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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】弱視訓練キット
(51)【国際特許分類】
   A61H 5/00 20060101AFI20240215BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
A61H5/00 A
G02C7/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020061070
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021159120
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岩田 遥
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0176902(US,A1)
【文献】特開2017-060641(JP,A)
【文献】特開昭49-004391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 5/00
G02C 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に偏光可能な偏光フィルムを有し、当該偏光フィルムが使用者の健常眼側に配されるように装着可能とされた偏光眼鏡と、
使用者の目視対象物に取り付け可能とされ、前記偏光眼鏡を装着した使用者が当該目視対象物を目視した際に前記所定方向と交差する方向に偏光可能とされた対象物用シートと、
を備え、
前記偏光眼鏡は、前記偏光フィルムとして、第1方向に偏光可能な第1偏光フィルムと、第2方向に偏光可能な第2偏光フィルムとを有し、前記第1偏光フィルムおよび前記第2偏光フィルムのいずれか一方が使用者の健常眼側に配されるように装着可能とされ、
前記対象物用シートとして、前記偏光眼鏡を装着した使用者が前記目視対象物を目視した際に前記第1方向とは平行な方向で前記第2方向とは交差する方向に偏光可能とされた第1シートと、前記偏光眼鏡を装着した使用者が前記目視対象物を目視した際に前記第2方向とは平行な方向で前記第1方向とは交差する方向に偏光可能とされた第2シートと、
を備え、
前記第1シートおよび前記第2シートには、それぞれ、右目の訓練に用いるものか、左目の訓練に用いるものかを視認して判別可能に印字された指標部が付されており、
前記指標部の印字の向きが、前記第1シートおよび前記第2シートの偏光方向に対応して、目視対象物に対しどちらを上にして取り付ければよいかを認識することができるように設けられている、
弱視訓練キット。
【請求項2】
異なるサイズの複数の前記対象物用シートを備えている
請求項1に記載の弱視訓練キット。
【請求項3】
前記偏光眼鏡は、前記使用者が所持する眼鏡に取り付け可能なクリップオンタイプとされている
請求項1または請求項2に記載の弱視訓練キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱視訓練キットに関する。
【背景技術】
【0002】
弱視の有病率は3%程度と報告されており、眼科臨床において頻繁に経験する疾患の1つである。弱視とは、器質的疾患がないにも関わらず、眼鏡やコンタクトレンズを用いて矯正を行っても矯正視力が0.8に到達しない状態である。通常、視力は生後0.02程度から徐々に発達し、3歳程度で1.0に到達する。弱視の主な原因は、この視力の成長過程において、左右眼の屈折値が大きく異なり、屈折異常が強い方の眼が使用されずに発達しないことによるものである。弱視の治療にはアイパッチをはじめとして、各種遮閉具を用いて視力が良好な方の眼を遮閉し、弱視眼を強制的に使用させることにより、視力の発達を促す。この弱視の治療期間は視覚の感受性期間により制限され、概ね8歳程度までが適応であるとされているため、小児の間に効率的に弱視訓練は行われる必要がある。
【0003】
特許文献1には、弱視訓練などの機能を有するキャップ(弱視訓練遮蔽キャップ42)を自由につけ外し可能に構成された視力矯正装置が開示されている。
【0004】
上述のようなアイパッチを用いた遮閉法は、皮膚のかぶれや、健眼を強制的に遮閉することによる精神的苦痛、また遮閉した方の眼が弱視になってしまう遮閉弱視などの様々な副作用がある。また、患者が小児ということもあり、医師の指示した時間通りに弱視訓練を行わず、コンプライアンス率が非常に悪いことが問題となっていた。
【0005】
この課題を解決する手段として、両眼開放下で弱視眼のみに視標を呈示する弱視訓練装置(Occlu-pad(登録商標))が知られている。Occlu-padは、タブレット端末の偏光フィルムを特殊技術にて剥離し、その剥離したフィルムを眼鏡に貼付することによる特殊な電子機器である。
【0006】
Occlu-padをはじめとする両眼開放下の弱視訓練装置は、従来のアイパッチを用いた片眼遮閉下の弱視訓練と比較して、より良好な弱視訓練効果が得られる可能性が示唆されている。従来のアイパッチを用いる方法は、弱視眼を強制的に使用することにより視力の向上を図るが、両眼開放下の弱視訓練は、弱視の原因となっている抑制を除去するために両眼開放を維持しながら、弱視眼を能動的に使用させることにより、より効率的に視力の向上を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-079287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、Occlu-padは、上述したような特殊な構成を有する電子機器であるため、アイパッチのように患者一人ひとりに貸出や販売を行うことが非常に困難である。そのため、より安価で手軽に行うことができる両眼開放下の弱視訓練方法が求められている。
【0009】
本発明の目的は、両眼開放下の弱視訓練をより安価で手軽に行うことができる弱視訓練キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る弱視訓練キットは、所定方向に偏光可能な偏光フィルムを有し、当該偏光フィルムが使用者の健常眼側の眼前に配されるように装着可能とされた偏光眼鏡と、使用者の目視対象物に装着可能とされ、前記偏光眼鏡を装着した使用者が当該目視対象物を目視した際に前記所定方向と交差する方向に偏光可能とされた対象物用シートと、を備える。
【0011】
また、本発明の一態様に係る弱視訓練キットにおいて、前記偏光眼鏡は、前記偏光フィルムとして、第1方向に偏光可能な第1偏光フィルムと、第2方向に偏光可能な第2偏光フィルムとを有し、前記第1偏光フィルムおよび前記第2偏光フィルムのいずれか一方が使用者の健常眼側に配されるように装着可能とされる。さらに、この弱視訓練キットは、前記対象物用シートとして、前記偏光眼鏡を装着した使用者が前記目視対象物を目視した際に前記第1方向とは平行な方向で前記第2方向とは交差する方向に偏光可能とされた第1シートと、前記偏光眼鏡を装着した使用者が前記目視対象物を目視した際に前記第2方向とは平行な方向で前記第1方向とは交差する方向に偏光可能とされた第2シートと、を備える。
【0012】
また、本発明の一態様に係る弱視訓練キットは、異なるサイズの複数の前記対象物用シートを備えている。
【0013】
また、本発明の一態様に係る弱視訓練キットにおいて、記偏光眼鏡は、前記使用者が所持する眼鏡に取り付け可能なクリップオンタイプとされている。
【発明の効果】
【0014】
上述の発明の各態様によれば、両眼開放下の弱視訓練をより安価で手軽に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る弱視訓練キットの全体構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る偏光眼鏡の構成を示す図である。
図3】第1の実施形態に係る対象物用シートの構成を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る対象物用シートの取り付け例を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る対象物用シートの取り付け例を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る対象物用シートの取り付け例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
以下、図1図6を参照しながら、第1の実施形態に係る弱視訓練キットについて詳しく説明する。
【0017】
(弱視訓練キットの全体構成)
図1は、第1の実施形態に係る弱視訓練キットの全体構成を示す図である。
図1に示すように、弱視訓練キット1は、偏光眼鏡10と、複数の対象物用シート11(複数の右目用シート11Rおよび複数の左目用シート11L)とを有している。
【0018】
偏光眼鏡10は、使用者(弱視訓練者)の顔に装着可能とされた眼鏡である。本実施形態においては、偏光眼鏡10は、使用者が所持する眼鏡Xに取り付けて使用する。クリップ102は、偏光眼鏡10を眼鏡Xに固定する固定具である。弱視患者は、通常、自身の視力に合った視力矯正用の眼鏡Xを所持しているため、このように、使用者が所持する眼鏡Xに取り付け可能なクリップオンタイプとされるのが好ましい。
【0019】
また、偏光眼鏡10は、偏光眼鏡右側フィルム101R(第1偏光フィルム)と、偏光眼鏡左側フィルム101L(第2偏光フィルム)とを有している。偏光眼鏡10が使用者の顔に装着された際、偏光眼鏡右側フィルム101Rが使用者の右目側の眼前に配され、偏光眼鏡左側フィルム101Lが使用者の左目側の眼前に配される。偏光眼鏡右側フィルム101Rは、透過しようとする光を所定の方向(第1方向)に偏光させる偏光フィルムである。また、偏光眼鏡左側フィルム101Lは、透過しようとする光を、第1方向とは異なる方向(第2方向)に偏光させる偏光フィルムである。
【0020】
対象物用シート11(右目用シート11R(第1シート)および左目用シート11L(第2シート))は、使用者の目視対象物に取り付け(貼付)可能とされた対象物用シートである。目視対象物とは、後述するように、テレビ、スマートフォン、タブレット端末の表示画面の他、本(絵本、雑誌)や新聞などの紙媒体であってよい。
【0021】
図1に示すように、右目用シート11Rおよび左目用シート11Lは、種々の目視対象物の大きさに合わせて、異なるサイズごとに複数用意されている。
【0022】
右目用シート11Rは、偏光眼鏡10を装着した使用者が目視対象物を目視した際に、第1方向とは平行な方向であって第2方向とは交差する方向に偏光可能とされる。つまり、偏光眼鏡10を装着した使用者は、右目用シート11Rが貼られた領域を、右目では視認することができ、左目では視認することができなくなる。
同様に、左目用シート11Lは、偏光眼鏡10を装着した使用者が目視対象物を目視した際に、第2方向と平行な方向であって第1方向とは交差する方向に偏光可能とされる。つまり、偏光眼鏡10を装着した使用者は、左目用シート11Lが貼られた領域を、左目では視認することができ、右目では視認することができなくなる。
【0023】
右目が弱視眼(訓練対象)である使用者は、右目用シート11Rを目視対象物に取り付ける。また、左目が弱視眼(訓練対象)である使用者は、左目用シート11Lを目視対象物に取り付ける。つまり、使用者は、左右の目のどちらが弱視眼(訓練対象)かに合わせて、右目用シート11Rおよび左目用シート11Lのいずれか一方を、目視対象物に取り付ける。
【0024】
(偏光眼鏡の構成)
図2は、第1の実施形態に係る偏光眼鏡の構成を示す図である。
図2に示すように、本実施形態に係る偏光眼鏡10の偏光眼鏡右側フィルム101Rは、使用者視点での左右方向が偏向方向(第1方向)となるように設けられている。また、偏光眼鏡左側フィルム101Lは、使用者視点での上下方向が偏向方向(第2方向)となるように設けられている。
【0025】
(対象物用シートの構成)
図3は、第1の実施形態に係る対象物用シートの構成を示す図である。
図3は、種々のサイズの対象物用シートのうち、例として、テレビ用の対象物用シートを示している。
図3に示すように、本実施形態に係る対象物用シート11の右目用シート11Rは、使用者視点での左右方向が偏向方向(第1方向)となるように設けられている。また、左目用シート11Lは、使用者視点での上下方向が偏向方向(第2方向)となるように設けられている。
【0026】
また、図3に示すように、右目用シート11R、左目用シート11Lのそれぞれは、シート本体部110と、指標部111とを有してなる。ここで、シート本体部110は、右目用シート11R、左目用シート11Lそれぞれにおける偏光フィルムそのもので構成される部分である。また、指標部111は、本体部の角に設けられ、右目用シート11R,左目用シート11Lのそれぞれにおいて「右目用」、「左目用」の印字がなされている。この指標部111があることで、使用者は、どちらのシートが右目用または左目用であるかを把握できるばかりでなく、目視対象物に対しどちらを上にして、どの方向に取り付ければよいかを認識することができる。これにより、目視対象物への取り付けミスを抑制することができ、偏光眼鏡10を通して目視した際に、意図したほうの目(訓練対象とする目)のみからの目視が可能となる。
【0027】
(目視対象物への取り付け例)
図4図6は、第1の実施形態に係る対象物用シートの取り付け例を示す図である。
図4は、目視対象物として、絵本A1に、右目用シート11Rを取り付けた際の例を示している。また、図5は、目視対象物として、タブレット端末A2に、右目用シート11Rを取り付けた際の例を示している。また、図6は、目視対象物として、テレビA3に、右目用シート11Rを取り付けた際の例を示している。
【0028】
図4に示すように、使用者は、右目用シート11Rを絵本A1の見開きページ全体を覆うように配置し、クリップCなどを用いて取り付ける。このように取り付けることで、使用者は、偏光眼鏡右側フィルム101Rを介する弱視眼では視認できる一方で、偏光眼鏡左側フィルム101Lを介する健常眼側では視認できなくなる。
図5図6(タブレット端末A2、テレビA3)においても同様の効果を有する。このように、使用者が日常的に視認対象とする複数のものに、対象物用シート11を取り付けておくことで、弱視訓練の効果を高めることができる。
【0029】
(作用、効果)
以上、第1の実施形態に係る弱視訓練キットによれば、複雑な機器や装置を要することなく、両眼開放下での弱視訓練環境を提供することができる。これにより、両眼開放下の弱視訓練をより安価で手軽に行うことができる。
【0030】
(その他の実施形態)
第1の実施形態に係る弱視訓練キット1は、対象物用シート11として、右目用シート11R、左目用シート11Lの両方を含んだパッケージであるものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
即ち、他の実施形態に係る弱視訓練キット1は、右目用シート11R、左目用シート11Lのいずれか一方のみを含み、それぞれ“右目専用”、“左目専用”として販売される態様であってもよい。この場合、偏光眼鏡10は、右目用シート11Rまたは左目用シート11Lに対応する一方のフィルム(偏光眼鏡右側フィルムまたは偏光眼鏡左側フィルム)のみを具備する態様であってもよい。
【0031】
また、第1の実施形態では、例として、絵本A1、タブレット端末A2、テレビA3の大きさに合わせて形成された対象物用シート11を有するものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
例えば、対象物用シート11は、使用者の部屋に飾られている絵画や写真などに貼付されてもよい。
【0032】
また、第1の実施形態では、対象物用シート11は、クリップCなどを介して取り付けれられる態様で説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
即ち、他の実施形態に係る対象物用シート11は、シールのように粘着面を有し、当該粘着面をもって目視対象物に貼される態様とされてもよい。
【0033】
また、第1の実施形態(図4図6)では、対象物用シート11は、絵本A1、タブレット端末A2およびテレビA3の表示面全体を覆うように取り付けられるものとして説明したが、他の実施形態においてはこの態様に限定されない。
即ち、他の実施形態において、対象物用シート11は、絵本A1等の表示面の一部分のみを覆うように取り付けられてもよい。
更に、他の実施形態に係る弱視訓練キット1は、対象物用シート11として、はさみやカッターなどを用いて使用者が所望する大きさに加工できる専用のシートが含まれていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 弱視訓練キット
10 偏光眼鏡
101R 偏光眼鏡右側フィルム(第1偏光フィルム)
101L 偏光眼鏡左側フィルム(第2偏光フィルム)
102 クリップ
11 対象物用シート
11R 右目用シート(第1シート)
11L 左目用シート(第2シート)
図1
図2
図3
図4
図5
図6