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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】金属成型品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 1/00 20060101AFI20240215BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20240215BHJP
   B22C 9/00 20060101ALI20240215BHJP
   C22B 21/06 20060101ALI20240215BHJP
   C22B 9/05 20060101ALI20240215BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
B22D1/00 K
B22D1/00 B
B22D21/04
B22C9/00 A
C22B21/06
C22B9/05
C22C1/02 501F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020068547
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021164931
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】514246680
【氏名又は名称】株式会社日▲高▼合金
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 義昭
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119890(JP,A)
【文献】特開平11-323449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 1/00
C22C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地金材料を溶解することにより地金材料の溶湯を生成するステップと、
前記地金材料の溶湯における水素ガスの混入量が地金基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をするステップと、
前記脱ガス処理をした前記地金材料の溶湯を冷却して地金を生成するステップと、
前記地金を電気加熱式溶解炉で溶解することにより前記地金の溶湯を生成するステップと、
前記地金の溶湯における水素ガスの混入量が前記地金基準値よりも小さい値の基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をするステップと、
前記脱ガス処理をした前記地金の溶湯を型に注入するステップと、
前記型に注入された溶湯を冷却するステップと
を備える、金属成型品の製造方法。
【請求項2】
前記注入するステップにおいて、前記地金の溶湯の温度は700℃から720℃の間の温度である、請求項1に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項3】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、異なる方式の複数の測定装置を用いて、水素ガスの混入量を測定する、請求項1または2に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項4】
異なる方式の複数の前記測定装置は、それぞれ異なる値の前記基準値が設定されている、請求項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記測定装置の前記基準値は、0.15cc/Al100g以下である、請求項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項6】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、予め定められた期間が経過しても溶湯の水素ガスの混入量が前記基準値以下とならない場合、前記地金材料を前記電気加熱式溶解炉に投入して追加するステップを更に有する、請求項1からのいずれか一項に記載の金属成型品の製造方法。
【請求項7】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、溶湯の温度が730℃から740℃の範囲になってから前記電気加熱式溶解炉による加熱を止めて、溶湯を撹拌しつつ、アルゴンガスを溶湯に注入して脱ガス処理する、請求項1からのいずれか一項に記載の金属成型品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成型品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融状態の金属又は合金(以下、適宜「溶湯」と表記)を鋳型の内部空間に注入し、溶湯を凝固、冷却させた後、鋳型より取り出して金属成形品(以下、適宜「鋳物」と表記)を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、半導体部品等を製造する装置においては、高真空にした容器内で半導体材料を加工する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5758535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような鋳物を製造する過程においては、金属又は合金を加熱処理する過程で溶湯内に水素ガス等が混入してしまい、製造された鋳物の内部に水素が残留することがあった。したがって、内部を低圧にする真空容器等を鋳物で製作すると、容器内を真空ポンプで真空引きしても鋳物から水素が放出され、要求されている真空度に到達することができなくなってしまうという問題が生じることがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、高い機密性を有する金属成形品を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、地金材料を溶解することにより地金材料の溶湯を生成するステップと、前記地金材料の溶湯における水素ガスの混入量が地金基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をするステップと、前記脱ガス処理をした前記地金材料の溶湯を冷却して地金を生成するステップと、前記地金を電気加熱式溶解炉で溶解することにより前記地金の溶湯を生成するステップと、前記地金の溶湯における水素ガスの混入量が前記地金基準値よりも小さい値の基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をするステップと、前記脱ガス処理をした前記地金の溶湯を型に注入するステップと、前記型に注入された溶湯を冷却するステップとを備える、金属成型品の製造方法を提供する。
【0007】
前記注入するステップにおいて、前記地金の溶湯の温度は700℃から720℃の間の温度であってもよい。
【0008】
本発明の第2の態様においては、地金材料を電気加熱式溶解炉で溶解することにより地金材料の溶湯を生成するステップと、前記地金材料の溶湯における水素ガスの混入量が基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をするステップと、前記脱ガス処理をした前記地金材料の溶湯を型に注入するステップと、前記型に注入された溶湯を冷却するステップとを備える、金属成型品の製造方法を提供する。
【0009】
前記注入するステップにおいて、前記地金材料の溶湯の温度は700℃から740℃の間の温度であってもよい。
【0010】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、異なる方式の複数の測定装置を用いて、水素ガスの混入量を測定してもよい。異なる方式の複数の前記測定装置は、それぞれ異なる値の前記基準値が設定されていてもよい。
【0011】
少なくとも1つの前記測定装置の前記基準値は、0.15cc/Al100g以下であってもよい。
【0012】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、予め定められた期間が経過しても溶湯の水素ガスの混入量が前記基準値以下とならない場合、前記地金材料を前記電気加熱式溶解炉に投入して追加するステップを更に有してもよい。
【0013】
前記基準値以下となるまで溶湯の前記脱ガス処理をするステップにおいて、溶湯の温度が730℃から740℃の範囲になってから前記電気加熱式溶解炉による加熱を止めて、溶湯を撹拌しつつ、アルゴンガスを溶湯に注入して脱ガス処理してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い機密性を有する金属成形品を製造できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来の金属成形品の製造フローの一例を示す。
図2】本実施形態に係る金属成形品の製造フローの第1例を示す。
図3】本実施形態に係る金属成形品の製造フローの第2例を示す。
図4】本実施形態に係る金属成形品の一部の製造途中の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<従来の金属成形品の製造フローの一例>
図1は、従来の金属成形品の製造フローの一例を示す。まず、地金と鋳物の型を予め準備する(S110)。地金は、鋳物の材料であり、例えば、複数の金属材料を含む合金である。地金が複数の金属材料を含む場合、複数の金属材料は、予め定められた規格に基づく割合で地金を構成していることが望ましい。一例として、地金は、日本工業規格(JIS)において、「AC-4C」と規定されているアルミニウム合金であり、商品として一般に購入可能な材料である。
【0017】
鋳物の型は、「鋳型」とも呼ばれ、溶融された地金が注入される。型は、砂で形成されている砂型、金属で形成されている金型等である。砂型は、水ガラス、セメント、樹脂等を粘結剤として砂に混合して、強度を向上させることもできる。
【0018】
次に、地金を溶解することにより、地金の溶湯を生成する(S120)。例えば、アルミニウム合金を入れたるつぼをLPG(Liquefied Petroleum Gas)炉または油燃焼炉の燃焼によって加熱し、アルミニウム溶湯を生成する。
【0019】
次に、地金の溶湯の脱ガス処理をする(S130)。脱ガス処理として、溶湯中に不活性ガス気泡を吹き込むことにより、溶湯内に混入した水素ガスを除去する方法が知られている。脱ガス処理は、例えば、溶湯炉の中に回転式のミキサーを入れ、先端から細かな不活性ガスを溶湯中に吹き込み、吹き込まれたガス気泡の吸収ガス分圧を利用して溶湯中の水素を吸着する回転式脱ガス処理である。撹拌している溶湯にアルゴンガスを注入する脱ガス処理により、例えば、地金の溶湯に含まれている水素ガスを1cc/Al100g程度以下に低減させることができる。
【0020】
次に、脱ガス処理をした溶湯を型に注入する(S140)。るつぼ内の溶湯は、型に設けられている流路を用いて型の内部空間に注入される。溶湯の温度は、例えば、720℃から750℃程度である。ここで、るつぼ内の溶湯に圧力を印加し、低圧にした型の内部空間に溶湯を注入してもよい(低圧鋳造法)。
【0021】
次に、型に注入された溶湯を冷却する(S150)。型には、例えば、溶湯の冷却効果を高めるための1または複数の冷し金が設けられている。冷し金は、溶湯の肉厚な部分、溶湯のより冷却させたい部分等に応じて、予め定められた位置に配置されていることが望ましい。ここで、型に注入された溶湯をほぼ同時期に冷却して凝固させてもよく、一定の方向に順次冷却して凝固させてもよい。例えば、型の一部を保温して、溶湯が凝固する部分を時間的に異ならせてもよい(指向性凝固法)。
【0022】
溶湯は、冷却されて凝固すると鋳物となる。そして、型を除去して鋳物を取り出す(S160)。必要に応じて、鋳物の表面を研磨処理することで、金属成形品である鋳物が完成する。以上のように、地金を熱して液体状の溶湯にしてから型に流し込み、溶湯を冷却することで目的の形状を有する鋳物を製造することができる。鋳物の型は、金属、砂等で簡便に形成することができるので、例えば、1mを超える大型の鋳物を形成することもできる。また、一例として、材料にアルミニウム等の軽金属を含ませることで、大型な鋳物を軽量化することもできる。
【0023】
以上のように鋳物を製造する場合、例えば、準備する地金は、通常、地金の材料を燃焼による加熱で溶湯にしてから地金の型に流し込んで製造された材料である。このような燃焼によって地金の材料を溶解すると、大気中の水分等と反応して地金の溶湯内に水素ガスが混入してしまい、製造された地金には水素ガスが残留してしまうことがある。また、地金の規定には水素ガスの混入量は含まれておらず、通常、地金の生成過程においては、脱ガス処理をしていないので、取得可能な地金には、例えば、水素ガスが0.35~0.45cc/Al100g程度混入している。
【0024】
また、地金は、廃棄物等から再利用された金属を用いて製造されていることもある。再利用された金属の表面には水素ガス等が付着して混入しているので、製造された地金には水素ガスが0.45cc/Al100g程度よりも多く混入してしまうことがある。
【0025】
また、鋳物の製造過程において、地金を燃焼によって加熱すると、大気中の水分等と反応して溶湯内に水素ガスが混入してしまう。したがって、例えば、地金の溶湯内に0.35cc/Al100g程度以上の水素ガスが混入してしまうと、脱ガス処理をしても、完成した鋳物に含まれている水素ガスの混入量を0.2cc/Al100g程度以下に低減させることは困難であった。
【0026】
このように、水素ガスが混入している鋳物を真空容器の壁の少なくとも一部として用いると、真空ポンプで真空容器内の気体を排気しても、鋳物から水素ガスが放出されるので、気密性を保てなくなってしまうことがある。例えば、装置内を真空にして半導体材料等を加工、観察する半導体製造装置等は、アルミニウム等を含む材料で真空容器(チャンバ)が形成されていることが多い。半導体製造装置には、1mを超える大型の装置もあり、鋳物で簡便に形成できることが望まれていた。
【0027】
しかしながら、半導体製造装置等は、大型で複雑な形状の部品で形成されているにも関わらず、高い機密性が要求されているので、アルミニウムのビレット、スラブ、型材等から削り出した部品を用いて製造されていた。そこで、本実施形態においては、高い機密性能を有する鋳物を製造できるようにして、鋳物によって半導体製造装置等を製造可能とする。このような鋳物の製造フローについて次に説明する。
【0028】
<金属成形品の製造フローの第1例>
図2は、本実施形態に係る金属成形品の製造フローの第1例を示す。まず、地金材料と鋳物の型を予め準備する(S210)。地金材料は、地金を製造するための金属材料であり、例えば、アルミニウム、メタリックシリコン、マグネシウム等である。地金材料は、規格等に適合する地金を製造可能な純度と分量の材料であることが望ましい。
【0029】
地金材料は、水素ガスおよび不純物が混入していない材料であることが望ましく、再生材料ではなく、新塊材料であることが望ましい。一例として、アルミニウムは99.7%を超える純度の新塊材料であり、メタリックシリコンは99%を超える純度の新塊材料であり、マグネシウムは99.2%を超える純度の新塊材料である。また、鋳物の型は、図1で説明した型と同様である。
【0030】
次に、地金材料を溶解することにより地金材料の溶湯を生成する(S220)。ここで、比較的低温で地金材料を溶解することが望ましく、これにより、水素ガスが地金材料の溶湯に混入する量を低減できる。例えば、地金材料の溶湯の温度を700℃から720℃程度とする。また、地金材料を入れたるつぼを電気加熱式溶解炉によって加熱することが望ましい。電気加熱式溶解炉による加熱は、燃焼による加熱ではないので、水素ガスが地金材料の溶湯に混入する量を低減できる。
【0031】
次に、地金材料の溶湯における水素ガスの混入量が地金基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をする(S230)。脱ガス処理は、例えば、回転式脱ガス処理である。また地金基準値は、例えば、0.3cc/Al100g程度以下である。地金基準値は、一例として、0.2cc/Al100g程度である。水素ガスの混入量は、脱ガス処理中に測定可能な測定装置で測定する。
【0032】
測定装置は、例えば、溶解炉前において、溶湯を試料用るつぼに注入し、減圧状態における初期気泡が発生する溶湯温度と圧力の対応関係から水素ガスの混入量を測定するイニシャルバブル法を用いた装置である。また、測定装置は、電気化学セルを有するプローブを用いて溶湯内の水素ガスの混入量を直接測定する装置であってもよい。また、水素ガスの混入量は、異なる方式の複数の測定装置で測定してもよい。
【0033】
次に、溶湯を地金の型に注入し、冷却して地金を生成する(S240)。このように、本実施形態においては、水素ガスの混入量を地金基準値で管理して、地金材料を新たに配合して地金を製造する。これにより、一定量以下の水素ガスの混入量の地金を用いて鋳物を製造することができる。なお、予め定められた時間が経過するまで脱ガス処理をしても、地金材料の溶湯の水素ガスの混入量が地金基準値以下とならないこともある。この場合、例えば、溶湯を同様に冷却して地金を生成し、高い機密性が要求されている鋳物の製造には用いずに、高い機密性が要求されていない鋳物の製造に用いてよい。
【0034】
次に、生成した地金を電気加熱式溶解炉で溶解することにより地金の溶湯を生成する(S250)。地金をいれたるつぼを電気加熱式溶解炉によって加熱することにより、燃焼による加熱と比較して、水素ガスが地金の溶湯に混入する量を低減できる。ここで、地金の溶湯の温度を、例えば、700℃から720℃程度の比較的低温にすることが望ましい。
【0035】
次に、地金の溶湯における水素ガスの混入量が地金基準値よりも小さい値の基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をする(S260)。脱ガス処理は、地金材料の溶湯の脱ガス処理と同様に、例えば、回転式脱ガス処理である。基準値は、例えば、0.2cc/Al100g程度以下である。基準値は、0.15cc/Al100g程度以下であることが望ましい。基準値は、0.1cc/Al100g程度以下、0.05cc/Al100g程度であってもよい。
【0036】
水素ガスの混入量は、脱ガス処理中に測定可能な測定装置で測定する。測定装置は、誤差等を含む測定結果を出力することもあり、また、溶湯に混入した水素ガスが一時的に分布を有する場合もある。そこで、より正確な水素ガスの混入量を測定するために、異なる方式の複数の測定装置、測定方法を用いて、水素ガスの混入量を測定することが望ましい。この場合、基準値は、完成した金属成型品において目標とする水素ガスの量よりも大きな値に設定してもよく、また、測定装置の精度、オペレータの熟練度等に応じて測定装置毎に異なる値を設定してもよい。
【0037】
例えば、水素ガスセンサを用いて溶湯中の水素ガスをインラインで測定可能な測定装置がある。このような装置は、比較的高価ではあるが、定量的に評価ができるので、基準値を金属成型品に含まれる水素ガスの目標値に近づけた値に設定してもよい。また、ランズレー法、イニシャルバブル法、減圧凝固法、徐冷法等といった測定方法は、オペレータの熟練度によって精度が変化することがあり、また、簡便に測定できる一方で定量性に欠ける場合もある。そこで、このような測定方法においては、基準値を金属成型品に含まれる水素ガスの目標値よりも大きな値に設定してもよい。例えば、基準値を、0.2cc/Al100g程度にしてもよい。これに代えて、複数の測定装置における基準値を1つの共通の値に設定し、複数の測定装置による複数の測定結果のうちいずれか1つの測定結果が基準値以下となったことで、脱ガス処理を終了させてもよい。
【0038】
次に、脱ガス処理をした溶湯を型に注入する(S270)。溶湯の温度は700℃から720℃の間の温度であることが望ましい。そして、型に注入された溶湯を冷却する(S280)。型には、例えば、1または複数の冷し金が設けられていることが望ましい。また、型の一部を保温する指向性凝固法により溶湯を冷却してもよい。そして、型を除去して鋳物を取り出す(S290)。必要に応じて、鋳物の表面を研磨処理することで、金属成形品である鋳物が完成する。
【0039】
以上の本実施形態に係る金属成形品の第1例の製造フローは、地金の溶湯を脱ガス処理し、一定量以下の水素ガスの混入量に管理して地金を製造し、製造した地金を用いて鋳物を製造する。これにより、地金に含まれている水素ガスの量を一定量以下に低減させることができるので、地金の溶湯内に含まれる水素ガスを低減させることができる。また、電気加熱式溶解炉を用いて地金の溶湯を加熱するので溶解炉において水素ガスが混入する量を低減できる。更に、地金の溶湯の温度を700℃から720℃程度にするので、溶解炉において水素ガスが混入する量を低減できる。
【0040】
以上により、例えば、完成した金属成形品に含まれている水素ガスの量を0.05cc/Al100g程度以下にすることができる。このように水素ガスの混入量を低減させた金属成形品は、高い機密性能を有する。例えば、図2に示す製造フローの第1例により、4つの真空容器を金属成形品で製造し、Heのリーク試験を実行したところ、0.1~1.1×10-10Pa・m/secといった結果が得られた。半導体製造装置として用いる真空容器は、一例として、2~3×10-10Pa・m/secといった値以下のリーク量が要求されることがあるが、このような判定基準を充分に満足できることがわかった。
【0041】
また、製造した金属成形品の空孔率をX線CTで測定したところ、0.0037~0.0082%といった、ほとんど空孔の無い良好な結果が得られた。更に、X線探傷測定をしたところ、全ての金属成形品において有害な欠陥を検出できず、良好な結果が得られた。以上のように、本実施形態に係る金属成形品の製造フローによれば、高い機密性を有する金属成形品を製造することができる。
【0042】
以上の本実施形態に係る製造フローは、地金材料を用いて地金を製造してから地金の溶湯を生成する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、地金材料から地金を製造することなく地金の溶湯を製造してもよい。このような製造フローについて、次に説明する。
【0043】
<金属成形品の製造フローの第2例>
図3は、本実施形態に係る金属成形品の製造フローの第2例を示す。まず、地金材料と鋳物の型を予め準備する(S310)。地金材料は、地金の溶湯を生成するための金属材料である。一例として、アルミニウムは99.7%以上の純度の新塊材料であり、メタリックシリコンは99.3%以上の純度の新塊材料であり、マグネシウムは99.9%以上の純度の新塊材料である。また、地金材料は、図2で説明した地金材料と同様の材料であってもよい。また、鋳物の型も図1および図2で説明した型と同様である。
【0044】
次に、地金材料を電気加熱式溶解炉で溶解することにより地金材料の溶湯を生成する(S320)。地金材料は、地金を製造するための材料であるから、地金材料の溶湯は、地金を溶解して生成する溶湯と略同一である。そこで、第2例の製造フローにおいては、地金を製造する動作を省略し、地金材料の溶湯を地金の溶湯として取り扱う。
【0045】
次に、地金材料の溶湯における水素ガスの混入量が基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をする(S330)。脱ガス処理は、第1例の製造フローの脱ガス処理と同様に、例えば、回転式脱ガス処理である。そして、基準値は、例えば、0.2cc/Al100g程度以下である。基準値は、0.15cc/Al100g程度以下であることが望ましい。基準値は、0.1cc/Al100g程度以下、0.05cc/Al100g程度であってもよい。また、異なる方式の複数の測定装置を用いて、水素ガスの混入量を測定することが望ましい。
【0046】
次に、脱ガス処理をした溶湯を型に注入する(S340)。溶湯の温度は700℃から720℃の間の温度であることが望ましい。そして、型に注入された溶湯を冷却する(S350)。型には、例えば、1または複数の冷し金が設けられていることが望ましい。複数の冷し金は、互いに重ならない程度で可能な限り型に敷き詰められていることが望ましい。また、型の一部を保温する指向性凝固法により溶湯を冷却してもよい。そして、型を除去して鋳物を取り出す(S360)。必要に応じて、鋳物の表面を研磨処理することで、金属成形品である鋳物が完成する。
【0047】
以上の本実施形態に係る金属成形品の第2例の製造フローは、地金材料から生成した溶湯を地金の溶湯とするので、第1例の製造フローと比較して地金材料を加熱する時間を低減することができる。これにより、地金材料の溶湯内に含まれる水素ガスをより低減させることができる。したがって、第2例の製造フローは、例えば、完成した金属成形品に含まれている水素ガスの量を0.05cc/Al100g程度以下にすることができ、高い機密性を有する金属成形品を安定に製造することができる。
【0048】
なお、第2例の製造フローにおいては、地金材料の溶湯を地金の溶湯として取り扱うことにより、溶湯内に含まれる水素ガスを低減できるので、溶湯の温度を第1例の製造フローと比較して高くしてもよい。例えば、溶湯の温度を700℃から740℃の間の温度としてもよい。溶湯の温度を上昇させることで、溶湯を型に注入しやすくすることができる。したがって、第2例の製造フローは、水素ガスの混入量を低減させたまま、溶湯の温度を上昇させることができ、高い機密性を有し、より複雑な形状の金属成形品を製造することができる。
【0049】
溶湯の温度を700℃から740℃の間の温度とする場合、溶湯の温度がより高温となっている状態の方が、水素ガスが混入しやすい。したがって、なるべく溶湯が高温となっている時間を短くした方が望ましく、また、高温となっている状態で脱ガス処理することが望ましい。この場合、例えば、溶湯の温度が730℃から740℃の範囲になってから電気加熱式溶解炉による加熱を止めて、溶湯を撹拌しつつ、アルゴンガスを溶湯に注入して脱ガス処理する。アルゴンガスを溶湯に注入する際に、例えば、プロペラ等で溶湯を撹拌してもよく、これによりアルゴンガスが微細化されて溶湯に接する面積が増えるので、溶湯に混入した水素が空気中に飛散しやすくなる。以上のように、溶湯の温度を上昇させても、水素ガスが混入する量を低減させることができる。
【0050】
以上のような図3に示す製造フローの第2例により、真空容器を金属成形品で実際に製造した結果について述べる。なお、金属成形品を製造する過程において、脱ガス処理中の水素ガスの混入量を、ランズレー法およびイニシャルバブル法で測定した。一例として、ランズレー法による水素ガスの基準値を0.2cc/Al100gとし、イニシャルバブル法による水素ガスの基準値を0.1cc/Al100gとした。水素ガスの実測値は、ランズレー法が0.2cc/Al100g、イニシャルバブル法が0.1cc/Al100gとなった。
【0051】
製造した金属成形品のHeのリーク試験を実行したところ、3.5×10-11Pa・m/secといった良好な結果が得られた。また、製造した金属成形品の空孔率をX線CTで測定したところ、サンプル体積が1.29×10mmに対して全空孔体積が14.7mmとなり、0.0011%程度のより良好な空孔率の結果が得られた。
【0052】
製造した金属成形品から3つの試料を採取して、引張試験と硬さ試験を行った。AC-4Cの引張強さのJIS規格値は、210N/mm以上であり、実体的な換算値は157.5N/mm以上のところ、3つの試料は、順に、230N/mm、231N/mm、222N/mmとなった。また、AC-4Cの伸び率のJIS規格値は、1%以上であり、実体的な換算値は0.25%以上のところ、3つの試料は、順に、1.8%、3.2%、1.2%となった。また、硬度のJIS規格値は、約75以上のところ、3つの試料は、順に、82.6、82.6、85.7となった。
【0053】
また、製造した金属成形品の化学成分を測定した。測定結果は、Siが6.98、Feが0.100、Cuが0.001、Mnが0.004、Mgが0.280、Crが0.001、Znが0.004、Tiが0.019、Pbが0.001、Niが0.004、Snが0.000、Bが0.003、Srが0.006となった。このような化学成分の測定結果は、AC-4Cの化学成分の規格値のほぼ中央値となった。以上により、製造した金属成形品は、JIS規格といった一般的な基準をクリアできていることがわかり、また、半導体製造装置として用いる真空容器として要求される基準を充分に満足できることがわかった。
【0054】
以上の本実施形態に係る金属成形品の製造フローにおいて、溶湯の水素ガスの混入量が基準値以下となるまで溶湯の脱ガス処理をする例を説明した。このような脱ガス処理において、脱ガス処理の開始段階では溶湯内の水素ガスの混入量が低減するが、脱ガス処理を一定の時間以上継続させると、溶湯内の水素ガスの混入量はほとんど変化のない状態へと変化する。したがって、予め定められた期間が経過しても溶湯の水素ガスの混入量が基準値以下とならない場合、金属成形品の製造を中止してもよく、これに代えて、生成した溶湯を高い機密性が要求されていない鋳物の製造に用いてもよい。
【0055】
これに代えて、予め定められた期間が経過しても溶湯の水素ガスの混入量が基準値以下とならない場合、地金材料を電気加熱式溶解炉に投入して追加してもよい。水素ガスの混入量の少ない地金材料を溶湯に追加することにより、溶湯全体に対する水素ガスの割合を低減させることができる。また、地金材料に代えて、第1の製造フローのS240の動作までで製造した地金を追加してもよい。第1の製造フローで製造した地金は、水素ガスの混入量を低減させているので、追加用の材料として用いることもできる。なお、予め定められた期間は、例えば、10分から30分程度の時間である。
【0056】
以上の本実施形態に係る金属成形品の製造フローにおいて、冷し金および指向性凝固法を用いて溶湯を冷却してもよいことを説明した。金属の溶湯は、凝固すると体積が収縮する凝固収縮が発生する。このため、鋳物を外周部から凝固させると、鋳物の中心部等は凝固収縮による溶湯不足で引け巣などの鋳造欠陥が発生しやすくなる。このような鋳造欠陥を防止する目的で、例えば、砂型鋳物などに冷し金および/または押し湯等を用いる。
【0057】
図4は、本実施形態に係る金属成形品の一部の製造途中の概略構成を示す。図4は、砂型10に溶湯20を流路30から注入した例を示す。砂型10には、複数の冷し金40が設けられている。冷し金40は、溶湯20を砂型10に注入してからより速い段階で凝固させたい部分に設けられており、溶湯20の冷却速度を速くする。
【0058】
また、砂型10には、押し湯部50がさらに設けられている。押し湯部50は、溶湯20を砂型10に注入してからより遅い段階で凝固させたい部分に設けられており、溶湯20の冷却速度を遅らせる。また、押し湯部50には、空気層等が設けられていてもよく、内部を保温する機能を有していることが望ましい。押し湯部50には、ヒータ等がさらに設けられていてもよい。
【0059】
このような冷し金40および押し湯部50が砂型10に設けられていることにより、溶湯20の押し湯部50に近接する部分を最後に凝固させることができる。これにより、押し湯部50に近接する部分に引け巣が形成され、鋳造欠陥が発生しても、押し湯部50に近接する部分だけに集中させることができる。
【0060】
このような指向性凝固法は、冷し金40および押し湯部50の配置を予め決定することが望ましい。例えば、溶湯20を凝固させていく部分と順序、凝固させる場合の溶湯20の温度勾配、温度勾配と固液界面の移動速度との比等の指標を、鋳物の形状、材料の材質等から推定するシミュレーションを用いる。これにより、鋳物形状に適した冷し金40および押し湯部50の配置等を予め設計することができる。
【0061】
以上のように、溶湯20を凝固させた場合、溶湯20の冷し金40に近接する部分は、より速く凝固して鋳造欠陥が比較的発生しない部分である。そこで、例えば、金属成型品が真空容器等の少なくとも一部である場合、砂型10の冷し金40が設けられている部分には真空容器の内壁が形成され、砂型10の押し湯部50が配置されている側には真空容器の外壁が形成されるように、砂型10が形成されていることが望ましい。これにより、鋳造欠陥が発生しても、容器内部の真空度には影響のない部分に発生させることができ、高い機密性を有する金属成形品とすることができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0063】
10 砂型
20 溶湯
30 流路
40 冷し金
50 押し湯部
図1
図2
図3
図4