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7436969生物材料由来のハードカーボン、負極材料、負極、及びアルカリイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】生物材料由来のハードカーボン、負極材料、負極、及びアルカリイオン電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20240215BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240215BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240215BHJP
【FI】
C01B32/00
H01M4/587
C01B32/05
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019192989
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021066629
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】岳 喜岩
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-308311(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106410155(CN,A)
【文献】特開平07-008936(JP,A)
【文献】特開2006-196234(JP,A)
【文献】特開2013-168241(JP,A)
【文献】特表2015-530236(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105514507(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103904328(CN,A)
【文献】LIU Haolin et al.,ACS Sustainable Chem. Eng.,2019年,7,12188-12199,DOI:10.1021/acssuschemeng.9b01370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵させた植物の炭化物からなる略球形の多孔質ハードカーボン(ただし炭化バイオマス中の細孔のサイズよりも大きい直径を有する酸化鉄ナノ粒子を含む磁性活性炭を除く)からなる負極材料であって、前記植物がニンニク、柿、茶、又は大豆である、負極材料
【請求項2】
前記ハードカーボンは、粒径100nm~10μmの略球形のハードカーボン粒子を含む請求項1に記載の負極材料
【請求項3】
請求項1又は2に記載の負極材料を成形してなる負極。
【請求項4】
請求項に記載の負極を備えたアルカリイオン電池。
【請求項5】
微生物で発酵させた植物を120~220℃で予備炭化すること(酸性条件下で鉄イオンの存在下、180~250℃の間の温度の自発圧力においてバイオマスを含む水溶液を水熱的に処理することを除く)、及び
前記予備炭化した植物を500~1400℃で焼成することを含む、発酵させた植物からの略球形のハードカーボンの製造方法。
【請求項6】
予備炭化する工程の後、前記予備炭化した植物を水酸化カリウムで賦活処理することをさらに含む請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物材料由来のハードカーボン、負極材料、負極、及びアルカリイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム元素は地球上豊富に存在しており、ナトリウムイオン電池は低コスト化が期待できることから、リチウムイオン電池の魅力的な代替品として研究されている。ナトリウムイオン電池の商業的成功を妨げている重要な問題の一つは、適切な負極材料がまだ見つかっていないことにある。ナトリウムイオン電池の負極材料としてグラファイト系の高結晶性炭素材料が使用されているが、グラファイトへのNaの吸蔵は困難で、電気化学活性をほとんど示さない。一方、非結晶質炭素を負極材とした場合に、Na系において電気化学活性を有することが報告されており、特にハードカーボン材料は有力な候補であることが報告されているが、エネルギー密度が低いため、高い性能を得ることが課題になっている。近年、Baiらはハードカーボンへのナトリウムの挿入と貯蔵メカニズムについて研究し(非特許文献1)、ハードカーボン材料の高電位傾斜容量(high-potential sloping capacity)は、材料の構造欠陥サイトまたはヘテロ原子へのNa+イオンの吸着とその後のプラトー領域でのグラフェンシート間のインターカレーションと、プラトー端での細孔表面へのわずかな堆積に関連していることを明らかにした。
【0003】
一方で、Liuらは、ニンニクをナトリウムイオン負極の炭素源として使用し、ニンニクを1300℃で炭化した後、得られた負極が1Ag-1で100mAhg-1の容量を有したこと、またその初期クーロン効率が約50.7%に達したことを報告している(非特許文献2)。
【0004】
Chenらは、前駆体としてスクロースを使用し、500℃で処理して炭素ミクロ球を製造した。この炭素ミクロ球を負極材料として使用した場合に、1Ag-1で50サイクル数後にも83mAhg-1の容量を達成したことを報告している(非特許文献3)。
【0005】
生物材料を用いて、電極の放電容量を増大させることができる負極材を製造できれば有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Advanced Energy Materials, 2018, 1703217
【文献】ACS Sustainable Chemistry&Engineering 2019, 7, 12188-12199
【文献】Journal of Materials Chemistry A, 2014, 2, 1263-1267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電極の放電容量を増大させる負極材料を製造することができるハードカーボン、該ハードカーボンからなる負極材料、該負極材料からなる負極、並びに該負極を備えたアルカリイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、熟成させた生物材料を負極材料を構成する多孔質炭素材料の原料として用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
【0010】
項1.熟成させた生物材料の炭化物からなる略球形の多孔質ハードカーボン。
【0011】
項2.粒径100nm~10μmの略球形のハードカーボン粒子を含む項1に記載のハードカーボン。
【0012】
項3.前記生物材料が植物である項1又は2に記載のハードカーボン。
【0013】
項4.項1~3のいずれかに記載のハードカーボンからなる負極材料。
【0014】
項5.項4に記載の負極材料を成形してなる負極。
【0015】
項6.項5に記載の負極を備えたアルカリイオン電池。
【0016】
項7.熟成させた生物材料を炭化することを含む、熟成させた生物材料からの略球形のハードカーボンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハードカーボンによれば、電極の放電容量を増大させる負極材料を製造することができる。よって、かかる負極材料からなる負極を備えたアルカリイオン電池の放電容量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の負極の製造プロセス。
図2】電池の組み立てを示す略分解斜視図。
図3】(A)GT-C炭素材と(B)GC-C炭素材の走査電子顕微鏡(SEM)写真。
図4】GT-C炭素材とGC-C炭素材のX線回折分析のグラフ。
図5】GT-C炭素材及びGC-C炭素材を用いた場合のサイクル数に対するナトリウムイオン電池の放電容量を示すグラフ。(A)電解質がNaPF6及び(B)電解液がNaOTf。
図6】GT-C炭素材及びGC-C炭素材を用いた場合のサイクル数に対するリチウムイオン電池の放電容量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ハードカーボン)
本発明の一態様のハードカーボンは、熟成させた生物材料の炭化物からなる略球形の多孔質ハードカーボンである。
【0020】
本明細書において、「略球形」とは、ハードカーボンの一つの粒子の粒子径がどこを測定しても同一という数学的に純粋な球形でなくてよく、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に全体形状が球形と認識できれば足りることを指す。
【0021】
本明細書において、「ハードカーボン」とは、難黒鉛化性炭素材料とも言い、グラファイト結晶構造が発達しにくい高分子を焼成して得られる炭素材料であって、非晶質構造を有する炭素材料を指す。ハードカーボンは、炭素を含む材料である生物材料を炭化処理することにより得られる。
【0022】
本明細書において、「熟成」とは、人為的に又は天然を問わず、生物材料の製造又は収穫後に、生物材料の構成成分である有機物が酵素の作用により分解又は変化されるように、一定期間保持する作用を指し、(1)食品自体がもつ酵素作用によるものと、(2)微生物の酵素作用による熟成である発酵とを含む。生物材料は、製造又は収穫直後の生物材料とは風味が異なる程度に十分に熟成させることが好ましい。生物材料を保持する期間は限定されないが、通常、一週間以上である。
【0023】
一実施形態では、「熟成させた生物材料」は、外部から微生物を加えず、食品自体がもつ酵素作用により熟成させた生物材料である。別の実施形態では、「熟成させた生物材料」は、外部から人為的に加えた微生物(酵母、乳酸菌、酢酸菌、納豆菌など)が有する酵素の作用により発酵させた生物材料である。さらに別の実施形態では、「熟成させた生物材料」は、外部から人為的に微生物を加えず、空気中の又は生物材料が有する微生物(酵母、乳酸菌、酢酸菌、納豆菌など)が有する酵素の作用により発酵させた生物材料である。また、「熟成」は腐敗とは区別され、「熟成させた生物材料」は、人を初めとする動物が食べられるものであることが好ましい。そのような熟成させた生物材料は、食品加工の分野における公知の方法により製造してもよいし、市販のものを利用してもよい。一実施形態において、熟成させた生物材料は、熟成前の生物材料に比べて、生物材料における糖類、つまり単糖類及び二糖類の量の質量比が増大しており、熟成前の生物材料の当該質量比に比べて2倍以上、好ましくは5倍以上である。
【0024】
窒素(N)、リン(P)、硫黄(S)、及びホウ素(B)からなる群から選択される少なくとも一つを含有する生物材料は、アルカリイオン電池用の負極材料として使用する点で、ハードカーボンに適した炭素資源である。
【0025】
生物材料は、好ましくは植物である。N、S元素を多く含む好ましい植物の例としては、稲わら. 麦わら、もみ殻、木、草、ニンニク、柿、茶、大豆などが挙げられるが、それらに限定されない。一実施形態において、熟成させた生物材料は、稲わら. 麦わら、もみ殻、木、草ニンニク、柿、茶葉、大豆などを発酵させたバイオマスである。
【0026】
ハードカーボンの製造工程の例を説明する。生物材料を必要に応じて皮をむき、適切な大きさに切断した後、水熱法で予備炭化する。予備炭化の温度は限定されないが、120-220℃が好ましく、150-200℃がより好ましく、160-190℃が最も好ましい。予備炭化の時間は限定されないが、4-48時間が好ましく、12-40時間がより好ましく、20-30時間が最も好ましい。
【0027】
次に、生物材料を予備炭化した後、粉砕して、予備炭化材を必要に応じて賦活処理する。賦活処理はガス賦活や薬品賦活であってよい。ガス賦活法は、高温下で水蒸気、炭酸ガス、酸素などと接触反応させることにより活性炭を得る方法である。
【0028】
薬品賦活法は、加熱炭化処理後の原料に公知の賦活薬品を含浸させ、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で加熱することにより、賦活薬品の脱水および酸化反応を生じさせて活性炭を得る方法である。賦活薬品としては、例えば、塩化亜鉛、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0029】
次に、賦活処理した炭化材を焼成する。焼成温度は限定されないが、500-1400℃が好ましく、650-900℃がより好ましく、700-850℃が最も好ましい。焼成時間は、0.5-6時間が好ましく、1-4時間がより好ましく、2-3時間が最も好ましい。得られた材料を酸溶液で徹底的に洗浄して不純物を除去し、続いて中性pHに達するまで蒸留水で洗浄する。酸溶液中の酸は強酸であることが好ましく、塩酸であることがより好ましい。最後に、材料を無水エタノールで洗浄し、100℃で乾燥させる。ここで、ハードカーボンが得られる。
【0030】
ハードカーボンは、粒径100nm~10μmの略球形のハードカーボン粒子を含むことが好ましい。一実施形態では、ハードカーボンは、各粒子が粒径1000nm~9μmである複数の略球形のハードカーボン粒子を含む。別の実施形態では、ハードカーボンは、平均粒径3000nm~8μmの複数の略球形のハードカーボン粒子を含む。平均粒径とは、SEMにて測定した20個のハードカーボン粒子の直径の平均値を指す。別の実施形態では、ハードカーボンは、各粒子が粒径1μm~10μmである複数の略球形のハードカーボン粒子からなる部分と、それとは別のハードカーボンが集積した部分であって、かかるハードカーボンの積み重ねにより複数の細孔が形成された部分とを有する。また別の実施形態では、ハードカーボンは、平均粒径1μm~10μmである複数の略球形のハードカーボン粒子からなる部分と、それとは別のハードカーボンが集積した部分であって、かかるハードカーボンの積み重ねにより複数の細孔が形成された部分とを有する。さらに別の実施形態では、ハードカーボンは、各粒子が粒径4μm~7μmである複数の略球形のハードカーボン粒子からなる部分と、それとは別のハードカーボンが集積した部分であって、かかるハードカーボンの積み重ねにより複数の細孔が形成された部分とを有する。また別の実施形態では、ハードカーボンは、平均粒径5μm~6μmである複数の略球形のハードカーボン粒子からなる部分と、それとは別のハードカーボンが集積した部分であって、かかるハードカーボンの積み重ねにより複数の細孔が形成された部分とを有する。
【0031】
また、上記複数の略球形のハードカーボン粒子は、観察されるハードカーボン全体に対し、観察表面占有比率50%を超えることが好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましい。
【0032】
(負極材料)
本発明の一態様の負極材料は、上記ハードカーボンからなる。一実施形態では、負極材料は、上記ハードカーボンのみから形成される。別の実施形態では、負極材料は、上記ハードカーボンと、該ハードカーボンとは異なる添加剤とを含む組成物から形成される。添加剤としては、バインダー、導電剤などが挙げられる。バインダーは、複数のモノマー構成単位が重合した重合体であることが好ましい。例えば、以下のバインダーの1つまたは複数であることがであることができる:水系バインダー、例えば、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose、CMC)、ポリアクリル酸(polyacrylicacid、PAA)、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadienerubber、SBR)など、溶剤系バインダー、例えば、PEO(ポリ(エチレンオキシド))や、PVDF(ポリ(フッ化ビニリデン))など。導電剤としては、カーボンブラックや、アセチレンブラック(acetyleneblack)、ケッチェンブラック(Ketjenblack)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0033】
(負極)
本発明の一態様の負極すなわちアノードは、上記負極材料を成形してなる。
【0034】
負極材料を、その用途に応じて、シート状(板状)、円筒状などの任意の形状に成形し、負極を作製する。負極材料がシート状である場合、シートの輪郭を円形、楕円形、矩形などの任意の形にすることができる。
【0035】
例えば、上述のハードカーボン、バインダー、導電剤などを溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させ、得られたスラリーをフィルムアプリケーターを使用して集電体(例えばCu箔)に塗布し、乾燥することにより、集電体上にフィルム又はシート状の負極を構成することができる。
【0036】
(アルカリイオン電池)
本発明の一態様のアルカリイオン電池は、上記負極、正極すなわちカソード、セパレータ、及び電解質又は電解液を備える。アルカリイオン電池は、ナトリウムイオン電池であることもできるし、リチウムイオン電池であることもできる。
【0037】
負極は、例えば負極活物質、導電補助材としての導電剤、及びバインダーを含む組成物である負極材料を集電体に積層することにより製造される。本発明のハードカーボンは負極活物質として機能するため、かかるハードカーボンを負極材料に使用することができる。
【0038】
正極は、例えば正極活物質、導電補助材としての導電剤、及びバインダーを含む組成物である正極材料を集電体に積層することにより製造される。
【0039】
正極活物質として、ナトリウムイオン電池では、Co、Mn、Cr、V、Ti及びFeからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素を含有するナトリウム-遷移金属複合酸化物等を使用することができる。正極活物質の例として、下記の1つまたは複数が挙げられるがこれらに限定されない:LiFePO4,LiCoO2、LiNixMnyCo O2(0.3≦x≦0.95,0.025≦y≦0.4,0.025≦z≦0.4) 、LiNi1-y-zCoyAlzO2(0.05≦y≦0.15,0<z≦0.05)、LiMn2O4、 LiMPO4(M=Co,Ni)、Li2FePO4F、V2O5、 LiXV3O8(1.5<x≦5.5) 、Li1-XVOPO4(0.5≦x≦0.92) 、LiFeMO4(M=Mn,Si) 、Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3
【0040】
正極活物質として、リチウム電池では、Co、Ni, 及びMnからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素を含有するリチウムと繊維金属との複合酸化物又はLiFePO4を初めとするリン酸鉄などを使用することができる。
【0041】
負極及び正極の導電剤として、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノ粒子、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の導電剤を使用することができる。
【0042】
負極及び正極のバインダーとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-アクリル酸共重合体からなる群から選択される1種以上のバインダーを使用することができる。
【0043】
セパレータは、電池用の公知のセパレータ材料を用いて製造することもできるし、市販品を利用することもできる。セパレータ材料の例としては、下記の1つまたは複数が挙げられるがこれらに限定されない:グラスファイバー(GF、glassfiber)、ポリオレフィン(polyolefin)、(例えばポリプロピレン(PP、polypropylene)、ポリエチレン(PE、polyethylene)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA、polyamide)(例えばポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)(PMIA、poly(m-phenyleneisophthalamide))、ポリイミド(PI、polyimide)、ポリベンゾオキサゾール(PBO、polybenzoxazole)、セルロース、またはそれらの複合材料。
【0044】
電解質は、アルカリイオン電池用の公知の電解質であってよく、下記の1つまたは複数が挙げられるがこれらに限定されない:固体電解質、ゲル状電解質、液体電解質、及び極性溶媒に溶解したリチウム塩(またはナトリウム塩など)(例えば炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC)に添加したLiPF6またはNaPF6など)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DGDE、diethyleneglycoldimethylether)に溶解したトリフルオロメチルスルホン酸ナトリウム(NaOTf、Sodiumtrifluoromethylsulfonate)、1,3-ジオキソラン(DOL,1,3-dioxolane))および1,2-ジメトキシエタン(DME、1,2-Dimethoxyethane)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)(つまり、LiTFSIinDOL:DME)など。
【0045】
(ハードカーボン、負極及び電池の製造方法)
図1に、本発明の一実施形態のハードカーボン(14)及び負極(18)の製造プロセスの略図を示す。
【0046】
原料バイオマス(10)としては、上記に生物材料の例として挙げたものを使用することができる。好ましいバイオマスの例は、植物であり、より好ましくはN、S元素を多く含むニンニク、柿、茶、大豆などの植物である。
【0047】
上記バイオマスを熟成したもの(12)を準備する。熟成したバイオマス(12)には多くの糖分が含まれ、熟成前のバイオマス(10)と比較して炭化物に変え易い。熟成したバイオマス(12)を炭化させて、ハードカーボン(14)を得る。炭化させる材料として、熟成したバイオマス(12)に原料バイオマス(10)を加えてもよいし、加えなくてもよい。得られたハードカーボン(14)の詳細については、(ハードカーボン)の節で説明した通りである。
【0048】
炭化物を、賦活のために酸又はアルカリでさらに処理してもよい。また、炭化させる工程後に得られる炭化物の上に、金属硫化物や酸化物などをドーピングした場合、電気化学特性をさらに向上させることができる。
【0049】
得られたハードカーボン(14)をそのまま負極材料として用いてもよいし、添加剤(16)を添加して負極材料としてもよい。
【0050】
添加剤(16)としては、上述したように、バインダー、導電剤などが挙げられる。負極材料を、その用途に応じて球状、シート状(板状)などの任意の形状とし、シート状にしたときは、輪郭を円形、楕円形、矩形などに成形し、負極(18)を作製する。
【0051】
図2に、図1の負極(18)を用いたアルカリイオン電池の組み立てを示す。
【0052】
負極(18)、正極(20)、セパレーター(22)、電解質(24)の詳細は、(アルカリイオン電池)の節で説明した通りである。
【0053】
セパレーター(22)を電解質(24)で湿らせ、負極(18)、正極(20)、及びこれらの間のセパレーター(22)を組み立てることにより、アルカリイオン電池を構成する。負極、正極、セパレータ、及び電解質を備えた電池の組み立て方法は、当該技術分野において周知である。
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0055】
試薬、機器及び実験条件
NaOTf、NaPF6、およびdiethylene glycol dimethyl ether (DGDE)は、日本のSigma-Aldrich Corp.から購入した。カーボンブラック(Super-P)は、Alfa Aesar Co.、Ltd. Englandから入手した。ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)バインダーは、日本のMTI Corp.から購入した。1M ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)の1,3-ジオキソラン(DOL)溶液:ジメトキシエタン(DME)(1:1vol.%)(60μl)は、中国XiamenTob New Energy Technology Co.、Ltd.から購入した。バッテリーテストシステムは、LANDバッテリーテストシステムCT2001A(武漢ランドエレクトロニクス株式会社製)とした。フィルムアプリケーターはBEVS Industrial Co.、Ltd. Japan製である。グローブボックス(日本、美和製作所)は、H2OおよびO2量が0.1 ppmレベル以下のArガス環境とした。
【0056】
実施例1 負極材料の調製
まず、微生物熟成されたニンニク(青森県産黒にんにく」)を地元の市場(青森、日本)から購入し、皮をむき、小片にカットし、次に水熱法で180℃、24時間ニンニクを予備炭化した。その後、粉砕して、予備炭化した材料:KOHを1:2重量%比で均一に混合した後、アルゴン雰囲気下で800℃で2時間焼成した。得られた材料を1.0M HClで徹底的に洗浄して不純物を除去し、続いて中性pHに達するまで蒸留水で洗浄した。最後に、材料を無水エタノールで洗浄し、100℃で乾燥させた。ここで、得られた炭素材料をGT-C炭素材と称する。
【0057】
なお、GT-C炭素材の形態は、走査電子顕微鏡(SEM、Hitachi SU8010)によって特性評価した。その結晶構造は、10-90°の2θ範囲でCu-Kα(λ= 1.5405Å)放射源を使用したX線回折装置(XRD、RigakuSmart Lab X線回折計)により決定した。
【0058】
次に、GT-C炭素材、カーボンブラック(Super-P)、およびポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)バインダー(重量比80:10:10)をN-メチル-2-ピロリドン溶媒に完全に分散させ、得られたスラリーをフィルムアプリケーターを使用してCu箔に塗布し、100℃で24時間乾燥させ、GT-C負極の膜を生成した。
【0059】
実施例2 GT-C炭素材を負極に用いたNa-Cハーフセルの組立と電気化学的測定
GT-C 負極(直径12mm)、液体電解質で湿らせたガラス繊維セパレーター(直径16mm)、およびNa金属 正極 (直径12mm)からなるハーフセルを組立てた。このとき、1M NaPF6 のDGDE溶液 (60μl)を液体電解質として使用した。カットオフ電圧範囲0-3Vの下、30℃でLANDバッテリーテストシステムでハーフセルの電気化学的性能をテストした。
【0060】
実施例3 GT-C炭素材を負極に用いたLi-Cハーフセルの組立と電気化学的測定
GT-C負極(直径12mm)、液体電解質で湿らせたガラス繊維セパレーター(直径16mm)、およびLi金属 正極(直径12mm)からなるハーフセルを組立てた。このとき、1M LiTFSIの DOL溶液:DME(1:1vol.%)(60μl)を液体電解質として使用した。実施例2と同様、カットオフ電圧範囲0-3Vの下、30℃でLANDバッテリーテストシステムで電気化学的性能をテストした。
【0061】
比較例1 負極材料の調製
まず、普通のニンニクを地元の市場(青森、日本)から購入した。実施例1と同様、皮をむき、小片にカットし、次に水熱法で180℃、24時間ニンニクを予備炭化した。その後、粉砕して、予備炭化した材料:KOHを1:2重量%比で均一に混合した後、アルゴン雰囲気下で800℃で2時間焼成した。得られた材料を1.0M HClで徹底的に洗浄して不純物を除去し、続いて中性pHに達するまで蒸留水で洗浄した。最後に、材料を無水エタノールで洗浄し、100℃で乾燥させた。ここで、得られた炭素材料をGC-C炭素材と称する。
【0062】
なお、GC-C炭素材の形態は、走査電子顕微鏡(SEM、Hitachi SU8010)によって特性評価した。その結晶構造は、10-90°の2θ範囲でCu-Kα(λ= 1.5405Å)放射源を使用したX線回折装置(XRD、RigakuSmart Lab X線回折計)により決定した。
【0063】
次に、GC-C炭素材、カーボンブラック(Super-P)、およびポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)バインダー(重量比80:10:10)をN-メチル-2-ピロリドン溶媒に完全に分散させ、得られたスラリーをフィルムアプリケーターを使用してCu箔に塗布し、100℃で24時間乾燥させ、GC-C負極の膜を生成した。
【0064】
比較例2 GC-C炭素材を負極に用いたNa-Cハーフセルの組立と電気化学的測定
GC-C負極(直径12mm)、液体電解質で湿らせたガラス繊維セパレーター(直径16mm)、およびNa金属正極(直径12mm)からなるハーフセルを組立てた。このとき、1M NaPF6 のDGDE溶液 (60μl)を液体電解質として使用した。カットオフ電圧範囲0-3Vの下、30℃でLANDバッテリーテストシステムで電気化学的性能をテストした。
【0065】
比較例3 GC-C炭素材を負極に用いたLi-Cハーフセルの組立と電気化学的測定
GC-C負極、液体電解質で湿らせたガラス繊維セパレーター(直径16mm)、およびLi金属 正極(直径12mm)からなるハーフセルを組立てた。このとき、1M LiTFSIのDOL溶液: DME (1:1vol.%)(60μl)を液体電解質として使用した。比較例2と同様、カットオフ電圧範囲0-3Vの下、30℃でLANDバッテリーテストシステムで電気化学的性能をテストした。
【0066】
結果
図3に示すように、GT-C炭素材(図3A)とGC-C炭素材(図3B)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、異なる形態を示した。GT-C炭素材の場合、多くの炭素球が観察された。
【0067】
図4はGT-C炭素材とGC-C炭素材のX線回折分析結果を示す。すべてのXRDプロファイルには、グラファイトの(002)および(100)の結晶面に対応する約24°及び43°を中心とする2つの広いピークが明らかに存在する。特にGT-C材料は、より幅広でより低い強度のピークを示し、アモルファスハードカーボンの生成量がGC-C材料よりも多く、黒鉛化カーボンの含有量より少ないことが示唆された。また、(002)ピークはGT-C炭素材ではGC-C炭素材よりもより高い回折角にシフトし、材料の構造秩序の改善を示唆した。
【0068】
図5は、GT-C炭素材及びGC-C炭素材を用いた場合のサイクル数に対するナトリウムイオン電池の放電容量を示すグラフである。GC-C負極と比較すると、NaPF6電解質を備えたGT-C負極|Na金属セルは、より高い放電容量(高電流密度1Ag-1で100サイクル数後、115.3mAhg-1)と初期クーロン効率の顕著な改善を示し、約55.42%に達した(図5A)。また、別にNaOTfタイプの電解液を使用した場合も放電容量が改善された(図5B)。
【0069】
図3の結果と図5の電気化学測定結果によれば、熟成したニンニク由来のGT-C負極の放電容量の増加は、炭素球の適切な表面積と二次粒子の積み重ねにより形成された細孔の均一な分布とを備えたユニークな構造に少なくとも一部起因すると考えられ、GT-C炭素材からなる負極は、アルカリイオン電池により適している。 図6に示すように、GC-C負極を用いた場合と比較すると、市販の液体電解質を備えたGT-C負極|Li金属セルは、より高い放電容量を示した(0.8mAcm-2で200サイクル数後、157.9mAhg-1が)。したがって、豊富な硬質炭素球と細孔を有するGT-C炭素材からなる負極は、リチウムイオン電池にもより適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6