(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】検知装置および検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20240214BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240214BHJP
G06N 3/0455 20230101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G06T7/00 610Z
G06N3/0455
(21)【出願番号】P 2023508334
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012632
(87)【国際公開番号】W WO2022201451
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 海斗
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-140580(JP,A)
【文献】特開2020-187735(JP,A)
【文献】特開2020-067865(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0250812(US,A1)
【文献】国際公開第2020/031984(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/184069(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/84-G01N21/958
G06T 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する検知装置であって、
検知対象を含む第1画像を取得する画像取得部と、
前記第1画像
に対してノイズを加える加工処理を行った第2画像を出力する画像加工部と、
学習済みのオートエンコーダにより、前記第1画像と前記第2画像の内少なくとも前記第2画像を処理した第3画像を出力するAE処理部と、
前記第1画像と前記第3画像との差分を算出し、第4画像を出力する算出処理部と、
前記第4画像に基づき正常/異常の判定を行う判定部と、
を備える検知装置。
【請求項2】
前記画像加工部は、前記第1画像
に対して部分的に
ノイズを加える加工処理を行った前記第2画像を出力することを特徴とする請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記画像加工部は、前記第1画像に対して異なる複数の
ノイズを加える加工処理を行うことにより複数の第2画像を出力し、
前記AE処理部は、前記複数の第2画像を処理し、前記複数の第2画像のそれぞれに対応する複数の第3画像を出力し、
前記算出処理部は、前記第1画像と前記複数の第3画像との差分を算出し、一の前記第4画像を出力する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記算出処理部は、算出された複数の差分の論理積を算出することにより前記一の第4画像を出力することを特徴とする請求項3に記載の検知装置。
【請求項5】
前記画像加工部は、明度変換処理、ぼかし処理、エッジ強調処理、および、アルファブレンディング処理の組から任意の2以上の異なる
ノイズを加える加工処理を行うことを特徴とする請求項3または4に記載の検知装置。
【請求項6】
検知対象を撮像する撮像装置をさらに備え、
前記画像取得部は、前記撮像装置から前記第1画像を取得することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の検知装置。
【請求項7】
画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する検知方法であって、
検知対象を含む第1画像を取得するステップと、
前記第1画像
に対してノイズを加える加工処理を行った第2画像を出力するステップと、
学習済みのオートエンコーダにより、前記第1画像と前記第2画像の内少なくとも前記第2画像を処理した第3画像を出力するステップと、
前記第1画像と前記第3画像との差分を算出し、第4画像を出力するステップと、
前記第4画像に基づき正常/異常の判定を行うステップと、
を備える検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートエンコーダ(AE:Autoencoder)を用いた検知装置および検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業カメラ等の撮像装置を用いて、製造品などの良・不良を自動判定する異常検知に関する技術が知られている。近年では、人工知能(AI)、特に深層学習を用いたモデルを用いた異常検知技術が主流となっている。特に、異常データを大量に収集することが難しい分野では、良品データのみで学習するオートエンコーダという手法が用いられる。また、この手法をベースに、DAE(Denoising Auto Encoder)やVAE(Variational Auto Encoder)など様々な手法による異常検知技術が提案されている。これらの手法は、正常なデータのみを用いて出力が入力と等しくなるように学習を行い、運用時には判定対象の画像データを入力し、正常に復元されれば良と判定し、正常に復元されなければ不良(異常部分がある)と判定する。
【0003】
たとえば、特許文献1は、オートエンコーダを使ってログの異常検知を行う場合の学習データの前処理や選定、モデルの選択を適切に行うことにより検知精度を向上させた検知装置を開示する。この検知装置は、前処理部と、生成部と、検知部とを備える。前処理部は、学習用のデータ及び検知対象のデータを加工する。生成部は、前処理部によって加工された学習用のデータを基に、深層学習により正常状態のモデルを生成する。検知部は、前処理部によって加工された検知対象のデータをモデルに入力して得られた出力データを基に異常度を計算し、異常度を基に検知対象のデータの異常を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、製造品に紛れる不良の原因は、それが写った画像の中で極めて小さい傷や欠損、加工ずれであることが多い。このような小さな領域に示される原因に対して、上述した技術を用いても検知することは難しく、見逃してしまうことが多いという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みて考案されたものであり、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知装置および検知方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する検知装置であって、検知対象を含む第1画像を取得する画像取得部と、第1画像を加工した第2画像を出力する画像加工部と、学習済みのオートエンコーダにより、第1画像と第2画像の内少なくとも第2画像を処理した第3画像を出力するAE処理部と、第1画像と第3画像との差分を算出し、第4画像を出力する算出処理部と、第4画像に基づき正常/異常の判定を行う判定部と、を備える検知装置が提供される。
これによれば、判定対象である第1画像と、その画像を加工した第2画像をオートエンコーダが処理した第3画像との差分を示す第4画像に基づき判定することで、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知装置を提供することができる。
【0008】
さらに、画像加工部は、第1画像を部分的に加工した第2画像を出力することを特徴としてもよい。
これによれば、第2画像は判定対象である第1画像を部分的に加工したものであることで、判定対象に存在した検知対象が第3画像に現れるため第4画像では当該検知対象部分が強調されて表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0009】
さらに、画像加工部は、第1画像に対して異なる複数の加工処理を行うことにより複数の第2画像を出力し、AE処理部は、複数の第2画像を処理し、複数の第2画像のそれぞれに対応する複数の第3画像を出力し、算出処理部は、第1画像と複数の第3画像との差分を算出し、一の第4画像を出力することを特徴としてもよい。
これによれば、複数の異なる加工処理された第2画像をオートエンコーダが処理した複数の異なる第3画像を合成して1つの第4画像を生成し、かかる第4画像に基づき判定することで、極めて小さい検知対象であっても当該部分が重畳することで強調されて表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0010】
さらに、算出処理部は、算出された複数の差分の論理積を算出することにより一の第4画像を出力することを特徴としてもよい。
これによれば、複数の差分の論理積を算出した1つの第4画像を生成し、かかる第4画像に基づき判定することで、極めて小さい検知対象であっても当該部分が重畳することで強調されて表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0011】
さらに、画像加工部は、明度変換処理、ぼかし処理、エッジ強調処理、および、アルファブレンディング処理の組から任意の2以上の異なる加工処理を行うことを特徴としてもよい。
これによれば、判定対象である第1画像を複数の異なる加工処理を行うことで、判定対象に存在した検知対象がすべての第3画像に共通して現れるため第4画像では当該部分が重畳することで強調されて表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0012】
さらに、検知対象を撮像する撮像装置をさらに備え、画像取得部は、撮像装置から第1画像を取得することを特徴としてもよい。
これによれば、撮像装置と一体化した検知装置を提供することができる。
【0013】
上記課題を解決するために、画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する検知方法であって、検知対象を含む第1画像を取得するステップと、第1画像を加工した第2画像を出力するステップと、学習済みのオートエンコーダにより、第1画像と第2画像の内少なくとも第2画像を処理した第3画像を出力するステップと、第1画像と第3画像との差分を算出し、第4画像を出力するステップと、第4画像に基づき正常/異常の判定を行うステップと、を備える検知方法が提供される。
これによれば、判定対象である第1画像と、その画像を加工した第2画像をオートエンコーダが処理した第3画像との差分を示す第4画像に基づき判定することで、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知装置および検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る第一実施形態の異常検知システムの使用状況を示す図。
【
図2】本発明に係る第一実施形態の異常検知システムの機能ブロック図。
【
図3】本発明に係る第一実施形態の検知装置の画像処理部の機能ブロック図。
【
図4】本発明に係る第一実施形態の検知装置における、入力画像、加工処理済み画像、およびAE処理結果画像の関係を示す図。
【
図5】本発明に係る第一実施形態の検知装置における、入力画像、AE処理結果画像、差分結果画像、および合成結果画像の関係を示す図。
【
図6】本発明に係る第一実施形態の検知装置の算出処理部における処理のフローチャート。
【
図7】本発明に係る第一実施形態の異常検知システムのハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
<第一実施形態>
図1~
図7を参照し、本実施形態における異常検知システム101および異常検知システム101に組み込まれた検知装置100を説明する。異常検知システム101は、
図1に示すように、たとえばねじ102の製造ライン103において、製造されたねじ102の異常を検知して良・不良品の振り分けに用いられる。異常検知システム101は、良品と不良品が混在する製造ライン103のねじ102を撮像し、撮像した画像に基づき異常を検知する。異常検知システム101は、異常を検知しなかったねじ102を良品の製造ライン103へ振り分け、異常を検知したねじ102を不良品の製造ライン103へ振り分ける制御を行う。なお、本図では、不良品のねじ102は、頭部の工具溝(十字形部分)が潰れている異常を有することを示している。もちろん、異常検知システム101は、本図の例に限られず、たとえばある構造物そのものやその構造物を構成する基板などの部品、食品を含む生産物など、様々な検知対象に使用され得る。
【0017】
異常検知システム101は、
図2に示すように、本発明に係る検知装置100と、検知装置100が処理した画像や映像の記録を制御する記録制御部204と、記録制御部204が記録を指示した画像を格納する記録装置205と、記録制御部204が表示を指示した画像等を表示する制御を行う表示制御部206と、表示制御部206が表示を指示した画像等または記録装置205からの画像等を表示出力する表示出力装置207と、検知装置100が行った振り分け制御に応じて製造ライン103などの機器を制御する(流す方向の切り替えなどを行う)機器制御装置208と、を備える。
【0018】
記録制御部204は、検知装置100が判定した結果を用いて画像や映像の記録制御や、記録映像の圧縮率や記録間隔を制御する。記録装置205は、検知装置100より得られた画像等を記録制御部204の命令により記録保持する。表示制御部206は、検知装置100が取得した画像等および検知装置100が判定した結果や、記録装置205に保存された情報の表示を制御する。表示出力装置207は、これらの画像等や結果・情報等を実際に表示する。
【0019】
検知装置100は、画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する装置である。検知装置100は、本図に示すように、検知対象を撮像する撮像装置201と、撮像装置201が撮像した検知対象を含む画像や映像(第1画像)を取得する画像取得部202と、画像取得部202が取得した画像等に基づき画像を処理して良不良の判定を行う画像処理部203とを備える。撮像装置201は、たとえば1台以上の産業カメラである。これにより、撮像装置201と一体化した検知装置100を提供することができ、撮像装置201で得た画像等から迅速に正常/異常を検知することができる。なお、撮像装置201と画像取得部202および画像処理部203は必ずしも一体である必要はなく、たとえば、撮像装置201は製造ライン103の近傍に配置され、画像取得部202と画像処理部203はそこから離れた場所(たとえば制御室など)に配置され、互いに通信により接続されていてもよい。
【0020】
画像取得部202は、撮像装置201から得られる信号を画像等として取得する。画像取得部202は、撮像装置201であるカメラからのリアルタイムの画像データや、画像データが記録されている映像記録装置などから入力された映像信号から1次元配列もしくは2次元、3次元配列の画像データとして取得する。この画像データにおいては、フリッカなどの影響を低減するために前処理として適宜平滑化フィルタなどの処理を施してもよい。また、用途に応じてRGBカラーやYUV、モノクロなどのデータ形式を選択してもよい。さらには、処理コスト低減のために、所定の大きさで画像データに縮小処理を施してもよい。なお、画像処理部203については、後述する。
【0021】
ここで、
図7を参照し、異常検知システム101のハードウェア構成の一例を説明する。異常検知システム101は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などの処理装置から構成される処理部Prc、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリデバイスおよび、ハードディスクHDやDVD等のストレージデバイスといった記憶部Mem、撮像装置201や機器制御装置208と通信し信号の入出力を行うためのネットワークインターフェースの通信部Comを含み、これらが、内部バス、外部バス、拡張バス等を含むシステムバスBusといった伝送路を介して互いに接続されたものである。
【0022】
処理部Prcは、複数のプログラムを並列に実行することができる、1以上のプロセッサ(またはコア)及びその周辺回路を有する。処理部Prcは、異常検知システム101の全体的な動作を統括制御する全体制御部209を備え、上述した他の構成要素との間で制御信号及び情報信号(データ)の送受信を行うとともに、異常検知システム101の処理、実行、制御に必要な各種の演算処理を行う。そのため、処理部Prcは、高速アクセス可能な記憶領域に対して、数値演算ユニット等を用いた加減乗除等の算術演算、論理積等の論理演算、学習済みモデルに従ったベクトル演算等を行うことが可能なように構成されている。
【0023】
記憶部Memは、用途に応じた様々な種類のメモリデバイスやストレージデバイスを備え、一部に記録装置205を構成する。たとえば、ROMには、一般に、電源投入後、最初に実行されるIPL(Initial Program Loader)が記録されている。これが処理部Prcに読み込まれ実行されることにより、ハードディスクHD等のストレージデバイスに記憶されたプログラムやデータ、学習済みモデルなどが、全体制御部209によって一旦これらを一時的に記憶するためのRAMに書き出され、それらのプログラムが全体制御部209によって実行される。記憶部Memに記憶されているプログラムは、オペレーティングシステムプログラムや異常検知システム101に必要なプログラムやモジュール、学習済みモデルである。なお、オペレーティングシステムプログラムは、MICROSOFT(登録商標)WINDOWS(登録商標)、LINUX(登録商標)、UNIX(登録商標)などであり、異常検知システム101が実行され得る限り特に限定されない。
【0024】
処理部Prcは、記憶部Memから異常検知システム101に必要なプログラム等を読み込み、画像取得部202、画像処理部203、記録制御部204、表示出力装置207の制御を行う表示制御部206などの異常検知システム101の機能を実現する。このように、上述したハードウェアと異常検知システム101に必要なソフトウェアが協働することにより、異常検知システム101の特有の処理や動作が構築されている。なお、異常検知システム101は、上述したハードウェアに限定されず、たとえば、Digital Signal Processor(DSP)、Field-Programmable Gate Array(FPGA)、Graphics Processing Unit(GPU)などの電子計算機システム以外で代替してもよい。
【0025】
図3を参照し、画像処理部203について説明する。画像処理部203は、画像取得部202から画像等(第1画像)を入力され、機器制御装置208へ判定結果を出力するとともに、その判定結果を用いて画像等を記録制御部204へ出力する。画像処理部203は、画像取得部202から入力された画像(第1画像)を加工した画像(第2画像)を出力する画像加工部301と、学習済みのオートエンコーダにより処理した画像(第3画像)を出力するAE処理部303と、入力された画像(第1画像)とAE処理部303が処理した画像(第3画像)との差分を算出した画像(第4画像)を出力する算出処理部304と、差分を算出した画像(第4画像)に基づき正常/異常の判定を行う判定部305と、を備える。
【0026】
画像加工部301は、入力された画像を様々に加工する機能を有する。たとえば、画像加工部301は、画像全体を加工してもよいし、部分的に加工してもよい。また、画像加工部301は、明度変換処理、ぼかし処理、エッジ強調処理、および、アルファブレンディング処理などの様々な加工処理方法により画像を加工してもよい。明度変換処理とは、画像における色空間を構成する3要素の一つである明度を変更する処理である。また、明度変換処理は、色相ごとに彩度を変更するようなより詳細な処理であってもよい。ぼかし処理とは、各種フィルタを用いて画像のピクセルの画素値(RGB値)を周囲のピクセルと合わせて計算する処理である。各種フィルタとは、たとえば、ガウシアンフィルタ、平均化フィルタ、メディアンフィルタなどである。周囲の方向や大きさは適宜定められる。
【0027】
エッジ強調処理とは、画像がより鮮明になるように各種フィルタを用いて画素を変換する処理であり、画像の画素値(輝度)の変化(勾配)が大きい部分をより大きくする処理である。各種フィルタとは、たとえば、プレヴィットフィルタ、ソーベルフィルタ、ラプラシアンフィルタ、シャープフィルタなどである。エッジを検出する方向や勾配の大きさは適宜定められる。アルファブレンディング処理とは、画像にアルファ値(透過情報)を掛け合わせて半透明な画像を重ねる処理である。ブレンドする画像は任意のテクスチャであってもよい。
【0028】
画像加工部301は、上述した加工処理方法を、画像全体に施してもよいし、画像の一部に施してもよい。画像の一部を加工する場合、規則的な縦縞状、横縞状、格子状などの模様であってもよいし、ランダムな点状、島状などの斑点であってもよいし、円状・渦巻き状などであってもよく、特に限定されない。画像を部分的に加工した場合、後述するように、判定対象に存在した検知対象(傷や欠損など)が第3画像に現れるため第4画像では当該検知対象部分が強調されて表示されるため、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0029】
画像加工部301は、入力された画像に対して異なる複数の加工処理方法を用いて加工処理を行うことにより複数の画像(第2画像)を出力してもよい。この場合、次工程のAE処理部303は、加工処理された複数の画像を処理し、その複数の画像のそれぞれに対応する複数の画像(第3画像)を出力する。なお、画像加工部301は、加工処理した画像に加えて、入力された画像を加工処理せずにそのままAE処理部303に出力してもよい。この場合、AE処理部303は、加工処理していない画像(第1画像)と加工処理した画像(第2画像)の内少なくとも加工処理した画像(第2画像)を処理する。
【0030】
画像加工部301は、入力された画像に対して複数の加工処理方法を用いて加工処理を行う場合、明度変換処理、ぼかし処理、エッジ強調処理、および、アルファブレンディング処理の組から任意の2以上の異なる加工処理を行うことが好ましい。このように、判定対象である入力画像(第1画像)を複数の異なる加工処理を行うことで、異なる加工処理をされた複数の画像をAE処理部303に入力することができる。
【0031】
また、画像加工部301は、2以上の異なる加工処理を行う場合、画像の異なる部分にそれらの加工処理が施されることが好ましい。このように、入力画像(第1画像)に対して異なる部分に異なる加工処理を行うことで、異なる部分に異なる加工処理をされた複数の画像をAE処理部303に入力することができる。たとえば、
図4に示すように、画像加工部301は、入力画像401に対して、加工処理1により渦巻き状のマスクを有するアルファブレンディング処理を行い、加工処理N-1により横縞状にぼかし処理を行い、これらを出力すると共に、加工処理しない入力画像も出力する。このように、画像加工部301は、入力画像に対して意図的にノイズを加えるような加工処理を行い、加工処理済み画像402として出力する。
【0032】
AE処理部303は、学習済みのオートエンコーダにより、画像加工部301が出力する加工処理済み画像402を処理する。オートエンコーダとは、ニューラルネットワークから構成されるエンコーダとデコーダから構成される。エンコーダでは、入力データから次元圧縮した特徴を出力し、デコーダはその特徴から入力データを復元するように機能する。機械学習の段階では、オートエンコーダへの入力とオートエンコーダからの出力を比較し誤差を算出し、たとえば誤差逆伝搬によりその誤差を最小化するように、すなわちオートエンコーダの出力と入力が一致するようにニューラルネットワークの重みを調整する。
【0033】
オートエンコーダを異常の検知などに用いる場合、
図8に示すように、異常を有さない正常品の画像データだけを用いてオートエンコーダを学習させる。このようにして学習された学習済みオートエンコーダは、正常品のねじが写った画像を入力されると、正常品のネジを復元して出力する一方、一部に傷などの異常を含んだねじが写った画像を入力されても、同様にその異常部分を除去した画像、すなわち正常なねじの画像を出力しようとする。そこで、異常を含んだ画像と出力した正常そうな画像を比較して差分を抽出することで、異常個所を特定した異常検知を行うことができる。しかし、その画像の中で検知すべき異常部分が極めて小さい領域に示される場合、通常のオートエンコーダでは検知することが難しい。本発明は、かかる課題を解決するものである。
【0034】
なお、学習済みオートエンコーダの学習モデル302における中間層の構造は、層の深さやフィルタの大きさ・数などに制限はないものとする。また、オートエンコーダは、類似したDAEやVAEなどのオートエンコーダを基本とした別手法を用いてもよい。また、学習済みオートエンコーダの学習モデル302は、記録装置205などに記憶され、検知装置100の運用時においては、画像処理部203の一部として処理部Prcにロードされる。
【0035】
図4に示すように、AE処理部303は、上述した学習済みオートエンコーダにより、加工処理1が施された加工処理済み画像402を入力されると、AE処理結果2のAE処理結果画像403を出力する。AE処理結果2のAE処理結果画像403は、加工処理1が施された加工処理済み画像402に比べて正常品に近いものの渦巻き状のマスクにより完全には復元できず一部に違和感のある復元画像である。また、同様に、AE処理部303は、加工処理N-1が施された加工処理済み画像402を入力されると、AE処理結果NのAE処理結果画像403を出力する。AE処理結果NのAE処理結果画像403は、加工処理N-1が施された加工処理済み画像402に比べて正常品に近いものの横縞状のマスクにより完全には復元できず一部に違和感のある復元画像である。
【0036】
また、これらの復元画像であるAE処理結果画像403には、渦巻き状のマスク・横縞状のマスクと同様、正常品のねじには含まれない異常部分(本図では、ねじ頭部の工具溝(十字形部分)が潰れた部分)により完全には復元できず一部に違和感のある形で復元されている。もちろん、AE処理部303は、加工処理しない画像に対しても、当該異常部分が極めて小さい部分であってもその一部が完全には復元できず一部に違和感のある形で復元されていると考えられる。逆に言えば、AE処理部303は、当該異常部分の一部を正常に違和感のない形に復元していると言える。
【0037】
なお、AE処理部303は、画像加工部301が加工処理しない入力画像も出力する場合、加工処理しない入力画像と加工処理した画像の内少なくとも加工処理した画像(第3画像)を処理するものとする。また、AE処理部303は、
図3のように、計算処理を並列化し高速化するために複数設けられることが好ましい。
【0038】
算出処理部304は、
図5に示すように、画像取得部202が取得した入力画像401(第1画像)と、AE処理部303が復元し出力したAE処理結果画像403(第3画像)との差分を算出し、差分結果画像404(第4画像)として算出する。差分結果画像404は、たとえば、両方の対応する画素毎に色空間距離を測り、その距離がゼロでない画素や所定の閾値を超えた画素を強調表示することにより得られる。所定の閾値は差分を際立たせるように適宜定められる。
【0039】
本図では、算出処理部304は、入力画像401とAE処理結果2のAE処理結果画像403の差分を算出した差分結果2の差分結果画像404を算出する。差分結果2の差分結果画像404は、入力画像401と、渦巻き状のマスクにより完全には復元できず一部に違和感のある復元画像との差分を示す画像である。同様に、差分結果Nの差分結果画像404は、入力画像401と、横縞状のマスクにより完全には復元できず一部に違和感のある復元画像との差分を示す画像である。
【0040】
また、AE処理部303が加工処理しない画像に対しても処理した場合を示す差分結果1の差分結果画像404は、入力画像401と、当該異常部分が極めて小さい部分であってもその一部が完全には復元できず一部に違和感のある形で復元されている部分、および、当該異常部分の異なる一部を正常に違和感のない形に復元している部分との差分を示す画像である。また、差分結果1の差分結果画像404に含まれる差分は、入力画像401が異常部分を含む場合、差分結果2の差分結果画像404および差分結果Nの差分結果画像404などの他の差分結果画像404にも含まれ得るものである。なお、本図では、画像加工部301が複数の加工処理済み画像402を出力し、AE処理部303がその複数の画像に対して処理して複数の差分結果である差分結果画像404を出力しているが、1つの画像に対して処理を行う場合には、算出処理部304は1つの差分結果画像404(第4画像)を出力する。
【0041】
AE処理部303が複数の画像に対して処理する場合、算出処理部304は、入力画像401と、AE処理部303が復元した複数のAE処理結果画像403との差分を算出した複数の差分結果画像404を生成し、この複数の差分結果画像404を合成することにより1つの合成結果画像405(第4画像)を出力する。画像の合成は、様々な方法が考えられるが、複数の差分結果画像404に共通する差分を強調することを目的とすれば、算出処理部304は、算出された複数の差分結果画像404の論理積を算出することにより合成し、1つの合成結果画像405(第4画像)を出力することが好ましい。これにより、合成結果画像405は、極めて小さい検知対象であっても当該部分が重畳することで強調されて表示される画像となる。
【0042】
たとえば、本図に示すように、差分結果1の差分結果画像404に含まれる差分すなわち異常部分による差分は、差分結果2の差分結果画像404、差分結果3の差分結果画像404、・・・、および差分結果Nの差分結果画像404にも含まれ得るものだから、これらすべての差分結果画像404の論理積を算出することにより合成した1つの合成結果画像405は、それぞれの差分結果画像404では極めて小さい差分であっても大きな差分として算出される。
【0043】
AE処理部303が複数の画像に対して処理した場合、算出処理部304は、
図6のフローチャートの例のように実行される。算出処理部304は、S100において、AE処理部303が出力した複数の差分結果1~Nである差分結果画像404を取得する。算出処理部304は、S102において、それぞれの差分結果画像404に対して、所定の閾値Aに基づき、閾値A以上の画素値は1(白色)に、閾値Aを超えなかった画素値は0(黒色)に変換する。このように、閾値A以上の部分は強調される。算出処理部304は、S104において、変換したそれぞれの差分結果画像404において対応する各画素に対して論理積(AND処理)を行う。より差分を強調するために、算出処理部304は、異なる閾値Bを用いて、各画素で閾値B以上の場合は論理積の結果を1(白色)に、閾値Bを超えなかった場合は論理積の結果を0(黒色)にしてもよい。
【0044】
判定部305は、AE処理部303が1つの画像に対して処理する場合は、1つの差分結果画像404(第4画像)に基づき正常/異常の判定を行う。なお、この場合、差分結果1以外の1つの差分結果画像404が出力される。また、判定部305は、AE処理部303が複数の画像に対して処理する場合は、1つの合成結果画像405(第4画像)に基づき正常/異常の判定を行う。このように、判定対象である入力画像401(第1画像)と、その画像を加工した加工処理済み画像402(第2画像)をオートエンコーダが処理したAE処理結果画像403(第3画像)との差分を示す差分結果画像(第4画像)に基づき判定することで、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知装置100を提供することができる。
【0045】
特に、複数の異なる加工処理された加工処理済み画像402(第2画像)をオートエンコーダが処理した複数の異なるAE処理結果画像403(第3画像)を合成して1つの合成結果画像(第4画像)を生成し、かかる合成結果画像405(第4画像)に基づき判定することで、極めて小さい検知対象であっても当該部分が重畳することで強調されて算出、表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。また、上述したように、判定対象である入力画像401(第1画像)を複数の異なる加工処理を行うことで、判定対象に存在した傷などの検知対象がすべてのAE処理結果画像403(第3画像)に共通して現れるため、検知対象が小さなものであっても合成結果画像405(第4画像)では当該部分が重畳することで強調されて算出、表示され、かかる検知対象を見逃すことを防止できる。
【0046】
上述したことは、画像に含まれる検知対象の正常/異常を検知する検知方法でもある。この検知方法は、ねじなどの検知対象が写った入力画像401(第1画像)を取得するステップと、入力画像を加工した加工処理済み画像402(第2画像)を出力するステップと、学習済みのオートエンコーダにより、入力画像401と加工処理済み画像402の内少なくとも加工処理済み画像402を処理したAE処理結果画像403(第3画像)を出力するステップと、入力画像401像とAE処理結果画像403との差分を算出し、差分結果画像404(第4画像)を出力するステップと、差分結果画像404に基づき正常/異常の判定を行うステップと、を備える検知方法である。このように、判定対象である入力画像401と、その画像を加工した加工処理済み画像402をオートエンコーダが処理したAE処理結果画像403との差分を示す差分結果画像404に基づき判定することで、画像の中で検知すべき対象が極めて小さい領域に示される場合であっても、そのような検知対象を見逃して正常/異常を判定することを防止する検知方法を提供することができる。
【0047】
本発明によれば、産業カメラなどを用いた製造品の異常検知システム101において、製造品に紛れる極めて小さい傷や欠損、加工ずれなどが存在する不良を見逃さないことが可能となる。
【0048】
なお、本発明は、例示した実施例に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0049】
100:検知装置、101:異常検知システム、102:ネジ(検知対象)、103:製造ライン、201:撮像装置、202:画像取得部、203:画像処理部、204:記録制御部、205:記録装置、206:表示制御部、207:表示出力装置、208:機器制御装置、209:全体制御部、301:画像加工部、302:学習モデル、303:AE処理部、304:算出処理部、305:判定部、401:入力画像(第1画像、判定対象)、402:加工処理済み画像(第2画像)、403:AE処理結果画像(第3画像)、404:差分結果画像(第4画像)、405:合成結果画像(第4画像)