(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】コーティング層の製造方法、積層構造及びコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240214BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240214BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2022156423
(22)【出願日】2022-09-29
【審査請求日】2022-09-29
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】曹 俊哲
(72)【発明者】
【氏名】周 逸蓁
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220642(WO,A1)
【文献】特開2018-189800(JP,A)
【文献】特開2018-083915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング組成物をプラスチック基板に塗布することと、
前記コーティング組成物に硬化処理を行うことで、硬化コーティング層を形成することと、を含み、
前記コーティング組成物は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)と、多官能エポキシ樹脂と、光カチオン開始剤と、有機溶剤とを含み、
前記硬化処理での焼付け温度は75℃~200℃であり、焼付け時間は30秒~120秒であり、紫外線硬化エネルギーは250mJ/cm
2~1,250mJ/cm
2であり、
前記硬化コーティング層は、4H以上の鉛筆硬度、3mm(ミリメートル)以下の曲げ半径、及び90%以上の可視光透過率を有
し、
前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、前記光カチオン開始剤は1wt%~10wt%であり、前記有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%であることを特徴とする、コーティング層の製造方法。
【請求項2】
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂は、改質されたことで脂環式(alicyclic)改質基を有する、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項3】
前記プラスチック基板は、以下の条件を満たし、
前記プラスチック基板の耐熱性評価によれば、150℃~250℃の焼付け温度、2時間~4時間の焼付け時間で焼成するとし、前記プラスチック基板の縦方向収縮率は、0.5以下であり、前記プラスチック基板の横方向収縮率は、0.3以下であり、前記プラスチック基板の焼成する前のヘイズ値と前記プラスチック基板の焼成した後のヘイズ値との差は、20%以下である、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項4】
前記プラスチック基板は、樹脂材料で形成され、前記樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate,PET)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,PVC)、ポリカーボネート(polycarbonate,PC)、ポリプロピレン(polypropylene,PP)及びポリメタクリル酸メチル(poly(methyl methacrylate),PMMA)からなる群から選択される少なくとも1つである樹脂材料で形成される、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤は、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone,MEK)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate,PMA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(propylene glycol monomethyl ether,PM)、酢酸エチル(ethyl ethanoate,EAc)及びメチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone,MIBK)からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項6】
前記コーティング組成物は、加工助剤をさらに含み、前記加工助剤の含有量は、5wt%~30wt%である、請求項5に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項7】
前記コーティング層の製造方法は、前記コーティング組成物を前記プラスチック基板に塗布する前に、前記プラスチック基板の塗布面にコロナ処理及び/又は表面化学物質によるコーティングを行うことを含む、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項8】
前記プラスチック基板の厚さは、38μm~250μmであり、前記硬化コーティング層の厚さは、3μm~50μmである、請求項1に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項9】
プラスチック基板と、
前記プラスチック基板に形成された硬化コーティング層とを含み、
前記硬化コーティング層は、
コーティング組成物の硬化生成物であり、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)及び多官能エポキシ樹脂を含み、
前記硬化コーティング層は、4H以上の鉛筆硬度、3mm以下の曲げ半径、及び90%以上の可視光透過率を有
し、
前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、光カチオン開始剤は1wt%~10wt%であり、有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%である、ことを特徴とする積層構造。
【請求項10】
前記プラスチック基板は、以下の条件を満たし、
前記プラスチック基板の耐熱性評価によれば、150℃~250℃の焼付け温度、2時間~4時間の焼付け時間で焼成すると、前記プラスチック基板の縦方向収縮率は、0.5以下であり、前記プラスチック基板の横方向収縮率は、0.3以下であり、前記プラスチック基板の焼成する前のヘイズ値と前記プラスチック基板の焼成した後のヘイズ値との差は、20%以下である、請求項
9に記載の積層構造。
【請求項11】
ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)と、多官能エポキシ樹脂と、光カチオン開始剤と、有機溶剤とを含むコーティング組成物であって、
前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、前記光カチオン開始剤の含有量は1wt%~10wt%であり、前記有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%であることを特徴とする、コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング層の製造方法に関し、特に、耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法、積層構造及びコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの技術開発において、薄くて可撓性を備えたプラスチック基板が、従来のガラス基板に徐々に取って代わってきた。その中、透明ポリイミド(colorless polyimide,CPI)軟質材料が市場の注目を集めている。
【0003】
プラスチック基板の表面を保護するために、従来の解決方法の一つは、プラスチック基板の表面に耐スクラッチ層を塗布することによって、耐スクラッチ性及び可撓性を与えるが、従来の解決方法のコストが高いため、ハイエンド製品の応用に限られる。
【0004】
なお、従来技術において、プラスチック基板の表面に、パネル材料または3C電子製品用の機能性保護フィルムとして耐擦傷性、耐摩耗性、アンチグレアなどの機能を備えた処理剤で塗布される。しかしながら、従来の保護フィルムの表面の鉛筆硬度は通常、2H又は3Hに至る。保護フィルムの表面硬度が高すぎると、プラスチック基板の屈曲性に影響することがある。
【0005】
そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法、積層構造及びコーティング組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法を提供する。コーティング層の製造方法は、コーティング組成物をプラスチック基板に塗布することと、コーティング組成物に硬化処理を行うことで、硬化コーティング層を形成することと、を含む。なかでも、前記コーティング組成物は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)と、多官能エポキシ樹脂と、光カチオン開始剤と、有機溶剤とを含む。硬化処理での焼付け温度は75℃~200℃であり、焼付け時間は30秒~120秒であり、紫外線硬化エネルギーは250mJ/cm2~1,250mJ/cm2である。なかでも、前記硬化コーティング層は、4H以上の鉛筆硬度、3mm(ミリメートル)以下の曲げ半径、及び90%以上の可視光透過率を有する。
【0008】
好ましくは、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂は、改質されることで脂環式(alicyclic)改質基を有する。
【0009】
好ましくは、前記プラスチック基板は、以下の条件を満たす。前記プラスチック基板の耐熱性評価によれば、150℃~250℃の焼付け温度、2時間~4時間の焼付け時間で焼成すると、前記プラスチック基板の縦方向収縮率は0.5以下であり、前記プラスチック基板の横方向収縮率は0.3以下であり、また、前記プラスチック基板の焼成する前のヘイズ値と前記プラスチック基板の焼成した後のヘイズ値との差は、20%以下である。
【0010】
好ましくは、前記プラスチック基板は、樹脂材料で形成され、前記樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate,PET)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,PVC)、ポリカーボネート(polycarbonate,PC)、ポリプロピレン(polypropylene,PP)及びポリメタクリル酸メチル(poly(methyl methacrylate),PMMA)からなる群から選択される少なくとも1つである樹脂材料で形成される。
【0011】
好ましくは、前記有機溶剤は、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone,MEK)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate,PMA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(propylene glycol monomethyl ether,PM)、酢酸エチル(ethyl ethanoate,EAc)及びメチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone,MIBK)からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0012】
好ましくは、前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、前記光カチオン開始剤は1wt%~10wt%であり、前記有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%である。
【0013】
好ましくは、前記コーティング組成物は、加工助剤をさらに含み、前記加工助剤の含有量は、5wt%~30wt%である。
【0014】
好ましくは、前記コーティング層の製造方法は、前記コーティング組成物を前記プラスチック基板に塗布する前に、前記プラスチック基板の塗布面にコロナ処理及び/又は表面化学物質によるコーティングを行うことを含む。
【0015】
好ましくは、前記プラスチック基板の厚さは、38μm~250μmであり、前記硬化コーティング層の厚さは、3μm~50μmである。
【0016】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、積層構造を提供する。前記積層構造は、プラスチック基板と、前記プラスチック基板に形成された硬化コーティング層とを含み、なかでも、前記硬化コーティング層は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)及び多官能エポキシ樹脂を含み、なかでも、前記硬化コーティング層は、4H以上の鉛筆硬度、3mm以下の曲げ半径、及び90%以上の可視光透過率を有する。
【0017】
好ましくは、前記プラスチック基板は、以下の条件を満たす。前記プラスチック基板の耐熱性評価によれば、150℃~250℃の焼付け温度、2時間~4時間の焼付け時間で焼成すると、前記プラスチック基板の縦方向収縮率は、0.5以下であり、前記プラスチック基板の横方向収縮率は、0.3以下であり、前記プラスチック基板の焼成する前のヘイズ値と前記プラスチック基板の焼成した後のヘイズ値との差は、20%以下である。
【0018】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、コーティング組成物を提供する。前記コーティング組成物は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)と、多官能エポキシ樹脂と、光カチオン開始剤と、有機溶剤とを含み、なかでも、前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、前記光カチオン開始剤の含有量は1wt%~10wt%であり、前記有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有利な効果として、本発明に係る耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法、積層構造及びコーティング組成物は、「コーティング組成物の組成」及び「硬化処理の条件」といった技術特徴により、硬化コーティング層に高い耐スクラッチ性、耐屈曲性及び透明性を与えて、本発明のコーティング層は、透明ポリイミド(colorless polyimide,CPI)フィルムの代わりとして、パネル材料又は3C電子製品へのカバープレートや機能性保護フィルムに応用する可能性がある。なお、本発明の実施形態に係るコーティング層は、コストの面から、透明ポリイミドより市場競争力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るコーティング層の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係るコーティング層の製造方法の工程S110の模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るコーティング層の製造方法の工程S120の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するためのものではない。
【0022】
以下、所定の具体的な実施態様を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。
【0023】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は主に、1つの素子ともう1つの素子、又は1つの信号ともう1つの信号を区別するためのものである。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0024】
[コーティング層の製造方法]
本発明の改良の目的の一つは、通常のプラスチック材料の表面の硬度の制限を超えると共に、プラスチック材料の柔軟性及び可撓性を両立した上で、透明性を有する。
【0025】
上記の目的を実現するために、
図1~
図3に示すように、本発明の実施形態において、コーティング層の製造方法を提供し、特に、耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法を提供する。前記コーティング層の製造方法は、工程S110及び工程120を含む。説明すべきことは、本実施形態における各工程の順番や操作方式はニーズに応じて調整することは可能であり、これに制限されるものではない。
【0026】
図2に示すように、前記工程S110は、コーティング組成物100(coating composition)をプラスチック基板200(plastic substrate)に塗布することを含む。
【0027】
前記コーティング組成物100は、多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(polyhedral oligomeric silsesquioxane,POSS)と、多官能エポキシ樹脂(multifunctional epoxy resin)と、光カチオン開始剤(cationic light initiator)と、有機溶剤(organic solvent)と、加工助剤(processing aid)とを含む。
【0028】
本発明の一つの実施形態において、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂は、無機材料と有機材料との混合材料である。前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂は、ケージ構造(cagelike structure)を有し、それによって、コーティング層の材料に耐屈曲性を与える。前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の高分子構造が緊密であり、高い架橋密度を有することによって、コーティング層の材料に耐スクラッチ性を与える。前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、3,000g/mol~20,000g/molであり、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-50℃~0℃である。なお、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂は、改質された多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(modified POSS)であることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。具体的に説明すると、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)は主に、脂環式改質基を含み、また、オレフィン基、ポリウレタン基、及びプロピレンオキシドなどを含むことがあり、主に材料の硬度及び可屈曲性を両立するために、分子構造を調整することで改質を行う。市販のエポキシ樹脂及びアクリル樹脂は、優れた硬度を有するものの、屈曲性が比較的に劣る。また、多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)が、立体ケージ構造を有するため、分子構造の設計に調整性が高く、架橋密度を向上させると共に、側鎖の改質によって柔軟性を向上することができる。また、本発明の一つの実施形態において、前記多官能エポキシ樹脂は例えば、3官能~4官能脂環式エポキシ樹脂、若しくは3官能~4官能カルボキシル基エポキシ樹脂であってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0029】
本発明の一つの実施形態において、前記光カチオン開始剤は、アゾ化合物(azo compound)、アクリレート化合物(acrylate compound)、含フッ素リン酸ヨウ素(fluorine-containing iodine phosphates)及びフッ素含有アンチモン酸塩(fluorinated antimonate)からなる群から選択される少なくとも1つである。前記光カチオン開始剤の反応メカニズムは、樹脂で紫外線の照射によって、樹脂の分子が励起状態となり、また、分子が更に分解反応を行ってプロトン酸を生成することによって、エポキシ化合物、ビニルエーテル、アセタール…などの重合を起こす。また、エポキシ系光硬化性高分子は照光されると、カチオンが生成されて重合を行うと共に、照光が停止した後でも、カチオンが数日に存在することができ、この間に反応が続けているため、熱処理により完全に硬化することを確保することができる。
【0030】
好ましくは、前記有機溶剤は、メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone,MEK)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate,PMA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(propylene glycol monomethyl ether,PM)、酢酸エチル(ethyl ethanoate,EAc)及びメチルイソブチルケトン(methyl isobutyl ketone,MIBK)からなる群から選択される少なくとも1つである。上記の有機溶剤は、多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の溶解に特に好適である。より具体的に説明すると、有機溶剤の極性は、本発明の実施形態の樹脂の極性と類似し、前記有機溶剤は、本発明の実施形態の樹脂材料により優れた溶解性を与えられる。有機溶剤は主に、製造条件に基づいて選択され、成膜の乾燥曲線を考量した上で複数種の溶剤を組み合わせることにより、樹脂を溶解させると共に、プロセスにおいて溶剤を除去して樹脂を硬化させる。温度が高すぎると基材が変形となり、温度が低すぎると溶剤が残留されて物性に影響する。
【0031】
本発明の一つの実施形態において、前記加工助剤は、有機改質酸化ケイ素(organic modified silicon oxide)、酸化アルミニウムナノ材料(aluminum oxide nanomaterials)、レベリング剤(leveler)及び消泡剤(defoamer)からなる群から選択される少なくとも1つである。前記加工助剤は、後で形成されたコーティング層に、耐スクラッチ性、耐摩耗性、耐薬品性及び疎水性などの特性を与える。前記有機改質酸化ケイ素や酸化アルミニウムナノ材料は、耐スクラッチ性、耐摩耗性及び靭性を向上することができる。前記レベリング剤は例えば、多官能アクリル基で変性したポリシロキサン、有機シリコーンアクリレート、ポリエーテルポリエステルで変性した有機シロキサン及びフッ素で変性したアクリレートなどであってもよく、それによって、レベリング性を改善し、表面滑り性を向上することができる。コーティング液での泡を減少して、コーティングをより均一にするために、前記消泡剤は例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンペンタエリスリトールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロパノールアミンエーテル、ポリオキシプロピレングリセロールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレングリセロールエーテル及びポリジメチルシロキサンなどであってもよい。
【0032】
前記コーティング組成物の各成分は、特定の含有量を有する。具体的に説明すると、前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は、6wt%~40wt%であり、9wt%~30wt%であることが好ましい。前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は、3wt%~35wt%であり、5wt%~25wt%であることが好ましい。前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記光カチオン開始剤の含有量は、1wt%~10wt%であり、2wt%~6wt%であることが好ましい。前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記有機溶剤の含有量は、30wt%~70wt%であり、40wt%~55wt%であることが好ましい。前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記加工助剤の含有量は、5wt%~30wt%であり、8wt%~18wt%であることが好ましいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0033】
前記コーティング組成物の材料及び含有量によれば、前記コーティング組成物は、この後のプロセスに適用することによって、耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の形成にとって有利となる。
【0034】
本発明の一つの実施形態において、前記プラスチック基板は、以下の条件を満たす。前記プラスチック基板の耐熱性評価によれば、150℃~250℃の焼付け温度、2時間~4時間の焼付け時間で焼成すると、前記プラスチック基板200の縦方向(MD)収縮率は、0.5以下であり、前記プラスチック基板200の横方向(TD)収縮率は、0.3以下であり、また、前記プラスチック基板200の焼成する前のヘイズ値と前記プラスチック基板200の焼成した後のヘイズ値との差は、20%以下である必要がある。
【0035】
上述した構成により、前記プラスチック基板200は、本願における後述の硬化処理を行った後に、良好な寸法安定性及び可視光透過率を維持することができる。
【0036】
本発明の一つの実施形態において、前記プラスチック基板は樹脂材料で形成され、前記樹脂材料は、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate,PET)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride,PVC)、ポリカーボネート(polycarbonate,PC)、ポリプロピレン(polypropylene,PP)及びポリメタクリル酸メチル(poly(methyl methacrylate),PMMA)からなる群から選択される少なくとも1つである樹脂材料で形成される。前記プラスチック基板の樹脂材料はいずれも、可撓性及び高い可視光透過率を有する。
【0037】
図3に示すように、前記工程S120は、前記コーティング組成物100に硬化処理を行うことによって、硬化コーティング層100’(cured coating)を形成することを含む。
【0038】
より具体的に説明すると、前記工程S120は、前記コーティング組成物100に硬化処理(curing operation)を行うことによって、前記コーティング組成物100における多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)及び多官能エポキシ樹脂の硬化反応を行い、前記コーティング組成物100がプラスチック基板200に硬化コーティング層100’として形成される。
【0039】
前記硬化処理において、前記コーティング組成物100における有機溶剤が熱で蒸発されて除去されると共に、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)及び多官能エポキシ樹脂が架橋反応を行い、分子量が向上される。
【0040】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化処理での焼付け温度(baking temperature)は、75℃~200℃であり、75℃~150℃であることが好ましい。
【0041】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化処理での焼付け時間(baking time)は、30秒~120秒であり、30秒~90秒であることが好ましい。
【0042】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化処理での紫外線硬化エネルギー(UV curing energy)は、250mJ/cm2~1,250mJ/cm2であり、250mJ/cm2~1,000mJ/cm2であることが好ましい。
【0043】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化処理は少なくとも、少なくとも温度と湿度が制御された操作環境(温度23度/湿度50度)で実行する必要がある。また、操作環境では、クラス1000のクリーンルームであり、窒素環境でUVランプ照射を行うことが好ましい。
【0044】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化コーティング層100’とプラスチック基板200との結合力を向上するため、前記コーティング層の製造方法は、前記コーティング組成物100をプラスチック200に塗布する前に、前記プラスチック基板200の塗布面にコロナ処理及び/又は表面化学物質によるコーティングを行うことを含み、それによって、前記塗布面の表面張力を低減し、硬化コーティング層100’とプラスチック基板200との接着力を向上させることができる。前記コロナ処理を行った基材表面の濡れ張力は、48dyne/cm~60dyne/cmに至る。前記表面化学物質は、ポリエステル系、ポリウレタン系又はアクリル系樹脂の表面処理剤である。
【0045】
本発明の一つの実施形態において、前記硬化コーティング層100’及びプラスチック基板200はそれぞれ、好ましい厚さの範囲を有する。より具体的に説明すると、前記プラスチック基板200の厚さD1は、38μm~250μmであり、前記硬化コーティング層100’の厚さD2は、3μm~50μmである。
【0046】
前記コーティング層の製造方法によれば、本発明の実施形態に係る硬化コーティング層100’は、耐スクラッチ性、耐屈曲性及び透明性を同時に含む。具体的に説明すると、前記硬化コーティング層100’は、4H以上の鉛筆硬度(pencil hardness)、3mm以下の曲げ半径(bending radius)、及び90%以上の可視光透過率(visible light transmittance)を有する。
【0047】
それによって、本発明の実施形態に係るコーティング層100’は、透明ポリイミド(colorless polyimide,CPI)フィルムの代わりとして、パネル材料又は3C電子製品へのカバープレートや機能性保護フィルムに応用する可能性がある。なお、本発明の実施形態に係るコーティング層100’は、コストの面から、透明ポリイミドより市場競争力を有する。
【0048】
[積層構造]
本発明の実施形態に係るコーティング層の製造方法について前段で説明した。以下にて前記製造方法で形成された積層構造を説明する。説明すべきことは、前記積層構造は、前記実施形態に係る製造方法で形成されるが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、前記積層構造は、前記実施形態に係る製造方法と異なる方法で形成されてもよい。
【0049】
図3に示すように、本発明の一つの実施形態は、積層構造を提供する。前記積層構造は、プラスチック基板200と、プラスチック基板200に形成された硬化コーティング層100’と、を備える。なかでも、前記硬化コーティング層100’は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)を含む。なお、前記硬化コーティング層100’は、4H以上の鉛筆硬度、3mm以下の曲げ半径、及び90%以上の可視光透過率を有する。
【0050】
[コーティング組成物]
本発明の一つの実施形態は、コーティング組成物100を提供する。前記コーティング組成物100は、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)と、多官能エポキシ樹脂と、光カチオン開始剤と、有機溶剤とを含む。前記コーティング組成物の総重量を100wt%として、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂の含有量は6wt%~40wt%であり、前記多官能エポキシ樹脂の含有量は3wt%~35wt%であり、前記光カチオン開始剤の含有量は1wt%~10wt%であり、前記有機溶剤の含有量は30wt%~70wt%である。
【0051】
[実験データの測定]
以下、実施例1~3及び比較例1により、本発明の内容を詳しく説明するが、それらの実施例は、本発明を理解するためのものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0052】
実施例1:多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)10.2重量部、多官能エポキシ樹脂23.8重量部、及び有機溶剤(MEKと、PMAと、PMとの混合溶剤)50重量部を混合し、20分撹拌して、樹脂を完全に有機溶剤に溶解させ、次に、加工助剤(有機改質酸化ケイ素、レベリング剤及び消泡剤を用いる)13重量部及び光カチオン開始剤3重量部を添加して、均一となるように撹拌することで、コーティング組成物を形成した。次に、前記コーティング組成物を、プラスチック基板(PET基板)に塗布し、オーブンに120℃の温度、90secで焼付け、また、エネルギーが600mJ/cm2であるUVライトで硬化を行った。コーティングを行った後に、室温で1~3日に静置された後に、物性を測定した。
【0053】
実施例2:多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)20.4重量部、多官能エポキシ樹脂13.6重量部、及び有機溶剤(MEKと、PMAと、PMとの混合溶剤)50重量部を混合し、20分撹拌して、樹脂を完全に有機溶剤に溶解させ、次に、加工助剤(有機改質酸化ケイ素、レベリング剤及び消泡剤を用いる)13重量部及び光カチオン開始剤3重量部を添加して、均一となるように撹拌することで、コーティング組成物を形成した。次に、前記コーティング組成物を、プラスチック基板(PET基板)に塗布し、オーブンに120℃の温度、90secで焼付け、また、エネルギーが600mJ/cm2であるUVライトで硬化を行った。コーティングを行った後に、室温で1~3日に静置された後に、物性を測定した。
【0054】
実施例3:多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)27.2重量部、多官能エポキシ樹脂6.8重量部、及び有機溶剤(MEKと、PMAと、PMとの混合溶剤)50重量部を混合し、20分撹拌して、樹脂が完全に有機溶剤に溶解され、次に、加工助剤(有機改質酸化ケイ素、レベリング剤及び消泡剤を用いる)13重量部及び光カチオン開始剤3重量部を添加して、均一となるように撹拌することで、コーティング組成物を形成した。次に、前記コーティング組成物を、プラスチック基板(PET基板)に塗布し、オーブンに120℃の温度、90secで焼付け、また、エネルギーが600mJ/cm2であるUVライトで硬化を行った。コーティングを行った後に、室温で1~3日に静置された後に、物性を測定した。
【0055】
比較例1:多面体オリゴマーシルセスキオキサン樹脂(POSS)34重量部、及び有機溶剤(MEKと、PMAと、PMとの混合溶剤を用いる)50重量部を混合し、20分撹拌して、樹脂を完全に有機溶剤に溶解させ、次に、加工助剤(有機改質酸化ケイ素、レベリング剤及び消泡剤を用いる)13重量部及び光カチオン開始剤3重量部を添加して、均一となるように撹拌することで、コーティング組成物を形成した。次に、前記コーティング組成物を、プラスチック基板(PET基板)に塗布し、オーブンに120℃の温度、60secで焼付け、また、エネルギーが600mJ/cm2であるUVライトで硬化を行った。コーティングを行った後に、室温で1~3日に静置された後に、物性を測定した。特筆すべきことは、比較例1と前記実施例1~3との最大の相違点は、比較例1では、多官能エポキシ樹脂を用いなかった。
【0056】
なかでも、各成分のプロセス条件は、下表1に示すとおりである。
【0057】
次に、実施例1~3及び比較例1で製造されたコーティング層を備えた積層構造に物理化学特性の測定を行った。物理化学特性の測定として、例えば、鉛筆硬度(pencil hardness)、曲げ半径(bending radius)及び可視光透過率(visible light transmittance)である。測定方法は、以下にて説明し、また、測定結果は、表1に示すとおりである。
【0058】
[鉛筆硬度測定]
測定機器:鉛筆硬度試験機B-3084T3。
測定方法:HC PETフィルムをガラス面に置いて、硬さ試験機(0.765kgf)で少なくとも10cmフィルム表面を引っかいて、裸眼及びレーザー顕微鏡で表面に傷はあるか、を観察する。鉛筆痕を有する場合、消しゴムで拭いた後に傷がないかを確認し、測定回数は少なくとも5回であり、5回から3回パスを選択する。測定基準は、ASTM D3363である。
【0059】
[曲げ半径測定]
測定機器:ユアサ室温耐久試験機(DMLHP-CS)。
測定方法:フィルムを2cm×10cmとなるようにカットし、テープで試験機のテーブルに載せて、曲げ半径が0.5mm~3mm、曲げ速度が30cycle/minを測定することができる。測定回数は、20万回にする。
【0060】
[可視光透過率及びヘイズ値の測定]
測定機器:NDK NDH7000ヘーズメーター。
測定方法:フィルムを8cm×8cmとなるようにカットし、テープで試験機の治具テーブルに載せて、ASTM D1003を基準として、全光線透過率Tt及びヘイズ値を測定する。
【0061】
【0062】
[測定結果の検討]
実施例1~3において、POSS樹脂及びエポキシ樹脂の添加比を検討するためのものであり、POSS樹脂のケージ構造によって、成膜を行った後に、優れた柔軟性及び硬度を与える。エポキシ樹脂によって、樹脂の架橋密度を増加し、架橋密度が高いと、成膜硬度、機械強度及び耐熱性が向上するが、エポキシ樹脂の含有比が高すぎると、成膜が脆くて耐屈曲性が不良となる。よって、高硬度及び耐屈曲性を得るために、両者の添加比率を制御する必要がある。実施例1において、エポキシ樹脂の含有量が20%を超え、その硬度は5Hに至ったが、曲げ半径が明らかに向上した。実施例3において、エポキシ樹脂の含有量が10%未満であり、架橋密度がやや低く、その硬度は4Hであった。よって、実施例2は、硬度及び耐屈曲性を両立するための、好ましい物性を得られた配合比である。比較例1において、エポキシ樹脂を添加しなかった場合、硬度が顕著に低減した。また、光学特性(透過率及びヘイズ値)について、配合比の調整によって顕著な影響を与えない。
【0063】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る耐スクラッチ性及び耐屈曲性を有するコーティング層の製造方法、積層構造及びコーティング組成物は、「コーティング組成物の組成」及び「硬化処理の条件」といった技術特徴により、硬化コーティング層に高い耐スクラッチ性、耐屈曲性及び透明性を与えて、本発明のコーティング層は、透明ポリイミド(colorless polyimide,CPI)フィルムの代わりとして、パネル材料又は3C電子製品へのカバープレートや機能性保護フィルムの応用に用いる可能性がある。なお、本発明の実施形態に係るコーティング層は、コストの面から、透明ポリイミドより市場競争力を有する。
【0064】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
100…コーティング組成物
100’ …硬化コーティング層
200…プラスチック基板
D1,D2…厚さ