IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許7436272積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム
<>
  • 特許-積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム 図1
  • 特許-積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム 図2
  • 特許-積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム 図3
  • 特許-積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム 図4
  • 特許-積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240214BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240214BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20240214BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240214BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240214BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240214BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B29C64/106
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020071285
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167087
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336547(JP,A)
【文献】特開2019-130892(JP,A)
【文献】特開2017-144580(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102179517(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 26/34
B29C 64/106
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を有し、
前記基準は、前記ベースの自由端部であることを特徴とする積層造形方法。
【請求項2】
前記基準は、前記ベースに形成された溶接ビードであることを特徴とする請求項に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記基準は複数が設けられ、
前記着目層に対応する溶接ビードは、複数の基準のうち最も近い位置の基準の測定結果に基づいて形成位置が補正されることを特徴とする請求項1または2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記基準は、前記溶接ビードを形成するためのトーチと連結して移動可能に構成されたセンサにより測定されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記基準は、前記溶接ビードを形成するためのトーチのタッチセンシングにより測定されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記ずれ量は、前記ベースの固定された側の端部から自由端部への方向に沿ったずれ量であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項7】
前記ベースの温度を検出する工程をさらに含み、
前記ベースの温度が所定の温度を超えた場合、または、前記基準を測定した際の温度からの温度差が所定の値を超えた場合に、前記測定が実施されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項8】
前記積層造形物を構成する1または複数の層それぞれの形成を開始する前に、前記測定が実施されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項9】
前記積層造形物を構成する所定の層単位ごとに、前記測定が実施されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項10】
すでに形成されている直下の層に対応する溶接ビードの形成の結果に基づいて、前記着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記測定を行うか否かを切り替えることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の積層造形方法。
【請求項11】
一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形システムであって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースにて設定される基準の位置を測定する測定部と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定部にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出部と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正部と、
前記補正部にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理部と、
を有し、
前記基準は、前記ベースの自由端部であることを特徴とする積層造形システム。
【請求項12】
一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形装置を制御するコンピュータに、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースにて設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を実行させ
前記基準は、前記ベースの自由端部であるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形方法、造形システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンターなどにより金属の積層造形物を形成する技術が知られている。その造形方法の一つである金属溶融積層方式は現状、金属粉末をビームで焼結する方法が主流であり、高級な金属でかつ少量生産の製品にて一部適用されている。一方、機械パーツ造形など産業向けには、より高速で造形でき、かつ、内部品質も担保できるようなプロセスが期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、コストを抑えつつ、溶接品質を確保することが可能な溶接ロボットが開示されている。特許文献1によると、溶接トーチの周辺にて進行方向前方および後方に移動可能なレーザーセンサを取り付け、そのレーザーセンサで被溶接物の開先形状を検出して、溶接トーチの狙い位置のずれを特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-63829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接トーチの狙い位置ずれの要因の一つとして、溶接による母材への蓄熱に伴って、母材の形状が変化することが挙げられる。このような状況において、例えば、事前に溶接による温度履歴を用いて形状変化に対応させるための補正量を計算する手法では、母材への蓄熱を考慮しておらず、正確な補正量を得ることができない。また、造形におけるモデル化誤差やロボットの器差などの影響も生じうるため、事前の溶接による温度履歴のみでは正確な補正量を算出することは難しい。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、積層造形物の造形時における溶接ビードの形成位置の補正の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。
(1) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着した溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を有する。
【0008】
(2) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形システムであって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定部と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定部にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出部と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正部と、
前記補正部にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理部と、
を有する。
【0009】
(3) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形装置を制御するコンピュータに、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を実行させるプログラム。
【発明の効果】
【0010】
本願発明により、積層造形物の造形時における溶接ビードの形成位置の補正の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願発明の一実施形態に係る積層造形物の製造方法に使用される積層造形システムの構成例を示す概略構成図。
図2】積層造形物の位置ずれを説明するための概略図。
図3】本願発明の一実施形態に係る積層造形物の造形動作の概要を示す概略図。
図4】本願発明の一実施形態に係る造形処理のフローチャート。
図5】本願発明の一実施形態に係る積層造形物の積層位置の検知動作の概要を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0014】
[システム構成]
以下、本願発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本願発明の積層造形物の製造方法に使用される積層造形システムの概略構成図である。
【0015】
本実施形態に係る積層造形システム100は、積層造形装置11、および、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15を含んで構成される。
【0016】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19、および、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21を含んで構成される。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0017】
コントローラ15は、CAD/CAM部31、軌道演算部33、ずれ量取得部35、記憶部37、および制御部39を含んで構成される。
【0018】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0019】
トーチ17は、シールドノズル(不図示)を有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本実施形態で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、製作する積層造形物Wに応じて適宜選定される。また、トーチ17近傍には、トーチ17の動きに追従して移動可能なセンサ22を備えられる。センサ22は、トーチ17が形成する位置周辺の状態を検出可能である。本実施形態では、センサ22により、積層造形物W(溶接ビード25)の位置やベース20の位置を検出可能であるものとする。
【0020】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた繰り出し機構(不図示)により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビード25がベース20上に形成される。溶接ビード25が積層されることで、積層造形物Wが造形されることとなる。
【0021】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶接ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0022】
CAD/CAM部31は、造形しようとする積層造形物Wの形状データを生成、又は外部から入力した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。ここでの移動軌跡は、ベース20上に溶接ビード25を形成している最中のトーチ17の軌跡に限定するものではなく、例えば、溶接ビード25を形成する開始位置へのトーチ17の軌跡などをも含むものとする。また、軌道演算部33は、ずれ量取得部35にて取得したずれ量に基づいて、積層造形物Wを構成する溶接ビード25の形成位置の補正を行う。ずれ量取得部35は、トーチ17が備えるセンサ22により得られた検出結果を取得し、その検出結果に基づく溶接ビード25の形成位置のずれ量の取得を行う。本実施形態に係るずれ量の詳細については、後述する。記憶部37は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡、センサ22にて検出した検出結果等のデータを記憶する。
【0023】
制御部39は、記憶部37に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動させる。
【0024】
本実施形態では、図1に示すように、円柱状のベース20の上面に沿ってトーチ17を移動させて溶接ビード25を形成して積層造形物Wを造形する構成を例に挙げて説明する。本実施形態においてベース20は、一方の端部が固定された状態(固定端)であり、もう一方の端部が解放された状態(自由端)となって、円柱軸方向に延伸している。また、ベース20は、円柱軸を中心に回転可能であり、造形しようとする積層造形物Wの形状に応じて回転動作を行う。なお、ベース20の形状は円柱状に限定するものではなく、例えば、一方の端部が自由端として構成された一軸方向に延伸した板形状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0025】
上記構成の積層造形システム100は、設定された層形状データから規定されるトーチ17の移動軌跡に従って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベース20上に供給する。これにより、ベース20の上面に複数の線状の溶接ビード25が並べられて積層された積層造形物Wが造形される。
【0026】
溶接が行われることに伴い、ベース20への蓄熱が進んで熱変形が生じる。そのため、図1に示すように、ベース20の一方の端部が自由端となった構成では、ベース20の軸方向の長さが変化し、自由端の位置が変動する。このようなベース20の熱変形を考慮して、トーチ17の移動軌跡の補正を行う必要がある。
【0027】
蓄熱によるベース20の熱変形についてより詳細に説明する。ベース20の軸方向の熱変形量ΔLは、以下の式(1)にて表現することができる。ここでは、説明を簡略化するためにベース20の温度は一様であるものとして説明する。
ΔL=αTL …(1)
α:ベースの線膨張係数
T:ベースの温度変化量
L:ベースの軸方向長さ
【0028】
図1に示すベース20の構成においては、円柱軸方向において自由端の軸方向位置がΔLの分だけ変化することとなる。上記の熱変形量ΔLを考慮し、積層造形物Wの当初の造形計画(トーチ17の移動軌跡の軌道計画)を補正する。
【0029】
補正は以下の式(2)により行うことが可能である。
Xm=Xp+ΔXp=Xp+αTXp=Xp(1+ΔL/L) …(2)
Xp:当初の軌道計画上の積層開始位置
ΔXp:当初の軌道計画上の積層開始位置からの差分
Xm:補正後の積層開始位置
【0030】
上記の各数式にて用いられる情報(例えば、係数などの固定値)は、予め記憶部37に保持されているものとする。
【0031】
なお、ΔLの導出に関し、積層造形を開始する前に所定の温度状態で予めベース20の自由端の位置を検出しておき、その位置からの差分として求めてもよい。ここでの所定の温度状態とは、予め規定された一定の温度であってもよいし、積層造形の開始直前のベース20の温度であってもよい。
【0032】
[造形動作概要]
図2図3は、本実施形態に係る積層造形システム100の動作概要を説明するための概略図である。積層造形システム100は、積層造形物Wを複数の層に分けて造形を行う。ここでは、2層から構成される積層造形物Wを例に挙げて説明する。
【0033】
積層造形システム100のコントローラ15は、積層造形物Wの設計データから積層造形物Wを構成する各層に対応した層形状データを作成する。図2の例の場合、第1の層および第2の層に対応した層形状データが作成される。ここでは下(ベース20側)の層を第1の層とし、上の層を第2の層として説明する。
【0034】
上述したように、ベース20への熱蓄積により、ベース20は、自由端側が円柱軸方向に沿って膨張する。そのため、当初の形状データに基づいて積層造形物Wの造形を行った場合、その造形位置にずれが生じることとなる。図2において、破線201は、当初の形状データの造形位置を示し、実線202は、ずれが生じた結果、積層造形物Wの各層に対応する溶接ビード25が形成される位置である。
【0035】
上記のベース20の熱膨張に起因して、第1の層の造形位置は、当初の造形位置とのずれ量として、ΔL1が生じる。同様に、上記のベース20の熱膨張に起因して、第2層の造形位置は、当初の造形位置とのずれ量として、ΔL2が生じる。このとき、造形する積層造形物Wの形状や造形時の経過時間(停止時間なども含む)などに応じて、ΔL1とΔL2とが同じになる場合もあれば、いずれかが大きい場合もある。
【0036】
本実施形態では、図3に示すように、積層造形物Wを構成する各層を形成する際に、層ごとにベース20の自由端部の位置を検出する。つまり、ベース20の自由端を、造形時の位置を特定するための基準として用いる。そして、その検出結果に応じて、層形状データの造形位置を補正する。本実施形態においては、積層造形物Wを構成する層の数に応じて、自由端の検出動作の回数が変動する。
【0037】
本実施形態では、ベース20の自由端の検出を行うセンサ22として、トーチ17と連結して移動可能なレーザーセンサを用いる。しかし、この構成に限定するものではなく、他の種類のセンサや他の検出手法を用いてもよい。例えば、トーチ17によるベース20に対するタッチセンシングにより、ベース20の自由端の検出を行ってもよい。タッチセンシングとは、溶接トーチに電圧を印加した状態で溶接ロボットを動かし、溶接トーチの溶接ワイヤがワークに接触した位置(すなわち、ワークと溶接ワイヤ間の通電を検知した位置)をワーク位置として検出するセンシング動作である。このタッチセンシングにおいて、通常は、ワークへの接触を検出したときのロボットの姿勢(つまり、ロボットの各関節のモータ角度)を基にしてワークの位置が検出される。具体的なタッチセンシングの方法は、例えば、特開2017-170471号公報に記載された手法を用いることができる。
【0038】
[処理フロー]
図4は、本実施形態に係る造形処理のフローチャートである。本処理は、コントローラ15により実行、制御され、例えば、コントローラ15が備えるCPU(Central Processing Unit)などの処理部(不図示)が図1に示した各部位を実現するためのプログラムを読み出して実行することにより実現されてよい。
【0039】
S401にて、コントローラ15は、積層造形物Wの設計データを取得する。ここでの設計データは、積層造形物Wの形状等を指定したデータであり、ユーザの指示に基づいて作成される。設計データは、例えば、通信可能に接続されたPC(Personal Computer)等の外部装置(不図示)から入力されてもよいし、コントローラ15上にて所定のアプリケーション(不図示)を介して作成されて記憶部37に保持されていてもよい。
【0040】
S402にて、コントローラ15は、CAD/CAM部31により、S401にて取得した設計データに基づいて積層造形装置11にて積層造形物Wを造形するために用いられる形状データを作成する。作成された形状データは、記憶部37にて保持・管理されてよい。
【0041】
S403にて、コントローラ15は、CAD/CAM部31により、S402にて作成した形状データを用いて、各層に対応する1または複数の層形状データを作成する。作成された層形状データは、記憶部37にて保持・管理されてよい。
【0042】
S404にて、コントローラ15は、軌道演算部33により、S403にて作成した1または複数の層形状データを用いて、各層におけるトーチ17の移動軌跡を導出する。ここで導出された移動軌跡の情報は、対応する層形状データと対応付けて管理される。
【0043】
S405にて、コントローラ15は、変数Nを1にて初期化する。変数Nは、積層造形物Wの着目している層(着目層)を示し、上限は積層造形物Wの全層数となる。変数Nは、記憶部37等にて保持されてよい。
【0044】
S406にて、コントローラ15は、作成された1または複数の層形状データの中から、第N層の層形状データおよび対応する移動軌跡の情報を取得する。
【0045】
S407にて、コントローラ15は、制御部39によりトーチ17を移動させ、センサ22によりベース20の基準の位置の検出を行う。上述したように、本実施形態では、基準の位置として、ベース20の自由端の位置を利用する。
【0046】
S408にて、コントローラ15は、ずれ量取得部35により、S407にて検出した自由端の位置に基づいてベース20の熱変形量ΔLを算出する。ここでの算出方法は、上述した式を用いるものとする。
【0047】
S409にて、コントローラ15は、軌道演算部33により、S408にて算出した熱変形量ΔLを用いて、第N層の層形状データに対応するトーチ17の移動軌跡の補正を行う。例えば、第N層の溶接ビード25の形成の開始位置を補正する。
【0048】
S410にて、コントローラ15は、制御部39により、S409にて補正した移動軌跡に基づいてトーチ17を移動させ、積層造形物Wの第N層の造形を行わせる。つまり、コントローラ15は、補正された開始位置にて、積層造形物Wの第N層に対応する溶接ビード25の形成を開始させる。
【0049】
S411にて、コントローラ15は、積層造形物Wを構成するすべての層の溶接ビード25の形成が完了したか否かを判定する。つまり、S403にて作成した1または複数の層形状データすべてを用いて溶接ビード25の形成が完了したか否かを判定する。形成が完了した場合(S411にてYES)本処理フローを終了する。一方、未形成の層が存在する場合(S411にてNO)S412へ進む。
【0050】
S412にて、コントローラ15は、変数Nの値を1インクリメントし、S406へ戻り、以降の処理を繰り返す。
【0051】
以上、本実施形態により、積層造形物の造形時の位置補正の精度を向上させることが可能となる。
【0052】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、層ごとに自由端の検出を行ったが、これに限定するものではない。例えば、複数層を1単位としてまとめ、複数層を形成する単位ごとに自由端の検出動作を行ってもよい。
【0053】
また、下層の溶接ビードの形成に要した時間や形成量などの形成結果に応じて、自由端の検出を実施するか否かを切り替えてもよい。例えば、着目層の直下の層の形成が短時間で完了した場合には、ベース20の熱膨張は少ないものとして検出動作を省略し、直下の層と同じ補正量を用いて補正を行った上で形成を行ってもよい。
【0054】
また、ベース20の温度分布を検出するための温度センサをさらに備え、その温度センサにて検出された温度変化に基づいて、自由端の検出動作を行うか否かを制御してもよい。例えば、ベース20の温度が所定の温度を超えた場合に検出動作を行ってもよいし、前回の検出時の温度からの温度の変化量(温度差)が所定の値を超えた場合に、検出動作を行ってもよい。温度センサは、ベース20の所定の一箇所の温度を検出してもよいし、複数の位置の温度を検出してもよい。温度センサによる検出結果は、例えば、記憶部37にてその変動が保持・管理されてよい。
【0055】
上記の実施形態では、ベース20の温度分布が一定である場合を例に挙げて説明した。しかし、ベース20の大きさや材質などにより、造形動作時の温度分布が一様でない場合が想定される。このような場合、ベース20全体での熱膨張は小さくても、局所的に影響の大きな熱膨張が発生していることが考えられる。このような場合を想定し、自由端の他に基準位置を複数設け、各基準位置の測定結果に基づいて溶接ビード25の形成の開始位置を補正するためのΔLを求めてもよい。この場合、補正に用いる基準位置の情報は、溶接ビード25を形成する位置に最も近い基準位置の情報であってよい。
【0056】
また、ベース20の構造に基づく基準(上記の例では、自由端)に変えて、形成する溶接ビードのうち、特徴量が明確な溶接ビードを基準位置として用いてもよい。ここでの特徴量とは、例えば、すでにベース20に形成された溶接ビードであって、積層造形物Wの端部(エッジ部分)に相当する位置の情報を利用してよい。すでに形成された溶接ビードのエッジ部分の位置を検出し、この検出結果と当該エッジ部分の形成予定位置とを比較することで、ずれ量を導出することが可能である。
【0057】
図5は、すでに形成された溶接ビード25のエッジ部分〇を検出する際の概念を示す概略図である。図5において、すでに第2層までの溶接ビード25が形成されているものとする。そして、第3層の溶接ビードを形成する前に、第2層の溶接ビード25のエッジ部分〇を検出する。ここでは、タッチセンシングにて検出を行う例を示しており、その場合には、センサ22は不要となる。そして、この検出結果と第2層の溶接ビードの形成予定位置とを比較することで、ずれ量を特定することが可能となる。なお、上記では、積層造形物のエッジ部分を例に挙げて説明したが、これに限定するものではない。そのほかにも、積層造形物Wの形状や溶接ビードの配置などに特徴がある場合には、それらを検出位置として利用してよい。
【0058】
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0059】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0060】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースにて設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を有することを特徴とする積層造形方法。
これにより、積層造形物の形成時の位置補正の精度を向上させることが可能となる。特に、溶接ビードの積層に伴って地区説が進行したベースの熱膨張に伴う積層開始位置のずれを正確に把握して、かつ、早期に補正を行うことができる。また、ベースの温度が低下する前に次の溶着動作を開始できるため、生産性を向上させることができる。
【0061】
(2) 前記基準は、前記ベースの自由端部であることを特徴とする(1)に記載の積層造形方法。
これにより、基準として確実に把握でき、特定も簡便なベースの構成を利用して、積層造形物の形成時の位置補正の精度を向上させることができる。
【0062】
(3) 前記基準は、前記ベースに形成された溶接ビードであることを特徴とする(1)または(2)に記載の積層造形方法。
これにより、基準として利用可能なベースの溶接ビードを利用して、積層造形物の形成時の位置補正の精度を向上させることができる。
【0063】
(4)前記基準は複数が設けられ、
前記着目層に対応する溶接ビードは、複数の基準のうち最も近い位置の基準の測定結果に基づいて形成位置が補正されることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、形成する溶接ビードの開始位置に近い測定結果を用いることで、より精度の高い位置補正が可能となる。
【0064】
(5) 前記基準は、前記溶接ビードを形成するためのトーチと連結して移動可能に構成されたセンサにより測定されることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、トーチの位置と連動するセンサを用いて基準を検知することで、ずれ量を導出する際の精度を向上させることができる。
【0065】
(6) 前記基準は、前記溶接ビードを形成するためのトーチのタッチセンシングにより測定されることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、基準を検知するためのセンサを別途取り付ける必要が無くなり、簡便な構成とすることが可能となる。
【0066】
(7) 前記ずれ量は、前記ベースの固定された側の端部から自由端部への方向に沿ったずれ量であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、ベースの軸方向に対する熱膨張および収縮に限定することで、基準からの相対的な位置補正を行うのみでよく、補正制御が容易となる。
【0067】
(8) 前記ベースの温度を検出する工程をさらに含み、
前記ベースの温度が所定の温度を超えた場合、または、前記基準を測定した際の温度からの温度差が所定の値を超えた場合に、前記測定が実施されることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、温度変化に応じて計測の実行の有無を切り替えるため、ずれ量を補正するための計測の回数を削減でき、積層造形物の生産速度を向上させることができる。
【0068】
(9) 前記積層造形物を構成する1または複数の層それぞれの形成を開始する前に、前記測定が実施されることを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、積層造形物を構成する層に対応する溶接ビードの形成前に計測を行うことで、溶接ビードの開始位置におけるずれの検出精度を向上することができる。
【0069】
(10) 前記積層造形物を構成する所定の層単位ごとに、前記測定が実施されることを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、複数層分の形成を行うごとに計測を行うことにより、積層造形物の生産速度を向上させることができる。
【0070】
(11) すでに形成されている直下の層に対応する溶接ビードの形成の結果に基づいて、前記着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記測定を行うか否かを切り替えることを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の積層造形方法。
これにより、下層に対応する溶接ビードの形成結果に応じて、測定を行うか否かを制御するため、必要に応じて、ずれ量を補正するための計測の回数を削減でき、積層造形物の生産速度を向上させることができる。
【0071】
(12) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形システムであって、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定部と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定部にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出部と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正部と、
前記補正部にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理部と、
を有することを特徴とする積層造形システム。
これにより、積層造形物の形成時の位置補正の精度を向上させることが可能となる。特に、溶接ビードの積層に伴って地区説が進行したベースの熱膨張に伴う積層開始位置のずれを正確に把握して、かつ、早期に補正を行うことができる。また、ベースの温度が低下する前に次の溶着動作を開始できるため、生産性を向上させることができる。
【0072】
(13) 一軸方向に延伸され片側が固定されたベース上に溶加材を溶着して溶接ビードを積層することで積層造形物を造形する積層造形装置を制御するコンピュータに、
前記積層造形物を構成する1または複数の層のうちの着目層に対応する溶接ビードの形成の開始前に、前記ベースに設定される基準の位置を測定する測定工程と、
予め規定されている前記基準の位置と、前記測定工程にて測定した前記基準の位置とのずれ量を導出する導出工程と、
前記ずれ量を用いて、前記着目層の溶接ビードの形成位置を補正する補正工程と、
前記補正工程にて補正した形成位置に基づいて、前記着目層の溶接ビードの形成を実施させる処理工程と、
を実行させるプログラム。
これにより、積層造形物の形成時の位置補正の精度を向上させることが可能となる。特に、溶接ビードの積層に伴って地区説が進行したベースの熱膨張に伴う積層開始位置のずれを正確に把握して、かつ、早期に補正を行うことができる。また、ベースの温度が低下する前に次の溶着動作を開始できるため、生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0073】
100…積層造形システム
11…積層造形装置
15…コントローラ
17…トーチ
19…溶接ロボット
20…ベース
22…センサ
25…溶接ビード
31…CAD/CAM部
33…軌道演算部
35…ずれ量取得部
37…記憶部
39…制御部
図1
図2
図3
図4
図5