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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】回転電気機械、圧縮機、および冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/12 20060101AFI20240215BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20240215BHJP
   H02K 15/14 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H02K1/12 A
H02K15/12 D
H02K15/14 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022176213
(22)【出願日】2022-11-02
(65)【公開番号】P2023070660
(43)【公開日】2023-05-19
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021182476
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 峻介
(72)【発明者】
【氏名】平野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中 祥司郎
(72)【発明者】
【氏名】木津(竹田) よし美
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-050151(JP,A)
【文献】特開2019-075978(JP,A)
【文献】特開2018-085853(JP,A)
【文献】特開2015-002617(JP,A)
【文献】特開2013-162676(JP,A)
【文献】特開2000-224787(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087358(WO,A1)
【文献】特開2017-034819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/12
H02K 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(11)と、
積層された複数の電磁鋼板を有し、円筒状のヨーク(34)、周方向に並んで配置され、該ヨーク(34)から径方向内方に向かって延びる複数のティース(35)、及び、該ヨーク(34)に配置され、積層方向に隣り合う電磁鋼板を互いに固定するカシメ部(50)を含むステータコア(32)と、
前記ステータコア(32)の軸心と、周方向に隣り合う2つの前記カシメ部(50)のそれぞれとを結んだ2線の間の第1角度の範囲内に配置され、かつ、前記ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ点状にまたは線状に圧縮応力を加える方法を用いて前記ケーシング(11)と前記ステータコア(32)とを固定する径方向固定部(60)とを備え、
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)を軸方向から見たときに、長辺が前記ステータコア(32)の径方向に沿い、かつ、短辺が前記ステータコア(32)の周方向に沿うように矩形に形成される回転電気機械。
【請求項2】
前記径方向固定部(60)は、前記カシメ部(50)による前記ヨーク(34)の周方向に働く圧縮応力を低減する位置に配置され、
前記位置は、前記径方向固定部(60)と前記カシメ部(50)とが周方向にずれた位置である請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)の軸心と、周方向に隣り合う2つの前記径方向固定部(60)のそれぞれを結んだ2線の間の第2角度のうち、1/4~3/4の間に配置される請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)の径方向において、前記ヨーク(34)の外周縁から該カシメ部(50)までの長さが、前記ヨーク(34)の外周縁から内周縁までの長さの1/3以下となるよう配置される請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記径方向固定部(60)は、前記ステータコア(32)の周方向において、隣り合う前記カシメ部(50)間の全てに配置される請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)を周方向に直交する断面視において、両短辺から長辺の中央に向かって傾斜する傾斜面(52)を有する請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項7】
前記カシメ部(50)は、前記ティース(35)の径方向外方に配置される請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項8】
請求項1または2に記載の回転電気機械を備えた圧縮機。
【請求項9】
請求項8に記載の圧縮機を備えた冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電気機械、圧縮機、および冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のモータは、密閉容器と該密閉容器内に固定されるステータとを有する。ステータは、軸方向に積層された複数の電磁鋼板を有する。電磁鋼板には、カシメが設けられ、カシメにより積層方向に隣り合う電磁鋼板が締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-034819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接のようにステータコアに対して、電極を押し付けてからケーシングとステータコアとを固定する方法では、溶接部分に圧縮応力が集中して鉄損が増大する場合がある。これを回避するために、特許文献1では、ステータコアの同一径方向上にカシメと溶接部分とを設けている。しかしながら、ステータコアに発生する応力分布によっては、鉄損の増大を十分に抑制できないおそれがあった。
【0005】
本開示の目的は、回転電気機械の鉄損の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、ケーシング(11)と、積層された複数の電磁鋼板を有し、略円筒状のヨーク(34)、周方向に並んで配置され、該ヨーク(34)から径方向内方に向かって延びる複数のティース(35)、及び、該ヨーク(34)に配置され、積層方向に隣り合う電磁鋼板を互いに固定するカシメ部(50)を含むステータコア(32)と、前記ステータコア(32)の軸心と、周方向に隣り合う2つの前記カシメ部(50)のそれぞれとを結んだ2線の間の第1角度の範囲内に配置され、かつ、前記ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ圧縮応力を加える方法を用いて前記ケーシング(11)と前記ステータコア(32)とを固定する径方向固定部(60)とを備え、前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)を軸方向から見たときに、長辺が前記ステータコア(32)の径方向に沿い、かつ、短辺が前記ステータコア(32)の周方向に沿うように矩形に形成される回転電気機械である。
【0007】
第1の態様では、カシメ部(50)を長辺が径方向に、短辺が周方向に沿うように配置することで、周方向におけるカシメ部(50)の両隣りに周方向の圧縮応力が発生することが知見として得られている。径方向固定部(60)とカシメ部(50)とを周方向にずらして配置することで、径方向固定部(60)による周方向の引張応力によって、カシメ部(50)による圧縮応力が低減される。その結果、ステータコアにかかる周方向の圧縮応力が相殺され、鉄損の増大を抑制できる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、
前記径方向固定部(60)は、前記カシメ部(50)による前記ヨーク(34)の周方向に働く圧縮応力を低減する位置に配置される。
【0009】
第2の態様では、カシメ部(50)によるヨーク(34)の周方向に働く圧縮応力に対して、該圧縮応力と同じ方向に働く径方向固定部(60)による引張応力が作用することで、ヨーク(34)の周方向に生じる圧縮応力を低減できる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第1または第2の態様において、
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)の軸心と、周方向に隣り合う2つの前記径方向固定部(60)のそれぞれを結んだ2線の間の第2角度のうち、1/4~3/4の間に配置される。
【0011】
第3の態様では、隣り合う径方向固定部(60)に挟まれる第2角度のうち、1/4~3/4の間にカシメ部(50)を配置することで、カシメ部(50)による圧縮応力を径方向固定部(60)による引張応力によって低減できる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)の径方向において、前記ヨーク(34)の外周縁から該カシメ部(50)までの長さが、前記ヨーク(34)の外周縁から内周縁までの長さの1/3以下となるよう配置される。
【0013】
第4の態様では、径方向固定部(60)による引張応力は、ヨーク(34)の外周縁寄りに発生する。そのため、カシメ部(50)をヨーク(34)外周縁に近い位置に設けることで、カシメ部(50)による圧縮応力はヨーク(34)の外周縁寄りに発生し、ヨーク(34)に発生する圧縮応力を引張応力により低減できる。
【0014】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、
前記径方向固定部(60)は、前記ステータコア(32)の周方向において、隣り合う前記カシメ部(50)間の全てに配置される。
【0015】
第5の態様では、ヨーク(34)の全周に亘って発生する周方向の圧縮応力を低減できる。
【0016】
第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、
前記カシメ部(50)は、前記ステータコア(32)を周方向に直交する断面視において、両短辺から長辺の中央に向かって傾斜する傾斜面(52)を有する。
【0017】
第6の態様では、ステータコア(32)の周方向に働く圧縮応力が増大する。そのため、ステータコア(32)を軸方向から見たときのカシメ部(50)の大きさを小さくすることで、ステータコア(32)の周方向の圧縮応力を小さくでき、かつ、カシメ部(50)周辺の磁気特性の劣化が小さくなり、ステータコア(32)の鉄損の増加を抑制し、電動機(30)の効率の低下を抑制できる。
【0018】
第7の態様は、第1~第6のいずれか1つにおいて、
前記カシメ部(50)は、前記ティース(35)の径方向外方側に配置される。
【0019】
第7の態様では、ティース(35)が配置される径方向外方側は、回転電気機械を運転している際の磁束密度が相対的に低い。このような、ティース(35)の径方向外方側の磁束密度が比較的低い位置にカシメ部(50)を配置することで、カシメ部(50)による鉄損増加を抑制できる。
【0020】
第8の態様は、第1~第7のいずれか1つの態様の回転電気機械を備えた圧縮機である。
【0021】
第9の態様は、第8の態様の圧縮機を備えた冷凍装置である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る冷凍装置の概略の構成図である。
図2図2は、実施形態に係る圧縮機における軸方向に平行な断面に相当する縦断面図である。
図3図3は、電動機における軸方向に垂直な断面に相当する横断面図である。
図4図4は、図3のIV-IV矢視断面の一部を拡大した図である。
図5図5は、図3の電動機における軸方向に垂直な断面に相当する横断面図に径方向固定部を付加した図である。
図6図6は、カシメ部のみを設けた場合のカシメ部周辺に発生する応力の分布を表した図である。
図7図7は、カシメ部のみ、径方向固定部のみ、及びカシメ部と径方向固定部両方を設けた場合のそれぞれの応力を示すテーブルである。
図8図8は、カシメ部と径方向固定部とを同一径方向上に配置した場合の、図7に相当するテーブルである。
図9図9は、ティースからヨークに向けて発生する磁束密度を表した模式図である。
図10図10は、変形例に係るカシメ部の図4に相当する図である。
図11図11は、その他の実施形態に係る電動機における軸方向に垂直な断面に相当する図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0024】
本開示の圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に設けられる。
【0025】
(1)冷凍装置の概要
図1に示す冷凍装置(1)は、本開示の圧縮機(10)を備える。冷凍装置(1)は、冷媒が充填された冷媒回路(R)を有する。冷媒回路(R)は、圧縮機(10)、放熱器(2)、減圧機構(3)、および蒸発器(4)を有する。減圧機構(3)は、膨張弁である。冷媒回路(R)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。
【0026】
冷凍サイクルでは、圧縮機(10)によって圧縮された冷媒が、放熱器(2)において空気に放熱する。放熱した冷媒は、減圧機構(3)によって減圧され、蒸発器(4)において蒸発する。蒸発した冷媒は、圧縮機(10)に吸入される。
【0027】
冷凍装置(1)は、空気調和装置である。空気調和装置は、冷房専用機、暖房専用機、あるいは冷房と暖房とを切り換える空気調和装置であってもよい。この場合、空気調和装置は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構(例えば四方切換弁)を有する。冷凍装置(1)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する。膨張機構は、電子膨張弁、感温式膨張弁、膨張機、またはキャピラリーチューブで構成される。
【0028】
(2)圧縮機
図2に示すように、圧縮機(10)は、ケーシング(11)と、電動機(30)と、駆動軸(20)と、圧縮機構(22)とを有する。圧縮機(10)は、ロータリ型の圧縮機である。厳密には、圧縮機(10)は揺動ピストン型の圧縮機である。圧縮機(10)は、スクロール型、スクリュー型、あるいはターボ型の圧縮機であってもよい。
【0029】
(2-1)ケーシング
ケーシング(11)は、電動機(30)、駆動軸(20)、および圧縮機構(22)を収容する。ケーシング(11)は全密閉型の容器である。ケーシング(11)の内部は、圧縮機構(22)から吐出された高圧の冷媒で満たされる。
【0030】
ケーシング(11)は、金属材料で構成される。ケーシング(11)は、胴体(12)、底部(13)、および頂部(14)を有する。胴体(12)は、金属製の筒状の部材である。胴体(12)の軸方向の両端にはそれぞれ開口が形成される。本例では、胴体(12)の軸方向が鉛直方向に対応する。底部(13)は胴体(12)の下側の開口を閉塞する。頂部(14)は胴体(12)の上側の開口を閉塞する。
【0031】
(2-2)電動機
図2および図3に示す電動機(30)は、回転電気機械の一例である。電動機(30)は、圧縮機構(22)の上方に配置される。電動機(30)は、インバータ装置によって運転周波数が制御される。言い換えると、圧縮機(10)は、運転周波数が可変なインバータ式である。
【0032】
電動機(30)は、ステータ(31)と、ロータ(40)とを有する。ステータ(31)は、ケーシング(11)の胴体(12)に支持される。ステータ(31)は、ステータコア(32)と、ステータコア(32)に巻回されるコイル(33)とを有する。ステータコア(32)は、電磁鋼板(M)が軸方向に積層されて構成される。図3に示すように、ステータコア(32)は、円筒状のヨーク(34)と、ヨーク(34)の周方向に並んで配置され、該ヨーク(34)から径方向内方に向かって延びる複数(本例では9つ)のティース(35)とを有する。ヨーク(34)には、積層方向に隣り合う電磁鋼板を互いに固定するカシメ部(50)が設けられる。ステータコア(32)およびその固定構造の詳細は後述する。
【0033】
ヨーク(34)の外周面には、複数(本例では9つ)のコアカット(36)が形成される。コアカット(36)は、ステータコア(32)の軸方向に延びる溝である。各コアカット(36)は、ヨーク(34)を挟んでティース(35)と反対側の位置に形成される。
【0034】
ロータ(40)は、ステータコア(32)の内部に配置される。ロータ(40)の軸心には駆動軸(20)が固定される。ロータ(40)の内部には、複数の永久磁石が埋め込まれる(図示省略)。
【0035】
ステータ(31)のティース(35)と、ロータ(40)との間には、横断面視において環状のギャップ(G)が形成される。
【0036】
(2-3)駆動軸
駆動軸(20)は、ケーシング(11)の軸心に沿って鉛直方向に延びる。駆動軸(20)は、電動機(30)によって回転駆動される。駆動軸(20)は、軸受け(21)によって回転可能に支持される。
【0037】
(2-4)圧縮機構
圧縮機構(22)は、シリンダ(23)と、シリンダ(23)の内部に設けられるピストン(24)とを有する。シリンダ(23)の内周面とピストン(24)の外周面との間にシリンダ室(25)が形成される。シリンダ室(25)では、駆動軸(20)によって駆動されるピストン(24)により流体が圧縮される。
【0038】
(2-5)吸入管および吐出管
圧縮機(10)は、吸入管(26)および吐出管(27)を有する。吸入管(26)は、胴体(12)を径方向に貫通し、シリンダ室(25)と連通する。冷媒回路(R)の低圧冷媒が、吸入管(26)を介してシリンダ室(25)に吸い込まれる。吐出管(27)は、頂部(14)を軸方向に貫通し、ケーシング(11)の内部空間と連通する。圧縮機構(22)で圧縮された冷媒は、電動機(30)のコアカット(36)およびギャップ(G)を流れた後、吐出管(27)より冷媒回路(R)へ送られる。
【0039】
(3)ステータコアの詳細
(3-1)ステータコアのコア部の構成
ステータコア(32)の詳細について図2図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、「軸方向」、「周方向」、および「径方向」は、特に言及しない限り、ステータ(31)の軸方向、周方向、および径方向をそれぞれ意味する。本例では、ステータ(31)の軸方向は、図2に示すように駆動軸(20)の軸方向に相当する。
【0040】
ステータコア(32)では、複数の電磁鋼板(M)が軸方向の一端から他端に亘って積層される。本例のステータコア(32)では、全ての電磁鋼板(M)の構造が同じである。厳密には、全ての電磁鋼板(M)の形状、厚み、および材質が互いに同じである。全ての電磁鋼板(M)は、その全体が互いに重なるように配置される。
【0041】
本実施形態では、3つのカシメ部(50)がヨーク(34)に設けられる。ステータコア(32)の軸心方向から見て、各カシメ部(50)は、矩形に形成される。具体的に、ステータコア(32)を軸心方向から見て、カシメ部(50)は、長辺aがステータコア(32)の径方向に沿い、かつ、短辺bがステータコア(32)の周方向に沿うように形成される。カシメ部(50)は、ヨーク(34)表面において窪むように形成される。具体的に、カシメ部(50)は、底面(51)を有する(図4参照)。底面(51)は、ステータコア(32)の周方向に直交する断面視において、平坦に形成される。3つのカシメ部(50)は、同一形状である。ヨーク(34)に設けられる全てのカシメ部(50)は、ステータコア(32)を軸方向から見たときに、長辺aがステータコア(32)の径方向に沿い、かつ、短辺bがステータコア(32)の周方向に沿うように矩形に形成される。言い換えると、ステータコア(32)を軸方向から見たときに、長辺aがステータコア(32)の周方向に沿い、かつ、短辺bがステータコア(32)の径方向に沿うように矩形に形成されるカシメ部は、ヨーク(34)に設けられていない。
【0042】
3つのカシメ部(50)は、ステータコア(32)の周方向に等間隔(等ピッチ)に並んで配置される。具体的に、ステータコア(32)の軸心と、周方向に隣り合う2つのカシメ部(50)のそれぞれとを結んだ2線の間の角度を第1角度θ1とすると、周方向に隣り合う2つのカシメ部(50)は、第1角度θ1が120°となるように配置される。
【0043】
カシメ部(50)は、ステータコア(32)の径方向において、ヨーク(34)の外周縁からカシメ部(50)までの長さが、ヨーク(34)の外周縁から内周縁までの長さの1/3以下となるように配置される。本実施形態では、ヨーク(34)の外周縁から内周縁までの径方向の距離をdとしたときに、カシメ部(50)の長辺のすべてが、ヨーク(34)の外周縁からdの1/3の範囲内にある(図4参照)。
【0044】
カシメ部(50)は、ステータコア(32)の径方向のうち、ティース(35)の径方向外方に配置される。言い換えると、カシメ部(50)とティース(35)とは、同一径方向上に配置される。
【0045】
(3-2)ステータコアの固定構造
ステータ(31)は、ステータコア(32)とケーシング(11)とを固定する径方向固定部(60)を有する。径方向固定部(60)は、ケーシング(11)の内周面と、ステータコア(32)の外周面とを固定する。具体的には、径方向固定部(60)は、ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ圧縮応力を加える方法を用いてケーシング(11)とステータコア(32)とを固定する。本実施形態の径方向固定部(60)は、アーク溶接(厳密には、プラグ溶接)により、ケーシング(11)とステータコア(32)とを固定する。具体的には、アーク溶接の電極をステータコア(32)に押し付けることで、電極からステータコア(32)に点状に圧縮応力が伝わる。
【0046】
図5に示すように、本実施形態では、ステータ(31)は3つの径方向固定部(60)を有する。3つの径方向固定部(60)は、同一平面上に配置される。各径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の軸心方向から見て、周方向に隣り合う2つのティース(35)の中央を通る径方向に配置される。径方向固定部(60)は、周方向に等間隔(等ピッチ)で並んでいる。具体的に、各径方向固定部(60)は、第1角度の範囲内に配置される。本実施形態では、径方向固定部(60)は、第1角度の中間の角度となる位置に設けられる。本実施形態の第1角度は120°であるため、径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の軸心を中心に周方向に隣り合う2つのカシメ部(50)の一方から他方に向かって60°の位置に設けられる。本実施形態の径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の周方向において、隣り合うカシメ部(50)の間の全てに、それぞれ1つずつ配置される。
【0047】
また、ステータコア(32)の軸方向端部の一方を上端とし、他方を下端としたときに、3つの径方向固定部(60)は、同じ高さ位置に配置される。3つの径方向固定部(60)は、上端と下端との中央の高さ位置に配置されることが好ましい。
【0048】
(3-3)ステータの固定方法
アーク溶接によるケーシング(11)とステータ(31)とを固定する方法は、以下の工程を含む。
【0049】
第1工程)ケーシング(11)の胴体(12)に貫通穴を空ける。
【0050】
第2工程)自動溶接機は、貫通穴を通じてステータコア(32)の外周面に電極を押し当てる。この際、ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ点状に圧縮応力が加わる。
【0051】
第3工程)自動溶接機は、電極とステータコアとの間隔を所定値とするように、電極を径方向外方へ移動させる。
【0052】
第4工程)自動溶接機は、電極とステータコアとの間でアーク放電を生起させる。これにより、ケーシング(11)とステータコア(32)とを溶接する。溶接部分により貫通穴が閉塞される。
【0053】
(4)径方向固定部及びカシメ部を設ける位置によって生じる課題
アーク溶接のようにステータコアの周方向に複数の径方向固定部を設けてケーシングとステータとを固定する場合、径方向固定部が設けられたヨークの両隣りのヨークにはケーシングに抑えつけられることによる圧縮応力集中部が形成される。このような圧縮応力集中部にカシメが設けられていると、圧縮応力がさらに増大して鉄損が増大する結果、電動機の効率が低下してしまう。そのため、径方向固定部を、カシメ部が配置される径方向上に配置(カシメ部と径方向固定部とを同一径方向上に配置)すれば、圧縮応力集中部での応力の増大を避けることができる。
【0054】
しかし、カシメ部と径方向固定部とを同一径方向上に配置すると、カシメ部と径方向固定部で発生する周方向の圧縮応力が足し合わされる結果、カシメ部付近のヨークにより大きな圧縮応力が発生し、鉄損が増大するおそれがある。鉄損の増大を抑制するためには、ステータコア(32)に働く応力の種類・方向・大きさを考慮した応力分布を基にカシメ部と径方向固定部とを配置する必要があるが、これまでこのような応力分布については検討されてこなかった。
【0055】
(5)径方向固定部及びカシメ部によるヨークに発生する応力分布
本実施要形態の電動機(30)の径方向固定部(60)及びカシメ部(50)による応力分布について説明する。なお、以下に説明する径方向固定部(60)及びカシメ部(50)は、本実施形態で説明した位置に設けられる。
【0056】
図6のヨーク(34)の一部拡大図は、本実施形態のカシメ部(50)周辺の応力分布を等高線で表している。図6及び図7に示すように、カシメ部(50)の周方向の両隣りの領域Pには周方向の圧縮応力が発生している。すなわち、本実施形態のカシメ部(50)のみを設けると、カシメ部(50)付近においてヨーク(34)の周方向に圧縮応力が発生する。
【0057】
カシメ部(50)を設けずに、径方向固定部(60)を設けた場合では、領域Pでは周方向の引張応力が発生する。このように、本実施形態の径方向固定部(60)及びカシメ部(50)の配置によれば、領域Pではカシメ部(50)により周方向の圧縮応力が発生し、径方向固定部(60)により周方向の引張応力が発生する。そこで、径方向固定部(60)とカシメ部(50)とを設けると、領域Pにおける周方向の圧縮応力は、カシメ部(50)のみを設けた場合の周方向の圧縮応力よりも小さくなる。
【0058】
圧縮応力は、鉄損を増加させる一方、引張応力は、鉄損を減少させることが知見として得られている。カシメ部(50)により周方向の圧縮応力が発生する領域Pに、周方向の引張応力が発生するように径方向固定部(60)を設けることで、ステータコア(32)周方向に発生する圧縮応力を抑えることができる。
【0059】
(6)比較例
カシメ部(50)と径方向固定部(60)とを、ステータコア(32)の同一径方向上に配置した場合の応力分布について説明する。図8に示すように、カシメ部(50)を設けずに、径方向固定部(60)を設けた場合、領域Pでは周方向の圧縮応力が発生する。また、径方向固定部(60)を設けずに、カシメ部(50)を設けた場合、領域Pには周方向の圧縮応力が発生する。さらに、径方向固定部(60)とカシメ部(50)とを設けた場合では、径方向固定部(60)及びカシメ部(50)のいずれか一方のみ設けた場合よりも領域Pに発生する周方向の圧縮応力が増大する。このように、カシメ部(50)と径方向固定部(60)とを、ステータコア(32)の同一径方向上に配置すると、領域Pでは、カシメ部(50)及び径方向固定部(60)によるヨーク(34)の周方向の圧縮応力が足し合わされることで、周方向の圧縮応力が増大する。
【0060】
(7)特徴
(7-1)
本実施形態の電動機(30)は、径方向固定部(60)とカシメ部(50)とを有する。径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の軸心と、隣り合う2つのカシメ部(50)のそれぞれとを結んだ2線の間の第1角度の範囲内に配置され、かつ、ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ圧縮応力を加える方法を用いてケーシング(11)とステータコア(32)とを固定する。カシメ部(50)は、ステータコア(32)を軸方向から見たときに、長辺が前記ステータコア(32)の径方向に沿い、かつ、短辺が前記ステータコア(32)の周方向に沿うように矩形に形成される。
【0061】
このようにカシメ部(50)を、長辺が径方向に、短辺が周方向に沿う矩形に形成することで、周方向におけるカシメ部(50)の両隣りに周方向の圧縮応力が発生するが、径方向固定部(60)とカシメ部(50)とを周方向にずらして配置することで、径方向固定部(60)による周方向の引張応力によりカシメ部(50)による周方向の圧縮応力が低減される。その結果、鉄損の増大を抑制できる。また、ステータコア(32)にかかる力が分散されるため、ステータ(31)の変形や座屈を抑制できる。
【0062】
(7-2)
本実施形態の電動機(30)では、径方向固定部(60)は、カシメ部(50)によるヨーク(34)の周方向に働く圧縮応力を低減する位置に配置される。
【0063】
カシメ部(50)による圧縮応力と同じ方向に働く径方向固定部(60)による引張応力が該圧縮応力を打ち消し合うように作用するため、カシメ部(50)によるヨーク(34)の周方向に生じる圧縮応力を低減できる。
【0064】
(7-3)
本実施形態の電動機(30)では、カシメ部(50)は、ステータコア(32)の径方向において、ヨーク(34)の外周縁から該カシメ部(50)までの長さが、ヨーク(34)の外周縁から内周縁までの長さの1/3以下となるよう配置される。
【0065】
径方向固定部(60)による周方向の引張応力は、ヨーク(34)の外周縁寄りに発生する。そのため、カシメ部(50)をヨーク(34)外周縁寄りに設けることで、ヨーク(34)の外周縁寄りに発生するカシメ部(50)による周方向の圧縮応力を、径方向固定部(60)による周方向の引張応力によって確実に低減できる。
【0066】
(7-4)
本実施形態の電動機(30)では、径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の周方向において、隣り合うカシメ部(50)間の全てに配置される。このように、周方向に隣り合うカシメ部(50)の各間に径方向固定部(60)が設けられることで、ステータコア(32)の全周に亘って発生する周方向の圧縮応力の増大を抑制できる。
【0067】
(7-5)
本実施形態の電動機(30)では、カシメ部(50)は、ティース(35)の径方向外方に配置される。ここで、図9の矢印が示すように電動機(30)の運転中において発生する磁束は、ティース(35)の径方向内方側から外方側に向かって流れて、さらにヨーク(34)の周方向に流れようとする。磁束はより短い経路を流れようとするため、ヨーク(34)の内周縁寄りにはより多くの磁束が流れる一方、ヨーク(34)の外周縁寄りには磁束が流れにくい。その結果、ヨーク(34)において、ティース(35)から比較的近い領域では磁束密度が高く、ティース(35)から比較的遠い領域では磁束密度が低くなる。磁束密度が高い領域では鉄損密度が高くなるため、このような相対的に磁束密度が低い領域にカシメ部(50)を配置することで、カシメ部による鉄損増加を抑制できる。
【0068】
加えて、ケーシング(11)内にステータコア(32)を固定すると、ヨーク(34)のうちティース(35)に接続される部分は、ティース(35)によって径方向内方側の変形が抑制される。そのため、ティース(35)とヨーク(34)の接続部分を起点として、径方向外方側に周方向の引張応力が加わりやすいため、ティース(35)の径方向外方側にカシメ部(50)を設けることで、カシメ部(50)による周方向の圧縮応力を低減できる。
【0069】
(8)変形例
本例の電動機(30)では、カシメ部(50)の形状が上記実施形態の電動機(30)と異なる。以下では、上記実施形態と異なる構成について説明する。
【0070】
本例のカシメ部(50)は、両短辺から長辺の中央に向かって傾斜する傾斜面(52)を有する。具体的に、図10に示すようにステータコア(32)の周方向と直交する断面において、底面(51)は、V字状に形成される。本例では、このV字状の底面(51)が傾斜面(52)である。カシメ部(50)の長辺に沿って、ステータコア(32)が破断していてもよい。
【0071】
このようにカシメ部(50)を、底面(51)が傾斜面(52)を有するように形成することで、その特性から底面(51)が平坦な上記実施形態のカシメ部(50)よりも、ステータコア(32)の周方向の圧縮応力が増大する。そのため、本例のカシメ部(50)は、上記実施形態のカシメ部(図10の破線)よりも小さくできる。カシメ部(50)を小さくできれば、その分カシメ部(50)周辺の磁気特性の劣化が小さくなり、ステータコア(32)の鉄損の増加を抑制し、電動機(30)の効率の低下を抑制できる。また、カシメ部(50)を小さくできるため、カシメ部の長辺a全部をヨーク(34)の外周縁からd1の1/3の範囲内に容易に配置することができる。
【0072】
(9)その他の実施形態
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0073】
図11に示すように、ステータコア(32)の軸心と周方向に隣り合う2つの径方向固定部(60)のそれぞれを結んだ2線の間を第2角度θ2とすると、カシメ部(50)は、第2角度θ2の1/4~3/4の間に配置されていればよい。例えば上記実施形態では、3つの径方向固定部(60)は、周方向に等間隔に配置されるため、第2角度は120°となる。従って、カシメ部(50)は、周方向に隣り合う2つの径方向固定部(60)の間の第2角度(120°)の範囲において、一方のカシメ部(50)から他方のカシメ部(50)に向かって、30°以上であって90°以下の範囲に配置されていればよい。本例では、カシメ部(50)はθ2の1/2に配置される。このような範囲にカシメ部(50)を配置することで、カシメ部(50)による周方向の圧縮応力が低減され、鉄損の増大を抑制できる。
【0074】
カシメ部(50)の長辺の全体が、ヨーク(34)の外周縁から第1距離dの1/3の範囲内になくてもよい。カシメ部(50)の長辺の一部が、ヨーク(34)の外周縁から第1距離dの1/3の範囲内にあればよい。このように、カシメ部(50)は、ヨーク(34)の外周縁寄りに配置されていればよい。
【0075】
径方向固定部(60)は、ステータコア(32)の周方向において、隣り合うカシメ部(50)の間の全てに配置されなくてよく、隣り合うカシメ部(50)の間の一部に配置されていてもよい。
【0076】
上記変形例において、カシメ部(50)の傾斜面(52)はU字状に形成されてもよいし、傾斜面(52)は、底面(51)の一部に形成されてもよい。例えば、底面(51)は、両短辺から長辺に向かって傾斜する2つの傾斜面と、該2つの傾斜面とを接続する平坦面とで構成されてもよい。
【0077】
径方向固定部(60)に用いられる圧縮応力を加える方法は、ステータコア(32)に対して径方向外方から径方向内方へ点状に圧接、またはねじ止めによる方法であってもよい。
【0078】
径方向固定部(60)に用いられる圧縮応力を加える方法は、ステータコア(32)に対して軸方向に沿って線状に溶接するものであってもよい。
【0079】
径方向固定部(60)に用いられる圧縮応力を加える方法は、ステータコア(32)の外周面とケーシング(11)の内周面とが、周方向に部分的に接触するように、ステータコア(32)及びケーシング(11)を締り嵌めにより固定する方法であっても良い。この方法での径方向固定部(60)は、ケーシング(11)の内周面と接触するステータコア(32)の外周面である。締り嵌めは、例えば、焼き嵌め、冷やし嵌め、または圧入である。上記実施形態ではステータコア(32)の外周面にはコアカット(36)が形成されているため、部分的にステータコア(32)とケーシング(11)とが接することなる。具体的には、第1角度θ1よりも狭い範囲でステータコア(32)とケーシング(11)とは接触することになって、本開示の発明の効果を得ることができる。
【0080】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0081】
以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上に説明したように、本開示は、回転電気機械、圧縮機、および冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0083】
11 ケーシング
32 ステータコア
34 ヨーク
35 ティース
50 カシメ部
52 傾斜面
60 径方向固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11