(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240215BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240215BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240215BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C01G49/00 Z
H01M4/36 C
H01M4/525
C01G51/00 A
(21)【出願番号】P 2022560410
(86)(22)【出願日】2020-07-24
(86)【国際出願番号】 CN2020104574
(87)【国際公開番号】W WO2022007021
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】202010657297.4
(32)【優先日】2020-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522228241
【氏名又は名称】湖北融通高科先進材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100212392
【氏名又は名称】今村 悠
(72)【発明者】
【氏名】程光春
(72)【発明者】
【氏名】孫傑
(72)【発明者】
【氏名】何中林
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085315(JP,A)
【文献】特開2019-145402(JP,A)
【文献】特開2018-041677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
H01M 4/36
H01M 4/525
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄源又はコバルト源をリチウム源と混合し、焼結した後にリチウムリッチ酸化物Li
5FeO
4又はLi
6CoO
4を得るステップであって、前記リチウム源と前記鉄源のモル比が5~25:1であり、前記リチウム源と前記コバルト源のモル比が6~30:1であるステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたリチウムリッチ酸化物を粉砕するステップ(2)と、
ステップ(2)で粉砕されたリチウムリッチ酸化物を炭素源と混合し、焼結した後に炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を
取得し、前記炭素源は、導電性カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン及びバイオマス炭のうちの1種又は複数種であるステップ(3)と、を含むことを特徴とする、
炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を製造する方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記鉄源は、三酸化二鉄、四酸化三鉄、オキシ水酸化鉄、硝酸鉄及びクエン酸鉄のうちの1種又は複数種であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(1)において、前記コバルト源は、酸化コバルト、四酸化三コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト及び硝酸コバルトのうちの1種又は複数種であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(1)において、前記リチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム及び酸化リチウムのうちの1種又は複数種であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(1)において、前記焼結過程は、鉄源又はコバルト源とリチウム源の混合物を焼結炉に入れ、不活性ガスの条件下で、所定の第1昇温速度で第1焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含み、
好ましくは、前記所定の第1昇温速度は、1~10℃/minであり、
好ましくは、前記第1焼結温度は、500~1000℃であり、第1焼結時間は、3~60hであることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(2)において、前記リチウムリッチ酸化物を、平均粒径が2~50μmになるまで粉砕することを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(3)において、リチウムリッチ酸化物と炭素源の総重量を基準として、前記炭素源が占める割合は、0.5~10重量%であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(3)において、前記焼結過程は、粉砕されたリチウムリッチ酸化物と炭素源を均一に混合した後、不活性ガスの条件下で、所定の第2昇温速度で第2焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含み、
好ましくは、前記所定の第2昇温速度は、1~10℃/minであり、
好ましくは、前記第2焼結温度は、200~600℃であり、第2焼結時間は、2~20hであることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2020年7月9日に出願された中国特許出願第202010657297.4号の優先権を主張し、当該出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム電池正極へのリチウム補充添加剤の技術分野に関し、具体的には、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度及び長いサイクル寿命などの利点を有し、消費者電子機器、動力電池及びエネルギー貯蔵などの分野にいずれも広く応用される。しかしながら、リチウム電池は、初回の充放電過程において、一部の電解液が負極表面で還元反応を起こし、緻密な固体電解質界面層を生成し、正極活性材料中の活性リチウムを消費して、不可逆容量損失をもたらす虞がある。また、正極材料も初回の充放電過程において一部が不可逆反応を起こし、リチウム電池における活性リチウム含有量を低下させる虞がある。これらの副次的反応は、いずれもリチウムイオン電池のエネルギー密度を低下させる。
【0004】
リチウム補充という方法を用いてリチウムイオン電池の不可逆容量損失を補い、正極材料の容量を回復させ、リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させることが、関連作業者に注目されている。従来のリチウム補充技術では、主に、「負極シートの表面にリチウム粉末を添加する」、「有機リチウム溶液を負極シートの表面にスプレーするか又は滴下する」及び「電気化学法」などの予備リチウム化手段を含む。しかしながら、以上の方法は、環境に対する要求が高く、また、一定の危険性を有し、不適切な操作は、容易に事故につながる。
【0005】
正極材料に少量のリチウムリッチ酸化物を添加することにより、従来の生産プロセスにおいて正極へのリチウム補充を実現し、電池のエネルギー密度を向上させることができる。逆蛍石構造のLi5FeO4、Li6CoO4は、超高比容量及び不可逆性のため、リチウム補充技術において幅広い用途が見込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リチウム補充方法が環境に対する要求が高く、また、一定の危険性を有するという従来技術に存在する問題を克服した、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料及びその製造方法を提供することである。当該方法は、従来の正極材料生産ラインで炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を直接製造することができ、拡張性及び経済性を有する。また、当該被覆炭素層は、リチウムリッチ金属酸化物の導電性が不足するという欠陥を効果的に克服することができ、リチウムリッチ酸化物は、正極材料に十分な活性リチウムを提供し、リチウム電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、
鉄源又はコバルト源をリチウム源と混合し、焼結した後にリチウムリッチ酸化物Li5FeO4又はLi6CoO4を得るステップであって、前記リチウム源と前記鉄源のモル比が5~25:1であり、前記リチウム源と前記コバルト源のモル比が6~30:1であるステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたリチウムリッチ酸化物を粉砕するステップ(2)と、
ステップ(2)で粉砕されたリチウムリッチ酸化物を炭素源と混合し、焼結した後に炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を得るステップ(3)と、を含む、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を製造する方法が提供される。
【0008】
好ましくは、ステップ(1)において、前記鉄源は、三酸化二鉄、四酸化三鉄、オキシ水酸化鉄、硝酸鉄及びクエン酸鉄のうちの1種又は複数種である。
【0009】
好ましくは、ステップ(1)において、前記コバルト源は、酸化コバルト、四酸化三コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト及び硝酸コバルトのうちの1種又は複数種である。
【0010】
好ましくは、ステップ(1)において、前記リチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム及び酸化リチウムのうちの1種又は複数種である。
【0011】
好ましくは、ステップ(1)において、前記焼結過程は、鉄源又はコバルト源とリチウム源の混合物を焼結炉に入れ、不活性ガスの条件下で、所定の第1昇温速度で第1焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含む。
【0012】
好ましくは、前記所定の第1昇温速度は、1~10℃/minである。
【0013】
好ましくは、前記第1焼結温度は、500~1000℃であり、前記第1焼結時間は、3~60hである。
【0014】
好ましくは、ステップ(2)において、前記リチウムリッチ酸化物を、平均粒径が2~50μmになるまで粉砕する。
【0015】
好ましくは、ステップ(3)において、前記炭素源は、導電性カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン及びバイオマス炭のうちの1種又は複数種である。
【0016】
好ましくは、ステップ(3)において、リチウムリッチ酸化物と炭素源の総重量を基準として、前記炭素源が占める割合は、0.5~10重量%である。
【0017】
好ましくは、ステップ(3)において、前記焼結過程は、粉砕されたリチウムリッチ酸化物と炭素源を均一に混合した後、不活性ガスの条件下で、所定の第2昇温速度で第2焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含む。
【0018】
好ましくは、前記所定の第2昇温速度は、1~10℃/minである。
【0019】
好ましくは、前記第2焼結温度は、200~600℃であり、前記第2焼結時間は、2~20hである。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、以上に記載の方法により製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料であって、当該炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が炭素層と、炭素層で被覆されたリチウムリッチ酸化物とを含み、前記リチウムリッチ酸化物がLi5FeO4又はLi6CoO4であることを特徴とする、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に記載の方法により製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料は、リチウムリッチ材料の導電性が不足するという欠陥を克服することができ、高い電気化学的性能を有し、リチウム電池の初回の充放電過程で損失した活性リチウムを効果的に補充することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例1で製造された炭素被覆Li
5FeO
4材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】本発明の実施例4で製造された炭素被覆Li
6CoO
4材料の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の実施例1で製造された炭素被覆Li
5FeO
4材料の充放電曲線である。
【
図4】本発明の実施例4で製造された炭素被覆Li
6CoO
4材料の充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。ここで記述される具体的な実施形態は、本発明を説明し解釈するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0024】
本明細書に開示されている範囲の端点及び任意の値は、当該正確な範囲又は値に限定されるものではなく、これらの範囲又は値は、これらの範囲又は値に近似する値を含むものとして理解されるべきである。数値範囲に対して、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と単独の点値との間、及び単独の点値同士を互いに組み合わせて1つ以上の新たな数値範囲を得ることができ、これらの数値範囲は、本明細書において具体的に開示されているものと見なされるべきである。
【0025】
本発明の一態様によれば、
鉄源又はコバルト源をリチウム源と混合し、焼結した後にリチウムリッチ酸化物Li5FeO4又はLi6CoO4を得るステップであって、前記リチウム源と前記鉄源のモル比が5~25:1であり、前記リチウム源と前記コバルト源のモル比が6~30:1であるステップ(1)と、
ステップ(1)で得られたリチウムリッチ酸化物を粉砕するステップ(2)と、
ステップ(2)で粉砕されたリチウムリッチ酸化物を炭素源と混合し、焼結した後に炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を得るステップ(3)と、を含む、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料を製造する方法が提供される。
【0026】
本発明に記載の方法により製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物材料中のリチウムリッチ酸化物は、結晶性が高く、異相がなく、高い電気化学的性能を有し、被覆炭素層は、リチウムリッチ酸化物の安定性を向上させるだけでなく、その導電性を向上させることができ、その性能の発揮に役立つ。
【0027】
本発明に記載の方法において、ステップ(1)において、前記鉄源は、本分野の一般的な選択であってもよい。具体的には、前記鉄源は、三酸化二鉄、四酸化三鉄、オキシ水酸化鉄、硝酸鉄及びクエン酸鉄のうちの1種又は複数種である。好ましくは、前記鉄源は、三酸化二鉄である。
【0028】
本発明に記載の方法において、ステップ(1)において、前記コバルト源は、本分野の一般的な選択であってもよい。具体的には、前記コバルト源は、酸化コバルト、四酸化三コバルト、炭酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト及び硝酸コバルトのうちの1種又は複数種である。好ましくは、前記コバルト源は、酸化コバルトである。
【0029】
本発明に記載の方法において、ステップ(1)において、前記リチウム源は、本分野の一般的な選択であってもよい。具体的には、前記リチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム及び酸化リチウムのうちの1種又は複数種である。好ましくは、前記リチウム源は、酸化リチウムである。
【0030】
鉄源又はコバルト源とリチウム源を、高い結晶化度を有するリチウムリッチ酸化物に焼結できることを保証するために、リチウム源と鉄源又はコバルト源のモル比を適切な範囲内に制御する必要がある。
【0031】
具体的な実施形態において、前記リチウム源と前記鉄源のモル比は、5:1、7:1、9:1、11:1、13:1、15:1、17:1、19:1、21:1、23:1、25:1及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよい。好ましい実施形態において、前記リチウム源と前記鉄源のモル比は、5.5:1である。
【0032】
具体的な実施形態において、前記リチウム源と前記コバルト源のモル比は、6:1、8:1、10:1、12:1、14:1、16:1、18:1、20:1、22:1、24:1、26:1、28:1、30:1及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよい。好ましい実施形態において、前記リチウム源と前記コバルト源のモル比は、6.6:1である。
【0033】
本発明に記載の方法において、ステップ(1)において、前記焼結過程は、鉄源又はコバルト源とリチウム源の混合物を焼結炉に入れ、不活性ガスの保護条件下で、所定の第1昇温速度で第1焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含む。
【0034】
ステップ(1)の前記焼結過程において、前記焼結炉は、本分野の一般的な選択であってもよく、好ましくは、前記焼結炉は、箱型炉である。
【0035】
ステップ(1)の前記焼結過程において、前記所定の第1昇温速度は、1~10℃/minであり、具体的には、例えば1℃/min、2℃/min、3℃/min、4℃/min、5℃/min、6℃/min、7℃/min、8℃/min、9℃/min又は10℃/minであってもよく、好ましくは、前記所定の第1昇温速度は、2℃/minである。
【0036】
ステップ(1)の前記焼結過程において、前記第1焼結温度は、500~1000℃であり、具体的には、例えば500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃又は1000℃であってもよい。
【0037】
焼結して得られたリチウムリッチ酸化物がLi5FeO4である場合、好ましくは、前記第1焼結温度は、850℃である。
【0038】
焼結して得られたリチウムリッチ酸化物がLi6CoO4である場合、好ましくは、前記第1焼結温度は、700℃である。
【0039】
ステップ(1)の前記焼結過程において、前記第1焼結時間は、3~60hであり、具体的には、例えば3h、5h、8h、10h、13h、16h、20h、23h、25h、30h、35h、40h、43h、48h、52h、55h、57h、60h及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよい。
【0040】
焼結して得られたリチウムリッチ酸化物がLi5FeO4である場合、好ましくは、前記第1焼結時間は10~40hであり、より好ましくは、前記第1焼結時間は12~30hである。
【0041】
焼結して得られたリチウムリッチ酸化物がLi6CoO4である場合、好ましくは、前記第1焼結時間は5~30hであり、より好ましくは、前記第1焼結時間は6~24hである。
【0042】
本発明に記載の方法において、ステップ(2)において、前記リチウムリッチ酸化物を、平均粒径が2~50μmになるまで粉砕し、具体的には、例えば2μm、5μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm、45μm、50μm及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよく、好ましくは、ステップ(2)において、前記リチウムリッチ酸化物を、平均粒径が25μmになるまで粉砕する。
【0043】
本発明に記載の方法において、ステップ(3)において、前記炭素源は、本分野の一般的に使用される導電性炭素材料であってもよい。具体的には、例えば導電性カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン及びバイオマス炭のうちの1種又は複数種であってもよい。好ましくは、前記炭素源は、導電性カーボンブラックであり、より好ましくは、前記炭素源は、導電性カーボンブラックSuper Pである。
【0044】
本発明に記載の方法において、ステップ(3)において、リチウムリッチ酸化物と炭素源の総重量を基準として、前記炭素源が占める割合は、0.5~10重量%であり、具体的には、例えば0.5重量%、1重量%、2重量%、4重量%、6重量%、8重量%、10重量%及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよい。好ましくは、ステップ(3)において、リチウムリッチ酸化物と炭素源の総重量を基準として、前記炭素源が占める割合は、1重量%である。
【0045】
本発明に記載の方法において、ステップ(3)において、前記焼結過程は、粉砕されたリチウムリッチ酸化物と炭素源を均一に混合した後、不活性ガスの条件下で、所定の第2昇温速度で第2焼結温度まで昇温させて焼結を行うステップを含む。
【0046】
ステップ(3)の前記焼結過程において、前記焼結炉は、本分野の一般的な選択であってもよく、好ましくは、前記焼結炉は、箱型炉である。
【0047】
ステップ(3)の前記焼結過程において、前記所定の第2昇温速度は、1~10℃/minであり、具体的には、例えば1℃/min、2℃/min、3℃/min、4℃/min、5℃/min、6℃/min、7℃/min、8℃/min、9℃/min又は10℃/minであってもよく、好ましくは、前記所定の第2昇温速度は、5℃/minである。
【0048】
ステップ(3)の前記焼結過程において、前記第2焼結温度は、200~600℃であり、具体的には、例えば200℃、300℃、400℃、500℃、600℃及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよく、好ましくは、前記第2焼結温度は、450℃である。
【0049】
ステップ(3)の前記焼結過程において、前記第2焼結時間は、2~20hであり、具体的には、例えば2h、5h、8h、10h、13h、15h、17h、20h及びこれらの点値のうちの任意の2つの点値からなる範囲内の任意の値であってもよく、好ましくは、前記第2焼結時間は、4~10hである。
【0050】
本発明の別の態様によれば、以上に記載の方法により製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料であって、当該炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が炭素層と、炭素層で被覆されたリチウムリッチ酸化物とを含み、前記リチウムリッチ酸化物が逆蛍石構造のLi5FeO4又はLi6CoO4である、炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が提供される。当該炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料は、添加剤として、正極材料の初回の充放電過程において消費される不可逆的なリチウムを提供することができる。
【0051】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の保護範囲は、これに限定されない。
【0052】
本発明の実施例1~3は、炭素被覆Li5FeO4複合材料の製造過程を説明するために用いられ、実施例4~6は、炭素被覆Li6CoO4複合材料の製造過程を説明するために用いられる。
(実施例1)
【0053】
206.2gのLi
2O及び200gのFe
2O
3を均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、2℃/minの昇温速度で850℃まで昇温させて24h焼結し、焼結して得られたLi
5FeO
4を、平均粒径が35μmになるまで粉砕した後に導電性カーボンブラックSuper Pと均一に混合する。その後、箱形炉に入れて5℃/minの昇温速度で450℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で7h保温して、炭素被覆Li
5FeO
4複合材料(走査型電子顕微鏡写真及び充放電曲線は
図1及び
図3に示すとおりである)を得る。Super Pは、複合材料の総重量の3%を占める。
(実施例2)
【0054】
283.8gのLiOH・H2Oと100gのFe2O3を均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、5℃/minの昇温速度で950℃まで昇温させて36h焼結し、焼結して得られたLi5FeO4を、平均粒径が15μmになるまで粉砕した後にケッチェンブラックと均一に混合する。その後、箱形炉に入れて10℃/minの昇温速度で600℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で18h保温して、炭素被覆Li5FeO4複合材料を得る。ケッチェンブラックは、複合材料の総重量の2%を占める。
(実施例3)
【0055】
109.1gのLi2Oと100gのFe2O3を均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、8℃/minの昇温速度で750℃まで昇温させて40h焼結し、焼結して得られたLi5FeO4を、平均粒径が50μmになるまで粉砕した後に導電性カーボンブラックSuper Pと均一に混合する。その後、箱形炉に入れて2℃/minの昇温速度で300℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で4h保温して、炭素被覆Li5FeO4複合材料を得る。Super Pは、複合材料の総重量の5%を占める。
(比較例1)
【0056】
粉砕後のLi5FeO4に炭素被覆を行わないことを除き、実施例1に記載の方法に従ってLi5FeO4材料を製造する。
(実施例4)
【0057】
130.67gのLi
2O及び100gのCoOを均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、2℃/minの昇温速度で700℃まで昇温させて18h焼結し、焼結して得られたLi
6CoO
4を、平均粒径が10μmになるまで粉砕した後に導電性カーボンブラックSuper Pと均一に混合する。その後、箱形炉に入れて8℃/minの昇温速度で450℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で10h保温して、炭素被覆Li
6CoO
4複合材料(走査型電子顕微鏡写真及び充放電曲線は
図2及び
図4に示すとおりである)を得る。Super Pは、複合材料の総重量の3%を占める。
(実施例5)
【0058】
87.3gのLi2Oと100gのCoCO3を均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、6℃/minの昇温速度で800℃まで昇温させて12h焼結し、焼結して得られたLi6CoO4を、平均粒径が30μmになるまで粉砕した後にカーボンナノチューブと均一に混合する。その後、箱形炉に入れて4℃/minの昇温速度で350℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で5h保温して、炭素被覆Li6CoO4複合材料を得る。カーボンナノチューブは、複合材料の総重量の1%を占める。
(実施例6)
【0059】
205.64のLiOHと100gのCoOを均一に混合し、得られた混合物を箱形炉に入れ、窒素ガスの保護下で、9℃/minの昇温速度で750℃まで昇温させて15h焼結し、焼結して得られたLi6CoO4を、平均粒径が5μmになるまで粉砕した後に導電性カーボンブラックKS-6と均一に混合する。その後、箱形炉に入れて7℃/minの昇温速度で300℃まで昇温させ、窒素ガス雰囲気下で15h保温して、炭素被覆Li6CoO4複合材料を得る。KS-6は、複合材料の質量の2%を占める。
(比較例2)
【0060】
粉砕後のLi6CoO4に炭素被覆を行わないことを除き、実施例4に記載の方法に従ってLi6CoO4材料を製造する。
(試験例)
【0061】
実施例1~6及び比較例1~2で製造された材料をリチウムイオン電池に製造して検出した。検出ステップは、以下のとおりである。炭素被覆Li5FeO4、Super-P及びPVDFを質量比90:5:5でNMPに分散させ、固体含有量を約40%に制御し、消泡機により均一に分散させた後、アルミニウム箔に塗布し、真空乾燥させ、正極シートを製造した後にグローブボックス中でボタン式2025電池の組立を行う。電解液は、1.2mol/LのLiPF6であり、溶媒体積比は、EC:EMC=3:7であり、セパレータは、Celgardポリプロピレンフィルムであり、金属リチウムシートは、対電極として用いられる。組み立てられた半電池に対して新威試験器で容量試験を行う。充電カットオフ電圧は4.7Vであり、放電カットオフ電圧は2.0Vであり、充放電倍率は0.05Cである。試験結果は表1及び表2に示すとおりである。
【0062】
【0063】
表1のデータから、実施例1~3に従って製造された炭素被覆Li5FeO4複合材料は明らかに初回充電比容量が高く、これは、本発明に記載の方法に従って製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が明らかに改善された電気化学的性能を有することを示す。
【0064】
【0065】
表2のデータから、実施例4~6に従って製造された炭素被覆Li6CoO4複合材料は明らかに初回充電比容量が高く、これは、本発明に記載の方法に従って製造された炭素被覆リチウムリッチ酸化物複合材料が明らかに改善された電気化学的性能を有することを示す。
【0066】
以上は、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明は、これに限定されない。本発明の技術的思想の範囲内に、本発明の技術手段に対して、各技術的特徴を任意の他の適切な方式で組み合わせることを含む複数の簡単な変形を行うことができる。これらの簡単な変形及び組み合わせは、同様に本発明に開示された内容と見なされるべきであり、いずれも本発明の保護範囲に属する。