(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ブレーキディスクおよびブレーキディスクを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
F16D65/12 S
F16D65/12 R
(21)【出願番号】P 2022551042
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020054888
(87)【国際公開番号】W WO2021170216
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】522260610
【氏名又は名称】シー・フォー レイザー テクノロジー ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】C4 Laser Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dresdner Str. 172 B, 01705 Freital, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティロ シュタインマイアー
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/049051(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005008569(DE,A1)
【文献】国際公開第2007/043961(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014006064(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014015474(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクであって、金属製の基体(1)を備え、該金属製の基体(1)は、前記ブレーキディスクを回転軸(14)に取り付けるための環状に形成された少なくとも1つの取付け要素(12)と、
軸線方向内側にあり、円形面として形成された第1の摩擦領域(2)と、該第1の摩擦領域(2)
に対して軸線方向外側に配置された第2の摩擦領域(3)とを有し、前記金属製の基体(1)は、前記第1および前記第2の摩擦領域(2,3)の領域に、環状に形成された少なくとも1つの熱伝導層(4,6)を有し、該熱伝導層(4,6)には、少なくとも1つの、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)が配置されており、前記少なくとも1つの熱伝導層(4,6)は、前記金属製の基体(1)にレーザ肉盛溶接によって配置されていて、前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)は、前記熱伝導層(4,6)にレーザ肉盛溶接によって配置されており、これによって、前記層同士の材料接続的な結合が実現されており、前記熱伝導層(4,6)は、少なくとも2つの異なる材料から成っており、熱伝導率λが、前記熱伝導層(4,6)の内部で段階的に調整されており、少なくとも前記第1および/または前記第2の摩擦領域(2,3)の内側の環状領域(9)には、熱伝導率λ
1を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在しており、前記第1および/または前記第2の摩擦領域(2,3)の外側の環状領域(11)には、熱伝導率λ
2を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在しており、少なくともλ
1<λ<λ
2である、ブレーキディスク。
【請求項2】
ブレーキディスクであって、金属製の基体(1)を備え、該金属製の基体(1)は、前記ブレーキディスクを回転軸(14)に取り付けるための環状に形成された少なくとも1つの取付け要素(12)と、
軸線方向内側にあり、円形面として形成された第1の摩擦領域(2)と、該第1の摩擦領域(2)
に対して軸線方向外側に配置された第2の摩擦領域(3)とを有し、前記金属製の基体(1)は、前記第1および/または前記第2の摩擦領域(2,3)の領域に、環状に形成された少なくとも1つの熱伝導層(4,6)を有し、該熱伝導層(4,6)には、少なくとも1つの、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)が配置されており、前記少なくとも1つの熱伝導層(4,6)は、前記金属製の基体(1)にレーザ肉盛溶接によって配置されていて、前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)は、前記熱伝導層(4,6)にレーザ肉盛溶接によって配置されており、これによって、前記層同士の材料接続的な結合が実現されており、前記少なくとも1つの熱伝導層(4,6)は、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、段階的に形成された層厚さd
swを有し、これによって、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって前記熱伝導層(4,6)内で比熱抵抗R
thiが減少している、ブレーキディスク。
【請求項3】
少なくとも2つの熱伝導層が配置されており、前記金属製の基体に第1の熱伝導層が配置されていて、該第1の熱伝導層に第2の熱伝導層が配置されており、少なくとも該第2の熱伝導層は、それぞれ前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層と前記第1の熱伝導層とに対する境界面領域を形成している、請求項1または2記載のブレーキディスク。
【請求項4】
回転軸に近い方の前記摩擦領域に設けられた前記少なくとも1つの熱伝導層および/または前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、回転軸から遠い方の前記摩擦領域に設けられた前記少なくとも1つの熱伝導層および/または前記負荷がかかることがある硬質材料層に対して異なる層厚さを有して形成されている、請求項1から3までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項5】
少なくとも1つの熱伝導層では、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大40%まで延在する内側の環状領域に、10W/(m・K)~14W/(m・K)の熱伝導率λ
1を有する材料が存在していて、前記環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、12W/(m・K)~26W/(m・K)の熱伝導率λ
2を有する材料が存在していて、前記環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域に、24W/(m・K)~40W/(m・K)の熱伝導率λ
3を有する材料が存在している、請求項1から4までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項6】
少なくとも1つの熱伝導層は、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、連続的または急激に増加する層厚さd
swを有する、請求項1から5までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項7】
少なくとも1つの熱伝導層は、50μm~500μmの層厚さd
swi、特に有利には100μm~150μmの層厚さd
swiを有する、請求項1から6までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項8】
前記熱伝導層は、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大40%まで延在する内側の環状領域に、前記環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さd
sw3に比べて10%~15%大きい層厚さd
sw1を有し、前記環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、前記環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さd
sw3に比べて5%~10%大きい層厚さd
sw2を有し、熱伝導層およびトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層に基づく層組成は一定である、請求項1から7までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項9】
前記熱伝導層は、Al基合金、Fe基合金、Ni基合金、Cr基合金および/またはCu基合金から製造されている、請求項1から8までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項10】
少なくとも前記熱伝導層は、炭化物のかつ/または酸化物セラミックの硬質材料粒子を付加的に含む、請求項1から9までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項11】
前記熱伝導層の前記硬質材料粒子は、0.5μm~120μmの平均粒度D
50を有する、請求項10記載のブレーキディスク。
【請求項12】
前記熱伝導層内の前記硬質材料粒子の体積割合が、1%~80%、特に有利には30%~50%である、請求項10または11記載のブレーキディスク。
【請求項13】
熱伝導層として、軸線方向において、半径方向の一部領域と、前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層に対する境界面領域とにおける熱伝導率が最も低く、別の熱伝導層または前記金属製の基体に対する境界面領域における熱伝導率が最も高い合金が存在している、請求項1から12までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項14】
少なくとも前記金属製の基体と少なくとも第1の前記熱伝導層との間に付着層が存在している、請求項1から13までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項15】
前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、少なくとも50μm~500μmの層厚さ
d
SH
、特に有利には200μm~250μmの層厚さd
SHを有する、請求項1から14までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項16】
前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、サーメット、特に有利には炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化クロムおよび/または酸化物セラミック、全く特に有利には15質量%以下のNi割合を有する材料群4または5の特殊鋼母材を含む炭化タングステンから成っている、請求項1から15までの少なくとも1項記載のブレーキディスク。
【請求項17】
請求項1から16までの少なくとも1項記載のブレーキディスクを製造するための方法であって、少なくとも金属製の基体(1)にレーザビーム肉盛溶接によって少なくとも部分的に第1の熱伝導層(4,6)を材料接続的に配置し、引き続き、該第1の熱伝導層(4,6)に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)を材料接続的に配置し、このとき、少なくとも2つの異なる材料から成る前記熱伝導層(4,6)を配置して、該熱伝導層の内部で熱伝導率λ
iを段階的に調整し、これによって、前記熱伝導層が、半径方向において増加する熱伝導率λを有し、少なくとも第1および/または第2の摩擦領域(2,3)の内側の環状領域(9)に、熱伝導率λ
1を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金を配置し、前記第1および/または前記第2の摩擦領域(2,3)の外側の環状領域(11)に、熱伝導率λ
2を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金を配置し、最終的に、前記トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)の表面を加工する、方法。
【請求項18】
請求項1から16までの少なくとも1項記載のブレーキディスクを製造するための方法であって、少なくとも金属製の基体(1)にレーザビーム肉盛溶接によって少なくとも部分的に第1の熱伝導層(4,6)を材料接続的に配置し、引き続き、該第1の熱伝導層(4,6)に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層(8)を材料接続的に配置し、これによって、前記層(4,6,8)同士の材料接続的な結合を実現し、少なくとも1つの熱伝導層(4,6)を、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、段階的に形成された層厚さd
swで配置し、これによって、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって前記熱伝導層(4,6)内で比熱抵抗R
thiを減少させる、方法。
【請求項19】
第1のステップにおいて、前記熱伝導層を、半径方向において、環状面の最大35%まで延在する内側の環状領域に、前記環状面の60%から前記ブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さd
s3に比べて10%~15%大きい層厚さd
s1で配置し、前記環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、前記環状面の60%から前記ブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さd
s3に比べて5%~10%大きい層厚さd
s2で配置し、これによって、前記熱伝導層内で前記内側の環状領域から前記外側の環状領域に向かって前記比熱抵抗R
thiを段階的に減少させる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの熱伝導層では、半径方向で前記ブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大35%まで延在する内側の環状領域に、10W/(m・K)~14W/(m・K)の熱伝導率λ
1を有する材料を配置し、前記環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、12W/(m・K)~26W/(m・K)の熱伝導率λ
2を有する材料を配置し、前記環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域に、24W/(m・K)~40W/(m・K)の熱伝導率λ
3を有する材料を配置する、請求項17から19までの少なくとも1項記載の方法。
【請求項21】
前記熱伝導層をレーザ肉盛溶接によって配置する前に、前記金属製の基体を少なくとも前記第1および/または前記第2の摩擦領域の一部領域で150℃~500℃の温度に加熱する、請求項17から20までの少なくとも1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両技術および産業設備技術の分野に関し、段階的に調整された熱伝導率と比熱抵抗とを有する少なくとも1つの熱伝導層を備えるブレーキディスクに関する。本発明は、また、本発明に係るブレーキディスクを製造するための方法にも関する。提案するブレーキディスクは、例えば、車両における内部通風式のブレーキディスクとして使用されてもよいし、産業ブレーキ用のまたは風力発電設備におけるブレーキディスクとして使用されてもよい。
【0002】
車両および産業設備における従来のブレーキディスクは、金属材料またはセラミック材料から成る一体形の形態のブレーキディスクとして形成されているか、または1種以上の金属材料またはセラミック材料から成る複合ブレーキディスクもしくは複数の部分から成るブレーキディスクとして形成されている。
【0003】
ブレーキディスクは、自動車において、回転する前車軸および後車軸に取り付けられ、このために、一方でリムに接触し、他方でホイールベアリングに接触する平らな当付け面を有している。
【0004】
さらに、ブレーキディスクは、ブレーキパッドと協働して制動作用を実現する摩擦面を備えた領域を有している。
【0005】
発生した熱をより良好に導出するために、ブレーキディスクは、例えば内部通風式のディスクブレーキとして形成されていてよい。このためには、ブレーキディスクが、ブレーキディスクハットの内側に相応の通風通路を有している。この通風通路は片側から空気を吸い込み、この空気がブレーキディスクを通流し、ブレーキディスクにおいて発生した熱を導出し、ひいては、制動ユニットの冷却を保証する。
【0006】
ブレーキディスクの摩耗防護および防食を改善するために、先行技術において種々異なる解決手段が提案される。
【0007】
独国特許出願公開第102008053637号明細書に基づき、ブレーキディスク用の摩擦リングが公知である。この公知の摩擦リングは、少なくとも部分的に被覆層を有している。この被覆層は、それぞれ異なる被覆層厚さを有する厚さ分布を有している。被覆層は、溶射法またはPVD法によって被着されている。
【0008】
独国特許出願公開第102005008569号明細書に基づき、摩擦要素を製造するための方法が公知である。この公知の方法では、摩擦要素基体が準備され、被覆層が被着される。この被覆層は、熱的な製造法で溶融される溶融合金を含んでいる。
【0009】
国際公開第2007/043961号に基づき、被覆された車両構成要素が公知である。この公知の車両構成要素は、実質的に金属製の基礎材料から製造されていて、少なくとも1つの作業面を備えている。この作業面は、5回の運動による相対運動時の摩擦摩耗に作用するように配置されていて、耐摩耗性の被覆層を備えている。構成部材は、50重量%よりは多くて99重量%よりは少ないモリブデンを含むカバー被覆層の点で特に優れている。この場合、残りは、好ましくは、アルミニウム、ホウ素、炭素、クロム、コバルト、ランタン、マンガン、ニッケル、ニオブ、酸素、ケイ素、タンタル、タングステン、イットリウムおよび通常の不純物を含む第1の群からの少なくとも1つの元素である。
【0010】
独国特許出願公開第102014006064号明細書に基づき、ねずみ鋳鉄基材と少なくとも1つのカバー層とを備えた構成部材が公知である。この公知の構成部材では、基材と1つのカバー層との間でねずみ鋳鉄基材に表面層が直接形成されている。この表面層は、窒化物含有、炭化物含有および/または酸化物含有の層を有している。カバー層は、金属母材のサーメット材料と、このサーメット材料内に分配されていて、サーメット材料の30~70重量%である酸化物セラミック成分とから成っている。
【0011】
独国特許出願公開第102014015474号明細書に基づき、少なくとも摩擦面に配置された複数の表面層を有するねずみ鋳鉄基材を備えたブレーキディスクが公知である。この公知のブレーキディスクでは、ねずみ鋳鉄基材上の表面層が、基材から外面に向かって連続して、少なくとも付着層と、窒化、窒化処理または軟窒化された付着層材料および場合によりねずみ鋳鉄材料から成る防食層と、実質的に酸化鉄から成る任意選択的な酸化物層と、酸化物セラミックまたはサーメット材料から成る摩耗防護層または摩擦層とを有している。付着層は、20~60重量%に高められた割合のCrおよび/またはMoを含むねずみ鋳鉄基材の材料から形成されている。この場合、付着層内のねずみ鋳鉄のラメラ構造の炭素の主な割合は、Crおよび/または炭化Moとして化学結合されて存在している。
【0012】
公知の解決手段によって、実質的にねずみ鋳鉄から成る金属製の基体の種々異なる被覆層が提供され、この被覆層によって、ブレーキディスクの防食および摩耗防護の改善が可能となる。
【0013】
しかしながら、特にますます重要になる、エネルギー回収のために回生を利用するエレクトロモビリティのブレーキでは、必要な運転温度が、ブレーキディスクとブレーキパッドとの協働中に達成されないという欠点がある。なぜならば、エネルギー変換に基づき、制動装置に極めて稀にしか負荷がかけられないからである。これによって、制動装置全体の完全な故障に至るまで、制動出力が悪化してしまう。
【0014】
さらに、先行技術から、実質的に硬質材料層として形成された種々異なる形態で提案されたブレーキディスク被覆層に基づき、ブレーキディスクと協働するブレーキパッドの適切な材料組合せが常に高価であり、ブレーキディスクの既存の被覆層に手間をかけて適合させられなければならないという欠点がある。
【0015】
そしてまた、ブレーキディスクでは、それぞれ異なる入熱に基づき、温度ピークによって摩擦面の部分領域に生じるブレーキディスクの内部の応力が発生するという欠点もある。これによって、不都合にも、ブレーキディスクが歪んでしまい(傘状変形現象またはコーニングとも呼ばれる)、これによって、さらには、特に一番上側の硬質材料層に亀裂形成が生じてしまう。
【0016】
本発明の課題は、先行技術の欠点を排除した新規のブレーキディスクを提供することである。
【0017】
この課題は、特許請求の範囲に記載した本発明によって解決される。有利な構成は、従属請求項の対象である。本発明は、AND結合の意味での個々の従属請求項の組合せも包括するが、ただし、この組合せが、相反する事項として排除されない場合に限る。
【0018】
本発明による課題は、ブレーキディスクであって、金属製の基体を備え、この金属製の基体は、ブレーキディスクを回転軸に取り付けるための環状に形成された少なくとも1つの取付け要素と、回転軸に近い方にあり、円形面として形成された第1の摩擦領域と、この第1の摩擦領域と直径方向で反対側にあり、回転軸から遠い方に配置された第2の摩擦領域とを有し、金属製の基体は、第1および第2の摩擦領域の領域に、環状に形成された少なくとも1つの熱伝導層を有し、この熱伝導層には、少なくとも1つの、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層が配置されており、少なくとも1つの熱伝導層は、金属製の基体にレーザ肉盛溶接によって配置されていて、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、熱伝導層にレーザ肉盛溶接によって配置されており、これによって、層同士の材料接続的な結合が実現されており、熱伝導層は、少なくとも2つの異なる材料から成っており、熱伝導率λが、熱伝導層の内部で段階的に調整されており、少なくとも第1および/または第2の摩擦領域の内側の環状領域には、熱伝導率λ1を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在しており、第1および/または第2の摩擦領域の外側の環状領域には、熱伝導率λ2を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在しており、少なくともλ1<λ<λ2である、ブレーキディスクによって解決される。
【0019】
本発明による課題は、また、ブレーキディスクであって、金属製の基体を備え、この金属製の基体は、ブレーキディスクを回転軸に取り付けるための環状に形成された少なくとも1つの取付け要素と、回転軸に近い方にあり、円形面として形成された第1の摩擦領域と、この第1の摩擦領域と直径方向で反対側にあり、回転軸から遠い方に配置された第2の摩擦領域とを有し、金属製の基体は、第1および/または第2の摩擦領域の領域に、環状に形成された少なくとも1つの熱伝導層を有し、この熱伝導層には、少なくとも1つの、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層が配置されており、少なくとも1つの熱伝導層は、金属製の基体にレーザ肉盛溶接によって配置されていて、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、熱伝導層にレーザ肉盛溶接によって配置されており、これによって、層同士の材料接続的な結合が実現されており、少なくとも1つの熱伝導層は、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、段階的に形成された層厚さdswを有し、これによって、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって熱伝導層内で比熱抵抗Rthiが減少している、ブレーキディスクによっても解決される。
【0020】
有利には、少なくとも2つの熱伝導層が配置されており、金属製の基体に第1の熱伝導層が配置されていて、この第1の熱伝導層に第2の熱伝導層が配置されており、少なくとも第2の熱伝導層は、それぞれトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層と第1の熱伝導層とに対する境界面領域を形成している。
【0021】
ブレーキディスクの別の有利な構成では、回転軸に近い方の摩擦領域に設けられた少なくとも1つの熱伝導層および/またはトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、回転軸から遠い方の摩擦領域に設けられた少なくとも1つの熱伝導層および/または負荷がかかることがある硬質材料層に対して異なる層厚さを有して形成されている。
【0022】
また、有利には、少なくとも1つの熱伝導層では、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大40%まで延在する内側の環状領域に、10W/(m・K)~14W/(m・K)の熱伝導率λ1を有する材料が存在していて、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、12W/(m・K)~26W/(m・K)の熱伝導率λ2を有する材料が存在していて、環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域に、24W/(m・K)~40W/(m・K)の熱伝導率λ3を有する材料が存在している。
【0023】
少なくとも1つの熱伝導層は、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、連続的または急激に増加する層厚さdswを有しても有利である。
【0024】
有利には、少なくとも1つの熱伝導層は、50μm~500μmの層厚さdswi、特に有利には100μm~150μmの層厚さdswiを有する。
【0025】
さらに、熱伝導層は、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大40%まで延在する内側の環状領域に、環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さdsw3に比べて10%~15%大きい層厚さdsw1を有し、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さdsw3に比べて5%~10%大きい層厚さdsw2を有し、熱伝導層およびトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層に基づく層組成は一定であると有利である。
【0026】
有利には、熱伝導層は、Al基合金、Fe基合金、Ni基合金、Cr基合金および/またはCu基合金から製造されている。
【0027】
同じく有利には、少なくとも熱伝導層は、炭化物のかつ/または酸化物セラミックの硬質材料粒子を付加的に含む。この場合、有利には、熱伝導層の硬質材料粒子は、0.5μm~120μmの平均粒度D50を有する。この場合、同じく有利には、熱伝導層内の硬質材料粒子の体積割合が、1%~80%、特に有利には30%~50%である。
【0028】
ブレーキディスクの有利な構成では、熱伝導層として、軸線方向において、半径方向の一部領域と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層に対する境界面領域とにおける熱伝導率が最も低く、別の熱伝導層または金属製の基体に対する境界面領域における熱伝導率が最も高い合金が存在している。
【0029】
有利には、少なくとも金属製の基体と少なくとも第1の熱伝導層との間に付着層が存在している。
【0030】
さらに、有利には、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、少なくとも50μm~500μmの層厚さdsH、特に有利には200μm~250μmの層厚さdSHを有する。
【0031】
有利には、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層は、サーメット、特に有利には炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化クロムおよび/または酸化物セラミック、全く特に有利には15質量%以下のNi割合を有する材料群4または5の特殊鋼母材を含む炭化タングステンから成っている。
【0032】
本発明による課題は、さらに、本発明により請求するブレーキディスクを製造するための方法であって、少なくとも金属製の基体にレーザビーム肉盛溶接によって少なくとも部分的に第1の熱伝導層を材料接続的に配置し、引き続き、この第1の熱伝導層に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層を材料接続的に配置し、このとき、少なくとも2つの異なる材料から成る熱伝導層を配置して、この熱伝導層の内部で熱伝導率λiを段階的に調整し、これによって、熱伝導層が、半径方向において増加する熱伝導率λを有し、少なくとも第1および/または第2の摩擦領域の内側の環状領域に、熱伝導率λ1を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金を配置し、第1および/または第2の摩擦領域の外側の環状領域に、熱伝導率λ2を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金を配置し、最終的に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層の表面を加工する、方法によって解決される。
【0033】
さらに、本発明によれば、少なくとも金属製の基体にレーザビーム肉盛溶接によって少なくとも部分的に第1の熱伝導層を材料接続的に配置し、引き続き、この第1の熱伝導層に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層を材料接続的に配置し、これによって、層同士の材料接続的な結合を実現し、少なくとも1つの熱伝導層を、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、段階的に形成された層厚さdswで配置し、これによって、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって熱伝導層内で比熱抵抗Rthiを減少させる。
【0034】
方法の有利な構成では、第1のステップにおいて、熱伝導層を、半径方向において、環状面の最大35%まで延在する内側の環状領域に、環状面の60%からブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さds3に比べて10%~15%大きい層厚さds1で配置し、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、環状面の60%からブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さds3に比べて5%~10%大きい層厚さds2で配置し、これによって、熱伝導層内で内側の環状領域から外側の環状領域に向かって比熱抵抗Rthiを段階的に減少させる。
【0035】
有利には、少なくとも1つの熱伝導層では、半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、環状面の最大35%まで延在する内側の環状領域に、10W/(m・K)~14W/(m・K)の熱伝導率λ1を有する材料を配置し、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、12W/(m・K)~26W/(m・K)の熱伝導率λ2を有する材料を配置し、環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域に、24W/(m・K)~40W/(m・K)の熱伝導率λ3を有する材料を配置する。
【0036】
熱伝導層をレーザ肉盛溶接によって配置する前に、金属製の基体を少なくとも第1および/または第2の摩擦領域の一部領域で150℃~500℃の温度に加熱すると特に有利である。
【0037】
本発明による解決手段によって、特に熱収支がブレーキディスク全体において効率よく制御され、ブレーキディスクの内部での温度分布の均一化と同時に制動出力の改善が可能となる新規のブレーキディスクが提供される。さらに、新たなブレーキディスクによって、熱応力および亀裂形成が簡単に有効に阻止される。この場合、ブレーキディスクへの入熱が均一に分配され、ブレーキディスクの内部での温度分布が調整されて行われる。
【0038】
新規に形成されたブレーキディスクは、産業設備、風力発電設備および特に車両に使用可能である。なお、車両とは、乗用車だけでなく、トラック、小型自動車および自転車も意味している。
【0039】
本発明に係るブレーキディスクは、金属製の基体を有している。この金属製の基体は、ブレーキディスクを回転軸に取り付けるための環状に形成された取付け要素と、回転軸に近い方にあり、円形面として形成された第1の摩擦領域と、この第1の摩擦領域と直径方向で回転軸から遠い方にあり、同じく円形面として形成された第2の摩擦領域とを有している。さらに、ブレーキディスクは、第1および/または第2の摩擦領域に、本発明により形成された少なくとも1つの熱伝導層と、この熱伝導層に配置された少なくとも1つの、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層とを有している。
【0040】
制動動作時には、典型的な温度特性マップが形成される。
【0041】
ブレーキディスクを回転軸に取り付けるための環状に形成された取付け要素が、金属製の基体の第1および第2の摩擦領域よりも著しく少ない熱負荷を有していることが確認された。
【0042】
環状に形成された取付け要素のより少ない熱負荷は、金属製の基体の材料に起因している。取付け要素は、通常、金属製の基体と同様にねずみ鋳鉄から製作されていて、ひいては、約50W/(m・K)の範囲内の高い熱伝導率λを有している。
【0043】
これと異なり、特に第1および第2の摩擦領域の外側の環状領域における温度は、ブレーキディスクの内側の環状領域における温度よりも常に高い。なぜならば、発生した摩擦熱が、内側の環状領域から、接触していて、隣接して配置された環状に形成された取付け要素に直接導出されるからである。
【0044】
制動動作の際に回転軸から遠い方にある第2の摩擦領域が、制動動作の際に直径方向で配置されている第1の摩擦領域に比べて常に高い温度を有していることを見出すことができた。驚くべきことに、第1の摩擦領域と第2の摩擦領域との間に生じた温度差によって、不都合にも、ブレーキディスクが温度勾配に基づき歪み(傘状変形現象、コーニング)、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層の表面が波形に変形し、これによって、硬質材料層の内部に亀裂形成が生じてしまうことを確認することができた。
【0045】
トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層とブレーキディスク全体との均一な熱分布および熱負荷ならびに補償された熱収支を達成するために、本発明によれば、金属製の基体とトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層との間に、半径方向で、環状に形成された取付け要素からブレーキディスクの外周に向かって、段階的に調整された熱伝導率λiと、段階的に調整された比熱抵抗Rthiとを有する特殊に形成された少なくとも1つの熱伝導層を配置することが提案される。
【0046】
このことは、本発明によれば、少なくとも1つの熱伝導層が、それぞれ異なる熱伝導率を有する少なくとも2つの異なる材料から成っていることによって達成される。この点に関して、熱伝導率λiは、熱伝導層の内部で段階的に調整されている。この場合、少なくとも第1および/または第2の摩擦領域の内側の環状領域には、熱伝導率λ1を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在している。第1および/または第2の摩擦領域の外側の環状領域には、熱伝導率λ2を有する金属材料またはセラミック材料および/または金属合金が存在している。基本的に、熱伝導層の材料を選択する際には、ブレーキディスクの半径方向において、内側の環状領域における熱伝導率λ1が、外側の環状領域における熱伝導率λ2よりも常に低いことが認められている。この点に関して、本発明によれば、λ1<λ<λ2である。
【0047】
したがって、熱伝導層の内部の金属材料またはセラミック材料および/または金属合金の種々異なる選択によって、ブレーキディスクの内側の環状領域では、発生した制動熱が、低い熱伝導率λ1を有する領域によって遅らされて導出され、これによって、この領域でブレーキディスクの温度調整および使用準備がより迅速になる。これと異なり、ブレーキディスクの外側の環状領域では、発生した制動熱が、高い熱伝導率λ2を有する材料によって、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層から金属製の基体に迅速に導出され、これによって、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層が迅速に冷却され、特に外側の環状領域での熱ピーク負荷の阻止によって、ブレーキディスクの耐用年数が改善される。
【0048】
特に制動エネルギーの回生の利用と、これに結び付けられるより少ない回数の制動動作とを伴う車両において、制動装置の迅速な使用準備を達成するために、各々の熱伝導層は、少なくとも半径方向でブレーキディスクの外周に向かって、熱伝導率λiに関して区別された複数の異なる材料領域を有していてもよい。
【0049】
種々異なる材料ひいてはそれぞれ異なる熱伝導率λ1,λ2・・・λiを有する複数の領域によって、熱伝導層の内部の熱伝導率の連続的な段階付けまたは急激な段階付けも達成される。
【0050】
熱伝導層の材料のうちの、第1および/または第2の摩擦領域の内側の環状領域に配置された少なくとも1つの材料のより低い熱伝導率λ1によって、発生した摩擦熱が、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層と熱伝導層とにおいて、この特殊な内側の環状領域に蓄えられる。これによって、硬質材料層の該当する内側の環状領域において、一種の断熱効果によってブレーキディスクの運転温度がより迅速に達成され、ブレーキディスクのより迅速な運転温度が可能となる。
【0051】
通常、ブレーキディスクに生じる、特にトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層における内側の環状領域と外側の環状領域との間の温度勾配は、熱伝導層におけるそれぞれ異なる値に調整された熱伝導率λiとそれぞれ異なる値に調整された比熱抵抗Rthiとによって補償され、ブレーキディスクの内部の温度が均一化される。これによって、耐用年数が改善され、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層の全面にわたる均等な制動作用が達成される。
【0052】
本発明の有利な構成では、少なくとも2つの熱伝導層が、少なくとも第1および/または第2の摩擦領域に配置されており、金属製の基体に1つの熱伝導層が被着されていて、前もって配置されたこの熱伝導層に別の熱伝導層が被着されていてよい。この場合、一番上側の熱伝導層は、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層と、金属製の基体に配置された熱伝導層とに対するそれぞれ1つの境界面を形成している。
【0053】
この構成では、複数の熱伝導層の場合、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層との材料接続的な結合を形成する少なくとも最後に配置された熱伝導層が、この熱伝導層の内部に段階的な熱伝導率λiひいては比熱抵抗Rthiも有していることが重要となる。これによって、特に、制動動作時に、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層において外側の環状領域に発生する熱負荷が回避され、発生した制動熱が、外側の環状領域から金属製の基体に意図的に導出されるのに対して、内側の環状領域では、熱が意図的に遅らされて導出され、その際、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層内で案内されて、最適な運転温度が得られることが達成される。
【0054】
有利には、熱伝導層は、半径方向において、環状面の最大40%まで延在する内側の環状領域に、10W/(m・K)~14W/(m・K)の熱伝導率λ1を有する材料が存在していて、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、12W/(m・K)~26W/(m・K)の熱伝導率λ2を有する材料が存在していて、環状面の60%から外周にまで延在する外側の環状領域に、24W/(m・K)~40W/(m・K)の熱伝導率λ3を有する材料が存在しているように形成されている。
【0055】
この点に関して、第1および/または第2の摩擦領域に設けられた少なくとも1つの熱伝導層は、制動動作時のそれぞれ異なる温度を考慮したそれぞれ異なる熱伝導率λiを有している。
【0056】
本発明により提案されたレーザ肉盛溶接の被覆法によって、特に有利な技術的な作用および効果が得られる。
【0057】
1つには、配置すべき複数の層、つまり、少なくとも1つの熱伝導層と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層との間ならびに少なくとも1つの熱伝導層と金属製の基体との間に材料接続的な結合が形成される。これによって、層同士の間のより良好な伝熱および層相互のより良好な結合が可能になるという利点が得られる。さらに、改善された防食および摩耗防護が実現される。
【0058】
さらに、特に本発明により提案されたレーザ肉盛溶接によって、熱伝導層の調整すべき熱伝導率λiおよび調整すべき比熱抵抗Rthiの段階付けを簡単に達成することができる。これによって、特にブレーキディスク周面に向かう半径方向の構成で熱伝導率の連続的または急激な調整が可能となる。レーザ肉盛溶接によって、被着中、それぞれ異なる熱伝導率λiおよび比熱抵抗Rthiを有する連続的または不連続に異なる材料を1回の製造プロセスで第1および第2の摩擦領域に配置することが可能となる。さらに、レーザ肉盛溶接によって、ブレーキディスクに設けられる各々の熱伝導層の層厚さdsが変えられ、ひいては、比熱抵抗Rthiもブレーキディスクの規定の環状領域で個別に調整されることが可能となる。
【0059】
本発明による熱伝導層用の材料としてのAl基合金、Fe基合金、Ni基合金、Cu基合金および/またはCr基合金は、合金元素または金属材料もしくはセラミック材料の組成に関して、熱伝導率λiひいては比熱抵抗Rthiを少なくとも半径方向および軸線方向で連続的または急激に段階付けてレーザ肉盛溶接法によって調整することができるという利点を提供する。
【0060】
したがって、例えば、ブレーキディスクの第1または第2の摩擦領域のより高い熱負荷がかかる領域に、高い熱伝導率λiもしくは低い比熱抵抗Rthiを有する材料を配置し、過度に低い熱負荷を伴う領域に、高い比熱抵抗Rthiもしくは低い熱伝導率λiを有する材料を使用するために、レーザ肉盛溶接による熱伝導層の配置によって、材料組成、比熱抵抗Rthiおよび熱伝導率λiを可変に調整することが可能となる。
【0061】
ブレーキディスクの熱的な均一化の別の可能性として、本発明によれば、ただ一種類の材料から成る熱伝導層を提供し、この熱伝導層の層厚さdswを半径方向でブレーキディスクの外周に向かって段階的に形成することが提案される。これによって、熱伝導層の内部の比熱抵抗Rthiが、それぞれ異なる値に調整されていて、第1および第2の摩擦領域の所望の温度特性マップに適合させられている。
【0062】
特に有利な構成では、熱伝導層が、半径方向において、環状面の最大35%まで延在する内側の環状領域に、環状面の60%からブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さdsw3に比べて10%~15%大きい層厚さdsw1を有していて、環状面の30%から最大65%まで延在する中間の環状領域に、環状面の60%からブレーキディスクの外周にまで延在する外側の環状領域における層厚さdsw3に比べて5%~10%大きい層厚さdsw2を有している。
【0063】
少なくとも1つの熱伝導層のそれぞれ異なる層厚さdswを提供することによって、望ましくない傘状変形現象、つまり、第1および第2の摩擦領域の傾倒と、これに結び付けられる、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層に波形の形成を生じさせるディスクブレーキ全体の歪みとが阻止される。さらに、それぞれ異なる比熱抵抗Rthiによって、ブレーキディスクにおける熱収支が個別に調整されていることが達成される。
【0064】
別の有利な構成では、熱伝導層が、硬質材料粒子を付加的に含んでいる。この硬質材料粒子によって、熱伝導層の強度および硬さひいては第1および第2の摩擦領域における層構造が改善される。特に有利には、硬質材料粒子が、0.5μm~120μmの平均粒度D50を有していて、さらに、1%~80%、特に有利には30%~50%の体積割合で存在していてよい。
【0065】
有利には、少なくとも金属製の基体と少なくとも第1の熱伝導層との間に付着層が存在しているブレーキディスクが提供される。付着層によって、金属製の基体への第1の熱伝導層の結合が改善され、これによって、金属製の基体の表面の機械的な下準備を不要にすることができる。また、個々の層相互の付着および層構造全体の付着強度を改善するために、熱伝導層同士の間および/または熱伝導層とトライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層との間に付着層が設けられていることも可能である。
【0066】
ブレーキディスクの廉価な製造および長い耐用年数のためには、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層が、少なくとも50μm~500μmの層厚さdSH、全く特に有利には200μm~250μmの層厚さdSHを有していると有利である。この場合、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層が、サーメット、例えば炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化クロムおよび/または酸化物セラミックであり、特に有利には15質量%以下のNi割合を有する材料群4または5の特殊鋼母材を含む炭化タングステンであると特に有利であると判った。
【0067】
熱伝導層を金属製の基体に配置する際には、摩擦領域が熱に起因して歪み、これによって、前述した傘状変形現象が生じてしまうことが確認された。このことを阻止するために、有利には、レーザ肉盛溶接による熱伝導層の材料接続的な配置に先だって行われる熱処理プロセスにおいて、金属製の基体を少なくとも第1および/または第2の摩擦領域の一部領域で150℃~500℃の温度に加熱することが提案される。これによって、ブレーキディスクの内部に生じる熱応力を最小限に抑えることができる。さらに、金属製の基体への熱伝導層の材料結合の改善が達成される。さらに、金属製の基体を先だって加熱することによって、レーザ肉盛溶接時のレーザ強度を低下させることができる。そして、このことは、硬質材料層内での炭化物の損傷なしの統合にプラスの影響を与える。より低いレーザ出力を有するレーザによって、製造コストがより少なくなる。
【0068】
本発明による解決手段によって、複数の技術的な利点および作用が達成される新たなブレーキディスクが提供される。
【0069】
金属製の基体の第1および/または第2の摩擦領域に設けられた少なくとも1つの熱伝導層は、それぞれ異なる層厚さを有する種々異なる材料またはただ一種類の材料を有している。この材料はその熱伝導率および/または比熱抵抗において異なっていて、ひいては、ブレーキディスクの個々の領域に熱的な影響を与えることを可能にする。この場合、少なくとも1つの熱伝導層の種々異なる材料またはそれぞれ異なる層厚さは、熱伝導率が、半径方向で少なくともブレーキディスクの外周に向かって増加しているか、もしくは比熱抵抗が、半径方向で少なくともブレーキディスクの外周に向かって連続的または急激に減少しているように段階的に調整されている。このことは、
- ブレーキディスクの個々の領域における熱負荷ピークが的確に回避され、
- ブレーキディスクの内部に均一な温度分布が発生させられ、
- ブレーキディスクの歪みおよび亀裂形成が阻止され、
- より迅速な使用準備および制動出力が提供され、
- ブレーキディスクのより長い耐用年数が達成される
という利点を提供する。
【0070】
以下に、本発明を3つの実施例に基づき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】ブレーキディスクの概略的な横断面図である。
【
図2】第1および第2の摩擦領域の詳細部分図である。
【
図3】熱伝導層の一定の層厚さおよび段階的に調整された材料組成と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層とを有するブレーキディスクの被覆層の概略図である。
【
図4】内側、中間および外側の環状領域を有する段階的な熱伝導層を備えたブレーキディスクの軸線方向の平面図である。
【
図5】熱伝導層の段階的な層厚さと、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層とを有する概略的な層構造を示す図である。
【
図6】熱伝導層の段階的に調整された層厚さおよび熱伝導層の段階的に調整された材料組成の組合せと、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層とを有する概略的な層構造を示す図である。
【
図7】互いに重なり合って位置する段階的に調整された2つの熱伝導層を備えた概略的な層構造を示す図である。
【0072】
実施例1
図1および
図2には、ねずみ鋳鉄から成る金属製の基体1と、取付け要素12と、金属製の基体1の両面に直径方向で配置された熱伝導層4,6と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8とを備えたブレーキディスクの横断面図が概略的に示してある。
【0073】
回転軸14に近い方の第1の熱伝導層4(
図3)は、Fe基合金から成っており、回転軸14から遠い方の第1の熱伝導層6は、Ni基合金から成っている。この場合、熱伝導層4,6は、ねずみ鋳鉄から成る金属製の基体1にレーザ肉盛溶接によって配置されている。
【0074】
各々の熱伝導層4,6には、120μmの平均的な層厚さおよび78W/(m・K)の熱伝導率λを有する材料番号DIN EN 1.4016(430L)の特殊鋼母材を含む炭化タングステンから成る、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8が配置されている。
【0075】
図4には、ブレーキディスクの平面図が示してある。ブレーキディスクは、直径方向で配置された2つの熱伝導層4,6、つまり、回転軸に近い方の第1の熱伝導層4と、回転軸14から遠い方の熱伝導層6とを有している。
【0076】
回転軸14に近い方の第1の熱伝導層4は、半径方向において、それぞれ異なる材料を含む全部で3つの環状領域9,10,11を有している。この熱伝導層4の第1の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の35%を含む内側の環状領域9に10W/(m・K)の熱伝導率λ1を有しており、第2の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の35~60%を含む中間の環状領域10に25W/(m・K)の熱伝導率λ2を有しており、第3の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の60%から外周までを含む外側の環状領域11に55W/(m・K)の熱伝導率λ3を有している。
【0077】
回転軸14から遠い方の熱伝導層6は、半径方向において、それぞれ異なる材料を含む同じく全部で3つの環状領域9,10,11を有している。回転軸14から遠い方の熱伝導層6の第1の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む内側の環状領域9に12W/(m・K)の熱伝導率λ1を有しており、第2の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%~45%を含む中間の環状領域10に23W/(m・K)の熱伝導率λ2を有しており、第3の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の45%から外周までを含む外側の環状領域11に48W/(m・K)の熱伝導率λ3を有している。
【0078】
回転軸14に近い方の第1の熱伝導層4は、
図3および
図6に示したように、半径方向において、コンスタントに減少する層厚さd
swを有している。この場合、最小の層厚さd
sw3は、摩擦領域の外周に90μmで存在しており、最大の層厚さd
sw4は、摩擦領域の内周に145μmで存在している。
【0079】
回転軸14から遠い方の熱伝導層6は、
図3および
図6に示したように、半径方向において、120μmである一定の層厚さd
swを有している。
【0080】
熱伝導層4,6を配置することによって、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8において均一な熱収支が可能となり、この熱収支によって、摩擦領域2,3の環状面全体において、より迅速な熱的な使用準備が可能となる。さらに、段階的に調整された熱伝導層4,6と、それぞれ異なる層厚さとによって、傘状変形現象の発生が阻止される。これによって、ブレーキディスクにおける亀裂形成が阻止される。
【0081】
実施例2
図1および
図2には、ねずみ鋳鉄から成る金属製の基体1と、取付け要素12と、金属製の基体の両面に直径方向で配置された熱伝導層4,6と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8とを備えたブレーキディスクの横断面図が概略的に示してある。
【0082】
回転軸14に近い方の第1の熱伝導層4(
図3)は、Cr基合金から成っており、回転軸14から遠い方の熱伝導層は、Cu基合金から成っている。この場合、熱伝導層4,6は、ねずみ鋳鉄から成る金属製の基体1にレーザ肉盛溶接によって配置されている。
【0083】
各々の熱伝導層4,6には、120μmの平均的な層厚さおよび78W/(m・K)の熱伝導率λを有する材料番号DIN EN 1.4016(430L)の特殊鋼母材を含む炭化タングステンから成る、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8が配置されている。
【0084】
図4には、ブレーキディスクの平面図が示してある。ブレーキディスクは、直径方向で配置された2つの熱伝導層、つまり、回転軸14に近い方の熱伝導層4と、回転軸14から遠い方の熱伝導層6とを有している。
【0085】
回転軸14に近い方の熱伝導層4は、半径方向において、それぞれ異なる材料を含む全部で3つの領域9,10,11を有している。この熱伝導層4の第1の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む内側の環状領域9に12W/(m・K)の熱伝導率λ1を有しており、熱伝導層の第2の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の40%を含む中間の環状領域10に23W/(m・K)の熱伝導率λ2を有しており、熱伝導層の第3の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む外側の環状領域11に36W/(m・K)の熱伝導率λ3を有している。
【0086】
回転軸14から遠い方の熱伝導層6は、半径方向において、それぞれ異なる材料を含む全部で3つの領域9,10,11を有している。この熱伝導層の第1の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む内側の環状領域9に12W/(m・K)の熱伝導率λ1を有しており、熱伝導層の第2の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の40%を含む中間の環状領域に23W/(m・K)の熱伝導率λ2を有しており、熱伝導層の第3の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む外側の環状領域11に36W/(m・K)の熱伝導率λ3を有している。
【0087】
回転軸14から遠い方の熱伝導層6と、回転軸14に近い方の熱伝導層4とは、
図5によれば、半径方向において、コンスタントに減少する層厚さd
swを有している。この場合、最小の層厚さd
sw1,d
sw3は、摩擦領域の外周に80μmで存在しており、最大の層厚さd
sw2,d
sw4は、摩擦領域の内周に160μmで存在している。
【0088】
熱伝導層4,6を配置することによって、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層7において均一な熱収支が可能となり、この熱収支によって、摩擦領域2,3の環状面全体において、より迅速な熱的な使用準備が可能となる。さらに、段階的に調整された熱伝導層4,6と、それぞれ異なる層厚さとによって、傘状変形現象の発生が阻止される。これによって、ブレーキディスクにおける亀裂形成が阻止される。
【0089】
実施例3
図7には、金属製の基体1に、互いに異なる2つの熱伝導層4,5と、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8とが配置された第1の摩擦領域2または第2の摩擦領域3が示してある。
【0090】
熱伝導層5は、段階なしのAl基合金から成っていて、金属製の基体1に配置されている。熱伝導層4は、熱伝導層5に配置されていて、Cu基合金から成っている。
【0091】
熱伝導層5は、半径方向において、それぞれ異なる材料を含む全部で3つの領域9,10,11を有している。この熱伝導層の第1の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む内側の環状領域9に12W/(m・K)の熱伝導率λ1を有しており、熱伝導層の第2の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の40%を含む中間の環状領域10に23W/(m・K)の熱伝導率λ2を有しており、熱伝導層の第3の材料は、半径方向において、摩擦領域の環状面の30%を含む外側の環状領域11に36W/(m・K)の熱伝導率λ3を有している。
【0092】
熱伝導層5は、半径方向において、120μmの平均的な層厚さdswを有する一定の層高さを有している。
【0093】
熱伝導層4,5を配置することによって、トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層8において均一な熱収支が可能となり、この熱収支によって、摩擦領域2,3の環状面全体において、より迅速な熱的な使用準備が可能となる。さらに、段階的に調整された熱伝導層4,5と、それぞれ異なる層厚さとによって、傘状変形現象の発生が阻止される。これによって、ブレーキディスクにおける亀裂形成が阻止される。
【符号の説明】
【0094】
1 金属製の基体
2 回転軸に近い方の第1の摩擦領域
3 回転軸から遠い方の第2の摩擦領域
4 回転軸に近い方の第1の熱伝導層
5 回転軸に近い方の第2の熱伝導層
6 回転軸から遠い方の第1の熱伝導層
7 回転軸から遠い方の第2の熱伝導層
8 トライボロジーに関する負荷がかかることがある硬質材料層
9 内側の環状領域
10 中間の環状領域
11 外側の環状領域
12 取付け要素
13 通風通路
14 回転軸