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特許7436491無担体3D球体浮遊培養における網膜ニューロン生成のための方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】無担体3D球体浮遊培養における網膜ニューロン生成のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20240214BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240214BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20240214BHJP
   A61K 35/30 20150101ALN20240214BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/0735
C12N5/10
A61P27/02
A61K35/30
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021538157
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 US2019049916
(87)【国際公開番号】W WO2020051429
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】62/728,088
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521098227
【氏名又は名称】ヒービセル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チアン, フェン
(72)【発明者】
【氏名】エルセン, ジーナ
(72)【発明者】
【氏名】ルー, シ-ジアン
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0218335(US,A1)
【文献】Stem Cell Research & Therapy,2018年06月13日,9:156,https://doi.org/10.1186/s13287-018-0907-0
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光受容体前駆細胞のインビトロ産生のための方法であって、
(a)多能性幹細胞をCRNPに分化させる神経誘導培地において、複数の多能性幹細胞を三次元(3D)球体培養して、眼の初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)を含む複数の第1の球体を生成することであって、ステップ(a)の前記神経誘導培地が、HEPES含有DMEM/F12、ならびにN2およびB27無血清サプリメントを含有し、ソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189、およびIGF1のうちの1つまたは複数が補充されている、前記第1の球体を生成すること
(b)前記第1の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(c)前記第1の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達したときに、前記第1の球体を第1の複数の実質的に単一の細胞へ解離させることであって、前記第1の複数の実質的に単一の細胞の50%以上が単一の細胞である、解離させること;
(d)前記CRNPをPRPCに分化させる光受容体分化培地において、前記第1の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、光受容体前駆細胞(PRPC)を含む複数の第2の球体を生成することであって、ステップ(d)の前記光受容体分化培地が、Neurobasal(商標)培地、ならびにN2およびB27無血清サプリメントを含有する、前記第2の球体を生成すること
(e)前記第2の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(f)前記第2の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達したときに、前記第2の球体を第2の複数の実質的に単一の細胞へ解離させることであって、前記第2の複数の実質的に単一の細胞の50%以上が単一の細胞である、解離させること;および
(g)前記PRPCを有糸分裂後のPRPCに分化させる成熟培地において、前記第2の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、有糸分裂後のPRPCを含む複数の第3の球体を生成することであって、ステップ(g)の前記成熟培地が、L-グルタミン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸、およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含有するNeurobasal (商標) 培地を含む、前記第3の球体を生成すること
を含む、方法。
【請求項2】
(h)有糸分裂後のPRPCを光受容体様細胞に分化させる成熟培地において、前記有糸分裂後のPRPCを光受容体様細胞へさらに分化させることを含み、ステップ(h)の前記成熟培地が、L-グルタミン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸、およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含有するNeurobasal (商標) 培地を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記胚性幹細胞または人工多能性幹細胞がヒト由来である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)、(d)および(g)が、スピナーフラスコまたは攪拌タンクバイオリアクター内で培養することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)、(d)および(g)が、連続攪拌下で、スピナーフラスコまたは攪拌タンクバイオリアクター内で培養することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a)の前記神経誘導培地が、HEPES含有DMEM/F12、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸ならびにグルコースを含有し、ソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189およびIGF1のうちの1つまたは複数が補充されたNIM-3D(神経誘導培地-3D)基本培地である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(a)が、SB431542、LDN193189およびIGF1を第1の期間提供すること、IWR-1eを前記第1の期間より短い第2の期間提供すること、およびソニックヘッジホッグまたはヘパリンを前記第2の期間より短い第3の期間提供することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の期間が10~20日である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の期間が12~18日である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の期間が16日である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の期間が5~15日である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の期間が8~14日である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の期間が11日である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第3の期間が3~12日である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記第3の期間が5~10日である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第3の期間が7日である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)において、前記第1の球体が直径約350~450μmの平均サイズに達し、ステップ(c)において、前記第1の球体が直径約350~450μmの平均サイズに達したときに、前記第1の球体が第1の複数の実質的に単一の細胞へ解離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)において、前記第1の球体が直径約400μm未満の平均サイズに達し、ステップ(c)において、前記第1の球体が直径約400μmの平均サイズに達したときに、前記第1の球体が第1の複数の実質的に単一の細胞へ解離される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(c)および(f)が、それぞれ、前記第1の球体および前記第2の球体を細胞解離酵素と接触させることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(d)の前記光受容体分化培地が、Neurobasal(商標)培地、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸およびグルコースを含有するPRPC-3D培地である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(g)および/または(h)の前記成熟培地が、L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含有するNeurobasal(商標)培地である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項23】
前記L-グルタミンがGlutaMAX(商標)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(g)および/または(h)が、直径が約300~500μmになるまで球体サイズをモニタリングすること、前記第3の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達したときに、前記第3の球体を第3の複数の実質的に単一の細胞に解離させることであって、前記第3の複数の実質的に単一の細胞の50%以上が単一の細胞である、解離させること、および前記第3の複数の実質的に単一の細胞を再凝集させることをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項25】
前記第3の球体が、細胞解離酵素を用いて、第3の複数の実質的に単一の細胞に解離される、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月7日に出願された米国仮特許出願第62/728,088号の優先権および恩典を主張し、その開示全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般には、例えば、ヒト多能性幹細胞からの網膜ニューロン生成のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
加齢黄斑変性および遺伝性網膜変性は、先進国における処置不可能な失明の主要な原因となっている[1]。これらは、桿体および錐体からなる光感受性光受容体の喪失という共通の最終的な病態生理を共有している。失われた光受容体の交換は、有効な処置の選択肢を欠く両患者集団に対して潜在的な処置戦略を提供し得る[1-3]。ほとんどの黄斑疾患は、光受容体および網膜色素上皮(RPE)の両方の喪失を伴い、後者は網膜外層中の光受容体の健康を支え、維持する。臨床試験において萎縮型加齢黄斑変性(AMD)およびシュタルガルト病の患者を処置するためのヒト胚性幹細胞(hESC)由来RPEの移植が発表され、4年後の評価を含む安全性と有効性の証拠が示されている[4-6]が、ヒト臨床試験において、ヒト多能性幹細胞(hPSC)由来の光受容体についてはそのような研究は行われていない[7]。
【0004】
大きな倫理上の制約があり、ヒト組織由来(form)のPRPCは供給が限られているので、効果的な光受容体移植療法を開発するための主な要件は、hESCおよびヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)などの再生可能な供給源からの大量の均質な光受容体前駆細胞(PRPC)の生成を可能にする強固なプロトコルを確立することである[8]。過去数十年の間に、インビトロで、さまざまなマウスおよびヒトPSC源から、PRPCおよび光受容体などの網膜細胞型をさまざまな程度の効率で生成する能力が目覚ましい進歩を遂げており、hPSC由来のPRPCの潜在性がさまざまな動物モデルを用いる前臨床移植研究において確立されている[2、7、9-13]。
【0005】
現在、ほとんどの分化プロトコルは、従来の接着性二次元(2D)平面培養を使用し、これは、タンパク質因子のカクテルへの曝露によって[9-11、14、15]、またはさらなる分化のために被覆されたもしくは被覆されていない表面にその後接着される胚様体(EB)として知られる細胞凝集体の静置培養での制御されない形成によって[1、2、8]、一般に2D単層として直接分化が開始される。最近、Sasaiらは、正常な網膜の発達の多くの側面を再現する、網膜オルガノイドと呼ばれるEBを基礎とした自己組織化する3D分化系を記載した[16]。この技術に基づいて、いくつかの研究室によって、ヒトPSCが積層された3D網膜オルガノイドから、PRPCおよび光受容体が生成されている[12、17-21]。しかしながら、長期培養されたオルガノイドは、異なる発達段階にある多数の細胞型およびこれらの細胞種間での密着結合の形成を含有するため、酵素的または物理的な解離に対して脆弱になり、病的で不均一な細胞集団が生成される。さらに、これらのアプローチはすべて、研究目的のために使用することができる光受容体またはその前駆体を生成したが、大きな安全上の懸念となる非ヒト由来の未確定のタンパク質を使用しているために、臨床に適用するための移植可能な細胞の生成には適していない。
したがって、定義された条件下で、hPSCから、PRPCおよび光受容体などの特定の細胞の均質な集団を生成することができる拡張可能なプラットフォームに対する要求が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Stern, J.H., et al., Regenerating Eye Tissues to Preserve and Restore Vision. Cell Stem Cell, 2018. 22(6): p. 834-849.
【文献】Gonzalez-Cordero, A., et al., Recapitulation of Human Retinal Development from Human Pluripotent Stem Cells Generates Transplantable Populations of Cone Photoreceptors. Stem Cell Reports, 2017. 9(3): p. 820-837.
【文献】Santos-Ferreira, T.F., O. Borsch, and M. Ader, Rebuilding the Missing Part-A Review on Photoreceptor Transplantation. Front Syst Neurosci, 2016. 10: p. 105.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、とりわけ、光受容体前駆細胞のインビトロ産生のための方法であって、
(a)複数の多能性幹細胞を三次元(3D)球体培養して、眼の初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)を含む複数の第1の球体を生成すること;
(b)前記第1の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(c)前記第1の球体を第1の複数の実質的に単一の細胞へ解離させること;
(d)前記第1の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、光受容体前駆細胞(PRPC)を含む複数の第2の球体を生成すること;
(e)前記第2の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(f)前記第2の球体を第2の複数の実質的に単一の細胞へ解離させること;
(g)前記第2の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、有糸分裂後のPRPCを含む複数の第3の球体を生成すること;
(h)必要に応じて、前記有糸分裂後のPRPCを光受容体様細胞へさらに分化させること;
を含む方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、好ましくはヒトに由来する、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞であり得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、ステップ(a)、(d)および(g)は、好ましくは連続的な攪拌下で、スピナーフラスコまたは攪拌タンクバイオリアクター中で培養することを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、ステップ(a)は、神経誘導培地、好ましくは、HEPES含有DMEM/F12、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸ならびにグルコースを含有し、ソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189およびIGF1の1またはそれより多くが補充されたNIM-3D(神経誘導培地-3D)基本培地に徐々に適応させ、その中で培養することをさらに含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、この方法は、神経誘導培地中にSB431542、LDN193189およびIGF1を第1の期間提供すること、神経誘導培地中にIWR-1eを第1の期間より短い第2の期間提供すること、および神経誘導培地中にソニックヘッジホッグまたはヘパリンを第2の期間より短い第3の期間提供することをさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、第1の期間は、10~20日、好ましくは12~18日、より好ましくは16日である。いくつかの実施形態において、第2の期間は、5~15日、好ましくは8~14日、より好ましくは11日である。いくつかの実施形態において、第3の期間は、3~12日、好ましくは5~10日、より好ましくは7日である。
【0012】
いくつかの実施形態において、ソニックヘッジホッグまたはヘパリンは、神経の運命決定(commitment)の間に、例えば、IWR-1e除去の約1~5日、2~4日または2日前に取り除くことができる。IWR-1eは、神経誘導培地中での完全な適応時に、完全な適応の約1~5日(または2~4日もしくは1日)前に、取り除くことができる。本明細書で使用される場合、ある培地中での完全な適応は、100%そのような培地中で培養することを指す。SB431542、LDN193189およびIGF1は、光受容体分化培地への適応の開始時または適応の1~5日(または2~4日もしくは3日)前に取り除くことができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、ステップ(b)において、第1の球体は、直径約350~450μmの平均サイズに達することができる。いくつかの実施形態において、ステップ(b)において、第1の球体は、直径約400μm未満の平均サイズに達することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)および(f)は、それぞれ、第1の球体および第2の球体を細胞解離酵素と接触させることを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、ステップ(d)は、光受容体分化培地、好ましくはNeurobasal(商標)培地、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸およびグルコースを含有するPRPC-3D培地に徐々に適応させ、その中で培養することをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、ステップ(g)および/または(h)は、成熟培地、好ましくはL-グルタミン(例えば、GlutaMAX(商標))、ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含有するNeurobasal(商標)培地へ切り替え、その中で培養することをさらに含む。特定の実施形態において、前記切り替えは、成熟培地へ徐々に適応させることを含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、ステップ(g)および/または(h)は、直径が約300~500μmになるまで球体サイズをモニタリングすること、好ましくは細胞解離酵素を用いて、第3の球体を第3の複数の実質的に単一の細胞に解離させること、および第3の複数の実質的に単一の細胞を再凝集させることをさらに含む。
【0018】
別の態様は、HEPES含有DMEM/F12、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸、グルコースならびにソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189および/またはIGF1の1またはそれより多くを含む神経誘導培地に関する。
【0019】
別の態様は、Neurobasal(商標)培地、L-グルタミン(例えば、GlutaMAX(商標))、ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含む成熟培地に関する。
【0020】
さらなる態様は、本明細書に開示される方法を使用して調製された複数の有糸分裂後のPRPCおよび/または光受容体様細胞を、それを必要とする患者に投与することを含む、光受容体補充療法のための方法に関する。本明細書に開示される方法を使用して調製された有糸分裂後のPRPCおよび/または光受容体様細胞の使用も、例えば、光受容体補充療法のために提供される。いくつかの実施形態において、光受容体補充療法は、萎縮型および滲出型の両方の加齢黄斑変性、桿体または錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、レーバー先天黒内障およびシュタルガルト病などの網膜疾患の処置のためのものである。
【0021】
別の態様は、本明細書に開示される方法を使用して調製された複数の有糸分裂後のPRPCおよび/または光受容体様細胞において薬剤を試験することを含む、インビトロスクリーニングのための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、2D単層および3D球体hiPSCの特性評価。(パネルA)左から右へ、10cmの2D細胞培養皿、hiPSC単層コロニー、OCT4陽性hiPSC(97.9%)のフローサイトメトリーヒストグラムおよび2D培養からのhiPSCの核型分析。(パネルB)(上、左から右)スピナーフラスコ、30mlスピナー(バイオリアクター)中で培養された3D hiPSC球体、OCT4陽性hiPSC(98.8%)のフローサイトメトリーヒストグラムおよび3D球体からのhiPSCの核型分析。(下)4日の継代間隔中の1つのhiPSC株からの典型的な3D球体継代サイクル、培地交換、形態および球体サイズ。
【0023】
図2図2は、3D球体分化プロトコルおよびタイムライン。(パネルA)スキームは、約100日間にわたる3D球体PRPCの分化を示している。分化の日数、特定の培地、ならびに各時点で使用された小分子および成長因子が示されている。(パネルB)スキームは、眼の初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)および光受容体前駆細胞(PRPC)への3D-hiPSCの誘導および分化のために使用された段階的戦略を示している。細胞を凍結する時点が図中に示されている。
【0024】
図3-1】図3A~3Cは、hiPSCからの3D球体における運命決定された網膜ニューロン前駆体の誘導。図3A:位相差画像は、30mlスピナーフラスコ中での、D0からD19までの、3D神経球体の無傷な形態および拡大を示している。D0(3000万個)、D9(約2億5000万個)およびD19(約4億5000万個)での細胞の数が示されている。図3B:表は、網膜ニューロンの分化のために使用された4つのhiPSC株から得られた結果をまとめたものである。神経分化の効率は、神経細胞のマーカーとしてPAX6抗体を使用するフローサイトメトリーによって評価された。図3C:3,000万個のhiPSCで開始し、1つのスピナーフラスコから生成された19日目での初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)のおよその収量。
図3-2】同上。
【0025】
図4-1】図4A~4Cは、3D-hiPSC球体の誘導されたニューロンの分化中の多能性および神経マーカーの発現動態。図4A:グラフは、フローサイトメトリーによって分析された、D0からD19までの分化の間の4つのhiPSC株のOCT4、PAX6、PAX6/SOX2およびSOX2陽性細胞のパーセンテージを示している。図4B:神経分化の異なる日数におけるOCT4、PAX6、PAX6/SOX2陽性細胞のフローサイトメトリー分析。図4C:表は、フローサイトメトリー分析から得られた結果をまとめたものである。
図4-2】同上。
図4-3】同上。
【0026】
図5-1】図5A~5Bは、3D球体細胞における神経マーカーの特性評価。図5A:位相差画像および免疫蛍光染色は、3D神経球体に由来する細胞上のPAX6、RAX1、NESTINおよびSOX2を示している。D5における分化した細胞を播種し、8日間培養した後、神経特異的マーカーPAX6(緑)、CRNPマーカーRAX1(赤)ならびに一般的な神経マーカーNESTIN(緑)およびSOX2(赤)に対する抗体で染色した。高い割合の細胞がPAX6/RAX1およびNES/SOX2に対して二重陽性であり、神経ならびに初期および後期CRNPの独自性の獲得を示している。核はDAPIで対比染色された。スケールバー、100μm。図5B:誘導性分化の異なる日数におけるqRT-PCRによる遺伝子発現の定量分析。OCT4の発現はD5までに完全に消失した。PAX6の発現はD5で上昇し、D19まで続き、その後D40まで徐々に減少した。RAX1の発現はPAX6と同様のパターンを示した。CHX10の発現はD13でピークを示した後、D40で減少し、これは、分化のこの期間中での初期および後期のCRNP表現型の獲得およびD40後のPRPC特定の開始を示唆している。
図5-2】同上。
【0027】
図6図6は、継続的な解離/再凝集および球体再形成レジメンによって生成された網膜ニューロン球体。(パネルA)位相差画像は、30mlスピナーフラスコ中での、hiPSC分化のさまざまな段階での3D網膜ニューロン球体の形態および拡大パターンを示している。スケールバー=100μm。(パネルB)概略図は、3000万個で開始した3D-hiPSCからの初期および後期CRNPならびに有糸分裂後のPRPCの収量を示している。
【0028】
図7-1】図7A~7Cは、hiPSCから生成された3D-PRPCの特性評価。図7A:位相差画像は、D32(上)およびD82(下)での解離前の3D hiPSC由来の3D神経球体の形態、ならびに表面上でそれぞれ5日間(D37)と18日間(D100)培養された解離した単一細胞を示している。図7B:免疫蛍光染色は、表面上でさらに18日間培養されたD82での3D-PRPC球体に由来する細胞上でのCRX(緑)、ThRB2(赤)、ならびにNRL(赤)、MAP2(緑)およびGFAP(赤)の発現を示している。Ki67染色(赤)は、D100での有糸分裂細胞の割合が非常に低いことを示している。DAPIは核染色のために使用される。図7C:免疫蛍光染色は、さらに18日間表面上で培養されたD82での3D-PRPC球体に由来する細胞上での光受容体特異的タンパク質ロドプシン(RHOD、緑)およびリカバリン(REC、赤)の発現を示している。DAPIは核染色のために使用される。
図7-2】同上。
【0029】
図8-1】図8A~8Bは、hiPSCに由来する3D-PRPCの分子特性。図8A:80日の分化後に3D球体細胞でのフローサイトメトリー分析によって決定されたOCT4(0%)、CRX(95.2%)、NRL(96.6%)、NR2E3(91.3%)、REC(96.8)およびM-オプシン(91.2%)の細胞内染色の定量。二次抗体のみを陰性対照として使用した。図8B:異なる日数の網膜神経分化から得られた3D球体細胞上のPRPCおよび光受容体マーカーの定量的RT-PCR分析、これは、PRPC表現型(NRL、NR2E3、ThRb2)および光受容体特性(REC、RHOD、M-オプシン)の段階的な獲得を示す。
図8-2】同上。
【0030】
図9図9は、120日の分化後の3D球体内の細胞の特性評価。(パネルA)概略図は、D120での3D球体がどのようにして切断されたかを示している(破線)。位相差画像は、球体の中心核での無傷の形態および完全性を示している。スケールバー、100μm。(パネルB)切片のヘマトキシリン染色は、切片全体にわたる生細胞を示している。(パネルC)分化のD120での3D-PRPC球体の切片上での免疫組織化学染色は、ニューロンのマーカーMAP2の発現を示している。核を対比染色するために、DAPIを使用した。(パネルD)分化のD120での3D球体の切片上での免疫組織化学染色は、PRPCマーカーCRX(緑)およびNRL(赤)の発現を示しており、細胞増殖マーカーKi67(赤)染色は、これらの球体中で増殖細胞の割合が非常に低いことを示している。
【0031】
図10図10は、120日間の分化後の3D球体は、光受容体のマーカーを発現する。分化のD120での3D球体の切片上での免疫組織化学染色は、発現光受容体マーカーであるロドプシン(RHOD、緑)およびリカバリン(REC、赤)を示している。核を対比染色するために、DAPIを使用した。
【0032】
図11図11は、ヒト人工多能性幹細胞から網膜神経前駆体を誘導するための例示的な神経誘導プロトコルの概要。ソニックヘッジホッグ(SHH)と組み合わせて小分子を使用することによって、網膜プロジェニター細胞が効率的に生成される。
【0033】
図12図12は、ヘパリンまたはSHHで処理された分化した細胞におけるPAX6 mRNA遺伝子発現の比較RT-PCR定量。光受容体分化のタイムライン中に両方の条件で細胞から全RNAを収集し、PAX6 RNA転写物レベルを分析した。
【0034】
図13図13は、改変成熟培地中のヒト人工多能性幹細胞に由来する分化122日目の視細胞の特性評価。
【発明を実施するための形態】
【0035】
一態様において、再生治療、創薬および疾患モデル化のための細胞源として使用することができる、ヒト多能性幹細胞(hPSC)からインビトロで生成される光受容体前駆細胞(PRPC)を含む網膜ニューロンの集団が本明細書で提供される。この網膜ニューロンの集団を作製および使用するための方法および組成物も提供される。
【0036】
細胞ベースの治療法を開発するために不可欠な要件は、再生可能な供給源から、置換する予定の内在性細胞型の特性を再現する大量の高度に純粋な移植可能な細胞の誘導を可能にする強固な製造過程を確立することである。しかしながら、細胞補充療法の目的でhPSCを網膜ニューロンおよびPRPCに分化させるための多くのアプローチは、効率、純度、均一性および拡張性の点で望ましくない結果をもたらした。一態様において、分化過程を同期化することによって、初期および後期の運命決定された網膜ニューロン前駆体(CRNP)、PRPCおよび光受容体様細胞を含む異なる発達段階にある高度に富化された網膜ニューロンをhPSCから生成するための強固で、定義された拡張可能な三次元(3D)球体培養系であって、現行一般製造基準(cGMP;current general manufacture practice)プロトコルに容易に適合させることができる三次元(3D)球体培養系が本明細書で開示される。
【0037】
いくつかの実施形態において、プロトコルまたは過程は、3D球体としてのhPSCから開始することができ、hPSCは、定義された無血清培地中で、初期CRNP、後期CRNP、PRPCおよび光受容体様細胞に分化するように直接誘導される。いくつかの実施形態において、培養培地は、マトリックスおよび担体を含まない条件下でのスピナーバイオリアクター中における継続的な球体解離/再凝集および球体再形成アプローチを用いて、分化を誘導するために、培養中の指定された時点で培養培地中に導入することができる小分子の組み合わせを含むことができる。この適切に制御された3D球体系は、従来の表面接着性2D培養および従来の胚様体ならびにオルガノイド系が直面する、多くの制約、特に拡張性を克服する。驚くべきことに、このアプローチは、約95%の純度で、3×10hiPSCから開始して3~4.5×10PRPCを通常生成することが発見された。免疫蛍光染色、フローサイトメトリーおよびRT-qPCRによる定量的遺伝子発現など、複数のレベルの分析により、この系を使用して生成された初期および後期のCRNP、PRPCおよび光受容体様細胞の同一性(identities)が確認された。したがって、この3D球体プラットフォームは、将来の前臨床研究およびヒト細胞補充療法のために、複数の再生可能なhPSC源からのインビトロGMP準拠網膜細胞製造プロトコルの開発に適している。
【0038】
限定最小培養条件での3D拡張可能球体培養系は、拡張性、再現性、均質な微小環境の他、費用対効果などのさまざまな利点を提供することができる。さらに、正しい段階でのPRPCなどの富化された網膜ニューロン集団の生成を目的としたプロトコルの開発は、光受容体を喪失した患者に対する細胞補充処置などの細胞補充療法の成功の鍵である。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、正常な発達中に網膜の組織形成を導くことが知られているシグナルの化学的およびサイトカイン微小環境を模倣し、本発明者らは、3D球体に適応したhPSCから直接網膜ニューロン分化を促進するための小分子が補充された、連続マトリックスおよび担体を含まない定義された3D球体培養系を開発した。本明細書に開示されている段階的に誘導性分化プロトコルは、いくつかの実施形態において、約50~100日の期間にわたる球体再形成のために、すべての継代において定期的な球体解離/再凝集を含み、これは、制御された望ましいサイズを有する均一化された球体の形成をもたらす。理論に拘束されることを望まないが、球体のサイズは、球体全体への酸素、栄養素および他の因子の十分な浸透、ニューロンの集団の富化およびニューロン分化の同期を可能にする上で重要であると考えられている。さらに、このプロトコルの下で分化したhPSC球体は、神経細胞(PAX6)、初期および後期の運命決定された網膜ニューロン前駆体(RAX1およびCHX10)、PRPC(CRX、NRL、NR2E3、ThRB2)および光受容体(REC、RHODおよびM-OPSIN)に対して特異的なマーカーを、約95%の純度で順次獲得する。
【0039】
重要なことに、例えばスピナーフラスコを使用することによって、マトリックスおよび担体を含まない条件下にある拡張可能な3D球体培養系に、非分化hPSCの拡大増殖と小分子によって誘導される効率化された網膜ニューロン分化とを統合するための方法が本明細書において提供され、現行の一般製造基準(cGMP)に準拠する過程が、細胞補充療法のためにhPSCからの網膜ニューロン産生の規模を拡大する道を開く。
【0040】
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用される特定の用語がここに集められている。別段の定義がなければ、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。
【0041】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1つまたは1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「1つの要素(an element)」は、1つの要素(one element)または1を超える要素(more than one element)を意味する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、20%以内、より好ましくは10%以内、最も好ましくは5%以内を意味する。「実質的に」という用語は、50%を超える、好ましくは80%を超える、最も好ましくは90%または95%を超えることを意味する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「複数の」は、1より多く、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多く、例えば、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500またはそれより多く、またはそれらの間の任意の整数を意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「含んでいる(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、所与の実施形態中に存在するが、特定されていない要素を含むことができる組成物、方法およびそれらのそれぞれの構成要素(複数可)に関して使用される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という用語は、所与の実施形態に必要とされる要素を指す。この用語は、本発明のその実施形態の基本的および新規なまたは機能的な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさない追加の要素の存在を許容する。
【0046】
「からなる」という用語は、本明細書に記載の組成物、方法およびそれらのそれぞれの構成要素を指し、これらは、実施形態のその記述中に記載されていない一切の要素を除外する。
【0047】
「胚性幹細胞」(ES細胞)という用語は、細胞株として連続継代された胚盤胞または桑実胚の内部細胞塊に由来する多能性細胞を指す。ES細胞は、精子またはDNAによる卵細胞の受精、核移植、単為生殖などに由来し得る。「ヒト胚性幹細胞」(hES細胞)という用語は、ヒトES細胞を指す。ESCの生成は、米国特許第5,843,780号、同第6,200,806号に開示されており、体細胞核移植に由来する胚盤胞の内部細胞塊から得られたESCは、米国特許第5,945,577号、同第5,994,619号、同第6,235,970号に記載されており、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。胚性幹細胞の識別可能な特徴は、胚性幹細胞の表現型を規定する。したがって、その細胞をその他の細胞と区別することができるように、その細胞が胚性幹細胞の固有の特徴の1つまたはそれより多くを有する場合、細胞は胚性幹細胞の表現型を有する。例示的な識別可能な胚性幹細胞の特徴には、遺伝子発現プロファイル、増殖能力、分化能力、核型、特定の培養条件に対する応答性などが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本明細書で使用される「多能性」という用語は、異なる条件下で、1を超える分化した細胞型に分化する能力、好ましくは3つすべての胚細胞層に特徴的な細胞型に分化する能力を有する細胞を指す。多能性細胞は、主に、例えばヌードマウス奇形腫形成アッセイを使用して、1を超える細胞型に、好ましくは3つの胚葉すべてに分化するそれらの能力によって特徴付けられる。このような細胞には、hES細胞、ヒト胚由来細胞(hEDC)および成人由来の幹細胞が含まれる。多能性幹細胞は、遺伝子改変されても遺伝子改変されなくてもよい。遺伝子改変された細胞は、それらの同定を容易にするために、蛍光タンパク質などのマーカーを含み得る。多能性は、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現によっても証明されるが、多能性の好ましい試験は、3つの胚葉のそれぞれの細胞に分化する能力の実証である。そのような細胞を単に培養することは、それ自体では、それらを多能性にするわけではないことに注意すべきである。再プログラムされた多能性細胞(例えば、その用語が本明細書において定義されているiPS細胞)も、一般に培養において限られた数の分裂能を有するに過ぎない初代細胞親と比較して、成長潜在力を失うことなく長期間継代することができるという特徴を有する。
【0049】
本明細書で使用される場合、「iPS細胞」および「人工多能性幹細胞」という用語は交換可能に使用され、例えば、1またはそれを超える遺伝子の強制された発現を誘導することによって、非多能性細胞、典型的には成体の体細胞から人工的に誘導された(例えば、誘導または完全な反転によって)多能性幹細胞を指す。
【0050】
本明細書で使用される「再プログラミング」という用語は、核の発生時計がリセットされるように、体細胞の分化状態を変更または反転させる過程、例えば、初期胚細胞核の遺伝的プログラムを実行することができるように、成体の分化した細胞核の発生状態をリセットして、胚発生に必要とされるすべてのタンパク質を作製することを表す。本明細書に開示される再プログラミングは、体細胞の分化状態の多能性または全能性細胞への完全な復帰を包含する。再プログラミングは、接合子が成体へと発達するにつれて細胞分化中に起こる、核酸修飾(例えば、メチル化)、クロマチン凝縮、エピジェネティックな変化、ゲノムインプリンティングなどの遺伝的パターンの少なくともいくつかの変化、例えば、反転を一般に伴う。
【0051】
「再生」または「自己再生」または「増殖」という用語は、本明細書では互換的に使用され、長期間にわたっておよび/または何ヶ月から何年も、同一の特殊化されていない細胞型に分裂することによって幹細胞が自らを再生する能力を指すために使用される。いくつかの事例では、増殖は、単一の細胞が2つの同一の娘細胞に繰り返し分裂することによる細胞の拡大を指す。
【0052】
本明細書で使用される「培養」または「培養する」という用語は、細胞の生存および/または増殖を維持するためのインビトロでの実験手順を指す。
【0053】
「無担体三次元球体」培養または培養するという用語は、細胞が一切の担体なしに単独で球体を形成することができるように、非接着条件で細胞を培養する技術を指す。接着性を有する細胞を培養するための従来の方法は、細胞がペトリ皿などの容器の平面上で培養されることを特徴とする(二次元培養)。これに対して、三次元培養法では、細胞に付着の手がかりは提供されず、培養は細胞間接触に大きく依存する。
【0054】
本明細書で使用される場合、「担体」または「微小担体」は、浮遊細胞培養のための接着性表面を与えるように設計された、プラスチック、セラミックまたはゼラチンもしくはヒドロゲルなどのその他の材料で作られた固体球形ビーズを指す。繊維構造など、他の形態または形状を有する担体も報告されている。
【0055】
「球体(sphere)」または「球状体(spheroid)」という用語は、三次元の球形または実質的に球形の細胞の集塊または凝集体を意味する。いくつかの実施形態において、細胞が生体組織内で移動するのと同じように、細胞が細胞の球状体内で移動することを補助するために、細胞外マトリックスを使用することができる。使用されるECMの最も一般的なタイプは、基底膜抽出物またはコラーゲンである。いくつかの実施形態において、マトリックスまたは足場を含まない球状体培養を使用することも可能であり、細胞は培地中に懸濁されて成長している。これは、継続的な回転によってまたは低接着性プレートを使用することによって達成することができる。実施形態において、球体は、懸滴、回転培養、強制浮遊、攪拌または凹面プレート(concave plate)法などの単一培養または共培養技術から作製することができる(例えば、Breslinら、Drug Discovery Today 2013,18,240~249;Pampaloniら、Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2007,8,839~845;Hsiaoら、Biotechnol.Bioeng.2012,109,1293~1304;およびCastanedaら、J.Cancer Res.Clin.Oncol.2000,126,305~310を参照;すべて参照により組み込まれる)。いくつかの実施形態において、球体のサイズは、3D培養中に成長し得る。
【0056】
「培養培地」という用語は、「培地」と交換可能に使用され、細胞増殖を可能にする任意の培地を指す。適切な培地は最大の増殖を促進する必要はなく、測定可能な細胞増殖のみを促進する。いくつかの実施形態において、培養培地は、細胞を多能性状態に維持する。いくつかの実施形態において、培養培地は、細胞(例えば、多能性細胞)が、例えば、眼の初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)および光受容体前駆細胞(PRPC)に分化するように促す。本明細書で使用されるいくつかの例示的な基本培地には、DMEM/F-12(ダルベッコの改変イーグル培地/栄養素混合物F-12;Thermo Fisher Scientificから入手可能)、bFGFまたはTGFbを含有しないGrowth Factor-Free NutriStem(登録商標)Medium(Pluriton(商標)(「PL」)と互換的に使用され、Biological Industriesから入手可能なGF-free NutriStem(登録商標))およびNeurobasal(商標)培地(Thermo Fisher Scientificから入手可能)が含まれる。それぞれに、適切なバッファー(例えば、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸))、N2(0.1~10%、例えば1%)およびB27(0.1~10%、例えば1%)無血清サプリメント(Thermo Fisher Scientificから入手可能)などの化学的に組成が明らかなサプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン(0.1~10%、例えば1%)などの抗生物質、MEM非必須アミノ酸(培養された細胞の成長に不可欠な平衡塩類溶液、アミノ酸およびビタミンから構成されており、非必須アミノ酸が補充されるとMEM非必須アミノ酸溶液になるイーグルの最小必須培地(MEM))、グルコース(0.1~10%、例えば、0.30%)、L-グルタミン(例えば、GlutaMAX(商標))、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸および/またはDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)の1またはそれより多くを補充することができる。本明細書に開示されるようなソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189およびIGF1などの分化を誘導するための因子も、培地に添加することができる。
【0057】
本明細書で使用される「分化した細胞」という用語は、体細胞系統に分化する過程にある、または最終的に分化した任意の細胞を指す。例えば、胚細胞は腸の内側を覆う上皮細胞に分化することができる。分化した細胞は、例えば、胎児または生きている生まれた動物から単離することができる。
【0058】
細胞個体発生の文脈において、形容詞「分化した」または「分化している」は、「分化した細胞」が、それが比較されている細胞よりも発生経路をさらに進んだ細胞であることを意味する相対的な用語である。したがって、幹細胞は、系が限定された前駆細胞(中胚葉幹細胞など)に分化することができ、続いて、これは、経路のさらに下流に位置する他の種類の前駆細胞(光受容体前駆体など)に分化した後、最終段階まで分化した細胞に分化することができ、最終段階まで分化した細胞は特定の組織型において特徴的な役割を果たし、さらに増殖する能力を保持している場合または保持していない場合があり得る。
【0059】
「富化している」または「富化された」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、あるタイプの細胞の収量(割合)が、当初の培養物または調製物中における当該タイプの細胞の割合よりも少なくとも10%増加することを意味する。
【0060】
本明細書で使用される「薬剤(agent)」という用語は、小分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド、薬物、イオンなどの、但しこれらに限定されない任意の化合物または物質を意味する。「薬剤」は、合成のおよび天然に存在するタンパク質性および非タンパク質性の実体を含むがこれらに限定されない、任意の化学物質、実体または部分であり得る。いくつかの実施形態において、薬剤は、核酸、核酸類似体、タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマー、核酸のオリゴマー、アミノ酸または炭水化物であり、タンパク質、オリゴヌクレオチド、リボザイム、DNAザイム、糖タンパク質、siRNA、リポタンパク質、アプタマーならびにこれらの改変および組み合わせなどが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、薬剤は、化学的部分を有する小分子である。例えば、化学的部分には、マクロライド、レプトマイシンおよび関連する天然産物またはこれらの類似体を含む、置換されていないまたは置換された、アルキル、芳香族またはヘテロシクリル部分が含まれた。化合物は、所望の活性および/または特性を有することが公知であり得、または多様な化合物のライブラリーから選択することができる。
【0061】
「小分子」という用語は、複数の炭素-炭素結合および1500ダルトン未満の分子量を有する有機化合物を指す。典型的には、このような化合物は、タンパク質との構造的相互作用、例えば水素結合を媒介する1またはそれを超える官能基を含み、典型的には、少なくとも1つの、アミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含み、いくつかの実施形態においては、官能化学基の少なくとも2つを含む。小分子剤は、1またはそれを超える、化学的官能基および/またはヘテロ原子で置換された、環状炭素もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含み得る。
【0062】
本明細書で使用される「マーカー」という用語は、細胞の特徴および/または表現型を記述するために使用される。マーカーは、関心対象の特徴を含む細胞の選択のために使用することができる。マーカーは特定の細胞によって異なる。マーカーは、特定の細胞型の細胞の形態的、機能的もしくは生化学的(酵素的)特徴などの特徴であり、または細胞型によって発現される分子である。好ましくは、このようなマーカーはタンパク質であり、より好ましくは、当技術分野で利用可能な抗体またはその他の結合分子に対するエピトープを保有する。しかしながら、マーカーは、タンパク質(ペプチドおよびポリペプチド)、脂質、多糖類、核酸およびステロイドを含むがこれらに限定されない、細胞内に見出される任意の分子からなり得る。形態的特徴または形質の例には、形状、サイズおよび核対細胞質比が含まれるが、これらに限定されない。機能的特徴または形質の例には、特定の基材に付着する能力、特定の色素を取り込むまたは排除する能力、特定の条件下で遊走する能力および特定の系統に沿って分化する能力が含まれるが、これらに限定されない。マーカーは、当業者に利用可能な任意の方法によって検出され得る。マーカーは、形態的特徴の不存在またはタンパク質、脂質などの不存在でもあり得る。マーカーは、ポリペプチドの存在および不存在の独特な特徴ならびに他の形態的特徴の一団の組み合わせであり得る。
【0063】
本明細書で使用される細胞の単離された集団に関する「単離された集団」という用語は、混合したまたは不均一な細胞の集団から取り出され、分離された細胞の集団を指す。いくつかの実施形態において、単離された集団は、細胞がそこから単離または富化された不均一な集団と比較して、実質的に純粋な細胞の集団である。
【0064】
特定の細胞集団に関して、「実質的に純粋な」という用語は、全細胞集団を構成する細胞に関して、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%純粋である細胞の集団を指す。表現し直すと、胚体内胚葉細胞の集団に関する「実質的に純粋な」または「本質的に精製された」という用語は、約20%未満、より好ましくは約15%、約10%、約8%、約7%未満、最も好ましくは約5%、約4%、約3%、約2%、約1%未満、または1%未満の、本明細書の用語によって定義される胚体内胚葉細胞やそれらの子孫ではない細胞を含有する細胞の集団を指す。いくつかの実施形態において、本開示は、胚体内胚葉細胞の集団を拡大する方法であって、胚体内胚葉細胞の拡大された集団が胚体内胚葉細胞の実質的に純粋な集団である、方法を包含する。同様に、SCNT由来の幹細胞または多能性幹細胞の「実質的に純粋な」または「本質的に精製された」集団に関して、約20%未満、より好ましくは約15%、約10%、約8%、約7%未満、最も好ましくは約5%、約4%、約3%、約2%、約1%未満を含有する細胞の集団を指す。
【0065】
「網膜」とは、光受容体、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、ミュラーグリア細胞および神経節細胞から構成される3つの顆粒層に層状化されている眼の神経細胞を指す。
【0066】
「プロジェニター細胞」とは、有糸分裂を維持しており、さらなるプロジェニター細胞もしくは前駆細胞を産生することができるまたは最終の運命の細胞系統に分化することができる細胞を指す。
【0067】
「前駆細胞」は、最終の運命の細胞系統に分化することができる細胞を指す。
【0068】
本開示の実施形態において、「網膜神経プロジェニター細胞」は、細胞マーカーPAX6およびCHX10を発現する、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化した細胞を指す。これには、マーカーPAX6、RAX1およびCHX10を発現することができる初期および後期の運命決定された網膜ニューロン前駆体が含まれ得る。
【0069】
本開示の実施形態において、「光受容体前駆細胞」(PRPC)は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化し、マーカーCHX10を発現せず(すなわち、CHX10-)、マーカーPAX6を発現する細胞を指す。これらの細胞は、網膜神経前駆体段階でCHX10を一過性に発現するが、細胞が光受容体前駆体段階に分化すると、CHX10発現は停止される。PRPCは、マーカーCRX、NRL、NR2E3およびThRB2を発現することもできる。
【0070】
また、「光受容体」は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞から分化し、細胞マーカーロドプシン(RHOD)または3つの錐体オプシンのいずれか(例えば、M-OPSIN)を発現し、必要に応じて桿体または錐体cGMPホスホジエステラーゼを発現する有糸分裂後の細胞を指し得る。光受容体は、光受容体中に見出されるマーカー、リカバリン(REC)も発現し得る。光受容体は、桿体および/または錐体光受容体であり得る。
【0071】
「光受容体様細胞」は、光受容体特異的マーカーのほとんどまたはすべてを発現しているが、その機能に関して試験されていない細胞である。
【0072】
「処置」または「処置すること」という用語は、以下を含む目的での物質の投与を意味する:(i)疾患もしくは状態を予防する、すなわち、疾患もしくは状態の臨床症状を発症させない;(ii)疾患もしくは状態を阻害する、すなわち、臨床症状の発症を阻止する;および/または(iii)疾患もしくは状態を緩和する、すなわち、臨床症状の退行を引き起こす。
【0073】
本開示の様々な態様が、以下でさらに詳述されている。追加の定義は、本明細書全体に記載されている。
【0074】
多能性幹細胞
様々な実施形態において、PRPCおよび視細胞は、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト単為生殖幹細胞(hpSC)、核移植由来幹細胞および人工多能性幹細胞(iPSC)を含むがこれらに限定されないヒト多能性幹細胞(hPSC)から産生され得る。このようなhPSCを取得する方法は、当技術分野において周知である。
【0075】
多能性幹細胞は、(a)免疫不全(SCID)マウスに移植されたときに奇形腫を誘発することができる;(b)3つの胚葉すべての細胞型に分化することができる(例えば、外胚葉、中胚葉および内胚葉の細胞型に分化することができる);(c)胚性幹細胞の1またはそれを超えるマーカーを発現する(例えば、OCT4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3表面抗原、SSEA-4表面抗原、NANOG、TRA-1-60、TRA-1-81、SOX2、REX1などを発現する)幹細胞として機能的に定義される。特定の実施形態において、多能性幹細胞は、OCT4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81からなる群から選択される1またはそれを超えるマーカーを発現する。例示的な多能性幹細胞は、例えば、当技術分野で知られている方法を使用して生成することができる。例示的な多能性幹細胞には、胚盤胞期の胚のICMに由来する胚性幹細胞、および(必要に応じて、胚の残りを破壊することなく)卵割期または桑実胚期の胚の1またはそれを超える割球に由来する胚性幹細胞が含まれる。このような胚性幹細胞は、受精によって、または体細胞核移植(SCNT)、単為生殖および雄核発生などの無性生殖手段によって産生された胚性物質から生成することができる。さらなる例示的な多能性幹細胞には、因子の組み合わせ(本明細書では、複数の再プログラミング因子と呼ばれる)を発現することによって体細胞を再プログラミングすることによって生成される人工多能性幹細胞(iPSC)が含まれる。iPSCは、胎児、出生後、新生児、若年または成体の体細胞を使用して生成することができる。
【0076】
特定の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするために使用することができる因子には、例えば、OCT4(OCT3/4と呼ばれることもある)、SOX2、c-MycおよびKlf4の組み合わせが含まれる。他の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするために使用することができる因子には、例えば、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28の組み合わせが含まれる。特定の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも2つの再プログラミング因子が体細胞中で発現される。他の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも3つの再プログラミング因子が体細胞中で発現される。他の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも4つの再プログラミング因子が体細胞中で発現される。他の実施形態において、さらなる再プログラミング因子が同定され、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするために、単独で、または1もしくはそれを超える公知の再プログラミング因子と組み合わせて使用される。人工多能性幹細胞は機能的に定義され、さまざまな方法(組み込みベクター、非組み込みベクター、化学的手段など)のいずれかを使用して再プログラムされた細胞が含まれる。多能性幹細胞は、寿命、効力、ホーミングを増加させるために、同種免疫応答を防止もしくは低減するために、またはこのような多能性細胞から分化した細胞(例えば、光受容体、光受容体プロジェニター細胞、桿体、錐体など、および本明細書において、例えば、実施例において記載されているその他の細胞型)中に所望の因子を送達するために、遺伝子改変またはその他の方法で改変され得る。
【0077】
人工多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSC)は、体細胞中での複数の再プログラミング因子のタンパク質形質導入によって作製することができる。特定の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも2つの再プログラミングタンパク質が体細胞中に形質導入される。他の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも3つの再プログラミングタンパク質が体細胞中に形質導入される。他の実施形態において、体細胞を首尾よく再プログラムするために、少なくとも4つの再プログラミングタンパク質が体細胞中に形質導入される。
【0078】
多能性幹細胞は、任意の種からのものであり得る。胚性幹細胞は、例えば、マウス、非ヒト霊長類の複数の種およびヒトで首尾よく得られており、胚性幹様細胞は、多数のさらなる種から生成されている。したがって、当業者は、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ(家庭および野生のイヌ)、ネコ(家庭およびライオン、トラ、チーターなどの野生のネコ)、ウサギ、ハムスター、スナネズミ、リス、モルモット、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海洋哺乳類(イルカ、クジラなど)などを含むがこれらに限定されない任意の種から胚性幹細胞および胚由来幹細胞を生成することができる。特定の実施形態において、種は絶滅危惧種である。特定の実施形態において、種は現在絶滅した種である。
【0079】
同様に、iPS細胞は、任意の種からのものであり得る。これらのiPS細胞は、マウスおよびヒト細胞を使用して首尾よく生成されている。さらに、iPS細胞は、胚、胎児、新生児および成体の組織を使用して首尾よく生成されている。したがって、任意の種からのドナー細胞を使用して、iPS細胞を容易に生成することができる。したがって、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット)、有蹄動物(ウシ、ヒツジなど)、イヌ(家庭および野生のイヌ)、ネコ(家庭およびライオン、トラ、チーターなどの野生のネコ)、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ゾウ、パンダ(ジャイアントパンダを含む)、ブタ、アライグマ、ウマ、シマウマ、海洋哺乳類(イルカ、クジラなど)などを含むがこれらに限定されない任意の種からiPS細胞を生成することができる。特定の実施形態において、種は絶滅危惧種である。特定の実施形態において、種は現在絶滅した種である。
【0080】
人工多能性幹細胞は、出発点として、事実上、任意の発達段階の任意の体細胞を使用して生成することができる。例えば、細胞は、胚、胎児、新生児、幼若または成体のドナーからのものであり得る。使用することができる例示的な体細胞には、皮膚試料もしくは生検によって得られた皮膚線維芽細胞、滑膜組織からの滑膜細胞、包皮細胞、頬細胞または肺線維芽細胞などの線維芽細胞が含まれる。皮膚および頬は、適切な細胞の容易に入手可能で容易に獲得可能な供給源を提供するが、事実上任意の細胞を使用することができる。特定の実施形態において、体細胞は線維芽細胞ではない。
【0081】
人工多能性幹細胞は、体細胞中で1またはそれを超える再プログラミング因子の発現を発現または誘導することによって産生され得る。体細胞は、皮膚線維芽細胞、滑膜線維芽細胞もしくは肺線維芽細胞などの線維芽細胞、または非線維芽細胞の体細胞であり得る。体細胞は、(ウイルス形質導入、組み込みまたは非組み込みベクターなどを通じて)少なくとも1、2、3、4、5の再プログラミング因子の発現および/または(例えば、タンパク質形質導入ドメイン、電気穿孔、微量注入、陽イオン性両親媒性物質、含有する脂質二重層との融合、界面活性剤による透過処理などを使用して)少なくとも1、2、3、4、5の再プログラミング因子との接触を生じさせることを通じて再プログラムされ得る。再プログラミング因子は、OCT3/4、SOX2、NANOG、LIN28、C-MYCおよびKLF4から選択され得る。再プログラミング因子の発現は、体細胞を、再プログラミング因子の発現を誘導する小さな有機分子剤などの少なくとも1つの剤と接触させることによって誘導され得る。
【0082】
さらなる例示的な多能性幹細胞には、因子の組み合わせ(「複数の再プログラミング因子」)の発現を発現または誘導することによって体細胞を再プログラムすることによって生成される人工多能性幹細胞が含まれる。iPS細胞は細胞バンクから入手され得る。iPS細胞の作製は、分化した細胞の生産における最初のステップであり得る。iPS細胞は、組織に適合したPHRPSまたは視細胞を生成することを目標として、特定の患者または適合したドナーからの材料を使用して特異的に生成され得る。iPSCは、予定されるレシピエントにおいて実質的に免疫原性ではない細胞から、例えば、自家細胞からまたは予定されるレシピエントに対して組織適合性のある細胞から産生することができる。
【0083】
体細胞はまた、再プログラミング因子が(例えば、ウイルスベクター、プラスミドなどを使用して)発現され、(例えば、小さな有機分子を使用して)再プログラミング因子の発現が誘導されるコンビナトリアルアプローチを使用して再プログラミングされ得る。例えば、再プログラミング因子は、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用する感染によって体細胞中で発現され得る。また、再プログラミング因子は、エピソームプラスミドなどの非組み込みベクターを使用して体細胞中で発現され得る。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Yuら、Science.2009 May 8;324(5928):797-801を参照。再プログラミング因子が非組み込みベクターを使用して発現される場合、因子は、電気穿孔、形質移入またはベクターによる体細胞の形質転換を使用して細胞内で発現され得る。例えば、マウス細胞では、体細胞を再プログラムするには、組み込みウイルスベクターを使用した4つの因子(OCT3/4、SOX2、C-MYCおよびKLF4)の発現で十分である。ヒト細胞では、組み込みウイルスベクターを使用した4つの因子(OCT3/4、SOX2、NANOGおよびLIN28)の発現は、体細胞を再プログラムするのに十分である。
【0084】
再プログラミング因子が細胞内で発現されたら、細胞を培養し得る。時間の経過とともに、ES特性を有する細胞が培養皿中に現れる。細胞は、例えば、ES形態に基づいて、または選択可能もしくは検出可能なマーカーの発現に基づいて選択および継代培養され得る。細胞はES細胞に似た細胞(これらは、推定iPS細胞である)の培養物を作製するために培養され得る。
【0085】
iPS細胞の多能性を確認するために、細胞は、1またはそれを超える多能性のアッセイにおいて試験され得る。例えば、細胞は、ES細胞マーカーの発現について試験され得る。細胞は、SCIDマウス中に移植されたときに奇形腫を生成する能力について評価され得る。細胞は、分化して3つの胚葉すべての細胞型を産生する能力について評価され得る。多能性iPSCが得られたら、本明細書に開示される細胞型、例えば、光受容体プロジェニター細胞、視細胞、桿体、錐体など、および本明細書に記載されている他の細胞型を産生するために使用され得る。
【0086】
hPSCを取得する別の方法は、単為生殖によるものである。「単為生殖」(「単為生殖的に(parthenogenically)活性化された」および「単為生殖的に(parthenogenetically)活性化された」は、本明細書では互換的に使用される)は、精子進入の不存在下において卵母細胞の活性化が起こる過程を指し、すべての雌性起源のDNAを含む卵母細胞または胚細胞、例えば、割球の活性化によって得られる、栄養外胚葉と内部細胞塊とを含む初期胚の発生を表す。関連する態様において、「単為生殖生物」とは、このような活性化によって取得される得られた細胞を指す。別の関連する態様において、「胚盤胞」は、外側の栄養膜細胞と内部細胞塊(ICM)から構成される中空の細胞球を含む受精したまたは(of)活性化された卵母細胞の卵割期を指す。さらに関連する態様において、「胚盤胞形成」は、卵母細胞の受精または活性化の後に、卵母細胞が外側の栄養膜細胞とICMから構成される中空の細胞球へと発達することが可能な時間(例えば、5~6日)、卵母細胞をその後培地中で培養する過程を指す。
【0087】
hPSCを取得する別の方法は、核移植によるものである。本明細書で使用される場合、「核移植」は、適切なレシピエント細胞中への、典型的には、その内在性核DNAを除去または不活化するために、移植または融合の前、同時または後に処理される同一のまたは異なる種の卵母細胞中への、ドナー細胞またはドナー細胞からのDNAの融合または移植を指す。核移植のために使用されるドナー細胞には、胚性細胞および分化した細胞、例えば、体細胞および生殖細胞が含まれる。ドナー細胞は、増殖性細胞周期(G1、G2、SまたはM)または非増殖性(GOまたは静止)にあり得る。好ましくは、ドナー細胞またはドナー細胞からのDNAは、増殖している哺乳動物細胞培養物、例えば、線維芽細胞培養物に由来する。ドナー細胞は、必要に応じて、トランスジェニックであり得る、すなわち、1またはそれを超える遺伝的付加、置換または欠失修飾を含み得る。
【0088】
hPSCを取得するためのさらなる方法は、人工多能性幹細胞を取得するための細胞の再プログラミングによることである。Takahashiら、(Cell 131,861~872(2007))は、胚またはES(胚性幹)細胞を一切使用せずに分化した細胞を再プログラミングし、ES細胞と同様の多能性および成長する能力を有する人工多能性幹細胞を確立するための方法を開示している。分化した線維芽細胞に対する核再プログラミング因子には、以下の4つの遺伝子:Octファミリー遺伝子;Soxファミリー遺伝子;Klfファミリー遺伝子;およびMycファミリー遺伝子、の産物が含まれる。
【0089】
細胞の多能性状態は、好ましくは、適切な条件下で細胞を培養することによって、例えば、線維芽細胞支持細胞層または別の支持細胞層または白血病抑制因子(LIF)を含む培養物上で培養することによって維持される。このような培養細胞の多能性状態は、様々な方法によって、例えば、(i)多能性細胞に特徴的なマーカーの発現を確認すること;(ii)多能性細胞の遺伝子型を発現する細胞を含有するキメラ動物の作製;(iii)インビボで異なる分化した細胞型を産生する動物、例えばSCIDマウス中への細胞の注射;(iv)インビトロでの胚様体およびその他の分化した細胞型への(例えば、支持細胞層またはLIFの不存在下で培養した場合の)細胞の分化の観察、によって確認することができる。
【0090】
本開示において使用される細胞の多能性状態は、様々な方法によって確認することができる。例えば、細胞は、特徴的なES細胞マーカーの存在または不存在について試験することができる。ヒトES細胞の場合、このようなマーカーの例は上で特定されており、SSEA-4、SSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81およびOCT4が含まれ、当技術分野において公知である。
【0091】
また、多能性は、細胞を適切な動物、例えば、SCIDマウス中に注入し、分化した細胞および組織の産生を観察することによって確認することができる。多能性を確認するさらに別の方法は、対象の多能性細胞を使用してキメラ動物を作製し、導入された細胞の異なる細胞型への寄与を観察することである。
【0092】
多能性を確認するさらに別の方法は、分化に有利な条件下(例えば、線維芽細胞支持細胞層の除去)で培養されたときの、胚様体および他の分化した細胞型へのES細胞の分化を観察することである。この方法は利用されており、対象の多能性細胞が組織培養において胚様体および様々な分化した細胞型を生じさせることが確認されている。
【0093】
hPSCは、神経幹細胞を誘導することが所望されるまで、通例の継代によって、多能性状態で培養して維持することができる。
【0094】
光受容体を産生するための3Dマトリックスおよび無担体球体培養
細胞治療におけるhPSCの実用化のためには、大規模および3D培養系へのさらなる改良が必要である。細胞培養表面を改変し、それによって細胞がそれらの表面に付着するのを防ぐことによって3D培養形成を促進する強制浮遊法;浮遊状態での細胞成長を支える懸滴法;細胞が互いに接着して3D球状体を形成することを促進する攪拌/回転系など、様々な3D球体培養手順を使用することができる。
【0095】
3D球状体を生成するための1つの方法は、表面を改変することによって管の表面(vessel surface)への付着を防ぎ、細胞の強制浮遊を生じさせることである。これは細胞間接触を促進し、続いて、多細胞球体の形成を促進する。例示的な表面改変には、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリラート(ポリ-HEMA)およびアガロースが含まれる。
【0096】
3D球状体作製の懸滴法は、トレイのウェル中にピペットで移される一定の小分量(通常は20ml)の単一細胞懸濁液を使用する。強制浮遊と同様に、球状体の必要とされるサイズに応じて、播種懸濁液の細胞密度(例えば、50、100、500細胞/ウェルなど)は、必要に応じて変更することができる。細胞を播種した後、続いて、トレイを逆さにし、細胞懸濁液の一定分量は、表面張力により一定の位置に保持される懸滴に変わる。細胞は滴の先端、液体と空気の界面に蓄積し、増殖することが可能となる。
【0097】
3D球状体を作製するための攪拌ベースのアプローチは、(i)スピナーフラスコバイオリアクターと、(ii)回転培養系の2つのカテゴリーに大まかに分類することができる。これらの方法の背後にある一般的な原理は、細胞懸濁液を容器の中に入れ、懸濁液を動かし続ける、すなわち、穏やかに攪拌し、または容器を回転させることである。懸濁された細胞が絶えず動いているということは、細胞が容器の壁に付着せず、代わりに細胞間相互作用を形成することを意味する。スピナーフラスコバイオリアクター(通例、「スピナー」として知られている)は、細胞懸濁液を保持するための容器と、細胞懸濁液が絶えず混合されることを確保するための攪拌要素とを含む。回転式細胞培養バイオリアクターは、スピナーフラスコバイオリアクターと同様の手段によって機能するが、細胞懸濁液を動かし続けるために攪拌バー/ロッドを使用する代わりに、培養容器自体を回転させる。
【0098】
いくつかの実施形態において、スピナーフラスコをベースとした3D球体培養プロトコルが本明細書において提供される。フィーダー細胞およびマトリックスの不存在下で規定の培養培地(defined culture medium)を加えたスピナーフラスコ中において、複数のhPSCを実質的に均一な球体として連続的に培養することができる。培地は、hiPSCおよびhESなどのhPSCの増殖および拡大を支持するように設計された、任意の規定の、異種由来成分を含まない(xeno-free)、無血清の細胞培養培地であり得る。一例では、培地はNutriStem(登録商標)培地である。いくつかの実施形態において、培地は、mTeSR1、mTeSR2もしくはE8培地またはその他の幹細胞培地であり得る。培地には、Y27632などのRho関連コイルドコイル含有タンパク質キナーゼ(ROCK)の小分子阻害剤、またはチアゾビビン、ROCK II阻害剤(SR3677など)およびGSK429286Aなどのその他のROCK阻害剤を補充することができる。この浮遊培養系を使用すると、hPSC培養物を連続継代し、少なくとも10継代にわたって一貫して拡大させることができる。3D-hiPSC球体に対する典型的な継代間隔は約3~6日であり得、その時点で、球体は直径約230~260μmのサイズに成長することができる。球体のサイズは、培養物の一定分量を取り、例えば顕微鏡検査を使用して観察することによってモニターすることができる。次いで、球体は、例えば、初代および幹細胞株ならびに組織を剥離するためのタンパク質分解およびコラーゲン分解活性を有する酵素を使用して、単一の(または実質的に単一の)細胞へと解離させることができる。一例では、酵素は、Accutase(登録商標)またはTrypLEまたはトリプシン/EDTAである。その後、例えば60~70RPMでの連続攪拌下スピナーフラスコ中で、脱会合した細胞(disassociatedcell)を再凝集させて球体を再形成することができる。少なくとも3~5回の反復継代後に高多能性マーカーの発現(OCT4)および正常な核型とともに均一な構造を維持しながら、球体のサイズは徐々に増加した。本明細書で使用される場合、「継代」は、単一細胞から望ましいサイズの球体に成長した細胞球体培養物を意味すると理解され、その時点で、球体は単一細胞へと脱会合し、次の継代のために再び播種される。継代は、3D-hiPSC球体の場合、hPSCの種類および培養条件に応じて、約3~6日またはそれより長い時間またはそれより短い時間を要し得る。十分な量の3D-hPSC球体が得られたら、以下でより詳細に説明されているように、3D-hPSC球体は3D球体網膜ニューロン分化を受けることができる。
【0099】
hPSCとは異なる発達段階にある網膜ニューロン前駆体を生成するために、浮遊状態の3D-hPSC球体を、主に小分子で段階的に直接誘導することができる(図2)。いくつかの実施形態において、これは、3Dスピナーフラスコまたは他の3D球体培養方法で行うことができる。様々な実施形態において、連続的な3D球体培養は、いくつかの解離/再凝集ステップと統合することができるが、網膜ニューロン分化を誘導するために、異なる発達段階で小分子を添加することが可能である。以前に報告されたように網膜系統へのhPSC分化の誘導のためにタンパク質因子を使用する代わりに、hPSC球体を網膜細胞の異なる発達段階に順次分化させるために、可能な場合には、その品質を容易に制御することができる小分子が使用される。
【0100】
図2に示されているように、hPSC(例えば、hiPSC)は、球体を形成するために、スピナーフラスコ中のROCK阻害剤(例えば、Y27632、「Y」)が補充された規定の培地(例えば、NutriStem(登録商標)(「NS」)培地)中に、まず単一細胞(例えば、1×10細胞/mL)として播種することができる。誘導のD0として指定される24時間後に、アクチビン/トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)および骨形成タンパク質(BMP)のシグナル伝達を遮断し、神経パターン形成を促進するために、まず、デュアルSMAD阻害剤SB431542(「SB」)およびLDN193189(「LDN」)でhiPSC球体を処理し、次いで、網膜神経系統への運命決定をさらに誘導するために、Wnt阻害剤IWR-1e、IGF1(眼野(eye filed)細胞発達の誘導因子)およびヘパリンを加えることができる。
【0101】
PRPCの分化のために、NIM-3D培地への段階的な適応は、上記の誘導因子を加えたPluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)およびNIM-3Dの希釈系列を通じて達成することができる。例えば、100%Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)から100%NIM-3Dへの段階的な適応(adaption)には、Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)およびNIM-3Dを75%:25%、50%:50%および25%:75%で順次中間培養することが含まれ得、細胞は各培地組成中で2~6日を費やす。他の希釈系列を使用することもできる。NIM-3D(Neural Induction Medium-3D)(「NIM」と同じ意味で使用される)基本培地は、HEPES含有DMEM/F12、N2(0.1~10%、例えば1%)およびB27(0.1~10%、例えば1%)無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン(0.1~10%、例えば1%)、MEM非必須アミノ酸ならびにグルコース(0.1~10%、例えば0.30%)を含有する。ヘパリンは、神経の運命決定の間に取り除くことができ、IWR-1eは、NIM-3D培地中での完全な適応の時点で取り除くことができる。
【0102】
その後、球体は、NIM-3D/PRPC-3D培地を含有する50/50適応を通じて、PRPC-3D光受容体分化培地に適応させることができる。PRPC-3D培地(例えば、図11では「PRPM」とも呼ばれる)は、Neurobasal(商標)培地、N2(0.1~10%、例えば、1%)およびB27(0.1~10%、例えば、1%)無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン(0.1~10%、例えば1%)、MEM非必須アミノ酸およびグルコース(0.1~10%、例えば0.30%)を含有する。SB431542、LDN193189およびIGF1は、NIM-3D/PRPC-3D培地への適応の開始の際に取り除くことができる。
【0103】
別の例示的な分化プロトコルが図11に示されている。図2に示されているプロトコルとの主な相違は、ヘパリンの代わりにソニックヘッジホッグ(SHH)を使用していることである。驚くべきことに、SHHは、PAX6陽性細胞の神経新生を維持するだけでなく、ニューロンの誘導および網膜前駆体の増殖を達成する上で、ヘパリンなどの他の分裂促進因子活性化タンパク質のより効果的な代替手段である。
【0104】
分化の間、球体は、異なる時点で、TrypLE(Thermo Fisher Scientific)、Accutaseまたはトリプシン/EDTAなどの細胞解離酵素を使用して単一細胞へと解離させることができる。球体の直径が典型的にまたは平均して約300~500μmまたは約350~450μmに達した時点で、球体の中心に低酸素状態の細胞が生じることを避けるために、単一細胞への球体の継続的な解離および2~5週間ごとのスピナーフラスコ中への再凝集によって、PRPCを生成することができる。直径が約450または500μmを超える球体サイズは、酸素、栄養素および分化誘導因子/分子が球体の中心コア内に浸透できないようにし、それによって、壊死およびコアにおいて細胞死をもたらすその他の有害な(delicious)原因を生じさせるので、望ましくない場合があり得ることに注意すべきである。したがって、球体が直径約300~400μmまたは約350~450μmの平均サイズに成長したら、当技術分野において公知の細胞解離のための様々な酵素を使用して、球体を単一(または実質的に単一)細胞に解離させることができる。
【0105】
理論に拘泥することを望むものではないが、球体が大きく成長しすぎると(例えば、直径が500を超えるまたは400μmを超える)、球体の中心に近い細胞は栄養不良の危険に曝され得ると考えられている。したがって、いくつかの実施形態においては、球体サイズを制御することが望ましい場合がある。特定の実施形態において、球体は、直径が約300~500μm、約350~450μmまたは約230~260μmに達したときに解離させることができる。
【0106】
脱会合したら、単一細胞懸濁液はフィルター(例えば、メッシュサイズが約10~200または約20~100または約40μm)を通してろ過することができる。次に、単一細胞を適切な培養培地中へ、スピナーフラスコ中に播種することができる。得られた球体の形態(サイズ、外観および球体へと組み込む能力)は、各再凝集の2~3日後、およびその後、次の解離/再凝集ステップまで毎週モニタリングすることができる。モニタリングは、培養物の一定分量を取り、例えば顕微鏡検査を使用して観察することによって行うことができる。
【0107】
したがって、初期および後期の運命決定された網膜ニューロンの前駆体(CRNP)、光受容体前駆細胞(PRPC)および光受容体様細胞を含む、網膜ニューロンの異なる発達段階に向けた段階的なhPSC球体分化過程が、本明細書に開示されている。以前に報告された分化プロトコルと比較して、3D球体プラットフォームは以下の利点を有する。
【0108】
1)小分子を含むが、不確定のマトリックスを含まない規定の培養培地。本明細書に開示されている3D球体培養系では、hPSCの維持および拡大から3D球体の網膜分化まで、血清および不確定のマトリックス(undefined matrix)または担体は培養培地に添加されない。さらに、タンパク質因子に代えて、品質および一貫性を容易に制御することができる小分子が使用され、3D球体系は以前に報告された系よりも一貫性および再現性が増加する;
【0109】
2)細胞処理および製造のための堅牢なプラットフォーム。3D hPSC球体拡大培養から3D球体分化過程への移行は容易であり、表面またはマトリックス埋め込みへの細胞接着などの細胞操作が必要とされず、培養培地交換のみが必要であり、これにより、移行が円滑になり;さらに、この過程の間に、異なる発育段階にある網膜ニューロンが生成され、後にさらなる分化のために、これらの細胞は凍結保存することができ、品質管理過程がずっと容易になる;
【0110】
3)同期化された網膜ニューロン分化をもたらす3D球体の均一性とおよび完全性。攪拌/かき混ぜの速度および最初の細胞密度を制御することによって、hPSCの拡大および誘導性分化過程における3D球体の直径および完全性を長期間、典型的には3~4ヶ月間、適切に制御することができる。これにより、酸素、栄養素および分化誘導因子/分子が球体の中心コア中に浸透することが可能となり、制御されていない胚様体およびオルガノイド系では一般的である壊死および細胞死につながるその他の有害な(delicious)原因が回避される。3D球体の均一性および完全性を保つことによって、純粋な網膜ニューロン集団の生成を伴う同期化された分化過程が実現する;
【0111】
4)望ましい細胞を大量生産するための拡張可能な過程。実施例は概念実証研究のために1つの30~50mlのバイオリアクターを使用したが、これは複数のバイオリアクターおよび大容量のバイオリアクターへと容易に拡張することができる。30~50mlの各バイオリアクターは、通常、約3×10の網膜ニューロン細胞を生成し、これは20~25のT-75組織培養フラスコの収容量に等しく、これにより、このシステムは費用効果が高く、管理が容易な細胞生産過程になる;
【0112】
5)より均質な細胞集団の生成。誘導性分化の過程の間、解離/再凝集ステップは、これらの細胞を分割する際に球体の再形成のために統合され、非ニューロン細胞を排除し、ニューロン細胞を富化するための精製ステップとして機能する。これらのステップにより、未分化多能性幹細胞を夾雑させることなく、初期および後期のCRNP、PRPCおよび光受容体様細胞など、異なる発達段階の網膜細胞が異なるステップにおいて高純度(約95%)で生成される;
【0113】
6)他のニューロン型の生成に拡張可能な適応性のある系。この3D球体分化過程は多ステップの手順であり、各ステップは特有のニューロンのプロセッサを生成するので、網膜神経節細胞および前駆体、双極細胞、ミュラー細胞、水平細胞およびアマクリン細胞ならびにその他の一般的なニューロン細胞などのその他の網膜ニューロン細胞を含むがこれらに限定されない他のニューロンの細胞型を生成するために、分化誘導条件を改変することによって、この過程は容易に拡張することができる。
【0114】
様々な実施形態において、hPSC、具体的には、盲目の患者の光受容体補充療法のために使用することができるPRPCおよび光受容体様細胞から望ましい細胞を生成するための新しい、効率的な、確定された(defined)3D球体プラットフォームが本明細書において提供される。この系は、大規模生産の取り組みに適しているだけでなく、動物の血清およびマトリックスへの依存を排除し、タンパク質因子の代わりに小分子のサプリメントを加えるので、cGMPに準拠した細胞製造プロトコルと親和性が高く、この過程を臨床移行により適したものとする。
【0115】
光受容体補充療法
網膜疾患は、有糸分裂後のニューロン細胞の喪失により、しばしば失明を引き起こす。網膜疾患としては、桿体または錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、黄斑変性、レーバー先天黒内障およびシュタルガルト病がある。ほとんどの網膜変性では、細胞の喪失は、主に、桿体および錐体の光受容体を含む外顆粒層中にある。有糸分裂後のニューロン細胞集団の喪失に伴い、視細胞の代わりとしての新しい細胞の外因性供給源が必要とされる。
【0116】
網膜変性は、最終的に失明につながる不可逆的な過程である。網膜中の桿体および錐体の光受容体は主要な光感知細胞であるが、これらの細胞は再生する能力を欠いている。現在、失われた光受容体を再生するための処置は存在せず、細胞補充が、光受容体喪失を有する患者の処置のための唯一の治療戦略である。MacLarenら[46]は、完全に盲目のマウスへのマウス有糸分裂後光受容体前駆細胞の移植がいくつかの視覚機能を回復することを実証した最初のグループであった。これらの移植された細胞は、ONL層中に組み込まれ、桿体光受容体に分化し、シナプス結合を形成し、これらの動物の視覚機能を改善した。最近、マウスおよびヒトの両方のPSCに由来する有糸分裂後の光受容体前駆細胞の移植後に、異なる範囲の網膜機能障害を有する動物モデルにおいて視覚機能の改善を報告したいくつかのグループが存在する[9、42、43]。これらの結果は、適切な細胞が適切な微小環境を有する適切な場所に移植されれば、光受容体変性患者に対する細胞補充療法が機能し得るという概念実証動物研究を提供する。AMDおよびシュタルガルト病を有する患者の視力喪失を防ぐためにhESCおよびhiPSC由来の網膜色素上皮(RPE)を使用するいくつかの臨床試験が現在進行中である[3-5]が、失われた光受容体を置き換えるための細胞移植はまだ開始されていないので、細胞補充療法のために、再生可能な供給源由来の適切な発達段階にあるヒト光受容体前駆細胞が緊急に必要とされている。明らかに、ヒトドナーから得た有糸分裂後のヒト光受容体前駆体は細胞補充のための適切な供給源には当たらず、網膜ニューロン、特に有糸分裂後の光受容体プロジェニター細胞を生成するためのインビトロでのヒトPSCの分化がこの目的に資する。
【0117】
したがって、本明細書に開示されているPRPCまたは視細胞は、薬学的に許容され得る担体とともに製剤化され得、光受容体補充療法において使用され得る。例えば、PRPCまたは視細胞は、単独で、または医薬製剤の成分として投与され得る。主題の化合物は、医薬において使用するための任意の便利な方法で投与するために製剤化され得る。投与に適した医薬品は、1またはそれを超える薬学的に許容され得る無菌等張水溶液または非水溶液(例えば、平衡塩類溶液(BSS))、分散液、懸濁液または乳液または、使用直前に無菌の注射可能な溶液または分散液へと再構成され得る無菌粉末と組み合わせて、PRPCまたは視細胞を含み得、該医薬品は抗酸化剤、バッファー、静菌剤、溶質または懸濁化剤または増粘剤を含有し得るる。例示的な医薬品は、ALCON(登録商標)BSS PLUS(登録商標)(各mL中に、塩化ナトリウム7.14mg、塩化カリウム0.38mg、塩化カルシウム二水和物0.154mg、塩化マグネシウム六水和物0.2mg、二塩基性リン酸ナトリウム0.42mg、重炭酸ナトリウム2.1mg、デキストロース0.92mg、二硫化グルタチオン(酸化型グルタチオン)0.184mg、塩酸および/または水酸化ナトリウム(pHを約7.4に調整するため)を水中に含有する平衡塩類溶液)と組み合わせたPRPCまたは視細胞を含む。
【0118】
投与される場合、本開示において使用するための医薬品は、発熱物質を含まない、生理学的に許容され得る形態であり得る。
【0119】
本明細書に記載されている方法において使用されるPRPCまたは視細胞を含む調製物は、懸濁液、ゲル、コロイド、スラリーまたは混合物に入れて移植され得る。さらに、調製物は、網膜または脈絡膜の損傷部位に送達するために、望ましくは、硝子体液中に粘性の形態で被包または注射され得る。また、網膜下注射による投与のための所望の浸透圧および濃度を達成するために、注射時に、凍結保存されたPRPCまたは視細胞を、市販の平衡塩類溶液で再懸濁し得る。調製物は、完全には疾患になっていない中心周囲黄斑の領域に投与され得、投与された細胞の付着および/または生存を促進し得る。
【0120】
本開示のPRPCまたは視細胞は、眼内注射によって、薬学的に許容され得る眼科用製剤中で送達され得る。例えば、硝子体内注射によって製剤を投与する場合、最小化された体積が送達され得るように、溶液が濃縮され得る。注射の濃度は、本明細書に記載されている要因に応じて、有効で、非毒性である任意の量であり得る。患者の処置のためのPRPCまたは視細胞の医薬品は、少なくとも約10細胞/mLの用量で製剤化され得る。患者の処置のためのPRPCまたは視細胞調製物は、少なくとも約10、10、10、10、107、10、10または1010のPRPCまたは視細胞/mLの用量で製剤化される。例えば、PRPCまたは視細胞は、薬学的に許容され得る担体または賦形剤中に製剤化され得る。
【0121】
本明細書に記載されているPRPCまたは視細胞の医薬品は、少なくとも約1,000;2,000;3,000;4,000;5,000;6,000;7,000;8,000;または9,000個のPRPCまたは視細胞を含み得る。PRPCまたは視細胞の医薬品は、少なくとも約1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×108、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010または9×1010のPRPCまたは視細胞、またはそれより多くまたはそれ未満を含み得る。PRPCまたは視細胞の医薬品は、少なくとも約1×10~1×10、1×10~1×10、1×10~1×10または1×10~1×10のPRPCまたは視細胞を含み得る。例えば、PRPCまたは視細胞の医薬品は、少なくとも約50~200μLの体積中に少なくとも約20,000~200,000のPRPCまたは視細胞を含み得る。
【0122】
前述の医薬品および組成物において、PRPCもしくは視細胞の数またはPRPCもしくは視細胞の濃度は、生存細胞を数え、非生存細胞を除外することによって決定され得る。例えば、生存していないPRPCまたは光受容体は、生体染色色素(トリパンブルーなど)を排除できないことによって、または機能的アッセイ(培養基材に付着する能力、食作用など)を使用することによって検出され得る。さらに、PRPCもしくは視細胞の数またはPRPCもしくは視細胞の濃度は、1もしくはそれを超えるPRPCもしくは視細胞マーカーを発現する細胞を数えること、および/またはPRPCもしくは光受容体以外の細胞型を示す1もしくはそれを超えるマーカーを発現する細胞を除外することによって決定され得る。
【0123】
PRPCまたは視細胞は、細胞が眼の患部、例えば、前房、後房、硝子体、眼房水、硝子体液、角膜、虹彩/毛様体、水晶体、脈絡膜、網膜、強膜、脈絡膜上腔(suprachoridal space)、結膜、結膜下腔、上強膜腔(episcleral space)、角膜内腔、上角膜腔、毛様体扁平部、外科的に誘発された無血管領域または黄斑に浸透することを可能にするのに十分な時間、調製物が眼表面と接触した状態で維持されるように、薬学的に許容され得る眼用ビヒクル中での送達用に製剤化され得る。
【0124】
PRPCまたは視細胞は、細胞のシート中に含有され得る。例えば、PRPCまたは視細胞を含む細胞のシートは、無傷の細胞のシートがそこから放出されることができる基材、例えば、熱応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)がグラフトされた表面などの熱応答性ポリマーであって、細胞が培養温度においてその上に接着および増殖し、次いで、(例えば、下限臨界溶液温度(LCST)を下回る温度に冷却することによって)温度シフトすると、表面特性が変化され、培養された細胞のシートを放出させる基材上でPRPCまたは視細胞を培養することによって調製され得る。(da Silvaら、Trends Biotechnol.2007 December;25(12):577~83;Hsiueら、Transplantation.2006 Feb.15;81(3):473~6;Ide,T.ら、(2006);Biomaterials 27,607~614,Sumide,T.ら、(2005)FASEB J.20,392~394;Nishida,K.ら、(2004)Transplantation 77,379~385;およびNishida,K.ら、(2004),N.Engl.J.Med.351,1187~1196参照、これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。細胞のシートは、例えば、移植に適した基材上で細胞を培養することによって、または別の基材(熱応答性ポリマーなど)から移植に適した基材上に細胞を放出することによって調製された、シートが宿主生物中に移植される場合にインビボで溶解し得る基材などの、移植に適した基材に接着性であり得る。移植に潜在的に適した例示的な基材は、ゼラチンを含み得る(上記のHsiueらを参照のこと)。移植に適し得る別の基材としては、フィブリンベースのマトリックスなどが挙げられる。細胞のシートは、網膜変性の疾患の予防または処置のための医薬の製造において使用され得る。PRPCまたは視細胞のシートは、それを必要とする対象の眼内に導入するために製剤化され得る。例えば、細胞のシートは、PRPCまたは視細胞のシートの移植を伴う中心窩下膜切除術によってこれを必要とする眼の中に導入され得、または中心窩下膜切除術後の移植用医薬の製造のために使用され得る。
【0125】
本明細書に記載されている方法に従って投与される調製物の量は、投与様式、PRPCまたは視細胞の数、患者の年齢および体重ならびに処置される疾患の種類および重症度などの要因に依存し得る。注射によって投与される場合、本開示のPRPCまたは視細胞の医薬品の量は、少なくとも約1、1.5、2、2.5、3、4または5mLまたはそれより多くまたはそれ未満であり得る。量は少なくとも約1~2mLであり得る。
【0126】
網膜変性を処置する方法は、免疫抑制剤の投与をさらに含み得る。使用され得る免疫抑制剤には、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン、BASILIXIMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、RITUXIMAB(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムスおよびタクロリムスが含まれるが、これらに限定されない。免疫抑制剤は、少なくとも約1、2、4、5、6、7、8、9または10mg/kgで投与され得る。免疫抑制剤が使用される場合、全身的または局所的に投与され得、PRPCまたは視細胞の投与の前、同時または後に投与され得る。免疫抑制療法は、PRPCまたは視細胞の投与後、数週間、数ヶ月、数年または無期限に継続され得る。例えば、患者は、PRPCまたは視細胞の投与後6週間、5mg/kgのシクロスポリンを投与され得る。
【0127】
網膜変性の処置の方法は、単回投与のPRPCまたは視細胞の投与を含み得る。また、本明細書に記載されている処置の方法は、PRPCまたは視細胞が一定の期間にわたって複数回投与される一連の治療を含み得る。例示的な一連の処置は、毎週、隔週、毎月、3ヶ月ごと、隔年または毎年の処置を含み得る。あるいは、処置は段階的に進行し得、複数の用量が当初投与され(例えば、最初の週に毎日投与)、その後、必要とされる用量がより少なくなり、頻度も低下する。
【0128】
眼内注射によって投与される場合、PRPCまたは視細胞は、患者の生涯を通じて定期的に1またはそれを超える回数送達され得る。例えば、PRPCまたは視細胞は、1年に1回、6~12ヶ月毎に1回、3~6ヶ月毎に1回、1~3ヶ月毎に1回、または1~4週間毎に1回送達され得る。あるいは、特定の状態または障害に対しては、より頻繁な投与が望ましい場合がある。埋込物(implant)またはデバイスによって投与される場合、PRPCまたは視細胞は、当該患者および処置されている障害または状態に対する必要性に応じて、1回、または患者の生涯を通じて1もしくはそれを超える回数定期的に投与され得る。同様に企図されるのは、時間とともに変化する治療レジメンである。例えば、最初は、より頻繁な処置が必要とされ得る(例えば、毎日または毎週の処置)。時間の経過とともに、患者の状態が改善するにつれて、必要とされる処置の頻度が減り、またはさらなる処置が不要にさえなり得る。
【0129】
本明細書に記載されている方法は、対象における網膜電図応答、視運動視力閾値または輝度閾値を測定することによって、処置または予防の有効性をモニタリングするステップをさらに含み得る。この方法は、細胞の免疫原性または眼内での細胞の移動をモニタリングすることによって、処置または予防の有効性をモニタリングすることも含み得る。
【0130】
PRPCまたはPRは、網膜変性を処置するための医薬の製造において使用され得る。本開示は、失明の処置におけるPRPCまたはPRを含む調製物の使用も包含する。例えば、ヒトPRPCまたはPRを含む調製物は、糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢黄斑変性、例えば、滲出型加齢黄斑変性および萎縮型加齢黄斑変性など)、網膜色素変性症およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)、夜盲および色覚障害などの光受容体損傷および失明をもたらす多くの視力を変化させる病気に関連する網膜変性を処置するために使用され得る。調製物は、少なくとも約5,000~500,000のPRPCまたはPR(例えば、100,00のPRPCまたはPR)を含み得、これらは、糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢黄斑変性など)、網膜色素変性症およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)など、光受容体の損傷および失明をもたらす多くの視力を変化させる病気に関連する網膜変性を処置するために網膜に投与され得る。
【0131】
本明細書で提供されるPRPCまたはPRは、PRPCまたはPRであり得る。しかしながら、ヒト患者のみならず、動物モデルまたは動物患者においても、ヒト細胞が使用され得ることに留意すべきである。例えば、ヒト細胞は、網膜変性のマウス、ラット、ネコ、イヌまたは非ヒト霊長類モデルにおいて試験され得る。さらに、ヒト細胞は、獣医学などにおいて、処置を必要とする動物を処置するために治療的に使用され得る。
【0132】
以下は、本開示を例示するための実施例であり、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【実施例
【0133】
[実施例1]材料および方法
ヒト人工多能性幹細胞浮遊培養
この研究で使用されたヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は、StemRNA(商標)-NM Reprogrammingキット(Stemgent、カタログ番号00-0076)を使用することにより、ヒトの正常な皮膚線維芽細胞から生成された。hiPSCは、0.25μg/cmのiMatrix-511 Stem Cell Culture Substrate(組換えラミニン-511)(ReproCell)上でコロニーとしてインビトロで通常通りに成長させ、NutriStem XF/FF(商標)Culture(Biological Industries)中で培養した。Accutase(Innovative Cell Technologies)で解離することにより、従来の2D単層から9ポジション攪拌プレート(Dura-Mag、ChemCell)上の使い捨てスピナーフラスコ(ReproCell)中での3D球体培養へとhiPSCを移行させた。球体に適応したhPSCを、10μM Y27632(ReproCell)を加えた培養培地(NutriStem(登録商標))を含有する30mlスピナーフラスコ(ReproCell)中に、0.5~1×10細胞/mlの密度で単一細胞として播種した。攪拌速度は、hiPSC系に応じて50~80RPMに調整した。培地を半分しか交換しなかった播種後D1を除いて、培地はY27632を含まない新鮮な培養培地で毎日交換した。Accutaseおよび/またはTrypLEで球体を単一細胞に解離させ、球体のサイズが約230~260μmに達した時点で4~5日ごとに継代した。細胞球体培養物は、37℃で湿度95%の5%CO中に維持した。
【0134】
3D-hiPSC球体の神経への運命決定および光受容体前駆体分化
スピナーフラスコ中での3D培養で3~5継代拡大させた後、解離した3D-hiPSC球体を1×10細胞/mlで播種した。24時間後、分化プロトコル全体を通じて50~80RPMの攪拌速度でスピナーフラスコ中にて分化させるために、未分化のhiPSC球体を直接使用した。すべての培地組成および因子が、図2のパネルAに列記されている。簡単に説明すると、まず、デュアルSMAD阻害剤SB431542(1.5~15μM、Reagents Direct)およびLDN193189(0.25~2.5μM、ReproCell)ならびにIFG1(2.5~50μg/ml、Peprotech)を使用して、D0で、細胞球体をパターン形成させた。D1で、Wnt阻害剤IWR-1e(0.25~10μM、Sigma)およびヘパリン(0.25~15μg/ml、Sigma)を分化誘導培地に添加した。ヘパリンは神経への運命決定のD9で、IWR-1eはD11で取り除かれた。他のすべての因子は、分化のD15に取り除かれた。PRPC分化については、D2からD13まで、上記の誘導因子を加えたPluriton(商標)/GF-free NutristemおよびNIM-3Dの希釈系列を通じたNIM-3D培地への段階的適応。D18からD27まで、NIM-3D/PRPC-3D培地を含有する50/50適応を通じて、PRPC-3D光受容体分化培地に球体を適応させた。D27から、PRPC-3D培地中に球体を維持した。培地は、以下のように交換した。D0~D1:Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標);D2~D5:75%Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)-25%NIM-3D;D6~D9:50%Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)-50%NIM-3D;D10~D13:Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)25%-NIM-3D 75%;D13~D17:NIM-3D100%;D18~D27:NIM-3D 50%-PRPC-3D 50%;D27以降、PRPC-3D 100%。
【0135】
NIM-3D(Neural Induction Medium-3D)基本培地は、HEPES含有DMEM/F12、1%N2および1%B27無血清サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific)、0.30%グルコース(Sigma)ならびに図2に記載されているすべての因子からなった。PRPC-3D培地は、Neurobasal(商標)培地、1%N2および1%B27無血清サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific)、0.30%グルコース(Sigma)からなった。5%COとともに37℃で細胞をインキュベートした。神経分化のD0からD19までは毎日、D19より後には2~4日ごとに、培地の約85%を交換した。
【0136】
分化の間に、異なる時点でTrypLE(Thermo Fisher Scientific)を使用して球体を単一細胞へと解離させ、qRT-PCR分析のためにRNAを抽出した。フローサイトメトリー分析および免疫蛍光染色のために、追加の細胞を処理した。球体の中心に低酸素状態の細胞が生成されることを避けるために、球体の直径が通例350~450μmに達するD19、D30~D32、D50~D52、D80~82に、単一細胞への球体の継続的な解離および30mlスピナーフラスコ中への再凝集によってPRPCを生成した。簡単に説明すると、解離/再凝集手順は、すべての球体を50mlコニカルチューブ中に収集し、続いてPBSで1回洗浄し、37℃の水浴中でTrypLEとともに30~60分間インキュベートすることからなった。細胞を穏やかに粉砕して単一細胞にし、均一な単一細胞懸濁液になるようにし、40μmフィルターを通してろ過した。10μM Y27632を加えた適切な培養培地中、0.5~1×10/mlの密度で、単一細胞を30mlスピナーフラスコ中に播種した。得られた球体の形態(サイズ、外観および球体に組み込む能力)は、各再凝集の2~3日後、およびその後、次の解離/再凝集ステップまで毎週モニタリングした。
【0137】
神経ロゼットの選択のために、球体のさらなる付着/手作業での削り落としステップを神経分化のD5/D12およびD11/D18に導入した。簡単に説明すると、D5およびD11における3mlの球体浮遊培養物を(6ウェルプレートの)Matrigel(Corning)が被覆された3つのウェルに付着させ、付着された球体の中心に神経ロゼットが形成されたら、継続的な分化のために使用されたのと同じ培地中にさらに7日間維持した。培養して1週間後、それぞれD12とD18に、スクレーパー(Corning)を用いて手作業で細胞を持ち上げ、1:1の比率で超低付着ウェル上に播種して、静的条件下で浮遊状態の球体を形成した。分化のD30-32に、静的球体を単一細胞に解離し、30mlスピナーフラスコ中に再凝集させ、本発明者らの継続的解離/再凝集手順と同様のプロトコルを使用して培養を続けた。
【0138】
初期および後期のCRNPおよびPRPCの凍結保存および解凍
インビトロ分化の様々な段階にあるhiPSC由来の網膜プロジェニター(D19で収集された初期CRNP、D30~D34での後期CRNP、およびD50~D120でのPRPC)を、30mlスピナーフラスコの解離された浮遊培養物から収集した。細胞を単一細胞に解離し、速度制御された冷凍庫を使用して、10μMのY-26632が補充されたCryostor CS10(Sigma)凍結培地中に、初期および後期CRNPについては4,000~5,000万細胞/バイアル、PRPCについては500~1,000万細胞/バイアルで、1mlの一定分量で凍結保存した。凍結保存後の培養物での回復/再凝集能力および生存率について、細胞を試験した。2つの異なる分化からのバイアルを解凍し、総生細胞をカウントして、回復および生存率を決定した。解凍時の平均細胞生存率は約80~90%で、回収率は約60~80%であった。スピナーフラスコ中に解凍された単一細胞は、再凝集する能力を保持し、球体のサイズは、解凍後2~4日以内では100~150μmの範囲であり、継続的解離/再凝集の球体サイズと同等である。解凍後の異なる日における球体のフローサイトメトリー分析は、最初の浮遊培養からの解離および再凝集後に形成された球体と比較して、PAX6/SOX2を発現する細胞のパーセンテージが同様であることを明らかにする。qPCR分析は、同様のレベルでのマーカーの発現も確認し、将来の適用のために、大量の細胞を凍結保存および貯蔵することの実行可能性がさらに実証された。
【0139】
免疫細胞化学
TrypLEを使用してPRPC球体を単一細胞へと解離し、Matrigelが被覆された24ウェルプレート上に、インビトロで5.0×10細胞/ウェルで10~20日間、PRPC-3D培地中で播種した。分化のD13に対しては、付着した球体全体を染色のために使用した。培地を除去し、Ca/Mgを含むDPBS(Thermo Fisher Scientific)で細胞を3回洗浄し、次に4%PFA(パラホルムアルデヒド)(Electron Microscopy Sciences)を用いて室温で15分間固定した後、DPBSで3回洗浄した。細胞を透過処理し、室温で最長1時間、DPBS中の5%正常ロバ血清(NDS)(Jackson Immunolab)および0.1%Triton X-100(Sigma)でブロックした後、ブロッキング緩衝液中に希釈された一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。染色のために使用された一次抗体ならびにその希釈および入手源が表1に要約されている。抗体を一晩インキュベーションした後、細胞をDPBSで3回洗浄し、続いて、2.5%NDSおよび0.1%Triton X-100を含有するDPBS中に希釈された適切な種特異的蛍光標識結合二次抗体:ロバ抗マウスAlexa Fluor(登録商標)488-[1:1000]およびロバ抗ウサギAlexa Fluor(登録商標)594結合二次抗体[1:1000](Thermo Fisher Scientific)とともに暗条件下にて室温で2時間インキュベートした。免疫染色のために使用された二次抗体が表2に列記されている。細胞をDPBSで3回洗浄し、室温で3分間、1μg/mlの4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(Thermo Scientific)で細胞核を対比染色した後、DPBSで洗浄した。4倍、10倍および20倍の対物レンズを備えたコンピューター支援Nikon倒立顕微鏡(Eclipse Ti-S)を使用して細胞を検査し、NIS-Elements-BRソフトウェア(バージョン4.50、Nikon)を使用して画像を保存して分析した。
【0140】
免疫組織化学
OCTコンパウンド(Scigen)中に包埋した後、クリオスタット(Leica CM 1950)上で、D120球体を10~12μmの切片に切断した。染色のために、-80℃で保存されたスライドを室温で1時間風乾し、冷4%PFA中で15分間固定した後、それぞれ3分間、DPBSで3回洗浄した。ブロッキングならびに一次および二次抗体とのインキュベーションは、上記のように切片上で直接行った。カバーガラスを使用して、スライドにDAPIを含有するFluorogold-G(Southern Biotech)を載せ、室温で乾燥させ、上記のように画像を取得した。
【0141】
フローサイトメトリー分析
TrypLE(Thermo Fisher Scientific)で球体を単一細胞に解離させ、40μmストレーナーを通してろ過し、Fixation/Permeabilization緩衝液(BD Biosciences)を用いて氷上で12分間固定した。細胞内抗原を検出するために蛍光標識結合抗体を使用するフローサイトメトリーでは、固定された1.0~2.0×10細胞/チューブを、氷上で30分間、FBSおよびSaponinを含有する氷冷した1X BD Perm/Wash Buffer(BD Biosciences)で透過処理した後、適切にコンジュゲートされた抗体(表1中に要約されている)とともに、暗所で30分間インキュベーションした。次に、細胞を2mlのPerm/Wash緩衝液で洗浄し、分析のために調製した。対照細胞はマウスまたはウサギIgGとともにインキュベートした。細胞内抗原を検出するためにコンジュゲートされていない抗体を使用するフローサイトメトリーでは、氷上で30分間、DPBS(Life Technologies)中の0.05%Triton X-100(Sigma)および5%正常ロバ血清(NDS)(Jackson Immuno Research)からなるブロッキング緩衝液(Life Technology)で、固定された細胞をブロックし、続いてブロッキング緩衝液中に希釈された一次抗体とともに室温で1時間インキュベートし、次いで、ブロッキング緩衝液で洗浄した。次に、ブロッキング緩衝液中に希釈された[1:1000]適切なロバ抗ウサギAlexa Fluor(登録商標)488(Invitrogen)またはロバ抗マウスAlexa Fluor(登録商標)647コンジュゲート二次抗体(Invitrogen)とともに、細胞を暗所で1時間インキュベートした。洗浄後、細胞をブロッキング緩衝液中に再懸濁した。対照細胞は二次抗体のみとともにインキュベートした。標準的な手順に従って、Accuri C6フローサイトメーター(BD Biosciences)上で細胞を分析した。データは、BD Accuri C6 Plusソフトウェア(BD)を使用して分析した。
【0142】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)
RNeasy Minikit(Qiagen)を使用して培養された細胞から全RNAを単離し、NanoDrop One(Thermo Scientific)を使用して濃度を測定した。qPCRは2段階の反応で実行された。逆転写(RT)の場合、SympliAmp Thermal Cycler(Applied Biosystems)を使用し、製造元の指示に従ってSuperScript OSM-IV VILO Master Mix cDNA Synthesisキット(Invitrogen)を使用して、0.5μgの全RNAをcDNAに転写した。qPCR反応については、96ウェルプレートブロックを備えたQuantStudio(商標)6 Flex Real-Time PCR Systemを使用して、TaqMan Gene Expression AssaysとTaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)を含有する20μlの反応混合物中で15ngのcDNAを増幅した。実験のために使用されたすべてのTaqMan Gene Expression Assay(TaqManプローブ)が表3中に列記されている。すべての実験において、ハウスキーピング遺伝子GAPDHをデータ正規化のための内部対照として使用した。各標的遺伝子に対する相対的定量データは、QuantStudio Real-Time PCR v1.3ソフトウェアを使用して、2(-ΔΔCT)法[31]に基づき、iPSCを参照対照として使用して分析した。試料は3つ組で作製され、3つの独立した分化から収集された。
【0143】
[実施例2]HiPSC球体培養
細胞治療におけるhPSCの実用化のためには、大規模および3D培養系へのさらなる改良が必要である。この目的に向けて、本発明者らは、NutriStem(登録商標)培地中のフィーダー細胞を含まない2D単層中で培養されたhiPSC(図1、パネルA)を3D動的浮遊培養に移行するためのプロトコルを確立し、このプロトコルにおいて、hiPSCは、フィーダー細胞およびマトリックスの不存在下で小分子Y27632を補充されたNutriStem(登録商標)培地を加えたスピナーフラスコ中で均一な球体として継続的に培養された(図1、パネルB)[25、32~38]。この浮遊培養系を使用すると、hPSC培養物を連続継代し、少なくとも10継代にわたって一貫して拡大させることができる。3D-hiPSC球体に対する典型的な継代間隔が図1のパネルBに示されており、Accutaseを使用して230~260μmのサイズを有する球体を単一細胞に解離させ、60~70RPMで連続的に攪拌しながらスピナーフラスコ中で再凝集させて球体を再形成させた。フローサイトメトリー分析および3~5回の反復継代後の正常な核型によって実証されるように、球体は、高い多能性マーカー発現(OCT4:98.8%)とともに均一な構造を維持しながら、徐々にサイズが増加した。本発明者らの3D-hPSC継代法は、本発明者らの研究室で生成されたすべての日常的に試験されたhPSC系に対して首尾よく利用されたので、幅広く応用可能である。
【0144】
[実施例3]小分子による3D hiPSC球体の網膜ニューロン分化の効率的な誘導
hiPSCとは異なる発達段階にある網膜ニューロンプロジェニターを生成するために、本発明者らは、浮遊状態の3D-hiPSC球体を主に小分子で段階的に直接誘導する新しいアプローチを開発した(図2)。3Dスピナーフラスコ中でのこの新しいプロトコルは、網膜ニューロン分化を誘導するために、連続的な3D球体培養を小分子によるいくつかの解離/再凝集ステップと統合する。以前に報告されたように網膜系統へのhPSC分化の誘導のためにタンパク質因子を使用する代わりに[2,8,10,11,16.21,22]、本発明者らは、網膜細胞のさまざまな発達段階へhPSC球体を順次分化させるために、その品質を簡単に制御することができる主として小分子を特定し、使用した。まず、スピナーフラスコ内のY27632が補充されたNutriStem(登録商標)培地中に、単一細胞(1×10細胞/ml)として細胞を播種して球体を形成した。誘導のD0として指定される24時間後に、アクチビン/トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)および骨形成タンパク質(BMP)のシグナル伝達を遮断し、神経パターン形成を促進するために、まず、デュアルSMAD阻害剤SB431542およびLDN193189でhiPSC球体を処理し[39]、次いで、網膜神経系統への運命決定をさらに誘導するために、Wnt阻害剤IWR-1e[10、11、24]、IGF1(眼野(filed)細胞発達の誘導因子)[18]およびヘパリンを加えた[16]。神経誘導の初期段階で小分子IWR-1eを用いてWntシグナル伝達を操作すると、接着培養および網膜オルガノイド浮遊培養の両方で初期光受容体プロジェニターへとhPSCを効率的に誘導することが報告されたことが示されている[23]。24時間以内に形成された球体のサイズは100μm~150μmの範囲であり、最適なサイズは4つのhiPSC系からの結果に基づくと110μm~125μmの範囲である(図3B)。分化がD0からD19に進むにつれて、成長および拡大し、解離することなく徐々に神経固有の特徴を獲得する間、hiPSC球体は均一なサイズを保った。分化のD3~D5までに、球体はその外観を変え始め、端部がより不規則になった;D19までに、これらの不規則な端部は完全に消失し、球体は半透明で滑らかになり、これは神経幹細胞塊に典型的である。分化の間、本発明者らは、球体が直径250~300μmのサイズに達したD9での1.5~2.5×10細胞(5~8倍)から、継続的に増加し、球体が直径約400μmに達したD19(図3A)での約3.0~4.5×10細胞(10~15倍、図3C)までの範囲にわたって細胞数が徐々に増加することを観察した。
【0145】
[実施例4]3D-hPSC球体からの網膜ニューロン分化の動態分析
フローサイトメトリー分析によってペアードボックス6遺伝子(PAX6)および性決定領域Yボックス2(SOX2)陽性細胞ならびにPAX6/SOX2二重陽性細胞の出現をモニタリングすることによって、網膜分化の動態および神経誘導の効率を調べた。hPSC中で高レベルで発現することが知られている多能性オクタマー結合転写因子4遺伝子(OCT4)は、神経誘導前のD0には高レベルで検出され(98%)、分化の間、D2で約50%まで徐々に下方調節され、D3では約5%まで、D4では0%まで完全に停止された(図4A~4C)。多能性幹細胞と神経幹細胞の両方のマーカーであるSOX2は、D0でのhPSCおよびD19までの神経誘導後の細胞のいずれにおいても高レベルで発現されていた。初期の運命決定された網膜プロジェニター(CRNP)細胞に相当するPAX6陽性およびPax6/SOX2-二重陽性細胞は、D3で出現し(約10%)、D3~D4の間に徐々に上方調節された(約77%)。D5~D7での次の1~3日以内に、PAX6陽性およびPAX6/SOX2陽性細胞は劇的に増加した(≧90%、図4A~4C)。少なくとも約90%の細胞がPAX6およびPAX6/SOX2に対して陽性である3D球体培養は、誘導が成功したと考えた。
【0146】
異なるhPSC系は系統特異的な分化が異なり、条件の最適化が必要となり得ることが報告されている。上記のプロトコルを使用して、本発明者らは、4つの異なるhiPSC系を用いて本発明者らの神経分化条件を試験した。要約すると、30mlスピナーフラスコ(flaks)中で各未分化hPSC系を浮遊培養に適応させ、10μM SB431542、1μM LDN193189、10ng/ml IGF1、IWR-1e(2μM)およびヘパリン2μg/ml)の最適化された濃度での網膜神経分化のために、約100~150μmのサイズ範囲を有する球体を、図2、パネルAに示されている時点で使用し、すべてのhiPSC系がPAX6+およびPAX6+/SOX2+二重陽性細胞を生じた(図4A)。本発明者らは、また、フローサイトメトリー分析によって、hiPSC系#2が他の3つの系と比較してわずかに異なる動態を有するが、OCT4発現は他の系と同じように完全に停止され、PAX6集団がD5~D7に90%より多くに決して達することがないことに注目し、異なる細胞系間で神経誘導の変動性が存在し、将来における細胞補充療法の目的で大規模な細胞生産を開始する前に、異なるhiPSC系の品質を試験する必要があることを示している。それにもかかわらず、これらの結果は、本発明者らの小分子カクテルおよび神経誘導培地が、球体を破壊することなく、継続的に神経系統の発達に向けて3D-hPSC球体を効率的に誘導したことを実証した。
【0147】
上記の段階的分化プロトコルに由来する細胞の正体をさらに調べるために、本発明者らは、Matrigelが被覆されたウェル上にD11球体を播種し、さらに2日間培養し、PAX6、SOX2およびNESTIN(NES)ならびに初期の網膜プロジェニター中で発現される網膜特異的転写因子であるRAX1の発現を調べた。これらの付着した網膜球体は、神経ロゼットと同様の配置を示し、これらの細胞は、PAX6-RAX1およびNES-SOX2に対して二重陽性であり(図5A)、それらの網膜系統をさらに確認した。分化のより初期段階の間のさまざまな時点における球体の定量的リアルタイムPCR遺伝子発現分析は、OCT4遺伝子がD5で完全に停止されたことを示し(図5B)、本発明者らのフローサイトメトリーの結果を確認し、本発明者らの3D球体培養中にPSCが存在しないことをさらに実証する。対照的に、神経マーカーPAX6の発現は、D5に上昇を開始し、D19での神経分化の初期段階において継続し、その後D34~D40に徐々に下方調節され(図5B)、より成熟した網膜細胞への分化の開始と一致した。D5でのRAX1の発現は、初期のCRNPの出現を示し、これに、網膜前駆細胞のマーカーであるCeh-10ホメオドメイン含有ホモログ(CHX10)遺伝子のD13での高レベルの発現が続き、本発明者らの3D球体培養物中において異なる発達段階の網膜細胞型が順次出現することを実証し、インビボでの網膜形成において観察される時間的発達を再現している。本発明者らの結果に加えて以前の報告[9、13、40~42]は、図2に示されているように、初期の網膜プロジェニターの運命の特定化(specification)が、本発明者らの3D球体培養系では約5~13日に起こったことを示した。本発明者らは、D5~D13の細胞を初期の運命決定された網膜ニューロンプロジェニター(Committed Retinal Neuron Progenitor)(CRNP)と、D13~D40の細胞を後期のCRNPと名付けた。
【0148】
[実施例5]3D CRNP球体からの光受容体前駆細胞の生成
以前の研究は、2Dおよび3D網膜オルガノイドの両方においてさまざまな程度の効率でのhPSCからの光受容体プロジェニターの生成を報告しているが[9、11、15、16、18、21、43、44]、本発明者らは、本発明者らの分化プロトコルが有糸分裂後の光受容体プロジェニターおよび光受容体様細胞を効率的に生成することができるかどうかも調べた。約D19で初期のCRNP表現型を獲得した後(図5A~5B)、連続的に分化した3D球体が直径約400μmに達した時点で、球体を初めて単一細胞へ解離させ、球体を再形成するために、Y27632が補充された神経分化培地を加えた30mlスピナーフラスコ中で0.5~1×10細胞/mlの細胞密度で再凝集させた(図6)。早くも約110μmの球体サイズでの再凝集の1日後に、神経幹細胞塊の形態的特徴(位相差が明るく、半透明で、球体の外縁部上に小さなマイクロスパイクを有する)を備えた球体への細胞の即時の完全な再凝集が達成された(図6、パネルA)。分化条件下において、約D14から約D30まで、約400μmまでのサイズの漸次かつ継続的な球体の成長が観察され、この時点で、球体を再び単一細胞へと解離し、スピナーフラスコ中で再凝集させた。D50~52、D80~82およびD100~102に、同様の解離/再凝集アプローチを反復して実行した(図6、パネルA)。各解離/再凝集サイクルの間に、球体形成および成長の同等のパターンが観察され、開始時の3×10hiPSCから約D100での約3.0~4.5×10網膜ニューロンプロジェニターまでに細胞数の約100倍の増加が達成され、以前の報告よりもはるかに効率的である(図6、パネルB)。
【0149】
球体の細胞組成を調べるために、本発明者らはD32およびD82の解離/再凝集時点で解離した細胞を播種し(図7A)、さらに約1~3週間インビトロで培養した。網膜分化条件下で培養された付着した単一細胞の形態的特徴は、インビトロでの光受容体プロジェニターのものに類似したニューロンの接続を明らかにした(図7A)。これらの細胞の本当の正体をさらに特定するために、免疫蛍光細胞化学分析によって、光受容体プロジェニターに特異的ないくつかのマーカーの発現を調べた。本発明者らの結果は、数回の解離/再凝集を経た分化のD100において、これらの細胞が、光受容体の運命の特定化および発達にとって極めて重要な鍵となる転写因子である錐体-桿体ホメオボックス(CRX)、神経網膜ロイシンジッパー(NRL)および甲状腺ホルモン受容体-β2(ThRB2)を高レベルで発現したことを明確に実証し(図7B)、一方、これらの球体中では少数のKi67+増殖細胞が検出されたに過ぎなかったので、この3D球体プロトコルでは、有糸分裂後の網膜ニューロンが効率的に生成されたことを示している。さらに、比較的成熟したニューロン細胞の一般的なマーカーである微小管(microtube)関連タンパク質(MAP2、緑)は高度に発現されていたのに対し、星状膠細胞および/またはミュラーグリアのマーカーであるグリア線維酸性タンパク質(GFAP、赤)はこれらの細胞中において低密度で検出され、光受容体プロジェニター特異的マーカーを発現するほぼ均一なニューロンの集団を示しており、本発明者らは、これらの有糸分裂後の網膜ニューロンを光受容体前駆細胞(PhotoReceptor Precursor Cell)(PRPC)と名付けた。本発明者らは、D100において、成熟した視細胞マーカーの発現も調べ、本発明者らの結果は、これらの細胞のほとんどがいずれも桿体光受容体のマーカーである桿体視物質タンパク質のロドプシン(RHOD)およびニューロンのカルシウム結合タンパク質であるリカバリン(REC)を発現することを示した(図7C)。
【0150】
PRPCおよび光受容体様細胞への効率的な分化は、D80でのフローサイトメトリー分析によっても確認された。結果は、多能性遺伝子OCT4を発現する検出可能な細胞は存在しなかったのに対し、細胞の90%より多くがPRPCおよび光受容体マーカーを発現したことを示した(CRX、95.2%;NRL、96.6%;NR2E3、91.3%、REC、96.8%および錐体特異的オプシン赤/緑M-OPSIN、91.2%、図8A)。分化過程中のこれらの遺伝子の発現動態をさらに特徴付けるために、本発明者らはRT-qPCR分析を実施した。これらの分析により、NRL、核内受容体サブファミリー2、グループE、メンバー3(NR2E3)およびThRβ2などのPRPCマーカー遺伝子が分化のD40から徐々に増加することがさらに明らかとなった(図8B)。同様に、光受容体マーカーREC、RHODおよびM-OPSINの発現動態は同じ傾向を示したが、M-OPSINの発現はD70でのみ検出可能であった(図8B)。PAX6、RAX1およびCHX10遺伝子は、すべて初期および後期CRNP細胞のマーカーであるが、図5Bに示すように、劇的に下方調節された。これらの細胞中で初期網膜ニューロン遺伝子の下方調節と後期網膜ニューロンマーカーの上方調節が同時に起こったことは、これらの細胞がPRPCおよび光受容体の発達段階にあることを示している。したがって、本発明者らは、80日(D80)を超えて分化した細胞を光受容体様細胞と名付ける。他の3つのhiPSC系を用いて同じ分析を行い(データは示さず)、この3D球体分化系の再現性および一貫性を実証した。hiPSC由来PRPCの核型分析は、解離/再凝集ステップを繰り返すことにより、長期の3D球体培養後の遺伝的安定性を示した(データは示さず)。球体およびこれらの球体に由来する単一細胞の両方を、液体窒素中での凍結保存後の生存率について試験し、凍結保存された初期および後期のCRNPおよびPRPCから約80%の生存細胞を回収した(データは示さず)。
【0151】
分化した球体中の細胞をさらに特性評価するために、本発明者らはOCT中にD120球体を包埋し、切片化し、特異的抗体染色によって一般的なニューロンのおよび網膜ニューロンの特異的マーカーを調べた(図9)。球体の形態およびヘマトキシリン染色という定性的評価によって、球体の断面全体にわたって壊死性コアのない明確な細胞の完全性が明らかになり、適切な酸素および栄養素が球体に供給されて、代謝性廃棄物が長期の浮遊培養の間に培地中へ輸送されることをさらに実証した(図9)。切片全体に密集したMAP2の高レベル発現(図9、パネルC)は、PRPC特異的マーカーであるCRXおよびNRLを発現する細胞の割合が高いことおよびKi67+増殖細胞の数が極めて少ないことと合わせると、これらの球体中でのPRPCの効率的な生成をさらに確認する(図9、パネルD)。神経上皮の認識可能な構造内に組織化された球体中でのRHODおよびRECの広範な発現(図10)によって示されるように、D120までに、より成熟した桿体光受容体が大量に存在した。総合すると、これらの結果は、小分子、解離/再凝集および継続的攪拌下で刺激され、微小重力増強された微小環境の複合効果によって、本発明者らの培養系が、hiPSCからの多数の高純度で均質なPRPCの堅牢な生成を支えることを実証する。
【表1-1】
【表1-2】
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
[実施例6]ソニックヘッジホッグの使用
図11は、ヒト人工多能性幹細胞から網膜神経プロジェニターを誘導するための神経誘導プロトコルの概要である。ソニックヘッジホッグ(SHH)と組み合わせて小分子を使用することによって、網膜プロジェニター細胞が効率的に生成される。rh-SHHは組換えヒトSHHを指すことに注意すること。
【0155】
スピナーフラスコ中での3D培養で3~5継代拡大させた後、解離した3D-hiPSC球体を1×10細胞/mlで播種した。24時間後、分化プロトコル全体を通じて50~80RPMの攪拌速度でスピナーフラスコ中にて分化させるために、未分化のhiPSC球体を直接使用した。すべての培地組成および因子が図11に列記されている。簡単に説明すると、まず、デュアルSMAD阻害剤SB431542(「SB」、1.5~15μM、Reagents Direct)およびLDN193189(「LDN」、0.25~2.5μM、ReproCell)ならびにIFG1(2.5~50μg/ml、Peprotech)を使用して、D0で、細胞球体をパターン形成させた。D1で、Wnt阻害剤IWR-1e(0.25~10μM、Sigma)を分化誘導培地Pluriton(商標)に添加した。rh-SHH(0.5~20nM、Sigma)をD3に追加した。rh-SHHは神経運命決定(neural commitment)のD9で取り除き、IWR-1eはD11で取り除いた。他のすべての因子は、分化のD15に取り除かれた。PRPCの分化については、上記の誘導因子を用いたPluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)およびNIM-3Dの希釈系列を介したNIM-3D培地への段階的な適応によるD2からD13まで。D18からD27まで、NIM-3D/PRPC-3D培地を含有する50/50適応を通じて、PRPC-3D光受容体分化培地に球体を適応させた。D27から、PRPC-3D培地中に球体を維持した。培地は、以下のように交換した。D0~D1:Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標);D2~D5:75%Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)-25%NIM-3D;D6~D9:50%Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)-50%NIM-3D;D10-D12:Pluriton(商標)/GF-free NutriStem(登録商標)25%-NIM-3D75%;D13~D18:NIM-3D 100%;D19~D21:NIM-3D 50%-PRPM-3D 50%;D22以降、PRPM-3D 100%。
【0156】
NIM-3D(Neural Induction Medium-3D)基本培地は、HEPES含有DMEM/F12、1%N2および1%B27無血清サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific)、0.30%グルコース(Sigma)ならびに図11に記載されているすべての因子からなった。PRPM-3D培地は、Neurobasal(商標)培地、1%N2および1%B27無血清サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific)、0.30%グルコース(Sigma)からなった。5%COとともに37℃で細胞をインキュベートした。神経分化のD0からD19までは毎日、D19より後には2~4日ごとに、培地の約85%を交換した。
【0157】
SHHで処理された培養物は、分化の7日目までに、ヘパリンで処理された対照と比較して、網膜神経新生に不可欠な転写因子であるPAX6を発現する細胞のより高い割合を示した。19日目に、SHHで処理された培養物は、対照と比較して、PAX6を発現する細胞の10倍を超える増加を示した。7日目から21日目までPAX6発現の着実な減少を示したSHH条件とは対照的に、対照は9日目までにPAX6発現細胞の急激な減少を示し、細胞集団が主として双極細胞型およびアマクリン細胞型などの内顆粒層(INL)から別の細胞運命を採ったことを示している可能性がある。さらに、ヘパリン処理された対照におけるニューロンのおよび網膜の特異的マーカーのRT-PCR定量は、独立した数巡の網膜プロジェニター分化にわたって一貫性がより低かった。これらの結果は、SHHが、ニューロンの誘導および網膜プロジェニターの増殖を達成する上で、ヘパリンなどの他の分裂促進因子活性化タンパク質のより効果的な代替物であることを示している。
【0158】
図12は、ヘパリンまたはSHHで処理された分化した細胞におけるPAX6 mRNA遺伝子発現のRT-PCR定量の比較を示している。光受容体分化のタイムライン中に両方の条件で細胞から全RNAを収集し、PAX6 RNA転写物レベルを分析した。
【0159】
ヘパリン処理された対照群は、D0からD20の間にPAX6 mRNA遺伝子発現のゆっくりとした漸進的な増加を示し、hiPSC神経誘導の効率がより低いことを示している。これとは逆に、SHH処理された群は、5日目までにPAX6 RNAレベルの有意かつ強固な上昇を示し、対照と比較して19日目まで高いままであった。SHH処理された細胞のPAX6遺伝子発現レベルは、5日目までに、対照からの細胞より4倍超高かった。これらの結果は、SHHがヘパリンよりもはるかに効率的に、hiPSCを神経系統に誘導するだけでなく、インビトロでの分化の最初の19日間にPAX6陽性細胞の神経新生を維持することを示唆している。
【0160】
[実施例7]改変培地は、視細胞の運命への成熟を促進する
前駆体と初期の光受容体様細胞の生存および成熟を促進するために、本発明者らは、桿体および錐体光受容体の運命を強固に指定するために本発明者らの成熟培地を最適化した。分化99日目に、Neurobasal(商標)培地中に1%Glutamax、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)(20ng/mL)、アスコルビン酸(0.2 mM)およびDAPT(1μM)を含有する培地に細胞培養を切り替えた。図13に示すように、対照と比較して、上記成熟培地は、桿体(RHO)および錐体(ThRβ2)マーカーをそれぞれ20%および10%増加させた。光受容体前駆体マーカーであるリカバリンは対照より約9%高かった。改変された成熟培地では、観察されたネスチン陽性細胞もより少なく、細胞のより大多数が分化し、神経幹細胞状態を脱したことを示している。これらの免疫細胞化学的データは、改変された培地が、対照培地と比較して、視細胞の運命への成熟を促進することを示唆している。
参考文献
【化1】
【化2】
【化3】
【0161】
本開示の記載された方法および組成物の改変および変形が、本開示の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかである。本開示は特定の実施形態に関連して説明されてきたが、権利が請求されている開示はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されるべきである。実際に、本開示を実施するための記載された態様の様々な修正が意図されており、以下の特許請求の範囲によって表される本開示の範囲内に属することが当業者によって理解される。
【0162】
参照による組み込み
本明細書に掲記されているすべての特許および刊行物は、それぞれの独立した特許および刊行物が参照により組み込まれることが具体的かつ個別的に示されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
光受容体前駆細胞のインビトロ産生のための方法であって、
(a)複数の多能性幹細胞を三次元(3D)球体培養して、眼の初期および後期の運命決定された網膜神経前駆体(CRNP)を含む複数の第1の球体を生成すること;
(b)前記第1の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(c)前記第1の球体を第1の複数の実質的に単一の細胞へ解離させること;
(d)前記第1の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、光受容体前駆細胞(PRPC)を含む複数の第2の球体を生成こと;
(e)前記第2の球体が直径約300~500μmの平均サイズに達するまで球体サイズをモニタリングすること;
(f)前記第2の球体を第2の複数の実質的に単一の細胞へ解離させること;
(g)前記第2の複数の実質的に単一の細胞を3D球体培養して、有糸分裂後のPRPCを含む複数の第3の球体を生成すること;
(h)必要に応じて、前記有糸分裂後のPRPCを光受容体様細胞へさらに分化させること;
を含む、方法。
(項目2)
前記多能性幹細胞が、好ましくはヒト由来の、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、項目1に記載の方法。
(項目3)
ステップ(a)、(d)および(g)が、好ましくは連続攪拌下で、スピナーフラスコまたは攪拌タンクバイオリアクター内で培養することを含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
ステップ(a)が、神経誘導培地、好ましくは、HEPES含有DMEM/F12、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸ならびにグルコースを含有し、ソニックヘッジホッグ、ヘパリン、IWR-1e、SB431542、LDN193189およびIGF1の1またはそれより多くが補充されたNIM-3D(神経誘導培地-3D)基本培地に徐々に適応させ、その中で培養することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
SB431542、LDN193189およびIGF1を第1の期間提供すること、IWR-1eを前記第1の期間より短い第2の期間提供すること、およびソニックヘッジホッグまたはヘパリンを前記第2の期間より短い第3の期間提供することをさらに含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記第1の期間が10~20日、好ましくは12~18日、より好ましくは16日である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記第2の期間が5~15日、好ましくは8~14日、より好ましくは11日である、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記第3の期間が3~12日、好ましくは5~10日、より好ましくは7日である、項目5に記載の方法。
(項目9)
ステップ(b)において、前記第1の球体が直径約350~450μmの平均サイズに達する、項目1に記載の方法。
(項目10)
ステップ(b)において、前記第1の球体が直径約400μm未満の平均サイズに達する
、項目1に記載の方法。
(項目11)
ステップ(c)および(f)が、それぞれ、前記第1の球体および前記第2の球体を細胞解離酵素と接触させることを含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
ステップ(d)が、光受容体分化培地、好ましくは、Neurobasal(商標)培地、N2およびB27無血清サプリメント、ペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸およびグルコースを含有するPRPC-3D培地に徐々に適応させ、その中で培養することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
ステップ(g)および/または(h)が、成熟培地、好ましくは、L-グルタミン(例えば、GlutaMAX (商標) )、ペニシリン/ストレプトマイシン、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸およびDAPT(N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-l-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル)を含有するNeurobasal (商標) 培地へ切り替え、その中で培養することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目14)
ステップ(g)および/または(h)が、直径が約300~500μmになるまで球体サイズをモニタリングすること、好ましくは細胞解離酵素を用いて、前記第3の球体を第3の複数の実質的に単一の細胞に解離させること、および前記第3の複数の実質的に単一の細胞を再凝集させることをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
光受容体補充療法のための、項目1~14のいずれか一項に記載の方法を使用して調製された前記有糸分裂後のPRPCおよび/または光受容体様細胞の使用。
(項目16)
前記光受容体補充療法が、萎縮型および滲出型の両方の加齢黄斑変性、桿体または錐体ジストロフィー、網膜変性、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、レーバー先天黒内障およびシュタルガルト病などの網膜疾患の処置のためである、項目15に記載の使用。
(項目17)
項目1~14のいずれか一項に記載の方法を使用して調製された前記有糸分裂後のPRPCおよび/または光受容体様細胞において薬剤を試験することを含む、インビトロスクリーニングのための方法。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13