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  • 特許-研磨パッドの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】研磨パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20240215BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240215BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08G18/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019067951
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163536
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-274362(JP,A)
【文献】特開2018-024061(JP,A)
【文献】特開2016-074044(JP,A)
【文献】特開2002-194104(JP,A)
【文献】特開2017-064891(JP,A)
【文献】特開2009-208165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08G 18/00
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレポリマーに中空微小球体を混合する一次混合工程と、一次混合工程で得た混合液に硬化剤を混合する二次混合工程と、上記二次混合工程で得た混合液から硬質ウレタンからなる樹脂成形体を成形する成形工程と、上記樹脂成形体から研磨層を形成する研磨層形成工程とにより、内部に無数の気泡が形成された硬質ウレタンからなる研磨層を備えた研磨パッドを製造する研磨パッドの製造方法において、
上記気泡として、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素を蒸発させることで膨張させた加熱膨張性微小球状体からなる中空微小球体由来の気泡と、上記一次混合工程および二次混合工程においてプレポリマーと硬化剤の混合物中に混入した空気を由来とする上記中空微小球体以外の気泡とを有し、
上記中空微小球体由来の気泡径が15~90μm、上記中空微小球体以外の気泡径が200~600μmであって、
上記一次混合工程では、予め1次タンクにおいてプレポリマーと中空微小球体とを攪拌する際に減圧脱泡処理を行い、また予め上記硬化剤を収容した2次タンクにおいて硬化剤を加熱した状態で減圧下脱泡し、
上記成形工程では、上記二次混合工程において混合された成形体成形用混合液を型に流し込む際に、当該混合液を整流板によって整流し、混合液中の空気をフィルタによって除去し、上記型に投入した混合液から空気を脱泡する作業を行い、
上記研磨層に形成される気泡の総体積に占める、上記中空微小球体由来の気泡の体積の割合が90%以上であることを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項2】
上記研磨層に形成される気泡の総体積に占める、上記中空微小球体由来の気泡の体積の割合が96%以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッドの製造方法
【請求項3】
上記気泡の総体積に占める中空微小球体由来の気泡が占める体積の割合が、CTスキャンを用いて計測されることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の研磨パッドの製造方法
【請求項4】
上記研磨層に形成される気泡の総体積に占める、上記中空微小球体由来の気泡の体積割合が、上記研磨層の中央部分で測定されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに研磨パッドの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関し、詳しくは内部に無数の気泡が形成された硬質ウレタンからなる研磨層を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学材料や半導体基板、ハードディスク用基板といった被研磨物を研磨するために、硬質ウレタンからなる研磨層を有する研磨パッドが用いられている。このような研磨パッドとして、上記研磨層の内部に無数の気泡が形成されたものが知られている(特許文献1)。
上記硬質ウレタンからなる研磨層に気泡を形成する方法として、上記研磨層の形成段階で攪拌しながら空気を取り込む方法や、上記研磨層の形成段階で化学反応によりガスを発泡させる方法の他、上記特許文献1では中空微小球体(高分子微小エレメント)を用いて気泡を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平8-500622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された研磨パッドの製造方法は、原料のプレポリマーと硬化剤を混合した後、硬化するまでのわずかな時間で中空微小球体を混合する必要があり、実際に製造すると、研磨層となるプレポリマーと硬化剤の混合物中に空気が混入し、この混入した空気が研磨層内に気泡となって残留してしまう。
このような中空微小球体に由来しない気泡(以下ピットと呼ぶ)は一般的に中空微小球体よりも大きく、研磨層内に中空微小球体由来の気泡と上記ピットとが混在すると、研磨パッドの研磨性能に影響を及ぼしたり、上記ピットに流入した研磨くずによるスクラッチ傷の恐れがあった。
このような問題に鑑み、本発明は研磨層内に形成される気泡の径を揃えることで、安定した研磨性能を有する研磨パッドを製造可能な研磨パッドの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる研磨パッドの製造方法は、プレポリマーに中空微小球体を混合する一次混合工程と、一次混合工程で得た混合液に硬化剤を混合する二次混合工程と、上記二次混合工程で得た混合液から硬質ウレタンからなる樹脂成形体を成形する成形工程と、上記樹脂成形体から研磨層を形成する研磨層形成工程とにより、内部に無数の気泡が形成された硬質ウレタンからなる研磨層を備えた研磨パッドを製造する研磨パッドの製造方法において、
上記気泡として、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素を蒸発させることで膨張させた加熱膨張性微小球状体からなる中空微小球体由来の気泡と、上記一次混合工程および二次混合工程においてプレポリマーと硬化剤の混合物中に混入した空気を由来とする上記中空微小球体以外の気泡とを有し、
上記中空微小球体由来の気泡径が15~90μm、上記中空微小球体以外の気泡径が200~600μmであって、
上記一次混合工程では、予め1次タンクにおいてプレポリマーと中空微小球体とを攪拌する際に減圧脱泡処理を行い、また予め上記硬化剤を収容した2次タンクにおいて硬化剤を加熱した状態で減圧下脱泡し、
上記成形工程では、上記二次混合工程において混合された成形体成形用混合液を型に流し込む際に、当該混合液を整流板によって整流し、混合液中の空気をフィルタによって除去し、上記型に投入した混合液から空気を脱泡する作業を行い、
上記研磨層に形成される気泡の総体積に占める、上記中空微小球体由来の気泡の体積の割合が90%以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明にかかる研磨パッドの製造方法によって得られた研磨パッドによれば、研磨層内に中空微小球体由来の気泡が多数形成されていることから、上記ピットに起因する研磨性能の低下やスクラッチ傷を防止することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】研磨パッドの研磨層についての拡大写真
図2】本実施例の研磨パッドを製造する製造装置の構成図
図3】実施例1、2および比較例1についての気泡体積率の測定結果を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明にかかる研磨パッドについて説明すると、上記研磨パッドはいわゆるプレポリマー法によって形成された硬質ウレタンからなる研磨層を有し、当該研磨層の内部には無数の気泡が形成されるとともに、当該研磨層の表面には上記気泡による開口部が多数形成されている。
上記気泡は、後述する製造方法の過程においてプレポリマーに投入される中空微小球体に由来するものとなっており、この中空微小球体由来の気泡の内部には後述するように空気以外のガスが充満されている。
上記中空微小球体に由来する気泡の径は、使用する中空微小球体の径に応じて自由に設定することができ、また同じ径の中空微小球体を用いることで、研磨層に形成される気泡の径を揃えることが可能となっている。本実施例において、上記中空微小球体由来の気泡の径は15~90μmとなっている。
【0009】
そして、上記研磨層に気泡が形成された研磨パッドを用いて被研磨物の研磨を行う場合、予め研磨パッドの表面を粗面化し、研磨層の表面に上記気泡による開口部を形成する。
その後、上記研磨パッドを研磨装置に装着し、当該研磨パッドと被研磨物とを相対的に回転させながら、研磨パッドと被研磨物との間にスラリーを供給すると、研磨パッドの研磨層に形成された気泡にスラリーが流入し、当該気泡によってスラリーを保持する。
そして、上記気泡に保持されたスラリーに含まれる粒子によって被研磨物が機械的に研磨され、またスラリーに含まれる薬品によって被研磨物を科学的に研磨するようになっている。
【0010】
しかしながら、上記研磨パッドの研磨層に形成される気泡としては、上述した中空微小球体に由来する気泡の他にも、中空微小球体に由来しない気泡(以下、ピットと呼ぶ)が形成される場合がある。
図1は上記研磨パッドの研磨層の表面を拡大して撮影した写真となっており、上段は走査型電子顕微鏡(SEM)にて100倍に拡大した画像を、中段は同じく走査型電子顕微鏡にて200倍に拡大した画像を、下段はレーザーマイクロスコープにて200倍に拡大した画像をそれぞれ示している。
各写真において、中空微小球体に由来する気泡bの直径が約20μmであるのに対し、上記ピットPの直径は約400μmであった、なお、実際のピットPは約200~600μmのランダムな大きさで形成される。
【0011】
このように、上記ピットPは上記中空微小球体に由来する気泡bよりも大きいが、当該ピットPの形成されている空間には樹脂が位置しないため、当該ピットP近傍における研磨パッドの剛性が他の部分と異なってしまい、研磨パッドの場所によって研磨性能が変化して研磨ムラの原因となる。
また、研磨の際、上記ピットPにはスラリーとともに被研磨物を研磨した際に発生する研磨くずが流入し、この研磨くずによって被研磨物の表面にスクラッチ傷を発生させる恐れがあった。
したがって、研磨パッドの研磨面に形成される気泡としては、予め設定された径、すなわち材料として投入する中空微小球体の径で揃えられていることが望ましい。
【0012】
そこで本実施例では、研磨パッドの研磨層に形成される気泡の総体積に占める、中空微小球体由来の気泡の体積の割合が90%以上、より好ましくは96%以上となるように形成したものとなっている。
これにより、研磨層に形成される気泡の径を中空微小球体の径に揃えることができ、研磨層における部分的な剛性の変化がなくなることから安定した研磨性能を得ることができる。また、気泡への研磨くずの流入も防止されるため、被研磨物へのスクラッチ傷を抑制することが可能となる。
【0013】
ここで、研磨層に形成される気泡の総体積に占める、中空微小球体由来の気泡の体積の割合を計測する方法としては、CTスキャンを用いることが望ましい。
具体的には、最初にCTスキャンによって研磨パッドの研磨層を撮影して、撮影されたスキャン画像中の気泡を、上記中空微小球体またはピットに由来するものであるかを識別する。ここで上記中空微小球体の平均気泡径は15~90μmであるのに対し、ピットPの平均気泡径は200~600μmと中空微小球体の気泡径の2倍以上大きいため、気泡径に基づいて中空微小球体由来の気泡であるかピットPに由来するものかを認識することができる。
そのうえで、スキャン画像に基づいて研磨層中に形成された気泡が占める総体積を算出するとともに、上記中空微小球体由来の気泡の体積を算出して、総体積に占める中空微小球体由来の気泡の体積の割合を算出することができる。
なお、上記中空微小球体由来の気泡内に収容されているガスと、上記ピットPに収容されている空気とは、X線の透過速度が異なることから、CTスキャン等の非破壊検査を用いて上記気泡を構成する気体を認識し、中空微小球体由来の気泡であるかピットPに由来するものかを認識して上記割合を算出するようにしてもよい。
【0014】
以下、本実施例にかかる研磨パッドの製造方法を説明すると、当該研磨パッドは以下に説明する工程に基づいて、図2に記載した製造装置1を使用して製造される。
研磨パッドは、プレポリマーに中空微小球体を混合する一次混合工程と、一次混合工程で得た混合液に硬化剤を混合する二次混合工程と、上記二次混合工程で得た混合液から硬質ウレタンからなる樹脂成形体を成形する成形工程と、上記樹脂成形体から研磨層を形成する研磨層形成工程とを経て製造されるようになっている。
そして上記製造装置1は、上記一次混合工程を行う1次タンク2と、硬化剤を収容する2次タンク3と、上記二次混合工程を行うミキシングヘッド4と、当該ミキシングヘッド4の下方に設けられて上記成形工程を行う型5とによって構成されている。なお、このような製造装置1自体は従来公知であるため、詳細な説明については省略するものとする。
【0015】
上記一次混合工程では、上記1次タンク2にプレポリマーと中空微小球体とを投入して、これを混合する作業を行う。
上記プレポリマーとしてポリウレタン結合含有イソシアネート化合物を用いることができ、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であって、ポリウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものとなっている。また、他の成分がポリウレタン結合含有イソシアネート化合物に含まれていてもよい。
ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物としては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。上記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法及び条件を用いて付加重合反応すればよい。例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することが出来る。
【0016】
上記プレポリマーを構成する上記ポリイソシアネート化合物は、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味し、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではないが、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物がより好ましい。
例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。
これらの内、本実施例で使用するポリイソシアネート化合物としては、上述したジイソシアネート化合物の中でも、2,4-TDI、2,6-TDI、MDIがより好ましく、2,4-TDI、2,6-TDIが特に好ましい。
これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
次に、上記プレポリマーを構成するポリオール化合物とは、分子内に2つ以上のアルコール性水酸基(OH)を有する化合物を意味し、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物;ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等を挙げることができる。
また、エチレンオキサイドを付加した3官能性プロピレングリコールを用いることもできる。これらの中でも、PTMG、又はPTMGとDEGの組み合わせが好ましい。
そして上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記プレポリマーにおいて、NCO当量、すなわちNCO基1個当たりのプレポリマーの分子量は200~800であることが好ましく、300~700であることがより好ましく、400~600であることがさらにより好ましい。
具体的にプレポリマーのNCO当量は、“(ポリイソシアネート化合物の質量部+ポリオール化合物の質量部)/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量部/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量部/ポリオール化合物の分子量)]”で求めることができる。
【0019】
一方、一次混合工程で上記プレポリマーに混合される中空微小球体としては、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を加熱し、上記低沸点炭化水素を蒸発させることで膨張させたものが挙げられる。
上記外殻(ポリマー殻)としては、特開昭57-137323号公報等に開示されているように、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
一方、外殻(ポリマー殻)に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
中空微小球体の形状としては、球状、楕円状、及びこれらに近い形状のものが含まれ、その直径は15~90μmであることが好ましい。
【0020】
そして上記一次混合工程では、プレポリマー(ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物)および中空微小球体を上記1次タンク2に投入し、1次タンク2に設けられた図示しない攪拌手段によってこれらが攪拌される。
1次タンク2においてプレポリマーと中空微小球体とを攪拌する際には、研磨パッドの研磨層内へのピットPの混入を抑制するために、外部の空気が混合液中に取り込まれないよう、減圧脱泡処理を行う。
【0021】
上記2次タンク3に収容される硬化剤(鎖伸長剤ともいう)としては、例えば、ポリアミン化合物及び/又はポリオール化合物を用いることが出来る。
上記プレポリマー(ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物)に硬化剤を加えることにより、その後の成形体成形工程において、ポリウレタン結合含有イソシアネート化合物の主鎖末端が硬化剤と結合してポリマー鎖を形成し、硬化させることが可能となっている。
硬化剤に使用するポリアミン化合物とは、分子内に2つ以上のアミノ基を有する化合物を意味し、当該ポリアミン化合物としては、脂肪族や芳香族のポリアミン化合物、特にはジアミン化合物を使用することができる。
例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)、MOCAと同様の構造を有するポリアミン化合物等を挙げることができる。
また、ポリアミン化合物が水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。
そしてポリアミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、MOCA、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンがより好ましく、MOCAが特に好ましい。
ポリアミン化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリアミン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、硬化剤として使用するポリオール化合物としては、ジオール化合物やトリオール化合物等の化合物であれば特に制限なく用いることができる。また、プレポリマーを形成するのに用いられるポリオール化合物と同一であっても異なっていてもよい。
具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの低分子量ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの高分子量のポリオール化合物などが挙げられる。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
さらに硬化剤として、ポリアミン化合物もしくはポリオール化合物を単独で用いてもよく、これらの混合物を用いてもよい。
【0023】
そして、上記硬化剤が収容される2次タンク3では、上記ミキシングヘッド4において上記プレポリマーとの混合をし易くし、また研磨パッドにおけるピットPの形成を抑制するために、必要により加熱した状態で減圧下脱泡することが好ましい。
減圧下での脱泡方法としては、ポリウレタンの製造において公知の方法を用いればよく、例えば、真空ポンプを用いて0.1MPa以下の真空度で脱泡することができる。
なお、硬化剤(鎖伸長剤)として固体の化合物を用いる場合は、加熱により溶融させつつ、減圧下脱泡することができる。
【0024】
次に、上記二次混合工程として、ミキシングヘッド4には上記1次タンク2から中空微小球体が混入されたプレポリマーと、2次タンク3から硬化剤とが投入され、ミキシングヘッド4内に設けられた攪拌翼4aによってこれらが混合される。上記ミキシングヘッド4には図示しないヒータが設けられ、投入した材料の流動性が確保されるようになっている。
このとき、プレポリマーとしてのポリウレタン結合含有イソシアネート化合物の末端に存在するイソシアネート基に対する、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基及び水酸基)の当量比であるR値が、0.70~1.20となるように各成分を混合する。R値は、0.75~1.00が好ましく、0.80~0.95がより好ましい。
【0025】
そして成形体成形工程では、上記二次混合工程においてミキシングヘッド4で混合された成形体成形用混合液を、50~100℃に予め加温された上記型5に流し込む。ミキシングヘッド4は型5の中央部上方に位置し、ミキシングヘッド4から排出された成形体成形用混合液が中央部から型5の四方へ広がることでブロック状の樹脂成型体が得られる。
研磨層にピットPが形成される可能性が最も高いのが、この成型体成型工程であり、特に、ミキシングヘッド4直下の研磨層中央部(型5の中央部にあたる)となる位置で最もピットPが形成されやすい。
これは、ミキシングヘッド4から成形体成形用混合液が排出される際に、周りの空気を巻き込む可能性がある他、成形体成形用混合液が型5の壁にぶつかって反射された液面と新たにミキシングヘッド4から排出される成形体成形用混合液とが衝突することなどが原因と考えられる。
このとき、混合液に空気が混入しピットPが形成されるのを防止するため、例えば上記ミキシングヘッド4と型5との間に、吐出される混合液を整流する整流板や、混合液中の空気を除去するフィルタを設けたり、上記型5を真空チャンバ内に設けて、型5に投入された混合液から空気を脱泡する作業を行う。
その後、型5内ではプレポリマーと硬化剤とが反応し、上記中空微小球体を含んだ硬質ウレタンからなる樹脂成型体が得られ、上記樹脂成型体はシート状にスライスされた後に所定形状にカットされ、当該シートの表面及び/又は裏面を研削処理する。このようにして得られた研磨パッドに対し、研磨層の表面に溝加工やエンボス加工を施してもよい。
【0026】
【表1】
【0027】
上記表1は、本発明にかかる研磨パッドである実施例1、2と、比較対象の研磨パッドである比較例1、2について、気泡体積率の測定結果を示したものとなっている。
上記実施例1、2および比較例1、2の研磨パッドの製造に用いた原料は同じものとなっており、基本的のその製造方法も同じとなっている。ただし、実施例1、2の研磨パッドを製造する際、上述した成形体成形工程においてピットPの形成を防止するための対策を行い、これに対し比較例1、2の研磨パッドを製造する際、成形体成形工程においてピットPの形成を防止するための対策を行わなかった点で異なっている。
そのうえで、上記実施例1については、上記一次混合工程において投入する中空微小球体として平均径が15μmである中空微小球体を用い、実施例2については、一次混合工程において平均径が40μmである中空微小球体を用いた。
一方、上記比較例1については、上記実施例1と同様、平均径が15μmである中空微小球体を用い、比較例2については、実施例2と同様、平均径が40μmである中空微小球体を用いた。
【0028】
そして上記実施例1、2および比較例1、2の研磨パッドの研磨層について、CTスキャンにより気泡体積率の測定を行った。
詳細には、実施例1、2および比較例1、2の研磨パッドより研磨層の中央部分を3mm角で切り出し、切り出した試験片をそれぞれ試料台に固定し、X線CT測定装置で測定した後、得られた画像を画像解析により二値化処理することで気泡体積率を算出した。
気泡体積率は、測定箇所の全体積における気泡が閉める体積割合を示す。この際、気泡径が15~90μmの気泡を中空微小球体由来の気泡、気泡径が200~600μmの気泡をピットP由来の気泡として、中空微小球体由来の気泡体積およびピット由来の気泡体積率を算出し、全気泡体積におけるそれぞれの体積割合を求めた。
【0029】
CTスキャンの測定条件等は以下の通りである。
測定装置:TDM1000H-II(2K)(ヤマト科学株式会社製)
測定条件:管電圧-40kV
管電流-90μA
拡大軸率-30mm
解析方法:多孔質構造解析を用いて解析
【0030】
実施例及び比較例のCTスキャン画像を図3に示す。なお、比較例1、2については得られた画像に含まれるピットPの態様がほぼ同じであったため、比較例1についての画像のみを示すものとする。
ここで実施例1および比較例1では、一次混合工程時に投入した平均径15μmの中空微小球体が反応熱等により多少膨張し、中空微小球体由来の気泡の平均径がそれぞれ、17.0μm及び16.5μmであった。
一方実施例2および比較例2では、一次混合工程時に投入した平均径40μmの中空微小球体が反応熱等により多少膨張し、中空微小球体由来の気泡の平均径がそれぞれ47.5μmであった。
そして、表1から明らかな様に、実施例1および実施例2は、中空微小球体由来の気泡の体積割合がそれぞれ97.1%、96.7%と高い一方、比較例1および比較例2の中空微小球体由来の気泡の体積割合は82.8%および84.8%と、ピットPが多く発生していたことが理解できる。
これは、図3に示すCTスキャンの断面画像からも明らかである。なお、ピットPとして検出された気泡の径は200~600μmのものがほとんどであり、1000μm以上の気泡径のピットPは確認されなかった。
【0031】
続いて、上記実施例1、2および比較例1、2にかかる研磨パッドを用いて以下の研磨試験を行った。
<研磨試験の条件>
・使用研磨機:荏原製作所社製、F-REX300X
・Disk:3MA188(#100)
・回転数:(定盤)70rpm、(トップリング)71rpm
・研磨圧力:3.5psi
・研磨剤:キャボット社製、品番:SS25(SS25原液:純水=重量比1:1の混合液を使用)
・研磨剤温度:20℃
・研磨剤吐出量:200ml/min
・使用ワーク(被研磨物):12インチシリコンウエハ上にテトラエトキシシランをPE-CVDで絶縁膜1μmの厚さになるように形成した基板
・パッドブレーク:35N 10分
・コンディショニング:Ex-situ、35N、4スキャン
【0032】
(ディフェクト性能の評価)
ディフェクト性能は、上記実施例1、2および比較例1、2の研磨パッドを装着した上記研磨機を用いてそれぞれ25枚の基板を研磨し、研磨加工後の21~25枚目の基板5枚について、ウエハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP1DLS)の高感度測定モードにて測定し、基板表面におけるスクラッチ等のディフェクトの個数をカウントした。
その結果、実施例1および実施例2の研磨パッドは0.16μm以下のディフェクト数が200個未満と良好であったのに対し、比較例1および比較例2の研磨パッドは0.16μm以下のディフェクト数が200以上であり、ディフェクト性能に劣ることが分かった。
この実験結果によれば、研磨層中におけるピットPの体積割合が研磨性能に影響を及ぼしていることが理解でき、具体的には上記中空微小球体由来の気泡の体積の割合を90%以上とすることで、良好な研磨性能を得られることが判明した。
【符号の説明】
【0033】
1 製造装置 2 1次タンク
3 2次タンク 4 ミキシングヘッド
5 型 b 気泡(中空微小球体由来)
P ピット
図1
図2
図3