(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240214BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240214BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240214BHJP
B65D 81/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/01
C08K3/10
B65D81/00 BSP
(21)【出願番号】P 2022533884
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2021023520
(87)【国際公開番号】W WO2022004475
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020112993
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大平 洋二
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-077824(JP,A)
【文献】特開2015-183108(JP,A)
【文献】特開2006-282798(JP,A)
【文献】特許第3995346(JP,B2)
【文献】特許第5749335(JP,B2)
【文献】特許第4517969(JP,B2)
【文献】特開2013-023684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00
B65D 81/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)イオン捕捉剤(B成分)を0.0005~1.0重量部含有することを特徴とする精密電子材料用の容
器用の材料としてのポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
イオン捕捉剤が無機系の陰イオン捕捉剤である請求項1記載の精密電子材料用の容
器用の材料としてのポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
イオン捕捉剤がマグネシウム・アルミニウム系の陰イオン捕捉剤である請求項1または2に記載の精密電子材料用の容
器用の材料としてのポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
A成分100重量部に対して、B成分を0.001~0.5重量部含有する請求項1~3のいずれかに記載の精密電子材料用の容
器用の材料としてのポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる精密電子材料用の容
器用の材料としての成形品または成形部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン捕捉剤を配合することにより、特定の微量不純物イオンの漏出が高度に抑制され、透明性および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物および成形品に関する。さらに詳しくは、半導体ウェハなど精密電子材料用の容器やカバーとして好適に用いることができるポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電子基板、磁気ディスク、半導体ウェハ、マスクガラス等の精密基板、その他精密電子材料を収納し、輸送、搬送、保管するための樹脂製容器においては、その成形材料(熱可塑性樹脂組成物)に関して、微量揮発ガスの原因となる微量不純物を低減することが求められてきた。それに対応するために、不純物塩素原子や不純物金属原子が少ないポリカーボネート樹脂が特許文献1や特許文献2にて提案されている。
【0003】
近年、半導体部品の微細化や配線の狭ピッチ化が進んだことから、半導体ウェハ(精密基板)の収納容器に用いる成形材料においては、精密基板の汚染を高度に防止する観点により、材料から漏出する微量不純物イオンの低減が求められるようになってきた。それに対応するには、微量不純物イオンがより低減されたポリカーボネート樹脂組成物を用いることが有効な手段である。
【0004】
一方、本発明で用いられるイオン捕捉剤は、従来、ポリカーボネート樹脂など成形用熱可塑性樹脂に用いられることはなかった。イオン捕捉剤は、電子・電気部品封止用樹脂としての熱硬化性樹脂に使用されてきた。具体的には、LSI、IC、ハイブリッドIC、トランジスタ、ダイオード、およびサイリスタやこれらのハイブリッド部品に用いられる電子部品封止材はエポキシ樹脂であることが多く、主成分であるエポキシ化合物の他、エポキシ化合物硬化剤、硬化促進剤、無機充填物、難燃剤、顔料、およびシランカップリング剤等により構成されているが、これらの構成成分にはハロゲンイオンやナトリウムイオンなどのイオン性不純物が含まれる場合が多く、電子素子に悪影響を与える可能性があるため、構成成分としてさらにイオン捕捉剤を配合し共存させることで悪影響を防ぐ対策が行われてきたものである。
【0005】
封止材を構成するエポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)にイオン捕捉剤が使用された一例として特許文献3があげられ、ペーストを構成するアクリル樹脂(熱可塑性樹脂)に使用された一例として特許文献4が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3995346号公報
【文献】特許第5749335号公報
【文献】特許第4517969号公報
【文献】特開2013-23684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特定の微量不純物イオンの漏出が高度に抑制され、透明性および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、材料からの微量不純物イオンの漏出の可能性を高度に低減する手段として、微量不純物イオンが低減された樹脂や添加剤を用いるという従来の考え方に基づく方法だけではなく、イオン捕捉剤を配合して微量不純物イオンを樹脂中に固定化して樹脂からの漏出を抑制するという方法が有効であることを見出した。すなわち、ポリカーボネート樹脂にイオン捕捉剤を一定割合で配合したポリカーボネート樹脂組成物が上記課題を達成するのに有効であることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、下記構成(1)~(5)が提供される。
(1)(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、(B)イオン捕捉剤(B成分)を0.0005~1.0重量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
(2)イオン捕捉剤が無機系の陰イオン捕捉剤である前項(1)記載のポリカーボネート樹脂組成物。
(3)イオン捕捉剤がマグネシウム・アルミニウム系の陰イオン捕捉剤である前項(1)または(2)に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
(4)A成分100重量部に対して、B成分を0.001~0.5重量部含有する前項(1)~(3)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
(5)前項(1)~(4)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の微量不純物イオンの漏出が高度に抑制され、透明性および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物であり、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。具体的には、電子部品、電子基板、磁気ディスク、集積回路チップへと加工されるウェハなどの半導体ウェハ、マスクガラス等の精密基板、その他精密電子材料など覆う外装成形品や周辺の成形部材、前述の各種電子材料を収納し、輸送、搬送、保管するための容器としての成形品や容器を構成する成形部材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細について説明する。
<A成分:ポリカーボネート樹脂>
本発明のA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、通常ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られたものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られるものである。
【0012】
ここで使用されるジヒドロキシ成分としては、通常ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ成分として使用されているものであればよく、ビスフェノール類でも脂肪族ジオール類でも良い。
【0013】
ビスフェノール類としては、例えば4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタンおよび下記一般式〔3〕で表されるシロキサン構造を有するビスフェノール化合物等が挙げられる。
【0014】
【0015】
[式中、R3及びR4は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基であり、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、p及びqは夫々1~4の整数でありeは自然数であり、fは0又は自然数であり、e+fは100未満の自然数である。Xは炭素原子数2~8の二価脂肪族基である。]
脂肪族ジオール類としては、例えば2,2-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,14-テトラデカンジオール、オクタエチレングリコール、1,16-ヘキサデカンジオール、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}メタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}エタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-1-フェニルエタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}プロパン、1,1-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ビフェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル}プロパン、2,2-ビス{3-t-ブチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ブタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-4-メチルペンタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}オクタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}デカン、2,2-ビス{3-ブロモ-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3,5-ジメチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、1,1-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ジフェニルメタン、9,9-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}フルオレン、9,9-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}フルオレン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロペンタン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ-テル、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、1,3-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、4,8-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-5,7-ジメチルアダマンタン、3,9-ビス(2-ヒドロキシー1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(イソソルビド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-マンニトール(イソマンニド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-L-イジトール(イソイディッド)等が挙げられる。
【0016】
これらの中で芳香族ビスフェノール類が好ましく、なかでも1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノール、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、および1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、上記一般式〔3〕で表されるビスフェノール化合物が好ましく、殊に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノール、および9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、上記一般式〔3〕で表されるビスフェノール化合物が好ましい。中でも強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明のA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、分岐化剤を上記のジヒドロキシ化合物と併用して分岐化ポリカーボネート樹脂としてもよい。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、26-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0018】
これらのポリカーボネート樹脂は、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。その製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0019】
カーボネート前駆物質として、例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物またはピリジンなどのアミン化合物が用いられる。溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0~40℃であり、反応時間は数分~5時間である。カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120~300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また、反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0020】
本発明において、重合反応においては末端停止剤を使用する。末端停止剤は分子量調節のために使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる末端停止剤としては、下記一般式〔4〕~〔6〕で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0021】
【0022】
[式〔4〕中、Aは水素原子、炭素数1~9のアルキル基、アルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数は1~9)、フェニル基、またはフェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数1~9)であり、rは1~5、好ましくは1~3の整数である]。
【0023】
【0024】
【0025】
[式〔5〕、〔6〕中、Yは-R-O-、-R-CO-O-または-R-O-CO-である、ここでRは単結合または炭素数1~10、好ましくは1~5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10~50の整数を示す。]
上記一般式〔4〕で表される単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クレゾール、p-クミルフェノール、2-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール、およびイソオクチルフェノールなどが挙げられる。
【0026】
また、上記一般式〔5〕または〔6〕で表される単官能フェノール類は、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類であり、これらを用いてポリカーボネート樹脂の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、樹脂の吸水率を低くする効果があり好ましく使用される。
【0027】
上記一般式〔5〕の置換フェノール類としてはnが10~30、特に10~26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0028】
また、上記一般式〔6〕の置換フェノール類としてはYが-R-COO-であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10~30、特に10~26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0029】
これら単官能フェノール類の内、上記一般式〔4〕で表される単官能フェノール類が好ましく、より好ましくはアルキル置換もしくはフェニルアルキル置換のフェノール類であり、特に好ましくはp-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールまたは2-フェニルフェノールである。
【0030】
これらの単官能フェノール類の末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0031】
本発明のA成分として用いられるポリカーボネート樹脂は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸あるいはその誘導体を共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。
【0032】
本発明のA成分として使用されるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、11,500~50,000の範囲が好ましく、12,500~40,000がより好ましく、13,500~35,000の範囲がさらに好ましく、15,000~30,000の範囲が最も好ましい。分子量が50,000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性に劣る場合があり、分子量が11,500未満であると機械的強度に問題が生じる場合がある。なお、本発明でいう粘度平均分子量は、まず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、求められた比粘度を次式に挿入して粘度平均分子量Mvを求める。
【0033】
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
本発明のA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、樹脂中の全Cl(塩素)量が好ましくは0~500ppmであり、より好ましくは0~350ppm、さらに好ましくは0~150ppm、特に好ましくは0~100ppm、もっとも好ましくは0~20ppmである。ポリカーボネート樹脂中の全Cl量が上記範囲であると、色相および熱安定性に優れるので好ましく、また、イオン捕捉剤量を抑制できる場合もあるので好ましい。
<B成分:イオン捕捉剤>
本発明のB成分として用いるイオン捕捉剤は、ポリカーボネート樹脂組成物や成形品から特定の不純物イオンの漏出およびその漏出量を低減させることができる。
【0034】
上記特定の不純物イオンとは、塩化物イオン(Cl-、陰イオン)、硝酸イオン(NO3
-、陰イオン)、ナトリウムイオン(Na+、陽イオン)、カルシウムイオン(Ca+、陽イオン)など、一般的にイオンクロマトグラフで測定が可能な特定のイオンを指しており、この中で重要なのは塩化物イオンとナトリウムイオンであり、特に重要なのは塩化物イオンである。
【0035】
また、上記漏出とは、成形品からの揮発や水に浸漬したときの成形品からの水への溶け出しを意味する。例えば、半導体ウェハ用の容器としての成形体においては、長期にわたる使用において成形体から揮発したごく微量の揮発物が半導体ウェハを汚染することが想定されることから、材料からどの程度揮発物が揮発する可能性があるのかを推定することや、その揮発量がより少ない材料を選択することが重要である。長期に渡る期間で検出されるところの材料からの微量揮発量をより短時間で推定するためには、一定時間水に浸漬して抽出される微量不純物イオン量を測定する方法が有効と考えられる。
【0036】
本発明のB成分として用いるイオン捕捉剤とは、イオン捕捉能を有する有機化合物、無機化合物であって、一般的に、イオンキャッチャー、イオン交換体、イオントラップ剤、イオン捕集剤、イオン吸着剤とも呼ばれるものであり、反対電荷のイオンを取り入れたイオン交換を行い、イオン性不純物を捕捉固定するものであれば、特に制限はない。
【0037】
本発明で用いるイオン捕捉剤は、陽イオンの捕捉が可能な陽イオン捕捉剤、陰イオンの捕捉が可能な陰イオン捕捉剤、および陽イオンと陰イオンの両方の捕捉が可能な両イオン捕捉剤を含み、全て従来公知のものを用いることができる。
【0038】
ハロゲンイオンなどの陰イオンを捕捉する場合は一般的には陰イオン捕捉剤を使用し、ナトリウムイオンなどの陽イオンを捕捉する場合には陽イオン捕捉剤を使用することが多い。また併用することでより一層性能が向上することもある。また、陰イオン捕捉剤であってもある程度陽イオンを捕捉できる場合があり、陽イオン捕捉剤であってもある程度陰イオンを捕捉できる場合がある。
【0039】
イオン捕捉剤として使われる有機系イオン交換体としては、酸性水酸基、カルボキシル基、スルホン基等の酸性基が結合している高分子酸を有している化合物があり、イオン捕捉剤として使われる無機系イオン交換体としては金属の含水酸化物等が挙げられる。無機系イオン交換体としては、具体的には、Si、Ti、Nb、Sn、Zr、Mg、Al、Sb、Fe等の含水酸化物、Zr、Sn、Ti等の4価の金属とのリン酸塩、合成ゼオライト等があげられる。
【0040】
有機系イオン交換体と無機系イオン交換体とを比べると、耐熱性の面で無機系イオン交換体が好ましい。
(陽イオン捕捉剤)
陽イオン捕捉剤は、金属イオン等の陽イオンを捕捉する高い機能を有する。陽イオン捕捉剤は、無機系陽イオン捕捉剤と有機系陽イオン捕捉剤があり、両者とも使用できる。
【0041】
無機系陽イオン捕捉剤は、例えばマンガン化合物(含水二酸化マンガン等)、アンチモン化合物(結晶性アンチモン酸、含水五酸化アンチモン等)、ジルコニウム化合物(リン酸ジルコニウム、モリブデン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム等)、ケイ酸塩化合物(アルミノケイ酸塩、合成アルミノケイ酸塩等)、リン酸塩化合物(リン酸チタン、リン酸スズ等)、シュウ酸セリウム(III)、モリブドリン酸アンモニウム、ヘキサシアノ鉄(III)コバルト(II)カリウム、天然グリーンサンド、安定化グリーンサンド、Mn2+型にしたグリーンサンド等が挙げられる。これらの中でもアンチモン化合物、ジルコニウム化合物は、陽イオンを捕捉する能力が高い。
【0042】
無機系陽イオン捕捉剤は、例えばIXE-100(東亞合成株式会社製、リン酸ジルコニウム系イオン捕捉剤)、IXE-300(東亞合成株式会社製、酸化アンチモン系イオン捕捉剤)等の公知の製品を使用できる。
【0043】
有機系陽イオン捕捉剤は、例えばアデカスタブCDA-6、CDA-10(ADEKA社製)等の公知の製品を使用できる。
(陰イオン捕捉剤)
陰イオン捕捉剤は、ハロゲンイオン等の陰イオンを捕捉する高い機能を有する。
【0044】
陰イオン捕捉剤は、例えばビスマス化合物(含水酸化ビスマス、水和硝酸ビスマス等)、マグネシウム・アルミニウム複合酸化物(マグネシウムアルミニウムハイドロタルサイト等)、リン酸塩化合物(水酸化リン酸鉛等)、ジルコニウム化合物(水酸化ジルコニウム)等が挙げられる。
【0045】
酸化ビスマス系化合物は、例えば、一般式
BiOX(OH)Y(NO3)Z
[ここで、Xは0.9~1.1、Yは0.6~0.8、Zは0.2~0.4の正数である]で示される。
【0046】
マグネシウム・アルミニウム複合酸化物は、例えば、一般式
MgxAly(OH)2x+3y-2z(CO3)z・mH2O
(x,y,zはそれぞれ0<y/x≦1,0≦z/y<1.5なる関係を有し、mは正数を示す。)で示される。
【0047】
これらの中でもマグネシウム・アルミニウム複合酸化物は、陰イオンを捕捉剤する能力が高い。
【0048】
陰イオン捕捉剤は、例えばIXE-500(東亞合成株式会社製、酸化ビスマス系イオン捕捉剤)、IXE-530、IXE-550、IXE-700FI(東亞合成株式会社製マグネシウム・アルミニウム系イオン捕捉剤)、IXE-700D、IXE-800(東亜合成社製含水酸化ジルコニウム系イオン補足剤)等の公知の製品を使用できる。
(両イオン捕捉剤)
両イオン捕捉剤とは、陽イオン捕捉剤および陰イオン捕捉剤を含むものである。両イオン捕捉剤は、例えば既に説明したジルコニウム化合物、アンチモン化合物、リン酸塩化合物等から適宜選択した陽イオン捕捉剤と、ビスマス化合物、マグネシウム・アルミニウム化合物等から適宜選択した陰イオン捕捉剤との混合物が好ましい。
【0049】
両イオン捕捉剤は、例えばIXEPLAS-A1、IXEPLAS-A2、IXEPLAS-B1、IXE-600(東亞合成株式会社製、酸化アンチモン・酸化ビスマス系イオン捕捉剤)、IXE-633、IXE-6107、IXE-6136(東亜合成社製)等の公知の製品を使用できる。
本発明で用いるイオン捕捉剤は上記のいずれを単独でも2種以上を混合して用いても良い。用途によっては、陰イオン捕捉剤と陽イオン捕捉剤のように捕捉イオン種の異なるイオン捕捉剤を少なくとも各1種以上用いることで安定的なイオン捕捉効果が確保できる場合もある。
【0050】
上記の陽イオン捕捉剤、陰イオン捕捉剤、両イオン捕捉剤の中でも本発明で使用するイオン捕捉剤としては、ジルコニウム系陽イオン捕捉剤、マグネシウム・アルミニウム系陰イオン捕捉剤、ジルコニウム系陰イオン捕捉剤、ジルコニウム系陽イオン捕捉剤とビスマス系陰イオン補足剤との混合物が好ましく、マグネシウム・アルミニウム系陰イオン捕捉剤、ジルコニウム系陰イオン捕捉剤、ジルコニウム系陽イオン捕捉剤とビスマス系陰イオン補足剤との混合物がより好ましく、特にマグネシウム・アルミニウム系陰イオン捕捉剤が好ましい。
【0051】
イオン捕捉剤の配合量は、A成分100重量部に対して、0.0005~1重量部であり、0.001~0.5重量部が好ましく、0.0015~0.3重量部がより好ましく、0.002~0.2重量部がさらに好ましく、0.0025~0.15重量部が特に好ましく、0.003~0.1重量部がもっとも好ましい。配合量が多すぎるとポリカーボネート樹脂の透明性が低下する問題や分子量が低下する問題が生じる。配合量が少なすぎるとイオン捕捉効果が発現しなくなる。
【0052】
イオン捕捉剤の平均粒子径は、0.1~10μmが好ましく、0.2~5μmがより好ましく、0.3~3μmがさらに好ましい。平均粒子径を好ましい範囲とすることにより、樹脂への分散がよくなりイオン捕捉効果が効率よく発現しやすくなる。なお平均粒子径は、メジアン径である。
【0053】
本発明のB成分として用いるイオン捕捉剤の混合方法は、すなわち、ポリカーボネート樹脂組成物を押出ペレット化する際の押出用原料を調製するにあたってのイオン捕捉剤の混合方法は、後述の<ポリカーボネート樹脂組成物の製造について>に示されている方法を含めた一般的な方法が用いられる。
【0054】
B成分はさらに、一旦A成分にて混合希釈して一定濃度にしたものを確保し、これを残りの成分と混合して目的のポリカーボネート樹脂組成物の押出原料パウダーとすることができる。これを押出することにより、目的のポリカーボネート樹脂組成物をペレットとして得ることができる。B成分の希釈はA成分での希釈が好ましいが、イオン捕捉剤の効果を損なわない限り、他の成分での希釈が可能である。
【0055】
例えば、一旦、B成分の割合が1%であるところの「A成分とB成分との混合パウダー」を作成し、すなわち「B成分1%のマスターパウダー(B成分1%のパウダー型マスターバッチ)」を作成し、これを残りの成分と混合して押出原料とし、これを押出しペレット化して目的のポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0056】
また、一旦、B成分の割合が1%であるところの「A成分とB成分との混合パウダー」を作成し、これを押出ペレット化して「B成分1%のマスターペレット(B成分1%のペレット型マスターバッチ)」を作成し、これを残りの成分と混合して押出原料とし、これを押出しペレット化して目的のポリカーボネート樹脂組成物を得ることも好ましい。
【0057】
イオン捕捉剤を含んだ押出原料は、イオン捕捉剤の種類によっては、長時間の押出により押出機の原料ホッパー内部や供給部、押出機スクリューの溶融ゾーンの上流側部位において、金属表面に固着物や薄膜を形成することがあり、それを除去するのに多大な労力を要する場合がある。イオン捕捉剤をパウダーとしてそのまま用いるのではなく、前述のように、殊に一旦「マスターペレット(ペレット型マスターバッチ)」したうえで押出原料とした場合には、前述のような問題を容易に低減できる。
【0058】
さらに、このような、B成分の混合をマスター(A成分等での希釈)経由で行う手法は、B成分以外のその他の添加剤にも適用できる。
<その他の成分>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、イオン捕捉剤のイオン捕捉効果を損なうことがない限り、他の樹脂や充填剤は配合しても差し支えないが、他の樹脂や充填剤の多くは透明性に支障を来すので、その種類や量の選択は、その点を考慮すべきである。
【0059】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記点を考慮しつつ、その熱安定性、意匠性等の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
(I)リン系熱安定剤
本発明の樹脂組成物には、リン系熱安定剤を配合することができる。
【0060】
かかるリン系熱安定剤の具体例としては、亜リン酸(ホスファイト)、ホスホナイト、ホスフィナイト、ホスフィン、リン酸(ホスフェート)、ホスホネート、ホスフィネート、ホスフィンオキサイドなどが例示され、中でもホスファイト、ホスホナイト、ホスフィン、ホスホネート、ホスフェートが好ましく用いられる。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリプロピルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0061】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0062】
ホスフィン化合物としては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましいホスフィン化合物は、トリフェニルホスフィンである。
【0063】
ホスホネート化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0064】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
これらの中でも、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく;ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましく;トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0065】
リン系熱安定剤の含有量は、成形滞留安定性、耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性等の観点から、A成分100重量部に対し、好ましくは0.01~0.1質量部であり、より好ましくは0.01~0.05質量部であり、さらに好ましくは0.015~0.03質量部である。
(II)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
本発明の樹脂組成物には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合することができる。本開示のポリカーボネート樹脂組成物は、成形加工時の色相の悪化が少ない、或いは成形品の高温下での長期間の使用に伴う変色が少ないといった耐乾熱性能を有しているが、さらに高度な耐乾熱性能を付与する場合には、かかる酸化防止剤の配合が有効である。
【0066】
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、及びテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも市販品として入手可能である。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0067】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、耐衝撃性、耐乾熱性等の観点から、A成分100重量部に対し、好ましくは0.01~0.30質量部であり、より好ましくは0.02~0.25質量部であり、さらに好ましくは0.03~0.15質量部である。
(III)離型剤
本発明の樹脂組成物には、例えば、溶融成形時における成形品の金型からの離型性能を向上させるために、脂肪酸エステル系離型剤を配合することができる。
【0068】
脂肪酸エステル系離型剤としては、例えば、(i)炭素原子数1~20の一価アルコールと炭素原子数10~30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのエステル、及び(ii)炭素原子数1~25の多価アルコールと炭素原子数10~30の飽和若しくは不飽和脂肪酸との部分エステル又はフルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の離型剤が使用される。
【0069】
(i)炭素原子数1~20の一価アルコールと炭素原子数10~30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのエステルとしては、例えば、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等が挙げられ、中でもステアリルステアレートが好ましい。
【0070】
(ii)炭素原子数1~25の多価アルコールと炭素原子数10~30の飽和若しくは不飽和脂肪酸との部分エステル又はフルエステルとしては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリントリベヘネート、グリセリントリソルビネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、2-エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステル、ジペンタエリスルトールの部分エステル等が挙げられる。
【0071】
これら脂肪酸エステルの中でも、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリントリステアレートとステアリルステアレートとの混合物が好ましく用いられる。特にグリセリントリステアレートとステアリルステアレートとの混合物が好ましく用いられる。混合重量比(前者/後者)は、好ましくは45~15/55~85、より好ましくは40~15/60~85である。
【0072】
脂肪酸エステル系離型剤の含有量は、耐衝撃性、耐熱性、離型性、耐変色性等の観点から、A成分100重量部に対し、好ましくは0.03~0.5質量部であり、より好ましくは0.08~0.4質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.3質量部である。
【0073】
脂肪酸エステル系離型剤は、当業者に知られている公知の他の離型剤とも併用可能であるが、その場合でも、脂肪酸エステル系離型剤の含有量は、0.02~0.45質量部であることが好ましく、離型剤の主成分(50%以上)であることが好ましい。
【0074】
高温での成形滞留安定性等の観点から、脂肪酸エステル系離型剤中の微量金属不純物、特にスズ(Sn)の含有量は、より少ないことが好ましく、例えば、200ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましく、1ppm以下であることが特に好ましい。離型剤中の各種金属量は、ICP(誘導結合プラズマ)分析法により分析することができる。
(IV)紫外線吸収剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤を配合することができる。かかる紫外線吸収剤としては、例えば2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0075】
また紫外線吸収剤としては例えば2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、メチル-3-[3-tert-ブチル-5-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート-ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0076】
さらに紫外線吸収剤としては例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノール、2-(4,6-ビス-(2,4-ジメチルフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシ-フェノールなどに代表されるヒドロキシフェニルトリアジン系化合物や2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類のクラリアントジャパン社製 Hostavin PR-25やクラリアントジャパン社製 Hostavin B-CAPなどに代表されるマロン酸エステル系化合物を挙げることができる。
【0077】
紫外線吸収剤の含有量は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.01~5重量部であり、より好ましくは0.02~1重量部、さらに好ましくは0.05~0.5重量部、特に好ましくは0.1~0.3重量部である。
(V)光安定剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて光安定剤を配合することができる。かかる光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2n-ブチルマロネート、1,2,3,4-ブタンカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンジカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリ{[6-モルフォリノ-s-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチルピペリジル)イミノ]}、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ]-クロロ-1,3,5-トリアジンとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、ポリメチルプロピル3-オキシ-[4-(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンに代表されるヒンダードアミンが挙げられる。光安定剤の含有量は、A成分100重量部に対して0.01~5重量部が好ましく、より好ましくは0.02~1重量部である。
(VI)ブルーイング剤
本発明の樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂や紫外線吸収剤に起因する成形品の黄色味を打ち消すために、ブルーイング剤を含有することができる。ブルーイング剤としてはポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば特に制限はない。一般的にはアントラキノン系染料は入手が容易であるため好ましい。
【0078】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13(CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業株式会社製「スミプラストバイオレットB」)、一般名Solvent Violet31(CA.No 68210;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンバイオレットD」)、一般名Solvent Violet33(CA.No 60725;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーJ」)、一般名Solvent Blue94(CA.No 61500;商標名 三菱化学株式会社製「ダイアレジンブルーN」)、一般名Solvent Violet36(CA.No 68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」)、一般名Solvent Blue97(商標名バイエル社製「マクロレックスブルーRR」)及び一般名Solvent Blue45(CA.No 61110;商標名 クラリアント社製「ポリシンスレンブルーRLS」)が代表例として挙げられる。ブルーイング剤は、視感透過率等を考慮し、通常0.3~1.2ppmの濃度でポリカーボネート樹脂中に含有することができる。
(VII)蛍光増白剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において蛍光増白剤は、樹脂等の色調を白色あるいは青白色に改善するために用いられるものであれば特に制限はなく、例えばスチルベン系、ベンズイミダゾール系、ベンズオキサゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系化合物等が挙げられる。具体的には例えばCI Fluorescent Brightener 219:1や、イーストマンケミカル社製EASTOBRITE OB-1やハッコールケミカル社製「ハッコールPSR」、などを挙げることができる。ここで蛍光増白剤は、光線の紫外部のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視部に放射する作用を有するものである。蛍光増白剤の含有量はA成分100重量部に対して、0.001~0.1重量部が好ましく、より好ましくは0.001~0.05重量部である。
(VIII)エポキシ基含有化合物
本発明の樹脂組成物には、エポキシ基含有化合物を配合することができる。係るエポキシ基含有化合物は、金型腐食を抑制する目的、漏出イオンを低減する目的や耐湿熱性を向上する目的で配合されるものであり、基本的にエポキシ官能基を有するもの全てが適用できる。
【0079】
好ましいエポキシ基含有化合物の具体例としては、例えば、3,4ーエポキシシクロヘキシルメチルー3’,4’ーエポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロセキサン付加物、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体等が挙げられる。
【0080】
係るエポキシ基含有化合物の含有量としては、耐衝撃性、耐熱性、成形滞留安定性、透明性、金型腐食抑制効果、耐湿熱性向上効果等の観点から、A成分100重量部に対し、好ましくは0.001~0.02質量部であり、より好ましくは0.004~0.15質量部であり、さらに好ましくは0.005~0.1質量部である。
(IX)有機金属塩
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、有機金属塩化合物を配合することができる。かかる有機金属塩は、難燃性を付与するという目的で配合されているものであり、炭素原子数1~50、好ましくは1~40の有機酸のアルカリ(土類)金属塩であることが好ましく、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩であることがより好ましい。この有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩には、炭素原子数1~10、好ましくは2~8のパーフルオロアルキルスルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩の如きフッ素置換アルキルスルホン酸の金属塩、並びに炭素原子数7~50、好ましくは7~40の芳香族スルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩が含まれる。金属塩を構成するアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属である。かかるアルカリ金属の中でも、透明性の要求がより高い場合にはイオン半径のより大きいルビジウムおよびセシウムが好適である一方、これらは汎用的でなくまた精製もし難いことから、結果的にコストの点で不利となる場合がある。一方、リチウムおよびナトリウムなどのより小さいイオン半径の金属は逆に難燃性の点で不利な場合がある。これらを勘案してスルホン酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属を使い分けることができるが、いずれの点においても特性のバランスに優れたスルホン酸カリウム塩が最も好適である。かかるカリウム塩と他のアルカリ金属からなるスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0081】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。ここでパーフルオロアルキル基の炭素数は、1~18の範囲が好ましく、1~10の範囲がより好ましく、更に好ましくは1~8の範囲である。これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。アルカリ金属からなるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩中には、通常少なからず弗化物イオンが混入する。かかる弗化物イオンの存在は難燃性を低下させる要因となり得るので、できる限り低減されることが好ましい。かかる弗化物イオンの割合はイオンクロマトグラフィー法により測定できる。弗化物イオンの含有量は、100ppm以下が好ましく、40ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が特に好ましい。また製造効率的に0.2ppm以上であることが好適である。かかる弗化物イオン量の低減されたパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩は、製造方法は公知の製造方法を用い、かつ含フッ素有機金属塩を製造する際の原料中に含有される弗化物イオンの量を低減する方法、反応により得られた弗化水素などを反応時に発生するガスや加熱によって除去する方法、並びに含フッ素有機金属塩を製造に再結晶および再沈殿等の精製方法を用いて弗化物イオンの量を低減する方法などによって製造することができる。特に有機金属塩系難燃剤は比較的水に溶けやすいこことから、イオン交換水、特に電気抵抗値が18MΩ・cm以上、すなわち電気伝導度が約0.55μS/cm以下を満足する水を用い、かつ常温よりも高い温度で溶解させて洗浄を行い、その後冷却させて再結晶化させる工程により製造することが好ましい。
【0082】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジカリウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1-メトキシナフタレン-4-スルホン酸カルシウム、4-ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6-ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2-フルオロ-6-ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p-ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル-3,3’-ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3,4’-ジスルホン酸ジカリウム、α,α,α-トリフルオロアセトフェノン-4-スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド-4-スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、およびアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。これら芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩では、特にカリウム塩が好適である。これらの芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の中でも、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、およびジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウムが好適であり、特にこれらの混合物(前者と後者の重量比が15/85~30/70)が好適である。
【0083】
スルホン酸アルカリ(土類)金属塩以外の有機金属塩としては、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩などが好適に例示される。硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、およびステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩としては、例えばサッカリン、N-(p-トリルスルホニル)-p-トルエンスルホイミド、N-(N’-ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN-(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。有機金属塩の含有量は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.001~1重量部、より好ましくは0.005~0.5重量部、さらに好ましくは0.01~0.3重量部、特に好ましくは0.03~0.15重量部である。
(X)他の熱安定剤
他の熱安定剤としては、例えば、硫黄系熱安定剤を挙げることができる。硫黄系熱安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ステアリルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。中でもペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ミリスチルチオプロピオネート)、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネートが好ましい。特に好ましくはペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)である。該チオエーテル系化合物は住友化学工業株式会社からスミライザーTP-D(商品名)及びスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に入手できる。
【0084】
これら硫黄系熱安定剤の含有量は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.005~0.2重量部の範囲であり、より好ましくは0.01~0.15重量部の範囲であり、0.02~0.1重量部の範囲が特に好ましい。上記範囲内では、優れた安定効果が得られ、成形時の変色抑制効果が十分であり、耐熱性に優れる。
(XI)その他の成分
上記以外にも本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、成形品の種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、強化充填剤、摺動剤(例えばPTFE粒子)、着色剤、蛍光染料、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、帯電防止剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、光拡散剤、流動改質剤、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、並びにフォトクロミック剤などが挙げられる。
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造について>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分、B成分および任意に他の成分をそれぞれV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行い、その後ベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。別法として、A成分、B成分および任意に他の成分をそれぞれ独立にベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機に供給する方法、A成分および他の成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法、B成分を水または有機溶剤で希釈混合した後、溶融混練機に供給、またはかかる希釈混合物を他の成分と予備混合した後、溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0085】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量は、18,000~50,000の範囲が好ましく、19,000~40,000がより好ましく、20,000~35,000の範囲がさらに好ましく、21,000~30,000の範囲が最も好ましい。粘度平均分子量が上記範囲内であればOA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途として使用する際の機械的強度が十分であり、成形性に優れる。
<成形品の製造>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品を製造するには、任意の方法が採用される。例えば該ポリカーボネート樹脂組成物を押出機、バンバリーミキサーまたはロール等で混練した後、射出成形、押出成形または圧縮成形等従来公知の方法で成形して、成形品を得ることができる。もちろん本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各成分、評価の詳細、各実施例の実施内容は以下のとおりである。
(A成分)
A-1:ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量22,400の芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成株式会社製:パンライト(商標)L-1225WP)
(B成分)
B-1:東亜合成株式会社製IXE-100
〔ジルコニウム(無機)系陽イオン捕捉剤(陽イオン交換体)、粒径1μm〕
B-7:東亜合成株式会社製IXE-700F
〔マグネシウム-アルミニウム(無機)系陰イオン捕捉剤(陰イオン交換体)、粒径1.5μm〕
B-8:東亜合成株式会社製IXE-800
〔ジルコニウム(無機)系陰イオン捕捉剤(陰イオン交換体)、粒径2μm〕
B-B1:東亜合成株式会社製IXEPLAS-B1
〔ジルコニウム系(無機)陽イオン捕捉剤とビスマス系(無機)陰イオン捕捉剤との混合物(両イオン交換体)、粒径0.4μm〕
(その他の成分)
C-1(離型剤):日油株式会社製ユニスターH-476-S
〔ペンタエリスリトール系脂肪酸フルエステル〕
C-2(離型剤):理研ビタミン株式会社製リケマールS-100A
〔グリセリン系ステアリン酸モノエステル〕
C-3(リン系熱安定剤):BASF株式会社製Irgafos168
〔トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト〕
(評価方法)
(1)粘度平均分子量(Mv)
次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに実施例で得られたポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)を溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出した。なお、ポリカーボネート樹脂組成物中のイオン捕捉剤は無機系であるゆえに塩化メチレンに不溶と考えられるため、ここで用いる溶液は不溶分をろ過により除去した溶液である。
【0087】
比粘度(ηSP)=(t-t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
(2)全光線透過率、Haze
各実施例で得たペレットを120℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、株式会社日本製鋼所製のJ75EIII射出成形機を用いてシリンダー温度350℃、金型温度80℃、1分サイクルにて、幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)の3段型プレートを成形し、これを試験片とした。3段型プレートの厚み2mm部における全光線透過率およびヘーズをJIS K7361に従い、日本電色工業株式会社製のNDH-2000を用いて測定した。全光線透過率が高いほど、またヘーズが小さいほど透明性が高いことを示す。
(3)抽出イオン量
各実施例のポリカーボネート樹脂組成物ペレットに関して以下に示す抽出条件にて測定用抽出水サンプルを得て、このサンプルに関する各イオンの濃度をクロマトグラフ(ThermoFisher SCIENTIFIC(旧DIONEX)社製イオンクロマトグラフ ICS-1100)にて測定した。なお、測定用抽出水サンプルは、80℃に加温した超純水50mlにペレット50gを浸漬して24時間放置して得たものである。
[実施例1]
常法によりビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量22,400のポリカーボネート樹脂粉粒体(A-1)100部に、イオン捕捉剤として東亜合成株式会社製IXE-100(B-1)0.02部、離型剤として日油株式会社製ユニスターH-476-S(C-1)0.1部を各々添加し、タンブラーにて十分混合した後に、30mmφのベント式二軸押出成形機により温度280℃、真空度4.7kPaでペレット化した。このペレットに関する評価結果を表1に示した。
[実施例2~13、比較例1~3]
各種成分を表1記載の量で使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。その評価結果を表1に示した。
【0088】
【0089】
(考察)
表1の結果から分かるように、イオン捕捉剤を一定量配合した実施例は、イオン捕捉剤を配合していない比較例1に比べて、各種の抽出イオンの量が低減されていること、ポリカーボネート樹脂組成物の分子量低下もなく、透明性も大きな劣化がないことが確認できた。比較例2や比較例3のように、イオン捕捉剤を多量に用いるとポリカーボネート樹脂組成物の分子量低下が大きく、透明性に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特定の微量不純物イオンの漏出が高度に抑制され、該ポリカーボネート樹脂組成物から得られた透明な成形品は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用である。