(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】多相回転機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20240215BHJP
H02P 21/13 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P21/13
(21)【出願番号】P 2020130498
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇志
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】王 シン
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140813(JP,A)
【文献】特開2016-101090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
H02P 21/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相巻線への通電に係る一群の構成要素の単位を系統と定義すると、二系統の多相巻線(80A、80B)を有する多相回転機(80)の駆動を制御する制御装置であって、
前記二系統の多相巻線に個別に通電可能な二系統の電力変換器(60A、60B)と、
互いに独立して設けられ、電流検出器(70A、70A)により検出された多相巻線に流れる電流に基づき、前記電力変換器から多相巻線に流す電流を制御する演算を行う二系統の演算装置(40A、40B)と、
を備え、
各系統の前記演算装置は、
自系統の多相巻線に流れる電流と自系統及び他系統の出力電圧とに基づき、他系統の電流を推定し、
推定した他系統の電流に基づいて系統間の干渉の影響を抑制する多相回転機の制御装置。
【請求項2】
各系統の前記演算装置は、オブザーバ(570A、570B)により他系統の電流を推定する請求項1に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項3】
各系統の前記演算装置は、推定した他系統の電流を用いて非干渉化制御を行う請求項1または2に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項4】
各系統の前記演算装置は、自系統の電流と推定した他系統の電流との和と差を制御することで、自系統の多相巻線に流す電流を制御する請求項1~3のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項5】
前記オブザーバのゲインは、前記多相回転機の回転数に応じて可変に設定される請求項2に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項6】
各系統の前記演算装置は、少なくとも各系統の異常情報を系統間通信により双方向に通信し、他系統が正常の時にのみ他系統電流の推定演算を実施する請求項1~5のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項7】
各系統の前記演算装置は、
電流制御演算の周期よりも長い周期で各前記演算装置に入力される信号により電流制限値を演算し、系統間通信により少なくとも一方向に前記電流制限値を送信する請求項1~6のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項8】
各系統の前記演算装置は、
電流制御演算の周期よりも長い周期で各前記演算装置に入力される信号により、異常の有無を示す異常信号を演算し、系統間通信により少なくとも一方向に前記異常信号を送信する請求項1~7のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項9】
車両に搭載される多相回転機の制御装置であって、
前記系統間通信は、車両ネットワークを経由して行われる請求項6~8のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【請求項10】
前記系統間通信は、当該制御装置の内部で行われる請求項6~8のいずれか一項に記載の多相回転機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相回転機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二系統の多相巻線に電力変換器から通電する電流を制御する制御装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、互いに磁気的に結合する二組の3相巻線組を有する3相回転機の制御装置において、二系統の電流の和と差を制御する構成が開示されている。この構成では、二系統のdq軸実電流Id、Iqの和と差が電流指令値Id*、Iq*の和と差に対してそれぞれフィードバックされる。その偏差に基づき、モータ逆モデル及び制御器を通してdq軸電圧Vd、Vqの和と差が演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の制御装置は、二系統に共通の一つの演算装置が各系統の3相電流検出値に基づいて、dq軸実電流(すなわちフィードバック電流)の加減算を行っている。一方、各系統の電力変換器に対応する二系統の演算装置が別々に設けられる構成では、他系統の電流情報を通信によって取得する必要がある。二系統の多相巻線の電流を制御する場合、演算装置間の通信負荷が高く、制御周期を短くできないため、制御性能が劣化するという問題がある。また、演算周期を短くするために演算装置間の通信を速くすると、通信による他の回路へのノイズが増えたり、通信がノイズの影響を受けやすくなったりする。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、二系統の演算装置を有する構成において、他系統の電流情報の取得に係る通信負荷を低減する多相回転機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
多相巻線への通電に係る一群の構成要素の単位を「系統」と定義する。本発明による多相回転機の制御装置は、二系統の多相巻線(80A、80B)を有する多相回転機(80)の駆動を制御する制御装置である。この多相回転機の制御装置は、二系統の電力変換器(60A、60A)と、二系統の演算装置(40A、40B)と、を備える。
【0008】
二系統の電力変換器は、二系統の多相巻線に個別に通電可能である。二系統の演算装置は、互いに独立して設けられ、電流検出器(70A、70B)により検出された多相巻線に流れる電流に基づき、電力変換器から多相巻線に流す電流を制御する演算を行う。「二系統の演算装置が互いに独立して設けられる」とは、ハードウェア構成が物理的に分離していることを意味する。
【0009】
各系統の演算装置は、自系統の多相巻線に流れる電流と自系統及び他系統の出力電圧とに基づき、他系統の電流を推定し、推定した他系統の電流に基づいて系統間の干渉の影響を抑制する。「系統間の干渉の影響を抑制する」とは、直接的に非干渉化制御量を算出する制御に限らず、干渉の影響を抑制する方向に作用する制御全般を含むことを意味する。
【0010】
本発明では、他系統の実電流を系統間通信により取得するのでなく自系統の演算装置により推定することで、他系統の電流情報の取得に係る通信負荷を低減することができる。また、自系統の電流情報だけを使うため、二系統の同一要因による故障率を下げる効果もある。
【0011】
好ましくは、各系統の演算装置は、オブザーバ(570A、570B)により他系統の電流を推定する。オブザーバにより収束計算を行うことで制御が安定化する。また、好ましくは、各系統の演算装置は、推定した他系統の電流を用いて非干渉化制御を行う。より好ましくは、各系統の演算装置は、自系統の電流と推定した他系統の電流との和と差を制御することで、自系統の多相巻線に流す電流を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各実施形態による多相回転機の制御装置(ECU)が適用される電動パワーステアリング装置の概略構成図。
【
図6】二系統の演算装置(マイコン)の制御ブロック図。
【
図7】第1実施形態による電圧指令演算部のブロック図。
【
図8】(a)A系統、(b)B系統のオブザーバのブロック図。
【
図9】回転数に応じたオブザーバのゲイン特性を示す(a)一例、(b)別の例の図。
【
図10】他系統電流推定の実施又は不実施を切り替える(a)一例、(b)別の例のフローチャート。
【
図11】系統間通信周期と電流制御演算周期との関係を示すタイムチャート。
【
図12】第2実施形態による電圧指令演算部のブロック図。
【
図13】第3実施形態による電圧指令演算部のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の多相回転機の制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態において「多相回転機の制御装置」としてのECUは、車両の電動パワーステアリング装置に適用され、操舵アシストトルクを発生するモータ(すなわち多相回転機)の通電を制御する。複数の実施形態で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、以下の第1~第3実施形態を包括して「本実施形態」という。最初に
図1~
図6を参照し、各実施形態に共通する事項について説明する。
【0014】
[電動パワーステアリング装置の構成]
図1に、電動パワーステアリング装置90を含むステアリングシステム99の全体構成を示す。なお、
図1には、ECU10がモータ80の軸方向の一方側に一体に構成されている「機電一体式」のモータ800が図示されるが、ECU10とモータ80とがハーネスで接続された「機電別体式」にも、本実施形態は同様に適用可能である。また、
図1に示す電動パワーステアリング装置90はコラムアシスト式であるが、ラックアシスト式の電動パワーステアリング装置にも、本実施形態は同様に適用可能である。
【0015】
ステアリングシステム99は、ハンドル91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、及び、電動パワーステアリング装置90等を含む。ハンドル91にはステアリングシャフト92が接続されている。ステアリングシャフト92の先端に設けられたピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が設けられる。運転者がハンドル91を回転させると、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によりラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の変位量に応じた角度に一対の車輪98が操舵される。
【0016】
電動パワーステアリング装置90は、操舵トルクセンサ93A、93B、ECU10、モータ80及び減速ギア94等を含む。操舵トルクセンサ93A、93Bは、ステアリングシャフト92の途中に冗長的に設けられ、運転者の操舵トルクTsA、TsBを検出する。ECU10は、操舵トルクTsA、TsBに基づいてモータ80が所望のアシストトルクを発生するようにモータ80の駆動を制御する。モータ80が出力したアシストトルクは、減速ギア94を介してステアリングシャフト92に伝達される。
【0017】
モータ80の軸方向の一方側にECU10が一体に構成された機電一体式モータ800の構成について、
図2、
図3を参照して説明する。
図2に示す形態では、ECU10は、モータ80の出力側とは反対側において、シャフト87の軸Axに対して同軸に配置されている。なお、他の実施形態では、ECU10は、モータ80の出力側において、モータ80と一体に構成されてもよい。モータ80は、3相ブラシレスモータであって、ステータ840、ロータ860、及びそれらを収容するハウジング830を備えている。
【0018】
ステータ840は、ハウジング830に固定されているステータコア844と、ステータコア844の各スロット848に巻回された二組の3相巻線80A、80Bとを有している。以下、3相巻線80A、80Bへの通電に係る一群の構成要素の単位を「系統」と定義する。本実施形態は、二系統の3相巻線80A、80Bを有するモータ80の駆動を制御する制御装置である。A系統の3相巻線80Aからは、リード線851、853、855が延び出している。B系統の3相巻線80Bからは、リード線852、854、856が延び出している。
【0019】
ロータ860は、リア軸受835及びフロント軸受836により支持されているシャフト87と、シャフト87が嵌入されたロータコア864とを有している。ロータ860はステータ840の内側に設けられており、ステータ840に対して相対回転可能である。本実施形態のモータ80は、複数の磁石865がロータコア864の外周部に埋め込まれた埋込磁石型の同期回転機(いわゆるIPMSM)である。シャフト87の一端には、回転角検出用の永久磁石88が設けられている。
【0020】
ハウジング830は、リアフレームエンド837を含む有底筒状のケース834と、ケース834の一端に設けられているフロントフレームエンド838とを有している。ケース834及びフロントフレームエンド838は、ボルト等により互いに締結されている。各3相巻線80A、80Bのリード線851、852等は、リアフレームエンド837のリード線挿通孔839を挿通してECU10側に延び、基板230に接続されている。
【0021】
ECU10は、カバー21と、カバー21に固定されているヒートシンク22と、ヒートシンク22に固定されている基板230と、基板230に実装されている各種の電子部品とを備えている。カバー21は、外部の衝撃から電子部品を保護したり、ECU10内への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー21は、外部からの給電ケーブルや信号ケーブルが外部接続用コネクタ部214と、カバー部213とを有している。外部接続用コネクタ部214の給電用端子215、216は、図示しない経路を経由して基板230に接続されている。
【0022】
基板230は、例えばプリント基板であり、リアフレームエンド837と対向する位置に設けられ、ヒートシンク22に固定されている。基板230には、二系統分の各電子部品が系統毎に独立して設けられている。本実施形態では基板230は一枚であるが、他の実施形態では、二枚以上の基板を備えるようにしてもよい。基板230の二つの主面のうち、リアフレームエンド837に対向している面をモータ面237とし、その反対側の面、すなわちヒートシンク22に対向している面をカバー面238とする。
【0023】
モータ面237には、複数のスイッチング素子24A、24B、回転角センサ25A、25B、カスタムIC26A、26B等が実装されている。本実施形態では複数のスイッチング素子24A、24Bは各系統について6個であり、モータ駆動回路の3相上下アームを構成する。冗長的に設けられる回転角センサ25A、25Bは、シャフト87の先端に設けられた永久磁石88と対向するように配置される。カスタムIC26A、26B及びマイコン40A、40Bは、ECU10の制御回路を有する。
【0024】
カバー面238には、マイコン40A、40B、コンデンサ28A、28B、及び、インダクタ27A、27B等が実装されている。特に、A系統マイコン40A及びB系統マイコン40Bは、同一の基板230の同一側の面であるカバー面238に、所定間隔を空けて配置されている。コンデンサ28A、28Bは、電源から入力された電力を平滑化し、また、スイッチング素子24A、24Bのスイッチング動作等に起因するノイズの流出を防止する。インダクタ27A、27Bは、コンデンサ28A、28Bと共にフィルタ回路を構成する。
【0025】
図4に示すように、ECU10の制御対象であるモータ80は、二系統の3相巻線80A、80Bが同軸に設けられた二重巻線ブラシレスモータである。3相巻線80A、80Bは、電気的特性が同等であり、共通のステータ840に互いに電気角30[deg]、一般化すれば、(30±60×n)[deg](nは整数)ずらして配置されている。
【0026】
二系統の3相巻線80A、80Bは互いに磁気的に結合しており、系統間の相互インダクタンスが発生する。そのため、他系統の3相巻線に流れる電流により自系統の3相巻線に発生する電圧を非干渉化する「非干渉化制御」のニーズが発生する。本明細書における「非干渉化」は、同じ系統内のdq間干渉に対する非干渉化ではなく、系統間干渉に対する非干渉化を意味する。
【0027】
[ECU及びマイコンの構成]
図5を参照し、モータ駆動システムの全体構成について説明する。ECU10は、「二系統の演算装置」としてのA系統マイコン40A及びB系統マイコン40B、並びに、「二系統の電力変換器」としてのA系統インバータ60A及びB系統インバータ60B等を備えている。電流、電圧、電気角等の物理量を表す記号において、末尾文字「A」はA系統の物理量を示し、末尾文字「B」はB系統の物理量を示す。
【0028】
図5のシステム例では、各系統のインバータ60A、60Bは、系統毎に設けられた二つのバッテリ11A、11Bに接続される。なお、二系統に共通の一つのバッテリが設けられてもよい。各インバータ60A、60Bは、MOSFET等の6つのスイッチング素子が電源ラインとグランドラインとの間にブリッジ接続されている。各インバータ60A、60Bの入力部には、平滑コンデンサ16A、16Bが設けられている。
【0029】
各インバータ60A、60Bは、自系統のマイコン40A、40Bからの駆動信号DrA、DrBによりスイッチング動作し、バッテリ11A、11Bの直流電力を変換して3相巻線80A、80Bに供給する。こうしてインバータ60A、60Bは、二系統の3相巻線80A、80Bに個別に通電可能である。
【0030】
電流検出器70A、70Bは、各系統の3相巻線80A、80Bに流れる3相電流iuvwA、iuvwBを検出し、マイコン40A、40Bに出力する。回転角センサ25A、25Bは、モータ80の電気角θA、θBを冗長的に検出し、マイコン40A、40Bに出力する。ここで、電気角θA、θBは30[deg]の位相差を有している。また、操舵トルクセンサ93A、93Bが検出した操舵トルクTsA、TsBがマイコン40A、40Bに入力される。
【0031】
二つのマイコン40A、40Bはハードウェア構成が物理的に分離し、互いに独立して設けられている。つまり、一つのマイコン内に設けられた複数のコアが協働して機能する構成ではない。各マイコン40A、40Bは、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。マイコン40A、40Bは、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0032】
各マイコン40A、40Bには操舵トルクTsA、TsBが入力される。A系統マイコン40Aは、A系統の3相巻線80Aに流れる電流iuvwAのフィードバック制御により、第1インバータ60Aから3相巻線80Aに流す電流を制御する演算を行う。B系統マイコン40Bは、B系統の3相巻線80Bに流れる電流iuvwBのフィードバック制御により、第2インバータ60Bから3相巻線80Bに流す電流を制御する演算を行う。つまり、各マイコン40A、40Bは、電流検出器70A、70Bにより検出された3相巻線80A、80Bに流れる電流iuvwA、iuvwBに基づき、インバータ60A、60Bから3相巻線80A、80Bに流す電流を制御する演算を行う。
【0033】
A系統マイコン40A及びB系統マイコン40Bは、電流指令値、電流制限値、異常の有無を示す異常情報等の情報を、系統間通信により少なくとも一方向に、好ましくは双方向に通信する。マイコン40A、40B間の系統間通信は、CAN等の車両ネットワークを経由して行われてもよく、ECU10内でシリアル通信やCAN通信により行われてもよい。特に本実施形態では、通信周期が比較的長い車両ネットワークによる通信が用いられることを想定する。
【0034】
次に
図6を参照する。A系統マイコン40Aの構成要素には符号の末尾に「A」を付し、B系統マイコン40Bの構成要素には符号の末尾に「B」を付す。A系統マイコン40Aは、トルク指令演算部41A、電流指令値演算部42A、電流制限値演算部43A、フェイルセーフ部44A、電圧指令値演算部50A、dq/3相変換部46A、3相/dq変換部47A、及び回転数演算部48Aを含む。B系統マイコン40Bは、トルク指令演算部41B、電流指令値演算部42B、電流制限値演算部43B、フェイルセーフ部44B、電圧指令値演算部50B、dq/3相変換部46B、3相/dq変換部47B、及び回転数演算部48Bを含む。なお、
図6中、インバータを「INV」と記す。
【0035】
A系統マイコン40A及びB系統マイコン40Bの構成は実質的に同一であるため、一方の説明で足りる部分に関しては、代表としてA系統マイコン40Aの構成要素の符号を用いて記す。B系統マイコン40Bについては、符号及び記号の末尾の「A」を「B」に置き換えて同様に解釈する。トルク指令演算部41Aは、操舵トルクTsAに基づき、トルク指令trqA*を演算する。
【0036】
以下、dq軸の電流、電圧ベクトルについてd軸成分とq軸成分とを個々に記載するのでなく、式(1.1)~(1.6)のようにベクトル表示する。iA*、iB*は、それぞれA系統、B系統の電流指令値である。iA、iBは、それぞれA系統、B系統の3相巻線80A、80Bに流れる電流である。vA、vBは、それぞれA系統、B系統の電圧指令値(言い換えれば「出力電圧」)である。電流については指令値に「*」を付して実電流と区別する。電圧については電圧指令値一種類であるため「*」を省略する。図及び式中では電流「i」、電圧「v」をイタリック体で示し、明細書中では通常書体で記す。
【0037】
【0038】
電流指令値演算部42Aは、自系統のトルク指令trqA*の他、自系統及び他系統の各種情報が入力され、それらの情報に基づき電流指令値iA*を演算する。各種情報の一つとして、電流制限値演算部43Aは、例えばインバータ60Aの温度や3相巻線80Aの温度等に基づき、電流指令値の上限である電流制限値i*_limAを演算する。電流制限値i*_limAは、電流指令値に代わる情報として使用される場合がある。
【0039】
また、各種情報の一つとして、フェイルセーフ部44Aは、異常の有無を示す異常信号diagAを生成する。本実施形態において「異常」とは、非干渉化制御のための電流情報が正常に取得できなくなる程度の異常を意味する。その意味での異常が生じ得る制御状態をフェイルセーフ部44Aは判別する。また、系統間通信において通信途絶等の異常が発生する場合もある。そのような通信異常時にも、異常を検出した系統のフェイルセーフ部44Aは異常信号diagAを生成する。
【0040】
A系統のトルク指令trqA*、電流制限値i*_limA、異常信号diagAは自系統の電流指令値演算部42Aに入力されると共に、系統間通信により、他系統であるB系統の電流指令値演算部42Bに送信される。同様に、B系統のトルク指令trqB*、電流制限値i*_limB、異常信号diagBは自系統の電流指令値演算部42Bに入力されると共に、系統間通信により、他系統であるA系統の電流指令値演算部42Aに送信される。
【0041】
これにより電流指令値演算部42Aは、入力される信号に基づいて電流指令値iA
*を演算し、自系統の電圧指令値演算部50Aに出力する。また、系統間通信により、A系統の電流指令値iA
*がB系統の電圧指令値演算部50Bに送信される。なお、
図11を参照して後述するように、双方向の通信に限らず、一方のマスター系統から他方のスレーブ系統への一方向にのみ電流指令値が送信され、スレーブ系統で電流指令値が更新されてもよい。
【0042】
電圧指令値演算部50Aは、電流指令値iA*に実電流iAを追従させる電流フィードバック(図中「電流FB」)制御によりdq軸電圧指令値vAを演算する。また、電圧指令値演算部50Aは、他系統の3相巻線に流れる電流により自系統の3相巻線に発生する電圧を非干渉化する「非干渉化制御」を行う。非干渉化制御については後述する。
【0043】
dq/3相変換部46Aは、dq軸電圧指令値vAを3相電圧指令値vuvwAに座標変換する。3相電圧指令値vuvwAに基づいて生成される駆動信号DrAによりインバータ60Aが駆動される。3相/dq変換部47Aは、3相電流iuvwAをdq軸電流iAに座標変換して電圧指令値演算部50Aにフィードバックする。回転数演算部48Aは、電気角θAを時間微分した角速度に比例する回転数ωAを演算し、電圧指令値演算部50Aに出力する。
【0044】
ところで、特許文献1(特許第5556845号公報)に開示された二重巻線モータの制御装置は、二系統に共通の一つの演算装置により、各系統の電流の和と差を制御する。また、特許第6497106号公報に開示された二重巻線モータの制御装置も、二系統に共通の一つの演算装置により非干渉化制御を行う。そのため、系統毎の二つの演算装置間での電流情報の通信に係る通信負荷を考慮する必要はない。それに対し本実施形態のように二系統のマイコン40A、40B間で情報を通信する構成では、他系統の電流情報の取得に係る通信負荷が高くなるという課題が発生する。
【0045】
そこで、本実施形態のECU10は、二系統のマイコン40A、40Bを有する構成において、他系統の電流情報の取得に係る通信負荷を低減することを目的とする。そのための電圧指令値演算部50A、50Bの具体的な構成について実施形態毎に説明する。各実施形態の電圧指令値演算部の符号は、「50」に続く3桁目に実施形態の番号を付す。
【0046】
(第1実施形態)
図7に、第1実施形態におけるA系統電圧指令値演算部501Aの構成を示す。A系統及びB系統の構成は基本的に同等であるため、B系統の電圧指令値演算部の図示を省略する。B系統の電圧指令値演算部では、A系統電圧指令値演算部501Aにおけるブロックの符号や電流等の記号の末尾「A」が「B」に置き換えられる。
【0047】
第1実施形態の電圧指令値演算部501Aは、dq/和差変換部51A、dq/和差変換部52A、電流制御器53A、和差/dq変換部54A、及び、オブザーバ(状態推定器)570Aを有し、電流制御器53Aにおいて二系統の電流の和と差が制御される。ここで、二系統の電流の和と差、及び、電圧の和と差を示すベクトルの記号を式(2.1)~(2.6)で定義する。和は「S」、差は「D」の文字を記号の末尾に付す。
【0048】
【0049】
dq/和差変換部51Aは、A系統電流指令値iA*及びB系統電流指令値iB*を電流指令値の和iS*と差iD*に変換する。dq/和差変換部52Aは、A系統の実電流iA、及び、オブザーバ570Aが推定演算したB系統電流推定値iB_estAを、電流の和iSと差iDに変換する。
【0050】
電流制御器53Aは、電流指令値の和iS*と電流の和iSとの偏差、及び、電流指令値の差iD*と電流の差iDとの偏差が入力され、これらの偏差を0に近づけるように、電圧指令値の和uSと差uDを演算する。和差/dq変換部54Aは、電圧指令値の和uSと差uDをA系統電圧指令値vAに変換して出力する。
【0051】
電流制御器53Aが出力した電圧指令値の和uSと差uDは、オブザーバ570Aの二重巻線モータの数式モデル57Aに入力される。また、オブザーバ570AにはA系統電流iAが入力される。オブザーバ570Aは、これらの入力に基づき、B系統電流推定値iB_estA、すなわちA系統からみて他系統の電流を推定する。オブザーバ570Aの詳細な構成については後述する。
【0052】
このように、A系統マイコン40Aは、自系統の3相巻線80Aに流れる電流iAと、自系統及び他系統の出力電圧とに基づき、他系統であるB系統の電流iBを推定する。そしてマイコン40Aは、推定した他系統の電流iB_estAに基づいて系統間の干渉の影響を抑制する。典型的に本実施形態のマイコン40Aは、推定した他系統の電流iB_estAを用いて非干渉化制御を行う。
【0053】
次に他系統電流推定の理論について説明する。一般に二重巻線モータの電圧方程式は式(3.1)~(3.4)で表される。式中のRは3相巻線80A、80Bの抵抗、Ld、Lqはdq軸自己インダクタンス、Md、Mqはdq軸相互インダクタンス、ωは回転数、φは逆起電圧定数、sはラプラス演算子である。相互インダクタンスMd、Mqを含む項は、他系統の3相巻線に流れる電流により自系統の3相巻線に発生する干渉項である。
【0054】
【0055】
式(3.1)~(3.4)を、式(4)の状態方程式を用いて状態空間表現する。状態ベクトルxは、式(5.1)により、各系統のd軸及びq軸電流(idA、iqA、idB、iqB)を要素とする。入力ベクトルuは、式(5.2)により、二系統のd軸及びq軸電圧指令値の和と差(vdS、vqS、vdD、vqD)を要素とする。
【0056】
【0057】
A行列及びB行列は、式(6.1)、(6.2)により4行4列の正方行列で表される。さらにA行列は、各2行2列のA11、A12、A21、A22行列にブロック分割して表され、B行列は、各2行2列のB11、B12、B21、B22行列にブロック分割して表される。
【0058】
【0059】
【0060】
オブザーバ570Aは、B系統電流推定値iB_estAについての微分方程式(7)の解を求めることによりB系統電流推定値iB_estAを演算する。式中、微分値を(d/dt)の記号で示す。
【0061】
【0062】
式(7)の第1項(一点鎖線下線部)は、二重巻線モータの数式モデル57AにおいてA系統電流iA、B系統電流推定値iB_estA、及び、電圧指令値の和と差uS、uDを用いて状態方程式(4)により演算される。
【0063】
式(7)の第2項(二重線下線部)は、A系統電流推定値の誤差をフィードバックする項である。電流推定値iA_estAの微分値と実電流iAの微分値との偏差に対して収束演算することで推定値を真値に近づけるためのものである。この収束演算が「570A」のブロックを「オブザーバ(状態推定器)」と呼ぶ所以である。
【0064】
ここで、電流推定値iA_estAの微分値を、A系統電流iA、B系統電流推定値iB_estA、及び、電圧指令値の和と差uS、uDを用いて表すと、式(7)は式(8)に書き換えられる。式(8)の第2項における二点鎖線下線部が電流推定値iA_estAの微分値に相当する。
【0065】
【0066】
図8(a)に、B系統電流の推定演算を実現するオブザーバ570Aの構成を示す。二重巻線モータの数式モデル57Aの内部には式(3.1)~(3.4)のモータ定数R、L、Mが記憶されている。二重巻線モータの数式モデル57Aは、A系統電流iA及び電圧指令値の和と差uS、uDが入力され、推定演算したB系統電流推定値iB_estAを出力する。微分器58は、A系統電流iAと電流推定値iA_estAの偏差の微分値を算出する。ゲイン乗算器59Aは、微分器58の出力にゲインGを乗算して、二重巻線モータの数式モデル57Aにフィードバックする。
【0067】
参考までに
図8(b)にB系統のオブザーバ570Bの構成を示す。B系統オブザーバ570Bは、A系統オブザーバ570Aと同様に、二重巻線モータの数式モデル57B、微分器58B、ゲイン乗算器59BによりA系統の推定演算値iA_estBを推定する。このように第1実施形態のマイコン40A、40Bは、オブザーバ570A、570Bを用いて非干渉化制御と電流制御とを同時に行う。
【0068】
図9を参照し、オブザーバ570AのゲインGについて補足する。オブザーバ570AのゲインGは、式(9.1)の対角行列で示されるように定数aあるいは単位行列で規定されてもよい。或いは式(9.2)で示されるように、オブザーバ570AのゲインGは、モータ80の回転数ωに応じて可変に設定されてもよい。kは比例係数である。
【0069】
【0070】
式(9.2)の特性の場合、回転数ωとゲインGとの関係は
図9(a)に示される。また、
図9(b)に示すように、回転数ωが0付近の領域に不感帯を設けたり、回転数ωの絶対値が所定値以上の領域でゲインGの絶対値の上限を設けたりしてもよい。
【0071】
次に
図10のフローチャートを参照し、他系統電流推定の実施又は不実施の切り替えについて説明する。フローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。
図6を参照して上述した通り、各系統のマイコン40A、40Bは、各系統の異常情報を系統間通信により双方向に通信する。
【0072】
図10(a)のS11でマイコン40A、40Bは、他系統が異常、又は異常検出中であるか判断する。S11でYESの場合、S13でマイコン40A、40Bは、他系統電流の推定を中止する。A系統マイコン40AはB系統電流推定値iB_estA=0とし、B系統マイコン40BはA系統電流推定値iA_estB=0とする。S11でNOの場合、S14でマイコン40A、40Bは、推定演算を実施する。つまり、各系統のマイコン40A、40Bは、他系統が正常の時にのみ他系統電流の推定演算を実施する。なお、推定を中止したあとで推定演算を再開する場合は、前回値を初期値に推定演算してもよく、0を初期値に推定演算してもよい。
【0073】
図10(b)に示す例では、S12でマイコン40A、40Bは、他系統が停止中、すなわち電流が流れない状態であるか判断する。S12でYESの場合のS13、及び、S12でNOの場合のS14の処理は、
図10(a)と同様である。なお、異常が検出された系統を停止させる構成では、S12の判断ステップはS11と実質的に同じである。このように、各系統のマイコン40A、40Bは、他系統が正常の時にのみ他系統電流の推定演算を実施することで、無意味な推定や故障伝播を招く推定を回避し、演算効率や信頼性を向上させることができる。
【0074】
次に
図11のタイムチャートを参照し、各系統のマイコン40A、40Bによる系統間通信周期と電流制御演算周期との関係について説明する。「長い周期」である通信周期は、「短い周期」である電流制御演算周期の5倍の周期として図示されている。つまり、系統間通信が1回実施される間に各系統の電流制御演算が例えば5回実施される。ただし、具体的な周期の比率はこれに限らない。
【0075】
各系統のマイコン40A、40Bは、電流制御演算の周期よりも長い周期で各マイコン40A、40Bに入力される信号により電流制限値I*_limA、I*_limBを演算し、系統間通信により少なくとも一方向に電流制限値を送信する。また、各系統のマイコン40A、40Bは、電流制御演算の周期よりも長い周期で各マイコン40A、40Bに入力される信号により、異常の有無を示す異常信号diag1、diag2を演算し、系統間通信により少なくとも一方向に異常信号を送信する。
【0076】
本実施形態では、他系統の電流を系統間通信で取得せずに自系統で推定することで通信負荷を低減する一方で、他系統の電流制限値や異常信号は系統間通信で取得せざるをえない。そこで、電流制限値や異常信号の演算及び通信を電流制御演算の周期よりも長い周期で行うことで、通信負荷を低減することができる。
【0077】
また、電流指令値の演算において、例えばA系統マイコン40Aはマスターとして動作し、B系統マイコン40Bはスレーブとして動作する。
図11に示す構成例では、マスターが電流指令値を演算し、スレーブに通信する。マスターから電流指令値を受信したスレーブは、電流指令値を更新する。マスター及びスレーブによる電流制御演算は、系統間通信での電流指令値の通信周期よりも短い周期で行われる。なお、その他の構成例として、マスターから電流指令値を受信したスレーブが電流指令補正係数を算出し、マスターの電流指令値に電流指令補正係数を乗じてスレーブの電流指令値を演算してもよい。
【0078】
(第1実施形態の効果)
(1)以下の第2、第3実施形態を含む本実施形態のECU10は、他系統の実電流を系統間通信により取得するのでなく自系統の演算装置により推定することで、他系統の電流情報の取得に係る通信負荷を低減することができる。また、自系統の電流情報だけを使うため、二系統の同一要因による故障率を下げる効果もある。
【0079】
(2)各系統のマイコン40A、40Bは、オブザーバ570A、570Bにより他系統の電流を推定する。オブザーバ570A、570Bにより収束計算を行うことで制御が安定化する。
【0080】
(3)各系統のマイコン40A、40Bは、自系統の電流と推定した他系統の電流との和と差を制御することで、自系統の3相巻線80A、80Bに流す電流を制御する。特許文献1に記載されているように、二系統構成において電流の和と差の制御を行うことで、高周波成分によるトルクリップルを抑制し、熱特性を改善することができる。
【0081】
(第2実施形態)
図12に、第2実施形態における電圧指令値演算部502Aの構成を示す。電圧指令値演算部502Aは、電流制御器55Aにおいて二系統の電流の和と差ではなく各系統の電流を個別に制御する。つまり、電流制御器55Aは、A系統電流指令値iA
*とA系統電流iAとの偏差、及び、B系統電流指令値iB
*とB系統電流推定値iB_estAとの偏差が入力され、これらの偏差を0に近づけるように、A系統電圧指令値vA及びB系統電圧指令値vBを演算する。ここで、B系統電流推定値iB_estAは、オブザーバ570Aが推定演算した値である。
【0082】
電流制御器55Aが出力した二系統の電圧指令値vA、vBは、dq/和差変換部56Aで電圧指令値の和uSと差uDに変換され、オブザーバ570Aの二重巻線モータの数式モデル57Aに入力される。オブザーバ570Aの構成は第1実施形態と同様である。このような構成でも、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0083】
(第3実施形態)
図13に、第3実施形態における電圧指令値演算部503Aの構成を示す。第3実施形態は、第1実施形態に対しオブザーバの機能が無い。すなわち、二重巻線モータの数式モデル57Aにおいて、A系統電流iAの微分値と電流推定値iA_estAの微分値との偏差に対する収束演算は実施されない。
【0084】
第3実施形態では、他系統の電流推定値iB_estAの演算がフィードフォワード的に実施され、推定値が実際の値と乖離していてもそのまま用いられる。その点を除いては、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0085】
(その他の実施形態)
(a)上記実施形態では、マイコン40A、40Bは、推定した他系統の電流を用いて非干渉化演算を行う。周知技術の非干渉化演算は、例えば特許第6497106号公報の
図6に示されるように、モータモデルに基づくブロック線図において他系統の情報を含むMs項やMω項が自系統に入力される演算である。ただし本発明の演算装置は、ブロック線図上で直接的に非干渉化制御量を算出する制御に限らず、少なくとも干渉の影響を抑制する方向に作用する制御を行うものであればよい。
【0086】
(b)本実施形態では、二系統のマイコン40A、40Bが個別に設けられ、互いに情報を通信する構成が前提となる。ただし、二つのマイコン以外に監視用等の他の演算装置が別に設けられてもよい。また、トルクセンサや回転角センサは冗長的に設けられる構成に限らず、二系統共通に一つ設けられてもよい。
【0087】
(c)多相回転機の相の数は、3相に限らず4相以上であってもよい。3相以外の回転機において、上記実施形態の「3相巻線」は「多相巻線」に一般化される。本発明の多相回転機の制御装置は、電動パワーステアリング装置の操舵アシストモータの制御装置に限らず、他の用途のモータまたは発電機用の制御装置として適用されてもよい。
【0088】
(d)系統間通信の通信規格として、CAN、シリアル通信(UART)の他、LIN、FlexRay、イーサネット(登録商標)等が用いられてもよい。
【0089】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 ・・・ECU(制御装置)、
40A、40B・・・マイコン(演算装置)、
60A、60B・・・インバータ(電力変換器)、
80 ・・・モータ(多相回転機)、
80A、80B・・・3相巻線(多相巻線)。