(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】複合糸織物及びそれを用いる繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 15/47 20210101AFI20240215BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20240215BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240215BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240215BHJP
D02G 3/18 20060101ALI20240215BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240215BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240215BHJP
B29B 15/12 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
D03D15/47
D03D15/267
D03D15/283
D02G3/04
D02G3/18
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFG
D03D1/00 A
B29B15/12
(21)【出願番号】P 2020200453
(22)【出願日】2020-12-02
(62)【分割の表示】P 2020542666の分割
【原出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019078287
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋尚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 令佳
(72)【発明者】
【氏名】坂田 淳也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101794(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026250(WO,A1)
【文献】特開昭63-095915(JP,A)
【文献】特開平01-111040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16;15/08-15/14
C08J5/04-5/10;5/24
D03D1/00-27/18
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機マルチフィラメント糸としてのガラス繊維糸と熱可塑性樹脂糸としての融点が160~280℃であ
り、そのメルトフローレートが230℃、2160g荷重の条件下で測定される、ポリアミド樹脂繊維糸とを合撚してなる複合糸をタテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方に用いて製織してなる複合糸織物であって、
前記無機マルチフィラメント糸が10~65texの範囲の質量を備え、
前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントが6.6~9.5μmの範囲の繊維径を備え、
前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの本数が40~380本であり、
前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の
230℃、2160g荷重の条件下でのメルトフローレートが、34~100g/10分の範囲であり、
前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が40~90質量%の範囲であることを特徴とする複合糸織物。
【請求項2】
請求項1記載の1枚の前記複合糸織物、又は、複数枚の前記複合糸織物を積層した積層物を加熱加圧する成形工程を含むことを特徴とする、繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合糸織物、及び、該複合糸織物を用いる繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機、自動車、一般産業用機械等に用いられる軽量化材料として、熱可塑性プリプレグを加熱して加圧下に成形することにより得られる繊維強化樹脂成形品が用いられている。前記熱可塑性プリプレグは、無機繊維織物と熱可塑性樹脂製フィルムとを積層して加熱することにより熱可塑性樹脂製フィルムを形成している熱可塑性樹脂を溶融させ、無機繊維織物を構成する無機繊維間に含浸させたものである。
【0003】
ところが、前記熱可塑性樹脂は溶融したときの粘度が高いため、前記熱可塑性プリプレグでは溶融した該熱可塑性樹脂が無機繊維間に含浸しにくく、ボイド(空隙)が発生しやすいという問題がある。
【0004】
前記問題を解決するために、無機マルチフィラメント糸と熱可塑性樹脂糸とを合撚してなる複合糸をタテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方に用いて製織して複合糸織物とすることが検討されている。前記複合糸織物によれば、加熱して加圧下に成形することにより前記複合糸を形成している前記熱可塑性樹脂糸が溶融して熱可塑性樹脂が無機マルチフィラメント糸に含浸し、同時に成形されるので、前記繊維強化樹脂成形品を一挙動で得ることができ、該繊維強化樹脂成形品によれば、前記熱可塑性プリプレグを用いる場合よりも優れた賦形性を得ることができると期待される。
【0005】
前記複合糸織物として、例えば、無機マルチフィラメント糸としてEガラス繊維糸(Eガラス組成を備えるガラス繊維糸)と、熱可塑性樹脂糸としてポリアミド繊維糸とを合撚してなる複合糸を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の複合糸織物は、柔軟で肌触りが良く不燃性及び耐摩耗性に優れる不燃性布帛に用いられるものであり、直ちに高い強度を備える繊維強化樹脂成形品の材料に用いることは難しいという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、高い強度を備える繊維強化樹脂成形品の材料として好適に用いることができる複合糸織物及びそれを用いる繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明の複合糸織物は、無機マルチフィラメント糸としてのガラス繊維糸と熱可塑性樹脂糸としての融点が160~280℃であり、そのメルトフローレートが230℃、2160g荷重の条件下で測定される、ポリアミド樹脂繊維糸とを合撚してなる複合糸をタテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方に用いて製織してなる複合糸織物であって、前記無機マルチフィラメント糸が10~65texの範囲の質量を備え、前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントが6.6~9.5μmの範囲の繊維径を備え、前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの本数が40~380本であり、前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の230℃、2160g荷重の条件下でのメルトフローレートが、34~100g/10分の範囲であり、前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が40~90質量%の範囲であることを特徴とする。
【0010】
本発明の複合糸織物は、前記無機マルチフィラメント糸と熱可塑性樹脂糸とを合撚してなる複合糸を用いて製織することにより、優れた製織性を得ることができる。本発明の複合糸織物は、タテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方に前記複合糸が用いられていればよいが、タテ糸及びヨコ糸の両方に用いられていてもよい。
【0011】
本発明の複合糸織物では、前記無機マルチフィラメント糸が10~65texの範囲の質量を備え、前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントが6.6~9.5μmの範囲の繊維径を備え、前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の230℃、2160g荷重の条件下でのメルトフローレートが、34~100g/10分の範囲であり、前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が40~90質量%の範囲であることにより、該複合糸織物が加熱されて前記熱可塑性樹脂糸が溶融したときに、該熱可塑性樹脂が該無機マルチフィラメント糸に対して優れた含浸性を得ることができる。この結果、本発明の複合糸織物では、加熱して加圧下に成形するときに優れた成形性及び賦形性を得ることができ、また、高い強度を備える繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0012】
前記無機マルチフィラメント糸の質量が前記範囲外であるか、又は、前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの繊維径が前記範囲外であるか、又は、前記熱可塑性樹脂糸を構成する樹脂のMFRが前記範囲外であるか、又は、前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が前記範囲外であるときには、前記熱可塑性樹脂が前記無機マルチフィラメント糸に対して十分に含浸することができず、十分な成形性及び賦形性並びに高い繊維強化樹脂成形品強度を同時に得ることができない。なお、本明細書において、高い繊維強化樹脂成形品強度とは、20GPa以上、より好ましくは22GPa以上の成形品曲げ弾性率を有することを意味する。
【0013】
本発明の複合糸織物では、前記無機マルチフィラメント糸として、例えば、ガラス繊維糸を用いることができる。
【0014】
また、本発明の複合糸織物では、前記熱可塑性樹脂糸として、ポリアミド樹脂糸を用いることができる。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法は、1枚の前記複合糸織物、又は、複数枚の前記複合糸織物を積層した積層物を加熱加圧する成形工程を含む。
【0016】
本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、成形性及び賦形性に優れた複合糸織物を加熱加圧して成形品を得ることができ、成形品製造の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0018】
本実施形態の複合糸織物は、無機マルチフィラメント糸と熱可塑性樹脂糸とを合撚してなる複合糸をタテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方に用いて製織することにより得られる。
【0019】
本実施形態の複合糸織物において、前記無機マルチフィラメント糸としては、例えば、ガラス繊維糸、炭素繊維糸を用いることができる。繊維強化樹脂成形品の絶縁性を担保するという観点からは、無機マルチフィラメント糸としては、ガラス繊維糸を用いることが好ましい。
【0020】
前記ガラス繊維糸としては、汎用性の観点からは、Eガラス組成を備えるガラス繊維糸を用いることが好ましい。前記Eガラス組成は、ガラス繊維の全量に対し、52.0~56.0質量%の範囲のSiO2と、5.0~10.0質量%の範囲のB2O3と、12.0~16.0質量%の範囲のAl2O3と、合計で20~25質量%の範囲のCaO及びMgOと、合計で0~1.0質量%の範囲のLi2O、K2O及びNa2Oとを含む組成である。
【0021】
また、繊維強化樹脂成形品の強度(例えば、曲げ弾性率)をより高めるという観点からは、前記ガラス繊維糸としては、高強度高弾性率ガラス組成(ガラス繊維の全量に対し64.0~66.0質量%の範囲のSiO2と、24.0~26.0質量%の範囲のAl2O3と、9.0~11.0質量%の範囲のMgOとを含む組成)、又は、高弾性率易製造性ガラス組成(ガラス繊維の全量に対し57.0~60.0質量%の範囲のSiO2と、17.5~20.0質量%の範囲のAl2O3と、8.5~12.0質量%の範囲のMgOと、10.0~13.0質量%の範囲のCaOと、0.5~1.5質量%の範囲のB2O3と、合計で98.0質量%以上の範囲のSiO2、Al2O3、MgO及びCaOとを含む組成)を備えるガラス繊維糸を用いることが好ましい。また、繊維強化樹脂成形品の誘電損失を低減するという観点からは、前記ガラス繊維糸としては、低誘電率低誘電正接ガラス組成(ガラス繊維全量に対し48.0~62.0質量%の範囲のSiO2と、17.0~26.0質量%の範囲のB2O3と、9.0~18.0質量%の範囲のAl2O3と、0.1~9.0質量%の範囲のCaOと、0~6.0質量%の範囲のMgOと、合計で0.05~0.5質量%の範囲のNa2O、K2O及びLi2Oと、0~5.0質量%の範囲のTiO2と、0~6.0質量%の範囲のSrOと、合計で0~3.0質量%の範囲のF2及びCl2と、0~6.0質量%の範囲のP2O5とを含む組成)を備えるガラス繊維糸を用いることが好ましい。
【0022】
なお、ガラス繊維糸を構成する各成分の含有率の測定は、軽元素であるBについてはICP発光分光分析装置を用いて、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて行うことができる。
【0023】
測定方法としては、初めに、ガラス繊維糸を含む複合糸を、例えば、300~600℃のマッフル炉で2~24時間程度加熱する等して、有機物を除去する。次いで、ガラス繊維糸を白金ルツボに入れ、電気炉中で1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化する。軽元素であるLiについてはガラス粉末を酸で加熱分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値から前述した各成分の含有量(質量%)を求めることができる。
【0024】
本実施形態の複合糸織物において、前記無機マルチフィラメント糸は、10~65texの範囲の質量を備える。優れた成形性(熱可塑性樹脂による含浸のされ易さ)を担保するという観点からは、前記無機マルチフィラメント糸は、15~60texの範囲の質量を備えることが好ましく、20~55texの範囲の質量を備えることがより好ましく、23~50texの範囲の質量を備えることがさらに好ましく、26~45texの範囲の質量を備えることが特に好ましく、30~40texの範囲の質量を備えることが最も好ましい。なお、無機マルチフィラメント糸の質量は、JIS R 3420:2013に準拠して測定することができる。
【0025】
本実施形態の複合糸織物において、前記無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントは6.6~9.5μmの範囲の繊維径を備える。優れた成形性(熱可塑性樹脂による含浸のされ易さ)を担保するという観点からは、前記モノフィラメントは、7.1~9.4μmの範囲の繊維径を備えることが好ましく、7.6~9.3μmの範囲の繊維径を備えることがより好ましく、8.1~9.2μmの範囲の繊維径を備えることが特に好ましく、8.6~9.2μmの範囲の繊維径を備えることが最も好ましい。なお、無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの繊維径は、JIS R 3420:2013に準拠して、測定することができる。
【0026】
本実施形態の複合糸織物において、前記無機マルチフィラメント糸は、前記した範囲の繊維径を有するモノフィラメントが、例えば、40~380本集束されて、前記した範囲の質量を備える。優れた成形性(熱可塑性樹脂による含浸のされ易さ)を担保するという観点からは、前記無機マルチフィラメント糸は、前記した範囲の繊維径を有するモノフィラメントが、例えば、50~300本集束されて前記した範囲の質量を備えることが好ましく、100~280本集束されて前記した範囲の質量を備えることがより好ましく、150~250本集束されて前記した範囲の質量を備えることがさらに好ましく、180~220本集束されて前記した範囲の質量を備えることが特に好ましい。
【0027】
本実施形態の複合糸織物において、前記無機マルチフィラメント糸は、バルキー加工されていてもよい。バルキー加工とは、嵩高加工、テクスチャード加工ともいわれる、繊維の加工方法の一つである。例えば、無機マルチフィラメント糸が、ガラス繊維糸の場合には、一定の引出し速度で、ガラス繊維糸を高速エアジェットノズル中に供給し、引出し速度より遅い巻取り速度で、ガラス繊維糸に空気乱流を当て、ガラス繊維糸に開繊を生じさせバルキー加工を行う。
【0028】
本実施形態の複合糸織物において、熱可塑性樹脂糸としては、例えば、ポリアミド樹脂糸、ポリフェニレンサルファイド樹脂糸、ポリブチレンテレフタレート樹脂糸、ポリカーボネート樹脂糸等を用いることができる。繊維強化樹脂成形品の優れた強度(例えば、曲げ弾性率)と、優れた無機マルチフィラメント糸への含浸性が両立可能であることから、熱可塑性樹脂糸として、ポリアミド樹脂糸が好ましく用いられる。
【0029】
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT等を用いることができる。これらの中でも、繊維強化樹脂成形品の強度と、無機マルチフィラメント糸への含浸性とがバランス良く優れることから、ポリアミド6(以下、PA6と記載することもある。)が好ましい。
【0030】
本実施形態の複合糸織物において、前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の230℃、2160g荷重の条件下でのメルトフローレートは、34~100g/10分の範囲にある。無機マルチフィラメント糸への含浸性をより確実に担保するという観点からは、前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、35~98g/10分の範囲にあることが好ましく、36~97g/10分の範囲にあることがより好ましく、37~95g/10分の範囲にあることがさらに好ましく、38~92g/10分の範囲にあることが特に好ましく、39~90g/10分の範囲にあることがとりわけ好ましく、39~85g/10分の範囲にあることが最も好ましい。
【0031】
前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、熱可塑性樹脂の種類に応じて規定された、温度条件及び荷重条件により測定することができる。例えば、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド6である場合には、230℃、2160g荷重の条件下でメルトフローレートを測定することができる。また、前記熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂である場合には、316℃、5000g荷重の条件下でメルトフローレートを測定することができる。
【0032】
本実施形態の複合糸織物において、前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂は、成形加工の容易性を確保する観点から、160~280℃の範囲の融点を備えることが好ましく、210~240℃の範囲の融点を備えることがより好ましい。なお、樹脂の融点は、JIS K 7121に準拠して測定することができる。
【0033】
なお、本実施形態の複合糸織物を、前記熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも20℃以上高い温度条件で、例えば4MPa以上の高圧でプレスすることで、無機マルチフィラメント糸から熱可塑性樹脂を移動させ、熱可塑性樹脂を回収することが可能である。また、このように回収した熱可塑性樹脂に対して、FT-IRを用いて熱可塑性樹脂の種類を特定し、前述の方法で、MFR及び融点を測定することが可能である。
【0034】
本実施形態の複合糸織物において、前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が40~90質量%の範囲である。繊維強化樹脂成形品の優れた強度(例えば、曲げ弾性率)を担保するという観点からは、前記複合糸の全質量に対する前記無機マルチフィラメント糸の質量の割合が50~80質量%であることが好ましく、55~70質量%であることがより好ましい。なお、複合糸の全質量に対する無機マルチフィラメント糸の質量の割合は、複合糸の質量(M1)を測定した後、例えば、複合糸を625℃で1時間加熱して熱可塑性樹脂を除去した後の質量(M2)を測定し、M2/M1により算出することができる。
【0035】
本実施形態の複合糸織物において、前記複合糸は、前記無機マルチフィラメント糸1~3本に対し、前記熱可塑性樹脂糸1~3本を、公知の撚糸機により合撚することにより得ることができる。
【0036】
本実施形態の複合糸織物において、前記複合糸の撚り数は、例えば、1.3~6.3回/25mmである。無機繊維の破断や反り、ねじれの少ない織物を製造するという観点からは、前記複合糸の撚り数は、2.3~5.3回/25mmであることが好ましく、2.8~4.8回/25mmであることがより好ましい。なお、撚りの方向は、特に限定されない。
【0037】
本実施形態の複合糸織物において、前記複合糸織物は、前記複合糸をタテ糸又はヨコ糸の少なくとも一方、例えばヨコ糸に用いて、例えば、タテ18~50本/25mm、ヨコ18~40本/25mmの織密度で製織することにより得ることができる。前記複合糸織物の織組織としては、例えば、平織、綾織、朱子織、斜子織等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造方法は、1枚の前記複合糸織物、又は、複数枚の前記複合糸織物を積層した積層物を加熱加圧する成形工程を含む。前記加熱加圧において、加熱の条件としては、前記複合糸織物中の熱可塑性樹脂糸を構成する樹脂の融点より20~40℃高い温度とすることを挙げることができる。また、前記加熱加圧において、加圧の条件としては、0.5~5.0MPaの圧力で1~10分間とすることを挙げることができる。
【0039】
本実施形態の繊維強化樹脂成形品の製造方法により製造された繊維強化樹脂成形品は、例えば、電気電子部品、自動車部品、産業部品、繊維、フィルム、シート、その他の任意の形状および用途の各種成形品の製造に有効に使用することができる。
【0040】
電気電子部品としては、例えばFPCコネクタ、BtoBコネクタ、カードコネクタ、同軸コネクタ等のSMTコネクタ;SMTスイッチ、SMTリレー、SMTボビン、メモリーカードコネクタ、CPUソケット、LEDリフレクタ、カメラモジュールのベース・バレル・ホルダ、ケーブル電線被覆、光ファイバー部品、AV・OA機器の消音ギア、自動点滅機器部品、携帯電話部品、複写機用耐熱ギア、エンドキャップ、コミュテーター、業務用コンセント、コマンドスイッチ、ノイズフィルター、マグネットスイッチ、太陽電池基板、液晶板、LED実装基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブルなどが挙げられる。
【0041】
自動車部品としては、例えばサーモスタットハウジング、ラジエータータンク、ラジエーターホース、ウォーターアウトレット、ウォーターポンプハウジング、リアジョイントなどの冷却部品;インタークーラータンク、インタークーラーケース、ターボダクトパイプ、EGRクーラーケース、レゾネーター、スロットルボディ、インテークマニホールド、テールパイプなどの吸排気系部品;燃料デリバリーパイプ、ガソリンタンク、クイックコネクタ、キャニスター、ポンプモジュール、燃料配管、オイルストレーナー、ロックナット、シール材などの燃料系部品;マウントブラケット、トルクロッド、シリンダヘッドカバーなどの構造部品;ベアリングリテイナー、ギアテンショナー、ヘッドランプアクチュエータギア、スライドドアローラー、クラッチ周辺部品などの駆動系部品;エアブレーキチューブなどのブレーキ系統部品;エンジンルーム内のワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、センサー、ABSボビン、コンビネーションスイッチ、車載スイッチなどの車載電装部品;スライドドアダンパー、ドアミラーステイ、ドアミラーブラケット、インナーミラーステイ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、エアクリーナーのインレートパイプ、ドアチェッカー、プラチェーン、エンブレム、クリップ、ブレーカーカバー、カップホルダー、エアバック、フェンダー、スポイラー、ラジエーターサポート、ラジエーターグリル、ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、バックドア、フューエルセンダーモジュールなどの内外装部品等が挙げられる。
【0042】
産業部品としては、例えばガスパイプ、油田採掘用パイプ、ホース、防蟻ケーブル(通信ケーブル、パスケーブルなど)、粉体塗装品の塗料部(水道管の内側コーティング)、海底油田パイプ、耐圧ホース、油圧チューブ、ペイント用チューブ、燃料ポンプ、セパレーター、スーパーチャージ用ダクト、バタフライバルブ、搬送機ローラー軸受、鉄道の枕木バネ受け、船外機エンジンカバー、発電機用エンジンカバー、灌漑用バルブ、大型開閉器(スイッチ)、漁網などのモノフィラメント(押出糸)などが挙げられる。
【0043】
繊維としては、例えばエアバック基布、耐熱フィルター、補強繊維、ブラシ用ブリッスル、釣糸、タイヤコード、人工芝、絨毯、座席シート用繊維などが挙げられる。
【0044】
フィルムやシートとしては、例えば耐熱マスキング用テープ、工業用テープなどの耐熱粘着テープ;カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープなどの磁気テープ用材料;レトルト食品のパウチ、菓子の個包装、食肉加工品の包装などの食品包装材料;半導体パッケージ用の包装などの電子部品包装材料などが挙げられる。
【0045】
その他、本実施形態の繊維強化樹脂成形品は、バンパー、バックドア、フェンダー、シートフレーム、窓枠、サスペンション、ボディーパネル、オイルパン、バッテリーケース、電子機器筐体、アンテナ筐体、電子基板、住宅壁、建築物の柱、プラスチックマグネット、シューソール、テニスラケット、スキー板、ボンド磁石、メガネフレーム、結束バンド、タグピン、サッシ用クレセント、電動工具モーター用ファン、モーター固定子用絶縁ブロック、芝刈機用エンジンカバー、芝刈機の燃料タンク、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、コネクタのシェル、ICソケット、ボビンカバー、リレーボックス、コンデンサーケース、小型モーターケース、ギア、カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、キャスター、ワイヤークリップ、自転車用ホイール、端子台、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、エアクリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、ベアリングテーナー、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズベアリングハブ、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンターリボンガイドなどにも好適に使用することができる。
【0046】
次に、実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、繊維径9μmのモノフィラメントが200本集束された、糸質量33.7texのEガラス繊維糸1本と、MFR40g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂(PA6;宇部興産株式会社製、商品名:UBE1013B)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本とを撚糸機で合撚して、3.8回/25mmの撚りがかけられた複合糸を得た。前記複合糸の全質量に対する前記Eガラス繊維糸の質量の割合は59質量%であった。
【0048】
次に、前記Eガラス繊維糸をタテ糸に用い、本実施例で得られた前記複合糸をヨコ糸に用いて、タテ糸織密度42本/25mm、ヨコ糸織密度32本/25mmで製織し、平織の複合糸織物を得た。
【0049】
次に、本実施例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、成形性を評価した。また、得られた板状の成形品について、ISO178に基づいて、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
なお、表1において、熱可塑性樹脂糸を構成する樹脂の融点より30℃高い温度、3MPa、1分間の加熱加圧条件で、ボイド(樹脂が含浸していない部分)が存在しない板状の成形品を作成可能な場合に、成形性を「○」と評価し、このような板状の成形品を作成できない場合に成形性を「×」と評価している。
【0051】
〔実施例2〕
本実施例では、MFR84g/10分、融点225℃のポリアミド樹脂(PA6;DSM社製、商品名:ノバミッド1007J)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本を用いた以外は実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0052】
次に、本実施例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
〔実施例3〕
本実施例では、MFR90g/10分、融点280℃のポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂(東レ株式会社製、商品名:トレリナE2080)からなる糸質量23.3texのPPS樹脂糸1本を用いた以外は実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0054】
次に、本実施例で得られた複合糸織物を320℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
〔実施例4〕
繊維径9μmのモノフィラメントが200本集束された、糸質量33.7texの高強度高弾性率ガラス組成(ガラス繊維の全量に対して、65質量%のSiO2と、25質量%のAl2O3と、10質量%のMgOとからなるガラス組成)を備えるガラス繊維糸1本を用いた以外は実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0056】
次に、本実施例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
〔比較例1〕
本比較例では、繊維径6.5μmのモノフィラメントが800本集束された糸質量67.5texのEガラス繊維糸1本と、MFR40g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂(PA6;宇部興産株式会社製、商品名:UBE1013B)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸2本とを撚糸機で合撚して、3.8回/25mmの撚りがかけられた複合糸を得た以外は、実施例1と全く同一にして複合糸織物を得た。
【0058】
次に、本比較例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
〔比較例2〕
本比較例では、繊維径9μmのモノフィラメントが200本集束された、糸質量33.7texのEガラス繊維糸1本に代えて、繊維径6.5μmのモノフィラメントが400本集束された、糸質量33.7texのEガラス繊維糸1本を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0060】
次に、本比較例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
〔比較例3〕
本比較例では、繊維径9μmのモノフィラメントが400本集束された糸質量69.1texのEガラス繊維糸1本と、MFR40g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂(PA6;宇部興産株式会社製、商品名:UBE1013B)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸2本とを撚糸機で合撚して、3.8回/25mmの撚りがかけられた複合糸を得た以外は、実施例1と全く同一にして複合糸織物を得た。
【0062】
次に、本比較例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0063】
〔比較例4〕
本比較例では、MFR40g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本に代えて、MFR33g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂(PA6;東レ株式会社製、商品名:アミランCM1017)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本を用いた以外は実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0064】
次に、本比較例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
〔比較例5〕
本比較例では、MFR40g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本に代えて、MFR110g/10分、融点220℃のポリアミド樹脂(PA6;東洋紡績株式会社製、商品名:T-840SF)からなる糸質量23.3texのポリアミド樹脂糸1本を用いた以外は実施例1と全く同一にして、複合糸織物を得た。
【0066】
次に、本比較例で得られた複合糸織物を250℃に加熱し、3MPaの加圧下に1分間プレスすることにより板状の成形品を製造し、実施例1と全く同一にして成形性を評価し、成形品曲げ弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
【0069】
表1及び表2から、無機マルチフィラメント糸の質量が10~65texの範囲にあり、無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの繊維径が6.6~9.5μmの範囲にあり、熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性樹脂の230℃、2160g荷重の条件下でのメルトフローレートが、34~100g/10分の範囲であり、複合糸の全質量に対する無機マルチフィラメント糸の質量の割合が40~90質量%の範囲にある実施例1~4の複合糸織物によれば、優れた成形性(賦形性)を得ることができ、かつ、高い繊維強化成形品強度(20GPa以上の成形品曲げ強度)を得ることができることが明らかである。
【0070】
一方、無機マルチフィラメント糸の質量、無機マルチフィラメント糸を構成するモノフィラメントの繊維径又は熱可塑性樹脂糸を構成する熱可塑性脂のMFRのいずれかが前記範囲にない比較例1~5の複合糸織物によれば、十分な成形性を得られないか、又は、十分な繊維強化成形品強度が得られないことが明らかである。