(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ロボット、マスタリング治具、マスタリングシステムおよびマスタリング方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
B25J9/10 A
(21)【出願番号】P 2022537998
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021026948
(87)【国際公開番号】W WO2022019262
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020125421
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 光大
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊彦
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-149724(JP,U)
【文献】実開昭55-002683(JP,U)
【文献】特開平06-008185(JP,A)
【文献】特開2012-035371(JP,A)
【文献】特開2014-046399(JP,A)
【文献】特開2016-163001(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106031989(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10-19/00
B23P 19/00
B23Q 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軸を構成し相対移動可能に支持された2つの部材のそれぞれに、移動方向に直交する方向に延びる直線状の溝底において交差する2つの傾斜内面を備えるV字溝、または、移動方向に直交する方向に延びる直線状の稜において交差する2つの傾斜外面を備えるV字突起が、
相互に接触せず、かつ前記関節軸の2つの前記部材が所定の動作位置に配置されたときに、前記溝底どうし、前記稜どうしあるいは前記溝底と前記稜とを
同一平面内に配置する位置に配置されているロボット。
【請求項2】
前記関節軸を複数備え、各該関節軸を構成する2つの前記部材に設けられた前記V字溝または前記V字突起が、共通の形状を有する請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のロボットの一方の前記部材の前記V字溝の2つの前記傾斜内面に同時に密着可能な形状の凸部、または、一方の前記部材の前記V字突起の2つの前記傾斜外面に同時に密着可能な形状の凹部を備え、前記凸部を前記V字溝に、または、前記凹部を前記V字突起に押し当てた状態で、一方の前記部材に対して前記移動方向に位置決めされる第1治具と、
前記ロボットの他方の前記部材の前記V字溝の2つの前記傾斜内面に同時に密着可能な形状の凸部、または、他方の前記部材の前記V字突起の2つの前記傾斜外面に同時に密着可能な形状の凹部を備え、前記凸部を前記V字溝に、または、前記凹部を前記V字突起に押し当てた状態で、他方の前記部材に対して前記移動方向に位置決めされる第2治具とを備え、
前記第1治具または前記第2治具の一方に、前記部材に位置決めされた状態で前記移動方向に直交する方向に延びる基準面が備えられ、前記第1治具または前記第2治具の他方に、前記部材に位置決めされた状態で、前記基準面までの前記移動方向に沿う距離を測定可能な測定器が備えられているマスタリング治具。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のロボットと、
請求項3に記載のマスタリング治具とを備えるマスタリングシステム。
【請求項5】
請求項3に記載のマスタリング治具を用いた、請求項1または請求項2に記載のロボットの前記関節軸のマスタリング方法であって、
マスタリングされた状態の前記関節軸に対して、一方の前記部材に前記第1治具を位置決め状態に配置するとともに、他方の前記部材に前記第2治具を位置決め状態に配置し、前記測定器を用いて、2つの前記部材を第1の動作位置に配置したときの第1距離を測定することと、
測定された前記第1距離を記憶することと、
マスタリングが失われた状態の前記関節軸に対して、一方の前記部材に前記第1治具を位置決め状態に配置するとともに、他方の前記部材に前記第2治具を位置決め状態に配置し、前記測定器を用い、2つの前記部材を第2の動作位置に配置したときの第2距離を測定することと、
測定された前記第2距離と前記第1距離との差分が所定の閾値以下となるまで前記関節軸を動作させることとを含むマスタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボット、マスタリング治具、マスタリングシステムおよびマスタリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節軸を介して相対回転可能に接続された2つの部材のそれぞれに、互いの位置合わせを行うためのケガキ線状のマークが設けられたロボットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
関節軸をマスタリングした状態で、関節軸の2つの部材に設けられたケガキ線状のマークを一致させておくことにより、関節軸のモータあるいは減速機の交換後に、マークにより関節軸を簡易的に原点位置に復元させることができる。
【0003】
また、基準平面を有する基部に治具を取り付け、回転軸回りに回転可能に連結された可動部の可動平面と基準平面との距離を測定器により測定するマスタリング方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-251365号公報
【文献】特開2014-46399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ケガキ線状のマークは、原点位置の簡易的な復元には有効であるが、正確に復元することは困難である。
一方、特許文献2のような治具および測定器によれば原点位置の正確な復元が可能であるが、ケガキ線のような簡易的な復元のためのマークは別途設ける必要があるとともに、治具を精度よく取り付けるための部品の加工にコストおよび手間がかかる。
したがって、原点位置の簡易的な復元および正確な復元の両方を簡易かつ低コストに実現することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、関節軸を構成し相対移動可能に支持された2つの部材のそれぞれに、移動方向に直交する方向に延びる直線状の溝底において交差する2つの傾斜内面を備えるV字溝、または、移動方向に直交する方向に延びる直線状の稜において交差する2つの傾斜外面を備えるV字突起が、前記関節軸の2つの前記部材が所定の動作位置に配置されたときに、前記溝底どうし、前記稜どうしあるいは前記溝底と前記稜とを一致させる位置に配置されているロボットである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットの一例を示す全体構成図である。
【
図2】
図1のロボットの第2の回転関節軸に設けられた2つのマスタリング用座面の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2の旋回胴に設けられたマスタリング用座面と、そのマスタリング用座面に位置決めされる第1治具の一例とを示す斜視図である。
【
図4】
図2のアームに設けられたマスタリング用座面に位置決めされる第2治具のブラケットの一例を示す斜視図である。
【
図5】
図2のアームに設けられたマスタリング用座面と、そのマスタリング用座面に位置決めされる第2治具の一例とを示す斜視図である。
【
図6】
図2の2つのマスタリング用座面に位置決め状態に配置された本開示の一実施形態に係るマスタリング治具の一例を示す斜視図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係るマスタリング方法の一部を説明するフローチャートである。
【
図8】
図7のマスタリング方法における距離測定処理を説明するフローチャートである。
【
図9】
図7のマスタリング方法の一部を説明するフローチャートである。
【
図10】
図2のマスタリング用座面の変形例を示す斜視図である。
【
図11】
図10の2つの用座面に位置決め状態に配置された
図6のマスタリング治具の一例を示す斜視図である。
【
図12】
図3のマスタリング用座面および第1治具の変形例を示す斜視図である。
【
図13】
図5のマスタリング用座面および第2治具の変形例を示す斜視図である。
【
図14】
図12の第1治具または
図13の第2治具に設けられる凹部の変形例を示す斜視図である。
【
図15】
図3の第1治具または
図5の第2治具に設けられる凸部の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態に係るロボット1、マスタリング治具50、マスタリングシステムおよびマスタリング方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るマスタリングシステムは、ロボット1とマスタリング治具50とを備えている。
【0009】
本実施形態に係るロボット1は、例えば、
図1に示されるように、6つの回転関節軸(関節軸)を備える垂直多関節型ロボットである。ロボット1は、床面に設置されるベース(部材)2と、鉛直な第1軸線A回りにベース2に対して回転可能に支持された旋回胴(部材)3と、水平な第2軸線B回りに旋回胴3に対して回転可能に支持された第1アーム(部材)4とを備えている。また、ロボット1は、第2軸線Bに平行な第3軸線C回りに第1アーム4に対して回転可能に支持された第2アーム(部材)5と、第2アーム5の先端に配置された3軸の手首ユニット6とを備えている。
【0010】
手首ユニット6は、第2アーム5に対して、第3軸線Cに直交する平面内に配置される第4軸線D回りに回転可能に支持された第1手首要素(部材)7を備えている。また、手首ユニット6は、第1手首要素7に対して、第4軸線Dに直交する第5軸線E回りに回転可能に支持された第2手首要素(部材)8を備えている。さらに、手首ユニット6は、第2手首要素8に対して、第5軸線Eに直交し第3軸線Cと交差する第6軸線F回りに回転可能に支持された第3手首要素(部材)9を備えている。
【0011】
各回転関節軸は相対回転可能な2つの部材を備えている。例えば、第1の回転関節軸は、相対回転可能なベース2と旋回胴3とを備えている。また、第2の回転関節軸は、相対回転可能な旋回胴3と第1アーム4とを備えている。また、第3の回転関節軸は、相対回転可能な第1アーム4と第2アーム5とを備えている。
【0012】
第4の回転関節軸は、相対回転可能な第2アーム5と第1手首要素7とを備えている。第5の回転関節軸は、相対回転可能な第1手首要素7と第2手首要素8とを備えている。そして、第6の回転関節軸は、相対回転可能な第2手首要素8と第3手首要素9とを備えている。
【0013】
各回転関節軸を構成する2つの部材2,3,4,5,7,8,9には、それぞれ、2つの部材2,3,4,5,7,8,9の境界に隣接する位置に、マスタリング用座面10が設けられている。各回転関節軸におけるマスタリング用座面10,20は同様であるため、ここでは、第2の回転関節軸を構成している旋回胴3および第1アーム4にそれぞれ設けられたマスタリング用座面10,20を例に挙げて説明する。
【0014】
図2に示されるように、旋回胴3のマスタリング用座面10は、第1アーム4との境界に隣接し、第2軸線Bを中心とする円筒状の外周面に設けられている。また、第1アーム4のマスタリング用座面20は、旋回胴3との境界に隣接し第2軸線Bに直交する側面に、旋回胴3のマスタリング用座面10よりも第2軸線Bから径方向外方に離れた位置に設けられている。
【0015】
旋回胴3のマスタリング用座面10は、
図3に示されるように、第2軸線Bを中心とする円の接線方向に延びる平面からなる座面部11と、座面部11の一部を切り欠いて形成されたV字溝(凹部)12とを備えている。V字溝12は、第2軸線Bに平行に延びる直線状の溝底12aにおいて所定の角度、例えば、90°の角度をなして交差する2つの平面からなる傾斜内面13を備えている。旋回胴3に対する第1アーム4の移動方向は、第2軸線Bを中心とする円の接線方向であり、V字溝12の溝底12aは、第1アーム4の移動方向に直交する方向に延びている。
【0016】
また、第1アーム4のマスタリング用座面20は、
図5に示されるように、第2軸線Bに直交する平面からなる座面部21と、座面部21の一部を切り欠いて形成されたV字溝(凹部)22とを備えている。V字溝22は、第2軸線Bに直交する方向に延びる直線状の溝底22aにおいて所定の角度、例えば、90°の角度をなして交差する2つの平面からなる傾斜内面23を備えている。V字溝22の溝底22aは、旋回胴3に対する第1アーム4の移動方向に直交する方向に延びている。
【0017】
旋回胴3のマスタリング用座面10は旋回胴3を構成する部材の機械加工時に、第1アーム4のマスタリング用座面20は第1アーム4を構成する部材の機械加工時に、それぞれ、座面部11,21とV字溝12,22とを機械加工することにより形成されている。旋回胴3および第1アーム4のマスタリング用座面10,20は、設計値において、旋回胴3に対して第1アーム4が原点位置、例えば、
図1の位置に配置されたときに、V字溝12,22の溝底12a,22aどうしが同一平面内に配置される位置に形成されている。
【0018】
次に、本実施形態に係るマスタリング治具50について、図面を参照して以下に説明する。
マスタリング治具50は、各回転関節軸を構成する2つの部材2,3,4,5,7,8,9の内、一方の部材2,3,4,5,7,8のマスタリング用座面10に位置決め状態に配置される第1治具60と、他方の部材3,4,5,7,8,9のマスタリング用座面20に位置決め状態に配置される第2治具70とを備えている。また、マスタリング治具50は、第1治具60または第2治具70に固定されたダイヤルゲージ(測定器)80を備えている。
【0019】
ここでも、第2の回転関節軸を構成している旋回胴3と第1アーム4とをマスタリングするためのマスタリング治具50を例に挙げて説明する。
第1治具60は、
図3に示されるように、表面に基準平面(基準面)60aを有する平板状の本体部61と、本体部61の一端に本体部61に直交して設けられた平板状の位置決め部62とを備えている。
【0020】
本体部61とは反対側に位置する位置決め部62の表面には、マスタリング用座面10の座面部11に押し当てられる平面からなる押し当て面63と、押し当て面63の中央を部分的に隆起させたV字突起(凸部)64とを備えている。V字突起64は、直線状の稜65において所定の角度、例えば、90°の角度をなして交差する2つの平面からなる傾斜外面66を備え、マスタリング用座面10のV字溝12と相補的な形状を有している。すなわち、V字突起64は、マスタリング用座面10のV字溝12に挿入されたときに、2つの傾斜外面66がV字溝12の2つの傾斜内面13に同時に密着させられる。
基準平面60aは、押し当て面63に直交しかつV字突起64の稜65に平行に配置されている。
【0021】
第1治具60のV字突起64を旋回胴3のマスタリング用座面10のV字溝12に挿入し、押し当て面63を座面部11に押し当てると、V字突起64の2つの傾斜外面66が、V字溝12の2つの傾斜内面13に同時に密着し、かつ、押し当て面63が座面部11に密着する。この状態で、第1治具60に設けられている基準平面60aは、座面部11に直交しかつ第2軸線Bに平行な方向に延びる位置に位置決めされた状態に配置される。
【0022】
V字突起64をV字溝12に噛み合わせることにより、第1治具60は、旋回胴3のマスタリング用座面10に対してV字溝12の溝底12aに沿う方向のみの移動が許容される。これにより、第1治具60の基準平面60aが旋回胴3に対して位置決めされ、基準平面60aの位置は、
図6に矢印Xにより示されるように、第1治具60をV字溝12に沿って第2軸線Bに沿う方向に移動しても変動しない。
【0023】
第2治具70は、
図4および
図5に示されるように、第1アーム4に設けられたマスタリング用座面20に位置決めされるブラケット71と、ブラケット71の貫通孔71aに固定されるダイヤルゲージ80とを備えている。
ブラケット71は、第1アーム4に設けられたマスタリング用座面20に位置決めするための位置決め部72を備えている。位置決め部72は、第1治具60の位置決め部62と同様の形状を有し、マスタリング用座面20の座面部21に押し当てられる平面状の押し当て面73と、押し当て面73の一部を隆起させた、マスタリング用座面20のV字溝22と相補的な形状のV字突起(凸部)74とを備えている。
【0024】
ダイヤルゲージ80は、プランジャ81を進退させる方式のものであり、V字突起74の稜75に直交する平面に沿って、押し当て面73に平行な方向に、プランジャ81を進退させるようブラケット71に固定される。
図5において符号82は、ダイヤルゲージ80をブラケット71に取り付ける取付金具、符号83は取付ネジである。ダイヤルゲージ80は、ブラケット71からのプランジャ81の先端の突出量が所定量となる位置でリセットされてもよい。
【0025】
V字突起74をV字溝22に噛み合わせることにより、第2治具70は、第1アーム4のマスタリング用座面20に対してV字溝22の溝底22aに沿う方向のみの移動が許容される。これにより、第2治具70のダイヤルゲージ80が第1アーム4に対して位置決めされる。そして、第1治具60が精度よく位置決めされていれば、
図6に矢印Yにより示されるように、第2治具70をV字溝22に沿って第2軸線Bに直交する方向に移動しても、ダイヤルゲージ80のプランジャ81先端の突出量は変動しない。
【0026】
旋回胴3のマスタリング用座面10に第1治具60を押し当て、第1アーム4のマスタリング用座面20に第2治具70を押し当てて、旋回胴3に対する第1アーム4の第2軸線B回りの動作位置を調整すると、ダイヤルゲージ80のプランジャ81の先端が基準平面60aに突き当たる。これにより、ダイヤルゲージ80によって旋回胴3と第1アーム4との相対位置関係(距離)を測定することができる。
【0027】
次に、本開示の一実施形態に係るマスタリング方法について説明する。
本実施形態に係るマスタリング方法は、まず、ロボット1がマスタリングされている状態で、上記マスタリング治具50を用いて第1距離を測定することを含む。第1距離は、各回転関節軸の2つの部材2,3,4,5,7,8,9が第1の動作位置に配置されているときにダイヤルゲージにより測定される距離である。
【0028】
第1距離の測定を、例えば、第2の回転関節軸を例に挙げて説明する。
図7に示されるように、マスタリングされている状態で(ステップS0)、旋回胴3に対する第1アーム4の回転角度位置を調整することにより、旋回胴3と第1アーム4とを第1の動作位置、例えば、原点位置に配置する(ステップS1)。この状態で、距離測定処理(ステップS2)を実施する。
【0029】
ステップS3の距離測定処理工程では、
図8に示されるように、旋回胴3のマスタリング用座面10に第1治具60を位置決め状態に配置し(ステップS21)、第1アーム4のマスタリング用座面20に第2治具70を位置決め状態に配置する(ステップS22)。原点位置においては、
図2に示されるように、旋回胴3のマスタリング用座面10のV字溝12の溝底12aと、第1アーム4のマスタリング用座面20のV字溝22の溝底22aとが同一平面上に並ぶ。
【0030】
旋回胴3と第1アーム4とが第1の動作位置に配置されると、ダイヤルゲージ80のプランジャ81の先端が第1治具60の基準平面60aによって押され、ダイヤルゲージ80によって第1距離が測定される(ステップS23)。測定された第1距離は記憶しておく(ステップS3)。
【0031】
次に、第2の回転関節軸を駆動しているモータあるいは減速機を交換することにより、マスタリングが失われた状態で(ステップS10)、
図9に示されるように、ステップS1と同様の方法によって、第2距離を測定する。すなわち、旋回胴3に対する第1アーム4の回転角度位置を調整することにより、旋回胴3と第1アーム4とを第2の動作位置、例えば、ほぼ原点位置に配置する(ステップS11)。
【0032】
この状態で、第2距離の距離測定処理(ステップS2)を実施する。
そして、測定された第2距離と記憶しておいた第1距離との差分を算出し(ステップS12)、差分が所定の閾値以下であるか否かを判定する(ステップS13)。
【0033】
差分が所定の閾値よりも大きい場合には、ステップS11からの工程を繰り返す。差分が所定の閾値以下となった場合にはマスタリングを終了する。
【0034】
このように、本実施形態に係るロボット1、マスタリング治具50、マスタリングシステムおよびマスタリング方法によれば、各回転関節軸を構成する2つの部材2,3,4,5,7,8,9にそれぞれV字溝12,22を有するマスタリング用座面10,20を設けている。これにより、各V字溝12,22に第1治具60および第2治具70のV字突起64,74を密着させるだけで、第1治具60および第2治具70を各部材2,3,4,5,7,8,9に精度よく位置決め状態に配置し、精度よくマスタリングを行うことができる。
【0035】
すなわち、ボルトやピンによる固定を伴わずに、V字溝12,22によって第1治具60および第2治具70を各部材2,3,4,5,7,8,9に位置決めできる。V字溝12,22を有するマスタリング用座面10,20の加工は、ネジ孔およびピン孔の加工よりも簡易に行うことができる。また、ボルト締結あるいはピンの打ち込み作業を伴わず、第1治具60および第2治具70を各部材2,3,4,5,7,8,9に取り付ける作業も容易に行うことができるという利点がある。
【0036】
また、本実施形態においては、V字溝12,22にV字突起64,74を密着させるのと同時に、マスタリング用座面10,20の座面部11,21に第1治具60および第2治具70の押し当て面63,73を密着させている。第1治具60および第2治具70の位置決めは、V字溝12,22とV字突起64,74との密着のみで行うことができる。これに加えて、押し当て面63,73および座面部11,21の密着を補助的に利用することにより、押し当て面63,73が座面部11,21から離れない程度に指で押さえるだけで、簡易に第1治具60の基準平面60aの倒れおよび第2治具70の位置ずれを防止できるという利点がある。
【0037】
また、本実施形態に係るロボット1によれば、上記機能を有するV字溝12,22を有するマスタリング用座面10,20を備えている。したがって、
図2に示されるように、2つの部材2,3,4,5,7,8,9のV字溝12,22の溝底12a,22aが同一平面内に配置されたことを目視あるいはカメラにより確認することにより、簡易にマスタリングすることができる。すなわち、V字溝12,22の溝底12a,22aをケガキ線として利用することができるという利点がある。
【0038】
なお、本実施形態においては、マスタリング用座面10,20、マスタリング治具50およびマスタリング方法について、第2の回転関節軸を例に挙げて説明したが、他の回転関節軸においても同様のマスタリング用座面10,20、マスタリング治具50およびマスタリング方法を適用できる。
すなわち、上記実施形態においては、
図2に示されるように、第2の回転関節軸を構成する旋回胴3の第2軸線B回りの外周面および第1アーム4の第2軸線Bに直交する側面に、相互に直交する平面に沿って延びるV字溝12,22を有するマスタリング用座面10,20を設けた。
【0039】
しかし、マスタリング用座面10,20は、
図2のような配置のみならず、
図10のような配置も可能である。例えば、
図1に示されるロボット1では、第1の回転関節軸を構成するベース2と旋回胴3との間、および、第5の回転関節軸を構成する第1手首要素7と第2手首要素8との間(図示略)に
図2のマスタリング用座面10,20を設けることができる。
【0040】
一方、第3の回転関節軸を構成する第1アーム4と第2アーム5との間、第4の回転関節軸を構成する第2アーム5と第1手首要素7との間および、第6の回転関節軸を構成する第2手首要素8と第3手首要素9との間のマスタリング用座面10,20は
図10の通りとなる。
図10のマスタリング用座面10,20は、両方とも、軸線C,D,F回りの円筒面に設けられ、原点位置に配置されたときに、V字溝12,22どうしが同一平面上に一直線上に、または、平行に配置される。
【0041】
このようなマスタリング用座面10,20が設けられた回転関節軸についても、
図11に示されるように、
図6と同じマスタリング治具50を用いてマスタリングを行うことができる。すなわち、複数の回転関節軸のマスタリングにおいて同じマスタリング治具50を用いることができ、複数種類のマスタリング治具を用意しておく必要がないという利点がある、
【0042】
また、本実施形態においては、各回転関節軸を構成する2つの部材2,3,4,5,7,8,9の外面に、機械加工によってマスタリング用座面10,20を形成したが、マスタリング用座面10,20を有する部材2,3,4,5,7,8,9を別部材として製造し、各部材2,3,4,5,7,8,9に位置決め状態に固定してもよい。これにより、マスタリング用座面10,20が破損した場合に、マスタリング用座面10,20を有する部材2,3,4,5,7,8,9を交換するだけで、回転関節軸を構成する部材2,3,4,5,7,8,9を交換せずに済むという利点がある。
【0043】
また、本実施形態においては、V字溝12,22にV字突起64,74を密着させるのと同時に、座面部11,21に押し当て面63,73を密着させることとしたが、基準平面60aおよびダイヤルゲージ80を位置決めするためには押し当て面63,73はなくてもよい。座面部11に押し当て面63,73を密着させることにより、基準平面60aおよびダイヤルゲージ80の倒れを防止して安定的な位置決めを補助することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、マスタリング用座面10,20にV字溝12,22を設け、マスタリング治具50にV字突起64,74を設けたが、
図12および
図13に示されるように、逆でもよい。また、一方のマスタリング用座面10,20にV字溝12,22、他方のマスタリング用座面10,20にV字突起64,74を設けてもよい。
【0045】
また、マスタリング用座面10,20に設けるV字溝12,22の溝底12a,22aおよびV字突起64,74の稜65,75は、ケガキ線として機能させるために必要であるが、マスタリング治具50におけるV字突起64,74の稜65,75またはV字溝12,22の直線状の溝底12a,22aは必ずしも必要ではない。
例えば、
図14に示されるように、凹部30は、V字突起64,74を収容でき、かつ、移動方向に直交する方向に延びる直線状の仮想的な溝底31において交差する2つの傾斜内面32を備えていればよい。
また、
図15に示されるように、凸部40は、移動方向に直交する方向に延びる直線状の仮想的な稜41において交差する2つの傾斜外面42を備えていればよい。
【0046】
また、本実施形態においては、6つの回転関節軸を有するロボット1に適用する場合を例示したが、回転関節軸のみならず直動関節軸のみあるいは回転関節軸と直動関節軸とが混在するロボットに適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ロボット
2 ベース(部材)
3 旋回胴(部材)
4 第1アーム(部材)
5 第2アーム(部材)
7 第1手首要素(部材)
8 第2手首要素(部材)
9 第3手首要素(部材)
12,22 V字溝(凹部)
12a,22a,31 溝底
13,23,32 傾斜内面
30 凹部
40 凸部
50 マスタリング治具
60 第1治具
60a 基準平面(基準面)
70 第2治具
64,74 V字突起(凸部)
65,75,41 稜
66,42 傾斜外面
80 ダイヤルゲージ(測定器)