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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】モータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023515525
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2022018502
(87)【国際公開番号】W WO2022225031
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021072501
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021151794
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰生
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
(72)【発明者】
【氏名】ハイダー ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ボルティス ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】スパソイエ ミリック
(72)【発明者】
【氏名】コラー ヨハン ベー
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/159665(WO,A1)
【文献】特開2018-102070(JP,A)
【文献】特開2017-158233(JP,A)
【文献】特開2015-139341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相モータが有するオープンエンド巻線の一端に接続され、単相交流電源からの入力電圧が整流電圧に整流されて入力される第1インバータと、
前記オープンエンド巻線の他端に接続されるとともにDCリンクキャパシタを有する第2インバータと、
前記第1インバータから前記三相モータに供給する第1インバータ出力電圧を前記三相モータに流れるモータ電流と同位相となるように前記第1インバータを制御し、前記DCリンクキャパシタから前記三相モータに供給する瞬時電力をゼロにするために前記第2インバータから前記三相モータに供給する第2インバータ出力電圧を前記モータ電流と直交させることで無効電力を前記三相モータに供給し、かつ、前記第2インバータ出力電圧における前記三相モータの磁束方向であるd軸と直交するq軸成分を前記単相交流電源と同期して脈動させるように前記第2インバータを制御する制御部と、
を備える、モータ駆動システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記整流電圧の最大値が前記三相モータの誘導電圧以上のとき、前記整流電圧が前記三相モータの誘導電圧のq軸成分となり、かつ前記DCリンクキャパシタのキャパシタ電圧がゼロとなるように制御し、
前記整流電圧の最大値が前記三相モータの誘導電圧より小さいとき、前記整流電圧が最大値を取るように、前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御することを特徴とする、
請求項1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記整流電圧により発生する電力の持つ脈動を前記三相モータのオープンエンド巻線の一端に出力するように前記第1インバータを制御し、前記DCリンクキャパシタの瞬時電力がゼロとなるように前記第2インバータを制御することを特徴とする、
請求項1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記制御部は、目標モータ電流が当該目標モータ電流のq軸成分より小さくなる場合、与えられた目標入力電力を基に、第1インバータ出力電圧の値を再計算することを特徴とする、
請求項1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
三相モータが有するオープンエンド巻線の一端に接続されるとともに、直列に接続された第1DCリンクキャパシタの組を有し、単相交流電源からの入力電圧が整流電圧に整流されて入力される第1インバータと、
前記オープンエンド巻線の他端に接続されるとともに、直列に接続された第2DCリンクキャパシタの組を有する第2インバータと、
前記第1DCリンクキャパシタの組の中点と前記第2DCリンクキャパシタの組の中点とは互いに接続され、これらの中点間を流れるコモンモード電流を介した電力転送により、前記第2インバータの有効電力を補償するように前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御する制御部と、
を備える、モータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
オープンエンド巻線モータを駆動するためのデュアルインバータ型モータ駆動装置が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】西尾元紀、芳賀仁「オープンエンド巻線PMモータを駆動するデュアルインバータの空間ベクトル変調」、IEE Japan 2017(161-174・176‐179)、23‐28、2017‐12‐07、電気学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、第1インバータと第2インバータとを備えるデュアルインバータ型オープンエンド巻線モータ駆動装置では、第2インバータ側から供給される電力の脈動を補償するために、大容量の電解コンデンサを用いていた(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら電解コンデンサは体積が大きく寿命が短いため、サイズ、コストおよび寿命などの面でデメリットとなる。従って第2インバータに電解コンデンサを必要としないデュアルインバータ型オープンエンド巻線モータ駆動装システムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のモータ駆動システムは、三相モータが有するオープンエンド巻線の一端に接続され、単相交流電源からの入力電圧が整流電圧に整流されて入力される第1インバータと、オープンエンド巻線の他端に接続されるとともにDCリンクキャパシタを有する第2インバータと、第1インバータから三相モータに供給する第1インバータ出力電圧を三相モータに流れるモータ電流と同位相となるように第1インバータを制御し、DCリンクキャパシタから三相モータに供給する瞬時電力をゼロにするために第2インバータから三相モータに供給する第2インバータ出力電圧をモータ電流と直交させることで無効電力を前記三相モータに供給し、かつ、第2インバータ出力電圧における三相モータの磁束方向であるd軸と直交するq軸成分を単相交流電源と同期して脈動させるように第2インバータを制御する制御部と、を備える。
【0006】
本発明の別の態様もまたモータ駆動システムである。このモータ駆動システムは、三相モータが有するオープンエンド巻線の一端に接続されるとともに、直列に接続された第1DCリンクキャパシタの組を有し、単相交流電源からの入力電圧が整流電圧に整流されて入力される第1インバータと、オープンエンド巻線の他端に接続されるとともに、直列に接続された第2DCリンクキャパシタの組を有する第2インバータと、を備える。第1DCリンクキャパシタの組の中点と第2DCリンクキャパシタの組の中点とは互いに接続されている。このモータ駆動システムは、第1DCリンクキャパシタの組の中点と第2DCリンクキャパシタの組の中点との間を流れるコモンモード電流を介した電力転送により、第2インバータの有効電力を補償するように第1インバータおよび第2インバータを制御する制御部を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成により、モータに流れるq軸電流が単相交流電力と同期して脈動し、モータの十分に大きいイナーシャを用いてこの脈動を吸収できるため、デュアルインバータトポロジーにおいて電解コンデンサを不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係るモータ駆動システムを示すブロック図である。
図2】従来のデュアルインバータ型モータ駆動装置を示すブロック図である。
図3】従来の制御を行ったときの入力電力、モータ電力およびDCリンクキャパシタ電力の波形を示す図である。
図4】従来の制御を行ったときの入力電圧および第1インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図5】従来の制御を行ったときの第1インバータ出力電圧および第2インバータ出力電圧に対応する空間ベクトルを示す図である。
図6】従来の制御を行ったときのモータ電圧の波形を示す図である。
図7】従来の制御を行ったときのモータ電流の波形を示す図である。
図8】従来の制御を行ったときの第1インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図9】従来の制御を行ったときの第2インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図10】実施の形態に係る制御を行ったときの入力電圧および第1インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図11】実施の形態に係る制御を行ったときの第1インバータ出力電圧および第2インバータ出力電圧に対応する空間ベクトルを示す図である。
図12】実施の形態に係る制御を行ったときの入力電力、モータ電力およびDCリンクキャパシタ電力の波形を示す
図13】実施の形態に係る制御を行ったときのモータ電圧の波形を示す図である。
図14】V=v^/2の条件で実施の形態に係る制御を行ったときのモータ電流の波形を示す図である。
図15】V=v^/2の条件で実施の形態に係る制御を行ったときの第1インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図16】V=v^/2の条件で実施の形態に係る制御を行ったときの第2インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図17】V=v^/4の条件で実施の形態に係る制御を行ったときのモータ電流の波形を示す実施の形態に係る制御を行ったときの
図18】V=v^/4の条件で実施の形態に係る制御を行ったときの第1インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図19】V=v^/4の条件で実施の形態に係る制御を行ったときの第2インバータ出力電圧の波形を示す図である。
図20図1のモータ駆動装置の全体と、各部での信号波形を示す図である。
図21図1のモータ駆動システムの制御部を示すブロック図である。
図22図21の電圧制御部の詳細図である。
図23】第2の実施の形態に係るモータ駆動システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願は、特願2021-072501および特願2021‐151794を基礎とする優先権を主張する。これらの基礎出願の内容は、参照として本出願に組み込まれる。以下の実施の形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また説明の便宜のため、各図面では構成要素の一部を適宜省略する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係るモータ駆動システム1の一例を示すブロック図である。モータ駆動システム1は、単相交流電源50からの入力電圧vに基づき、オープンエンド巻線を備えた三相モータ40を駆動するシステムとして機能する。一例として、モータ駆動システム1は、ポンプ、コンプレッサ、船や飛行機の電動アクチュエータ、ロボットアームなどのための多様なモータを駆動するために使用することができる。モータ駆動システム1は、三相モータ40が有するオープンエンド巻線の一端41に接続され、単相交流電源50からの入力電圧vが整流部80で整流されて入力される第1インバータ10と、オープンエンド巻線の他端42に接続されるとともにDCリンクキャパシタ60を有する第2インバータ20と、第1インバータ10および第2インバータ20を制御する制御部30と、を備える。後述するように制御部30は、第1インバータ10から三相モータ40に供給する第1インバータ出力電圧vを三相モータ40に流れるモータ電流と同位相となるように第1インバータ10を制御し、DCリンクキャパシタ60から三相モータ40に供給する瞬時電力をゼロにするために第2インバータ20から三相モータ40に供給する第2インバータ出力電圧vをモータ電流と直交させることで無効電力を前記三相モータに供給し、かつ、第2インバータ出力電圧における三相モータ40の磁束方向であるd軸と直交するq軸成分を単相交流電源50と同期して脈動させるように第2インバータ20を制御する。三相モータ40には、負荷70が接続される。なお本明細書では、単相交流電源50から三相電力の出力に向かう電力または信号の流れに沿って、上流側を前段または入力と、下流側を後段または出力と表記することがある。
【0012】
単相交流電源50は、例えば商用電源や発電機であってよい。単相交流電源50は、整流部80に入力電圧を出力する。
【0013】
整流部80は、例えばPFC(Power Factor Correction)機能を備えた整流回路であり、公知技術を用いて実現されてよい。整流部80は、単相交流電源50から入力された入力電圧vを全波整流した後、PFC機能を用いて電流波形から高周波を除去して整流電圧vDC1を生成する。整流部80は、整流電圧vDC1を第1インバータ10に出力する。
【0014】
第1インバータ10は、整流部80の後段に配置され、整流電圧vDCに基づいて三相の交流電圧である第1インバータ出力電圧vを生成する。第1インバータ10は公知技術を用いて実現されてよい。三相交流電圧は、例えばU相、V相およびW相からなり、2π/3の位相差で交番するものであってよい。第1インバータ10は、生成した第1インバータ出力電圧vを三相モータ40のオープンエンド巻線の一端41に供給する。
【0015】
第2インバータ20は、三相モータ40の後段に配置され、三相の交流電圧である第2インバータ出力電圧vを生成する。第2インバータ20もまた公知技術を用いて実現されてよい。第2インバータ20は、生成した第2インバータ出力電圧vを三相モータ40のオープンエンド巻線の他端42に供給する。
【0016】
第2インバータ20は、DCリンクキャパシタ60を有する。DCリンクキャパシタ60は、例えばフィルムやセラミックコンデンサなどの小容量のコンデンサにより構成される。DCリンクキャパシタ60は、スイッチングノイズなどの除去手段として機能する。第2インバータ出力電圧vは、後述する制御により脈動が除去されているため、DCリンクキャパシタ60は大容量の電解コンデンサである必要はない。以下、DCリンクキャパシタ60の両端にかかるキャパシタ電圧をVDC2と表す
【0017】
制御部30は、速度制御部31と、DCリンク電圧制御部32と、電圧制御部33と、電流制御部34と、を備える。制御部30は、第1インバータ10から三相モータ40に供給する第1インバータ出力電圧vを三相モータ40に流れるモータ電流と同位相となるように第1インバータ10を制御し、DCリンクキャパシタ60から三相モータ40に供給する瞬時電力をゼロにするために第2インバータ20から三相モータ40に供給する第2インバータ出力電圧vをモータ電流と直交させることで無効電力を前記三相モータに供給し、かつ、第2インバータ出力電圧における三相モータ40の磁束方向であるd軸と直交するq軸成分を単相交流電源50と同期して脈動させるように第2インバータ20を制御する。制御部30の制御の詳細については後述する。
【0018】
三相モータ40は、第1インバータ10から供給された第1インバータ出力電圧vおよび第2インバータ20から供給された第2インバータ出力電圧vにより駆動され、得られた動力を負荷70に伝達して負荷70を運動させる。
【0019】
負荷70は、三相モータ40によって運動するフライホイールなどの負荷であって、イナーシャJTOT(例えば慣性モーメント)を有する。
【0020】
整流部80は、必ずしもPFC機能を備えていなくてもよい。すなわち、整流部80は、交流電圧から直流電圧を生成する任意のタイプの整流回路で置き換えられてもよい。
【0021】
[従来の制御方法]
実施の形態に係るモータ駆動システムの制御方法を説明する前に、従来のデュアルインバータ型モータ駆動装置の制御方法を説明する。図2は、従来のデュアルインバータ型のモータ駆動装置100を示すブロック図である。このモータ駆動装置100は、DCリンクキャパシタ600が大容量の電解コンデンサで構成される点が、図1のモータ駆動システム1と異なる。この電解コンデンサは、モータ駆動装置100の第2インバータ20から三相モータ40に供給する第2インバータ出力電圧vをバッファして補償するためのものである。
【0022】
図2に示されるように、モータ駆動装置100は、第2インバータ20側が、第1インバータ10側の単相交流電源50をDCリンクキャパシタ600で置き換えた形で構成される。第2インバータ20側から供給される入力電力は電源周波数の2倍の周波数で脈動する。このとき、パワーバランスの式(1)に示すように、入力電力p(t)はモータ電力T(t)とDCリンクキャパシタ電力pc2(t)との和である。
【数1】
従って、入力電力p(t)の脈動を、モータと第2インバータのDCリンクキャパシタとに分けることができる。このとき、第2インバータのDCリンクキャパシタの平均電力はゼロとなる。すなわちモータ駆動装置100では、DCリンクキャパシタを大容量の電解コンデンサで構成することにより入力電力の脈動を補償している。この制御方法によれば、モータは平均入力電力と同じ一定の電力を得る(式(2))。
【数2】
このとき、キャパシタは電源周波数の2倍の周期で平均電力0で脈動する電力を補償しなければならない(式(3))。
【数3】
図3に、このときの入力電力p(t)、モータ電力T(t)およびDCリンクキャパシタ電力pc2(t)の波形を示す。
【0023】
ここで、一定のモータ出力で一定のモータ誘起電圧を得るためには、トルクt(t)=Tとモータ電流のq軸電流iMq(t)もまた一定でなければならない。加えて、モータ電流を最小にするには、q軸電流成分とその大きさを等しくする必要がある(式(4))。
【数4】
その結果、i(t)が一定なので、d軸電圧成分をゼロすることができる(v1d(t)=0)。式(5)に示されるように、第1インバータは、必要な電力を入力からモータに出力する必要があり(入力電力=第1インバータ出力)、その出力電圧v(t)は電源周期の2倍で正弦波的に脈動しなければならない(式6)。
【数5】
【数6】
すなわち、電流は一定なので、電力脈動に合わせて電圧が脈動する。またこのピーク電圧は、最大変調率Mmaxとピーク入力電圧V^により、式(7)のように計算される。
【数7】
図4に、このときの入力電圧v(t)および第1インバータ出力電圧v(t)の波形を示す。
【0024】
第1インバータ出力電圧vおよび第2インバータ出力電圧vに対応する空間ベクトルの長さでも同様に考えることができる。これらの空間ベクトルは、モータインダクタンスが小さい(すなわち無視できる)ため、モータ電圧の空間ベクトルVと同じ方向を向く。従って、各インバータq軸電圧の和がモータ電圧と一致しなければならない(式(8))。
【数8】
図5に、このときの第1インバータ出力電圧vおよび第2インバータ出力電圧vに対応する空間ベクトルを示す。
【0025】
モータ駆動装置100の動作条件は、以下のようになる。
・モータ電圧vより第1インバータ出力電圧v1q(t)が小さいとき:
第2インバータは、電圧v2q(t)を加算する。
・モータ電圧vより第1インバータ出力電圧v1q(t)が大きいとき:
第2インバータは、電圧v2q(t)を減算する。
【0026】
これにより、入力電力の脈動を補償するように動作する第2キャパシタの平均電力pc2は、1周期でゼロとなる。またモータ電圧vはV^/2であることから、最大モータ電圧V=V/4となる(変調率Mmax=1)。
【0027】
この場合、第2インバータの最大出力電圧が電源電圧のゼロクロスするタイミングで最大モータ電圧Vを供給する必要がある。従って、第2インバータの入力電圧範囲は-VからVである。また第2インバータのDCリンク電圧vDC>2Vとなる必要がある。さらに、入力電力は平均ゼロで脈動するので、第2インバータのDCリンクキャパシタで補償する必要がある。この電力脈動を補償するために、大容量(C)のキャパシタ(例えば大容量の電解コンデンサ)が必要となる(式(9))。
【数9】
図6に、モータ駆動装置100のモータ電圧の波形を示す。図7に、モータ駆動装置100のモータ電流の波形を示す。図8に、モータ駆動装置100の第1インバータ出力電圧の波形を示す。図9に、モータ駆動装置100の第2インバータ出力電圧の波形を示す。
【0028】
[実施の形態に係る制御方法]
実施の形態に係るモータ駆動システム1の制御方法を説明する。前述の従来の制御方法では第2インバータのDCリンクキャパシタの平均電力pc2^をゼロにしていたのに対し、実施の形態に係る制御方法では第2インバータのDCリンクキャパシタの瞬時電力pc2(t)をゼロにする(pc2(t)=0)。従って第2インバータは、入力電力脈動をすべて直接三相モータの負荷に印加する(p(t)=p(t))。このとき、負荷が持つ大きいイナーシャJTOTにより、モータ回転速度ωとモータ電圧vは一定となる。しかしp(t)=p(t)であるため、入力電力とモータ電力は脈動するが、モータ電圧vが一定のため、モータ電流のq軸成分iMq(t)が電源周波数の2倍の周波数で正弦波的に変化する(式(10))。また、モータ電流はモータトルクt(t)に比例する。
【数10】
ただし、
【数11】
従来手法に対して、pc2(t)=p(t)=0とするために、第2インバータの空間ベクトル電圧v_(t)はゼロまたはモータ電流i(t)に直交して、無効電力を第2インバータから供給しなければならない。すなわち第2インバータはモータ電流を制御するために、空間ベクトル電圧v_(t)を制御することにのみ使用する。従って第2インバータの有効電力はゼロとなる。式(12)に示されるように、モータ電圧ベクトルv_(t)は、第1インバータ出力電圧ベクトルv_(t)と第1インバータ出力電圧ベクトルv_(t)の合成で表される。
【数12】
【0029】
モータ駆動システム1の制御は、Vの大きさに応じて以下のようになる。
・v1max(t)=|v(t)|/2≧Vのとき:
このときは入力電圧が大きいため、モータに必要な電力を十分に供給できる。よって、d軸電流をゼロ、モータ電流i(t)がq軸と同じにできる(式(13))。
【数13】
そして、第1インバータと第2インバータの電圧ベクトルは、それぞれ式(14)(15)のようにできる。
【数14】
【数15】
【0030】
・v1max<Vのとき:
このときは入力電圧がモータ電圧以下で十分でないため、負のd軸電流iMd(t)をモータに印加する必要がある。そのため、v_(t)がモータ電流i_(t)に直交させるために、d軸電流iMd(t)を作る。一方v_(t)はi_(t)と同相にすることができ、その大きさはv1maxとなる。すなわち、v(t)=v1max(t)または最大変調率M=1。これにより、両インバータとモータの二乗平均平方根(rms)電流を最小にすることができる。
【0031】
図10に、実施の形態の制御を行ったときの入力電圧v(t)および第1インバータ出力電圧v(t)の波形を示す。図11に、実施の形態の制御を行ったときの第1インバータ出力電圧vおよび第2インバータ出力電圧vに対応する空間ベクトルを示す。図12に、実施の形態の制御を行ったときの入力電力p(t)、モータ電力T(t)およびDCリンクキャパシタ電力pc2(t)の波形を示す。図13に、実施の形態の制御を行ったときのモータ電圧の波形を示す。図14に、V=2V=v^/2のときのモータ電流の波形を示す。図15に、V=2V=v^/2のときの第1インバータ出力電圧の波形を示す。図16に、V=2V=v^/2のときの第2インバータ出力電圧の波形を示す。図17に、V=V=v^/4のときのモータ電流の波形を示す。図18に、V=V=v^/4のときの第1インバータ出力電圧の波形を示す。図19に、V=V=v^/4のときの第2インバータ出力電圧の波形を示す。図20に、実施の形態に係るモータ駆動装置1の全体と、各部での信号波形をまとめて示す。
【0032】
第1インバータでのパワーバランスは、式(16)で示される。
【数16】
これよりi(t)とiMd(t)は、それぞれ以下のように計算される。
【数17】
【数18】
さらにv_(t)とi_(t)は同相となるように選ばれ、v(t)=v1max(t)となる。第1インバータのd軸電圧およびq軸電圧は、以下のように、それぞれd軸電流およびq軸電流に比例する。
【数19】
【数20】
従って、第2インバータのd軸電圧およびq軸電圧は、v_(t)=v_(t)+v_(t)より、以下のように計算される。
【数21】
【数22】
【0033】
さらに本実施の形態によれば、モータ誘起電圧Vは入力電源電圧v(t)で制限されない。従来手法では、有効電力を使用して入力電力脈動を補償していたため、vがvの動作を補完するように動作する必要があった。そのため、補償するvは-V=-V≦v≦V=Vで制限されていた。しかし、本実施の形態は無効電力を使用するため、従来手法のような制限はなくなる。従って、第2インバータのDCリンクキャパシタ電圧VDC2は、使用する素子の耐圧さえ満足できれば、任意に選択することができる。
【0034】
次に図21および図22を用いて、実施の形態に係るモータ駆動システム1の制御部30の制御について具体的に説明する。図21は、図1のモータ駆動システム1の制御部30を示すブロック図である。制御部30は、速度制御部31と、DCリンク電圧制御部32と、電圧制御部33と、電流制御部34と、を備える。図22は、電圧制御部33の詳細図である。
【0035】
[速度制御部]
速度制御部31の入力端には、三相モータ40の目標平均速度ωが入力される。目標平均速度ωは、三相モータ40の角度の測定値εから算出された現在の三相モータ40の平均速度ω ̄と比較される。さらにこの角度の測定値εを用いて、モータ電圧Vを算出する。三相モータ40の速度ωは、電源周波数fの2倍の周波数2fで脈動する。そこで平均速度ω ̄を得るために、時定数がT/2の移動平均フィルタ(MAF)を適用する。その後速度制御器Rωにより、速度誤差δωから目標トルクT を決定する。目標トルクT にフィードフォワード負荷トルクTFFLを加算することにより、目標トルクT を算出する。この目標トルクT に目標平均速度ωを乗算することにより、目標モータ電力P を算出する。このようにして、速度制御部31の出力端からは、目標平均速度ωを実現する目標モータ電力P が出力される。モータ駆動システム1に損失がないと仮定すると、目標モータ電力P は平均入力電力P に等しい。従って式(23)により、瞬時入力電力p が求まる。
【数23】
【0036】
[DCリンク電圧制御部]
三相モータ40に供給される瞬時モータ電力p は、第2インバータ20から供給されるDCリンクキャパシタの瞬時電力pc2 にも依存する。DCリンク電圧制御部32は、このDCリンクキャパシタの瞬時電力pc2 を算出する。DCリンク電圧制御部32の入力端には、目標平均DCリンクキャパシタ電圧VDC2 が入力される。DCリンクキャパシタ電圧制御器Rvが、目標平均DCリンクキャパシタ電圧VDC2 とDCリンクキャパシタ電圧測定値VDC2とを比較する。これによって得られた速度誤差δvが、目標DCリンクキャパシタ電流ic2 に変換される。目標DCリンクキャパシタ電流ic2 に目標平均DCリンクキャパシタ電圧VDC2 が乗算されて、目標DCリンクキャパシタ電力pc2 が算出される。これにより、DCリンクキャパシタ電圧は目標値に戻される。その後、瞬時モータ電力p =p -pc2 を用いて、式(24)により目標モータ電流のq軸成分iMq が算出される。
【数24】
【0037】
[電圧制御部]
電圧制御部33の入力端には、瞬時入力電力p 、整流電圧vDC1および目標モータ電流のq軸成分iMq が入力される。目標モータ電流のd軸成分iMd は、式(17)および式(18)から算出することができる。しかしここで、実現可能の第1インバータ出力電圧vには上限があることに注意する。すなわち第1インバータ出力電圧vは、式(25)で定められる最大値v1max以下でなければならない。
【数25】
もし式(17)で計算される目標モータ電流i がq軸成分iMq より小さくなる場合、正しいd軸成分iMd が得られるように、i の値を増加させる必要がある。このため電圧制御部33は、式(17)に従って、与えられた目標入力電力p を基に、第1インバータ出力電圧vの値を(小さくなるように)再計算する。次に電圧制御部33は、式(17)からモータ電流i(t)を計算し、式(18)からモータ電流のd軸成分iMd(t)を計算する。最後に電圧制御部33は、式(19)および式(20)から、第1インバータ出力電圧vのd軸成分v1d(t)およびq軸成分v1q(t)を計算して出力する。
【0038】
[電流制御部]
電流制御部34は、目標モータ電流のd軸成分iMd およびq軸成分iMq を用いて、モータ電圧のd軸成分vMdおよびq軸成分vMqを計算する。電流制御部34内の電流制御器RidおよびRiqが、電流誤差δiMdおよびδiMqをそれぞれ目標誘導電圧vLd およびvLq に変換する。さらに、フィードフォワード項vFFd=-ωpLMq およびvFFq+V=ωpLMd が加算されて、vMdおよびvMqが算出される。最後に第1インバータのd軸電圧成分v1dおよびq軸電圧成分v1qが減算されることにより、第2インバータのd軸電圧成分v2dおよびq軸電圧成分v2qが算出され、出力される。
【0039】
以上説明したように、実施の形態に係るモータ駆動システムによれば、モータに流れるq軸電流が単相交流電力と同期して脈動し、モータの十分に大きいイナーシャで、この脈動を吸収できるため、デュアルインバータトポロジーにおいて電解コンデンサを不要とすることができる。換言すれば、従来はq軸電流をモータトルクに使い、d軸電流はモータ磁束の制御に使っていたところ、本実施の形態ではq軸電流を脈動させてモータトルクを脈動させ、これをイナーシャで吸収することにより、電解コンデンサレス化を実現している。
【0040】
さらに本実施の形態ではモータ駆動システムをデュアルインバータ型とすることにより、
・第1インバータ(マスタインバータ)の出力電圧ベクトルと第2インバータ(スレーブインバータ)の出力電圧ベクトルの合成ベクトルがモータ電圧ベクトルとなるため、1台のインバータで駆動するシングルインバータ型モータ駆動システムに比べ、モータに大きな電圧を印加することができる、
・低周波で動作するため、WBG半導体などの高速スイッチングが不要である、
・2つのインバータが出力する電圧の和と差をモータの巻線両端に印加できるため、昇圧チョッパ回路が不要である、
といった顕著な効果を得ている。
【0041】
ある実施の形態では、制御部30は、整流電圧vDC1の最大値が三相モータ40の誘導電圧以上のとき、整流電圧vDC1が三相モータ40の誘導電圧のq軸成分となり、かつDCリンクキャパシタ60のキャパシタ電圧vDC2がゼロとなるように制御し、整流電圧vDC1の最大値が三相モータ40の誘導電圧より小さいとき、整流電圧vDC1が最大値を取るように、第1インバータ10および第2インバータ20を制御する。
【0042】
この実施の形態によれば、整流電圧の状態(すなわち、整流電圧の最大値がモータの誘導電圧より大きいか否か)に応じて第1のインバータおよび第2のインバータを的確に制御するので、両インバータとモータの実効電流を最小化する(すなわち損失を最小化する)ことができる。
【0043】
ある実施の形態では、制御部30は、整流電圧vDC1が発生する電力の持つ脈動を三相モータ40のオープンエンド巻線の一端に出力するように第1インバータ10を制御し、DCリンクキャパシタ60の瞬時電力がゼロとなるように第2インバータ20を制御する。
【0044】
この実施の形態によれば、第1インバータおよび第2インバータから供給される電力脈動だけでなく、整流電圧により発生する電力全体の脈動も、モータのイナーシャを用いて補償することができる。
【0045】
ある実施の形態では、制御部30は、目標モータ電流i が当該目標モータ電流i のq軸成分iMq より小さくなる場合、与えられた目標入力電力p を基に、第1インバータ出力電圧vの値を再計算する。
【0046】
この実施の形態によれば、目標モータ電流i が小さすぎる場合であっても、第1インバータ出力電圧vが上限値を越えないように再計算することにより、i の値を増加させることができるので、第1インバータおよび第2インバータから供給される電力脈動を安定的に補償することができる。
【0047】
[第2の実施の形態]
図23は、第2の実施の形態に係るモータ駆動システム2の一例を示すブロック図である。以下、図1のモータ駆動システム1と相違する点に焦点を当てて説明し、重複する説明は省略する。モータ駆動システム2は、第1インバータ10と、第2インバータ20と、制御部30と、を備える。第1インバータ10は、三相モータ40が有するオープンエンド巻線の一端41に接続される。第1インバータ10は、直列に接続された第1DCリンクキャパシタCの組61を有する。第1インバータ10には、単相交流電源50からの入力電圧が、整流部80で整流電圧に整流されて入力される。第2インバータ20は、三相モータ40が有するオープンエンド巻線の他端42に接続される。第2インバータ20は、直列に接続された第2DCリンクキャパシタCの組62を有する。第1DCリンクキャパシタの組61の中点と、第2DCリンクキャパシタの組62の中点とは、互いに接続されている。制御部30は、第1DCリンクキャパシタの組61の中点と第2DCリンクキャパシタの組62の中点との間を流れるコモンモード電流を介した電力転送により、第2インバータ20の有効電力を補償するように第1インバータ10および第2インバータ20を制御する。
【0048】
この実施の形態によれば、コモンモード電流を介した電力転送を利用することにより、簡易な制御で脈動補償をすることができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を基に説明した。これらの実施の形態は例示であり、種々の変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、モータ駆動システムに関する。
【符号の説明】
【0051】
1・・モータ駆動システム、 2・・モータ駆動システム、 10・・第1インバータ、 20・・第2インバータク、 30・・制御部、 31・・速度制御部、 32・・DCリンク電圧制御部、 33・・電圧制御部、 34・・電流制御部、 40・・三相モータ、 41・・オープンエンド巻線の一端、 42・・オープンエンド巻線の他端、 50・・単相交流電源、 60・・DCリンクキャパシタ、 70・・負荷、 80・・整流部、 100・・モータ駆動装置。
図1
図2
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