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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】精油組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/752 20060101AFI20240215BHJP
   A61K 36/15 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240215BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20240215BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240215BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20240215BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240215BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240215BHJP
【FI】
A61K36/752
A61K36/15
A61P43/00 105
A61P29/00
A61P25/00
A61P25/24
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61K8/9789
A61Q13/00 101
A23L33/105
A23K10/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023540778
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2022043319
(87)【国際公開番号】W WO2023166796
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022032704
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505082350
【氏名又は名称】学校法人 明治薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】508277645
【氏名又は名称】カラーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】岡野 利彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 研之
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-132629(JP,A)
【文献】特表2017-533960(JP,A)
【文献】HORVATH, G. et al.,Three chemotypes of thyme (Thymus vulgaris L.) essential oil and their main compounds affect differe,BMC Complementary Medicine and Therapies,2021年,Vol.21,Article 148 (p.1-14),https://doi.org/10.1186/s12906-021-03319-w
【文献】XU, M. et al.,Essential oil of Schisandra chinensis ameliorates cognitive decline in mice by alleviating inflammat,Food & Function,2019年,Vol.10 No.9,p.5827-5842
【文献】CHEN, J. et al.,Anti-Inflammatory Property of the Essential Oil from Cinnamomum camphora (Linn.) Presl Leaves and th,Molecules,2020年,Vol.25 No.20,Article 4796 (p.1-13)
【文献】BUONOMO, M. and HYLWA, S.,Allergic contact dermatitis from Boswellia carterii (frankincense) oil,Contact Dermatitis,2021年,Vol.85 No.4,p.465-467
【文献】YAKUGAKU ZASSHI,2021年,Vol.141 No.6,p.819-824
【文献】日本神経化学会大会抄録集,Vol.62nd,2019年,PA-367
【文献】Behavioural Brain Research,2015年,Vol.281,p.32-42
【文献】Chemistry & Biodiversity,2022年04月,Vol.19 No.4,p.e202100910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトルスメジカブルガリス果皮油、レモン果皮油、ライム油、及びセイヨウアカマツ葉油からなる群から選択される揮発性の精油を1種以上含む、ミクログリア細胞の活性化を抑制するための組成物。
【請求項2】
前記精油が、シトルスメジカブルガリス果皮油、レモン果皮油、及びライム油からなる群から選択される1種以上の精油である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記精油の含有量が、前記組成物を100質量%とした場合、0.001~30質量%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、医薬組成物、飲食品、化粧品、動物用飼料、又は雑貨品である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症を抑制するための医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記炎症の抑制が、IL-1α、IL-1β、IL-6、IFN-γ、MCP-1及びTNF-αから選択される炎症誘導性サイトカインの放出の抑制を伴うものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記炎症が、脳内及び/又は脊髄内の炎症である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が、ミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患を治療又は予防するための医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記神経性疾患が、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発硬化症、側索硬化症、ハンチントン舞踏病、及び慢性疲労症候群から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
シトルスメジカブルガリス果皮油、レモン果皮油、ライム油、及びセイヨウアカマツ葉油からなる群から選択される精油を1種以上含む、IL-1βの放出を抑制するための組成物。
【請求項11】
前記精油が、シトルスメジカブルガリス果皮油、レモン果皮油、及びライム油からなる群から選択される1種以上の精油である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記精油の含有量が、組成物を100質量%とした場合、0.001~30質量%である、請求項10又は11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミクログリア細胞の活性化を抑制するための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクログリア細胞は、中枢神経系の支持組織の一部を構成する中胚葉起源の小型、非ニューロン性間質細胞である。通常、ミクログリア細胞は、ラミファイド型と呼ばれる複数の細長い分岐突起を有する。神経細胞の傷害などの刺激が加わると、ミクログリア細胞が活性化されてアメーバ状のアメボイド型に形態が変化する。近年、脳内のミクログリア細胞の活性化が、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発硬化症、側索硬化症、及びハンチントン舞踏病などの原因となり得ること、また、脊髄内のミクログリア細胞の活性化が慢性疲労症候群の原因となり得ることが知られている。一方、精油は、主に植物から抽出して得られる揮発性の芳香成分を含む油分を意味し、アロマテラピーや芳香剤、皮膚への塗布剤として使用されるほか、抗炎症作用や抗菌作用も有することが報告されている。一部の精油成分には、揮発した精油を吸入すると、精油の成分が脳内に移行することも報告されている。
しかし、精油とミクログリア細胞との関係、特に、精油におけるミクログリア細胞の活性化を抑制する効果について、検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-63018号公報
【文献】国際公開第2018/029793号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Maria Graca, "Antioxidant and Anti-Inflammatory Activities of Essential Oils: A Short Review", Miguel, Molecules 2010, 15, 9252-9287頁
【文献】Magdalena Valdivieso-Ugarte, et. al., "Antimicrobial, Antioxidant, and Immunomodulatory Properties of Essential Oils: A Systematic Review", Nutrients 2019, 11, 2786
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的の一つは、ミクログリア細胞の活性化を抑制するための組成物、例えば、飲食品や化粧品等を提供することである。本発明の目的の一つは、IL-1βの放出を抑制するための組成物を提供することである。本発明の目的の一つは、ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症を抑制するための医薬組成物を提供することである。本発明の目的の一つは、ミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患を治療又は予防するための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の精油にはミクログリア細胞の活性化を抑制する効果があることを見出し、及び/又はIL-1βの放出を抑制する効果があることを見出し、本発明に至った。より具体的には、本発明は以下の態様であり得る。
〔1〕シトルスメジカブルガリス果皮油、ニュウコウジュ油、レモン果皮油、ライム油、セイヨウアカマツ葉油、ローマカミツレ花油、スペアミント油、及びイランイラン花油からなる群から選択される精油を1種以上含む、ミクログリア細胞の活性化を抑制するための組成物。
〔2〕前記精油が、ニュウコウジュ油及びローマカミツレ花油からなる群から選択される1種以上の精油である、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記精油の含有量が、前記組成物を100質量%とした場合、0.001~30質量%である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記組成物が、医薬組成物、飲食品、化粧品、動物用飼料、又は雑貨品である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕前記組成物が、ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症を抑制するための医薬組成物である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔6〕前記炎症の抑制が、IL-1α、IL-1β、IL-6、IFN-γ、MCP-1及びTNF-αから選択される炎症誘導性サイトカインの放出の抑制を伴うものである、前記〔5〕に記載の組成物。
〔7〕前記炎症が、脳内及び/又は脊髄内の炎症である、前記〔5〕又は〔6〕に記載の医薬組成物。
〔8〕前記組成物が、ミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患を治療又は予防するための医薬組成物である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔9〕前記神経性疾患が、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発硬化症、側索硬化症、ハンチントン舞踏病、及び慢性疲労症候群から選択される、前記〔8〕に記載の医薬組成物。
〔10〕シトルスメジカブルガリス果皮油、ニュウコウジュ油、レモン果皮油、ライム油、セイヨウアカマツ葉油、ローマカミツレ花油、スペアミント油、及びイランイラン花油からなる群から選択される精油を1種以上含む、IL-1βの放出を抑制するための組成物。
〔11〕前記精油が、ニュウコウジュ油及びローマカミツレ花油からなる群から選択される1種以上の精油である、前記〔10〕に記載の組成物。
〔12〕前記精油の含有量が、組成物を100質量%とした場合、0.001~30質量%である、前記〔10〕又は〔11〕に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミクログリア細胞の活性化を抑制する効果、及び/又はIL-1βの放出を抑制する効果を提供することができる。また、本発明によれば、ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症を抑制する効果、及びミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患を治療又は予防する効果を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、発明を実施するための形態を詳説するが、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「例えば」、「好ましい」、及び「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0009】
<組成物>
本発明の一態様は、特定の精油を含む組成物である。ここで、組成物は、精油それ自体や精油を含む混合物であれば、溶液、ゲル、固形物、及びミストなどの形態にとらわれることはない。組成物は、医薬組成物や製剤のみならず、飲食品、化粧品、動物用飼料、及び雑貨品等であってもよいし、当該組成物を原料とし、既存の医薬組成物、飲食品、化粧品、動物用飼料、及び雑貨品等と組み合わせてもよい。
<精油>
精油は、主に植物から抽出して得られる油分、好ましくは揮発性の芳香成分を含む油分を意味する。精油は動物由来精油と植物由来精油とが存在するが、本発明では植物由来精油が好ましい。精油は常温(25℃±5℃)にて液体であることが好ましい。本発明では、揮発性が高い精油である方が、アロマディフューザーを使用する場合のように吸引により精油中の有効成分を体内に取り入れることができ、簡易な投与形態であるから好ましい。精油を抽出する植物の部位については、特に限定はないが、例えば、葉、根、茎、樹皮、種、花、果実、果実の果皮、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。植物は、そのまま、あるいは、植物を乾燥し、破砕して使用することもできる。
【0010】
本発明の有効成分として使用できる精油は、シトルスメジカブルガリス果皮油、ニュウコウジュ油、レモン果皮油、ライム油、セイヨウアカマツ葉油、ローマカミツレ花油、スペアミント油、及びイランイラン花油からなる群から選択される1種以上の精油である。ここで、シトルスメジカブルガリス果皮油は、シトルスメジカブルガリスの果皮から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。ニュウコウジュ油は、ニュウコウジュの木部、樹皮または樹液を含むニュウコウジュの一部または全体から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。レモン果皮油は、レモンの果皮から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。ライム油は、ライムの果実、果皮または果肉等を含むライムの一部または全体から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。セイヨウアカマツ葉油は、セイヨウアカマツの葉から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。ローマカミツレ花油は、ローマカミツレの花から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。スペアミント油は、スペアミントの葉、茎、根等を含むスペアミントの一部または全体から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。イランイラン花油は、イランイランの花から抽出して得られる芳香成分を含む油分を言う。好ましい抽出方法については、後述する。
【0011】
より具体的には以下の表1のような精油であることが好ましい。
表1
【0012】
好ましくは、シトルスメジカブルガリス果皮油、ニュウコウジュ油、ライム油、及びローマカミツレ花油からなる群から選択される1種以上の精油、又は、ニュウコウジュ油、レモン果皮油、ライム油、及びイランイラン花油からなる群から選択される1種以上の精油である。より好ましくは、ニュウコウジュ油及びローマカミツレ花油からなる群から選択される1種以上の精油である。これらの精油は、ミクログリア細胞の活性化を抑制する等の顕著な効果を有することが具体的に見いだされたものであり、好ましい。この効果は、これらの精油に類似するベルガモット果実油、ハッカ葉油、及びユーカリ葉油では発揮されないことからすると、驚くべきである。これらの本発明の有効成分として使用できる精油は、単独で使用する場合のほか、2種以上の精油を組み合わせて使用してもよい。2種の精油を組み合わせて使用する場合、質量比で例えば99:1~1:99、好ましくは9:1~1:9、より好ましくは5:1~1:5、更に好ましくは2:1~1:2であることが適当である。
【0013】
本願発明の組成物中の精油の含有量は、組成物を100質量%とした場合、例えば、0.001~30質量%、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、更に好ましくは0.1~10質量%であることが適当である。当該組成物がエタノールを含有する組成物である場合、本願発明の組成物中の精油の含有量は、例えば、0.001~30質量%、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、更に好ましくは0.1~10質量%であることが適当である。また、精油の含有量は、組成物の形態によっても異なり、例えば当該組成物が医薬品等の原料として利用されたり、アロマディフューザーのような形態で使用される場合、本願発明の組成物中、精油が30~100質量%、70~100質量%又は95~98質量%であってもよい。
【0014】
<任意成分>
本発明の組成物には、上記有効成分である精油のほか、その他の精油やその他の有効成分を含んでもよい。その他の精油は本発明の作用効果は期待できないものの、それ以外のリラックス効果や保湿効果などを得ることができる。その他の精油としては、ユズ果皮油、ベルガモット葉油、ベルガモット果実油、ダマスクバラ花油、ショウズク種子油、エンピツビャクシン油、カミツレ花油、オニサルビア油、ユーカリ葉油、ニオイテンジクアオイ油、ショウガ根油、オレンジ油、ビターオレンジ葉/枝油、ビターオレンジ花油、ビターオレンジ果皮油、マンダリンオレンジ果皮油、ローズマリー葉油、ヒノキ油、クスノキ葉油、ラバンデュラハイブリダ油、ラベンダー油、ギンコウボク葉油、ギンコウボク花油、マヨラナ葉油、メリッサ葉油、パルマローザ油、ヒロハラベンダー花油、ビャクダン油、オオベニミカン果皮油、セイヨウハッカ油、タチジャコウソウ花/葉油、ハッカ葉油、コリアンダー果実油、イタリアイトスギ葉/実/茎油、セイヨウネズ果実油、レモングラス油、アオモジ果実油、ティーツリー葉油、ベチベル根油、メボウキ油、セイヨウカノコソウ根油等を挙げることができる(ここで「/」は「または」を意味する)。これらその他の精油は、本発明と同様に、精油において通常使用される抽出方法により得られたものであり、例えば、圧搾、搾汁、溶媒抽出、水蒸気蒸留、超臨界抽出、炭酸ガス抽出、冷浸法、温浸法などを単独あるいは組み合わせた方法で抽出された精油を使用することができる。
組成物中のその他の精油の含有量は、本来の有効成分(精油)の効果を損なわない量であれば、任意の量を加えることができるが、例えば、例えば、0.001質量%~70質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~30質量%含有することが適当である。
【0015】
その他の有効成分は、ミクログリア細胞の活性化を抑制する効果や、IL-1βの放出を抑制する効果のような本願発明が奏する効果及びそれ以外の効果、例えば、抗菌、除虫、抗炎症、鎮痛、鎮静、リラックス効果等の効果が得られる公知の有効成分を挙げることができる。その他の有効成分としては、例えば、βラクタム系抗菌剤、ホスホマイシン、バンコマイシン、ミノサイクリン、シクレソニド等を挙げることができる。
組成物中のその他の有効成分の含有量は、本来の有効成分(精油)の効果を損なわない量であれば、任意の量を加えることができるが、例えば、例えば、0.001質量%~90質量%、好ましくは0.01質量%~70質量%、より好ましくは0.1質量%~50質量%含有することが適当である。
【0016】
さらに、本発明の組成物には、組成物の用途や目的に応じて、任意に賦形剤、結合剤、乳化剤、溶剤、粘着剤、崩壊剤、粘稠剤、滑沢剤、着色剤、流動剤、保湿剤等の添加剤を添加してもよい。賦形剤としては、例えば、アルコール、グリセリン、デキストリン、澱粉等を挙げることができる。結合剤としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを挙げることができる。乳化剤としては、例えば、レシチン、ポリエチレングリコール(PG)、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの一価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒;アボガド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリグリセリン等の液体油脂;流動パラフィン、オゾケライト、スクワラン、プリスタン、パラフィン、セレシン、スクワレン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素油;オクタン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリトリット、コハク酸ジオクチル、ジネオペンタン酸トリプロピレングリコール等の合成エステル油などの化粧品や医薬部外品に通常用いられる油分及び水などを挙げることができる。好ましい溶剤としては、エタノール、オリーブ油、スクワラン、ミリスチン酸ミリスチル及び水を挙げることができる。これらの添加剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。例えばアルコール類など、賦形剤としても溶剤としても作用するものは、1種類を含む場合でも賦形剤及び溶剤の双方の添加剤として作用する。組成物中の添加剤の含有量は、有効成分の効果を損なわない量であれば、任意の量を加えることができるが、例えば、0.001質量%~70質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~30質量%含有することが適当である。なかでも有機溶媒については、組成物を100質量%とした場合、例えば、1質量%~99.9質量%、好ましくは1質量%~99質量%、より好ましくは20質量%~90質量%程度含有することが適当である。油分については、例えば、0.01~95質量%、好ましくは1~90質量%、より好ましくは5~80質量%程度含有することが適当である。
【0017】
<製造方法・抽出方法>
精油の製造方法としては、一般的に精油の調製に使用される方法を用いることができるが、一般に植物を抽出して精油を得る方法として公知の方法を用いることができる。抽出方法としては、例えば、圧搾、搾汁、溶媒抽出、水蒸気蒸留、超臨界抽出、炭酸ガス抽出、冷浸法、温浸法などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。これらの抽出方法によって得られた抽出液から、さらに任意に溶媒等を除去することにより、精油を得ることができる。抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの一価又は多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒;及び水などを挙げることができる。
抽出における抽出条件は、使用する植物や溶媒によっても異なるが、一般的に抽出方法で使用される温度、圧力、抽出時間等を使用することができる。例えば、水蒸気を使用する水蒸気蒸留法では、一般的な精油の沸点(150~350℃)以下の40~120℃、好ましくは50~100℃の温度で、例えば5~200kPa、好ましくは10~100kPaの減圧下で行われてもよい。エタノール等のアルコールを用いた抽出法では、例えば、常温(25℃±5℃)で300~1000kPa、好ましくは500~800kPa程度の高圧下で行われてもよい。抽出溶媒は、抽出操作の後で除去してもよい。
【0018】
<用途>
本発明の組成物は、医薬組成物のみならず、飲食料品、化粧品、動物用飼料、雑貨品に含めて使用することができる。医薬組成物としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、及び舌下剤等の経口投与剤;注射剤(静脈注射、筋肉注射、局所注射等)、含嗽剤、点滴剤、外用剤(軟膏、クリーム、パップ剤、貼付薬、吸入薬)、及び座剤等の非経口投与剤等を挙げることができる。飲食料品としては、飲料と食品があり、飲料としては、例えば、茶、コーヒー、清涼飲料水、果汁飲料、炭酸飲料、スポーツ飲料、ノンアルコール飲料、及びアルコール飲料等を挙げることができる。食品としては、ヒトに与えられる食糧全般、例えば、植物性食品、動物性食品、合成食品、穀類、パン、麺、ケーキ、麺、フリーズドライ食品、乳製品、調味料、冷凍食品、栄養補助食品、及び医療食品等を挙げることができる。化粧品としては、例えば、化粧水、乳液、保湿剤、美容液、スキンオイル、香水、サンスクリーン、シェービングローション、パック、ヘアトニック、ヘアバーム、ヘアワックス、ヘアグリース、ヘアオイル、ヘアトリートメント、ヘアカラー、洗顔料、ボディシャンプー、シャンプー、リンス、コンディショナー、クレンジング、クリーム、ボディクリーム、ハンドクリーム、化粧下地、ファンデーション、マスカラ、アイライナー、コンシーラー、口紅、リップクリーム、グロス及びネイルカラー等を挙げることができる。動物用飼料としては、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタ、サル、ウサギ、モルモット、マウス、トリ、ニワトリ、アヒル、及びヤギ等の動物用、特に哺乳動物用のエサを挙げることができる。雑貨品としては、例えば、芳香剤、アロマディフューザー、アロマキャンドル、アロマストーン、アロマミスト、衣料用ミスト、消臭ミスト、ピローミスト、防虫剤、衣料用洗剤、柔軟剤及び入浴剤を挙げることができる。
医薬組成物、飲食料品、化粧品、動物用飼料、及び雑貨品等に含める場合の組成物の含有量は、含められる医薬組成物等の種類にもよるが、本発明の効果を損なわない量で、全体量に対して、医薬組成物では、例えば、0.001質量%~70質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~30質量%含有することが適当である。飲食料品では、例えば、0.001質量%~50質量%、好ましくは0.01質量%~30質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%含有することが適当である。化粧品では、例えば、0.001質量%~70質量%、好ましくは0.01質量%~50質量%、より好ましくは0.1質量%~30質量%含有することが適当である。動物用飼料では、例えば、0.001質量%~50質量%、好ましくは0.01質量%~30質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%含有することが適当である。雑貨品では、例えば、0.01質量%~100質量%、好ましくは0.01質量%~80質量%、より好ましくは0.1質量%~50質量%含有することが適当である。
【0019】
<使用方法>
本発明の組成物は、ミクログリア細胞の活性化を抑制するために使用される(ミクログリア細胞活性化の抑制方法)。ミクログリア細胞とは、中枢神経系の支持組織の一部を構成する中胚葉起源の小型、非ニューロン性間質細胞である。精油は一般的に抗炎症作用を有することが知られているが、ミクログリア細胞の活性化を抑制する効果は知られておらず、この度、ごく一部の精油にのみミクログリア細胞の活性化を抑制する効果が認められた。このような効果が見られることは驚くべきことであり、ひいてはミクログリア細胞の活性化に起因する疾病や症状を軽減及び治癒できることが期待される。従って、本発明の組成物は、ミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患を治療又は予防にも使用され得る(ミクログリア細胞の活性化に起因する神経性疾患の治療又は予防方法)。ここで神経性疾患としては、例えば、うつ病、統合失調症、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発硬化症、側索硬化症、ハンチントン舞踏病、慢性疲労症候群等を挙げることができる。
【0020】
本発明の組成物は、また、IL-1βの放出を抑制するためにも使用される(IL-1β放出抑制方法)。特に本発明の特定の精油を使用することにより、実質的な、又は、大きな細胞毒性を示さずに、IL-1βの産生抑制効果を得られることがわかった。
本発明の組成物は、さらに、ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症を抑制するためにも使用される(ミクログリア細胞の活性化に起因する炎症抑制方法)。ここで炎症としては、脳内や脊髄内の炎症を主に挙げることができる。炎症が起きる脳内部位としては、例えば、海馬、大脳皮質、小脳、基底核、黒質線条体等を挙げることができる。炎症が起きる脊髄部位としては脊髄後角等を挙げることができる。当該炎症は、例えば、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-6、IL-12、IL-17、IL-18、IFN-γ、MCP-1及びTNF-αから選択される炎症誘導性サイトカインの発現、好ましくは、IL-1α、IL-1β、IFN-γ、MCP-1、及びTNF-αから選択される炎症誘導性サイトカインの放出(発現)を伴う。本発明の組成物、特に有効成分である特定の精油は、これらIL-1βをはじめとする炎症誘導性サイトカインの放出(発現)を抑制し、もってミクログリア細胞の活性化を抑制するものと推察される。ここで、ミクログリア細胞としては、MG6細胞、iCell(R) microglia、及びBV2細胞を挙げることができる。
【0021】
<投与方法>
本発明の組成物は、医薬組成物や食品(特に機能性食品や栄養補助食品)の形態である場合、その剤型、投与対象、投与ルート、対象疾患、症状、有効成分濃度等によっても異なるが、例えば、一日あたりの有効成分の投与量として、例えば、0.1~20mg/kg体重、好ましくは0.2~10mg/kg体重、さらに好ましくは0.5~10mg/kg体重であり、この量を1日1回~数回(例、2回、3回、4回又は8回)投与するのが望ましい。本発明の組成物を成人(体重70kg)に投与する場合、例えば、0.1~20mg/日、好ましくは0.2~10mg/日、さらに好ましくは0.5~10mg/日の量であることが適当である。
投与方法としては、医薬組成物や食品の剤型や形態によって異なるが、例えば液剤を投与対象に吸引によって投与する場合、アロマディフューザー、スプレー、及びミスト等によって投与することが好ましい。
【実施例
【0022】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1[組成物の調製]
各精油として、表2のリストに記載された精油を使用した。各精油の2~3mgを秤量し、9倍量(w/w)のエタノールを加えて、10%(w/w)のエタノール溶液としての各精油の組成物を調製した。
【0024】
表2
【0025】
比較例1[組成物の調製]
比較例の精油として、表3のリストに記載された精油を使用した。実施例1と同様に、精油の2~3mgを秤量し、9倍量(w/w)のエタノールを加えて、10%(w/w)のエタノール溶液としての各組成物を調製した。
【0026】
表3
【0027】
[MG6細胞の入手方法と培地の調製法]
マウス由来ミクログリア細胞株のMG6細胞は、理化学研究所の細胞バンク(細胞番号RCB2403)から購入した。培養に用いた培地は、D-MEM(富士フィルム和光製、製品番号;049-32645)500mLに対して、牛胎児血清(Biofill社製)を50mL添加し、インスリン(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号:099-06473)と2-メルカプトエタノールとを、それぞれ終濃度で10μg/mLと0.1mmol/Lとになるように添加して調製した(以下、培地Aとする)。MG6細胞の培養は、理化学研究所の細胞バンクが指定する方法に従った。
【0028】
[MG6細胞を用いたミクログリアのLPSおよびATPによる活性化の方法]
MG6細胞からのIL-1β放出量を測定する前に、0.5×105 cells/wellとなるように24wellプレートにMG6細胞を播種し、翌日、細胞が接着していることを確認して、以下の操作を行った。まず、培地Aに終濃度で1μg/mLとなるような量のLPS(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号:125-05181)を添加した培地1を準備した。また、新たな培地Aに終濃度で1mmol/Lとなるような量のATP(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号:303-50511)を添加した培地2を準備した。上記の通り準備した24wellプレートに培養したMG6細胞に対して、各wellの培地を除去した後、培地1を0.5mL/wellずつ添加し、4時間の培養を行った。次に各wellの培地を除去して、各wellのMG6細胞に対して培地2を0.5mL/wellずつ添加し、30分間の培養を行った。当該30分の培養後に、各wellから培地を活性化測定用培地として回収するとともに、新たな上記培地Aに0.1%のTriton X-100(ナカライテスク社製)を加えて調製した溶液を、各Wellに0.5 mL/wellずつ加えて、MG6細胞を含有する細胞溶解液を調製した。
【0029】
[精油及びLPSまたはATPを含有する培地の調製方法]
精油等の効果を検討するために、まず、終濃度で、上記培地1及び培地2のそれぞれ2倍量のLPSまたはATPを添加した以外は、培地1または培地2と同様に調製した培地3または培地4を用意した。また、上記実施例1及び比較例1で調製した各組成物(精油の10%(w/w)のエタノール溶液)の10μLを分取し、5mLの上記培地Aに加えた。その後、超音波ホモジナイザー(Branson社製、製品番号:SFX150)を用いて懸濁させ、培地5とした。この培地5と培地3または培地4を3mLずつ混和し、LPSまたはATPを含有する培養培地中の各精油の終濃度が100ppmとなるように調製し、これをそれぞれ培地6または7とした。
【0030】
[精油を添加した条件におけるMG6細胞の活性化の方法]
前項の[MG6細胞を用いたミクログリアのLPSおよびATPによる活性化の方法]と同様に、0.5×105 cells/wellとなるように24wellプレートにMG6細胞を播種し、翌日、細胞が接着していることを確認して24wellプレート上で培養したMG6細胞を準備した。当該準備した24wellプレート上で培養したMG6細胞に対して、各wellから培地を除去した後、培地6を各wellに0.5 mL/wellずつ添加し、MG6細胞を4時間培養した。次に、各wellから培地を除去した後、培地7を各wellに0.5 mL/wellずつ添加し、MG6細胞をさらに30分間培養した。当該30分の培養後、各wellから培地を活性化測定用培地として回収するとともに、新たな上記培地Aに0.1%のTriton X-100(ナカライテスク社製)を加えて調製した溶液を、各Wellに0.5 mL/wellずつ加えて、MG6細胞を含有する細胞溶解液を調製した。
【0031】
[MG6細胞によるIL-1β放出量の測定]
培養後の上記の活性化測定用培地および細胞溶解液のIL-1β濃度は、BioLegend社のELISAキット(ELISA MAXTM Deluxe Set Mouse IL-1β、製品番号:432604)を用いて測定した。以下、各試験において「コントロール」は、MG6細胞を含有し、[MG6細胞を用いたミクログリアのLPSおよびATPによる活性化の方法]で調製した精油を含有しない細胞溶解液である。「MCC950」は、NLRP3インフラマソームの阻害剤であるMCC950(フナコシ株式会社、製品番号:AG-CR1-3615-M001)を、さらに終濃度10μmol/Lとなるように培地1および培地2に添加したものであり、実際にIL-1β放出が抑制されることを確認するための陽性対照として用いた。なお、表4-1~表4-5中のIL-1β濃度は3回測定した平均の値である。
【0032】
表4-1
【0033】
表4-2
【0034】
表4-3
【0035】
表4-4
【0036】
表4-5
【0037】
[MG6細胞に対する細胞障害率試験]
精油のMG6活性化抑制効果が細胞障害による非特異的な効果ではないことを確認するために、LDHアッセイによる細胞障害率の測定を行った。富士フィルム和光純薬社製のLDHアッセイキット(製品番号:341-91754)を用いて、培養後の活性化測定用培地及び細胞溶解液のLDH活性を測定した。各wellの活性化測定用培地と細胞溶解液のLDH活性の合計を総LDH活性とし、細胞溶解液のLDH活性の総LDH活性に対する比を細胞障害率として%で表した。使用した「コントロール」及び「MCC950」は表4-1~表4-5と同じである。コントロールと比較して、細胞障害率の大きな上昇を認めない精油の中で、IL-1βの培地中への放出量を抑制したものを、特にMG6細胞の活性化を抑制する効果が顕著に優れたものとした。なお、表5-1~表5-5中の細胞障害率は3回測定した平均の値である。
【0038】
表5-1
【0039】
表5-2
【0040】
表5-3
【0041】
表5-4
【0042】
表5-5
【0043】
[iCell(R) microgliaに対するIL-1β放出抑制試験]
・ヒトiPS細胞由来のミクログリア細胞を含有し、精油を含有しない細胞溶解液の調製(コントロール用)
ミクログリア細胞として、ヒトiPS細胞由来のミクログリア細胞であるiCell(R) ミクログリア(FUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.製)を使用した。なお、iCellはフジフイルム セルラー ダイナミクス インコーポレイテッドの登録商標である。iCell(R)ミクログリアの培養は、富士フィルム和光純薬社の推奨している培養方法に従って行った。具体的には、まず、iCell(R)ミクログリア用基礎培地(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:556-36861)にiCell(R)ミクログリア用サプリメントA(品番:550-36881)とiCell(R)ミクログリア用サプリメントB(品番:557-36891)とiCell(R)神経用サプリメントC(品番:553-36871)を添加し、培地を調製した(以下、培地Bとする)。iCell(R)ミクログリアの接着性が弱いため、培養の際に培養容器をセルタック細胞及び組織接着剤(Cell-Tak、コーニング社製、製品番号:CLS354240)にてコーティングした。
上記iCell(R)ミクログリアを、上記培地Bに1×105 cells/mLとなるように懸濁し、48wellプレートに0.25mL/wellずつ播種した。播種の後、Tomy社製の遠心機(品番:CAX-571)とローター(品番:TS-4C)を用いて、20℃、1,000rpmで5分間の遠心操作を行い、プレート底面に細胞を集めて接着を促進した。
播種の2日後、培地を除去した後、新たな上記培地Bに終濃度で1μg/mLのLPS(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号:125-05181)を添加した培地8を各wellに0.25mL/wellずつ加えて、iCell(R)ミクログリアを4時間培養した。次に、各wellから培地8を除去し、新たな上記培養用培地Bに終濃度で1mmol/LとなるようにATP(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品番号:303-50511)を添加した培地9を0.25mL/wellずつ加えてiCell(R)ミクログリアをさらに30分間培養した。当該30分の培養後に、各wellから培地を活性化測定用培地として回収するとともに、残ったiCell(R)ミクログリアにMTTアッセイ用の培地として培地B10mLにMTT試薬(同仁化学研究所製、品番:CK04)を1mL加えた混合液を、各wellに0.25mL/wellずつ加えて、4時間の培養を行った。当該4時間後の培養後の培地を細胞生存率測定用培地とした。
【0044】
[精油及びLPSまたはATPを含有する培地の調製方法]
精油等の効果を検討するために、まず、終濃度で、上記培地8及び培地9のそれぞれ2倍量のLPSまたはATPを添加した以外は、培地8または培地9と同様に調製した培地10または培地11を用意した。また、上記実施例1及び比較例1で調製した各組成物(精油の10%(w/w)のエタノール溶液)の10μLを分取し、5mLの上記培地Bに加えた。その後、超音波ホモジナイザー(Branson社製、製品番号:SFX150)を用いて懸濁させ、培地12とした。この培地12と培地10または培地11を3mLずつ混和し、LPSまたはATPを含有する培養培地中の各精油の終濃度が100ppmとなるように調製し、これをそれぞれ培地13または14とした。
【0045】
[精油を添加した条件におけるヒトiPS細胞由来のミクログリア細胞の活性化の方法]
前項の[iCell(R) microgliaに対するIL-1β放出抑制試験]と同様に、iCell(R)ミクログリアを、上記培地Bに1×105 cells/mLとなるように懸濁し、48wellプレートに0.25mL/wellずつ播種した。当該48wellプレート上で培養したiCell(R)ミクログリア細胞の各wellから培地を除去した後、培地13を各wellに0.25mL/wellずつ添加し、MG6細胞を4時間培養した。次に、各wellから培地を除去した後、培地14を各wellに0.25mL/wellずつ添加し、iCell(R)ミクログリア細胞をさらに30分間培養した。当該30分の培養後、各wellから培地を活性化測定用培地として回収するとともに、残ったiCell(R)ミクログリアにMTTアッセイ用の培地として培地B10mLにMTT試薬(同仁化学研究所製、品番:CK04)を1mL加えた混合液を、各wellに0.25mL/wellずつ加えて4時間の培養を行った。当該4時間後の培養後の培地を細胞生存率測定用培地とする。
【0046】
・吸光度の測定(MTTアッセイ)
精油のMG6活性化抑制効果が細胞障害による非特異的な効果ではないことを確認するために、MTTアッセイによる細胞生存率の測定を行った。上記の方法で、活性化測定用培地を回収した後にiCell(R)ミクログリア細胞にMTTアッセイ用の培地を添加し、4時間経過後に細胞生存率測定用培地を回収し、450nmの吸光度(OD450)を測定することによってMTTアッセイを行った。4時間の培養時に細胞を含まないwellにMTTアッセイ用の培地を添加し、細胞に添加した培地と同様に4時間の培養後に450nmの吸光度を測定したものをバックグラウンドとして、各試料の吸光度の値から差し引いた。コントロールの吸光度の値を100%として、各添加群の吸光度の相対値(%)を生存率とした。吸光度の値が小さいほど、精油によって細胞が非特異的に障害されていると考えるため、コントロールと比較して、細胞生存率の低下よりもIL-1βの放出量がより大きく低下したものを、ヒトiPS細胞由来のミクログリア細胞の活性化を抑制する効果が優れたものとした。なお、表6中の細胞障害率は3回測定した平均の値である。
【0047】
表6
【0048】
[iCell(R) microgliaによるIL-1β放出量の測定]
培養後の上記[iCell(R) microgliaに対するIL-1β放出抑制試験]の活性化測定用培地中のIL-1β濃度は、BioLegend社のELISAキット(ELISA MAXTM Deluxe Set Human IL-1β、製品番号:437004)を用いて測定し、iCell(R)ミクログリア細胞活性化の指標とした。コントロールは、iCell(R)ミクログリア細胞を含有し、[iCell(R) microgliaに対するIL-1β放出抑制試験]で調製した精油を含有しない活性化測定用培地である。なお、表7中のIL-1β濃度は3回測定した平均の値である。
【0049】
表7
【0050】
以下、本発明の組成物の配合例を示す。これらの配合例も、本発明の効果を発揮するものと理解できる。なお、質量%は全体(配合例1であればアロマディフューザー用オイル1全体)に対する割合である。
配合例1[アロマディフューザー用オイル1]
ニュウコウジュ油(FRANKINCENSE OIL、Boswellia Carterii Oil、Cas RN(R):89957-98-2):30質量%
エタノール:残余
【0051】
配合例2[アロマディフューザー用オイル2]
レモン果皮油(Citrus Limon(Lemon)Peel Oil、Cas RN(R):68916-89-2):10質量%
イランイラン花油(Cananga Odorata Flower Oil、Cas RN(R):8006-81-3):5.0質量%
エタノール:残余
【0052】
配合例3[ハンドミスト]
ローマカミツレ花油(Anthemis Nobilis Flower Oil、Cas RN(R):8015-92-7):0.25質量%
シトルスメジカブルガリス果皮油(Citrus Medica Vulgaris Peel Oil、Cas RN(R):93685-55-3):0.2質量%
イランイラン花油(Cananga Odorata Flower Oil、Cas RN(R):8006-81-3):0.05質量%
グリセリン:3.0質量%
エタノール:70質量%
精製水:残余
【0053】
配合例4[ロールオンフレグランス]
セイヨウアカマツ葉油(Pinus Sylvestris Leaf Oil、Cas RN(R):8023-99-2):5.4質量%
ライム油(Citrus Aurantifolia (Lime) Oil、Cas RN(R):8008-26-2):1.0質量%
スペアミント油(Mentha Viridis (Spearmint) Leaf Oil、Cas RN(R):8008-79-5):0.5質量%
ニュウコウジュ油(FRANKINCENSE OIL、Boswellia Carterii Oil、Cas RN(R):89957-98-2):0.1質量%
マカダミア種子油:2.5質量%
スクワラン:60.5質量%
ホホバ種子油:30質量%
【0054】
配合例5[超音波ディフューザー用オイル]
シトルスメジカブルガリス果皮油(Citrus Medica Vulgaris Peel Oil、Cas RN(R):93685-55-3):10質量%
レモン果皮油(Citrus Limon(Lemon)Peel Oil、Cas RN(R):68916-89-2):15質量%
イランイラン花油(Cananga Odorata Flower Oil、Cas RN(R):8006-81-3):35質量%
ライム油(Citrus Aurantifolia (Lime) Oil、Cas RN(R):8008-26-2):20質量%
スペアミント油(Mentha Viridis (Spearmint) Leaf Oil、Cas RN(R):8008-79-5):5.0質量%
ローマカミツレ花油(Anthemis Nobilis Flower Oil、Cas RN(R):8015-92-7):15質量%
【0055】
配合例6[洗顔料]
ライム油(Citrus Aurantifolia Oil、Cas RN(R):8008-26-2):2.0質量%
ステアリン酸カリウム:20質量%
ラウリン酸カリウム:5.0質量%
グリセリン:6.0質量%
1,3―ブチレングリコール:5.0質量%
水酸化ナトリウム:6.5質量%
酸化チタン:0.2質量%
クエン酸ナトリウム:0.05質量%
精製水:残余
【0056】
配合例7[化粧水]
ローマカミツレ花油(Anthemis Nobilis Flower Oil、Cas RN(R):8015-92-7):0.5質量%
ソルビット:4.0質量%
ジプロピレングリコール:6.0質量%
グリセリン:0.5質量%
PEG-32:5.0質量%
ポリクオタニウム-51:1.0質量%
アラントイン:0.01質量%
エタノール:10質量%
クエン酸:0.3質量%
精製水:残余
【0057】
配合例8[クリーム]
ニュウコウジュ油(FRANKINCENSE OIL、Boswellia Carterii Oil、Cas RN(R):89957-98-2):0.5質量%
ライム油(Citrus Aurantifolia Oil、Cas RN(R):8008-26-2):0.3質量%
ステアリン酸:2.0質量%
ステアリルアルコール:6.0質量%
水添ラノリン:4.0質量%
スクワラン:9.0質量%
オクチルドデカノール:10質量%
1,3-ブチレングリコール:6.0質量%
ポリエチレングリコール1500:4.0質量%
ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル:3.0質量%
モノステアリン酸グリセリン:2.0質量%
精製水:残余
【0058】
配合例9[飲料]
レモン果皮油(Citrus Limon(Lemon)Peel Oil、Cas RN(R):68916-89-2):0.3質量%
ライム油(Citrus Aurantifolia Oil、Cas RN(R):8008-26-2):0.3質量%
アスコルビン酸リン酸マグネシウム:0.1質量%
クエン酸:0.7質量%
果糖ブドウ糖液糖:60質量%
精製水:残余
【0059】
配合例10[錠剤]
スペアミント油(Mentha Viridis (Spearmint) Leaf Oil、Cas RN(R):8008-79-5):5.0質量%
アスコルビン酸リン酸マグネシウム:5.0質量%
トウモロコシデンプン :10質量%
精製白糖:20質量%
カルボキシメチルセルロースカルシウム:10質量%
微結晶セルロース:35質量%
ポリビニルピロリドン:5.0質量%
タルク:10質量%