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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ロボット制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022539497
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027744
(87)【国際公開番号】W WO2022025060
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020127989
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦彦
【審査官】仁木 学
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-031665(JP,A)
【文献】特開2020-040165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動軸を有するロボットの末端の基準点の実際の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記ロボットに対する指令値から前記基準点の正確な位置を算出するために用いられる複数の誤差パラメータを記憶するパラメータ記憶部と、
前記誤差パラメータごとに、その変化量に対する前記基準点の計算上の位置の変化量の大きさを表す感度値を算出する感度算出部と、
前記感度値に基づいて、補正対象とする前記誤差パラメータを選定する対象選定部と、
前記補正対象以外の前記誤差パラメータが前記基準点の位置に影響しないものとして、前記ロボットに対する指令値及び前記位置情報に基づいて前記補正対象の前記誤差パラメータを補正するパラメータ補正部と、
を備え
前記位置情報取得部は、前記指令値から算出される前記基準点の位置と、オペレータが前記基準点を前記指令値によって位置決めされた位置から移動させた量と、に基づいて、前記基準点の実際の位置を算出する、ロボット制御装置。
【請求項2】
複数の駆動軸を有するロボットの末端の基準点の実際の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記ロボットに対する指令値から前記基準点の正確な位置を算出するために用いられる複数の誤差パラメータを記憶するパラメータ記憶部と、
前記誤差パラメータごとに、その変化量に対する前記基準点の計算上の位置の変化量の大きさを表す感度値を算出する感度算出部と、
前記感度値に基づいて、補正対象とする前記誤差パラメータを選定する対象選定部と、
前記補正対象以外の前記誤差パラメータが前記基準点の位置に影響しないものとして、前記ロボットに対する指令値及び前記位置情報に基づいて前記補正対象の前記誤差パラメータを補正するパラメータ補正部と、
前記ロボットを用いて加工を行うための加工プログラムに、前記位置情報取得部により前記位置情報を取得するための命令を付加した校正プログラムを生成するプログラム生成部と、
を備え
前記校正プログラムに従って、前記加工を行いながら前記誤差パラメータの算出を行う、ロボット制御装置。
【請求項3】
複数の駆動軸を有するロボットの末端の基準点の実際の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記ロボットに対する指令値から前記基準点の正確な位置を算出するために用いられる複数の誤差パラメータを記憶するパラメータ記憶部と、
前記誤差パラメータごとに、その変化量に対する前記基準点の計算上の位置の変化量の大きさを表す感度値を算出する感度算出部と、
前記感度値に基づいて、補正対象とする前記誤差パラメータを選定する対象選定部と、
前記補正対象以外の前記誤差パラメータが前記基準点の位置に影響しないものとして、前記ロボットに対する指令値及び前記位置情報に基づいて前記補正対象の前記誤差パラメータを補正するパラメータ補正部と、
を備え
前記対象選定部は、前記誤差パラメータ毎に設定される重みと、前記感度値とに基づいて、前記誤差パラメータを順位付けする、ロボット制御装置。
【請求項4】
前記ロボットに対して行った保守作業の内容に応じて前記重みを決定する重み決定部をさらに備える、請求項に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記誤差パラメータを用いて計算される前記基準点の位置と前記位置情報が示す前記基準点の位置とのずれが所定範囲内であるか否かを判定する評価部をさらに備え、
前記感度算出部、前記対象選定部及び前記パラメータ補正部は、前記位置情報ごとに演算を行う、請求項1から4のいずれかに記載のロボット制御装置。
【請求項6】
前記指令値から算出される前記基準点の位置と前記位置情報が示す前記基準点の位置とのずれが、所定範囲内であるか否かを判定する評価部を備え、前記感度算出部、前記対象選定部及び前記パラメータ補正部は、前記位置情報ごとに演算を行い、前記評価部により前記ずれが前記所定範囲内であると判定された場合に、処理を停止する、請求項1から4のいずれかに記載のロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の駆動軸を備える多関節型ロボットでは、駆動軸間の距離(リンクの長さ)と駆動軸の角度位置とに基づいて、ロボットの末端の基準点の位置が算出される。しかしながら、実際のロボットでは、様々な要因により、駆動軸の角度指令値から算出される基準点の位置と、基準点が実際に位置決めされる位置との間に誤差が生じ得る。このため、ロボットへの指令値に対する基準点の理論上の位置と実際の位置との誤差を複数の誤差パラメータを用いて補償することが検討されている。
【0003】
多関節ロボットは、多数の誤差要因を有しており、それぞれの誤差要因について誤差パラメータを定めると、相当数の誤差パラメータが必要となる。また、各誤差パラメータは、独立して作用するものではなく、相互に関連して最終的な位置決め誤差に影響する。このような多数の誤差パラメータを全て未知変数とすると、極めて多くのロボットの姿勢について位置決め誤差を実測しなければ、誤差パラメータの値を算出することができない。そこで、多数の誤差パラメータの中から、予め設定された複数のパラメータ群の中から一群の誤差パラメータを選定することにより比較的少ない情報に基づいて誤差パラメータを算出し、算出した誤差パラメータが適切かどうかを実際の位置決め誤差に基づいて評価する処理を繰り返し行うことも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-40165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、予め設定されるパラメータ群の適否が、算出される誤差パラメータの精度に大きく影響する。ロボットの使用態様により基準点の位置を正確に算出するために、寄与が大きい誤差パラメータは変化する。そのため、優先的に補正すべきパラメータ群を予め定めることは容易ではない。このため、より簡単にロボットの位置決め精度を向上できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るロボット制御装置は、複数の駆動軸を有するロボットの末端の基準点の実際の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、前記ロボットに対する指令値から前記基準点の正確な位置を算出するために用いられる複数の誤差パラメータを記憶するパラメータ記憶部と、前記誤差パラメータごとに、その変化量に対する前記基準点の計算上の位置の変化量の大きさを表す感度値を算出する感度算出部と、前記感度値に基づいて、前記パラメータ補正部が補正対象とする前記誤差パラメータを選定する対象選定部と、前記補正対象以外の前記誤差パラメータが前記基準点の位置に影響しないものとして、前記ロボットに対する指令値及び前記位置情報に基づいて前記補正対象の前記誤差パラメータを補正するパラメータ補正部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るロボット制御装置によれば、比較的簡単にロボットの位置決め精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示のロボット制御装置を備えるロボットシステムの構成を示す図である。
図2】ロボットの駆動軸の位置と基準点の姿勢との関係を説明するモデルを示す図である。
図3図1のロボット制御装置における誤差パラメータの補正の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本開示のロボット制御装置1を備えるロボットシステムSの構成を示す図である。
【0010】
ロボットシステムSは、ロボット制御装置1に従って動作するロボット2により、ワークWを加工する。ロボットシステムSは、ロボット制御装置1と、ロボット制御装置1に制御されるロボット2と、ロボット2の末端の基準点の3次元位置を測定する3次元計測装置3と、を備える。ロボット2は、複数の駆動軸を有する。ロボット2の末端には、ツールTを保持する加工ヘッド21が配設される。
【0011】
ロボット制御装置1は、パラメータ記憶部11と、指令値生成部12と、位置情報取得部13と、感度算出部14と、対象選定部15と、パラメータ補正部16と、評価部17と、重み決定部18と、プログラム生成部19と、を備える。
【0012】
ロボット制御装置1は、CPU、メモリ等を有するコンピュータ装置に適切な制御プログラムを導入することによって実現することができる。前記各構成要素は、ロボット制御装置1の機能を類別したものであって、その機能及びプログラム構造において明確に区分できるものでなくてもよい。
【0013】
パラメータ記憶部11は、ロボット2の各駆動軸のあるべき位置又は速度を指示する指令値から、ロボット2の基準点の正確な位置を算出するために用いられる複数の誤差パラメータを記憶する。誤差パラメータは、ロボット2の各駆動軸の角度及び駆動軸間の距離等によって算出される基準点の理論上の位置(理論位置)と、ロボット2の機械的な誤差によって生じる基準点の実際の位置(実際位置)との差を補償するために設定される。
【0014】
基準点の理論上の位置は、ロボットの順運動学により算出される。隣り合う関節軸間の相対関係を表すためのDenavit-Hartenbergパラメータ(D-Hパラメータ)を用いて計算することが有名である。図2に示す例では、xi-1軸からx軸の位置(x,y,z)を算出するにあたり、まずzi-1軸回りにθ回転し、次にzi-1軸に沿ってd並進し、次に回転後のxi-1軸に沿ってa並進し、次にx軸まわりにα回転し、次にy軸まわりにβ回転することで、x軸の位置を得る。上記θ,d,a,α,βの意味は以下の通りで、各値はロボットの設計値として与えられえる。
θ: xi-1軸からx軸までの回転角(zi-1軸まわり)
d: 第i-1座標系原点から、zi-1軸とxi-1軸との交点までの距離
a: zi-1軸とx軸との交点から、第i座標系原点までの距離
α: zi-1軸からz軸までの回転角(x軸まわり)
β: zi-1軸からz軸までの回転角(y軸まわり)
【0015】
しかしながら設計値と実際のロボットでは誤差が生じており、上記5つの設計値に対して5つの誤差パラメータを要する。θは、各軸を駆動するエンコーダ出力に対する回転量であるが、その基準位置が補正要素である。結局のところ、6軸多関節ロボットでは、6軸×5=30個の誤差パラメータがDHパラメータの補正に必要である。
【0016】
さらに、各軸のx,y,z軸まわりに生じる重力トルクに対する、各軸の撓みを補正する場合、各軸に3つのバネ定数を誤差パラメータとして持ち、重力トルク×バネ定数を上記θ,α,βに補正量として加算する。
【0017】
さらに、各軸を駆動するエンコーダ出力に対する回転量は、エンコーダ出力(x)に対する回転量(y)の比(a)を誤差パラメータとして持つ(y=ax)、或いはエンコーダ出力と回転量の関係を角度伝達誤差のモデルとして定式化(y=ax+bcos(x))し、角度伝達に関する複数の誤差パラメータを持ち、上記θ,α,βに加算して補正することも考えられる。
【0018】
指令値生成部12は、プログラムに従って、工具Tを所定の軌跡に沿って移動させてワークWを加工するよう、ロボット2の各駆動軸のあるべき位置又は速度を指示する指令値を生成する。つまり、指令値生成部12は、パラメータ記憶部11に記憶されている誤差パラメータを用いて算出される位置が、プログラムにおいて要求される位置となるような指令値を生成する。
【0019】
位置情報取得部13は、ロボット2の末端の基準点の実際の位置として測定される位置(測定位置)を示す位置情報を取得する。典型的には、位置情報は、3次元計測装置3から取得され得る。また、位置情報は、オペレータによる正しい位置の教示動作から算出することによって取得されてもよい。具体的には、位置情報取得部13は、指令値から誤差パラメータを用いて算出される基準点の計算上の位置(計算位置)と、オペレータが基準点を指令値によって位置決めされた位置から移動させた量とに基づいて、基準点の測定位置を算出してもよい。
【0020】
感度算出部14は、誤差パラメータごとに、その変化量に対する基準点の計算上の位置の変化量の大きさ(感度)を表す感度値を算出する。感度値は、独立した評価点であってもよく、順位であってもよく、感度をグループ分けしたランク値であってもよい。
【0021】
前述の誤差パラメータを要素とするベクトルをqとすると、ロボット先端部の三次元位置を示すベクトルpは、前述の誤差モデルを考慮した関数fを用いて次のように表すことができる。
p=f(q)
【0022】
ロボット先端部の指令位置と測定位置のずれ量を示すベクトルΔpは、各誤差パラメータの微小変動の線形結合の和で近似できる。なお、JAはヤコビアンである。
Δp=(∂p/∂q)・Δq=JA・Δq
【0023】
レーザトラッカは3次元の測定であるから、一つの計測姿勢から3つの方程式が成り立つ。これらを複数の計測姿勢に拡張すると、これらに対応したズレ量を示すベクトルΔrとヤコビアンDが得られ、次のように表すことができる。
Δr=D・Δq
【0024】
Δrを最小とする繰り返し推定問題を解くことで、誤差パラメータを同定するのが一般的である。
【0025】
方程式の数をN、誤差パラメータの数をM個とすると、上記ヤコビアンDは、以下のように与えられる。
【0026】
【数1】
【0027】
Dのそれぞれの要素は、n番目の計測において、誤差パラメータを微小変化させた際の、先端位置のずれ量を表している。Dの列ベクトルが各誤差パラメータに対応する感度ベクトルである。この感度ベクトルの要素の絶対値の最大値や、最大値―最小値、或いはベクトルの大きさを感度の指標として用いることができる。例えば、J1軸のZ軸回りのバネが1列目の誤差パラメータであった場合、各計測姿勢においてJ1軸のZ軸トルクの変化が非常に微小な場合、1列目の絶対値の最大値、最大値―最小値、或いはベクトルの大きさは、他の列に比べて非常に小さな値になる。このような場合は、誤差パラメータ群から除外する。
【0028】
方程式の数が未知数の数より多い場合、一般的な最小二乗問題は、[D]{p}={q}を[D][D]{p}=[D]{q}と変換し、次の式を得ることによって解くことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
[D][D]はM×Mの行列になる。この列ベクトルを感度ベクトルとして定義し、指標化してもよい。
【0031】
さらに、[D][D]の各列ベクトルの内積をとることで、誤差パラメータ間の従属度を判定することができる。例えば、J1軸のZ軸回りのバネが1番目の誤差パラメータで、2番目がJ1軸のエンコーダ値と回転角の比に関する誤差パラメータであった場合、各計測姿勢においてエンコーダ値の変化と、J1軸のZ軸回りのトルクの変化が比例関係にあった場合、1列目と2列目のベクトルの内積は1になる。この場合も誤差パラメータ群から除外する方がよい。
【0032】
或いは、[D][D]の、最大固有値と最小固有値の比が、ある一定値になるまで固有値の小さな誤差パラメータを、誤差パラメータ群から除外するとしてもよい。
【0033】
ヤコビアンDは、測定により位置情報を得る前に計算することができるので、測定開始前に事前にどの誤差パラメータが計算されるかわかる。例えば計算可能な誤差パラメータが非常に少ない場合、期待できる実現精度は低いと考えられ、その場合は測定する姿勢数を増やす検討を事前に実施することができる。
【0034】
対象選定部15は、感度算出部14が算出した感度値に基づいて、パラメータ補正部16が算出対象とする誤差パラメータを選定する。対象選定部15は、感度値が上位の一定数の誤差パラメータを選出してもよく、感度が一定以上であるものを選出してもよく、例えば加工プログラム等に基づいて得られる位置情報の数に応じて選出する誤差パラメータの数を増減してもよい。
【0035】
対象選定部15は、誤差パラメータ毎に設定される重みと、感度算出部14が算出した感度値とに基づいて、算出対象の誤差パラメータを選定してもよい。感度算出部14が算出した感度値に重み付けを行うことによって、位置情報を取得した状態での影響が大きい誤差だけでなく、ロボット2の構造上影響が大きいと予測される誤差パラメータについて補正の優先順位を上げ、より迅速に適切な誤差パラメータを得ることができる。
【0036】
パラメータ補正部16は、指令値生成部12が出力したロボット2に対する指令値及び位置情報取得部13が取得した位置情報に基づいて、誤差パラメータを補正する。このとき、パラメータ補正部16は、対象選定部15が選定した補正対象以外の誤差パラメータがロボット2の基準点の位置に影響しないものとして、補正対象の誤差パラメータだけを補正する。
【0037】
現実のロボット2は、非常に複雑な機構を有するため、全ての誤差要因を反映するためには、極めて多数の誤差パラメータを用いる必要がある。また、加工ヘッド21の構成、ロボット2の動作パターン等、様々な要因が発生する位置決め誤差に影響するため、適切な誤差パラメータの値は、加工の態様、加工のためのプログラムの構成等に応じて変化し得る。このため、全ての誤差パラメータの正確な値を算出するためには、多様な動作パターンでロボット2を位置決め動作させ、数多くの位置情報を取得する必要がある。例えばロボット2が6軸多関節型ロボットであれば、必要な指令値と位置情報との組み合わせの数は100を超える。
【0038】
そこで、パラメータ補正部16は、対象選定部15により選択された一部の誤差パラメータだけを算出対象である未知変数とし、それ以外の誤差パラメータが不変(現在の値で一定)であるものとして、指令値と基準点の実際の位置(実際位置)との関係を解析することにより、指令値から実際の基準点の位置をより正確に算出できるよう、対象選定部15が選択した誤差パラメータの値を補正する。これにより、比較的少数の位置情報によって、必ずしも厳密ではないが、ロボット2の基準点の位置を比較的正確に特定できる誤差パラメータのセットを得ることができる。
【0039】
ロボット制御装置1では、感度算出部14、対象選定部15及びパラメータ補正部16が、前記位置情報ごとに演算を行ってもよい。つまり、位置情報取得部13が位置情報を取得する度に、感度算出部14による感度値の再計算と、対象選定部15による補正対象の選定し直しと、パラメータ補正部16による誤差パラメータの補正と、を行ってもよい。これにより、段階的に誤差パラメータを補正して、確実に誤差パラメータを適切化できる。
【0040】
評価部17は、指令値生成部12が出力したロボット2に対する指令値から算出される基準点の位置と位置情報取得部13が取得した位置情報が示す基準点の位置とのずれが所定範囲内であるか否かを判定する。評価部17がロボット2の基準点の指令位置から算出される基準点の位置と実測位置とのずれが所定範囲内であると判断した場合に、段階的に誤差パラメータを補正する繰り返し処理を停止することで、効果的な誤差パラメータのセットを得るまでにかかる時間を短縮できる。誤差パラメータの補正は、例えばロボットシステムSの運転停止、加工プログラムの変更、非常停止等の所定の事象が発生した場合に再開してもよい。
【0041】
重み決定部18は、ロボット2に対して行った保守作業の内容に応じて重みを決定する。このため、重み決定部18は、オペレータによる保守作業の内容の入力を受け付けるよう構成され得る。例えばモータを交換した場合、交換したモータに関する誤差要因が変化し得るので、関連する誤差パラメータを大きく修正する必要が生じ得る。このように、保守作業により修正が必要となる可能性が高い誤差パラメータの感度値の重みを大きくすることによって、保守作業による位置決め誤差を迅速に補償することができる。誤差パラメータの感度値の重みは、各測定データ毎に持ち、保守作業前と後で重みを切り替えることで保守作業前後の計測データを用いて、保守作業後のロボットの機構誤差パラメータを計算する、としてもよい。
【0042】
プログラム生成部19は、ロボット2を用いて加工を行うために与えられる加工プログラムに、位置情報取得部13により位置情報を取得するための命令を付加した校正プログラムを生成する。つまり、ロボットシステムSは、校正プログラムに従って、加工を行いながら誤差パラメータの算出を行うことができる。これにより、実際の加工動作の中で感度値を決定して補正対象を選択するので、位置決め精度ひいては加工精度を確実に向上できる。
【0043】
ロボット2は、典型的には垂直多関節型ロボットであるが、スカラー型ロボット、パラレルリンク型ロボット、直交座標型ロボット等であってもよい。ロボット2は、末端に、3次元計測装置3が認識できるマーカを有してもよい。
【0044】
ロボット2の加工ヘッド21は、例えば回転切削工具等のツールTを保持し、ツールTを駆動(例えば回転)する駆動機構を有しえる。また、加工ヘッド21はレーザ加工ヘッド等であってもよい。
【0045】
3次元計測装置3としては、例えばレーザ等を用いて物体の表面の3次元形状を測定する装置を用いることができる。
【0046】
図3に、ロボット制御装置1による誤差パラメータの補正の手順を示す。誤差パラメータの補正は、位置決め工程(ステップS1)と、感度値算出工程(ステップS4)と、補正対象選定工程(ステップS5)と、位置情報取得工程(ステップS2)と、パラメータ補正工程(ステップS6)と、評価工程(ステップS3)と、を備える方法によって行われる。
【0047】
ステップS1の位置決め工程において、指令値生成部12は、プログラム生成部19が生成した校正プログラムに従ってロボット2を位置決めする指令値を生成する。
【0048】
ステップS2の感度値算出工程において、感度算出部14は、指令値及び位置情報に基づいて全ての誤差パラメータについて、それぞれ感度値を算出する。
【0049】
ステップS3の補正対象選定工程において、対象選定部15は、感度値が上位の誤差パラメータを補正対象として選定する。
【0050】
ステップS4の位置情報取得工程において、位置情報取得部13は、ロボット2の基準点の位置情報を取得、つまり基準点の3次元位置を測定する。
【0051】
ステップS5のパラメータ補正工程において、パラメータ補正部16は、計算位置を実測位置に近付けるよう、補正対象選定工程で選定した誤差パラメータを補正、つまりパラメータ記憶部11に記憶されている誤差パラメータの値を修正する。
【0052】
ステップS6の評価工程において、評価部17は、現在パラメータ記憶部11に記憶されている誤差パラメータを用いて指令値生成部12が生成した指令値から算出されるロボット2の基準点の計算位置と、位置情報取得部13が取得した位置情報が示す基準点の実測位置とのずれが、所定の範囲内であるかどうかを確認する。計算位置と実測位置とのずれが所定の範囲内であれば、パラメータ記憶部11に記憶されている誤差パラメータが適切であると考えられるので、この処理を終了する。計算位置と実測位置とのずれが所定の範囲内でなければ、ステップS1に戻って上述の工程を繰り返す。ステップS1に戻って、新しい位置情報を取得して誤差パラメータのさらなる補正を行うことで、誤差パラメータをより適切な値に修正し、ロボットの位置決め精度を徐々に向上できる。
【0053】
以上のように、ロボット制御装置1は、対象選定部15が選定した感度値が少数の誤差パラメータだけを補正の対象とするため、比較的少ない数の位置情報によって比較的正確な誤差パラメータを得ることができる。つまり、ロボット制御装置1は、比較的簡単にロボット2の位置決め精度を向上できる。
【0054】
以上、本開示に係るロボット制御装置の実施形態について説明したが、本開示の範囲は前述した実施形態に限るものではない。また、前述した実施形態に記載された効果は、本開示に係るロボット制御装置から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本開示に係るロボット制御装置による効果は、前述の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0055】
本開示に係るロボット制御装置において、評価部、重み決定部及びプログラム生成部は任意の構成であって、省略してもよい。
【0056】
本開示に係るロボット制御装置は、加工ヘッドを有するロボットの制御に限られず、例えばワークをハンドリングするロボット等にも適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 ロボット制御装置
11 パラメータ記憶部
12 指令値生成部
13 位置情報取得部
14 感度算出部
15 対象選定部
16 パラメータ補正部
17 評価部
18 重み決定部
19 プログラム生成部
2 ロボット
21 加工ヘッド
3 3次元計測装置
S ロボットシステム
T ツール
W ワーク
図1
図2
図3