(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】アニオン性物質の吸着剤、アニオン性物質の吸着剤の製造方法、アニオン性物質の吸着剤の製造装置、及びアニオン性物質の回収方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/10 20060101AFI20240215BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240215BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240215BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240215BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240215BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 G
C02F1/28 L
C02F1/28 P
(21)【出願番号】P 2019538003
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027477
(87)【国際公開番号】W WO2019039164
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017161168
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018117466
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516381884
【氏名又は名称】株式会社JFR
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 博
(72)【発明者】
【氏名】藤野 陽
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】増山 淳子
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-161398(JP,A)
【文献】特開2013-158727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/28
B01J20/30-20/34
C02F1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を3モル/L以上の量で含みかつ150℃以上であるアルカリ溶液中にて
40分以上1.5時間以内の所定時間に亘り処理
して得られた発泡ガラスを含有する吸着剤の製造方法であって、3000mg/Lのリン酸イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、吸光光度法により算出するリン酸イオン吸着可能量が、60mg/g以上となるように、アルカリ金属水酸化物濃度、温度、及び時間が選択されたものである
リン酸イオンの吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記発泡ガラス材料は、炭酸カルシウムを含む発泡剤で発泡されたものである請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性物質の吸着剤、アニオン性物質の吸着剤の製造方法、アニオン性物質の吸着剤の製造装置、及びアニオン性物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、産業上発生するアニオン性物質(リン酸イオン、フッ素、ホウ酸等)の回収技術が求められている。例えば、リンは、農産物の成長にとって必須の元素であり、リン酸は従来より肥料として用いられている。このように肥料等として使用されるリン酸が、リン酸イオンとして排水に紛れて閉鎖性水域に流入すると、その水域で富栄養化が発生し、その現象により、生態系に変化が生じる。このような生態系の変化により、水道被害や漁業被害が発生し、これらが問題となっている。
他方、リン酸は、一般にリン鉱石を原料として製造されるが、リン鉱石の埋蔵量には限りがあり、近い将来にリン鉱石が枯渇する可能性が指摘されている。よって、リン酸による水道被害や漁業被害の問題を解決しつつ、リン資源を有効に獲得するために、排水等のリン酸を含む溶液からリン酸を回収する技術が必要とされている。
【0003】
一方、日本では、年間100万トンを越える使用済みガラスが再利用されず埋め立て等によって廃棄処理されている。特に、ガラス家電製品やバックミラー等の自動車ガラスを作る際には、大量の廃ガラスが発生する。また、今後も太陽光パネル等のガラス製品の廃棄によるさらなる大量の廃ガラスが発生すると予想されている。これらの廃ガラスは埋め立て処理されているものの、埋め立て処理によると、土壌汚染問題や、将来的には廃棄物処分場の建設問題等が懸念されている。この廃棄物問題は、今や社会問題となっており、廃ガラスの新たな有効利用法を見出すことが必要とされている。
【0004】
このような状況下において、廃ガラスを利用しつつリン酸を回収するための技術として、特許文献1には、発泡ガラスをアルカリ溶液中に浸漬させた状態で、加圧下で110℃以上の温度で、2時間以上の加熱処理を行う工程を備えるリン酸イオン吸着剤の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法により製造されたアニオン性物質の吸着剤は、アニオン性物質の吸着能が未だ十分なものでなく、改善の余地を有する。また、特許文献1に記載された方法では製造に2時間以上の長時間を必要とし、工業的な課題となっている。特にリン酸イオン吸着能を最大限に使用する場合には、6時間以上が必要となっており、多大な製造コストを必要としていた。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、アニオン性物質の吸着能に優れたアニオン性物質の吸着剤、その製造方法、アニオン性物質の吸着剤の製造装置を提供することを目的とする。また、本発明は、アニオン性物質の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アニオン性物質の吸着剤表面のCa濃度、Na濃度や、SiOX(Xは、水素、ナトリウム、カルシウム等である)の量を調整することにより、優れたアニオン性物質の吸着能を調節できることを見出した。また、本発明者らは、アルカリ溶液中で発泡ガラスを高温でアルカリ処理したり高加圧で処理したりすることで、高いリン酸イオン吸着能を有するアニオン性物質の吸着剤(以下、単に「吸着剤」と称する場合がある。)をより短時間で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 発泡ガラスを含有し、XPS分析による吸着剤表面のCa2p濃度が7.5原子%以上又はNa1s濃度が5.0原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上であるアニオン性物質の吸着剤であって、3000mg/Lのリン酸イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、吸光光度法により算出するリン酸イオン吸着可能量が、60mg/g以上である吸着剤。
【0010】
(2) 水銀圧入法による比表面積が45m2/g以上又は細孔容積が2.5cm3/g以上である(1)に記載の吸着剤。
【0011】
(3) 比重が0.53g/mL以下である(1)又は(2)に記載の吸着剤。
【0012】
(4) 発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ140℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する工程を有し、3000mg/Lのリン酸イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、吸光光度法により算出するリン酸イオン吸着可能量が、40mg/g以上となるように、アルカリ水金属酸化物濃度、温度、及び時間が選択されたものであるアニオン性物質の吸着剤の製造方法。
【0013】
(5) 前記所定時間は1.5時間以内である(4)に記載の方法。
【0014】
(6) 前記発泡ガラス材料は、炭酸カルシウムを含む発泡剤で発泡されたものである(4)又は(5)に記載の方法。
【0015】
(7) 発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ140℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する手段を備え、3000mg/Lのリン酸イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、吸光光度法により算出するリン酸イオン吸着可能量が、40mg/g以上となるように、アルカリ金属水酸化物濃度、温度、及び時間を調節するアニオン性物質の吸着剤の製造装置。
【0016】
(8)発泡ガラスを含有し、XPS分析による吸着剤表面のCa2p濃度が3.0原子%以上又はNa1s濃度が8.5原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上であるアニオン性物質の吸着剤であって、1000mg/Lのフッ化物イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、比色法により算出するフッ化物イオン吸着可能量が、10mg/g以上である吸着剤。
【0017】
(9)水銀圧入法による比表面積が15m2/g以上又は細孔容積が1.5cm3/g以上である(8)に記載の吸着剤。
【0018】
(10) 比重が0.65g/mL以下である(8)又は(9)に記載の吸着剤。
【0019】
(11) 発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ125℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する工程を有し、1000mg/Lのフッ化物イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、比色法により算出するフッ化物イオン吸着可能量が、10mg/g以上となるように、アルカリ金属水酸化物濃度、温度、及び時間が選択されたものであるアニオン性物質の吸着剤の製造方法。
【0020】
(12) 前記所定時間は2時間以内である(11)に記載の方法。
【0021】
(13) 前記発泡ガラス材料は、炭酸カルシウムを含む発泡剤で発泡されたものである(11)又は(12)に記載の方法。
【0022】
(14) 発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ125℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する手段を備え、1000mg/Lのフッ化物イオン溶液を用いた、前記吸着剤の25℃、2時間撹拌において、比色法により算出するフッ化物イオン吸着可能量が、10mg/g以上となるように、アルカリ金属水酸化物濃度、温度、及び時間を調節するアニオン性物質の吸着剤の製造装置。
【0023】
(15) (1)から(3)、(8)から(10)に記載の吸着剤、又は(4)から(6)、(11)から(13)のいずれかに記載の方法で製造された吸着剤にアニオン性物質を吸着させる工程を有する、アニオン性物質の回収方法。
【0024】
(16) (1)から(3)、(8)から(10)に記載の吸着剤、又は(4)から(6)、(11)から(13)のいずれかに記載の方法で製造された吸着剤にアニオン性物質が吸着したアニオン性物質吸着物。
【0025】
(17) (16)に記載の吸着物の粉砕物。
【0026】
(18) (16)に記載の吸着物よりアニオン性物質を脱着させる工程を備える、アニオン性物質の再利用用吸着剤の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アニオン性物質の吸着能に優れたアニオン性物質の吸着剤、その製造方法、アニオン性物質の吸着剤の製造装置を提供することができる。また、本発明によれば、アニオン性物質の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】吸着剤表面のCa2p濃度とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図2】吸着剤表面のNa1s濃度とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図3】発泡ガラス材料のXPS分析結果を示すグラフである。
【
図4】吸着剤(発泡ガラス)のXPS分析結果を示すグラフである。
【
図5】吸着剤の比表面積とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図6】吸着剤の細孔容積とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図7】吸着剤の比重とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図8】吸着剤のリン吸着処理時間とリン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図9】アルカリ溶液のNaOH濃度と、リン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図10】アルカリ溶液の温度と、リン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図11】高温アルカリ処理の処理時間と、リン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図12】高加圧処理の処理圧力と、リン吸着量との関係を示すグラフである。
【
図13】吸着剤表面のCa2p濃度とフッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図14】吸着剤表面のNa1s濃度とフッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図15】吸着剤の比表面積とフッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図16】吸着剤の細孔容積とフッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図17】吸着剤の比重とフッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図18】アルカリ溶液のNaOH濃度と、フッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図19】アルカリ溶液の温度と、フッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【
図20】高温アルカリ処理の処理時間と、フッ素吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
<リン酸系アニオン性物質の吸着剤>
本発明のリン酸系アニオン性物質の吸着剤は、発泡ガラスを含有し、X線光電子分光(XPS)分析による吸着剤表面のCa2p濃度が6.0原子%以上又はNa1s濃度が6.5原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上である。
また、一実施態様において、本発明のアニオン性物質の吸着剤は、発泡ガラスを含有し、X線光電子分光(XPS)分析による吸着剤表面のCa2p濃度が8.0原子%以上又はNa1s濃度が5.0原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上である。
【0031】
本発明の吸着剤は、表面のCa2p濃度が6.0原子%以上と高いことで、アニオン性物質を効果的に吸着でき、特に高濃度域のアニオン性物質を効果的に吸着できる。また、表面のNa1s濃度が6.5原子%以下と低いことは、Ca2p濃度が高いことの裏返しであり、アニオン性物質の吸着に寄与しないNaが少なく、Caが効果的に露出することで、アニオン性物質を効果的に吸着することができる。さらに、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上と大きいことは、発泡ガラスの基本骨格をなすSiが、吸着剤の表面においてはSiO2と比較してより多くのSiOX(Xは、水素、ナトリウム、カルシウム等である。)を構成していることを示し、高温でアルカリ処理されてもなお、発泡ガラスの基本骨格としてSiOXが崩壊せず、吸着剤としての機能を発揮できることを示している。そして、SiOXは、アニオン性物質の吸着に寄与し、特に低濃度域のアニオン性物質を効果的に吸着できる。このように、Ca2p濃度、Na1s濃度、及びSi2pピークの半値幅が上記範囲に規定された吸着剤は、アニオン性物質の低濃度域~高濃度域の全濃度域において、優れたアニオン性物質の吸着能を発揮することができることが明らかになった。
【0032】
上述した観点から、本発明の吸着剤表面のCa2p濃度は、6.0原子%以上であり、7.5原子%以上であることが好ましく、9.2原子%以上であることがより好ましく、10.5原子%以上であることがさらに好ましい。他方、Ca2p濃度の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、20原子%以下(18原子%以下、16原子%以下、14原子%以下等)としてもよい。
【0033】
また、上述した観点から、本発明の吸着剤の表面のNa1s濃度は、6.5原子%以下であり、5.0原子%以下であることが好ましく、3.8原子%以下であることがより好ましく、3.0原子%以下であることがさらに好ましい。他方、Na1s濃度の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、ゼロ(検出限界値以下)以上(1.0原子%以上、1.5原子%以上等)としてもよい。
【0034】
また、上述した観点から、本発明の吸着剤のSi2pピークの半値幅が2.4eV以上であり、2.7eV以上であることが好ましく、3.0eV以上であることがより好ましい。他方、Si2pピークの半値幅の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、4.0eV以下(3.8eV以下、3.6eV以下等)としてもよい。なお、基本骨格が崩壊するとピークは消滅してしまう。
【0035】
さらに、本発明の吸着剤は、比表面積又は細孔容積が大きい方が、アニオン性物質の吸着能を有する表面が多くなる。この観点から、本発明の吸着剤の水銀圧入法による比表面積は、15m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましく、32m2/g以上であることがより好ましく、45m2/g以上であることがさらに好ましく、60m2/g以上であることがさらに一層好ましく、75m2/g以上であることが特に好ましい。
また、本発明の吸着剤の水銀圧入法による細孔容積は、1.7cm3/g以上であることが好ましく、2.0cm3/g以上であることがより好ましく、2.2cm3/g以上であることがより好ましく、2.5cm3/g以上であることがさらに好ましく3.0cm3/g以上であることがさらに一層好ましく、3.5cm3/g以上であることが特に好ましい。
他方、比表面積の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、200m2/g以下、150m2/g以下としてもよい。細孔容積の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、8cm3/g以下、6cm3/g以下としてもよい。
【0036】
また、本発明の吸着剤は、比重が小さい方が、アニオン性物質の吸着能を有する表面が多くなる。この観点から、本発明の吸着剤の比重は、0.60g/mL以下であることが好ましく、0.57g/mL以下であることがより好ましく、0.55g/mL以下であることがより好ましく、0.53g/mL以下であることがより一層好ましく、0.50g/mL以下であることがさらに一層好ましい。他方、比重の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、0.1g/mL以上(0.15g/mL以上、0.2g/mL以上、0.25g/mL以上等)としてもよい。
【0037】
本発明の吸着剤の比重(g/mL)は、以下の方法により測定する。
(1) 質量計を用いて、吸着剤(例えば、粒径4mm以上10mm以下の吸着剤)5~10gを量り取る。
(2) 量り取った吸着剤を水に10分程度浸漬させる。
(3) 浸漬開始から10分後、ザル等に揚げ、ティッシュ等で表面の水気を拭き取る。
(4) 吸着剤を最大目盛の半分まで水が入ったメスシリンダーへ投入し、水中に沈める。
(5) すべての吸着剤が沈んだ時の水の体積を測定し、投入前からの増分を算出する。
(6) 以下の式で比重を算出する。
[比重(g/mL)]=[吸着剤質量(g)]/[水の体積の増分(mL)]
【0038】
本発明の吸着剤は、例えば、リン酸イオン濃度が3000mg/Lのリン酸イオン溶液(以下、「高濃度リン酸イオン溶液」と呼称する場合がある。)におけるリン酸イオン吸着可能量が10.0mg/g以上(20.0mg/g以上、30.0mg/g以上、40.0mg/g以上、50.0mg/g以上、60.0mg/g以上、70.0mg/g以上、80.0mg/g以上、90.0mg/g以上、100.0mg/g以上、110.0mg/g以上、120.0mg/g以上、130.0mg/g以上、140.0mg/g以上、150.0mg/g以上、160.0mg/g以上、等)である。他方、吸着剤のリン酸イオン吸着可能量の上限は、要求されるリン酸イオン吸着能に応じて、例えば、300mg/g以下(250mg/g以下、200mg/g以下、150mg/g以下、100mg/g以下、50.0mg/g以下等)としてもよい。なお、リン酸イオン吸着可能量は、アニオン性物質の吸着剤の吸着能の指標に過ぎない(なお、リン酸イオン吸着可能量を、単にリン吸着量ということがある)。
【0039】
本発明において、リン酸イオン濃度が3000mg/Lのリン酸イオン溶液(リン酸ニ水素ナトリウム)におけるリン酸イオンの吸着可能量は、以下の方法により測定する。
【0040】
[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の算出方法]
(1) 所定量の吸着剤(例えば2.50g、1.20g、又は0.5gの3段階の質量から選択)と、リン酸イオン(PO4
3-)濃度3000mg/Lのリン酸イオン溶液50mLとを容器に収容する。
(2) 収容後、容器に塩酸又は水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを調整する。
(3) pHの調整後、25℃に設定した恒温槽内で容器を2時間撹拌する。
(4) 撹拌後、3000rpmで10分間の遠心分離を行い、上澄み液中のリン酸イオン濃度を、モリブデンブルー法による吸光光度計により測定する。
(5) 測定値に基づいて、リン酸イオン吸着可能量(mg/g)を求める。
(6) 上記(1)~(5)の測定を、pH4、pH5、pH6、pH7、pH8とする各々について測定し、pH4~8の中の最大値をリン酸イオン吸着可能量(mg/g)とする。なお、ここで、pHは、(3)における2時間撹拌後に測定するものとする。
【0041】
なお、(1)における吸着剤質量の選択(2.50g、1.20g、又は0.5g)は、任意であるが、各々の吸着剤についての理論的飽和吸着量に留意して選択することが必要である(3000mg/Lのリン酸イオン溶液50mLを用いた時の、吸着剤各々の理論的飽和吸着量は、2.50g;60mg/g、1.20g;125mg/g、0.5g;300mg/g)。すなわち、任意に選択した吸着剤質量について、上記(1)~(6)の手順で測定を行い、その測定結果が、選択した吸着剤質量に対する理論的飽和吸着量を下回る場合には、その測定結果を採用するが、理論的飽和吸着量と一致した場合には、吸着可能量はそれ以上であることがあり得るので、ひとつ下の段階の質量の吸着剤を選択して再測定する。測定をこのように段階的に行うことによって、吸着量の測定精度が高まる。
【0042】
本発明の吸着剤は、アニオン性物質の吸着に用いられるものであれば特に限定されない。吸着対象のアニオン性物質としては、例えば、リン(リン酸イオン等)、フッ素(フッ化物イオン等)、ホウ酸等が挙げられる。特に、本発明は、リン酸イオン及びフッ化物イオンの吸着に適している。
【0043】
また、本発明の吸着剤は、上述した特性を有する発泡ガラスのみから構成してもよく、他の物質、成分を含んでもよい。例えば、本発明の吸着剤は、アニオン性物質の吸着能を有する他の物質(例えば、上述した特性を有する発泡ガラスとは異なる発泡ガラス)を含んで構成してもよい。
【0044】
<第1の実施形態に係るリン酸系アニオン性物質の吸着剤の製造方法>
第1の実施形態に係るリン酸系アニオン性物質の吸着剤の製造方法は、発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ140℃以上であるアルカリ溶液中にて所定の時間に亘り処理する(以下、「高温アルカリ処理」と呼称する場合がある。)工程を有する。かかる方法により、上述の特性を有する発泡ガラスを含む吸着剤を製造できる。なお、高温アルカリ処理工程の後に、後述する表面調整工程を有してもよい。
【0045】
本発明における発泡ガラス材料とは、複数の細孔を有するガラスであり、例えば、原料となるガラスを粉砕し、粉砕したガラスと発泡剤とを混合してから焼成することによって製造することができる。以下、発泡ガラス材料の製造方法の一例をより具体的に説明する。
【0046】
本発明における発泡ガラス材料の原料となるガラス(以下、「原料ガラス」と呼称する場合がある。)の種類は特に限定されないが、ソーダ石灰ガラス、ほうケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等が挙げられる。原料ガラスには、液晶、プラズマディスプレイ等のガラス家電製品やバックミラー等の自動車ガラスに由来する廃ガラスを用いてもよい。原料ガラスの粉砕方法は特に限定されず、市販の振動ミル等を用いて粉砕することができる。粉砕後の原料ガラス(以下、「粉砕ガラス」と呼称する場合がある。)の粒径は、特に限定されないが、粉砕ガラスと発泡剤とが均一に混合されるように小さい方が好ましい。例えば、原料ガラスの粉砕後に目開きが1mm以下である篩を用いて粒度選別を行って、粉砕ガラスの粒径が1mm以下になるようにすることが好ましい。なお、本明細書において、「粒径がXmm以下である」とは、篩の目開きがXmmである篩を通りぬけるものであることを意味する。
【0047】
粉砕ガラスと混合する発泡剤の種類は、特に限定されず、SiC、SiN、CaCO3や、CaCO3等を含む材料(例えば、貝殻等)等を用いることができ、特に、上述の特性の発泡ガラスを得やすい点から、Caを含むCaCO3やCaCO3等を含む材料が好ましく用いられる。このような発泡剤は、ガラスが軟化する温度でガスを発生させるので、その結果、ガラス内部に多数の細孔が形成されて、発泡ガラス材料が製造される。また、Caを含む発泡剤を用いることにより、発泡ガラス表面のCa濃度を高くすることができる。発泡剤の含有量は、特に限定されないが、0.1~5重量%であることが好ましく、0.2~2.0重量%であることが特に好ましい。その理由は、このような範囲内であれば、発泡が十分に起こり、かつ、発泡過剰による発泡ガラス材料の強度低下が生じることを避けることができるからである。また、粉砕ガラスと発泡剤とを混合する際に、発泡剤とは別に、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄のうちの少なくとも1種を含む材料を添加してもよい。このような材料としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ベンガラ、フェライト等が挙げられる。これら材料の添加量は、特に限定されないが、1~20重量%であることが好ましく、5~15重量%であることが特に好ましい。これら材料を上記範囲内で添加することで、アニオン性物質(特に、リン酸イオンやフッ化物イオン)の吸着量の向上が顕著となる。
【0048】
混合済みの原料ガラス(粉砕ガラス)と発泡剤との焼成の温度や時間は、原料ガラスが適切に発泡するように、原料ガラスや発泡剤の種類に応じて適宜設定すればよい。焼成温度は、例えば、600~1150℃であってよいが、特に、ソーダ石灰ガラスを原料ガラスとして用いる場合は、800~1000℃であることが好ましい。焼成温度がこのような範囲であれば、原料ガラスが十分に軟化して細孔が適切に形成され、かつ、原料ガラスが柔らかくなりすぎないので形成された細孔が再度塞がることを避けることができる。また、焼成時間は、例えば、1~60分であってよく、好ましくは5~10分である。焼成時間がこのような範囲内であれば、発泡が十分に起こり、かつ、形成された細孔が再度塞がったり泡がくっつきあうことによって表面の微細さが無くなったりすることを避けることができる。
【0049】
発泡ガラス材料の形状は、特に限定されず、塊状のままであってもよく、粉砕したものであってもよい。粉砕後の発泡ガラス材料の粒径は、特に限定されないが、2cm以下であることが好ましい。すなわち、粉砕後の発泡ガラス材料の粒径の上限は、2cm以下(1.8cm以下、1.6cm以下、1.5cm以下、1.4cm以下、1.3cm以下、1.2cm以下、1.1cm以下、1.0cm以下、0.9cm以下、等)である。他方、粉砕後の発泡ガラス材料の粒径の下限は、0.05cm超(0.06cm以上、0.08cm以上、0.1cm以上、0.2cm以上、0.2cm超、0.3cm以上、0.4cm以上、0.5cm以上、0.6cm以上、0.7cm以上、0.8cm以上、0.9cm以上、1.0cm以上、1.1cm以上、等)である。粉砕後の発泡ガラス材料の粒径を上記のように設定することによって、アニオン性物質の吸着能に優れるとともに、実使用時の発泡ガラス材料のハンドリング性(例えば、アニオン性物質を吸着させようとする汚水への投入、汚水からの引き上げ、引き上げ後の汚泥との分離)が優れており、望ましい。
【0050】
[高温アルカリ処理工程]
高温アルカリ処理で使用されるアルカリ溶液は、水に溶解して水酸基を生じさせる溶質が水に溶解した溶液である。アルカリ溶液における溶質の種類は、特に限定されないが、例えば、NaOH、KOH、Na2CO3、Ca(OH)2からなる群から選択される1種以上のアルカリ溶液を用いることができる。これらの中でも強アルカリであるNaOH又はKOH等のアルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
【0051】
アルカリ溶液中のアルカリ金属水酸化物の量(以降、アルカリ金属水酸化物濃度、又は単にアルカリ濃度ということがある)は、上述の特性を有する発泡ガラスを得る点から、1モル/L以上であり、2モル/L以上であることが好ましく、3モル/L以上であることがより好ましく、4モル/L以上であることがより一層好ましく、5モル/L以上であることが最も好ましい。従来の発泡ガラスを含む吸着剤の製造方法では、一般にアルカリ金属水酸化物の量を多くしても、例えば4モル/L以上で、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着量が飽和していたが、本発明の吸着剤の製造方法によれば、140℃以上の高温で処理することから、アルカリ金属水酸化物の量を多くするほど、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着量を増大させることができることが明らかになった。これには、様々な理由が考えられるが、従来の製造方法では、温度が不十分で発泡ガラス材料とアルカリ金属水酸化物との反応が不十分であったり、発泡ガラス材料中のCa濃度が不十分であったりすること等が考えられる。これに対して、本発明の吸着剤の製造方法は、上述の条件を満たすことにより、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着能を有する表面を増大させ、アニオン性物質の吸着量をこれまでの吸着剤よりも増大させることが可能となった。他方、アルカリ金属水酸化物の量の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、19モル/L以下(18モル/L以下、17モル/L以下等)としてもよい。
【0052】
アルカリ溶液の温度は、上述の特性を有する発泡ガラスを得る点から、140℃以上であり、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましく、170℃以上であることがさらに一層好ましく、180℃以上であることが特に好ましい。従来の発泡ガラスを含む吸着剤の製造方法では、140℃以上にアルカリ溶液の温度を上げても、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着量が飽和するとされていた。
【0053】
しかしながら、本発明の吸着剤の製造方法によれば、140℃~150℃の間に大きな変曲点があり、140℃以上では、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着量が急増する。具体的には、特許文献1には、飽和領域におけるリン酸イオンの吸着量が56mg/gであると報告がある(条件:140℃、3mol/L、12時間)ところ、本願の製造方法による吸着剤では、1時間の処理で、リン酸イオン吸着量100mg/gを超えるアルカリ溶液温度、濃度領域がある。また、条件によるが、アルカリ溶液の処理時間が1時間未満、例えば30分程度においても、100mg/gを超える温度、濃度領域もある。
【0054】
本発明の吸着剤の製造方法は、上述の条件を満たすことにより、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着能を有する表面を増大させ、アニオン性物質の吸着量をこれまでの吸着剤よりも増大させることが可能となった。他方、アルカリ溶液の温度の上限は、特に限定されないが、温度を高くするとその分だけエネルギー消費が増大するので、例えば、300℃以下(280℃以下、260℃以下等)としてもよい。
【0055】
アルカリ溶液による処理所要時間は、1.5時間以内(例えば、1.5時間未満、1.2時間以内、1.0時間以内、1.0時間未満、50分以内、40分以内、30分以内、20分以内、10分以内、5分以内、1分以内等)である。本発明の吸着剤の製造方法は、このような短時間で、アニオン性物質の吸着能に優れた発泡ガラスを製造できる点で簡便である。上述の条件下における処理時間の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、10秒以上、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、1時間以上としてもよい。
【0056】
なお、本発明の製造方法において、上述の高温アルカリ処理工程に関する処理温度、アルカリ濃度、処理時間は、上記した範囲内で、適宜調節することができる。また、アニオン性物質の吸着に用いる時に求められる処理能力(アニオン性物質の吸着量[mg/g])に合わせて、処理温度、アルカリ濃度、処理時間を調節することもできる。
【0057】
なお、上述の高温アルカリ処理工程は、加圧下で行うことが好ましい。加圧の方法は、特に限定されず、加圧を行うための装置を用いて行ってもよく、発泡ガラスとアルカリ溶液を密閉容器中に収容した状態で加熱を行うことによって行ってもよい。前者の場合は、印加する圧力を任意に変化させることができるので、加熱温度が比較的低い場合でも加える圧力を高くすることができる。後者の場合は、アルカリ溶液が100℃より高く加熱されるとアルカリ溶液に含まれる水の蒸気圧によってアルカリ溶液が加圧される。後者の方法によれば、特別な装置を用いることなく、アルカリ溶液を加圧することができる。
【0058】
なお、密閉容器を用いてアルカリ溶液を加圧する場合、110℃での水の飽和蒸気圧がほぼ1.4気圧であって、密閉容器に若干の蒸気漏れがあることを考慮すると、1.2気圧以上が好ましく、1.4気圧以上がさらに好ましく、2気圧以上が特に好ましい。本実施形態において圧力の上限は、特に制限はないが、コスト面を考慮すると上述の加圧を行うための装置を用いずに加圧をしたほうがよい、例えば、95気圧以下が好ましく、70気圧以下がさらに好ましい。なお、300℃における水の飽和蒸気圧は、ほぼ95気圧である。
【0059】
なお、上述した高温アルカリ処理工程により、発泡ガラス表面の微細構造が、強アルカリ水溶液の被膜(pH13~14)で覆われたままになることがある。また、アニオン性物質を吸着させようとする溶液のpHが8.0を超えるとアニオン性物質の吸着能が著しく低下することがある。対象となるアニオン性物質を含む溶液の初期pHにもよるが、上記の強アルカリ水溶液の被膜が残存した状態では、対象溶液のpHpHを8.0より高く上昇させる原因となる。従って、高温アルカリ処理工程に続いて、強アルカリ被膜を除去する工程を行うことが望ましい。
具体的には、流水による水洗を行う(例えば20~25℃の流水に1時間以上浸漬)。又は、薄い酸性水溶液(例えば20~25℃の希塩酸、希硫酸、希硝酸等に15分以上浸漬する)ことで達成される。また、強アルカリ皮膜除去工程の目安としては純粋に浸漬し、一定時間撹拌した(例えば、吸着剤20gを純水600mLに浸漬し、振とう機150rpmで3分間撹拌)際の純水のpHが10以下となるように行う。ただし、最適なpHはアニオン性物質を含む溶液の初期pHにもよって、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下に適宜調整する。
このように、高温アルカリ処理工程に続いて、強アルカリ被膜除去工程を行うことにより、本発明のアニオン性物質吸着剤は、アニオン性物質を含む溶液に浸漬すると、pHの変動が少ないため、pHコントロールが容易となるとともに、アニオン性物質を効果的に吸着させることができる。
【0060】
<第2の実施形態に係るリン酸系アニオン性物質の吸着剤の製造方法>
第2の実施形態に係るリン酸系アニオン性物質の吸着剤の製造方法は、発泡ガラス材料をアルカリ溶液中で100気圧以上の条件で1.5時間以内高加圧する処理(以下、「高加圧処理」と呼称する場合がある。)工程を有する。本明細書において、「高加圧」とは、100気圧以上の加圧処理することをいう。
【0061】
[高加圧処理工程]
高加圧処理工程における気圧は、100気圧以上の条件であれば特に限定されず、所望の吸着剤の吸着能に応じて適宜設定してもよい。例えば、上述の特性の発泡ガラスを得る観点から、200気圧以上であることが好ましく、400気圧以上であることがより好ましく、600気圧以上であることがさらに好ましく、800気圧以上であることがより一層好ましく、1000気圧以上であることが特に好ましい。他方、高加圧工程における圧力の上限は、例えば、20000気圧以下(15000気圧以下、10000気圧以下、5000気圧以下、2000気圧以下、1500気圧以下等)であってよい。また、本発明における高加圧工程において、少なくとも一部で100気圧以上の条件になればよく、100気圧未満の条件下で加圧する工程も含んでいてもよい。
【0062】
高加圧処理工程においては、1.5時間以内(例えば、1.2時間以内、1.0時間以内、50分以内、40分以内、30分以内、20分以内、10分以内、5分以内、1分以内等)という短時間の高加圧(100気圧以上の条件)によりアニオン性物質吸着能を有する発泡ガラスを製造できる点で簡便である。100気圧以上の条件下での高加圧時間の下限は、所望の吸着剤の吸着能に応じて適宜設定してもよい。例えば、上述の特性の発泡ガラスを得る観点から、例えば、10秒以上、30秒以上、1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上であることが好ましい。
【0063】
高加圧処理には、例えば、超高圧装置を用いることができる。高加圧には、発泡ガラス材料をアルカリ溶液中に含ませた状態で、密閉容器中に収容した状態で上記の装置による高加圧処理を行うことによって行うことができる。
【0064】
高加圧処理工程において使用される発泡ガラス材料は、第1の実施形態に係るアニオン性物質の吸着剤の製造方法で説明したように、例えば、上述の原料ガラスを発泡させた発泡ガラス材料を用いることができる。
【0065】
高加圧処理工程において使用されるアルカリ溶液は、水に溶解して水酸基を生じさせる溶質が水に溶解した溶液である。アルカリ溶液における溶質の種類は、特に限定されないが、例えば、NaOH、KOH、Na2CO3、Ca(OH)2からなる群から選択される1種以上を用いることができる。これらの中でも強アルカリであるNaOH又はKOHが特に好ましい。
【0066】
溶質がNaOH又はKOHである場合、アルカリ溶液の濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、3mol/L以上であることがさらに好ましく、4mol/L以上であることがさらに好ましい。3mol/L以上の場合にアニオン性物質(特に、リン酸イオン)の吸着量が特に高くなり、4mol/L以上の場合にアニオン性物質(特に、リン酸イオン)の吸着量がさらに高くなる。また、溶質がNaOH又はKOHである場合、アルカリ溶液の濃度は、例えば、19モル/L以下(18モル/L以下、17モル/L以下等)としてもよい。
【0067】
高加圧処理工程における温度は、例えば、室温~200℃であれば、特に限定されないが、上述した特性の吸着剤を得る観点から、80℃以上が好ましく、90℃以上であることがより好ましい。温度は、上述の加圧装置により調節することができる。
【0068】
本発明のアニオン性物質の吸着剤の製造では、上述の高温アルカリ処理工程及び高加圧処理工程とは異なる公知の工程をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。そのような工程としては、洗浄工程を挙げることができる。
【0069】
洗浄工程においては、上記高温アルカリ処理工程及び高加圧処理工程の後、発泡ガラスに付着したアルカリ溶液を除去することができる。この洗浄を行う方法はアルカリ溶液を除去可能な方法であれば特に限定されず、例えば、水、酸性溶液又はpH緩衝溶液を用いて行うことができる。また、発泡ガラスにアルカリ溶液が付着していても問題がない場合には、洗浄処理の工程は省略してもよい。
【0070】
<リン酸系アニオン性物質の吸着剤の製造装置>
本発明は、発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ140℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する手段を備える、アニオン性物質の吸着剤の製造装置を包含する。
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2モル/L以上、3モル/L、4モル/L以上、5モル/L以上であってよく、アルカリ溶液の処理温度は、145℃以上、150℃以上、160℃以上、180℃以上、200℃以上であってよい。
【0071】
本発明は、アニオン性物質の吸着剤の製造方法において、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ140℃以上のアルカリ溶液中での加熱処理が可能な装置を用いることができる。
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2モル/L以上、3モル/L、4モル/L以上、5モル/L以上であってよく、アルカリ溶液の処理温度は、145℃以上、150℃以上、180℃以上、200℃以上であってよい。
【0072】
また、本発明は、発泡ガラスをアルカリ溶液中で100気圧以上の条件で1.5時間以内高加圧可能な手段を備える、アニオン性物質の吸着剤の製造装置を包含する。
【0073】
本発明は、アニオン性物質の吸着剤の製造方法において、100気圧以上の高加圧が可能な装置を用いることができる。
【0074】
<フッ素系アニオン性物質の吸着剤>
本発明のフッ素系アニオン性物質の吸着剤は、発泡ガラスを含有し、X線光電子分光(XPS)分析による吸着剤表面のCa2p濃度が3.0原子%以上又はNa1s濃度が8.5原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上である。
また、一実施態様において、本発明のアニオン性物質の吸着剤は、発泡ガラスを含有し、X線光電子分光(XPS)分析による吸着剤表面のCa2p濃度が5.0原子%以上又はNa1s濃度が6.5原子%以下であり、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上である。
【0075】
本発明の吸着剤は、表面のCa2p濃度が3.0原子%以上と高いことで、アニオン性物質を効果的に吸着でき、特に高濃度域のアニオン性物質を効果的に吸着できる。また、表面のNa1s濃度が8.5原子%以下と低いことは、Ca2p濃度が高いことの裏返しであり、アニオン性物質の吸着に寄与しないNaが少なく、Caが効果的に露出することで、アニオン性物質を効果的に吸着することができる。さらに、Si2pピークの半値幅が2.4eV以上と大きいことは、発泡ガラスの基本骨格をなすSiが、吸着剤の表面においてはSiO2と比較してより多くのSiOX(Xは、水素、ナトリウム、カルシウム等である。)を構成していることを示し、高温でアルカリ処理されてもなお、発泡ガラスの基本骨格としてSiOXが崩壊せず、吸着剤としての機能を発揮できることを示している。そして、SiOXは、アニオン性物質の吸着に寄与し、特に低濃度域のアニオン性物質を効果的に吸着できる。このように、Ca2p濃度、Na1s濃度、及びSi2pピークの半値幅が上記範囲に規定された吸着剤は、フッ素系アニオン性物質の低濃度域~高濃度域の全濃度域において、優れたアニオン性物質の吸着能を発揮することができることが明らかになった。
【0076】
上述した観点から、本発明の吸着剤表面のCa2p濃度は、3.0原子%以上であり、5.0原子%以上であることが好ましく、7.0原子 %以上であることがより好ましく、9.0原子%以上であることがさらに好ましい。他方、Ca2p濃度の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、20原子%以下(18原子%以下、16原子%以下、14原子%以下等)としてもよい。
【0077】
また、上述した観点から、本発明の吸着剤の表面のNa1s濃度は、8.5原子%以下であり、6.5原子%以下であることが好ましく、5.0原子%以下であることがより好ましく、3.5原子%以下であることがさらに好ましい。他方、Na1s濃度の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、ゼロ(検出限界値以下)以上(1.0原子%以上、1.5原子%以上等)としてもよい。
【0078】
また、上述した観点から、本発明の吸着剤のSi2pピークの半値幅が2.4eV以上であり、2.7eV以上であることが好ましく、3.0eV以上であることがより好ましい。他方、Si2pピークの半値幅の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、4.0eV以下(3.8eV以下、3.6eV以下等)としてもよい。なお、基本骨格が崩壊するとピークは消滅してしまう。
【0079】
さらに、本発明の吸着剤は、比表面積又は細孔容積が大きい方が、フッ素系アニオン性物質の吸着能を有する表面が多くなる。この観点から、本発明の吸着剤の水銀圧入法による比表面積は、15m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましく、45m2/g以上であることがより好ましく、58m2/g以上であることがさらに好ましい。
また、本発明の吸着剤の水銀圧入法による細孔容積は、1.5cm3/g以上であることが好ましく、1.9m3/g以上であることがより好ましく、2.3cm3/g以上であることがより好ましく、2.7cm3/g以上であることがさらに好ましい。
他方、比表面積の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、200m2/g以下、150m2/g以下としてもよい。細孔容積の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、8cm3/g以下、6cm3/g以下としてもよい。
【0080】
また、本発明の吸着剤は、比重が小さい方が、アニオン性物質の吸着能を有する表面が多くなる。この観点から、本発明の吸着剤の比重は、0.65g/mL以下であることが好ましく、0.59g/mL以下であることがより好ましく、0.55g/mL以下であることがより好ましく、0.53g/mL以下であることがより一層好ましい。他方、比重の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、0.1g/mL以上(0.15g/mL以上、0.2g/mL以上、0.25g/mL以上等)としてもよい。なお、比重の測定方法は、リン酸系アニオンイオン吸着剤で述べた比重測定法と同じである。
【0081】
本発明の吸着剤は、例えば、フッ化物イオン濃度が1000mg/Lのフッ化物イオン溶液(以下、「高濃度フッ化物イオン溶液」と呼称する場合がある。)におけるフッ化物イオン吸着可能量が10.0mg/g以上(20.0mg/g以上、30.0mg/g以上、40.0mg/g以上、50.0mg/g以上、60.0mg/g以上、70.0mg/g以上、80.0mg/g以上、等)である。他方、吸着剤のフッ化物イオン吸着可能量の上限は、要求されるフッ化物イオン吸着能に応じて、例えば、300mg/g以下(250mg/g以下、200mg/g以下、150mg/g以下、100mg/g以下、50.0mg/g以下等)としてもよい。なお、フッ化物イオン吸着可能量は、アニオン性物質の吸着剤の吸着能の指標に過ぎない(なお、フッ化物イオン吸着可能量を、単にフッ素吸着量ということがある)。
【0082】
本発明において、フッ化物イオン濃度が1000mg/Lのフッ化物イオン溶液におけるフッ化物イオンの吸着可能量は、以下の方法により測定する。
【0083】
[高濃度フッ化物イオン溶液におけるフッ化物イオンの吸着可能量の算出方法]
(1) 所定量の吸着剤(例えば0.5g)と、フッ化物イオン(F-)濃度1000mg/Lのフッ化ナトリウム(NaF)溶液50mLとを容器に収容する。
(2) 収容後、容器に塩酸又は水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを調整する。
(3) pHの調整後、25℃に設定した恒温槽内で容器を2時間撹拌する。
(4) 撹拌後、3000rpmで10分間の遠心分離を行い、上澄み液中のフッ化物イオン濃度を、比色法により測定する。
(5) 測定値に基づいて、フッ化物イオン吸着可能量(mg/g)を求める。
(6) 上記(1)~(5)の測定を、pH3、pH4、pH5、pH6、pH7とする各々について測定し、pH3~7の中の最大値をフッ化物イオン吸着可能量(mg/g)とする。なお、ここで、pHは、(3)における2時間撹拌後に測定するものとする。
【0084】
また、本発明の吸着剤は、上述した特性を有する発泡ガラスのみから構成してもよく、他の物質、成分を含んでもよい。例えば、本発明の吸着剤は、アニオン性物質の吸着能を有する他の物質(例えば、上述した特性を有する発泡ガラスとは異なる発泡ガラス)を含んで構成してもよい。
【0085】
<第3の実施形態に係るフッ素系アニオン性物質の吸着剤の製造方法>
第3の実施形態に係るフッ素系アニオン性物質の吸着剤の製造方法は、発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ125℃以上であるアルカリ溶液中にて所定の時間に亘り処理する(以下、「高温アルカリ処理」と呼称する場合がある。)工程を有する。かかる方法により、上述の特性を有する発泡ガラスを含む吸着剤を製造できる。なお、高温アルカリ処理工程の後に、上述した表面調整工程を有してもよい。
【0086】
本発明における発泡ガラス材料は、上述したリン酸系発泡ガラスと同様の発泡ガラスを用いることができる。なお、発泡ガラス材料の形状は、特に限定されず、塊状のままであってもよく、粉砕したものであってもよい。粉砕後の発泡ガラス材料の粒径は、特に限定されないが、2cm以下であることが好ましい。すなわち、粉砕後の発泡ガラス材料の粒径の上限は、2cm以下(1.8cm以下、1.6cm以下、1.5cm以下、1.4cm以下、1.3cm以下、1.2cm以下、1.1cm以下、1.0cm以下、0.9cm以下、等)である。他方、粉砕後の発泡ガラス材料の粒径の下限は、0.05cm超 (0.06cm以上、0.08cm以上、0.1cm以上、0.2cm以上、0.2cm超、0.3cm以上、0.4cm以上、0.5cm以上、0.6cm以上、0.7cm以上、0.8cm以上、0.9cm以上、1.0cm以上、1.1cm以上、等)である。粉砕後の発泡ガラス材料の粒径を上記のように設定することによって、アニオン性物質の吸着能に優れるとともに、実使用時の発泡ガラス材料のハンドリング性(例えば、アニオン性物質を吸着させようとする汚水への投入、汚水からの引き上げ、引き上げ後の汚泥との分離)が優れており、望ましい。
【0087】
[高温アルカリ処理工程]
高温アルカリ処理で使用されるアルカリ溶液は、水に溶解して水酸基を生じさせる溶質が水に溶解した溶液である。アルカリ溶液における溶質の種類は、特に限定されないが、例えば、NaOH、KOH、Na2CO3、Ca(OH)2からなる群から選択される1種以上のアルカリ溶液を用いることができる。これらの中でも強アルカリであるNaOH又はKOH等のアルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
【0088】
アルカリ溶液中のアルカリ金属水酸化物の量(以降、アルカリ金属水酸化物濃度、又は単にアルカリ濃度ということがある)は、上述の特性を有する発泡ガラスを得る点から、1モル/L以上であり、2モル/L以上であることが好ましく、3モル/L以上であることがより好ましく、4モル/L以上であることがより一層好ましく、5モル/L以上であることが最も好ましい。本発明の吸着剤の製造方法によれば、125℃以上の高温で処理することから、アルカリ金属水酸化物の量を多くするほど、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着量を増大させることができることが明らかになった。本発明の吸着剤の製造方法は、上述の条件を満たすことにより、発泡ガラスのアニオン性物質の吸着能を有する表面を増大させ、フッ素系アニオン性物質の吸着量をこれまでの吸着剤よりも増大させることが可能となった。他方、アルカリ金属水酸化物の量の上限は、要求される吸着能に応じて、例えば、19モル/L以下(18モル/L以下、17モル/L以下等)としてもよい。
【0089】
アルカリ溶液の温度は、上述の特性を有する発泡ガラスを得る点から、125℃以上であり、130℃以上であることがより好ましく、135℃以上であり、140℃以上であることがより好ましく、145℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることがさらに一層好ましく、160℃以上であることが特に好ましい。
【0090】
本発明の吸着剤の製造方法によれば、140℃付近に大きな変曲点があり、140℃以上では、発泡ガラスのフッ素系アニオン性物質の吸着量が急増する。本願の製造方法による吸着剤では、1時間の処理で、フッ化物イオン吸着量50mg/gを超えるアルカリ溶液温度、濃度領域がある。また、条件によるが、アルカリ溶液の処理時間が1時間未満、例えば10分程度においても、40mg/gを超える温度、濃度領域もある。
【0091】
本発明の吸着剤の製造方法は、上述の条件を満たすことにより、発泡ガラスのフッ素系アニオン性物質の吸着能を有する表面を増大させ、アニオン性物質の吸着量をこれまでの吸着剤よりも増大させることが可能となった。他方、アルカリ溶液の温度の上限は、特に限定されないが、温度を高くするとその分だけエネルギー消費が増大するので、例えば、300℃以下(280℃以下、260℃以下等)としてもよい。
【0092】
アルカリ溶液による処理所要時間は、2時間以内(例えば、2時間未満、1.5時間以内、1.5時間未満、1.2時間以内、1.0時間以内、1.0時間未満、50分以内、40分以内、30分以内、20分以内、10分以内、5分以内、1分以内等)である。本発明の吸着剤の製造方法は、このような短時間で、フッ素系アニオン性物質の吸着能に優れた発泡ガラスを製造できる点で簡便である。上述の条件下における処理時間の下限は、要求される吸着能に応じて、例えば、10秒以上、30秒以上、1分以上、5分以上、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、1時間以上としてもよい。
【0093】
なお、本発明の製造方法において、上述の高温アルカリ処理工程に関する処理温度、アルカリ濃度、処理時間は、上記した範囲内で、適宜調節することができる。また、フッ素系アニオン性物質の吸着に用いる時に求められる処理能力(フッ素系アニオン性物質の吸着量[mg/g])に合わせて、処理温度、アルカリ濃度、処理時間を調節することもできる。
【0094】
なお、上述の高温アルカリ処理工程は、加圧下で行うことが好ましい。加圧の方法は、上述したリン酸系高温アルカリ処理工程の場合と同じである。
また、高温アルカリ処理工程に続いて、リン酸系高温アルカリ処理工程の場合と同様、強アルカリ被膜除去工程を行ってもよい。
【0095】
<フッ素系アニオン性物質の吸着剤の製造装置>
本発明は、発泡ガラス材料を、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ125℃以上であるアルカリ溶液中にて所定時間に亘り処理する手段を備える、アニオン性物質の吸着剤の製造装置を包含する。
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2モル/L以上、3モル/L、4モル/L以上、5モル/L以上であってよく、アルカリ溶液の処理温度は、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、160℃以上であってよい。
【0096】
本発明は、フッ素系アニオン性物質の吸着剤の製造方法において、アルカリ金属水酸化物を1モル/L以上の量で含みかつ125℃以上のアルカリ溶液中での加熱処理が可能な装置を用いることができる。
アルカリ金属水酸化物の濃度は、2モル/L以上、3モル/L、4モル/L以上、5モル/L以上であってよく、アルカリ溶液の処理温度は、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、160℃以上であってよい。
【0097】
<アニオン性物質の回収方法>
本発明は、上述のアニオン性物質の吸着剤にアニオン性物質を吸着させる工程を有する、アニオン性物質の回収方法を包含する。
【0098】
吸着剤にアニオン性物質を吸着させる方法としては、例えば、上記吸着剤をリン酸イオンやフッ化物イオンを含む溶液中に浸漬させることで、該溶液中のリン酸イオン及びフッ化物イオンを吸着剤に吸着させることができる。
リン酸イオンを含む溶液としては、リン酸イオンが含まれている液体であれば特に限定されず、例えば、生活排水や農業排水等が挙げられる。
フッ化物イオンを含む溶液としては、フッ化物イオンが含まれている液体であれば特に限定されず、例えば、半導体の洗浄液やガラスの加工・洗浄で用いられるフッ酸含有溶液等が挙げられる。
【0099】
リン酸イオンを含む溶液のpHは特に限定されないが、pHが2.4~7.7であることが好ましく、2.8~7.7であることがより好ましく、3.8~7.5であることがさらに好ましく、4.5~7.5であることがより一層好ましい。pHがこのような範囲にある場合に、リン酸イオン吸着量が高くなる。また、リン酸イオンを含む溶液のpHが上記の範囲外である場合には、酸又は塩基を添加することによってリン酸イオンを含む溶液のpHが上記範囲内にするpH調整工程を備えることが好ましい。
【0100】
フッ化物イオンを含む溶液のpHは特に限定されないが、pHが1.4~7.2であることが好ましく、1.8~6.3であることがより好ましく、2.2~5.3であることがさらに好ましい。pHがこのような範囲にある場合に、フッ化物イオン吸着量が高くなる。また、フッ化物イオンを含む溶液のpHが上記の範囲外である場合には、酸又は塩基を添加することによってフッ化物イオンを含む溶液のpHが上記範囲内にするpH調整工程を備えることが好ましい。
【0101】
吸着剤にリン酸イオンを吸着させた後は、吸着剤を粉砕してリン酸肥料や飼料等の原料としてもよい。
【0102】
また、吸着剤を粉砕する代わりに、硝酸等の強酸を用いて吸着剤からアニオン性物質(例えば、リン酸イオン)を脱着させてアニオン性物質を回収してもよい。この場合の、強酸の濃度は、特に限定されないが、0.01mol/L以上が好ましく、0.05mol/L以上がより好ましく、0.1mol/L以上がさらに好ましい。0.05mol/L以上の場合にアニオン性物質(特に、リン酸イオン)の回収率が高くなり、0.1mol/Lの場合にアニオン性物質(特に、リン酸イオン)の回収率が特に高くなる。また、強酸の濃度の上限は、特に限定されないが、例えば、3mol/L以下としてよい。なお、アニオン性物質を脱着させたアニオン性物質吸着剤は、再びアニオン性物質を吸着することができる。
【実施例】
【0103】
<試験例1>
吸着剤の吸着能(リン酸イオンの吸着量)を、XPS分析による吸着剤表面のCa2p濃度とNa1s濃度とに基づき評価した。
【0104】
具体的には、発泡剤に炭酸カルシウムを用いて製造された発泡ガラス材料Aを用意した。次に、この発泡ガラス材料Aに対して、処理圧力、処理温度、処理時間を適宜調整してNaOH濃度5.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液による高温アルカリ処理を行って、発泡ガラス表面のCa2p濃度とNa1s濃度とが調整された吸着剤を製造した(発泡ガラス材料Aの粒径は、直径0.4~1.0cm)。そして、Ca2p濃度とNa1s濃度とがそれぞれ異なる吸着剤のリン酸イオンの吸着量を、上述の「発明を実施するための形態」において記載した、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]によりそれぞれ測定した。その結果をリン吸着量[mg/g]として、
図1及び
図2に示す。また、XPS分析による、発泡ガラス材料AのSi2pのピーク域を
図3に示し、発泡ガラス材料Aを高温アルカリ処理することにより製造された吸着剤(発泡ガラス)のSi2pのピーク域を
図4に示す。発泡ガラス材料AのSi2pのピークの半値幅は、2.2eVであり(
図3)、高温アルカリ処理した発泡ガラス材料AのSi2pのピークの半値幅は、2.4eV以上であった(
図4)。
【0105】
図1及び
図2の結果から、吸着剤表面のCa2p濃度が高いほどリン吸着量が増え、吸着剤表面のNa1s濃度が低いほどリン吸着量が増えることが確認された。そして、吸着剤表面のCa2p濃度が6.0原子%以上であり、かつNa1s濃度が6.5原子%以下である場合に、リン酸イオンの吸着可能量が40mg/g以上であり、優れた吸着能を発揮することが確認された。また、吸着剤表面のCa2p濃度が7.5原子%以上であり、かつNa1s濃度が5.0原子%以下である場合に、リン酸イオンの吸着量が60mg/g以上であり、いっそう優れた吸着能を発揮することが確認された。
【0106】
また、
図3及び
図4の結果から、発泡ガラス材料Aでは、-SiO
2が多く、-SiOXが少ないため半値幅が狭いのに対し、吸着剤となる発泡ガラスでは、アルカリ処理により、-SiO
2が少なく-SiOXが多くなり、半値幅が大きくなることが確認された。この半値幅2.4eV以上となる吸着剤(発泡ガラス)は、アルカリ処理されてもなおガラスの基本骨格である-SiOXが崩壊せずに残り、この-SiOXがリン酸イオンの吸着に寄与してリン酸イオン吸着能を発揮する。
【0107】
<試験例2>
吸着剤のリン酸イオンの吸着量を、水銀圧入法による比表面積と細孔容積とに基づき評価した。また、吸着剤のリン酸イオンの吸着量を、上述の「発明を実施するための形態」において記載した方法で測定した比重に基づき評価した。
【0108】
具体的には、試験例1で用意した発泡ガラス材料Aに対して、処理圧力、処理温度、処理時間を適宜調整してNaOH濃度5.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液による高温アルカリ処理を行って、発泡ガラス表面の比表面積、細孔容積及び比重が調整された吸着剤を製造した。そして、比表面積、細孔容積及び比重がそれぞれ異なる吸着剤のリン吸着可能量を、上述の、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]によりそれぞれ測定した。その結果をリン吸着量[mg/g]として、
図5~
図7に示す。
【0109】
図5の結果から、吸着剤の比表面積が大きいほどリン吸着量が増えることが確認された。また、
図6の結果から、吸着剤の細孔容積が大きいほどリン吸着量が増えることが確認された。また、
図7の結果から、吸着剤の比重が小さいほどリン吸着量が増えることが確認された。
そして、吸着剤の比表面積が32m
2/g以上、細孔容積が2.2cm
3/g以上、又は比重が0.57g/mL以下である場合に、いずれもリン酸イオンの吸着可能量が40mg/g以上と優れたリン酸イオン吸着能を発揮することが確認された。
また、吸着剤の比表面積が45m
2/g以上、細孔容積が2.5cm
3/g以上、又は比重が0.53g/mL以下である場合に、いずれもリン酸イオンの吸着可能量が60mg/g以上と優れたリン酸イオン吸着能を発揮することが確認された。
【0110】
<試験例3>
試験例1で用いた発泡ガラス材料Aに対して、NaOH濃度5.0mol/L、処理圧力5気圧、処理温度150℃、処理時間30分で高温アルカリ処理し、比重0.50g/mLとなる発泡ガラスを製造した。この発泡ガラスを吸着剤とし、上述の、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]で測定したところ、リン酸イオン吸着可能量は77.8mg/gであった。この吸着剤を用いて、以下に説明する、[低濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]でリン酸イオン吸着可能量を測定した。その結果を
図8に示す。
【0111】
[低濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]
(1) 吸着剤2.50gを充填したカラムと、リン酸イオン(PO4
3-)濃度30mg/Lのリン酸イオン溶液500mLが入った水槽とを用意する。
(2) ポンプを用いて水槽内のリン酸イオン溶液を流速1.0mL/minでカラムの下部から上部の方向で流す。カラムを通過した溶液は、再び水槽に回収されて水槽-カラム間の循環を繰り返す。また、循環中はリン酸イオン溶液のpHを塩酸もしくは水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを調整する。
(3) 運転開始から一定時間経過後に水槽内のリン酸イオン溶液を採取し、モリブデンブルー法による吸光光度計により測定する。
(4) 測定値に基づいて、リン酸イオン吸着量(mg/g)を求める。
(5) 水槽内のリン酸イオン溶液のPO4
3-濃度を30mg/Lに調整する。
(6) (2)~(5)の操作を吸着剤のリン酸イオン吸着量が飽和となるまで繰り返す。
(7) 飽和に至るまでのリン酸イオン吸着量の総和をリン酸イオン吸着可能量(mg/g)とする。
なお、上記(2)におけるpHの調整方法は、上述した「高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の算出方法」に準ずる。
【0112】
図8の結果からわかるように、低濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定でも、25000分で72.0mg/gを超えた。つまり、高濃度域のリン酸イオン溶液に対する低濃度リン酸イオン溶液のリン吸着量の達成率は、72.0(mg/g)/77.8(mg/g)×100=92.5(%)となる。このことから、試験例3で用いた吸着剤は、低濃度域から高濃度域までの全濃度域のリン酸イオン溶液に対して、優れたリン酸イオンの吸着能を発揮することが確認された。
【0113】
<試験例4>
試験例4では、吸着剤のフッ化物イオンの吸着能について試験を行った。
【0114】
具体的には、試験例1で製造した吸着剤(Ca2p濃度11.4原子%、Na1s濃度2.5原子%)0.2gと、表1に示すフッ化物イオン濃度のフッ化ナトリウム溶液20mLとを、容器に収容した。そして、容器に塩酸又は水酸化ナトリウム溶液を添加して、所望のpHに調整する。pH調整後、25℃に設定した恒温槽内で容器を一定時間撹拌した。撹拌後3000rpmで10分間の遠心分離を行い、上澄み液中のフッ化物イオン濃度を比色法により測定した。この測定値に基づいてフッ化物イオン吸着量[mg/g]を算出した。その結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
表1の結果から、試験例1で製造した吸着剤は、リン酸イオンだけではなく、フッ化物イオンに対しても優れた吸着能を発揮することが確認された。
【0117】
<試験例5>
試験例5では、発泡ガラス材料をアルカリ処理するに際して、アルカリ溶液のNaOH濃度と温度とがリン酸イオンの吸着量に与える影響を試験した。
【0118】
具体的には、試験例1で使用した発泡ガラス材料Aに対して、アルカリ溶液のNaOH濃度を1.0~6.5mol/L、アルカリ溶液の温度を80~210℃、処理圧力を0.5~20気圧(密閉容器を用い、水の蒸気圧により加圧)に適宜調整しながら、1時間アルカリ処理を行って発泡ガラスを製造した。これら各条件で製造された発泡ガラスを吸着剤とし、吸着剤のリン酸イオン吸着可能量を、上述の、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]で測定した。その結果をリン吸着量[mg/g]として、
図9、
図10に示す。
【0119】
図9及び
図10の結果からわかるように、アルカリ溶液の温度(処理温度)が140℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で、60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合には、アルカリ溶液の温度が120℃以下である場合に比べ、リン吸着量が大幅に増えた。このことから、アルカリ溶液の温度が140℃以上の条件で高温アルカリ処理されて製造された吸着剤は、40mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0120】
また、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.5mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合でも、40mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が2.4mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、60mg/g以上の一層優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.7mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合では、100mg/g以上の特に優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0121】
また、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.2mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合でも、40mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.5mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、60mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が3.2mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合では、100mg/g以上の特に優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0122】
また、アルカリ溶液の温度(処理温度)が210℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合でも、40mg/g以上(60mg/g以上、100mg/g以上)の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0123】
<試験例6>
試験例6では、発泡ガラス材料をアルカリ処理するに際して、処理時間とリン酸イオンの吸着量との関係を試験した。
【0124】
具体的には、試験例1で使用した発泡ガラス材料Aに対して、アルカリ溶液のNaOH濃度を1.0~6.5mol/L、アルカリ溶液の温度を130~210℃、処理圧力を3~20気圧(密閉容器を用い、水の蒸気圧により加圧)に調整しながら、アルカリ処理を行って発泡ガラスを製造した。これら各条件で製造された発泡ガラスを吸着剤とし、リン酸イオン吸着可能量を、上述の、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]で測定した。その結果をリン吸着量[mg/g]として、表2及び
図11に示す(表2は、
図1~7、
図9~10に記載の試験結果も含む)。
【0125】
【0126】
図11の結果から、上記条件のアルカリ処理であれば、10分、30分、1時間という短い反応時間で、優れたリン酸イオン吸着能が得られることがわかり、特にアルカリ溶液が高濃度、高温であるほど処理時間が短くても優れたリン酸イオン吸着能が得られることがわかる。
【0127】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で30分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、60mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で30分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、100mg/g以上の特に優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0128】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で10分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、40mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.5mol/L以上で10分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、60mg/g以上の優れたリン酸イオン吸着能を示すことがわかる。
【0129】
以上、
図9~11、及び表2を用いて、本発明のアニオン性物質吸着剤の製造方法について、特に、リン酸イオン吸着におけるアルカリ溶液の濃度依存性、温度依存性、処理時間依存性の側面から説明してきた。上述したように、濃度、温度、時間といった3つのパラメータによって、アニオン性物質の吸着量[mg/g]が、一義的に定まる。言い換えると、求められるアニオン性物質の吸着量[mg/g]に合わせて、処理温度、アルカリ濃度、処理時間を調節して、本発明のアニオン性物質吸着剤の製造することが可能である。
【0130】
また、上記実施例のアニオン性物質吸着剤は、アニオン性物質の吸着能に優れるとともに、実使用時の発泡ガラス材料のハンドリング性(例えば、アニオン性物質を吸着させようとする汚水への投入、汚水からの引き上げ、引き上げ後の汚泥との分離)も兼ね備えたものであった。
【0131】
<試験例7>
試験例7では、発泡ガラス材料を高加圧処理するに際して、アルカリ溶液の温度と処理圧力とがリン酸イオンの吸着量に与える影響を試験した。
【0132】
具体的には、試験例1で使用した発泡ガラス材料Aに対して、アルカリ溶液のNaOH濃度を5.0mol/L、アルカリ溶液の温度を80℃、95℃、処理圧力を0、100、1000、6000気圧に調整しながら、1時間高加圧処理を行って発泡ガラスを製造した。また、発泡剤に炭化ケイ素を用いて製造された発泡ガラス材料Bを用意した。そして、この発泡ガラス材料Bに対して、発泡ガラス材料Aと同様の高加圧処理を行って発泡ガラスを製造した。これら各条件で製造された発泡ガラスを吸着剤とし、リン酸イオン吸着可能量を、上述の、[高濃度リン酸イオン溶液におけるリン酸イオンの吸着可能量の測定方法]で測定した。その結果をリン吸着量[相対量]として、
図12に示す。
【0133】
図12の結果からわかるように、アルカリ溶液の温度95℃の条件下での高加圧処理では、アルカリ溶液の温度80℃の条件下での高加圧処理する場合に比べ、発泡ガラス材料A及び発泡ガラス材料Bを用いた場合のいずれも、処理圧力を100気圧以上と大きくするにしたがって、吸着剤のリン吸着量が大きく増えた。また、アルカリ溶液の温度95℃で、6000気圧の高加圧処理で製造された吸着剤では、特に優れたリン吸着量を示すことが確認された。
【0134】
<試験例8>
吸着剤の吸着能(フッ化物イオンの吸着量)を、XPS分析による吸着剤表面のCa2p濃度とNa1s濃度とに基づき評価した。
【0135】
具体的には、試験例1と同様、発泡剤に炭酸カルシウムを用いて製造された発泡ガラス材料Aを用意し、この発泡ガラス材料Aに対して、処理圧力、処理温度、処理時間を適宜調整してNaOH濃度5.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液による高温アルカリ処理を行って、発泡ガラス表面のCa2p濃度とNa1s濃度とが調整された吸着剤を製造した(発泡ガラス材料の粒径は、直径0.4~1.0cm)。この発泡ガラス材料A(アルカリ処理前)のXPS分析におけるSi2pのピーク域は、試験例1と同様、2.2eVであり、高温アルカリ処理した発泡ガラス材料AのSi2pのピークの半値幅は、2.4eV以上である。
次に、Ca2p濃度とNa1s濃度とがそれぞれ異なる吸着剤のフッ化物イオンの吸着量を、上述の「発明を実施するための形態」において記載した、[高濃度フッ化物イオン溶液におけるフッ化物イオンの吸着可能量の測定方法]によりそれぞれ測定した。その結果をフッ素吸着量[mg/g]として、
図13及び
図14に示す。
【0136】
図13及び
図14の結果から、吸着剤表面のCa2p濃度が高いほどフッ素吸着量が増え、吸着剤表面のNa1s濃度が低いほどフッ素吸着量が増えることが確認された。そして、吸着剤表面のCa2p濃度が3.0原子%以上であり、かつNa1s濃度が8.5原子%以下である場合に、フッ化物イオンの吸着可能量が10mg/g以上であり、優れた吸着能を発揮することが確認された。また、吸着剤表面のCa2p濃度が5.0原子%以上であり、かつNa1s濃度が6.5原子%以下である場合に、フッ化物イオンの吸着量が20mg/g以上であり、いっそう優れた吸着能を発揮することが確認された。
【0137】
また、
図3及び
図4の結果から、発泡ガラス材料Aでは、-SiO
2が多く、-SiOXが少ないため半値幅が狭いのに対し、吸着剤となる発泡ガラスでは、アルカリ処理により、-SiO
2が少なく-SiOXが多くなり、半値幅が大きくなることが確認された。この半値幅2.4eV以上となる吸着剤(発泡ガラス)は、アルカリ処理されてもなおガラスの基本骨格である-SiOXが崩壊せずに残り、この-SiOXがフッ化物イオンの吸着に寄与してフッ化物イオン吸着能を発揮する。
【0138】
<試験例9>
吸着剤のリン酸イオンの吸着量を、水銀圧入法による比表面積と細孔容積とに基づき評価した。また、吸着剤のフッ化物イオンの吸着量を、上述の「発明を実施するための形態」において記載した方法で測定した比重に基づき評価した。
【0139】
具体的には、試験例1で用意した発泡ガラス材料Aに対して、処理圧力、処理温度、処理時間を適宜調整してNaOH濃度5.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液による高温アルカリ処理を行って、発泡ガラス表面の比表面積、細孔容積及び比重が調整された吸着剤を製造した。そして、比表面積、細孔容積及び比重がそれぞれ異なる吸着剤のリン吸着可能量を、上述の、[高濃度フッ化物イオン溶液におけるフッ化物イオンの吸着可能量の測定方法]によりそれぞれ測定した。その結果をフッ素吸着量[mg/g]として、
図15~
図17に示す。
【0140】
図15の結果から、吸着剤の比表面積が大きいほどフッ素吸着量が増えることが確認された。また、
図16の結果から、吸着剤の細孔容積が大きいほどフッ素吸着量が増えることが確認された。また、
図17の結果から、吸着剤の比重が小さいほどフッ素吸着量が増えることが確認された。
そして、吸着剤の比表面積が15m
2/g以上、細孔容積が1.5cm
3/g以上、又は比重が0.65g/mL以下である場合に、いずれもフッ化物イオンの吸着可能量が10mg/g以上と優れたフッ化物イオン吸着能を発揮することが確認された。
また、吸着剤の比表面積が30m
2/g以上、細孔容積が1.8cm
3/g以上、又は比重が0.58g/mL以下である場合に、いずれもフッ化物イオンの吸着可能量が20mg/g以上と優れたフッ化物イオン吸着能を発揮することが確認された。
【0141】
<試験例10>
試験例10では、発泡ガラス材料をアルカリ処理するに際して、アルカリ溶液のNaOH濃度と温度とがフッ化物イオンの吸着量に与える影響、及び処理時間とフッ化物イオンの吸着量との関係を試験した。
【0142】
具体的には、試験例1で使用した発泡ガラス材料Aに対して、アルカリ溶液のNaOH濃度を1.0~6.5mol/L、アルカリ溶液の温度を80~180℃、処理圧力を0.5~10気圧(密閉容器を用い、水の蒸気圧により加圧)に調整しながら、アルカリ処理を行って発泡ガラスを製造した。これら各条件で製造された発泡ガラスを吸着剤とし、フッ化物イオン吸着可能量を、上述の、[高濃度フッ化物イオン溶液におけるフッ化物イオンの吸着可能量の測定方法]で測定した。その結果をフッ素吸着量[mg/g]として、表3及び
図18~20に示す(表3は、
図13~17に記載の試験結果も含む)。
【0143】
【0144】
図18~
図20の結果から、上記条件のアルカリ処理であれば、10分、30分、1時間、1.5時間という短い反応時間で、優れたフッ化物イオン吸着能が得られることがわかり、特にアルカリ溶液が高濃度、高温であるほど、処理時間が短くても優れたフッ化物イオン吸着能が得られることがわかる。
【0145】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が130℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、10mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
【0146】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が140℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、20mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
【0147】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、10mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が6.5mol/L以上で10分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、20mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
また、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で30分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、30mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
また、アルカリ溶液の温度(処理温度)が150℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、50mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
【0148】
例えば、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が1.0mol/L以上で60分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、25mg/g以上の優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
このうち、アルカリ溶液の温度(処理温度)が180℃以上であって、アルカリ溶液のNaOH濃度が5.0mol/L以上で10分間アルカリ処理して得られた発泡ガラスを吸着剤として用いた場合は、40mg/g以上の特に優れたフッ化物イオン吸着能を示すことがわかる。
【0149】
以上、
図18~
図20、及び表3を用いて、本発明のアニオン性物質吸着剤の製造方法について、特に、フッ化物イオン吸着におけるアルカリ溶液の濃度依存性、温度依存性、処理時間依存性の側面から説明してきた。上述したように、濃度、温度、時間といった3つのパラメータによって、アニオン性物質の吸着量[mg/g]が、一義的に定まる。言い換えると、求められるアニオン性物質の吸着量[mg/g]に合わせて、処理温度、アルカリ濃度、処理時間を調節して、本発明のアニオン性物質吸着剤の製造することが可能である。
【0150】
また、上記実施例のアニオン性物質吸着剤は、アニオン性物質の吸着能に優れるとともに、実使用時の発泡ガラス材料のハンドリング性(例えば、アニオン性物質を吸着させようとする汚水への投入、汚水からの引き上げ、引き上げ後の汚泥との分離)も兼ね備えたものであった。
【0151】
<試験例11>
リン酸イオンを吸着した吸着剤を、硝酸によりリン酸脱着処理を行って、リン酸イオン回収率を試験した。
【0152】
具体的には、リン酸イオンを99.6mg/g吸着した吸着剤と、所定の濃度の硝酸溶液とを容器に収容し、25℃に設定した恒温槽内で2時間又は4時間撹拌した。そして、撹拌終了後、3000rpmで10分間の遠心分離を行い、上澄み液中のリン酸イオン濃度をモリブデンブルー法による吸光光度計により測定した。測定値に基づいて、リン酸イオン回収率を算出した。その結果を表4に示す。
【0153】
【0154】
表4の結果から、リン酸イオンを吸着した吸着剤から高い回収率でリン酸イオンを回収できることが確認された。
【0155】
以上、本発明のアニオン性物質の吸着剤について、説明してきた。上記の実施例では、リン(リン酸イオン等)、フッ素(フッ化物イオン等)について示してきたが、本発明のアニオン性物質の吸着剤は、これらの吸着のみに用いられるものではなく、ホウ酸等、他のアニオン性物質にも吸着能があり、吸着剤として使用することが可能である。