(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】フルオロオレフィン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/269 20060101AFI20240215BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20240215BHJP
B01J 27/12 20060101ALI20240215BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
C07C17/269
C07C21/18
B01J27/12 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019130149
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-172231(JP,A)
【文献】特開昭56-016429(JP,A)
【文献】特開昭50-117705(JP,A)
【文献】特開2002-075975(JP,A)
【文献】特開平05-237325(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 21/
B01J 27/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が4以上のフルオロオレフィン化合物の製造方法であって、
アルカリ金属フッ化物の存在下に、
炭素数が2以上のハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させて前記フルオロオレフィン化合物を得る工程
を備え
、
前記アルカリ金属フッ化物の比表面積が500~2000m
2
/gであり、
前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物が、一般式(2):
CF
2
=CRX (2)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、製造方法。
【請求項2】
前記フルオロオレフィン化合物が、一般式(1):
CF
3CR=CRCF
3 (1)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フルオロオレフィン化合物が、一般式(1A):
【化1】
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物が、一般式(2A):
【化2】
[式中、Rはフッ素原子又は含フッ素アルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属フッ化物が担体上に担持されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記担体及びアルカリ金属フッ化物の総量を100質量%として、前記アルカリ金属フッ化物の含有量が0.1~75質量%である、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記二量化反応が、フッ素を含有する気体の存在下で行われる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記二量化反応において、前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物の前記アルカリ金属フッ化物(担体に担持させる場合は担体及びアルカリ金属フッ化物の総量)に対する接触時間(W/F)が5~200g・sec/ccである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記二量化反応における反応温度が200~500℃である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロオレフィン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オクタフルオロ-2-ブテンに代表される炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物は、通常、アルミニウムクロロフルオライド(ACF)触媒の存在下に、特定の三員環含フッ素化合物を開環反応させること、又はテトラフルオロエチレンとCF3CF2Iとを反応させることによって合成している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Journal of Fluorine Chemistry 102 (2000) 199-204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、工業的に安価に、炭素数が4以上のフルオロオレフィン化合物を高転化率且つ高選択率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0006】
項1.炭素数が4以上のフルオロオレフィン化合物の製造方法であって、
アルカリ金属フッ化物の存在下に、
炭素数が2以上のハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させて前記フルオロオレフィン化合物を得る工程
を備える、製造方法。
【0007】
項2.前記フルオロオレフィン化合物が、一般式(1):
CF3CR=CRCF3 (1)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、項1に記載の製造方法。
【0008】
項3.前記フルオロオレフィン化合物が、一般式(1A):
【0009】
【化1】
[式中、Rは各々フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、項1又は2に記載の製造方法。
【0010】
項4.前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物が、一般式(2):
CF2=CRX (2)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物である、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
項5.前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物が、一般式(2A):
【0012】
【化2】
[式中、Rはフッ素原子又は含フッ素アルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物である、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0013】
項6.前記アルカリ金属フッ化物の比表面積が500~2000m2/gである、項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0014】
項7.前記アルカリ金属フッ化物が担体上に担持されている、項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【0015】
項8.前記担体及びアルカリ金属フッ化物の総量を100質量%として、前記アルカリ金属フッ化物の含有量が0.1~75質量%である、項7に記載の製造方法。
【0016】
項9.前記二量化反応が、フッ素を含有する気体の存在下で行われる、項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【0017】
項10.前記二量化反応において、前記ハロゲン化フルオロオレフィン化合物の前記アルカリ金属フッ化物(担体に担持させる場合は担体及びアルカリ金属フッ化物の総量)に対する接触時間(W/F)が5~200g・sec/ccである、項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【0018】
項11.前記二量化反応における反応温度が200~500℃である、項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【0019】
項12.一般式(1A):
【0020】
【化3】
[式中、Rは各々フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物と、
一般式(3):
【0021】
【化4】
[式中、Rは前記に同じである。]
で表されるフルオロオレフィン化合物とを含有する、組成物。
【0022】
項13.クリーニングガス又はエッチングガスとして用いられる、項12に記載の組成物。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、工業的に安価に、炭素数が4以上のフルオロオレフィン化合物を高転化率且つ高選択率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0025】
本開示において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0026】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0027】
本開示において、「収率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0028】
1.フルオロオレフィン化合物の製造方法
本開示のフルオロオレフィン化合物の製造方法は、アルカリ金属フッ化物の存在下に、炭素数が2以上のハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させて前記フルオロオレフィン化合物を得る工程を備える。
【0029】
従来は、オクタフルオロ-2-ブテンに代表される炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物の合成方法としては、例えば、アルミニウムクロロフルオライド(ACF)触媒の存在下に、特定の三員環含フッ素化合物を開環反応させることが知られていた。しかしながら、この方法においては、原料化合物である三員環含フッ素化合物を工業的に入手することが困難であるため、工業的レベルで炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物を生産することは困難である。また、炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物の合成方法としては、例えば、アルミニウムクロロフルオライド(ACF)触媒の存在下に、テトラフルオロエチレンとCF3CF2Iとを反応させることも知られている(非特許文献1)。しかしながら、この方法においては、原料化合物であるCF3CF2Iが高価であり、原料化合物中に含まれるヨウ素原子の後処理が必要となる。このため、いずれの方法でも、工業レベルでの大量生産を行うには困難性を伴う方法である。
【0030】
本開示によれば、上記のように、アルカリ金属フッ化物の存在下に、炭素数が2以上のハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させることで、工業的に安価に、炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物を高転化率且つ高選択率で得ることができる。
【0031】
(1-1)ハロゲン化フルオロオレフィン化合物
本開示の製造方法において使用できる原料化合物としてのハロゲン化フルオロオレフィン化合物は、炭素数が2以上のハロゲン化フルオロオレフィン化合物である。このハロゲン化フルオロオレフィン化合物の炭素数としては、工業的により安価に、炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物をより高転化率且つ高選択率で得ることができる観点から、2~12が好ましく、2~8がより好ましい。
【0032】
ハロゲン化フルオロオレフィン化合物としては、工業的により安価に、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、一般式(2):
CF2=CRX (2)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物が好ましく、一般式(2A):
【0033】
【化5】
[式中、Rはフッ素原子又は含フッ素アルキル基を示す。Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物がより好ましい。
【0034】
一般式(2)において、Rで示される含フッ素アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の炭素数1~10、特に1~6の含フッ素アルキル基(特にパーフルオロアルキル基)が挙げられる。
【0035】
一般式(2)において、Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0036】
原料化合物であるハロゲン化フルオロオレフィン化合物としては、工業的により安価に、フルオロオレフィン化合物をより高転化率且つ高選択率で得ることができる観点から、Rはフッ素原子又はパーフルオロアルキル基(特にフッ素原子)が好ましく、Xは塩素原子が好ましい。
【0037】
上記のような条件を満たす原料化合物としてのハロゲン化フルオロオレフィン化合物としては、具体的には、
【0038】
【化6】
等が挙げられる。これらのハロゲン化フルオロオレフィン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このようなハロゲン化フルオロオレフィン化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0039】
(1-2)二量化反応
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させる工程では、例えば、ハロゲン化フルオロオレフィン化合物が一般式(2)で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物である場合にはXが脱離することによってハロゲン化フルオロオレフィン化合物が二量化して目的物であるフルオロオレフィン化合物を得ることができる。つまり、原料化合物であるハロゲン化フルオロオレフィン化合物は、脱ハロゲンによる縮合反応により目的物であるフルオロオレフィン化合物を得ることができる。
【0040】
例えば、原料化合物として、一般式(2A)で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物では、Rはフッ素原子が好ましく、Xは塩素原子が好ましい。
【0041】
つまり、以下の反応式:
【0042】
【化7】
に従い、工業的に安価に、フルオロオレフィン化合物(
オクタフルオロ-2-ブテン等)を高転化率且つ高選択率で得ることが好ましい。
【0043】
(1-3)アルカリ金属フッ化物
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応させる工程は、アルカリ金属フッ化物の存在下に行う。アルカリ金属フッ化物は、触媒として機能し、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる。
【0044】
アルカリ金属フッ化物としては、特に制限されるわけではないが、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点において、第4~第7周期のアルカリ金属のフッ化物が好ましく、例えば、フッ化カリウム(KF)、フッ化セシウム(CsF)等がより好ましい。これらのアルカリ金属フッ化物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0045】
アルカリ金属フッ化物の比表面積は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、500~2000m2/gが好ましく、800~1500m2/gがより好ましい。本開示において、アルカリ金属フッ化物の比表面積はBET法で測定する。アルカリ金属フッ化物の比表面積がこのような範囲にある場合、アルカリ金属フッ化物の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。なお、後述のように、アルカリ金属フッ化物を担体に担持させる場合も、比表面積に大差はなく、アルカリ金属フッ化物を担体に担持させた場合の比表面積も上記した範囲が好ましい。
【0046】
なお、本開示において、気相で反応を行う場合、上記した原料化合物とアルカリ金属フッ化物とを接触させるが、その場合、反応性の観点から、アルカリ金属フッ化物は固体の状態(固相)で接触させることが好ましい。
【0047】
本開示において、例えば気相連続流通式の反応を行う場合は、反応性の観点から、アルカリ金属フッ化物は粉末状でもよいが、ペレット状が好ましい。また、上記したアルカリ金属フッ化物は、そのまま使用することもできるが、担体上に担持させて用いることができる。これにより、アルカリ金属フッ化物の反応効率を向上させ、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる。担持させる担体は特に制限はなく、例えば、炭素、アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア、ゼオライト、シリカアルミナ、酸化クロム等が挙げられる。炭素としては、活性炭、不定形炭素、グラファイト、ダイヤモンド等が挙げられる。これらの担体は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、比表面積が大きく、アルカリ金属フッ化物の担持が容易という観点から、炭素が好ましく、活性炭がより好ましい。
【0048】
アルカリ金属フッ化物を担体に担持させる場合、その担持量は特に制限はないが、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、担体及びアルカリ金属フッ化物の総量を100質量%として、アルカリ金属フッ化物を0.1~75質量%含むことが好ましく、1~60質量%がより好ましい。
【0049】
担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の嵩密度は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、0.01~10g/mLが好ましく、0.1~5g/mLがより好ましい。本開示において、担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の嵩密度は嵩密度測定器により測定する。担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の嵩密度がこのような範囲にある場合、担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。
【0050】
担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の細孔容積は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、0.1~1.5mL/gが好ましく、0.25~1.0mL/gがより好ましい。本開示において、担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の細孔容積はBET法により測定する。担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の細孔容積がこのような範囲にある場合、担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率で目的化合物を得ることができる。また、原料化合物の転化率をより向上させることも可能である。
【0051】
担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の平均細孔径は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、5~20μmが好ましく、8~15μmがより好ましい。本開示において、担体に担持させたアルカリ金属フッ化物の平均細孔径はBET法により測定する。
【0052】
(1-4)フッ素を含有する気体
上記したアルカリ金属フッ化物は触媒としても機能し、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができるものである。しかしながら、アルカリ金属フッ化物にはフッ素原子が含まれており、フルオロオレフィン化合物を得る反応の際にフッ素原子が引き抜かれ得る。このため、反応を長時間進行させるにつれて、触媒として有効に機能するアルカリ金属フッ化物の量は減少する可能性がある。このため、フッ素原子を補充することを意図して、上記二量化反応は、フッ素を含有する気体の存在下で行うことが好ましい。
【0053】
このようなフッ素を含有する気体としては、特に制限はなく、例えば、F2、HF、CFCl3、CF2Cl2、CFHCl2、CF2HCl、CF3H、NF3、IF5、IF7、FCl、ClF3等が挙げられる。
【0054】
なお、本開示において、気相で反応を行う場合、上記したフッ素を含有する気体は気体の状態(気相)で使用することが好ましい。
【0055】
(1-5)反応温度
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応(脱ハロゲンによる縮合反応)させてフルオロオレフィン化合物を得る工程では、反応温度は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、通常200~500℃が好ましく、250~450℃がより好ましく、300~400℃がさらに好ましい。
【0056】
(1-6)反応時間
本開示において、気相で反応を行う場合、反応時間は、例えば気相流通式を採用する場合には、原料化合物(ハロゲン化フルオロオレフィン化合物)の触媒(アルカリ金属フッ化物;担体に担持させる場合は担体及びアルカリ金属フッ化物の総量)に対する接触時間(W/F)[W:触媒(アルカリ金属フッ化物;担体に担持させる場合は担体及びアルカリ金属フッ化物の総量)の重量(g)、F:原料化合物(ハロゲン化フルオロオレフィン化合物)の流量(cc/sec)]は、反応の転化率が特に高く、フルオロオレフィン化合物をより高収率及び高選択率に得ることができる観点から、5~200g・sec./ccが好ましく、10~150g・sec./ccがより好ましく、15~100g・sec./ccがさらに好ましい。なお、上記接触時間とは、原料化合物及び触媒が接触する時間を意味する。
【0057】
上記の接触時間は、気相、特に気相連続流通式で反応を進行する場合の条件を示しているが、バッチ式で反応を進行する場合も適宜調整することができる。
【0058】
本開示において、二量化反応をフッ素を含有する気体の存在下で行う場合、フッ素を含有する気体の含有量は、反応の転化率が特に高く、フルオロオレフィン化合物をより高収率及び高選択率に得ることができる観点から、原料化合物(ハロゲン化フルオロオレフィン化合物)1モルに対して、0.1~10モルが好ましく、0.5~5モルがより好ましく、1~2.5モルがさらに好ましい。
【0059】
(1-7)反応圧力
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応(脱ハロゲンによる縮合反応)させてフルオロオレフィン化合物を得る際の反応圧力は、フルオロオレフィン化合物を特に、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点から、-0.05~2MPaが好ましく、-0.01~1MPaがより好ましく、常圧~0.5MPaがさらに好ましい。なお、本開示において、圧力については特に表記が無い場合はゲージ圧とする。
【0060】
本開示における反応において、アルカリ金属フッ化物及び必要に応じてフッ素を含有する気体の存在下に原料化合物(ハロゲン化フルオロオレフィン化合物)を反応させる反応器としては、上記温度及び圧力に耐え得るものであれば、形状及び構造は特に限定されない。反応器としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0061】
(1-8)反応の例示
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応(脱ハロゲンによる縮合反応)させてフルオロオレフィン化合物を得る工程は、反応器に原料化合物(ハロゲン化フルオロオレフィン化合物)を連続的に仕込み、当該反応器から目的化合物(フルオロオレフィン化合物)を連続的に抜き出す気相連続流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施することができる。目的化合物が反応器に留まると、ハロゲン化フルオロオレフィン化合物の重合反応が起こりポリマーが生成する可能性があることから、気相連続流通式で実施することが好ましい。本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応(脱ハロゲンによる縮合反応)させてフルオロオレフィン化合物を得る工程では、気相で行い、特に固定床反応器を用いた気相連続流通式で行うことが好ましい。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できるとともに、経済的に有利である。
【0062】
本開示におけるハロゲン化フルオロオレフィン化合物を二量化反応(脱ハロゲンによる縮合反応)させてフルオロオレフィン化合物を得る工程を行う際の雰囲気については、アルカリ金属フッ化物の劣化を抑制する点から、不活性ガス雰囲気下が好ましい。当該不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらの不活性ガスのなかでも、コストを抑える観点から、窒素が好ましい。当該不活性ガスの濃度は、反応器に導入される気体成分の0~50モル%とすることが好ましい。なお、二量化反応を、フッ素を含有する気体の存在下で行う場合は、当該フッ素を含有する気体の雰囲気下又は上記不活性ガスと当該フッ素を含有する気体との混合雰囲気下とすることもできる。当該当該フッ素を含有する気体の濃度は、反応器に導入される気体成分の0.1~90モル%とすることが好ましい。
【0063】
反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、フルオロオレフィン化合物を得ることができる。
【0064】
(1-9)目的化合物
このようにして得られる本開示の目的化合物は、炭素数4以上のフルオロオレフィン化合物(特に炭素数4以上のパーフルオロオレフィン化合物)であり、例えば、一般式(1):
CF3CR=CRCF3 (1)
[式中、Rはフッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物が挙げられる。このフルオロオレフィン化合物は、シス体及びトランス体の双方を含み得るものであるが、高い転化率、収率及び選択率で製造することができる観点において、トランス体が好ましく、一般式(1A):
【0065】
【化8】
[式中、Rは各々フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物が好ましい。
【0066】
一般式(1)におけるRは、上記した一般式(2)におけるRと同じである。また、上記した原料化合物を二量化反応させるため、二個のRが同一であるフルオロオレフィン化合物が生成されやすい。このため、製造しようとする一般式(1)で表されるフルオロオレフィン化合物は、例えば、具体的には、
【0067】
【0068】
上記のように、本開示において得られるフルオロオレフィン化合物は、シス体であってもよいし、トランス体であってもよい。また、シス体とトランス体との混合物であってもよい。シス体とトランス体との混合物である場合は、そのまま使用してもよいし、常法にしたがって単離して使用してもよい。
【0069】
このようにして得られたフルオロオレフィン化合物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。
【0070】
2.組成物
以上のようにして、フルオロオレフィン化合物を得ることができるが、フルオロオレフィン化合物を含む組成物の形で得られることもある。
【0071】
例えば、一般式(1A):
【0072】
【化10】
[式中、Rは各々フッ素原子又はフルオロアルキル基を示す。]
で表されるフルオロオレフィン化合物と、
一般式(3):
【0073】
【化11】
[式中、Rは前記に同じである。]
で表されるフルオロオレフィン化合物とを含む組成物を形成し得る。
【0074】
一般式(1A)及び(3)において、Rとしては上記したものを採用できる。
【0075】
この場合、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(1)で表されるフルオロオレフィン化合物の含有量は95.0~99.9モル%が好ましく、98.0~99.5モル%がより好ましい。また、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(3)で表されるフルオロオレフィン化合物の含有量は0.1~4.0モル%が好ましく、0.5~1.5モル%がより好ましい。
【0076】
また、この組成物は、一般式(4):
CF3CFRX (4)
[式中、R及びXは前記に同じである。]
で表される化合物や、一般式(5):
CF3CFHR (5)
[式中、Rは前記に同じである。]
で表される化合物を含むこともある。
【0077】
この場合、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(4)で表される化合物の含有量は0.01~1.00モル%が好ましく、0.05~0.50モル%がより好ましい。また、本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(5)で表される化合物の含有量は0.01~0.20モル%が好ましく、0.02~0.10モル%がより好ましい。
【0078】
なお、本開示の製造方法によれば、上記した組成物として得られた場合であっても、工業的に安価に、一般式(1A)で表されるフルオロオレフィン化合物を、反応の転化率を高く、また、高収率且つ高選択率で得ることができるため、組成物中の一般式(1A)で表されるフルオロオレフィン化合物以外の成分を少なくすることが可能であるため、一般式(1A)で表されるフルオロオレフィン化合物を得るための精製の労力を削減することができる。
【0079】
このような本開示の組成物は、半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス、クリーニングガス等の各種用途に有効利用できる。
【0080】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例】
【0081】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
合成例1:50%CsF/AC
活性炭(比表面積1200m2/g)と、フッ化セシウムとを、活性炭及びフッ化セシウムの総量を100質量%として、フッ化セシウムの使用量が50質量%となるように混合し、活性炭にフッ化セシウムが担持した50%CsF/AC触媒を得た。得られた触媒の比表面積は600m2/g、細孔容積は 0.7mL/g、細孔径は10μmであった。
【0083】
合成例2:5%CsF/AC
活性炭(比表面積1200m2/g)と、フッ化セシウムとを、活性炭及びフッ化セシウムの総量を100質量%として、フッ化セシウムの使用量が5質量%となるように混合し、活性炭にフッ化セシウムが担持した5%CsF/AC触媒を得た。得られた触媒の比表面積は900m2/g、細孔容積は 0.8mL/g、細孔径は10μmであった。
【0084】
合成例3:5%KF/AC
活性炭(比表面積1200m2/g)と、フッ化カリウムとを、活性炭及びフッ化カリウムの総量を100質量%として、フッ化カリウムの使用量が5質量%となるように混合し、活性炭にフッ化セシウムが担持した5%KF/AC触媒を得た。得られた触媒の比表面積は900m2/g、細孔容積は 0.8mL/g、細孔径は10μmであった。
【0085】
実施例1~5
実施例1~5のフルオロオレフィン化合物の製造方法では、原料化合物は、一般式(2)で表されるハロゲン化フルオロオレフィン化合物において、R1はフッ素原子、Xは塩素原子とし、以下の反応式:
【0086】
【化12】
に従って、フルオロオレフィン化合物(
オクタフルオロ-2-ブテン)を得た。
【0087】
反応管であるSUS配管(外径:1/2インチ)に、合成例1、2又は3で得た触媒を10g加えた。窒素雰囲気下、200℃で2時間乾燥した後、圧力を常圧、CF2=CFCl(原料化合物)と触媒との接触時間(W/F)が15g・sec/cc又は30g・sec/ccとなるように、反応管にCF2=CFCl(原料化合物)を流通させた。
【0088】
反応は、気相連続流通式で進行させた。
【0089】
反応管を300℃で加熱して反応を開始した。
【0090】
反応を開始してから1時間後に、除害塔を通った留出分を集めた。
【0091】
その後、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、NMR(JEOL社製、商品名「400YH」)を用いてNMRスペクトルによる構造解析を行った。
【0092】
質量分析及び構造解析の結果から、目的化合物としてCF3CF=CFCF3が生成したことが確認された。触媒、温度及び接触時間の各条件と結果とを表1に示す。
【0093】