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  • 特許-シリコン窒化膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】シリコン窒化膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20240215BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240215BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240215BHJP
   C23C 16/48 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 B
C23C16/42
C23C16/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020036587
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2020150261
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019040483
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 章伸
(72)【発明者】
【氏名】志波 良信
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-112314(JP,A)
【文献】特開昭60-218838(JP,A)
【文献】特開昭60-218827(JP,A)
【文献】特開2007-302958(JP,A)
【文献】特表2015-510263(JP,A)
【文献】特開平07-267621(JP,A)
【文献】特開平07-254556(JP,A)
【文献】特開平08-032085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
C23C 16/42
C23C 16/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化種と一般式Si n 2n (n=5、6、又は7)で表される環状水素化シランを別々に非プラズマ反応室に供給する工程、
前記非プラズマ反応室外で前記窒化種に紫外光を照射する工程、及び
前記紫外光を照射した窒化種と、前記環状水素化シランとを前記非プラズマ反応室内で接触させる工程を含むことを特徴とするシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項2】
前記接触工程が、非プラズマ反応室において500℃以下に加熱された基板上で、前記紫外光を照射した窒化種と、前記環状水素化シランとを接触させることにより行われる請求項1に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項3】
前記環状水素化シランが、シクロヘキサシランを少なくとも含む請求項1または2に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項4】
前記シクロヘキサシランの含有率が、前記環状水素化シラン100質量%中、80質量%以上である請求項に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項5】
前記窒化種がアンモニアである請求項1~4のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項6】
前記紫外光が、波長100~250nmを有する請求項1~5のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項7】
前記基板の温度が、80℃以上500℃以下である請求項2に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項8】
前記環状水素化シランが、不活性ガスのバブリングで気化されて非プラズマ反応室に供給される請求項~7のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
【請求項9】
窒化種と一般式Si n (2n-a) a (n=5,6,または7、a=1~2n、R=アルキル基、アリール基、NR’ 2 ,F,Cl,Br,I、R’=H,アルキル基、又はアリール基)で表される環状シランを別々に非プラズマ反応室に供給する工程、
前記非プラズマ反応室外で前記窒化種に紫外光を照射する工程、及び
前記紫外光を照射した窒化種と、前記環状シランとを前記非プラズマ反応室内で接触させる工程を含むことを特徴とするシリコン窒化膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の少なくとも1つの態様は、シリコン窒化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおいて、絶縁膜としてシリコン酸化膜(SiO2膜)やシリコン窒化膜(SiN膜)が従来から利用されている。シリコン酸化膜は一般に多孔質になりやすく、また膜厚が薄くなると電子のトンネル効果により、絶縁膜を通り抜けて電流が流れてしまうといった問題があることから、この半導体デバイスの絶縁膜(例えばゲート絶縁膜)として、電流が流れにくく比誘電率が大きいものが望まれている。
【0003】
その中で、シリコン窒化膜は、密度が大きく緻密であり、また比誘電率も大きいため電圧印加時の内部電界が小さくてすむ等の特長があり、半導体デバイスの微細化及びトランジスタのゲート絶縁膜への応用等において期待されている。
【0004】
従来のシリコン窒化膜の製造方法として、熱CVDやプラズマCVDといったCVD成膜技術(CVD:化学気層蒸着法)が挙げられ(特許文献1~5)、熱CVDは、例えばSiH4(あるいはH2SiCl2など)のケイ素化合物と、NH3などの窒化種とを成膜温度約700~900℃下で反応させる方法として、プラズマCVDは、例えばSiH4(あるいはH2SiCl2など)のケイ素化合物と、NH3、N2などの窒化種とをプラズマで励起させつつ成膜温度約350~500℃下で反応させる方法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-210780号公報
【文献】特開2010-232610号公報
【文献】特開2018-137293号公報
【文献】特開昭61-96755号公報
【文献】特開2002-151587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他方、近年の半導体デバイスにおける絶縁膜の下地層の多様化に伴い、基板及び/又は下地層へのダメージを低減する為、シリコン窒化膜の成膜温度を低温にすることが望まれている。
【0007】
しかしながら、熱CVDは、成膜温度として高温条件(700~900℃程度)を必須とすることから、基板及び/又は下地層は熱によるダメージを受ける虞がある。
他方、プラズマCVDは、熱CVDに比べて低い成膜温度を採用できるものの、高エネルギーのプラズマ処理による基板及び/又は下地層へのダメージが大きくなる虞がある。
【0008】
この様に、従来のシリコン窒化膜の製造方法は、基板及び/又は下地層へのダメージ低減を十分図ることができなかった。さらにこの様な状況下で、より大量に効率よく半導体デバイスを作製するためにシリコン窒化膜の成膜速度を高くする必要があり、また、得られるシリコン窒化膜は、屈折率、N/Si比等の物性を均一なものとする必要もある。
【0009】
そこで、本開示の少なくとも1つの態様は、シリコン窒化膜下に形成される基板及び/又は下地層へのダメージを低減し、成膜速度が高いシリコン窒化膜の製造方法を提供することを課題として掲げた。また、本開示の少なくとも1つの態様は、屈折率、N/Si比等の物性が均一なシリコン窒化膜の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記問題を鋭意検討したところ、従来の熱CVD及びプラズマCVDに代えて、所定温度の基板上で、紫外線で励起した窒化種と、これに所定の環状水素化シランとを接触させると、首尾良くシリコン窒化膜が調製されることを見出し、本開示の少なくとも1つの態様を完成させた。
【0011】
すなわち、本開示の少なくとも1つの態様の要旨は以下の通りである。
[1] 紫外光を照射した窒化種と、一般式Sin2n (n=5、6、又は7)で表される環状水素化シランとを接触させる工程を含むことを特徴とするシリコン窒化膜の製造方法。
[2]当該工程が、非プラズマ反応室において500℃以下に加熱された基板上で、紫外光を照射した窒化種と、一般式Sin2n(n=5、6、又は7)で表される環状水素化シランとを接触させることにより行われる[1]に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[3] 前記環状水素化シランが、シクロヘキサシランを少なくとも含む[1]または[2]に記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[4] 前記シクロヘキサシランの含有率が、前記環状水素化シラン100質量%中、80質量%以上である[1]~[3]のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[5] 前記窒化種がアンモニアである[1]~[4]のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[6] 前記紫外光が、波長100~250nmを有する[1]~[5]のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[7] 前記基板の温度が、80℃以上500℃以下である[2]~[6]のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[8] 前記環状水素化シランが、不活性ガスのバブリングで気化されて非プラズマ反応室に供給される[2]~[7]のいずれかに記載のシリコン窒化膜の製造方法。
[9] 紫外光を照射した窒化種と、一般式Sin(2n-a)a(n=5,6,または7、a=1~2n、R=アルキル基、アリール基、NR’2,F,Cl,Br,I、R’=H,アルキル基、又はアリール基)で表される環状シランとを接触させる工程を含むことを特徴とするシリコン窒化膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の少なくとも1つの態様によれば、プラズマを使用することなく、シリコン窒化膜の成膜温度を低温化することができ、シリコン窒化膜下に形成される基板及び/又は下地層へのダメージを低減することができる。
【0013】
また、本開示の少なくとも1つの態様によれば、従来原料のSiH4,Si26やH2SiCl2等と比較して、1分子中のケイ素原子数が5以上である環状水素化シランは、Si原子から構成される環状構造に由来して直鎖状水素化シランよりも反応性が高い為、紫外光照射した窒化種と接触して効率よくシリコン窒化膜を成膜することができるので、シラン原料の供給量が抑えられ、しかも成膜速度が向上し、成膜に要する時間を短縮できる。また、環状水素化シランを原料に用いた場合、成膜温度を低温化しても高い成膜速度を維持して成膜ができ、膜の屈折率、N/Si比がほぼ均一なシリコン窒化膜が得られる。
【0014】
さらに、本開示の少なくとも1つの態様によれば、環状水素化シランはSi原子が互いに結合した高次の環状構造のネットワークを有し、従来原料のSiH4やSi26に比べてシリコン窒化膜が緻密となることから、シリコン窒化膜の特性向上が期待できる。また、高次構造に由来して成膜のカバレージ性の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜の製造方法に使用される装置の一態様を示す。
図2図2は、本開示の少なくとも1つの態様において、XPS(X線光電子分光法)により、シリコン窒化膜をイオンスパッタリングに供し、表面エッチングした場合、酸素原子、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子の割合(%)(縦軸)、スパッタリング時間(秒)(横軸)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜の製造方法(以下、本開示の製造方法ともいう)は、紫外光を照射した窒化種と、一般式Sin2n (n=5、6、又は7)で表される環状水素化シランとを接触させる工程(以下、(v)環状水素化シランと窒化種の接触工程ともいう)を含むことを特徴とする。
当該工程は、好ましくは非プラズマ反応室において500℃以下に加熱された基板上で、紫外光を照射した窒化種と、一般式Sin2n(n=5、6、又は7)で表される環状水素化シランとを接触させることにより行われる。
本開示の少なくとも1つの態様の製造方法は、従来の熱CVDよりも基板の加熱温度が低く、従来のプラズマCVDで使用されるプラズマを使用しなくともよい点で異なっており、高熱履歴及び高エネルギーのプラズマの適用を回避できることから、シリコン窒化膜下に形成される基板及び/又は下地層へのダメージを低減することができる。
また、直鎖状水素化シランの代りに環状水素化シランを使用し、この環状水素化シランのケイ素原子数を5以上とすると、紫外光照射した窒化種との反応性が高くなることから、シリコン窒化膜の成膜速度を良好なものとすることができ、均一な特性を有するシリコン窒化膜を製造することができる。
【0017】
本開示の少なくとも1つの態様の製造方法は、(v)上記の工程(環状水素化シランと窒化種の接触工程)以外に、(i)環状水素化シラン調製工程、(ii)環状水素化シラン供給工程、(iii)環状水素化シラン希釈工程、(iv)窒化種供給工程、(vi)シリコン窒化膜の再加熱処理工程等を含んでいてもよい。以下、(i)~(vi)の順に各工程を説明する。
【0018】
<(i)環状水素化シラン調製工程>
環状水素化シランの調製工程は、従来公知の方法であれば、特に限定されない。
本発明において、環状水素化シランは、一般式Sin2n(n=5、6、又は7)で表されるものである。
具体的には、環状水素化シランは、シクロペンタシラン、シクロヘキサシラン、シクロヘプタシランなどの分岐シリル基を有さない環状水素化シラン、シリルシクロテトラシラン、シリルシクロペンタシラン、シリルシクロヘキサシランなどの分岐シリル基を有する環状水素化シランであることが好ましい。環状水素化シランは、分岐シリル基を有さない環状水素化シランであることがより好ましい。
また、本発明において、環状水素化シランは、一般式Sin(2n-a)a(n=5,6,または7、a=1~2n, R=アルキル基、アリール基、NR’2,F,Cl,Br,I、R’=H,アルキル基、又はアリール基)で表されるような一部が官能基化された環状シランであっても良い。
aは1~2nであり、1~7が好ましく、1~4がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基等の直鎖状アルキル基等;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、(2-エチル)ヘキシル基等の分枝鎖状アルキル基等;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)等のアルケニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基等のシクロアルケニル基;等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、さらに好ましくは1~5、さらにより好ましくは1~3である。
アリール基としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、メシチル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、フェナントリル基及びアントリル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。アリール基の炭素数は、好ましくは6~20、より好ましくは6~16、さらに好ましくは6~12、さらにより好ましくは6~10である。
R及びR’は、それぞれ複数存在する場合、同一であってもよく異なっていてもよい。
【0019】
本開示の少なくとも1つの態様の製造方法において、当該環状水素化シラン以外の直鎖状水素化シラン(例えばジシラン)を使用する場合、基板の加熱温度が低いとシリコン窒化膜を形成しにくく、また、基板の加熱温度を高くして成膜できたとしてもシリコン窒化膜の成膜速度が遅くなる傾向がある。
【0020】
環状水素化シランは、シクロヘキサシランを少なくとも含むことが好ましく、このシクロヘキサシランを環状水素化シランの主たる成分(環状水素化シラン100質量%中80質量%以上の成分)として含むことが好ましい。
【0021】
シクロヘキサシランの含有率は、環状水素化シラン100質量%中、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらにより好ましくは97質量%以上であり、限りなく100質量%であることが望ましいが、99.9質量%以下又は99.7質量%以下であってもよい。
【0022】
当該含有率は、質量基準であるが、例えば、下記ガスクロマトグラフィー条件で得られるクロマトグラムに基づいて算出することができる。
ガスクロマトグラフィー条件
検出:FID
カラム:Agilent J&W GCカラム DB-5ms Phenyl-Aryleneポリマー、0.25μm×0.25mm×30m
気化室温度:250℃
検出器温度:280℃
昇温条件:1)50℃5分保持、2)昇温速度20℃/分で250℃まで昇温、3)昇温速度10℃/分で280℃まで昇温、4)280℃で10分保持
【0023】
前記ガスクロマトグラム面積は、例えば、ガスクロマトグラフィー条件で得られる環状水素化シランのガスクロマトグラム面積の総和を意味する。このガスクロマトグラム面積から環状水素化シランや直鎖状水素化シランの含有率を求めてもよい。
【0024】
本開示の少なくとも1つの態様の環状水素化シランは、必要に応じて適宜精製されていてもよく、例えば蒸留等で精製したものであってもよい。
【0025】
前記環状水素化シランがシクロヘキサシランである場合、シクロヘキサシランは、従来公知の方法により製造されたものであればよく、例えば、(1)ジフェニルジクロロシランを金属によりカップリングさせ6員環を形成後、ハロゲン化、還元工程を経て得られるシクロヘキサシランを用いてもよく、(2)ハロシランとしてトリクロロシラン、トリフェニルホスフィン、N,N-ジイソプロピルエチルアミンを反応させ、6員環のドデカクロロシクロヘキサシランにトリフェニルホスフィンが配位した環状ハロシラン中性錯体を形成し、この環状ハロシラン中性錯体を還元して得られるシクロヘキサシランを用いてもよく、(3)ハロシランとしてトリクロロシランとアンモニウム塩やホスホニウム塩などのオニウム塩と第3級アミンを反応させて得られた環状ハロシラン化合物の塩をルイス酸化合物で処理して環状ハロシラン化合物を得て、続いて還元して得られるシクロヘキサシランを用いてもよく、さらに高純度なシリコン膜を形成する観点から、不純物を除去するために精製を行ったものを使用してもよい。
【0026】
<(ii)環状水素化シラン供給工程>
環状水素化シラン供給工程は、環状水素化シラン充填タンクに収容した環状水素化シランをガスの状態で非プラズマ反応室(チャンバー)に送出(移送)するものであれば、特に限定されないが、環状水素化シランは、不活性ガスのバブリングで気化する、ベーキングで気化する等して非プラズマ反応室(チャンバー)に供給することが好ましく、不活性ガスのバブリングで気化させて非プラズマ反応室に供給することがより好ましい。
【0027】
具体的には、環状水素化シランは、常温で液体であることから、環状水素化シラン充填タンクにアルゴンガス等の不活性ガスを供給して、環状水素化シランを不活性ガスでバブリング又はベーキング等して気化させ、この気化した環状水素化シランを、環状水素化シラン充填タンクから非プラズマ反応室に繋がる環状水素化シラン供給ライン(例えば配管)内を移送(圧送)させることが好ましい。
【0028】
環状水素化シラン供給ラインは、環状水素化シランが気化状態のまま送出される限り、従来技術で公知の材質を使用することができ、耐腐食性のあるアルミニウム、ステンレス等であってもよい。また、当該供給ラインの構造は、気体材料を環状水素化シラン充填タンクから非プラズマ反応室(チャンバー)に移送するような密閉された配管であれば、特に限定されない。
【0029】
環状水素化シラン充填タンクには、不活性ガス導入ラインが設けられており、このラインに取り付けたバルブを開くことで不活性ガスが環状水素化シラン充填タンクに送られ、内部の環状水素化シランのガスを送出することが好ましい。
【0030】
環状水素化シラン充填タンクの材質は、環状水素化シランが熱重合、光重合しない程度の材質であれば、特に限定されないが、例えば、材質としては、光不透過性の高強度安定材料、具体的には、ニッケル、モリブデン、マンガン、クロム、チタン、銅、アルミニウム、ステンレス、それらの合金などが挙げられる。
【0031】
具体的には、環状水素化シラン充填タンクの材質は、好ましくはステンレス鋼(SUS)である。また、環状水素化シラン充填タンクは必要に応じて遮光性を有していてもよく遮光板などを使用してもよい。さらに、環状水素化シラン充填タンクは、耐圧性を有していることが好ましい。耐圧性を有する原料タンクとしては0.05MPa以上を有するものであることがより好ましい。
【0032】
環状水素化シラン充填タンクは、例えば、1つ又は2つ以上のバルブが付属する、供給ラインを取り付ける取り出し口を有していることが求められるが、少なくとも1つのバルブは加圧用バルブまたは材料充填用バルブであり、少なくとも1つのバルブは気体材料移送用バルブであることが好ましい。このほかに、環状水素化シラン充填タンクは、液充填用やタンク洗浄用などを目的に、複数の取り出し口を有していてもよい。
【0033】
環状水素化シラン充填タンクの容量は、好ましくは50ml~100L程度であり、より好ましくは500ml~10L程度である。原料タンクの形状は、特に限定されないが、円柱形、角柱形、円筒形等が挙げられる。
【0034】
環状水素化シラン充填タンクでは、環状水素化シランを熱重合または光重合させない程度に、前記タンク中の環状水素化シランの温度を所定温度以下に維持してもよく、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下に維持してもよい。環状水素化シランの温度の下限は、好ましくは15℃以上、より好ましくは18℃以上、さらに好ましくは20℃以上に維持される。
【0035】
環状水素化シラン充填タンクの圧力は、例えば1~100kPaであり、好ましくは2~80kPa、より好ましくは3~50kPaである。この圧力範囲であれば、環状水素化シランをガスの状態でタンクから環状水素化シラン供給ラインに供給できる。この圧力は、環状水素化シラン供給ライン上に設けられた圧力制御器等で調節してもよい。
【0036】
環状水素化シランをバブリングして気化する等して送出するために使用される不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられるが、汎用性とコストの面から、不活性ガスは、好ましくはヘリウム、アルゴンであり、より好ましくはアルゴンである。
【0037】
不活性ガスは、不活性ガス充填ボンベに収容しておき、当該ボンベから環状水素化シラン充填タンクに接続される不活性ガス供給ラインを介して供給することが好ましい。
環状水素化シラン充填タンクに導入する不活性ガスの流量は、例えば0.1~100sccm、好ましくは0.5~80sccm、より好ましくは1~50sccmである。
【0038】
<(iii)環状水素化シラン希釈工程>
バブリング又はベーキングで気化された環状水素化シランを環状水素化シラン充填タンクから非プラズマ反応室(チャンバー)に供給する場合、環状水素化シランを、環状水素化シラン充填タンクから送出した後、環状水素化シラン希釈用媒体で希釈することが好ましい。
【0039】
環状水素化シラン希釈用媒体は、環状水素化シラン充填タンクと非プラズマ反応室(チャンバー)を繋ぐ環状水素化シラン供給ライン(配管)に供給すればよく、環状水素化シラン希釈用媒体充填ボンベと環状水素化シラン供給ラインを接続する環状水素化シラン希釈用媒体供給ラインを介して供給することが好ましい。
かかる環状水素化シラン希釈用媒体は、前述の不活性ガスと同じであってもよく、アルゴンであることが好ましい。
環状水素化シラン(環状水素化シランガス)希釈用媒体の流量は、例えば1~1000sccm、好ましくは1~800sccm、より好ましくは1~500sccm、さらに好ましくは2~300sccmである。
【0040】
これら供給ラインにはガス流量制御器(好ましくはフローコントロールシステム(FCS))が介挿されていてもよく、環状水素化シラン、不活性ガス、環状水素化シラン希釈用媒体の送出量を制御してもよい。
ガス流量制御器は、例えば従来公知のマスフローコントローラーであればよく、ガス質量流量を計測し流量制御を行うものであればよい。かかる制御器によれば、使用条件が変化しても補正を行う必要がなく、高い精度で流量を計測すると共に流量制御することができる。ガス流量制御器は、流量センサー、バイパス、流量制御バルブおよび電気回路等から構成されることが好ましい。送出されたガスはまず流量センサーとバイパスに分流され、適切な流量となるように流量制御バルブが電気回路で制御されていてもよい。
ガス流量制御器は、環状水素化シラン、不活性ガス、環状水素化シラン希釈用媒体の流量を制御できる限り、その位置は任意でよい。
【0041】
<(iv)窒化種供給工程>
窒化種供給工程は、気体である窒化種に紫外光を照射して、励起(ラジカル化)した窒化種を非プラズマ反応室(チャンバー)に供給できるものであればよい。
窒化種を、窒化種充填ボンベから窒化種供給ラインを介して窒化種(窒化種ガス)導入口、非プラズマ反応室に移送することが好ましい。
【0042】
窒化種は、気体であり紫外光で励起されるものであればよく、例えばアンモニアである。窒化種はアルゴンなどの不活性ガスで希釈しても良い。また、窒化種には、極微量のO2、H2、H2O等が含まれていてもよく、窒化種と共に紫外光で励起されてもよい。
【0043】
また、紫外光は、窒化種充填ボンベと、非プラズマ反応室(チャンバー)、窒化種導入口とを接続する窒化種供給ライン上に設置された紫外光発生装置から照射されることが好ましい。
紫外光は、好ましくは波長100~250nm、より好ましくは波長140~250nm、さらに好ましくは波長150~220nmを有する。紫外光は、真空紫外光を含むことが好ましい。
紫外光は、上記波長範囲を有し、中心波長を好ましくは140~200nm、より好ましくは150~190nm、さらに好ましくは160~180nmに有する。
【0044】
紫外光は、例えばエキシマランプであり、キセノンエキシマランプ、アルゴンエキシマランプであることが好ましく、キセノンエキシマランプであることがより好ましい。
紫外光の照射エネルギーは、例えば1~1000W/m2、好ましくは20~500W/m2である。
窒化種が励起されているかを確認する為、紫外光発生装置にスペクトルメーターを設置してもよい。本発明の製造方法において、窒化種に紫外光を照射せずに、窒化種をそのまま非プラズマ反応室に供給する場合、シリコン窒化膜を成膜することができない。
【0045】
窒化種充填ボンベから窒化種(窒化種ガス)供給ライン、非プラズマ反応室に供給する窒化種の流量は、例えば100~2000sccm、好ましくは200~1500sccm、より好ましくは300~1200sccmである。
【0046】
<(v)環状水素化シランと窒化種の接触工程>
上記環状水素化シランと上記窒化種との接触は、非プラズマ反応室(チャンバー)内の基板上で行うことが好ましい。
当該非プラズマ反応室は、プラズマに必要な高周波電源等を要しない反応室(チャンバー)であることが好ましい。
また、環状水素化シランと紫外光で励起した窒化種を交互に供給して成膜してもよく、例えば、原子層堆積法(ALD法)で成膜してもよい。
【0047】
非プラズマ反応室は、例えば、環状水素化シラン供給ラインと接続する環状水素化シラン導入口、窒化種供給ラインと接続する窒化種導入口、基板(ウエハ)、基板ステージ、基板加熱用ヒーター、圧力制御装置、基板移動装置等を備えることが好ましい。
当該非プラズマ反応室(チャンバー)には、反応室内部の圧力を真空ポンプ等で減圧して運転させてもよく、メカニカルブースターポンプ(MBP)、ターボ分子ポンプ(TMP)等のポンプを組み合わせることができる。
【0048】
基板は、シリコン窒化膜を成膜できるものであれば特に限定されないが、Si、SiO2、SiC等で構成されていればよい。
この基板上に、下地層が形成されていてもよい。下地層は、GaN層、AlGaN層、AlN層等から構成されることが好ましく、これらの層を交互に多層化した層であることも好ましい。
この下地層には、ゲート形成用凹部等の各種形状が形成されていてもよい。
【0049】
非プラズマ反応室(チャンバー)において、基板は500℃以下に加熱されることが好ましい。
基板の温度(基板表面温度)は、より好ましくは80℃~500℃、さらに好ましくは90℃~450℃、さらにより好ましくは100℃~400℃、特に好ましくは100℃~350℃である。基板の温度(基板(ウエハ)表面温度)が500℃超であると、下地層等が熱のダメージを受け、半導体の性能劣化に繋がる虞があり、一方、基板の加熱温度が、80℃未満であると、シリコン窒化膜の品質、成膜速度が不十分となる虞がある。
この様な温度範囲であれば、従来の熱CVDよりも低温でシリコン窒化膜を成膜することができる。
【0050】
環状水素化シラン導入口及び窒化種導入口は、それぞれ基板上で環状水素化シランと窒化種が接触してシリコン窒化膜を成膜できるように、非プラズマ反応室内に設置されることが好ましい。環状水素化シラン導入口及び窒化種導入口は、それぞれ非プラズマ反応室に1つ又は2つ以上形成されていてもよい。また、環状水素化シラン導入口及び窒化種導入口の形状は基板上にガスを供給出来ればよく、特に限定されない。
【0051】
環状水素化シラン導入口には、例えば基板近くまで伸びたノズルが付属していてもよく、掛かるノズルを加熱する手段(例えばヒーター)をさらに備えていてもよい。
当該ノズルは、加熱してもよく加熱しなくてもよいが、ノズルを加熱する場合、ノズルの加熱温度は、例えば60℃~500℃、好ましくは80℃~450℃、より好ましくは100℃~400℃である。
【0052】
非プラズマ反応室(チャンバー)内の圧力は、例えば10~1000Pa、好ましくは50~500Paである。
【0053】
前記非プラズマ反応室に流入する際の前記窒化種の流量と前記環状水素化シランの流量比(環状水素化シラン/窒化種)は、好ましくは0.001/1000~1000/1000、より好ましくは0.05/1000~100/1000、さらに好ましくは0.08/1000~10/1000である。
この様な範囲であれば、N/Si原子数比を容易に制御することができ良好なシリコン窒化膜を形成できる。
【0054】
<(vi)シリコン窒化膜の再加熱処理工程>
環状水素化シランと窒化種の接触後に、シリコン窒化膜の密度等を高める観点から、シリコン窒化膜を再加熱処理工程に供してもよい。この再加熱処理工程は、非プラズマ反応室内で行ってもよく、非プラズマ反応室外で行ってもよい。
再加熱処理の温度は、例えば300℃~500℃、好ましくは400℃~500℃である。
【0055】
<シリコン窒化膜>
本開示の少なくとも1つの態様は、前記シリコン窒化膜の製造方法により形成されるシリコン窒化膜も包含する。前記シリコン窒化膜の製造方法で形成されるシリコン窒化膜は、高速成膜および低温成膜可能であり、N/Si原子数比を制御できるために、薄膜トランジスタや集積回路など半導体や電子デバイス等において、必要としている場所に好適に利用することができる。
シリコン窒化膜は、化学量論的に、N/Si比1.33を有する。
本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜は、例えば所望の膜厚及び屈折率等を有していてもよく、当該膜厚及び屈折率は、いずれも分光エリプソメーター(例えば分光エリプソメトリー UVISEL 堀場製作所製)等により求めることが可能である。
シリコン窒化膜の膜厚は、例えば1~1000nm、好ましくは2~500m、より好ましくは5~300nmである。
N/Si比が1.33に近いシリコン窒化膜の屈折率は、約2であり、本開示のシリコン窒化膜も、約2程度の屈折率を有することが好ましい。
【0056】
また当該膜は必要に応じてエッチングすることが可能である。膜のエッチングの手法は特に制限されないが、例えば希フッ酸溶液(DHF)やリン酸等を用いることが可能である。
【0057】
本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜の製造方法で得られるシリコン窒化膜は、半導体デバイスにおけるゲート絶縁膜、最終保護膜、反射防止膜等に好適に使用される。
【0058】
以下、図1を参照して本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜の製造方法の一態様を具体的に説明するが、本開示の少なくとも1つの態様は、この一態様に限定されるものではない。
【0059】
図1は、本開示の少なくとも1つの態様のシリコン窒化膜の製造方法に使用される装置概略図であり、当該装置は、環状水素化シラン供給ライン11、窒化種供給ライン12、これらと繋がった非プラズマ反応室(チャンバー)1を少なくとも備える。
非プラズマ反応室1には、環状水素化シラン供給ライン11から供給される環状水素化シランと、窒化種供給ライン12から供給される窒化種とがそれぞれ所定量で導入される。
次に、非プラズマ反応室1において所定温度に加熱された基板(ウエハ)5上で、紫外光発生装置10により紫外光を照射した窒化種と、所定の環状水素化シランとを接触させる。
【0060】
非プラズマ反応室であるチャンバー1は、基板(ウエハ)出し入れ前室2、基板(ウエハ)5、ウエハ5を載せるステージ3、ウエハ5とステージ3の間に設置された基板(ウエハ)ヒーター4、環状水素化シラン供給ノズル用ヒーター6、ターボ分子ポンプ7、自動圧力制御器8、環状水素化シラン導入口(図に示さず)、窒化種導入口(図に示さず)を少なくとも備える。
【0061】
基板(ウエハ)出し入れ前室2は、シリコン窒化膜を形成する前のウエハ及びシリコン窒化膜が形成されたウエハを移動させるために設置される。
基板(ウエハ)5を載せるステージ3は、垂直方向及び水平方向に移動可能であり、環状水素化シラン導入口と窒化種導入口の位置、環状水素化シラン及び窒化種の供給速度、供給量に応じてウエハ5の位置を調整可能である。
基板(ウエハ)ヒーター4は、前述の様な加熱温度とすることが好ましい。
基板(ウエハ)5は、前述の通りの材料であることが好ましい。
環状水素化シラン供給ノズル用ヒーター6は、必ずしも必要ではないがチャンバー1内で環状水素化シラン導入口と接続され、ヒーター6自体が、管状であってもよく、環状水素化シラン供給管に所望の形状のヒーター6が設置されていてもよい。
ターボ分子ポンプ7、自動圧力制御器8は、チャンバー1内でシリコン窒化膜の成膜に寄与しない成分をチャンバー1外に排出するために設けられる。
【0062】
チャンバー1は、環状水素化シラン供給ライン11及び窒化種供給ライン12と接続されている。
【0063】
環状水素化シラン供給ライン11は、環状水素化シラン充填タンク16から不活性ガスのバブリング又はベーキング等で気化した環状水素化シランを移送する。
環状水素化シラン充填タンク16は、遮光性及び耐圧性を有することが好ましい。
環状水素化シランの送出に必要な不活性ガスは、不活性ガス充填ボンベ18aと環状水素化シラン充填タンク16を繋ぐラインを介して導入する。このライン上には、質量流量計(MFC)15が設置されており、不活性ガスの流量をモニターする。
環状水素化シラン供給ライン11と環状水素化シラン充填タンク16の間には、自動圧力制御器13が設置されており、環状水素化シラン充填タンク16の圧力を調整する。環状水素化シランは、環状水素化シラン希釈用媒体として不活性ガスで希釈され、この不活性ガスは、不活性ガス充填ボンベ18bから環状水素化シラン希釈用媒体供給ラインを介して環状水素化シラン供給ライン11に供給される。
環状水素化シランの対照として、直鎖状水素化シランとしてジシラン等が使用可能である。
例えばジシランは、ジシラン(Si26)充填ボンベ19からジシラン供給ラインを介して環状水素化シラン(環状水素化シランガス)供給ライン11に供給される。
【0064】
窒化種供給ライン12は、窒化種充填ボンベ17から窒化種を移送する。
窒化種供給ライン12は、窒化種充填ボンベ17と非プラズマ反応室1、窒化種導入口の間に紫外光発生装置10を備える。窒化種は、紫外光発生装置10から発生した紫外光により励起されるが、紫外光発生装置にスペクトロメーター9を設けて紫外光の波長範囲や中心波長をモニターする。
【0065】
窒化種供給ライン12、直鎖状水素化シラン供給ライン、環状水素化シラン希釈用媒体供給ラインには、ガス流量制御器(FCS)14a、14b、14cを設けて、これらの供給量を調節する。
図1に示す装置において、各条件は、上記の通りであればよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本開示はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本開示の技術的範囲に包含される。
【0067】
実施例1
図1に記載のシリコン窒化膜の成膜装置を用い、以下の通りに実施した。
【0068】
1.準備段階
基板としてシリコン酸化膜のウエハ(Φ33mm、厚さ500nm)を準備し、基板(ウエハ)出し入れ前室2を通じてチャンバー1内のステージ3上に基板(ウエハ)5を設置し、ウエハ5を環状水素化シラン供給ノズル先端から40mmの位置に固定した。次にチャンバー1内を400Paの圧力に制御し、基板(ウエハ)ヒーター4を用いて、基板温度(ウエハ表面温度)が350℃になるように30分間加熱した。
【0069】
2.成膜段階
環状水素化シランとしてシクロヘキサシラン(以下、CHSと表記する、GC純度(Area-%)99%、10g)を充填した環状水素化シラン充填タンク16内を自動圧力制御器13を用いて5kPaに制御した。次に不活性ガス(アルゴンガス)充填ボンベ18aから不活性ガス(アルゴンガス)(以下、CHS-Arと表記する)を環状水素化シラン充填タンク16内に5sccmの流量で導入してタンク内のCHSを気化させ(CHS流量0.07sccm)、環状水素化シラン希釈用媒体として不活性ガス(アルゴンガス)充填ボンベ18bから導入した不活性ガス(アルゴンガス)(以下、希釈Arと表記する) 45sccmと共に環状水素化シラン供給ライン11を通じてチャンバー1内に供給した(環状水素化シラン供給ノズル先端部は環状水素化シラン供給ノズル用ヒーター6を用いて200℃に加熱)。同じく、紫外光発生装置10としてキセノンエキシマランプから波長150nm~220nm(中心波長172nm)の紫外光を照射条件下、窒化種(アンモニア)充填ボンベ17から流量500sccmの窒化種(アンモニア)ガスを窒化種供給ライン12を通じて導入し、紫外光により励起された窒化種(アンモニア)ガスをチャンバー1内に導入して、基板(ウエハ)5上でCHSガスと接触させて30分間成膜した。
30分後、CHSガス及びアンモニアガスの供給を停止し、ウエハ出し入れ前室2からシリコン窒化膜を成膜したウエハを取り出した。
【0070】
3.膜分析
30分間成膜したウエハを分光エリプソメトリー装置(堀場製作所社製)を用いて、膜厚、屈折率を測定したところ、膜厚35nm(3点計測の平均値)、屈折率2.22(3点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表1に示す。
【0071】
実施例2
表1に記載の通り、アンモニア流量を700sccm、CHS-Ar流量を3sccm(CHS流量0.04sccm)、希釈Ar流量を47sccmに変更した以外は、実施例1に記載の条件で30分間成膜した。膜分析の結果、膜厚66nm(3点計測の平均値)、屈折率2.08(3点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表1に示す。
【0072】
実施例3
表1に記載の通り、アンモニア流量を700sccm、CHS-Ar流量を3sccm(CHS流量0.04sccm)、希釈Ar流量を195sccmに変更した以外は、実施例1に記載の条件で30分間成膜した。膜分析の結果、膜厚51nm(3点計測の平均値)、屈折率2.02(3点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表1に示す。
【0073】
実施例4
表1に記載の通り、アンモニア流量を700sccm、CHS-Ar流量を3sccm(CHS流量0.02sccm)、希釈Ar流量を195sccm、CHS充填タンク圧を13.3kPaに変更した以外は、実施例1に記載の条件で30分間成膜した。膜分析の結果、膜厚36nm(3点計測の平均値)、屈折率1.95(3点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表1に示す。
【0074】
実施例5
表2に記載の通り、基板温度を100℃に変更した以外は実施例1に記載の条件で30分間成膜した。膜分析の結果、膜厚76nm(2点計測の平均値)、屈折率2.18(2点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表2に示す。
【0075】
実施例6
表2に記載の通り、基板温度を100℃に変更し、希釈Ar流量を20sccmに変更した以外は実施例1に記載の条件で30分間成膜した。膜分析の結果、膜厚75nm(2点計測の平均値)、屈折率2.09(2点計測の平均値)のシリコン窒化膜であることを確認した。結果を表2に示す。
【0076】
実施例7
表3に記載の通り、基板温度450℃、チャンバー圧400Pa、アンモニア流量1000sccm、CHS-Ar流量を50sccm(CHS流量0.7sccm)、希釈Ar流量5sccm、成膜時間60分の条件で成膜したところ、膜厚92nmのシリコン窒化膜が得られた。結果を表3に示す。
【0077】
実施例8
基板温度350℃、チャンバー圧400Pa、アンモニア流量750sccm、CHS-Ar流量を5sccm(CHS流量0.07sccm)、希釈Ar流量145sccm、CHS充填タンク圧5kPa、ウエハから環状水素化シラン供給ノズル先端までの距離を35mmの条件下で30分間成膜したところ、膜厚50nmのシリコン窒化膜が得られた。
続けて得られたシリコン窒化膜を0.5%フッ酸溶液(DHF)に1分間浸漬してエッチング評価を行った(DHF溶液に1分間浸漬後、膜厚を測定。計3回実施。)。エッチング速度は5~10nm/minであった。
【0078】
実施例9
基板温度350℃、チャンバー圧400Pa、アンモニア流量500sccm、CHS-Ar流量を3sccm(CHS流量0.02sccm)、希釈Ar流量197sccm、CHS充填タンク圧13.3kPa、ウエハから環状水素化シラン供給ノズル先端までの距離を66mmの条件下で90分間成膜したところ、ウエハ中心部が膜厚90nm、屈折率1.94のシリコン窒化膜が得られた。
続けて得られたシリコン窒化膜についてXPS(X線光電子分光法)を用いてイオンスパッタリングに供して表面エッチングを行い、酸素原子、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子の割合の測定を行ったところ、図2の結果が得られ、N/Si比は1.26であった。また、膜中において炭素原子や酸素原子は検出されなかった。
なお、図2において、縦軸は、各原子割合(%)、横軸は、スパッタリング時間(秒)を表す。
【0079】
比較例1
アンモニアに紫外光を照射しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1を行った。その結果、シリコン窒化膜は成膜できなかった。
【0080】
比較例2
環状水素化シラン(Si612)の代わりにジシラン(Si26)を使用し、基板の加熱温度を450℃、Si26流量を5sccm、アンモニア流量を1000sccm、希釈Ar流量を50sccmとすること以外は、実施例1と同様にして比較例2を行った(ただし一部実施例1と異なる条件を表3に示す)。シリコン窒化膜はジシラン(Si26)流量を環状水素化シラン(Si612 CHS)流量よりも多くして成膜できたものの、環状水素化シランよりも膜厚が薄くなり、成膜速度は遅かった。結果を表3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
上記の結果によれば、紫外光照射した窒化種(アンモニア)と環状水素化シラン(CHS)とを基板温度100℃~450℃の基板上で接触させることにより、所望の膜厚と屈折率を有するシリコン窒化膜を調製でき、また、環状水素化シラン(CHS)充填タンク圧、窒化種(アンモニア)流量、環状水素化シラン希釈媒体(希釈Ar)流量を変化させることにより、環状水素化シラン(CHS)及び窒化種(アンモニア)の供給量を調節することができた。
一方、窒化種(アンモニア)に紫外光を照射しない場合、シリコン窒化膜を成膜できなかった。
直鎖状水素化シランのジシランを450℃の基板温度条件で供給し、ジシラン流量をCHS流量よりも多くすると、シリコン窒化膜は成膜出来たが、成膜速度が遅くなった。
【符号の説明】
【0085】
1:非プラズマ反応室(チャンバー)
2:基板(ウエハ)出し入れ前室
3:ステージ
4:基板(ウエハ)ヒーター
5:基板(ウエハ)
6:環状水素化シラン供給ノズル用ヒーター
7:ターボ分子ポンプ
8:自動圧力制御器
9:スペクトロメーター
10:紫外光発生装置
11:環状水素化シラン供給ライン
12:窒化種供給ライン
13:自動圧力制御器
14a、b、c:ガス流量制御器(FCS)
15:質量流量計
16:環状水素化シラン充填タンク
17:窒化種充填ボンベ
18a、b:不活性ガス(アルゴンガス)充填ボンベ
19:ジシラン(Si26)充填ボンベ
図1
図2