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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電動作業機械
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240214BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240214BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240214BHJP
   B60L 53/62 20190101ALI20240214BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20240214BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H02J7/00 P
H01M10/48 301
H01M10/48 P
B60L50/60
B60L53/62
B60L58/12
B60L58/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020128003
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025274
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上城 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹内 健
(72)【発明者】
【氏名】納谷 到
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 絢太
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-70534(JP,A)
【文献】特開2020-61824(JP,A)
【文献】特開平10-262305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/48
B60L 50/60
B60L 53/62
B60L 58/12
B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を有する電動作業機械において、
前記二次電池を管理する電池管理ユニットと、
前記二次電池に対し、充電中に休止時間を設けない通常充電、又は充電中に休止時間を設ける診断用充電を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記電池管理ユニットから出力される二次電池の稼働履歴に基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する診断用充電推奨判断部と、
診断用充電を推奨すると判断された場合、前記電池管理ユニットから出力される二次電池の状態、診断用充電に必要な充電推定時間および現場作業計画に基づいて、診断用充電を実施するか否かを判断する診断用充電実施判断部と、
を有することを特徴とする電動作業機械。
【請求項2】
前記診断用充電は、充電の前後に予め設定された休止時間がそれぞれ設けられる充電モードであり、
前記診断用充電の休止時間は、温度と充電率に依存する二次電池の分極時定数とに基づいて設定されている請求項1に記載の電動作業機械。
【請求項3】
前記電池管理ユニットは、診断用充電又は通常充電における二次電池の稼働履歴に基づいて充電前後の充電率をそれぞれ演算し、演算した充電前後の充電率と二次電池の充電電荷量とに基づいて二次電池の満充電容量又は二次電池容量の劣化度をそれぞれ演算する請求項1又は2に記載の電動作業機械。
【請求項4】
前記診断用充電推奨判断部は、現在時間と二次電池の使用開始日との差、又は現在時間と前回診断用充電の実施日との差が、予め定められた時間以上になったとき、診断用充電を推奨すると判断する請求項1~3のいずれか一項に記載の電動作業機械。
【請求項5】
前記診断用充電推奨判断部は、二次電池容量の劣化度の初期値又は前回診断用充電時に演算された二次電池容量の劣化度と劣化予測関数を用いて前回診断用充電からの稼働履歴に基づいて演算される現在の二次電池容量の劣化度との差が、予め決められた閾値以上になったとき、診断用充電を推奨すると判断する請求項1~3のいずれか一項に記載の電動作業機械。
【請求項6】
前記診断用充電推奨判断部は、通常充電時の二次電池容量の劣化度における最新点の平均値と二次電池容量の劣化度の初期値又は前回診断用充電時の二次電池容量の劣化度との差が予め決められた閾値以上になったとき、診断用充電を推奨すると判断する請求項1~3のいずれか一項に記載の電動作業機械。
【請求項7】
前記診断用充電推奨判断部は、二次電池満充電容量又は二次電池容量の劣化度の初期値、並びに前回診断用充電時の二次電池満充電容量又は二次電池容量の劣化度に基づいて演算される稼働中の充電率範囲と、通常充電における二次電池の稼働履歴に基づいて演算される充電中の充電率範囲との差が予め決められた閾値以下になったとき、診断用充電を推奨すると判断する請求項1~3のいずれか一項に記載の電動作業機械。
【請求項8】
前記診断用充電実施判断部は、現在時間と現場作業計画とに基づいて演算される残充電可能時間が診断用充電に必要な充電推定時間以上であって、且つ診断用充電前後の充電率の変化量が所定値以上であるとき、診断用充電を実施すると判断する請求項1~7のいずれか一項に記載の電動作業機械。
【請求項9】
残充電可能時間が診断用充電に必要な充電推定時間よりも小さい場合において、暖機運転によって二次電池の温度が設定される目標温度よりも大きくなったとき、前記診断用充電実施判断部は、診断用充電を実施すると判断する請求項8に記載の電動作業機械。
【請求項10】
前記診断用充電推奨判断部の判断結果および前記診断用充電実施判断部の判断結果を表示し、通常充電又は診断用充電を選択する画面を表示するモニタ表示装置を更に備える請求項1~9のいずれか一項に記載の電動作業機械。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を有する電動作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設機械等の作業機械に搭載された動力源を電動化する取り組みがなされている。動力源の電動化は、電力を蓄える蓄電装置を電源とし、蓄電装置から供給された電力で作業機械に搭載された電動モータを駆動することにより実現されている。蓄電装置として、リチウムイオン電池、鉛電池、NAS電池、レドックスフロー電池等の二次電池に加えて、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタといった蓄電素子が挙げられるが、二次電池が特に注目されている。
【0003】
電動作業機械(バッテリショベル、プラグインハイブリッドショベル等)に搭載された二次電池を管理するための電池管理ユニットは、二次電池の満充電容量を演算したり、残稼働時間や残走行距離を演算したり、二次電池の劣化度(State of Health: SOH)を診断したりすることができる。そして、二次電池の満充電容量の演算方法としては、例えば特許文献1に記載のように、充電中に少なくとも2回以上設けられた休止時間中において、充電後の電圧変化から開回路電圧(Open Circuit Voltage: OCV)を推定し、推定したOCVから求めた充電率(State of Charge: SOC)と充電電荷量により演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-070534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の電動作業機械では、休止時間を設けることで二次電池の満充電容量又は二次電池容量の劣化度であるSOHQの演算誤差を小さくすることができるが、休止時間を設けることに起因して充電の総時間が長くなってしまい、現場の運用によっては作業計画に支障を与える可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、作業計画に支障を与えることを防止できる電動作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動作業機械は、二次電池を有する電動作業機械において、前記二次電池を管理する電池管理ユニットと、前記二次電池に対し、充電中に休止時間を設けない通常充電、又は充電中に休止時間を設ける診断用充電を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記電池管理ユニットから出力される二次電池の稼働履歴に基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する診断用充電推奨判断部と、診断用充電を推奨すると判断された場合、前記電池管理ユニットから出力される二次電池の状態、診断用充電に必要な充電推定時間および現場作業計画に基づいて、診断用充電を実施するか否かを判断する診断用充電実施判断部と、を有することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る電動作業機械では、コントローラは、電池管理ユニットから出力される二次電池の稼働履歴に基づいて診断用充電を推奨するか否かを判断する診断用充電推奨判断部と、診断用充電を推奨すると判断された場合、電池管理ユニットから出力される二次電池の状態、診断用充電に必要な充電推定時間および現場作業計画に基づいて診断用充電を実施するか否かを判断する診断用充電実施判断部とを有するので、休止時間を設ける診断用充電を、診断用充電を推奨すると判断された場合に限定して実施することで、充電総時間の長い診断用充電の回数を低減することができる。しかも、現場作業計画を考慮し、診断用充電の充電総時間が確保できる時に限定して診断用充電を実施することで、現場作業計画に支障が出るリスクを低減することができる。その結果、電動作業機械の作業計画に支障を与えることを防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動作業機械の作業計画に支障を与えることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るバッテリショベルの外観を示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係るバッテリショベルの電池システムを示す構成図である。
図3】車両制御ユニットに設けられたコントローラを示す機能ブロック図である。
図4】二次電池に対する充電制御を示すフローチャートである。
図5】診断用充電における電池電圧および充電休止信号の時間変化の一例を示す図である。
図6】電池管理ユニットにおける満充電容量およびSOHQの演算を示すブロック図である。
図7】開回路電圧OCVと充電率SOCとの関係を示すテーブルである。
図8】休止時間の設定テーブルである。
図9】ΔSOHQの説明図である。
図10】診断用充電実施判断を示すフローチャートである。
図11】診断用充電実施判断を示す他のフローチャートである。
図12】第2実施形態に係るバッテリショベルの電池システムを示す構成図である。
図13】第2実施形態の車両制御ユニットに設けられたコントローラを示す機能ブロック図である。
図14】第2実施形態における二次電池に対する充電制御を示すフローチャートである。
図15】モニタ表示装置の表示画面および選択フローの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る電動作業機械の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複説明を省略する。また、以下の説明では、電動作業機械としてバッテリ式油圧ショベル(以下、バッテリショベルという)の例を挙げるが、本発明はバッテリショベルに限定されず、プラグインハイブリッドショベル等の電動作業機械にも適用される。
【0012】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係るバッテリショベルの外観を示す斜視図である。図1に示すように、バッテリショベル1は、ブーム101、アーム102およびバケット103を有する多関節型の作業装置104と、上部旋回体105および下部走行体106を有する車体107とを備えている。ブーム101は、上部旋回体105に回動可能に支持されており、ブームシリンダ(油圧シリンダ)108により駆動される。アーム102は、ブーム101に回動可能に支持されており、アームシリンダ(油圧シリンダ)109により駆動される。バケット103は、アーム102に回動可能に支持されており、バケットシリンダ(油圧シリンダ)110により駆動される。
【0013】
上部旋回体105は旋回モータ(電動モータ)により旋回駆動され、下部走行体106は左右の走行モータ(油圧モータ)111により駆動される。ブームシリンダ108、アームシリンダ109、バケットシリンダ110および走行モータ111は、油圧ポンプから吐出される圧油によって駆動される。
【0014】
図2は第1実施形態に係るバッテリショベルの電池システムを示す構成図である。電池システム200は、バッテリショベル1に搭載されており、二次電池201と、二次電池201の状態を監視するための電池管理ユニット(Battery Management Unit: BMU)202と、二次電池201に流れる電流を検出するための電流計203と、二次電池201および電池管理ユニット202を結ぶ通信線204と、二次電池201を充電するための充電器205と、二次電池201の電力によって動力を発生するモータ206と、二次電池201からの直流電力を交流電力に変換しつつモータ206を制御するインバータ207と、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態などの情報に基づいて充電器205やインバータ207を制御する車両制御ユニット(Vehicle Control Unit: VCU)208と、電池管理ユニット202および車両制御ユニット208を接続する通信線209と、充電器205および車両制御ユニット208を接続する通信線210と、インバータ207および車両制御ユニット208を接続する通信線211と、を備えている。
【0015】
二次電池201は、例えば複数の単電池から構成される電池モジュールの集合体、いわゆる組電池である。電池モジュールは、複数の単電池を直列接続して箱の中に収められている。電池モジュールは更に直列又は並列に接続され、組電池の一構成要素になる。本実施形態では、二次電池には入出力およびエネルギー密度の高いリチウムイオン電池が用いられる。図2に示す二次電池201は、電池モジュールを直列接続しているが、直並列の構成であっても良い。なお、その場合には、電池管理ユニット202と電流計203を直列毎に用意するものとする。そして、二次電池201は、各電池の電圧を監視しており、通信線204を介して電池管理ユニット202に定期的に電圧値を送信するように構成されている。
【0016】
電池管理ユニット202は、ハードウェア構成として、各種の制御プログラムを実行するための演算処理部(例えば、CPU)、当該制御プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶部(例えば、ROM、RAM)等を備えている。電池管理ユニット202は、例えば二次電池201の稼働履歴を記憶し、管理している。二次電池201の稼働履歴には、二次電池201の充電履歴、放電履歴、現在時間、温度等の情報が含まれている。
【0017】
また、電池管理ユニット202は、二次電池201から取得した各電池の電圧と、電流計203を介して取得した電流等に基づいて、二次電池201の満充電容量を演算する。満充電容量の演算方法は後述する。また、この電池管理ユニット202は、演算した二次電池の満充電容量に基づいて、二次電池201全体の充電率SOCおよび劣化度SOH、各電池モジュールおよび個別電池のSOCおよびSOHをそれぞれ演算する。更に、電池管理ユニット202は二次電池容量の劣化度であるSOHQを演算することができる。二次電池容量の劣化度であるSOHQは例えば下記式1、充電率SOCは例えば下記式2に基づいて演算される。
【0018】
SOHQ(%)=100×現在の満充電容量(Ah)/初期の満充電容量(Ah) (式1)
SOC(%)=100-100×満充電からの放電量(Ah)/現在の満充電容量(Ah) (式2)
【0019】
また、電池管理ユニット202には、二次電池201の仕様情報として無負荷時の電池電圧OCV[V]が記憶されている。OCVの値は二次電池の充電状態(すなわち、充電率SOC)に応じて変化するので、本実施形態における電池管理ユニット202は、SOCとOCVの関係をテーブルの形式で記憶している。なお、SOCの演算方法として、式2の他に、取得した電池電圧、又はOCV推定値とSOCとOCVの関係テーブルとを用いる手法もある。
【0020】
電流計203として、例えばシャント抵抗を利用したものや、ホール素子を利用したものを適用することができる。電流計203により検出された電流値は、電池管理ユニット202に出力される。通信線204としては、LIN(Local Interconnect Network)やCAN(Controller Area Network)などを使うことができる。
【0021】
充電器205は、二次電池201の充電を行うためのものであり、二次電池201に接続されている。充電器205の形態としては、バッテリショベル1に搭載されたものであっても良く、バッテリショベル1の外部に独立して設置されたものであっても良い。充電器205の充電方式には、例えばCCCV充電(Constant-Current Constant-Voltage:定電流-定電圧充電)やパルス充電方式がある。CCCV充電方式は、充電開始から定電流モードで充電を行い、充電の目標とする電圧に到達したら、定電圧モードで充電を行う方式である。一方、パルス充電では、ある所定の時間(例えば、数秒周期)毎にパルス電流を入力し、充電の目標とする電圧まで充電を行う方式である。
【0022】
本実施形態において、充電器205は、車両制御ユニット208から出力される信号に基づいて二次電池201への充電を開始又は停止し、二次電池201が満充電になると自動的に停止するように構成されている。なお、充電休止信号に代替する構成としては、既存の充電器にリレーを繋げて、そのスイッチを制御するものがある。車両制御ユニット208からの制御の通信線210はCANを利用しても良く、スイッチのON/OFF状態を示す電圧線(充電器205による充電が開始したことを示す信号(充電開始信号)を充電器205から車両制御ユニット208へ送るための1本と、車両制御ユニット208から充電器205へ充電休止信号を送るための1本の計2本)としても良い。
【0023】
モータ206は、例えば上述の上部旋回体105を旋回駆動するための旋回モータである。
【0024】
図3は車両制御ユニットに設けられたコントローラを示す機能ブロック図である。図3に示すように、車両制御ユニット208には、コントローラ300が設けられている。コントローラ300は、電池管理ユニット202からの情報に基づいて診断用充電推奨判断と診断用充電実施判断とを行い、判断結果に基づいて二次電池201への充電制御を行う。このコントローラ300は、診断用充電推奨判断部301と、診断用充電実施判断部302と、充電器制御部303とを有する。
【0025】
診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202からの情報に基づいて診断用充電を推奨するか否かを判断する。具体的には、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づき、診断用充電を推奨するか否かを判断する。そして、診断用充電推奨判断部301は、その判断した結果を診断用充電実施判断部302および充電器制御部303にそれぞれ出力する。
【0026】
診断用充電実施判断部302は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態、診断用充電に必要な充電推定時間、および現場作業計画に基づき、診断用充電を実施するか否かを判断する。そして、診断用充電実施判断部302は、その判断した結果を充電器制御部303に出力する。
【0027】
充電器制御部303は、充電器205を介して二次電池201への充電モードを制御する。二次電池201への充電モードは、通常充電と診断用充電とを少なくとも有する。通常充電とは、特に制限等を設けない充電モードであって、具体的には充電中に休止時間を設けないものである。一方、診断用充電とは、充電中に休止時間を設ける充電モードである。本実施形態では、診断用充電は充電の前後に予め設定された休止時間を設ける充電であることが好ましく、充電の前後に予め設定された休止時間を設けることに加えて、充電によるΔSOCが所定値以上であることが更に好ましい。このようにすれば、二次電池201の満充電容量およびSOHQ等の演算誤差を抑制することができる。なお、ΔSOCは充電前後のSOC変化量である。
【0028】
次に、図4を基に二次電池201に対する充電制御を説明する。図4に示す制御処理は、バッテリショベル1の充電操作を開始した状態、例えば電流ケーブル接続することで開始される。
【0029】
まず、ステップS110では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づき、診断用充電を推奨するか否かを判断する。二次電池201の稼働履歴は、例えば充電履歴、放電履歴、現在時間、温度等である。なお、具体的な判断方法は後述する。診断用充電を推奨すると判断された場合、制御処理はステップS120に進む。
【0030】
ステップS120では、診断用充電実施判断部302は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態、診断用充電に必要な充電推定時間、および現場作業計画に基づき、診断用充電を実施するか否かを判断する。具体的な判断方法は後述する。ここでの二次電池201の状態としては、二次電池201の充電状態、二次電池201の温度状態等が挙げられる。診断用充電を実施すると判断された場合、制御処理はステップS130に進む。
【0031】
ステップS130では、充電器制御部303は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態などの情報に基づき、診断用充電パタンを作成し、作成した充電パタンで充電器205を介して二次電池201への診断用充電を制御する。
【0032】
一方、ステップS110において診断用充電を推奨しないと判断された場合、あるいはステップS120において診断用充電を実施しないと判断された場合、制御処理はステップS140に進む。ステップS140では、充電器制御部303は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態などの情報に基づいて充電電流を決定し、充電器205を介して二次電池201への通常充電を制御する。
【0033】
ここでは、図5を基に診断用充電を詳細に説明する。図5は診断用充電における電池電圧および充電休止信号の時間変化の一例を示す図である。
【0034】
図5に示すように、診断用充電では、充電の前後に予め設定された休止時間が設けられている。具体的には、二次電池201の放電時間(言い換えれば、バッテリショベル1の稼働時間)t501の後で、かつ二次電池201を充電する前に一定の稼働後休止時間t502が設けられる。稼働後休止時間t502の後に、二次電池201を充電時間t503で充電する。充電時間t503の後に一定の充電後休止時間t504が更に設けられる。なお、通常充電では、診断用充電のように稼働後休止時間t502および充電後休止時間t504といった休止時間が設けられない。
【0035】
図5では充電時間t503を1回とした例を示しているが、充電時間を設ける回数は限定されない。例えば、稼働後休止時間t502の後に、予備充電時間を設けても良い。この予備充電時間の後に、本充電(すなわち、充電時間t503)を実施する。
【0036】
次に、電池管理ユニット202による二次電池の満充電容量およびSOHQの演算について説明する。
【0037】
診断用充電では、電池管理ユニット202は、充電中の電流などの稼働履歴データに基づいて二次電池201の満充電容量およびSOHQを演算する。一方、通常充電も同様に電池管理ユニット202は、充電中の電流などの稼働履歴データに基づいて二次電池201の満充電容量およびSOHQを演算する。そして、電池管理ユニット202は、診断用充電時において、診断用充電の稼働履歴に基づいて演算される満充電容量およびSOHQを現在の二次電池201の状態値として処理する。診断用充電の稼働履歴には、診断用充電時における二次電池201の充電電流のほか、充電履歴、放電履歴、現在時間、温度等も含まれる。一方、通電充電時においては、電池管理ユニット202は、通常充電の稼働履歴に基づいて演算される満充電容量およびSOHQを参照値として処理する。通常充電の稼働履歴には、通常充電時における二次電池201の充電電流のほか、充電履歴、放電履歴、現在時間、温度等も含まれる。
【0038】
図6は電池管理ユニット202における満充電容量およびSOHQの演算を示すブロック図である。図6に示すように、電池管理ユニット202は、充電量演算部601、ΔSOC演算部602、電池容量演算部603およびSOHQ演算部604を有する。充電量演算部601は、電流計203を介して取得した電流Iを用いて、式3に基づいて充電電荷量ΔQを演算し、演算した結果を電池容量演算部603に出力する。
【0039】
充電電荷量ΔQ(Ah)=∫Idt (式3)
【0040】
ΔSOC演算部602は、充電前後のSOC変化量ΔSOCを演算し、演算した結果を電池容量演算部603に出力する。電池容量演算部603は、充電電荷量ΔQとSOC変化量ΔSOCとを用いて、式4に基づいて現在の満充電容量Q(図6のQ参照)を演算する。
【0041】
現在の満充電容量Q(Ah) = 充電電荷量ΔQ × 100/SOC変化量ΔSOC (式4)
【0042】
SOHQ演算部604は、現在の満充電容量Q(図6のQ参照)と初期満充電容量Q0とを用いて、上記式1に基づいてSOHQを演算する。
【0043】
ここで、充電前後のSOC変化量ΔSOCの演算方法について、図7のテーブルを用いて説明する。
【0044】
図7は開回路電圧OCVと充電率SOCとの関係を示すテーブルである。このテーブルは、例えば電池管理ユニット202の記憶部に記憶されている。初めに、電池管理ユニット202は、二次電池201の稼働履歴に基づいて稼働後休止時間t502終了時のOCV(OCV1)を推定し(推定手法は後述する)、推定したOCV1から図7のテーブルを用いて充電前のSOC(SOC1)を見積る。例えば、推定したOCV1が3.2Vである場合、SOCは20%になる。
【0045】
次に、電池管理ユニット202は、二次電池201の稼働履歴に基づいて充電後休止時間t504終了時のOCV(OCV2)を推定し、推定したOCV2から図7のテーブルを用いて充電後のSOC(SOC2)を見積る。次に、電池管理ユニット202は、充電前後のSOC1、SOC2の差分を取ることでΔSOCを演算する。
【0046】
なお、OCVを推定する手法の一例として、電池等価回路モデルを用いる手法が挙げられる。OCVは、例えば式5に基づいて求められる。式5において、R0は内部抵抗、VP1は分極による電圧降下、CCVは閉回路電圧(Closed Circuit Voltage)を示す。VP1は二次電池の電気化学反応に起因するOCVとの電圧ずれで、例えば式6のように一時遅れの式で示される。Rp1は分極抵抗、tは経過時間、τは分極時定数を示す。式6では一時遅れのパラメータは1つであるが複数であっても良い。そして、電池管理ユニット202は、電池特性評価により事前に作成されたR0、Rp1、τのパラメータテーブル、電流などの稼働履歴データ、および式5~6から求められる式7を用いてOCVを演算する。
【0047】
OCV(V) = CCV - I×R0 - VP1 (式5)
VP1(V)= I×RP1×{1 - exp((-t)/τ)} (式6)
OCV(V) = CCV - I×R0 - I×RP1×{1 - exp((-t)/τ)} (式7)
【0048】
上述では、ΔSOCの演算に充電前後のOCVを用いた計算方法を示したが、OCVに代えて稼働後休止時間t502終了時や充電後休止時間t504終了時の電圧値を使用しても良い。
【0049】
なお、診断用充電において、稼働後休止時間t502および充電後休止時間t504の休止時間の設定値は、式7を用いてOCVを精度良く演算するに十分な時間、又は二次電池の充電前後に二次電池201内部の分極が充分緩和してOCVが収束する時間であるのが望ましく、事前にテーブル形式で作成され、電池管理ユニット202の記憶部に記憶させておくことが好ましい。
【0050】
また、稼働後休止時間t502および充電後休止時間t504の休止時間は、温度又はSOCによって変化することが考えられるので、例えば図8に示すテーブルのように設定することができる。図8では、所定の温度範囲、SOC範囲における休止時間の設定値を示しているが、温度範囲のみ、あるいはSOC範囲のみのテーブルであっても良い。図8の休止時間の設定値は、事前の試験により決定された値でも良く、また式6の分極時定数τに基づく値でも良い。分極時定数τは、二次電池201内部の分極が緩和するまでの時間と相関がある。分極時定数τの時間経過すると分極電圧の67%、分極時定数τの3倍時間が経過すると、分極電圧の99.5%は解消される。
【0051】
なお、通常充電では稼働後休止時間および充電後休止時間について、診断用充電のように長時間の休止時間は無いが、短時間の休止時間を設けることができる。通常充電用の休止時間は、バッテリショベル1の運用に支障が無い前提で予め設定される値であり、例えば1分とする。
【0052】
また、診断用充電では、充電によるΔSOCが所定値kΔSOC以上であることを特徴とする。満充電容量Qは、充電電荷量とΔSOCを用いて式4に基づいて演算される。ΔSOCが小さいと、電流計203の検出精度、電圧計の検出精度、SOC演算精度に依存して発生する充電電荷量やΔSOC演算の誤差の影響が大きく、満充電容量QおよびSOHQの誤差が増加するため、ΔSOCは大きい方が望ましい。所定値kΔSOCは、満充電容量QおよびSOHQの目標精度、および充電電荷量やΔSOC演算の想定精度などから予め決定される。例えば、簡易的に充電電荷量の誤差を無視し、ΔSOC演算の誤差がx%とすると、満充電容量QおよびSOHQの誤差は式8で表される。満充電容量QおよびSOHQの目標精度が5%、xが2%とすると、それを満たすΔSOC、すなわち所定値kΔSOCは38%になる。
【0053】
(ΔQ/ΔSOC - (ΔQ/(ΔSOC - x))) / (ΔQ/ΔSOC) ×100 = -x/(ΔSOC - x) × 100 (式8)
【0054】
次に、図4におけるステップS110の診断用充電推奨の判断方法について詳細に説明する。
【0055】
上述したように、ステップS110では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する。より具体的には、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づいて、現在の満充電容量QおよびSOHQが前回の診断用充電により演算された満充電容量およびSOHQの演算値から乖離しているか否かを判断する。乖離していると判断した場合、診断用充電推奨判断部301は診断用充電を推奨し、乖離していないと判断した場合、診断用充電を推奨しない。以下にその判断方法の具体例を示す。
【0056】
[推奨判断方法1]
推奨判断方法1では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴からバッテリショベル1の使用開始日、前回診断用充電を実施した日、および現在時間を抽出し、抽出したこれらの情報に基づき、診断用充電を推奨するか否かを判断する。二次電池201は時間経過又は充放電することにより劣化するため、一定期間以上使用すると劣化が進行し、すなわちSOHQが低下する。この場合、診断用充電推奨判断部301は診断用充電を推奨すると判断する。
【0057】
式9に示すように、バッテリショベル1の使用開始直後で診断用充電が未実施の状態で使用され、現在時間tCがバッテリショベル1の使用開始日tSから所定時間kt以上が経過した場合、診断用充電を推奨すると判断される。また、診断用充電を1回以上実施した後で式10を使用し、現在時間tCが前回診断用充電を実施した日tDから所定時間kt以上が経過した場合、診断用充電を推奨すると判断される。
【0058】
tC - tS ≧ kt (式9)
tC - tD≧kt (式10)
【0059】
所定時間ktは、二次電池201の劣化推移に基づいて予め定められた時間であり、例えば1ヶ月、3ヶ月、半年、又はそれ以上の値でも良い。また、所定時間ktは一定値でも良く、バッテリショベル1の総稼働時間に応じて変化しても良い。二次電池201の使用方法にも依存するが、電池劣化は使用開始時の劣化が顕著で、徐々に劣化速度は低減する。そのため、例えば使用開始1年以内は所定時間ktを2週間又は1ヶ月、使用開始1年以降は所定時間ktを3ヶ月又は半年としても良い。
【0060】
[推奨判断方法2]
推奨判断方法2では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される前回診断用充電時のSOHQ演算値(診断用充電未実施なら初期値)およびSOHQ変化量ΔSOHQに基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する。SOHQ変化量ΔSOHQは、二次電池201の劣化予測関数を用いて電流などの稼働履歴に基づいて演算した現在のSOHQ推定値から求められる。
【0061】
二次電池は、時間経過又は充放電することで劣化し、劣化速度は温度、電流、SOCなどの使用環境に依存する。そのため、二次電池の劣化度SOHQは、例えば温度T、電流I、SOC、経過時間tの劣化予測関数f(T,I,SOC,t)で表され、一般的に事前に実施される試験結果に基づいて構築される。
【0062】
図9にΔSOHQの説明図を示す。前回診断用充電時の演算値SOHQ0と、劣化予測関数f(T,I,SOC,t)を用いて前回診断用充電からの稼働履歴に基づいて演算される現在(図9のt0+Δt)のSOHQ推定値との差分をΔSOHQとする。本推奨判断方法では、ΔSOHQが閾値kQ1以上になったとき、劣化が進行し、すなわちSOHQが低下していると判断し、診断用充電を推奨すると判断される。閾値kQ1は、予め決められた任意の値であり、1%又は2%あるいはそれ以上の値であっても良い。
【0063】
[推奨判断方法3]
推奨判断方法3では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される前回診断用充電時のSOHQ演算値(診断用充電未実施なら初期値)および通常充電時のSOHQ演算値(参照値)からSOHQ変化を分析した結果に基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する。
【0064】
式11に示すように、SOHQ演算値(参照値)の最新N点の平均値SOHQR,A(N)と前回診断用充電時のSOHQ演算値SOHQ0との差が閾値kQ2以上になったとき、劣化が進行し、すなわちSOHQが低下していると判断し、この場合は診断用充電を推奨すると判断される。
【0065】
SOHQR,A(N) - SOHQ0≧kQ2 (式11)
【0066】
通常充電では、分極緩和に必要な休止時間が十分ではないため、通常充電時のSOHQ演算値(参照値)は誤差およびばらつきが大きい。そのため、前回診断用充電からのSOHQ変化を分析するには最新N点の平均値を取る。平均に用いるN数は、予め決められた任意の値であり、例えば診断用充電時のSOHQ演算値と通常充電時のSOHQ演算値(参照値)の演算誤差から決定される。診断用充電時のSOHQ演算の誤差は5%、通常充電時のSOHQ演算の誤差は20%~25%とすると、サンプル数Nに対する平均値の誤差は√Nに依存する点から、N数は25点以上が望ましい。
【0067】
また、平均値を計算する際、外れ値を除去しても良い。外れ値を判断する方法は、スミルノフ・グラブス検定又は四分位範囲を利用する方法などが用いられても良い。上述の内容を考慮した場合、例えばN数を30点と決定する。通常充電30回は、充電回数3回/日、5稼働日/週とすると2週間分のデータ数に相当する。閾値kQ2は、予め決められた任意の値であり、1%又は2%あるいはそれ以上の値であっても良い。
【0068】
[推奨判断方法4]
推奨判断方法4では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される前回診断用充電時の二次電池の満充電容量又はSOHQ演算値(診断用充電未実施の場合、二次電池満充電容量又は二次電池容量の劣化度の初期値)に基づいて演算される稼働中のSOC範囲、および通常充電の稼働履歴から演算される充電中のSOC範囲の差異に基づいて、診断用充電を推奨するか否かを判断する。
【0069】
具体的には、式12を用いて説明する。式12のΔSOCDはバッテリショベル1の起動又は前回の充電完了後からバッテリショベル1稼働(二次電池201の放電)によるSOC変化量であり、稼働による放電電荷量∫IDdt、および前回診断用充電時の二次電池満充電容量の演算値Q0に基づいて演算される。ΔSOCR,Cは通常充電時の二次電池満充電容量又はSOHQ演算の過程で計算されるΔSOCである。
【0070】
ΔSOCDとΔSOCR,Cとの差分において、最新N点の平均値が閾値kQ3以下になった場合、前回診断用充電時の二次電池満充電容量に基づいて演算されたSOC稼働範囲よりも広い範囲でSOCが稼働し、すなわち前回の診断用充電時よりも劣化が進行、SOHQが低下していると判断し、診断用充電を推奨すると判断される。
【0071】
(ΔSOCD - ΔSOCR,C)A(N) = (∫IDdt/Q0- ΔSOCR,C)A(N)≦kQ3 (式12)
【0072】
推奨判断方法3で示したように、通常充電時のΔSOC演算についても誤差およびばらつきが大きいため、最新N点の平均値を取る。平均に用いるN数は、予め決められた任意の値であり、通常充電時の演算誤差を考慮した場合、例えば30点とする。閾値kQ3は、予め決められた任意の値であり、-1%又-2%あるいはそれより小さい値であっても良い。
【0073】
次に、ステップS120の診断用充電実施の判断方法について詳細に説明する。
【0074】
上述したように、ステップS120では、診断用充電実施判断部302は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態、診断用充電に必要な充電推定時間、現場作業計画に基づき、診断用充電を実施するか否かを判断する。ここで、診断用充電実施判断部302は、下記式13及び式14の関係を全て満たす場合のみ、診断用充電を実施すると判断する。従って、例えば式13の関係を満たすが式14の関係を満たさない場合、あるいは式13の関係を満たさないが式14の関係を満たす場合は、診断用充電を実施すると判断されない。
【0075】
具体的には、上述のように、診断用充電では充電によるΔSOCが所定値kΔSOC以上であることを特徴とする。そのため、診断用充電実施判断部302は式13で示されるように、予め設定される充電のSOC設定値(最大)SOCC,Maxと電池管理ユニット202から出力される充電前である現在のSOCとの差分ΔSOCCを演算し、演算した差分ΔSOCCが所定値kΔSOC以上であるか否かと判断する。
【0076】
ΔSOCC = SOCC,Max - SOCCur ≧kΔSOC (式13)
【0077】
続いて、診断用充電実施判断部302は、車両制御ユニット208に予めデータ登録されている現場作業計画(すなわち、使用開始時間)から演算される残充電可能時間timeavaと、電池管理ユニット202によって演算される診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dとに基づいて、式14に示すように、残充電可能時間timeavaが診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,D以上であるか否かを判断する。
【0078】
timeava ≧timeCharge,D (式14)
【0079】
残充電可能時間timeavaは、電池管理ユニット202により現在時間と現場作業計画との差分から演算される。診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dは、充電総時間ともいい、式15に示すように充電時間(t503)timeCharge、稼働後休止時間(t502)timeR,before、充電後休止時間(t504)timeR,afterの合計値である。
【0080】
timeCharge,D = timeCharge + timeR,before+ timeR,after (式15)
【0081】
充電時間timeChargeは、例えばCCCV充電方式を用いた充電時間から演算される。CCCV充電方式は、上述したように充電開始から定電流モードで充電を行い、充電の目標とするSOCの電圧に到達したら、定電圧モードで充電を行う方式である。充電時間timeChargeは、式16で簡易的に演算することができる。
【0082】
timeCharge = timeCharge,CC + timeCharge,CV= ΔQc / IC + timeCharge,CV= (SOCC,Max - SOCCur) / 100 × Q0 / IC+ timeCharge,CV (式16)
【0083】
式16に示すように、充電時間timeChargeは、充電に必要な電荷量ΔQc、充電電流ICから演算されるCC充電時間timeCharge,CC、およびCV充電時間timeCharge,CVの和で演算される。CV充電時間timeCharge,CVは、SOC設定値(最大)SOCC,Maxまで十分に充電できることを目的に、電池性能に基づき予め決定される値であり、例えば1時間などの一定値であっても良く、セル温度やSOC、SOHなどの二次電池201の状態に依存する関数式又はMapに基づいて演算される値であっても良い。稼働後休止時間timeR,before、充電後休止時間timeR,afterは、セル温度やSOCの二次電池201の状態および図8に示す休止時間Mapに基づいて求められる。
【0084】
ステップS120における診断用充電実施判断の詳細な処理は、例えば図10に示すフローチャートである。まず、ステップS121では、電池管理ユニット202のΔSOC演算部602は、上述したように、電池管理ユニット202から出力される現在の二次電池充電状態SOCを取得し、更に式13を用いて予め設定される充電のSOC設定値(最大)SOCC,Maxと取得したSOCに基づき、ΔSOCCを演算する。
【0085】
ステップS121に続くステップS122では、診断用充電実施判断部302は、ΔSOC演算部602により演算されたΔSOCCを取得し、取得したΔSOCCが所定値kΔSOC以上であるか否かを判断する。ΔSOCCが所定値kΔSOC以上であると判断された場合、制御処理はステップS123に進む。ステップS123では、残充電可能時間timeava、および診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dがそれぞれ演算される。ステップS123に続くステップS124では、診断用充電実施判断部302は、演算されたtimeavaがtimeCharge,D以上であるか否かを判断する。timeavaがtimeCharge,D以上であると判断した場合、診断用充電実施判断部302は、診断用充電が実施可(言い換えれば、診断用充電を実施する)と最終的に判断する(ステップS125参照)。
【0086】
一方、ステップS122においてΔSOCCが所定値kΔSOCよりも小さいと判断した場合、又はステップS124においてtimeavaがtimeCharge,Dよりも小さいと判断した場合、診断用充電実施判断部302は、診断用充電が実施不可(言い換えれば、診断用充電を実施しない)と最終的に判断する(ステップS126参照)。
【0087】
上述したステップS124において、二次電池のセル温度が低いことから診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dが長くなり、診断用充電が実施不可の場合、暖機運転によりセル温度を上昇させても良い。その場合、図10の制御処理に暖機処理を追加した図11の制御処理になる(図11参照)。
【0088】
図11に示すステップS121~ステップS125は図10と同様であるので、重複説明を省略し、以下では異なるステップ(すなわち、暖機処理に関するステップ)のみを説明する。具体的には、ステップS124においてtimeavaがtimeCharge,Dよりも小さいと判断した場合、制御処理はステップS210に進み、暖機実施の可否が判断される。ここでは、暖機による所定範囲内のセル温度上昇により、診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dと残充電可能時間timeavaとが式14の関係を満たすか否か、暖機によるセル温度の目標値(目標温度)TD演算、およびSOCなどに基づくエネルギー残量で暖機実施が可能か否かの判断が行われる。目標温度TDは、診断用充電に必要な充電推定時間timeCharge,Dと残充電可能時間timeavaが式14の関係を満たす温度になる。
【0089】
ステップS210において暖機実施可と判断される場合、制御処理はステップS220に進む。ステップS220では、暖機運転における目標温度TDが設定される。ステップS220に続くステップS230では、診断用充電実施判断部302は、セル温度TCが目標温度TDよりも大きいか否かを判断する。セル温度TCが目標温度TDよりも大きいと判断された場合、制御処理は上述のステップS125に進み、診断用充電実施可と判断される。
【0090】
一方、ステップS230でセル温度TCが目標温度TD以下であると判断された場合、制御処理はステップS240に進み、暖機運転が実施される。このような暖機運転は、セル温度TCが目標温度TDに到達するまで繰り返される。なお、ステップS210で暖機実施不可と判断された場合、制御処理は上述のステップS126に進み、診断用充電実施不可と判断される。
【0091】
本実施形態において、診断用充電で取得した電圧、温度、電流などの稼働履歴データに基づいて二次電池容量および容量の劣化度SOHQを演算する方法を示したが、加えて電池直流抵抗(mΩ)、および抵抗劣化度SOHR(%)を演算しても良い。電池直流抵抗は、一例として、所定SOCにおける電圧安定後の状態に一定電流負荷を与えた時の、所定時間後の電圧変化量から演算される。
【0092】
所定SOCは、稼働後休止時間後のSOCとし、二次電池の充電時間において充電負荷を与えた時の、所定時間後の電圧変化量から演算される。演算式の一例を式17に示す。
【0093】
DCRCharge,5 = ΔVCharge,5/ ICharge (式17)
【0094】
式17では、充電開始5秒後の電圧変化量ΔVCharge,5と、充電負荷IChargeから、充電直流抵抗(5秒目)DCRCharge,5が演算される。SOHRは充電開始SOCにおける初期の電池直流抵抗を100%として、現在の電池直流抵抗の比率(抵抗劣化度)として演算される。直流抵抗はセル温度やSOCに依存するため、初期の電池直流抵抗は、事前に作成されるセル温度やSOCをパラメータとする電池直流抵抗Map(初期)、および取得される現在のセル温度やSOCに基づいて求められる。
【0095】
本実施形態に係るバッテリショベル1において、コントローラ300は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づいて診断用充電を推奨するか否かを判断する診断用充電推奨判断部301と、診断用充電を推奨すると判断された場合、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態、診断用充電に必要な充電推定時間および現場作業計画に基づいて診断用充電を実施するか否かを判断する診断用充電実施判断部302とを有するので、休止時間を設ける診断用充電を、診断用充電を推奨すると判断された場合に限定して実施することで、充電総時間の長い診断用充電の回数を低減することができる。しかも、現場作業計画を考慮し、診断用充電の充電総時間を確保できる時に限定して診断用充電を実施することで、現場作業計画に支障が出るリスクを低減することができる。その結果、バッテリショベル1の作業計画に支障を与えることを防止できる、バッテリショベル1の作業効率を向上することができる。
【0096】
更に、電池管理ユニット202は、二次電池201の稼働履歴に基づいて充電前後の充電率SOCを演算し、演算した充電前後の充電率SOCと二次電池201の充電電荷量ΔQとに基づいて二次電池の満充電容量Q又は二次電池容量の劣化度SOHQを更に演算するので、満充電容量又はSOHQを精度良く演算することができる。
【0097】
[第2実施形態]
次に、バッテリショベルの第2実施形態を説明する。第1実施形態では、図4に示す制御処理は全て自動的に行うことに対し、第2実施形態では、診断用充電を実施すると判断された場合であっても診断用充電又は通常充電の最終実施判断が作業者(オペレータ、保守サービスマン等)に委ねられるように構成されている。このとき、診断用充電又は通常充電の充電モードの最終実施判断は、例えばモニタ表示装置に充電モードの選択画面を設け、作業者に選択してもらうことによって行われる。
【0098】
図12は第2実施形態に係るバッテリショベルの電池システムを示す構成図である。図12に示すように、本実施形態に係る電池システムは、モニタ表示装置212を更に備える点において、第1実施形態に係る電池システムと相違している。
【0099】
モニタ表示装置212は、車両制御ユニット208によって作成される充電モードの選択画面等を表示するものである。車両制御ユニット208によって作成される充電モードの選択画面は、診断用充電推奨判断部301の判断結果、診断用充電実施判断部302の判断結果、および電池管理ユニット202の演算結果に基づいて作成されるものである。
【0100】
図13は第2実施形態の車両制御ユニットに設けられたコントローラを示す機能ブロック図である。本実施形態のコントローラ300Aは、第1実施形態のコントローラ300と比べて、充電終了時間演算部304、モニタ表示作成部305および選択内容判断部306を更に有する。
【0101】
図14は第2実施形態における二次電池に対する充電制御を示すフローチャートである。図14に示す制御処理は、バッテリショベル1の充電操作を開始した状態、例えば電流ケーブル接続することで開始される。
【0102】
ステップS310では、診断用充電推奨判断部301は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の稼働履歴に基づき、診断用充電を推奨するか否かを判断する。具体的な判断方法は、上記第1実施形態で述べた内容と同じである。そして、診断用充電を推奨すると判断された場合、制御処理はステップS320に進む。
【0103】
ステップS320では、診断用充電実施判断部302は、電池管理ユニット202から出力される二次電池201の状態、診断用充電に必要な充電推定時間、現場作業計画に基づき、診断用充電を実施するか否かを判断する。具体的な判断方法は、上記第1実施形態で述べた内容と同じである。診断用充電が実施可能と判断された場合、制御処理はステップS330に進む。
【0104】
ステップS330では、充電時間が演算される。ここでは、電池管理ユニット202は、上記式15および式16に基づいて、通常充電と診断用充電に必要な充電推定時間をそれぞれ演算する。
【0105】
ステップS330に続くステップS340では、充電モード選択画面モニタ表示が行われる。ここでの充電モード選択とは、「通常充電」又は「診断用充電」の選択のことである。具体的には、まず、充電終了時間演算部304は、現在時間と、電池管理ユニット202により演算された通常充電および診断用充電に必要な充電推定時間に基づき、通常充電および診断用充電の充電終了時間をそれぞれ演算する。次に、モニタ表示作成部305は、充電終了時間演算部304により演算された通常充電および診断用充電の充電終了時間を表示するモニタ画面を作成し、モニタ表示装置212に表示させる。
【0106】
ステップS340に続くステップS350では、充電モード選択が行われる。ここでは、オペレータ又は保守サービスマンなどの作業者にモニタ表示装置212に表示される充電モードを選択してもらう。作業者がモニタ表示装置212に表示された「1.診断用充電」(図15参照)を選択した場合、選択内容判断部306は、選択された内容を判断し、充電器制御部303に指令を出す。これによって、診断用充電が行われる(ステップS360参照)。
【0107】
一方、ステップS310において診断用充電を推奨しないと判断された場合、又はステップS320において診断用充電を実施しないと判断された場合、あるいはステップS340において作業者が「2.通常充電」(図15参照)を選択した場合、選択内容判断部306は、選択された内容を判断し、充電器制御部303に指令を出す。これによって、通常充電が行われる(ステップS370参照)。
【0108】
図15はモニタ表示装置の表示画面および選択フローの一例を説明する図である。図15に示すように、初めに、モニタ表示装置212の表示画面(選択画面)2121に、例えば「診断用充電の実施推奨時期です。」を表示させることで作業者に注意喚起した上で、「1.診断用充電」又は「2.通常充電」の充電モードを表示させ、作業者に選択してもらうようになっている。「1.診断用充電」には推奨表記に加えて、必要な充電推定時間なども示す。
【0109】
作業者が「1.診断用充電」を選択した場合、モニタ表示装置212の画面は診断用充電実施確認画面2122に変わる。このとき、診断用充電実施確認画面2122に診断用充電の充電終了時間を表示させ、作業者に作業計画に基づいて充電開始か否かを選択してもらう。充電開始(すなわち、Yes)が選択された場合、診断用充電が行われ、モニタ表示装置212の表示画面が診断用充電実施画面2123に変わる。
【0110】
一方、作業者が選択画面2121で「2.通常充電」を選択した場合、又は診断用充電実施確認画面2122で充電開始しない(すなわち、No)を選択した場合、通常充電が行われ、モニタ表示装置212の表示画面が通常充電実施画面2124に変わる。
【0111】
本実施形態のバッテリショベルによれば、第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、診断用充電を実施すると判断された場合であっても診断用充電又は通常充電の最終実施判断を作業者に最終実施判断できるように構成されるため、現場の状況等に対応する能力を高めることができる。
【0112】
なお、本実施形態において、診断用充電を実施すると判断された場合であっても診断用充電又は通常充電の最終実施判断が作業者に委ねられることを示したが、診断用充電を実施すると判断された場合であっても作業者が二次電池201の状態を診断したい場合などは、外部コンピュータなどを通じて、現地操作又は遠隔操作で電池管理ユニット202および車両制御ユニット208に指令を出し、診断用充電を任意に実施しても良い。
【0113】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0114】
1 バッテリショベル(電動作業機械)
201 二次電池
202 電池管理ユニット
203 電流計
204,209,210,211 通信線
205 充電器
206 モータ
207 インバータ
208 車両制御ユニット
212 モニタ表示装置
300,300A コントローラ
301 診断用充電推奨判断部
302 診断用充電実施判断部
303 充電器制御部
304 充電終了時間演算部
305 モニタ表示作成部
306 選択内容判断部
601 充電量演算部
602 ΔSOC演算部
603 電池容量演算部
604 SOHQ演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15