(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、積層フィルム、及びフレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20240214BHJP
C08F 255/08 20060101ALI20240214BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240214BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20240214BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L67/03
C08F255/08
C08J5/18 CFD
C08L51/06
H05K1/03 610J
H05K1/03 610M
H05K1/03 670A
(21)【出願番号】P 2021516198
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017463
(87)【国際公開番号】W WO2020218405
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019086110
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】今村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敬介
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-330602(JP,A)
【文献】特開平06-073239(JP,A)
【文献】特開平07-062172(JP,A)
【文献】特開平10-258491(JP,A)
【文献】特開2002-064030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08F 255/00-255/10
C08L 51/00-51/10
C08J 5/18
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー(A)と、
極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含み、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が200℃以上
350℃以下であり、
周波数10GHzにおける比誘電率が、前記液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値であり、かつ周波数10GHzにおける誘電正接が前記グラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接よりも低い値であり、
周波数10GHzにおける
比誘電率が
2.00以上2.80以下であり、
周波数10GHzにおける誘電正接が、
0.0005以上0.0025以下であり、
前記極性基が、エポキシ基であり、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グラフト変性ポリメチルペンテンであり、
少なくとも一部に、前記液晶ポリマー(A)と、前記グラフト変性ポリオレフィン(B)とからなる海島構造が形成されている、低誘電樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリマー(A)が海成分である前記海島構造を含むか、前記海島構造とともに、前記液晶ポリマー(A)と前記グラフト変性ポリオレフィン(B)とがともに連続相を形成する共連続構造を含む、請求項1に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリマー(A)の融点が250℃以上
400℃以下である、請求項1又は2に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項5】
前記低誘電樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、前記液晶ポリマー(A)の質量と前記グラフト変性ポリオレフィン(B)の質量との合計の割合が、95質量%以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物からなる成形品。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項8】
請求項
7に記載のフィルムの少なくとも一方の主面上に金属箔が積層された積層フィルム。
【請求項9】
請求項
7に記載のフィルムを含む、フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物からなる成形品及びフィルムと、前述のフィルムの少なくとも一方の主面に金属箔が積層された積層フィルムと、当該低誘電樹脂組成物からなるフィルムを含むフレキシブルプリント配線板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の通信機器や、次世代テレビ等の電子機器において、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波数化が進んでいる。具体的には、無線通信分野では、2020年頃に、第5世代移動通信システム(5G)の導入が見込まれる。第5世代移動通信システムの導入に際して、10GHz以上の高周波数帯域の使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。
【0004】
このため、伝送損失を低減するために、誘電損失に係る因子である比誘電率と、誘電正接とが低い低誘電材料が求められている。このような事情から、高周波数帯域で使用される低誘電材料として、例えば、液晶ポリマーの使用が検討されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶ポリマー等の低誘電樹脂又はその組成物について、伝送損失のさらなる低減のために、さらなる低誘電特性が求められている。
【0007】
また、液晶ポリマーには、その異方性に起因して溶融加工が困難である問題がある。例えば、液晶ポリマーを、代表的なフィルム製造方法である押出法によりフィルム化する場合、ダイから吐出される溶融した液晶ポリマーが、吐出方向のせん断力による溶融粘度の低下に起因してすぐに垂れてしまい、フィルムの引き取りが困難である。
仮にフィルムを引き取ることができたとしても、フィルムにおける液晶ポリマーの配向にに起因して、得られるフィルムは非常に裂けやすい。
【0008】
さらに、液晶ポリマーについて、その異方性に起因して、ストランドを切断することによるペレットの製造が難しい問題がある。具体的には、例えば、ストランドを切断できなかったり、切断できたとしてもきれいな切断面を形成できずペレットにヒゲが発生しやすい問題がある。ペレットの形状の不均一さやペレットにおけるヒゲは、液晶ポリマーの成形加工時の、液晶ポリマーの計量の不安定さの一因となる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、溶融加工性が良好であるとともに、液晶ポリマー等の低誘電材料よりも高周波帯域における低誘電特性に優れる低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物からなる成形品及びフィルムと、前述のフィルムの少なくとも一方の主面に金属箔が積層された積層フィルムと、前述のフィルムを含むフレキシブルプリント配線板とを提供することとを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(12)を提供する。
(1)液晶ポリマー(A)と、
極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含み、
周波数10GHzにおける比誘電率が、液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値であり、かつ周波数10GHzにおける誘電正接がグラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接よりも低い値である、低誘電樹脂組成物。
(2)周波数10GHzにおける比誘電率が2.80以下である、(1)に記載の低誘電樹脂組成物。
(3)周波数10GHzにおける誘電正接が、0.0025以下である、(1)又は(2)に記載の低誘電樹脂組成物。
(4)少なくとも一部に、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とからなる海島構造が形成されている、(1)~(3)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(5)液晶ポリマー(A)が海成分である海島構造を含むか、海島構造とともに、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とがともに連続相を形成する共連続構造を含む、(4)に記載の低誘電樹脂組成物。
(6)液晶ポリマー(A)の融点が250℃以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(7)極性基が、エポキシ基である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(8)グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンである、(1)~(7)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(9)グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点が200℃以上である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(10)(1)~(9)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物からなる成形品。
(11)(1)~(9)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物からなるフィルム。
(12)(11)に記載のフィルムの少なくとも一方の主面上に金属箔が積層された積層フィルム。
(13)(11)に記載のフィルムを含む、フレキシブルプリント配線板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、溶融加工性が良好であるとともに、液晶ポリマー等の低誘電材料よりも高周波帯域における低誘電特性に優れる低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物からなる成形品及びフィルムと、前述のフィルムの少なくとも一方の主面に金属箔が積層された積層フィルムと、前述のフィルムを含むフレキシブルプリント配線板とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪低誘電樹脂組成物≫
低誘電樹脂組成物は、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含む樹脂組成物である。
低誘電樹脂組成物の10GHzにおける比誘電率は、液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値である。また、低誘電樹脂組成物の10GHzにおける誘電正接は、グラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接のうちの低い値以下である。
また、低誘電樹脂組成物の10GHzにおける誘電正接は、0.0025以下が好ましい。前述の誘電正接の下限は特に限定されない。誘電正接の下限は、例えば、0.0005以上であってよく、0.0010以上であってもよい。
【0014】
また、上記の低誘電樹脂組成物の周波数10GHzにおける比誘電率は、好ましくは2.80以下である。前述の比誘電率の下限は特に限定されない。比誘電率の下限は、例えば、2.00以上であってよく、2.50以上であってもよい。
【0015】
上記の低誘電樹脂組成物は、低誘電特性を活かし、高周波数帯域で使用される電気、電子部品、情報通信装置、当該情報通信装置の部品等の用途において好適に使用される。
【0016】
上記の低誘電樹脂組成物は、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)との混合比率、液晶ポリマー(A)の融点、グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点、液晶ポリマー(A)の融点とグラフト変性ポリオレフィン(B)の融点との差、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する際の温度、グラフト変性ポリオレフィン(B)の変性率等の様々な条件に応じて、種々の相状態を形成し得る。
【0017】
低誘電樹脂組成物において、少なくとも一部に、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とからなる海島構造が形成されているのが好ましい。海島構造について、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とのいずれが海成分であってもよい。
ここで、低誘電樹脂組成物において、少なくとも一部に海島構造が形成されているとは、低誘電樹脂組成物の試料の断面を電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した場合に、100μm×100μmのサイズの任意の3つの観察対象領域のうちの少なくとも1つの領域において、海島構造が観察されることを言う。
かかる相状態である場合、液晶ポリマー(A)の性質に由来する異方性が緩和され、低誘電樹脂組成物の溶融加工性が良好である。
【0018】
低誘電樹脂組成物において上記の海島構造が形成されている場合、低誘電樹脂組成物が、液晶ポリマー(A)が海成分である海島構造を含むか、海島構造とともに、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とがともに連続相を形成する共連続構造を含むのが好ましい。
ここで、液晶ポリマー(A)又はグラフト変性ポリオレフィン(B)が連続相を形成するとは、低誘電樹脂組成物の試料の断面を電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した場合に、視野内において、液晶ポリマー(A)又はグラフト変性ポリオレフィン(B)が、外周が閉じられていない領域を形成していることを言う。
また、低誘電樹脂組成物が海島構造とともに共連続構造を含むとは、低誘電樹脂組成物の試料の断面を電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した場合に、100μm×100μmのサイズであり海島構造が観察される任意の3つの観察対象領域のうちの少なくとも1つの領域において、共連続構造が観察されることを言う。
この場合、液晶ポリマー(A)が、海成分、又は共連続構造における連続相を形成していることによって、低誘電樹脂組成物が液晶ポリマー(A)に由来する優れた耐熱性を発現しやすい。
【0019】
低誘電樹脂組成物は、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合することにより製造される。
液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する方法は特に限定されない。好ましい混合方法としては、一軸押出機や二軸押出機等の溶融混練装置を用いる方法が挙げられる。
液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する条件は、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを均一に混合でき、低誘電樹脂組成物に含まれる各成分が、過度に熱分解したり、昇華したりしない条件であれば特に限定されない。溶融混練装置を用いる場合、例えば、液晶ポリマー(A)の融点と、グラフト変性ポリオレフィン融点とのうちの高い方の融点よりも、好ましくは5℃以上100℃以下高い温度、より好ましくは10℃以上50℃以下高い温度で溶融混練が行われる。
【0020】
低誘電樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、液晶ポリマー(A)、及びグラフト変性ポリオレフィン(B)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。低誘電樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、液晶ポリマー(A)の質量とグラフト変性ポリオレフィン(B)の質量との合計の割合は、典型的には、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0021】
その他の樹脂の例としては、グラフト変性されていないポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の非液晶性のポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。
【0022】
低誘電樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
これらの無機充填剤の使用量は、低誘電樹脂組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、低誘電樹脂組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、低誘電樹脂組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0023】
低誘電樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0024】
以下、液晶ポリマー(A)、及びグラフト変性ポリオレフィン(B)について説明する。
【0025】
<液晶ポリマー>
液晶ポリマーは、溶融時に光学的異方性を示すポリマーであって、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと認識されているポリマーを特に制限なく用いることができる。溶融時の光学的異方性は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。
【0026】
液晶ポリマーは、典型的にはフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を重縮合することにより製造される。重縮合は、触媒の存在下に行われるのが好ましい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
触媒の使用量は、例えば、モノマー混合物(A)の量100質量部に対し、0.1質量部以下が好ましい。
【0027】
前述の通り、モノマー混合物は、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマーの混合物である。モノマー混合物は、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸等のフェノール性水酸基を持たないモノマーを含んでいてもよい。
【0028】
モノマー混合物の調製方法としては、コストや製造時間の点で、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得る方法が好ましい。
【0029】
液晶ポリマーを構成する構成単位としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族アミノオキシ単位、芳香族ジアミノ単位、芳香族アミノカルボニル単位、及び脂肪族ジオキシ単位等が挙げられる。
なお、液晶ポリマー、エステル結合以外の結合として、アミド結合やチオエステル結合を含んでいてもよい。
【0030】
芳香族オキシカルボニル単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する単位である。
芳香族ヒドロキシカルボン酸の好適な具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香ヒドロキシカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ヒドロキシカルボン酸と同様に好適に使用できる。
得られる液晶ポリマーの機械的特性や融点を調製しやすいことから、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の中では、p-ヒドロキシ安息香酸、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0031】
芳香族ジカルボニル繰返し単位は、芳香族ジカルボン酸に由来する単位である。
芳香族ジカルボン酸の好適な具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ジカルボン酸と同様に好適に使用できる。
得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、これらの芳香族ジカルボン酸中ではテレフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0032】
芳香族ジオキシ繰返し単位は、芳香族ジオールに由来する単位である。
芳香族ジオールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
重縮合時の反応性、及び得られる液晶ポリマーの特性等の点から、これらの芳香族ジオールの中ではハイドロキノン、レゾルシン、及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0033】
芳香族アミノオキシ単位は、芳香族ヒドロキシアミンに由来する単位である。
芳香族ヒドロキシアミンの好適な具体例としては、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0034】
芳香族ジアミノ単位は、芳香族ジアミンに由来する単位である。
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0035】
芳香族アミノカルボニル単位は、芳香族アミノカルボン酸に由来する単位である。
芳香族アミノカルボン酸の好適な具体例としては、p-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香族アミノカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も液晶ポリマー製造用のモノマーとして好適に使用できる。
【0036】
脂肪族ジオキシ単位を与える単量体の具体例としては、例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。
また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等の脂肪族ジオキシ単位を含有するポリマーを、前術の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及びそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等と反応させることによっても、脂肪族ジオキシ単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0037】
液晶ポリマーは、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、芳香族ジチオール、及びヒドロキシ芳香族チオール等が挙げられる。
これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、及び脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0038】
液晶ポリマーの好適な例としては、以下の1)~25)が挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸共重合体
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
7)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
8)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
10)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
13)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
17)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
18)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
19)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/4-アミノフェノール共重合体
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
23)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
24)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
25)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体。
【0039】
前述の通り、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得るのが好ましい。アシル化は、フェノール性水酸基と、脂肪酸無水物とを反応させることにより行われるのが好ましい。脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、及び無水プロピオン酸等を用いること出来る。価格と取り扱い性の点から、無水酢酸が好ましく使用される。
【0040】
脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.15倍当量以下が好ましく、1.03倍当量以上1.10倍当量以下がより好ましい。
【0041】
フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物と、上記の脂肪酸無水物とを混合して加熱することによりアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物が得られる。
【0042】
以上のようにして得られたフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を加熱するとともに、重縮合により副生する脂肪酸を留去することにより液晶ポリマーが得られる。
溶融重縮合のみにより液晶ポリマーを製造する場合、溶融重縮合の温度は、150℃以上400℃以下が好ましく、250℃以上370℃以下が好ましい。
溶融重縮合と、後述する固相重合との二段階で液晶ポリマーを製造する場合、溶融重縮合の温度は120℃以上350℃以下が好ましく、200℃以上300℃以下が好ましい。重縮合反応の時間は、所望する融点、又は所望する分子量の液晶ポリマーが得られる限り特に限定されない。例えば、重縮合の反応時間としては30分以上5時間以下が好ましい。
上記方法により製造される液晶ポリマーは、必要に応じて、さらに高分子量化するために、固化された状態(固相)で加熱する重縮合に供されてもよい。
【0043】
上記方法により、液晶ポリマー(A)が得られる。液晶ポリマー(A)の融点は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。液晶ポリマー(A)の融点は、250℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましい。他方、加工性の観点や、低誘電樹脂組成物製造時のグラフト変性ポリオレフィン(B)の分解の抑制の点等から、液晶ポリマー(A)の融点は、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましい。
なお、液晶ポリマー(A)の融点は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/minで測定した際の結晶融解ピークから求めた温度である。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20℃以上50℃以下高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの融点とする。測定用機器としては、例えば、TA Instruments社製DSC Q1000等を使用することができる。
【0044】
<グラフト変性ポリオレフィン(B)>
グラフト変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンがグラフト変性された樹脂であって、極性基を有する樹脂であれば特に限定されない。
ここで極性基とは、極性のある原子団のことで,この基が有機化合物中に存在すると,その化合物が極性をもつ基のことである。グラフトによりポリオレフィンに導入され得る極性基の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等の前述の不飽和カルボン酸の誘導体に由来する酸無水物基、ハロカルボニル基、カルボン酸アミド基、イミド基、及びカルボン酸エステル基;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体に由来するエポキシ基等が挙げられる。これらの極性基の中では、好ましい相状態の低誘電樹脂組成物を得やすいことや、低誘電樹脂組成物を他の材料と接触させて用いる場合に、低誘電樹脂組成物と他の材料との密着性が良好であること等からエポキシ基を含有することが好ましい。
エポキシ基は、フェノール性水酸基やカルボキシ基等の液晶ポリマー(A)が有する官能基と反応し得る。このため、極性基としてエポキシ基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)と、液晶ポリマー(A)とは、低誘電樹脂組成物中において適度に親和し、例えば、海島構造のような好ましい相構造を容易に形成し得る。
【0045】
海島構造における島の径としては、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。島の径の下限は特に限定されないが、例えば、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、3μm以上であってよい。
種々の電気・電子機器の小型化、薄型化にともない、かかる機器に適用されるフィルムにも、例えば100μm以下の薄さが求められる場合がある。低誘電樹脂組成物を用いて形成されるフィルムの厚さが100μm以下である場合がしばしばあることを考慮すると、層構造が海島構造であることによる効果を得つつフィルムの特性のばらつきを抑制できる点で、島の径は1μm以上100μm以下の範囲内であるのが好ましい。
なお、「島の径がXμm以下」とは、非連続領域である島相の全体の90%以上、通常95%以上、典型的には99%以上の島相のサイズがXμm以下であることを示す。また、「島の径がYμm以上」とは、非連続領域である島相の全体の90%以上、通常95%以上、典型的には99%以上の島相のサイズがXμm以上であることを示す。
ここで、「径」とは一般に島の直径を指す。島の形状が円形とは大きく異なる場合には長径(島に外接する長方形の長辺の長さ)を「径」として定義する。ここで、長径とは、島に外接する長方形の長辺の長さ、又は島に外接する正方形の一辺の長さである。
島の径を確認する方法としては、例えば、後述する実施例のように低誘電樹脂組成物を用いて形成されたフィルムを熱硬化性樹脂に包埋し、厚さ方向の断面をイオンビームで研磨してフィルムの断面を露出させ、フィルムの断面を走査型電子顕微鏡で観察する方法が挙げられる。
【0046】
エポキシ基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)におけるエポキシ基を有するビニル単量体による変性量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。前述のエポキシ基を有するビニル単量体による変性量の下限は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。下限は、例えば、0.1質量%以上であってよく、0.3質量%以上であってよく、0.5質量以上であってよい。
エポキシ基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)におけるエポキシ基を有するビニル単量体による変性量が、0.1質量%以上10質量%以下である場合、グラフト変性ポリオレフィン(B)を用いることにより加工性及び低誘電特性に優れる低誘電樹脂組成物を特に得やすい。
エポキシ基を有するビニル単量体による変性量は、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)を用いて測定することができる。エポキシ基を有するビニル単量体による変性量の測定には、キシレンにより再結晶させたグラフト変性ポリオレフィン(B)を用いることができる。
【0047】
典型的には、グラフト変性ポリオレフィン(B)は、ポリオレフィンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂である。
グラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンであるのがより好ましい。
【0048】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、及びエチレン/オクテン共重合体等の鎖状ポリオレフィン;シクロペンタジエンとエチレン及び/又はプロピレンとの共重合体等の環状ポリオレフィンが挙げられる。
【0049】
これらのポリオレフィンの中でも、変性反応が容易であることから、ポリメチルペンテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレン-エチレン共重合体が好ましく、耐熱性及び低誘電特性の点から、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0050】
ポリオレフィンをグラフト変性する際に使用し得るラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、及びメチルアセトアセテートパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、及びジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシオクテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、及びジ-tert-ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル等が挙げられる。上記のラジカル重合開始剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
ラジカル重合開始剤の使用量は、グラフト変性反応が良好に進行する限り特に限定されない。ラジカル重合開始剤の使用量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0052】
グラフト変性に使用され得る極性基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等のこれらの不飽和カルボン酸の誘導体;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。
これらの中でも、エポキシ基含有ビニル単量体が好ましく、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが特に好ましい。
上記の極性基を有するビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有するビニル単量体の添加量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
かかる範囲内の量の極性基を有するビニル単量体を用いて変性されたポリオレフィンを用いることで、好ましい相状態であり、所望する低誘電特性を示す低誘電樹脂組成物を得やすい。
【0054】
前述の通りグラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましい。
極性基を有するビニル単量体と、芳香族ビニル単量体とを併用することにより、グラフト反応が安定化することによって、極性基を有するビニル単量体を所望する量グラフトさせやすいためである。
【0055】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジメチルスチレン、及びトリメチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のクロロスチレン類;o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びトリブロモスチレン等のブロモスチレン類;o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、及びトリフルオロスチレン等のフルオロスチレン類;o-ニトロスチレン、m-ニトロスチレン、p-ニトロスチレン、ジニトロスチレン、及びトリニトロスチレン等のニトロスチレン類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、及びトリヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、o-ジイソプロペニルベンゼン、m-ジイソプロペニルベンゼン、及びp-ジイソプロペニルベンゼン等のジアルケニルベンゼン類等が挙げられる。
これら芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、又はジビニルベンゼン異性体混合物が、安価な点で好ましく、特にスチレンが好ましい。
芳香族ビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有する芳香族ビニル単量体の量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0057】
液晶ポリマー(A)との溶融混錬が容易であることから、グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、200℃以上がより好ましい。グラフト変性ポリオレフィン(B)の融点の上限は特に限定されないが、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0058】
以上説明した低誘電樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、溶液キャスト法等の公知の種々の製造方法により種々の成形品に加工される。
以上説明した低誘電樹脂組成物は、高周波帯域における低誘電特性に優れるため、好ましくはフィルムに加工され、当該フィルムを用いて伝送損失の少ないフレキシブルプリント配線板が製造される。
【0059】
低誘電樹脂組成物を用いてフィルムを製造する好適な方法としては、以下の1)及び2)の方法が挙げられる。
1)Tダイを用いる溶融押出法。
2)溶液キャスト法。
溶液キャスト法では、具体的には、低誘電樹脂組成物の有機溶剤溶液を支持体上にキャストした後、加熱及び/又は減圧等の方法によりキャストされた有機溶剤溶液から有機溶剤を除去してフィルムが得られる。
キャスト方法は特に限定されず、ダイコーター、コンマコーター(登録商標)、リバースコーター、及びナイフコーター等の公知の方法が挙げられる。有機溶剤を除去する方法としては加熱が好ましい。加熱方法としては、熱風炉や遠赤外線炉等の公知の加熱装置を用いる方法が挙げられる。
低誘電樹脂組成物の有機溶剤溶液は、例えば、低誘電樹脂組成物とキシレンとを、80℃程度の温度で混合することにより得られる。なお、低誘電樹脂組成物ではなく、低誘電樹脂組成物を構成する2種以上の各材料を、キシレンと混合してもよい。
【0060】
低誘電樹脂組成物からなるフィルムの厚さは特に限定されず、フィルムの用途に応じて適宜決定される。フィルムを用いてフレキシブルプリント配線板を製造する場合、フィルムの厚さは、5μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。
【0061】
より具体的には、フレキシブルプリント配線板は、典型的には、前述の低誘電樹脂組成物からなるフィルムと金属箔とが積層された積層フィルムにおいて、金属箔をエッチングして配線を形成することにより製造される。
かかるフレキシブルプリント配線板は、伝送速度が速く伝送損失が小さいため高周波用途に適用される回路基板として好適に使用される。
【0062】
低誘電樹脂組成物からなるフィルムと金属箔とが積層された積層フィルムを得る方法としては、以下のI)及びII)の方法が挙げられる。
I)加熱及び加圧により、低誘電樹脂組成物からなるフィルムと金属箔とを熱圧着させて積層フィルムを得る方法。
II)低誘電樹脂組成物の有機溶剤溶液を金属箔上にキャストし、加熱及び/又は減圧等の方法により、キャストされた有機溶剤溶液から有機溶剤を除去して積層フィルムを得る方法。
I)の方法において、低誘電樹脂組成物からなるフィルムと金属箔とを加熱及び加圧により熱圧着させる方法及び条件については、従来知られる方法及び条件から適宜選択される。なお、低誘電樹脂組成物がある程度低い融点を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を含むことにより、金属箔をフィルムから剥離させる際のピール強度を5N/cm以上の高強度に維持しつつ、熱圧着温度を低く設定することができる。熱圧着温度としては400℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
II)の方法において金属箔上にフィルムを積層する方法は、金属箔を支持体とする他は、溶液キャスト法として前述した方法と同様である。
なお、積層フィルムにおいて、金属箔は、フィルムの少なくとも一方の主面に積層されればよく、フィルムの一方の主面だけに金属箔が積層されても、フィルムの両方の主面に金属箔が積層されてもよい。
【0063】
低誘電樹脂組成物からなるフィルムに張り付けられる金属箔は特に限定されない。電気・電子機器用途に使用されるフレキシブルプリント配線板を製造する際に使用される金属箔の材料としては、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金(例えば42合金)、アルミニウム、アルミニウム合金、及びステンレス鋼が挙げられる。
導電性や加工性に優れ、フィルムとの接合強度が高い点等から、フレキシブルプリント配線板を製造する際に使用される金属箔としては、銅箔が好ましい。銅箔としては、例えば、圧延銅箔、電解銅箔等が好ましく使用される。
以上説明した金属箔の表面には、必要に応じて、防錆層、耐熱層、及び接着層等の機能層が設けられてもよい。
金属箔の厚さは特に限定されず、フレキシブルプリント配線板の用途に応じて適宜選択される。
【0064】
前述の低誘電樹脂組成物からなるフィルムと金属箔とが積層された積層フィルムについて、金属箔のフィルムからの剥がれにくさの指標であるピール強度は5N/cm以上であるのが好ましい。
ピール強度は、JIS C 6471の「6.5 引きはがし強さ」に従って測定できる。具体的には、1mm幅の金属箔部分を90°の剥離角度、100mm/分の速度の条件で剥離させることにより、剥離時の加重をピール強度として測定できる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔製造例1〕
(変性ポリオレフィン1の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)1.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン8質量部、(d1)グリシジルメタクリレート8質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン1のグリシジルメタクリレート変性量は2.64質量%だった。
【0067】
〔製造例2〕
(変性ポリオレフィン2の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン2質量部、(d1)グリシジルメタクリレート2質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン2のグリシジルメタクリレート変性量は0.74質量%だった。
【0068】
〔製造例3〕
(変性ポリオレフィン3の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)2.6質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン12.0質量部、(d1)グリシジルメタクリレート12.0質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン2のグリシジルメタクリレート変性量は4.29質量%だった。
【0069】
〔製造例4〕
(変性ポリオレフィン4の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.25質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン1質量部、(d1)グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン2のグリシジルメタクリレート変性量は0.35質量%だった。
【0070】
〔実施例1~12、及び比較例1~6〕
実施例、及び比較例において、液晶ポリマー(A)((A)成分)として、融点280℃の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を用いた。また、実施例において、グラフト変性ポリオレフィン(B)((B)成分)として、製造例1~製造例4で得た、変性ポリオレフィン1~変性ポリオレフィン4を用いた。
比較例において、液晶ポリマー(A)と混合する樹脂として、未変性のポリメチルペンテンと、エチレン/グリシジルメタクリレート/メチルアクリレート/酢酸ビニル共重合体(住友化学株式会社製、ボンドファースト7L(BF-7L))とを用いた。ボンドファースト7Lは、極性基としてエポキシ基を有する非グラフト変性型の樹脂である。
【0071】
表1~4に記載の量の各材料を、ホッパー口よりシリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)に供給して溶融混練し各実施例、及び比較例の樹脂組成物を得た。なお、比較例1~4については、液晶ポリマー(A)、変性ポリオレフィン1、変性ポリオレフィン2、又はボンドファースト7L単独での評価である。各実施例、及び各比較例の樹脂、又は樹脂組成物について、以下の方法に従って、比誘電率、誘電正接、耐熱性、及び加工性の評価を行った。これらの評価結果を表1~4に記す。
【0072】
[比誘電率・誘電正接]
測定装置として、空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用い、下記周波数で得られた樹脂組成物の誘電率及び誘電正接を測定した。
測定周波数:10GHz
測定条件:温度22℃~24℃、湿度45%~55%
測定試料:前記測定条件下で、24時間放置した試料を使用した。
【0073】
[耐熱性]
測定装置として、動的粘弾性測定装置を用い、貯蔵弾性率が107MPa以下になる温度(℃)を測定した。
・サンプル測定範囲;幅5mm、つかみ具間距離20mm
・測定温度範囲;25℃~260℃
・昇温速度;5℃/分
・歪み振幅;0.1%
・測定周波数;1Hz
・最小張力/圧縮力;0.1g
・力振幅初期値;100g
【0074】
[加工性]
二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)を用いて溶融混練した後のストランドを水冷し、ペレタイザーによりカットした際の加工性を以下の通り評価した。
◎:割れ欠けなく、円柱状のペレットが取得可能
○:割れ欠けが一部含まれ、扁平した形状のペレットとなる。
×:ストランドが切断できずペレット取得ができない。又はペレットのほとんどにヒゲ、割れ欠けが含まれる。
【0075】
[相構造]
各組成物の相構造について、顕微鏡観察により確認した。観察結果を以下の基準に従い分類した。観察結果を表1に記す。
A:海島構造((A)成分が海)
B:海島構造((A)成分が島)
C:一部海島構造、及び共連続構造
D:相分離
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
実施例によれば、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含有する組成物であれば、良好な低誘電特性と、優れた溶融加工性とを両立できることが分かる。
他方、比較例によれば、液晶ポリマー(A)、極性機を有するグラフト変性ポリオレフィン、又は極性基を有する非グラフト型の樹脂を単独で用いたり、液晶ポリマー(A)に、未変性ポリオレフィンや、極性基を有する非グラフト型の樹脂をブレンドした組成物では、低誘電特性と、溶融加工性との少なくとも一方が劣ることが分かる。
【0081】
〔実施例13、及び比較例7〕
実施例13では、実施例9で得た樹脂組成物を用いて、当該樹脂組成物からなるフィルムと銅箔とからなる両面銅張積層フィルムを得た。比較例7では、比較例1として掲載した液晶ポリマー(A)を用いて、実施例13と同様にして両面銅張積層フィルムを得た。
具体的には、以下の方法に従い両面銅張積層フィルムを製造した。
銅箔として、厚さ12μmであり、樹脂組成物のフィルムに接触する面の表面粗さRaが0.45μm以下の銅箔を用いた。
銅箔からなる配線の幅wを、下記式から算出した。
Z=(d/ε×w)0.5
上記式中、Zは特性インピーダンスであり50Ωである。dはフィルムの厚さであり100μmである。εは、樹脂組成物の誘電率である。
熱圧着条件は、温度360℃、圧力0.8トン、ラミネート速度1m/分である。
【0082】
樹脂組成物からなるフィルムと銅箔とから得た両面銅張積層フィルムを用いて、線路長10cmのマイクロストリップラインを作製した。
具体的にはドリル穴あけ、スルーホールめっき及びパターニング工程を経た後、ニッカン工業社製カバーレイフィルムCISV1225を、160℃で90分間加熱して貼り合わせ、かつ測定用パッド部位を金めっきしてマイクロストリップライン形状のテストピースを作製した。
得られたテストピースを用いて、ピール強度の測定と、伝送損失の測定を行った。
伝送損失は、150℃、30分間乾燥後、23℃、55%RHに調整された試験室内で24時間以上テストピースの調湿を行った後、ネットワークアナライザE5071C(Keysight Technologies)とプローブステーションGSG250を用いて伝送損失S21パラメータを測定し、測定周波数10GHzでの伝送損失(dB/100mm)として測定された。
【0083】
実施例13の両面銅張積層板を用いて作成したテストピースの伝送損失は-1.9であり、比較例7の両面銅張積層板を用いて作成したテストピースの伝送損失-2.1よりも小さかった。