(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】含フッ素ポリマー製造用の重合槽および含フッ素ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/18 20060101AFI20240215BHJP
C08F 2/01 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C08F14/18
C08F2/01
(21)【出願番号】P 2022001647
(22)【出願日】2022-01-07
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 由輝
(72)【発明者】
【氏名】高岡 寛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】中尾 友紀
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-021300(JP,B1)
【文献】特開昭61-083202(JP,A)
【文献】特開昭58-091701(JP,A)
【文献】特開昭61-002701(JP,A)
【文献】特開昭51-083695(JP,A)
【文献】実公昭53-050777(JP,Y2)
【文献】国際公開第2005/123805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/01
C08F 14/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽であって、
側壁と、
前記側壁の下方に位置するコニカル形状の傾斜底部と、
前記コニカル形状の傾斜底部の下方頂部に位置する、前記反応混合物の抜き出し口と、
撹拌翼と
、
バッフルと
を有し、
前記コニカル形状の傾斜底部の頂角が、90°以上120°以下であ
り、
前記撹拌翼は、上部にグリッドを設けたパドル状攪拌翼、ボトムパドルと上部グリッドを一体化した撹拌翼、2枚の大型板状パドルを組み合わせた攪拌翼、三枚後退翼、又はアンカー翼である、
重合槽。
【請求項2】
前記コニカル形状の傾斜底部の頂角が、105°以上115°以下である、請求項1に記載の重合槽。
【請求項3】
含フッ素ポリマーの製造方法であって、
(a)請求項1または2に記載の重合槽にて、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得、および
(b)粒子状の含フッ素ポリマーおよび水を含む反応混合物の実質的に全部を前記重合槽から抜き出す
ことを含む、製造方法。
【請求項4】
前記(a)において、前記反応混合物が、含フッ素溶媒と水とを含み、
前記(b)において、前記反応混合物が、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含み、含フッ素溶媒を実質的に含まない、請求項3に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記含フッ素ポリマーが、10μm以上2000μm以下の平均粒子サイズを有する、請求項3または4に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、含フッ素ポリマー製造用の重合槽に関し、より詳細には、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽に関する。本開示は、かかる重合槽を用いた含フッ素ポリマーの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー製造用の重合槽として、側壁と、該側壁の下方に位置する底部と、該底部の下方頂部に位置する抜き出し口とを有する重合槽が使用されている。かかる底部として、従来、断面において半楕円形状の底部が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、ポリマー製造用の管型反応器(重合槽)であって、端部に円錐状の狭窄部を有し、反応器の直径(D1)の反応器円錐状狭窄部の端部の直径(D2)に対する比が2:1~25:1でありかつ円錐状狭窄部の開始部のD1と内側円錐壁とのなす角度が45゜よりも大きくかつ90゜未満であるものも知られている(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-337362号公報
【文献】特開平9-67404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の重合槽において、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得る場合には、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物を重合槽の下方頂部に位置する抜き出し口から抜き出すのに長い時間を要したり、重合槽の底部に含フッ素ポリマーが付着残存したりすることがあった。抜き出しに長い時間を要すると、バッチ式またはセミバッチ式で実施する場合に製造リードタイムが長くなり、製造効率の低下を招いていた。また、重合槽の底部に含フッ素ポリマーが付着残存すると、重合槽を開放するなどして、付着残存した含フッ素ポリマーを除去する作業が必要であり、製造効率の低下を招いていた。
【0006】
本開示の目的は、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽であって、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物を重合槽から効率的に抜き出すことが可能な重合槽を提供することにある。本開示の更なる目的は、かかる重合槽を用いた含フッ素ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽であって、
側壁と、
前記側壁の下方に位置するコニカル形状の傾斜底部と、
前記コニカル形状の傾斜底部の下方頂部に位置する、前記反応混合物の抜き出し口と
を有し、前記コニカル形状の傾斜底部の頂角が、90°以上120°以下である、重合槽。
【0008】
[2]
前記コニカル形状の傾斜底部の頂角が、105°以上115°以下である、上記[1]に記載の重合槽。
【0009】
[3]
含フッ素ポリマーの製造方法であって、
(a)上記[1]または[2]に記載の重合槽にて、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得、および
(b)粒子状の含フッ素ポリマーおよび水を含む反応混合物の実質的に全部を前記重合槽から抜き出す
ことを含む、製造方法。
【0010】
[4]
前記(a)において、前記反応混合物が、含フッ素溶媒と水とを含み、
前記(b)において、前記反応混合物が、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含み、含フッ素溶媒を実質的に含まない、上記[3]に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【0011】
[5]
前記含フッ素ポリマーが、10μm以上2000μm以下の平均粒子サイズを有する、上記[3]または[4]に記載の含フッ素ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽であって、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物を重合槽から効率的に抜き出すことが可能な重合槽が提供される。また、本開示によれば、かかる重合槽を用いた含フッ素ポリマーの製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本開示の1つの実施形態における重合槽の概略模式断面図であり、(b)は、傾斜底部および抜き出し部の近傍の拡大模式断面図(但し、攪拌翼は図示せず)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の1つの実施形態における含フッ素ポリマー製造用の重合槽およびかかる重合槽を用いた含フッ素ポリマーの製造方法について、図面を参照しながら詳述する。添付の図面は、本開示を説明するための概略模式図であり、各部材の形状、縮尺等はこれに限定されない。
【0015】
(含フッ素ポリマー製造用の重合槽)
図1を参照して、本実施形態の重合槽20は、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得るための重合槽であって、
側壁1と、
側壁1の下方に位置するコニカル形状の傾斜底部3と、
コニカル形状の傾斜底部3の下方頂部に位置する、反応混合物の抜き出し口4と
を有する。
【0016】
本実施形態において、側壁1は円筒形状を有し、側壁1の下端がコニカル形状の傾斜底部3の上端と接続し、傾斜底部3の下端が円形の抜き出し口(開口)4を成し、傾斜底部3の下端が円筒状の抜き出し部5の上端と接続している。
図1(a)~(b)においては、理解を容易にするために、側壁1、傾斜底部3および抜き出し部5の境界を点線にて示すが、これらは一体的に形成されていてよい。抜き出し部5は、開閉可能なバルブ(図示せず)を備える。
【0017】
コニカル形状の傾斜底部3は、その内表面が円錐形状であればよいが、厳密には、
図1(b)を参照して、コニカル形状の傾斜底部3は抜き出し口(開口)4を成しているため、傾斜底部3の内表面は、頂部のない円錐形状、即ち、円錐台形状となる。本開示において、コニカル形状の傾斜底部3の頂角とは、傾斜底部3の内表面の仮想的な円錐頂部(
図1(b)中にて一点鎖線にて示す)の頂角θを意味する。
【0018】
コニカル形状の傾斜底部3の頂角θは、90°以上120°以下である。これにより、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得る場合であっても、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物10を重合槽20から効率的に抜き出すことができる。より詳細には、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物10を重合槽20の抜き出し口4から比較的短い時間で抜き出すことができ、かつ、重合槽20の傾斜底部3の内表面に含フッ素ポリマーが付着残存することを効果的に防止できる。頂角θが、90°未満(例えば80°)から小さくなるにつれて、重合槽の径(横寸法)に対する高さ(縦寸法)の比が大きくなり、比較的縦長の重合槽になる。かかる比較的縦長の重合槽は、重合槽内の分散効率が悪くなり得るという懸念がある。頂角θが120°を超える(例えば130°)ことは、断面において半楕円形状に相当する120°より緩い角度になって、抜き出し時の付着残存が懸念されるため、好ましくない。
【0019】
コニカル形状の傾斜底部3の頂角θは、好ましくは105°以上および/または115°以下であり、より好ましくは108°以上および/または112°以下、更に好ましくは110°である。
【0020】
重合槽20は、通常、天板(蓋)7を有し、重合槽20内の圧力を高圧化できるように構成され得る。天板7には、重合槽20内に原料等を供給したり、重合槽20内のガスを排出したりするための、1つまたはそれ以上の閉止可能な開口部(図示せず)を有し得る。
【0021】
重合槽20は、場合により、攪拌翼9および/またはバッフル(邪魔板)11等を更に有し得る。攪拌翼9および/またはバッフル11等は、コニカル形状の傾斜底部3に対して(攪拌翼9およびバッフル11の双方が存在する場合には、攪拌翼9とバッフル11との間でも)干渉しない限り特に限定されず、任意の適切な形態のものを使用できる。攪拌翼9は、例えば「RfBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製、2枚の変形平板状攪拌翼)、「LvBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製、2枚の湾曲パドル状攪拌翼)、「LtBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製、2枚の傾斜パドル状攪拌翼)、「BullBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製、上部にグリッドを設けたパドル状攪拌翼)、「MAXBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製、ボトムパドルと上部グリッドを一体化した撹拌翼)や、「FULLZONE」(登録商標)翼(株式会社神鋼環境ソリューション製、2枚の大型板状パドルを組み合わせた攪拌翼)、三枚後退翼、アンカー翼、(前記した攪拌翼については気相翼を付属していてもよい)などであり得る。バッフル11は、例えばパイプ状、平板状、前記の複合形状など、(攪拌翼に組み合わせて選択する)であり得る。攪拌翼9および/またはバッフル11のそれぞれについて、重合槽20に備えらえる個数および重合槽20内での配置は、適宜決定してよい。
【0022】
本実施形態を限定するものではないが、重合槽20は、金属製の内表面を有するものであり得る。より詳細には、重合槽20は、少なくとも内壁面(側壁1の内面、傾斜底部3の内面および天板7の内面を含む)が金属製であり得る。存在する場合には、攪拌翼9および/またはバッフル11等の表面も金属製であり得る。
【0023】
金属製の内表面を有する重合槽20は、内壁面にグラスライニングが施されている場合に比べて、耐圧性が高い。重合槽20の内表面を成す金属は、1種または2種以上の任意の金属であってよく、例えば、ステンレス鋼、ニッケル合金鋼および炭素鋼からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
【0024】
しかしながら、本実施形態の重合槽20は、上記に限定されず、内壁面にグラスライニングが施されていてもよい。
【0025】
重合槽20の金属製の内表面(より詳細には、このうち所定の領域)は、任意の適切な処理、例えば親水化処理がなされていてよい。上記所定の領域は、少なくとも、後述する工程(a)の間に反応混合物と接触し得る領域を含んでいればよく、好ましくは金属製の内表面の実質的に全部であり得る。
【0026】
(含フッ素ポリマーの製造方法)
本実施形態の含フッ素ポリマーの製造方法は、
(a)上述した重合槽20にて、少なくとも含フッ素モノマーを、水を含む反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得、および
(b)粒子状の含フッ素ポリマーおよび水を含む反応混合物の実質的に全部を前記重合槽から抜き出す
ことを含む。以下、各工程につき、より詳細に説明する。
【0027】
・工程(a)
上述した重合槽20にて、少なくとも含フッ素モノマーを反応混合物中で懸濁重合により重合させて、粒子状の含フッ素ポリマーを得る。
【0028】
反応混合物は、水を含むものであればよい。また、反応混合物は、含フッ素溶媒と水とを含んでもよい。含フッ素溶媒は、含フッ素モノマーを溶解させ得る液状物質であればよい。含フッ素溶媒は、含フッ素モノマーそれ自体であってもよい。含フッ素溶媒は、重合の反応場として機能する。本実施形態を限定するものではないが、この場合、含フッ素モノマーが溶解した(または含フッ素モノマーそれ自体である)含フッ素溶媒が水中に懸濁した状態で、あるいはこの逆の状態で、重合反応が進行する。いずれにせよ(反応混合物が含フッ素溶媒を含んでいても、いなくても)、反応混合物は、生成した粒子状の含フッ素ポリマーを含むことになる。
【0029】
含フッ素モノマーは、フッ素原子を含むモノマーである。含フッ素モノマーに加えて、場合により、フッ素非含有モノマーを一緒に重合(共重合)させてよい。フッ素非含有モノマーは、フッ素原子を含まないモノマーである。含フッ素モノマーおよび場合によりフッ素非含有モノマーは、製造する含フッ素ポリマーに応じて選択される。
【0030】
含フッ素ポリマーは、例えば、150℃以上340℃以下の融点を有するものであり得る。別の観点から、含フッ素ポリマーは、樹脂であり得る。
【0031】
より具体的には、含フッ素ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ(1,1,5-トリハイドロ-1-ペンテン)、及び、パーフルオロブチルエチレンよりなる群から選択される少なくとも1種以上のモノマーからなるもの(ただし、エチレンのみからなるものは、含フッ素ポリマーではないので除かれる)が好ましく、溶融加工可能な含フッ素ポリマーがより好ましく、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)〔PCTFE〕、テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔CPT〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(1,1,5-トリハイドロ-1-ペンテン)共重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロブチルエチレン重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(1,1,5-トリハイドロ-1-ペンテン)共重合体〔EFEP〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロブチルエチレン共重合体〔EFEP〕、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体〔ECTFE〕、ポリ(ビニリデンフルオライド)〔PVdF〕、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド共重合体〔VT〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体〔THV〕等が更に好ましい。これらのなかでも、C-H結合を含まず、酸化処理に対する耐性が高いパーハロポリマー、FEP、PFA、PCTFE、CPTが特に好ましい。しかしながら、溶融加工可能なものに限定されず、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であってもよい。
【0032】
反応混合物は、重合開始剤等を更に含んでいてよい。懸濁重合に使用する重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に用いられる油溶性の各種有機過酸化物、あるいは、水溶性の過硫酸塩などを適宜用いることができるが、特に、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルといった有機過酸化物、すなわち、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(フルオロアシル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-i-ブチリルパーオキサイド等を好適に用いることができる。なかでも、分解速度(半減期)、頻度因子、コストなどの点から炭化水素系の有機過酸化物である、ジ-i-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートが好ましい。
【0033】
反応混合物は、懸濁安定剤を含んでいてもよいが、懸濁安定剤を含まないことが好ましい。懸濁安定剤を使用する場合より、懸濁安定剤を使用しない場合のほうが、最終的に得られる含フッ素ポリマーの純度がより高いからである。懸濁安定剤を使用しない場合、生成する含フッ素ポリマーの粒子の形状および/または寸法が不揃いになり、従来は反応混合物の抜き出しおよび移送が困難になり得るが、本実施形態では、上述のように、コニカル形状の傾斜底部3の頂角θが、90°以上120°以下であるので、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物10を重合槽20から効率的に抜き出すことができる。
【0034】
懸濁安定剤としては、大きく分けて、無機コロイド系のものと、炭化水素系重合物からなるものの2つがあるが、酸化によって効率よく系から除去でき、また、得られた含フッ素ポリマー内に金属を残留させない点で、炭化水素系重合物からなるものであることが好ましい。上記懸濁安定剤は、重合開始前に重合水に溶解させて使用することができる。上記炭化水素系重合物としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸等が挙げられ、なかでも、安全性、低コスト、実績の観点から、ポリビニルアルコール又はメチルセルロースが好ましい。
【0035】
上記懸濁重合の重合条件は、目的とする含フッ素ポリマーの種類、物性等に応じて適宜設定することができる。重合圧力は、重合槽20の内壁面にグラスライニングが施されている場合には、一般的には、2.0MPaゲージ圧(以下MPaGと記載)以下の圧力であり得、重合槽20が金属製の内表面を有する場合には、かかる圧力を越える圧力の下でも何ら問題なく行うことができる。より高い重合圧力を適用することにより、反応時間を短縮することができる。
【0036】
上記懸濁重合は、連続式、バッチ式、セミバッチ式等の任意の形態で実施してよい。セミバッチ式の場合、重合操作の途中で、含フッ素モノマーおよび場合によりフッ素非含有モノマーが適宜追加され、また、重合開始剤等が適宜追加され得る。
【0037】
以上のようにして得られる含フッ素ポリマーは、粒子状の形態を有する。含フッ素ポリマーの平均粒子サイズは、10μm以上2000μm以下であり得る。
【0038】
・工程(b)
粒子状の含フッ素ポリマーおよび水を含む反応混合物の実質的に全部を重合槽20から抜き出し、適宜、後工程へ移送する。
【0039】
反応混合物の「実質的に全部」を重合槽20から抜き出すとは、重合槽20内を空にする意図で反応混合物を抜き出すことを意味し、重合槽内に反応混合物がある程度(後述するように少量で)残存することを許容する趣旨である。
【0040】
上記工程(a)において、反応混合物が、含フッ素溶媒と水とを含む場合、上記工程(b)において反応混合物を重合槽20から抜き出すに際して、反応混合物は、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含み、含フッ素溶媒(ならびに未反応の含フッ素モノマーおよび使用した場合には未反応のフッ素非含有モノマー、以下同様)を実質的に含まないことが好ましい。このことは、重合槽20内の圧力を低下させて、含フッ素溶媒をガス化して重合槽20から排出(パージ)することにより実現され得る。これにより、含フッ素溶媒を回収することができ、重合槽からの反応混合物の抜き出し時間も短縮できる。
【0041】
含フッ素混合物が、含フッ素溶媒を「実質的に含まない」とは、含フッ素混合物における含フッ素溶媒の濃度が、0.1質量%以下であること、好ましくはゼロ質量%であることを意味する。
【0042】
本実施形態によれば、上述のように、コニカル形状の傾斜底部3の頂角θが、90°以上120°以下であるので、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物10を重合槽20から効率的に抜き出すことができる。より詳細には、粒子状の含フッ素ポリマーと水とを含む反応混合物10を重合槽20の抜き出し口4から比較的短い時間で抜き出すことができ、かつ、重合槽20の傾斜底部3の内表面に含フッ素ポリマーが付着残存することを効果的に防止できる。重合槽20から反応混合物を抜き出した後に、重合槽20に少量の含フッ素ポリマーが付着残存していることがあり得るが、この場合、付着残存している少量の含フッ素ポリマーを、例えばジェット洗浄により除去してよい。
【0043】
以上、本開示の1つの実施形態における含フッ素ポリマー製造用の重合槽およびかかる重合槽を用いた含フッ素ポリマーの製造方法について詳述したが、本開示はこれに限定されず、任意の適切な改変、置換、付加等が可能であり得る。
【実施例】
【0044】
以下の試験1~3では、粒子状の含フッ素ポリマーおよび水を含む反応混合物を重合槽から抜き出す場合における排出性能に対して、重合槽の底部の形状がどのように影響するのかを調べた。試験1~3では、外部から重合槽の内部を目視で確認し易いように、透明アクリル製の重合槽を便宜的に使用し、反応混合物を模して予め調製した混合物をかかる重合槽に入れて試験した。
【0045】
(試験1:実施例1~3、比較例1~2)
試験1では、コニカル形状の底部を有する重合槽と、断面において半楕円形状の底部を有する重合槽とで、排出性能を比較して評価した。
【0046】
実施例1~3および比較例1~2において、内径310mmの円筒状側壁と、内径23.4mmの抜き出し部とを同心円状に有し、これら側壁および抜き出し部の間の底部および攪拌翼が下記のように異なる重合槽を使用した。いずれの場合も、バッフルとして2枚の平板状バッフル(幅18mm、厚さ2mm)を重合槽内に、円筒状側壁の中心線を通る同一平面上に対称に(放射状に)、かつ円筒状側壁の内表面に接するように配置した。但し、平板状バッフルの下端と傾斜底部の上端との間の距離d(図示せず)は、下記のように設定した。
【0047】
・実施例1
底部:コニカル形状、頂角θ=90°
攪拌翼:「LtBLEND」(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器株式会社製)
d:70mm
・実施例2
底部および攪拌翼:実施例1と同じ
d:70mm
・実施例3
底部および攪拌翼:実施例1と同じ
d:70mm
・比較例1
底部:断面において半楕円、長軸:短軸=2:1(短軸方向が円筒状側壁の中心線に一致)
攪拌翼:実施例1と同じ
d:70mm
・比較例2
底部:比較例1と同じ
攪拌翼:三枚後退翼
d:50mm
【0048】
反応混合物の一例を模して、下記の組成を有する混合物Aを準備した。
・混合物A
粒子状の含フッ素ポリマー 22.0質量%(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、平均粒子サイズ 約500μm、含水率12.2質量%)
水 34.0質量%
含フッ素溶媒 44.0質量%(オクタフルオロシクロブタン)
その他 ゼロ質量%(重合開始剤等は分解のため実質的に存在せず)
【0049】
上記混合物A 約21L(より詳細には表1に記載の通り)を各重合槽に入れて、各重合槽の排出性能を評価した。排出性能は、動力、排出時間、残ポリマーについて、下記の基準で評価した。
・必要な動力
重合槽内に混合物を入れた後、重合槽の抜き出し部のバルブを全閉としたままで、重合槽の界面付近にVortex(いわゆるVカット:攪拌によりもたらされ得る渦状態(の角度))がかからない限度で攪拌翼をできるだけ大きい回転数で回転させるのに必要な正味の動力(このときの動力の実測値から、重合槽が空の状態で攪拌翼を回転させたときの動力の測定値を差し引いた値)を測定した。
・排出時間
上記必要な動力を測定した回転数で攪拌翼を回転させながら、重合槽の抜き出し部のバルブを全閉から全開として、重合槽内の混合物を抜き出し、重合槽内の混合物の液面が低下するにつれて攪拌翼の回転数を段階的に小さくした。バルブを開け始めた時点から混合物の排出が終了する(重合槽から混合物がそれ以上出て来なくなる)時点までの時間を排出時間として計測した。
・残ポリマー
混合物の排出が終了した後、重合槽内にポリマーが残存しているかどうかを目視により確認した。
【0050】
排出性能の評価結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1から理解されるように、コニカル形状の底部(θ=90°)を有する実施例1~3の重合槽では、混合物Aの抜き出し後、重合槽内にポリマーが残存しなかった。これに対して、断面において半楕円形状の底部を有する比較例1~2の重合槽では、混合物Aの抜き出し後、重合増内にポリマーが残存していた。更に、実施例1~3の重合槽では、比較例1~2の重合槽に比べて、排出時間が短かった。
【0053】
(試験2:実施例4~6)
試験2では、コニカル形状の底部を有する重合槽において、異なる頂角θについて、排出性能を比較して評価した。
【0054】
実施例4において、実施例1で使用した重合槽と同じ重合槽(即ち、頂角θ=90°)を使用した。実施例5、6において、頂角θをそれぞれ110°、120°としたこと以外は、実施例1で使用した重合槽と同じ重合槽を使用した。
【0055】
反応混合物の一例を模して、下記の組成を有する混合物Bを準備した。
・混合物B
粒子状の含フッ素ポリマー 37.7質量%テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、平均粒子サイズ 約500μm、含水率19.8質量%)
水 62.3質量%
【0056】
上記混合物Bを表2に示す量で各重合槽に入れて、各重合槽の排出性能を評価した。排出性能は、上記と同様に評価し、更に、残ポリマーの量を測定した。
【0057】
排出性能の評価結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2から理解されるように、実施例4(θ=90°)の重合槽では、実施例5(θ=110°)および実施例6(θ=120°)の重合槽に比べて排出時間が短かったが、混合物Bの抜き出し後、重合槽内に残存するポリマーは実施例5よりも多かった。これに対して、実施例5(θ=110°)の重合槽では、混合物Bの抜き出し後、重合増内に残存するポリマーが最も少なった。実施例6(θ=120°)の重合槽では、実施例5(θ=110°)の重合槽に比べて、排出時間は同程度であるが、重合増内に残存するポリマーが最も多かった。いずれの場合にも、残ポリマーは、水を用いたジェット洗浄で重合槽から速やかに除去できた。それぞれの場合において、実質的に全部の残ポリマーを除去するために使用した洗浄水の量は、0.4kg(実施例4)、0.2kg(実施例5)、0.7kg(実施例6)であった。
【0060】
(試験3:実施例7)
試験3では、コニカル形状の底部を有し、かつ頂角θ=90°の重合槽において、ポリマーをより高濃度に含有する混合物について、排出性能を評価した。
【0061】
実施例7において、実施例1で使用した重合槽と同じ重合槽(即ち、頂角θ=90°)を使用した。
【0062】
反応混合物の一例を模して、下記の組成を有する混合物Cを準備した。
・混合物C
粒子状の含フッ素ポリマー 58.4質量%(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、平均粒子サイズ 約500μm、含水率19.8質量%)
水 41.6質量%
【0063】
上記混合物Cを表3に示す量で上記重合槽に入れて、重合槽の排出性能を評価した。排出性能は、上記と同様に評価し、更に、残ポリマーの量を測定した。
【0064】
排出性能の評価結果を表3に示す。
【0065】
【0066】
表3から理解されるように、ポリマーをより高い濃度で含む混合物Cを使用した実施例7では、ポリマーをより低い濃度で含む混合物Bを使用した実施例4~6(表2参照)に比べて、必要な動力がより大きく、排出時間がより長くなったが、混合物Cの抜き出し後、重合槽内に残存するポリマーはごく少量であった。実施例7の場合にも、残ポリマーは、水を用いたジェット洗浄で重合槽から速やかに除去できた。実質的に全部の残ポリマーを除去するために使用した洗浄水の量は、0.2kg(実施例7)であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示の含フッ素ポリマー製造用の重合槽は、例えば、各種成形用材料としての含フッ素ポリマーの製造に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 側壁
3 傾斜底部
4 抜き出し口
5 抜き出し部
7 天板(蓋)
9 攪拌翼
11 バッフル(邪魔板)
20 重合槽
θ 頂角