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特許7436677部品保持治具、ロボットシステム及び部品取付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】部品保持治具、ロボットシステム及び部品取付方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/06 20060101AFI20240214BHJP
   B25J 15/04 20060101ALI20240214BHJP
   B25J 15/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B25J15/06 S
B25J15/04 Z
B25J15/00 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022540233
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027252
(87)【国際公開番号】W WO2022024897
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020126664
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠則
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-94147(JP,A)
【文献】実公平5-27274(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/04 - 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して部品を供給する部品供給ロボットと、前記供給された部品を前記ワークに対して取り付け位置で保持する部品保持治具と、前記取り付け位置に保持された前記部品を前記ワークに取り付ける取付ロボットとを具備し、
前記部品供給ロボットのアーム先端にはツールチェンジャのマスタプレートが装備され、
前記部品保持治具は、
前記マスタプレートに着脱自在のツールプレートと、
前記ツールプレートに取り付けられ、前記マスタプレートを介した操作に従って前記ワークに対して吸着し、離脱する吸着・離脱機構と、
前記吸着・離脱機構に連結され、前記吸着・離脱機構が前記ワークに吸着した状態で前記部品を前記ワークに押し付ける部品押付機構とを有する、ロボットシステム。
【請求項2】
前記吸着・離脱機構は、磁石と、前記磁石を前記ワークに接近・離反する方向に移動自在に支持する支持機構とを有する請求項1記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記支持機構は、シリンダとピストンとを有し、
前記マスタプレートを介した前記シリンダへのエアの供給操作により、前記磁石の前記ワークからの離反と前記磁石の前記ワークへの吸着とが切り替えられる、請求項2記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記ピストンを前記磁石とともに前記ワークに接近する方向に付勢するバネを前記シリンダ内に装備される、請求項3記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記部品押付機構は、前記部品に接するコンタクトと、前記コンタクトを前記ワークに押し付ける圧縮バネとを有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項6】
ワークに部品を取り付ける方法において、
部品供給ロボットは、部品保持治具を装着するとともに、前記部品をピックアップし、
前記部品供給ロボットが前記部品を前記ワークの取り付け位置に搬送してリリースし、
前記部品供給ロボットが前記部品保持治具を前記リリースされた部品上に移送し、
前記部品保持治具が前記リリースされた部品を前記取り付け位置で保持し、
前記部品供給ロボットが前記部品保持治具を離脱して退避し、
付ロボットが前記保持された部品を前記ワークに取り付け、
前記部品供給ロボットが前記部品保持治具を回収する、部品取付方法。
【請求項7】
部品供給ロボットにより供給された部品をワークに対して取り付け位置で保持する部品保持治具において、
前記部品供給ロボットのアーム先端に装備されたツールチェンジャのマスタプレートに着脱自在のツールプレートと、
前記ツールプレートに取り付けられ、前記マスタプレートを介した操作に従って前記ワークに対して吸着し、離脱する吸着・離脱機構と、
前記吸着・離脱機構に連結され、前記吸着・離脱機構が前記ワークに吸着した状態で前記部品を前記ワークに押し付ける部品押付機構とを有する、部品保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品保持治具、ロボットシステム及び部品取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
母材に部品をアーク溶接等にて溶接する際、母材に対して部品が動かないようにクランプ治具等により部品を取付位置で保持することが多い。自動車の車体などの複雑な形状の母材に対して部品を溶接する場合には、クランプ位置から溶接位置までの間の母材自体が干渉物となってしまう。また、大きな母材Wに対して部品Pを溶接する場合、クランプ位置から溶接位置までの間が遠いために、クランプ治具900では母材Wに対して部品Pをクランプできない、又はクランプ出来ても、しっかりとクランプできないといった問題が生じる(図16参照)。このようにクランプ治具900では、溶接可能な箇所が制限されてしまうことがあった。
【0003】
また、ロボットアームの先端のエンドエフェクタとして、溶接トーチに加えて、部品を供給する機構、さらに部品を押さえ付ける機構を装備させたものがある。しかしエンドエフェクタの構造が複雑になり、しかも大型化は避けられないので、エンドエフェクタが高価になってしまうばかりか、エンドエフェクタが母材に干渉するために溶接可能な箇所が制限されてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-89228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ワークに部品を取り付けるに際して、その取付可能な箇所の制限を緩和することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るロボットシステムは、ワークに対して部品を供給する部品供給ロボットと、供給された部品をワークに対して取り付け位置で保持する部品保持治具と、取り付け位置に保持された部品をワークに取り付ける取付ロボットとを具備する。部品供給ロボットのアーム先端にはツールチェンジャのマスタプレートが装備される。部品保持治具は、マスタプレートに着脱自在のツールプレートと、ツールプレートに取り付けられ、マスタプレートを介した操作に従ってワークに対して吸着し、離脱する吸着・離脱機構と、吸着・離脱機構に連結され、吸着・離脱機構がワークに吸着した状態で部品をワークに押し付ける部品押付機構とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本態様によれば、簡素な構造でありながら、ワークに部品を取り付けるに際して、その取付可能な箇所の制限を緩和するロボット用の治具を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係るロボットシステムを示す側面図である。
図2図2は、図1の部品保持治具の一例を示す側面図である。
図3図3は、図2の部品保持治具の移送時における磁石の位置を示す図である。
図4図4は、図2の部品保持治具の部品保持動作開始直後の磁石の位置を示す図である。
図5図5は、図2の部品保持治具による部品の保持状態を示す図である。
図6図6は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第1段階を示す図である。
図7図7は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第2段階を示す図である。
図8図8は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第3段階を示す図である。
図9図9は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第4段階を示す図である。
図10図10は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第5段階を示す図である。
図11図11は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第6段階を示す図である。
図12図12は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第7段階を示す図である。
図13図13は、図1のロボットシステムによる溶接動作の第8段階を示す図である。
図14図14は、図1の部品保持治具の他の例を示す側面図である。
図15図15は、図1の部品保持治具の他の例を示す側面図である。
図16図16は、従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るロボットシステムを説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0010】
図1に示すように、ロボットシステム100は、ワークWに対して部品Pを供給する部品供給ロボット300と、供給された部品PをワークWにおける取付位置で保持する部品保持治具1と、取付位置に保持された部品PをワークWに取り付ける取付ロボット400とを有する。
【0011】
部品供給ロボット300と取付ロボット400とは、ワークWが載置される作業台610を挟んで両側にそれぞれ配置される。部品供給ロボット300の近傍には、部品Pが載置された部品供給台710が配置される。
【0012】
部品供給ロボット300は、多関節アーム機構を有する。部品供給ロボット300のアーム先端には、部品Pを把持するための部品把持ハンド3と、ツールチェンジャ4のマスタプレート4Mとが装備されている。ツールチェンジャ4のツールプレート4Tは、部品保持治具1に設けられている。マスタプレート4Mに空気圧または電気信号を送ることによって、マスタプレート4Mに対してツールプレート4Tを着脱することができる。部品保持治具1の詳細は後述する。
【0013】
取付ロボット400は、多関節アーム機構を有する。取付ロボット400のアームの先端には、溶接トーチ2が装備されている。取付ロボット400のアームには、溶接トーチ2に溶接ワイヤを供給するワイヤ供給装置(図示しない)が装備されている。
【0014】
上記の構成要素以外に、ロボットシステム100は、部品保持治具1にエアを供給するためのコンプレッサ等のエア供給装置320、溶接トーチ2及びワイヤ供給装置に駆動用電源を供給する溶接電源420、部品供給ロボット300の動作制御及び部品保持治具1の動作制御を担う部品供給ロボット制御装置330、取付ロボット400の動作制御及び溶接電源420の制御を担う取付ロボット制御装置430、部品供給ロボット制御装置330及び取付ロボット制御装置430を統括的に制御する統括制御装置500を有する。
【0015】
部品供給ロボット制御装置330は、部品供給ロボット300及び部品保持治具1の動作を制御するための部品供給プログラムが記憶されたHDD等の記憶装置、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPU等の演算処理装置などを備える。演算処理装置により部品供給プログラムが実行されることで、部品供給ロボット300は、部品供給プログラムで規定された部品供給シーケンスに従って部品PをワークWに供給することができ、部品保持治具1は、部品PをワークWの取付位置で保持することができる。
【0016】
取付ロボット制御装置430は、取付ロボット400及び溶接トーチ2の動作を制御するための部品取付プログラムが記憶されたHDD等の記憶装置、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPU等の演算処理装置などを備える。演算処理装置により部品取付プログラムが実行されることで、取付ロボット400は、溶接トーチ2と同期して、部品取付プログラムで規定された溶接シーケンスに従って動作し、部品PをワークWに溶接することができる。
【0017】
統括制御装置500は、部品供給ロボット300及び取付ロボット400の動作開始のタイミングを制御するための統括制御用プログラムが記憶されたHDD等の記憶装置、記憶装置に記憶された制御用プログラムを実行するCPU等の演算処理装置などを備える。演算処理装置により統括制御用プログラムが実行されることで、部品供給ロボット300と取付ロボット400とを同期して動作させることができる。
【0018】
図2に示すように、部品保持治具1は、ツールチェンジャ4のマスタプレート4Mに対して着脱自在なツールプレート4Tを有する。ツールチェンジャ4を介して、部品保持治具1は、部品供給ロボット300に対して着脱自在である。ツールプレート4Tは、板状のベース10の上面に設けられる。ベース10には、ワークWに対して吸着し、ワークWから離脱する吸着・離脱機構20と、吸着・離脱機構20がワークWに吸着した状態で部品PをワークWに押し付ける部品押付機構30と、が設けられる。
【0019】
部品押付機構30は、ベース10に対して所定の可動範囲で上下方向に移動自在に支持されるロッド33を有する。ロッド33の先端には、部品Pに当接する弾性体等のコンタクト31が取り付けられる。ロッド33には圧縮コイルバネ35が挿入される。圧縮コイルバネ35は、ベース10とコンタクト31との間に圧入される。ロッド33が最下位置に下がっているとき、コンタクト31の底面はシリンダ22の底面より下側に突出している。
【0020】
吸着・離脱機構20は、磁石21と、磁石21を上下方向に移動自在に支持する磁石支持機構とを有する。磁石支持機構は、円筒形状のシリンダ22と、その内部で摺動するピストン23とを有する。シリンダ22は上下端が閉塞されており、ピストン23により、シリンダ22の内部は上部空間と下部空間とに隔てられる。ピストン23は、ピストン付勢機構により、磁石21とともに下方に付勢されている。典型的には、ピストン付勢機構として圧縮コイルバネ24が適用される。圧縮コイルバネ24の上端はシリンダ22の上部空間の上面に接続され、他端はピストン23の上面に接続されている。ピストン23の下面には、ピン25を介して磁石21が固定されている。磁石21は、圧縮コイルバネ24により、ビストン23の上面に吊り下げられている。
【0021】
ピストン23の駆動方式として複動式が採用される。シリンダ22の上部空間の側壁にはエアチューブ28が接続されるポート26が設けられ、シリンダ22の下部空間の側壁には別系統のエアチューブ29が接続されるポート27が設けられる。二つのポート26,27の給気排気を独立して切り替えることでピストン23とともに磁石21を下方に押し下げ、また上方に引き上げることができる。それによりマスタプレート4Mを介して外部コンプレッサからのエアの供給・停止(排気)の操作により、ワークWに対する磁石21の吸着・離脱を外部操作することができる。ピストン23の駆動方式は単動式であってもよい。
【0022】
部品保持治具1における二つのポート26,27の給気排気の切り替えは、部品保持治具1が部品供給ロボット300に装着された状態で、マスタプレート4Mを介したエア操作により実現される。具体的には、エア供給装置320から部品保持治具1までのエアの配管経路上であって、部品供給ロボット300のアーム先端又はマスタプレート4Mには、電磁弁が設けられる。部品供給ロボット制御装置330による電磁弁の開閉制御により、二つのポート26,27の給気排気を切り替えることができる。
【0023】
上方のポート26からシリンダ22の内部にエアを給気し、下方のポート27からシリンダ22の内部のエアを排気したとき、磁石21はピストン23とともに下方に押し出され、シリンダ22の底部に配置される。
【0024】
上方のポート26を介してシリンダ22の内部の上部空間からエアを排気し、下方のポート27を介してシリンダ22の内部の下部空間にエアを給気したとき、磁石21はピストン23ともに上方に引き上げられ、シリンダ22の上部に配置される。
【0025】
なお、二つのポート26,27のいずれからもシリンダ22の内部にエアを給気していないとき、ピストン23は圧縮コイルバネ24により下方に向かって付勢される。磁石21はシリンダ22の底面に押し付けられる。
【0026】
図3乃至図5を参照して、部品保持治具1による部品Pの保持動作を説明する。
図3に示すように、部品保持治具1は、ワークWに載置された部品Pにコンタクト31を接触させた状態で、シリンダ22の底面とワークWの表面との間に隙間があくように各要素の寸法が決められている。部品保持治具1が部品供給ロボット300により移送されている間、上方のポート26からシリンダ22の内部上方の空間からエアが排気され、下方のポート27からシリンダ22の内部下方の空間にエアが給気される。それにより、部品保持治具1の磁石21はピストン23とともにシリンダ22の内部上方に押し上げられる。図3に示すように、部品保持治具1のコンタクト31をワークWに載置された部品Pに接触させた状態であっても、磁石21がシリンダ22の内部上方に配置されるため、ワークWに対する磁石21の距離が遠くなり、ワークWと磁石21とが互いに引き合う力(吸着力)が弱くなる。そのため、シリンダ22はワークWに引き寄せられない。
【0027】
部品保持治具1のコンタクト31をワークWに載置された部品Pに接触させた状態で、二つのポート26,27の給気排気が切り替えられる。すなわち、上方のポート26からシリンダ22の内部上方の空間にエアが給気され、下方のポート27からシリンダ22の内部下方の空間のエアが排気される。それにより、部品保持治具1の磁石21はピストン23とともにシリンダ22の内部下方に引き下げられる。磁石21がシリンダ22の底部に配置されるため、ワークWに対する磁石21の距離が短くなり、ワークWと磁石21とが互いに引き合う力(吸着力)が強くなる。この吸着力が部品押付機構30の圧縮コイルバネ35の復元力に抗って圧縮状態を維持できるように、磁石21の磁力、圧縮コイルバネ35のバネ係数が既定されている。部品保持治具1は、部品押付機構30の圧縮コイルバネ35の復元力に抗って、シリンダ22とともにワークWに引き寄せられ吸着される。
【0028】
図5に示すように、部品保持治具1がワークWに引き寄せられると、圧縮コイルバネ35は縮められる。圧縮コイルバネ35が縮められる距離は、部品保持治具1がワークWに引き寄せられた距離と等価である。コンタクト31は、圧縮コイルバネ35による付勢力により、部品PをワークWに押し付け、それにより、部品PをワークWの取付位置で保持することができる。
【0029】
以下、図6乃至図13を参照して、ロボットシステム100による、ワークWに対する複数の部品P1、P2・・・、の溶接手順について説明する。
まず、部品供給ロボット300は、アーム先端に設けられたツールチェンジャ4を介して部品保持治具1を装着する。部品供給ロボット300は、アーム先端に設けられた部品把持ハンド3により、部品供給台710から部品P1をピックアップし(図6参照)、部品保持治具1とともにワークWにおける部品P1の取付位置に搬送し、取付位置において部品P1をリリースする(図7参照)。次に、部品供給ロボット300は、取付位置に載置された部品P1の上に部品保持治具1を移送し、部品P1に向けて降下し、部品保持治具1のコンタクト31を部品Pに接触させる(図8参照)。なお、図6乃至図8に示す段階において、部品保持治具1の磁石21はシリンダ22の内部の底部から遠ざけられた位置に配置されている(図3参照)。
【0030】
部品保持治具1のコンタクト31を部品P1に接触させた状態で、二つのポート26,27の給気排気が切り替えられることで、部品保持治具1の部品押付機構30により、部品P1はワークWの取付位置で保持される(図9参照)。このとき、部品供給ロボット300のソフトフロート機能を有効にしておくことが望ましい。それにより、部品供給ロボット300のアーム先端を部品保持治具1とともにワークWに引き寄せ、引き寄せられた後のアーム先端の位置を取得することができる。それにより、部品供給ロボット制御装置330は、部品供給ロボット300の制御を継続することができる。
【0031】
部品保持治具1によって部品が保持された後、部品供給ロボット300は、部品保持治具1を分離し、アームを退避する(図10参照)。部品供給ロボット300が分離された状態でも、シリンダ22の内部からエアが漏れないように、部品供給ロボット300から部品保持治具1を分離する前に、部品供給ロボット制御装置330により、ツールチェンジャ4から二つのポート26,27までのエア配管経路上の電磁弁が封鎖される。それにより、部品保持治具1は、部品供給ロボット300からの分離後も、部品P1をワークWの取付位置で保持した状態で維持することができる。なお、元々、磁石21はピストン23とともに圧縮コイルバネ24により付勢され、シリンダ22の内部の下方に配置されている。そのため、万が一、二つのポート26,27からエアが漏れてしまっても、吸着・離脱機構20によるワークWに吸着した状態を維持することができるため、溶接中の部品P1が動いてしまう事態を回避することができる。
【0032】
部品供給ロボット300により部品保持治具1が分離された後、取付ロボット400は、部品保持治具1により保持された部品P1を溶接によりワークWに取り付ける。部品供給ロボット300は、取付ロボット400によるワークWの取付作業が実施されている間、次の部品P2をピックアップし、次の取付位置に搬送する(図11参照)。取付ロボット400は、取付作業の完了後、アームを退避する。部品供給ロボット300は、取付作業が完了した部品P1を保持する部品保持治具1を装着し(図12参照)、二つのポート26、27の給気排気を切り替え、部品保持治具1による部品P1の保持状態を解除する。部品供給ロボット300は、部品保持治具1を既に搬送済みの部品P2上に移送し、部品P2に向けて降下し、部品保持治具1のコンタクト31を部品P2に接触させる(図13参照)。部品供給ロボット300、部品保持治具1及び取付ロボット400は、図9乃至図13で説明した動作手順をワークWに対する全ての部品Pの取付作業が完了するまで、繰り返し実行する。
【0033】
本実施形態で説明した部品保持治具1はそれ単独でしかも吸着によりワークWに部品Pを保持することができるので、ワークWに部品を取り付けるに際して、その取付可能な箇所の制限を緩和することができる。
また部品保持治具1は、縮められた圧縮コイルバネ35による付勢力により部品PをワークWに押し付けるため、ワークWに対する部品Pの保持力を大きくすることができ、しっかりと保持することができる。また、部品保持治具1は、多くの機能を有するものではなく、ワークWに吸着し、ワークWから離脱する吸着・離脱機構20と、部品PをワークWに押し付ける部品押付機構30とを有すればよいしかも、吸着・離脱機構20による吸着・離脱動作は、シリンダ22の内部の磁石21の上下の移動により実現でき、部品押付機構30により部品Pの押圧動作は、圧縮コイルバネ35の付勢力により実現できるものであり、いずれも複雑な構造ではない。圧縮コイルバネ35を縮める動力は、吸着・離脱機構20により部品保持治具1の全体がワークWに引き寄せられる力を利用したもので、圧縮コイルバネ35を縮めるためのモータなどの駆動源が不要である。このように、本実施形態に係る部品保持治具1は、非常に簡素な構造であるといえる。
【0034】
さらに部品保持治具1は、部品供給ロボット300から分離されても、それ単独でワークWに対する部品Pの保持状態を維持することができる。そのため、部品供給ロボット300は、部品PをワークWの取付位置にて保持する部品保持治具1を分離することで、取付ロボット400が部品PをワークWに溶接している間に、次の部品の取付位置への搬送などの他の作業を実行することができる。それにより、溶接作業のサイクルタイムを短くすることができ、作業効率を向上させることができる。
【0035】
本実施形態では、ロボットシステム100が2台のロボットを有する構成として説明した。しかしながら、サイクルタイムが許容されるのであれば、部品保持治具1と溶接トーチ2とを持ち替えることで、1台のロボットでもシステムを構築することができる。
【0036】
本実施形態では、ワークWに対して部品Pを溶接により取り付ける例を説明したが、部品保持治具1は、ワークWに対して部品Pを仮固定するものであるから、ワークWに対して部品Pを固定する方法はアーク溶接に限定されない。ワークWに対する部品Pの固定方法に応じて、溶接トーチ2は、例えば、グルーガンなどの熱で溶かした樹脂で接着する機器、接着剤を塗布する機器、超音波を利用した超音波溶着機などに代替することができる。
【0037】
本実施形態では、部品押付機構30として圧縮コイルバネ35を使用した例を説明したが、部品PをワークWに押し付けることができるのであれば、部品押付機構30の構成は上記構造に限定されない。例えば、圧縮コイルバネ35に換わってエアシリンダを使用することができる。図14に示すように、部品押付機構40は、シリンダ42と、ピストン43と、シリンダ42の底面のシールされた孔に通されたロッド45を介してピストン43に連結されるコンタクト41とを有する。ピストン43は、圧縮コイルバネ44によりシリンダ42の内部に吊り下げられる。シリンダ42の側面には二つのポート46,47が開けられる。二つのポート46,47には、ツールチェンジャ4から延びるエアチューブ48,49がそれぞれ接続される。吸着・離脱機構20と同様に、シリンダ42に設けられた二つのポート46,47の給気排気を個別に操作することで、コンタクト41を部品Pに押し付け、部品Pからコンタクト41を離反させることができる。それにより、ワークWに対する部品Pの保持、また、ワークWに対する部品Pの保持状態の解除を切り替えることができる。
【0038】
上記のように構成された部品押付機構40によれば、吸着・離脱機構20により、部品保持治具1の位置がワークWに対して固定された後、ポート46,47の給気排気を切替、ピストン43を下方に向けて移動させることで、コンタクト41を部品Pに押し付け、部品PをワークWの取付位置に保持することができる。吸着・離脱機構20による吸着動作と、部品押付機構40による押付動作とは、個別に行うことができるため、部品押付機構40のコンタクト41のストロークの長さを部品の種類、取付位置などに応じて調整することができる。そのため、汎用性を向上させることができる。
【0039】
エアシリンダを使用した部品押付機構40を採用するのであれば、吸着・離脱機構20の磁石21に換わって吸着パッドを使用することができる。図15に示すように、吸着・離脱機構50は、吸着パッド51を有する。吸着パッド51は、ロッド52を介してベース10に接続される。吸着パッド51には、エアチューブ54が接続されるポート53が設けられる。吸着パッド51をワークWに接触させた状態で、吸着パッド51とワークWとで規定される空間のエアを排気することで、吸着パッド51をワークWに吸着させ、部品保持治具1をワークWに対して固定することができる。なお、ツールチェンジャ4を分離した際に、エア漏れが発生しないように、逆止弁等を使用した配管を構築する必要がある。上記のように構成された吸着・離脱機構50により、ワークWに対する部品保持治具1の位置を固定した後、部品押付機構40により、部品PをワークWに押し付け、仮固定することができる。磁石21による吸着を利用せずにワークWに対して部品保持治具1の位置を固定することができるため、ワークWが非磁性体である場合や、使用環境上の制約により磁石21を使用することができない場合であっても、部品PをワークWに対して仮固定することができる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0041】
1…部品保持治具、3…部品把持ハンド、4…ツールチェンジャ、4M…マスタプレート、4T…ツールプレート、10…ベース、20…吸着・離脱機構、21…磁石、22…シリンダ、23…ピストン、24…圧縮コイルバネ、25…ピン、26,27…ポート、28,29…エアチューブ、30…部品押付機構、31…コンタクト、33…ロッド。
図1
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