(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】水素接触用部品
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240214BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20240214BHJP
C22C 37/06 20060101ALI20240214BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D6/00 E
C21D6/00 H
C22C37/06 Z
C22C38/38
(21)【出願番号】P 2020538693
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2018083604
(87)【国際公開番号】W WO2019137698
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】102018200343.2
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス クンツ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209423(JP,A)
【文献】特開2017-57458(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
C21D6/00-6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素雰囲気との接触が予定されている少なくとも1つの表面を備え、少なくとも前記表面は鋼から形成されている水素接触用部品の、燃料電池システムを製造するための使用において、前記鋼は、オーステナイトおよびフェライトを含む
ベイナイト組織である組織構造を有し、オーステナイト組織の割合は、3重量%以上15重量%以下の範囲で存在し、フェライト組織の割合は、85重量%以上97重量%以下の範囲で存在することを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記鋼が、ケイ素を0.5重量%以上5.0重量%以下の含有率で含むこと、および前記鋼が、炭素を0.3重量%以上2.0重量%以下の含有率で含むことを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記鋼が、以下の成分:
0.3重量%以上2.0重量%以下の範囲の炭素;
0.5重量%以上5.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.25重量%以上4.0重量%以下の範囲のマンガン;
0.2重量%以上4.0重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上3.0重量%以下の範囲のモリブデン;および
0重量%以上0.8重量%以下の範囲のバナジウム
を含む合金として設計されており、残部は、鉄および不可避不純物により形成されていることを特徴とする、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記鋼が、以下の成分:
0.5重量%以上1.1重量%以下の範囲の炭素;
1.5重量%以上3.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.7重量%以上1.4重量%以下の範囲のマンガン;
0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上0.15重量%以下の範囲のモリブデン
を含む合金として設計されており、残部は、鉄および不可避不純物により形成されていることを特徴とする、請求項3記載の使用。
【請求項5】
少なくとも1つの表面を備え、少なくとも前記表面は鋼から形成されており、前記鋼は、オーステナイトおよびフェライトを含む組織構造を有し、オーステナイト組織の割合は、1重量%以上50重量%以下の範囲で存在し、フェライト組織の割合は、50重量%以上99重量%以下の範囲で存在する、水素接触用部品の製造方法であって、
ケイ素を0.5重量%以上5.0重量%以下の含有率で含み、かつ炭素を0.3重量%以上2.0重量%以下の含有率で含む鋼を含む材料を準備する方法ステップa)と、
任意に前記材料の均質化を行う方法ステップb)と、
前記任意に均質化された材料を少なくとも1週間にわたって190℃以上300℃以下の範囲の熱処理に供することにより、前記材料にベイナイト化を生じさせる方法ステップc)と
を含む、方法。
【請求項6】
前記材料を850℃以上1000℃以下の範囲の温度の熱処理に供することにより方法ステップb)を実施することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
方法ステップa)において、以下の成分:
0.3重量%以上2.0重量%以下の範囲の炭素;
0.5重量%以上5.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.25重量%以上4.0重量%以下の範囲のマンガン;
0.2重量%以上4.0重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上0.3重量%以下の範囲のモリブデン;および
0重量%以上0.8重量%以下の範囲のバナジウム
を含み、残部は、鉄および不可避不純物により形成されている合金として設計されている鋼を有する材料を準備することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項8】
燃料電池システム用部品を製造するための、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素との接触に適し、かつそれが予定されている部品に関する。本発明は特に、燃料電池システムの構成要素であり得る部品に関する。さらに本発明は、かかる部品の製造方法に関する。
【0002】
従来技術
多くの場合、部品は、高い機械的安定性を有するように設計されていることが必要であるかまたは望ましい。このような高い機械的安定性に加えて、媒体への耐久性がしばしば利点となり得る。これに関してここでは、高い機械的安定性を示すとともに、さらには高い水素圧にも永続的に耐える部品に言及することができる。
【0003】
例えば独国特許出願公開第102012219061号明細書には、水素圧力タンクを備えた燃料電池システムであって、該タンクから該燃料電池システムの少なくとも1つのアノードへ供給するための水素を取り出すことができ、水素タンク圧は、減圧装置によって入口圧まで低下され、圧力制御バルブによってアノード圧へと調節され、該減圧装置は、スプリングチャンバを備え、該スプリングチャンバは、スプリング荷重がかかりかつ該スプリングチャンバ内で支配的な圧力がかかるプランジャーを備えた、燃料電池システムが記載されている。
【0004】
さらに、独国特許第60028979号明細書翻訳文には、水素には言及されておらず、強度、硬度および熱処理に対する耐久性に関して良好な特性を備えた高炭素鋼が記載されている。該文献はさらに、かかる鋼の製造法にも関する。
【0005】
さらに、Sourmail et al., Evaluation of potential of high Si high C Steel nanostructured bainite for wear and fatigue applications, Materials Science and Technology, 2013, Vol 29: 1166-1173から、同様の鋼が知られている。
【0006】
発明の開示
本発明は、水素雰囲気との接触が予定されている少なくとも1つの表面を備え、少なくとも前記表面は鋼から形成されている水素接触用部品において、前記鋼は、オーステナイトおよびフェライトを含む組織構造を有し、オーステナイト組織の割合は、1重量%以上50重量%以下の範囲で存在し、フェライト組織の割合は、50重量%以上99重量%以下の範囲で存在する、水素接触用部品に関する。
【0007】
前記部品によって、有利に高い機械的安定性が可能となり、この場合、高い水素圧に対しても長期的に安定である。
【0008】
したがって本発明は、水素接触用部品、したがって水素または水素雰囲気との接触が予定されており、またそのために形成されている部品について説明するものである。原則として、該部品はその設計および特定の用途に関して制限はないが、原則として、2バール以上、例えば25バール以上、例えば50バール以上、特に好ましくは100バール以上、またはさらには500バール以上の水素過圧との接触が予定できる。水素圧の上限は部品に依存し得るが、例えば5バール、30バール、120バール、またはさらには1000バールであり得る。
【0009】
さらに、部品が単体水素と少なくとも部分的に直接接触することが有利であり得る。それに応じて、部品が少なくとも1つの表面を備え、該表面は、該表面と水素雰囲気との接触が予定されており、またそのように設計されている。この場合、水素雰囲気とは特に、単体水素が50重量%以上、例えば75重量%以上、例えば90重量%以上、例えば95重量%以上の割合で存在する雰囲気またはガスと理解されてよい。したがって、水素雰囲気は、製造に起因する純度を有するほぼ純粋な単体水素であってよい。
【0010】
部品に関して、該部品が少なくとも表面(該表面は、上記のとおり、該表面と水素雰囲気との接触が予定されている)において鋼から形成されていることが、さらに予定されている。この表面に鋼を設けることにより、原則として高い機械的安定性を実現できる。この機械的安定性は、例えば部品全体が鋼から形成されている場合に特に高くなることができ、これによって、高圧であっても根本的な安定性が可能となる。
【0011】
同様に、水素に対する高い耐久性を実現するために、鋼が、オーステナイトおよびフェライトを含む組織構造を有することがさらに予定されている。この場合、この組織構造に関して詳細には、オーステナイト組織の割合が、1重量%以上50重量%以下の範囲で、例えば1重量%以上35重量%以下の範囲で、例えば3重量%以上15重量%以下の範囲で存在し、フェライト組織の割合が、50重量%以上99重量%以下の範囲で、例えば65重量%以上99重量%以下の範囲で、例えば85重量%以上97重量%以下の範囲で存在することが予定されている。この場合、以下に説明するようなベイナイト化の際にフェライトへの変態が生じ、残部は残留オーステナイトであることによって、該組織構造は、好ましくはフェライトおよびオーステナイトからなることができる。換言すれば、オーステナイトおよびフェライトの上記の範囲は、合計で100重量%となり得る。
【0012】
驚くべきことに、鋼、特にオーステナイトおよびフェライトを上記の割合で含むこうした組織構造を有する鋼が、高い機械的安定性を示し、この場合さらに水素に対する高い抵抗性を有することが判明した。特に、水素作用に対する良好かつ顕著な抵抗性は、鋼、ひいては部品または少なくとも水素と接触する表面が、水素脆化に特に抵抗性を示すことによって現れ得る。
【0013】
したがって、こうした鋼を使用することにより特に、高圧であっても長期にわたっても支障なく水素の作用に曝し得る部品を作製することができる。それにより有利にも、部品の運転時に高い長期安定性を実現することができる。さらに、水素の漏出を低減または完全に防止することができ、これによって著しい安全上の利益が得られる。なぜならば、大気中に漏出する水素はまさに、場合によっては安全性に関して不利となり得るためである。
【0014】
上記組織は、特にベイナイト組織を有し得る。この分野で基本的に知られているとおり、ベイナイト構造は、パーライト形成温度を下回る温度からマルテンサイト形成温度までの温度でのオーステナイトからの等温変態または連続冷却による炭素鋼の熱処理により生じ得る。この場合特に、フェライトと炭化物との混合物からベイナイトが形成可能であるため、フェライト組織構造はベイナイトの成分であり得る。
【0015】
C含有率が0.3重量%以上、特に0.4重量%以上、例えば0.5重量%以上、およびSi含有率が0.5重量%超、特に0.9重量%以上、例えば1.5重量%以上の鋼の場合には、フェライトおよび炭化物(セメンタイト)ではなくフェライトおよびオーステナイトからなるベイナイトが形成される。これは、セメンタイトの形成がケイ素によって抑制され、それによりオーステナイトが形成されることによるものである。
【0016】
鋼が炭化物不含である、すなわち炭化物を含まないこともさらに予定できる。これにより、上記利点がさらに強化される。
【0017】
したがって特に好ましくは、鋼が、ケイ素を0.5重量%以上5.0重量%以下、特に1.5重量%以上3.0重量%以下の含有率で含むこと、および鋼が、炭素を0.3重量%以上2.0重量%以下、特に0.5重量%以上1.1重量%以下の含有率で含むことが予定できる。特にこの設計では、長時間の曝露および/または高圧下においても、この鋼によって高い機械的安定性および高い水素抵抗性が実現でき、かつ上記のような望ましいベイナイト化を達成することができる。
【0018】
特に上記材料は、最大2GPaまたはさらにはそれを上回る範囲の引張強さを有することができ、また20%またはさらにはそれを上回る破断点伸びを達成できる。したがって、特にこの設計における材料は、上記のプラスの特性を有することができる。
【0019】
部品全体かまたは水素と接触する少なくとも1つもしくはすべての表面を形成し得る鋼に関しては、特に好ましくは、該鋼が、以下の成分を含む合金を有するかまたはそれからなることが予定できる:
0.3重量%以上2.0重量%以下の範囲の炭素;
0.5重量%以上5.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.25重量%以上4.0重量%以下の範囲のマンガン;
0.2重量%以上4.0重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上3.0重量%以下の範囲のモリブデン;
0重量%以上0.8重量%以下の範囲のバナジウム;
ここで、残部は、鉄および不可避不純物により形成されている。
【0020】
特に、不可避不純物は、鋼の製造に起因する場合があり、かつ/または5重量%以下の割合で存在することがあり、かつ/またはこれに限定されるものではないが、例えばニオブ、窒素、酸素、銅もしくはリンを含み得る。
【0021】
特に好ましくは、部品全体かまたは水素と接触する少なくとも1つもしくはすべての表面を形成し得る鋼は、以下の成分を含む合金を有するかまたはそれからなることが予定できる:
0.4重量%以上1.5重量%以下の範囲の炭素;
0.9重量%以上3.5重量%以下の範囲のケイ素;
0.5重量%以上2.5重量%以下の範囲のマンガン;
0.3重量%以上3.0重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上2.5重量%以下の範囲のモリブデン;
0重量%以上0.5重量%以下の範囲のバナジウム;
ここで、残部は、鉄および不可避不純物により形成されている。
【0022】
特に、不可避不純物は、この場合にも鋼の製造に起因する場合があり、かつ/または5重量%以下の割合で存在することがあり、かつ/またはこれに限定されるものではないが、例えばニオブ、窒素、酸素、銅もしくはリンを含み得る。
【0023】
例示的に、部品全体かまたは水素と接触する少なくとも1つもしくはすべての表面を形成し得る鋼は、以下の成分を含む合金を有するかまたはそれからなることが予定できる:
0.5重量%以上1.1重量%以下の範囲の炭素;
1.5重量%以上3.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.7重量%以上1.4重量%以下の範囲のマンガン;
0.4重量%以上2.5重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上0.15重量%以下の範囲のモリブデン;
ここで、残部は、鉄および不可避不純物により形成されている。
【0024】
特に、不可避不純物は、この場合にも鋼の製造に起因する場合があり、かつ/または5重量%以下の割合で存在することがあり、かつ/またはこれに限定されるものではないが、例えばニオブ、バナジウム、窒素、酸素、銅もしくはリンを含み得る。
【0025】
驚くべきことに、部品全体かまたは水素と接触する少なくとも1つもしくはすべての表面を形成し得る鋼が、上記成分を特に上記量で有する合金を有するかまたはそれからなる場合に、該鋼は、高い機械的安定性と水素に対する良好な抵抗性とを併せ持つことが判明した。
【0026】
さらに、特に上記組成物の場合、上記組織構造の好ましい調整性が、以下に記載されるような熱処理によって可能となり得る。この場合特に、ベイナイト化を、支障なく行える期間で実現できる。
【0027】
例えば、部品は、水素導管、水素圧力タンク、バルブ、および燃料電池システム用の上記または他の部品から選択可能である。特にそのような部品においては、高い機械的安定性と、水素に対する長期間の安定した抵抗性との組み合わせが有利または不可欠である。特にこのような部品によって、信頼性の高い運転および特に良好な安全挙動に向けて、該部品が高い水素圧によって機械的に損傷を受けることも接触する水素により脆化を受けることもないことを保証できる。したがって本発明は、そのような部品の場合に特に有利であり得る。
【0028】
部品の他の利点および技術的特徴に関しては、使用および方法についての説明を参照されたい(逆もまた同様である)。
【0029】
さらに本発明の対象は、燃料電池システムを製造するための、上記で詳説したような部品の使用に関する。例えば、水素導管、水素圧力タンク、バルブ、または燃料電池システム用の他の部品から選択される部品を製造できる。特に上記部品においては、信頼性の高い運転および特に良好な安全挙動に向けて、該部品が高い水素圧によって機械的に損傷を受けることも接触する水素により脆化を受けることもないことが非常に重要であり得る。
【0030】
したがって特にそのような部品においては、上記鋼は高い機械的安定性を有すると同時に、水素脆化を受けないかまたは水素脆化が少なくとも明らかに低減され得るため、該部品が上記のような鋼から形成されていることが有利であり得る。これにより、長期的に安定した機械的安定性と、同様に長期的に安定した安全な作業とが可能になり得る。
【0031】
使用の他の利点および技術的特徴については、部品、さらなる使用および方法についての説明を参照されたい(逆もまた同様である)。
【0032】
本発明はさらに、水素接触用部品の製造方法であって、
ケイ素を0.5重量%以上5.0重量%以下、特に1.5重量%以上3.0重量%以下の含有率で含み、かつ炭素を0.3重量%以上2.0重量%以下、特に0.5重量%以上1.1重量%以下の含有率で含む鋼を含む材料を準備する方法ステップa)と、
任意に前記材料の均質化を行う方法ステップb)と、
前記任意に均質化された材料を少なくとも1週間にわたって190℃以上300℃以下の範囲の熱処理に供することにより、前記材料にベイナイト化を生じさせる方法ステップc)と
を含む方法に関する。
【0033】
本方法によって、鋼が特に好ましくベイナイト組織を得られるようになる。特に、本明細書に記載の方法によって、オーステナイトおよびフェライトを含む組織構造を有する鋼であって、オーステナイト組織の割合が1重量%以上50重量%以下の範囲で存在し、かつフェライト組織の割合が50重量%以上99重量%以下の範囲で存在する鋼を製造することができる。
【0034】
そのような鋼は特に、本明細書に記載の方法の出発生成物として方法ステップa)で準備される材料が、ケイ素および炭素を上記の量で含むことによって、さらに特に、任意に均質化された材料を方法ステップc)で上記温度範囲での熱処理に供することにより該材料にベイナイト化を生じさせることによって、製造可能である。
【0035】
方法ステップa)に関して、材料が、例えば選択可能な範囲の鋼を有することも可能であり、また材料が鋼からなることも、材料が鋼により形成されていることも可能である。
【0036】
方法ステップa)で準備される鋼に関しては、特に好ましくは、該鋼が、以下の成分を含む合金を有するかまたはそれからなることが予定できる:
0.3重量%以上2.0重量%以下の範囲の炭素;
0.5重量%以上5.0重量%以下の範囲のケイ素;
0.25重量%以上4.0重量%以下の範囲のマンガン;
0.2重量%以上4.0重量%以下の範囲のクロム;
0重量%以上3.0重量%以下の範囲のモリブデン;および
0重量%以上0.8重量%以下の範囲のバナジウム;
ここで、残部は、鉄および不可避不純物により形成されている。
【0037】
方法ステップb)に関して、方法ステップa)で準備された材料がまだ均質化に供されていない場合に、均質化を行うことが予定できる。このステップは、材料内で、したがってさらには製造された部品内でも、特に均一な、したがって規定された特性を生じさせることに寄与し得る。さらに、材料を850℃以上1000℃以下の範囲の温度の熱処理に供することにより方法ステップb)を実施することが予定できる。
【0038】
上記方法により、長期間にわたり高圧下で水素と接触しても安定である部品の製造に利用される材料を有利に製造することができる。なぜならば、本明細書に記載の方法によって、特に当業者に周知の従来の鋼処理方法により、高い機械的安定性と水素作用に対する良好な抵抗性とを兼ね備えた部品を形成できるためである。
【0039】
特に、上記利点を、燃料電池システムの要素に適用できる。例示的な要素には、水素圧力タンク、水素導管および対応するバルブが含まれる。
【0040】
方法の他の利点および技術的特徴に関しては、部品および使用についての説明を参照されたい(逆もまた同様である)。
【0041】
さらに本発明は、燃料電池システム用部品を製造するための上記のような方法の使用に関する。
【0042】
これにより、長時間にわたって水素圧が高くても安定している相応する要素を備えた燃料電池システムが得られる。
【0043】
使用の他の利点および技術的特徴に関しては、方法、部品およびさらなる使用についての説明を参照されたい(逆もまた同様である)。