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  • 特許-射出装置 図1
  • 特許-射出装置 図2
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  • 特許-射出装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】射出装置
(51)【国際特許分類】
   F41F 7/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
F41F7/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020553411
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041402
(87)【国際公開番号】W WO2020085337
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018199601
(32)【優先日】2018-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502294172
【氏名又は名称】株式会社ウェルリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100112520
【弁理士】
【氏名又は名称】林 茂則
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和樹
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108240377(CN,A)
【文献】国際公開第2016/013054(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108382609(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
射出部と、
前記固定部と前記射出部との間に位置する形状記憶合金と、
前記固定部、前記射出部および前記形状記憶合金を互いに結束する結束部材と、を有し、
前記形状記憶合金は、圧縮されたマルテンサイト相状態にあり、
前記形状記憶合金を、マルテンサイト相状態からオーステナイト相状態に変態させることで、歪エネルギーが蓄積され、当該歪エネルギーの作用を利用して、前記結束部材の少なくとも一部を破断するとともに前記射出部に射出力を付与し、当該射出力の作用により、前記固定部から離れる方向に前記射出部を射出し、
前記形状記憶合金が、単結晶形状記憶合金である
射出装置。
【請求項2】
前記結束部材が、刻み目、窪み、その他のノッチ部を有する
請求項1に記載の射出装置。
【請求項3】
前記形状記憶合金の形状が、内筒を有する円筒形状であり、
前記結束部材が、ノッチ部を有するノッチボルトであり、
前記固定部が、前記ノッチボルトと螺合する雌ねじ部を有し、
前記ノッチボルトの頭部が、前記射出部に係合し、
前記ノッチボルトのねじ部が、前記形状記憶合金の前記内筒を通して前記固定部の前記雌ねじ部に螺合し、
前記ノッチボルトを締め付けることで、前記固定部、前記射出部および前記形状記憶合金を互いに結束する
請求項2に記載の射出装置。
【請求項4】
前記単結晶形状記憶合金が、Cu-Al-Ni系単結晶形状記憶合金である
請求項に記載の射出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
弾丸や矢等の射出部を射出する方法として、たとえば、特許文献1に記載されているような炸薬の爆発力を用いる方法、あるいは、特許文献2に記載されているようなばね等弾性体の弾性エネルギーを用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-159492号公報
【文献】特開2004-230929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した炸薬等の爆発力を用いる方法では、意図せず炸薬が起爆する可能性があり、安全上の問題がある。また、弾性エネルギーを用いる方法の場合、常に弾性体から弾性力を受ける状態にあり、弾性体の開放を抑止するストッパの外れ等により、意図せず射出部が射出されてしまう恐れがある。
【0005】
本発明の目的は、保管時の安全性に優れ、動作時には確実に射出部が射出される射出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の態様においては、固定部と、射出部と、前記固定部と前記射出部との間に位置する形状記憶合金と、前記固定部、前記射出部および前記形状記憶合金を互いに結束する結束部材と、を有し、前記形状記憶合金は、圧縮されたマルテンサイト相状態にあり、前記形状記憶合金を、マルテンサイト相状態からオーステナイト相状態に変態させることで、歪エネルギーを蓄積し、当該歪エネルギーの作用を利用して、前記結束部材の少なくとも一部を破断するとともに前記射出部に射出力を付与し、当該射出力の作用により、前記固定部から離れる方向に前記射出部を射出する、射出装置、を提供する。
【0007】
前記結束部材が、刻み目、窪み、その他のノッチ部を有しても良い。前記形状記憶合金の形状が、内筒を有する円筒形状であり、前記結束部材が、ノッチ部を有するノッチボルトであり、前記固定部が、前記ノッチボルトと螺合する雌ねじ部を有し、前記ノッチボルトの頭部が、前記射出部に係合し、前記ノッチボルトのねじ部が、前記形状記憶合金の前記内筒を通して前記固定部の前記雌ねじ部に螺合し、前記ノッチボルトを締め付けることで、前記固定部、前記射出部および前記形状記憶合金を互いに結束するものであっても良い。
【0008】
前記形状記憶合金が、単結晶形状記憶合金であっても良い。前記単結晶形状記憶合金が、Cu-Al-Ni系単結晶形状記憶合金であっても良い。
【0009】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態である射出装置100の上面図である。
図2図1におけるA-A線断面図である。
図3】結束部材140の一例として示したノッチボルトの詳細を示す側面図である。
図4】射出部120の射出実験を行う実験装置の写真である。
図5】射出時の反力を荷重センサーにより計測したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態である射出装置100の上面図であり、図2は、図1におけるA-A線断面図である。本実施の形態の射出装置100は、固定部110と、射出部120と、形状記憶合金130と、結束部材140と、を有する。
【0013】
固定部110は、射出部120が射出される際の反作用に対し、動じない程度の質量体に固定される。固定部110は、それ自体が質量体を構成しても良い。固定部110と質量体との接続手段として、ここではネジ止めを例示するが、任意である。たとえば、溶接、クランプ止め等であってもよい。
【0014】
射出部120は、射出装置100から射出される部材である。射出部120は、形状記憶合金130とともに、結束部材140により固定部110に結束される。射出部120の材質は、結束部材140により結束できる程度の機械的強度を有する限り、任意である。たとえば、鉄、ステンレス等の金属、セラミック、硬質プラスチック等が例示できる。
【0015】
形状記憶合金130は、固定部110と射出部120との間に位置し、射出部120とともに、結束部材140により固定部110に結束される。形状記憶合金130は、圧縮されたマルテンサイト相の状態にある。
【0016】
結束部材140は、固定部110、射出部120および形状記憶合金130を互いに結束する。結束部材140は、刻み目、窪み、その他のノッチ部を有しても良い。結束部材140にノッチ部を有する場合、動作時の結束部材140の破断をノッチ部に集中させ、破断を制御して射出部120の射出を安定化することができる。
【0017】
図3は、結束部材140の一例として示したノッチボルトの詳細を示す側面図である。図3に示すノッチボルト(結束部材140)は、頭部142、ねじ部144、ノッチ部146を有する。前記した通り、ノッチボルトに破断が生じる場合はノッチ部146で破断する。
【0018】
結束部材140として図3のノッチボルトを用いる場合、形状記憶合金130は内筒を有する円筒形状とし、固定部110にはノッチボルトと螺合する雌ねじ部を形成し、ノッチボルトの頭部142を射出部120に係合させ、ノッチボルトのねじ部144を形状記憶合金130の内筒を通して固定部110の雌ねじ部に螺合させ、ノッチボルトを締め付けることで、固定部110、射出部120および形状記憶合金130を互いに結束することができる。
【0019】
このような構成を有する射出装置100において、形状記憶合金130を、マルテンサイト相状態からオーステナイト相状態に変態させることで、歪エネルギーが蓄積され、当該歪エネルギーの作用を利用して、結束部材140の少なくとも一部、たとえばノッチ部146を破断させることができる。これにより、射出部120に射出力を付与し、当該射出力の作用により、固定部110から離れる方向に射出部120が射出される。なお、形状記憶合金130のマルテンサイト相からオーステナイト相への変態は、加熱により行うことができる。
【0020】
本実施の形態の射出装置100によれば、形状記憶合金130がヒータ等で加熱されない限り射出部120が射出されることはなく、保管時の安全性に優れ、動作時には確実に射出部120が射出される射出装置100を提供することができる。
【0021】
なお、形状記憶合金130は、単結晶形状記憶合金であることが好ましく、Cu-Al-Ni系単結晶形状記憶合金であればさらに好ましい。単結晶形状記憶合金あるいはCu-Al-Ni系単結晶形状記憶合金とすることで、より多くの歪エネルギーが蓄積でき、射出部120の射出速度を大きくすることができる。
【0022】
(実施例)
図4は、射出部120の射出実験を行う実験装置の写真である。固定部110は、荷重センサーを介して台座に固定され、形状記憶合金130の周りに配置したヒータに通電して形状記憶合金130を加熱した。加熱された形状記憶合金130はオーステナイト相に変態して歪エネルギーを開放し、結果、結束部材140であるノッチボルトのノッチ部146が破断し、射出部120が図中右方向に射出される。
【0023】
図5は、射出時の反力を荷重センサーにより計測したグラフである。4E-03sec(4msec)時に大きな反力を計測しているのは、ノッチボルトが破断され、射出部120が射出された瞬間を示していると推察される。
【0024】
形状記憶合金の長さを変えて3種類の実験(実験例1~3)を行った。実験例1~3の各実験において、最大反力、力積、電力量、および射出速度の測定を行った。射出速度は、カメラ撮影による測定あるいは吊紐の角度より算出した。各実験において3回の測定を行い、平均値を測定結果とした。
【0025】
結果を表1に示す。実験例3については射出部重量が275gと大きいので、射出速度については他の実験例における射出部重量と同じ110gの場合に換算して示している(括弧内の値は射出部重量275gにおける実測値である。)。
【表1】
【0026】
表1に示す通り、形状記憶合金の長さが10mm、20mm、30mmと長くなるに従い射出速度は大きくなり、その値は、それぞれ2.9、5.0、7.1m/sと十分大きな値を示した。
【0027】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0028】
100…射出装置、110…固定部、120…射出部、130…形状記憶合金、140…結束部材、142…頭部、144…ねじ部、146…ノッチ部。
図1
図2
図3
図4
図5