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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20240214BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20240214BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20240214BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B23Q15/12 Z
B23B1/00 A
G05B19/4093 M
G05B19/4155 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022526568
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019743
(87)【国際公開番号】W WO2021241552
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020094465
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146946(WO,A1)
【文献】特開2017-182336(JP,A)
【文献】特開2018-181110(JP,A)
【文献】特開2019-028597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0107308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 15/013-15/12
B23B 1/00- 3/00
G05B 19/4093-19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、
揺動条件に基づいて揺動指令を生成する揺動指令生成部と、
任意の揺動位相における主軸位相が同じにならないよう前記揺動指令を補正する揺動指令補正部と、
前記揺動指令補正部で補正された揺動指令を移動指令に重畳することにより生成される重畳指令に基づいて、前記工具と前記ワークとを相対的に揺動させる制御部と、を備え
前記揺動指令補正部は、同じ主軸位相になる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記揺動指令補正部は、前記揺動指令が0になる揺動位相において同じ主軸位相になる直前の1揺動の復動時における揺動位相の進め方を変更する、請求項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記揺動指令補正部は、揺動周波数倍率に応じて主軸位相をずらす方向を判断し、前記方向に応じて前記直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する、請求項又はに記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
任意の揺動位相における主軸位相を記憶する主軸位相記憶部を備え、
前記揺動指令補正部は、前記主軸位相記憶部の記憶した主軸位相と一致しないように前記直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する、請求項又はに記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記揺動指令補正部は、前記直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更するとともに揺動振幅を変更する、請求項からいずれかに記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
前記揺動指令補正部は、エアカットが生じる範囲で主軸位相がずれるように前記直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する、請求項からいずれかに記載の工作機械の制御装置。
【請求項7】
前記揺動指令補正部は、エアカットが生じる主軸位相の間隔に基づいて主軸位相をずらすように前記直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する、請求項からいずれかに記載の工作機械の制御装置。
【請求項8】
前記重畳指令に基づいて前記重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を前記重畳指令に加算することにより前記重畳指令を補正する学習制御部をさらに備える、請求項1からいずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穴開け加工や旋削加工等の切り屑対策として、揺動切削を適用することがある。この揺動切削を適用した場合、特定の揺動条件ではワーク1回転内でその悪化度合いがばらつくため、ワークの加工精度が特に悪化し、ワークの真円度にも大きな影響が出ることがある。
【0003】
そこで、ワークから生じる切屑を順次確実に分断することに加えて、ワークの加工精度悪化を軽減する工作機械の制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この工作機械の制御装置では、揺動軌跡の交点が分散するようにワークと工具の相対回転1回転当たりの往復振動数が設定される。これにより、切削工具の軌跡の交差部分が相対回転方向に分散配置される結果、ワーク加工面の微小凹凸が相対回転方向に均一に分散配置されるため、ワークの加工精度悪化を軽減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6470085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の制御装置では、揺動の振動数を全体的に変更するため、所望の切屑の長さを実現できない。そのため、連続して発生する切屑が切削工具に絡まる等して起こる加工不良、チョコ停、機械障害等を解決できない場合がある。
【0006】
従って、加工精度の悪化を抑制しつつ、所望の切屑の長さを実現できる工作機械の制御装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、工具とワークを相対的に揺動させながら加工する工作機械の制御装置であって、揺動条件に基づいて揺動指令を生成する揺動指令生成部と、任意の揺動位相における主軸位相が同じにならないよう前記揺動指令を補正する揺動指令補正部と、前記揺動指令補正部で補正された揺動指令を移動指令に重畳することにより生成される重畳指令に基づいて、前記工具と前記ワークとを相対的に揺動させる制御部と、を備える、工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、加工精度の悪化を抑制しつつ、所望の切屑の長さを実現できる工作機械の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の第1実施形態に係る工作機械の制御装置の構成を示す図である。
図2】揺動無し切削時及び従来の揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.5倍のときの図である。
図3】揺動無し切削時のワーク表面の凹凸を模式的に示す図である。
図4】従来の揺動切削時のワーク表面の凹凸を模式的に示す図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図である。
図6】本開示の第2実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.35倍のときの図である。
図7】本開示の第2実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.65倍のときの図である。
図8】本開示の第3実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、主軸位相のずらし量が10°のときの図である。
図9】本開示の第3実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、主軸位相のずらし量が50°のときの図である。
図10】本開示の第4実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.5倍のときの図である。
図11】本開示の第5実施形態に係る工作機械の制御装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、第2実施形態以降の説明において、第1実施形態と共通する構成、効果についてはその説明を省略し、第1実施形態と相違する構成、効果についてのみ説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本開示の第1実施形態に係る工作機械の制御装置1の機能ブロック図である。図1に示されるように、本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、サーボ制御装置10を含んで構成され、送り軸を駆動するモータ30を駆動制御する。
【0012】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、図1に示されるように、第1加算器11と、積算器12と、揺動指令生成部13と、揺動指令補正部14と、第2加算器15と、学習制御器16と、第3加算器17と、位置速度制御部18と、を備える。
【0013】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、位置指令生成部20により加工条件に基づいてモータ30に対する位置指令を生成する。生成された位置指令は、図1に示されるように、後述するサーボ制御装置10の第1加算器11に入力される。
【0014】
第1加算器11は、位置偏差を算出する。具体的には、第1加算器11は、送り軸のモータ30のエンコーダによる位置検出に基づいた位置フィードバックと位置指令との差分である位置偏差を算出する。
【0015】
積算器12は、位置偏差の積算値を算出する。具体的には、積算器12は、上記第1加算器11で算出された位置偏差を積算することにより、位置偏差の積算値を算出する。
【0016】
揺動指令生成部13は、揺動条件に基づいて揺動指令を生成する。揺動指令生成部13は、揺動振幅倍率及び揺動周波数倍率という揺動条件と加工条件から揺動指令を求めても良いし、揺動振幅及び揺動周波数という揺動条件から揺動指令を求めても良い。例えば本実施形態では揺動指令は揺動条件及び加工条件から算出しているが、揺動軸が停止している場合等への適用も考慮して、揺動条件にて揺動振幅や揺動周波数をそのまま設定する形であれば加工条件を用いずに算出することもできる。
【0017】
揺動指令補正部14は、揺動指令生成部13で生成された揺動指令を、揺動条件に応じて補正する。具体的に揺動指令補正部14は、揺動指令生成部13で生成された揺動指令について、同じ主軸位相になる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。この揺動指令補正部14による揺動指令の補正については、後段で詳述する。
【0018】
第2加算器15は、重畳指令を生成する。具体的には、第2加算器15は、積算器12で算出された位置偏差の積算値に対して、揺動指令補正部14で補正された揺動指令を重畳することにより、重畳指令を生成する。なお、第2加算器15は、揺動指令補正部14で補正された揺動指令を位置指令に加算する構成としてもよい。あるいは、第2加算器15は、揺動指令補正部14で補正された揺動指令を速度指令に加算する構成としてもよい。
【0019】
学習制御器16は、重畳指令に基づいて重畳指令の補正量を算出し、算出された補正量を第3加算器17により重畳指令に加算することにより、重畳指令を補正する。この学習制御器16は、メモリを有し、揺動の1周期もしくは複数周期内において揺動位相及び重畳指令を関係づけてメモリに記憶し、モータ30の応答性に応じた揺動動作の位相遅れを補償できるタイミングにメモリに記憶された重畳指令を読み出して補正量として第3加算器17に出力する。一般的に、揺動周波数が高くなるほど揺動指令に対する偏差(重畳指令)は大きくなるため、この学習制御器16による補正により、周期的な揺動指令に対する追従性を向上させることができる。結果として、重畳指令への追従性が向上し、加工精度の悪化を抑制しつつ所望の切り屑の長さを実現しやすくすることができる。
【0020】
位置速度制御部18は、補正量加算後の重畳指令に基づいて、送り軸を駆動するモータ30に対するトルク指令を生成し、生成したトルク指令によりモータ30を制御する。これにより、工具とワークとを相対的に揺動させながら加工が行われる。
【0021】
次に、揺動指令補正部14による揺動指令の補正について詳しく説明する。
図2は、揺動無し切削時及び従来の揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図である。図2の横軸は主軸位相(0°~360°)を表しており、縦軸は送り軸方向の送り量(mm)を表している。図2中、破線で示される複数の直線は、揺動無し切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示しており、太実線で示される複数の曲線は、従来の揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示している。なお、太実線で示される従来の揺動切削の工具軌跡において、前回パスと今回パスが交差している部分ではエアカットCが発生しており、このエアカットCの部分において切屑が細断される。
【0022】
図2は、主軸1回転毎の切削工具の送り量が一定の場合について示したものである。そのため、図2において、破線で示された隣接する直線同士の送り軸方向の間隔D0、即ち、揺動無し切削時における前回パスと今回パスの間隔D0が一定になっている。
【0023】
これに対して、太実線で示された隣接する曲線同士の送り軸方向の間隔、即ち、従来の揺動切削時における前回パスと今回パスの間隔は主軸位相により大きく異なることが分かる。具体的には、図2中、1点鎖線で示される主軸位相が180°の位置では、従来の揺動切削時における前回パスと今回パスの間隔はD1で一定であり、揺動無し切削時における前回パスと今回パスの間隔D0と同一間隔である。一方、1点鎖線で示される主軸位相が240°の位置では、従来の揺動切削時における前回パスと今回パスの間隔は、D0及びD1より大きい間隔D2と、送り方向とは逆方向の間隔D3と、の繰り返しとなっている。このように、従来の揺動切削では、主軸位相によっては主軸1回転毎の送り量が一定ではなく、主軸位相により送り量が大きく相違している。
【0024】
ここで、図3は、揺動無し切削時のワーク表面の凹凸を模式的に示す図である。図3中、N1~N6は、揺動無し切削時の各パスにおける切削工具の位置を示しており、図2中のパスN1~N6に対応している。また、図3中、太実線はワーク表面の凹凸を表している。図3に示されるように揺動無し切削においては、主軸1回転毎の送り量が一定であり、送り軸方向の切削工具の進み量が一定であるため、刃先に必ずコーナ部が存在する切削工具における、刃先コーナ半径に起因するワーク表面の凹凸は一定である。
【0025】
これに対して、図4は、従来の揺動切削時のワーク表面の凹凸を模式的に示す図である。より詳しくは、図2中の1点鎖線で示される主軸位相が240°の位置における、従来の揺動切削時のワーク表面の凹凸を模式的に示す図である。図4中、O1~O6は、従来の揺動切削時の各パスにおける切削工具の位置を示しており、図2中のパスO1~O6に対応している。また、図4中、太実線はワーク表面の凹凸を表している。上述した通り図4に示す主軸位相が240°の位置では、主軸1回転毎の送り量が、送り軸方向のD2と送り軸方向とは逆方向のD3との繰り返しである。このため、図4に示されるように、切削工具は送り軸方向にD2進んだ後、逆にD3後退するため、切削工具の刃先コーナ半径に起因するワーク表面の凹凸は大きくなる。凹凸が大きくなることで表面粗さは悪くなる。一方、上述した通り1点鎖線で示される主軸位相が180°の位置では、主軸1回転毎の送り量が一定であるため、ワーク表面の凹凸(粗さ)は図3に示される揺動無し切削と同じで一定である。このように従来の揺動切削では、主軸位相によってワーク表面の凹凸の度合いが変わるため、表面粗さの悪化度合いがばらついてしまう。そのことが原因で、ワークの真円度にも悪影響が出るおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、上述のワーク表面の凹凸のばらつきを抑制することにより、ワークの加工精度悪化を軽減できるものである。具体的に、本実施形態に係る工作機械の制御装置1は、揺動指令補正部14による揺動指令の補正により、任意の揺動位相における主軸位相が同じにならないよう揺動指令を補正することで、エアカットCが生じる揺動位相をずらし、ワーク表面の凹凸のばらつきを抑制する。
【0027】
なお、揺動指令補正部14は、揺動指令を補正することにより、揺動指令が0になる揺動位相において同じ主軸位相になる直前の1揺動の復動時における揺動位相の進め方を変更することがより好ましい。揺動の往動時は前回パスとエアカットCを生じさせる必要があるため、往動時に揺動位相の進め方を変更するとエアカットCを生じさせるのが困難となるおそれがあるためである。
【0028】
従って、本実施形態の揺動指令補正部14は、揺動条件に基づいて、同じ主軸位相に戻るまでの揺動回数を算出する。また揺動指令補正部14は、揺動回数をカウントし、同じ主軸位相に戻る揺動回数になったら、揺動位相の進め方を変更する。
【0029】
ここで、揺動を何回行うと同じ主軸位相に戻るかは、揺動周波数倍率(主軸1回転あたりの揺動回数)Iに依存する。算出の一例としては、重みが0.001倍の揺動周波数倍率Iと1000とについて最大公約数を求めると、I×1000/最大公約数が同じ主軸位相に戻るまでの揺動回数となるため、揺動指令補正部14はこの計算式に従って揺動回数を算出する。例えば、揺動周波数倍率が1.5倍の場合、I×1000=1500と1000との最大公約数は500であるため、1500/500=3回となり、同じ揺動位相に戻るまでの揺動回数は3回と算出される。なお、同じ主軸位相に戻るまでの揺動回数の算出方法は、上記算出方法に限定されず、他の算出方法であっても良い。
【0030】
図5は、本開示の第1実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図である。図5に示す例では、揺動周波数倍率が1.5倍のときのワーク表面における切削工具の軌跡を示している。上述した通り、揺動周波数倍率が1.5倍の場合には、3回揺動すると元の主軸位相と同じ主軸位相に戻る。また、揺動周波数倍率が1.5倍の場合、通常、エアカットCが生じるのは主軸位相が0°、120°、240°のときである。
【0031】
ここで、図5に示されるように、1回の揺動(1揺動)で主軸位相θ(1点鎖線L1~1点鎖線L2、1点鎖線L2~1点鎖線L3)だけ進むとすると、元の主軸位相と同じ主軸位相に戻る直前の3回目の揺動において揺動位相をθ+α(1点鎖線L3~1点鎖線L4)進めるようにすると、主軸位相に対しての揺動位相がαだけずれる。これにより、図5から明らかであるように、エアカットCが生じていた主軸位相(の中心)を、αだけずらすことができる。このように本実施形態では、エアカット位相(エアカットが生じる位相)をずらすことで、ワーク表面の凹凸を分散でき、揺動切削により特定の主軸位相だけ表面粗さが悪化するのを抑制できるようになっている。
【0032】
次に、揺動位相の進め方の変更について詳しく説明する。
先ず、本実施形態の重畳指令(位置指令+揺動指令)は、以下の数式(1)により算出される。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、上記数式(1)中、Yは重畳指令、Fは毎回転送り量[mm/回転]、Sは主軸回転数[分-1]、Iは揺動周波数倍率[倍]、Kは揺動振幅倍率[倍]、tは時刻[s]を表している。また、(K×F)/2は揺動振幅[mm]、πSIt/30は揺動位相(揺動周波数)[rad]である。揺動振幅倍率K及び揺動周波数倍率Iは定数である。揺動振幅倍率Kは1以上の数であり、揺動周波数倍率Iはゼロより大きい非整数(例えば、0.5、0.8、1.2、1.5、1.9、2.3、2.5…等の正の非整数)である。これら揺動振幅倍率K及び揺動周波数倍率Iの値は予め記憶されている。
【0035】
揺動位相をθとすると、上述した通り揺動位相θ[rad]は、以下の数式(2)により算出される。
【0036】
【数2】
【0037】
1回の揺動に要する時間t[s]は、以下の数式(3)により算出される。
【0038】
【数3】
【0039】
1回の揺動で進む主軸位相θ[rad]は、以下の数式(4)により算出される。
【0040】
【数4】
【0041】
主軸位相をα[rad]だけ進めるのに要する時間Δt[s]は、以下の数式(5)により算出される。
【0042】
【数5】
【0043】
従って、揺動を行って元の主軸位相と同じ主軸位相に戻る直前の揺動における揺動位相の進め方を変更する場合、主軸位相が元の主軸位相に戻る直前のパスにおいて、揺動位相θがπ~2π[rad]である時には、以下の数式(6)及び(7)により算出される角速度ω’で揺動位相を進めればよい。即ち、揺動指令補正部14は、揺動を行って元の主軸位相と同じ主軸位相に戻る直前の揺動における揺動位相が角速度ω’で進むように、揺動指令を補正すればよい。
【0044】
【数6】
【0045】
【数7】
【0046】
本実施形態に係る工作機械の制御装置1によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、揺動条件に基づいて揺動指令を生成する揺動指令生成部13と、任意の揺動位相における主軸位相が同じにならないよう前記揺動指令を補正する揺動指令補正部14と、を設けた。
これにより、エアカットCが生じる主軸位相をずらすことができる。そのため、ワーク表面の凹凸を分散でき、揺動切削により特定の主軸位相だけ表面粗さが悪化するのを抑制できる。また、揺動周波数を全体的に変更することがないため、切屑の長さが変動するのを抑制でき、所望の切屑の長さを実現できる。従って、本実施形態によれば、加工精度の悪化を抑制しつつ、所望の切屑の長さを実現できる工作機械の制御装置1を提供できる。
【0047】
また本実施形態では、揺動指令補正部14により同じ主軸位相になる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する構成とした。より詳しくは、揺動指令補正部14により直前の1揺動の復動時における揺動位相の進め方を変更する構成とした。
揺動の往動時は、前回パスとエアカットCを生じさせる必要があるため、往動時に揺動位相の進め方を変更するとエアカットCを生じさせるのが困難となるおそれがあるところ、本実施形態によれば、直前の1揺動の復動時における揺動位相の進め方を変更するため、エアカットCが生じる主軸位相をずらすことができるとともに、直前の1揺動の往動時に前回パスとの間でより確実にエアカットCを生じさせることができる。
【0048】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る工作機械の制御装置では、揺動指令補正部14が、揺動周波数倍率Iに応じて主軸位相をずらす方向を判断する。これにより本実施形態では、該ずらす方向に応じて直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。
【0049】
図6は、本開示の第2実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.35倍のときの図である。また、図7は、本開示の第2実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.65倍のときの図である。図6及び図7中、W1は揺動動作の山を表しており、W2は揺動動作の谷を表している。
【0050】
図6及び図7から明らかであるように、揺動周波数倍率Iによって、揺動動作の山W1と谷W2の位置関係は変化する。ここで、これら揺動動作の山W1と谷W2とが交差することでエアカットCが生成するため、両者の位置関係は、エアカットCの生成に大きく関係している。そのため、主軸位相をどちらの方向にずらすかについては、この山W1と谷W2の位置関係に応じて、主軸位相をずらした際にエアカットCが生じ易い否かで決定される。即ち、揺動周波数倍率Iに応じて、主軸位相をどちらの方向にずらすかが決定される。
【0051】
具体的に本実施形態の揺動指令補正部14は、揺動周波数倍率Iがn.5倍以下である場合(図6の場合)には、主軸位相を遅らせる方向に揺動指令を補正する。また本実施形態の揺動指令補正部14は、揺動周波数倍率Iが、n.5倍を超える場合(図7の場合)には、主軸位相を進める方向に揺動指令を補正する。ここで、nは1以上の整数である。
【0052】
図6に示されるように揺動周波数倍率が1.35倍である場合には、主軸位相を遅らせる方が、山W1と谷W2が交差し易くなり、エアカットCが生じ易くなることが分かる。ここで、主軸位相を遅らせるとは、上述の図5におけるαがマイナスの場合であり、揺動位相を速く進めることを意味する。即ち、主軸位相を遅らせる方向とは、1揺動に対して進む主軸位相が少なくなる方向を意味する。
【0053】
これに対して、図7に示されるように揺動周波数倍率が1.65倍である場合には、主軸位相を進める方が、山W1と谷W2が交差し易くなり、エアカットCが生じ易くなることが分かる。ここで、主軸位相を進めるとは、上述の図5におけるαがプラスの場合であり、揺動位相を遅く進めることを意味する。即ち、主軸位相を進める方向とは、1揺動に対して進む主軸位相が多くなる方向を意味する。
【0054】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、揺動指令補正部14によって揺動周波数倍率Iに応じて主軸位相をずらす方向を判断することにより、直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する構成とした。これにより、揺動周波数倍率Iに応じて揺動位相を速く進めるか又は遅く進めるかを決定できるため、第1実施形態の効果をより確実に得ることができる。
【0055】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る工作機械の制御装置では、揺動指令補正部14が任意の揺動位相における主軸位相が同じになる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更するとともに、揺動振幅を変更する。
【0056】
また、第3実施形態に係る工作機械の制御装置では、揺動指令補正部14はエアカットCが生じる範囲で主軸位相をずらすように揺動指令を補正する。
【0057】
ここで、揺動切削において主軸位相を大きくずらすと、揺動振幅も変更しないとエアカットCが生じなくなる場合がある。そのため本実施形態では、主軸位相のずらし量に応じて、揺動振幅を補正する。あるいは、揺動振幅を補正しなくてもよい範囲で、主軸位相のずらし量を決定する。
【0058】
図8は、本開示の第3実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率1.5倍の時に主軸位相を10°進めた場合の図である。図8中のP1部分に示されるように、主軸位相を10°進めても、揺動動作の山と谷とが交差するエアカットCが生じていることが分かる。
【0059】
これに対して図9は、本開示の第3実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率1.5倍の時に主軸位相を50°進めた場合の図である。図9中のP2部分に示されるように、主軸位相を50°進めると、揺動動作の山と谷とが交差しなくなり、エアカットCが生じなくなることが分かる。従ってこの場合には、揺動振幅を大きくする必要があることが分かる。
【0060】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、揺動指令補正部14が任意の揺動位相における主軸位相が同じになる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更するとともに揺動振幅を変更する構成とした。これにより、主軸位相を大きくずらした場合であっても、揺動振幅を変更することでエアカットCをより確実に生じさせることができる。
【0061】
また本実施形態では、揺動指令補正部14はエアカットCが生じる範囲で主軸位相をずらすように揺動位相を補正する構成とした。これにより、揺動振幅を変更しなくても、エアカットCをより確実に生じさせることができる。
【0062】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る工作機械の制御装置では、揺動指令補正部14はエアカットCが生じる主軸位相の間隔に基づいて主軸位相を進める量を判断する。これにより本実施形態では、エアカットCが生じる主軸位相の間隔に基づいて、任意の揺動位相における主軸位相が同じになる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。
【0063】
ここで、エアカットCができる主軸位相の間隔は、元の主軸位相と同じ主軸位相に戻るまでの揺動回数に依存する。即ち、エアカットCができる主軸位相の間隔は、以下の数式(8)により算出される。
【0064】
【数8】
【0065】
従って本実施形態の揺動指令補正部14は、上記数式(8)で算出されるエアカットCができる主軸位相の間隔に基づいて、主軸位相を進める量を判断する。具体的に揺動指令補正部14は、エアカットCができる主軸位相の間隔の範囲内で、主軸位相を進める量(前述のα)を決定し、決定された進め量に応じて、任意の揺動位相における主軸位相が同じになる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。主軸位相の進め量は予め決定された固定値でもよく、揺動周波数倍率I等の揺動条件に応じて決定してもよい。
【0066】
図10は、本開示の第4実施形態に係る揺動切削時のワーク表面における切削工具の軌跡を示す図であり、揺動周波数倍率が1.5倍のときの図である。図10に示されるように揺動周波数倍率が1.5倍の場合には、上述した通り元の主軸位相に戻るまでの揺動回数は3回である。従って、上記数式(8)により、エアカットCができる主軸位相の間隔は、120°であることが分かり、具体的には主軸位相が0°、120°、240°のときである。この場合には、主軸位相120°の範囲内で、主軸位相の進め量を決定することになる。
【0067】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、揺動指令補正部14はエアカットCが生じる主軸位相の間隔に基づいて主軸位相を進める量を判断することにより、任意の揺動位相における主軸位相が同じになる直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する構成とした。これにより、主軸位相のずらし量を決定できるため、第1実施形態の効果をより確実に得ることができる。
【0068】
[第5実施形態]
図11は、第5実施形態に係る工作機械の制御装置1Aの構成を示す図である。本実施形態に係る工作機械の制御装置1Aは、任意の揺動位相における主軸位相を記憶する主軸位相記憶部19をさらに備える。また、揺動指令補正部14は、主軸位相記憶部19の記憶した主軸位相と一致しないように、直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。
【0069】
より詳しくは、主軸位相記憶部19は、揺動指令生成部13で生成される揺動指令の任意の揺動位相における主軸位相を記憶する。この主軸位相記憶部19により記憶された主軸位相は、揺動指令補正部14に入力される。
【0070】
揺動指令補正部14は、直前の主軸位相だけではなく、上述の主軸位相記憶部19に記憶された過去の主軸位相と、前記任意の揺動位相における次の主軸位相が一致しないように、直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更する。
【0071】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、上述の各実施形態において揺動条件から決めていた任意の揺動位相になる際の主軸位相が、主軸位相記憶部19により記憶された主軸位相に置き換わる。従って本実施形態によれば、任意の揺動位相における主軸位相が主軸位相記憶部19に記憶された過去の主軸位相と一致しないように、直前の1揺動における揺動位相の進め方を変更するため、任意の揺動位相における主軸位相が同じになることなく揺動し続けることができる。その結果、加工精度の悪化を抑制しつつ、所望の切屑の長さを実現することができる。
【0072】
なお、本開示は上記態様に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良は本開示に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
1,1A 工作機械の制御装置
10 サーボ制御装置
11 第1加算器
12 積算器
13 揺動指令生成部
14 揺動指令補正部
15 第2加算器
16 学習制御器(学習制御部)
17 第3加算器(学習制御部)
18 位置速度制御部(制御部)
19 主軸位相記憶部
20 位置指令生成部
30 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11