(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】板状部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/40 20060101AFI20240215BHJP
B29C 65/56 20060101ALI20240215BHJP
B29C 70/28 20060101ALI20240215BHJP
B29C 65/04 20060101ALN20240215BHJP
【FI】
B29C65/40
B29C65/56
B29C70/28
B29C65/04
(21)【出願番号】P 2019170892
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-08-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】392017222
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小平 裕也
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-245941(JP,A)
【文献】特開2018-176438(JP,A)
【文献】特開2019-135405(JP,A)
【文献】特開2011-110796(JP,A)
【文献】特開2014-240180(JP,A)
【文献】特開2002-067689(JP,A)
【文献】特開2000-141485(JP,A)
【文献】特開昭63-059519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合する板状部材
各々の接合
部に貫通部を形成し、
この貫通部に炭素繊維強化熱可塑性樹脂材またはガラス繊維強化熱可塑性樹脂材を層状に積層した母材から形成した熱可塑性樹脂製のピン
を埋め込み、
加熱処理により前記ピンを軟化変形させることにより前記板状部材同士を接合することを特徴とする
板状部材の接合方法。
【請求項2】
前記ピン
における前記熱可塑性樹脂材の積層方向が、前記
貫通部の軸方向に対して直交することを特徴とする請求項
1記載の
板状部材の接合方法。
【請求項3】
前記ピンが、前記板状部材の表面から突出していないことを特徴とする請求項1
または2のいずれかに記載の
板状部材の接合方法。
【請求項4】
前記
貫通部の断面形状が、円形、長円形、三角形または多角形に形成されていることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれかに記載の
板状部材の接合方法。
【請求項5】
前記
貫通部は、
前記板状部材の接合面側の
幅が非接合
面側の
幅よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれかに記載の
板状部材の接合方法。
【請求項6】
前記加熱処理の処理温度が、熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれかに記載の
板状部材の接合方法。
【請求項7】
前記接合する板状部材が、前記熱可塑性樹脂製ピンの融点よりも高い融点を有する材料であることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれかに記載の
板状部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂部材製のピンを用いて、金属・セラミック等の板状部材を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から板状部材として金属やセラミック等が使用されている。これらの板状部材を接合するための一般的な方法としては、ネジとナットやリベット等が使用されている。接合方法が簡便で強度も得られるため多くの分野において使用されているが、これらの接合方法では接合する部材の表面にネジやナット、リベット等が突出することが欠点であった。
【0003】
金属板同士の接合の場合、このような欠点を持たない半田付けやろう付け、溶接等の方法も利用されている。しかし、これらの方法においては、逆に接合するための特別な装置が必要となる。
【0004】
特許文献1には、平板状の導電部材同士を接合する導電部材の接続方法において、片方の導電部材の上面に他方の導電部材の下面を重ね合わせ、該重ね合わせた両方の導電部材に貫通する穴を形成し、または予め形成しておき、該穴に、外側面に凹凸を有するピンを熱しながら挿入して溶融金属で該ピンと前記導電部材とを導電接続することを特徴とする導電部材の接合方法が開示されている。ピンの材質について記述はないが、例えば
図2(c)及び明細書段落(0016)を見るとピンに半田ごてを押し当ててピンを加熱した後半田を流し込んでいるため、このピンは少なくとも半田よりも融点が高く熱伝導率の良い材料であることが推察され、また導電部材を接合するためピンの強度も必要となるため。このような特性を持つ材料は金属が適していると考えられる。この方法では、少なくともピンと半田と2種類の材料が必要となり、接合方法も煩雑となる。
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題点に鑑みて本発明による接合方法では、加熱という物理的な手段のみを使用し、強度に優れた板状部材の接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため本発明による板状部材の接合方法においては、接合する板状部材各々の接合部に貫通部を形成し、この貫通部に熱可塑性樹脂製のピンを埋め込み、加熱処理により前記ピンを軟化変形させることにより前記板状部材同士を接合することを特徴とする。
【0008】
前記ピンは、炭素繊維強化熱可塑性樹脂材またはガラス繊維強化熱可塑性樹脂材を層状に積層した母材から形成することが好適であり、前記熱可塑性樹脂材の積層方向が、前記貫通部の軸方向に対して直交することが望ましい。
【0009】
さらに、前記ピンは接合後に前記板状部材表面より上に出ていないことが最大の特徴である。
【0010】
前記板状部材の前記貫通部は、円、長円または多角形の筒状であることが好ましく、前記貫通部の断面形状において、前記板状部材の接合面側よりも非接合面側の直径が小さいことが好適である。
【0011】
前記加熱処理は、前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上であることが好適であり、前記板状部材の両方またはいずれかは、金属或いはセラミック等、前記熱可塑性樹脂製ピンより融点の高い材料であることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明による板状部材の接合方法によれば、熱可塑性樹脂製ピンを最終的に軟化させて変形させることにより板状部材同士を接合させるため、種々の加熱方法を採用することが可能となる。また、板状部材に形成する貫通部の断面形状において、各々の板状部材の接合側の幅が、各々の板状部材の非接合側の幅より小さくなるよう構成することにより、熱可塑性樹脂製ピンがより抜けにくくなり、接合強度を上げることができる。さらに、熱可塑性樹脂製ピンの材料として、積層型の炭素繊維強化熱可塑性樹脂またはガラス繊維強化熱可塑性樹脂を使用し、積層方向を前記ピンの両端面に対して直角になるよう形成し、接合時に板状部材に対して一定の方向で使用することにより、所望する方向の強度を強くすることができる。さらに、熱可塑性樹脂製ピンを接合に使用しているため、必要であれば再加熱することにより、板状部材同士を再分離することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施例に基づいて本発明の好適な実施態様について説明する。
【実施例】
【0014】
図1に本発明による板状部材の接合方法の説明図を示した。(a)は構成部材であり、板状部材1及び2と熱可塑性樹脂製ピン10からなる。各々の板状部材1及び2上には貫通部10が設けてある。貫通部の形状は任意であるが、各部材1及び2の接合面においては貫通部の形状が類似であることが望ましい。 (b)において、板状部材1及び2を加熱装置20内に入れ、熱可塑性樹脂製ピン10の軟化温度以上に加熱する。一例としてここでは板状部材1及び2を加熱する方法を示すが、他の方法を採用することももちろんできる。(c)において、加熱した板状部材1及び2を接合する方向に重ねて貫通部30の位置を合わせる。この貫通部30に熱可塑性樹脂製ピン10を挿入する。板状部材1及び2の温度が熱可塑性樹脂製ピン10の軟化温度より高い場合、熱可塑性樹脂製ピン10は貫通部30内において軟化し、貫通部の形状に沿った形に変形する。この状態で板状部材1及び2を冷却すると熱可塑性樹脂製ピンは変形した形で貫通部10内において固定化される。これによって、板状部材1及び2が熱可塑性樹脂製ピン10により接合される。 (d)は、接合された板状部材1及び2の状態を示す。
【0015】
上記実施例においては、板状部材1及び2を加熱装置20内に入れて加熱する方法を示したが、板状部材1及び2に熱可塑性樹脂製ピン10を最初に挿入しておいて加熱する方法も考えられる。また、板状部材1及び2に熱可塑性樹脂製ピン10を挿入した後、例えば高周波加熱等の方法によりピン10のみを加熱する方法も可能である。要するに、板状部材1及び2の貫通部30内に熱可塑性樹脂製ピン10を挿入した後で、熱可塑性樹脂製ピン10を加熱変形させて固定できる方法であれば、このほかの方法でも良い。
【0016】
図2は、板状部材1及び2上の貫通部30の形状の例を示す。(a)から(f)はA-A’面における貫通孔の断面図である。(a)は一番単純な形状であるストレートの例を示す。(b)は、貫通部の面積が板状部材の両面で異なる場合の一例で、貫通部30の直径が直線的に小さくなるテーパータイプである。
板状部材1の貫通部30は、接合面101側の幅d1が非接合面102側の幅D1より小さく形成されており、板状部材2では、接合面201側の幅d2が非接合面202側の幅D2よりも小さく形成されている。(c)は(b)と同様のテーパータイプであるが、直径が曲線的(円弧状)に変化する例である。(d)も(b)と同様のテーパータイプであるが、貫通部30の直径が階段状に変化する例である。(b)から(d)についてはいずれも、直径の小さな面を向かい合わせて接合面としている。(e)と(f)は貫通部30の片側のみ面取り部を設けた例である。(e)は断面が直線的な面取りの例、(f)は断面が曲線的な面取りの例である。(b)から(f)まではいずれも、貫通部30の接合面側面積が反対側面積に比べて小さく設定された例である。これは、熱可塑性樹脂製ピン10が熱により膨張した場合、抜けにくくなるという効果を生ずる。以上、貫通部30の断面形状の例を示したが、これらに限定されるものでないことは明かである。
【0017】
以上の実施例では断面円状の貫通部について説明したが、長円或いは多角形とすることもできる。さらには、独立した貫通孔だけではなく、いずれかの端部が板状部材端面に達するようなスリット状の貫通部を採用することも可能である。
【0018】
上記実施例においては、熱可塑性樹脂製ピンと記述した。接合強度の高さをあまり求められない用途においては熱可塑性樹脂であれば何でも使用することができる。しかし、高い接合強度を必要とする場合、できれば積層型の炭素繊維強化熱可塑性樹脂またはガラス繊維強化熱可塑性樹脂が望ましい。積層を行なうことにより樹脂自体の強度が高くなる。このような熱可塑性樹脂母材11からピン10を形成するわけであるが、
図3に示したように、ピン10端面に対して積層方向が直角であることが望ましい。ピン10を形成した場合、積層方向に対する強度はこれと直角の方向に対して極めて高くなるからである。このようなピン10を接合強度が求められる方向に合わせて使用することにより、より高い強度を得ることが可能となる。
【0019】
上記実施例においては板状部材として特に規定しなかった。本発明の趣旨からして、板状材料は熱可塑性樹脂製ピンより融点が高い必要がある。そのため、アルミニウムや鉄等の金属類や、セラミックが望ましいが、この特性を有する材料であればその種類は問わない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上述べたように、本発明による板状部材の接合方法では、種々の加熱方法が利用できるため適用用途が広く、接合部材表面に突出部がないため狭い空間にも使用することが可能となる。また、場合によってはピンを再加熱することにより、接合部材同士を再分離することもできるため、種々の産業分野において有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による板状部材の接合方法についての説明図である。
【
図2】本発明による熱可塑性樹脂製ピンの形状を示す図である。
【
図3】本発明に使用する熱可塑性樹脂製ピンの形成方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 板状部材
2 板状部材
10 熱可塑性樹脂製ピン
11 熱可塑性樹脂母材
20 加熱装置
30 貫通部
31 直線的面取り部
32 曲線的面取り部
101 接合面
102 非接合面
201 接合面
202 非接合面