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特許7436972バイオフィルムの形成能評価方法、バイオフィルムの形成能評価装置及びバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】バイオフィルムの形成能評価方法、バイオフィルムの形成能評価装置及びバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240215BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021020261
(22)【出願日】2021-02-10
(65)【公開番号】P2022122790
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2023-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】515030956
【氏名又は名称】有限会社佐野商会
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】川島 季晋
(72)【発明者】
【氏名】塚谷 忠之
(72)【発明者】
【氏名】佐野 善則
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0166753(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111394222(CN,A)
【文献】TSUKATANI, Tadayuki et al.,A rapid and simple measurement method for biofilm formation inhibitory activity using 96-pin microtiter plate lids,World J. Microbiol. Biotechnol.,2020年,Vol. 36; 189,pp. 1-9
【文献】TSUKATANI, Tadayuki et al.,Biofilm Eradication Activity of Herb and Spice Extracts Alone and in Combination Against Oral and Food-Borne Pathogenic Bacteria,Curr. Microbiol.,2020年,Vol. 77,pp. 2486-2495
【文献】TSUKATANI, Tadayuki et al.,RAPID AND SIMPLE DETERMINATION OF MINIMUM BIOFILM ERADICATION CONCENTRATION BY A COLORIMETRIC MICROBIAL VIABILITY ASSAY BASED ON REDUCTION OF A WATER-TETRAZOLIUM SALT AND COMBINATED EFFECT OF ANTIBIOTICS AGAINST MICROBIAL BIOFILM,J. Microbiol. Biotech. Food Sci.,2016年,Vol. 6,pp. 677-680
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルを有するマルチウェルプレートに対して位置決めされた状態で各ウェルの開口を覆蓋する、弾性を有する高分子材料からなる蓋部材であって、
前記ウェルの各々を覆蓋する部分の面上に、該ウェルの内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を、直交又は略直交する状態で該ウェル内に収容される液体に接触可能に固定する固定手段を有し、
前記固定手段が、先端が所定の間隔で平行に位置するように前記蓋部材と一体に形成され、前記試験片を挟持可能なように、前記高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の挟持片である、バイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材。
【請求項2】
前記一対の挟持片の間隔が、先端側に向かって狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項に記載のバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材。
【請求項3】
前記ウェルの開口の縁の全周と接触し、前記マルチウェルプレートの各ウェルを密封するための密封手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載のバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材。
【請求項4】
前記マルチウェルプレートの嵌合蓋として構成されていることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材。
【請求項5】
周囲に、前記蓋部材に形成された挟持片側と同方向に延びるサイドスカートを有し、該蓋部材を前記マルチウェルプレートに嵌合させた状態で、前記サイドスカートの下端が前記ウェルの底面よりも所定の距離だけ上方に位置するよう構成されていることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材。
【請求項6】
1又は複数の上側に開口を有する液体収容部を備える液体収容器と、
前記液体収容器に対して位置決めされた状態で該液体収容部の開口を覆蓋する、弾性を有する高分子材料からなる蓋部材とを有し、
前記蓋部材の該液体収容器の前記開口の各々を覆蓋する部分の面上に、前記液体収容部の内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を、その表面が前記液体収容器内に収容された液体の液面と直交又は略直交する状態で液体に接触可能に固定する固定手段を有し、
前記固定手段が、先端が所定の間隔で平行に位置するように前記蓋部材と一体に形成され、前記試験片を挟持可能なように、前記高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の挟持片であることを特徴とするバイオフィルムの形成能評価装置。
【請求項7】
前記液体収容器がマルチウェルプレートであることを特徴とする請求項記載のバイオフィルムの形成能評価装置。
【請求項8】
前記一対の挟持片の間隔が、先端側に向かって狭くなるように形成されていることを特徴とする請求項6または7に記載のバイオフィルム形成能評価装置。
【請求項9】
前記蓋部材が、前記開口の縁の全周と接触し、前記液体収容部を密封するための密封手段を有することを特徴とする請求項から8のいずれか1項に記載のバイオフィルム形成能評価装置。
【請求項10】
前記蓋部材が、前記液体収容器の嵌合蓋として構成されていることを特徴とする請求項から9のいずれか1項に記載のバイオフィルム形成能評価装置。
【請求項11】
前記蓋部材の周囲に、前記蓋部材に形成された挟持片と同方向に延びるサイドスカートを有し、該蓋部材を前記液体収容器に嵌合させた状態で、前記サイドスカートの下端が前記液体収容部の底面よりも所定の距離だけ上方に位置するよう構成されていることを特徴とする請求項から10のいずれか1項に記載のバイオフィルム形成能評価装置。
【請求項12】
バイオフィルム形成能を有する微生物を含む液体を用意する工程と、
1又は複数の上側に開口を有する液体収容部を備える液体収容器に前記液体を収容する工程と、
前記液体収容部の内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を用意する工程と、
前記液体収容器に対して位置決めされた状態で該液体収容部の開口を覆蓋する、弾性を有する高分子材料からなる蓋部材であり、前記液体収容器の前記開口の各々を覆蓋する部分の面上に、先端が所定の間隔で平行に位置するように前記蓋部材と一体に形成され、前記試験片を挟持可能なように、前記高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の挟持片である固定手段が設けられた前記蓋部材に、前記試験片を固定する工程であり、前記蓋部材の前記一対の挟持片に前記試験片を挟み込ませて該試験片を固定する工程と、
前記試験片を固定した前記蓋部材で、前記液体を収容した前記液体収容器の前記開口を覆蓋し、前記試験片の表面が前記液体の液面と直交又は略直交する状態で、前記液体収容器に収容した前記液体に前記試験片を接触させ、該試験片の表面上にバイオフィルムを形成させる工程と、
前記バイオフィルムの形成能を評価する工程とを有するバイオフィルムの形成能評価方法。
【請求項13】
前記液体収容器が複数の液体収容部を有し、複数の試験片について同時にバイオフィルムの形成能の評価を行うことを特徴とする請求項12記載のバイオフィルムの形成能評価方法。
【請求項14】
前記液体収容器がマルチウェルプレートであることを特徴とする請求項12または13記載のバイオフィルムの形成能評価方法。
【請求項15】
前記バイオフィルムの形成能を評価する工程において、前記試験片の表面上に形成されたバイオフィルムを色素で染色し、該色素量を比色定量することを特徴とする請求項12から14のいずれか1項記載のバイオフィルムの形成能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なバイオフィルムの形成能評価方法、バイオフィルムの形成能評価装置及びバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムとは、固体や液体の表面に付着した微生物が形成する生物膜をいい、微生物が産生するムコ多糖等の細胞外多糖(EPS)の被膜の内部に、微生物のコロニーが形成された構造を有している。EPSは、環境変化や化学物質から内部の微生物を保護すると共に、物質の運搬経路としても機能する。このようなEPSの作用により、生息密度の高いコロニーが形成され、動的平衡が維持される。
【0003】
バイオフィルムは、「土台」となる固体又は液体(気液界面等)と水が存在するあらゆる場所に存在可能であり、自然界における物質転換、浄化作用等にも関与していると考えられており、作物と根粒菌の共生等を通して、農業分野への応用も検討されている。一方、バイオフィルムは、台所や排水溝等のぬめり、水処理施設におけるろ過膜の目詰まり、カテーテル等の医療器具の汚染、う歯や歯周病等の原因でもあるため、水処理、住宅設備、歯科材料、口腔ケア、サニタリー等の幅広い分野において、バイオフィルムの形成を抑制するための素材、表面処理技術等に関する研究開発が行われている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。
【0004】
バイオフィルムの形成を促進、抑制する技術の開発のいずれにおいても、バイオフィルムの形成能の評価が重要な役割を果たしており、種々の評価方法が提案されている。特許文献2には、バイオフィルム形成基材を有する通水カラムに原水又は逆浸透膜濃縮水を通水し、定期的にバイオフィルム形成基材を通水カラムから取り出して、基材上のバイオフィルム量をATP(アデノシン三リン酸)量に基づいて評価する方法が記載されている。但し、これらの方法においては、バイオフィルム形成能を的確に評価するためには、大量の水を必要とすると共に、ATPの抽出操作やその分析装置を必要とするため、煩雑な操作や大がかりな装置を必要とするという問題があり、特に、複数の物質(基材)について並列的に評価を行うことが困難である。
【0005】
実験室スケールで、複数の物質について並列的にバイオフィルム形成能の評価を行うために、例えば、マルチウェルプレートの各ウェルに菌体懸濁液を入れ、ウェルの底面に試験片を載置し、或いはウェルに立てかけた状態でインキュベーションを行い、試験片の表面にバイオフィルムを形成させる方法が用いられている。しかしながら、この方法では、菌体懸濁液内での試験片の位置が安定せず、更に、例えば、比重の小さな材料からなる試験片や、撥水性表面を有する試験片の場合、菌体懸濁液内で浮いてしまうおそれがある。これらの要因により、ウェル内で試験片を固定しない従来の方法には、再現性よく試験片の表面にバイオフィルムを形成することが困難であると共に、バイオフィルムが形成された試験片の洗浄、染色を行う際に、個々の試験片をピンセットでつまみ上げる等の煩雑な操作を必要となることに加え、操作中にバイオフィルムが剥離するおそれがある等の課題があった。
【0006】
非特許文献2には、菌体懸濁液を入れたマルチウェルプレートの各ウェルに、液面と略平行となるように円板状に成形し、背面側に高さ調節用の軸を設けた試験片を、蓋部に設けられた穴から軸が突出した状態で装入し、プレートを振盪しながらインキュベーションを行い、バイオフィルムの形成能を評価する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-13458号公報
【文献】国際公開第2008/038575号
【非特許文献】
【0008】
【文献】寺田 昭彦他著、「水・排水処理分野におけるバイオフィルムの形成を抑制する材料の進展」、Journal of Environmental Biotechnology(環境バイオテクノロジー学会誌)、第14巻、第2号、p. 131-137(2015年)
【文献】小田 忍、「界面バイオプロセスによる医薬関連物質の探索と生産」、2018年新技術説明会説明資料、15ページ、(URL:https://shingi.jst.go.jp/var/rev0/0000/7029/2018_kanazawa-it_3.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献2に記載の方法では、円板状の形状を有し、高さ調整用の軸を有するという複雑な形状を有する試験片の調製が煩雑であると共に、ウェル内での試験片の高さの調整が困難であるという課題があった。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、複雑な装置、大量の試料水及び煩雑な操作を必要とせず、複数の材料(試験片、コーティング剤等)について並列的に高精度でバイオフィルムの形成能を評価する方法、同方法の実施に好適に用いることができるバイオフィルムの形成能評価装置及び上記の評価方法及び評価装置に好適に用いることができるバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、バイオフィルム形成能を有する微生物を含む液体を用意する工程と、1又は複数の上側に開口を有する液体収容部を備える液体収容器に前記液体を収容する工程と、前記液体収容部の内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を用意する工程と、前記液体収容器に対して位置決めされた状態で該液体収容部の開口を覆蓋する蓋部材の該液体収容器の前記開口の各々を覆蓋する部分の面上に設けられた固定手段を介して前記試験片を固定する工程と、前記試験片を固定した前記蓋部材で、前記液体を収容した前記液体収容器の前記開口を覆蓋し、前記試験片の表面が前記液体の液面と直交又は略直交する状態で、前記液体収容器に収容した前記液体に前記試験片を接触させ、該試験片の表面上にバイオフィルムを形成させる工程と、前記バイオフィルムの形成能を評価する工程とを有するバイオフィルムの形成能評価方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0012】
本発明の第1の態様に係るバイオフィルムの形成能評価方法において、前記液体収容器が複数の液体収容部を有し、複数の試験片について同時にバイオフィルムの形成能の評価を行うことが好ましい。
【0013】
本発明の第1の態様に係るバイオフィルムの形成能評価方法において、前記液体収容器がマルチウェルプレートであってもよい。
【0014】
本発明の第1の態様に係るバイオフィルムの形成能評価方法において、前記バイオフィルムの形成能を評価する工程において、前記試験片の表面上に形成されたバイオフィルムを色素で染色し、該色素量を比色定量してもよい。
【0015】
本発明の第2の態様は、1又は複数の上側に開口を有する液体収容部を備える液体収容器と、前記液体収容器に対して位置決めされた状態で該液体収容部の開口を覆蓋する蓋部材とを有し、前記蓋部材の該液体収容器の前記開口の各々を覆蓋する部分の面上に、前記液体収容部の内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を、その表面が前記液体収容器内に収容された液体の液面と直交又は略直交する状態で液体に接触可能に固定する固定手段を有するバイオフィルムの形成能評価装置を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第2の態様に係るバイオフィルムの形成能評価装置において、前記液体収容器がマルチウェルプレートであってもよい。
【0017】
本発明の第2の態様に係るバイオフィルムの形成能評価装置において、前記蓋部材が、弾性を有する高分子材料からなり、前記固定手段が、先端が所定の間隔で平行に位置するように前記蓋部材と一体に形成され、前記試験片を挟持可能なように、該高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の挟持片であることが好ましい。
【0018】
上記の場合において、前記一対の挟持片の間隔が、先端側に向かって狭くなるように形成されていることがなお好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様に係るバイオフィルムの形成能評価装置において、前記蓋部材が、前記開口の縁の全周と接触し、前記液体収容部を密封するための密封手段を有することが好ましい。
【0020】
本発明の第2の態様に係るバイオフィルムの形成能評価装置において、前記蓋部材が、前記液体収容器の嵌合蓋として構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明の第2の態様に係るバイオフィルムの形成能評価装置において、前記蓋部材の周囲に、前記蓋部材に形成された挟持片側と同方向に延びるサイドスカートを有し、該蓋部材を前記液体収容器に嵌合させた状態で、前記サイドスカートの下端が前記液体収容部の底面よりも所定の距離だけ上方に位置するよう構成されていることが好ましい。
【0022】
本発明の第3の態様は、複数のウェルを有するマルチウェルプレートに対して位置決めされた状態で各ウェルの開口を覆蓋する蓋部材であって、前記ウェルの各々に対向する面上に、該ウェルの内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を、直交又は略直交する状態で該ウェル内に収容される液体に接触可能に固定する固定手段を有するバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0023】
本発明の第3の態様に係るバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材において、前記蓋部材が、弾性を有する高分子材料からなり、前記固定手段が、先端が所定の間隔で平行に位置するように前記蓋部材と一体に形成され、前記試験片を挟持可能なように、該高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の挟持片であることが好ましい。
【0024】
上記の場合において、前記一対の挟持片の間隔が、先端側に向かって狭くなるように形成されていることがなお好ましい。
【0025】
本発明の第3の態様に係るバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材において、前記蓋部材が、前記開口の縁の全周と接触し、前記液体収容部を密封するための密封手段を有することが好ましい。
【0026】
本発明の第3の態様に係るバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材において、前記蓋部材が、前記液体収容器の嵌合蓋として構成されていることが好ましい。
【0027】
本発明の第3の態様に係るバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材において、周囲に、前記蓋部材に形成された挟持片側と同方向に延びるサイドスカートを有し、該蓋部材を前記マルチウェルプレートに嵌合させた状態で、前記サイドスカートの下端が前記ウェルの底面よりも所定の距離だけ上方に位置するよう構成されていることが好ましい。
【0028】
本発明において、「覆蓋する」とは、覆い塞ぐことを意味し、「挟持する」とは、板状の試験片を両面側から挟み込んだ状態で保持することを意味し、「付勢する」とは、挟持片を構成する材料の有する弾性により、挟持片の間に挟み込まれた試験片により挟持片を互いに押し広げようとする力に抗して、挟持片の先端部の間隔を狭める方向に弾性力が作用することを意味する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のバイオフィルム形成能評価方法において、試験片を蓋部材に固定した状態で、その表面が液体の液面と直交又は略直交する状態で液体収容部に収容された液体に接触させることにより、液体収容部内の試験片の位置を一定に保つことができるため、再現性よくバイオフィルムを形成させることができ、バイオフィルムの形成能を高精度で評価することができる。また、複数の液体収容部を備えた液体収容器と、液体収容部の開口の各々に対向する面上に、試験片を固定するための固定手段を有する蓋部材とを組み合わせて用いることにより、複数の試験片について並列的にバイオフィルムの形成能を評価することができると共に、バイオフィルム形成後の試験片の洗浄等の処理を簡便な操作で一度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るバイオフィルムの形成能評価方法の各工程を示すフローチャートである。
図2】本発明の第2の実施の形態に係るバイオフィルムの形成能評価装置の概略図である。
図3】本発明の第3の実施の形態に係るマルチウェルプレート用蓋部材の概略図である。
図4】同蓋部材の挟持片の部分拡大図である。
図5】マルチウェルプレートと蓋部材の嵌合構造を示す部分拡大図である。
図6】ウェル内に収容された試験片の挟持片による固定状態を示す模式図である。
図7】実施例1の結果を示すグラフである。
図8】実施例2の結果を示すグラフである。
図9】実施例2における、染色後の試験片の状態を示す写真である。
図10】実施例3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。本発明の第1の実施の形態に係るバイオフィルムの形成能評価方法(以下、単に「バイオフィルムの形成能評価方法」、「評価方法」等と略称する場合がある。)は、図1に示すように、(1)菌体懸濁液(バイオフィルム形成能を有する微生物を含む液体)を用意する工程(「菌体懸濁液調製」)と、(2)1又は複数の上側に開口を有する液体収容部を備える液体収容器に菌体懸濁液を播種(収容)する工程(「菌体懸濁液播種」)と、(3)液体収容部の内部に収容可能な大きさおよび形状を有する1又は複数の板状の試験片を用意する工程(図示しない)と、(4)液体収容器に対して位置決めされた状態で液体収容部の開口を覆蓋する蓋部材の液体収容器の開口の各々を覆蓋する部分の面上に設けられた固定手段に試験片を取り付ける(固定する)工程(「試験片取付」)と、(5)試験片を固定した蓋部材で、液体を収容した液体収容器の開口を覆蓋し、試験片の表面が液体の液面と直交又は略直交する状態で、液体収容器に収容した菌体懸濁液に試験片を浸漬し(接触させ)(「試験片浸漬」)、所定条件下で培養し、試験片の表面上にバイオフィルムを形成させる工程(「培養」)と、(6)例えば、試験片を洗浄後、染色液に浸漬してバイオフィルムを染色し、洗浄してバイオフィルムに吸着しない色素を除去後、バイオフィルムに吸着された色素を抽出し、色素抽出液の比色定量(吸光度の測定)によりバイオフィルムの形成能を評価する工程(「洗浄」、「染色」、「洗浄」、「抽出」、「測定」)とを有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0032】
(1)菌体懸濁液の調製
まず、バイオフィルム形成能を有する微生物を含む液体の一例である菌体懸濁液を調製する。菌体の分散媒である液体は、例えば、水又は水溶液であり、自然環境又は生活環境から採取した環境水、排水等であってもよく、培養した微生物を分散させた培養液(液体培地)であってもよい。単位体積あたりの微生物数に特に制限はなく、必要に応じて任意の分散媒で適宜希釈したものを菌体懸濁液として用いることができる。
【0033】
微生物の種類は、バイオフィルム形成能を有する限りにおいて特に限定されないが、例えば、緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌等であり、具体例としては、コリネバクテリウム・ゼローシス:Corynebacterium xerosis、ラクトバチルス・ブレビス(乳酸桿菌):Lactobacillus brevis、黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus、表皮ブドウ球菌:Staphylococcus epidermidis、ストレプトコッカス・ミュータンス(う蝕菌):Streptococcus mutans、ストレプトコッカス・オーラリス(口腔常在菌):Streptococcus oralis、ストレプトコッカス・サリバリウス(口腔常在菌):Streptococcus salivarius、アシネトバクター・バウマニ:Acinetobacter baumannii、クロノバクター(旧エンテロバクター)・サカザキ:Cronobacter sakazakii、大腸菌:Escherichia coliポルフィロモナス・ジンジバリス(歯周病菌):Porphyromonas gingivalis、セラチア・マルセッセンス:Serratia marcescens、緑膿菌:Pseudomonas aeruginosa等が挙げられる。
【0034】
(2)菌体懸濁液の播種
次いで、所定の体積の菌体懸濁液を液体収容器の液体収容部に収容(播種)する。液体収容部の数は1つだけでもよいが、複数であってよく、その場合、複数の試験片について同一条件下で同時にバイオフィルム形成能の評価を行うことができる。複数の液体収容部を有する液体収容器の一例としては、任意の数及び大きさ、形状のウェルを有するマルチウェルプレートが挙げられる。ウェルの数、大きさ、形状は特に制限されないが、例えば、内径15mmφ、高さ20mmの円筒状である。この程度の大きさのウェルであれば、ウェルあたり数mLの菌体懸濁液があれば十分にバイオフィルムの形成能の評価を行うことが可能である。マルチウェルプレートを構成する材料は特に制限されず、マルチウェルプレートに用いられる任意の材料を制限なく用いることができる。
【0035】
本実施の形態に係る評価方法の実施に好適に用いることができるバイオフィルム形成能評価装置の一例である、本発明の第2の実施の形態に係るバイオフィルム形成能評価装置10(以下、「評価装置10」等と略称される場合がある)は、図2に示すような構造を有しており、液体収容器の一例であるマルチウェルプレート11と、蓋部材13(市販のマルチウェルプレートと組み合わせて用いるための本発明の第3の実施の形態に係るバイオフィルム形成能の評価に用いるためのマルチウェルプレート用蓋部材も、同様の構造を有している。)とを有している。
【0036】
マルチウェルプレートは、上側に開口を有する複数のウェル12(液体収容部の一例)を有している。蓋部材13は、マルチウェルプレート11に対して位置決めされた状態で各ウェル12の開口を覆蓋するための部材であり、各ウェル12の開口を覆蓋する部分の面上には、板状の試験片を、その表面が前記液体収容器内に収容された液体の液面と直交又は略直交する状態で液体に接触可能に固定するための挟持片14(固定手段の一例)を有している。蓋部材13は、弾性を有する高分子材料からなる。蓋部材13に用いることができる高分子材料の具体例としては、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、AS樹脂、ABS樹脂等が挙げられるが、弾性及び可撓性に優れ、透過性のあるポリプロピレンが好ましく用いられる。図3に示すように、挟持片14は、先端が所定の間隔で平行に位置するように蓋部材13と一体に形成され、試験片(18)を挟持可能なように、該高分子材料の有する弾性により内側に向けて付勢された一対の板状の部材である。
【0037】
図4に示すように、挟持片14は、側面視した場合に左右対称となるよう、根元側から先端側に向かって間隔が狭くなるように形成されているのが好ましい。一対の挟持片14同士の先端部の間隔は、試験片の厚さよりも狭くなっていることが好ましい。一対の挟持片14をこのように構成することにより、試験片18は、蓋部材13に対しほぼ垂直に固定されるため、後で菌体懸濁液に浸漬する場合、その液面に対しほぼ垂直に保つことができる。また、図2、3及び4に示すように、蓋部材13には、各ウェル12の開口の縁の全周と接触し、ウェル12を密封するためのシール部材15(密封手段の一例)が形成されていてもよい。
【0038】
図2及び5に示すように、蓋部材13は、マルチウェルプレート11に対し位置決めされた状態で各ウェル12を覆蓋することができるように、マルチウェルプレート11の嵌合蓋として形成されていてもよい。より具体的には、マルチウェルプレート11の周囲には、板状の周辺壁16が形成されており、蓋部材13の周囲には、挟持片14が設けられている側の面が下を向くように配置したとき(使用時の配置に対応する。)に、挟持片14の形成された面側に向かって垂下するようにサイドスカート17が形成されている。図2に示すように、サイドスカート17の末端側の四隅に、所定の長さを有するエンドピン19が形成されていてもよい。周辺壁16とサイドスカート17の両者が嵌合することにより、蓋部材13がマルチウェルプレート11に対し、水平方向に位置決めされた状態で嵌合する。また、シール部材15が各ウェル12の開口を密封した状態で各ウェル12を覆蓋するよう構成されていることにより、蓋部材13がマルチウェルプレート11に対し垂直方向に位置決めされた状態で嵌合する。このような構成とすることにより、各ウェル12に収容された菌体懸濁液の揮発及び大気中の微生物等による汚染を防止することもできると共に、後述するように、挟持片14に試験片18を保持させる際に、垂直方向の位置決め手段としてサイドスカート17又はエンドピン19を利用することができる。また、図2に示すように、サイドスカート17には、必要に応じて、蓋部材13のみ、或いは蓋部材13とマルチウェルプレート11を同時に手で持ちやすくするための切り欠きが設けられていてもよい。
【0039】
(3)試験片の準備及び固定
次いで、試験片18を蓋部材13の挟持片14に取り付け、固定する。図6に示すように、試験片18は、ウェル12の内部に収容可能で、その表面の一部が菌体懸濁液に接触可能な大きさ及び形状を有する板状の部材である。試験片は、好ましくは矩形であり、厚さ及び大きさは、ウェル12の大きさ、形状、収容される菌体懸濁液の堆積等に応じて適宜選択されるが、一辺が10mm以上、好ましくは10から20mm程度であれば、十分な精度でバイオフィルムの形成能を評価することができる。試験片18の材質、表面の性状(表面加工の態様、コーティング剤の有無等)は特に制限されることはなく、目的に応じて適宜選択することができる。試験片18の挟持片14への固定は、挟持片14が上向きとなるように蓋部材13を水平な台の上に載置し、ピンセット等で試験片18をつまみ、挟持片14に挟み込ませる等の任意の方法により行うことができる。その際、試験片18を挟持片14に浅めに挟み込ませておき、その後、蓋部材13の上限を反転させ、挟持片14が下向きとなる状態で水平な台の上に載置し、軽く押しつけることにより、サイドスカート17又はエンドピン19の下端と試験片18の下端(図6に一点鎖線でしめした位置)とを一致させることにより、試験片18の垂直方向の位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
【0040】
(4)バイオフィルムの形成(培養)
各ウェル12内に菌体培養液を収容し、試験片18を挟持片14に固定した蓋部材13を取り付けた評価装置10内で、所定温度で所定時間培養することにより、試験片18の表面にバイオフィルムを形成させる。必要に応じて振盪等を行ってもよい。培養温度及び培養時間は、菌体懸濁液中の菌体の種類等に応じて適宜選択することができる。培養中に菌体懸濁液中の培地を、適宜(例えば、所定時間毎に)新鮮な培地に交換してもよい。
【0041】
(5)バイオフィルム形成能の評価
バイオフィルム形成能の評価方法としては、バイオフィルム形成の前後における各試験片の質量変化の測定、超音波照射により剥離したバイオフィルム中の微生物のコロニー形成能の評価等の任意の方法を用いることができるが、本発明の第1の実施の形態に係る評価方法では、バイオフィルムを色素で染色し、染色されたバイオフィルム中の色素量(バイオフィルムの質量に比例する)を定量する方法によりバイオフィルム形成能の評価を行う。より具体的には、バイオフィルムが形成された試験片18を洗浄後、色素を用いて染色し、染色後の試験片18を洗浄し、バイオフィルムに吸着されなかった色素を除去後、バイオフィルムから色素を抽出し、色素の比色定量を行うことによりバイオフィルムの形成能の評価を行う。
【0042】
バイオフィルムの染色に用いる色素としては、バイオフィルムへの吸着量がバイオフィルムの形成量の関数であり、検量線の作成等により、比色分析の結果からバイオフィルムの形成量が定量的に評価可能である任意の色素を用いることができる。色素は、好ましくは、高い分子吸光係数を有し、アルコール等の有機溶媒に可溶である。このような色素の具体例としては、クリスタルバイオレット等が挙げられる。バイオフィルムの形成後及び染色後の試験片18の洗浄には、水、生理的食塩水等の水溶液が用いられる。染色及び染色後の色素の抽出には、色素の溶解度が高い溶媒が、色素の種類に応じて適宜選択される。染色及び抽出溶媒の好ましい例としては、エタノール、メタノール等のアルコール系溶媒、アセトン等の水溶性有機溶媒等が挙げられる。
【0043】
洗浄、染色、抽出の各工程には任意の公知の方法を用いることができるが、本発明の各実施の形態に係る評価方法、評価装置又は蓋部材を用いる場合、洗浄液、染色液、抽出液を収容したマルチウェルプレート11を用意し、挟持片14により試験片18が蓋部材13に固定された状態のまま、順次マルチウェルプレート11を取り替えることにより、簡便な操作で、バイオフィルムを損傷することなく実施することが可能である。
【0044】
バイオフィルム形成能の評価の目的及び用途としては、水処理施設、住宅設備及びサニタリー分野における環境汚染防止のための材料及び表面処理技術の評価、医療機器、歯科材料及び口腔ケア等の分野における微生物の増殖防止材料及び技術の評価等が挙げられる。
【実施例
【0045】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0046】
実施例1:試験片へのバイオフィルム形成
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)の培養液を培地(ミュラーヒントンブロス)で約10cfu/mLとなるように希釈・調製し、この菌体懸濁液を24ウェルマイクロプレートの各ウェルへ2mLずつ分注した。図3に示す構造を有するマルチウェルプレート用蓋部材にポリスチレン製の試験片(厚さ2mm×横10mm×縦20mm)を固定し、菌体懸濁液が分注された24ウェルマイクロプレートへかぶせ、試験片が菌体懸濁液と直交するように設置した(試験片の縦方向10mmが菌体懸濁液に浸漬)。さらに、37℃で一定時間静置培養して試験片へバイオフィルムを形成させた。培養条件は次のように設定した。
・試験群1:24時間培養
・試験群2:48時間培養
・試験群3:24時間培養後に新鮮培地に交換してさらに24時間培養
【0047】
培養後、試験片を固定したマルチウェルプレート用蓋部材を生理食塩水分注済みの24ウェルマイクロプレートへ移して洗浄して、浮遊菌体を取り除いた。さらに0.1%クリスタルバイオレットを分注した24ウェルマイクロプレートへ移して30分間バイオフィルムを染色した。染色後、試験片を生理食塩水で洗浄し、99.5%エタノールを分注した24ウェルマイクロプレートへ移して15分間抽出した。抽出液の入った24ウェルマイクロプレートをプレートリーダーに設置し、595nmにおける吸光度測定に供した。結果を表1及び図7に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
試験群1及び2と比較して、試験群3において試験片へバイオフィルムをより多く形成させることができた。そこで、以下の実施例2、3において、試験群3の手順にしたがってバイオフィルムの形成能の評価を行った。
【0050】
実施例2:バイオフィルム形成の再現性(従来法との比較)
現在、マイクロプレートの各ウェルの底に試験片を設置してバイオフィルム形成をさせる方法(以下、従来法という)が汎用されている。そこで、図2図3に示す構造を有するマルチウェルプレート用蓋部材を用いる方法(以下、本法という)と従来法を使用して黄色ブドウ球菌(S. aureus NBRC13276)のバイオフィルム形成試験を行い、バイオフィルム形成の再現性の比較を行った。
【0051】
本法は実施例1の試験群3の条件にしたがって行った。一方、従来法では24ウェルマイクロプレートの各ウェルの底へ試験片(厚さ2mm×横10mm×縦10mm)を置き、菌体懸濁液を2mLずつ分注し、実施例1の試験群3の手順にしたがって培地交換、洗浄、染色、抽出、測定を行った。従来法における試験片の移動はすべてピンセット操作で行った。結果を表2及び図8に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
変動係数(CV)(n=8)は、本法が5.6%であるのに対して、従来法では42.3%であり、本法における再現性が格段に優れていた。図9に示すように、従来法では、バイオフィルムの染色の程度にむらがあり、バイオフィルム形成のばらつきが大きかった。一方、本法では、再現性のあるバイオフィルムを形成することができた。
【0054】
実施例3:マルチウェルプレート用蓋部材による試験片の垂直方向の位置決めの効果
図3に示す構造を有するマルチウェルプレート用蓋部材を用いると、サイドスカート又はエンドピンを利用して試験片の垂直方向の位置決めを容易かつ確実に行うことができるが、本実施例では、垂直方向の位置決めを行った場合と行わなかった場合のバイオフィルム形成能を比較し、その効果を検証した。実施例1の試験群3の手順にしたがって、黄色ブドウ球菌(S. aureus NBRC13276)のバイオフィルム形成試験を行い、垂直方向の位置決めを行った場合(「高さ調整あり」)と行わなかった場合(「高さ調整なし」)における再現性の比較を行った。結果を表3及び図10に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
変動係数(CV)(n=6)は、高さ調節機能を使用した場合は2.1%であるのに対して、使用しない場合は11.7%であり、高さ調節機能を使用した場合の再現性が格段に優れていた。
【符号の説明】
【0057】
10:バイオフィルムの形成能評価装置
11:マルチウェルプレート
12:ウェル
13:蓋部材
14:挟持片
15:シール部材
16:周辺壁
17:サイドスカート
18:試験片
19:エンドピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10