(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】ロボットの制御装置、制御方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/16 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
B25J9/16
(21)【出願番号】P 2023507520
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2022039158
【審査請求日】2023-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 優希
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-110731(JP,A)
【文献】特開2000-79537(JP,A)
【文献】国際公開第2022/172873(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、
前記ワークの位置の修正時に、前記ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記ワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、
前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、
前記力制御を行ったときの第2のワークの位置及び姿勢と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢との差が第2の閾値を超えたことを前記
制御装置が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、
を備える、制御装置。
【請求項3】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、
前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、
記録した前記第1のワークの位置及び姿勢となるように第2のワークの位置及び姿勢を修正する位置制御を行う機能と、
前記位置制御後の前記第2のワークを前記固定機構で固定したときに前記第2のワークに作用する力又は
モーメントが第3の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、
を備える、制御装置。
【請求項4】
前記異物が噛み込んでいると判断したときに前記固定機構を洗浄するための指令を出力する機能をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記異物が噛み込んでいると判断したときにアラームを出力する機能をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の制御装置と、前記制御装置によって制御されるロボットとを含む、ロボットシステム。
【請求項7】
前記異物の噛み込みを検出したときに前記固定機構を洗浄する洗浄装置を備える、請求項6に記載のロボットシステム。
【請求項8】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、
前記ワークの位置の修正時に、前記ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記ワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、
を含む、制御方法。
【請求項9】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、
前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録することと、
前記力制御を行ったときの第2のワークの位置及び姿勢と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢との差が第2の閾値を超えたことを前記
ロボットの制御装置が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、
を含む、制御方法。
【請求項10】
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、
前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、
前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録することと、
記録した前記第1のワークの位置及び姿勢となるように第2のワークの位置及び姿勢を修正する位置制御を行うことと、
前記位置制御後の前記第2のワークを前記固定機構で固定したときに前記第2のワークに作用する力又は
モーメントが第3の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、
を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットの制御装置、制御方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の機械に作業対象物を供給するための手段として、ロボットを使用することがある。例えば、工作機械が装備するチャック機構に、加工対象であるワークをロボット装置により供給する技術が周知である(例えば特許文献1)。
【0003】
また、物体を固定装置に着座させる際に、該物体と該固定装置との間に介在する異物を検出する技術が提唱されている(例えば特許文献2)。
【0004】
さらに、2台のロボットの各々にワークを把持させ、一方のワークに他方のワークを嵌合させる際に、力制御を使用する技術も提唱されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2022/172873号
【文献】特開2015-104759号公報
【文献】特開2018-024049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットが保持しているワークを、工作機械のチャック等の固定機構に供給する際に、固定機構又はワークに切粉や破片等の異物が付着したり噛み込んだりしていると、ワークと固定機構との間に異物が挟まった状態でワークが固定されてしまい、ワークの加工精度が悪化することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記ワークの位置の修正時に、前記ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記ワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置である。
【0008】
本開示の他の態様は、保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、前記力制御を行ったときの第2のワークの位置及び姿勢と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢との差が第2の閾値を超えたことを前記制御装置が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置である。
【0009】
本開示のさらなる他の態様は、保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢となるように第2のワークの位置及び姿勢を修正する位置制御を行う機能と、前記位置制御後の前記第2のワークを前記固定機構で固定したときに前記第2のワークに作用する力又はモーメントが第3の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るロボットシステムの要部の概略図である。
【
図2】ワークの姿勢修正を行った状態を示す図である。
【
図3】ワークをチャックで固定した状態を示す図である。
【
図4】第1実施例における処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施例における処理を示すフローチャートである。
【
図6】第3実施例における処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、好適な実施形態に係るロボットシステム10の要部の概略図である。ロボットシステム10は、ロボット12と、ロボット12を制御するロボット制御装置14とを有する。
図1ではロボット12の構成要素のうち、可動部すなわちロボットアーム16、及びロボットアーム16の先端に設けられたロボットハンド18のみを図示し、他の構成要素は図示を省略している。ロボット12、例えば6つの駆動軸を有する産業用の垂直多関節ロボットであるが、本開示はこれに限られず、任意の機構にて位置及び姿勢を変更可能なロボットが使用可能である。
【0012】
ロボット12は、工作機械20に加工対象物であるワーク22を供給するように構成されており、
図1では工作機械20のワーク固定機構(例えばチャック)24のみが示されている。ロボットハンド18は、ワーク22を把持する把持機構26を有し、図示例では、略円筒形のワーク22を把持可能な複数の把持指を有する。またハンド18には、把持機構26又は把持機構26が把持しているワーク22に作用する力、曲げモーメント及び歪み等を検出する力検出部28を有する。力検出部28としては例えば、ワーク22に作用する外力及びモーメントの少なくとも一方を検出する3軸又は6軸の力覚センサが使用可能である。しかし力検出部はこれに限られず、例えばロボット12の各軸に設けたトルクセンサ(図示せず)、又はロボット12の各軸に備えられたモータの電流値に基づいてトルクを推定する手段(図示せず)を、力検出部として用いてもよい。
【0013】
工作機械20は、チャック24に固定されたワーク22に対して、切削加工等の所定の機械加工を行えるように構成されている。また工作機械20は、チャック24又はチャック24に固定されたワーク22に付着した切粉等の異物を除去すべく、チャック24に向けて圧気又はクーラント液等の流体を噴出するノズル30等の洗浄装置を備えることができる。但しノズル30と同等の機能を有するノズル等の洗浄装置を、ロボット12、又は図示しない他のロボットや周辺機器に設けることもできる。いずれの場合も洗浄装置は、後述する処理において、ロボット制御装置14が出力する指令に基づいて流体を噴出し、チャック24を洗浄することができる。
【0014】
工作機械20にワーク22を供給するロボットシステム10において、
図1に示すように、チャック24に切粉等の異物32が付着することがある。このような状態でワーク22をチャック24に固定すると、ワーク22とチャック24との間に異物32が噛み込んで、チャック24に対してワーク22の芯がずれてしまい、加工精度が低下することがある。またチャック24に異物が付着していなくても、ロボット12が把持しているワーク22に、前加工等に起因するワークの破片等の異物が付着していることもあり、このような場合も同様の問題が生じ得る。そこで以下の実施例では、このような異物の存在を検出する手段及び処理について説明する。
【0015】
なお本実施形態における異物とは、ワーク22とチャック24との間に噛み込むことで固定機構に対するワークの位置決め精度を低下させ、ひいては加工精度を低下させ得る物体を意味し、例えば、ワークの加工によって生じる切粉や破片、作業者の毛髪、作業環境によっては塵埃等が挙げられる。切粉は例えば、前ワークの加工時に生じたものがチャックに付着しているものが挙げられ、破片は例えば、前加工においてワークに付着したままのものが挙げられる。
【0016】
(第1実施例)
図4は、ロボットシステム10における第1実施例に係る処理の一例を示すフローチャートである。先ず、ロボット12が把持しているワーク22の位置及び姿勢を工作機械20のチャック24に対して適切な状態にする力制御を行うが、ここでは
図2に示すように、ワーク22を工作機械20の主軸やチャック24に押し付けてワーク22の姿勢を先ず修正し、次にチャック24が閉じる際にチャック24に倣ってワーク22の位置を修正する(ステップS11、S12)。
【0017】
次に、ステップS12すなわちワーク22の位置修正時に、上述の力検出部28が、ワーク22の姿勢を修正する方向に作用するモーメント(以下、姿勢修正モーメントと称する)を検知したか否かを判定する。ワーク22とチャック24との間に異物が介在していなければ、位置修正時に姿勢修正モーメントは発生しないが、
図1に示すような異物32が存在していると、位置修正時に有意な姿勢修正モーメントが発生する。よって力検出部28が所定閾値以上の姿勢修正モーメントを検知したときは、異物が存在していると判断できるので、ロボット12によるワーク22の供給作業を中断して、ステップS14に進んで異物を除去する作業を行うことが望ましい。
【0018】
ステップS13の具体的な処理としては、位置修正(ステップS12実行)時に力検出部28が検出している姿勢修正モーメントが所定の第1の閾値を超えた場合、ロボット制御装置14のプロセッサ等が、ワーク22とチャック24との間に異物が介在していると判断する。ここで第1の閾値は例えば、ワーク22の加工精度に影響しない範囲の最大値として決定することができ、例えば過去の実績等に基づいて経験的に定めることができる。逆に言えば、第1の閾値以下の姿勢修正モーメントが検出されても、噛み込んでいる異物は極めて微小であり、加工精度に影響しないと考えられるので、ステップS15に進んでワーク22の加工を続行することができる。
【0019】
ステップS14では、上述のノズル30からクーラント又はエアを固定機構(ここではチャック24)に向けて噴出し、チャック24を洗浄(異物32を除去)する。この操作は、ロボット制御装置14からの指令に基づいて自動で行うことができる。又はこれに加え、ロボット制御装置14等がアラームを出力する機能を備えてもよい。アラームを出力することで、それを認知した作業者等が、チャック24の洗浄を手動で行うことができる。
【0020】
S14においてチャック24の洗浄(異物32の除去)が完了し、姿勢修正モーメントが検知されなくなったら、
図3に示すように、チャック24でワーク22を固定する。これにより、工作機械20におけるワーク22の高精度な加工が可能となる。
【0021】
(第2実施例)
図5は、ロボットシステム10における第2実施例に係る処理の一例を示すフローチャートである。先ず、第1のワークとチャック24との間に異物が介在していないことが確認できている状態(以下、正常時とも称する)において、第1実施例で説明したステップS11、S12と実質同等の力制御を第1のワークについて実行する(ステップS21)。そして力制御完了時(すなわち、第1のワークがチャック24に対して正しい姿勢で正確に位置決めできている状態)の、第1のワークの位置及び姿勢に関する情報(位置データ、姿勢データ等)を、適当な記憶装置(例えばロボット制御装置14が有するメモリ)に記憶する(ステップS22)。
【0022】
次にステップS23において、正常時とは異なる条件(具体的には、正常時とは異なるワークを、異物の存在が不明なチャック24に供給する場合)において、第1実施例で説明したステップS11、S12と実質同等の力制御を、第1のワークとは異なる第2のワークについて実行する。
【0023】
次のステップS24では、ステップS23の力制御完了時の第2のワークの位置及び姿勢に関する情報を、記憶された正常時の情報と比較する。より具体的には、ステップS23での第2のワークの位置及び姿勢を表す値と、記憶された正常時の第1のワークの位置及び姿勢を表す値とのそれぞれの差が、所定の第2の閾値以内であれば、ステップS23実行時の第2のワークの位置及び姿勢は正常時と実質同等であり、ロボット制御装置14のプロセッサ等が第2のワークとチャック24との間に異物は存在していないと判断できるので、ステップS26に進んで
図3に示すように第2のワークをチャック24で固定し、所定の加工を行う。なお第2の閾値は、上述のようにワークの位置の差及び姿勢の差として設定可能であり、第1実施例と同様に、ワークの加工精度に影響しない範囲の最大値として決定することができ、例えば過去の実績等に基づいて経験的に定めることができる。逆に言えば、S23実行時と正常時との間の位置又は姿勢の差が第2の閾値以下の場合は、仮に異物が噛み込んでいても加工精度に影響しないと考えられるので、ステップS26に進んでワークの加工を続行することができる。なお第2の閾値は、S23実行時と正常時との間の位置の比又は姿勢の比として設定してもよく、例えば、正常時の位置又は姿勢に対するS23実行時の位置又は姿勢の比が±5%以内、或いは±3%以内等の値に設定可能である。
【0024】
ステップS23でのワークの位置及び姿勢の少なくとも一方が正常時のものと有意な差がある場合は、第2のワークとチャック24との間に異物が介在していると判断できるので、ロボット12による第2のワークの供給作業を中断してステップS25に進み、処理異物を除去する作業を行うことが望ましい。ステップS25の内容は、第1実施例のステップS14と実質同等でよい。
【0025】
S25においてチャック24の洗浄(異物32の除去)が完了し、力制御実行時の第2のワークの位置及び姿勢が正常時と実質同等になったら、
図3に示すように、チャック24で第2のワークを固定する。これにより、工作機械20におけるワーク22の高精度な加工が可能となる。
【0026】
(第3実施例)
図6は、ロボットシステム10における第3実施例に係る処理の一例を示すフローチャートである。先ず、第1のワークとチャック24との間に異物が介在していないことが確認できている状態(以下、正常時とも称する)において、第1実施例で説明したステップS11、S12と実質同等の力制御を第1のワークについて実行する(ステップS31)。そして力制御完了時(すなわち、第1のワークがチャック24に対して正しい姿勢で正確に位置決めできている状態)の、第1のワークの位置及び姿勢に関する情報(位置データ、姿勢データ等)を、適当な記憶装置(例えばロボット制御装置14が有するメモリ)に記憶する(ステップS32)。
【0027】
次のステップS33では、正常時とは異なる条件(具体的には、正常時とは異なる第2のワークを、異物の存在が不明なチャック24に供給する場合)において、ステップS32で記憶した情報に基づいて、第2のワークの位置及び姿勢の制御を行う。この制御は、第1実施例又は第2実施例における力制御とは異なり、ステップS31における最終的な第1のワークの位置及び姿勢になるように、第2のワークの位置及び姿勢を変更する位置制御である。
【0028】
次のステップS34では、チャック24を閉じる操作を行い、その際に、第2のワーク又はハンド18に力又は
モーメントが作用したか否かを検知する。つまり、第2のワークとチャック24との間に異物が介在していなければ、チャック固定時に第2のワークには何らの力も
モーメントも作用しないが、異物がある場合は一定以上の力又は
モーメントが作用することになる。よって力又は
モーメントが検知されなければ、ステップS36に進んで
図3に示すように第2のワークをチャック24で固定する作業を完了する。
【0029】
ステップS34の具体的な処理としては、S33の実行後にチャック24で第2のワークの把持動作を行っている間、力検出部28が所定の第3の閾値以上の力又はモーメントを検出した場合は、ロボット制御装置14のプロセッサ等が、第2のワークとチャック24との間に異物が介在していると判断する。ここで第3の閾値は、第1又は第2実施例と同様に、ワークの加工精度に影響しない範囲の最大値として決定することができ、例えば過去の実績等に基づいて経験的に定めることができる。逆に言えば、S33実行後にワークをチャック24で固定する間に検出された力又はモーメントの最大値が第3の閾値以下の場合は、仮に異物が噛み込んでいても加工精度に影響しないと考えられるので、ステップS36に進んでワークの加工を続行することができる。
【0030】
ステップS34において第3の閾値以上の力又はモーメントが検知された場合は、ワーク22とチャック24との間に異物が介在していると判断できるので、ロボット12によるワーク22の供給作業を中断してステップS35に進み、処理異物を除去する作業を行うことが望ましい。ステップS35の内容は、第1実施例のステップS14と実質同等でよい。
【0031】
S35においてチャック24の洗浄(異物32の除去)が完了し、位置制御実行時の第2のワークの位置及び姿勢が正常時と実質同じになったら、
図3に示すように、チャック24で第2のワークを固定する。これにより、工作機械20におけるワーク22の高精度な加工が可能となる。
【0032】
上述の制御装置14の機能は、制御装置14のプロセッサ等によって実行可能なコンピュータプログラムによって提供することもできる。また制御装置14は、各処理で利用されるデータや、各処理によって生成されるデータを記憶するメモリ等の記憶装置を備えることができる。なおコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータで読取可能な非一過性の記録媒体、例えばCD-ROM等に記録して提供してもよいし、或いは有線又は無線を介してWAN(wide area network)又はLAN(local area network)上のサーバ装置から配信して提供してもよい。
【0033】
上述の実施例によれば、ロボットが供給するワークと、ワークの固定機構との間の異物の存在を容易な処理で検知できるので、異物の噛み込みによってワークの加工精度が悪化することを防止することができる。
【0034】
本開示について詳述したが、本開示は上述した個々の実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、または、特許請求の範囲に記載された内容とその均等物から導き出される本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、置き換え、変更、部分的削除等が可能である。また、これらの実施形態は、組み合わせて実施することもできる。例えば、上述した実施形態において、各動作の順序や各処理の順序は、一例として示したものであり、これらに限定されるものではない。また、上述した実施形態の説明に数値又は数式が用いられている場合も同様である。
【0035】
上記実施形態及び変形例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0036】
(付記1)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記ワークの位置の修正時に、前記ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記ワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置。
【0037】
(付記2)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、前記力制御を行ったときの第2のワークの位置及び姿勢と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢との差が第2の閾値を超えたことを前記制御装置が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置。
【0038】
(付記3)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御装置であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行う機能と、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録する機能と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢となるように第2のワークの位置及び姿勢を修正する位置制御を行う機能と、前記位置制御後の前記第2のワークを前記固定機構で固定したときに前記第2のワークに作用する力又はモーメントが第3の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える、制御装置。
【0039】
(付記4)
前記異物が噛み込んでいると判断したときに前記固定機構を洗浄するための指令を出力する機能をさらに備える、付記1~付記3のいずれか1つに記載の制御装置。
【0040】
(付記5)
前記異物が噛み込んでいると判断したときにアラームを出力する機能をさらに備える、付記1~付記4のいずれか1つに記載の制御装置。
【0041】
(付記6)
付記1~付記5のいずれか1つに記載の制御装置と、前記制御装置によって制御されるロボットとを含む、ロボットシステム。
【0042】
(付記7)
前記異物の噛み込みを検出したときに前記固定機構を洗浄する洗浄装置を備える、付記6に記載のロボットシステム。
【0043】
(付記8)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、前記ワークの位置の修正時に、前記ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記ワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、を含む、制御方法。
【0044】
(付記9)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録することと、前記力制御を行ったときの第2のワークの位置及び姿勢と、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢との差が第2の閾値を超えたことを前記ロボットの制御装置が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、を含む、制御方法。
【0045】
(付記10)
保持したワークを固定機構に供給するように構成され、前記ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットの制御方法であって、前記ロボットが前記ワークを前記固定機構に供給する間に、前記固定機構に対する前記ワークの姿勢を修正し、次に前記固定機構に対する前記ワークの位置を修正する力制御を行うことと、前記力制御を正常時に行ったときの第1のワークの位置及び姿勢を記録することと、記録した前記第1のワークの位置及び姿勢となるように第2のワークの位置及び姿勢を修正する位置制御を行うことと、前記位置制御後の前記第2のワークを前記固定機構で固定したときに前記第2のワークに作用する力又はモーメントが第3の閾値を超えたことを前記力検出部が検出したときは、前記第2のワークと前記固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断することと、を含む、制御方法。
【符号の説明】
【0046】
10 ロボットシステム
12 ロボット
14 ロボット制御装置
16 ロボットアーム
18 ロボットハンド
20 工作機械
22 ワーク
24 チャック
26 把持指
28 力検出部
30 ノズル
32 異物
【要約】
ワークと固定機構との間に挟まった異物による加工精度の悪化を防止する機能を備えた制御装置、制御方法及びシステムを提供する。制御装置は、保持したワークを固定機構に供給するように構成され、ワークにかかる力及びモーメントを検出する力検出部を有するロボットを制御するものであり、ロボットがワークを固定機構に供給する間に、固定機構に対するワークの位置を修正し、次に固定機構に対するワークの姿勢を修正する力制御を行う機能と、ワークの位置の修正時に、ワークの姿勢を修正する方向に作用するモーメントが第1の閾値を超えたことを力検出部が検出したときは、ワークと固定機構との間に異物が噛み込んでいると判断する機能と、を備える。