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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】杭打設施工管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/06 20060101AFI20240214BHJP
   E02D 1/02 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020131736
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028375
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 博文
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-209978(JP,A)
【文献】特開2016-180206(JP,A)
【文献】特開平06-346443(JP,A)
【文献】特開2018-062738(JP,A)
【文献】特開2007-139454(JP,A)
【文献】特開平10-102493(JP,A)
【文献】特開2019-078012(JP,A)
【文献】特開平03-093915(JP,A)
【文献】特開2015-063803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/06
E02D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイブロハンマを使用して地盤に打設している杭の貫入状況を把握する杭打設施工管理方法において、
前記地盤のN値測定と前記バイブロハンマを使用して歪みセンサおよび加速度センサを設置した前記杭を前記地盤に打設する事前試験とを行ない、前記歪みセンサおよび前記加速度センサの測定データを用いて算出した前記地盤に対する前記バイブロハンマの打設振動周期毎の前記杭の未貫入地盤への貫入時の貫入抵抗具合と、前記地盤のN値との相関データを取得する相関データ取得工程と、
前記バイブロハンマを使用して前記歪みセンサおよび前記加速度センサを設置した管理対象となる対象杭を前記地盤に打設し、前記歪みセンサおよび前記加速度センサの測定データを用いて算出した前記対象杭の前記貫入抵抗具合と、前記相関データとを用いて判定値を算出し、前記地盤中の支持層に対して設定された前記N値または前記貫入抵抗具合に関する目標値と、前記判定値との比較に基づいて、前記対象杭が前記支持層に到達したか否かを把握する施工工程と、を有することを特徴とする杭打設施工管理方法。
【請求項2】
前記貫入抵抗具合のパラメータとして、それぞれの前記杭の前記未貫入地盤への貫入時の貫入量およびそれぞれの前記杭に作用する圧縮応力を用いる請求項1に記載の杭打設施工管理方法。
【請求項3】
前記施工工程において、前記対象杭の前記貫入抵抗具合の経時変化データに基づいて、前記対象杭の前記地盤への貫入状況を把握する請求項1または2に記載の杭打設施工管理方法。
【請求項4】
前記施工工程において、深度把握手段により把握した前記対象杭の下端部の深度と前記貫入抵抗具合との関係データに基づいて、前記対象杭の前記地盤への貫入状況を把握する請求項1~3のいずれかに記載の杭打設施工管理方法。
【請求項5】
前記歪みセンサおよび前記加速度センサをそれぞれの前記杭の下端部に設置する請求項1~4のいずれかに記載の杭打設施工管理方法。
【請求項6】
前記歪みセンサおよび前記加速度センサの測定データを無線通信により前記地盤上に配置された演算装置に入力し、前記演算装置により前記貫入抵抗具合および前記判定値を算出し、前記目標値と前記判定値との比較を行う請求項1~5のいずれかに記載の杭打設施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭打設施工管理方法に関し、さらに詳しくは、バイブロハンマを使用して地盤に打設している杭が支持層に到達したか否かをより確実に把握できる杭打設施工管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サンドコンパクションパイル工法などのバイブロハンマを使用して杭を打設する施工では、地盤の任意の位置でボーリング調査やN値測定(標準貫入試験)などの地質調査を行い、N値などの指標に基づいて地盤の支持層を選定している。従来、杭打ち貫入量の管理装置のように杭の打設時に杭の貫入量を計測し、その計測データから算出した杭の下端部の深度と地質調査で把握した調査位置での支持層の深度とを比較して、杭が支持層に到達したか否かを推定していた(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、必ずしも地質調査を行った調査位置と杭の打設位置とで支持層の深度が同じであるとは限らず、同じ地盤であっても支持層が存在する深度にはバラツキがある。そのため、杭の下端部の深度を把握するだけでは、それぞれの杭が支持層に到達しているか否かを確実に把握することはできない。それ故、バイブロハンマを使用して地盤に打設している杭が支持層に到達したか否かをより確実に把握するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-202450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、バイブロハンマを使用して地盤に打設している杭が支持層に到達したか否かをより確実に把握できる杭打設施工管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の杭打設施工管理方法は、バイブロハンマを使用して地盤に打設している杭の貫入状況を把握する杭打設施工管理方法において、前記地盤のN値測定と前記バイブロハンマを使用して歪みセンサおよび加速度センサを設置した前記杭を前記地盤に打設する事前試験とを行ない、前記歪みセンサおよび前記加速度センサの測定データを用いて算出した前記地盤に対する前記バイブロハンマの打設振動周期毎の前記杭の未貫入地盤への貫入時の貫入抵抗具合と、前記地盤のN値との相関データを取得する相関データ取得工程と、前記バイブロハンマを使用して前記歪みセンサおよび前記加速度センサを設置した管理対象となる対象杭を前記地盤に打設し、前記歪みセンサおよび前記加速度センサの測定データを用いて算出した前記対象杭の前記貫入抵抗具合と、前記相関データとを用いて判定値を算出し、前記地盤中の支持層に対して設定された前記N値または前記貫入抵抗具合に関する目標値と、前記判定値との比較に基づいて、前記対象杭が前記支持層に到達したか否かを把握する施工工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、相関性が高い地盤のN値と、バイブロハンマを使用して杭を地盤に打設しているときのバイブロハンマの打設振動周期毎の杭の未貫入地盤への貫入時の貫入抵抗具合との相関関係データを、相関データ取得工程により取得しておく。そして、施工工程において、管理対象となる対象杭に設置した歪みセンサおよび加速度センサの測定データを用いて算出した対象杭の前記貫入抵抗具合と、前記相関データとを用いて判定値を算出し、その算出した判定値と地盤中の支持層に対して設定されたN値または前記貫入抵抗具合に関する目標値との比較を行うことで、杭が支持層に到達したか否かをより確実に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】バイブロハンマにより杭を地盤に打設している状況を側面視で例示する説明図である。
図2】バイブロハンマにより杭を地盤に打設する過程を断面視で例示する説明図である。
図3】杭の下端部の深度と杭の打設時に杭に作用する垂直応力との関係を例示するグラフ図である。
図4】バイブロハンマの打設振動周期毎の杭の未貫入地盤への貫入時の貫入抵抗具合と、地盤のN値との関係を例示するグラフ図である。
図5】対象杭の貫入抵抗具合の経時変化データを例示するグラフ図である。
図6】対象杭の下端部の深度と貫入抵抗具合との関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の杭打設施工管理方法(以下、管理方法という)を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1に例示する本発明の管理方法では、バイブロハンマ2を使用して地盤Gに打設している杭1の貫入状況を把握する。この管理方法では、相関データ取得工程と施工工程の大きく分けて2つの工程を行う。以下では、サンドコンパクションパイル工法において、作業船3に搭載されたバイブロハンマ2により水中の地盤Gに杭1としてケーシングパイプを打設する場合を例示して、各工程の詳細を説明する。この管理方法は、サンドコンパクションパイル工法に限らず、バイブロハンマ2を使用して杭1を打設するその他の施工に採用することもできる。また、水中の地盤Gに限らず、陸上打設機などにより陸上の地盤Gに杭1を打設する際にもこの管理方法を適用できる。
【0011】
図1に例示するように、この実施形態の杭1は、複数の管体を杭1の長手方向に継ぎ合わせて形成している。杭1の構造は特に限定されず、1本の管体で形成された杭1を用いることもできる。作業船3は、作業船3の甲板上に立設されたリーダーマスト4と、リーダーマスト4からワイヤロープ6を介して吊り下げられたバイブロハンマ2と、ワイヤロープ6の繰り出しおよび巻き取りを行うことでバイブロハンマ2の上下位置を変更するウインチ5とを備えている。リーダーマスト4に沿って杭1を上下方向に延在して配置し、バイブロハンマ2により杭1の杭頭部1bを保持した状態で、バイブロハンマ2により杭1を上下方向に振動させることで、杭1を地盤Gに貫入していく。
【0012】
この管理方法では、杭1の歪みを測定する歪みセンサ10と、杭1の貫入方向の加速度を測定する加速度センサ11と、歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データが入力される演算装置12とを使用する。演算装置12には、コンピュータ等を用いる。歪みセンサ10および加速度センサ11は杭1に設置され、演算装置12は地盤G上(船上や陸上等)に配置される。
【0013】
歪みセンサ10および加速度センサ11は杭1の下端部1aに設置することが好ましい。ここでいう、杭1の下端部1aとは例えば、杭1の下端から杭1の貫入方向において杭長の10%以内の範囲である。歪みセンサ10および加速度センサ11は、杭1の中途位置や、地盤Gに貫入しない杭1の上部などに設置することもできる。
【0014】
この実施形態では、杭1の下部に設置された歪みセンサ10および加速度センサ11のそれぞれの測定データを、無線通信により作業船3上に配置された演算装置12に入力する構成にしている。歪みセンサ10および加速度センサ11のそれぞれの測定データを、有線通信により演算装置12に入力する構成にすることもできる。
【0015】
図2の(a)~(e)は、バイブロハンマ2により杭1を地盤Gに打設しているときの、バイブロハンマ2の振動の1周期におけるバイブロハンマ2および杭1の動きと杭1に作用する垂直応力(圧縮応力および引張応力)の推移を示している。図2の(a)~(e)に示す白抜きの矢印は、バイブロハンマ2により杭1に付与されている力の方向(バイブロハンマ2による入力方向)を示している。
【0016】
図2の(a)に示すように、バイブロハンマ2により杭1の下端が未貫入地盤Ga(杭1が未だ貫入していない地盤深度領域)の上端面よりも上方に引き上げられて、バイブロハンマ2が打設振動周期における最上点に達した状態から、バイブロハンマ2により杭1に対して下方向の打撃力が加えられることで、杭1が未貫入地盤Gaに向かって下方移動する。そして、図2の(b)に示すように、杭1の下端が未貫入地盤Gaの上端面に到達するまでは、下方移動する杭1に杭1の側面と既に貫入済みの貫入穴との間の摩擦による上方向の抵抗力Rが作用し、杭1には概ね一定の比較的小さな圧縮応力が作用した状態となる。
【0017】
次いで、図2の(c)に示すように、バイブロハンマ2による下方向の打撃力により杭1の下部が未貫入地盤Gaに貫入し、杭1は杭1の側面と既に貫入済みの貫入穴との間の摩擦による上方向の抵抗力Rに加えて、さらに杭1の下端面と杭1の下端部1aの側面に未貫入地盤Gaから上方向の比較的大きな抵抗力Rを受ける。そして、杭1に作用する上方向の抵抗力Rが増加することで、杭1に作用する圧縮応力が図2の(b)の状況に比して増加する。
【0018】
次いで、図2の(d)に示すように、バイブロハンマ2が打設振動周期の最下点に達すると、バイブロハンマ2により杭1に付与される力が下方向から上方向に変化し、杭1が新たな未貫入地盤Gaの上端面から上方移動する。そして、図2の(e)に示すように、再びバイブロハンマ2が打設振動周期における最上点に達するまで、杭1には杭1の側面と既に貫入済みの貫入穴との間の摩擦による下方向の抵抗力Rが作用し、上方移動する杭1に概ね一定の比較的小さな引張応力が作用した状態となる。そして、バイブロハンマ2の打設振動の1周期が終わり、次の打設振動周期における図2の(a)の状況に移行する。バイブロハンマ2による杭1の打設では、図2の(a)~(e)の1サイクルを反復して繰り返すことで、杭1を地盤Gに貫入していく。
【0019】
図3は、バイブロハンマ2により杭1を地盤Gに打設しているときに、深度把握手段により取得した杭1の下端部1aの深度と、杭1に設置した歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて算出した杭1に作用する垂直応力との関係データを示したグラフ図である。図3の縦軸のプラス側の垂直応力は圧縮応力を示し、マイナス側の垂直応力は引張応力を示している。
【0020】
図3の点P1~点P2のデータは、図2の(a)を参照して説明した、バイブロハンマ2が打設振動周期における最上点に達した状態から、バイブロハンマ2により杭1に対して下方向の打撃力が加えられた時点までの推移を示している。バイブロハンマ2により杭1に付与される力が上方向から下方向に変わることで、杭1に作用する垂直応力は引張応力から圧縮応力に変化する。
【0021】
図3の点P2~点P3のデータは、図2の(b)を参照して説明した、バイブロハンマ2により杭1に対して下方向の打撃力が加えられてから、杭1が未貫入地盤Gaの上端面まで下方移動するまでの推移を示している。杭1の下端部1aの深度は深くなり、杭1には杭1の側面と既に貫入済みの貫入穴との間の摩擦による上方向の抵抗力Rにより、概ね一定の比較的小さな圧縮応力が作用した状態となる。
【0022】
図3の点P3~点P4のデータは、図2の(c)を参照して説明した、杭1の下端が未貫入地盤Gaの上端面に到達してから、バイブロハンマ2による下方向の打撃力により杭1の下端部1aが未貫入地盤Gaに貫入して、バイブロハンマ2が打設振動周期における最下点に達するまでの推移を示している。杭1には、さらに杭1の下端面と杭1の下端部1aの側面が未貫入地盤Gaから受ける上方向の抵抗力Rが加わることで、杭1に作用する圧縮応力が増加し、バイブロハンマ2が振動周期における最下点に達する時点(点P4)では、杭1に作用する圧縮応力がバイブロハンマ2の打設振動周期における最高値となる。
【0023】
図3の点P4~点P5のデータは、図2の(d)を参照して説明した、バイブロハンマ2が打設振動周期における最下点に達してから、バイブロハンマ2により杭1に付与される力が下方向から上方向に変わるまでの推移を示している。バイブロハンマ2により杭1に付与される力が下方向から上方向に変わることで、杭1に作用する垂直応力は圧縮応力から引張応力に変化する。
【0024】
図3の点P5~点P6のデータは、図2の(e)を参照して説明した、バイブロハンマ2によって杭1に作用する上方向の力により杭1が上方移動し、バイブロハンマ2が打設振動周期における最上点に達するまでの推移を示している。杭1の下端部1aの深度は浅くなり、杭1には杭1の側面と既に貫入済みの貫入穴との間の摩擦による下方向の抵抗力Rにより、概ね一定の比較的小さな引張応力が作用した状態となる。
【0025】
この図3の点P1~点P6までのデータが、バイブロハンマ2の打設振動の1周期における杭1の下端部1aの深度と杭1に作用する垂直応力との推移を示している。点P6~点P11は、バイブロハンマ2の打設振動の次の1周期における杭1の下端部1aの深度と杭1に作用する垂直応力との推移を示している。バイブロハンマ2を使用する杭1の打設作業では、図3の点P1~点P6のデータと点P6~点P11のデータを比較して分かるように、未貫入地盤Gaの深度と杭1の下端部1aの深度がバイブロハンマ2の打設振動周期毎に段々と深くなっていくことで、杭1の下端部1aの深度と杭1に作用する垂直応力との変化を示すバイブロハンマ2の打設振動周期毎のデータが、深度が深くなる方向へ段々とずれていく推移を示す。
【0026】
本発明者は、図3に示す杭1の下端部1aの深度と杭1の打設時に杭1に作用する垂直応力との関係データと、杭1を打設する地盤Gに対して事前に行われる地盤調査から得られる地盤情報との関係について分析を行った。その結果、図3の点P3~点P4のデータが示す杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合、より具体的には、杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の圧縮応力の増加量や、杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の単位貫入量当たりの圧縮応力の増加量(点P2~点P3のグラフの傾きの大きさ)が、地盤Gの強度指標となる地盤GのN値や、せん断強さ、湿潤密度、相対密度、弾性波速度、液状化強度などと高い相関性を有していることが確認された。特に、図4に示すように、前述した貫入抵抗具合と地盤GのN値は高い相関関係を有している。そこで、この管理方法では、このバイブロハンマ2の振動周期毎の杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合と、地盤GのN値との相関関係に着目して、管理対象となる対象杭1の地盤Gに対する貫入状況を把握する。
【0027】
この管理方法では、予め相関データ取得工程を行う。相関データ取得工程では、地盤GのN値を測定するN値測定(例えば、標準貫入試験)と、バイブロハンマ2を使用して歪みセンサ10および加速度センサ11を設置した杭1を地盤Gに打設する事前試験とを行なう。そして、図4に示すように、事前試験において得られた歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて演算装置12により算出した、地盤Gに対するバイブロハンマ2の打設振動周期毎の杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合と、N値測定により得られた地盤GのN値との相関データを取得する。
【0028】
貫入抵抗具合は、杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の圧縮応力の増加量や、杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の単位貫入量当たりの圧縮応力の増加量などの、少なくとも杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の圧縮応力の増加量をパラメータとして用いる算出値である。図4に示すように、貫入抵抗具合と地盤GのN値との相関データを用いることで、貫入抵抗具合と地盤GのN値は互いに換算することが可能である。
【0029】
次いで、施工工程では、バイブロハンマ2を使用して歪みセンサ10および加速度センサ11を設置した管理対象となる対象杭1を地盤Gに打設する。そして、歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて算出した対象杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合と、相関データ取得工程で取得した貫入抵抗具合と地盤GのN値との相関データとを用いて、判定値を算出する。そして、その算出した判定値と、地盤G中の支持層Sに対して設定されたN値または貫入抵抗具合に関する目標値との比較に基づいて、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを把握する。
【0030】
即ち、貫入抵抗具合に関する目標値を用いる場合には、図4に示すように、相関データ取得工程で取得した相関データを用いて、地盤G中の支持層Sに対して設定されたN値の目標値Nsを貫入抵抗具合に関する目標値Usに換算する。そして、対象杭1の地盤Gへの打設時に測定した歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて算出した対象杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合の判定値と、貫入抵抗具合に関する目標値Usとの比較に基づいて、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを把握する。
【0031】
N値に関する目標値Nsを用いる場合には、対象杭1の地盤Gへの打設時に測定した歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて算出した対象杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合を、相関データ取得工程で取得した相関データを用いて、N値に換算することで、N値の判定値を算出する。そして、その算出したN値の判定値と、地盤G中の支持層Sに対して設定されたN値の目標値Nsとの比較に基づいて、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを把握する。
【0032】
相関データ取得工程で用いる杭1と、施工工程で用いる対象杭1とは同一物である必要はなく、相関データ取得工程と施工工程とで別体の杭1を用いてもよい。バイブロハンマ2による打設時に杭1に作用する垂直応力を検知できる仕様であれば、相関データ取得工程で用いる杭1の仕様は特に限定されない。ただし、施工工程で使用する対象杭1と同仕様の杭1を用いて相関データ取得工程を行うと、相関データ取得工程で取得するデータと、施工工程で取得するデータとの整合性が向上するので、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを精度よく把握するには有利になる。
【0033】
施工工程において算出した判定値と、支持層Sに対して設定された目標値とを比較することで、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを簡易に把握することができるが、例えば、図5図6に示すように、施工工程において、対象杭1の貫入抵抗具合の経時変化データや、深度把握手段により把握した対象杭1の下端部1aの深度と貫入抵抗具合との関係データを用いると、対象杭1が支持層Sに到達したか否かをより確実に把握するには有利になる。
【0034】
図5に示すように、施工工程において、対象杭1の貫入抵抗具合の経時変化データを用いると、対象杭1の貫入抵抗具合が貫入抵抗具合の目標値Usに到達した時点tsを把握し易くなるとともに、杭1の地盤Gへの貫入状況をより詳細に把握できる。例えば、対象杭1の貫入抵抗具合の経時変化データに基づいて、対象杭1の貫入抵抗具合が予め設定したバイブロハンマ2の振動の所定周期以上(例えば、5周期以上)連続して目標値Usを超えた場合に対象杭1が支持層Sに到達したと判断し、貫入抵抗具合が目標値Usを断続的に超えた場合にも、貫入抵抗具合がバイブロハンマ2の振動の所定周期以上連続して目標値Usを超えない場合には対象杭1が支持層Sに到達していないと判断する判断基準にすることもできる。対象杭1の下端部1aが地中に存在する岩や土塊などに接触することで、対象杭1が支持層Sに到達していないにもかかわらず、貫入抵抗具合が目標貫入抵抗具合Usを一時的に超えるノイズが発生することも考えられるが、前述したような判断基準にすると、そのようなノイズにより対象杭1が支持層Sに到達していると誤認する可能性をより低減できる。
【0035】
図6に示すように、施工工程において、深度把握手段により把握した対象杭1の下端部1aの深度と貫入抵抗具合との関係データを用いると、対象杭1の地盤Gへの貫入状況をより詳細に把握できる。対象杭1の下端部1aの深度は、加速度センサ11の測定データに基づいて算出することが可能である。深度把握手段として、深度計を用いることもできる。例えば、この関係データに基づいて、地盤Gに対するボーリング試験などの地層調査により支持層Sが存在すると推定される支持層Sの推定深度と、杭1の下端部1aの深度との距離差が、予め設定した所定距離以内(例えば、10m以内)であり、かつ、対象杭1の貫入抵抗具合が目標値Usを超えた場合に杭1が支持層Sに到達したと判断する。そして、対象杭1の貫入抵抗具合が目標値Usを超えた場合にも、支持層Sの推定深度と対象杭1の下端部1aの深度との距離差が予め設定した所定距離以上であれば、対象杭1が支持層Sに到達していないと判断する判断基準にすることもできる。対象杭1が支持層Sの推定深度よりも極端に浅い深度において、前述したような地中に存在する石や土塊などの影響によるノイズが発生することも考えられるが、前述したような判断基準にすると、そのようなノイズにより対象杭1が支持層Sに到達していると誤認する可能性をより低減できる。
【0036】
対象杭1の貫入抵抗具合をN値に換算した判定値と、支持層SのN値に関する目標値Nsとの比較に基づいて対象杭1が支持層Sに到達したか否かを把握する場合にも、同様に、N値に換算した判定値の経時変化データや、対象杭1の下端部1aの深度とN値に換算した判定値との関係データを作成することで、前述したようなノイズにより対象杭1が支持層Sに到達していると誤認する可能性を低減でき、対象杭1が支持層Sに到達していることをより確実に把握するには有利になる。
【0037】
このように、この管理方法では、相関データ取得工程において、バイブロハンマ2の振動周期毎の杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入抵抗具合と、地盤GのN値との相関データを取得しておく。そして、施工工程において、管理対象となる対象杭1に設置した歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを用いて算出した対象杭1の貫入抵抗具合と、相関データ取得工程で取得した相関データとを用いて判定を算出し、その算出した判定値と、地盤G中の支持層Sに対して設定されたN値または貫入抵抗具合に関する目標値Us(Ns)との比較を行うことで、対象杭1が支持層Sに到達したか否かを確実に把握できる。
【0038】
特に、施工工程において、対象杭1の貫入抵抗具合の判定値と貫入抵抗具合の目標値Usとを比較する方法は、相関データに基づいて貫入抵抗具合の目標値Usを設定した後に、施工工程において算出した貫入抵抗具合をさらにN値に換算する演算を行う必要がないため、演算装置12の計算量を少なくするには有利である。
【0039】
貫入抵抗具合のパラメータとして、それぞれの杭1(相関データ取得工程で使用する杭1と施工工程で使用する対象杭1)の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入量およびそれぞれの杭1に作用する圧縮応力を用いると、貫入抵抗具合としてそれぞれの杭1の貫入量とそれぞれの杭1に作用する圧縮応力とを総合的に評価することで、対象杭1が支持層Sに到達しているか否かをより確実に把握するには有利になる。例えば、未貫入地盤GaのN値が低い場合にも未貫入地盤Gaの粘性が高い場合には、杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の貫入量が大きいと、それに伴い杭1が未貫入地盤Gaに貫入するときの圧縮応力の増加量も比較的大きくなる場合がある。そして、施工工程において、対象杭1が支持層Sに達していないにもかかわらず、対象杭1の未貫入地盤Gaへの貫入時の圧縮応力の増加量が目標値Usに近い数値を示すノイズが発生することが考えらえる。それに対して、貫入抵抗具合のパラメータとして、杭1の貫入量および杭1に作用する圧縮応力を用いると、前述したようなノイズが生じる可能性をより低減できるので、対象杭1が支持層Sに到達しているか否かをより確実に把握できる。
【0040】
歪みセンサ10および加速度センサ11をそれぞれの杭1(相関データ取得工程で使用する杭1と施工工程で使用する対象杭1)の下端部1aに設置すると、バイブロハンマ2による歪みセンサ10および加速度センサ11への影響が小さくなり、それぞれの杭1の下端部1aに近い位置で測定できるので、歪みセンサ10および加速度センサ11による測定精度を高めるには有利になる。複数の管体を直列に継ぎ合わせて構成される杭1では、歪みセンサ10および加速度センサ11を杭1の上部に設置する場合には、歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データに管体どうしの継ぎ目部分の遊びなどの影響によるノイズが比較的生じ易くなる。ところが、歪みセンサ10および加速度センサ11を杭1の下端部に設置することでそのようなノイズを効果的に軽減でき、歪みセンサ10および加速度センサ11による測定精度を高めるには有利になる。特に杭1の最下端部分を構成する管体に歪みセンサ10および加速度センサ11を設置すると歪みセンサ10および加速度センサ11による測定精度を高めるには有利になる。
【0041】
歪みセンサ10および加速度センサ11の測定データを無線通信により、地盤G上(船上や陸上等)に配置された演算装置12に入力し、演算装置12により貫入抵抗具合および判定値を算出し、目標値と判定値との比較を行うと、有線通信する場合に必要な歪みセンサ10および加速度センサ11と演算装置12とを通信ケーブルで接続する配線作業が不要になる。そのため、歪みセンサ10および加速度センサ11の設置作業に要する作業工数や労力を軽減するには有利になる。この実施形態では、歪みセンサ10および加速度センサ11から演算装置12に直接測定データを送信する場合を例示したが、例えば、歪みセンサ10および加速度センサ11と演算装置12との間(例えば、陸上や地中、水中など)に測定データを無線通信で中継する中継通信装置を設けることもできる。
【0042】
上記では、地盤Gの強度を評価する指標としてN値を用いているが、例えば、N値の代わりにまたは加えて、地盤の強度を評価可能な地盤Gのせん断強さや、湿潤密度、相対密度、弾性波速度、液状化強度などのその他の指標を用いることもできる。
【0043】
また、対象領域に複数本の杭1を打設する場合は、1番最初に打設する杭1を用いて把握した支持層Sの深度(位置)が、概ねその対象領域全体の支持層Sの深度になると考えることができる。そこで、2番目以降に打設する杭1については、その把握した深度の例えば50%、或いは70%程度打ち込んでから、この管理方法を適用してその杭1が支持層Sに到達したか否かを確認するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 杭
1a 下端部
1b 杭頭部
2 バイブロハンマ
3 作業船
4 リーダーマスト
5 ウインチ
6 ワイヤロープ
10 歪みセンサ
11 加速度センサ
12 演算装置
G 地盤
Ga 未貫入地盤
S 支持層
図1
図2
図3
図4
図5
図6