IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-検出方法及び検出装置 図1
  • 特許-検出方法及び検出装置 図2
  • 特許-検出方法及び検出装置 図3
  • 特許-検出方法及び検出装置 図4
  • 特許-検出方法及び検出装置 図5
  • 特許-検出方法及び検出装置 図6
  • 特許-検出方法及び検出装置 図7
  • 特許-検出方法及び検出装置 図8
  • 特許-検出方法及び検出装置 図9
  • 特許-検出方法及び検出装置 図10
  • 特許-検出方法及び検出装置 図11
  • 特許-検出方法及び検出装置 図12
  • 特許-検出方法及び検出装置 図13
  • 特許-検出方法及び検出装置 図14
  • 特許-検出方法及び検出装置 図15
  • 特許-検出方法及び検出装置 図16
  • 特許-検出方法及び検出装置 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】検出方法及び検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240214BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N21/64 G
G01N33/553
G01N33/543 595
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021522724
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020017894
(87)【国際公開番号】W WO2020241146
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019099495
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】河村 達朗
(72)【発明者】
【氏名】柳川 博人
(72)【発明者】
【氏名】安浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 真
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179784(JP,A)
【文献】特開2006-10534(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
G01N 33/553
G01N 33/543
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する金属粒子に固定された第1物質及び蛍光体で標識された第2物質を標的物質に結合させることにより複合体を形成し、
磁場を印加することにより前記複合体を移動させ、
移動中の前記複合体に所定の波長を有する励起光を照射し、前記励起光は前記蛍光体に蛍光を放射させ、前記蛍光は前記金属粒子で生じた局在化表面プラズモン共鳴によって増強され、
前記増強された蛍光を経時的に撮影して、複数の2次元画像を取得し、
前記複数の2次元画像の各々に含まれる光点に基づいて前記標的物質を検出し、
前記金属粒子は、磁性材料からなる内核部と、前記内核部を被覆し、前記局在化表面プラズモン共鳴を生じる非磁性の金属材料からなる外殻部と、を有する、
検出方法。
【請求項2】
前記励起光の照射では、前記励起光の近接場を形成する基板に前記励起光を照射することにより、前記基板の表面近傍に位置する前記複合体に前記励起光の近接場を照射する、
請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記磁場の印加では、
第1磁場を印加することにより前記複合体を前記基板の表面に引き寄せ、
第2磁場を印加することにより、前記基板の表面に引き寄せられた前記複合体を前記基板の表面に沿って移動させる、
請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記磁性材料は、常磁性体を含み、前記非磁性の金属材料は、反磁性体を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記非磁性の金属材料は、金、銀、アルミニウム、又は、金、銀及びアルミニウムのいずれかを主成分として有する合金である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
磁性を有する金属粒子に固定された第1物質及び蛍光体で標識された第2物質を標的物質と結合することにより形成される複合体を含む試料を収容する試料収容部と、
前記試料収容部に収容された前記試料に磁場を印加して前記複合体を移動させる磁場印加部と、
前記試料収容部に収容された前記試料に所定の波長を有する励起光を照射する光源と、前記励起光は前記蛍光体に蛍光を放射させ、前記蛍光は前記金属粒子で生じた局在化表面プラズモン共鳴によって増強され、
前記増強された蛍光を経時的に撮影して、複数の2次元画像を取得する撮影部と、
前記複数の2次元画像の各々に含まれる光点に基づいて前記標的物質を検出する検出部と、を備え、
前記金属粒子は、磁性材料からなる内核部と、前記内核部を被覆し、前記局在化表面プラズモン共鳴を生じる非磁性の金属材料からなる外殻部と、を有する、
検出装置。
【請求項7】
前記試料収容部は、前記励起光の照射により近接場を形成可能な基板を備え、
前記光源は、前記基板に前記励起光を照射することにより、前記基板の表面近傍に位置する前記複合体に前記励起光の近接場を照射する、
請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記磁場印加部は、
前記試料に第1磁場を印加して前記複合体を前記基板の表面に引き寄せる第1磁場印加部と、
前記試料に第2磁場を印加して前記複合体を前記基板の表面に沿って移動させる第2磁場印加部と、を有する、
請求項7に記載の検出装置。
【請求項9】
前記磁性材料は、常磁性体を含み、前記非磁性の金属材料は、反磁性体を含む、
請求項6~8のいずれか1項に記載の検出装置。
【請求項10】
前記非磁性の金属材料は、金、銀、アルミニウム、又は、金、銀及びアルミニウムのいずれかを主成分として有する合金である、
請求項6~9のいずれか1項に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体中に存在する標的物質を光学的に検出する検出方法及び検出装置に関する。特に、金属ナノ微粒子の局在化表面プラズモン共鳴の作用によって蛍光を増強する表面増強蛍光法(Surface Enhanced Fluorescence Spectroscopy)を利用した検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体による感染症の拡大、新規病原体の出現等の問題から、これらの病原体を検出できる装置の開発が急がれている。検出対象物(つまり標的物質)としては、病原性タンパク質等の分子、ウイルス(外殻タンパク質等)、細菌(多糖等)などが知られている。これらの標的物質に対する、表面増強蛍光法を利用した高感度なセンサも開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、金属微粒子と蛍光体とが一体化された検出抗体が用いられる。これにより、蛍光体から放射された蛍光は金属微粒子によるプラズモン共鳴で増強されるため、微量の標的物質を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-216046号公報
【文献】特開昭62-38363号公報
【文献】特開2001-133455号公報
【文献】特開2010-19765号公報
【文献】国際公開第2017/187744号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Michael E. Jolley et al. Clinical Chemistry, vol.27, No7(1981)
【文献】Kathryn L. Kellar et al. Experimental Hematology 30 1227-1237(2002)
【文献】AimPlex_Multiplex_Immunoassay_User_Manual Rev 1.3.24
【文献】Yasuura, M. and Fujimaki, M. Sci. Rep. 6, 39241; doi: 10.1038/srep39241 (2016).
【文献】Anger, P.; Bharadwaj, P.; Novotny, L. PhysRevLett.96.113002 (2006)
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1のセンサでは、標的物質に結合していない遊離状態の検出抗体から放射された蛍光もプラズモン共鳴によって増強されてしまう。つまり、背景光が上昇するため、検出の感度が低下してしまう。遊離状態の検出抗体を除去することで検出感度を向上させる方法も考えられ得るが、操作が複雑になり、検出に要する時間も増加する。
【0007】
そこで本開示は、表面増強蛍光法を用いた標的物質の検出感度の向上を実現できる検出方法等を提供する。
【0008】
本開示の一態様に係る検出方法は、磁性を有する金属粒子に固定された第1物質及び蛍光体で標識された第2物質を標的物質に結合させることにより複合体を形成し、磁場を印加することにより前記複合体を移動させ、移動中の前記複合体に所定の波長を有する励起光を照射し、前記励起光は前記蛍光体に蛍光を放射させ、前記蛍光は前記金属粒子で生じた局在化表面プラズモン共鳴によって増強され、前記増強された蛍光を経時的に撮影して、複数の2次元画像を取得し、前記複数の2次元画像の各々に含まれる光点に基づいて前記標的物質を検出し、前記金属粒子は、磁性材料からなる内核部と、前記内核部を被覆し、前記局在化表面プラズモン共鳴を生じる非磁性の金属材料からなる外殻部と、を有する。
【0009】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含む。
【0010】
本開示の一態様に係る検出方法は、表面増強蛍光法を用いた標的物質の検出感度の向上を実現できる。本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1における複合体の構成図
図2】実施の形態1における複合体の構成図
図3】実施の形態1における金属粒子の断面図
図4】実施の形態1における増強現象を説明するための図
図5】実施の形態1における増強現象を説明するための図
図6】実施の形態1に係る検出装置の構成図
図7】実施の形態1に係る検出装置で得られる2次元画像の一例を示す図
図8】実施の形態1に係る検出装置の処理を示すフローチャート
図9】実施の形態2に係る検出装置の構成図
図10】実施の形態2に係る検出装置の処理を示すフローチャート
図11】実施例1における金属粒子と蛍光体との位置関係を示す図
図12】実施例1及び2におけるシミュレーションモデルを説明するための図
図13】実施例1における金属粒子付近の電場強度の波長依存性を示すグラフ
図14】実施例1における蛍光体の消光スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフ
図15】実施例2における金属粒子と蛍光体との位置関係を示す図
図16】実施例2における金属粒子付近の電場強度の波長依存性を示すグラフ
図17】実施例1及び2における金属粒子付近の電場強度の距離依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の基礎となった知見)
液体中に存在するタンパク質等の分子、ウイルス、細菌を検出する技術としては、蛍光を利用する方法(以下、蛍光法という)が広く用いられている。蛍光法では、標的物質と蛍光体で標識された抗体(以下、蛍光標識抗体という)とを抗原抗体反応により結合させる。そして、蛍光体を励起できる光を、標的物質と結合した標識抗体に照射することにより蛍光を発生させる。このように発生した蛍光を検出することにより、標的物質を検出することができる。
【0013】
[蛍光偏光免疫測定法]
蛍光法の一例としては、蛍光偏光免疫測定法(Fluorescence Polarization Immunoassay)がある。この方法では、蛍光標識抗体を含む溶液に、標的物質である抗原を含む被検溶液を混合する。その結果、抗原抗体反応によって複合体が形成される。このとき、複合体の形成前後の蛍光の偏光度の差に基づいて抗原の濃度が計測される。ここでは、複合体が蛍光標識抗体単体よりも大きく、回転運動が抑制されるため、偏光度が増加する現象が利用されている(例えば特許文献2及び非特許文献1を参照)。
【0014】
[免疫クロマトグラフ法]
蛍光法の他の一例としては、免疫クロマトグラフ法がある。この方法では、ニトロセルロース膜などを基材として有する平板状の基板が用いられる。基板には、標的物質と特異的に結合する抗体が固定化される。この基板に、標的物質と蛍光標識抗体とを含むサンプル溶液が滴下されると、蛍光標識抗体と結合した標的物質が、基板に固定化された抗体(以下、固定化抗体という)に捕捉される。ここに、光を照射すると、標的物質の濃度に応じた強度の蛍光が放射される。この蛍光を検出することで標的物質の濃度を計測することができる(例えば特許文献3を参照)。
【0015】
[免疫クロマトグラフ法に表面増強蛍光を利用]
免疫クロマトグラフ法を高感度化するために、表面増強蛍光を利用する技術もある。この技術では、溶液を流す流路内に金属ナノ構造が形成された領域が設けられ、この金属ナノ構造上に標的物質と結合する抗体が固定化される。この流路に、標的物質と蛍光標識抗体とを含むサンプル溶液が滴下されると、蛍光標識抗体と結合した標的物質が固定化抗体に捕捉される。ここに、局在化表面プラズモン共鳴を励起する波長の光が金属ナノ構造に照射されると、蛍光標識抗体から放射された蛍光が増強される。局在化表面プラズモン共鳴で増強された蛍光(以下、表面増強蛍光という)の強度は、標的物質の濃度に応じて増加する。蛍光の増強の程度(以下、増強度という)は10~1000倍程度なので、表面増強蛍光は、通常の蛍光よりも10~1000倍程度高い強度を有する。したがって、表面増強蛍光を利用すれば、通常の蛍光では計測できないような低濃度の標的物質も計測できる(例えば特許文献4を参照)。
【0016】
[免疫クロマトグラフ法にエバネセント波を利用]
また、透明な基板の裏側から励起光を照射する裏面照射系を利用する方法がある。この方法では、基板の裏面から励起光が照射されエバネセント波が誘起される。誘起されたエバネセント波は、基板の表面にある固定化抗体に捕捉された蛍光標識抗体に照射され、蛍光標識抗体に蛍光を放射させる。このとき、エバネセント波は、基板表面から数百nmの領域を照射するので、表面から照射する場合と比べて、標的物質と結合していない蛍光標識抗体(以下、Free成分という)に照射される励起光の量を低減することができる。Free成分が放射する蛍光は、標的物質の濃度が反映されないノイズ成分である。つまり、Free成分が放射する蛍光は、標的物質と結合している蛍光標識抗体が放射する蛍光の計測を妨害して計測精度を低下させる。したがって、エバネセント波を利用して照射領域を制限してFree成分が放射する蛍光を抑制することは有効である(例えば特許文献1を参照)。
【0017】
[フローサイトメトリー]
粒子及び標的物質の検出方法としてフローサイトメトリーと呼ばれる方法がある。フローサイトメトリーでは、透明な細管(フローセル)中を1個毎に流れる細胞等の粒子にレーザ光などが照射され、散乱光及び/又は蛍光が発生する。このように発生した散乱光及び/又は蛍光を検出して、粒子が特定され計数される。
【0018】
タンパク質等の標的物質を検出する場合は、次のように検出処理が行われる。まず、標的物質と特異的に結合する2種類の抗体を準備する。一方の抗体は捕捉用ビーズに固定化され、もう一方の抗体は蛍光体で標識される。これらの2種類の抗体を、標的物質と抗原抗体反応させて、標的物質を挟んで特異結合(サンドイッチ結合)させて、捕捉用ビーズ-標的物質-蛍光標識抗体の複合体が形成される。そして、複合体を含む溶液から未結合の蛍光標識抗体を取り除いた後に、溶液をフローセルに流す。このとき、複合体で発生した蛍光を検出して、標的物質を特定して計数する(例えば、非特許文献2及び3を参照)。
【0019】
[EFA-NI(External force-assisted near-field illumination)バイオセンサ]
さらに、ウイルス等の粒子及びタンパク質等の標的物質を1個単位で計数できる外力支援型近接場照明(EFA-NI)バイオセンサと呼ばれる方法もある。この方法では、まず、粒子又は標的物質と特異的に結合する2種類の抗体を準備する。一方の抗体は磁性を有する磁性粒子に固定化され、もう一方の抗体は蛍光体又は蛍光微粒子で標識される。これらの2種類の抗体を、粒子又は標的物質を含む被検溶液と混合して混合溶液を調製する。この混合溶液中で抗原抗体反応が進行して、2種類の抗体は、粒子又は標的物質を挟んで特異結合(サンドイッチ結合)し、抗原抗体複合体が形成される。混合溶液は、裏面から光を照射すると表面に近接場を発生する検出板の表面上に保持される。検出板の垂直方向に磁場を印加して検出板の表面付近に混合溶液中の抗原抗体複合体を誘引する。ここで、抗原抗体複合体に近接場を照射し、表面側から混合溶液の2次元画像を取得すると、抗原抗体複合体は蛍光を放射する光点として2次元画像上に現れる。そして、検出板の表面と平行に磁場が印加されると、2次元画像上の光点は磁場の方向に動く。この動く光点(動光点)を計数することで粒子又は標的物質の数を1個単位で計測できる(例えば特許文献5、非特許文献4を参照)。
【0020】
しかしながら、上述した各方法では、以下のような課題がある。
【0021】
蛍光偏光免疫測定法では、偏光度の違いを計測するために、偏光子の回転機構が必要になり装置が複雑になる。また偏光度の違いは抗原抗体複合体の形成前後の大きさの違いを反映しているので、蛍光標識抗体と比べて小さい分子を検出する場合は、偏光度の違いが小さいので、検出精度が低下する。さらに、被検溶液中に散乱性の物質が存在すると、偏光解消により、偏光度の違いを検出できない等の課題がある。
【0022】
免疫クロマトグラフ法、又は、これに表面増強蛍光若しくはエバネセント波を利用した方法では、基板に、標的物質と結合していない蛍光標識抗体及び蛍光を放射する共存物質が非特異吸着する場合がある。この場合、非特異吸着した蛍光標識抗体及び共存物質から放射された蛍光によって検出精度が低下するという課題がある。
【0023】
また、フローサイトメトリーでは、未結合の蛍光標識抗体を除去する工程が必要になり、計測時間がかかる。
【0024】
さらに、EFA-NIバイオセンサでは、未結合の蛍光標識抗体も、近接場に照射され、蛍光を発する。そのため、背景画像の輝度(バックグラウンド)が上昇し、光点の認識が困難になる。したがって、未結合の蛍光標識抗体の数を抑制する必要があり、被検溶液と混ぜる蛍光標識抗体の数を制限しなければならない。
【0025】
定量可能な標的物質の数は蛍光標識抗体の数よりも小さくなるので、被検溶液と混ぜる蛍光標識抗体の数を制限することで、定量範囲が制限される。
【0026】
(本開示の概要)
そこで、本開示の一態様に係る検出方法は、磁性を有する金属粒子に固定された第1物質及び蛍光体で標識された第2物質を標的物質に結合させることにより複合体を形成し、磁場を印加することにより前記複合体を移動させ、移動中の前記複合体に所定の波長を有する励起光を照射し、前記励起光は前記蛍光体に蛍光を放射させ、前記蛍光は前記金属粒子で生じた局在化表面プラズモン共鳴によって増強され、前記増強された蛍光を経時的に撮影して、複数の2次元画像を取得し、前記複数の2次元画像の各々に含まれる光点に基づいて前記標的物質を検出し、前記金属粒子は、磁性材料からなる内核部と、前記内核部を被覆し、前記局在化表面プラズモン共鳴を生じる非磁性の金属材料からなる外殻部と、を有する。
【0027】
これにより、複合体に含まれる第2物質を標識する蛍光体から放射される蛍光は、当該複合体に含まれる第1物質が固定された金属粒子が生じる局在化表面プラズモン共鳴によって増強される。一方で、複合体に含まれない第2物質(すなわち遊離状態の第2物質)を標識する蛍光体は、金属粒子に空間的に近接していないため、当該蛍光体が放射する蛍光は局在化表面プラズモン共鳴によってほとんど増強されない。したがって、複数の2次元画像において、複合体に含まれる第2物質を標識する蛍光体から放射される蛍光は、複合体に含まれない第2物質を標識する蛍光体から放射される蛍光よりも輝度の高い光点として現れる。よって、遊離状態の第2物質を除去しなくても2次元画像において複合体を検出することが容易となり、高速かつ簡便な表面増強蛍光法を用いた測定により、標的物質の検出感度の向上を実現できる。
【0028】
また、偏光を利用しなくても標的物質を検出できるため、装置構成が簡単にできる。さらに、複合体の形成前後の分子の大きさの違いによる影響を低減することができ、標的物質の適用範囲を広げることができる。
【0029】
また、複数の2次元画像において移動する光点に基づいて標的物質を検出することができ、磁場によって移動しない夾雑物の影響を低減できる。また、第1物質は蛍光を放射しないので、複合体に含まれない第1物質が標的物質として誤検出されることを抑制することができる。したがって、試料に遊離状態の第1物質及び第2物質が多く含まれる場合でも標的物質を検出できるため、試料中の第1物質及び第2物質の濃度を増加させることが可能になる。その結果、複合体を形成可能な標的物質の量を増加させることができ、定量可能な標的物質の濃度範囲を拡大することができる。
【0030】
また、複合体から放射される蛍光は増強されるので、より鮮明な2次元画像が得られる。したがって、移動する光点の画像認識が容易となり、誤認識を削減することができる。さらに、複合体から放射される蛍光は増強されるので、より小粒径の蛍光体を利用することができる。したがって、複合体の形成速度を向上させることが可能になり、検出の高速化を実現することができる。
【0031】
また、金属粒子において、磁性材料からなる内核部を非磁性の金属材料からなる外殻部で覆うことができるので、磁性材料の残留磁化によって金属粒子が凝集することを抑制することができる。その結果、複数の2次元画像における光点の輝度及び移動速度のばらつきを抑制することができ、検出精度を向上させることができる。
【0032】
また、金属粒子は、局在化表面プラズモン共鳴を生じる金属材料で当該金属粒子の表面を覆うことができるので、表面の一部が金属材料で構成される場合よりも、金属粒子の周方向における増強度のばらつきを抑制することができる。
【0033】
例えば、本開示の一態様に係る検出方法において、前記励起光の照射では、前記励起光の近接場を形成する基板に前記励起光を照射することにより、前記基板の表面近傍に位置する前記複合体に前記励起光の近接場を照射してもよい。
【0034】
これにより、基板の表面近傍に存在する蛍光体を選択的に近接場で照射することができ、基板の表面から遠い蛍光体による蛍光の放射を抑制することができる。したがって近接場の照射されない領域に位置する蛍光体による検出への影響を低減することができる。
【0035】
例えば、本開示の一態様に係る検出方法において、前記磁場の印加では、第1磁場を印加することにより前記複合体を前記基板の表面に引き寄せ、第2磁場を印加することにより、前記基板の表面に引き寄せられた前記複合体を前記基板の表面に沿って移動させてもよい。
【0036】
これにより、複合体を基板の表面に引き寄せてから表面に沿って移動させることができるので、複合体に含まれる蛍光体に効果的に励起光の近接場を照射することができる。一方、複合体に含まれない蛍光体は基板の表面に引き寄せられないので、複合体に含まれない蛍光体への励起光の照射を抑制することができる。したがって、複数の2次元画像において、複合体に含まれない蛍光体による蛍光の影響を低減することができ、標的物質の検出感度をより向上させることができる。
【0037】
例えば、本開示の一態様に係る検出方法において、前記磁性材料は、常磁性体を含み、前記非磁性の金属材料は、反磁性体を含んでもよい。
【0038】
これにより、磁場が印加されていないときに金属粒子が凝集することを抑制することができる。
【0039】
例えば、本開示の一態様に係る検出方法において、前記非磁性の金属材料は、金、銀、アルミニウム、又は、金、銀及びアルミニウムのいずれかを主成分として有する合金であってもよい。
【0040】
これにより、金、銀、アルミニウム、又はいずれかを主成分として有する合金を外殻部に用いることができ、金属粒子において効果的に局在化表面プラズモン共鳴を生じさせることができる。さらに、外殻部が金からなる場合には、金属粒子の表面に各種機能を有するコーティングを施しやすくなる。例えば、外殻部に非特異吸着防止コーティングが施されれば、蛍光体で標識された第2物質が金属粒子の表面に吸着する非特異吸着を低減することができ、検出結果として偽陽性及び偽陰性が発生することを低減することができる。
【0041】
また、外殻部が金、銀、アルミニウム、又はいずれかを主成分として有する合金からなる場合、金属粒子の表面に非特異吸着した第2物質を標識する蛍光体においてクエンチ現象が発生しやすくなる。クエンチ現象とは、蛍光体から金属粒子へ直接エネルギーが移動することによる蛍光消光現象である。非特異吸着では、蛍光体と金属粒子の表面との距離が小さくなるため、このクエンチ現象による蛍光消光が顕著となる。したがって、非特異吸着による蛍光の強度を抑制することができ、より正確に標的物質を検出することが可能となる。
【0042】
なお、これらの包括的又は具体的な態様は、システム、装置、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0043】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0044】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0045】
また、以下において、平行及び垂直などの要素間の関係性を示す用語、及び、円筒形状などの要素の形状を示す用語、並びに、数値範囲は、厳格な意味を表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する。
【0046】
また、以下において、標的物質を検出するとは、標的物質を見つけ出して標的物質の存在を確認することに加えて、標的物質の量(例えば数又は濃度等)又はその範囲を計測することを含む。
【0047】
(実施の形態1)
実施の形態1に関して図1図8を参照しながら説明する。
【0048】
[複合体の構造]
まず、複合体6の構造について図1を参照しながら具体的に説明する。図1は、実施の形態1における複合体6の構成図である。図1に示すように、複合体6は、標的物質1と、金属粒子2に固定された第1物質3と、蛍光体4で標識された第2物質5と、を含む。金属粒子2に第1物質3を固定する方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などの公知の方法が使用される。また、第2物質5を蛍光体4で標識する方法としては、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法などによって、第2物質5と蛍光体4とを結合させる方法が挙げられる。
【0049】
標的物質1は、検出の対象となる分子であり、例えばタンパク質等である。
【0050】
金属粒子2は、常磁性又は強磁性を有し、所定の波長を有する励起光の照射によって局在化表面プラズモン共鳴を生じさせる。金属粒子2の内部構造については、図3を用いて後述する。
【0051】
第1物質3は、標的物質1と特異的に結合する抗体である。第1物質3は、金属粒子2の表面に固定されている。なお、図1では、複数の第1物質3が金属粒子2に固定されているが、これに限定されない。例えば、金属粒子2に固定される第1物質3の数は1つでもよい。
【0052】
蛍光体4は、所定の波長を有する励起光の照射によって蛍光を放射する。蛍光体4は、例えば有機分子又は量子ドット等からなる。
【0053】
第2物質5は、標的物質1と特異的に結合する抗体であり、蛍光体4で標識されている。つまり、第2物質5は、蛍光標識抗体である。なお、図1では、第2物質5は、1つの蛍光体4で標識されているが、複数の蛍光体で標識されてもよい。
【0054】
ここでは、第1物質3と第2物質5とは異なっている。第1物質3と第2物質5とが異なるとは、蛍光体4が固定された第1物質3と、金属粒子2に固定された第2物質5とに共有化される箇所がなく、それぞれが別個の物質として存在することを意味する。なお、第1物質3及び第2物質5の各々は、標的物質1と特異的に結合する性質を有すればよく、その分子構造は限定されない。第1物質3と第2物質5とは、異種分子であってもよく、同種分子であってもよい。
【0055】
また、第1物質3と第2物質5とは、標的物質1の異なる部位と結合する。したがって、図1に示すように、第1物質3と第2物質5とは、標的物質1を挟んで結合(サンドイッチ結合)して複合体6を形成する。
【0056】
次に、他の複合体6aの構造について図2を参照しながら説明する。図2は、実施の形態1における複合体6aの構成図である。
【0057】
複合体6aでは、図2に示すように、蛍光体4の代わりに蛍光粒子10が用いられる。つまり、複合体6aは、標的物質1と、金属粒子2に固定された第1物質3と、蛍光粒子10で標識された第2物質11と、を含む。
【0058】
蛍光粒子10は、有機蛍光分子、無機蛍光体又は量子ドット等を組込んだ樹脂(例えばポリスチレン又はアクリル等)又はガラスからなる。蛍光粒子10の直径は、数十nmから数百nmである。
【0059】
蛍光粒子10には、蛍光体4単体では実現が難しい特性を付与することができる。例えば、蛍光粒子10を構成する樹脂又はガラスに蛍光の失活防止剤を含ませることで、蛍光粒子10は光退色を低減できる。また、蛍光粒子10には、アミノ基及びカルボキシル基をはじめ多様な表面修飾を施すことができる。また、蛍光粒子10は、蛍光体4よりも水中での分散性を上げることができる。さらに、蛍光粒子10は、蛍光体4よりもサイズが大きいので、蛍光粒子10単体でも比較的容易に観測できる。
【0060】
第2物質11は、標的物質1と特異的に結合する抗体であり、蛍光粒子10で標識されている。つまり、第2物質11は、蛍光標識抗体である。図1と同様に、第1物質3と第2物質11とは、標的物質1の異なる部位と結合する。したがって、図2に示すように、第1物質3と第2物質11とは、標的物質1を挟んで結合(サンドイッチ結合)して複合体6aを形成する。
【0061】
[金属粒子の内部構造]
ここで、金属粒子2の内部構造について図3を参照しながら具体的に説明する。図3は、実施の形態1における金属粒子2の断面図である。図3に示すように、金属粒子2は、内核部2aと外殻部2bとを有する。
【0062】
内核部2aは、常磁性又は強磁性を有する磁性材料からなる。常磁性とは、外部磁場が無いときには磁化を持たず、磁場を印加するとその磁場の方向に弱く磁化する磁性を意味する。強磁性とは、外部磁場が無くても自発磁化を持つことができる磁性を意味する。つまり、内核部2aは、磁場の印加によって磁場の方向に移動する。
【0063】
本実施の形態では、常磁性を有する磁性材料が用いられ、具体的には酸化鉄を主原料にしたフェライトが用いられる。なお、磁性材料は、酸化鉄を主原料にしたフェライトに限定されない。磁性材料として、例えば鉄が用いられてもよい。
【0064】
外殻部2bは、内核部2aを被覆し、局在化表面プラズモン共鳴を生じる非磁性の金属材料からなる。例えば、金属材料として、金、銀、又は、アルミニウムを用いることができる。また例えば、金属材料として、金、銀及びアルミニウムのいずれかを主成分として有する合金を用いることもできる。
【0065】
なお、ここでは、非磁性の金属材料は反磁性体を含む。従って、金や銀は反磁性体と称されることもあるが、ここでは非磁性と記す。
【0066】
金属粒子2の直径は、数nm~数百nm程度である。このような金属粒子2に所定の波長の光を照射することで局在化表面プラズモン共鳴を生じさせることができる。この局在化表面プラズモン共鳴が生じる波長域と、蛍光体4を励起する波長域及び/又は蛍光体4が放射する蛍光の波長域とが重なれば、金属粒子2の近傍にある蛍光体4が放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴の作用により増強される。この増強された蛍光を表面増強蛍光と称する。
【0067】
[局在化表面プラズモン共鳴による蛍光の増強現象]
本実施の形態に係る検出装置では、局在化表面プラズモン共鳴による増強現象が利用されている。増強現象の概要を図4及び図5を参照しながら説明する。
【0068】
図4及び図5は、実施の形態1における増強現象を説明するための図である。
【0069】
図4には、図1に示す複合体6及び第2物質5を含む混合溶液(すなわち試料)が表されている。この混合溶液に、所定の波長を有する励起光7が照射されると、金属粒子2で局在化表面プラズモン共鳴が生じ、かつ、蛍光体4で蛍光が放射される。
【0070】
このとき、複合体6に含まれる第2物質5に結合された蛍光体4が放射した蛍光は、金属粒子2で生じた局在化表面プラズモン共鳴の作用で増強され、表面増強蛍光8として放射される。
【0071】
一方、複合体6に含まれていない遊離状態の第2物質5に結合された蛍光体4は、金属粒子2から離れているので、局在化表面プラズモン共鳴の作用を受けることができない。したがって、この蛍光体4が放射した蛍光は、増強されず、通常の蛍光9として放射される。
【0072】
図5には、図2に示す複合体6a及び第2物質11を含む混合溶液が表されている。この混合溶液に、所定の波長を有する励起光7が照射されると、金属粒子2で局在化表面プラズモン共鳴が生じ、かつ、蛍光粒子10で蛍光が放射される。
【0073】
このとき、複合体6aに含まれる第2物質11に結合された蛍光粒子10が放射した蛍光は、金属粒子2で生じた局在化表面プラズモン共鳴の作用で増強され、表面増強蛍光8として放射される。
【0074】
一方、複合体6aに含まれていない遊離状態の第2物質11に結合された蛍光粒子10は、金属粒子2から離れているので、局在化表面プラズモン共鳴の作用を受けることができない。したがって、この蛍光粒子10が放射した蛍光は、増強されず、通常の蛍光9として放射される。
【0075】
[検出装置の構成]
次に、以上のような増強現象を利用して複合体6a(つまり、標的物質1)を検出する検出装置100の構成について図6を参照しながら説明する。
【0076】
図6は、実施の形態1に係る検出装置100の構成図である。検出装置100は、試料収容部110と、光源120と、第1磁場印加部131と、第2磁場印加部132と、撮影部140と、ロングパスフィルタ141と、検出部150と、を備える。以下に、検出装置100の各構成要素について順に説明する。
【0077】
試料収容部110は、液体状の試料を収容することができる空間を備えた容器状の部材であり、複合体6aと、金属粒子2に固定された第1物質3と、蛍光粒子10で標識された第2物質11とを含む混合溶液22を収容する。試料収容部110は、励起光21の照射により近接場を形成可能な基板112及びプリズム111を備える。具体的には、基板112は、プリズム111の表面上に配置され、基板112の裏面112bは、プリズム111の表面に屈折率調整オイルや光学用接着剤等により光学的に貼り合せられる。これにより、基板112は、表面112aに近接場を形成可能な基板として機能する。
【0078】
近接場とは、物体の表面近傍に生じる薄い光の膜である。近接場は、例えば、屈折率の高い媒質から屈折率が低い媒質に進む光をその境界面で全反射させたときに屈折率の低い媒質ににじみ出るごく薄い光の膜である。近接場は、近接場光と呼ばれる場合もある。
【0079】
試料収容部110は、さらに、混合溶液22を覆う透明なカバーガラス113を備える。混合溶液22は、基板112とカバーガラス113との間に保持される。なお、試料収容部110は、混合溶液22を囲う側壁(図示せず)を備えてもよい。側壁は、基板112からカバーガラス113に向かって延びる。
【0080】
光源120は、プリズム111を介して基板112の裏面112bに励起光21を照射する。励起光21は、所定の波長を有し、混合溶液22と基板112との界面において全反射する。その結果、基板112の表面112aに近接場が形成される。所定の波長としては、金属粒子2で局在化表面プラズモン共鳴を励起すると共に蛍光粒子10で蛍光を励起することができる波長が用いられる。近接場は、表面112a近傍に形成され、基板112の表面112aから遠ざかるにつれて急激に減衰する。したがって、励起光21の近接場は、基板112の表面112a近傍の混合溶液22に照射される。
【0081】
なお、基板112の構成としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。例えば、基板112は、単層で構成されてもよく、電場増強を目的とした積層体で構成されてもよい。
【0082】
第1磁場印加部131は、図6に示すように、混合溶液22中に下向き(基板112の表面112aに垂直な方向)の第1磁場23を印加する。第1磁場23は、下向き方向の成分をもつが、横向き方向の成分をもたない。この第1磁場23により、混合溶液22中の金属粒子2に固定された第1物質3及び複合体6aが基板112の表面112aに引き寄せられる。その結果、混合溶液22中に存在する複合体6a及び第1物質3は励起光21の近接場で照射される。
【0083】
第2磁場印加部132は、図6に示すように、混合溶液22中に横向き(基板112の表面112aに平行な方向)に第2磁場24を印加する。第2磁場24は、横向き方向の成分をもつが、縦向き方向の成分をもたない。この第2磁場24により、混合溶液22中の金属粒子2に固定された第1物質3及び複合体6aは、基板112の表面112aに沿って移動する。
【0084】
第1磁場印加部131及び第2磁場印加部132としては、電磁石又は永久磁石等を用いることができる。電磁石が用いられる場合、第1磁場印加部131及び第2磁場印加部132の各々は、電流の供給を制御することによって磁場の印加及び非印加を切り替えることができる。また、永久磁石が用いられる場合、第1磁場印加部131及び第2磁場印加部132の各々は、永久磁石の移動によって磁場の印加及び非印加を切り替えることができる。
【0085】
撮影部140は、例えば光学レンズ及びイメージセンサ等によって実現され、基板112の表面112a側から混合溶液22を撮影する。具体的には、撮影部140は、励起光21の照射により混合溶液22中の基板112の表面112a近傍で生じた表面増強蛍光の2次元画像を経時的に撮影する。つまり、撮影部140は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強された蛍光を経時的に撮影して、複数の2次元画像を取得する。複数の2次元画像のそれぞれは1以上の光点を含む。
【0086】
ロングパスフィルタ141は、励起光21を遮断し、蛍光を通過させる。つまり、ロングパスフィルタ141は、励起光21の波長と蛍光の波長との間に遮断波長を有する。これにより、撮影部140は、基板112の表面112a近傍で放射された蛍光を撮影し、励起光21を撮像しない。なお、ロングパスフィルタ141は、撮影部140に内蔵されてもよい。また、ロングパスフィルタ141は、検出装置100に含まれなくてもよい。
【0087】
検出部150は、複数の2次元画像のそれぞれに含まれる1以上の光点に基づいて標的物質1を検出する。検出部150は、例えばプロセッサ及びメモリを備えるコンピュータによって実現される。プロセッサは、メモリに格納されたインストラクション又はソフトウェアプログラムを実行することにより標的物質1を検出することができる。また、検出部150は、専用の電子回路によって実現されてもよい。
【0088】
複数の2次元画像のそれぞれにおいて、基板112の表面112a近傍に存在し蛍光を放射する蛍光粒子10が光点として現れる。複合体6aでは、蛍光粒子10から放射された蛍光は、金属粒子2で生じた局在化表面プラズモン共鳴の作用で増強される。さらに、複合体6aでは、金属粒子2は、第2磁場24によって力を受ける。その結果、複合体6aに含まれる蛍光粒子10は、複数の2次元画像において移動する明るい(高輝度な)光点として現れる。
【0089】
一方、蛍光粒子10単体(すなわち、金属粒子2と結合していない蛍光粒子10)から放射された蛍光は局在化表面プラズモン共鳴による増強を受けない。さらに、蛍光粒子10単体は、第2磁場24による力を受けない。したがって、複数の2次元画像を観察すると、複合体6aに含まれない蛍光粒子10は、移動しない暗い(低輝度な)光点として認識される。暗い光点は、背景(バックグラウンド)に隠れて、光点として識別できない場合もある。
【0090】
そこで、検出部150は、複数の2次元画像それぞれ含まれる1以上の明るい光点を追跡して、1以上の光点それぞれの移動速度を算出する。そして、検出部150は、算出された移動速度が閾値速度よりも大きい光点を計数し、計数たした光点の数を標的物質1の数とする。これにより、混合溶液22中の標的物質1の数又は濃度等が求められる。
【0091】
図7は、実施の形態1に係る検出装置100で得られる複数の2次元画像に基づく移動する光点を示す2次元画像30の一例を示す。図7では、視認しやすいように背景の明暗が反転されている。
【0092】
図7において、2次元画像30は、水平方向に移動する光点31及び光点32を含む。検出部150は、動く光点31、32を計数することで、標的物質1を計数できる。なお、金属粒子2に固定された第1物質3単体も、第2磁場24によって横方向に移動するが、蛍光を放射しないので、複数の2次元画像において光点として現れない。
【0093】
[検出装置の動作]
以上のように構成された検出装置100の動作について図8を参照しながら説明する。図8は、実施の形態1に係る検出装置100の処理を示すフローチャートである。
【0094】
まず、試料収容部110は、あらかじめ調製された混合溶液22を収容する(S101)。これにより、複合体6aを含む混合溶液22は、基板112とカバーガラス113との間に配置される。なお、混合溶液22の調製は、標的物質1を含む溶液、蛍光粒子10で標識された第2物質11を含む溶液、及び、金属粒子2に固定された第1物質3を含む溶液の順不同な混合により行われる。
【0095】
第1磁場印加部131は、混合溶液22に対して第1磁場23を印加する(S102)。これにより、混合溶液22中の複合体6aは、基板112の表面112aに引き寄せられる。なお、第1磁場23の印加は所定の期間行われる。所定の期間とは、混合溶液22中に分散した複合体6aが基板112の表面112aまで移動するために十分な長さを有する期間である。所定の期間の長さは、混合溶液22中の粒子の分散性及び磁性の度合い、第1磁場23の強度に応じて設定される。
【0096】
次に、光源120は、基板112の裏面112bに励起光21を照射することで、基板112の表面112aに近接場を形成する(S103)。励起光21の近接場は、第1磁場23によって基板112の表面112aに引き寄せられた複合体6aに照射される。
【0097】
続いて、第2磁場印加部132は、混合溶液22に対して第2磁場24を印加する(S104)。これにより、混合溶液22中の複合体6aは基板112の表面112aに沿って移動する。第2磁場24の印加は、励起光21が照射されている間に行われる。
【0098】
撮影部140は、ロングパスフィルタ141を介して基板112上の蛍光を経時的に撮影して複数の2次元画像を取得する(S105)。ここで取得される複数の2次元画像の各々は、基板112の表面112aの平面視における蛍光強度の2次元画像である。撮影部140は、あらかじめ設定された時間間隔で2次元画像を撮影して、蛍光強度の時間変化を示す動画像(つまり、複数の2次元画像)を得る。複数の2次元画像の撮影は、第2磁場24が印加されている間、かつ、励起光21が照射されている間に行われる。
【0099】
検出部150は、複数の2次元画像を解析して、複数の2次元画像において観測される移動速度が閾値速度よりも大きい光点を計数することで、標的物質1の定性的又は定量的な検出結果を出力する(S106)。
【0100】
[効果等]
以上のように、本実施の形態では、複数の2次元画像の間で位置変化(つまり移動)する光点は、複合体6aから放射された蛍光を表す。したがって、検出部150は、複数の2次元画像の間で位置変化する光点に基づいて標的物質1を検出することができる。このとき、標的物質1と結合していない第1物質3は、蛍光粒子10を有しないので蛍光を放射しない。また、標的物質1と結合していない第2物質11は、金属粒子2を有しないので第1磁場23及び第2磁場24によって移動しない。したがって、標的物質1と結合していない第2物質11は、基板112の表面112a近傍に引き寄せられないので、近接場で照射されず蛍光をほとんど放射しない。このように標的物質1と結合していない第1物質3及び第2物質11による蛍光を抑制することができ、2次元画像上の背景の輝度の上昇を抑制することができる。したがって、検出装置100は、第1物質3及び第2物質11の濃度を増加しても標的物質1を検出することができ、標的物質1を検出可能な定量範囲を拡大できる。
【0101】
また、複合体6aが放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強されるので、2次元画像において高輝度な光点として現れる。一方、複合体6aに含まれない第2物質11が放射する蛍光は、金属粒子2の近傍に存在しないので低輝度な光点として現れる。したがって、移動する光点を自動的に画像認識することが容易になり、誤検出を減らすことができる。さらに、より小粒径の蛍光粒子でも光点として認識できるので、より小粒径の蛍光粒子を利用することが可能となる。その結果、反応速度を向上させることができ、検出を高速化できる。
【0102】
また、金属粒子2において、常磁性又は強磁性を有する磁性材料からなる内核部2aを非磁性の金属材料からなる外殻部2bで覆うことができる。したがって、磁性材料の残留磁化によって金属粒子2が凝集することを抑制することができる。その結果、複数の2次元画像における光点の輝度及び移動速度のばらつきを抑制することができ、検出精度を向上させることができる。
【0103】
また、金属粒子2は、局在化表面プラズモン共鳴を生じる金属材料で当該金属粒子の表面を覆うことができるので、表面の一部が金属材料で構成される場合よりも、金属粒子2の周方向における増強度のばらつきを抑制することができる。
【0104】
また、金、銀、アルミニウム、又はいずれかを主成分として有する合金を外殻部に用いることができ、金属粒子2において効果的に局在化表面プラズモン共鳴を生じさせることができる。さらに、外殻部2bが金からなる場合、金属粒子2の表面に各種機能を有するコーティングを施しやすくなる。例えば、外殻部2bに非特異吸着防止コーティングが施されれば、蛍光粒子10で標識された第2物質11が金属粒子2の表面に吸着する非特異吸着を低減することができ、検出結果として偽陽性及び偽陰性が発生することを低減することができる。
【0105】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態では、近接場を利用しない点が上記実施の形態1と異なる。以下に、本実施の形態に係る検出装置について、上記実施の形態1と異なる点を中心に図9を参照しながら説明する。
【0106】
[検出装置の構成]
図9は、実施の形態2に係る検出装置200の構成図である。図9に示すように、検出装置200は、試料収容部210と、光源220と、磁場印加部230と、撮影部140と、ロングパスフィルタ141と、検出部150と、を備える。
【0107】
試料収容部210は、実施の形態1と同様に、複合体6aと、蛍光粒子10で標識された第2物質11と、金属粒子2に固定された第1物質3とを含む混合溶液22を収容する。具体的には、試料収容部210は、基板212及びカバーガラス113を備える。なお、本実施の形態では、基板212は、近接場を形成できなくてもよい。したがって、試料収容部210は、プリズム111を備えてなくてもよい。
【0108】
光源220は、所定の波長を有する励起光41を照射する。所定の波長としては、実施の形態1の励起光21と同一の波長を用いることができる。本実施の形態では、光源220は、励起光41の近接場を形成せず、励起光41を混合溶液22に直接照射する。具体的には、光源220は、基板212とカバーガラス113の間にわたって基板212及びカバーガラス113に平行に励起光41を照射する。このように励起光41が照射されることで、混合溶液22全体にわたって励起光41を照射することができ、かつ励起光41が撮影部140に直接入射することを抑えられる。
【0109】
磁場印加部230は、実施の形態1における第2磁場印加部132と同様に、横向き方向(基板212の表面に平行な方向)の成分を有し、他の方向の成分を有さない磁場42を印加する。磁場42は、横向き方向の成分を有し、他の方向の成分を有さない。この磁場42により、混合溶液22中の金属粒子2に固定された第1物質3及び複合体6aは、水平方向に移動する。
【0110】
[検出装置の動作]
ここで、本実施の形態に係る検出装置200の動作について図10を参照しながら説明する。図10は、実施の形態2に係る検出装置200の処理を示すフローチャートである。
【0111】
ステップS101で混合溶液22が試料収容部210に収容された後、光源220は、混合溶液22に励起光41を照射する(S203)。そして、磁場印加部230は、磁場42を印加する(S204)。この磁場42の印加は、励起光41が照射されている間に行われる。
【0112】
その後、実施の形態1と同様に、ステップS105及びステップS106が実行される。
【0113】
[効果等]
以上のように、本実施の形態でも、複数の2次元画像の間で移動する光点は複合体6aから放射された蛍光を表す。したがって、検出部150は、複数の2次元画像の間で位置変化する光点に基づいて標的物質1を検出することができる。このとき、実施の形態1と同様に、標的物質1と結合していない第1物質3は、蛍光粒子10を有しないので蛍光を放射しない。また、標的物質1と結合していない第2物質11が放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強されない。したがって、複合体6aに対応する光点を、その他の物質に対応する光点との輝度の差異を大きくすることができ、移動する光点を自動的に画像認識することが容易になり、誤検出を低減することができる。
【0114】
また、複合体6aが放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴によって増強されるので、より小粒径の蛍光粒子でも光点として認識できるので、より小粒径の蛍光粒子も利用できる。さらに、実施の形態1における第1磁場印加部131による第1磁場23の印加が不要となる。したがって、本実施の形態に係る検出装置200は高速化に有利である。
【0115】
(実施例1)
[シミュレーションモデル及びシミュレーション結果]
次に、金属粒子2で生じる局在化表面プラズモン共鳴による増強度のシミュレーションを実施例1として図11図14を参照しながら説明する。
【0116】
本実施例では、標的物質1として10nm程度のサイズを有する血清アルブミンを用いた。また、金属粒子2としては、直径が13.6nmの酸化鉄フェライトの内核部2aと金の外殻部2bとを有するコアシェル型の粒子を用いた。金属粒子2の直径は50nmであった。蛍光体4としては、1nm以下の有機シアニン系蛍光分子であるCyanine 3(Cy3、分子量:714、励起波長:(512);550、蛍光波長:570;(615)、量子収率QY:0.15)を用いた。第1物質3及び第2物質5としては、15nm程度のサイズを有するモノクローナルIgG抗体を用いた。
【0117】
これらが複合体6を形成した場合、金属粒子2の表面と蛍光体4との距離は、第2物質5が標的物質1と結合する位置(結合部位)によって異なる。図11は、実施例1における金属粒子2と蛍光体4との位置関係を示す図である。図11の(a)は、実施例1における金属粒子2の表面と蛍光体4との距離の最大値(35nm程度)を示す。一方、図11の(b)は、実施例1における金属粒子2の表面と蛍光体4との距離の最小値(10nm程度)を示す。
【0118】
ここで、金属粒子2の周辺の電場強度をFDTD法(Finite-difference time-domain method)を用いてシミュレーションした。図12は、実施例1及び2におけるシミュレーションモデルを説明するための図である。図12に示すように、本実施例では、水中に存在する直径が50nmのコアシェル型の金属粒子2にz軸の負の向きに伝搬する平面波を照射した。この平面波は、x軸に沿って直線偏光しており、平面波の電場強度は、1[V/m]であった。このようなシミュレーションモデルにおいて、金属粒子2の表面からΔxだけ離間した計測位置における電場強度を計算した。
【0119】
図13は、実施例1における金属粒子付近の電場強度の波長依存性を示すグラフである。図13には、シミュレーションの結果が示されている。図13において、横軸は励起光の波長を示し、縦軸は電場強度の2乗((V/m))を示す。データポイント51は、金属粒子2の表面より10nm離れた計測位置(図12におけるΔx=10nm)の電場強度の2乗の値を示す。データポイント52は、金属粒子2の表面より35nm離れた計測位置(図12におけるΔx=35nm)の電場強度の2乗の値を示す。電場強度の2乗は、増強度に相当する。図13から明らかなように、約500~600nmの波長域で局在化表面プラズモン共鳴が生じている。
【0120】
次に、蛍光体4として用いられたCy3の消光スペクトル及び蛍光スペクトルについて説明する。図14は、実施例1における蛍光体4の消光スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。図14において、横軸は波長を示し、縦軸は消光度及び蛍光強度の各々の相対値を示す。ここでは、相対値は、消光スペクトル及び蛍光スペクトルの値の範囲を0から1の範囲で正規化して得られた値である。データポイント53は、消光スペクトルを示し、データポイント54は蛍光スペクトルを示す。
【0121】
図13及び図14から、直径が50nmの金属粒子2で生じる局在化表面プラズモン共鳴の波長域と、Cy3を励起するための波長域及びCy3が放射する蛍光の波長域とが重なっていることがわかる。したがって、Cy3に入射する励起光及びCy3が放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴の作用により増強される。
【0122】
[励起光及び蛍光に対する増強度]
ここで、図13を参照しながら、532nmの波長を有する励起光に対する増強度について説明する。図13より、図11の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置での励起光に対する増強度は、以下のとおりである。
【0123】
EF(532、35)=1.3
EF(532、10)=8.0
ここで、EF(λ、Δx)は、Δxの位置における波長λを有する光に対する増強度(電場強度の2乗)を表す。したがって、EF(532、35)が図11の(a)の蛍光体4の位置(Δx=35)での励起光に対する増強度を表し、EF(532、10)が図11の(b)の蛍光体4の位置(Δx=10)での励起光に対する増強度を表す。
【0124】
これより、図11の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置では、励起光は、金属粒子2が存在しない場合よりも、それぞれ、1.3倍及び8倍に増強されることがわかる。この励起増強は、局在化表面プラズモン共鳴により励起光が金属粒子2の周辺に集められることで発生する。
【0125】
次に、このような励起光によって蛍光体4が放射する蛍光に対する増強度について説明する。532nmの波長を有する励起光で励起されたCy3は、570nmのピーク波長を有する分光スペクトルを有する蛍光を放射する(図14の蛍光スペクトルを参照)。図13より、570nmの波長を有する蛍光に対する増強度は以下のとおりである。
【0126】
EF(570、35)=2.4
EF(570、10)=13
これより、図11の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置では、Cy3から放射された蛍光は、金属粒子2が存在しない場合よりも、それぞれ、2.4倍及び13倍に増強されることがわかる。この放射増強は、局在化表面プラズモン共鳴により、金属粒子2の周辺の蛍光体4の量子収率が増加することで発生する。
【0127】
Cy3の量子収率は、通常(周辺に金属粒子2が存在しない場合)は、0.15である。量子収率の最大値は1であるので、Cy3に対する放射増強の最大値は、1/0.15≒6.7である。したがって、増強度EF(570、Δx)の最大値は、6.7におさえられるので、EF(570、10)は以下の値に置き換えられる。
【0128】
EF(570、10)=6.7
[表面増強蛍光の増強度]
表面増強蛍光は、励起増強と放射増強とにより発生するので、表面増強蛍光の増強度は、励起増強の増強度と放射増強の増強度との積で求められる。したがって、Cy3の表面増強蛍光の増強度は以下のように求められる。
【0129】
SEF(35)=EF(532、35)×EF(570、35)=1.3×2.4=3.1
SEF(10)=EF(532、10)×EF(570、10)=8×6.7≒54
ここで、SEF(Δx)は、Δxの位置における表面増強蛍光の増強度を示す。
【0130】
以上のように、本実施例では、複合体6に含まれる蛍光体4(Cy3)が放射する蛍光は、複合体6に含まれない蛍光体4(Cy3)が放射する蛍光と比べて、3.1~54倍に増強された。
【0131】
(実施例2)
次に、実施例1における抗体よりも小さい抗体を用いた場合における金属粒子2で生じる局在化表面プラズモン共鳴による増強度のシミュレーション結果を実施例2として説明する。実施例2では、実施例1と異なる点を中心に図15図17を参照しながら説明する。
【0132】
[シミュレーションモデル及びシミュレーション結果]
本実施例では、実施例1で示したIgG抗体よりも小型の抗体であるフラグメント抗体F(ab’)2を第1物質3b及び第2物質5bとして用いた。このフラグメント抗体(F(ab’)2)は、IgG抗体を断片化した抗体であり、IgG抗体をタンパク質分解酵素であるペプシンで分解して得られる。F(ab’)2には、IgG抗体のN末端側のヒンジ部位が含まれており、2個の抗体結合部がヒンジ部位で結合している。F(ab’)2の大きさは、IgG抗体の半分程度であり、7nm程度である。
【0133】
このF(ab’)2を用いて複合体6bが形成された場合、金属粒子2の表面と蛍光体4との距離は、第2物質5bが標的物質1と結合する位置(結合部位)によって異なる。図15は、実施例2における金属粒子2と蛍光体4との位置関係を示す図である。図15の(a)は、金属粒子2の表面と蛍光体4との距離の最大値(25nm程度)を示す。一方、図15の(b)は、金属粒子2の表面と蛍光体4との距離の最小値(7nm程度)を示す。
【0134】
ここで、金属粒子2の周辺の電場強度を実施例1と同様にFDTD法を用いてシミュレーションした。このシミュレーションのモデルは、実施例1と同様であるので図示及び説明を省略する。
【0135】
図16は、実施例2における金属粒子付近の電場強度の波長依存性を示すグラフである。図16には、シミュレーションの結果が示されている。図16において、横軸は励起光の波長を示し、縦軸は電場強度の2乗((V/m))を示す。データポイント61は、金属粒子2の表面より7nm離れた計測位置(図12におけるΔx=7nm)の電場強度の2乗の値を示す。また、データポイント62は、金属粒子2の表面より25nm離れた計測位置(図12におけるΔx=25nm)の電場強度の2乗の値である。図14及び図16から、実施例1と同様に、局在化表面プラズモン共鳴の波長域と、Cy3を励起するための波長域及びCy3が放射する蛍光の波長域とが重なっていることがわかる。したがって、Cy3に入射する励起光及びCy3が放射する蛍光は、局在化表面プラズモン共鳴の作用により増強される。
【0136】
[励起光及び蛍光に対する増強度]
ここで、図16を参照しながら、532nmの波長を有する励起光に対する増強度について説明する。図16より、図15の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置での励起光に対する増強度は、以下のとおりである。
【0137】
EF(532、25)=2.0
EF(532、7)=13
これより、図15の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置では、Cy3から放射された蛍光は、金属粒子2が存在しない場合よりも、それぞれ、2倍及び13倍に増強されることがわかる。
【0138】
次に、このような励起光によって蛍光体4が放射する蛍光に対する増強度について説明する。532nmの波長を有する励起光で励起されたCy3は、570nmのピーク波長を有する分光スペクトルを有する蛍光を放射する(図14の蛍光スペクトルを参照)。図16より、570nmの波長を有する蛍光に対する増強度は以下のとおりである。
【0139】
EF(570、25)=3.7
EF(570、7)=20
これより、図15の(a)及び(b)に示す蛍光体4の位置では、Cy3から放射された蛍光は、金属粒子2が存在しない場合よりも、それぞれ、3.7倍及び20倍、に増強されることがわかる。この放射増強は、局在化表面プラズモン共鳴により、金属粒子2の周辺の蛍光体4の量子収率が増加することで発生する。
【0140】
実施例1と同様に、Cy3の量子収率の最大値(=1)の制限により、Cy3に対する放射増強の最大値は、1/0.15≒6.7である。したがって、増強度EF(570、10)は、6.7におさえられるので、EF(570、10)は、実施例1と同様に以下の値に置き換えられる。
【0141】
EF(570、7)=6.7
[表面増強蛍光の増強度]
表面増強蛍光は、励起増強と放射増強とにより発生するので、表面増強蛍光の増強度は、励起増強の増強度と放射増強の増強度との積で求められる。したがって、Cy3の表面増強蛍光の増強度SEF(Δx)は以下のように求められる。
【0142】
SEF(25)=EF(532、25)×EF(570、25)=2.0×3.7=7.4
SEF(7)=EF(532、7)×EF(570、7)=13×6.7≒87
以上のように、本実施例では、複合体6bに含まれる蛍光体4(Cy3)が放射する蛍光は、複合体6b含まれない蛍光体4(Cy3)が放射する蛍光と比べて、7.4~87倍に増強された。
【0143】
[増強度の距離依存性]
実施例1及び実施例2から明らかなように、励起光及び蛍光に対する増強度は、金属粒子2からの距離によって変化する。そこで、励起光及び蛍光に対する増強度の距離依存性のFDTDシミュレーション結果について図17を参照しながら説明する。
【0144】
図17は、実施例1及び2における金属粒子2付近の電場強度の距離依存性を示すグラフである。図17において、横軸は金属粒子2からの距離Δxを示し、縦軸は増強度を示す。データポイント71は、532nmの波長を有する励起光の増強度を示す。また、データポイント72は、570nmの波長を有する蛍光の増強度を示す。
【0145】
図17に示すように、Δxが減少すれば増強度が増加するので、Δxが小さくなるように抗体のサイズ及び結合部位を選択することで、表面増強蛍光の増強度を増大することができる。ただし、蛍光体4と金属粒子2との距離Δxが5nmよりも小さくなると、蛍光体4から金属粒子2へ直接エネルギーが移動することによる蛍光消光(クエンチ)現象が発生するので、Δxが5nm未満でなくてもよい(例えば非特許文献5を参照)。
【0146】
以上のように、実施例1及び実施例2では、光源120として、実用性が高い広く普及している半導体励起固体(DPSS:Diode Pumped Solid State)レーザが用いることができ、実用的である。
【0147】
また、実施例2では、実施例1よりも小型の抗体を利用することで、実施例1よりも更に表面増強蛍光の増強度を増大することができ、標的物質1をより高感度に検出することができる。
【0148】
なお、実施例1及び実施例2のどちらの抗体でも、上述した各実施の形態において効果をもたらすことができる。ただし、蛍光体4と比較して大きいポリスチレン粒子などが蛍光粒子10として用いられる場合は、金属粒子2の表面からの距離をΔxで一定に近似できないので、実施例1及び実施例2におけるシミュレーション結果よりも効果は限定的である。
【0149】
(変形例)
以上、本開示の1つまたは複数の態様に係る検出装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0150】
例えば、上記各実施の形態において、第1物質及び第2物質は、実施例1及び2で示したIgG抗体及びフラグメント抗体(F(ab’)2)に限定されない。例えば、F(ab’)2の代わりに、1個の結合部を有するFab’、Fab、Fv、scFv等のフラグメント抗体が用いられてもよい。また、ラクダ科動物(ラマ、アルパカ等)から得られる重鎖で構成される抗体(重鎖抗体)の可変領域の断片であるVHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)抗体(ナノボディ)が用いられてもよい。さらに、第1物質及び第2物質は、標的物質と特異的に結合する物質であれば抗体に限定されず、核酸分子、又は、ペプチドであるアプタマーであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本開示は、簡単、高速、高精度に標的物質を検出するセンサデバイスに用いられる。
【符号の説明】
【0152】
1 標的物質
2 金属粒子
3、3b 第1物質
4 蛍光体
5、5b、11 第2物質
6、6a、6b 複合体
7、21、41 励起光
8 表面増強蛍光
9 蛍光
10 蛍光粒子
22 混合溶液
23 第1磁場
24 第2磁場
30 2次元画像
31、32 光点
42 磁場
100、200 検出装置
110、210 試料収容部
111 プリズム
112、212 基板
113 カバーガラス
120、220 光源
131 第1磁場印加部
132 第2磁場印加部
140 撮影部
141 ロングパスフィルタ
150 検出部
230 磁場印加部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17