膜、ガスバリア膜としての機能を付加的に付与することもできる。また、顔料を添加することで透明部材の色調を制御でき、透明部材が透過する光線の波長を制御したり、透明部材の意匠性を向上したりできる。
【0015】
(ハードコート層及び透明部材)
本実施形態のハードコート層は、二層以上積層され、透明樹脂材料からなる複数の樹脂層を有し、透明樹脂部材の表面に設けられる。透明樹脂部材は、表面にハードコート層を配設することにより目的とする透明部材の形状になるような形状をもつ。透明樹脂部材の表面にハードコート層を配設する方法としては特に限定しないが、後述する透明部材の製造方法を採用して接合したり、透明樹脂部材の表面にてハードコート層を形成したり、接着剤により接着したりすることが例示できる。詳しくは透明部材の製造方法にて説明する。
【0016】
透明部材は、表面に配設されたハードコート層の更に表面側に別のコート層を設けることもできる。例えば、塗膜、反射防止膜、別のハードコート層などである。
【0017】
透明樹脂部材を構成する樹脂材料としては特に限定されず、ポリカーボネート(変性体を含む、本明細書中の全ての樹脂について同じ)、ポリイミドなどのイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、塩化ビニル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ユリア樹脂が例示できる。透明樹脂材料は、透明部材の中で最も大きな体積を占めることが多く、機械的特性(例えば耐衝撃性)を向上させるためにポリカーボネートを採用することが好ましい。
【0018】
ここで「透明」とは可視光、赤外光、紫外光などの光線が少しでも透過できれば充分であり、その透過率は問題にしない。なお、樹脂材料が透明であるかどうかの基準として光透過率(400nm/2mm)が80%以上であることが採用できる。更に、樹脂材料は架橋構造を有することで樹脂材料自身の物理的特性が向上できる。
【0019】
本実施形態のハードコート層は、複数の樹脂層が積層されて構成される。樹脂層は、前述の透明な樹脂材料から形成することができる。ハードコート層は透明部材の最表面若しくは最表面近傍に配設されるため、耐候性の高いアクリル樹脂を採用することが好ましい。複数の樹脂層は、透明樹脂部材の表面に配設されるときに一体化していれば良く、透明樹脂部材に一体化する前においてそれぞれの樹脂層に分離可能な形態であっても良い。
【0020】
複数の樹脂層のうちの少なくとも一層はフィラーを含有している。フィラーは樹脂層内に分散されている。それぞれの樹脂層が含有するフィラー濃度は透明樹脂部材の表面に近い側から遠い側に向けて漸次増大するように設定される。透明樹脂部材に最も近い側に位置する層ではフィラーを含有しないことも可能である。また、フィラー濃度が漸次増大するとは、透明樹脂材料側よりも反対側のフィラー濃度が高ければ充分であり、その途中において、隣接する樹脂層のフィラー濃度以上であること、すなわち、隣接する樹脂層のフィラー濃度を超えないことを意味する。従って、複数の樹脂層のうちの隣接する2層以上のフィラー濃度は同じであっても良い。
【0021】
樹脂層中の具体的に好ましいフィラー濃度は、樹脂層が必要な硬度になるように決定するが、その上限値としては、樹脂層の質量を基準として、50%、45%、40%、35%程度にすることが好ましい。また、下限値は、0%であっても良いが、下限値を設定するならば、1%、2%、5%程度にすることができる。これらの上限値と下限値とを任意に組み合わせることができる。
【0022】
また、複数の樹脂層のそれぞれの厚みは全て同じであっても、異なるものであっても良い。樹脂層の厚みとしては、1μm~500μm程度にすることができる。好ましい下限値としては、1μm、5μm、10μmが例示でき、好ましい上限値としては、500μm、200μm、100μmが例示できる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせ可能である。
【0023】
フィラーは、PCT/JP2019/008389に記載されている粒子材料を含む。その粒子材料は、樹脂層を構成する樹脂材料の屈折率と同等な屈折率をもつことが好ましい。例えば、樹脂材料の屈折率と無機物粒子の屈折率の差は、0.001~0.01程度であることが好ましい。粒子材料の屈折率の制御方法は後述する。
【0024】
粒子材料は、外部に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.8nm以上80nm以下、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる一次粒子から構成され、脱水縮合により粒子間が結合・融着した凝集体である粒子材料を主成分とする。一次粒子の内部と外部の組成比や、構成材料を変化させることで屈折率を自在に制御することができる。更に後述するように、表面に被覆層を形成することでも屈折率を制御することができる。
【0025】
ハードコート層は、その他の添加剤を有していても良い。添加剤としては、前述の粒子材料以外の一次粒子にまで分散しているナノメートルオーダーのナノ無機物粒子材料が例示できる。ナノ無機物粒子材料としては、シリカやアルミナから構成され、表面にシラン化合物などにより有機官能基を導入したものが挙げられる。表面に導入する有機官能基はハードコート層に含まれる透明樹脂材料の種類により選択でき、フェニル基、ビニル基、フェニルアミノ基、メタクリル基、アルキル基などが例示できる。ナノ無機物粒子材料の粒子径は、500nm以下であることが好ましく、更に好ましい粒子径の上限値は、200nm、100nm、50nm、20nmである。他の添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、帯電剤、難燃剤などの通常の添加剤が適宜採用できる。
【0026】
更に、ハードコート層は、樹脂層の表面に別のコート層(第2コート層)を有しても良い。
第2コート層としては、光触媒性コーティング膜を有することができる。光触媒性コーティング膜は外部に連通する部位に形成することで光触媒作用が十分に発現でき、特に最表面に形成することが望ましい。なお、光触媒性コーティング膜は、凝集体からなる粒子材料が露出している表面のうちの一部を覆うように形成することが好ましい。光触媒性コーティング膜は、光触媒特性を持つ酸化チタンを含有するものが例示できる。光触媒性コーティング膜に酸化チタンを含有させる場合には、酸化チタンを上述の凝集体からなる粒子材料を構成する一次粒子と同程度の大きさの粒子とした上でそのまま付着させることができる他、上述した透明樹脂中に分散させた状態で薄膜化することにより光触媒性コーティング膜を形成しても良い。透明樹脂中に酸化チタンを分散させる場合には、フィラーの濃度勾配とは異なる濃度勾配とすることが好ましい。例えば、酸化チタンの濃度は、表面に行くに従って高くすることが好ましい。濃度勾配の形成方法は、フィラーの濃度勾配の生成と同様に実現可能である。
【0027】
更に、第2コート層としては、光触媒性コーティング膜の有無に関わらず、SiO2層を有することができる。なお、光触媒性コーティング膜を形成する場合に、SiO2層は、光触媒性コーティング膜の外部との連通を阻害しないようにすることが望ましく、光触媒性コーティング膜よりも内側に形成したり、光触媒性コーティング膜の一部のみを覆うように形成したりすることができる。
【0028】
SiO2層の厚みは、1nm~100nm程度で形成することができ、その下限値としては2nm、3nm、4nm、5nm、6nm、8nm、10nm、12nm等が採用でき、上限値としては80nm、70nm、60nm、50nm、40nm等が採用でき、それらの下限及び上限値は任意に組み合わせることが可能である。SiO2層は、透明樹脂材料等の樹脂材料を含有しない層であり、SiO2層全体の質量を基準としてシリカが80%以上含有するものが好ましく、シリカのみからなることが更に好ましい。
【0029】
(粒子材料)
本発明のハードコート層にフィラーとして用いられる粒子材料について以下詳細に説明を行う。
【0030】
本実施形態の粒子材料は、一次粒子が脱水縮合により結合・融着して凝集した凝集体である。凝集体の粒径は特に限定しない。一次粒子の間が結合・融着されていることから特許文献1~3とは異なり一次粒子間が強固に結合され、粒子材料の機械的強度が向上できる。粒径が大きいほど強度を向上することができるため、混合できる限度で粒径を大きくすることが好ましい。例えば薄膜などのように物理的に粒子材料が侵入できない可能性があるような形態に適用する場合には、適用する部分の形態に物理的に侵入できるように、粒子材料の適正な粒度分布が決定される。
【0031】
体積平均粒径の好ましい下限値としては、0.1μm、0.5μm、1.0μmなどが例示できる。体積平均粒径の好ましい上限値としては、500μm、100μm、10μm、5μmなどが例示できる。更に、大きな粒径と小さな粒径とのように複数の粒径にピークをもつようにすることができる。
【0032】
そして、本実施形態の粒子材料は、外気に連通する表面を基準とする比表面積直径が0.8nm以上80nm以下である。比表面積直径は、比表面積(単位質量あたりの表面積)と粒子材料を構成する材料の比重とから算出される値であり、一次粒子の凝集体として構成される2次粒子では、2次粒子を構成する一次粒子の粒径に近い値が算出される。
【0033】
比表面積直径は、下限値としては1nm、5nm、10nmを採用することができ、上限値としては30nm、50nm、70nmを採用することができる。
【0034】
凝集体を構成する一次粒子(以下、適宜「構成一次粒子」と称する)は、表面の組成と内部の組成とが異なる無機物からなる。表面の組成と内部の組成とを異なるものにすることにより、構成一次粒子内において内部を構成する材料が外部に影響を及ぼし難くなる。また、外部からの影響が内部に及び難くなる。そして表面の組成と内部の組成とが相互作用を起こすことで予期できない効果を発揮できることがある。予期できない効果としては、内部の組成としてγアルミナを採用したときに表面を別の材料(例えばシリカ)にすることによりγアルミナの結晶の相転移の態様に影響を与えることが例示できる。γアルミナは、加熱により相転移することが知られているが、表面を別の材料にて構成した構成一次粒子中に存在するγアルミナは、γアルミナ単独では相転移が生じる温度にまで加熱しても相転移しないことを確認している。従って、脱水縮合による凝集体の製造を900℃以上(好ましくは950℃以上、1000℃以上)で行うことができる。
【0035】
また、内部の組成としてベーマイトを採用し、表面としてシリカを採用すると、加熱によるベーマイトからアルミナ(特にγアルミナ)への転移が抑制できる。従って、脱水縮合による凝集体の製造を250℃超で行うことができる。
【0036】
なお、このような構成一次粒子を主成分とするものであれば、その他の組成(例えば全体が単一の組成からなるもの)をもつ一次粒子を含有することも可能である。ここで「主成分とする」とは、50質量%以上含有することを意味し、好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含有する。構成一次粒子以外に一次粒子として含有することが可能な粒子としては、原子番号38以上の元素の酸化物からなる第2粒子が例示できる。具体的に含有することが好ましい酸化物に含まれる原子番号が38以上の元素としては、ジルコニウムが挙げられる。構成一次粒子の粒子形状としては特に限定しない。
【0037】
構成一次粒子の表面の組成、内部の組成のそれぞれについてどのような組成の無機物を採用するかは任意である。ここで、表面の組成としてはシリカを選択することが好ましい。シリカは表面に対して種々の表面処理を行うことが容易であり、物理的安定性、化学的安定性共に高いほか、合成が容易であるからである。光学的な特性向上の観点からは非晶質シリカを採用することが好ましい。
【0038】
表面と内部との比率については特に限定しない。表面については内部を概ね隙間無く被覆することが好ましい。
【0039】
本実施形の粒子材料は、表面に有機物からなる被覆層をもつことができる。被覆層は構成一次粒子の表面を被覆する層である。被覆層の厚みは特に限定しないが粒子材料の表面を概ね隙間無く被覆することが好ましい。被覆層を有する場合には、凝集した構成一次粒子の間に介在させることもできるほか、構成一次粒子が凝集した状態でその表面を被覆して構成一次粒子同士が直接凝集した状態になった上で被覆されていることもできる。被覆層は構成一次粒子の表面に対して共有結合されているか分子間力結合などにより物理的に結合されているかの何れかが望ましい。被覆層を構成する有機物としては、シラン化合物の縮合物であることが好ましい。シラン化合物としてはSiORを2つ以上もつ化合物とすると縮合物からなる被覆層が形成できる。シラン化合物の縮合物を製造する方法としては、前述のシラン化合物を構成一次粒子(凝集体を形成する前後を問わない)の表面に接触させた状態で縮合させることにより行うことができる。構成一次粒子は、無機材料から構成され、その表面にはOH基を有することが通常である。そのため前述のシラン化合物は、構成一次粒子の表面に存在するOH基と反応して共有結合を形成することができる。
【0040】
また、本実施形態の粒子材料は、表面又は内部の組成としてAl2O3を採用する場合に、X線回折での2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が0.5°以上であることが好ましい。2θが45°~49°の範囲にあるピーク(第1ピーク)は、γアルミナであり、2θが64°~67°の範囲にあるピーク(第2ピーク)は、γアルミナである。この範囲に存在するピークの半値幅が0.5°以上になるとαアルミナが生成していないため好ましい。
【0041】
更に、本実施形態の粒子材料は、表面又は内部の組成としてベーマイトを採用する場合に、X線回折での2θが37°~39°と71°~73°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であるか、及び/又は、45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅が2.5°以下であることが好ましい。2θがこれらの範囲にあるピークは、ベーマイトであり、この範囲に存在するピークの半値幅が2.5°以下になるとベーマイトが残存しているため好ましい。
【0042】
(粒子材料の製造方法)
本実施形態の粒子材料の製造方法は、上述の粒子材料を好適に製造できる製造方法である。本実施形態の粒子材料の製造方法は、分散工程と被覆工程と必要に応じて選択できるその他の工程とを有する。その他の工程としては、凝集工程、改質工程、粒度分布調整工程などが挙げられる。
【0043】
分散工程は、内部の組成をもつ粒子(コア粒子)を液体分散媒中に分散させて分散液とする工程である。コア粒子は、常法により得ることができる。例えば、内部の組成の前駆体となる化合物を反応させて製造できる。例えば内部の組成としてベーマイトを採用する場合には、粉砕などにより適正な粒径とした水酸化アルミニウムを前駆体として採用し、水熱処理することでベーマイトからなるコア粒子を得ることができる。また、適正な粒径とした酸化アルミニウムを前駆体として採用し、酸やアルカリ水溶液中で加熱することでコア粒子を得ることができる。
【0044】
被覆工程は、得られた分散液に対して、反応により表面の組成になる化合物である前駆体を添加し表面の組成を生成することによってコア粒子の表面を表面の組成にて被覆・形成した被覆粒子とする工程である。内部の組成と表面の組成との比率は、添加する前駆体の量により制御できる。前駆体としては、どのような化合物を採用しても良い。表面の組成としてシリカを採用する場合は、前駆体としてテトラエトキシシランを採用することができる。テトラエトキシシランは、水の存在下で容易にシリカを生成する。例えば、テトラエトキシシランを酸性若しくは塩基性の雰囲気下で加水分解するいわゆるゾルゲル法が採用できる。
【0045】
凝集工程は、被覆工程の後に行う工程であり、被覆工程にて得られた被覆粒子を加熱して凝集させる工程である。得られた凝集体は、必要な粒度分布になるように粉砕操作や分級操作を行うことができる。凝集工程における加熱温度は被覆粒子間において脱水縮合が生じる温度である。例えば250℃超の温度、450℃以上、500℃以上が例示できる。この温度範囲にて加熱することで得られた粒子材料の強度が向上できる。
【0046】
改質工程は、被覆工程後に行う工程であり、被覆工程により得られた被覆粒子に対してシラン化合物を表面に接触させて改質する工程である。凝集工程と組み合わせる場合には、前後いずれでも行うことができる。
【0047】
(ハードコート層の製造方法)
本実施形態のハードコート層の製造方法は、特に限定しない。例えば、ハードコート層を構成する透明な樹脂材料とフィラーとを混合・分散させて調製した分散液から樹脂層を成膜する。分散液としては、樹脂材料を溶解する溶媒を添加して溶液にする方法、樹脂材料の前駆体(モノマーなど)とフィラーとを分散させた分散液とする方法(その後、重合させる)、樹脂材料の融点以上に加熱して液状にする方法などがある。成膜方法としては特に限定されず、溶液流延法、押出法(Tダイ法など)などの公知の方法などが採用できる。
【0048】
複数の樹脂層を接合して多層フィルムにする方法についても特に限定しない。例えば、これらの方法により複数の樹脂層を形成した後、貼り合わせる方法(カレンダー加工や熱プレスなど)、複数の樹脂層を同時に成膜して複数の樹脂層を貼り合わせる方法、複数の樹脂層を隣接する樹脂層に重ね合わせて順次成膜する方法が例示できる。複数の樹脂層を貼り合わせてハードコート層を形成する方法は、透明樹脂部材の表面に配設・接合するときと同時に行うこともできる。
【0049】
複数の樹脂層が接合される面の何れかに別の皮膜を形成することができる。例えば、顔料や染料を含んだ着色層を配設して、意匠性を向上したり、光線透過特性を制御したりすることができる。着色層の配設方法としては、グラビア印刷やオフセット印刷などにより図柄を形成する方法が挙げられる。
【0050】
第2コート層としてSiO2層を形成する場合にはポリシラザンの塗布によって行うこともできる。親水表面を形成した後の表面に、ポリシラザンを所定の厚みとなるように塗布することでSiO2層が形成できる。塗布方法としては、例えば、スピンコート法等、従来既知の塗工方法を適宜採用することができる。ポリシラザン溶液としては、例えば、有限会社エクスシア社製のSSL-SD500-HBを用いることができる。また、形成するSiO2層の層厚を調整するために、無水ジブチルエーテル等の有機溶剤を用いて適宜希釈して用いてもよい。
【0051】
ここで、ポリシラザンとは、分子内でSi-N結合が繰り返された重合体であり、シリカへの転化が容易なものであれば、特に限定なく使用することができる。特に、Si-N結合のSi原子に2個の水素原子が結合した-(SiH2-NH)-の繰り返し構造を有するペルヒドロポリシラザンは、大気中の水分と反応してシリカに容易に転化するため、SiO2層を形成する際に好ましく用いることができる。当該ペルヒドロポリシラザンの有機溶媒溶液を塗布液として用い、大気中で乾燥し、UV照射すること等により、緻密でアモルファス状態の高純度シリカからなるSiO2層を得ることができる。
【0052】
上記において、UV照射を行うのは、ポリシラザンと大気中の水分との反応を促進してシリカへの転化に要する時間を短縮して、工業生産に求められる生産性を満足するためである。また、乾燥時及びUV照射時のそれぞれにおいて、加熱することにより、ポリシラザンと大気中の水分との反応を促進してシリカへの転化に要する時間を更に短縮することができる。ここで、乾燥は、溶剤の除去や塗膜流れの防止等を目的として行う工程であり、概ね80℃~130℃の範囲で行う。また、乾燥は、上述の通り、溶剤の除去や塗膜流れの防止等を目的として行うため、長時間の乾燥を行う必要はなく、10秒~5分程度の範囲内で適宜行えばよい。
【0053】
一方、UV照射は、ポリシラザンと大気中の水分との反応を促進することを目的としたものであり、加熱した状態でUVを照射することにより、UV照射による当該反応促進効果が高くなる。具体的には、150℃~350℃の範囲で加熱することが好ましい。150℃以上にすることで上記反応促進効果を十分に得ることができるため好ましい。また、350℃以下にすることにより上記反応は十分に進行できると共に、親水表面が形成される部材への熱的影響が抑制される。UV照射に要する時間は、ポリシラザン液塗布後、ポリシラザンがシリカに転化してそのポリシラザン塗布層が硬化するまでに要する時間である。上記温度範囲でUV照射を行った場合、1分~180分の範囲程度でシリカに転化させることができる。
【0054】
第2コート層として光触媒性コーティング膜を形成する場合には、樹脂層を形成した後に、光触媒作用がある粒子(酸化チタンなど)を分散させた光触媒性コーティング液によって、分散液と同様の方法により被処理対象物の表面を被覆することができる。本工程は、後述する分解工程の後に行うこともできる。また、前述した分散液中に光触媒作用がある粒子を分散させてフィラーと同時に被覆することもできる。
【0055】
製造されたハードコート層には、その後、電子線照射を行うこともできる。ハードコート層が含有する透明樹脂材料の種類によっては電子線照射により内部への特性変化は抑えながら最表面での架橋反応を進行させて硬化させることが可能になる。
【0056】
(透明部材の製造方法)
本実施形態の透明部材の製造方法は、透明樹脂部材の表面にハードコート層を熱圧着などにより接合させて一体化して透明部材を製造する方法である。透明樹脂部材は、最終的な目的物である透明部材とほぼ同等の形態を持つが、その成型は、ハードコート層の接合に先駆けて行うこともできるし、透明樹脂部材の成型をハードコート層の接合と同時に行うこともできる。
【0057】
例えば、本実施形態の透明部材の製造方法の一例としては、積層樹脂形成工程と、成型工程とからなり、インサートモールド射出成型又はプレス成型にて成型を行う製造方法が挙げられる。
【0058】
積層樹脂形成工程は、別々に形成した複数の樹脂層をフィラーの含有量に従い積層した積層樹脂層を形成する工程である。複数の樹脂層は、前述のハードコート層の製造方法にて説明した別々に樹脂層を形成する方法にて製造される。
【0059】
成型工程は、インサートモールド射出成型又はプレス成型の型内に積層樹脂形成工程にて製造した積層樹脂層をフィラーの含有量に従い配設した状態で透明樹脂材料を型内に導入して成型を行い透明部材を製造する工程である。溶融した透明樹脂材料が型内に導入・固化するときに、型の内面と、成型された透明樹脂材料の表面との間に複数の樹脂層が接合されて多層化されたハードコート層が接合されることになる。複数の樹脂層を配設する順番としては、型に近い方がフィラー濃度が高くなるように配設する。
【0060】
更に、形成したハードコート層の表面にプラズマ重合などにより表面に重合層を設けたりしても良く、先述の成型を行う際にハードコート層以外の他の層を介在させてハードコート層の表面に密着させることができる(被覆工程)。また、前述の第2コート層をこの段階で設けても良い。
また製造された透明部材としても、その後、電子線照射を行うこともできる。ハードコート層を構成する透明樹脂材料の種類によっては電子線照射により内部への特性変化は抑えながら最表面での架橋反応を進行させて硬化させることが可能になる。
【実施例】
【0061】
本発明のハードコート層、透明部材及びそれらの製造方法について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0062】
(試験A)
(試験1:表面の組成としてシリカ、内部の組成としてベーマイトを採用した一次粒子からなる凝集体である粒子材料の製造)
川研ファインケミカル株式会社製のアルミゾル10A(Al2O3を10質量%含有:短径×長径は10nm×50nm:コア粒子に相当)100質量部にイソプロパノール(IPA)40質量部を加えて、テトラエトキシシラン(TEOS:表面の組成であるシリカの前駆体)10質量部を添加した。この混合比を採用することで最終的に得られる粒子材料中のベーマイトとシリカとの質量比は理論上78:22である。
【0063】
室温で24時間反応したのちアンモニア水で中和して構成一次粒子からなるゲル状の沈殿物を得た。沈殿物を純水で洗浄し、160℃、2時間乾燥し、ジェットミルで平均粒子径を2μm以下に粉砕して実施例1-0の粒子材料を得た。
【0064】
実施例1-0の粒子材料を650℃2時間熱処理して実施例1-1の粒子材料を得た。850℃、2時間熱処理して実施例1-2の粒子材料を得た。
【0065】
実施例1-1の粒子材料を1100℃、2時間熱処理して実施例1-3の粒子材料を得た。実施例1-1の粒子材料を1200℃、2時間熱処理して実施例1-4の粒子材料を得た。更に実施例1-0の粒子材料を、250℃(実施例1-5)、400℃(実施例1-6)、450℃(実施例1-7)で2時間熱処理して各実施例の粒子材料を得た。実施例1-0~実施例1-7の粒子材料の体積平均粒径、比表面積、屈折率を表1に示す。体積平均粒径はレーザー回折式粒度測定装置を用いて行った。比表面積は、窒素を用いたBET法にて測定した。粒子の屈折率は以下の方法で定義した。屈折率が既知の2種類の溶媒で配合比の異なる混合溶媒を複数水準用意し、これに粒子を分散させた際、透過率80%以上(589nm/10mm)かつ最も混合液が透明である点の混合液の屈折率が粒子の屈折率とした。また混合液の透過率が80%に満たない場合は光学的に非完全不透明と定義した。実施例1-0~1-4のそれぞれのXRDスペクトルは
図1に、実施例1-5~1-7のそれぞれのXRDスペクトルは
図3にまとめた。それぞれのXRDの測定結果から算出した各実施例における2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅(FWHM)を表2に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
表1より明らかなように、実施例1-0の粒子材料は、ベーマイトの屈折率である1.65とシリカの屈折率である1.45~1.47と両者の混合比(78:22)とから算出される値(約1.60)と近い値を示している。そして実施例1-1~1-4の粒子材料は、高温での加熱によりベーマイトがγアルミナに転移された結果、屈折率が高くなり1.61~1.63になった。
【0069】
また、XRDの測定結果から2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅はそれぞれ0.7°以上で有り、αアルミナに由来する結晶の生成は認められなかった。通常、ベーマイトは、1200℃程度で加熱するとαアルミナになるが、表面をシリカで覆うことでαアルミナ化が抑制できることがわかった。
【0070】
また、それぞれの実施例における比表面積直径は、650℃までの加熱では340m2/g弱程度と変わりなく、それより高い温度(例えば850℃以上)では加熱の温度が高くなるにつれて大きくなり、構成一次粒子同士の焼結が進んでいることが認められ、粒子材料の強度が高くなっていることが推測できる。
【0071】
(試験2:有機物から成る被覆層の形成:その1)
実施例1-2の粒子材料(160℃で乾燥後850℃で焼結)を表3に示した配合量でミキサーに入れたのち、表3に示す有機物配合量(シラン化合物の量)に相当するシラン化合物溶液を撹拌しながら投入して表面処理を行った。シラン化合物溶液は、シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン(信越化学製KBM-1003)、IPA、水の等量混合液とした。
【0072】
その後室温で1日放置して熟成させた後160℃2時間加熱し液成分を揮発させ実施例2-1~2-3の複合凝集体を得た。この表面処理により粒子材料の表面に有機物からなる被覆層が形成された。
【0073】
【0074】
表3より明らかなように、シラン化合物の処理量を多くすることで被覆層を厚くすることが可能になり、被覆層を厚くするにつれて屈折率が小さくなることが分かった。
【0075】
(試験3:有機物から成る被覆層の形成:その2)
実施例1-0の粒子材料(160℃で乾燥のみ)を表4に示した配合量でミキサーに入れたのち、表4に示す有機物配合量(シラン化合物の量)に相当するシラン化合物溶液を撹拌しながら投入して表面処理を行った。シラン化合物溶液は、シラン化合物としてのビニルトリメトキシシラン(信越化学製KBM-1003)、IPA、水の等量混合液とした。
【0076】
その後室温で1日放置して熟成させた後160℃2時間加熱し液成分を揮発させ実施例3-1~3-3の複合凝集体を得た。この表面処理により粒子材料の表面に有機物からなる被覆層が形成された。
【0077】
【0078】
表4より明らかなように、シラン化合物の添加量を増やして有機物からなる被覆層を厚くすることにより屈折率を小さくすることが可能になった。
【0079】
(試験4:有機物から成る被覆層の形成:その3)
TEOSの添加量を表5に記載の量に変更した以外は、上述した実施例1-2と同様の方法にて実施例4-1、4-2、及び4-3の粒子材料を製造した。
【0080】
【0081】
測定された屈折率の値は、TEOSの添加量を増加させることで屈折率を制御できることが分かった。
【0082】
更に、実施例1-2、4-1、4-2、及び4-3の各粒子材料100質量部に対してメチルトリメトキシシラン(KBM-13、信越化学工業製)50質量部を反応させたものをそれぞれ実施例4-4、4-5、4-6、及び4-7の粒子材料として屈折率を測定した(表6)。
【0083】
【0084】
表6より明らかなように、KBM-13により表面処理を行うことで屈折率を制御することが可能であることが分かった。KBM-13の処理により元の粒子材料の屈折率よりも小さくすることができた。
【0085】
(試験5:表面にシリカの層を形成しない場合)
TEOSを添加しないこと以外は、試験1の実施例1-0~1-7と同様の方法で粒子材料を製造し、それぞれ比較例1-0~1-7の粒子材料とした。比較例の粒子材料は、全体がベーマイトまたはベーマイトが加熱により変化したγアルミナから形成されている。
【0086】
比較例の粒子材料について比表面積、屈折率、XRDの結果を表7に示す。比較例1-0、1-1、1-2、1-3、1-4については測定したXRDスペクトルを
図2に示し、比較例1-5~1-7については測定したXRDスペクトルを
図4に示す。
【0087】
【0088】
表7より明らかなように、表面にシリカの層を有しないことで加熱により一次粒子同士の融着が進んで比表面積が小さくなっており、一次粒子の肥大化が認められた。そのため粒子の肥大化により光線の透過性に影響が生じることが分かった。また、1200℃で加熱した比較例1-4ではXRDによる測定したスペクトルにおける2θが45°~49°と64°~67°とにそれぞれ存在するピークの半値幅はそれぞれ0.2°となりγアルミナがα化していることが分かった。その結果、比表面積も小さくなって粒子の肥大化が認められた。このことからベーマイトの表面にシリカからなる層を形成することにより加熱によるαアルミナ化を抑制できることが分かった。
【0089】
(試験6)
実施例2-2の粒子材料(屈折率=1.54)10質量部と東レダウコーニング製二液シリコーンOE-6631(屈折率=1.54、光透過率(450nm/1mm)=100%)100質量部を自転公転ミキサーで混合してシリコーン熱硬化物を得た。厚さ2mmの金型に入れて、150℃/1時間加熱して硬化させた。この硬化片の光透過率を測定したところ、99%(400nm/2mm)であった。また引っ張り強度は樹脂のみの強度を1として1.5であった。
【0090】
(試験7)
実施例2-2の粒子材料(屈折率=1.52)20質量部と市販の水酸基含有アクリル樹脂/ブチルエーテル化メラミン樹脂からなるクリヤー塗料(硬化後の屈折率=1.51)100質量部をディスパーで混合してクリヤー塗料を得た。塗膜が30μmになるように板ガラスの表面に塗膜を作成した。
【0091】
145℃/30分焼き付けしてクリヤー膜を得た。この膜の光透過率を測定したところ、99.8%(400nm/30μm)であった。この場合に膜厚2mmに換算すると光透過率は87%であった。また引っ張り強度は樹脂のみの強度を1として1.2であった。
【0092】
(試験8)
実施例2-3の粒子材料(屈折率=1.52)30質量部とサンユレック製LE-1421(二液タイプ、屈折率1.51)100質量部を混合して厚さ300μmの板に成形した。
【0093】
硬化条件は80℃/1時間+120℃/1時間であった。この板の光透過率を測定したところ、97%(400nm/300μm)であった。この場合に膜厚2mmに換算すると光透過率は82%であった。また曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.4であった。
【0094】
(試験9)
実施例2-1の粒子材料(屈折率=1.59)20質量部と市販のポリカーボネート100質量部をニーダーで混練してペレットを得た。
【0095】
射出成型して厚さ2mmのテストピースを作成した。光透過率を測定したところ、95%であった。曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.2であった。
【0096】
(試験10)
実施例4-5の粒子材料にメチルトリメトキシシランで処理した粒子材料(屈折率=1.490)20質量部と市販のポリメチルメタクリレート100質量部をニーダーで混練してペレットを得た。射出成型して厚さ2mmのテストピースを作成した。光透過率を測定したところ、98%であった。また曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.2であった。
【0097】
(試験11)
実施例2-1の粒子材料(屈折率=1.59)30質量部と三菱化学製透明PIタイプA(屈折率=1.60)100質量部(固形分換算を混合して流延法で厚さ100μmのフィルムを作成した。
【0098】
このフィルムの光透過率を測定したところ、99%(400nm/100μm)であった。この場合に膜厚2mmに換算すると光透過率は82%であった。曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.1であった。
【0099】
(試験12)
実施例2-2の粒子材料に対して、粒子材料の質量を基準として3質量%のグリシジルプロピルトリメトキシシランで処理した以外は試験7と同じように塗膜を作成した。膜の光透過率は98%(400nm/300μm)、引っ張り強度は試験7と比較して20%向上した。膜の光透過率は、膜厚2mmに換算すると光透過率は87%であった。曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.4であった。
【0100】
(試験13)
実施例4-7の粒子材料(屈折率=1.42)30質量部とシリコーン樹脂(二液型:株式会社ダイセル製CELVENUS A1070(屈折率=1.41)100質量部を自転公転ミキサーで混合し、厚さ2mmの金型に入れて、80℃/1時間と150℃/4時間加熱して硬化させた。この硬化片の光透過率を測定したところ、92%(400nm/2mm)であった。また引っ張り強度は樹脂のみの強度を1として1.6であった。
【0101】
(試験14)
比較例1-2の粒子材料について試験6と同様の方法にてテストピースを作成して光透過率を測定した。その結果、膜厚2mmに換算すると光透過率は10%未満であり不透明であった。引っ張り強度は樹脂のみの強度を1として1.5であった。
【0102】
(試験15)
比較例1-4について試験8と同様の方法にてテストピースを作成して光透過率を測定した。その結果、膜厚2mmに換算すると光透過率は10未満%であり不透明であった。これはαアルミナ化に伴う粒子の肥大化により光線の散乱が生じたことによる影響であると推測される。また曲げ弾性率は樹脂のみの弾性率を1として1.6であった。
【0103】
(試験16~22)
粒子材料としてゲル法シリカ(富士シリシア製、サイリシア:比表面積285m2/g)にて製造したものを採用した以外は、試験6、8、6~11、及び13と同様の方法にてそれぞれ試験14~22のテストピースを作成し、光透過率及び強度(引っ張り強度又は曲げ弾性率)を測定した。結果を表8に示す。
【0104】
【0105】
表8より明らかなように、表面にシリカ層が形成されていないことから加熱により肥大化した粒子材料(比較例1-2及び1-4:試験例14及び15)や、従来から用いられているシリカの凝集体(ゲル法シリカ:試験例16~22)では、樹脂中に分散させることによりある程度の強度向上は実現できるものの、透明性が充分で無いことが分かった。
【0106】
(追加試験及び考察)
実施例4-1の粒子材料を製造する際にTEOSと共にコロイダルシリカを表9に示す量だけ添加して実施例5-1~5-3を製造した。比較例5-1として、実施例4-1の粒子材料を製造する際にTEOSを除き、コロイダルシリカを表9に示す量だけ添加して製造した。
【0107】
【0108】
表より明らかなように、TEOSを加えることによりコロイダルシリカを添加しても透明性を保ったまま(屈折率の測定が可能)であった。比較例5-1では外部と連通しない細孔が生じたために屈折率の測定ができなかったものと推測される。
【0109】
(追加考察)
ベーマイトは高温にて加熱することでγアルミナに転移するため、この生成・消失を検討することで、ベーマイトからγアルミナへの転移が表面に存在するシリカによりどのように影響を受けるかを検討した。
【0110】
具体的には、
図3及び4の結果から、ベーマイトの消失及びγアルミナの生成を解析し、加熱温度の変化と表面のシリカの有無の影響を検討した。各ピークについて2θが38°、50°、64°、72°近傍のピークがベーマイト由来のピークであり、45°、67°近傍のピークがγアルミナ由来のピークである。上述のベーマイト由来の各ピークが全て存在し、その半値幅(FWHM)が全て狭い(例えば2.5°以下、好ましくは0.5°以下)である場合にベーマイトが主成分であると判断した。また、上述のγアルミナ由来の各ピークが全て存在し、その半値幅が全て0.5°以上(好ましくは3.0°以上)である場合にγアルミナが相当量生成したと判断した。解析結果を
図5に示す。
【0111】
今回の各試料は最初はベーマイトのみから構成されγアルミナは殆ど含有していないため、γアルミナ由来のピークが上述した基準で観測された場合にベーマイトからγアルミナへの転移が進行していることが分かる。更に、これらの試料について屈折率を測定し
図5に合わせて示す。
【0112】
図5より明らかなように、250℃で加熱した比較例1-5ではγアルミナ由来のピークは小さくベーマイトが主成分であったが、400℃で加熱した比較例1-6、450℃で加熱した比較例1-7と加熱温度を高くするにつれてγアルミナに転移されていることが分かったγアルミナに転移していることで屈折率も大きくなった。
【0113】
それに対して表面をシリカで形成した実施例1-5~1-7は、250℃(実施例1-5)、400℃(実施例1-6)、450℃(実施形態1-7)で加熱してもいずれもベーマイトが主成分でγアルミナの生成は殆ど認められなかった。屈折率も大きな変動を示さなかった。このように高温で加熱できることベーマイトのままで粒子材料間を強固に結合させることができた。
【0114】
参考までに実施例1-0及び比較例1-0についてTG-DTA測定を行った結果を
図6に示す。実施例1-0の試料は、460℃近傍にて吸熱ピークが認められ、この温度付近でベーマイトがγアルミナに転移していることが分かった。それに対して比較例1-0の試料は、420℃近傍にて吸熱ピークが認められ、この温度は表面をシリカにて形成している実施例1-0における吸熱ピークを示す温度よりも40℃低いものであった。
【0115】
(試験B)
平均粒子径が3μm、屈折率が1.49に調整した粒子材料(上述した実施例4-6の粒子材料)をフィラーとしてポリメチルメタクリレート(PMMA)のTHF溶液に所定量配合してPETフィルム上に流延法で厚さ50μmのフィルムを作成した。フィルム中の無機粒子の含有量が0%、15%、30%、50%質量%であった。無機粒子含有量が0%、15%、30%、50%の順にフィルムを積層して熱ロールでカレンダー加工して積層フィルムを得た。
【0116】
フィルムを板状金型内に設置し射出成型でポリカーボネート板を成型した。成型したポリカーボネート板の表面に無機粒子の含有量が傾斜的に外に向かって増大するハードコート層が配設・接合された表面高硬度透明ポリカーボネート板(透明部材)を作成した。
【0117】
表面高硬度透明ポリカーボネート板の表面鉛筆硬度を測ると、6Hであった。
【0118】
表面硬度6Hの透明ポリカーボネート板の表面に更に株式会社ニッテク製のハードコート材アシェルで10μmのハートコート層を形成した。鉛筆硬度を測ると7Hであった。
【0119】
表面硬度6Hの透明ポリカーボネート板の表面を100KVの加速電圧で電子線照射をした。照射後の表面硬度を測ると9Hであった。
表面硬度6Hの透明ポリカーボネート板の表面をポリシラザン溶液(有限会社エクスシア製、SSL-SD500-HHB)を用いて液厚100nmでコーティングし、100℃で乾燥後に365nmの紫外線を照射しながら加熱することにより緻密でアモルファス状の高純度シリカ膜(第2コート層:SiO2層)を形成した。層を形成した後の表面の硬度を測ると9Hであった。
【0120】
-50℃から80℃の冷熱サイクル試験(1サイクル30分)をしたところ、5000時間たってもひび割れや剥がれがなかった。一方ポリカーボネート板上に株式会社ニッテク製のハードコート材アシェルで20μmのハートコート層を形成したものは2000時間でひび割れが観測された。