IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図1
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図2
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図3A
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図3B
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図4
  • 特許-複合磁性体および電子部品 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】複合磁性体および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/22 20060101AFI20240215BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H01F1/22
H01F27/255
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020140942
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036635
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝志
(72)【発明者】
【氏名】永井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達郎
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118774(WO,A1)
【文献】特開2019-080058(JP,A)
【文献】特開2016-196398(JP,A)
【文献】特開2014-220469(JP,A)
【文献】特開2019-210204(JP,A)
【文献】特開2005-320390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/20-1/33、3/08、27/255、41/02
B22F 1/00、3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粒子と、
前記軟磁性金属粒子よりも粒径(D50)が小さい非磁性セラミック粒子と、を含み、
前記非磁性セラミック粒子の円形度が、0.55~0.85である複合磁性体。
【請求項2】
前記非磁性セラミック粒子の含有量が、前記軟磁性金属粒子100重量部に対して、0.6重量部以上、90重量部以下である請求項1に記載の複合磁性体。
【請求項3】
前記非磁性セラミック粒子の比誘電率が、10以下である請求項1または2に記載の複合磁性体。
【請求項4】
前記非磁性セラミック粒子が、ケイ酸塩化合物であり、
前記ケイ酸塩化合物が、銅、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、スズから選択される1種以上の元素を含む請求項1~のいずれかに記載の複合磁性体。
【請求項5】
前記非磁性セラミック粒子は、一般式α(βZnO・(1-β)CuO)・SiO2で表されるケイ酸塩化合物であり、
前記一般式において、前記αが1.5~2.4であり、前記βが0.60~1.00である請求項1~のいずれかに記載の複合磁性体。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の複合磁性体を有し、
前記複合磁性体の断面において、前記非磁性セラミック粒子が、前記軟磁性金属粒子の粒子間に存在する電子部品。
【請求項7】
前記複合磁性体の断面において、前記軟磁性金属粒子が占める面積割合をAMとし、前記軟磁性金属粒子が占める領域以外の面積割合をACとして、
C/AMが、0.07~19.3である請求項に記載の電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粒子で構成される複合磁性体、および、当該複合磁性体を含む電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性体は、フェライトと比べて、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性が良好である。そのため、近年では、インダクタやトランス、チョークコイルなどの電子部品において、フェライトに変えて金属磁性体が広く用いられるようになっている。たとえば、特許文献1では、磁性体としてFeCrSi合金を用いた積層インダクタが提案されている。
【0003】
ただし、従来の金属磁性体は、酸化物であるフェライトと比べて、インピーダンスの周波数特性が悪く、高周波用途の電子部品に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-092431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、直流重畳特性が良好で、かつ、インピーダンスの周波数特性が良好な複合磁性体、および、当該複合磁性体を用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る複合磁性体は、
軟磁性金属粒子と、
前記軟磁性金属粒子よりも粒径(D50)が小さい非磁性セラミック粒子と、を含む。
【0007】
本発明の複合磁性体は、上記の構成を有することで、良好な直流重畳特性が得られるとともに、インピーダンスの周波数特性が向上する。ここで、「インピーダンスの周波数特性が向上する」とは、複合磁性体の自己共振周波数(SRF)がより高周波側にシフトすることを意味する。また、自己共振周波数(SRF)とは、インピーダンスの周波数特性において、インピーダンスが極大値となる場合の周波数である。
【0008】
なお、Mn-Zn系フェライトやNi-Zn系フェライトなどのソフトフェライトは、セラミックではあるが磁性体であり、このようなソフトフェライトは、本発明の非磁性セラミック粒子に該当しない。
【0009】
好ましくは、前記非磁性セラミック粒子が、銅、亜鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、スズから選択される1種以上の元素を含むケイ酸塩化合物である。
また、好ましくは、前記非磁性セラミック粒子が、一般式α(βZnO・(1-β)CuO)・SiOで表されるケイ酸塩化合物であり、
前記一般式において、前記αが1.5~2.4であり、前記βが0.60~1.00である。
【0010】
非磁性セラミック粒子として上記のようなケイ酸塩化合物を使用することで、軟磁性金属粒子と非磁性セラミック粒子との間で、磁性体の特性を阻害するような反応相が生成することを抑制できる。
【0011】
好ましくは、前記非磁性セラミック粒子の含有量が、前記軟磁性金属粒子100重量部に対して、0.6重量部以上、90重量部以下である。本発明者等の実験によれば、非磁性セラミック粒子の含有量を多くするほど、自己共振周波数がより高周波側にシフトし、インピーダンスの周波数特性がより良好となる。なお、非磁性セラミック粒子の含有量が90重量部超過となると、インピーダンスの周波数特性は向上するものの、磁性体の成形性が悪化する傾向となる。そのため、非磁性セラミック粒子の含有量は、軟磁性金属粒子100重量部に対して90重量部以下であることが望ましい。
【0012】
好ましくは、前記非磁性セラミック粒子の円形度が、0.98未満である。本発明者等の実験によれば、非磁性セラミック粒子の円形度が低下するほど、直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性が向上する傾向となる。また、円形度が所定値未満である非磁性セラミック粒子を使用することで、本発明の複合磁性体で構成する磁心の強度が向上する。
【0013】
好ましくは、前記非磁性セラミック粒子の比誘電率が、10以下である。このような非磁性セラミック粒子を用いることで、インピーダンスの周波数特性がさらに向上する。
【0014】
本発明に係る複合磁性体は、インダクタ、トランス、リアクトル、チョークコイル、複合素子(例えば、コイル領域とコンデンサ領域とを兼ね備えるLC複合部品など)、ノイズフィルタ、磁気センサ、アンテナなどの様々な電子部品に適用できる。本発明において、複合磁性体を適用した電子部品は、以下の構成を有することができる。
【0015】
すなわち、本発明に係る電子部品は、上記の複合磁性体を有し、前記複合磁性体の断面において、前記非磁性セラミック粒子が、前記軟磁性金属粒子の粒子間に存在する。このような構成を有する電子部品は、直流重畳特性が優れるとともに、インピーダンスの周波数特性が良好となる。そのため、本発明に係る電子部品は、高周波用途の電子部品として、好適に利用することができる。
【0016】
また、前記複合磁性体の断面において、前記軟磁性金属粒子が占める面積割合をAとし、前記軟磁性金属粒子が占める領域以外の面積割合をAとすると、
好ましくは、A/Aが、0.07~19.3である。
なお、上記において、非磁性セラミック粒子が占める面積は、面積割合Aの中に含まれている。面積比率A/Aが上記の範囲内であることで、直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電子部品の内部透明斜視図である。
図2図2は、図1に示す電子部品に含まれる複合磁性体を示す概略断面図である。
図3A図3Aは、複合磁性体の要部を拡大して示す模式図である。
図3B図3Bは、複合磁性体の要部を拡大して示す模式図である。
図4図4は、インピーダンスの周波数特性を測定した結果を概略的に示すグラフである。
図5図5は、直流重畳特性を測定した結果を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態では、本発明に係る電子部品の一例として、積層インダクタについて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る積層インダクタ1は、素体2と端子電極3とを有する。素体2は、磁性体層4と、3次元的かつ螺旋状の形態を有するコイル導体50と、で構成され、素体2の内部にコイル導体50が埋設してある。素体2の両端には、一対の端子電極3が形成してあり、この端子電極3は、引出電極6を介してコイル導体50と電気的に接続してある。
【0020】
素体2の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素体2の寸法も特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。一対の端子電極3も、導電性を有していればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、端子電極3は、導電性ペーストの焼付電極、熱硬化性樹脂等を含む樹脂電極、もしくは、焼付電極または樹脂電極の外表面にメッキを施した積層電極などとすることができる。
【0021】
素体2に含まれるコイル導体50は、螺旋状のコイル形状を有する。このコイル形状は、四角環状や四角半環状などの所定パターンを有する内部電極層5を、磁性体層4を介してY軸方向に積層し、隣接する内部電極層5の間をスルーホール電極(図示略)または段差状電極等で連結することで形成される。そして、コイル導体50のY軸方向の両端には引出電極6が接続してある。この引出電極6は、磁性体層4を貫通するスルーホール電極である。コイル導体5および引出電極6の材質も、導電性を有していればよく、特に制限されない。たとえば、Ag(銀)、Cu(銅)、Au(金)、Al(アルミニウム)、Ag合金、Cu合金などを主成分として構成することができ、その他、ガラスフリット、副成分、および不可避不純物が含まれていてもよい。
【0022】
なお、本実施形態では、磁性体層4および内部電極層5の積層方向がY軸に一致し、端子電極3の端面が、X軸およびZ軸に平行となっている。また、コイル導体50の巻回軸が、Y軸に一致している。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
【0023】
素体2の磁性体層4は、本実施形態に係る複合磁性体40で構成してある。複合磁性体40には、図2に示すように、軟磁性金属粒子41と、セラミック粒子42とが含まれる。以下、本実施形態に係る複合磁性体40の詳細を説明する。
【0024】
本実施形態において、軟磁性金属粒子41は、軟磁性を示す材質で構成してあればよく、その組成は、特に制限されない。軟磁性を示す材質としては、たとえば、純鉄、Fe-Si系合金(鉄-シリコン)、Fe-Al系合金(鉄-アルミニウム)、Fe-Ni系合金(鉄-ニッケル)、センダスト系合金(Fe-Si-Al)、Fe-Si-Cr系合金(鉄-シリコン-クロム)、Fe-Si-Al-Ni系合金、Fe-Ni-Si-Co系合金、Fe-Ni-Si-Co-Cr系合金、Fe系アモルファス合金、Fe系ナノ結晶合金等が例示される。また、これらの軟磁性金属粒子41にはPが含まれてもよい。
【0025】
なお、軟磁性金属粒子41は、全ての粒子が同じ材質で構成してあってもよく、異なる材質の粒子を混ぜ合わせて構成してもよい。たとえば、軟磁性金属粒子41のうち一部は、純鉄粒子で構成し、他の一部は、Fe-Si系合金などで構成してもよい。材質が異なるとは、金属粒子を構成する元素が異なる場合、構成する元素が同じでもその組成が異なる場合、結晶系が異なる場合などが例示される。
【0026】
また、軟磁性金属粒子41の表面には、絶縁被膜が形成してあってもよい(図示略)。絶縁被膜としては、樹脂の被膜、無機絶縁被膜、および、これらを複合した被膜などが挙げられ、好ましくは、無機絶縁被膜である。無機絶縁被膜としては、熱処理などにより粒子表面を酸化して形成する酸化被膜、リン酸塩被膜、シランカップリング処理により形成するSiを含む被膜、ホウケイ酸ガラスなどの各種ガラスコーティングなどが例示される。なお、絶縁被膜は、全ての粒子に形成してあってもよく、一部の粒子のみに形成してあってもよい。また、絶縁被膜の厚みは、特に限定されないが、たとえば、5nm~60nmとすることができる。絶縁被膜を形成することで、金属粒子間の絶縁性を高めることができ、積層インダクタ1の耐電圧を向上させることができる。
【0027】
軟磁性金属粒子41のメディアン径(D50)は、1μm以上、15μm以下であることが好ましく、1μm以上、5.0μm未満であることがより好ましい。軟磁性金属粒子41の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などで、図2に示すような素体2の断面(磁性体層4の断面)を観察し、得られた断面写真を画像解析することで測定できる。その測定に際して、断面写真は、少なくとも5視野以上で撮影する。そして、各断面写真に含まれる構成粒子(金属粒子41)の円相当径を計測し、軟磁性金属粒子41の粒度分布を得る。
【0028】
なお、軟磁性金属粒子41は、平均粒径が異なる2以上の粒子群を混ぜ合わせて構成してもよい。その場合、軟磁性金属粒子41の粒度分布には、混ぜ合わせた粒子群の数に合わせて、2以上のピークが現れる。また、軟磁性金属粒子41の形状は、特に、限定されず、たとえば、球状、楕円球状、針状、鱗片状などであってもよく、不定形状であってもよい。
【0029】
一方、セラミック粒子42は、軟磁性金属粒子41よりも粒径が小さい非磁性セラミックで構成してある。
【0030】
具体的に、セラミック粒子42のメディアン径(D50)は、0.01μm以上、3.0μm以下とすることができ、0.05μm~2.0μmであることが好ましく、0.1μm~0.7μmであることがより好ましい。また、軟磁性金属粒子41のメディアン径dに対するセラミック粒子42のメディアン径dの比(d/d)は、0.003~0.8とすることができ、好ましくは0.01~0.67、より好ましくは0.03~0.25である。なお、セラミック粒子42の粒径は、軟磁性金属粒子41の場合と同様に、断面写真を画像解析して計測することができる。
【0031】
上記のような特徴を有するセラミック粒子42の主成分としては、たとえば、ケイ酸塩化合物、チタン酸塩化合物、スズ酸塩化合物、ゲルマニウム酸塩などが例示される。Mn-Zn系フェライトやMn-Ni系フェライトなどのソフトフェライトは、セラミックの一種であるが、磁性体である。そのため、ソフトフェライトは、本実施形態のセラミック粒子42に該当しない。セラミック粒子42は、フェライトのような磁性体ではなく、非磁性体である。
【0032】
なお、上記で例示したチタン酸塩化合物も、非磁性体セラミックの一種である。当該チタン酸塩化合物には、チタン酸バリウムやチタン酸カルシウムなどといった、比誘電率が高い、ペロブスカイト構造の酸化物が含まれる。ただし、本実施形態のセラミック粒子42としては、比誘電率の高い化合物よりも、比誘電率が10以下の化合物を用いることが好ましい。比誘電率が低いセラミック粒子42を用いることで、複合磁性体40としての比誘電率も低下させることができる。
【0033】
より具体的に、セラミック粒子42は、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)スズ(Sn)から選択される1種以上の元素を含むケイ酸塩化合物であることが好ましい。また、これらのケイ酸塩化合物の中でも、特に、一般式α(βZnO・(1-β)CuO)・SiOで表されるケイ酸塩化合物を用いることがより好ましい。当該一般式において、αは1.5~2.4であることが好ましい。また、βは0.60~1.00であることが好ましく、0.80~1.00であることがより好ましい。
【0034】
セラミック粒子42の材質として、上記のようなケイ酸塩化合物を用いることで、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42との間で、複合磁性体40の特性を阻害するような反応相が生成することを抑制できる。たとえば、セラミック粒子42として、酸化ニッケル(NiO)のみからなる粒子を用いた場合、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42との間で、Niを含むフェライトが発生することがある。これに対して、セラミック粒子42として上記のようなケイ酸塩化合物を用いた場合には、フェライトなどの反応相が発生せず、酸化ニッケルのみからなる粒子を用いた場合に比べて、直流重畳特性が良好となる。
【0035】
本実施形態に係る複合磁性体40の断面(すなわち、素体2を構成する磁性体層4の断面)において、セラミック粒子42は、軟磁性金属粒子41の粒子間である粒界10に存在し、粒界10に充填されている。特に、セラミック粒子42は、図3Aに示すように、3つの軟磁性金属粒子42が1点に会合している粒界三重点10aに存在するとともに、当該粒界三重点10aのみならず三重点以外の粒界10bにも存在していることが好ましい。複合磁性体40の断面におけるセラミック粒子の存在形態を、上記のような構成とするためには、セラミック粒子42の含有量、および/または、セラミック粒子42の円形度を、所定の範囲に制御することが望ましい。
【0036】
具体的に、複合磁性体40におけるセラミック粒子42の含有量は、軟磁性金属粒子100重量部に対して、0.6重量部以上、90重量部以下であることが好ましく、1重量部以上、70重量部以下であることがより好ましく、2重量部以上、60重量部以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、セラミック粒子42の円形度は、0.98未満であることが好ましく、セラミック粒子42は、円形度の低い形状を有することが好ましい。なお、円形度の下限値は、0.50以上とすることができる。また、セラミック粒子42の円形度は、より好ましくは0.55~0.85であり、さらに好ましくは、0.55~0.70である。
【0038】
図3Aおよび図3Bは、複合磁性体40におけるセラミック粒子42の含有量の影響、および、セラミック粒子42の円形度の影響を説明するための模式図である。図3Bに示すように、セラミック粒子42の含有量が少ない場合、もしくは、セラミック粒子42の円形度が高い場合、セラミック粒子42は、粒界三重点10aに集まりやすく、粒界三重点10aで凝集する傾向となる。一方、図3Aに示すように、セラミック粒子42の含有量、および/または、セラミック粒子42の円形度が、上述した所定の範囲に制御してある場合、セラミック粒子42は、粒界三重点10aのみならず、三重点以外の粒界10bにも充填され、軟磁性金属粒子41の粒界10が広がる傾向となる。
【0039】
軟磁性金属粒子41の粒界10が広がるとは、軟磁性金属粒子41の粒子間距離が広がることと同義である。軟磁性金属粒子41の粒子間距離が広がることで、複合磁性体40としての比誘電率が低下する傾向となり、1GHz以上の高周波帯でもより高いインピーダンスが得られる。また、円形度の低いセラミック粒子42を用いることで、複合磁性体40で構成される素体2の強度が向上する。素体2の強度が向上する理由は、軟磁性金属粒子41の粒界10において、セラミック粒子42がより密に充填されることで、アンカー効果が得られるためと考えられる。
【0040】
なお、セラミック粒子42の含有量と、セラミック粒子42の円形度とは、いずれも、複合磁性体40の断面(本実施形態では、素体2を構成する磁性体層4の断面)を画像解析することで測定できる。
【0041】
たとえば、SEMの反射電子像、もしくは、STEMのHAADF像で、複合磁性体40の断面を観察した場合、軟磁性金属粒子41は、コントラストの明るい領域として認識でき、セラミック粒子42は、軟磁性金属粒子41よりもコントラストが暗く、小粒子が密集した領域として認識できる。画像解析では、コントラストの明暗に基づいて、観測断面における軟磁性金属粒子41が占める面積割合Aと、観測断面において軟磁性金属粒子41が占める領域以外の面積割合Aとを求める(すなわち観測領域の面積A=A+A)。なお、面積割合Aには、セラミック粒子42の面積が含まれ、その他空隙や結合剤の面積が含まれ得る。セラミック粒子42の含有割合は、面積割合A,Aを重量割合に換算することで概算できる。
【0042】
また、複合磁性体40におけるセラミック粒子42の割合を面積比換算で表した場合、面積割合Aに対する面積割合Aの比(A/A)は、0.07~19.3であることが好ましく、0.09~6.5であることがより好ましく、0.094~3.7であることがさらに好ましい。なお、セラミック粒子42の含有量および面積比(A/A)は、上記のような画像解析を、少なくとも3視野以上の断面で行い、その平均値として算出することが好ましい。なお、面積割合A,Aの測定では、倍率を軟磁性金属粒子41の粒径に合わせて適宜調整すればよく、たとえば、観測視野を10μm四方~100μm四方とすればよい。
【0043】
また、セラミック粒子42の円形度の測定では、SEMまたはSTEMの観測倍率を1万倍~5万倍程度とし、観測視野を1μm四方~100μm四方に相当する範囲として、5視野以上で断面写真を撮影する。そして、撮影した断面写真に含まれる各セラミック粒子42の円形度を、画像解析により測定し、その平均値を算出すればよい。
【0044】
なお、セラミック粒子42には、副成分として、酸化ビスマス、酸化ホウ素、ガラス成分などが添加してあってもよい。また、セラミック粒子42の表面には、ガラスコーティングや酸化被膜などの被覆層を形成してもよい。セラミック粒子42に被覆層を形成すると、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42とが化学的に反応することを抑制する効果や、金属粒子間の絶縁性の向上、複合磁性体40の焼結密度の向上といった効果が期待できる。ただし、セラミック粒子42の表面に被覆層を形成する場合、製造過程での工数が増え、生産性が低下する。本実施形態では、セラミック粒子42の表面に被覆層を形成せずとも、セラミック粒子42の材質や、含有量、および、円形度などを、上述したような好適な様態とすることで、反応相の抑制や、絶縁性の向上、密度の向上といった効果を十分に確保できる。そのため、本実施形態の複合磁性体40では、セラミック粒子42の表面に必ずしも被覆層を形成する必要はない。
【0045】
また、本実施形態に係る複合磁性体40には、上述した軟磁性金属粒子41およびセラミック粒子42の他に、結合剤43が含まれていてもよい。結合剤43の種類は、特に限定されないが、樹脂を用いることが好ましい。具体的に、樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂、および、上記の樹脂を混ぜ合わせた複合樹脂などが例示される。また、結合剤43の含有量は、軟磁性金属粒子100重量部に対して、1重量部~2重量部程度とすることが好ましい。複合磁性体40に結合剤43が含まれることで、軟磁性金属粒子間の絶縁性がより向上するとともに、複合磁性体40で構成される素体2の強度が向上する。
【0046】
以下、本実施形態に係る複合磁性体40および積層インダクタ1の製造方法の一例を説明する。ただし、本実施形態に係る複合磁性体40および積層インダクタ1の製造方法は、下記の方法に限定されない。
【0047】
まず、複合磁性体40を構成する軟磁性金属粒子41の原料粉末とセラミック粒子42の原料粉末とを準備する。軟磁性金属粒子41の原料粉末は、公知の粉末製造方法により作製できる。たとえば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転ディスク法、カルボニル法などにより製造できる。もしくは、単ロール法により得られる薄帯を機械的に粉砕して製造してもよい。なお、上記の製法で軟磁性金属粒子41の原料粉末を得た後、篩分級や気流分級などを行うことで、軟磁性金属粒子41の粒度を調整することができる。また、軟磁性金属粒子41の表面に絶縁被膜を形成する場合には、上記で得られた原料粉末に、適宜、熱処理や、リン酸塩処理、シランカップリング処理、水熱合成などの被膜形成処理を施せばよい。
【0048】
一方、セラミック粒子42についても、公知の粉末製造法により作製したセラミック粉末を原料として用いればよい。たとえば、一般式α(βZnO・(1-β)CuO)・SiOで表されるケイ酸塩化合物の原料粉末は、酸化ケイ素、酸化亜鉛、および酸化銅の粉末を所望の配合比で混合した後、この混合粉末を仮焼きすることで得られる。この際、セラミック粒子42の粒径は、原料粉末を粉砕し、適宜分級することで、調整できる。また、セラミック粒子42の円形度は、粉砕時に使用する粉砕装置の種類や粉砕条件を制御することで調整でき、その他、粉砕後の粒子に対してプラズマ処理を施すことによっても調整できる。
【0049】
次に、上記の原料粉末を用いて、シート法により積層インダクタ1を製造する方法について説明する。まず、軟磁性金属粒子41の原料粉末と、セラミック粒子42の原料粉末とを、溶媒や結合剤43などの添加剤とともに混練し、スラリー化することで、磁性ペーストを得る。この際添加する溶媒としては、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)、ブチルジグリコールアセテート(BCA)、メタノールなどを用いることができる。また、磁性ペーストには、分散剤を添加してもよく、分散剤としては、シランカップリング剤、オレイン酸、オレイルアミンなどを用いることができる。
【0050】
そして、この磁性ペーストをドクターブレード法などによりシート化し、焼成後に磁性体層4となるグリーンシートを得る。次いで、形成したグリーンシートの上に、導電性ペーストを所定のパターンで印刷し、焼成後に内部電極層5となる内部電極パターンを形成する。そして、内部電極パターンが印刷されたグリーンシートを複数積層し、適宜、加圧、切断等することで、グリーン積層体を得る。この際、グリーンシートを積層する過程、もしくは、積層後において、積層方向で隣接する内部電極パターン間にスルーホール電極を形成し、当該内部電極パターン間を接合する。スルーホール電極を形成することで、グリーン積層体の内部に、3次元的かつ螺旋状のコイル導体パターンが一体的に形成される。なお、引出電極6も、上記と同様にスルーホール電極として形成すればよい。
【0051】
次に、上記の工程で得られたグリーン積層体を焼成し、素体2を得る。焼成の条件は、特に限定されないが、たとえば、焼成時の保持温度を550℃~850℃とし、焼成時の保持時間を0.5~3.0時間とすることができる。なお、焼成工程の前には、適宜、脱バインダ処理を施してもよい。
【0052】
そして、上記の工程で得られた素体2に一対の端子電極3を形成することで、図1に示す積層インダクタ1が得られる。
【0053】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の積層インダクタ1において、素体2の磁心部分に相当する磁性体層4は、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42とを含む複合磁性体40で構成してある。そして、この複合磁性体40に含まれるセラミック粒子42は、軟磁性金属粒子41よりもメディアン径(D50)が小さい非磁性セラミックであることを特徴とする。本実施形態の複合磁性体40および積層インダクタ1は、上記のような特徴を有するセラミック粒子42を含むことで、従来よりも直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性が向上する。
【0054】
図4は、積層インダクタに関して、インピーダンス(|Z|)の周波数特性を測定した結果を概略的に示すグラフである。図4において、実線で示しているグラフCexは、セラミック粒子42を加えずに軟磁性金属粒子41のみで磁性体を構成した場合の結果である。一方、図4において破線で示すグラフEx1は、複合磁性体40にセラミック42を加えた場合の結果である。図4に示すように、セラミック粒子42を加えると、インピーダンスのピーク(極大値)が高周波側にシフトする。つまり、複合磁性体40に所定の特性を有するセラミック粒子42を加えることで、積層インダクタ1の自己共振周波数が、高周波側にシフトし、1GHz以上とすることができる。
【0055】
また、図5は、積層インダクタの直流重畳特性を評価した結果を概略的に示すグラフである。本実施形態において、直流重畳特性は、直流電流を印加した際のインダクタンスの変化率に基づいて評価する。具体的に、直流電流を印加していない状態のインダクタンスLと、直流電流を印加した状態のインダクタンスLとを測定し、その変化率を、(L-L)/L(%)として算出する。インダクタンスの変化率が小さいほど、直流重畳特性が良好であるといえる。図4と同様に、図5の実線のグラフCexが、セラミック粒子42を加えずに軟磁性金属粒子41のみで磁性体を構成した場合の結果であり、破線のグラフEx1がセラミック粒子42を含む場合の結果である。図5に示すように、複合磁性体40に所定の特性を有するセラミック粒子42を加えることで、直流電流を印加した際のインダクタンスの変化率が小さくなり、直流重畳特性が向上する。
【0056】
なお、直流重畳特性やインピーダンスの周波数特性が向上する理由は、必ずしも明らかではない。たとえば、セラミック粒子42の添加により、軟磁性金属粒子41の粒子間距離が広がることが影響していると考えられる。
【0057】
本実施形態の複合磁性体40において、セラミック粒子42の含有量は、軟磁性金属粒子100重量部に対して、0.6重量部以上、90重量部以下である。セラミック粒子42の含有量を増やすと、図4のグラフEx2に示すように、自己共振周波数がより高周波側にシフトし、インピーダンスの周波数特性がさらに向上する。また、図5のグラフEx2に示すように、直流重畳特性もより向上する。なお、セラミック粒子42の含有量が90重量部超過となると、インピーダンスの周波数特性は向上するものの、複合磁性体40の成形性が悪化する傾向となる。そのため、セラミック粒子42の含有量は、軟磁性金属粒子に対して90重量部以下であることが望ましい。
【0058】
また、本実施形態の複合磁性体40において、セラミック粒子42の円形度は、0.98未満である。セラミック粒子42として、円形度の低い粒子を用いることで、図4および図5のグラフEx2に示すように、直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性がさらに向上する傾向となる。また、前述したように、円形度の低いセラミック粒子42を用いることで、アンカー効果が得られ、複合磁性体40で構成される素体2の強度が向上する。
【0059】
また、本実施形態において、セラミック粒子42は、比誘電率が10以下であることが好ましい。比誘電率の低いセラミック粒子42を用いることで、複合磁性体40としての比誘電率も低下する傾向となり、インピーダンスの周波数特性がさらに向上する。
【0060】
より具体的に、セラミック粒子42は、所定の条件を満たすケイ酸塩化合物であることが好ましい。セラミック粒子42としてケイ酸塩化合物を用いることで、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42との間で、複合磁性体40の特性を阻害するような反応相が生成することを抑制できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0062】
たとえば、上記の実施形態では、本発明に係る複合磁性体40の適用例として、積層インダクタについて説明したが、本発明を適用可能なインダクタは、積層型に限らない。たとえば、複合磁性体40を加圧成形して磁心を作製し、その磁心に導電性のワイヤや板を巻回してインダクタ素子を構成してもよい。また、本発明の複合磁性体を空芯コイルとともに、圧粉成形して、インダクタ素子を構成してもよい。これらの巻線インダクタの場合、磁心の形態は、特に限定されず、トロイダル型、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、ポット型、カップ型などの圧粉体もしくは焼結体とすることができる。また、本発明に係る複合磁性体40は、薄膜インダクタの磁心にも適用できる。
【0063】
さらに、上記の実施形態では、本発明に係る電子部品として、インダクタを例示したが、本発明の電子部品は、これに限定されず、トランス、リアクトル、チョークコイル、複合素子(例えば、コイル領域とコンデンサ領域とを兼ね備えるLC複合部品など)、ノイズフィルタ、磁気センサ、アンテナ、非接触給電装置などの電子部品であってもよい。つまり、本発明の複合磁性体40は、各種コイル装置の磁心や、フィルタ、アンテナ、磁気センサ等における磁性シートとして利用可能である。上記のような各種電子部品が、本発明に係る複合磁性体40を含む場合、当該電子部品は、高周波用途としても好適に用いることができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0065】
実験1
実験1では、金属粒子のみで構成した磁性体試料(試料1)と、金属粒子とセラミック粒子とを混ぜ合わせて構成した磁性体試料(試料4~13)とを作製し、各磁性体試料の特性を評価した。また、実験1では、試料4~13において、セラミック粒子の種類を変えて実験を行った。以下、磁性体試料の作製方法について説明する。
【0066】
まず、軟磁性金属粒子41の金属原料粉末として、94.0Fe-6.0Si合金粉末を準備した。当該金属原料粉末は、アトマイズ法により作製し、その後、熱処理を施すことで、金属粒子の表面に平均厚み20nmの酸化被膜を形成した。
【0067】
一方、セラミック粒子42のセラミック原料粉末は、所定の酸化物粉末を混合した後に仮焼きし、その後、粉砕することで作製した。前述したように、実験1では、試料4~13で、異なる材質のセラミック原料粉末を準備した。各試料におけるセラミック粒子42の組成、および、当該セラミック粒子42の比誘電率を表1に示す。
【0068】
なお、セラミック粒子42の比誘電率は、LCRメータ(4285A)を用いて、容量法により測定した。その際、測定周波数は1MHzとし、室温(25℃)で測定した。また、比誘電率用の測定試料は、上記の工程で得られたセラミック粒子42の原料粉末のみを、加圧成形することで得た。測定試料は、直径10mm、高さ5mmの円盤形状とした。
【0069】
次に、準備した軟磁性金属粒子41の原料粉末と、セラミック粒子42の原料粉末とを混ぜ合わせ、磁性体試料を得た。ただし、試料1では、セラミック粒子42を添加することなく、軟磁性金属粒子41のみで磁性体試料を構成した。なお、実験1の全ての磁性体試料において、軟磁性金属粒子41の粒径(D50)は、3.0μmとした。また、実験1の各磁性体試料において、セラミック粒子42の粒径(D50)は、0.3μmとし、セラミック粒子42の含有量は、軟磁性金属粒子100重量部に対して、2.0重量部とした。
【0070】
(磁性体試料の比誘電率の測定)
上記の工程で得られた磁性体試料についても、セラミック粒子42の原料粉末と同様にして、比誘電率を測定した。磁性体試料の比誘電率の測定では、軟磁性金属粒子41とセラミック粒子42とを混ぜ合わせた混合粉末を、円盤状に加圧成形した成形体を測定試料として用いた。磁性体試料の比誘電率は、値が低いことが好ましく、100以下を良好と判断する。各磁性体試料の比誘電率を測定した結果を表1に示す。
【0071】
(積層インダクタ試料の作製)
また、実験1では、作製した磁性体試料を用いて、インダクタ試料を作製した。具体的に、上記の磁性体試料に、ブチラール樹脂および溶媒を加えて磁性体ペーストを得て、当該磁性体ペーストを用いて、シート法により図1に示す積層インダクタを作製した。なお、インダクタ試料において、素体2の内部に含まれるコイル導体は、Ag電極により構成した。
【0072】
(インピーダンスの周波数特性の測定)
インダクタ試料の特性評価として、インピーダンスの周波数特性を、インピーダンスアナライザ(E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ)により測定した。測定は室温で行い、インピーダンスの極大値から、自己共振周波数(SRF)を算出した。SRFが1000MHz以上あれば、積層インダクタは高周波用途として十分利用可能である。そのためSRFは、1000MHz以上を良好と判断する。各試料における周波数特性の評価結果を表1に示す。
【0073】
(直流重畳特性の評価)
さらに、インダクタ試料の直流重畳特性の測定を行った。直流重畳特性は、インダクタ試料に直流電流を印加した際のインダクタンスの変化率に基づいて評価した。本実施例では、LCRメータ(4284A プレシジョンLCRメータ)を用いて、直流電流(Idc)を印加していない状態でのインダクタンスLと、直流電流を1.5A印加した状態でのインダクタンスL1.5を測定した。そして、式(L1.5-L0)/Lに基づいて、インダクタンスの変化率(ΔL/L:単位%)を算出した。直流重畳特性は、インダクタンスの変化率が小さいほど良好であり、本実験では、インダクタンスの変化率が0%である場合を良好と判断する。各試料における周波数特性の評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
(実験1の評価結果)
表1に示すように、セラミック粒子を添加した試料4~13では、セラミック粒子を添加していない試料1に比べて、SRFが高く、かつ、インダクタンスの変化率が小さくなっている。この結果から、複合磁性体に、軟磁性金属粒子よりも粒径が細かい非磁性セラミック粒子を添加することで、直流重畳特性が向上し、なおかつ、インピーダンスの周波数特性が向上することが確認できた。なお、試料5のZnO・Feは、フェライトの1種ではあるが、非磁性セラミックである。
【0076】
また、試料4~13の結果を比較すると、ケイ酸塩化合物を添加した試料6~13でインダクタの特性が特に良好となることがわかる。具体的に、試料6~13では、SRFが1000MHz以上であり、かつ、インダクタンスの変化率が0%であって、試料4および試料5よりも、直流重畳特性やインピーダンスの周波数特性がより向上する結果となった。試料6~13のケイ酸塩化合物は、比誘電率が10以下であり、これら試料6~13の結果から、複合磁性体に添加するセラミック粒子の比誘電率は、10以下であることが好ましいことが確認できた。
【0077】
また、ケイ酸塩化合物を添加した試料6~13のなかでも、試料6~8の評価結果が良好であった。この結果から、ケイ酸塩化合物の中でも、特に、一般式α(βZnO・(1-β)CuO)・SiOで表されるケイ酸塩化合物を、セラミック粒子として用いることが好ましいことが確認できた。
【0078】
なお、表1には記載していないが、セラミック粒子として、NiOのみを添加した複合磁性体試料も作製した。NiOのみを添加した試料では、SEMによる断面観察の結果から、軟磁性金属粒子とセラミック粒子との間に、Niフェライトが生成していることが確認できた。一方、ケイ酸塩化合物を添加した試料6~13では、Niフェライトのような反応相の存在は確認されなかった。そして、ケイ酸塩化合物を添加した試料6~13は、NiOのみを添加した試料よりも、SRFが高く、かつ、直流重畳特性が良好であった。この結果から、セラミック粒子としてケイ酸塩化合物を用いることで、磁性体の特性を阻害する反応相の発生を抑制でき、直流重畳特性やインピーダンスの周波数特性がより向上することが確認できた。
【0079】
実験2
実験2では、軟磁性金属粒子41の粒径(D50)とセラミック粒子42の粒径(D50)を変更して実験を行い、試料21~32に係る磁性体試料を作製した。また、当該磁性体試料を用いて、実験1と同様にして図1に示す積層インダクタを作製し、試料21~32に係るインダクタ試料を得た。実験2の各試料における軟磁性金属粒子41の粒径およびセラミック粒子42の粒径を、表2に示す。
【0080】
なお、表2に示す各粒子41,42の粒径は、作製したインダクタ試料の断面をSEMにより観察し、画像解析することで算出したメディアン径である。この際、断面観察は 5視野で行い、観測視野中に含まれる各粒子41,42の円相当径を測定することで、各粒子41,42の粒度分布を得た。なお、表2以外の他の表に示す粒径も、上記と同様である。
【0081】
また、実験2の各試料では、軟磁性金属粒41として94.0Fe-6.0Si 合金を用い、セラミック粒子42として2ZnO・SiOを用いた。さらに、実験2の各試料において、セラミック粒子42の含有量は、いずれも、軟磁性金属粒子100重量部に対して、2.0重量部とした。実験2における上記以外の実験条件は、実験1と同様である。実験2の各試料に関する評価結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
(実験2の評価結果)
表2に示すように、軟磁性金属粒子よりも粒径が小さいセラミック粒子を添加した試料21~28,31~32では、セラミック粒子を添加していない試料1に比べて、SRFが高く、かつ、インダクタンスの変化率が小さくなっている。一方、粒径比d/dが1.0である試料29、および、セラミック粒子の粒径が軟磁性金属粒子の粒径より大きい試料30では、直流重畳特性の向上効果やインピーダンスの周波数特性の向上効果がほとんど得られなかった。この結果から、複合磁性体に軟磁性金属粒子よりも粒径が小さいセラミック粒子を添加することで、直流重畳特性が向上し、なおかつ、インピーダンスの周波数特性が向上することが確認できた。
【0084】
また、試料22~28では、SRFが1000MHz以上であり、かつ、インダクタンスの変化率が0%であった。この結果から、セラミック粒子の粒径(D50)は、0.05μm~2.0μmであることが好ましく、0.1μm~0.7μmであることがより好ましいことが確認できた。また、粒径比d/dとしては、0.01~0.67であることが好ましく、0.03~0.25であることがより好ましいことが確認できた。
【0085】
なお、試料31,32の結果から、軟磁性金属粒子の粒径を変更した場合でも、試料22~28と同様に、直流重畳特性の向上効果やインピーダンスの周波数特性の向上効果が得られることが確認できた。また、試料32よりも試料31のほうが、SRFが高い結果となった。この結果から、セラミック粒子を添加したうえで、軟磁性金属粒子の粒径も小さくすることで、インピーダンスの周波数特性をより向上させることができることがわかった。
【0086】
実験3
実験3では、セラミック粒子の含有量の影響を検討するために、セラミック粒子の含有量を変えて磁性体試料を作製し、試料41~58に係るインダクタ試料を作製した。実験3の各試料41~58におけるセラミック粒子の含有量を表3に示す。
【0087】
また、実験3では、直流重畳特性やインピーダンスの周波数特性の測定に加えて、軟磁性金属粒子とセラミック粒子との面積比、および、インダクタンスLの測定を行った。面積比A/Aは、インダクタ試料の断面を5視野観測し、その平均値として算出した。また、インダクタンスLの測定には、インピーダンスアナライザを用い、周波数100MHzでのインダクタンスを測定した。実験3の各試料の評価結果を表3に示す。
【0088】
実験3でも、軟磁性金属粒子として、D50が3.0μmの94.0Fe-6.0Si合金を用い、セラミック粒子としてD50が0.3μmの2ZnO・SiOを用いた。実験3での実験条件は、セラミック粒子の含有量を変更したこと以外は、実験1と同様とした。
【0089】
【表3】
【0090】
(実験3の評価結果)
表3に示すように、セラミック粒子の含有量が、軟磁性金属粒子100重量部に対して0.6重量部以上である場合、もしくは、面積比A/Aが0.072以上である場合に、SRF1000以上となり、直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性が向上することが確認できた。また、セラミック粒子の含有量が増えるほど、SRFが高周波側にシフトし、インピーダンスの周波数特性がより向上することが確認できた。なお、セラミック粒子の含有量が50重量部以上である試料53~57では、SRFが「>3000」となっている。このような表記とした理由は、本実験で使用したインピーダンスアナライザの測定可能範囲が、3000MHzまでであるためである。試料53~57のSRFは、セラミック粒子の含有量が増えるほど高くなっていると考えられる。
【0091】
また、セラミック粒子の含有量が100重量部である試料58では、直流重畳特性およびインピーダンスの周波数特性は向上していると考えられるが、セラミック粒子の含有量が多すぎることで磁性体試料の成形性が悪くなり、素体の形状を正常に保つことができなかった。そのため、磁性体の成形性を考慮すると、セラミック粒子の含有量の上限は、90重量部以下とすることが好ましく、面積比A/Aの上限は、19.257以下とすることが好ましいことがわかった。
【0092】
さらに、表3に示すインダクタンスLの測定結果も考慮すると、セラミック粒子の含有量は、1重量部以上、70重量部以下であることがより好ましく、2重量部以上、60重量部以下であることがさらに好ましいことがわかる。また、面積比A/Aとしては、0.091~6.434であることがより好ましく、0.094~3.670であることがさらに好ましいことがわかる。つまり、セラミック粒子の含有量が上記の範囲内にある場合、必要なインダクタンスLを確保した状態で、良好な直流重畳特性および良好な周波数特性が得られることが確認できた。
【0093】
実験4
実験4では、セラミック粒子の円形度を変えて磁性体試料を作製し、試料61~67に係るインダクタ試料を作製した。セラミック粒子の円形度は、原料粉末の製造時において、仮焼き後の粉砕条件(ボールミルでの粉砕時間、ボール径など)を調整するとともに、粉砕後の粒子に適宜プラズマ処理を施すことにより制御した。なお、セラミック粒子の円形度は、インダクタ試料の断面をSEMにより観察し、画像解析することで算出した。具体的に、断面観察時の倍率は35000倍とし、10μmの断面写真を5視野分撮影した。そして、得られた断面写真を画像解析して、断面写真内に含まれるセラミック粒子の円形度を測定した。実験4の各試料におけるセラミック粒子の円形度を、表4に示す。なお、表4に示す円形度は、平均値である。
【0094】
また、実験4では、作製したインダクタ試料の強度を評価するために、切断試験を実施した。切断試験では、まず、インダクタ試料の素体を、ダイサーを用いて、磁性体層の積層方向と平行な方向(Y軸方向)で切断した。そして、切断した断面を、肉眼および実体顕微鏡で観察し、クラックや欠けの有無を確認した。当該切断試験を、各試料につきそれぞれ1000個実施し、クラックや欠けが発生しなかった良品の割合を算出した。
【0095】
なお、実験4でも、軟磁性金属粒子として、D50が3.0μmの94.0Fe-6.0Si合金を用い、セラミック粒子として、D50が0.3μmの2ZnO・SiOを用い、セラミック粒子の含有量は2重量部とした。実験3における上記以外の実験条件は、実験1と同様とした。実験4における各試料の評価結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
(実験4の評価結果)
表4に示すように、セラミック粒子の円形度が0.98未満である試料62~67では、磁性体試料の比誘電率が100以下となり、インピーダンスの周波数特性が向上する結果となった。特に、セラミック粒子の円形度としては、0.55~0.85であることがより好ましく、0.55~0.70であることがさらに好ましいことが確認できた。
【0098】
また、表4の結果から、セラミック粒子の円形度を低くすることで、切断試験での良品率が高くなり、素体の強度が向上することが確認できた。ただし、セラミック粒子の円形度が0.5である試料67では、切断試験の良品率が反って低下した。この結果から、セラミック粒子の円形度の下限値は、0.55以上とすることが好ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0099】
1 … 積層インダクタ
2 … 素体
4 … 磁性体層
40 … 複合磁性体
41 … 軟磁性金属粒子
42 … セラミック粒子
43 … 結合剤
5 … コイル導体
5a … 内部電極層
5b … 引出電極
3 … 端子電極
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5