(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】油圧供給装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/00 20060101AFI20240214BHJP
F16K 15/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F16H61/00
F16K15/00
(21)【出願番号】P 2021567183
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2020045701
(87)【国際公開番号】W WO2021131677
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019238014
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 智子
(72)【発明者】
【氏名】河住 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 智也
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215028(JP,A)
【文献】特開2001-227606(JP,A)
【文献】特開2010-261508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆止弁と、
ストレーナと、
車両の走行用駆動源によって作動する第1オイルポンプと、
モータによって作動する第2オイルポンプと、を有し、
前記ストレーナの第1接続口は、前記第1オイルポンプと接続され、
前記ストレーナの第2接続口は、前記逆止弁を介して、前記第2オイルポンプと接続され、
前記逆止弁は、前記第2オイルポンプの停止時に前記第2オイルポンプと前記第2接続口との連通を遮断し、
前記第2接続口は、前記第1接続口よりも重力方向上方に位置する、油圧供給装置。
【請求項2】
逆止弁と、
ストレーナと、
車両の走行用駆動源によって作動する第1オイルポンプと、
モータによって作動する第2オイルポンプと、を有し、
前記ストレーナの第1接続口は、前記第1オイルポンプと接続され、
前記ストレーナの第2接続口は、前記逆止弁を介して、前記第2オイルポンプと接続され、
前記逆止弁は、前記第2オイルポンプの停止時に前記第2オイルポンプと前記第2接続口との連通を遮断し、
前記ストレーナの上部は、前記第1接続口から前記第2接続口に向かうにつれて重力方向上方に向かうように構成されている、油圧供給装置。
【請求項3】
前記逆止弁は、前記第2オイルポンプに吸引されるオイルが重力方向において下から上に向かって流れる部分に設けられる、
請求項1又は2記載の油圧供給装置。
【請求項4】
前記第2オイルポンプは気中に配置され、前記逆止弁は、オイル源であるオイル溜まり中に配置される、
請求項1乃至3のいずれか一に記載の油圧供給装置。
【請求項5】
前記逆止弁は、板状の弁部と、前記板状の弁部を前記ストレーナの前記第2接続口に向けて付勢するスプリングと、を有する、
請求項1乃至4のいずれか一に記載の油圧供給装置。
【請求項6】
前記第1オイルポンプ及び/又は前記第2オイルポンプから無段変速機に油圧が供給され、
前記無段変速機をダウンシフトさせるときに、前記第1オイルポンプ及び前記第2オイルポンプとの双方を作動させる、
請求項1乃至5のいずれか一に記載の油圧供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2016-79992Aが開示する、自動変速機等に油圧を供給する油圧供給装置は、エンジンにより作動するメカオイルポンプと、モータにより作動する電動オイルポンプの2つのポンプを備える。油圧供給装置は、車両の走行状況に応じて、メカオイルポンプと電動オイルポンプを併用し、または切り替えて油圧を供給する。
【発明の概要】
【0003】
電動オイルポンプは、油路を介してオイルパン内に形成されたオイル溜まりからオイルを吸引する。電動オイルポンプが停止してオイルの吸引が停止されると、部品間の隙間から入り込んだエアや、オイルを濾過するストレーナに溜まったエアが油路中に入り込むことによって、油路からオイルが抜けてしまう。これによって、電動オイルポンプを再び作動させる際に、油路中のエアを吸引してしまい、エアが排出されるまで空転してオイルの吐出が遅れてしまう可能性がある。
【0004】
電動オイルポンプとオイル溜まりを接続する油路にエアが入り込むことを防止し、電動オイルポンプの応答性を向上させることが求められている。
【0005】
本発明のある態様によれば、逆止弁と、ストレーナと、車両の走行用駆動源によって作動する第1オイルポンプと、モータによって作動する第2オイルポンプと、を有し、前記ストレーナの第1接続口は、前記第1オイルポンプと接続され、前記ストレーナの第2接続口は、前記逆止弁を介して、前記第2オイルポンプと接続され、前記逆止弁は、前記第2オイルポンプの停止時に前記第2オイルポンプと前記第2接続口との連通を遮断し、前記第2接続口は、前記第1接続口よりも重力方向上方に位置する、油圧供給装置が提供される。
また、本発明の別の態様によれば、逆止弁と、ストレーナと、車両の走行用駆動源によって作動する第1オイルポンプと、モータによって作動する第2オイルポンプと、を有し、前記ストレーナの第1接続口は、前記第1オイルポンプと接続され、前記ストレーナの第2接続口は、前記逆止弁を介して、前記第2オイルポンプと接続され、前記逆止弁は、前記第2オイルポンプの停止時に前記第2オイルポンプと前記第2接続口との連通を遮断し、前記ストレーナの上部は、前記第1接続口から前記第2接続口に向かうにつれて重力方向上方に向かうように構成されている、油圧供給装置が提供される。
【0006】
上記態様によれば、電動オイルポンプとオイル源を接続する油路にエアが入り込むことを防止し、電動オイルポンプの応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、ベルト無段変速機の概略構成図である。
【
図2】
図2は、油圧供給装置の構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、油路に設けた逆止弁の具体的な構成を説明する図である。
【
図5】
図5は、油路に設けた逆止弁の具体的な構成を説明する図である。
【
図6】
図6は、電動オイルポンプの動作時の逆止弁の動作を説明する図である。
【
図7】
図7は、電動オイルポンプの停止時の逆止弁の動作を説明する図である。
【
図8】
図8は、比較例として、油路に逆止弁が設けられていない場合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、ベルト無段変速機1の概略構成図である。
図2は、油圧供給装置2の構成を模式的に示す図である。
【0009】
図1に示すように、車両用のベルト無段変速機1は、変速機構として、プライマリプーリP1およびセカンダリプーリP2の一対のプーリと、一対のプーリに巻き掛けられた無端状のベルトBと、を有している。
【0010】
ベルト無段変速機1では、プライマリプーリP1とセカンダリプーリP2におけるベルトBの巻き掛け半径を変更することで、プライマリプーリP1とセカンダリプーリP2との間で伝達される回転の変速比が変更される。
【0011】
プライマリプーリP1およびセカンダリプーリP2におけるベルトBの巻き掛け半径は、それぞれに付設された油室R1、R2へ供給する油圧を調節することで変更される。
【0012】
ベルト無段変速機1は、油圧供給装置2を有している。油圧供給装置2は、メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4で発生させた油圧を調圧回路70で調圧して、油室R1、R2に供給する。
【0013】
メカオイルポンプ3は、エンジン等の車両用駆動源から入力される回転で駆動されるオイルポンプである。メカオイルポンプ3は、車両用駆動源の作動と停止に連動して、作動及び連動が切り換えられる。電動オイルポンプ4は、車両用駆動源とは別に設置されたモータから入力される回転で駆動される。不図示の制御装置によってモータの作動と停止が切り換えられることで、電動オイルポンプ4の作動と停止が切り換えられる。
【0014】
電動オイルポンプ4は、例えば車両のアイドリングストップ等の、メカオイルポンプ3の停止時にメカオイルポンプ3の代わりに作動させても良い。あるいは、ベルト無段変速機1のダウンシフト等の大きな油圧が必要とされる場合に、メカオイルポンプ3と併用して作動させても良い。
【0015】
図2に示すように、ベルト無段変速機1は、変速機構を収容するトランスミッションケース5を備えているが、鉛直線VL方向におけるトランスミッションケース5の下部には、オイルOLを貯留するオイルパン6が設けられている。オイルパン6は、トランスミッションケース5の下部開口を覆っている。オイルパン6内にはオイル源であるオイル溜まりPLが形成され、メカオイルポンプ3および電動オイルポンプ4は、オイル溜まりPLからオイルOLを吸引する。
【0016】
トランスミッションケース5は、レイアウトの制約上、車両の前後方向において前端側が後端側より上方に位置するように傾斜して配置されている。トランスミッションケース5に取り付けられたオイルパン6も、車両の前後方向において後端側から前端側に向けて上方に傾斜している。
【0017】
オイルパン6の内部には、コントロールバルブボディ7がトランスミッションケース5の下部に固定された状態で配置されている。コントロールバルブボディ7には、調圧回路70(
図1参照)が内蔵されている。
【0018】
コントロールバルブボディ7の下部には、ストレーナ8が固定されている。ストレーナ8は、下部にオイルOLの吸込口81を備え、内部にオイルOLを濾過するフィルタFを備えている。
【0019】
メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4は、鉛直線VL方向におけるストレーナ8の上部に設置されている。
図2では、位置関係をわかりやすくするために、メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4を模式的に円形で図示しており、それぞれに図示した吸入口31、41も、位置を示すだけの模式的なものである。
【0020】
メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4は、それぞれコントロールバルブボディ7の内部に設けられた油路21、22(
図1参照)によって接続され、ストレーナ8を介してオイルパン6に貯留されたオイルOLを吸引する。
【0021】
メカオイルポンプ3は、車両の前後方向においてストレーナ8の後端寄りに配置され、電動オイルポンプ4は前端寄りに配置されている。メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4は、互いに平行な線分X1、X2に沿って設けられているが、メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4は傾斜して配置されたストレーナ8の上部に配置されているため、線分X1、X2に直交する直線Laは、水平線HLに対して所定角度θ傾斜した状態となっている。
【0022】
この傾斜によって、ストレーナ8の上部の後端寄りに配置されたメカオイルポンプ3の下部はオイル溜まりPL内の液中に位置しているが、電動オイルポンプ4の下部はオイル溜まりPLの液面より上の気中に位置している。
【0023】
図1に示すように、メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4には、それぞれオイルOLの吸入口31、41が設けられ、ストレーナ8には接続口82、83が設けられている。吸入口31、41と接続口82、83は、それぞれ油路21、22を介して接続されている。
【0024】
図2に示すように、ストレーナ8の傾斜によって、メカオイルポンプ3の下部に設けられた吸入口31はオイル溜まりPLの液中に位置するが、電動オイルポンプ4の下部に設けられた吸入口41は気中に位置している。なお、
図1は模式図のため、便宜上、メカオイルポンプ3の吸入口31もオイル溜まりPLの上方に図示している。
【0025】
図1に示すように、電動オイルポンプ4の吸入口41とストレーナ8の接続口83を接続する油路22には、電動オイルポンプ4の停止時に油路22におけるオイルOLの逆流を阻止する弁装置として、逆止弁91が設けられている。
【0026】
メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4が吸入したオイルOLは、それぞれの吐出口32、42から油路23、24を介して調圧回路70に供給される。
油路23、24には、逆止弁92、93が設けられている。逆止弁92は、メカオイルポンプ3の停止時に、油路23におけるオイルOLの逆流を阻止する弁装置である。逆止弁93は、電動オイルポンプ4の停止時に、油路24におけるオイルOLの逆流を阻止する弁装置である。
【0027】
逆止弁91、92、93の詳細な構成と動作については後述する。
【0028】
調圧回路70には、コントロールバルブボディ7(
図2参照)の内部に形成されており、不図示の制御装置らの指令(通電)に基づいて駆動するソレノイドや、ソレノイドで発生させた信号圧等で作動する調圧弁を有している。
【0029】
第1調圧弁71は、当該第1調圧弁71でのオイルOLのドレーン量を調整することで、電動オイルポンプ4で発生させた油圧からライン圧を調整する。第1調圧弁71は、また、一部のオイルOLをベルト無段変速機1の構成要素を潤滑する潤滑油として、トランスミッションケース5(
図2参照)内に供給する。
【0030】
第1調圧弁71により調整されたライン圧は、第2調圧弁72と、プライマリ調圧弁73およびセカンダリ調圧弁74とに供給される。
【0031】
第2調圧弁72は、ライン圧からパイロット圧を調整する。
第2調圧弁72で調整されたパイロット圧は、プライマリプーリP1側のソレノイド75と、セカンダリプーリP2側のソレノイド76に供給される。
【0032】
ソレノイド75、76は、それぞれプライマリ調圧弁73とセカンダリ調圧弁74に接続されている。ソレノイド75、76は、不図示の制御装置によって制御され、供給されたパイロット圧を所望の信号圧に調整して、プライマリ調圧弁73及びセカンダリ調圧弁74に供給する。
【0033】
プライマリ調圧弁73とセカンダリ調圧弁74は、信号圧に応じて、第1調圧弁71から供給されたライン圧を作動圧に調圧して油室R1、R2に供給する。
【0034】
図3は、油路24に設けた逆止弁93の具体的な構成を説明する図である。
図4は、
図3の逆止弁93周りの拡大図である。
以下の説明において、電動オイルポンプ4の吸引によって、オイルOLがオイル溜まりPLから調圧回路70へ送られる方向を油送方向という。
図3は、電動オイルポンプ4の吐出口42に接続する、油路24の油送方向上流側端部24a(以下、単に「上流側端部24a」という)を図示している。
【0035】
図3に示すように、油路24は主にコントロールバルブボディ7の内部に形成されているが、上流側端部24aは、トランスミッションケース5からコントロールバルブボディ7側に延び、コントロールバルブボディ7に接続する壁部51の内部に形成されている。
【0036】
コントロールバルブボディ7に、油路24の外周を囲む筒状壁部77が設けられ、この筒状壁部77の先端の外周に、壁部51の先端部511が嵌合している。これによって、筒状壁部77の内周側と壁部51の内部とが連通している。油路24は壁部51の内部に形成された上流側端部24aから、コントロールバルブボディ7の内部に接続する。
【0037】
壁部51には、電動オイルポンプ4の吐出口42と油路24の上流側端部24aとを連通させる円形の開口部51aが、壁部51を厚み方向に貫通して形成されている。開口部51aは、開口方向(図中、開口部51aの中心を通り、開口部51aの開口面に直交する軸線X3方向)が、油路24がコントロールバルブボディ7内を延びる方向に沿った軸線Y方向に直交するように設けられる。
【0038】
図4に示すように、開口部51aの外周には、この開口部51aを所定間隔で囲む筒状の周壁部54が、開口部51aの開口径D1よりも大きい内径D2で設けられている。周壁部54の内側には、円筒状のスペーサ55と、シールリング56とが、スペーサ55の開口55aとシールリング56の開口56aとを、開口部51aの開口方向に沿わせた向きで設けられている。
【0039】
シールリング56は、スペーサ55の電動オイルポンプ4側に位置しており、電動オイルポンプ4の吐出口42を囲む壁部43と、スペーサ55との間に挟まれている。
【0040】
スペーサ55の開口55aの開口径D3は、開口部51aの開口径D1よりも小さく、かつ電動オイルポンプ4の吐出口42の開口径Dxよりも大きい径で形成されており、シールリング56の開口56aの開口径は、吐出口42の開口径Dxよりも大きい径で形成されている。
【0041】
電動オイルポンプ4の吐出口42と、シールリング56の開口56aと、スペーサ55の開口55aとは、開口部51aの延長上(軸線X3上)で、同心に配置されており、電動オイルポンプ4から吐出されたオイルOLの油路24内への移動が、スペーサ55やシールリング56により阻害されないようになっている。
【0042】
開口部51aを挟んでスペーサ55とは反対側の油路24内は、逆止弁93の設置位置となっている。
【0043】
逆止弁93は、いわゆるフラッパ弁であり、軸線X3方向に進退移動可能な弁体94と、弁体94を軸線X3方向において開口部51a側に付勢するスプリングSpとから構成される。
弁体94は、例えばアルミ合金製であり、一体に形成された円板状の弁部95と、円柱状の軸部96とから構成される。弁部95は一端面95a側を開口部51a側に向けて配置されている。軸部96は、弁部95の他端面95b側に設けられ、軸線X3方向に延びる。
【0044】
壁部51には、開口部51aに対向する位置に、逆止弁93の収容部513が設けられている。この収容部513は、開口部51aの延長上(軸線X3上)で、油路24の接続部内に開口しており、開口部51aから離れる方向に移動した逆止弁93を収容する。
【0045】
収容部513は、弁体94の弁部95の外径D4よりも僅かに大きい内径の空間であり、この収容部513の底部513aの中央には、弁体94の支持部53が、油路24(電動オイルポンプ4)側に突出して形成されている。
【0046】
この支持部53には、逆止弁93の軸部96が挿入される穴部530が、油路24側に開口して設けられおり、この穴部530は、支持部53内を油路24から離れる方向に向けて、軸線X3に沿って直線状に延びている。
【0047】
穴部530の、軸線X3方向における開口部51a側の一端は開口端530aである。穴部530の他端は底部530bが形成され、閉塞されている。
穴部530は、支持部53の内径側を超えて壁部51内まで及んでいる。逆止弁93の軸部96は、開口端530aから穴部530内に挿入されている。
【0048】
図4に示すように、支持部53の、穴部530の開口端530aを囲む部分は弁座部531となっている。軸部96の先端96bが底部530bまで移動し、軸部96の全長が穴部530の内部に収容されると、弁部95の中央に形成された段部951が、穴部530の開口端530aを囲む弁座部531に当接する。
【0049】
支持部53の外周には、スプリングSpが外挿されて取り付けられている。このスプリングSpの一端は、油路24の内周面で軸線X3方向の位置決めがされており、スプリングSpの他端は、弁部95の他端面95bに当接している。
【0050】
実施の形態では、逆止弁93の弁部95をスペーサ55の端面55bに当接させた状態で、スプリングSpが、軸線X3方向に圧縮されるようになっている。
そのため、電動オイルポンプ4の停止時には、弁部95が、スプリングSpの付勢力で、スペーサ55の端面55bに圧接し、開口部51aを閉止する位置に保持される。
【0051】
そして、この状態で電動オイルポンプ4が作動すると、弁部95に電動オイルポンプ4から吐出されたオイルOLの押圧力が作用するので、この押圧力がスプリングSpの付勢力よりも大きくなると、弁部95は、スプリングSpを軸線X3方向に押し縮めながら、スペーサ55から離れる方向にストロークすることになる(
図4参照)。
【0052】
これにより、弁部95は、他端面95b側の段部951が弁座部531に当接する位置まで、油路24内に押し込まれて、弁部95で封止されていた開口部51aが開かれることになる。
【0053】
これによって、電動オイルポンプ4の吐出口42と、壁部51内の油路24とが連通するので、電動オイルポンプ4から吐出されたオイルOLは、上流側端部24aを通ってコントロールバルブボディ7の油路24内に供給される。
【0054】
このように、油路24に設けられた逆止弁93は、電動オイルポンプ4の作動と停止に応じて、油路24と電動オイルポンプ4の吐出口42の連通及び遮断を切り換える。
【0055】
図1に図示した、メカオイルポンプ3と調圧回路70を接続する油路23に設けられた逆止弁92も、逆止弁93と同じ構成のフラッパ弁とすることができる。詳細な説明は省略するが、逆止弁92は、メカオイルポンプ3の作動と停止に応じて、油路23とメカオイルポンプ3の吐出口32の連通および遮断を切り換える。
【0056】
図5は、油路22に設けた逆止弁91の具体的な構成を説明する図である。
図5に示すように、逆止弁91は、油路22の、ストレーナ8の接続口83に接続する油送方向上流側端部22a(以下、単に「上流側端部22a」という)に設けられている。
【0057】
上流側端部22aには、接続口83に連通する開口部22bが設けられている。開口部22bは、コントロールバルブボディ7の内部に配置されたセパレートプレート78に形成されている。ストレーナ8の上方に突出する接続口83は、コントロールバルブボディ7に内嵌し、コントロールバルブボディ7の内部に設けられた開口部22bに対向している。
【0058】
開口部22bの開口方向は、接続口83の開口方向である軸線X方向に沿って配置されており、開口部22bは、接続口83に対して鉛直線VL方向(
図2参照)の上方に位置している。電動オイルポンプ4の吸引によって、オイルOLは、重力方向において下から上に向かって流れ、接続口83および開口部22bを通過して、油路22の内部に導入される。
【0059】
逆止弁91は、逆止弁93と同じ構成のフラッパ弁であり、弁部95と軸部96から構成される弁体94を備える。軸部96は、油路22が形成されるコントロールバルブボディ7の内部に形成された穴部22cに摺動可能に支持されている。穴部22cは開口部22bの開口方向である軸線X方向に沿って設けられ、穴部22cの外周には支持部22dが形成される。支持部22dには、弁部95を付勢するスプリングSpが外挿される。
【0060】
電動オイルポンプ4の停止中は、スプリングSpの付勢力によって、弁部95が開口部22bに圧接され、開口部22bを閉止する。電動オイルポンプ4が作動すると、電動オイルポンプ4がオイルOLを吸入することにより発生する負圧が作用する。この負圧がスプリングSpの付勢力よりも大きくなると、逆止弁91の弁部95が開口部22bから離れる方向に変位し、開口部22bが開放される。
【0061】
このように、逆止弁91は、電動オイルポンプ4の作動と停止に応じて、開口部22bを開閉することで、油路22とストレーナ8の接続口83との連通および遮断を切り換える。
【0062】
ここで、
図1に示すように、メカオイルポンプ3および電動オイルポンプ4の吐出口32、42側に設けられた逆止弁92、93には、ライン圧の元圧となる高い油圧がかかるため、耐圧性が要求される。前記したように、逆止弁92、93は、耐圧性を高めるために、例えばアルミ合金製の弁体94とすることができる。
【0063】
一方、電動オイルポンプ4の吸入口41側に設けられた逆止弁91に対して、電動オイルポンプ4の作動時にかかる圧力は、元圧より弱い負圧である。そのため、逆止弁92、93に比べて要求される耐圧性は低いため、例えば、逆止弁91の弁体94は樹脂製とすることができる。
【0064】
以下、実施の形態に係る油圧供給装置2の、電動オイルポンプ4の動作時と停止時における逆止弁91、93の動作について説明する。
【0065】
図6は、電動オイルポンプ4の動作時の逆止弁91、93の動作を説明する図である。
ここでは、電動オイルポンプ4をメカオイルポンプ3と併用して作動させる場合を説明する。なお、
図6~
図8においては、逆止弁93周りの構成は簡略化して図示している。
【0066】
例えば、ベルト無段変速機1のダウンシフト等で、大きな油圧が必要とされる場合に、メカオイルポンプ3の供給する油圧を増加させるために電動オイルポンプ4を作動させる。
【0067】
不図示の制御装置によって電動オイルポンプ4を作動させ、オイルOLの吸入を開始すると、
図6に示すように、油路22の逆止弁91が負圧を受けて開口部22bを開放する方向に変位することで、油路22とストレーナ8の接続口83が連通する。これによって、ストレーナ8で濾過されたオイル溜まりPLのオイルOLが、油路22を流れ、電動オイルポンプ4に吸入される。
【0068】
電動オイルポンプ4が吸入したオイルOLを吐出口42から吐出することによって、油路24の逆止弁93はライン圧の元圧である油圧を受け、開口部51aを開放する方向に変位する。これによって、油路24と電動オイルポンプ4の吐出口42が連通する。ストレーナ8から電動オイルポンプ4に吸入されたオイルOLが油路24を流れる。電動オイルポンプ4の吸入によって発生したライン圧の元圧は、油路24を介して調圧回路70に供給される。
【0069】
電動オイルポンプ4が供給した元圧は、調圧回路70においてメカオイルポンプ3が供給した元圧と共に調圧されて、油室R1およびR2に供給される。
【0070】
図7は、電動オイルポンプ4の停止時の逆止弁91、93の動作を説明する図である。
油室R1およびR2に必要な量の油圧が供給されると、不図示の制御装置は電動オイルポンプ4を停止させる。
電動オイルポンプ4を停止させると、
図7に示すように、油路24の逆止弁93には、
油圧がかからなくなるため、スプリングSpの付勢力によって開口部51aを閉止する方向に変位し、油路24と電動オイルポンプ4の吐出口42の連通を遮断する。
【0071】
同様に、油路22の逆止弁91にも電動オイルポンプ4の負圧がかからなくなるため、スプリングSpの付勢力によって開口部22bを閉止する方向に変位し、油路22とストレーナ8の接続口83の連通を遮断する。
【0072】
このように、実施の形態では、電動オイルポンプ4の停止時には、逆止弁91、93によって、電動オイルポンプ4の上流側と下流側のそれぞれが遮断される。
以下に、逆止弁91および93のいずれか一方または両方を設けなかった場合の作用を、それぞれ比較例1、2、3として説明する。なお、実施の形態とは区別するために、比較例1、2、3においては、油路22、24を、油路22A、24A(
図8参照)と置き換えて説明する。
【0073】
・比較例1:逆止弁91、93の両方を設けなかった場合
電動オイルポンプ4が停止すると、オイルOLが、メカオイルポンプ3や調圧回路70から油路24Aを介して電動オイルポンプ4側に逆流する。この逆流によって、メカオイルポンプ3から調圧回路70へ供給されるオイルOLの量が減少してしまう。これによって、メカオイルポンプ3の吐出量を上げる必要があり、車両の燃費に影響を与える。
【0074】
・比較例2:逆止弁91を設けなかった場合
図8は、比較例2を示す図である。
比較例1と異なり、油路24Aに逆止弁93が設けられているため、メカオイルポンプ3から電動オイルポンプ4への逆流を防ぐことはできる。一方、油路22Aには、電動オイルポンプ4によるオイルOLの吸引が停止されると、気中に位置する電動オイルポンプ4の吸入口41等の部品間の隙間から油路22Aにエアが入り込む。また、ストレーナ8内に溜まったエアが油路22Aの内部に入り込むこともある。
このように、逆止弁91が設けられていない油路22Aにエアが入り込むことによって、油路22AからオイルOLが抜けてしまう。
【0075】
油路22AからオイルOLが抜けた状態で電動オイルポンプ4を作動させると、電動オイルポンプ4は最初に油路22Aに入り込んだエアを吸入して空転し、オイルOLの吐出を開始するタイミングが遅れる可能性がある。
【0076】
・比較例3:逆止弁93を設けなかった場合
油路22Aに逆止弁91が設けられていることによって、油路22Aからのオイル抜けの防止はできるが、前記したように、逆止弁93が設けられていない油路24Aを介して、メカオイルポンプ3や調圧回路70から電動オイルポンプ4側にオイルOLが逆流する。逆止弁91は、通常は電動オイルポンプ4の吸引による負圧によって動作するものであり耐圧性を要求されないが、オイルOLの逆流によって弁体94に高い圧力がかかると、逆止弁91の製品寿命が低下する可能性がある。
【0077】
前記したように、大きな油圧が必要とされるダウンシフト時等に電動オイルポンプ4をメカオイルポンプ3と併用する場合には、速やかに油室R1、R2に油圧を供給することが求められている。
【0078】
そこで、
図7に示すように、実施の形態では油路22に逆止弁91を設けることで、電動オイルポンプ4の停止時に、吸入口41等の部品の隙間を介して、油路22の内部にエアが入り込むことが低減される。これによって、油路22からオイルOLが抜けることを防止する。
【0079】
図6に示すように、油路22にオイルOLがある状態で電動オイルポンプ4を作動させると、エアの吸入による空転が低減され、さらに電動オイルポンプ4は油路22の逆止弁91が開く前に油路22のオイルOLを吸入して吐出を開始するため、速やかに油室R1、R2に油圧を供給する。
【0080】
さらに、
図2に示すように、電動オイルポンプ4はオイル溜まりPLに貯留されるオイルOLを吸入するが、オイル溜まりPLのオイルOLは、ベルト無段変速機1の構成要素の回転によって攪拌された後、トランスミッションケース5の壁面等を伝ってオイルパン6の内部に落下したものである。そのため、オイル溜まりPLのオイルOLには、空気の粒Kが大量に含まれている。ストレーナ8内には、空気の粒Kを含んだオイルOLが吸引される。空気の粒Kは、浮力によってストレーナ8内部を鉛直線VL方向における上側に移動し、エア溜まりAirを形成する。
【0081】
前記したようにストレーナ8は、電動オイルポンプ4が配置されている前端側が、メカオイルポンプ3が配置されている後端側に対して鉛直線VL方向における上方に位置している。そのため、エア溜まりAirは、電動オイルポンプ4が配置されているストレーナ8の前端側に形成されやすい。
【0082】
比較例3で説明したように、油路22に逆止弁91が設けられていない場合、電動オイルポンプ4の停止時に、メカオイルポンプ3がオイルOLを吸引することでストレーナ8の前端側に形成されたエア溜まりAirのエアが、接続口83(
図1参照)を介して油路22に入り込んでしまう可能性がある。これによって、電動オイルポンプ4を作動させる際に多量のエアを吸引していまい、吐出タイミングの遅れが発生する可能性がある。
【0083】
実施の形態では、電動オイルポンプ4の停止時に、逆止弁91が、油路22とストレーナ8の接続口83との連通を遮断することで、電動オイルポンプ4の停止時に、ストレーナ8の前端側に溜まったエアが接続口83を介して油路22に入り込み、油路22からオイルOLが抜けることを防止することができる。
【0084】
また、電動オイルポンプ4が作動する際には、油路22内部のオイルOLを吸引して吐出を開始するため、逆止弁91を後退させて油路22と接続口83を連通させた後に、エア溜まりAirのエアが吸引されても、電動オイルポンプ4の吐出遅れには繋がりにくい。
【0085】
さらに、実施の形態では、油路24にも逆止弁93を設けることで、電動オイルポンプ4が停止させた際、オイルOLがメカオイルポンプ3や調圧回路70から電動オイルポンプ4側に逆流することを防止することができる。これによって、メカオイルポンプ3から調圧回路70へのオイルOLの供給量の低減を防止し、さらに逆流したオイルOLによって油路22の逆止弁91に高い圧力がかかることを防止する。
【0086】
以上の通り、実施の形態の油圧供給装置2は、
(1)車両の走行用駆動源によって作動するメカオイルポンプ3(第1オイルポンプ)と、
走行用駆動源とは異なるモータによって作動し、車両の走行状況に応じて作動と停止が切り換えられる電動オイルポンプ4(第2オイルポンプ)と、
メカオイルポンプ3および電動オイルポンプ4で発生した油圧を調圧して、油室R1、R2に供給する調圧回路70と、
電動オイルポンプ4をオイル溜まりPL(オイル源)に接続する油路22と、
油路22に設けられた逆止弁91と、を備える。
【0087】
電動オイルポンプ4が停止すると、部品間の隙間等を介して油路22中にエアが入り込み、エアによってオイル溜まりPLと電動オイルポンプ4を接続する油路22からオイルOLが抜けることがある。油路22からオイルOLが抜けると、電動オイルポンプ4を再び作動させる際にエアが排出されるまで空転し、オイルOLの吐出が遅れてしまう可能性がある。
【0088】
電動オイルポンプ4を、アイドリングストップ等の、メカオイルポンプ3の停止時に用いる場合は多少の作動遅れは問題にならない。一方、無段変速機のダウンシフト等の、大きな油圧が要求される際にメカオイルポンプ3の補助として電動オイルポンプ4を用いる場合には、速やかに作動することが要求される。
【0089】
実施の形態では、油路22に逆止弁91を設けることで、電動オイルポンプ4が停止した際にエアが入り込んで油路22からオイルOLが抜けることを防止し、電動オイルポンプ4の作動応答性を向上させることができる。
【0090】
(2)逆止弁91は、油路22の、電動オイルポンプ4に吸引されるオイルOLが重力方向において下から上に向かって流れる部分に設けられる。
【0091】
逆止弁91は、油路22の、ストレーナ8の接続口83に接続する上流側端部22aに設けられ、開口部22bを開閉する。電動オイルポンプ4の作動中、オイルOLは開口部22bにおいて重力方向において下から上に向かって流れる。そのため、電動オイルポンプ4が停止した際に、オイルOLが重力にしたがって下流側に逆流し、油路22からオイルOLが抜けてしまいやすくなる。そこで、開口部22bを開閉する逆止弁91を設けることで、逆流を防止し、適切に油路22からのオイル抜けを防止することができる。
【0092】
(3)電動オイルポンプ4は気中に配置され、逆止弁91は、オイル源であるオイル溜まりPL中に配置される。
【0093】
油路22の、オイル溜まりPLから電動オイルポンプ4に向かう方向を油送方向としたとき、逆止弁91の油送方向下流側は、逆止弁91によって閉止されるためオイルOLが抜けず、電動オイルポンプ4が気中に配置されていても、エアの吸い込みが防止される。また逆止弁91自体は油中に配置されているため、逆止弁91の油送方向上流側でのエアの吸い込みも防止することができる。
【0094】
(4)オイル溜まりPL中にオイルOLを濾過するストレーナ8が配置され、
メカオイルポンプ3および電動オイルポンプ4は、ストレーナ8を介してオイル溜まりPLからオイルOLを吸引するものであり、
ストレーナ8は、
メカオイルポンプ3にオイルOLを供給する接続口82(第1の接続口)と、
接続口82の重力方向上方に設けられ、油路22に接続する接続口83(第2の接続口)と、を備え、
逆止弁91は、電動オイルポンプ4の停止時に、油路22の、接続口83との連通を遮断する。
【0095】
メカオイルポンプ3と電動オイルポンプ4は、共有のストレーナ8からオイルOLを吸引するものであり、メカオイルポンプ3と接続する接続口82に対して、電動オイルポンプ4と接続する接続口83の方が上方にある。
【0096】
オイル溜まりPLに貯留されているオイルOLは、車両の回転体に攪拌されたことによって、エアを含んでいることがある。このエアを含んだオイルOLがストレーナ8の内部に吸入されると、エアは重力方向上方に移動し、接続口83付近にエア溜まりAirを形成しやすい。
【0097】
逆止弁91によって、電動オイルポンプ4の停止時に接続口83との連通を遮断することで、エア溜まりAirのエアが接続口83から油路22に入ってしまうことが防止される。これによって、電動オイルポンプ4を再び作動させる際に、油路22のエアの吸い込みによる吐出遅れを低減することができる。
【0098】
(5)逆止弁91は、
接続口83と連通する油路22の開口部22bの開口方向(軸線X方向)に対して進退移動可能に設けられ、開口部22bを開閉する弁体94を備えたフラッパ弁である。
【0099】
逆止弁91をフラッパ弁とすることで、例えばボール弁よりも、油路22の開放時にオイルOLの流量を多くすることができる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0101】
実施の形態では、
図2に示すように、レイアウトの制約等によってトランスミッションケース5が傾斜して配置された例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、レイアウトが比較的自由であれば、トランスミッションケース5、オイルパン6およびストレーナ8を傾斜させずに水平に配置させ、電動オイルポンプ4の吸入口41がオイル溜まりPLの液中に位置するようにしても良い。
【0102】
本願は、2019年12月27日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-238014号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。