(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】非晶質炭素含有シート、非晶質炭素含有シート製品、および通気性シートに抗菌性または抗ウイルス性を付与する方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/27 20060101AFI20240215BHJP
A61L 2/23 20060101ALI20240215BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C23C16/27
A61L2/23
D06M11/74
(21)【出願番号】P 2021550550
(86)(22)【出願日】2020-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2020034661
(87)【国際公開番号】W WO2021070566
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2019188063
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591029699
【氏名又は名称】日本アイ・ティ・エフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】平栗 健二
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 修
(72)【発明者】
【氏名】内海 慶春
(72)【発明者】
【氏名】田中 祥和
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎也
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199319(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088459(WO,A1)
【文献】特表2005-536635(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/27
A61L 2/23
D06M 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素が付着してなる非晶質炭素含有シートであって、
上記非晶質炭素がフッ素を含み、
126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上である、
非晶質炭素含有シート。
【請求項2】
JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上である、請求項1に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項3】
JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvが3.0以上である、請求項1または2に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項4】
上記抗ウイルス活性値Mvが4.0以上である、請求項3に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項5】
上記非晶質炭素におけるフッ素の含有率が0.1at%以上、25at%以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項6】
上記通気性シートが、布である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項7】
上記非晶質炭素が、布を構成する繊維同士を結合させることなく、上記繊維の表面の少なくとも一部を覆うように付着している、請求項6に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項8】
上記布が綿布であることを特徴とする、請求項6または7に記載の非晶質炭素含有シート。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の非晶質炭素含有シートを有する衛生用品または医療用品である、非晶質炭素含有シート製品。
【請求項10】
通気性シートの少なくとも一部にフッ素を含む非晶質炭素を付着させることによって、上記通気性シートに、126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上となる抗菌性を付与する方法。
【請求項11】
通気性シートの少なくとも一部にフッ素を含む非晶質炭素
であって、前記非晶質炭素におけるフッ素の含有率が0.1at%以上25at%以下であり、かつ前記非晶質炭素のナノインデンテーション硬さが1000MPa以下である非晶質炭素を付着させることによって、上記通気性シートに、JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvが3.0以上となる抗ウイルス性を付与する方法。
【請求項12】
通気性シートの少なくとも一部にフッ素を含む非晶質炭素が付着してなる、126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上である、抗菌用非晶質炭素含有シート。
【請求項13】
通気性シートの少なくとも一部にフッ素を含む非晶質炭素
であって、前記非晶質炭素におけるフッ素の含有率が0.1at%以上25at%以下であり、かつ前記非晶質炭素のナノインデンテーション硬さが1000MPa以下である非晶質炭素が付着してなる、JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvが3.0以上である、抗ウイルス用非晶質炭素含有シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性(以下、「抗菌性」とも言う)または抗ウイルス性を有する非晶質炭素含有シートおよび非晶質炭素含有シート製品、並びに、通気性シートに抗菌性または抗ウイルス性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品、工具、金型等の表面に、ダイヤモンドライクカーボン(以下「DLC」と称する)等の非晶質炭素からなる膜を形成することにより、耐摩耗性、潤滑性を付与することが知られている。また、DLC膜は、抗菌性、生体適合性、骨伝導性等を備えることが知られており、インプラント材等の医療機器の表面に当該膜を積層することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材の表面にDLC膜を備えることにより、抗菌性および骨伝導性を備えるインプラント材等の医療用器具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シート状基材の表面にDLCが固着されたDLC固着基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2018/088459号パンフレット
【文献】日本国公開特許公報「特開2018-199319号」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、抗菌性を備えるDLC膜を、布のように柔軟性を有する(フレキシブルな)基材上に積層することが試みられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される医療用器具において、DLC膜は、チタン合金およびステンレス鋼等の金属からなる基材上に積層されており、2000MPa以上のナノインデンテーション硬さを有している。このような高い硬度を有するDLC膜を、布のように柔軟性を有する基材上に積層すると、当該膜が割れて基材の表面から剥離することがある。尚、特許文献1では、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対するDLC膜の抗菌性が確認されているのみであり、その他の細菌に対する抗菌性に関しては不明である。
【0008】
また、上記DLC膜の成膜は、プラズマCVD法等を用いて、基材に対して-2.5kV程度の高いバイアス電圧を印加する方法により行われている。しかしながら、当該方法は、イオン衝撃により基材の温度を上昇させるため、布等の基材に適用すると、繊維が溶けたり焦げたりすることがある。
【0009】
一方、特許文献2に開示されるDLC固着基材は、基材として布等を用いている。しかしながら、特許文献2には、DLCを基材に固着するための具体的な方法および条件に関して何も開示されておらず、当該固着基材が奏する効果に関しても、何も実証されていない。そのため、特許文献2の開示に基づいて、布等の基材へのDLC膜の固着を当業者が試みることは困難である。
【0010】
また、DLC膜を有する布が十分な抗ウイルス性を有することは、これまで知られていない。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗菌性または抗ウイルス性を有する非晶質炭素含有シートおよび非晶質炭素含有シート製品、並びに、通気性シートに抗菌性または抗ウイルス性を付与する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、通気性および柔軟性を有する(フレキシブルな)基材上に非晶質炭素を剥離することなく付着させることに成功し、このようにして得られる非晶質炭素含有シートが、高い抗菌性および抗ウイルス性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0014】
(1)通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素が付着してなる非晶質炭素含有シート。
【0015】
(2)JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上である、(1)に記載の非晶質炭素含有シート。
【0016】
(3)126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が4以上である、(1)または(2)に記載の非晶質炭素含有シート。
【0017】
(4)JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvが3.0以上である、(1)~(3)の何れかに記載の非晶質炭素含有シート。
(5)上記非晶質炭素がフッ素を含むことを特徴とする、(1)~(4)の何れかに記載の非晶質炭素含有シート。
【0018】
(6)上記非晶質炭素におけるフッ素の含有率が0.1at%以上、25at%以下であることを特徴とする、(5)に記載の非晶質炭素含有シート。
【0019】
(7)上記通気性シートが、布である、(1)~(6)の何れかに記載の非晶質炭素含有シート。
(8)上記非晶質炭素が、布を構成する繊維同士を結合させることなく、上記繊維の表面の少なくとも一部を覆うように付着している、(7)に記載の非晶質炭素含有シート。
(9)上記布が綿布であることを特徴とする、(7)または(8)に記載の非晶質炭素含有シート。
【0020】
(10)上記(1)~(9)の何れかに記載の非晶質炭素含有シートを有する衛生用品または医療用品である、非晶質炭素含有シート製品。
(11)通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素を付着させることによって、上記通気性シートに抗菌性を付与する方法。
(12)通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素を付着させることによって、上記通気性シートに抗ウイルス性を付与する方法。
(13)通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素が付着してなる、抗菌用非晶質炭素含有シート。
(14)通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素が付着してなる、抗ウイルス用非晶質炭素含有シート。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、抗菌性または抗ウイルス性を有する非晶質炭素含有シートおよび非晶質炭素含有シート製品、並びに、通気性シートに抗菌性または抗ウイルス性を付与する方法を提供することができる。上記非晶質炭素含有シートは、耐摩耗性および耐酸化性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有綿布の大腸菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有綿布の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1の非晶質炭素含有綿布のサルモネラ球菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1の非晶質炭素含有綿布の肺炎桿菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有綿布のA型インフルエンザウイルス(H3N2)に対する抗ウイルス活性値の評価結果を示すグラフである。
【
図6】綿布並びに実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を、倍率:100倍(上段)および倍率:500倍(下段)にて示すSEM画像である。
【
図7】綿布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
【
図8】実施例1の非晶質炭素含有布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
【
図9】
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
【
図10】綿布並びに実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を、マイクロスコープにより観察した顕微鏡写真である。
【
図11】本発明の一態様に係る非晶質炭素含有布の製造に用いることができる製造装置の構成の一例を示す概略のブロック図である。
【
図12】本発明の一態様に係る非晶質炭素含有布の製造に用いることができる成膜装置の構成の一例を示す概略のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「部」は「重量部」を意味する。さらに、「重量」と「質量」は同義語として扱う。
【0024】
また、本明細書において、「抗菌」とは、細菌、カビ等の真菌の増殖を抑制するか、または、細菌、真菌を死滅させることを指す。また、「抗菌性を有する」とは、日本産業規格(JIS)-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値が2以上であることを指す。
【0025】
本願明細書において、「抗ウイルス」とは、ウイルスを不活化させることを指す。また、「抗ウイルス性を有する」とは、JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvが2.0以上であることを指す。
【0026】
〔1.非晶質炭素含有シート〕
本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、基材となる通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素が付着してなる。以下、本明細書中では、「本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シート」を、単に「本非晶質炭素含有シート」と称する場合もある。
【0027】
(基材)
基材となる通気性シートは、通気性を有するシート状の部材である。通気性シートは、様々な特定の用途へ適用する観点から、柔軟性を有することが好ましい。その製造方法および原料は、限定されない。このような通気性シートとしては、例えば、複数の繊維をシート状に加工した布および多孔質シートが挙げられる。当該布には、織布、不織布、レース、フェルトおよび編布(メリヤス生地)が挙げられる。
【0028】
通気性シートは、気体が通過し得る複数の空隙または細孔を備える。通気性シートがこのような空隙、細孔を備えることにより、本非晶質炭素含有シートが衛生用品または医療用品等の用途に応じた好適な通気性を発現するとともに、当該用途に応じた抗菌性および抗ウイルス性を発現させることが可能となる。
【0029】
通気性シートの通気性は、本非晶質炭素含有シートが細菌またはウイルスの不活性化を十分に発現する観点から適宜に決めることができる。本非晶質炭素含有シートにおける細菌またはウイルスの不活性化は、本非晶質炭素含有シートの用途に応じて適宜に決めることができる。抗菌性または抗ウイルス性を高める観点から、通気性シートの通気性は小さいことが好ましく、十分に多い通気量を実現する観点および通気による圧力損失の増加を抑える観点から、通気性シートの通気性は大きいことが好ましい。
【0030】
また、通気性シートは、本非晶質炭素含有シートの用途に応じても決められる。これらの観点から、通気性シートの通気性は、1~500cm3/cm2・秒の範囲から適宜に決めることが可能である。なお、当該「通気性」は、例えば、通気性シートの厚さ方向の通気度として、JIS-L-1096:2010に定められた通気性測定A法に準拠して求めることができる。
【0031】
上記布を構成する繊維は、限定されない。当該繊維には、例えば、綿、麻等の植物繊維;絹、羊毛等の動物繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;アセテート、トリアセテート等の半合成繊維;ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成繊維;またはこれらを混紡した繊維;金属繊維;セラミック繊維;等が挙げられる。
【0032】
上記多孔質シートは、限定されない。多孔質シートには、例えば、ポリウレタン等の樹脂からなるシートを、発泡、延伸、または穿孔等の公知の方法により多孔質化したシートが挙げられる。
【0033】
非晶質炭素を付着させることによって特に高い抗菌性および抗ウイルス性を示すことから、上記通気性シートとして、綿を織った綿布を用いることがより好ましい。
【0034】
繊維の太さは、限定されないが、加工性およびシートとしての十分な柔軟性を発現させる観点から、平均繊維径が1μm以上、100μm以下であることが望ましい。
【0035】
通気性シートの厚さは、限定されず、用途および所望の通気性などの観点から適宜に決めてよい。
【0036】
上記通気性シートは、必要に応じて、非晶質炭素との結合を高めるために、非晶質炭素を付着させる前に、その表面に任意の前処理を施してもよい。このような前処理としては、通気性シートの表面を、前処理用ガス、例えば、フッ素(F)含有ガス、水素(H)ガス、および酸素(O)ガス、アルゴン(Ar)からなる群より選択される少なくとも一種類の前処理用ガスのプラズマに曝露する処理が挙げられる。
【0037】
上記フッ素(F)含有ガスとしては、フッ素(F2)ガス、3フッ化窒素(NF3)ガス、6フッ化硫黄(SF6)ガス、4フッ化炭素(CF4)ガス、4フッ化ケイ素(SiF4)ガス、6フッ化2ケイ素(Si2F6)ガス、3フッ化塩素(ClF3)ガス、フッ化水素(HF)ガス等が挙げられる。
【0038】
上記通気性シートを、上記前処理用ガスのプラズマに曝露することにより、通気性シートの表面が清浄化され、通気性シートと非晶質炭素との密着性を向上させることができる。特に、前処理用ガスとして、水素ガスあるいは酸素ガスを用いることにより、通気性シートの表面に付着した有機物等の汚れを効率良く除去することができる。
【0039】
また、前処理用ガスとして、フッ素含有ガスまたは水素ガスを用いることにより、通気性シートの表面がフッ素終端または水素終端とされる。従って、当該表面に非晶質炭素を付着させると、通気性シートの表面のフッ素原子または水素原子と、非晶質炭素の炭素原子とが、フッ素-炭素結合または水素-炭素結合を形成し、通気性シートと非晶質炭素との密着性が向上する。
【0040】
上記プラズマによる前処理は、一種類の前処理用ガスを用いて一回または複数回行ってもよく、または、二種類以上の前処理用ガスを用いて、複数回行ってもよい。例えば、通気性シートを酸素ガスのプラズマに曝露した後、フッ素含有ガスのプラズマまたは水素ガスのプラズマに曝露してもよい。これにより、通気性シートと非晶質炭素との密着性が特に良好となる。
【0041】
(非晶質炭素)
本非晶質炭素含有シートを構成する非晶質炭素は、通気性および柔軟性を有する(フレキシブルな)基材上に剥離することなく付着する。当該非晶質炭素は、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC)であってもよいし、DLCよりも低い硬度を有する組成物であってもよい。当該非晶質炭素は、必要に応じて、炭素以外の元素、例えばフッ素を含有していてもよい。
【0042】
本非晶質炭素含有シートにおいて、非晶質炭素は、通気性シートの表面の少なくとも一部に付着していればよい。非晶質炭素は、十分な抗菌性、抗ウイルス性を発現する観点から、通気性シートの空隙または細孔を埋めずに、通気性シートの表面の少なくとも一部を覆うように付着していることが好ましい。例えば、基材が布である場合は、布を構成する繊維同士を結合させることなく、即ち、繊維間の空隙を埋めずに、繊維の表面の少なくとも一部を覆うように付着していることが好ましい。かかる構成は、繊維上にコーティングしたフレキシブル非晶質炭素とも換言し得る。これにより、非晶質炭素含有シートにおいて、基材となる通気性シートが元々有している繊維間の空隙または細孔が実質的に維持される。
【0043】
金属からなる基材等の表面に積層される従来の非晶質炭素は、高い硬度を有するため、通気性シートの表面に当該非晶質炭素膜を積層すると、通気性シートの柔軟性が損なわれることがあり、また、非晶質炭素膜の割れおよび剥離が生じることがある。これに対し、本非晶質炭素含有シートの一態様において、非晶質炭素を、繊維間の空隙または細孔を埋めずに付着させると、得られる非晶質炭素含有シートは、通気性シートが有する変形性をより好適に発現する。たとえば、基材が布である場合は、繊維の表面の少なくとも一部を覆うように非晶質炭素を付着させると、柔軟性を有する布を構成する繊維に密着し、繊維の動き(変形)に対して良好な追従性を有する。従って、本非晶質炭素含有シートの一態様は、基材となる通気性シートが元々有している柔軟性を保持させることができ、また、非晶質炭素が通気性シートから剥離し難い。
【0044】
上記非晶質炭素が、繊維間の空隙または細孔を埋めずに、例えば、繊維の表面の少なくとも一部を覆うように、基材となる通気性シートの少なくとも一部に付着することにより、当該非晶質炭素は、通気性シートの表面から、より剥離し難くなる。本非晶質炭素含有シートは、より高い抗菌性および抗ウイルス性を呈し、また、耐酸化性を有し、高圧蒸気滅菌処理を繰り返し施した後も抗菌性および抗ウイルス性がより低下し難い。
【0045】
非晶質炭素の通気性シートへの付着量は、当該通気性シートの性質および用途等に応じて適宜に設定され得る。たとえば、当該付着量は、非晶質炭素が繊維間の空隙を埋めて繊維同士を結合させることがないように適宜に設定されてもよいし、細孔による通気性が得られる範囲で適宜設定されてもよい。
【0046】
本発明の好ましい一態様において、非晶質炭素はフッ素を含有する。非晶質炭素がフッ素を含有することにより、嫌気性菌および好気性菌並びにウイルスに対して一層高い抗菌性および抗ウイルス性を示し、また、耐酸化性が向上し、高圧蒸気滅菌処理を繰り返し施した後も、高い抗菌性および抗ウイルス性が維持され得る。これは、非晶質炭素がフッ素を含有することにより、非晶質炭素中に結合力の高い炭素-フッ素結合が形成され、高圧蒸気滅菌処理を繰り返しても、炭素-酸素結合が形成され難いためであると考えられる。
【0047】
非晶質炭素がフッ素を含有する場合におけるフッ素の含有率は、0.1at%以上であることが好ましく、10at%以上であることがより好ましく、また、25at%以下であることが好ましく、20at%以下であることがより好ましい。フッ素の含有率が当該範囲であることにより、より顕著な抗菌性および抗ウイルス性を確実に発現させることができる。
【0048】
尚、本明細書において、フッ素の含有率は、XPS(X-Ray Photoelectron Spectroscopy)法を用いて計測される、非晶質炭素における各元素の原子組成百分率に基づいて求められる数値である。上記計測は、株式会社プラズマコンセプト東京製のダメージフリーマルチプラズマジェット装置(JPS-90100MC)を用いて、X線:MgKα線、電圧:10.0kV、電流:10mAの条件下で行われる。
【0049】
(抗菌性)
本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、JIS-L-1902:2015菌液吸収法(ISO 20743:2013に対応)に準拠して測定される抗菌活性値に関して、抗菌効果があるとされる2以上を示し、細菌によっては、好ましくは4以上を示し、より好ましくは5以上を示し、さらに好ましくは6以上を示し、特に好ましくは測定上限以上の数値を示す。
【0050】
また、本非晶質炭素含有シートは、126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に準拠して測定される抗菌活性値に関して、抗菌効果があるとされる2以上を示し、細菌によっては、好ましくは4以上を示し、より好ましくは5以上を示し、さらに好ましくは6以上を示し、特に好ましくは測定上限以上の数値を示す。
【0051】
上記非晶質炭素含有シートは、嫌気性細菌、特に、大腸菌および黄色ブドウ球菌等の通性嫌気性細菌、並びに、好気性細菌、特に、サルモネラ菌および肺炎桿菌に対して、特に良好な抗菌効果を発揮する。また、上記非晶質炭素含有シートは、良好な抗菌効果を長期間維持することができる。
【0052】
(抗ウイルス性)
本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、JIS-L-1922:2016(ISO 18184:2019に対応)の繊維製品の抗ウイルス性試験方法に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvに関して、抗ウイルス効果があるとされる2.0以上を示し、ウイルスによっては、好ましくは3.0以上を示し、より好ましくは4.0以上を示し、特に好ましくは測定上限以上の数値を示す。
【0053】
また、本非晶質炭素含有シートは、126℃で15分間の高圧蒸気滅菌処理を20回施した後の、JIS-L-1922:2016に準拠して測定される抗ウイルス活性値Mvに関して、抗ウイルス効果があるとされる2.0以上を示し、ウイルスによっては、好ましくは3.0以上を示し、より好ましくは4.0以上を示し、特に好ましくは測定上限以上の数値を示す。
【0054】
上記非晶質炭素含有シートは、各種ウイルス、例えば、A型インフルエンザウイルス(H3N2、H1N1)等のエンベロープを持つウイルス、ネコカリシウイルス等のエンベロープを持たないウイルスの両方に対して、良好な抗ウイルス効果を発揮する。また、上記非晶質炭素含有シートは、良好な抗ウイルス効果を長期間維持することができる。
【0055】
なお、本明細書の測定に関する「準拠」は、基準となる方法そのものによること、であってもよいし、基準となる方法と実質的に同じ方法によること、であってもよい。または、「準拠」とは、基準となる方法とは異なる方法の結果を基準となる方法の結果に変換すること、であってもよい。
【0056】
(その他の物性)
本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、耐摩耗性にも優れる。また、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、その表面における純水に対する純水滴下直後の接触角が、100°以上であることが好ましく、120°以上であることがより好ましい。理由は不明であるものの、接触角が高い値を示すほど、非晶質炭素含有シートは、高い抗菌効果および抗ウイルス効果を発揮する。尚、本明細書において、接触角は、試験片の非晶質炭素付着面に、純水の液滴を接触させて、着滴したときの試料面と液面とのなす角度を計測して得られる数値である。接触角の制御は、非晶質炭素の付着量、非晶質炭素におけるフッ素の含有率等を制御することによって行うことができる。
【0057】
〔2.非晶質炭素含有シートの製造方法〕
非晶質炭素含有シートは、基材となる通気性シートの表面に、プラズマCVD法、スパッタリング法等により、非晶質炭素を形成することにより製造される。通気性シートのプラズマによる前処理と、非晶質炭素の形成とを同一の製造装置で行うことができる点において、プラズマCVD法を用いることが好ましい。
【0058】
(プラズマ原料ガス)
プラズマCVD法により非晶質炭素を形成する場合のプラズマ原料ガスとしては、炭化水素ガス、炭化フッ素ガス、および、必要に応じて、キャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合した混合ガス等が挙げられる。
【0059】
炭化水素ガスとしては、炭素を供給することができる炭化水素ガスであれば特に限定されず、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)、アセチレン(C2H2)、ベンゼン(C6H6)等が挙げられる。このうち、安価であり、入手が容易であることから、メタン、エタン、アセチレン等が好ましい。
【0060】
炭化フッ素ガスとしては、フッ素を供給することができる炭化フッ素ガスであれば特に限定されないが、安価であり、入手が容易であることから、4フッ化炭素(CF4)、6フッ化2炭素(C2F6)等が挙げられる。
【0061】
(製造装置)
図11は、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートの製造に用いることができる製造装置の構成の一例を示す概略のブロック図である。
【0062】
図11に示す製造装置は、平行平板型のプラズマCVD装置である。当該装置は、排気装置11が付設された真空チャンバ1を有し、真空チャンバ1内には、電極2およびこれに対向する位置に電極3が設置されている。電極3は接地され、電極2には、マッチングボックス22を介して高周波電源23が接続されている。また、電極2には、基材である通気性シートS1を支持するための基材ホルダが付設されており、通気性シートの材料に応じて、非晶質炭素形成中に通気性シートS1を冷却するための水冷機構21等の冷却装置が付設されていることが望ましい。
【0063】
また、真空チャンバ1には、ガス供給部4が付設されており、内部にプラズマ原料ガスを導入できるようになっている。ガス供給部4には、マスフローコントローラ411、412、・・・および弁421、422、・・・を介して接続された一つまたは二つ以上の、プラズマ原料ガスを供給するガス源431、432、・・・が含まれる。
【0064】
この製造装置を用いて本非晶質炭素含有シートを製造するにあたっては、通気性シートS1の被処理面S1’を、対向する電極3の方に向けて電極2の基材ホルダ上に配置し、排気装置11を運転して真空チャンバ1内部を所定の真空度にする。次いで、ガス供給部4から真空チャンバ1内に、フッ素含有ガス、水素ガスおよび酸素ガスのうちの一種類以上のガスを、前処理用ガスとして導入すると共に、高周波電源23からマッチングボックス22を介して電極2に高周波電力を供給する。これにより、導入した前処理用ガスをプラズマ化し、このプラズマの存在下で、通気性シートS1の表面処理(前処理)を行う。尚、この表面処理は、必ずしも行わなくともよい。
【0065】
次いで、必要に応じて、真空チャンバ1内を再び真空引きした後、ガス供給部4から真空チャンバ1内に、プラズマ原料ガスとして炭化水素ガスおよび/または炭化フッ素ガスを導入すると共に、高周波電源23から電極2に高周波電力を供給する。プラズマ原料ガスの濃度(供給量)は、製造装置の処理能力等に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。これにより、導入したプラズマ原料ガスをプラズマ化し、このプラズマの存在下で、通気性シートS1の表面に、非晶質炭素を形成する(非晶質炭素形成工程)。
【0066】
この非晶質炭素形成工程において、プラズマ原料ガスとして導入する炭化水素ガスと炭化フッ素ガスとの混合比を調整することにより、非晶質炭素におけるフッ素の含有率を、所望の値になるように制御することができる。
【0067】
また、
図11の製造装置に替えて、
図12に示す成膜装置を用いることができる。
図12は、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートの製造に用いることができる成膜装置の構成の一例を示す概略のブロック図である。
【0068】
図12に示す成膜装置は、誘導結合型のプラズマCVD装置である。当該装置は、排気装置11’が付設された真空容器1’を有し、真空容器1’の外周には、誘導コイル電極5が巻回して設けられている。当該誘導コイル電極5の両端には、マッチングボックス51および高周波電源52が接続されている。真空容器1’の内部には、基材である通気性シートS1を支持するための基材ホルダが設けられている。基材ホルダの内部には、通気性シートの材料に応じて、通気性シートS1を冷却するための水冷機構等の冷却装置が設けられていることが望ましい。
【0069】
また、真空容器1’には、排気装置11’が配管接続されていると共に、ガス供給部4’が配管接続されており、内部にプラズマ原料ガスを導入できるようになっている。ガス供給部4’には、マスフローコントローラ411’、412’、・・・、および弁421’、422’、・・・を介して接続された一つまたは二つ以上の、プラズマ原料ガスを供給するガス源431’、432’、・・・が含まれる。
【0070】
この成膜装置を用いて本非晶質炭素含有シートを製造するにあたっては、
図11の製造装置を用いて本非晶質炭素含有シートを製造する場合と同様の非晶質炭素形成工程等を行う。但し、成膜装置では、プラズマ原料ガスのプラズマ化は、誘導コイル電極5への高周波電力の印加によって行う。
【0071】
(非晶質炭素形成条件)
プラズマCVD法により非晶質炭素を形成する場合には、上述のプラズマ原料ガスおよび製造(成膜)装置を用い、非晶質炭素形成工程における各種条件を選定することにより、基材となる通気性シートの空隙または細孔を埋めることなく、通気性シートの表面の少なくとも一部に非晶質炭素を付着させることができる。例えば、基材が布である場合は、布を構成する繊維同士を結合させることなく、繊維の表面の少なくとも一部を覆うように、非晶質炭素を付着させることができる。
【0072】
非晶質炭素形成工程において、プラズマCVD装置の真空チャンバ(真空容器)内にプラズマ原料ガスを導入することにより、真空チャンバ内の圧力が調整される。非晶質炭素形成工程において、成膜速度を速くする観点から、真空チャンバ(真空容器)内の圧力を0.1Pa以上とすることが好ましく、1Pa以上とすることがより好ましい。また、非晶質炭素形成工程において、基材温度の上昇を防ぐ観点から、100Pa以下とすることが好ましく、50Pa以下とすることがより好ましい。真空チャンバ内の圧力がこの範囲であれば、速い成膜速度と低温での成膜を両立する利点を有する。
【0073】
電力を供給する高周波電源からの印加電力は、成膜速度を速くする観点から、100W以上であることが好ましく、200W以上であることがより好ましい。また、当該印加電力は、基材温度の上昇を防ぐ観点から、800W以下であることが好ましく、600W以下であることがより好ましい。上記印可電力がこの範囲であれば、速い成膜速度と低温での成膜を両立する利点を有する。
【0074】
非晶質炭素形成工程において、基材である通気性シートの温度は、通気性シートを構成する材料の耐熱性を考慮して、80℃以下に保持されることが好ましく、60℃以下に保持されることがより好ましい。通気性シートの温度をこの範囲に保持する方法としては、非晶質炭素の形成において、通気性シートを支持するための基材ホルダを冷却装置により冷却する方法、および、小さな印加電力を長時間印加することにより、通気性シートの温度上昇を抑制する方法、等が挙げられる。
【0075】
処理時間は、製造(成膜)装置の処理能力、プラズマ原料ガスの濃度(供給量)、または、通気性シートに付着させる非晶質炭素の量等に応じて、適宜設定することができる。
【0076】
非晶質炭素形成工程における種々の条件を適宜設定することにより、通気性シートの表面に所期の形態の非晶質炭素を形成することができる。たとえば、当該条件の設定により、非晶質炭素が、通気性シートの空隙または細孔を埋めることなく、通気性シートの表面の少なくとも一部を覆うように付着した非晶質炭素含有シートを形成することができる。さらに基材が布である場合は、布を構成する繊維同士を結合させることなく、上記繊維の表面の少なくとも一部を覆うように付着した非晶質炭素含有シートを形成することができる。即ち、上記非晶質炭素は、柔軟性を有する(フレキシブルな)通気性シートの表面に剥離することなく付着することができる。尚、上記非晶質炭素のナノインデンテーション硬さは、同じようにしてシリコンウェハ上に形成した非晶質炭素を荷重100mgで測定した場合に、フッ素を含有しない非晶質炭素で5000MPa以下であり、フッ素を含有する非晶質炭素で1000MPa以下である。従って、非晶質炭素それ自体も、或る程度の柔軟性を有している。
【0077】
〔3.非晶質炭素含有シート製品〕
本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、種々の細菌、真菌およびウイルスに対して高い抗菌性および抗ウイルス性を呈することから、衛生用品または医療用品等の非晶質炭素含有シート製品として、特に好適に用いられる。
【0078】
衛生用品の具体例としては、例えば、マスク、生理用品、おむつ;シーツ、布団カバー、ベッドカバー、枕カバー等の寝具、特に病院で使用される寝具;衣服、靴下、下着、各種作業着、手術着、白衣、パジャマ(特に病院で患者が着用するパジャマ)等の衣料;帽子、手袋、タオル;等の布製品(少なくとも一部に布が用いられた製品)、および、当該布製品の布の一部または全部が多孔質シートに置き換えられている多孔質シート製品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
医療用品の具体例としては、例えば、ガーゼ、包帯、絆創膏等の布製品(少なくとも一部に布が用いられた製品)および、当該布製品の布の一部または全部が多孔質シートに置き換えられている多孔質シート製品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
さらに、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シートは、衛生用品または医療用品に限らず、高い抗菌性または抗ウイルス性を呈することが望ましい各種用途、例えば、カーテン;自動車の内装部材;絨毯、カーペット、マット等の敷物;クッション、ぬいぐるみ、カバン等の布製品(少なくとも一部に布が用いられた製品)および、当該布製品の布の一部または全部が多孔質シートに置き換えられている多孔質シート製品にも好適に用いられる。
【0081】
以上のように、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シート製品は、抗菌性、抗ウイルス性に優れている。よって、本発明の一態様に係る非晶質炭素含有シート製品は、これらの機能が有効な用途に適している。抗菌用非晶質炭素含有シート製品、抗ウイルス用非晶質炭素含有シート製品も本発明の一態様である。
【0082】
また、上述の非晶質炭素含有シートの製造方法にしたがって、通気性シートの少なくとも一部に非晶質炭素を付着させることによって、通気性シートに抗菌性または抗ウイルス性を付与する方法も、本発明の一態様である。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0085】
〔実施例1〕
平行平板型のRFプラズマCVD装置を用い、真空チャンバ内の基材ホルダに綿布(JIS-L-0803準拠 試験用添付白布 カナキン3号)をセットした。真空チャンバ内を真空排気した後、真空チャンバ内の圧力が13.3Paになるように当該真空チャンバ内に水素ガスを導入し、基材ホルダに450WのRF(高周波)電力を10分間供給した。これにより、水素プラズマを発生させて綿布の表面処理(前処理)を行い、当該表面(被処理面)を清浄化した。
【0086】
次いで、真空チャンバ内の圧力が13.3Paになるように、プラズマ原料ガスとしてメタンガスおよび6フッ化2炭素ガスを、CH4:C2F6=1:20の比率で真空チャンバ内に導入し、基材ホルダに500WのRF電力を90分間供給した。この間、基材ホルダ内の水冷機構で綿布を冷却することにより、綿布の温度を50~60℃に保持した。これにより、綿布の表面(上面)に、フッ素を含有する非晶質炭素を付着させた。
【0087】
次に、真空チャンバから取り出した綿布を、上下面を逆にして再度、真空チャンバ内の基材ホルダにセットし、上記操作と同じ操作を繰り返して、綿布の表面(下面)に、フッ素を含有する非晶質炭素を付着させ、上下面に非晶質炭素が付着した非晶質炭素含有布を製造した。得られた非晶質炭素含有布は、上記の綿布が有する柔軟性を実質的に保持している。
【0088】
得られた非晶質炭素含有布において、非晶質炭素におけるフッ素の含有率は17at%であった。
【0089】
〔参考例2〕
実施例1と同様にして、綿布(JIS-L-0803準拠 試験用添付白布 カナキン3号)の表面処理を行い、当該表面を清浄化した。
【0090】
次いで、真空チャンバ内の圧力が13.3Paになるように、プラズマ原料ガスとしてメタンガスを真空チャンバ内に導入し、基材ホルダに450WのRF電力を90分間供給した。この間、基材ホルダ内の水冷機構で綿布を冷却することにより、綿布の温度を50~60℃に保持した。これにより、綿布の表面(上面)に非晶質炭素を付着させた。
【0091】
次に、真空チャンバから取り出した綿布を、上下面を逆にして再度、真空チャンバ内の基材ホルダにセットし、上記操作と同じ操作を繰り返して、綿布の表面(下面)に非晶質炭素を付着させ、上下面に非晶質炭素が付着した非晶質炭素含有布を製造した。得られた非晶質炭素含有布は、上記の綿布が有する柔軟性を実質的に保持している。
【0092】
〔抗菌性の評価〕
実施例1および参考例2で得られた非晶質炭素含有布に関して、JIS-L-1902:2015菌液吸収法に従い、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphpylococcus aureus)、サルモネラ菌(Salmonella bongori)、および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に対する抗菌性を評価した。
【0093】
また、実施例1および参考例2で得られた非晶質炭素含有布に対し、高圧蒸気滅菌処理を行い、当該高圧蒸気滅菌処理を行った後の非晶質炭素含有布に関しても、同様にして抗菌活性を評価した。高圧蒸気滅菌処理は、非晶質炭素含有布が良好な抗菌効果を長期間維持することができるかどうかを確認するために、繰り返し行った。
【0094】
上記高圧蒸気滅菌処理は、医療現場で用いられている滅菌処理条件(オートクレーブ滅菌、蒸気温度126℃、滅菌時間15分間)を採用して行った。対照試料として、綿布(JIS-L-0803準拠 試験用添付白布 カナキン3号)を用いた。
【0095】
具体的には、以下の試験手順により、試験試料(および対照試料)の抗菌活性値を求めて抗菌効果を評価した。
【0096】
JIS-L-1902:2015に従い、各菌液を、バイアル中の試験試料(または対照試料)に滴下して接種した後、37℃で18時間培養した。次いで、洗い出し用生理食塩水をバイアルに加えて、試験試料(または対照試料)から細菌を洗い出し、当該洗い出し用生理食塩水中の生菌数を、混釈平板培養法または発光測定法により測定した。測定された生菌数から、下記式に従い、抗菌活性値(試験試料数n=3の平均値)を算出した。下記式中、「Mf」は抗菌活性値を表し、「Fa0」は対照試料の接種直後の生菌数を表し、「Fa1」は対照試料の培養後の生菌数を表し、「Fb0」は試験試料の接種直後の生菌数を表し、「Fb1」は試験試料の培養後の生菌数を表す。
[式]
Mf={log(Fa1)-log(Fa0)}-{log(Fb1)-log(Fb0)}
【0097】
一般的には、抗菌活性値が2以上であれば、試験試料は、抗菌性を有すると評価される。結果を
図1~4に示す。
【0098】
図1は、実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有綿布の大腸菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。高圧蒸気滅菌処理(以下、単に「滅菌処理」と記す)前の試験試料に関して、実施例1および
参考例2の何れの非晶質炭素含有布も、測定上限である6.6を超える高い抗菌活性値を示した。さらに、実施例1の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を20回施した後も、測定上限を超える抗菌活性値を示し、滅菌処理を50回施した後も、5を超える高い抗菌活性値を維持していた。また、
参考例2の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を20回施した後も、2を超える抗菌活性値を示し、抗菌活性を維持していた。
【0099】
図2は、実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有綿布の黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。滅菌処理前の試験試料に関して、実施例1および
参考例2の何れの非晶質炭素含有布も、測定上限である4.7を超える高い抗菌活性値を示した。さらに、実施例1の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を20回施した後も、測定上限を超える抗菌活性値を示し、滅菌処理を50回施した後も、4を超える高い抗菌活性値を維持していた。また、
参考例2の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を20回施した後も、2を超える抗菌活性値を示し、抗菌性を維持していた。
【0100】
図3は、実施例1の非晶質炭素含有綿布のサルモネラ球菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。滅菌処理前の試験試料に関して、実施例1の非晶質炭素含有布は、測定上限である5.8を超える高い抗菌活性値を示した。また、実施例1の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を50回施した後も、測定上限を超える抗菌活性値を維持していた。
【0101】
図4は、実施例1の非晶質炭素含有綿布の肺炎桿菌に対する抗菌活性値の評価結果を示すグラフである。滅菌処理前の試験試料に関して、実施例1の非晶質炭素含有布は、測定上限である5.8を超える高い抗菌活性値を示した。また、実施例1の非晶質炭素含有布は、滅菌処理を20回施した後も、測定上限を超える抗菌活性値を維持していた。
【0102】
〔抗ウイルス性の評価〕
実施例1および参考例2で得られた非晶質炭素含有布に関して、JIS-L-1922:2016の抗ウイルス性試験方法に従い、A型インフルエンザウイルス(H3N2)に対する抗ウイルス性を評価した。
【0103】
具体的には、以下の試験手順により、試験試料(および対照試料)の抗ウイルス活性値Mvを求めて抗ウイルス効果を評価した。対照試料として、JIS-L-1922:2016で指定された標準布を用いた。
【0104】
JIS-L-1922:2016に従い、ウイルス懸濁液を、バイアル中の試験試料(または対照試料)に滴下して接種した後、25℃で2時間放置した。次いで、洗い出し液をバイアルに加えて、試験試料(または対照試料)からウイルスを洗い出し、当該洗い出し液を段階希釈し、ウイルス感染価(PFU/バイアル)をプラーク測定法により測定した。測定されたウイルス感染価から、下記式に従い、抗ウイルス活性値(試験試料数n=3の平均値)を算出した。下記式中、「Mv」は抗ウイルス活性値を表し、「Va」は対照試料の接種直後のウイルス感染価を表し、「Vb」は試験試料の2時間放置後のウイルス感染価を表す。
[式] Mv=log(Va)-log(Vb)
【0105】
JIS-L-1922:2016において、抗ウイルス活性値Mvは、2.0≦Mv<3.0であればSmall effectと評価され、3.0≦MvであればFull effectと評価される。結果を
図5に示す。
【0106】
図5は、実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布のA型インフルエンザウイルス(H3N2)に対する抗ウイルス性の評価結果を示すグラフである。実施例1および
参考例2の何れの非晶質炭素含有布も、十分な抗ウイルス性あり(Full effect)と評価される3.0を超える高い抗ウイルス活性値を示した。さらに、実施例1の非晶質炭素含有布は、測定上限(4.3)を超える抗ウイルス活性値を示した。
【0107】
〔非晶質炭素含有布の表面の観察〕
実施例1および実施2の非晶質炭素含有布、並びに、対照試料である綿布の表面を、SEMおよび顕微鏡を用いて観察した。結果を
図6~10に示す。
【0108】
図6は、綿布並びに実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を、倍率:100倍(上段)および倍率:500倍(下段)にて示すSEM画像である。
図7は、綿布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
図8は、実施例1の非晶質炭素含有布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
図9は、
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を倍率:1000倍にて示すSEM画像である。
図10は、綿布並びに実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布の表面を、マイクロスコープにより観察した顕微鏡写真である。
【0109】
図10の写真は、綿布が白色であるのに対して、実施例1、
参考例2の非晶質炭素含有布が黄色から薄褐色に均一に発色していることを示している。また、
図6の写真は、実施例1、
参考例2の非晶質炭素含有布が、綿布のそれと実質的に同じ、繊維の編み込みによる多孔質構造(網目構造)を有することを示している。また、
図7~9の写真は、実施例1、
参考例2の非晶質炭素含有布では、非晶質炭素が綿布の繊維の表面を覆うように形成されていることを示している。
図7~9によれば、実施例の非晶質炭素含有布では、非晶質炭素で表面を覆われていても繊維同士は実質的には独立しており、非晶質炭素によって実質的には結合していないことが分かる。
【0110】
図6~10に示される通り、実施例1および
参考例2の非晶質炭素含有布の表面において、非晶質炭素は、布を構成する繊維同士を結合させることなく、上記繊維の表面の少なくとも一部を覆うように付着していることが確認された。
【0111】
なお、実施例1および参考例2の非晶質炭素含有布が抗ウイルス性を示す理由は、以下のように考えられる。すなわち、綿布の繊維が多孔質構造を構成し、当該多孔質構造の表面を非晶質炭素が覆っていることから、ウイルスが非晶質炭素含有布の表面に付着するまでの間、あるいは、付着後に再び浮遊する場合などに、高い頻度で非晶質炭素と接触し、その結果、ウイルスが不活性化するため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、衛生用品または医療用品に、特に好適に利用することができる。