(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高層建物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/18 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
E04B1/18 A
(21)【出願番号】P 2020055970
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】増子 寛
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-306951(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0047889(US,A1)
【文献】特開2003-193698(JP,A)
【文献】特開2001-172986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラーメン構造の高層建物であって、
前記高層建物の横断面で見て、前記横断面上を互いに平行に伸びる2つの外側の直線及び前記2つの外側の直線間を該2つの外側の直線と平行に伸びる2つの内側の直線のそれぞれの上に互いに等間隔をおいて配置され上下方向へ伸びる複数の外柱及び複数の内柱を備え、
外側の各直線上の複数の外柱の一部と、外側の各直線に隣接する内側の各直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されており、
前記複数の外柱の一部は、外側の各直線の両端に位置する2つの外柱と、該2つの外柱間に位置する複数の外柱のうちの一つ置きの外柱とからなる
、高層建物。
【請求項2】
前記高層建物は下層階、中層階及び上層階を有し、前記中層階及び上層階において、各外側の直線上の複数の外柱の一部と、外側の各直線に隣接する内側の各直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されている、請求項
1に記載の高層建物。
【請求項3】
ラーメン構造の高層建物であって、
前記高層建物の横断面で見て、前記横断面上を互いに平行に伸びる2つの外側の直線及び前記2つの外側の直線間を該2つの外側の直線と平行に伸びる2つの内側の直線のそれぞれの上に互いに等間隔をおいて配置され上下方向へ伸びる複数の外柱及び複数の内柱を備え、
外側の各直線上の複数の外柱の一部と、外側の各直線に隣接する内側の各直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されており、
前記高層建物は地盤上に設けられたマット基礎に支持され、前記マット基礎は、各内側の直線上の内柱相互間の中央位置の下方においてそれぞれ前記地盤中を伸びる複数のアンカーに接続されている
、高層建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラーメン構造の高層建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラーメン構造の高層建物にその全高にわたって伸びる門型架構を形成することが提案されている。門型架構は柱と、柱間の大梁と、柱及び大梁間の耐震壁とからなる。これによれば、梁及び柱の設置数量の低減を図ることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の実情に鑑み、柱の設置数量の低減に寄与する新たなラーメン構造の高層建物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ラーメン構造の高層建物に係る。前記高層建物は、その横断面で見て、前記横断面上を互いに平行に伸びる2つの外側の直線及び前記2つの外側の直線間を該2つの外側の直線と平行に伸びる2つの内側の直線のそれぞれの上に互いに等間隔をおいて配置され上下方向へ伸びる複数の外柱及び複数の内柱を備える。ここにおいて、各外側の直線上の複数の外柱の一部と、各外側の直線に隣接する各内側の直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されている。
【0006】
好ましくは、前記複数の外柱の一部は、外側の各直線の両端に位置する2つの外柱と、該2つの外柱間に位置する複数の外柱のうちの一つ置きの外柱とからなる。また、好ましくは、前記高層建物の下層階、中層階及び上層階のうちの前記中層階及び上層階において、外側の各直線上の複数の外柱の一部と、外側の各直線に隣接する内側の各直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されている。
【0007】
本発明によれば、外側の各直線上の複数の外柱の一部と、前記外側の各直線に隣接する内側の各直線上の複数の内柱の全部とがそれぞれ梁で接合されていることから、前記複数の外柱の残りの一部に対応する内柱が存せず、内柱の設置数量が低減されている。
【0008】
本発明に係る高層建物の構造にあっては、前記内柱の設置数量を低減することにより、意図的に、前記外柱よりも設置数量が少ない前記内柱が負担する軸力の一部を前記梁を介して前記外柱に負担させる。これにより、前記外柱直下の支点反力の増大を図り、同時に、前記内柱直下の支点反力の低減を図る。このことから、従来の高層建物では全ての外柱直下及び全ての内柱直下において地震時における前記高層建物の引き抜きに対する対処を必要とするところ、本発明においては前記支点反力の比較的小さい前記内柱相互間の位置、好ましくは前記内柱相互間の中央位置下を前記高層建物に対する引き抜きへの対処箇所に限定することができる。また、前記内柱の設置数量の低減により、前記高層建物の固有周期の長大化を図ることができ、これにより、地震時における前記高層建物の応答(加速度及び変形角)の大きさを低減し、また前記高層建物に働く引き抜き力の大きさを低減することができる。
【0009】
さらに、前記内柱の設置数量の低減に伴う大梁、小梁等の削減を可能とし、これにより前記高層建物内の居住空間や設備配置空間の拡大を図り、また、前記高層建物の構築に要する工期の短縮を図ることができる。
【0010】
前記高層建物は地盤上に設けられたマット基礎に支持され、前記マット基礎は、各内側の直線上の内柱相互間の中央位置の下方においてそれぞれ前記地盤中を伸びる複数のアンカーに接続されているものとすることができる。前記アンカーは、地震時に前記高層建物に働く引き抜き力に対する抵抗として機能する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図1の線2-2に沿って得た概略的な横断面図である。
【
図3】
図1の線3-3に沿って得た概略的な横断面図である。
【
図4】他の例に係る高層建物の概略的な立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、本発明が適用されたラーメン構造の高層建物が全体に符号10で示されている。図示の例において、高層建物10は、上方に向けて順次に連なる地階12、下層階14、中層階16及び上層階18を有する。高層建物10は、比較的硬く、高い支持力を有する地盤E上にマット基礎20を介して支持されている。なお、
図1は、
図2において横方向に関して互いに相対する2つの丸印36の中心を経て伸びる直線Lを含む立面の形状を概略的に示すところ、本発明をより明瞭に示す観点から、さらに、
図2に示す直線Lに直交する2つの梁34について、図示を省略した。
【0013】
次に、
図2を参照すると、高層建物10の中層階16における横断面が概略的に示されている。高層建物10は、上下方向へ伸びる多数の柱と、互いに相対する2つの柱に接合され水平に伸びる梁とを備える。前記柱及び前記梁は、それぞれ、プレキャストコンクリートからなる。図上、前記柱は比較的小さい正方形又は長方形の平面形状をもって示され、前記梁は比較的細長い長方形の平面形状をもって示されている。図の煩雑を回避するため、前記柱及び梁については、特に必要な場合を除き、これらに符号を付することを省略した。
【0014】
前記多数の柱の一部をなす柱のうちの複数の柱(外柱)及び複数の他の柱(内柱)がそれぞれ符号22、24で示されている。なお、後述する説明の便宜上、前記外柱は、必要に応じて、符号22に添字a、b、cを付した22a、22b、22cで示されている。同様に、前記内柱は、必要に応じて、符号24に添字a、bを付した24a、24bで示されている。
【0015】
複数の外柱22及び複数の内柱24は、高層建物10の横断面で見て該横断面上を互いに平行に伸びる4つの直線(一点鎖線で示す仮想の直線)のそれぞれの上に、互いに等間隔を置いて配置されている。
【0016】
図示の例において、各外柱22及び各内柱24は、それぞれ、高層建物10の各階の高さに相当する長さ寸法を有し(
図1参照)、上下階の各外柱22同士及び各内柱24同士が接続されている。符号28(
図1)は、耐震補強のためのブレースを示す。
【0017】
前記4つの直線は、2つの直線(外側の直線)L1、L2と、両直線L1、L2間をこれらの直線L1、L2と平行に伸びかつこれらの直線L1、L2にそれぞれ隣接する2つの直線(内側の直線)L3、L4とからなる。図示の高層建物10の横断面は全体に矩形状を呈し、前記4つの直線はそれぞれ前記矩形の長辺の伸長方向へ伸びている。また、互いに隣接する1対の直線L1、L3の相互間隔及び互いに隣接する他の1対の直線L2、L4の相互間隔は等しい。ここにおいて、外側の直線L1、L2は、高層建物10の中層階16及び上層階18の横断面で見て、高層建物10の縁辺に最も近い位置にある。
【0018】
外側の各直線L1、L2上の複数(図示の例において9つ)の外柱22は、各直線L1、L2の両端に位置する2つの外柱22aと、両外柱22a間の複数(図示の例において7つ)の外柱22b、22cとからなる。図示の例において3つの外柱22b及び4つの外柱22cは互いに一つ置きに配置されている。また、外側の直線L1上の複数の外柱22a、22b、22cと、外側の直線L2上の複数の外柱22a、22b、22cとは、それぞれ、高層建物10の前記概略的な横断面形状である矩形の短辺の伸長方向に関して互いに相対している。
【0019】
また、内側の各直線L3、L4上の複数(図示の例において5つ)の内柱24は、各直線L3、L4の両端に位置する2つの内柱24aと、両内柱24a間の複数(図示の例において3つ)の内柱24bとからなる。内側の直線L3上の複数の内柱24a、24bと、内側の直線L4上の複数の内柱24a、24bとは、それぞれ、前記矩形の短辺の伸長方向に関して互いに相対している。
【0020】
さらに、外側の直線L1の両端の2つの外柱22aと、外側の直線L1に隣接する内側の直線L3の両端の2つの内柱24aとが互いに相対し、同様に、外側の直線L2の両端の2つの外柱22aと、外側の直線L2に隣接する内側の直線L4の両端の2つの内柱24aとが互いに相対している。また、さらに、外側の直線L1の両端間の3つの外柱22bと、外側の直線L1に隣接する内側の直線L3上の3つの内柱24aとが互いに相対している。同様に、外側の直線L2の両端間の3つの外柱22bと、外側の直線L2に隣接する内側の直線L4の両端間の3つの内柱24bとが互いに相対している。
【0021】
図示の例では、高層建物10の中層階16及び上層階18(
図1)において、それぞれ、外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の一部と、外側の各直線L1、L2に隣接する内側の各直線L3、L4上の複数の内柱24の全部とがそれぞれ梁30で接合されている。他方、高層建物10の地階12及び低層階14においては、外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の全部と、外側の各直線L1、L2に隣接する内側の各直線L3、L4上の複数の内柱24の全部とがそれぞれ梁30、46で接合されている(
図3参照)。ただし、中層階16及び上層階18を支える上で必要な強度を確保することが可能であれば、
図4に示すように、中層階16及び上層階18におけると同様に外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の一部と、外側の各直線L1、L2に隣接する内側の各直線L3、L4上の複数の内柱24の全部とがそれぞれ梁30で接合されたものとすることができる。すなわち、内柱24c及び梁46の設置を省略することができる。
【0022】
外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の一部は、両端の2つの外柱22a及び3つの外柱(4つの外柱22c間に一つ置きに配置された3つの外柱)22bからなる。他方、内側の各直線L3、L4上の複数の内柱24の全部は、両端の2つの内柱24a及び3つの内柱24bからなる。ここにおいて、互いに隣接しかつ互いに相対する外柱22a及び内柱24a同士と、互いに隣接しかつ互いに相対する外柱22b及び内柱24b同士とが、それぞれ、梁30で接合されている。なお、外側の各直線L1、L2上の互いに隣接する2つの外柱22a、22b同士、及び、2つの外柱22b、22b同士はそれぞれ梁32で接合されている。同様に、内側の各直線L3、L4上の互いに隣接する2つの内柱24a、24b同士及び2つの内柱24b、24b同士はそれぞれ梁34で接合されている。
【0023】
前記したところから、外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の一部22a、22bと、外側の各直線L1、L2に隣接する内側の各直線L3、L4上の複数の内柱24の全部24a、24bとはそれぞれ複数の梁30で接合されており、外側の各直線L1、L2上の複数の外柱22の残りの一部である4つの外柱22cに対応する(相対する)4つの箇所(二点鎖線の丸印36で示す箇所)に前記内柱は存在しない。これにより、前記内柱の設置数量の低減が図られている。各梁34は、丸印36で示す各箇所において、内側の両直線L3、L4間に配置された他の柱38に対して他の梁40を介して接合されている。
【0024】
前記内柱の設置数量を低減することにより、意図的に、外柱22の設置数量より少ない内柱24が負担する軸力の一部を梁30を介して外柱22に負担させる。これにより、各外柱24直下の支点反力の増大を図り、同時に、各内柱24直下の支点反力の低減を図る。このことから、従来の一般的な高層建物では全ての外柱直下及び全ての内柱直下において地震時における前記高層建物の引き抜きへの対処を必要とするところ、前記支点反力の比較的小さい、丸印36で示す内柱24相互の中間位置下を高層建物10に対する引き抜きへの対処箇所に限定することができる。
【0025】
また、内柱24の設置数量を低減することにより、高層建物10の固有周期の長大化を図ることができ、これにより、地震時における高層建物10の応答(加速度及び変形角)の大きさを低減し、また高層建物10に働く引き抜き力の大きさを低減することができる。さらに、内柱24の設置数量の低減に伴う大梁、小梁等の削減を可能とし、これにより居住空間や設備の設置空間の拡大を図り、また、高層建物10の構築に要する工期の短縮を図ることができる。
【0026】
上層階18における例えば最上階及びその下方の数階においては、それぞれ、内側の各直線L3、L4上への全ての内柱24a、24bの設置を省略することができる(図示せず)。ここにおいて、外側の各直線L1、L2上の各外柱22a、22bは、内側の両直線L3、L4間に配置された他の柱42に対して他の梁(図示せず)を介してそれぞれ接合される。なお、各層階において、4つの直線L1~L4に直交する方向に関して互いに相対する2つの柱38同士及び2つの柱42同士は、それぞれ、梁43及び梁45で接合されている。
【0027】
地階12を概略的に示す
図3を参照すると、柱がそれぞれ正方形で示され、また、梁が直線で示されている。図上、一点鎖線の丸印44で示す箇所は、丸印36(
図2)で示す箇所の直下に位置する。地階12及び下層階14のそれぞれにおいては、丸印44で示す箇所に内柱24(便宜上、これを24cで示す。)が配置されている。各内柱24cと、これに相対する外柱22cとが梁46で接合されている。内柱24c及び梁46を除いて、地階12及び下層階14における外柱22及び内柱24とこれらを接合する梁30とは、中層階16及び上層階18におけると同様に配置されている。
【0028】
高層建物10は、これを支持するマット基礎20を介して、地盤E中に設置され鉛直に伸びる複数(図示の例において8つ)のアンカー48に接続されている。アンカー48は、丸印44で示す箇所の直下に配置され、前記内柱の存しない丸印36で示す箇所下において、地震時における高層建物10に働く引き抜き力に対する抵抗として機能する。これにより、前記支点反力の比較的小さい、内柱24a、24b相互及び内柱24b、24b相互のそれぞれの中間位置(丸印36で示す箇所)下を高層建物10に対する引き抜きへの対処箇所に限定することができる。なお、図示の例では、さらに、8つのアンカー48に加えて、補助的に、さらに4つの他のアンカー(図示せず)が丸印50で示す他の箇所に配置されている。
【符号の説明】
【0029】
10 高層建物
16 中層階
18 上層階
20 マット基礎
22 外柱
24 内柱
30、32、34 梁
36 内柱が設置されていない箇所
L1、L2 外側の直線
L3、L4 内側の直線