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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】固体有機過酸化物組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 409/32 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C07C409/32
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021519741
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019077671
(87)【国際公開番号】W WO2020074740
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】18200136.2
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(72)【発明者】
【氏名】フレイリンク,ウィルヘルム,クラース
(72)【発明者】
【氏名】ワーンダース,ペトラス,パウラス
(72)【発明者】
【氏名】ニューシンク,ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】コエルス,ルディ
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535577(JP,A)
【文献】特表2018-505247(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0244883(US,A1)
【文献】特表2011-528733(JP,A)
【文献】特開平04-255741(JP,A)
【文献】特公昭38-015606(JP,B1)
【文献】高分子,vol.6, 4月号,社団法人 高分子学会,1957年,pp. 181-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で固体である有機過酸化物組成物であって、
前記組成物全体の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体である有機過酸化物であって、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物と、
前記組成物中の有機過酸化物の重量基準で0.001~5wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含み、
前記HCl捕捉剤が、金属カルボン酸塩(ただし、ラウリン酸ナトリウム、4-メチル安息香酸ナトリウムを除く)、金属酸化物(ただし、親水性シリカを除く)、金属(重)炭酸塩、金属ケイ酸塩、アニオン性クレー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、有機過酸化物組成物。
【請求項2】
前記組成物中の有機過酸化物の重量基準で、0.005~2.5wt%の前記HCl捕捉剤を含む、請求項1に記載の有機過酸化物組成物。
【請求項3】
前記組成物全体の重量基準で、少なくとも85wt%の前記有機過酸化物を含む、請求項1に記載の有機過酸化物組成物。
【請求項4】
前記有機過酸化物が、ペルオキシ二炭酸ジセチル、ペルオキシ二炭酸ジミリスチル、ペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシル、およびペルオキシ二炭酸ジ(tert-ブチルシクロヘキシル)からなる群から選択されるペルオキシ二炭酸エステルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物。
【請求項5】
前記有機過酸化物が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族鎖を有する脂肪族ジアシル過酸化物、過酸化ジベンゾイル、および置換過酸化ジベンゾイルからなる群から選択されるジアシル過酸化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物。
【請求項6】
前記HCl捕捉剤が、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、CaO、炭酸カルシウム、およびアニオン性クレーからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物。
【請求項7】
ステンレス鋼容器に入った請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物を含む、包装された有機過酸化物組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物を含む、ステンレス鋼容器。
【請求項9】
ステンレス鋼容器であって、
固体組成物であって、前記固体組成物の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体であり、かつ、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む、固体組成物と、
前記ステンレス鋼容器中に存在する有機過酸化物の重量基準で、少なくとも0.001wt%の量の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含み、
前記HCl捕捉剤が、金属カルボン酸塩(ただし、ラウリン酸ナトリウム、4-メチル安息香酸ナトリウムを除く)、金属酸化物(ただし、親水性シリカを除く)、金属(重)炭酸塩、金属ケイ酸塩、アニオン性クレー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、ステンレス鋼容器。
【請求項10】
室温で固体である有機過酸化物組成物を、ステンレス鋼容器に入れて貯蔵および/または輸送するための方法であって、ステンレス鋼容器に、
(i)固体組成物であって、前記固体組成物の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体であり、かつ、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む、固体組成物と、
(ii)前記ステンレス鋼容器中に存在する有機過酸化物の重量基準で、少なくとも0.001wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を加えることを含み、
前記HCl捕捉剤が、金属カルボン酸塩(ただし、ラウリン酸ナトリウム、4-メチル安息香酸ナトリウムを除く)、金属酸化物(ただし、親水性シリカを除く)、金属(重)炭酸塩、金属ケイ酸塩、アニオン性クレー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項11】
前記有機過酸化物および前記HCl捕捉剤を物理的に混合するステップを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
【請求項12】
前記HCl捕捉剤が、前記有機過酸化物が製造される反応器に加えられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
【請求項13】
前記HCl捕捉剤を溶融有機過酸化物に加えるステップを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
【請求項14】
ポリプロピレンの改変のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の有機過酸化物組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼容器に入れて適切に貯蔵および輸送することができる固体有機過酸化物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒で希釈された、または水に懸濁もしくは乳化された有機過酸化物を一般に含有する液体有機過酸化物組成物は、従来、HDPE系の容器またはステンレス鋼容器に入れて貯蔵および輸送される。そのように満たされたステンレス鋼容器の腐食は問題とならない。
【0003】
固体有機過酸化物は、従来、HDPE系の容器またはLDPE系の袋中で貯蔵および輸送される。しかしながら、小さいLDPEの袋の取扱いは労働集約的であり、粉化を引き起こして重大な安全性の問題となることがあり、その一方で大きい袋(スーパーサックまたはフレキシブルIBC)に入った固体ペルオキシ二炭酸エステルおよび過酸化ジアシルの輸送は、UN規則によって許可されていない。さらに、工業プラントおよび工場での安全性要件では、容器が、ステンレス鋼容器でしか得ることができない電気抵抗率を有する必要があることがある。その上、HDPE容器の耐久性は約5年に限定される。
【0004】
ステンレス鋼容器に入ったある特定の固体有機過酸化物を貯蔵および輸送する際、容器が腐食する傾向があることがわかった。この腐食は、容器の寿命を限定するだけでなく、鉄イオン(および場合によっては他の金属イオン)を過酸化物中に放出する。鉄などの遷移金属は、過酸化物分解を触媒することが公知であり、このことは明らかに望ましくない。
【発明の概要】
【0005】
したがって、ステンレス鋼容器に入れて、容器を腐食させることなく適切に貯蔵および輸送することができる固体有機過酸化物組成物を提供することが本発明の目的である。
【0006】
腐食の原因に対する検討では、製品中の水分または残留水と組み合わさってHClヒュームの形成をもたらすのは、有機過酸化物中の残渣のクロロギ酸または酸塩化物であるという結論に至っている。これらのHClヒュームにより、ステンレス鋼容器の腐食がもたらされる。
【0007】
クロロギ酸から調製される固体有機過酸化物はペルオキシ二炭酸エステルである。ペルオキシ二炭酸塩は、従来、アルカリ媒体中でクロロギ酸と過酸化水素とを反応させることによって調製される。
【0008】
酸塩化物から調製される固体有機過酸化物はジアシル過酸化物である。ジアシル過酸化物は、従来、アルカリ媒体中で酸塩化物と過酸化水素とを反応させることによって調製される。
【0009】
ステンレス鋼容器に入ったこれらの固体有機過酸化物の輸送および貯蔵の際に、HClヒュームは、酸素および水分の存在下でステンレス鋼を腐食する傾向がある。
【0010】
少量のHCl捕捉剤を含有する固体ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物組成物は、ステンレス鋼容器に入った状態で、腐食をもたらすことなく安全に貯蔵および輸送され得ることが今回見出された。
【0011】
それと同時に、これらの組成物は安全かつ安定であり、これは、HCl捕捉剤が有機過酸化物の分解を促進せず、著しく分離することなく有機過酸化物と混合され得、流動性を維持することを意味する。
【0012】
したがって、本発明は、
有機過酸化物組成物であって、
-組成物全体の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体である有機過酸化物であって、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物と、
-組成物中の有機過酸化物の重量基準で0.001~5wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含む有機過酸化物組成物に関する。
【0013】
本発明はまた、ステンレス鋼容器に入った前記有機過酸化物組成物を含む包装された有機過酸化物組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
適切な固体HCl捕捉剤は、
-モノカルボン酸、ジカルボン酸、およびトリカルボン酸の金属塩を含む金属カルボン酸塩を含む。モノカルボン酸の金属塩の例は、金属ステアリン酸塩、金属乳酸塩、および金属ラクチレート(lactylate)、例えばCa、Mg、Zn、Al、Na、K、およびLiのステアリン酸塩、乳酸塩、またはラクチレート(lactylate)、より好ましくは、ステアリン酸カルシウムおよびステアロイル-2-乳酸カルシウムである。ジカルボン酸の金属塩の例は、金属ヘキサヒドロフタル酸塩または金属二環式[2.2.1]ヘプタンジカルボン酸塩、例えばCa、Mg、Zn、Al、Na、K、およびLiのヘキサヒドロフタル酸塩または二環式[2.2.1]ヘプタンジカルボン酸塩である。トリカルボン酸の金属塩の例は、金属クエン酸塩、例えばCa、Mg、Zn、Al、Na、K、およびLiのモノクエン酸塩、ジクエン酸塩、およびトリクエン酸塩、より具体的にはモノクエン酸ナトリウムまたはモノクエン酸カリウムである。
-金属炭酸塩および金属重炭酸塩、例えばCa、Mg、Zn、Na、K、もしくはLiの炭酸塩またはNa、K、もしくはLiの重炭酸塩。好ましい(重)炭酸塩は、炭酸カルシウムである
-金属酸化物、例えばCaO、MgO、およびZnO。CaOが好ましい金属酸化物である
-金属ケイ酸塩、例えばケイ酸カルシウムまたはケイ酸マグネシウム
-アニオン性クレー
-およびそれらの組み合わせ。
【0015】
ハイドロタルサイトまたは層状複水酸化物とも称するアニオン性クレーは、アニオンおよび水分子が間に存在する二価および三価金属水酸化物の特定の組み合わせでできている正に帯電した層からなる結晶構造を有する。ハイドロタルサイトは、炭酸イオンが最も多数を占めるアニオンであり、層がMgおよびAlを含有する、天然に存在するアニオン性クレーの例である。他の二価および/もしくは三価金属、ならびに/またはアニオン(硝酸アニオン、有機アニオン、および柱状(pillaring)アニオンを含む)を有する様々な天然、合成、および改変形態が公知である。アニオン性クレーは、その層間の層にあるアニオンを塩化物アニオンと交換することができるべきである。好ましいアニオン性クレーは、炭酸または水酸化物アニオンを層間の層に有するアニオン性クレーである。
【0016】
金属カルボン酸塩、金属酸化物、金属ケイ酸塩、および金属(重)炭酸塩は、HClを中和する。アニオン性クレーは、アニオン(たとえば、炭酸イオン)を塩化物イオンと交換し、それによってクレー構造中に塩化物イオンを封じ込める。
【0017】
適切な固体ペルオキシ二炭酸エステルは、ペルオキシ二炭酸ジセチル、ペルオキシ二炭酸ジミリスチル、ペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシル、およびペルオキシ二炭酸ジ(tert-ブチルシクロヘキシル)である。
【0018】
適切な固体ジアシル過酸化物は、脂肪族および芳香族ジアシル過酸化物を含む。好ましい脂肪族ジアシル過酸化物は、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族鎖を有するもの、例えば過酸化ジラウロイルである。
【0019】
好ましい芳香族ジアシル過酸化物は、過酸化ジベンゾイルならびに置換過酸化ジベンゾイル、例えば過酸化ジ(2-メチルベンゾイル)、過酸化ジ(4-メチルベンゾイル)、および過酸化ジ(2,4-ジクロロベンゾイル)を含む。
【0020】
ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物は、ペルオキシ二炭酸エステルまたはジアシル過酸化物の存在下でポリプロピレンを押し出すことによって前記ポリプロピレンの溶融強度を高める(高溶融強度ポリプロピレン、HMS-PPに向けて)ためのプロセスにおいて利用される。したがって、本発明はまた、HMS-PPの製造などのポリプロピレン改変のための、本発明の組成物の使用に関する。
【0021】
ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、乳酸カルシウム、および/またはアニオン性クレーのような酸捕捉剤は、ポリプロピレンを劣化させるおそれがある酸性触媒残渣を閉じ込める目的で、ポリプロピレン(改変)プロセスにおいて添加剤としてすでに使用されている。これは、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、乳酸カルシウム、および/またはアニオン性クレーの導入のみならず、本発明の組成物を介した炭酸カルシウム(炭酸イオンは、ポリプロピレン改変中にCOとして放出される)の導入も、改変ポリプロピレンにいかなる新たな材料も導入しないことを意味する。したがって、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、乳酸カルシウム、アニオン性クレー、および/または炭酸カルシウムは、本発明の組成物において、好ましいHCl捕捉剤である。
【0022】
このポリプロピレン改変に特に適切なペルオキシ二炭酸エステルは、ペルオキシ二炭酸ジセチル、ペルオキシ二炭酸ジミリスチル、およびペルオキシ二炭酸ジ(tert-ブチルシクロヘキシル)である。このポリプロピレン改変に特に適切なジアシル過酸化物は、過酸化ジ(4-メチルベンゾイル)である。したがって、好ましい実施形態において、本発明の組成物は、これらのペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物のうちの1種または複数を含有する。
【0023】
さらにより好ましくは、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、アニオン性クレー、および/または炭酸カルシウムからなる群から選択されるHCl捕捉剤と組み合わせた、ペルオキシ二炭酸ジセチル、ペルオキシ二炭酸ジミリスチル、ペルオキシ二炭酸ジ(tert-ブチルシクロヘキシル)、および過酸化ジ(4-メチルベンゾイル)からなる群から選択されるペルオキシ二炭酸エステルまたはジアシル過酸化物を含有する組成物である。
【0024】
最も好ましい有機過酸化物は、ペルオキシ二炭酸ジセチルおよび過酸化ジ(4-メチルベンゾイル)である。
【0025】
本発明の有機過酸化物組成物は、組成物全体の重量基準で、少なくとも40wt%、好ましくは少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも60wt%、さらにより好ましくは少なくとも85wt%、最も好ましくは少なくとも90wt%の、室温で固体である有機過酸化物であって、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む。
【0026】
本発明の有機過酸化物組成物は、組成物中の有機過酸化物の重量基準で、0.001~5wt%、好ましくは0.005~2.5wt%、最も好ましくは0.01~0.5wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤を含む。
【0027】
有機過酸化物組成物中に存在し得る他の成分は、水、鈍感剤もしくは希釈剤、または添加剤であるが、但し有機過酸化物組成物が固体物質のままであることを条件とする。
【0028】
本発明の組成物は、有機過酸化物粒子とHCl捕捉剤粒子との物理的混合物の形態を有し得る。
【0029】
代替的には、ペルオキシ二炭酸エステルおよびHCl捕捉剤の両方を1粒子中に含有する粒子の形態(粉末、フレーク、顆粒、丸剤、ペレット、または他の固体粒子形態)を有する。
【0030】
本発明の有機過酸化物組成物は、いくつかの方法で調製することができる。
【0031】
一実施形態において、有機過酸化物およびHCl捕捉剤は物理的に混合される。この混合は、貯蔵および輸送のためのステンレス鋼容器に組成物を加える前に実施することができる。代替的には、有機過酸化物およびHCl捕捉剤は、ステンレス鋼容器に個別に加えることができ、その後、成分は容器内で混合される。
【0032】
適切な混合設備は、タンブルミキサーおよび回転スクリューミキサー(たとえば、Nauta mixer)を含む。代替的には、固体は、連続混合下、インライン混合によって、たとえば、回転スクリューミキサーまたは搬送スクリューに投入することによって、投入され得る。
【0033】
第2の実施形態において、HCl捕捉剤は、有機過酸化物が製造される反応器に加えられる。この実施形態によれば、HCl捕捉剤は、アルカリ媒体中でのクロロギ酸または酸塩化物と過酸化水素との反応中、存在してもよく、または反応が完了した後に反応器に加えられてもよい。
【0034】
第3の実施形態において、HCl捕捉剤は、溶融した有機過酸化物に加えられる。次いで、得られる製品は、たとえば押出または顆粒化によって、固体粒子に変換され得る。
【0035】
本発明はまた、ステンレス鋼容器に入った上述の有機過酸化物組成物を含む包装された有機過酸化物組成物に関する。
【0036】
本発明はまた、ステンレス鋼容器であって、
-固体組成物であって、固体組成物全体の重量基準で、少なくとも40wt%、好ましくは少なくとも50wt%、より好ましくは少なくとも60wt%、さらにより好ましくは少なくとも85wt%、最も好ましくは少なくとも90wt%の、室温で固体であり、かつ、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む、固体組成物と、
-容器中に存在する有機過酸化物の重量基準で、少なくとも0.001wt%、好ましくは0.001~5wt%、より好ましくは0.005~2.5wt%、最も好ましくは0.01~0.5wt%の量の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含むステンレス鋼容器に関する。
【0037】
一実施形態によれば、HCl捕捉剤および固体組成物は、本発明の有機過酸化物組成物を形成するために、上述の調製の実施形態のうちの1つに従って、混ぜ合わされ得る。別の実施形態において、HCl捕捉剤は固体組成物と混ぜ合わされないが、容器内の分離された区画に存在する。前記分離された区画はHClヒュームに対して透過性であるべきである。
【0038】
上に説明されるように、満たされたステンレス鋼容器はその内容物によって腐食することはない。「容器」という用語は、封止することができ、固体有機過酸化物組成物を貯蔵および輸送するために使用することができる、任意の種類の包装を指す。
【0039】
容器は好ましくは、200~4000リットルの、より好ましくは500~1500リットルのサイズを有する。これは、ステンレス鋼中間バルク容器(IBC)を含む。特に好ましい種類の容器は、Cone Valve IBCであり、Cone Valve IBCは、ブリッジ、ブロッキング、分離、フラッシング、およびファネルフロー(core-flow)などの典型的な粉体流れの問題を防止するため、特に粉体に関して都合がよい。そのような容器は、Matcon(登録商標)から入手可能である。
【0040】
上に言及されるように、本発明の有機過酸化物組成物は、ポリプロピレンの改変、特に高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)の製造において利用される。この改変において、組成物は、押出に先立って、または押出中にポリプロピレンに加えられる。組成物は、水に懸濁させた後、イソドデカンなどの不活性溶媒中、またはフレークもしくは粉末などの任意の固体の物理的形態中に分散させた後、ポリプロピレンに加えられてもよい。使用される有機過酸化物の量は、望ましい改変度合いおよび用いられるポリプロピレンの種類に依存する。好ましくは、ポリプロピレン100g当たり0.1~3.0gの過酸化物の範囲の、より好ましくはポリプロピレン100g当たり0.5~2.0gの範囲の有機過酸化物濃度が用いられ、すべて純粋かつ乾燥した有機過酸化物として算出される。
【実施例
【0041】
実施例1
ペルオキシ二炭酸ジセチルのフレーク(97.5wt%の過酸化物および0.3wt%のセチルクロロギ酸)を含有するHDPEフラスコを、種々の量(有機過酸化物の重量基準のwt%で)の種々の酸捕捉剤とタンブル混合することによって組成物を調製した。
【0042】
追加量のセチルクロロギ酸(0.9wt%)を用いた実験も実施した。
【0043】
以下の酸捕捉剤、ステアリン酸カルシウム、ハイドロタルサイト(DHT-4A、前Kisuma)、炭酸カルシウムを使用した。
【0044】
事前洗浄した平滑なステンレス鋼(SS)316Lクーポン(20×10×1mm)を秤量し、続いて、約1gの有機過酸化物組成物とともにガラスバイアル中に載置した。
【0045】
蓋の開いたガラスバイアルを、約20gの有機過酸化物組成物を含有する250ml HDPEフラスコ中に載置した。HDPEフラスコをねじ蓋で閉じ、少なくとも12日間、20℃で貯蔵した。
【0046】
貯蔵期間後、クーポンに腐食がないか目視で検査し、以下の洗浄手順後、再秤量して重量減少を決定した。洗浄手順に従って、湿らせたスポンジ(水/研磨クリーム)を用いて、腐食したクーポンからさびをすべて除去した。クーポンを蒸留水で、次いでアセトンですすぎ、60℃のオーブンで1時間乾燥させ、室温まで冷却した。
【0047】
【表1】
【0048】
結果は、有機過酸化物組成物が、HCl捕捉剤なしでは316Lステンレス鋼を腐食することを示す。結果はまた、有機過酸化物組成物が、希釈HCl溶液に対して耐性のあるより高品質のステンレス鋼254SMOを腐食することを示す。
【0049】
実施例2
実施例1において調製したいくつかの組成物を、以下の試験設定を用いて腐食効果に関して試験した。
事前洗浄した平滑な316Lステンレス鋼クーポン(20×10×1mm)を秤量し、続いて、21gのペルオキシ二炭酸ジセチル含有組成物の試料の直接上または下に、250ml HDPEフラスコ中に載置した。
【0050】
HDPEフラスコをねじ蓋で閉じ、少なくとも11日間、20℃で貯蔵した。
【0051】
試験後、クーポンを検査し、実施例1において説明したように洗浄し、秤量した。
【0052】
【表2】
【0053】
これらの結果により、ここでもHCl捕捉剤によりステンレス鋼容器のすべての内壁の腐食を阻止することが可能であることが確認される。
なお、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]室温で固体である有機過酸化物組成物であって、
前記組成物全体の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体である有機過酸化物であって、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物と、
前記組成物中の有機過酸化物の重量基準で0.001~5wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含む、有機過酸化物組成物。
[2]前記組成物中の有機過酸化物の重量基準で、0.005~2.5wt%、好ましくは0.01~0.5wt%の前記HCl捕捉剤を含む、上記[1]に記載の有機過酸化物組成物。
[3]前記組成物全体の重量基準で、少なくとも85wt%、好ましくは少なくとも90wt%の前記有機過酸化物を含む、上記[1]に記載の有機過酸化物組成物。
[4]前記有機過酸化物が、ペルオキシ二炭酸ジセチル、ペルオキシ二炭酸ジミリスチル、ペルオキシ二炭酸ジシクロヘキシル、およびペルオキシ二炭酸ジ(tert-ブチルシクロヘキシル)からなる群から選択されるペルオキシ二炭酸エステルである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物。
[5]前記有機過酸化物が、少なくとも10個の炭素原子の脂肪族鎖を有する脂肪族ジアシル過酸化物、過酸化ジベンゾイル、および置換過酸化ジベンゾイルからなる群から選択されるジアシル過酸化物である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物。
[6]前記HCl捕捉剤が、金属カルボン酸塩、金属酸化物、金属(重)炭酸塩、金属ケイ酸塩、アニオン性クレー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記[1]~[5]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物。
[7]前記HCl捕捉剤が、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル-2-乳酸カルシウム、CaO、炭酸カルシウム、およびアニオン性クレーからなる群から選択され、好ましくはハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される、上記[6]に記載の有機過酸化物組成物。
[8]ステンレス鋼容器に入った上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物を含む、包装された有機過酸化物組成物。
[9]上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物を含む、ステンレス鋼容器。
[10]ステンレス鋼容器であって、
固体組成物であって、前記固体組成物の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体であり、かつ、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む、固体組成物と、
前記ステンレス鋼容器中に存在する有機過酸化物の重量基準で、少なくとも0.001wt%の量の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を含むステンレス鋼容器。
[11]室温で固体である有機過酸化物組成物を、ステンレス鋼容器に入れて貯蔵および/または輸送するための方法であって、ステンレス鋼容器に、
(i)固体組成物であって、前記固体組成物の重量基準で少なくとも40wt%の、室温で固体であり、かつ、ペルオキシ二炭酸エステルおよびジアシル過酸化物から選択される有機過酸化物を含む、固体組成物と、
(ii)前記ステンレス鋼容器中に存在する有機過酸化物の重量基準で、少なくとも0.001wt%の、室温で固体であるHCl捕捉剤と、
を加えることを含む方法。
[12]前記有機過酸化物および前記HCl捕捉剤を物理的に混合するステップを含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
[13]前記HCl捕捉剤が、前記有機過酸化物が製造される反応器に加えられる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
[14]前記HCl捕捉剤を溶融有機過酸化物に加えるステップを含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物を製造するための方法。
[15]ポリプロピレンの改変、好ましくはポリプロピレンの溶融強度の増大をもたらす改変(HMS-PP)のための、上記[1]~[7]のいずれかに記載の有機過酸化物組成物の使用。