(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】遮熱コーティング(TBC)トップコート用高エントロピー酸化物
(51)【国際特許分類】
C23C 4/11 20160101AFI20240214BHJP
C04B 35/66 20060101ALI20240214BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20240214BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20240214BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C23C4/11
C04B35/66
C04B35/486
C04B35/50
C01G25/00
(21)【出願番号】P 2021512889
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 US2019055423
(87)【国際公開番号】W WO2020142125
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘ、チャンホン
(72)【発明者】
【氏名】ラブロック、ハイジ リネット
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、ナイシエ
(72)【発明者】
【氏名】ハリントン、タイラー
(72)【発明者】
【氏名】シャロベム、ティモシー
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-088556(JP,A)
【文献】特開2005-061400(JP,A)
【文献】特表2010-505717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/11
C04B 35/66
C04B 35/486
C04B 35/50
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップコートを含む遮熱コーティングであって、
前記トップコートは、高い配置エントロピーを有する高エントロピー酸化物(HEO)であり、前記HEOは、M
xO
yの形態であり、式中、Mは、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表し、
前記HEOは、室温から前記トップコートの動作温度範囲まで変態することなく相組成を維持し、
前記少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、
前記HEOが、以下の群からの少なくとも5つの異なる金属酸化物を含むように、Y、Zr、Ca、Gd、La、Yb、Ti、又はCeを含み、
以下の群は:
a)5重量%~20重量%の量のY
2
O
3
、
b)12重量%~55重量%の量のZrO
2
、
c)0重量%~15重量%の量のCaO、
d)0重量%~30重量%の量のGd
2
O
3
、
e)0重量%~26重量%の量のLa
2
O
3
、
f)0重量%~32重量%の量のYb
2
O
3
、
g)0重量%~10重量%の量のTiO
2
、又は
h)0重量%~18重量%の量のCeO
2
、
であり、前記少なくとも5つの選択された金属酸化物のパーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、
遮熱コーティング。
【請求項2】
以下の群:
a)8重量%~18重量%の量のY
2O
3、
b)17重量%~52重量%の量のZrO
2、
c)0重量%~11重量%の量のCaO、
d)0重量%~28重量%の量のGd
2O
3、
e)0重量%~24重量%の量のLa
2O
3、
f)0重量%~30重量%の量のYb
2O
3、
g)0重量%~7重量%の量のTiO
2、又は
h)0重量%~15重量%の量のCeO
2、
からの少なくとも5つの異なる金属酸化物を含み、前記少なくとも5つの金属酸化物のパーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項3】
8重量%~12重量%の量のY
2O
3、48重量%~55重量%の量のZrO
2、14重量%~18重量%の量のYb
2O
3、4重量%~8重量%の量のTiO
2、及び12重量%~17重量%の量のCeO
2を含み、前記パーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項4】
最大2重量%の量の少なくとも1つの追加の金属酸化物をさらに含み、前記重量パーセンテージが合計で少なくとも99重量%である、請求項
3に記載の遮熱コーティング。
【請求項5】
最大2重量%の量のHfO
2をさらに含み、前記重量パーセンテージが合計で少なくとも99重量%である、請求項
3に記載の遮熱コーティング。
【請求項6】
3つの金属酸化物:
13重量%~19重量%の量のY
2O
3、
14重量%~25重量%の量のZrO
2、及び
20重量%~30重量%の量のGd
2O
3、並びに
金属酸化物のいずれか2つ:
23重量%~32重量%の量のYb
2O
3、
18重量%~25重量%の量のLa
2O
3、又は
6重量%~12重量%の量のCaO、
を含み、前記5つの金属酸化物のパーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項7】
前記酸化物の前記配置エントロピーが1モルあたり少なくとも1.5Rであり、式中、Rはガス定数J・K
-1・mol
-1である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項8】
遮熱コーティングボンドコートをさらに含む、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項9】
前記HEOが、室温から少なくとも
1093℃(2000°F
)までの単相又は単結晶構造である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項10】
前記HEOが、室温から少なくとも
1093℃(2000°F
)まで立方晶系である単相又は単結晶構造である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項11】
前記HEOが、
982℃(1800°F
)から
1427℃(2600°F
)まで単相又は単結晶構造である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項12】
前記HEOが、室温から少なくとも
1093℃(2000°F
)まで正方晶系である単相又は単結晶構造である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項13】
前記HEOが、室温から前記HEOの融点まで単相又は単結晶構造である、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項14】
前記HEOが、前記HEOの融点まで少なくとも
371℃(700°F
)にわたって、異なる結晶構造への相変態を受けない、請求項1に記載の遮熱コーティング。
【請求項15】
高い配置エントロピーを有する高エントロピー酸化物(HEO)を含む遮熱コーティング材料であって、
前記HEOは、M
xO
yの形態であり、式中、Mは、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは、金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは、酸素アニオン(O)又は原子の数を表し、
前記HEOは
、トップコートの動作温度範囲にわたって単相であり、
前記少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、
前記HEOが、以下の群からの少なくとも5つの異なる金属酸化物を含むように、Y、Zr、Ca、Gd、La、Yb、Ti、又はCeを含み、
以下の群は:
a)5重量%~20重量%の量のY
2
O
3
、
b)12重量%~55重量%の量のZrO
2
、
c)0重量%~15重量%の量のCaO、
d)0重量%~30重量%の量のGd
2
O
3
、
e)0重量%~26重量%の量のLa
2
O
3
、
f)0重量%~32重量%の量のYb
2
O
3
、
g)0重量%~10重量%の量のTiO
2
、又は
h)0重量%~18重量%の量のCeO
2
、
であり、前記少なくとも5つの選択された金属酸化物のパーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、
遮熱コーティング材料。
【請求項16】
8重量%~12重量%の量のY
2O
3、48重量%~55重量%の量のZrO
2、14重量%~18重量%の量のYb
2O
3、4重量%~8重量%の量のTiO
2、及び12重量%~17重量%の量のCeO
2を含み、前記パーセンテージが合計で少なくとも97重量%である、請求項
15に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項17】
粉末、ワイヤ、バー、インゴット、及びロッドのうちの少なくとも1つである、請求項
15に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項18】
請求項
15に記載の
遮熱コーティング材料を含む溶射粉末。
【請求項19】
基板と請求項
8に記載の遮熱コーティングとを含み、前記遮熱コーティングのトップコートが前記遮熱コーティングボンドコートによって前記基板に接着されている、コーティング基板。
【請求項20】
基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法であって、請求項
8に記載の遮熱コーティングを基板に接着することを含み、前記遮熱コーティングの前記トップコートが、前記遮熱コーティングボンドコートによって前記基板に接着される、方法。
【請求項21】
凝集及び焼結された、請求項
15に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項22】
粉末形態である、請求項
21に記載の遮熱コーティング材料。
【請求項23】
請求項
15に記載の遮熱コーティング材料を凝集及び焼結して焼結凝集体を得ること、及び前記焼結凝集体を溶射用の粉末に形成することを含む、遮熱コーティングを作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2018年10月9日に出願された米国仮出願第62/743,392号の利益を主張し、その開示は、参照により本明細書にその全体が明示的に組み込まれる。
【0002】
本発明は、広い温度範囲にわたって優れた相安定性及び寸法安定性を有し、低い熱伝導率で良好な熱サイクル性能を有する遮熱コーティング(TBC)用のトップコート材料に関する。トップコート材料は、粉末、合金、トップコート又はコーティングの形態であってもよく、ボンドコーティング材料とともに溶射粉末に使用して、遮熱コーティング(TBC)システムを得ることができる。本発明はまた、ガスタービンエンジン構成要素などのボンドコート及び基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
完全な遮熱コーティングシステムには、遮熱コーティング(TBC)などのトップコートと、ボンドコート又はボンド層とが含まれる。一般的なボンドコートはMCrAlY合金でできており、Mは、Ni、Co、Fe、又はそれらの組合せを表す。ボンドコートの性能を向上させるために、Hf、Re、Pt及びその他の様々な希土類元素が高度なボンドコートに追加されることがよくある。一般的なトップコートは、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ランタン、若しくは酸化ジスプロシウムの1つ又は複数で安定化されたジルコニア(ZrO2)、又はジルコニア酸ガドリニウム(Gd2Zr2O7)でできている。
【0004】
TBCシステムは、超合金などの基板に塗布及び接着され、ガスタービンエンジン環境などの高温で過酷な環境で基板を保護する。ボンドコート又はボンド層は、トップコートと基板との間にあり、トップコートを基板に接着する。ボンドコート又はボンド層は、ボンドコーティング材料から形成され、これは、基板に塗布するために粉末形態であり得る。ボンドコーティング材料から形成されたボンドコート又はボンド層は、TBCなどのトップコートの熱サイクル疲労及び耐硫化性に影響を与え、これは、硫黄が存在する場合及び存在しない場合のTBCの炉サイクル寿命によって有効性が評価され得る。TBCは、高温、及び硫黄存在下などの過酷な環境によって劣化する可能性がある。例えば、TBCを有する産業用ガスタービンの燃料として硫黄含有量の高いオイルを使用することは、TBCの寿命を縮める重要な要因の1つである。
【0005】
完全なTBCシステムの重要な障害の1つは、ボンドコート/トップ界面で発生する。TBCシステムが高温にさらされたとき、熱成長酸化物(TGO)と呼ばれる酸化物層が核形成してボンドコートとトップコートとの間で成長し、酸素がさらに内部に拡散するのを遮断して、基板の酸化を防止する。TGOの高密度のアルファアルミナ層は、酸素の内部拡散を効果的に遮断し、それ自体がゆっくりと成長するため、望ましい。しかしながら、トップコート、ボンドコート、及びTGOの熱膨張係数には大きな違いがある。TBCシステムが熱サイクル(室温から動作温度、動作温度から室温)を経験している間、温度変化によって引き起こされる大きな内部応力は、トップコート/TGO界面及びTGO/ボンドコート界面に蓄積される。TGO層が厚くなるにつれて熱内部応力はますます高くなり、最終的には、熱内部応力による層間剥離により、TBCなどのトップコートは破損する。性能及びエネルギー効率を高めるために、最新のジェットエンジン及び産業用ガスタービンはより高い動作温度を求めている。そのため、TBCシステムにはより高い耐熱衝撃性が望まれる。
【0006】
室温からより高い動作温度へ、及びその逆の温度変化にさらされたときの、結晶構造の変化又は相変化(例えば正方晶系結晶構造から立方晶系若しくは蛍石結晶構造若しくは相への変化又はその逆の変化)は、ボンドコート又は基板からのトップコートの有害な層間剥離を引き起こし得るトップコート体積の実質的な変化を伴う可能性があることが見出された。
【0007】
遮熱コーティング(TBC)は、航空エンジン及び産業用ガスタービンにとって重要な技術である。基本のTBCシステムは、酸化物セラミックトップコートとともに、(Ni、Co、Fe)CrAlYボンドコートを含む。トップコートは通常、7~8重量%のY2O3を含むY2O3で安定化されたZrO2である。TBCの主な要件は、低い熱伝導率;動作温度範囲にわたる相安定性及び寸法安定性;動作温度範囲の上限での焼結に対する耐性;並びに複合コーティングシステムの優れた酸化及び熱サイクル性能である。航空エンジンの場合、「CMAS」攻撃に対する耐性も重要である。吸入空気とともに取り込まれた溶融CMAS(カルシア-マグネシア-アルミノシリカ)堆積物は、ガスタービンエンジンの遮熱コーティング(TBC)に浸透して相互作用し、ジルコニアベースのTBC及び全体的なTBC性能を低下させる。ガスタービンエンジンは、効率を最大化するためにより高い温度で動作するように駆動されるため、構成要素はカルシウムマグネシウムアルミノシリケート(CMAS)の堆積物による攻撃をより受けやすくなる。溶融CMASは、セラミックを溶解して新しい相又は修飾相として再沈殿させることにより熱化学的に、また多孔性に浸透して歪み耐性を低下させることにより熱機械的にTBCと相互作用することが知られている。
【0008】
上記の遮熱コーティング(TBC)トップコート化学の多くが変形され、今日使用されている。しかしながら、この基本のTBCシステムは、特に熱伝導率の点で限界に近づいている。
【0009】
高エントロピー酸化物(HEO)は、高い配置エントロピーS(config)を有する酸化物である。これらは通常、5つ以上の異なる金属カチオン種と、酸素とを含み、1つ以上の酸化物副格子を形成する。HEOには、高レベルの格子歪み及びその他の格子欠陥が含まれる。これにより、熱伝導率が低下し、靭性などの機械的特性が向上し得る。HEOの配置エントロピーSconfigは、一般に、1モルあたり1.5R以上であり、Rはガス定数8.314J.K-1mol-1である。この定義は、高エントロピー材料の一般的に受け入れられている定義であるSconfigの値を使用している。
【0010】
複数の金属酸化物を含み、熱伝導率が低い多くの遮熱コーティングが知られているが、それらを広い温度範囲にわたって相変化を受けない単相を有するトップコートとして使用することは開示されていない。例えば、本明細書にその開示全体が参照により組み込まれる、Zhuらの米国特許第6,812,176号は、約46~97モルパーセントの塩基性酸化物、約2~25モルパーセントの一次安定剤、約0.5~12.5モルパーセントの群Aのドーパント、及び約0.5~12.5モルパーセントの群Bのドーパントである遮熱コーティング組成物を開示している。塩基性酸化物は、ZrO2、HfO2、及びそれらの組合せからなる群から選択される。一次安定剤ドーパントは、Y2O3、Dy2O3、及びEr2O3並びにそれらの組合せからなる群から選択される。群Aのドーパントは、アルカリ土類酸化物、遷移金属酸化物、希土類酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される。群Bのドーパントは、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Eu2O3及びそれらの組合せからなる群から選択される。Zhuの特許は、組成物を高エントロピー酸化物(HEO)として、又は1.5Rを超えるSconfigを有するものとして開示していない。
【0011】
Zhuらによる米国特許第7,001,859号及び第7,186,466号はそれぞれ、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれ、それぞれ、46~97モルパーセントの塩基性酸化物、2~25モルパーセントの一次安定剤、0.5~25モルパーセントの群Aのドーパント、及び0.5~25モルパーセントの群Bのドーパントを有する遮熱コーティング組成物を開示している。塩基性酸化物は、ZrO2、HfO2及びそれらの組合せからなる群から選択され、一次安定剤は、Y2O3、Dy2O3、Er2O3及びそれらの組合せからなる群から選択され、群Bのドーパントは、Nd2O3、Sm2O3、Gd2O3、Eu2O3及びそれらの組合せからなる群から選択され、群Aのドーパントは、希土類酸化物、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属酸化物及びそれらの組合せからなる群から選択されるが、塩基酸化物、群Bのドーパント及び一次安定剤群に含まれる種を除く。組成物中の群Aのドーパントと群Bのドーパントとのモルパーセンテージ比は、約1:10~約10:1である。Zhuの特許はいずれも、組成物を高エントロピー酸化物(HEO)として、又は1.5Rを超えるSconfigを有するものとして開示していない。
【0012】
高エントロピー(Sconfigが1.5Rより大きい)は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれるC.M.Rostの博士論文、North Carolina State Univ(2016),「Entropically-stabilized oxides:Explorations of a novel class of multicomponent materials」に記載されているように、標準の熱力学的公式を使用して任意の組成物について計算することができる。
【0013】
Dorfmanらの米国特許第7,001,859号、及びDoesburgらの米国特許第9,975,812号は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれ、それぞれ、高温サイクル用途及び高温摩耗性コーティングの熱障壁に使用するためのセラミック材料を開示している。この材料は主に、非常に高い焼結耐性により長い耐用寿命を達成する超高純度の安定化ジルコニア(ZrO2)及び/又はハフニア(HfO2)合金から形成された合金である。耐用寿命にわたってコーティング微細構造の変化が遅れることが開示されている。この材料は、約4~20重量パーセントの安定剤の1つ又は複数の希土類酸化物を有し、残りが、ジルコニア(ZrO2)、ハフニア(HfO2)、及びそれらの組合せのうちの少なくとも1つであり、ここで、ジルコニア(ZrO2)及び/又はハフニア(HfO2)は、安定剤によって部分的に安定化され、不純物の総量は、0.15重量パーセント以下である。これらの特許は、ジルコニア合金が、1)すべてのセラミック中で最も高い融点のいくつか、つまり、理論的な意味では焼結の開始が起こる最高温度のいくつか、2)すべてのセラミック中で最も低い熱伝導率の1つ、及び3)すべてのセラミック中で最も高い熱膨張係数の1つを有し、そのため、熱サイクル中の遷移金属合金と最も適合すること、を開示している。しかしながら、上記特許によれば、ジルコニアは、熱サイクル中に正方晶系から単斜晶系への相変態を起こすため、ジルコニア単独ではコーティング要件を満たすことはできない。この変態は、有害な体積変化を引き起こし、コーティングと基板との間に大きな歪み差をもたらすと推定される。結果として生じる応力がコーティングの基板への接着強度を超えると、コーティングが剥離する。このため、相安定剤をイットリアなどのジルコニア及び/又はハフニアに添加し、正方晶系から単斜晶系への相変態を抑制する。組成物は、高エントロピー酸化物(HEO)として、又は1.5Rを超えるSconfigを有するものとして開示されていない。
【0014】
Blushの米国特許出願公開第2018/0022928号及び第2018/0022929号は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれ、高エントロピー窒化物及び/又は酸化物薄膜含有コーティングを支持するコーティングされた物品を開示している。高エントロピー合金システムは熱安定性があり、光学コーティングに使用することができる。使用できる第1の材料システムには、Hf、Y、Zr、Ti、Ta、及びNbなどの元素の1つ又は複数(及び好ましくは2つ以上)を有するSiAlNが含まれる。使用できる第2の材料システムには、Fe、Co、Ni、Sn、Zn、及びNなどの1つ又は複数(好ましくは2つ以上)の元素を有するTiOが含まれる。材料システムは、場合によっては、層スタックの酸化チタンの代替として機能できる高屈折率材料であり得る。現在の高エントロピー合金は、エントロピーの寄与が非常に高いため、高温安定性を有することが知られていることが開示されている。これは、それらの等原子又はほぼ等原子の組成物、及び多数の元素成分に関連している。ΔG=ΔH-TΔS(式中、ΔGはギブズの自由エネルギーの変化、ΔHはエンタルピー、Tは温度、ΔSはエントロピー)であることが知られている。ギブズの自由エネルギーが最も低い相が、平衡状態で形成される相になるため、エントロピーが増加すると、相が安定する可能性が高くなる。Blushによれば、一般に、従来の低エントロピー材料のΔSconfigは約1R(又はそれより低い場合もある)であり、中エントロピー材料のΔSconfigは約1R~約1.5Rであり、高エントロピー材料のΔSconfigは約1.5Rを超える。しかしながら、低と中との間、及び中と高との間の線が精確に描かれる必要はないことが開示されている。例えば、一部の材料には4つの構成材料が含まれ得るが、ΔSconfigが通常1.5Rをわずかに下回ると予想される場合でも、上記目的においては高エントロピーと見なされ得る。TBCシステムでの組成物の使用は開示されていない。
【0015】
Yehの米国特許出願公開第2018/0128952号は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれ、ワークピースの表面にコーティングされたマルチフィルム構造を開示しており、ここで、マルチフィルム構造は、例えば、少なくとも2層の高エントロピー材料フィルムと、少なくとも1層の非高エントロピー材料フィルムとを互いに積み重ねて作製することによって、形成される。高エントロピー材料フィルムは、高エントロピー合金フィルム、高エントロピー窒化物フィルム、高エントロピー炭化物フィルム、高エントロピー窒素酸化物フィルム、高エントロピー炭窒化物フィルム、高エントロピー酸化物フィルム、高エントロピー炭素酸化物フィルム、及びその他の高エントロピーセラミックフィルムであり得る。開示されている例示的な高エントロピーフィルムは以下のとおりである:AlCrNbSiTiの等原子の組成物を有する厚さ0.25μmの高エントロピー合金フィルム、(AlCrNbSiTi)Nの組成物、すなわち(Al10Cr10Nb10Si10Ti10)N50を有する厚さ0.2μmの高エントロピー窒化物フィルム、(CrNbSiTiZr)Nの組成物を有する厚さ0.15μmの高エントロピー窒化物フィルム、AlCrNbSiTiの組成物を有する、厚さ0.8μmの高エントロピー合金フィルム、(AlCrNbSiTi)40O60の組成物を有する厚さ0.2μmの高エントロピー酸化物、AlCrNbSiTiZrの組成物を有する厚さ0.4μmの高エントロピー合金フィルム、(AlCrNbSiTiZr)50C20N30の組成物を有する厚さ0.4μmの高エントロピー炭窒化物フィルム、(AlCrNbSiTiZr)40C20N30O20の組成物を有する厚さ0.6μmの高エントロピー酸窒化炭素フィルム、(AlCrNbSiTiZr)Nの組成物を有する厚さ0.2μmの高エントロピー窒化物フィルム、並びに(CrNbSiTiZr)Cの組成物を有する厚さ0.2μmの高エントロピー炭化物フィルム。TBCシステムにおける組成物の使用は開示されていない。
【0016】
式MO(式中、「M」は5つ以上の酸化物形成金属を表す)の金属酸化物は、岩塩「NaCl」結晶格子構造を有するHEOであり、それらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる以下の論文に開示されている。
1.C.M.Rost,博士論文,North Carolina State Univ(2016年),“Entropically-stabilized oxides:Explorations of a novel class of multicomponent materials.”
2.C.M.Rost,E.Sachet,T.Borman,A.Moballegh,E.Dickey,D.Hou,J.Jones,S.Curtarolo,J.P.Maria,Nature Communications:09-25-2015,“Entropy-stabilized oxides.”
3.Moballegh,C.M.Rost,Jon-Paul Maria,E C.Dickey,Microsc.Microanal.,21(2015),1349-1350頁:“Chemical homogeneity in entropy-stabilized complex metal oxides.”
4.Z.Rak,J-P,Maria,D.W.Brenner,Mater Lett:217(2018年),300-303頁:“Evidence for Jahn-Teller compression in the(Mg,Co,Ni,Cu,Zn)O entropy.”
5.C.M.Rost,Z.Rak,D.W.Brenner J.-P.Maria,J.AmCeramic Society,100(2017年),2732-2738頁,“Local structure of the MgxNixCoxCuxZnx(x=0.2)entropy‐stabilized oxide:An EXAFS study.”
6.Z.Rak,C.M.Rost,M.Lim,P.Sarker,C.Toher,S.Curtarolo,J.P.Maria,D.W.Brenner,J.App.l Phys.,120(2016年),95-105頁,“Charge compensation and electrostatic transferability in three entropy-stabilized oxides:results from density functional theory calculations.”
7.G.Anand,A.P.Wynn,C.M.Handley,C.L.Freeman,Acta Mater.,146(2018年),119-125頁,“Phase stability and distortion in high entropy oxides.”
8.Sarkar,R.Djenadic,N.J.Usharani,K.P.Sanghvi,J.Euro Ceram Soc,37(2017年),747-754頁,“Nanocrystalline multicomponent entropy stabilized transition metal oxide.”
9.D.Berardan,S.Franger,D.Dragoe,A.K.Meena and N.Dragoe,Phys.Status Solidi RRL 10,4(2016年),328-333頁,“Colossal dielectric constant in high entropy oxides.”
10.D.Berardan,S.Franger,A.K.Meena and N.Dragoe,J.Mater.Chem.A,24(2016年),9536-9541頁,“Room temperature Lithium superionic conductivity in high entropy oxides.”
11.D.Berardan,A.K.Meena,S.Franger,C.Herrero and N.Dragoe,J.Alloys and Compounds,704(2017年),693-700頁,“Controlled Jahn-Teller distortion in(MgCoNiCuZn)O-based high entropy oxides.”
12.Sarkar,L.Velasco,D.Wang,Q.Wang,G.Talasila,L.de Biasi,C.Kubel,T.Brezesinski,S.Bhattacharya,H.Hahn,B.Breitung,Nature Communications:08-24-2018,“High entropy oxides for reversible energy storage.”
13.A.Giri,J.Braun,C.M.Rost,P.E Hopkins,Scripta Mater.,138(2017年),134-138頁,“On the minimum limit to thermal conductivity of multi-atom component crystalline solid solutions based on impurity mass scattering.”
TBCシステムにおいて組成物を使用することは、これらの論文には開示されていない。
【0017】
式MO2の金属酸化物(式中、「M」は5つ以上の酸化物形成金属を表す)は、蛍石「CaF2」結晶格子構造を有するHEOであり、それらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる以下の論文に開示されている。
14.R.Djenadic,A.Sarkar,O.Clemens,C.Loho,M.Botros,V.Chakravadhanula,C.Kubel,S.Bhattacharya,A.Gandhi,H.Hahn,Mater.Res.Lett.5(2017年),102-109頁,“Multicomponent equiatomic rare earth oxides.”
15.K.Chen,X.Pei,L.Tang,H.Cheng,Z.Li,C.Li,X.Zhang,L.An,J.Euro Ceram Soc,38(2018),4161-4164頁,“A five-component entropy-stabilized fluorite oxide.”
16.A.Sarkar,C.Loho,L.,Velasco,T.Thomas;S.Bhattacharya,H.Hahn,R.Djenadic,Dalton Transactions 36(2017年),12167-12176頁,“Multicomponent equiatomic rare earth oxides.”
TBCシステムにおいて組成物を使用することは、これらの論文には開示されていない。
【0018】
A及びBがカチオンであるABO3型酸化物は、ペロブスカイト結晶格子構造を有するHEOであり、それらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる以下の論文に開示されている。
17.S.Jiang,T.Hu,J.Gild,N.Zhou,J.Nie,M.Qin,T.Harrington,K.Vecchio,J.Luo,Scripta Mater,142(2018年),116-120頁,“A new class of high-entropy perovskite oxides.”
18.A.Sarkar,R.Djenadic,D.Wang,C.Hein,R.Kautenburger,O.Clemens,H.Hahn,J Euro Ceram Soc,38(2018年),2318-2327頁,“Rare earth and transition metal based entropy stabilized perovskite type oxides.”
TBCシステムにおいて組成物を使用することは、これらの論文には開示されていない。
【0019】
式M3O4の金属酸化物(式中、「M」は5つ以上の酸化物形成金属を表す)は、スピネル結晶格子構造を有するHEOであり、それらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる以下の論文に開示されている。
19.J.Dabrowa,M.Stygar,A.Mikula,A.Knapik,K.Mroczka,W.Tejchman,M.Danielewski and M.Martin,Mater.Lett,216(2018年),32-36頁,“Synthesis and microstructure of(Co,Cr,Fe,Mn,Ni)3O4 high entropy oxide characterized by spinel structure.”
20.A.Navrotsky and O.J.Klepp.a,J.Inorg.Nucl.Chem.,vol 29,no.11,2701-2714頁,1967年,“The thermodynamics of cation distributions in simple spinels.”
TBCシステムにおいて組成物を使用することは、これらの論文には開示されていない。
【0020】
高エントロピー酸化物は知られているが、TBCのトップコートとしての使用は知られていなかった。例えば、共同発明者のNaixie Zhouは、上記の論文17の共著者であり、論文17は、「この研究は、高エントロピーペロブスカイト酸化物(すなわち、1モルあたり1.5R以上の高い配置エントロピーを有するマルチカチオンペロブスカイト酸化物の単一固溶体相)の合成に成功した最初の報告である」と述べている。
【0021】
共同発明者Tyler Harringtonとの共著であるGild et al,“High-entropy fluorite oxides,” Journal of the European Ceramic Society,38(2018年),3578-3584頁は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれ、高エネルギーボールミル粉砕、スパークプラズマ焼結、及び空気中でのアニーリングによって製造された5つの主要なカチオン(開始点及び基線としての4つの主要なカチオン(に加えHf0.25Zr0.25Ce0.25Y0.25)O2-δを有する11個の蛍石酸化物を開示している。組成物のうちの8つ、すなわち(Hf0.25Zr0.25Ce0.25Y0.25)O2-δ、(Hf0.25Zr0.25Ce0.25)(Y0.125Yb0.125)O2-δ、(Hf0.2Zr0.2Ce0.2)(Y0.2Yb0.2)O2-δ、(Hf0.25Zr0.25Ce0.25)(Y0.125Ca0.125)O2-δ、(Hf0.25Zr0.25Ce0.25)(Y0.125Gd0.125)O2-δ、(Hf0.2Zr0.2Ce0.2)(Y0.2Gd0.2)O2-δ、(Hf0.25Zr0.25Ce0.25)(Yb0.125Gd0.125)O2-δ、及び(Hf0.2Zr0.2Ce0.2)(Yb0.2Gd0.2)O2-δは、以前の研究で報告された高エントロピー合金及びセラミックと同様に、(カチオン副格子上に)高い配置エントロピーを有する蛍石結晶構造の単相固溶体を有する。Yb及びGdの両方を含む2つを除いて、開示されているほとんどの高エントロピー蛍石酸化物(HEFO)は高い相対密度に焼結され得る。Gildらによれば、これらの単相HEFOは、8モル%のY2O3安定化ZrO2(8YSZ)と比較して、(Y2O3及びYb2O3などのより柔らかい成分の含有量が多い場合でも)低い導電率及び同等の硬度を示す。特に、これらの単相HEFOは、おそらく複数の陽イオン及び歪んだ格子による高いフォノン散乱のために、8YSZの単相よりも低い熱伝導率を有することが開示されている。高エントロピー蛍石酸化物(HEFO)は、等モル分率のHfO2、ZrO2、及びCeO2を含む固溶体と、蛍石相安定剤としてY、Yb、Ca、Ti、La、Mg、及びGdの酸化物が添加されたものとからなる。開示されているYSZの熱伝導率は、高温での遮熱コーティングとしての使用のために、広く研究されてきた。伝導率は、多孔性、製造方法、及びドーピングレベルに依存することが観察されている。単相HEFOのうちの8つの測定された熱伝導率は、すべて8YSZの熱伝導率よりも低いと報告されている。しかしながら、ハフニウムは非常に重い金属であり、これらの高エントロピー蛍石酸化物に含まれるハフニウムの含有量が多いと、コーティングの重量及び密度が増加し、航空宇宙用途ではあまり望ましくない。
【0022】
本発明は、現在使用されているTBCトップコートよりも低い熱伝導率、並びに良好な焼結耐性、優れた相安定性、及び良好な熱サイクル性能を備えたTBCトップコートを提供する。トップコートは、室温からジェットエンジンのタービンブレードのトップコートの動作温度までの広い温度範囲にわたって正方晶系又は立方晶系などの単相又は単結晶構造を示す高エントロピー酸化物である。熱サイクルを通して単相を示すか又は変態することなく相組成を維持する本発明の高エントロピー酸化物トップコートは、結晶構造の変化又は相変化によって引き起こされる実質的な体積変化のために高い動作温度で熱ボンドコーティング又は基板から剥離することがない。高含有量のハフニウムを含めることができるが、必須ではなく、それによって、コーティングの重量及び密度を下げながら、熱伝導率を低くし、立方晶系又は正方晶系などの単相結晶構造を長期間にわたって、トップコートの動作温度に至るまで及びそれを超えて予想外に広い温度範囲で維持することができる。
【発明の概要】
【0023】
本発明によれば、広い温度範囲にわたって正方晶系又は立方晶系などの単相又は単結晶構造を示す、熱伝導率の低い遮熱コーティング(TBC)は、高い配置エントロピーを有する高エントロピー酸化物(HEO)であるトップコートを含む。本発明の態様では、相組成の大部分は、室温からガスタービン構成要素のトップコートの動作温度まで、変態することなく保持される。HEOはMxOyの式で表され、Mは少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは酸素アニオン(O)又は原子の数を表す。本発明の実施形態において、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、a)遷移金属Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Ni、Cu、若しくはZnのうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、及び/又はb)ランタニドLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、若しくはLuのうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つを含み得る。いくつかの実施形態では、酸化物形成金属カチオンの少なくとも1つは、アルカリ土類金属:Be、Mg、Ca、Sr、又はBaを含む。
【0024】
本発明の実施形態では、遮熱コーティングは、
a)5重量%~18重量%の量のY2O3、
b)12重量%~55重量%の量のZrO2、
c)0重量%~15重量%の量のCaO、
d)0重量%~30重量%の量のGd2O3、
e)0重量%~26重量%の量のLa2O3、
f)0重量%~32重量%の量のYb2O3、
g)0重量%~10重量%の量のTiO2、又は
h)0重量%~18重量%の量のCeO2、
である少なくとも5つの異なる金属酸化物を含むことができ、
a)~h)のパーセンテージは合計で少なくとも97重量%、好ましくは98重量%~100重量%である。
【0025】
本発明の態様では、トップコートを形成するために使用される遮熱コーティング材料は、粉末形態、又はワイヤ、インゴット、バー又はロッド形態であり得る。いずれの場合も、遮熱コーティング材料又はトップコート材料の化学組成は、遮熱コーティング(TBC)又はトップコートについて記載されたとおりであり得る。
【0026】
本発明の別の態様では、遮熱コーティング(TBC)システムは、トップコート及びボンドコート又はボンドコーティングを含み、トップコートは、ボンドコート又はボンドコーティングに接着されている。コーティング基板は、基板と、ボンドコート又はコーティングによって基板に接着された遮熱コーティングシステムとを含む。遮熱コーティングシステムは、溶射粉末から製造することができる。遮熱コーティングシステムは、トップコートと基板との間にあるボンドコート又はボンドコーティングによって、超合金などの基板に接着される。
【0027】
本発明の追加の態様では、基板からのトップコートの層間剥離は、トップコートをボンドコート又はコーティングを用いて基板に接着することによって低減される。トップコートは遮熱コーティング(TBC)を含み、基板はガスタービンエンジン構成要素を含み得る。
本発明は、添付の図面によってさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明によるボンドコート又はコーティングに接着された遮熱コーティング(TBC)などのトップコートを含む遮熱コーティング(TBC)システムを有するコーティング基板を概略的に示す。
【
図2】サンプルHEO 1のHEO凝集及び焼結粉末の形態(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図3】サンプルHEO 1のHEO凝集及び焼結粉末の断面(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図4】サンプルHEO 1のHEO遮熱コーティングであるTBCトップコートの断面微細構造(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図5】サンプルHEO 2のHEO凝集及び焼結粉末の形態(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図6】サンプルHEO 2のHEO凝集及び焼結粉末の断面(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図7】サンプルHEO 2のHEO遮熱コーティングであるTBCトップコートの断面微細構造(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図8】サンプルHEO 3のHEO凝集及び焼結粉末の形態(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図9】サンプルHEO 3のHEO凝集及び焼結粉末の断面(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図10】サンプルHEO 3のHEO凝集及び焼結遮熱コーティングであるTBCトップコートの断面微細構造(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図11】サンプルHEO 4のHEO凝集及び焼結粉末の形態(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図12】サンプルHEO 4のHEO凝集及び焼結粉末の断面(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図13】サンプルHEO 4のHEO凝集及び焼結遮熱コーティングであるTBCトップコートの断面微細構造(SEM顕微鏡写真)を示す。
【
図14】サンプルHEO 4の実験的なXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、高温ガスタービンエンジン構成要素に採用される超合金などの基板に接着するためのトップコートと少なくとも1つのボンドコートとを含む遮熱コーティングシステム用のトップコート(遮熱コーティング(TBC)など)を提供する。少なくとも1つのボンドコート層の上に複数のトップコート層が存在し得る。本発明はまた、トップコート又は遮熱コーティングを作製するための遮熱コーティング材料又はトップコート材料を提供する。TBCトップコートは、低い熱伝導率、良好な焼結耐性、優れた相安定性、及び良好な熱サイクル性能を示す。トップコートは、室温からジェットエンジンのタービンブレードのトップコートの動作温度までの予想外に広い温度範囲にわたって、長期間にわたって正方晶系又は立方晶系などの単相又は単結晶構造を示す高エントロピー酸化物である。熱(heat)サイクルを通して単相を示す本発明の高エントロピー酸化物トップコートは、結晶構造の変化又は相変化及び熱内部応力によって引き起こされる実質的な体積変化のために高い動作温度で熱(thramal)ボンドコーティング又は基板から剥離することがない。低いコーティング重量及び低いコーティング密度を達成しながら、低い熱伝導率を提供し、立方晶系又は正方晶系などの単相結晶構造を長期間にわたって、トップコートの動作温度に至るまで及びそれを超えて予想外に広い温度範囲で維持し、その温度は、少なくとも1800°F、例えば2,000°F以上、好ましくは少なくとも2300°F、又はTBCトップコートの融点までである。本発明の実施形態において、複数の相又は結晶構造が、トップコート又は遮熱コーティングに存在してもよいが、その場合、結晶構造の変化によって引き起こされる実質的な体積変化に不利に働いて層間剥離を引き起こすことがないことを前提とする。単相又は単結晶構造のみ、すなわち、(例えば、X線回折によって測定して)100%の相体積が最も好ましいが、2つ以上の相又は結晶構造が存在する本発明の実施形態では、主要な相の体積分率は、例えば、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%であり得る。
【0030】
超合金などの基板に接着するためにボンドコートを使用するTBCトップコートは、予想外に高い熱サイクル疲労耐性を示す。
【0031】
TBCトップコート、及びトップコートを作製するためのTBC材料は、高い配置エントロピーを有する高エントロピー酸化物(HEO)である。本発明の態様では、単相は、室温からタービン構成要素のトップコートの動作温度まで、別の相又は結晶構造に変態することなく保持され得る。HEOはMxOyの式で表され、Mは少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは酸素アニオン(O)又は原子の数を表す。
【0032】
本発明の実施形態では、TBCトップコート及びトップコートを作製するために使用されるTBC材料、並びにHEOは、HEOが異なる結晶構造への相変態を受けない予想外に広い温度範囲にわたって、例えば、トップコートの最大動作温度又はHEOの融点の前又はそれに至るまでの少なくとも700°F、好ましくは少なくとも1,000°F、最も好ましくは少なくとも1,500°Fの温度範囲で、単相又は単結晶構造である。例えば、本発明の態様において、タービンエンジン構成要素の最大動作温度が2,000°Fである場合、HEOは、1,300°F~2,000°F、好ましくは1,000°F~2,000°F、最も好ましくは500°F~2,000°F、又はより好ましくは室温~2000°F以上、好ましくは少なくとも2300°F、例えば2400°FのHEO融点まで、単相又は単結晶構造を有し得る。本発明の態様では、HEOは、1800°F~2,600°F、又は1,300°F~2,100°Fまでの範囲の800°Fに及ぶ温度範囲にわたって、又は全体を通して、単相又は単結晶構造であり得る。相変化のない温度範囲が広いほど良い。これは、例えば、トップコートがタービンの動作温度に至る及びその温度から戻るサイクルにあるとき、又は動作温度が変動するときに、相変化の数が少なくなり、それによって熱膨張及び収縮並びに熱応力の低減に役立つためである。
【0033】
本発明の好ましい態様では、TBCトップコート、TBCコーティング材料、及びHEOは、例えば、室温から少なくとも1800°Fまで、好ましくは少なくとも2000°Fまで、より好ましくは、少なくとも2300°Fまで、例えば、室温からHEOの融点まで、立方晶系又は正方晶系のみである単相又は単結晶構造のみを有し得る。本発明の実施形態では、HEOの融点は、少なくとも1,150℃(2,102°F)、好ましくは少なくとも1,300℃(2,372°F)、より好ましくは少なくとも1,315℃(2,399°F)である。
【0034】
本発明の実施形態では、HEOトップコート又はコーティングの25℃での固有の熱伝導率は、1.5(W/m・K)未満、好ましくは1.2(W/m・K)未満、より好ましくは0.9W/m・K未満であり得る。本発明の実施形態では、HEOコーティングは、理論密度よりも低い密度を有する可能性があり(すなわち、多孔性を含み得る)、したがって、HEOトップコートコーティングの熱伝導率を、1.3(W/m・K)未満、好ましくは1.0(W/m・K)未満、より好ましくは0.8(W/m・K)未満に低減し得る。これを表2に示す。
【0035】
本発明の実施形態では、TBCトップコート又はコーティングのアルキメデス密度は、7g/cm3未満、例えば5g/cm3から、6.5g/cm3まで、好ましくは6.3g/cm3未満、例えば5.25g/cm3から6.25g/cm3、より好ましくは6.0未満、例えば5.30g/cm3から5.90g/cm3まで、であり得る。
【0036】
本発明の実施形態では、酸化物セラミック、又は断熱材料若しくは遮熱コーティングとして使用することを意図したHEOは、全体として組み合わされた原子組成を有し、その原子組成は、MxOyとして表すことができ、式中、Mは少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、酸化物の配置エントロピーSCONFIGが1モルあたり1.5R以上であり、Rはガス定数8.314J.K-1.mol-1であり、この定義は、高エントロピー材料の一般的に受け入れられている定義であるSCONFIGの値を使用している。金属カチオン「M」及び酸素アニオン「O」は、1つ又は複数の結晶副格子上に分布し得る。本発明の態様では、TBCトップコートは、熱伝導率が低い場合、1モルあたり1.5R未満、例えば1モルあたり1.0R以上、又は1モルあたり1.3R以上である酸化物の配置エントロピーSconfigを有する可能性があり、金属酸化物は、上記で説明したように、予想外に広い温度範囲で相組成を維持し、ここで、金属酸化物は相変態を受けず、主要な相の体積分率は、例えば、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%以上、好ましくは少なくとも98%を維持し、融点は上記で説明したようにコーティングの動作温度より高い。
【0037】
MxOyは、標準的な冶金の簡略表記である。例えば、炭化物(Cr、Mo、W、Fe)23C6は、一般にM23C6と呼ばれ、同様に、MxOyを使用して、酸化物(Zr、Ce、Y、Yb、Gd、Dy)xOyを表すことができ、式中、「M」は5つ以上の酸化物形成金属を表す。
【0038】
本発明の実施形態では、これらの金属「M」は、好ましくは、例えば、
遷移金属:
・Sc、Y
・Ti、Zr、Hf
・V、Nb、Ta
・Cr、Mo、W
・Mn、Re
・Fe、Ru、Co、Ni、Cu、Zn、及び
ランタニド:
La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu
などの非毒性及び非放射性酸化物形成金属の群から選択され得る。
本発明のいくつかの実施形態では、好ましくは、少なくとも1つのアルカリ土類金属、例えば
・Be、Mg、Ca、Sr、Ba
が選択される。
【0039】
本発明の実施形態では、以下の金属:
遷移金属:
・Y
・Ti、Zr、Hf、V
・Cr、Mo、W
ランタニド:
・La、Ce、Pm、Sm
・Eu、Gd
・Tb
・Dy、Er、Yb
がHEO TBCでの使用により好ましい。
本発明のいくつかの実施形態では、より好ましくは、少なくとも1つのアルカリ土類金属、例えば
・Mg、Ca
が選択される。
【0040】
本発明の実施形態では、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの遷移金属、及び/又は少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのランタニドを、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)に使用することができる。
【0041】
ハフニウム(Hf)は非常に高い融点を有するが、本発明の実施形態では、除去されるか、又は少量、例えば、2.0重量%未満、好ましくは1重量%未満で使用され得る。より多くの量、例えば最大15重量%以上のハフニウムを使用してもよいが、高含有量のハフニウムは必ずしも必要とされず、それによって、コーティングの重量及び密度を下げながら、熱伝導率を低くし、立方晶系又は正方晶系などの単相結晶構造を長期間にわたって、トップコートの動作温度に至るまで及びそれを超えて予想外に広い温度範囲で維持することができる。
【0042】
さらに、金属カチオン「M」及び酸素アニオン「O」は、1つ又は複数の結晶副格子上に分布し得る。これは、例示的な酸化物(Zr、Ce、Y、Yb、Gd、Dy)xOyなどの酸化物が、まだ知られていない結晶学の1つの組み合わされた酸化物構造(Zr、Ce、Y、Yb、Gd、Dy)xOyとして物理的に現れる可能性があるか、又はそれ自体を2つ(又はそれ以上)のより一般的に知られている結晶格子、例えば(Y、Yb、Gd、Dy)2O3と(Zr、Ce)O2とに分割する可能性があることを意味する。したがって、後者の場合、これは、全体の組成内で、3つの酸素原子ごとに群(Y、Yb、Gd、Dy)から2つの原子、及び2つの酸素原子ごとに群Zr、Ceから1つの原子を意味する。これらの酸化物の格子が密接に混合していると、走査型電子顕微鏡で調査したときに、HEO構造の別々の相を必ずしも検出できるとは限らない。
【0043】
本発明の態様では、上記の及び参照によりその全体が本明細書に組み込まれる列挙された参考文献の高エントロピー酸化物などの既知の高エントロピー酸化物を、それらが主に単相であるか、又は正方晶系又は立方晶系などの単結晶構造であるという条件で、且つ、熱伝導率が低く、金属酸化物が上記のように予想外に広い温度範囲で相組成を維持し、融点が上記のようにコーティングの動作温度を超えているという条件で、トップコートとして使用することができる。最も好ましくは、HEOは、上記のように、室温から動作温度又はトップコートの融点まで、有意な変態を受けたり、相分率の変化にさらされるべきではない。
【0044】
本発明によれば、実施形態において、遮熱コーティングは、トップコートを含むことができ、トップコートは、高い配置エントロピーを有する高エントロピー酸化物(HEO)であり、HEOは、MxOyの形態であり、式中、Mは、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオンの群を表し、xは金属カチオン(M)又は原子の数を表し、yは酸素アニオン(O)又は原子の数を表し、HEOは、トップコートの動作温度範囲にわたって単相であり、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、
a)アルカリ土類金属又は周期表の第II族、Be、Mg、Ca、Sr、若しくはBaの少なくとも1つ、及び/又は
b)遷移金属Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Ni、Cu、若しくはZnの少なくとも1つ、及び/又は
c)ランタニドLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、若しくはLuの少なくとも1つ
を含み得る。
【0045】
遮熱コーティングの好ましい実施形態では、少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、
a)遷移金属Y、Ti、Zr、V、Cr、Mo、若しくはWの少なくとも1つ、及び/又は
b)ランタニドLa、Ce、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Er、若しくはYbの少なくとも1つ、及び
c)いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアルカリ土類金属:Mg若しくはCa
を含み得る。
より好ましくは、遮熱コーティングの少なくとも5つの異なる酸化物形成金属カチオン(M)は、Y、Zr、Ca、Gd、La、Yb、Ti、又はCeのうちの少なくとも5つを含む。
【0046】
本発明の態様では、遮熱コーティング及び遮熱コーティング材料又はトップコート材料は、
a)5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~18重量%の量のY2O3、
b)12重量%~55重量%、好ましくは17重量%~52重量%の量のZrO2、
c)0重量%~15重量%、好ましくは0重量%~11重量%の量のCaO、
d)0重量%~30重量%、好ましくは0重量%~28重量%の量のGd2O3、
e)0重量%~26重量%、好ましくは0重量%~24重量%の量のLa2O3、
f)0重量%~32重量%、好ましくは0重量%~30重量%の量のYb2O3、
g)0重量%~10重量%、好ましくは0重量%~7重量%の量のTiO2、又は
h)0重量%~18重量%、好ましくは0重量%~15重量%の量のCeO2、
a)~h)のパーセンテージは合計で100重量%、
である少なくとも5つの異なる金属酸化物を含み得る。実施形態では、遮熱コーティング及び遮熱コーティング材料又はトップコート材料は、HfO2、SiO2、MgO、又はAl2O3などの少なくとも1つの追加の金属酸化物を、融点調整剤、安定剤、ドーパント、又は不純物として、最大3重量%、例えば、最大2重量%又は1重量%以下の量で、すべての酸化物の重量パーセンテージが合計で100重量%であるように、さらに含み得る。本発明の実施形態では、5つの金属酸化物のパーセンテージは、合計で少なくとも97重量%、例えば少なくとも99重量%であればよく、追加の金属酸化物は最大3重量%、又は最大1重量%の量で存在し得る。
【0047】
より好ましい実施形態では、遮熱コーティング及び遮熱コーティング材料又はトップコート材料は、少なくとも5つの異なる金属酸化物を含んでもよく、8重量%~12重量%の量のY2O3、48重量%~55重量%の量のZrO2、14重量%~18重量%の量のYb2O3、4重量%~8重量%の量のTiO2、及び12重量%~17重量%まで量のCeO2を、上記パーセンテージが合計で100重量%であるように含む。ハフニウム、及び追加の他の金属酸化物は、任意選択的に、最大2重量%、例えば、1重量%以下の量で、すべての酸化物の重量パーセンテージが合計で100重量%であるように、含まれ得る。
【0048】
他の好ましい実施形態では、遮熱コーティング及び遮熱コーティング材料又はトップコート材料は、
3つの金属酸化物:
13重量%~19重量%の量のY2O3、
14重量%~25重量%の量のZrO2、及び
20重量%~30重量%の量のGd2O3、並びに
金属酸化物のいずれか2つ:
23重量%~32重量%の量のYb2O3、
18重量%~25重量%の量のLa2O3、又は
6重量%~12重量%の量のCaO、
5つの金属酸化物のパーセンテージは合計で少なくとも97重量%、好ましくは98重量%~100重量%、
を含む少なくとも5つの異なる金属酸化物を含み得る。
【0049】
本発明の実施形態では、TBCトップコート材料又はHEOは、粉末形態又はバルク形態、例えば、ワイヤ、バー、ロッド又はインゴット形態で製造され得る。TBCトップコート材料粉末は、TBCトップコート材料の各成分の別々の粉末の均質な混合物であり得る。TBCトップコート材料粉末はまた、粒子から構成されていてもよく、各粒子は、ボンドコーティング材料の成分のすべて又は一部を含む。例えば、TBCトップコート材料又はHEOのすべての成分のバルク形態は、粉末を得るために粉砕され得る。TBCトップコート材料の粒子サイズは、使用されるコーティング方法に依存し得る。所与のコーティング方法で従来使用されている従来の粒子サイズ分布は、本発明のTBCトップコート材料又はHEOで使用することができる。
【0050】
ボンドコーティング材料は、ガスタービンエンジン部品のコーティングに使用されるものなどの任意の従来の又は既知のボンドコート材料、例えば、超合金などの基板にTBCトップコートを接着するための既知のMCrAlYボンディング層であり得る。例として、Mは、Ni、Co、Fe又はそれらの組合せを表すことができる。ボンドコートの性能を向上させるために、Hf、Re、Pt及びその他の様々な希土類元素が高度なボンドコートに追加されることがよくある。使用できるボンドコート材料の非限定的な例には、Jacksonらの米国特許第4,117,179号、Lugscheiderの米国特許第5,141,821号、及びMcComasらの米国特許第4,275,124号に開示されているものが含まれ、それぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
基板は、トップコート又はバリアコーティング(TBC)を必要とする任意の既知又は従来の材料又は物品であり得る。基板の非限定的な例には、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれるWolfaらの米国特許第4,124,737号に開示されているようなHastelloy(登録商標)Xなどのガスタービンエンジン部品の製造に使用される合金又は超合金が含まれる。Wolfaらによって開示されているように、Hastelloy(登録商標)Xは、22.0重量%のクロム;9.0重量%のモリブデン、18.5重量%の鉄;1.5重量%のコバルト;0.6重量%のタングステン、1.0重量%のケイ素、1.0重量%のマンガン、0.1重量%の炭素、及び残りがニッケルの公称組成を有する。本発明のTBCトップコートでコーティングできる既知及び従来の基板の他の非限定的な例には、鋼、ステンレス鋼、低合金含有量の他の鉄基合金、クロム及びクロム基合金、並びに耐火金属及び耐火金属基合金が含まれる。本発明のTBCトップコートでコーティングできる超合金基板の非限定的な例は、ニッケル基及びコバルト基超合金、共晶合金を含む方向性凝固ニッケル基及びコバルト基超合金などの既知の炭化物強化超合金、並びに開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,117,179号に開示されている耐火合金などである。本発明のTBCトップコートでコーティングできる基板又は物品の非限定的な例には、ガスタービンの高温セクションで使用される構成要素及び様々なジェットエンジン構成要素が含まれる。
【0052】
本発明の別の態様では、
図1に概略的に示されるように、遮熱コーティング(TBC)システム1は、トップコート2及びボンドコート又はボンドコーティング3を含み、TBCなどのトップコート2は、トップコート/ボンドコート界面5でボンドコート又はボンドコーティング3に接着されている。コーティング基板10は、基板15と、基板/ボンドコート界面20でボンドコート又はコーティング3によって基板15に接着された遮熱コーティングシステム1とを含む。遮熱コーティングシステム1は、溶射粉末から製造することができる。遮熱コーティングシステム1は、トップコート2と基板15との間にあるボンドコート又はボンドコーティング3によって、超合金又はガスエンジンタービン構成要素などの基板15に接着されている。
【0053】
本発明の実施形態では、複数のボンドコート又はボンドコーティング3及び複数のトップコート2を使用することができ、各トップコート2は、ボンドコート3の上に交互に存在し、最下部のボンドコート3が基板15に接着された状態で、互いに積み重ねられて接着された複数のTBCシステム1が提供される。
【0054】
本発明の追加の態様では、正方晶系又は立方晶系結晶構造などの単相又は単結晶構造を有するTBCトップコートをボンドコート又はコーティングを用いて基板に接着することによって、基板からのトップコートの層間剥離を低減する方法が提供される。
【0055】
TBCトップコート、又はHEO、及びボンドコート又はボンドコーティング又はボンディング層は、エアプラズマ溶射、サスペンションプラズマ、高速酸素燃料溶射(HVOF)低圧プラズマ溶射(LPPS)、真空プラズマ溶射(VPS)などの従来の溶射プロセス、化学蒸着(CVD)、プラズマ物理蒸着(PS-PVD)、スパッタリング及び蒸発などの真空蒸着法を含む物理蒸着(PVD)、並びに燃焼ワイヤ溶射、燃焼粉末溶射、電気アークワイヤ溶射、粉末火炎溶射などの従来の火炎溶射プロセス、並びに電子ビーム物理蒸着(EBPVD)により、基板上に堆積、塗布、又は積層させることができる。従来の既知のコーティング層の厚さは、ボンドコート又はコーティング、及びトップコート又はTBC又はHEOに使用することができる。
【0056】
本発明の実施形態では、遮熱コーティング材料又はHEO材料は、遮熱コーティング材料を凝集及び焼結して焼結凝集体を取得し、既知の技術及びプロセスを使用して、焼結凝集体を溶射用の粉末に形成することによって製造することができる。凝集及び焼結は、HEOを製造するための特に新規な手段である。このプロセスは、1)拡散経路を低減し、2)工業的製造に適しているため、有利である。高温材料を単相に均質化することは、他のプロセスと比較した場合、費用と時間がかかる可能性があるため、拡散経路の低減は非常に有利である。本発明の実施形態では、遮熱コーティングは、遮熱コーティング材料を凝集及び焼結して焼結凝集体を取得し、既知のプロセスパラメータ及び技術を使用して、焼結凝集体を溶射用の粉末に形成することによって製造することができる。
【0057】
本発明は、以下の非限定的な例によってさらに説明され、特に明記しない限り、部分、パーセンテージ、割合、及び比率はすべて重量によるものであり、温度はすべて℃であり、圧力はすべて大気圧である。
【実施例】
【0058】
コーティング基板用の本発明のHEO TBCトップコートを作製するために使用される、本発明の4つのHEO TBCトップコート材料(の粉末として)の組成を、表1に示す。
【0059】
試験したサンプルの表1の組成、及び試験の結果は、以下のとおりである。
【表1】
【0060】
TBCトップコート材料(HEO)に関して、コーティング密度、相対密度、コーティング相、及び25℃で測定された熱伝導率を、表2に示す。
【0061】
表2の試験したサンプルの特性の結果は、以下のとおりである。
【表2】
【0062】
サンプルHEO 1、HEO 2、HEO 3及びHEO 4のHEO凝集及び焼結遮熱コーティングの粉末形態(SEM顕微鏡写真)、粉末断面(SEM顕微鏡写真)、及びコーティング微細構造(SEM顕微鏡写真)を
図2~
図13に示す。HEO化合物の1つであるHEO 4のX線回折パターンの例を
図14に示す。
【0063】
さらに、少なくとも、本発明は、単純化又は効率のためなど、特定の例示的な実施形態の開示により、本発明を作成及び使用することを可能にする様式で本明細書に開示されるため、本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意のステップ、追加の要素又は追加の構造がない場合も実施することができる。
【0064】
前述の例は単に説明の目的で提供されたものであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。本発明を例示的な実施形態を参照して説明してきたが、本明細書で使用された言葉は、限定の言葉ではなく、説明及び例示の言葉であることが理解される。添付の特許請求の範囲内で、現在述べられ、補正されるように、その態様における本発明の範囲及び精神から逸脱しない範囲で変更を加えることができる。本発明は、特定の手段、材料、及び実施形態を参照して本明細書で説明されてきたが、本明細書で開示された詳細に限定されることを意図しない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、機能的に同等なすべての構造、方法及び使用に及ぶ。