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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-14
(45)【発行日】2024-02-22
(54)【発明の名称】メカノラジカル検出又は測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/62 20060101AFI20240215BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20240215BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240215BHJP
   C07C 255/37 20060101ALI20240215BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240215BHJP
   G01N 3/56 20060101ALI20240215BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
G01N21/62 Z
C08F8/30
C08L101/02
C07C255/37 CSP
G01N21/64 Z
G01N3/56 N
G01N19/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020076828
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021173603
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、「革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明」、「動的共有結合化学に基づく力学多機能高分子材料の創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 英幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓実
(72)【発明者】
【氏名】加藤 颯太
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡部 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】瀬下 滉太
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-507661(JP,A)
【文献】特開平06-271523(JP,A)
【文献】特開平11-255731(JP,A)
【文献】特開2016-210991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-21/74
G01L 1/00-1/26
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、
前記置換基は炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;
2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は
2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である)
で表される化合物及び高分子化合物を含む組成物において、前記組成物に力学的刺激が印加されることにより高分子化合物から発生するメカノラジカルにより、前記組成物から発生する発色又は前記組成物か紫外光照射により発生する蛍光を検出する工程、
を含む、メカノラジカル検出又は測定方法(但し、前記置換基がポリマーである場合は、前記高分子化合物は置換基のポリマーであってもよい)
【請求項2】
前記高分子化合物又はポリマーが、合成高分子、半合成高分子、又は天然高分子である、請求項に記載のメカノラジカル検出又は測定方法。
【請求項3】
前記力学的刺激が、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、摩擦、超音波、及びその2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載のメカノラジカル検出又は測定方法。
【請求項4】
下記式(I):
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基であり、
前記置換基は炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;
2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は
2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である)
で表される化合物、及び高分子化合物を含むメカノラジカル検出又は測定用組成物(但し、前記置換基がポリマーである場合は、前記高分子化合物は置換基のポリマーであってもよい)
【請求項5】
前記高分子化合物又はポリマーが、合成高分子、半合成高分子、又は天然高分子である、請求項に記載のメカノラジカル検出又は測定用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカノラジカル検出又は測定方法に関する。本発明によれば、力学的刺激によって高分子化合物に生じた劣化等を定量的に検出することができる。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物は、力学的刺激により切断され、分子量が低下することが知られている。すなわち、高分子化合物は、力学的刺激により破壊及び劣化する。高分子化合物が破壊及び劣化した場合、高分子化合物の主鎖が切断され、高活性なメカノラジカルが発生する。前記メカノラジカルは、電子スピン共鳴装置を用いたスピントラップ法によって検出することができる(非特許文献1)。すなわち、高分子化合物の破壊及び劣化をスピントラップ法によって検出できる。
しかしながら、スピントラップ法は溶液中のメカノラジカルを定量できるが、バルク中のメカノラジカルを定量することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-210991号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「マクロモリキュールズ(Macromolecules)」(米国)2018年、第51巻、p1088-1099
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、テトラアリールスクシノニトリル(TASN)骨格を高分子化合物中に導入し、高分子化合物の力学的刺激による破壊及び劣化等を検出できることを開示している(特許文献1)。
しかしながら、高分子化合物中にTASN骨格を導入する合成工程が必要であり、簡便に破壊及び劣化等を検出できる方法の開発が期待されていた。
従って、本発明の目的は、簡便に高分子化合物の破壊及び劣化測定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、簡便に高分子化合物の破壊及び劣化を測定できる方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の構造を有するアセトニトリル誘導体を、メカノラジカルを検出するための分子プローブをして用いることにより、簡便に高分子化合物の劣化等を測定できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]下記式(I):
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基、又は1~4の置換基を有してもよい5員又は6員の飽和又は不飽和複素環基であり、前記置換基は炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である)で表される化合物を含む組成物から発生する発色を検出するか、又は前記組成物に紫外光を照射し組成物から発生する蛍光を検出する工程、を含む、メカノラジカル検出又は測定方法、
[2]前記組成物が高分子化合物を含む、[1]に記載のメカノラジカル検出又は測定方法、
[3]前記高分子化合物が、合成高分子、半合成高分子、又は天然高分子である、[2]に記載のメカノラジカル検出又は測定方法、
[4]前記メカノラジカルが、組成物に力学的刺激が印加されることにより発生するメカノラジカルである、[1]~[3]のいずれかに記載のメカノラジカル検出又は測定方法、
[5]前記力学的刺激が、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、摩擦、超音波、及びその2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、[1]~[4]のいずれかに記載のメカノラジカル検出又は測定方法、
[6]下記式(I):
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基、又は1~4の置換基を有してもよい5員又は6員の飽和又は不飽和複素環基であり、前記置換基は炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である)で表される化合物、及び高分子化合物を含む組成物、及び
[7]前記高分子化合物が、合成高分子、半合成高分子、又は天然高分子である、[6]に記載の組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法によれば、高分子化合物の力学的刺激による破壊及び劣化を簡便に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明におけるメカノラジカルが検出される機構を模式的に示した図である。
図2】DAAN-diOMe及びPS-Brの混合物を用いて、スターミルにより擦り潰した場合の紫外線照射下(365nm)の黄色蛍光を示した写真(A)及び蛍光強度測定のグラフである。
図3】ポリスチレン及びDAAN-diOMeの混合試料をボールミルにより擦り潰した場合の黄色蛍光の写真(A)、GPC溶出曲線のチャート(B)、炭素ラジカル由来のg値2.003のESRスペクトルを示したチャート(C)、及びDAAN-diOMeラジカル由来の556nmの蛍光スペクトルを示したグラフ(D)である。
図4】比較例1のポリスチレンのみの試料(A)、DAAN-diOMeのみの試料(B)、及びBisphenol A-diOMeとポリスチレンとの混合試料(C)の擦り潰し試験におけるESR測定を示したグラフである。
図5】参考例1のポリスチレンのみの試料、並びにDAAN-diOMeとポリスチレンとの混合試料に力学的刺激を加えた場合の、超音波照射前後のサンプルから得られたGPC溶出曲線を示したグラフである。
図6】5種類の分子量のポリスチレンとDAAN-diOMeとの混合試料の擦り潰し試験におけるGPC溶出曲線(A)、分子量に対する蛍光強度とESR測定とから算出したDAANラジカルの量(B)、及び蛍光強度に対するDAANラジカルの量(C)を示したグラフである。
図7】置換基としてポリマーを有するアセトニトリル誘導体を用いた擦り潰し試験の黄色蛍光の写真(A)、DAANラジカル由来のスペクトルのグラフ(B)、及びGPC溶出曲線(C)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔1〕メカノラジカル検出又は測定方法
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法は、前記式(I)で表される化合物(以下、「アセトニトリル誘導体」と称することがある)を含む組成物に紫外光を照射する工程、及び(2)組成物から発生する蛍光を検出する工程、を含む。
【0010】
(メカノラジカル)
本発明の方法によって検出及び測定されるメカノラジカルは、高分子主鎖の例えば炭素-炭素結合が均一に切断されることによって生じる切断型ラジカルである。また、高分子主鎖の炭素-炭素結合以外の結合の切断によっても、メカノラジカルが発生することがある。更に、無機物に力学的刺激が加えられた場合に、無機物の構造が破壊されてメカノラジカルが発生することがある。メカノラジカルは、反応性に富んだラジカルであり、例えば前記アセトニトリル誘導体のプロトンを選択的に引き抜くことができる。アセトニトリル誘導体は、プロトンが引き抜かれることにより、ラジカル(以下、アセトニトリルラジカル(ANラジカル)と称することがある)が生じ、蛍光を発生する。
図1に、ジアリールアセトニトリル(DAAN)誘導体を用いて、本発明においてメカノラジカルを検出される機構の模式図を示す。高分子化合物及びジアリールアセトニトリル誘導体の混合物に力学的刺激が加わることによって、高分子化合物の主鎖の炭素-炭素結合が均一に切断され、メカノラジカルが生じる。前記メカノラジカルは、ジアリールアセトニトリル誘導体のベンジル位プロトンを引き抜く。プロトンが引き抜かれたジアリールアセトニトリル誘導体は、ジアリールアセトニトリル(DAAN)ラジカルを生成する。前記DAANラジカルは、紫外光照射下で黄色蛍光を呈するため、この蛍光を測定することによって、高分子化合物の破壊(劣化)の程度を測定することができる。
【0011】
なお、前記ANラジカルは、ESR測定によって検出可能であり、g値2.003のESRスペクトルとして検出できる。
【0012】
(高分子化合物)
前記高分子化合物は、機械的刺激により主鎖の一部が切断してメカノラジカルが発生する限りにおいて、特に限定されるものではないが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、又はポリビニルなどの合成高分子、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はスルホン化セルロース)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、デキストリン脂肪酸エステル、ゼラチン脂肪酸エステル、及びゼラチン脂肪酸アミドなどの半合成高分子、又はセルロース、キサンタンガム、サクシノグリカン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、ガラクタン、アラビアガム、トラガントガム、タマリンドガム、寒天、アガロース、マンナン、カードラン、アルギン酸、アラビアゴム、ペクチン、クインシード、デンプン、アルゲコロイド、コンドロイチン硫酸、キトサン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロイン、エラスチン、ケラチン、セリシン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸などの天然高分子が挙げられる。
これらの高分子化合物は、力学的刺激によって主鎖の結合(例えば、炭素-炭素結合)が切断されることがあり、それによってメカノラジカルが発生する。
【0013】
(力学的刺激)
本明細書において「力学的刺激」とは、高分子化合物の主鎖の結合(例えば、炭素-炭素結合)を切断するものである限りにおいて、特に限定されるものではないが、圧縮、延伸、衝撃、せん断、粉砕、曲げ、摩擦、超音波、又はその2つ以上の組み合わせが挙げられる。力学的刺激の大きさに従って、主鎖の結合の切断が増加すると考えられる。切断数が多いとアセトニトリル誘導体から引き抜かれるプロトン数が増加し、アセトニトリルラジカル(ANラジカル)が増加する。
【0014】
《アセトニトリル誘導体》
本発明に用いられるアセトニトリル誘導体は、下記式(I):
【化3】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基、又は1~5の置換基を有してもよい5員又は6員の飽和又は不飽和複素環基であり、前記置換基は炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;
2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は
2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である)で表される化合物である。
【0015】
前記炭素数6~14の芳香族炭化水素基は、例えばフェニル基、ナフチル基、又はアントリル基であり、好ましくはフェニル基である。従って、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基としては、下記式で表される基が挙げられる。
【化4】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員又は6員の不飽和複素環基、又はポリマーであるか;
、R、R及びRの2つが一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又は
、R、R及びRの2つが、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である。置換基Rの数は1~5であり、置換基Rの数は1~3であり、置換基Rの数は1~4であり、置換基Rの数は1又は2である。また、R、R、R及びRの2つ置換基は、例えば1つの環に結合する置換基であってもよく、RとRの2つ置換基が一緒になって2価の炭化水素基を形成したり、芳香環を形成してもよい。)
本明細書において、1~9の置換基を有してもよい炭素数6~14の芳香族炭化水素基を有するアセトニトリル誘導体を、「ジアリールアセトニトリル誘導体」と称する。なお、本明細書においてジアリールアセトニトリル誘導体は、置換基を有さないものも含む。
【0016】
前記5員又は6員の飽和又は不飽和複素環基としては、例えばピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフェニル基、オキサゾリジニル基、チアゾリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペラジニル基、テトラヒドロピラニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ピリジル基、フリル基、又はチエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イソチアゾリル基、イソキサゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、又はピロリル基が挙げられる。従って、1~4の置換基を有してもよい5員又は6員の不飽和複素環基としては、例えば下記式で表される基が挙げられる。
【化5】
(式中、R、R、及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーであるか;R、R、及びRの2つが一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基であるか;又はR、R、及びRの2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環である。置換基Rの数は1~3であり、置換基Rの数は1~4であり、置換基Rの数は1又は2である。また、R、R、及びRの2つ置換基は、例えば1つの環に結合する置換基であってもよく、例えばRとRの2つ置換基が一緒になって2価の炭化水素基を形成したり、芳香環を形成してもよい。)
本明細書において、1~4の置換基を有してもよい5員又は6員の飽和又は不飽和複素環基を有するアセトニトリル誘導体を、「二置換アセトニトリル誘導体」と称する。なお、本明細書において二置換アセトニトリル誘導体は、置換基を有さないものも含む。
また、前記複素環のヘテロ原子は、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、フッ素原子、硫黄原子、リン原子、アルミニウム原子、又はセレン原子が挙げられる。
【0017】
前記置換基は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されるものではなく、例えば炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子、水酸基、チオール基、カルボキシル基、シラン基、アルコキシシラン基、エポキシ基、アミノ基、アルデヒド基、アミド基、イソシアネート基、置換基を有してもよい5員若しくは6員の飽和若しくは不飽和複素環基、又はポリマーが挙げられる。また前記置換基は、2つの置換基が一緒になって、単結合、分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、アミド基(-CONH-)、第二級アミノ基、エステル基、又はオキシカルボニル基でもよい。更に、前記置換基は、2つの置換基が、それらが結合する炭素原子と一緒になって、置換又は非置換の1~3の芳香環、炭素数3~7のシクロアルキル環、3~7員の不飽和複素環、又は3~7員の飽和複素環であってもよい。
前記の置換基は、高分子主鎖の結合(例えば、炭素-炭素結合)が切断されることによって生じるメカノラジカルが、アセトニトリル誘導体のプロトンを引き抜くことを阻害しないものである。従って、前記置換基であることによって本発明の効果を得ることが可能である。
【0018】
前記炭素数1~6のアルコキシ基は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~3のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基、第二級ブトキシ基、第三級ブトキシ基、ノルマルペントキシ基、イソペントキシ基、ネオペントキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、又はイソヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0019】
前記炭素数1~6のアルキル基は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、第二級ブチル基、第三級ブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、第三級ペンチル基、ノルマルへキシル基、およびイソへキシル基が挙げられる。
【0020】
炭素数1~6のアルコキシカルボニル基は、特に限定されるものではないが、好ましくは炭素数1~3のアルコキシカルボニル基である。具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ノルマルプロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ノルマルブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、第二級ブトキシカルボニル基、第三級ブトキシカルボニル基、ノルマルペントキシカルボニル基、イソペントキシカルボニル基、ネオペントキシカルボニル基、ノルマルヘキシルオキシカルボニル基、又はイソヘキシルオキシカルボニル基が挙げられる。
【0021】
シアノ基は、-CNで表される基である。置換基は5員又は6員の不飽和複素環基であってもよい。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
分子鎖中にヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~40の2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、又はドデシレン基が挙げられる。
置換又は非置換の1~3の芳香環としては、フェニル基、ナフチル基、又はアントリル基が挙げられる。
炭素数3~7のシクロアルキル環は、好ましくは炭素数4~6のシクロアルキル環であり、より好ましくは炭素数5又は6のシクロアルキル環である。
3~7員の不飽和複素環は、好ましくは4~6員の不飽和複素環であり、より好ましくは5又は6員の不飽和複素環である。
3~7員の飽和複素環は、好ましくは4~6員の飽和複素環であり、より好ましくは5又は6員の飽和複素環である。
【0023】
前記置換基のポリマーは、特に限定されるものではないが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリラクトン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアルキレンオキシド、ポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、ポリラクチド、ポリオレフィン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、エポキシ樹脂、ポリアセチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、及びポリビニルなどの合成高分子、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はスルホン化セルロース)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸エチレングリコールエステル、デキストリン脂肪酸エステル、ゼラチン脂肪酸エステル、及びゼラチン脂肪酸アミドなどの半合成高分子、又はセルロース、キサンタンガム、サクシノグリカン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、ガラクタン、アラビアガム、トラガントガム、タマリンドガム、寒天、アガロース、マンナン、カードラン、アルギン酸、アラビアゴム、ペクチン、クインシード、デンプン、アルゲコロイド、コンドロイチン硫酸、キトサン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブロイン、エラスチン、ケラチン、セリシン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸などの天然高分子が挙げられる。
ポリマーを置換基として有するアセトニトリル誘導体としては、例えば下記式(II):
【化6】
で表されるポリスチレン-ジアリールアセトニトリル誘導体が挙げられる。すなわち、置換基としてポリマーを有する場合は、限定されるものではないが、置換基のポリマーの側鎖としてアセトニトリル誘導体骨格が結合することが好ましい。
後述の実施例8に示すように、ポリマーを置換基として有するアセトニトリル誘導体の場合、アセトニトリル誘導体自体が、高分子化合物ともなりえる。すなわち、ポリマーを置換基として有するアセトニトリル誘導体は、メカノラジカル検出又は測定方法において、アセトニトリル誘導体であり、且つ高分子化合物でもある。
【0024】
前記組成物は限定されるものではないが、力学的刺激によるメカノラジカルが発生する物質を含む。具体的には前記高分子化合物又は無機物を含むことができるが、好ましくは前記高分子化合物である。高分子化合物の結合(例えば、炭素-炭素結合)が切断されることによって、メカノラジカルが発生する。すなわち、高分子化合物に力学的刺激が印加されることにより、高分子化合物にメカノラジカルが発生する。
【0025】
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法においては、前記組成物から発生する発色を検出してもよい。前記アセトニトリル誘導体のアセトニトリル骨格のプロトンが引き抜かれ、アセトニトリルラジカル(ANラジカル)が生じると、高分子化合物の種類に応じて発色がみられる。
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法においては、前記アセトニトリル誘導体を含む組成物に紫外線を照射してもよい。前記アセトニトリル誘導体のアセトニトリル骨格のプロトンが引き抜かれ、アセトニトリルラジカル(ANラジカル)が生じると、高分子化合物の種類に応じて、紫外線照射により、蛍光が発生する。発色と比較すると、蛍光による検出は高感度にメカノラジカルを検出できると考えられる。
【0026】
前記紫外線の波長は、特に限定されるものではないが、例えば330nm~390nmの波長の照射で蛍光が発生し、好ましくは365nmである。紫外線発生装置としては、UVランプを用いることができる。
検出に用いられる蛍光波長は、特に限定されるものではないが、例えば350nm~800nmであり、好ましくは556nmである。蛍光検出機器としては、分光蛍光光度計、又は蛍光顕微鏡が挙げられる。蛍光量に応じて、破壊(劣化)の程度を測定することができる。
例えば、あらかじめANラジカルをESRや蛍光強度測定によって測定し、それぞれの標準曲線を作成しておけば、高分子切断反応によって得られるANラジカルの測定値や蛍光強度と標準曲線を比較することにより、高分子化合物の炭素-炭素 結合の切断の程度(高分子化合物の破壊又は劣化の程度)を推定することができる。
【0027】
〔2〕組成物
本発明の組成物は、前記式(I)で表される化合物、及び高分子化合物を含む。本発明の組成物は、本発明のメカノラジカル検出又は測定方法において、使用することのできる組成物である。前記「式(I)で表される化合物」及び「高分子化合物」は、前記「〔1〕メカノラジカル検出又は測定方法」の項に記載のものである。
組成物の態様は特に限定されるものではないが、固体、ゲル、ゾル、又は液体である。固体の組成物としては、例えば粉体、又は成形体が挙げられる。液体の組成物としては、溶液、又は分散液が挙げられる。
具体的な組成物の態様として、自動車のバンパー、又はゴルフシャフトなどが挙げられる。
【0028】
《作用》
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法において、高分子化合物の破壊又は劣化が測定できる機構は、詳細には解明されていないが、以下のように推定される。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
組成物に力学的刺激が印加されると、メカノラジカルが生成される。前記メカノラジカルは、本発明に用いられる式(I)の化合物(アセトニトリル誘導体)のアセトニトリル骨格のプロトンを選択的に引き抜くと考えられる。すなわち、メカノラジカルは、アセトニトリル誘導体の他の構造には影響を与えずに、選択的にアセトニトリル骨格のプロトンを選択的に引き抜き、アセトニトリルラジカルを生成すると考えられる。従って、メカノラジカルのエネルギーが、そのままアセトニトリルラジカルのエネルギーに変換されると推定される。従って、メカノラジカル検出又は測定方法において、高分子化合物の破壊又は劣化を定量的に測定できると考えられる。
【実施例
【0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
《製造例1》
本製造例では、アセトニトリル誘導体として、ジ(4-メトキシフェニル)アセトニトリル(DAAN-diOMe)を合成した。
トリフルオロ酢酸を用い、下記化合物1とアニソールをジクロロメタン溶液中で縮合させた(下記反応式(III))。収率82%にて白色結晶を得た。生成物のH NMRより二つのパラ置換芳香環に由来するシグナルが観測され、全てのシグナルが矛盾なく帰属できたことから目的物の生成を確認した。
【化7】
【0031】
《製造例2》
本製造例では、ブロモ末端を有するポリスチレン(PS-Br)を合成した。
トルエンを溶媒としたATRPにて、ブロモ末端を有するポリスチレン(PS-Br)を合成した。仕込み比は[モノマー]/[開始剤]=400の条件で行い、Mn=14000(Mw/Mn=1.12)のPS-Brを収率95%で得た。
【化8】
【0032】
《比較製造例1》
本比較製造例では、アセトニトリル骨格を持たないBisphenol A-diOMeを合成した。
アセトン溶媒中でBisphenol AとヨードメタンのWilliamsonエーテル合成を行った。その結果、白色固体を収率94%で得た。生成物のH NMRより二つのパラ置換芳香環に由来するシグナルが観測され、全てのシグナルが矛盾なく帰属できたことから目的物の生成を確認した。
【化9】
【0033】
《製造例3》
本製造例では、置換基としてポリマーを有するアセトニトリル誘導体を製造した。
まず、下記の反応式(VI)に示すように、原子移動ラジカル重合(ATRP)により一次構造制御されたポリスチレンを合成した。ブロモ末端を水素化した後、ベンゼン環を修飾することでポリスチレン-ジアリールアセトニトリル誘導体(PS-DAAN)を合成した。
【化10】
【0034】
《実施例1》
本実施例では、製造例1で得られたDAAN-diOMe、及び製造例2で得られたPS-Brを用いて、スターミルによる擦り潰しにより発生するメカノラジカルを測定した。
具体的には製造例1で合成したDAAN-diOMe(122mg、0.483mmol)と製造例2で合成したPS-Br(Mn=14000、1.39g、9.93×10-3mmol)の混合試料をスターミルにより擦り潰し、20分ごとに蛍光強度測定を行った。その結果、目視での観察により時間の経過とともに、紫外線照射下(365nm)で黄色蛍光が強くなることが確認できた(図2A)。分光蛍光光度計による蛍光強度測定によっても同様の結果が得られた(図2B)。
【0035】
《実施例2》
本実施例では、ポリスチレン及びDAAN-diOMeの混合試料の、ボールミルによる擦り潰し試験を行った。
まず、DAAN-diOMe(10mg、3.95×10-2mmol)とポリスチレンスタンダード(Mn=264000、Mw/Mn=1.05、50mg)との混合試料の擦り潰し試験(30Hz、30min)を行い、GPC測定、ESR測定、蛍光強度測定を行った。その結果、擦り潰し前後で見た目に大きな変化は見られなかったが、ハンディUVランプにて365nmの光を照射したところ、擦り潰し後のサンプルからのみ黄色蛍光を発することが目視で確認できた(図3A)。また、GPC溶出曲線から擦り潰し時間の増加に伴いポリスチレンの分子量が低下していくことが確認された(図3B)。それと同時に炭素ラジカル由来のg値2.003のESRスペクトル(図3C)、DAAN-diOMeラジカル由来と考えられる556nmの蛍光スペクトル(図3D)が観測された。
【0036】
《比較例1》
本比較例では、ポリスチレンのみの試料、DAAN-diOMeのみの試料、及び比較製造例1で得られたBisphenol A-diOMeとポリスチレンとの混合試料の擦り潰し試験を行った。
前記の3つの試料の擦り潰し試験(30Hz、30min)を行い、擦り潰し後のサンプルのESR測定を行った。その結果、図4A~Cに示すように、いずれの系でもラジカルの発生は確認されなかった。すなわち、ポリスチレンのメカノラジカルは反応性が高く空気中で失活し、ESRによりラジカルを検出できないこと(図4A)、DAAN-diOMeは擦り潰しに対して安定であること(図4B)が明らかになった。また、メカノラジカルを検出するにあたり、DAAN誘導体のようなベンジル位プロトンの必要性が明らかになった(図4C)。
【0037】
《参考例1》
本参考例では、前記DAAN-diOMeの存在が、力学的刺激による高分子鎖切断挙動に影響を及ぼしていないかを検討した。具体的には、ポリスチレンのみの試料、並びにDAAN-diOMeとポリスチレンとの混合試料に力学的刺激を加えた場合を比較した。
ポリスチレンのTHF溶液および、DAAN-diOMeとポリスチレンの混合物のTHF溶液に超音波照射機を用いた超音波照射実験を行った。超音波照射前後のサンプルから得られたGPC溶出曲線を図5に示す。溶出曲線の形が一致していること、またピークトップが一致したことからDAAN-diOMeは高分子鎖切断に影響を及ぼさないことが示唆された。また、超音波照射前に比べ照射後の分子量低下に伴って分子量分布が狭くなっていることから、分子量が大きい分子ほど、超音波によって切断されやすいことが示唆された(表1)。
【0038】
【表1】
【0039】
《実施例3~7》
本実施例では、蛍光強度とアセトニトリルラジカルの発生量の相関を検討した。
5種類の分子量のポリスチレン(50mg)とDAAN-diOMe(10mg、3.95×10-2mmol)との混合試料の擦り潰し試験(30Hz、30min)を行った。用いたサンプルの擦り潰し前後の分子量および分子量分布を表2に、GPC溶出曲線を図6(A)に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
更に、図6(B)に分子量に対する蛍光強度とESR測定とから算出したDAANラジカルの量を示す。また図6(C)に蛍光強度に対するDAANラジカルの量を示す。図6(C)より分子量10万程度までは蛍光強度、DAANラジカルの発生量ともに増加していき、その後、一定の値をとることが明らかになった。また図6(C)から蛍光強度とラジカル発生量に相関性があり正の線形従属性があることが明らかになった。一般に蛍光強度(F)には下記の関係が成り立つ。
【数1】
ここで、IΟは励起光の強度、φは蛍光量子収率、εは分子吸光効率、Cはモル濃度を表す。本実験においてI、φ、εは一定と考えられるため、蛍光強度とDAANラジカルの発生量に比例関係が認められたことは理論的に考えても適した結果である。
【0042】
《実施例8》
本実施例では、置換基としてポリマーを有するアセトニトリル誘導体を用いた場合の擦り潰し試験を行った。本実施例ではアセトニトリル誘導体自体が「高分子化合物」であり、アセトニトリル誘導体のメカノラジカルを、アセトニトリル誘導体のアセトニトリルラジアルによって測定する。
製造例3で合成したPS-DAAN(Mn=14000、50mg)を、ボールミルを用いた擦り潰し試験(30Hz、30min)を行い、GPC測定、蛍光強度測定を行った。その結果、擦り潰し前後で見た目に大きな変化は見られなかったが、ハンディUVランプにて365nmの光を照射したところ、擦り潰し後のサンプルからのみ黄色蛍光を発することが目視で確認できた(図7A)。また、蛍光スペクトル測定の結果DAANラジカル由来のスペクトルが確認され(図7B)、擦り潰し前後のGPC溶出曲線から僅かな分子量低下が確認された(図7C)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のメカノラジカル検出又は測定方法は、高分子材料の破壊又は劣化を測定するために有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7