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特許7436539搬送ガイド駆動機構、紙葉搬送装置、紙葉搬送装置の制御方法及び紙葉取扱装置
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  • 特許-搬送ガイド駆動機構、紙葉搬送装置、紙葉搬送装置の制御方法及び紙葉取扱装置 図17
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】搬送ガイド駆動機構、紙葉搬送装置、紙葉搬送装置の制御方法及び紙葉取扱装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 9/00 20060101AFI20240214BHJP
   B65H 7/10 20060101ALI20240214BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20240214BHJP
   B65H 5/36 20060101ALI20240214BHJP
   G07D 11/17 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
B65H9/00 A
B65H9/00 J
B65H7/10
B65H5/06 F
B65H5/36
G07D11/17
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022029786
(22)【出願日】2022-02-28
(65)【公開番号】P2023125594
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000230858
【氏名又は名称】日本金銭機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(74)【代理人】
【識別番号】100149892
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 弥生
(74)【代理人】
【識別番号】100185672
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】原口 孝平
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-012342(JP,A)
【文献】特開2002-362785(JP,A)
【文献】特開2006-264793(JP,A)
【文献】実開昭62-151465(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 9/00
B65H 7/10
B65H 5/06
B65H 5/36
G07D 11/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉の一面をガイドする搬送面と、該搬送面の幅方向両側縁に沿って夫々対向配置されて搬送される前記紙葉の両側縁を夫々がガイドする搬送ガイドと、前記各搬送ガイドを所定の方向へ同期して進退させる進退機構と、各搬送ガイドが前記搬送面から最も突出した突出位置、及び該突出位置よりも該搬送面側へ退避した退避位置を夫々規定するストッパと、前記進退機構を駆動するDCモータと、を備えた搬送ガイド駆動機構であって、
前記進退機構は、前記DCモータにより駆動されて前記各搬送ガイドを前記突出位置と前記退避位置との間で進退させるギヤ機構と、前記各搬送ガイドが前記突出位置と前記退避位置で夫々前記ストッパにより停止させられたタイミングで前記DCモータが停止した時に該DCモータの出力軸から前記ギヤ機構へ伝達される該DCモータの慣性モーメントを吸収緩和するイナーシャ吸収機構と、を備えていることを特徴とする搬送ガイド駆動機構。
【請求項2】
前記ギヤ機構は、前記各搬送ガイドに設けたラックギヤと、前記各ラックギヤと夫々噛合して回転駆動されることにより前記各搬送ガイドを同時に進退させるピニオンギヤと、前記搬送面の幅方向と並行に配置された駆動軸に軸芯を夫々支持されて前記DCモータからの駆動力により回転駆動される2つの駆動側ギヤと、前記各駆動側ギヤの一側面に沿って夫々同軸状に、且つ該各駆動側ギヤと相対回転可能に前記駆動軸により軸芯を支持され、且つ前記各ピニオンギヤと夫々常時噛合する中間ギヤと、を備え、
前記イナーシャ吸収機構は、前記各駆動側ギヤと前記各中間ギヤとの間に配置され、前記各搬送ガイドが前記突出位置と前記退避位置に夫々達して停止したことにより前記DCモータが停止した時に発生する慣性モーメントを吸収緩和する弾性部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の搬送ガイド駆動機構。
【請求項3】
前記各搬送ガイドは、前記搬送面と直交する方向に進退し、幅寸法が小さい小幅紙葉の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された小幅紙葉ガイド部と、該小幅紙葉ガイド部の上方又は下方に隣接配置されて幅寸法が大きい幅紙葉の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された幅紙葉ガイド部と、を備えていることを特徴とする請求項1、又は2に記載の搬送ガイド駆動機構。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の搬送ガイド駆動機構と、
前記搬送面に沿って前記紙葉を搬送する過程で該紙葉が正規の搬送方向とは異なる方向への反力を受けた場合に、該反力を受けている期間中に搬送グリップを低下させて搬送する摩擦搬送装置と、制御手段と、を備えたことを特徴とする紙葉搬送装置。
【請求項5】
請求項3を引用する請求項4に係る紙葉搬送装置の制御方法であって、
前記制御手段は、小幅紙葉を搬送する小幅紙葉搬送モードにおいては、前記小幅紙葉ガイド部を、前記搬送面に沿って搬送される小幅紙葉の両側縁をガイド可能なホームポジションに停止させ、
広幅紙葉を搬送する広幅紙葉搬送モードにおいては、前記広幅紙葉ガイド部を、前記搬送面に沿って搬送される広幅紙葉の両側縁をガイド可能なホームポジションに停止させ、
前記小幅紙葉搬送モードにおいて、一旦前記各搬送ガイドを通過した前記小幅紙葉を返却する場合には前記進退機構を作動させて前記広幅紙葉ガイド部を前記ホームポジションに移行させた上で、前記返却のための動作を実施することを特徴とする紙葉搬送装置の制御方法。
【請求項6】
請求項4に記載の前記紙葉搬送装置を備えたことを特徴とする紙葉取扱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙幣等の紙葉を搬送する紙葉搬送装置において紙葉の搬送位置等に係る搬送不良を矯正、解消する搬送ガイドを駆動する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
投入された紙幣を受け入れて利用者に物品やサービスを提供する各種自動販売機、両替機、金銭払出し機、その他の各種紙幣取扱装置に装備される紙幣搬送装置にあっては、短辺を先頭にして投入された紙幣が搬送通路の中心軸から位置ずれしたり、斜行する等の搬送不良を起こしている場合にこれを正規の位置、及び姿勢に矯正するセンタリング装置やスキュー補正装置が装備されている。
センタリング装置、及びスキュー補正装置は、搬送通路上における紙幣の搬送位置や搬送姿勢を下流側に位置する識別装置による読取り、判定に適した状態に修正する。また、センタリング装置等は、識別装置の更に下流側に位置するキャッシュボックスに積層される紙幣の整列状態のバラツキによる後段の各種処理の繁雑化、例えばソーターや集計装置への紙幣束のセットに先立つ整列作業の繁雑化を防止し、更に整列不良のままの紙幣束をソーター等にセットして処理を実施した場合におけるジャム発生を防止する。
【0003】
次に、世界各国で発行されている紙幣は、米国、カナダ、豪州等のように短辺の最大サイズ(最大幅寸法)が72mm未満である小幅紙幣と、日本、ユーロ、マカオ等のように最大幅寸法が72mm以上、且つ86mm未満である広幅紙幣に大別できる。
しかし、紙幣搬送装置のメーカーが、小幅紙幣が流通する国と、広幅紙幣が流通する他の国向けに紙幣搬送装置を製造する場合に、国毎に異なった仕様の装置を製造することは不利である。即ち、搬送路の幅の広狭差以外に構造上の差異のない紙幣搬送装置を二機種用意しておき、発注に応じて製造、出荷することは製造コスト増、在庫管理費用などの点で明らかに不利である。
このような不利不便に対処するために、広幅紙幣を搬送できる広幅の搬送路を備えた一機種だけを用意して小幅紙幣にも共通使用する対策が採られている。特に、紙幣の金種、真贋等を識別する手段として画像センサを用いる場合には、紙幣の搬送姿勢、位置にバラツキがあっても高精度の識別ができるため、小幅紙幣を搬送する場合にもセンタリング、スキュー補正機能は不要とされていた。しかし、搬送位置の補正や姿勢を矯正しないままの小幅紙幣が連続して搬送されると、キャッシュボックス内に集積して収納されたときに著しく不整列な状態となる。キャッシュボックスから取り出された紙幣束を手作業によりある程度以上整合性よく整列させない限り、次段のソーターや計数機にセットして処理を行う際にジャムが発生して処理不能に陥る原因となる。このため、紙幣を整列させる手間が無視できない程度の労力の増加となり、作業効率を著しく低下させる原因となっていた。
そこで、従来、広幅の搬送路を備えた紙幣搬送装置により小幅紙幣を一定の軌道に沿って搬送できるようにするために、広幅の搬送路の両側壁に沿って小幅紙幣に対応した搬送ガイドを接着固定することで幅寄せ、スキュー補正できるようにしていた。即ち、広幅紙幣を搬送できる幅の広い搬送面を備えた紙幣搬送装置を一機種だけ用意して広幅紙幣を用いる国向けにこれを使用する一方で、小幅紙幣を用いる国向けとしては同じ機種の広幅紙幣用の搬送面の両側縁に対向させて小幅紙幣用の搬送ガイドを接着固定して対応することが行われていた。小幅紙幣用の搬送ガイドを広幅の搬送面の両側縁に対向させた状態で固定することにより、両搬送ガイドを通過する小幅紙幣の幅方向両側縁を搬送面の中心軸に向けて幅寄せすることが可能となる。
しかし、実際には小幅紙幣用の搬送ガイドを接着する作業が生産性を低下させる原因となっており、この点の改善が望まれていた。
【0004】
また、小幅紙幣用の搬送ガイドは受入れ搬送時には有効に機能するが、下流側の識別装置によって当該紙幣が受入れNGであると判定されて返却動作が行われる時に搬送不良の不具合をもたらす原因となっている。即ち、搬送中にNGと判定された小幅紙幣が返却のために逆搬送される過程で小幅紙幣用の搬送ガイドに衝突して紙詰まりが発生し、装置の稼働がダウンするという不具合が報告されている。
幅寸法が異なる紙幣に共通して対応できる紙幣搬送装置として、特許文献1では、入金されて搬送される紙幣を一枚毎に搬送路の中心軸に幅寄せするために一対の可動片を搬送路の幅方向に沿って等距離ずつ同期して進退自在に設置している。初期状態では両可動片は最も離間した待機位置にあり、幅寄せ時には紙幣の搬送を一旦停止させた状態でスプリングの力により両可動片を中心軸に向けて移動して紙幣の中心軸を搬送通路の中心軸に整合させる幅寄せ作業を実施する。モータギヤ駆動により両可動片を開ききった後に搬送を再開し、識別を精度良く行うようにしている。
しかし、個々の紙幣の幅寄せ動作中に搬送を一時停止させる必要があるため処理時間が増えるという問題と、部品点数の増大、個々の部品の大型化という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6855329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、様々な位置や角度から挿入される紙葉を、中断することなく連続的に搬送しながら正常な搬送状態に修正することができ、幅寸法が異なる紙葉を共通して取り扱うことができ、しかも紙葉の返却時に搬送ガイドがジャムを起こす原因となることを防止できる搬送ガイド駆動機構、紙葉搬送装置、紙葉取扱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る搬送ガイド駆動装置は、紙葉の一面をガイドする搬送面と、該搬送面の幅方向両側縁に沿って夫々対向配置されて搬送される前記紙葉の両側縁を夫々がガイドする搬送ガイドと、前記各搬送ガイドを所定の方向へ同期して進退させる進退機構と、各搬送ガイドが前記搬送面から最も突出した突出位置、及び該突出位置よりも該搬送面側へ退避した退避位置を夫々規定するストッパと、前記進退機構を駆動するDCモータと、を備え、前記進退機構は、前記DCモータにより駆動されて前記各搬送ガイドを前記突出位置と前記退避位置との間で進退させるギヤ機構と、前記各搬送ガイドが前記突出位置と前記退避位置で夫々前記ストッパにより停止させられたタイミングで前記DCモータが停止した時に該DCモータの出力軸から前記ギヤ機構へ伝達される該DCモータの慣性モーメントを吸収緩和するイナーシャ吸収機構と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、幅寸法が異なる紙葉に共通使用できる広幅の搬送面(搬送路)を備えた紙葉搬送装置において、連続的、非間欠的に搬送しながら変形、破損を防止しつつ正常な搬送状態に修正する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る搬送ガイド機構を備えた紙葉搬送装置の紙葉搬送路、及び摩擦搬送装置を簡略化して示す側部縦断面図である。
図2】(a)及び(b)は一部を断面で示す下部ユニットの平面略図である。
図3】(a)及び(b)は搬送ガイド機構の一例を示す斜視図である。
図4】(a)及び(b)は搬送ガイド機構の一例を示す他の斜視図である。
図5】(a)及び(b)は搬送ガイド機構の構成を示す側面図である。
図6】(a-1)及び(a-2)は搬送ガイドが最下降位置にある時の正面図、及び下降時ストッパ周辺の断面図であり、同図(b-1)及び(b-2)は搬送ガイドが最上昇位置にある時の正面図、及び上昇時ストッパ周辺の断面図である。
図7】(a)はイナーシャ吸収機構を含む進退機構の一部構成を示す斜視図、(b)は駆動側ギヤの一面の構成図、(c)は中間ギヤの一面の構成図である。
図8】(a)は2つの搬送ガイドの一例の構成を示す斜視図であり、(b)は(a)のB-B断面図、及びB’-B’断面図である。
図9】(a)は小幅紙幣ガイド部を横断面で示した各搬送ガイドの斜視図であり、(b)は広幅紙幣ガイド部を横断面で示した各搬送ガイドの斜視図である。
図10】(a)乃至(e)は最下降位置にある搬送ガイドを最上昇位置に移動させる行程を説明する図である
図11】(a)乃至(e)は最上昇位置にある搬送ガイドを最下降位置に移動させる行程を説明する図である。
図12】搬送モード間の相互切替えの手順を説明するフローチャートである。
図13】各搬送モード中における返却動作に係るフローチャートである。
図14】摩擦搬送装置の要部正面図である。
図15】(a)及び(b)は同装置の要部斜視図である。
図16】(a)乃至(e)は本発明の搬送ガイド、及びその駆動機構を紙幣搬送路に適用した場合のスキュー補正手順を示す要部平面図である。
図17】(a)乃至(e)は本発明の搬送ガイド、及びその駆動機構を紙幣搬送路に適用した場合の他のスキュー補正手順を示す要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
[紙幣搬送装置の基本構成、動作原理]
以下、本発明の搬送ガイド駆動機構を備えた紙幣搬送装置の基本構成、動作原理について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る搬送ガイド機構を備えた紙葉搬送装置の紙葉搬送路、及び摩擦搬送装置を簡略化して示す側部縦断面図であり、図2(a)及び(b)は一部を断面で示す下部ユニットの平面略図である。
また、図3(a)及び(b)は搬送ガイド機構の一例を示す斜視図であり、図4(a)及び(b)は搬送ガイド機構の一例を示す他の斜視図であり、図5(a)及び(b)は搬送ガイド機構の構成を示す側面図であり、図6(a-1)及び(a-2)は搬送ガイドが最下降位置にある時の正面図、及び下降時ストッパ周辺の断面図であり、同図(b-1)及び(b-2)は搬送ガイドが最上昇位置にある時の正面図、及び上昇時ストッパ周辺の断面図であり、図7(a)はイナーシャ吸収機構を含む進退機構の一部構成を示す斜視図、(b)は駆動側ギヤの一面の構成図、(c)は中間ギヤの一面の構成図であり、図8(a)は2つの搬送ガイドの一例の構成を示す斜視図であり、(b)は(a)のB-B断面図、及びB’-B’断面図であり、図9(a)は小幅紙幣ガイド部を横断面で示した各搬送ガイドの斜視図であり、(b)は広幅紙幣ガイド部を横断面で示した各搬送ガイドの斜視図である。
本明細書において紙幣取扱装置とは、投入された紙幣(紙葉)を受け入れて利用者に物品やサービスを提供する各種自動販売機、両替機、金銭払出し機、その他の装置類を広く含む。
また、以下の実施形態では紙葉の一例として紙幣を示すが、本装置は紙幣以外の紙葉、例えば有価証券、チケット等々の搬送における幅寄せ、スキュー補正にも適用することができる。
【0011】
<紙幣搬送装置>
紙幣(紙葉)搬送装置1は図示しない紙幣(紙葉)取扱装置本体に装着されて使用され、紙幣搬送装置1に受け入れられた紙幣は識別センサによって紙幣の真贋、金種の識別を受けてから紙幣取扱装置本体内のキャッシュボックス等の紙幣集積部内に一枚ずつ順次収納される。紙幣搬送装置1内を搬送される紙幣に搬送位置のずれや斜行があると、識別不良やジャムが発生したり、キャッシュボックス内に積層状態で収納される紙幣の整列性が悪化してその後の紙幣の取扱いにおける作業性を悪化させる原因となる。このような理由から紙幣搬送装置1内に導入されて搬送される紙幣は、搬送位置、搬送姿勢が一定、或いは許容範囲内であることが求められる。
図1に示すように、紙幣搬送装置1は、下部ユニット3と、下部ユニット3に対して図示しない軸部により開閉自在に支持された上部ユニット4とを備え、図1のように各ユニットが閉じている時に各ユニット間に紙幣搬送路(搬送路空間)10が形成される。
【0012】
紙幣搬送装置1は、紙幣搬送路10(紙幣搬送面11)に挿入されてきた紙幣Pを奥方向に搬送する摩擦搬送装置2と、最大短辺サイズ(最大幅寸法)が72mm以上、且つ86mm未満である広幅紙幣、及び最大幅寸法が72mm未満である小幅紙幣を共通してガイドすることができる可動式の搬送ガイド310と、搬送する紙幣の幅寸法の違いに応じて搬送ガイドが搬送面から突出する距離を切り替えて最適な搬送条件での搬送、幅寄せを実現する搬送ガイド駆動機構300と、を概略備えている。
摩擦搬送装置2により搬送グリップを低下させて横滑り(駆動ローラとのスリップ)が可能な程度に動きが自由となった紙幣に対して搬送ガイド310が幅寄せを行うことにより効果的な幅寄せが可能となっている。また、搬送ガイドは小幅紙幣ガイド部320と広幅紙幣ガイド部330を上下位置関係で隣接配置しているため、搬送ガイドを搬送面と直交する方向へ最短距離だけ進退させるだけで搬送対象とする紙幣を切り替えることが可能となる。つまり、一つの機種としての紙幣搬送装置1により、短辺寸法の異なる二種類以上の紙幣に対応しつつ幅寄せを行うことが可能となる。
なお、図示説明する摩擦搬送装置20は一例であり、これ以外の搬送機構であっても搬送グリップを低下させることができる構成であれば、本紙幣搬送装置1に適用することができる。
【0013】
<摩擦搬送装置>
図14図15に示すように摩擦搬送装置2は、紙幣搬送路(搬送路)10の上面(紙幣搬送面11)に一面(下面)を接触させながら搬送される紙幣Pの該一面に搬送駆動力を伝える駆動側ユニット20と、駆動側ユニットに駆動力を供給する駆動源(駆動モータ)60と、駆動源からの駆動力を被駆動対象物としての駆動側ユニット20等に伝達する駆動伝達部材62と、駆動側ユニットと対向配置されて該紙幣の他面と接して従動回転する従動ローラ102(従動側ユニット100)と、後述する駆動ローラと紙幣との搬送グリップを可変とする搬送グリップ調整機構GAと、各種制御対象を制御する制御手段200と、を概略備える。
【0014】
図1図2等に示すように、紙幣搬送路10は、上面により紙幣Pの下面を案内する紙幣搬送面11と、挿入された紙幣の進入を検知する光センサなどから成る入口センサ(紙幣検知センサ)15と、摩擦搬送装置2の下流側の紙幣搬送面11(奥部搬送面11c)に設けた開口から周面を露出配置された下側の搬送ローラ16aと、上部ユニット4側に搬送ローラ16aと対向して配置された上側の搬送ローラ16bと、光学センサ等から成る識別センサ17と、が配置されている。
なお、本実施形態では、紙幣搬送面11が略水平面であるため、紙幣搬送面を基準として上側、下側と称しているが、紙幣搬送面が水平面であるとは限らない。紙幣搬送面が水平面ではない場合には、「上側」に相当するのは紙幣搬送面の一面側、即ち「表面側」であり、「下側」に相当するのは紙幣搬送面の他面側、即ち「裏面側」である。
駆動側の搬送ローラ16a、駆動側ユニット20、その他の駆動対象物は、駆動伝達部材62を介して駆動モータ60により駆動される。
制御手段200は、駆動側ユニット20の駆動により一枚目の紙幣が紙幣搬送路10を内奥部へ向けて搬送され、当該紙幣の後端部が識別センサ17を通過すると駆動側ユニット20を停止させる。このため、二枚目の紙幣を駆動ローラと従動ローラのニップ部に差し込んでも搬送されることはない。駆動側ユニットの停止後も、識別センサ以降の搬送ローラ16a、16bを駆動することによりキャッシュボックスに向けて一枚目の紙幣を搬送する。キャッシュボックス収納検知手段によりキャッシュボックスに収納されたことが検知されると、制御手段200は駆動モータ60を一旦停止する。制御手段200は、キャッシュボックス内への一枚目の収納が完了したことが検知された時点で二枚目以降の搬送が可能な状態に移行させる。つまり、二枚目の紙幣が紙幣搬送路の入口に挿入されたことが入口センサ15により検知されることにより駆動側ユニット20を駆動再開させる。
【0015】
図1に示すように、駆動モータ60からの駆動力を搬送グリップ調整機構GAを構成する駆動ローラ25に伝達する駆動伝達機構DMは、駆動側ユニット20、搬送ローラ16等を含む。駆動モータ60と駆動ローラ25との間には図示しないギヤ、ベルト、プーリ等の駆動伝達部材62が配置されており、駆動モータからの駆動力を駆動ローラ25、及び各搬送ローラ16a、16bに伝達する。
紙幣搬送路10の終端部には図示しないキャッシュボックスと連通した排出口が位置している。
【0016】
図1図2に示すように、紙幣搬送面(搬送面)11は、搬送方向全長に渡って幅寸法が86mm未満の広幅紙幣を搬送するのに適した広い幅寸法を有する。紙幣搬送面11は、紙幣挿入口としての入口10aに近い入口側搬送面11aと、その奥方にある中間搬送面11bと、最奥部に位置する奥部搬送面11cと、を有する。つまり、本発明では、小幅紙幣を搬送するための小幅の搬送面を設けない。
入口側搬送面11aの両側方には入口側側壁12が立設されており、奥部搬送面11cの両側方には奧部側壁14が立設されている。中間搬送経路11bの両側縁に沿って夫々形成された出没用の開口11b`内には搬送ガイド310L、310Rが夫々出没自在に配置されている。
【0017】
摩擦搬送装置2は、本例では中間搬送面11bの範囲内に配置されている。これは入口10aから導入された紙幣Pが搬送ガイド310に接触することにより反力を受けて先端角部を搬送ガイドにより強く加圧されて変形したり、スキューを起こすことを防止、解消するためである。
摩擦搬送装置2は、紙幣搬送路10の入口10aから、様々な位置、角度、方向から様々なイレギュラーな姿勢で利用者により挿入されたことにより搬送路の側壁等(搬送ガイド310)と接して正規の搬送方向と異なる方向への反力を受ける紙幣Pを連続的、非間欠的に搬送路内奥部に向けて導入、搬送する過程で、搬送路の中心軸CL、或いは搬送ガイドに整合させるように導入姿勢、搬送姿勢を補正する手段である。
摩擦搬送装置2の具体的な構成、及び動作については後述する。
【0018】
<搬送ガイド駆動機構>
搬送ガイド駆動機構300は、紙幣の一面をガイドする搬送面11を備えた搬送路10と、搬送面の幅方向両側縁に沿って夫々対向配置されて搬送される紙葉の両側縁を夫々がガイドする搬送ガイド310(310R、310L)と、各搬送ガイドを搬送面と直交する高さ(厚さ)方向へ一体的に(同期して)進退(出没)させる進退機構350と、各搬送ガイドの上限位置(突出位置)、及び下限位置(退避位置)を規定する(各搬送ガイドをホームポジションで停止させる)ストッパ(ストッパ部材、図6参照)440a、440bと、進退機構350を駆動するDCモータ(搬送ガイド昇降モータ)450と、を概略備える。
図3等に示すように、各搬送ガイド310(310R、310L)は、搬送面11と直交(交差)する方向に進退し、幅寸法が小さい小幅紙幣の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された小幅紙幣ガイド部(小幅紙幣ガイド溝)320と、小幅紙幣ガイド部320の上方又は下方(本例では下方)に隣接配置されて幅寸法が大きい広幅紙幣の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された広幅紙幣ガイド部(広幅紙幣ガイド溝)330と、を備えている。本実施形態に係る各搬送ガイドは構造的には一体化されていないが、進退機構350により同期して一体的に進退させられる。一方の搬送ガイド310Rと他方の搬送ガイド310Lは、各ガイド部320、330を備えた搬送方向へ細長い搬送ガイド本体312と、各搬送ガイド本体312の底部の長手方向両端縁付近から夫々下方に突出した二本の脚部314と、各脚部の対向面に夫々設けたラックギヤ316と、を備える。
【0019】
本実施形態では、小幅紙幣ガイド部320を上方に配置し、広幅紙幣ガイド部330を下側に配置しているが、上下位置を逆にしてもよい。
【0020】
小幅紙幣ガイド部320は、互いに並行な上壁321と中間壁322との間に形成された搬送方向へ細長い凹所(溝)であり、その内奥面325の形状は小幅紙幣の幅方向両側縁と接してこれをガイド(摺接)しつつ搬送路の中心軸に幅寄せするのに適するように構成されている。即ち、本例では、図9(a)に示すように内奥面325は長手方向中央部に位置して紙幣搬送方向と並行な平坦ガイド面325aと、平坦ガイド面325aの上流側(手前側)と下流側(奥側)に夫々連設された傾斜面としてのテーパーガイド面325b、325cと、を備える。平坦ガイド面325aが最も搬送路中心軸寄りに位置しており、テーパーガイド面325b、325cは平坦ガイド面325aの長手方向両端部から夫々側方へ向けて(搬送面中心軸から遠ざかる方向へ)傾斜して延びている。
搬送面中心軸から位置ズレした状態で入口10aから挿入された小幅紙幣はまず上流側のテーパーガイド面325bに幅方向両側縁を案内されて前進する過程で中央に幅寄せされ始め、紙幣の両側縁が平坦ガイド面325aを通過する時に完全に搬送面の中心軸に自己の中心軸を整合させた状態となる。
各広幅紙幣ガイド部330は、互いに並行な中間壁322と下壁331との間に形成された搬送方向へ細長い凹所であり、その内奥面335の形状は広幅紙幣の幅方向両側縁をガイドしつつ搬送路の中心軸に幅寄せするのに適するように構成されている。即ち、本例では、図9(b)に示すように内奥面335は全長に渡って平坦、且つ搬送方向と並行な平坦ガイド面335aとなっている。
搬送面中心軸から位置ズレした状態で入口10aから挿入された広幅の紙幣は各内奥面335に幅方向両側縁を案内されて前進する過程で姿勢を矯正され、紙幣の両側縁が各内奥面335を通過する時に完全に搬送面の中心軸に自己の中心軸を整合させた状態となる。
【0021】
本実施形態では、各搬送ガイド310が図2(a)、図3(a)、図4(a)、図5(a)等に示した退避位置(下限位置)にあるときには上側に位置する小幅紙幣ガイド部320が搬送面11上を搬送される小幅紙幣(幅寸法が72mm未満)の幅方向両側縁を受け入れてガイドするのに適した高さ位置にある。この時、各広幅紙幣ガイド部330は搬送面11よりも下方に位置していて隠蔽されているため、搬送面上の紙幣と接すること(受け入れること)ができない。
【0022】
一方、搬送ガイド310が図2(b)、図3(b)、図4(b)、図5(b)等に示した突出位置(上限位置)にあるときには各広幅紙幣ガイド部330が搬送面11上を搬送される幅の大きな紙幣(幅寸法が72mm以上、且つ86mm未満)の幅方向両側縁を受け入れてガイドするのに適した高さ位置にある。この時、各小幅紙幣ガイド部320は搬送面11よりも上方に離間した位置にあるため搬送面上の紙幣と接すること(受け入れること)ができない。
【0023】
進退機構350は、DCモータ450により駆動されて各搬送ガイド310を搬送面から最も退避(下降)した退避位置と、該退避位置よりも該搬送面の上方へ所定距離突出した突出位置との間で進退させるギヤ機構(駆動伝達機構)360と、各搬送ガイドを退避位置と突出位置で夫々係止して停止させるために装置本体の適所に固定配置された下降時ストッパ440a、及び上昇時ストッパ440bと、各搬送ガイドが退避位置と突出位置で夫々各ストッパにより停止させられたタイミングでモータが停止した後で(停止した時に)DCモータ450の出力軸からギヤ機構360へ伝達されようとするモータの慣性モーメントを吸収緩和するイナーシャ吸収機構400と、を備えている。
ストッパ440は、各搬送ガイドが最下降位置に達したときに各搬送ガイドの一部と接してそれ以上の下降を阻止する下降時ストッパ440aと、各搬送ガイドが最上昇位置に達したときに各搬送ガイドの他の一部と接してそれ以上の上昇を阻止する上昇時ストッパ440bと、を備えている(図6(a-2)(b-2)参照)。
ギヤ機構360は、各搬送ガイド310を構成する各搬送ガイド本体312の底部から夫々下方に延びる二本の脚部314に設けたラックギヤ316と、各ラックギヤと夫々噛合して回転駆動されることにより各搬送ガイドを同時に進退させるピニオンギヤ370と、搬送路の幅方向に沿って配置された駆動軸375に軸芯を夫々固定されてDCモータからの駆動力により一体的に回転駆動される2つの駆動側ギヤ380(380R、380L)と、各駆動側ギヤの一側面(外側面)に対して夫々同軸状に、且つ各駆動側ギヤと相対回転可能に駆動軸375により軸芯を支持され、且つ各ピニオンギヤ370と夫々常時噛合する中間ギヤ390(390R、390L)と、を備える。
【0024】
なお、本実施形態では、各中間ギヤ390は各ピニオンギヤ370が噛合するラックギヤ316とは異なる他のラックギヤ316と噛合している。このため、DCモータからの駆動力は、各駆動側ギヤ380、及び各中間ギヤ390から各脚部314に設けたラックギヤ316に伝達されて各搬送ガイド310を一体的に同期して昇降させる。2つの脚部314を同時に昇降駆動するので、2つの搬送ガイドを平行移動させるに際してバランスが取りやすくなる。
更に、ギヤ機構360は、DCモータ450の出力ギヤ451と、出力ギヤ451と噛合する平歯車452aと、平歯車452aと同軸状に一体化されたウォーム452bと、ウォーム452bと噛合するウォームホイール453aと、ウォームホイール453aと同軸状に一体化されて駆動側ギヤ380と噛合する伝達ギヤ453bと、を備える。
【0025】
<イナーシャ吸収機構>
イナーシャ吸収機構400は、図7に示すように、各駆動側ギヤ380と、各中間ギヤ390と、各駆動側ギヤ380と各中間ギヤ390との間に夫々配置され、且つ各搬送ガイド310が進退する過程でDCモータが停止した時に発生する慣性モーメントを吸収緩和する弾性部材(イナーシャ吸収バネ)405と、を概略備えている。
イナーシャ吸収機構400を構成する弾性部材405は、駆動側ギヤ380と中間ギヤ390との間に円弧状に配置されており、中間ギヤ390と駆動側ギヤ380を周方向へ付勢する手段(圧縮バネ)である。即ち、駆動側ギヤ380は中間ギヤ390と対向する面に円環状の凹所381を有し、凹所381内にはコイルばねから成る弾性部材405が円弧状に配置されている。弾性部材405の両端部は駆動側380の凹所381の内壁から径方向へ突設された押圧片(係止突起)382a、382b、及び383a、383bにより係止されている。押圧片382a、382b、及び383a、383bは、凹所381の内径側内壁、及び外径側内壁から夫々弾性部材405の両端部と干渉するように突設されている。押圧片382a、382b、及び383a、383bは弾性部材の両端部を係止するだけでなく、一方の押圧片(対)が弾性部材の一端部を押圧することにより弾性部材の他端部で中間ギヤ390に設けた被作動片391a、391bの一方を周方向へ押圧させる役割を果たす。
【0026】
また、内径側の押圧片382aと外径側の押圧片382bとの間、及び内径側の押圧片383aと外径側の押圧片383bとの間には夫々ギャップGが形成されている。なお、符号385は、駆動側ギヤの中心孔である。
弾性部材405は凹所381、及び各押圧片382a、382b、及び383a、383bにより形成される円弧状の伸縮スペース内で伸縮可能であるが、各押圧片(対)を越えて拡開することはできない。
【0027】
一方、弾性部材405と対向して配置される中間ギヤ390の対向面には、180度間隔で被押圧片391a、391bが突設されている。駆動側ギヤ380と中間ギヤ390が同軸状に組み付けられた時に被押圧片391a、391bは駆動側ギヤの凹所381内に嵌合し、且つ径方向に対向配置された2つの押圧片間のギャップG内を通過可能な位置関係(非干渉位置関係)となっている。つまり、各押圧片382a、382b、383a、383bと被押圧片391a、391bとの位置関係は、駆動側ギヤ380が中間ギヤ390に対して相対回転する過程で被押圧片がG内を通過できるようになっている。
また、凹所381、及び各押圧片382a、382b、及び383a、383bにより形成される円弧状の伸縮スペース内に配置された弾性部材405は、駆動側ギヤ380が停止状態にある中間ギヤ390に対して相対回転する過程で押圧片により一端部を押圧されて圧縮されることにより他端部で被押圧片の一つを押圧して中間ギヤを回転させる。言い換えれば、中間ギヤ390は弾性部材405が被作動片391a、391bを押圧することにより回転する。
【0028】
[搬送ガイド駆動機構の動作説明図]
<上昇動作の説明>
図10(a)乃至(e)は最下降位置(退避位置)にある搬送ガイドを最上昇位置(突出位置)に移動させる行程を説明する図である。言い換えれば、同図は、小幅紙幣ガイド部320が小幅紙幣をガイド可能な高さ位置(ガイド可能位置=ホームポジション)にある状態から、広幅紙幣ガイド部330が広幅紙幣をガイド可能な高さ位置(ガイド可能位置=ホームポジション)にまで移動させる上昇過程を説明する図である。また、図12は小幅紙幣搬送モードと広幅紙幣搬送モード間の搬送モード切替え手順を説明するフローチャートである。
なお、以下では説明を簡略化するために、原則として、各搬送ガイド、各駆動側ギヤ、各ピニオンギヤ、各中間ギヤ等の「各」を付記した表現を止めて、単に搬送ガイド、駆動側ギヤ、ピニオンギヤ、中間ギヤ等と表現する。
【0029】
紙幣搬送装置1では、製品の仕向国に応じて予め組み込まれたソフトウェアにより初期搬送モードを、小幅紙幣搬送モード、或いは広幅紙幣搬送モードへ自動的に切替える。例えば、最大幅が65mmの小幅紙幣のみが流通する米国向けのソフトウェアが組み込まれている場合には初期搬送モードが小幅搬送モードに自動的に設定される。また、最大幅が62~82mmであるEUR向けのソフトウェアを組み込めば常に広幅紙幣モードに自動的に設定される。
紙幣搬送装置1の初期搬送モードが小幅紙幣搬送モードに設定されている時には図10(a)のように小幅紙幣ガイド部320をホームポジション(搬送路空間10Gと連通する高さ位置)に位置決めさせた状態で紙幣搬送装置1が稼動される。一方、広幅紙幣搬送モードに設定されている場合には、制御手段200がDCモータを正転させて(b)~(e)の手順により搬送ガイドを上昇させて広幅紙幣ガイド部330をホームポジション(搬送路空間10Gと連通する高さ位置)に移動させる。
なお、図10においては図示説明の都合上から駆動側ギヤ380の手前側に凹所381、各押圧片382a、382b、及び383a、383b、及び弾性部材405、更には被押圧片391a、391bが実線で図示されているが、実際にはこれらの部材は駆動側ギヤ380の裏側に位置しており、視認できない筈である。しかし、各部材の位置関係を把握しながら各部材の動作を説明する便宜からこのような図示説明方法を採用した。このことは、図11についても同様に当てはまる。
【0030】
まず、図10(a)(図6(a-1))は小幅紙幣ガイド部320が小幅紙幣をガイド可能な高さ位置(下限位置=退避位置)にある待機状態を示しており、この状態では前回の下降動作(図11を用いて後述する)においてDCモータ450を停止させた際に発生するイナーシャを吸収した分だけ弾性部材405が圧縮されている(圧縮量を矢印で図示)。図中符号10Gは搬送路空間、つまり紙幣が通過する空間を示している。この搬送路空間10Gと小幅紙幣ガイド部320とが整合状態で連通する時にのみ紙幣の受け入れ搬送が可能になる。図10(a)の状態では小幅紙幣ガイド部320と搬送路空間10GGとは整合、連通している。
この待機状態では搬送ガイド310は最も下降した位置にあり、DCモータ450は停止している。搬送ガイドは下降時ストッパ440a(図6(a-2))に当接することによりそれ以上の下降ができない。
この時、各小幅紙幣ガイド部320は搬送路空間10Gと整合しており、この状態で小幅紙幣を入口11aに挿入して摩擦搬送装置20を受入れ方向へ駆動すると、小幅紙幣ガイド部320間に搬送面の中心軸から位置ズレした状態で進入した小幅紙幣の幅方向両側縁を、各小幅紙幣ガイド部がガイドすることにより搬送路の中心軸に向けて幅寄せしながら搬送する。
なお、摩擦搬送装置20は小幅紙幣が搬送ガイドに接して反力を受けると、この反力によって搬送グリップ調整機構GAを作動させて駆動ローラ25と従動ローラ102の搬送グリップを低下させる。このため、小幅紙幣は両ローラのニップ部を横滑りしてその搬送位置、搬送姿勢を自由に変化させることができる。このため、小幅紙幣は小幅紙幣ガイド部320内のガイド面325a、325b、325cにより搬送位置、搬送姿勢を矯正されて搬送路の中心軸に自らの中心軸を整合させることができる。
【0031】
図10(a)の状態では、弾性部材405はその下側の端部が下側の押圧片383a、383bにより反時計回り方向へ押圧されて圧縮されているため、弾性部材の上側の端部は上側の被押圧片391a(回転不能状態で停止している)を同方向へ押圧した状態にある。
符号340は搬送ガイド310と一体化されて昇降する被検知部材であり、被検知部材340に設けた被検知片340aが昇降する経路には、小幅紙幣ガイド部のホームポジションを検知する第1センサS1、及び広幅紙幣ガイド部のホームポジションを検知する第2センサS2が上下位置関係で配置されている。図10(a)の状態では第1センサS1がOFFで第2センサがONとなっており、小幅紙幣ガイド部がホームポジションにあることが検知されている。
この状態で広幅紙幣搬送モードに切り替える制御が開始されると、DCモータ450が正転し、搬送ガイドが上昇を開始する。
【0032】
次に、図12に示したフローにより搬送モードの切替え手順について説明する。
紙幣搬送装置1の電源が投入されると(ステップS1)、ステップS3において幅広紙幣搬送モードが選択されているか否かがチェックされ、幅広紙幣搬送モードが選択されている場合には各センサS1、S2の出力がチェックされる(ステップS5、S7)。ステップS7において第1センサS1がOFFで、第2センサS2がONの場合には搬送ガイド310が下降位置にあるため、DCモータを正転させることにより搬送ガイド310を上昇開始させる(ステップS9、S11)。
【0033】
図10(b)はDCモータ450が正転を開始した直後の状態(弾性部材の潰れ解消状態)を示しており、伝達ギヤ453bが矢印で示した正転方向(反時計回り方向)へ所要角度回転したことにより、駆動側ギヤ380が時計回り方向へ回転し、下側の押圧片383a、383bによる弾性部材の押圧が解除される。つまり10(a)の状態で圧縮されていた弾性部材の圧縮が解消されて原形に復帰する。この状態では搬送ガイド310を上昇させる駆動力がピニオンギヤ370に伝達されていないため、搬送ガイドの高さ位置に変化がなく、各センサS1、S2の出力状態は(a)と変わりがない(ステップS13 YES)。
【0034】
図10(c)は中間ギヤ390の下側の被押圧片391bが弾性部材405により押圧されて時計回り方向へ回転し始めたことにより、中間ギヤからピニオンギヤ370に駆動力が伝達されて搬送ガイドが上昇し始めた状態を示している。即ち、駆動側ギヤの上側の押圧片382a、382bが弾性部材の上側の端部を時計回り方向へ押圧することにより、弾性部材の下側の端部が下側の被押圧片391b(中間ギヤ390)を時計回り方向へ押圧している。
この時点では、各搬送ガイド310は(b)の高さ位置から上昇してはいるが、広幅紙幣ガイド部330は依然として搬送路空間10Gには達していない中間位置にある。
搬送ガイドが最上昇位置の手前まで上昇しているため、それまでOFFであった第1センサS1がONとなり、第2センサS2はONのままを維持する(ステップS15 YES)。
【0035】
図10(d)は駆動側ギヤ380の回転が更に進んだことにより搬送ガイドが最上昇位置(HP)に達して停止した状態を示している。搬送ガイドは上昇時ストッパ440bに当接することによりそれ以上の上昇が阻止されている。
駆動側ギヤ380の回転が更に進んだことにより上側の押圧片382a、382bが弾性部材の上側端部を更に時計回りに押し込むため、弾性部材の下側端部が下側の被押圧片391bを時計回りに押圧して中間ギヤ390を更に回転させる。このため、中間ギヤがピニオンギヤ370を反時計回り方向へ回転させ搬送ガイドを更に上昇させる。搬送ガイドが最上昇位置に達して上昇を停止すると、中間ギヤとピニオンギヤは回転を停止する。
この時点で、広幅紙幣ガイド部330は搬送路空間10G(HP)に達している。
この時点で、それまでONであった第2センサS2がOFFとなり、第1センサS1はONのままを維持する(広幅紙幣ガイド部のホームポジション到達を検知。ステップS17 YES)。第2センサS2がOFFすることによりDCモータ450への通電が遮断されて制動が開始される(ステップS19)。周知のようにDCモータにあっては、通電が遮断されても直ちには出力ギヤ451からの駆動力は停止せず、イナーシャにより駆動力がギヤ機構360へ伝達される。一方、各搬送ガイド310は上昇時ストッパ440bに当接することにより図示の位置を越えて上昇できないため、ピニオンギヤ370、中間ギヤ390はロックされる。このため、DCモータのイナーシャを吸収緩和しないと、ギヤ間のロック、摩耗が発生し、ギヤ機構を構成する部品や、DCモータ自体の損耗と耐久性の低下を招く。また、静止していない搬送ガイドを通過する紙幣からの反力によっても搬送ガイドがバタ付きを起こす。このため、搬送ガイドによる紙幣のガイド機能が不安定化する。
次に、イナーシャ吸収機構を設けない場合の他のデメリットを挙げるとすれば、次の通りである。即ち、まず、仮にイナーシャを抑制する為にDCモータをPWM制御で徐々に減速してホームポジションでロックしないように停止させることができたとしても、PWM制御で減速させるのに要した時間の分だけ動作時間が増えて全体の処理速度、処理効率が低下する。また、DCモータがロックしないように停止させるということはギヤ間にガタが残っていることであり、搬送ガイドがガタツキを起こす可能性がある。
【0036】
図10(e)はイナーシャ吸収機構400が作動してイナーシャを吸収している状態、或いは吸収し終わった状態を示している。この時点で、広幅紙幣ガイド部330は搬送路空間10G(ホームポジション)に達しており、広幅紙幣搬送モードへの移行を完了する(ステップS21、S23)。
本実施形態では、イナーシャ吸収機構400を用いてイナーシャを吸収することにより、上記不具合を招くこと無くDCモータの停止時にギヤ部品やDCモータにダメージをもたらすことなく、確実に、タイミングの遅れ(ずれ)なく下流側のギヤ機構を停止させることができる。
【0037】
図10(d)において回転を停止した中間ギヤ390に対して駆動側ギヤ380は弾性部材405を圧縮しながら相対回転を続けるため、上側の押圧片382a、382bが弾性部材の上側端部を時計回り方向へ押圧し続ける。この時、弾性部材の下側端部は停止状態にある被押圧片391bにより係止されているため、弾性部材は圧縮される。弾性部材が圧縮された量がイナーシャを吸収したエネルギー量となる。このため、モータからの駆動力はイナーシャ吸収機構400により解消され、中間ギヤ、ピニオンギヤや、DCモータへのダメージ発生が未然に阻止される。
これを更に詳述すると、上昇中の搬送ガイド310が上昇時ストッパ440bに当接して停止すると第2センサS2がこれを検知して制御手段200がDCモータを停止させる。しかし、DCモータは通電を遮断しても直ぐに停止せずに出力ギヤ451からギヤ機構360へ駆動力が伝達される。搬送ガイドが最上昇位置で停止すると、ピニオンギヤ370と中間ギヤ390はロックするが、DCモータからのイナーシャによりウォームホイール453a、及び伝達ギヤ453b、駆動側ギヤ380は回転し続ける。駆動側ギヤ380を中間ギヤ390に対して相対回転させることにより弾性部材405を圧縮させてイナーシャを吸収することができる。
仮に駆動側ギヤ380が中間ギヤ390に対して相対回転しないとすると、搬送ガイドが最上昇位置で停止してDCモータが停止した時に、駆動側ギヤ380ばかりでなく、その上流側に位置する他のギヤ453a、453b、452a、452bがロックし、DCモータがロックしてしまう。この場合、DCモータに過負荷がかかって故障したり、各ギヤが破損する。
【0038】
本実施形態では、イナーシャ吸収機構400を用いて搬送ガイドの停止時、及びDCモータの停止時における駆動ギヤ380のロックを解消することにより、上記の諸問題を解消している。
図10(e)の状態で広幅紙幣を入口11aに挿入して摩擦搬送装置20を受入れ方向へ駆動すると、広幅紙幣ガイド部330が搬送される広幅紙幣の幅方向両側縁をガイドすることによりスキューを補正しながら通紙させることができる。即ち、スキュー補正では、紙幣の位置、角度、姿勢が修正されて一方の側壁(或いは、中心軸CL)に整合した状態での搬送状態を得ることができる。例えば、幅が86mmである広幅紙幣ガイド部330に対して、60mmの幅を有した紙幣を挿入した場合には搬送路の中央には寄らずに側壁に沿って搬送される。
なお、ステップS7においてNOの場合、つまり第1センサS1がONで第2センサS2がOFFの場合には広幅紙幣搬送モードへの切替えが完了している(ステップS65、67)。
ステップS65においてNOの場合、つまり第1センサS1と第2センサS2が共にONの場合には搬送ガイドが中間位置にあるのでDCモータを逆転させる(ステップS61)。
搬送ガイドが中間位置にある場合とは、製品組立直後の状態、或いは悪戯による結果であることが想定される。
【0039】
<下降動作の説明>
次に、図11(a)乃至(e)は最上昇位置にある搬送ガイドを最下降位置に移動させる行程を説明する図である。言い換えれば、同図は、広幅紙幣ガイド部330が広幅紙幣をガイド可能な高さ位置(ガイド可能位置)にある状態から、小幅紙幣ガイド部320が小幅紙幣をガイド可能な高さ位置(ガイド可能位置)まで移動させる下降過程を説明する図である。
【0040】
広幅紙幣搬送モードにある時には図11(a)のように広幅紙幣ガイド部330をホームポジションに位置決めさせた状態で紙幣搬送装置1が稼動される。一方、小幅紙幣搬送モードに切り替える場合には、制御手段200がDCモータ450を逆転させて図11(b)~(e)の手順により搬送ガイドを下降させて小幅紙幣ガイド部330をホームポジションに移動させる。
まず、図11(a)は広幅紙幣ガイド部330が広幅紙幣をガイド可能な高さ位置(上限位置)にある待機状態を示しており、この状態では図10を用いて説明した前回の上昇動作においてDCモータ450を停止させた際に発生するイナーシャを吸収した分だけ弾性部材405が圧縮されている(圧縮量を矢印で図示)。(a)の待機状態のように空間10Gと広幅紙幣ガイド部330とが整合状態で連通する時にのみ広幅紙幣の受け入れが可能になる。
この待機状態では搬送ガイド310は最も上昇した位置にあり、DCモータ450は停止している。搬送ガイドは上昇時ストッパ440bに当接することによりそれ以上の上昇ができない。
この時、各広幅紙幣ガイド部330は搬送路空間10Gと整合しており、この状態で広幅紙幣を入口10aに挿入して摩擦搬送装置20を受入れ方向へ駆動すると、各広幅紙幣ガイド部間に進入した広幅紙幣の幅方向両側縁を各広幅紙幣ガイド部330がガイドすることにより搬送路の中心軸に向けて幅寄せしたり、姿勢を矯正しながら搬送する。
この時、弾性部材405はその上側の端部が上側の押圧片382a、382bにより時計回り方向へ押圧されて圧縮されているため、弾性部材の下側の端部は下側の被押圧片391b(回転不能な状態で停止している)を同方向へ押圧している。
下降動作を図12のフローチャートに則して説明すれば、ステップS3において広幅紙幣搬送モードが選択されていない場合には小幅紙幣搬送モードが選択されている(ステップS3、NO、ステップS31)。小幅紙幣搬送モードが選択されている場合には各センサS1、S2の出力がチェックされる(ステップS33、S35)。ステップS35において第1センサS1がONで、第2センサS2がOFFの場合には搬送ガイド310が上昇位置にあるため、DCモータを逆転させることにより搬送ガイド310を下降開始させる(ステップS37、S39)。
【0041】
図11(a)では第1センサS1がONで第2センサS2がOFFとなっており、広幅紙幣ガイド部330がホームポジションにあることが検知されている。
【0042】
図11(b)はDCモータ450が逆転を開始した直後の状態(弾性部材の潰れ解消状態)を示しており、伝達ギヤ453bが矢印で示した逆転方向(時計回り方向)へ所要角度回転したことにより、駆動側ギヤ380が反時計回り方向へ回転し、上側の押圧片382a、382bによる弾性部材の押圧が解除される。つまり図11(a)の状態で圧縮されていた弾性部材の圧縮が解消されて原形に復帰する。この状態では搬送ガイド310を下降させる駆動力がピニオンギヤ370に伝達されていないため、搬送ガイドの高さ位置に変化がなく、各センサS1、S2の出力状態は図11(a)と変わりがない(ステップS41)。
【0043】
図11(c)は中間ギヤ390の上側の被押圧片391aが弾性部材405により押圧されて反時計回り方向へ回転し始めたことにより、中間ギヤからピニオンギヤ370に駆動力が伝達されて搬送ガイドが下降し始めた状態を示している。即ち、駆動側ギヤの下側の押圧片383a、383bが弾性部材の下側の端部を反時計回り方向へ押圧することにより、弾性部材の上側の端部が上側の被押圧片391aを反時計回り方向へ押圧している。
この時点では、各搬送ガイド310は(b)の高さ位置から下降してはいるが、小幅紙幣ガイド部330は依然として搬送路空間10Gには達していない。
搬送ガイドが最下降位置の手前まで下降しているため、それまでOFFであった第2センサS2がONとなり、第1センサS1はONのままを維持する(ステップS43 YES)。
【0044】
図11(d)は駆動側ギヤ380の回転が更に進んだことにより搬送ガイドが最下降位置に達して停止した状態を示している。搬送ガイドは下降時ストッパ440aに当接することによりそれ以上の下降が阻止され、第1センサS1がOFFすることによりDCモータも停止する(ステップS45 YES、S47)。
(d)では、駆動側ギヤ380の回転が更に進んだことにより下側の押圧片383a、383bが弾性部材の下側端部を更に反時計回りに押し込むため、弾性部材の上側の端部が上側の被押圧片391aを反時計回りに押圧して中間ギヤ390を更に回転させる。このため、中間ギヤがピニオンギヤ370を時計回り方向へ回転させ搬送ガイドを更に下降させる。搬送ガイドが最下降位置に達して下降を停止すると、中間ギヤとピニオンギヤは回転を停止する。
この時点では、小幅紙幣ガイド部320は搬送路空間10G(ホームポジション)に達している。
この時点で、それまでONであった第1センサS1がOFFとなり、第2センサS2はONのままを維持する(小幅紙幣ガイド部のホームポジション到達を検知)(ステップS45 YES)。第1センサS1がOFFすることによりDCモータ450への通電が遮断されて制動が開始される(ステップS47)。DCモータへの通電が遮断されても直ちには出力ギヤ451からの駆動力は停止せず、イナーシャにより駆動力がギヤ機構360へ伝達される。一方、各搬送ガイド310は下降時ストッパ440aに当接することにより図示の位置を越えて下降できないため、ピニオンギヤ370、中間ギヤ390はロックされる。図10において説明したように、DCモータのイナーシャを吸収緩和しないと、種々の不具合が発生する。
【0045】
即ち、(d)において回転を停止した中間ギヤ390に対して駆動側ギヤ380は弾性部材405を圧縮しながら相対回転を続けるため、下側の押圧片383a、383bが弾性部材の下側端部を反時計回り方向へ押圧し続ける。この時、弾性部材の上側端部は停止状態にある被押圧片391aにより係止されているため、弾性部材は圧縮される。弾性部材が圧縮された量がイナーシャを吸収したエネルギー量となる。このため、モータからの駆動力はイナーシャ吸収機構400により解消され、中間ギヤ、ピニオンギヤや、DCモータへのダメージ発生が未然に阻止される(同図(e))。
【0046】
(e)はイナーシャ吸収機構400が作動してイナーシャを吸収している状態、或いは吸収し終わった状態を示している。この時点で、小幅紙幣ガイド部320は搬送路空間10G(ホームポジション)に達しており、小幅紙幣搬送モードへの移行を完了する(ステップS49、S51)。
これを更に詳述すると、下降中の搬送ガイド310が下降時ストッパ440aに当接して停止すると第1センサS1がこれを検知して制御手段200がDCモータを停止させる。しかし、DCモータは通電を遮断しても直ぐに停止せずに出力ギヤ451からギヤ機構360へ駆動力が伝達される。搬送ガイドが最下降位置で停止すると、ピニオンギヤ370と中間ギヤ390はロックするが、DCモータからのイナーシャによりウォームホイール453a、及び伝達ギヤ453b、駆動側ギヤ380は回転し続ける。駆動側ギヤ380を中間ギヤ390に対して相対回転させることにより弾性部材405を圧縮させてイナーシャを吸収することができる。
仮に駆動側ギヤ380が中間ギヤ390に対して相対回転しない場合の不具合は、図10において説明した通りである。
本実施形態では、イナーシャ吸収機構400を用いて搬送ガイドの停止時、及びDCモータの停止時における駆動側ギヤ380のロックを解消することにより、上記の諸問題を解消している。
【0047】
本実施形態では、イナーシャ吸収機構400を用いてイナーシャを吸収することにより、上記不具合を招くこと無くDCモータの停止時にギヤ部品やDCモータにダメージをもたらすことなく、確実に、時間のずれなく下流側のギヤ機構を停止させることができる。
図11(e)の状態で小幅紙幣を入口10aに挿入して摩擦搬送装置20を受入れ方向へ駆動すると、小幅紙幣ガイド部320が搬送される小幅紙幣の幅方向両側縁をガイドすることによりスキューを補正しながら搬送路中心部に幅寄せしながら通紙させる。
なお、本実施形態では搬送ガイド310の上側に小幅紙幣ガイド部320を配置し、下側に広幅紙幣ガイド部330を配置したが、この構成を上下逆転させてもよい。このように構成を逆転させた場合にも、図10図11の操作手順を転用することができる。
なお、ステップS35においてNOの場合、つまり第1センサS1がOFFで第2センサS2がONの場合には小幅紙幣搬送モードへの切替えが完了している(ステップS57、S59)。
ステップS57においてNOの場合、つまり第1センサS1と第2センサS2が共にONの場合には搬送ガイドが中間位置にあるのでDCモータを正転させる(ステップS55)。
搬送ガイドが中間位置にある場合とは、製品組立直後の状態、或いは悪戯によることが想定される。
【0048】
<各紙幣搬送モード中における返却手順>
次に、搬送モード間の切替えと、各搬送モードでの返却動作について図13のフローチャートを併せて参照しながら説明する。なお、小幅紙幣搬送モードでの返却搬送時におけるジャム発生を防止するための搬送ガイドの動作が特徴的である。
本発明の紙幣搬送装置1は、仕向国の違いに応じて使用するソフトウェアを切り替えることにより紙幣搬送モードを切り替える。その結果、幅寸法が異なる紙幣を夫々安定して搬送しつつ幅寄せ、スキュー補正ができる。つまり、例えば最大幅寸法が72mm未満の小幅紙幣を搬送する際には小幅紙幣搬送モードに切替えて紙幣搬送装置を使用し、最大幅寸法が72mm以上86mm未満の広幅紙幣を搬送する際には広幅紙幣搬送モードに切り替えて使用する。
【0049】
また、受入れ搬送中の小幅紙幣を返却する時には、搬送ガイドの高さ位置の切替え(ガイド部320からガイド部330への切替え)がソフト制御により自動的に行われる。
即ち、小幅紙幣搬送モードでは、図6(a-1)、図10(a)等に示すように搬送ガイドの小幅紙幣ガイド部320が搬送路空間10G内に位置しているために、小幅紙幣を受入れ方向へ搬送する際にテーパーガイド面325b、及び平坦ガイド面325aの協働により幅寄せ、スキュー補正を行うことができる。
電源投入がなされると、小幅紙幣対応ソフトが設定されているか否かがチェックされる(ステップS71、S73)。小幅紙幣対応ソフトが設定されている場合には図12にて説明した小幅紙幣搬送モードへの切替え動作を実施する(ステップS75)。この状態で入口センサ15が紙幣の挿入を検知すると(ステップS77 YES)、制御手段は搬送用モータを正転開始する(ステップS79)。
紙幣が識別センサ17を通過すると一旦搬送用モータを停止させ(ステップS81)、識別センサによる受け入れ可否の判断を待つ(ステップS83)。
識別センサ17が受け入れ不能と判定した場合には、DCモータ450を正転開始し(ステップS83 YES、S85)、ステップS87以降において搬送ガイドを広幅紙幣搬送モードに切り替えてから返却するための操作を順次実施する。
【0050】
小幅紙幣の後端が搬送ガイド310を通過した後で、ステップS83において、識別センサ17により当該小幅紙幣を受入れできない旨の判断がなされた場合には制御手段200は摩擦搬送装置20を逆転させて返却を開始し、返却完了後に搬送用モータ60を停止する。しかし、この返却時に小幅紙幣ガイド320が搬送路空間10Gに位置していると、返却紙幣が内奥面325に引っ掛かりを起こしてジャムが発生する虞が指摘されている。
そこで、識別センサにより受入れできない旨の判断がなされた小幅紙幣を逆搬送して入口10aに返却する場合には、ステップS85においてDCモータ450を正転させて搬送ガイドを図10(a)の最下降位置から同図(e)の最上昇位置に移動させておく。つまり、続くステップS87において第1センサS1がONで第2センサS2がOFFになることを条件に、制御手段200はDCモータを停止させ、続いて摩擦搬送装置20(搬送用モータ60)を逆転開始させる(ステップS89、S91)。即ち、搬送ガイドの最上昇位置への移動完了は、第1センサS1がONで、第1センサS2がOFFになったことにより判定される。図10(e)では広幅紙幣ガイド部330が搬送路空間10G内に位置しているため、摩擦搬送装置を逆転開始することにより返却搬送される小幅紙幣は広幅紙幣ガイド部と引っ掛かりを起こすことなく通過して入口10aに返却される。即ち、摩擦搬送装置20を逆転開始させ、入口センサ15が排紙を検知した時点で搬送用モータを停止させる(ステップS91~S95)。
続いて、制御手段200は小幅紙幣搬送モードに復帰させるためにDCモータを正転開始し、第1センサS1がOFF、第2センサS2がONになった時に小幅紙幣搬送モードに移行完了したことを判定する(ステップS97、S99 YES)。
その後、後続の小幅紙幣の挿入が入口センサ15により検知されると、摩擦搬送装置を正転開始して受入れ搬送を開始する(ステップS103 YES、S105)。
ステップS83において、識別センサが受入れ可能と判断した場合には、受入れ搬送を再開してキャッシュボックスに収納する(ステップS107)。
【0051】
なお、小幅紙幣として受け入れた紙幣の一部が小幅紙幣ガイド部320内に位置している段階で返却すべきことが判明した場合には、摩擦搬送装置による受入れ搬送を一旦停止してから逆搬送に切り替えて、且つ小幅紙幣ガイド部を搬送路空間10Gに位置させたままで当該紙幣を入口10aに返却する。仮に、当該紙幣が小幅紙幣ガイド部内に位置している時に搬送ガイドを下降(或いは上昇)させると、当該紙幣が破断される虞があるからである。また、紙幣後端が小幅紙幣ガイド部320を通過した後で逆搬送する場合に比して、紙幣が小幅紙幣ガイド部内に残留している状態で逆送する場合はジャムが発生する確率が低くなる。
なお、ここで小幅紙幣の一部が小幅紙幣ガイド部320内に位置している段階で返却すべきことが判明する場合とは、当該紙幣が異常に長尺、或いは短尺である等、識別するまでもなく明らかに紙幣でないことが判定された場合等である。この場合、当該紙幣を識別センサの下流側まで搬送せずに早期に返却すれば、下流側におけるジャム発生のリスクを減らせるメリットがある。
【0052】
次に、ステップS73の判定結果がNOの場合、つまり電源投入時に小幅紙幣対応ソフトウェアが設定されていなかった場合、つまり広幅紙幣対応ソフトウェアが設定されている場合には、ステップS111において広幅紙幣搬送モードへの切替え動作が実施される。広幅紙幣搬送モードでは、図6(b-2)に示すように受入れ搬送の時は勿論、返却搬送の時も搬送ガイドの広幅紙幣ガイド部330を搬送路空間10G内に位置決めさせたままで搬送動作を行う。返却時に広幅紙幣が広幅紙幣ガイド部330の内奥面335に引っ掛かる虞がないためである。
ステップS111において幅広紙幣搬送モードであること(幅広紙幣ガイド部が搬送路空間内にあること)が判定された状態において入口センサ15が紙幣の挿入を検知すると(ステップS113 YES)、摩擦搬送装置20(搬送用モータ60)を正転開始する(ステップS115)。紙幣後端が識別センサ17を通過すると搬送用モータを一旦停止させる(ステップS117)。広幅紙幣の受け入れ搬送中に識別センサが受入れ不能であると判定した場合には摩擦搬送装置を停止させて逆転を開始させる(ステップS119 YES、S121)。入口センサ15が当該紙幣の排出を検知すると摩擦搬送装置を停止させる(ステップS123 YES、S125)。その後、後続紙幣の挿入が検知されると、摩擦搬送装置を正転させて受入れ搬送を再開する(ステップS127 YES、S129)。
ステップS119において、識別センサ17が受入れ可能と判断した場合には受入れ搬送を継続してキャッシュボックスに収納する(ステップS131)。
【0053】
以上のように本発明においては、広幅紙幣を搬送できる広幅の搬送路に設けた一対の搬送ガイドを昇降させることにより小幅紙幣搬送モードと広幅紙幣搬送モードとの相互のモード切替えをソフトウェアによる制御によって実現している。このため、紙幣の短辺のサイズの違いに応じて異なった幅の搬送路を備えた機種を複数用意する必要がない。つまり、複雑なソフトウェア制御を行うことなく、従来二機種存在していたモデルを一機種に統合することができる。
また、紙幣の搬送を中断することなく、搬送しながら紙幣を幅寄せすることができるため、紙幣一枚当たりの処理速度を低下させることがない。更に、小幅紙幣の返却時におけるジャムリスクを軽減できる。
また、イナーシャ吸収機構を設けたため、DCモータを駆動して搬送ガイドを昇降させる際にDCモータの停止時に発生する慣性モーメントが駆動伝達機構やDCモータに与えるダメージを解消しつつ、昇降動作する搬送ガイドを突出位置、及び退避位置で夫々停止させる際に正確、且つ遅延のない停止が可能になる。つまり、DCモータを用いて大幅なコストダウンを図りながら、ステッピングモータを用いた駆動と同様に正確、且つ安定した停止、駆動再開を実現できる。
【0054】
[摩擦搬送装置の動作]
図14は摩擦搬送装置の要部正面図であり、図15(a)及び(b)は同装置の要部斜視図である。図3を併せて参照しつつ説明する。
前述のように摩擦搬送装置2は、紙幣搬送路10を搬送される紙幣Pの一面に搬送駆動力を伝える駆動側ユニット20と、駆動モータ(搬送モータ)60と、紙幣の他面と接して従動回転する従動ローラ102(従動側ユニット100)と、駆動ローラ25と紙幣との搬送グリップを可変とする搬送グリップ調整機構GAと、各種制御対象を制御する制御手段200と、を概略備える。
なお、本発明に係る紙幣搬送装置1に適用される摩擦搬送装置に求められる最低限必要な条件は、受入れ時に紙幣を搬送しながらの幅寄せが可能になる程度に搬送グリップが弱いことである。この条件を満たしていれば、どのような構成の摩擦搬送装置であってもよい。
【0055】
駆動側ユニット20は、正規の紙幣搬送方向と直交(交差)する方向へ延びる軸部22の回りに回転自在に支持された一つの駆動ローラ25と、駆動ローラを支持する軸部22を一部により軸支し、且つ駆動ローラを揺動させることにより従動ローラ102との距離を変化させて搬送グリップを変化させるように他部を揺動軸50aにより軸支された揺動アーム30と、揺動アームを介して駆動ローラを従動ローラ102へ向けて弾性付勢する弾性付勢部材40と、駆動モータ60からの駆動力を駆動ローラに伝達する駆動伝達機構DM(図3)と、を備える。
搬送グリップ調整機構GAは、駆動モータ60の正転により搬送路10を搬送される紙幣に対して正規の搬送方向以外への所定値を越える外力(側壁からの反力等)が加わった時に(紙幣から駆動ローラに加わる搬送負荷が所定値を越えて変化した時に)、弾性付勢部材40の弾性付勢力に抗して搬送グリップを低下させるために駆動ローラを従動ローラ(紙幣搬送面11)から離間させるように構成されている。駆動ローラは揺動アーム30が揺動軸50aを中心として半径rの距離を維持して揺動することにより従動ローラとの距離を変化させる。
【0056】
駆動モータ60からの駆動力は中間ギヤ群、ベルト、プーリ等の駆動伝達部材62を介して入力ギヤ50に伝達され、入力ギヤ50は駆動ローラと同軸状に一体化された出力ギヤ52と噛合することにより駆動ローラを回転させる。また、揺動アーム30は入力ギヤ50の回転軸である揺動軸50aを中心として上下方向(正転方向、及び逆転方向)へ揺動可能な構成を備えている。揺動アーム30と入力ギヤ50とは相対回転する関係にある。
紙幣を受入れ方向へ搬送中に駆動ローラに紙幣から加わる搬送負荷が所定値を越えない場合には入力ギヤ50と出力ギヤ52の各周速が同等を維持するため、揺動アームは弾性付勢部材40によりストッパ部材55へ押し付けられた状態(初期状態、初期位置)を維持し、揺動しない。一方、駆動ローラ25に対して加わる紙幣からの搬送負荷が所定値を越えると、出力ギヤの周速が入力ギヤの周速を下回るため、周速の差の分だけ揺動アームが揺動する(初期位置から離脱する)。
駆動モータ60からの駆動力を伝達する駆動伝達部材62、駆動伝達部材から伝達される駆動力を受けて回転する入力ギヤ50、及び駆動ローラ25と同軸状に一体化され入力ギヤと噛合して駆動力の伝達を受ける出力ギヤ52は、駆動伝達機構DMを構成している。
揺動アーム30、弾性付勢部材40、駆動伝達機構DM、及び、揺動アームの上限位置(正転限界位置)を規定する手段としてのストッパ部材55は、搬送グリップ調整機構GAを構成している。
【0057】
搬送グリップ調整機構GAは、駆動ローラ25と紙幣Pとの摩擦力(以下、搬送グリップ、という)を、駆動ローラと従動ローラとの間を通過する紙幣からの負荷の値、及び負荷の方向(搬送状況)によって変化させるように構成されている。
即ち、搬送路10は側壁、搬送ガイド310を備えており、搬送グリップ調整機構GAは、紙幣が搬送路に沿って受入れ方向へ搬送される過程で側壁、搬送ガイドと接して正規の紙幣搬送方向以外への所定値を越える外力を受けた場合に駆動ローラ25を従動ローラ102から離間する方向へ移動させることにより搬送グリップを低下させるように動作する。
低下した時の搬送グリップの値は、両ローラ25、102のニップ部による紙幣に対する拘束を解消、低減させることにより、側壁との協働により側壁からの外力を解消する方向へ変化させ得る値である。つまり、搬送不良状態にあった紙幣を正規の紙幣搬送方向と並行な搬送姿勢に修正したり、正規の搬送位置に対して幅方向移動するように、駆動ローラと従動ローラとの間で紙幣を横滑り(回転、その他の多様な方向へのスライドを含む)させることが可能な値である。
【0058】
[実施形態の適用例]
(適用例1)
図16(a)乃至(e)は本発明の搬送ガイド(小幅紙幣ガイド部320)、及びその駆動機構を幅広で一定幅の紙幣搬送路に適用した場合のスキュー補正手順を示す要部平面図である。また、同図は小幅紙幣ガイド部320がホームポジションに位置している状態を示している。
図16の例では、紙幣搬送路10の幅寸法L1が86mmであり、搬送される紙幣の幅寸法L2は66mmである。
搬送ガイド310、及び摩擦搬送装置2を紙幣搬送路10に適用することにより、スキューして挿入された紙幣の位置、角度、姿勢を修正して、一方の側壁(或いは、中心軸CL)に整合した状態での搬送状態を得ることができる。
【0059】
図16(a)の待機状態にある摩擦搬送装置2に対して入口10aから紙幣Pが挿入されると、同図(b)に示すように入口センサ15が挿入を検知してONして駆動モータ60により駆動ローラ25を正転方向へ駆動開始する。挿入される紙幣が(b)(c)に示すように時計回り方向へ所定角度斜行している場合には、紙幣Pの左側端縁Pbが入口側端部11dと接して反力fbを受ける。紙幣の左側端縁Pbが入口側端部11dから反力fbを受けることにより搬送グリップ調整機構GAが作動して駆動ローラと紙幣との間の搬送グリップを弱めて紙幣を横滑りさせる。横滑りを始めた紙幣Pは、図16(c)(d)(e)に示すように紙幣の左側端縁Pbと入口側端部11dとの接触部を中心として反時計回り方向へ回転しながら、左右の搬送ガイド310L、310Rとの協働によりスキュー補正作業を効率的に行うことができる。
即ち、図16(d)では、紙幣Pは左側端縁Pbの先端寄り部分を左側搬送ガイド310Lのテーパーガイド面325bと平坦ガイド面325aの角部325Aに接触させ、且つ右側端縁Paを右側搬送ガイド310Rのテーパーガイド面325b、及び平坦ガイド面325aに順次接触させながら姿勢を修正しつつ前進してゆく。
図16(e)の状態で、角部325Aと紙幣の左側端縁Pbとの接点に発生する反力により紙幣が矢印fcで示す回転方向の力を受けて反時計回り方向へ回転しつつ前進するので、搬送姿勢を修正することができる。修正後の紙幣Pは図16(e)中に一点鎖線で示すように両搬送ガイドの平坦ガイド325aに側端縁Pa、Pbを並行に沿わせた直進姿勢で内奥部へ搬送される。
【0060】
(適用例2)
次に、図17(a)乃至(e)は本発明の搬送ガイド(広幅紙幣ガイド部330)、及びその駆動機構を幅広で一定幅の紙幣搬送路に適用した場合の他のスキュー補正手順を示す要部平面図である。
図17の例では、紙幣搬送路10の幅寸法L1が86mmであり、搬送される紙幣の幅寸法L2は66mmである。
図17は広幅紙幣ガイド部330がホームポジションに位置している状態を示している。この状態では、幅広紙幣ガイド部330の内奥面335(平坦ガイド面335a)は紙幣搬送路10の両側壁11A、11Bと面一(無断差)となっている。
搬送ガイド310、及び摩擦搬送装置2を紙幣搬送路10に適用することにより、スキューして挿入された紙幣の位置、角度、姿勢を修正して、一方の側壁11A、又は11Bに整合した状態での搬送状態を得ることができる。
【0061】
図17(a)の待機状態にある摩擦搬送装置2に対して入口10aから紙幣Pが挿入されると、図17(b)に示すように入口センサ15が挿入を検知してONして駆動モータ60により駆動ローラ25を正転方向へ駆動開始する。挿入される紙幣が図17(b)に示すように時計回り方向へ所定角度斜行している場合には、紙幣Pの左側端縁Pbが入口側端部11dと接して反力fbを受けている。紙幣左側端縁Pbが入口側端部11dから反力fbを受けることにより搬送グリップ調整機構GAが作動して駆動ローラと紙幣との間の搬送グリップを弱め、紙幣を横滑りさせながら、且つ紙幣左側端縁と入口側端部との接触部を中心として反時計回り方向へ回転させながら搬送するスキュー補正作業を効率的に行うことができる。
【0062】
本例では、補正後の紙幣Pは図17(e)中に実線で示すように搬送路10の左側の側壁11Bに紙幣の左側端縁Pbを整合させた状態で、且つ直進姿勢で内奥部へ搬送される。
このスキュー補正の行程において、幅広紙幣ガイド部330の内奥面335(平坦ガイド面335a)は紙幣搬送路10の両側壁11A、11Bから突出しておらず、面一であるため、各種幅の紙幣に対してスムーズなスキュー補正を行うことができる。
【0063】
[本発明の構成、作用、効果のまとめ]
第1の本発明に係る搬送ガイド駆動機構300は、紙葉Pの一面をガイドする搬送面11と、該搬送面の幅方向両側縁に沿って夫々対向配置されて搬送される紙葉の両側縁を夫々がガイドする搬送ガイド310と、各搬送ガイドを所定の方向へ一体的に(同期して)進退(出没)させる進退機構350と、各搬送ガイド310が搬送面11から最も突出した突出位置、及び該突出位置よりも搬送面側へ退避した退避位置を夫々規定するストッパ440と、進退機構350を駆動するDCモータ450と、を備える。
進退機構350は、DCモータにより駆動されて各搬送ガイドを突出位置と、退避位置との間で進退させるギヤ機構(駆動伝達機構)360と、各搬送ガイドが突出位置と退避位置で夫々ストッパにより停止させられたタイミングでDCモータが停止した後で(停止した時に)該DCモータの出力軸からギヤ機構へ伝達される該DCモータの慣性モーメントを吸収緩和するイナーシャ吸収機構400と、を備える。
本発明によれば、小幅紙葉と広幅紙葉に共通して適用することができる広幅搬送路、及び可動式の搬送ガイドを備えた一つの機種により幅寸法の異なる紙葉を安定して幅寄せ、スキュー補正しながら搬送できる。搬送路の幅の広狭差以外に構造上の差異のない紙幣搬送装置を二機種用意しておき、発注に応じて製造、出荷することは製造コスト増、在庫管理費用などの点で明らかに不利となるからである。また、本発明の返却手順によれば、小幅紙葉を返却する際に発生し易かった搬送ガイドでのジャム発生をも防止できる。
ステッピングモータよりもコストが圧倒的に低廉なDCモータにより搬送ガイドの安定した出没動作を実現する。DCモータの欠点である通電を遮断した際に慣性により出力が継続することによる各種不具合は、イナーシャ吸収機構により解消する。イナーシャ吸収機構は、駆動側ギヤと中間ギヤとの間に弾性部材を配置しただけのシンプルな構成である。
【0064】
第2の本発明に係る搬送ガイド駆動機構300では、ギヤ機構360は、各搬送ガイド310に設けたラックギヤ316と、各ラックギヤと夫々噛合して回転駆動されることにより各搬送ガイドを同時に進退させるピニオンギヤ370と、搬送路10の幅方向と並行に配置された駆動軸375に軸芯を夫々支持(固定)されてDCモータ450からの駆動力により回転駆動される2つの駆動側ギヤ380と、各駆動側ギヤの一側面に沿って夫々同軸状に、且つ該各駆動側ギヤと相対回転可能に駆動軸により軸芯を支持され、且つ各ピニオンギヤと夫々常時噛合する中間ギヤ390と、を備える。
イナーシャ吸収機構400は、各駆動側ギヤ380と各中間ギヤ390との間に配置され、各搬送ガイド310が突出位置と退避位置に夫々達して停止したことによりDCモータが停止した時に発生する慣性モーメントを吸収緩和する弾性部材405を備えている。
搬送ガイド310が上昇、或いは下降してストッパ440に当接した時点でホームポジションを検知するセンサS1、S2が作動してDCモータ450が停止する。しかし、DCモータは直ちに停止せずにイナーシャが発生する。本来はイナーシャにより駆動伝達機構360を構成するギヤはロックするが、本発明では弾性部材405が作動して、停止している中間ギヤ390に対して駆動側ギヤ380が回転しながら弾性部材を潰してゆく。弾性部材が潰れた量がイナーシャ(モータの慣性モーメント)を吸収した量になる。
このため、搬送ガイドがストッパに接した時点で遅滞なく、がたつくことなく、各突出位置、及び退避位置で静止することができる。
【0065】
第3の本発明に係る搬送ガイド駆動機構300では、各搬送ガイド310は、搬送面11と直交する方向に進退し、幅寸法が小さい小幅紙葉の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された小幅紙ガイド部320と、該小幅紙ガイド部の上方又は下方に隣接配置されて幅寸法が大きい大幅紙葉の両側縁をガイドするのに適した間隔で対向配置された広幅紙幣ガイド部330と、を備えている。
DCモータにより駆動される進退機構350を制御することにより、広幅の搬送面に配置した搬送ガイドを進退させて小幅紙ガイド部と広幅紙ガイド部を夫々選択的にホームポジションに停止させることができる。搬送ガイドは常設されており、紙葉搬送装置、紙葉取扱装置の出荷先の国の紙幣のサイズに応じて事前に搬送ガイドを後付けする等の手間のかかる作業の必要がなくなる。

【0066】
第4の本発明に係る紙葉搬送装置1は、前記搬送ガイド駆動機構300と、搬送面11に沿って紙葉を搬送する過程で該紙葉が正規の搬送方向とは異なる方向への反力を受けた場合に、該反力を受けている期間中に搬送グリップを低下させて搬送する摩擦搬送装置2と、制御手段200と、を備えている。
摩擦搬送装置としては、受入れ時に紙幣を搬送しながらの幅寄せが可能になる程度に搬送グリップが弱ければ、どのような構造のものであっても適用することができる。
【0067】
第5の本発明に係る紙葉搬送装置1の制御方法では、制御手段200は、小幅紙葉を搬送する小幅紙葉搬送モードにおいては、小幅紙葉ガイド部320を、搬送面11に沿って搬送される小幅紙葉の両側縁をガイド可能なホームポジションに停止させ、広幅紙葉を搬送する広幅紙葉搬送モードにおいては、広幅紙葉ガイド部330を、搬送面に沿って搬送される広幅紙葉の両側縁をガイド可能なホームポジションに停止させる。また、小幅紙葉搬送モードにおいて、一旦各搬送ガイドを通過した小幅紙葉を返却する場合には進退機構を作動させて広幅紙葉ガイド部をホームポジションに移行させた上で、返却のための動作を実施する。
この制御方法によれば、小幅紙葉ガイド部を利用して受入れ搬送した小幅紙葉を返却する際に発生し易かったジャムを簡単な操作により効果的に防止することができる。
本発明の搬送ガイド駆動機構を採用すれば、返却時のジャムレートを低減できる。
【0068】
第6の本発明に係る紙葉取扱装置は、前記紙葉搬送装置1を備えたことを特徴とする。
【符号の説明】
【0069】
1…紙幣(紙葉)搬送装置、2…摩擦搬送装置、3…下部ユニット、3a…軸部、
4…上部ユニット、10…紙幣(紙葉)搬送路、10G…紙葉搬送空間、11…紙幣(紙葉)搬送面、11a…入口側搬送面、11b…中間搬送面、11c…奥部搬送面、15…紙葉検知センサ(入口センサ)、16a、16b…搬送ローラ、17…識別センサ、20…駆動側ユニット、22…軸部、25…駆動ローラ、30…揺動アーム、32…アーム部材、35…ギヤ支持部材、40…弾性付勢部材、50…入力ギヤ、50a…揺動軸、52…出力ギヤ、55…ストッパ部材、60…駆動モータ、62…駆動伝達部材、100…従動側ユニット、102…従動ローラ、103…保持部材、106…軸、107…弾性部材、200…制御手段、300…搬送ガイド駆動機構、310…搬送ガイド、310L…搬送ガイド、310R…搬送ガイド、312…搬送ガイド本体、314…脚部、316…ラックギヤ、320…小幅紙葉ガイド部、321…上壁、322…中間壁、325…内奥面、325a…平坦ガイド面、325b、325c…テーパーガイド面、330…広幅紙葉ガイド部、331…下壁、335…内奥面、335a…平坦ガイド面、350…進退機構、360…ギヤ機構、370…各ピニオンギヤ、375…駆動軸、380…駆動ギヤ、381…凹所、383a…押圧片、383b…押圧片、390…中間ギヤ、391a…被押圧片、400…イナーシャ吸収機構、405…弾性部材、440a…下降時ストッパ、440b…上昇時ストッパ、450…DCモータ。
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