(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H04R17/00 330A
(21)【出願番号】P 2020095506
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有住 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 諭
(72)【発明者】
【氏名】高木 優
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112362(JP,A)
【文献】特開平07-099348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1板面および第2板面に導電層が形成されている板状の圧電素子と、
前記圧電素子で発生する超音波を伝達する音響伝達部材と、
を有し、
前記第1板面が前記音響伝達部材に接着された超音波トランスデューサであって、
前記圧電素子は、前記第1板面の周りの外縁部に第1面取り部が形成され、前記第2板面の周りの外縁部に第2面取り部が形成されており、
前記圧電素子の前記第1面取り部の表面の長さは、前記第2面取り部の表面の長さよりも小さく、
前記圧電素子は、前記第2板面の面積よりも前記第1板面の面積のほうが大きい
超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記圧電素子の厚さ方向と直交する仮想平面に対して前記第1板面を投影した第1図形の内側に、前記仮想平面に対して前記第2板面を投影した第2図形が収まる
請求項
1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
板状の圧電素子と、前記圧電素子で発生する超音波を伝達する音響伝達部材と、を有する超音波トランスデューサの製造方法であって、
前記圧電素子において、厚さ方向一方側の板面及び厚さ方向他方側の板面のいずれの面積が大きいかを判定する判定工程と、
前記一方側の板面及び前記他方側の板面のうち前記判定工程によって面積が大きいと判定された板面側を前記音響伝達部材に接着するように、前記圧電素子と前記音響伝達部材とを接着する接着工程と、
を含む超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項4】
前記一方側の板面の周りに一方側の面取り部を形成し、前記他方側の板面の周りに他方側の面取り部を形成するように前記圧電素子を形成する圧電素子形成工程を含み、
前記圧電素子形成工程を、前記判定工程の前に行う
請求項
3に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【請求項5】
前記圧電素子に対し前記一方側の板面と前記他方側の板面との間に電圧を印加して分極する分極工程を含み、
前記分極工程を、前記判定工程の後、前記接着工程の前に行う
請求項
3または
4に記載の超音波トランスデューサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサ及び超音波トランスデューサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、超音波プローブの一例が開示されている。特許文献1に開示される超音波プローブは、圧電振動子を有し、圧電素子の両表面にそれぞれ電極が設けられている。特許文献1の技術では、圧電素子の両表面のうちの少なくとも一方の電極が、その電極が存在する圧電振動子の端部に存在しないように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波トランスデューサの分野では、圧電素子を音響伝達部材に対して接着等の方法で固定してアッセンブリ状態とする構成が採用されている。この種の超音波トランスデューサでは、音響伝達部材に組み付ける前までに各種加工が施されて圧電素子が形成されるが、従来技術では、圧電素子の両板面を同一の面積に形成した上で一方の板面を音響伝達部材に固定する思想が一般的であった。しかし、単に圧電素子の一方の板面を音響伝達部材に固定するだけでは、音響特性の向上を図る上で十分ではなかった。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、音響特性を向上し得る超音波トランスデューサを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つである超音波トランスデューサは、対向する第1板面および第2板面に導電層が形成されている板状の圧電素子と、前記圧電素子で発生する超音波を伝達する音響伝達部材と、を有し、前記第1板面が前記音響伝達部材に接着された超音波トランスデューサであって、前記圧電素子は、前記第2板面の面積よりも前記第1板面の面積のほうが大きい。
【0007】
上記の超音波トランスデューサは、圧電素子において音響伝達部材に接着される第1板面の面積のほうが反対側の第2板面の面積よりも大きいため、圧電素子において音響伝達部材に接触する面積をより大きく確保することができる。よって、上記の超音波トランスデューサは、音響特性を向上し得る。例えば、上記の超音波トランスデューサは、超音波を放射する際には、音響伝達部材を介して実際に使用できる超音波の音圧がより高くなる。また、上記の超音波トランスデューサは、超音波を受信する際には、音響伝達部材を介して受信する面積がより大きくなるため、送受信利得の特性を向上することができる。
【0008】
本発明の一つである超音波トランスデューサにおいて、上記圧電素子は、上記第1板面の周りの外縁部に第1面取り部が形成され、上記第2板面の周りの外縁部に第2面取り部が形成されていてもよい。
【0009】
この種の超音波トランスデューサは、圧電素子に接触等が生じる際(例えば、圧電素子を音響伝達部材に組み付けるときなど)に、圧電素子の角部が欠ける「チッピング」が生じる懸念がある。この点に関し、上記の超音波トランスデューサは、第1板面の周りの外縁部に第1面取り部が形成され、第2板面の周りの外縁部に第2面取り部が形成されているため、チッピングを抑制することができる。但し、このようにチッピングを抑制し得る構成が採用される場合、圧電素子において両板面の面積が低減するため、音響特性の低下が懸念される。しかし、上記の超音波トランスデューサのように音響伝達部材に接着される第1板面の面積のほうが反対側の第2板面の面積よりも大きくなっていれば、音響特性の低下を抑えることができる。
【0010】
本発明の一つである超音波トランスデューサは、上記圧電素子の厚さ方向と直交する仮想平面に対して上記第1板面を投影した第1図形の内側に、上記仮想平面に対して上記第2板面を投影した第2図形が収まるようになっていてもよい。
【0011】
上記の超音波トランスデューサは、圧電素子の厚さ方向と直交する方向において、第2板面が第1板面から大きく外れる位置関係にならず、バランスよく第1板面の面積を確保することができる。
【0012】
本発明の一つである超音波トランスデューサの製造方法は、板状の圧電素子と、前記圧電素子で発生する超音波を伝達する音響伝達部材と、を有する超音波トランスデューサの製造方法であって、前記圧電素子において、厚さ方向一方側の板面及び厚さ方向他方側の板面のいずれの面積が大きいかを判定する判定工程と、前記一方側の板面及び前記他方側の板面のうち前記判定工程によって面積が大きいと判定された板面側を前記音響伝達部材に接着するように、前記圧電素子と前記音響伝達部材とを接着する接着工程と、を含む。
【0013】
上記の超音波トランスデューサの製造方法は、圧電素子において面積が大きいと判定された板面側を音響伝達部材に接着するように圧電素子と音響伝達部材とを接着することができる。よって、上記の製造方法は、音響特性を向上し得る超音波トランスデューサを実現できる。例えば、上記の製造方法によって製造された超音波トランスデューサは、超音波を放射する際には、音響伝達部材を介して実際に使用できる超音波の音圧がより高くなる。また、この超音波トランスデューサは、超音波を受信する際には、音響伝達部材を介して受信する面積がより大きくなるため、RTIL特性を向上することができる。
【0014】
本発明の一つである超音波トランスデューサの製造方法は、板状の圧電体の厚さ方向一方側の板面の周りに一方側の面取り部を形成し、厚さ方向他方側の板面の周りに他方側の面取り部を形成するように上記圧電素子を形成する圧電素子形成工程を含んでいてもよい。上記圧電素子形成工程は、上記判定工程の前に行われてもよい。
【0015】
上記の製造方法によって製造された超音波トランスデューサは、一方側の板面の周りに一方側の面取り部が形成され、他方側の板面の周りに他方側の面取り部が形成されるため、チッピングを抑制することができる。但し、このようにチッピングを抑制し得る技術が採用される場合、圧電素子において両板面の面積が低減するため、音響特性の低下が懸念される。しかし、上記の製造方法のように、圧電素子において面積が大きいと判定された板面側を音響伝達部材に接着する方法が採用されれば、音響特性の低下を抑えることができる。しかも、上記の製造方法は、圧電素子形成工程において両面取り部の大きさにバラつきが生じた場合であっても、判定工程によっていずれの板面の面積が大きいかを正確に判定した上で、接着工程を行うことができる。
【0016】
本発明の一つである超音波トランスデューサの製造方法は、上記圧電素子に対し上記一方側の板面と上記他方側の板面との間に電圧を印加して分極する分極工程を含んでいてもよい。そして、上記分極工程は、上記判定工程の後、上記接着工程の前に行われてもよい。
【0017】
仮に判定工程の前に分極工程を行う場合、トランスデュ―サ間で圧電素子の分極方向が異なる可能性があるが、上記の製造方法によれば、この問題を解消することができ、トランスデューサ間のバラツキを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音響特性を向上し得る超音波トランスデューサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1実施形態の超音波トランスデューサを例示する斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の超音波トランスデューサの一部についての分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の超音波トランスデューサの一部についての断面図である。
【
図5】
図5は、第1板面の外縁及び第2板面の外縁を仮想平面に投影した投影図形を概念的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の超音波トランスデューサの製造方法を説明する説明図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の超音波トランスデューサに関するシミュレーション結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下の説明は、第1実施形態の超音波トランスデューサTに関する。
図1で示される第1実施形態の超音波トランスデューサTは、医療用または産業用の超音波装置に用いられる。超音波トランスデューサTは、例えば、使い捨て品(ディスポーザブル品)である。超音波トランスデューサTは、超音波を送受信する。
【0021】
図1、
図2のように、超音波トランスデューサTは、支持部50、素子部10、導電シート102、音響伝達層20、及びケース90などを備える。超音波トランスデューサTは、図示が省略された制御装置に電気的に接続され、この制御装置から電気信号を受信し得る。超音波トランスデューサTは、上記制御装置に対して電気信号を送信し得る。
図2の構成では、音響伝達層20及びケース90が音響伝達部材の一例に相当し、圧電素子14で発生する超音波を伝達する機能を有する。
図2の分解斜視図では、支持部50、基板110、内部部品の一部などが省略されている。
【0022】
以下の説明では、
図3のように、圧電素子14の厚さ方向が上下方向である。圧電素子14の厚さ方向一方側が下方側であり、圧電素子14の厚さ方向他方側が上方側である。
図3には、超音波トランスデューサTを中心軸線Xに沿って切断した断面が概略的に示される。
図3では、ケース90の一部が省略され、支持部50やケース90内の一部部品などが省略されている。また、
図3では、導電シート102も省略されている。
【0023】
素子部10は、超音波を発生させる素子である。素子部10は、圧電素子14と第1導電層11と第2導電層12とを有する。素子部10は、所定の厚さの板状をなす。素子部10は、上面の外縁及び下面の外縁がいずれも円形であり且つ外周面が円筒面である円板状をなす。素子部10は、中心軸線Xを中心とする円柱状である。
【0024】
圧電素子14は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなる。圧電素子14は、所定の厚さの円板状をなす。
図4で示されるように、圧電素子14は、互いに対向する第1板面14A及び第2板面14Bのそれぞれに導電層が形成されている。第1板面14Aは圧電素子14の厚さ方向一方側の板面であり圧電素子14の下面である。第2板面14Bは圧電素子14の厚さ方向他方側の板面であり圧電素子14の上面である。
【0025】
図4のように、第1導電層11は、圧電素子14の第1板面14Aに配置される。第1導電層11は、素子部10の下面側の第1電極である。第2導電層12は、圧電素子14の第2板面14Bに配置される。第2導電層12は、素子部10の上面側の第2電極である。第1導電層11及び第2導電層12は、金又は銀、銅、錫等の蒸着、メッキ、スパッタリング、ペーストの印刷、焼付け等によって形成された導電性を有する電極層である。第1導電層11の下面11Aは、素子部10の一方の主面(下面)である。素子部10の下面(第1導電層11の下面11A)は、接着剤120を介して音響伝達層20に固定されている。第2導電層12の上面12Bは、素子部10の他方の主面(上面)である。素子部10の上面12Bと下面11Aは平行である。上面12B及び下面11Aは、いずれも中心軸線Xに対して直交する面である。第1導電層11は、圧電素子14の第1板面14Aの全体を覆う構成で配置される。第2導電層12は、圧電素子14の第2板面14Bの全体を覆う構成で配置される。
【0026】
第1導電層11は、1以上の導電体を介して上記基板110に電気的に接続される。第2導電層12は、1以上の導電体を介して基板110に電気的に接続される。素子部10は、第1導電層11及び第2導電層12を介して図示が省略された制御装置に対して電気信号を送信する動作を行い得る。更に、素子部10は、上記制御装置からの電気信号を受信する動作を行い得る。素子部10は、第1導電層11と第2導電層12との間に交流電圧が印加されることに応じて超音波を発生させる。
【0027】
音響伝達層20は、素子部10で発生する超音波を伝達する部材である。音響伝達層20は、素子部10の下方側に配置されている。音響伝達層20は、所定厚さの円板状である。音響伝達層20の上面は、接着剤120を介して素子部10の下面及び導電シート102に接着されている。音響伝達層20は、素子部10の音響インピーダンスと、音響レンズである底壁91の音響インピーダンスとの中間の大きさの音響インピーダンスを有する。
【0028】
音響伝達層20の一方側の板面である上面は、素子部10の下面11Aを支持する支持面である。音響伝達層20の上面は、外縁が円形状の平坦面である。音響伝達層20の上面の面積は、素子部10の下面11Aの面積よりも大きい。音響伝達層20の上面の外径は、素子部10の下面の外径よりも大きい。音響伝達層20は、中心軸線Xを中心とする円柱状である。音響伝達層20及び素子部10は、中心軸線Xを中心とする同軸の位置関係で積層される。
【0029】
ケース90は、底壁91と周壁92とを有する。底壁91及び周壁92は、同一の材料によって一体に形成されている。底壁91は、略円板状であり、上側から見ると円形状をなしている。底壁91は、ケース90の下面の全体を塞いでいる。ケース90の上端側(底壁91とは反対側)は開口している。ケース90の内部には、素子部10、音響伝達層20、導電シート102などが収容される。
【0030】
ケース90の底壁91は、超音波を集束する音響レンズである。ケース90の底壁91と音響伝達層20とは、接着剤120によって接着されている。ケース90の底壁91及び音響伝達層20は、中心軸線X(
図3)を中心とする同軸の位置関係で積層される。ケース90の底壁91と素子部10との間に音響伝達層20が介在することによって、超音波が底壁91へ効率良く伝播される。ケース90の周壁92は、底壁91の外縁部の全周に亘って連結され、底壁91から上方に向かって筒状に配されている。周壁92の内周面92Aは、円筒状の内面である。周壁92の上端部には、支持部50(
図1)が固定されている。
【0031】
図1に示されるように、支持部50は、蓋部として機能し、ケース90の上端部に形成された開口を塞ぐように配置される。支持部50は、基板110を保持する基板保持部としても機能する。
【0032】
図2、
図4のように、導電シート102は、素子部10の内周側を横切る帯状をなしている。導電シート102は、中心軸線X(
図3)と直交する平面の方向に沿って所定の向きに延びる。導電シート102は、帯状であることによって、素子部10の第1導電層11と同じ大きさの円形状をなす導電シートと比べて、第1導電層11との接圧が増す。導電シート102は、図示されていない導電体に接続され、この導電体を介して基板110(
図1)に電気的に接続されている。
【0033】
図3、
図4のように、圧電素子14は、第1板面14Aが音響伝達層20に接着されている。第1板面14Aは、第1導電層11を介して音響伝達層20に接着されている。第1板面14Aの一部分と音響伝達層20との間には、第1導電層11及び接着剤120が介在する。第1板面14Aにおける上記一部分とは異なる他部分と音響伝達層20との間には、第1導電層11、導電シート102及び接着剤120が介在する。音響伝達層20は音響伝達部材の一部をなす。第1板面14Aの外縁は、中心軸線Xを中心とする円形である。第1板面14Aは、中心軸線Xと直交する平坦面である。第2板面14Bは、圧電素子14の厚さ方向において第1板面14Aとは反対側に設けられる。第2板面14Bの外縁は、中心軸線Xを中心とする円形である。第2板面14Bは、中心軸線Xと直交する平坦面である。第1板面14Aと第2板面14Bとは平行である。第1板面14Aの面積は、第2板面14Bの面積よりも大きい。
【0034】
図4のように、圧電素子14において第1板面14Aの周りの外縁部には、第1面取り部15Aが形成されている。第1面取り部15Aは、第1板面14Aの周りの外縁部において、周方向全体(全周)に亘るように連続した環状に形成されている。第1面取り部15Aの表面は、中心軸線Xに対する角度が第1所定角度のテーパ面である。より具体的には、中心軸線Xを通り且つ第1板面14Aの周りの周方向のいずれの位置を通る切断面でも、第1面取り部15Aの表面の角度は所定角度(例えば45°)である。第1面取り部15Aの表面を通り且つ中心軸線Xと直交するいずれの切断面でも、第1面取り部15Aの形状は円形をなす。第1面取り部15Aの表面は、上下方向において第1導電層11に近づくにつれて径が小さくなるテーパ面である。
【0035】
圧電素子14において第2板面14Bの周りの外縁部には、第2面取り部15Bが形成されている。第2面取り部15Bは、第2板面14Bの周りの外縁部において、周方向全体(全周)に亘るように連続した環状に形成されている。第2面取り部15Bの表面は、中心軸線Xに対する角度が第2所定角度のテーパ面である。より具体的には、中心軸線Xを通り且つ第2板面14Bの周りの周方向のいずれの位置を通る切断面でも、第2面取り部15Bの表面の角度は所定角度(例えば45°)である。第2面取り部15Bの表面を通り且つ中心軸線Xと直交するいずれの切断面でも、第2面取り部15Bの形状は円形をなす。第2面取り部15Bの表面は、上下方向において第2導電層12に近づくにつれて径が小さくなるテーパ面である。中心軸線Xを通るいずれの向きの切断面でも、第1面取り部15Aの表面の長さは一定であり、第2面取り部15Bの表面の長さは一定であり、第1面取り部15Aの表面の長さは第2面取り部15Bの表面の長さよりも小さい。
【0036】
本構成では、
図5のように、圧電素子14の厚さ方向と直交する仮想平面に対して第1板面14Aを投影した第1図形C1の内側に、上記仮想平面に対して第2板面14Bを投影した第2図形C2が収まるようになっている。
図5の図形は、上記仮想平面に第1板面14A及び第2板面14Bを垂直投影(正投影)によって投影した図形(具体的には各板面の外縁を投影した図形)であり、第1板面14Aを投影した図形が第1図形C1であり、第2板面14Bを投影した図形が第2図形C2である。上記仮想平面に対して中心軸線Xを垂直投影(正投影)によって投影した位置は点P1である。
【0037】
次の説明は、上述された超音波トランスデューサTの製造方法の一例に関する。
本実施形態に係る超音波トランスデューサTの製造方法では、主に、第1工程~第7工程が行われる。
【0038】
第1工程は、プレス成型工程である。プレス成型工程では、予め準備された圧電材料の粉末がプレス金型に充填され、成形体13Xが成形される。即ち、プレス成型工程では、プレス成型によって成形体13Xが得られる。プレス成型工程に用いられるプレス金型の内部形状は、成形体13Xにおいて面取り部が形成される形状である。具体的には、上記プレス金型の内部形状は、「所定の厚さの円板状であって且つ両板面の外縁部に面取り部が形成された成形体13X」が形成される形状である。
【0039】
第1工程の後には、第2工程が行われる。第2工程は、焼成工程である。焼成工程では、第1工程(プレス成型工程)によって成形された成形体13が焼成され、焼成後の圧電体13Yが得られる。圧電体13Yは、焼成後のセラミックである。
【0040】
第2工程の後には、第3工程が行われる。第3工程は、研磨工程である。研磨工程では、第2工程(焼成工程)によって得られた焼成後の圧電体13Yの両板面が研磨され、圧電素子14が得られる。研磨工程に用いられる研磨装置は、セラミックを研磨し得る公知の研磨装置であり、種類は特に限定されない。研磨工程では、当該工程後の圧電素子14が所望の厚さとなるように両板面の研磨を行う。例えば、研磨工程では、片方の板面が研磨された後、この片方の板面を基準として、所望の厚さとなるようにもう片方の板面が研磨される方法が用いられてもよい。研磨工程では、当該研磨工程後の圧電素子14の一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zが平行となるように両板面を研磨する。
【0041】
上述された第1工程、第2工程、第3工程は、圧電素子形成工程の一例に相当する。この圧電素子形成工程は、板状の圧電体の厚さ方向一方側の板面14Yの周りに一方側の面取り部15Yを形成し、厚さ方向他方側の板面14Zの周りに他方側の面取り部15Zを形成するように圧電素子14を形成する工程である。そして、圧電素子形成工程は、後述される判定工程の前に行われる。
【0042】
第3工程の後には第4工程が行われる。第4工程は、判定工程である。判定工程では、研磨工程で得られた圧電素子14において厚さ方向一方側の板面14Y及び厚さ方向他方側の板面14Zのいずれの面積が大きいかを判定する。判定方法としては、例えば、カメラなどの撮像部が一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zを撮像し、マイクロコンピュータなどの制御部が撮像画像を解析して一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zの面積を算出してもよい。そして、制御部が、一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zの面積の算出結果に基づいて一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zのいずれの面積が大きいかを判定してもよい。そして、制御部は、その判定結果を記憶部に記憶したり、表示部による表示や音声装置による出力によって報知したりしてもよい。
【0043】
第4工程の後には、第5工程が行われる。第5工程は、電極形成工程である。電極形成工程は、判定工程を経た圧電素子14の一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zに対して導電体のペースト(例えばAgペースト)を印刷などの方法で形成し、その後、焼成を行うことで、圧電素子14の両板面に電極としての導電層19を形成する。両板面の導電層19は、いずれか一方が第1導電層11となり、他方が第2導電層12となるものである。
【0044】
第5工程の後には、第6工程が行われる。第6工程は、分極工程である。分極工程では、判定工程及び電極形成工程を経た圧電素子14に対し両導電層19間に電圧が印加されて分極処理が施される。即ち、分極工程では、一方側の板面14Yと他方側の板面14Zとの間に電圧が印加されて分極される。なお、判定工程において一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zのいずれの面積が大きいかが判定されているので、分極工程では、この判定結果に基づいて分極方向を決定する。例えば、一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zのうち面積が大きい方(面取り加工量が小さい側)をプラス側、面積が小さい方(面取り加工量が大きい側)をマイナス側とし、両板面間に電圧を印加して分極する。分極工程により、分極済みの素子部10が得られる。このように分極工程は、上述の判定工程の後、後述の接着工程の前に行われる。
【0045】
第6工程の後には、第7工程が行われる。第7工程は、接着工程である。接着工程では、圧電素子14における一方側の板面14Y及び他方側の板面14Zのうち上述の判定工程によって面積が大きいと判定された板面側が音響伝達部材に接着されるように、圧電素子14と音響伝達部材とが接着される。具体的には、接着工程では、まず、ケース90の底壁91と音響伝達層20との間に接着剤を介在させた状態で底壁91上に音響伝達層20が接着される。その後、分極工程によって得られた素子部10と音響伝達層20との間に接着剤を介在させた状態で音響伝達層20上に素子部10が接着される。素子部10と音響伝達層20との接着の際には、素子部10と音響伝達層20との間に導電シート102が介在した形態で素子部10、音響伝達層20、導電シート102が接着される。このようにして、素子部10、音響伝達層20、導電シート102、ケース90が一体的に組み付けられた構造体が得られる。
【0046】
次の説明は、本実施形態の超音波トランスデューサTの効果の一例に関する。
上述の超音波トランスデューサTは、圧電素子14において音響伝達部材(具体的には、音響伝達層20)に接着される第1板面14Aの面積のほうが反対側の第2板面14Bの面積よりも大きい。ゆえに、圧電素子14において音響伝達部材に接触する面積をより大きく確保することができる。よって、超音波トランスデューサTは、音響特性を向上し得る。例えば、超音波トランスデューサTは、超音波を放射する際には、音響伝達部材を介して実際に使用できる超音波の音圧がより高くなる。また、超音波トランスデューサTは、超音波を受信する際には、音響伝達部材を介して受信する面積がより大きくなるため、RTIL特性を向上することができる。
【0047】
超音波トランスデューサTは、製造時において圧電素子に接触等が生じる際(例えば、圧電素子を音響伝達部材に組み付けるときなど)に、圧電素子の角部が欠ける「チッピング」が生じる懸念がある。しかし、上述の超音波トランスデューサTは、第1板面14Aの周りの外縁部に第1面取り部15Aが形成され、第2板面14Bの周りの外縁部に第2面取り部15Bが形成されているため、チッピングを抑制することができる。但し、このようにチッピングを抑制し得る構成が採用される場合、圧電素子14において両板面の面積が低減するため、音響特性の低下が懸念される。しかし、超音波トランスデューサTのように音響伝達部材に接着される第1板面14Aの面積のほうが反対側の第2板面14Bの面積よりも大きくなっていれば、音響特性の低下を抑えることができる。
【0048】
超音波トランスデューサTは、圧電素子14の厚さ方向と直交する仮想平面に対して第1板面14Aを投影した第1図形C1の内側に、上記仮想平面に対して第2板面14Bを投影した第2図形C2が収まるようになっている。この超音波トランスデューサTは、第2板面14Bが第1板面14Aから大きく外れる位置関係にならず、バランスよく第1板面14Aの面積を確保することができる。
【0049】
上述された超音波トランスデューサTの製造方法では、圧電素子14において面積が大きいと判定された板面側を音響伝達部材に接着するように圧電素子14と音響伝達部材とを接着することができる。よって、この製造方法は、音響特性を向上し得る超音波トランスデューサTをより確実に実現できる。
【0050】
しかも、この製造方法は、圧電素子形成工程において両面取り部の大きさにバラつきが生じた場合であっても、判定工程によっていずれの板面の面積が大きいかを正確に判定した上で、接着工程を行うことができる。
【0051】
更に、上述された製造方法では、判定工程の後、接着工程の前に分極工程を行うことでのメリットも享受し得る。仮に判定工程の前に分極工程を行う場合、当該製造方法によって製造される複数の超音波トランスデュ―サにおいて圧電素子の分極方向が統一されない懸念がある。具体的には、この製造方法では、何らかの対策を講じないと、第1の分極方向の超音波トランスデュ―サと第2の分極方向の超音波トランスデュ―サとが製造されてしまい、音響強度が異なる複数種類の製造がなされてしまうことになる。しかし、上述された製造方法は、判定工程の後、接着工程の前に分極工程を行うことで、この問題を解消することができ、トランスデューサ間のバラツキを抑えることができる。
【0052】
次の説明は、本実施形態の効果を確認するためのシミュレーション結果に関する。
図7においてC面長とは、面取り部における径方向(中心軸線Xを中心とする径方向)の長さである。
図4では、第1面取り部15AのC面長がL1で示され、第2面取り部15BのC面長がL2で示される。なお、面取り部のC面長は、面取り部の内側に位置する板面の面積を決定する値であり、C面長が小さいほど内側の板面の面積は大きくなる。
【0053】
シミュレーションでは、本実施形態の超音波トランスデューサTにおいて第1面取り部15A及び第2面取り部15BのC面長さの組み合わせを様々に変更した場合の特性が確認された。超音波トランスデューサTの特性としては、送信特性を示す音圧(kPa)と、送受信特性を示すRTIL(Round Trip Return Loss)とが評価された。RTIL(dB)は、送受信利得である。上記音圧は、底壁91から所定距離(焦点距離)の位置の音圧である。上記RTILは、超音波トランスデューサTの駆動周波数を予め定められた所定周波数にした場合の値である。なお、圧電素子14の寸法は、上記所定周波数の駆動で、音圧及びRTILが最大となるように最適化した。
【0054】
実施例1では、第2面取り部15BのC面長が0.4mmであり、第1面取り部15AのC面長が0.1mmである。比較例1では、実施例1とは逆に設定され、第1面取り部15AのC面長が0.4mmであり、第2面取り部のC面長が0.1mmである。実施例1と比較例1の比較では、第2板面14Bの面積よりも第1板面14Aの面積のほうが大きい組み合わせのほうが音圧が高く、RTILが良好となった。
【0055】
実施例2及び比較例2では、C面長の短い方の長さが、実施例1及び比較例1よりも少し長く設定された。実施例2では、第2面取り部15BのC面長が0.4mmであり、第1面取り部15AのC面長が0.2mmである。比較例2では、実施例2とは逆に設定され、第1面取り部15AのC面長が0.4mmであり、第2面取り部15BのC面長が0.2mmである。実施例2と比較例2の比較では、第2板面14Bの面積よりも第1板面14Aの面積のほうが大きい組み合わせのほうが音圧が高く、RTILが良好となった。
【0056】
実施例3及び比較例3では、C面長の長い方の長さが、実施例1及び比較例1よりも少し短く設定された。実施例3では、第2面取り部15BのC面長が0.2mmであり、第1面取り部15AのC面長が0.1mmである。比較例3では、実施例3とは逆に設定され、第1面取り部15AのC面長が0.2mmであり、第2面取り部15BのC面長が0.1mmである。実施例3と比較例3の比較では、第2板面14Bの面積よりも第1板面14Aの面積のほうが大きい組み合わせのほうが音圧が高く、RTILが良好となった。
【0057】
実施例4及び比較例4では、C面長の長い方の長さが、実施例2及び比較例2よりも少し短く設定された。実施例4では、第2面取り部15BのC面長が0.3mmであり、第1面取り部15AのC面長が0.2mmである。比較例4では、実施例4とは逆に設定され、第1面取り部15AのC面長が0.3mmであり、第2面取り部15BのC面長が0.2mmである。実施例4と比較例4の比較では、第2板面14Bの面積よりも第1板面14Aの面積のほうが大きい組み合わせのほうが音圧が高く、RTILが良好となった。
【0058】
図7のように、シミュレーションでは、いずれの比較でも、第2板面14Bの面積よりも第1板面14Aの面積のほうが大きい組み合わせのほうが音圧が高く、RTILが良好となった。
【0059】
<他の実施形態>
本開示は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述又は後述の実施形態の特徴は、矛盾しない範囲であらゆる組み合わせが可能である。また、上述又は後述の実施形態のいずれの特徴も、必須のものとして明示されていなければ省略することもできる。更に、上述した実施形態は、次のように変更されてもよい。
【0060】
上記実施形態では、第1面取り部15Aの表面及び第2面取り部15Bの表面のいずれもが中心軸線Xに対して一定角度で傾斜したテーパ面(例えばC面)であったが、この例に限定されない。第1面取り部15Aの表面及び第2面取り部15Bの表面のいずれか一方又は両方が、R面などの湾曲面であってもよい。
【0061】
上記の実施形態では、第1導電層11は、圧電素子14の第1板面14Aの全体を覆う構成で配置されるが、第1導電層11は、第1板面14Aの一部を覆う構成で配置されてもよい。上記の実施形態では、第2導電層12は、圧電素子14の第2板面14Bの全体を覆う構成で配置されるが、第2導電層12は、第2板面14Bの一部を覆う構成で配置されてもよい。
【0062】
上記実施形態では第1導電層11が導電シート102を介して外部の導電体と電気的に接続されるが、この構成に限定されない。例えば、導電シート102に換えて、例えば音響伝達層20の上面にスパッタリングやめっき処理によって導電膜が形成され、この導電膜によって第1導電層11と外部の導電体とが電気的に接続されていてもよい。
【0063】
上記実施形態では、ケース90の底壁91は音響レンズである。これに限らず、ケースの底壁は、音響レンズでなくてもよい。
【0064】
上記実施形態では、音響伝達層20及びケース90の両方が音響伝達部材の一例に相当したが、音響伝達層及びケースの少なくとも一方が音響伝達部材に相当すればよい。例えば、ケースが音響伝達部材として機能しない構成又はケースが存在しない構成で、上記実施形態と同様の音響伝達層が音響伝達部材として機能してもよい。或いは、音響伝達層が存在しない構成で、上記実施形態と同様のケースが音響伝達部材として機能してもよい。
【0065】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
T…超音波トランスデューサ
11…第1導電層(導電層)
12…第2導電層(導電層)
14…圧電素子
14A…第1板面
14B…第2板面
20…音響伝達層(音響伝達部材)
90…ケース(音響伝達部材)