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特許7436770割岩工具および当該工具を用いた破砕方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】割岩工具および当該工具を用いた破砕方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 37/02 20060101AFI20240215BHJP
   B28D 1/28 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
E21C37/02
B28D1/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023184629
(22)【出願日】2023-10-27
【審査請求日】2023-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399048869
【氏名又は名称】株式会社神島組
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】神島 昭男
(72)【発明者】
【氏名】神島 充子
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭63-2557(JP,Y2)
【文献】特開2002-292623(JP,A)
【文献】特許第6963718(JP,B1)
【文献】実用新案登録第2524336(JP,Y2)
【文献】特許第6387505(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 37/02
B28D 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物に形成された削孔の開口に向けて先細り形状に仕上げられた第1傾斜部位を有し、前記削孔内に挿入可能に設けられた下方側楔部材と、
前記削孔の底面に向けて先細り形状に仕上げられた第2傾斜部位を有するとともに、前記第2傾斜部位を前記削孔に挿入された前記下方側楔部材の前記第1傾斜部位に摺接させた状態で前記削孔の深さ方向に沿って移動自在に設けられる上方側楔部材と、
前記深さ方向と直交する直交方向において、前記第1傾斜部位と前記第2傾斜部位とが互いに摺接する摺接領域を前記削孔内で挟み込むように設けられた第1羽根部材および第2羽根部材と、
前記第1羽根部材および前記第2羽根部材をそれぞれ前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位に押し当てるように付勢力を与えながら前記第1羽根部材および前記第2羽根部材を相互に連結する連結機構と、を備え、
前記上方側楔部材に対して前記底面に向けて外力が付与されることで前記上方側楔部材が前記底面に向かって摺動するのに伴って、前記付勢力に抗いながら前記削孔内で前記下方側楔部材および前記第1羽根部材が一体的に前記直交方向に移動して前記第1羽根部材により前記削孔の内壁を押圧する
ことを特徴とする割岩工具。
【請求項2】
請求項1に記載の割岩工具であって、
前記下方側楔部材は、前記削孔の開口側において前記第1傾斜部位に隣接して設けられた第1規制部位を有し、前記第1規制部位により前記第1羽根部材が前記開口側に移動するのを規制する、割岩工具。
【請求項3】
請求項1に記載の割岩工具であって、
前記上方側楔部材は、前記底面側において前記第2傾斜部位に隣接して設けられた第2規制部位を有し、前記第2規制部位により前記第2羽根部材が前記底面側に移動するのを規制する、割岩工具。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の割岩工具であって、
前記削孔に全体的に挿入された前記上方側楔部材に対して前記削孔の開口側で前記削孔に沿って延設される長軸体をさらに備え、
前記長軸体の両端面のうち前記上方側楔部材と対向する第1端面が前記上方側楔部材と当接する一方、前記第1端面の反対側の第2端面が前記外力を受けることで、前記長軸体が前記外力を前記上方側楔部材に伝達する割岩工具。
【請求項5】
請求項1に記載の割岩工具を、前記連結機構により前記第1羽根部材および前記第2羽根部材をそれぞれ前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位に押し当てながら前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、前記削孔に挿入して前記下方側楔部材を前記削孔の底面上に載置する工程と、
前記削孔に挿入された前記割岩工具の前記上方側楔部材に対して前記底面に向かう外力を与えることで、前記付勢力に抗いながら前記削孔内で前記下方側楔部材および前記第1羽根部材を一体的に前記直交方向に移動させることにより前記第1羽根部材により前記削孔の内壁を押圧して前記削孔の周囲を破砕する工程と
を備えることを特徴とする破砕方法。
【請求項6】
請求項1に記載の割岩工具と同一構成を有する第1割岩工具を、前記連結機構により前記第1羽根部材および前記第2羽根部材をそれぞれ前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位に押し当てながら前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、前記削孔に挿入して前記下方側楔部材を前記削孔の底面上に載置する工程と、
前記削孔への前記第1割岩工具の挿入に続いて、請求項1に記載の割岩工具と同一構成を有する第2割岩工具を、前記連結機構により前記第1羽根部材および前記第2羽根部材をそれぞれ前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位に押し当てながら前記第1傾斜部位および前記第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、前記削孔に挿入して前記第2割岩工具の前記下方側楔部材を前記第1割岩工具の前記上方側楔部材の上に載置する工程と、
前記削孔に挿入された前記第2割岩工具の前記上方側楔部材に対して前記底面に向かう外力を与えることで、前記削孔の内部で前記第1割岩工具および前記第2割岩工具の各々において前記付勢力に抗いながら前記削孔内で前記下方側楔部材および前記第1羽根部材を一体的に前記直交方向に移動させることにより前記第1羽根部材により前記削孔の内壁を押圧して前記削孔の周囲を破砕する工程と
を備えることを特徴とする破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、岩盤、岩石、コンクリート構造物などの処理対象物を割岩する割岩工具および当該工具を用いて処理対象物を破砕する破砕技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、岩石、岩盤やコンクリート構造物などの処理対象物を割岩するための割岩工具として、楔部材(ウェッジと称されることもある)と羽根部材(ライナーと称されることもある)を用いた、いわゆるセリ矢が知られている。例えば特許文献1では、楔部材と羽根部材を組み合わせた割岩工具により処理対象物を割岩する技術が記載されている。より詳しくは、岩盤に削岩機で予め削孔を形成し、削孔内に楔部材と羽根部材を組み合わせた割岩工具を挿入し、楔部材の後端部をブレーカで打撃して割岩して岩盤を破砕している。
【0003】
上記割岩工具では、各羽根部材および楔部材を削孔に挿入する作業、ならびに岩盤の破砕後に各羽根部材および楔部材を回収する作業については、作業機械を補助的に使用することは可能である。しかしながら、割岩工具を用いた破砕作業では、人手による作業が数多く存在している。例えばブレーカによる打撃前に削孔に対して羽根部材を個別に挿入し、しかも削孔内で羽根部材を相互に離間させて楔部材の先端部を挿入するための隙間を形成する必要があった。また、破砕が完了して楔部材を羽根部材から引き抜いた後で破砕領域において互いに分離している各羽根部材の位置を確認し、それぞれを個別に回収する際にも、人手が必要となる。このような人手作業を割岩毎に行う必要があり、これが割岩工具を用いた破砕処理の効率を低下させる主要因の一つとなっていた。
【0004】
そこで、本願出願人は、ベース側楔部材に対して第1羽根部材および第2羽根部材がベース側連結部により削孔の径方向に移動自在に連結されるとともに、プレート側楔部材に対して第1羽根部材および第2羽根部材がプレート側連結部により削孔の径方向に移動自在に連結された割岩工具を創作した(特許文献2参照)。この割岩工具では、外力の付与に応じて可動プレート部とともにプレート側楔部材が底面に向かって移動するのに伴って、第1羽根部材が第1ベース側傾斜面および第1プレート側傾斜面に沿って摺動しながら第1径方向に移動して削孔の内壁を押圧するとともに、第2羽根部材が第2ベース側傾斜面および第2プレート側傾斜面に沿って摺動しながら第2径方向に移動して削孔の内壁を押圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-225925号公報(図3
【文献】特許第6963718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の割岩工具では、割岩処理の初期段階、つまり外力の付与に応じた可動プレート部およびプレート側楔部材の移動開始段階では、各羽根部材がベース側傾斜面およびプレート側傾斜面と摺接している面積が小さく、割岩処理の進行にしたがって摺接面積が徐々に増大して割岩処理が進行する。したがって、割岩処理の効率化を図る上で改善の余地があった。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、岩石、岩盤やコンクリート構造物などの処理対象物を優れた効率で割岩することができる割岩工具および当該工具を用いて処理対象物を効率的に割岩することができる破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の態様は、割岩工具であって、処理対象物に形成された削孔の開口に向けて先細り形状に仕上げられた第1傾斜部位を有し、削孔内に挿入可能に設けられた下方側楔部材と、削孔の底面に向けて先細り形状に仕上げられた第2傾斜部位を有するとともに、第2傾斜部位を削孔に挿入された下方側楔部材の第1傾斜部位に摺接させた状態で削孔の深さ方向に沿って移動自在に設けられる上方側楔部材と、深さ方向と直交する直交方向において、第1傾斜部位と第2傾斜部位とが互いに摺接する摺接領域を削孔内で挟み込むように設けられた第1羽根部材および第2羽根部材と、第1羽根部材および第2羽根部材をそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てるように付勢力を与えながら第1羽根部材および第2羽根部材を相互に連結する連結機構と、を備え、上方側楔部材に対して底面に向けて外力が付与されることで上方側楔部材が底面に向かって摺動するのに伴って、付勢力に抗いながら削孔内で下方側楔部材および第1羽根部材が一体的に直交方向に移動して第1羽根部材により削孔の内壁を押圧することを特徴としている。
【0009】
また、この発明の第2の態様は、破砕方法であって、割岩工具を、連結機構により第1羽根部材および第2羽根部材をそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てながら第1傾斜部位および第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、削孔に挿入して下方側楔部材を削孔の底面上に載置する工程と、削孔に挿入された割岩工具の上方側楔部材に対して底面に向かう外力を与えることで、付勢力に抗いながら削孔内で下方側楔部材および第1羽根部材を一体的に直交方向に移動させることにより第1羽根部材により削孔の内壁を押圧して削孔の周囲を破砕する工程とを備えることを特徴としている。
【0010】
さらに、この発明の第3の態様は、破砕方法であって、上記割岩工具と同一構成を有する第1割岩工具を、連結機構により第1羽根部材および第2羽根部材をそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てながら第1傾斜部位および第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、削孔に挿入して下方側楔部材を削孔の底面上に載置する工程と、削孔への第1割岩工具の挿入に続いて、請求項1に記載の割岩工具と同一構成を有する第2割岩工具を、連結機構により第1羽根部材および第2羽根部材をそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てながら第1傾斜部位および第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で、削孔に挿入して第2割岩工具の下方側楔部材を第1割岩工具の上方側楔部材の上に載置する工程と、削孔に挿入された第2割岩工具の上方側楔部材に対して底面に向かう外力を与えることで、削孔の内部で第1割岩工具および第2割岩工具の各々において付勢力に抗いながら削孔内で下方側楔部材および第1羽根部材を一体的に直交方向に移動させることにより第1羽根部材により削孔の内壁を押圧して削孔の周囲を破砕する工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、第1傾斜部位および第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で上方側楔部材が削孔の深さ方向に沿って移動するのに伴って、下方側楔部材に対して第1羽根部材が押し当てられたまま下方側楔部材および第1羽根部材が一体的に上記深さ方向と直交する方向に移動して第1羽根部材により削孔の内壁を押圧して削孔の周囲を割岩している。したがって、第1羽根部材および第2羽根部材がそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てられた状態のまま割岩処理が開始される。つまり、割岩処理の初期段階から割岩に大きな力が作用し、処理対象物を効率的に破砕することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る破砕方法の第1実施形態を実行する際に用いられる割岩工具およびブレーカを示す図である。
図2図1に示す割岩工具の構成および基本動作を示す図である。
図3】連結機構による羽根部材の連結を説明するための分解組立図である。
図4】連結機構および連結機構により相互連結された羽根部材を示す図である。
図5】本発明に係る破砕方法の第1実施形態を模式的に示す図である。
図6】本発明に係る割岩工具の第2実施形態を示す図である。
図7】本発明に係る割岩工具の第3実施形態における連結機構の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る破砕方法の第1実施形態は、以下の工程(1)~(4)、
工程(1):岩石、岩盤やコンクリート構造物などの処理対象物の自由面近傍に削孔を形成する、
工程(2):本発明に係る割岩工具を削孔に挿入する、
工程(3):上記割岩工具の上方側楔部材をブレーカのピストンで打撃して削孔の底面に向けて圧入して削孔の周囲、特に削孔から自由面に向かう領域(割岩領域)を割岩する、
工程(4):ブレーカを取り外するとともに割岩工具を回収した後で、リッパーにより割岩領域およびその上方に位置する上部領域を掘り起こして除去する(リッピング除去)、
を実行することで処理対象物を割岩し、削孔から自由面側に至る領域を破砕するものであり、特に破砕効率を高めるために、次の説明する割岩工具を用いている。なお、ここでは、処理対象物の自由面近傍を破砕するケースを例示して説明するが、それ以外の処理対象物についても同様にして破砕することができる。
【0014】
図1は本発明に係る破砕方法の第1実施形態を実行する際に用いられる割岩工具およびブレーカを示す図であり、当該割岩工具は本発明に係る割岩工具の第1実施形態に相当している。また、図2図1に示す割岩工具の構成および基本動作を示す図である。なお、各図における方向を統一的に示すために、XYZ直交座標軸を設定する。ここで、Z軸の軸方向が処理対象物2に対して削孔21を形成する深さ方向を表し、(Z2)方向に削孔21の底面211が位置する一方、(Z1)方向に削孔21の開口212が位置している。また、削孔21の深さ方向Zと直交するY軸の軸方向が削孔21の径方向に相当し、そのうち処理対象物2の自由面22に向かうY1が第1径方向に相当し、Y2が第2径方向に相当している。つまり、Y方向が本発明の「直交方向」の一例に相当している。さらに、Z軸およびY軸の両方に直交する軸をX軸としており、その一方をX1方向とし、他方をX2方向としている。
【0015】
割岩工具1は、図2に示すように、下方側楔部材11と、上方側楔部材12と、第1羽根部材13と、第2羽根部材14と、連結機構(図3および図4中の符号15)とを有している。
【0016】
下方側楔部材11は、ベース部位111、第1傾斜部位112およびトップ部位113を有している。ベース部位111は削孔21の内径よりも小さな外径を有する略円盤形状に仕上げられており、削孔21の底面211に載置可能となっている。このベース部位111の(Z1)面には、段差部が設けられ、一段階繰り下がった面で上方側楔部材12の(Z2)方向端部(後で説明するベース部位121)を係止可能となっている。また、当該(Z1)面のうち一段階繰り上がった面から(Z1)方向に第1傾斜部位112が延設されている。第1傾斜部位112は、図2に示すように、削孔21の開口212(図1)に向けて先細り形状に仕上げられている。より詳しくは、第1傾斜部位112のうち(Y1)方向側の側面は深さ方向Zと平行な垂直面であるのに対し、(Y2)方向側の側面は傾斜面112aに仕上がられており、径方向Yにおける厚みが削孔21の開口212に進むにしたがって薄くなっている。
【0017】
さらに、第1傾斜部位112の(Z1)方向側の端部にトップ部位113が設けられている。トップ部位113は第1傾斜部位112から(Y1)方向に隣接して設けられており、本発明の「第1規制部位」の一例に相当している。本実施形態では、ベース部位111、第1傾斜部位112およびトップ部位113は円柱形状の金属材料を削り出して形成されているが、下方側楔部材11の製造方法はこれに限定されるものではない。例えばベース部位111、第1傾斜部位112およびトップ部位113を個別に準備し、それらを溶接などにより接続することで下方側楔部材11を製造してもよい。この点については、次に説明する上方側楔部材12においても同様である。
【0018】
上方側楔部材12は、ベース部位121、第2傾斜部位122およびトップ部位123を有している。トップ部位123は、その外形が略ヘルメット形状を有しており、その(Z1)面は凸球面に仕上げられている。トップ部位123の上面中央部から(Z2)方向にねじ穴123aが設けられている。このねじ穴123aには、雌ネジが螺刻されており、雌ネジに対して割岩工具1を吊り上げるためのアイボルトなどが着脱自在となっている。したがって、割岩工具1にアイボルトを装着し、さらにアイボルトにワイヤーを掛け渡した状態でクレーンなどの重機により割岩工具1を削孔21に挿入したり、削孔21から引き上げたりすることが可能となっている。なお、後述する長軸体の(Z1)方向側の端面にも、ねじ穴が設けられており、削孔21に対する長軸体の挿脱が可能となっている。
【0019】
また、トップ部位123の(Z2)面は下方側楔部材11のトップ部位113を係止可能に構成されている。この(Z2)面から(Z2)方向に第2傾斜部位122が延設されている。第2傾斜部位122は、図2に示すように、削孔21の底面211に向けて先細り形状に仕上げられている。より詳しくは、第2傾斜部位122のうち(Y2)方向側の側面は深さ方向Zと平行な垂直面であるのに対し、(Y1)方向側の側面は傾斜面122aに仕上がられており、径方向Yにおける厚みが削孔21の底面211に進むにしたがって薄くなっている。さらに、第2傾斜部位122の(Z2)方向側の端部にベース部位121が設けられている。ベース部位121は第2傾斜部位122から(Y2)方向に隣接して設けられており、本発明の「第2規制部位」の一例に相当している。
【0020】
上記第1傾斜部位112の傾斜面112aおよび第2傾斜部位122の傾斜面122aは、互いに摺接した状態で配置されて第1傾斜部位112に対して第2傾斜部位122がZ方向に摺動自在となるように、下方側楔部材11および上方側楔部材12は密接されている。なお、図2に示すように、傾斜部位112の傾斜面および第2傾斜部位122の傾斜面が摺接している領域を本明細書では「摺接領域SR」と称する。
【0021】
この摺接領域SRを第1羽根部材13および第2羽根部材14が削孔21内で挟み込むように設けられている。より詳しくは、図2に示すように、第1羽根部材13および第2羽根部材14がそれぞれ第1傾斜部位112および第2傾斜部位122に当接可能となっている。しかも、図2への図示を省略しているが、第1羽根部材13および第2羽根部材14は次に詳述する連結機構15(図3図4)により相互に連結され、第1羽根部材13および第2羽根部材14はそれぞれ第1傾斜部位112および第2傾斜部位122に押し当てられる。なお、摺接領域SRは上方側楔部材12の押込み量に伴って増大するが、第1羽根部材13および第2羽根部材14は常時、摺接領域SRに範囲内に位置している。したがって、第1傾斜部位112に対する第2傾斜部位122の摺動に伴って発生するY方向への力、つまり第1羽根部材13および第2羽根部材をそれぞれY1方向およびY2方向に移動させる力は第1羽根部材13および第2羽根部材14全体に作用する。
【0022】
図3は連結機構による羽根部材の連結を説明するための分解組立図であり、図4は連結機構および連結機構により相互連結された羽根部材を示す図である。連結機構15は、複数本のバネ部材151と、複数のナット152とで構成されている。各バネ部材151は、第1羽根部材13および第2羽根部材14を相互に近接させる方向に作用する付勢力を発生させるように構成されている。各バネ部材151は、上記付勢力を発生させるコイル部位と、コイル部位から(Y1)方向に延びるバネ端部151aと、コイル部位から(Y2)方向に延びるバネ端部151bとを有している。これらのバネ端部151a。151bには、ナット152と螺合自在な雄ネジが刻設されている。そして、図4に示すように、コイル部位が、第1羽根部材13の内部に設けられたバネ収容空間131と、第2羽根部材14の内部に設けられたバネ収容空間141とにより形成されるバネ空間に収容される。バネ端部151aは第1羽根部材13においてバネ収容空間131と連通する貫通孔を介して第1羽根部材13の切欠部132まで入り込んだ状態でナット152と連結されている。バネ端部151bは第2羽根部材14においてバネ収容空間141と連通する貫通孔を介して第2羽根部材14の切欠部142まで入り込んだ状態でナット152と連結されている。こうして、第1羽根部材13および第2羽根部材14はそれぞれ第1傾斜部位112および第2傾斜部位122に押し当てられた状態で、連結機構15により連結されている。その結果、下方側楔部材11、上方側楔部材12、第1羽根部材13および第2羽根部材14が連結機構15により一体化され、本発明の割岩工具1の一例として機能する。
【0023】
次に、上記にように構成された割岩工具1およびブレーカ3を用いて処理対象物2を割岩して破砕する方法について図5を参照しつつ説明する。図5は本発明に係る破砕方法の第1実施形態を模式的に示す図である。同図では、下方側楔部材11、上方側楔部材12、第1羽根部材13および第2羽根部材14の移動動作を明確にするため、連結機構に関連する構成の図示が省略されている。
【0024】
この実施形態では、図5(a)に示すように、処理対象物2に削孔21を(Z2)方向に形成する(工程(1):削孔形成工程)。これに並行して、上記削孔21に挿入すべき割岩工具1を準備しておく(準備工程)。この準備工程では、上方側楔部材12を上方に引き上げることでトップ部位113およびベース部位121がそれぞれ第1羽根部材13および第2羽根部材14と係止し、割岩工具1を削孔21に対する挿脱に適した姿勢に整えている(押込み前の状態)。そして、トップ部位123のねじ穴123aにアイボルトの雄ネジを螺合させ、割岩工具1にアイボルトを取り付ける。また、アイボルトに対して吊下ワイヤーを装着しておく。
【0025】
そして、同図(a)に示すように、吊下ワイヤーを利用して押込み前の状態のまま割岩工具1を削孔21に挿入して割岩工具1のベース部位111削孔21の底面211上に載置し、底面211で支持する(工程(2):割岩工具の設置工程)。このとき、第1羽根部材13および第2羽根部材14が削孔21内に入り込む。
【0026】
それに続いて、吊下ワイヤーおよびアイボルトを取り外した後で、図1に示すようにブレーカ3のピストン31を上方側楔部材12のトップ部位123に位置決めする。その後で、ブレーカ3を作動させて図5(b)に示すように、上方側楔部材12に対して打撃を加えて上方側楔部材12を下方側楔部材11に対して摺接させながら(Z2)方向に押し下げる。このとき、連結機構15のバネ部材151による付勢力に抗いながら第1羽根部材13が(Y1)方向に移動しながら第2羽根部材14と一体的に(Z1)方向に移動する。その結果、図5(b)中の白抜き矢印で示すように、第1羽根部材13が削孔21の内壁に密接する。このとき、上方側楔部材12および第2羽根部材14も一体的に(Y2)方向に移動して削孔21の内壁に密接する。こうして第1羽根部材13および第2羽根部材14が削孔21の内壁に密接した状態で、第1羽根部材13から自由面22に向かって押圧力が与えられる。これによって、削孔21の開口212から(Z1)方向に進んだ割岩領域23に対し、削孔21から自由面22に向かって亀裂が入り、破砕される(工程(3):破砕工程)。このとき、割岩領域23よりも(Z1)方向側に位置する上部領域24においては亀裂が入っておらず、破砕工程前と同じ状態となっている。
【0027】
次に、ブレーカ3の作動を停止させるとともに、ブレーカ3を上方側楔部材12から(Z1)方向に離す。すると、付勢力により第1羽根部材13は削孔21の内壁面から(Y2)方向に離れる方向の力を受ける。その状態のまま、トップ部位123のねじ穴123aにアイボルトの雄ネジを螺合させ、割岩工具1にアイボルトを取り付けるとともに、アイボルトに対して吊下ワイヤーを装着した後で、クレーンなどにより上方側楔部材12を引き上げると、割岩工具1の挿入時と逆の動作により、割岩工具1が削孔21から回収することができる(工程(4):回収工程)。こうして、割岩工具1が取り出されると、同図(c)に示すように、処理対象物2では割岩領域23の上に上部領域(非割岩領域)24が乗った状態となる。
【0028】
その後で、リッピング用アタッチメントが取り付けられた建設重機によって、割岩領域23を取り除く。このとき、だるま落としの原理により、上部領域(非割岩領域)24も同時に取り除かれ、同図(d)に示すように、削孔21に対して自由面22側に位置していた比較的大きな領域(=割岩領域23+上部領域24)が処理対象物2からリッピング除去される。
【0029】
以上のように、本実施形態では、割岩工具1は、第1傾斜部位112および第2傾斜部位122を互いに摺接させた状態で上方側楔部材12が削孔21の深さ方向Z2に沿って移動するのに伴って、下方側楔部材11に対して第1羽根部材13が押し当てられたまま下方側楔部材11および第1羽根部材13が一体的に上記深さ方向Z2と直交する方向Y1に移動して第1羽根部材13により削孔21の内壁を押圧して削孔21の周囲を割岩している。したがって、割岩処理の初期段階から割岩に大きな力が寄与し、処理対象物2を効率的に破砕することができる。
【0030】
<第2実施形態>
図6は、本発明に係る割岩工具の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、削孔21に沿って延設される長軸体16をさらに備えており、第1実施形態よりも深い位置で割岩可能となっている点である。第2実施形態では、図6(a)に示すように、削孔21に対し、連結機構15により第1羽根部材13および第2羽根部材14をそれぞれ第1傾斜部位112および第2傾斜部位122に押し当てた状態で全体的に挿入される。そして、上方側楔部材12のトップ部位123からのアイボルトの取外後に、長軸体16を第1実施形態と同様にアイボルトおよび吊下ワイヤーを用いることで、長軸体16の(Z2)方向側端部が削孔21に挿入される。これにより、長軸体16の(Z2)方向側の端面161が上方側楔部材12のトップ部位123に当接される。長軸体16の(Z2)方向側端部は削孔21の開口212よりも上方に延設されている。また、長軸体16よりも(Z2)方向側では、上方側楔部材12は図2(a)と同様に押込み前の状態となっている。
【0031】
それに続いて、吊下ワイヤーおよびアイボルトを取り外した後で、ブレーカ3のピストン31を長軸体16の(Z1)方向端面162に位置決めする。より詳しくは、長軸体16は、図6(a)に示すように、(Z1)方向側の端面162がブレーカ3のピストン31(図1参照)に対向するとともに(Z2)方向側の端面161が上方側楔部材12のトップ部位123に対向するように配置される。つまり、長軸体16の軸線が削孔21の形成方向Zと略平行となるように、ブレーカ3と上方側楔部材12との間に配置される。ここで、上方側楔部材12のトップ部位123の(Z1)面が平面に仕上げられている場合には、長軸体16の両端面も平面に仕上げるのが望ましい。一方、例えば特開2016-212221号公報に記載されているように、ブレーカ3に設けられるピストン31の軸線と上方側楔部材12の軸線とが多少不一致になったとしてもブレーカ3の打撃力を確実に上方側楔部材12に伝達するためには、図6に示すように、ピストン、長軸体16およびトップ部位123を湾曲形状に仕上げてもよく、第2実施形態では当該構成を採用している。この点については、特許文献2に記載の装置と同様である。
【0032】
その後で、ブレーカ3を作動させて図6(b)に示すように、長軸体16の(Z2)方向端面161を介して上方側楔部材12に対して打撃を加えて上方側楔部材12を下方側楔部材11に対して摺接させながら(Z2)方向に押し下げる。このとき、連結機構15のバネ部材151による付勢力に抗いながら第1羽根部材13が(Y1)方向に移動しながら第2羽根部材14と一体的に(Z1)方向に移動する。このとき、上方側楔部材12および第2羽根部材14も一体的に(Y2)方向に移動して削孔21の内壁に密接する。こうして第1羽根部材13および第2羽根部材14が削孔21の内壁に密接した状態で、第1羽根部材13から自由面22に向かって押圧力が与えられる。その結果、図6(b)中の白抜き矢印で示すように、第1羽根部材13が削孔21の内壁に密接して押圧力を与える。これによって、第1実施形態よりもさらに深い位置の割岩領域25に対し、削孔21から自由面22に向かって亀裂が入り、破砕される。
【0033】
このように、第2実施形態では、長軸体16の(Z2)方向端面161および(Z1)方向端面162がそれぞれ本発明の「第1端面」および「第2端面」として機能し、第1実施形態よりも深い位置で割岩処理を行うことができる。
【0034】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、1つの削孔21に対して1つ割岩工具1を用いて割岩処理を実行しているが、特許文献2に記載されているように、上記割岩工具1を複数個、削孔21に挿入して複数箇所で割岩処理を実行してもよい。例えば2つの割岩工具1を用いる場合、図2(a)に示す押込み前状態の割岩工具1を本発明の「第1割岩工具」として削孔21に挿入して下方側楔部材11を削孔21の底面211上に載置する。それに続いて、図2(a)に示す押込み前状態の別の割岩工具1を本発明の「第2割岩工具」として削孔21に挿入して第2割岩工具1の下方側楔部材11を第1割岩工具1の上方側楔部材12の上に載置する。その後で第1実施形態や第2実施形態と同様に、第2割岩工具1の上方側楔部材12に打撃を加えることで、当該上方側楔部材12を第2割岩工具1の下方側楔部材11に対して摺接させながら(Z2)方向に押し下げるとともに、第1割岩工具1においても上方側楔部材12を下方側楔部材11に対して摺接させながら(Z2)方向に押し下げる。これによって、2箇所の割岩領域において亀裂が導入され、これらの割岩領域が破砕される。
【0035】
また、上記実施形態では、1つの削孔21に対して上記工程(2)~(4)を連続的に実行しているが、予め複数の削孔21を列状に形成し、それらの工程の全部あるいは一部を並行して行うことで破砕処理を連続的に行ってもよい。
【0036】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、連結機構15は、10本のバネ部材151を用いて付勢力を発生させているが、バネ部材151の本数はこれに限定されるものではなく、例えば図7に示すように、第1羽根部材13および第2羽根部材14の形状や大きさなどに応じて14本のバネ部材151を用いてもよい(第3実施形態)。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は、岩盤、岩石、コンクリート構造物などの処理対象物を割岩する割岩工具全般および当該工具を用いて処理対象物を破砕する破砕技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…割岩工具
2…処理対象物
11…下方側楔部材
12…上方側楔部材
13…第1羽根部材
14…第2羽根部材
15…連結機構
16…長軸体
21…削孔
22…自由面
23,25…割岩領域
111,121…ベース部位
112…第1傾斜部位
112a……(第1傾斜部位の)傾斜面
113…トップ部位(第1規制部位)
122…第2傾斜部位
122a…(第2傾斜部位の)傾斜面
123…トップ部位(第2規制部位)
151…バネ部材
161…(第2)端面
162…(第1)端面
211…(削孔の)底面
212…(削孔の)開口
SR…摺接領域
Y…径方向(直交方向)
【要約】
【課題】岩石、岩盤やコンクリート構造物などの処理対象物を優れた効率で割岩することができる割岩工具および当該工具を用いて処理対象物を効率的に割岩することができる破砕方法を提供する。
【解決手段】この発明では、第1傾斜部位および第2傾斜部位を互いに摺接させた状態で上方側楔部材が削孔の深さ方向に沿って移動するのに伴って、下方側楔部材に対して第1羽根部材が押し当てられたまま下方側楔部材および第1羽根部材が一体的に上記深さ方向と直交する方向に移動して第1羽根部材により削孔の内壁を押圧して削孔の周囲を割岩している。したがって、第1羽根部材および第2羽根部材がそれぞれ第1傾斜部位および第2傾斜部位に押し当てられた状態のまま割岩処理が開始される。つまり、割岩処理の初期段階から割岩に大きな力が作用し、処理対象物を効率的に破砕することができる。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7