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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】波状摩耗検出方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 35/06 20060101AFI20240214BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240214BHJP
【FI】
E01B35/06
G06T7/00 610B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020128766
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025730
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿▲崎▼ 慎介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 康太
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 翔介
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-009836(JP,A)
【文献】特開平05-340746(JP,A)
【文献】特開2001-272341(JP,A)
【文献】特開2020-020125(JP,A)
【文献】特表2002-500762(JP,A)
【文献】特表2012-526988(JP,A)
【文献】特開2016-011070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0323082(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00-37/00
G01B 11/30
G06T 7/00-7/90
G06V 10/00-20/90
30/418
40/16
40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道軌道に敷設されているレールの頭頂面の波状摩耗を、輝度画像を撮影可能なカメラを備えた車両が走行しながら取得したレールの頭頂面の濃淡画像データに基づいて検出する波状摩耗検出方法であって、
前記濃淡画像データから、レールの頭頂部の照面の領域を抽出する第1ステップと、
前記照面の領域の濃淡画像データに基づいて、レールの長手方向に第1のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第2ステップと、
前記濃淡画像データに基づいて、レールの長手方向に前記第1のピクセル数よりも大きい第2のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第3ステップと、
前記第2ステップで得られた移動平均と前記第3ステップで得られた移動平均との差分を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで算出された前記差分の標準偏差を算出する第5ステップと、
を含むことを特徴とする波状摩耗検出方法。
【請求項2】
前記第5ステップで算出された前記標準偏差の値が予め設定されたしきい値よりも大きい場合に、レールの頭頂面に波状摩耗があると判断することを特徴とする請求項に記載の波状摩耗検出方法。
【請求項3】
前記第1のピクセル数は、レール表面の細かな傷の輝度波形の周期に対応するように設定され、
前記第2のピクセル数は、レール表面の継目部または溶接部の輝度波形の周期に対応するように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の波状摩耗検出方法。
【請求項4】
前記カメラの画素数は256万ピクセルであり、前記第1のピクセル数は前後20ピクセルであり、前記第2のピクセル数は前後100ピクセルであることを特徴とする請求項に記載の波状摩耗検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物の表面状態検出方法に関し、特に列車に搭載された濃淡画像を撮影するカメラにより取得した鉄道軌道に敷設されたレールの頭頂面の濃淡画像データに基づいてレールの頭頂面の波状摩耗を検出するのに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道においては、レール頭頂面に生じた波状摩耗が列車通過時の騒音・振動を助長する原因となるため、波状摩耗を検出して修善する作業が実施されている。しかしながら現状ではレール波状摩耗の発生状況・傾向を定量的且つタイムリーに把握することは難しいという課題がある。
従来、レール頭頂面の波状摩耗の検出方法に関する発明としては、例えば特許文献1や2に記載されているものがある。
【0003】
このうち、特許文献1に記載されている発明は、検測車の軸箱上下振動加速度を測定し、測定した加速度データをウエーブレット解析等の解析法で解析してレール継目位置を判別し、レール波状摩耗の発生箇所を検出するとともに、共振点以下の低速域での加速度測定データを用いて、軌道構造の違いによらず、レール波状摩耗波高を推定するというものである。
【0004】
また、特許文献2に記載されている発明は、レール上を走行する鉄道車両の走行時間に対して振動加速度または騒音の少なくとも一方を測定して時間軸データを取得する測定装置である加速度センサと、時間軸データをハイパスフィルタ処理して絶対値処理し、ローパスフィルタ処理して高周波振動データとし、高周波振動データを空間軸データに変換するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-136988号公報
【文献】特開2019-93892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明のレール波状摩耗検出方法は、レール継目位置を判別し、レール波状摩耗の発生箇所を検出するものであるため、継目位置以外で生じる波状摩耗を検出することができないという課題がある。
また、特許文献1と2のレール波状摩耗検出方法は、いずれも波状摩耗によって発生する車体の振動を検出して波状摩耗を推定するという間接的な検出方法であるため、正確性に欠けるとともに、波状摩耗によって発生する車体の振動は車体構造にも依存するため、振動センサを搭載する車体の構造が異なると検出結果に差異が生じるおそれがあるので搭載する車両が変わるたびにパラメータ等を変更する必要があるという課題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、列車に搭載されている軌道材料モニタリング装置に、軌道材料の濃淡画像を撮影するラインセンサカメラが設けられていることに着目して、ラインセンサカメラにより撮影された画像データに基づいて、標準偏差を算出することでレール頭頂面の波状摩耗を検出することを検討した。その結果、画像データに基づいて波状摩耗を検出する場合、レール表面にある細かい傷、レールの継目部や溶接部により局所的に明暗が変化したり、踏切やEJ(伸縮継目)、街灯などの存在により画像内で明るさが大きく変わったりすると標準偏差が高くなり、それらの要因と波状摩耗とを区別して検出することが難しいという課題があることが明らかになった。
【0008】
本発明は上記のような背景の下になされたもので、濃淡画像を撮影可能なカメラにより撮影された画像データに基づいて、他の要因と区別して波状摩耗等の所定の表面状態を検出することができる表面状態検出方法および波状摩耗検出方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、レール表面を撮影するカメラを搭載する車両が異なったとしても検出結果に差異が生じるおそれのないレール頭頂面の波状摩耗を検出することができる波状摩耗検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、この発明は、
検出対象物の表面の所定の損傷を、輝度画像を撮影可能なカメラを用いて取得した濃淡画像データに基づいて検出する表面状態検出方法において、
前記濃淡画像データに基づいて、所定の方向に第1のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第1ステップと、
前記濃淡画像データに基づいて、前記所定の方向と同一方向に前記第1のピクセル数よりも大きい第2のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第2ステップと、
前記第1ステップで得られた移動平均と前記第2ステップで得られた移動平均との差分を算出する第3ステップと、
前記第3ステップで算出された前記差分の標準偏差を算出する第4ステップと、
を含むようにしたものである。
【0010】
上記のような手順の検出方法によれば、第1のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ要因と第2のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ要因にそれぞれ起因する輝度ピークを抑制することができるとともに、一次関数的に輝度が変化する要因をキャンセルすることができるため、それらの要因と区別して正確に表面状態を検出することが可能なデータ(標準偏差の値)を得ることができる。
【0011】
より具体的には、鉄道軌道に敷設されているレールの頭頂面の波状摩耗を、輝度画像を撮影可能なカメラを備えた車両が走行しながら取得したレールの頭頂面の濃淡画像データに基づいて検出する波状摩耗検出方法において、
前記濃淡画像データから、レールの頭頂部の照面の領域を抽出する第1ステップと、
前記照面の領域の濃淡画像データに基づいて、レールの長手方向に第1のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第2ステップと、
前記濃淡画像データに基づいて、レールの長手方向に前記第1のピクセル数よりも大きい第2のピクセル数で輝度値の移動平均をとる第3ステップと、
前記第2ステップで得られた移動平均と前記第3ステップで得られた移動平均との差分を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで算出された前記差分の標準偏差を算出する第5ステップと、
を含むようにする。
【0012】
上記のような手順の検出方法によれば、第1のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ要因と第2のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ要因にそれぞれ起因する輝度ピークを抑制することができるとともに、一次関数的に輝度が変化する街灯などの要因の影響をキャンセルすることができるため、他の要因と区別して正確に波状摩耗を検出することが可能なデータ(標準偏差の値)を得ることができる。
【0013】
また、望ましくは、前記第5ステップで算出された前記標準偏差の値が予め設定されたしきい値よりも大きい場合に、レールの頭頂面に波状摩耗があると判断するようにする。
かかる方法によれば、他の要因と区別して正確に波状摩耗を検出することができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記第1のピクセル数は、レール表面の細かな傷の輝度波形の周期に対応するように設定され、
前記第2のピクセル数は、レール表面の継目部または溶接部の輝度波形の周期に対応するように設定されているようにする。
【0015】
かかる方法によれば、第1のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ細かな傷と第2のピクセル数に対応した輝度波形周期を持つ継目部や溶接部にそれぞれ起因する輝度ピークを抑制することができるため、それらの要因と区別して正確に波状摩耗を検出することが可能なデータ(標準偏差の値)を得ることができる。
さらに、前記カメラの画素数は256万ピクセルであり、前記第1のピクセル数は20ピクセルであり、前記第2のピクセル数は100ピクセルであるようにすることで、確実に波状摩耗を検出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面状態検出方法によれば、濃淡画像を撮影可能なカメラにより撮影された画像データに基づいて、他の要因と区別して正確に波状摩耗等の表面状態を検出することができる。また、レール表面を撮影するカメラを搭載する車両が異なったとしても検出結果に差異が生じるおそれのないレール頭頂面の波状摩耗検出方法を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】列車に搭載された軌道材料モニタリング装置におけるカメラの設置例を示す概略正面図である。
図2】検出対象の画像の特徴(レール表面の状態)と輝度グラフの特徴(輝度値グラフ)および標準偏差の値との関係を示す表形式の図である。
図3】本発明の波状摩耗検出方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の波状摩耗検出方法を適用した場合における検出対象の画像の特徴(レール表面の状態)と輝度グラフの特徴(輝度値グラフ)および標準偏差の値との関係を示す表形式の図である。
図5】(A)、(B)は本発明に先立って検討した波状摩耗検出方法(図6(A)、(B))を適用した場合における検出対象の画像の特徴(レール表面の状態)と輝度グラフの特徴(輝度値グラフ)および標準偏差の値との関係を示す表形式の図である。
図6】(A)、(B)はそれぞれ本発明に先立って検討した波状摩耗検出方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明を、列車に搭載された軌道材料モニタリング装置に設けられているカメラにより取得された画像データを使用して波状摩耗を検出する場合に適用した実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明を適用する際に用いられるカメラは、対象物の輝度値を含む画像を撮影できるものであれば、どのような種類のものでも良いが、本実施形態では、対象物の表面の明るさを輝度値で表わした濃淡画像データとして出力するラインセンサカメラを使用するものとして説明する。
【0019】
また、カメラの取り付け方に関しては、図1に示すカメラC11,C21のように、軌道上の一対のレールR1,R2の真上からそれぞれ下向きにして設けるのが望ましい。
既存の営業列車には、濃淡が分かるラインセンサカメラや距離を測定できるプロファイルカメラを備えた軌道材料モニタリング装置を搭載し、走行中に軌道の状態を取得し記憶装置に記憶するものがあるので、そのような軌道材料モニタリング装置のプロファイルカメラで撮影した濃淡画像データを使用して波状摩耗を検出するようにしても良い。
【0020】
なお、既存の軌道材料モニタリング装置においては、一対のレールR1,R2のそれぞれについて真上と左右斜め上方から画像を撮影するカメラC11,C12,C13;C21,C22,C23を備えているものがあり、その場合にはレールの真上に配置されているカメラC11,C21の画像データのみを使用して検出を行うようにすることができる。カメラC11,C21に用いているラインセンサカメラは、レールの長さ方向に2.5m、レール幅方向に70cmの範囲を撮影できるように設置条件が設定されており、カメラの画素数は256万ピクセルである。
【0021】
実施形態の説明の前に、本発明の波状摩耗検出方法を開発するに至った過程について説明する。
一般に、波状摩耗のない正常なレールの表面は明るさにムラがないのに対し、波状摩耗のあるレールの表面は、レールの長手方向に沿って数cmごとに明るい部分と暗い部分を繰り返す明るさのムラが現われている。従って、撮影画像内の輝度を数値化した場合、波状摩耗箇所では、数値のばらつきの指標である標準偏差が正常な箇所よりも高くなると予想される。そこで、本発明者らは、輝度標準偏差を求めることで波状摩耗を検出できると考え、さまざまな表面状態のレールの画像データについて輝度の標準偏差を求める検証を行なった。
【0022】
その結果、表面に細かい傷があるレールや表面削正直後の箇所のレール、継目部や溶接部のあるレール、踏切やEJ(伸縮継目)、街灯が存在する箇所のレールにおいても、標準偏差が高くなっていることが明らかになった。このうち、削正直後の箇所のレールの表面には削正痕が生じており、細かい傷があるレールと同様に数mm以下の明るい部分と暗い部分が交互に表われているため、標準偏差が高くなる。また、継目部や溶接部のあるレールの表面には、削正痕と波状摩耗と中間の幅(数mm~1cm以下)を持つ明暗変化部分が局所的に表われているため、標準偏差が高くなると考えた。
【0023】
一方、踏切やEJ(伸縮継目)、街灯が存在する箇所のレールの画像を調べたところ、輝度値が、レールの長手方向に一次関数的に増加または減少していた。
図2に、「正常なレール」と「波状摩耗のあるレール」、「細かい傷のあるレール」、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」について、検証した結果得られたそれぞれの平均的な標準偏差の値を、表形式で表わしたものを示す。
なお、図2に示す各標準偏差の値は本発明者らが適当であると判断し選んだサンプルに関して得られた値であり、サンプルが異なればそれぞれの標準偏差の値も異なると予想される。従って、標準偏差の値が図2に示されている値に対して例えば±20%のようなばらつきがあるとすると、「波状摩耗」を他の要因と区別して抽出するためのしきい値を設定することができないことが分かる。
【0024】
次に、上記知見に基づいて開発した本発明に係るレール頭頂面の波状摩耗検出方法の具体的な手順の一例について、図3のフローチャートを用いて説明する。
図3の波状摩耗検出方法においては、先ずラインセンサカメラにより取得された濃淡画像データを記憶装置のデータベースから読み出す(ステップS1)。次に、読み出された濃淡画像データからレール頭頂部の照り面の領域を抽出し(ステップS2)、照り面の中心線に沿って画像の上端から下端に向かって、例えば1ピクセルずつずらしながら前後20ピクセルの移動平均(以下、これを移動平均1と称する)を算出する(ステップS3)。
【0025】
ここで、前後20ピクセルの移動平均をとるのは、レール表面にある細かな傷に起因する細かな(ミリ単位)輝度の変化の影響をなくすためである。また、移動平均をとるピクセルの数の「20」は、使用したカメラの分解能が1ピクセル当り1mmであるためであり、使用するカメラの分解能が異なればピクセル数は異なることとなる。要は、レール表面の細かな傷に起因する輝度波形の半周期に対応するようにピクセル数を決定すればよい。また、移動平均をとるピクセル数は、ピンポイントの値である必要はなく、多少の誤差が許容されるので、例えば15~30の範囲にあれば良い。なお、移動平均をとる位置は照り面の中心線に限定されず、照り面の中であれば、左右いずれかにずれた位置であっても良い。
【0026】
続いて、ステップS2で抽出した照り面の領域の画像データについて、照り面の中心線に沿って画像の上端から下端に向かって、例えば1ピクセルずつずらしながら前後100ピクセルの移動平均(以下、これを移動平均2と称する)を算出する(ステップS4)。
ここで、前後100ピクセルの移動平均をとるのは、レール表面にある継目部や溶接部に起因する数mm~1cm以下の輝度の変化の影響をなくすためである。従って、移動平均をとるピクセルの数の「100」は、前述したように、使用するカメラの画素数が異なれば異なることとなる。要は、レール表面の継目部や溶接部に起因する輝度波形の半周期に対応するようにピクセル数を決定すればよい。また、移動平均をとるピクセル数は、ピンポイントである必要はなく、例えば50~200の範囲にあれば良い。
【0027】
次に、上記ステップS3で算出した移動平均1とステップS4で算出した移動平均2の差分を算出し(ステップS5)、算出された移動平均1と移動平均2の差分の標準偏差を算出する(ステップS6)。その後、算出された標準偏差の値が、予め設定された所定のしきい値以上であるか否か判定する(ステップS7)。そして、標準偏差が所定のしきい値以上である(Yes)と判定したときはステップS8へ進んで、当該画像のレール表面には波状摩耗が含まれていると判断し、ステップS9へ進む。
【0028】
一方、ステップS7で標準偏差は所定のしきい値以上でない(No)と判定したときはステップS9へ移行する。そして、ステップS9では、全画像について終了したか否か判定し、終了していないときはステップS1へ戻り、次の画像について上記一連の処理を実行する。
図4に、「正常なレール」と「波状摩耗のあるレール」、「細かい傷のあるレール」、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」について、図3のフローチャートのステップS1~S6に従って算出されたそれぞれの標準偏差の値を、表形式で表わしたものを示す。
【0029】
図4より、「波状摩耗のあるレール」の場合は、何ら処理をせずに標準偏差をとった場合(図2参照)の値に比べて上記実施例を適用して得られた標準偏差の値の落ち込みが小さの(8.6→7.6)に対し、「正常なレール」と、「細かい傷のあるレール」、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」に関しては、上記実施例を適用して得られた標準偏差の値が大きく減少している。つまり、「波状摩耗のあるレール」の場合のみ、標準偏差の値が高くなっている。
従って、図4より、例えば2~6の範囲のどこかにしきい値を設定することで、標準偏差の値から波状摩耗のあるレールを識別することができることが分かる。なお、このしきい値の具体的な設定値は、使用する濃淡画像カメラの画素数等によって異なるので、実証実験等を行なって決定すればよい。
【0030】
上記のように、「継目部や溶接部のあるレール」に関して標準偏差の値を大きく減らせるのは、ステップS4で移動平均をとる前後100ピクセルが、継目部や溶接部のサイズ(輝度波形の半周期)に対応していて、移動平均をとることによって継目部や溶接部の輝度のピーク値が潰されるためであると考えられる。
また、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」に関しては、輝度のムラのサイズが大きいので、前後20ピクセルの移動平均と前後100ピクセルの移動平均のいずれをとってもピーク値が残ってしまうが、ステップS6で移動平均1と移動平均2の差分をとることでキャンセルすることができるため、その差分の標準偏差を算出すると、標準偏差の値を大きく減少させることができると考えられる。
【0031】
図5(A)と(B)には、「正常なレール」と「波状摩耗のあるレール」、「細かい傷のあるレール」、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」について、図6(A)と(B)に示す手順に従って算出されたそれぞれの標準偏差の値を、表形式で表わしたものを示す。
図6(A)の手順は、ラインセンサカメラにより取得された濃淡画像データを記憶装置のデータベースから読み出し(ステップS11)、レール頭頂部の照り面の領域を抽出し(ステップS12)、照り面の中心線に沿って画像の上端から下端に向かって、例えば1ピクセルずつずらしながら20ピクセルの移動平均を算出する(ステップS13)。ここまでは、図3のフローチャートの手順と同じである。
【0032】
図6(A)では、次のステップS14において、ステップS13で算出した前後20ピクセルの移動平均に対して標準偏差を算出するようにしている。
上記のような手順により算出された標準偏差の値を示す図5(A)の表から、表面に波状摩耗のあるレールに関する標準偏差の値はあまり減少させずに、表面に細かな傷のあるレールに関する標準偏差の値をかなり減少させることができているが、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」に関しては、標準偏差の値があまり減少していないことが分かる。そのため、算出された標準偏差の値からは波状摩耗のあるレールのみを識別することは困難である。
【0033】
図6(B)の手順は、ラインセンサカメラにより取得された濃淡画像データを記憶装置のデータベースDBから読み出すステップS21から、前後20ピクセルの移動平均を算出するステップS23までは、図6(A)のステップS11からS13までと同じである。
図6(B)では、次のステップS24において、照り面の画像データ(輝度データ)からステップS23で算出した前後20ピクセルの移動平均を引いた値を算出し、次のステップS25でその差の値に対して標準偏差を算出するようにしている。
【0034】
上記のような手順により算出された標準偏差の値を示す図5(B)の表から、「表面に細かな傷のあるレール」と、「表面に波状摩耗のあるレール」、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」のすべてに関して、標準偏差の値が減少していることが分かる。そのため、算出された標準偏差の値からは波状摩耗のあるレールのみを識別することは困難である。
【0035】
これに対して、前記実施形態においては、上述したように、ラインセンサカメラにより取得した輝度画像データに対して前後20ピクセルの移動平均と前後100ピクセルの移動平均をそれぞれ求め、それらの移動平均の差分に対して標準偏差を算出するようにしたことにより、「表面に波状摩耗のあるレール」を、「表面に細かな傷のあるレール」や、「継目部や溶接部のあるレール」、「踏切、EJ、街灯が存在する箇所のレール」と区別して検出することができるという利点がある。
【0036】
ところで、前記実施形態のレール頭頂面の波状摩耗検出は、マイクロプロセッサ(MPU)およびROM(読出し専用メモリ)やRAM(随時読出し書込み可能なメモリ)のような記憶手段を備えたコンピュータと、図3に示すレール頭頂面の波状摩耗検出方法の手順を記載したプログラムによって実施することができる。その場合、そのようなプログラムを備えたコンピュータは、レール頭頂面の波状摩耗検出装置として機能することとなる。このレール頭頂面の波状摩耗検出装置は、車上の軌道材料モニタリング装置の記憶装置に記憶された計測データが、通信あるいはCDROMやUSBメモリのような媒体を介して移管されることで波状摩耗を検出することができる。
【0037】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、既に列車に搭載されている軌道材料モニタリング装置により取得した濃淡画像データに基づいて波状摩耗を検出するようにしているが、軌道材料モニタリング装置が搭載されていない列車あるいは計測車両に、濃淡画像データ(輝度データ)を取得可能なデータラインセンサカメラを設置してデータを収集するようにしても良い。
【0038】
また、前記実施形態では、図3のフローチャートのステップS2とS3で、1ピクセルずつずらしながら前後20ピクセルの移動平均1と前後100ピクセルの移動平均をとると説明したが、数ピクセルずつずらしながら前後20ピクセルの移動平均1と前後100ピクセルの移動平均をとるようにしても良い。特に、使用するカメラの性能が向上して画素数が多くなった場合には、数ピクセルずつずらしながら移動平均をとることで、上記実施例に対して検出精度を落とすことなく、レール表面の波状摩耗を検出することができる。
さらに、本発明は、レール表面の波状摩耗の検出に限定されず、車輪踏面の摩耗等の検出に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
R1,R2 レール
C11~C13,C21~C23 ラインセンサカメラ
RC レール締結装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6